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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】酢酸含有組成物
(51)【国際特許分類】
   C12J 1/08 20060101AFI20220304BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20220304BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20220304BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20220304BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
C12J1/08
A23L2/38 R
A23L27/00 Z
C11D7/26
C11D17/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021120742
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2021-07-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 瑞稀
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 智加
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-217655(JP,A)
【文献】特開2020-132680(JP,A)
【文献】特許第6792251(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0003732(US,A1)
【文献】特開2001-069965(JP,A)
【文献】特開2002-003886(JP,A)
【文献】特開2004-168936(JP,A)
【文献】特許第6856907(JP,B1)
【文献】特許第6792252(JP,B1)
【文献】特開2013-021926(JP,A)
【文献】特開2012-143190(JP,A)
【文献】特開2008-237040(JP,A)
【文献】特開2001-354994(JP,A)
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry,2004年,52(21),6378-6383,DOI: 10.1021/jf040102z
【文献】Analysis of aroma components in apple wine and vinegar,Zhongguo Niangzao,2013年,32(6),145-150,ISSN: 0254-5071
【文献】Food Chemistry,2010年,119(3),923-928,DOI: 10.1016/j.foodchem.2009.07.053
【文献】Food Microbiology,2019年,82,20-29,DOI: 10.1016/j.fm.2019.01.023
【文献】Molecules,2016年,21(11),1-15,DOI: 10.3390/molecules21111576
【文献】Food Chemistry,2009年,115(1),129-136,DOI: 10.1016/j.foodchem.2008.11.078
【文献】ハーモニーフォレスト,色々使える♪「自家製ハーブビネガー」,cookpad[online],2012年11月05日,[検索日:2021年10月7日],インターネット<URL: https://cookpad.com/recipe/2017893>
【文献】IKU,SPICE LESSON 18 スパイスビネガー&ハーブビネガー[online],2019年03月14日,[検索日:2021年10月7日],インターネット<URL: https://voxspice.jp/lesson/3458>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C11D
C12J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.02(w/v%)以上の酢酸と、(A)2-オクテナール及び(B)(+)ローズオキシドより選択される少なくとも1種の成分を含む、酢酸含有組成物であって、該酢酸の含有量に対する(A)2-オクテナールの含有量の比率(2-オクテナール(ppb)/酢酸(w/v%))が0.0005~500であり、(B)(+)ローズオキシドの含有量の比率(ローズオキシド(ppb)/酢酸(w/v%))が0.0005~500である、上記酢酸含有組成物
【請求項2】
前記成分が、(A)2-オクテナールと(B)(+)ローズオキシドである場合、さらに(C)1,8-シネオールを含み、酢酸の含有量に対する(C)1,8-シネオールの含有量の比率(1,8-シネオール(ppb)/酢酸(w/v%))が0.0005~500である、請求項1に記載の酢酸含有組成物
【請求項3】
前記酢酸含有組成物中の(A)2-オクテナールの含有量が、0.001ppb以上1000ppb以下である、請求項1又は2に記載の酢酸含有組成物。
【請求項4】
前記酢酸含有組成物中の(B)(+)ローズオキシドの含有量が、0.001ppb以上1000ppb以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の酢酸含有組成物。
【請求項5】
前記酢酸含有組成物中の(C)1,8-シネオールの含有量が、0.001ppb以上1000ppb以下である、請求項~4のいずれか1項に記載の酢酸含有組成物。
【請求項6】
前記酢酸含有組成物が、飲食品である、請求項1~5のいずれか1項に記載の酢酸含有組成物。
【請求項7】
前記酢酸含有組成物が、洗浄剤組成物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の酢酸含有組成物。
【請求項8】
(A)2-オクテナール及び(B)(+)ローズオキシドより選択される少なくとも1種の成分を含む、酢酸臭マスキング剤。
【請求項9】
前記成分が、(A)2-オクテナールと(B)(+)ローズオキシドである場合、さらに(C)1,8-シネオールを含む、請求項8に記載の酢酸臭マスキング剤。
【請求項10】
0.02(w/v%)以上の酢酸を含有する酢酸含有組成物に、(A)2-オクテナール及び(B)(+)ローズオキシドより選択される少なくとも1種の成分を添加する工程を含む、酢酸臭が抑制された酢酸含有組成物の製造方法であって、該酢酸の含有量に対する(A)2-オクテナールの含有量の比率(2-オクテナール(ppb)/酢酸(w/v%))が0.0005~500となるように、(B)(+)ローズオキシドの含有量の比率(2-オクテナール(ppb)/酢酸(w/v%))が0.0005~500となるように添加する、上記方法。
【請求項11】
0.02(w/v%)以上の酢酸を含有する酢酸含有組成物に、(A)2-オクテナール及び(B)(+)ローズオキシドより選択される少なくとも1種の成分を添加する工程を含む、酢酸含有組成物の酢酸臭を抑制する方法であって、該酢酸の含有量に対する(A)2-オクテナールの含有量の比率(2-オクテナール(ppb)/酢酸(w/v%))が0.0005~500となるように、(B)(+)ローズオキシドの含有量の比率(2-オクテナール(ppb)/酢酸(w/v%))が0.0005~500となるように添加する、上記方法。
【請求項12】
前記成分が、(A)2-オクテナールと(B)(+)ローズオキシドである場合、さらに(C)1,8-シネオールを添加し、酢酸の含有量に対する(C)1,8-シネオールの含有量の比率(1,8-シネオール(ppb)/酢酸(w/v%))が0.0005~500となるように添加する、請求項10又は11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸臭が抑制された、酢酸を含有する飲食品や洗浄剤などの酢酸含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸を主成分とする食酢は、各種食材の調理に使用される基本調味料であり、また、他の成分とともに食酢飲料やぽん酢醤油などの各種の飲食品に配合され、飲食品の製造に欠かせない原料となっている。近年では、健康志向の高まりと共に、内臓脂肪低減作用、血圧低下作用、食後の血糖値上昇抑制作用等の酢酸の健康上有用な作用を期待して、食酢を原料とする様々な飲食品やサプリメントなどが支持を集めている。
【0003】
また、酸性である酢酸は、水アカや石鹸カスなどのアルカリ性の汚れや、アンモニア臭などのアルカリ性の臭いを消すことができるため、台所や浴室などの水回り用洗浄剤においても利用されている。さらに、酢酸は優れた静菌・防腐効果を有することから、飲食品の変敗を抑制し、食中毒発生の防止に有効であることは古くから知られており、抗菌や防黴効果の点からも、衛生環境分野への利用も多い。
【0004】
しかしながら、酢酸には特有の刺激臭があるため、調理の際に使用量が制限されたり、清掃中や清掃後に酢酸臭が残ってしまうという問題があった。そのため、従来より酢酸含有製品の酢酸臭を抑制することが試みられている。例えば、特許文献1には、リナロールオキシド、ベンジルアルコール、エチルピルベート、イソブチルアルコール、マルトールイソブチレート、及びネオヘスペリジンジヒドロカルコンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有する、酢酸含有製品の酢酸臭マスキング剤が開示されている。特許文献2には、カンファー及び/又はオイゲノールを酢酸に対して所定の量で含有することを特徴とする、酢酸含有飲食物が開示されている。また、特許文献3は、有効成分として酢酸を含む酢酸洗浄剤組成物に配合され、1種又は2種以上のアルキルグルコシドからなる酢酸臭抑制剤及びそれを含有する酢酸洗浄剤組成物が開示されている。しかし、従来の方法では、酢酸臭の抑制効果が満足できるものではなかったり、飲食品の本来の有する味や香りを損なったり、変化させるなどの問題があった。よって、より高い酢酸臭抑制効果のある成分があれば、酢酸の利用価値を一層高めることができ、酢酸含有製品の市場を広げられると期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-124142号公報
【文献】特開2011-217655号公報
【文献】特開2019-104838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酢酸を含有する飲食品や洗浄剤などの酢酸含有組成物の酢酸臭を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、及び(C)1,8-シネオールからなる群より選択される1種又は2種以上の成分を酢酸含有組成物に配合することによって、酢酸含有組成物の酢酸臭を選択的に抑制(マスキング)できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)酢酸と、(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、及び(C)1,8-シネオールからなる群より選択される1種又は2種以上の成分を含む、酢酸含有組成物。
(2)前記酢酸の含有量が、0.02(w/v%)以上である、(1)に記載の酢酸含有組成物。
(3)前記酢酸含有組成物中の(A)2-オクテナールの含有量が、0.001ppb以上1000ppb以下である、(1)又は(2)に記載の酢酸含有組成物。
(4)前記酢酸含有組成物中の(B)(+)ローズオキシドの含有量が、0.001ppb以上1000ppb以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の酢酸含有組成物。
(5)前記酢酸含有組成物中の(C)1,8-シネオールの含有量が、0.001ppb以上1000ppb以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の酢酸含有組成物。
(6)前記酢酸含有組成物が、飲食品である、(1)~(5)のいずれかに記載の酢酸含有組成物。
(7)前記酢酸含有組成物が、洗浄剤組成物である、(1)~(5)のいずれかに記載の酢酸含有組成物。
(8)(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、及び(C)1,8-シネオールからなる群より選択される1種又は2種以上の成分を含む、酢酸臭マスキング剤。
(9)酢酸含有組成物に、(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、及び(C)1,8-シネオールからなる群より選択される1種又は2種以上の成分を添加する工程を含む、酢酸臭が抑制された酢酸含有組成物の製造方法。
(10)酢酸含有組成物に、(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、及び(C)1,8-シネオールからなる群より選択される1種又は2種以上の成分を添加する工程を含む、酢酸含有組成物の酢酸臭を抑制する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酢酸を含有する飲食品や洗浄剤などの酢酸含有組成物における酢酸臭を抑制することができる。本発明の酢酸含有組成物は、刺激的な酢酸臭をほとんど感じることなく、また周囲に酢酸臭が漂うことがないので、酢酸臭を気にすることなく喫食又は使用できる。よって、本発明は、健康効果や殺菌効果を有する酢酸の利用性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.酢酸含有組成物
本発明の酢酸含有組成物は、酢酸と、(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、及び(C)1,8-シネオールからなる群より選択される1種又は2種以上の成分を含有する。(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、及び(C)1,8-シネオールは、1種でもよいが、2種以上を併用すると酢酸臭抑制効果が増強するので好ましい。(A)、(B)、及び(C)の2種以上を併用する場合は、その組み合わせは限定されず、(A)と(B)、(A)と(C)、(B)と(C)、又は(A)と(B)と(C)のいずれの組み合わせであってもよい。また、2種以上の成分を併用する場合、各成分の混合比率もまた限定されない。
【0011】
本発明において「酢酸臭」とは、酢酸に起因する鼻に感じる刺激的な臭いを指す。ここで、「臭い」には、鼻から直接嗅ぐ臭いと、口に入れて飲み込むときに喉から鼻腔に抜ける時に感じる臭いの両方が包含される。また、酢酸臭の抑制とは、酢酸臭を部分的又は完全に感知されなくすることをいう。
【0012】
(酢酸)
本発明において、酢酸とは、酢酸分子(CHCOOH)と酢酸イオン(CHCOO)をいい、酢酸の含有量とは、これらを合計した濃度をいう。本発明の酢酸含有組成物中の酢酸の含有量は特に制限はないが、酢酸の存在下で本発明の作用効果を奏するために
0.02w/v%以上であればよく、好ましくは0.02~15w/v%、より好ましくは0.05~10w/v%である。酢酸含有組成物中の酢酸含有量が0.02w/v%に満たない場合は、酢酸臭は不快に感じない程度しかなく、酢酸臭を低減させたいという課題がほとんど生じない。一方、酢酸含有量が15w/v%より多いと、上記(A)~(C)の成分による酢酸臭抑制効果が十分に得られない。本発明の酢酸含有組成物における酢酸の由来は特に限定されないが、氷酢酸でもよく、他の成分を含む各種の酢、例えば食酢を使用してもよい。本発明の酢酸含有組成物は飲食品である場合は、飲食品に適するものが好ましい。例えば、食品添加物由来であることもできるし、飲食品に配合される調味料、食品原料等の由来であることもできる。
【0013】
((A)2-オクテナール)
2-オクテナール(体系名:2-オクテン-1-アール、英文表記:2-Octenal)は、分子式C14O(分子量126.20)を有するアルデヒド類であって、CAS登録番号は、2548-87-0である。
【0014】
本発明における2-オクテナールの由来は特に限定されず、例えば、添加されるフレーバー等の製剤由来であってもよいし、飲食品に配合される調味料や食品原料等の由来であってもよい。2-オクテナールが、食品原料等の由来の場合、2-オクテナールを含む植物素材の抽出物が好ましい。ここで、2-オクテナールを含む植物素材としては、例えば、ぶどう、あんず、メロン、すいか、マンゴー、キウイ等や、ローズマリー、オリーブ、エルダーフラワー等のハーブ類などが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明の酢酸含有組成物が、(A)2-オクテナールを含有する場合、当該酢酸含有組成物中の(A)成分の含有量は、単独で又は他の2種の成分とともに酢酸臭を抑制するという観点から、0.001ppb以上1000ppb以下であればよいが、下限は、0.1ppbが好ましく、1ppbがより好ましく、10ppbがさらに好ましい。一方、上限は500ppbが好ましく、100ppbがより好ましい。(A)成分の含有量が0.001ppbを下回ると、酢酸臭の抑制が不十分になることがあり、また、(A)成分の含有量が1000ppbを上回ると、成分の香気が酢酸含有組成物に好ましくない影響を与えることがある。
【0016】
酢酸の含有量に対する(A)2-オクテナールの含有量の比率(2-オクテナール(ppb)/酢酸(w/v%))は、0.0005~500が好ましく、0.001~100がより好ましく、0.01~50がさらに好ましい。
【0017】
((B)(+)ローズオキシド)
(+)ローズオキシド(体系名:2-(2-メチル-1-プロペニル)-4-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン、英文表記:Rose oxide)は、分子式C1018O(分子量154.25)を有するエーテル類であって、CAS登録番号は、16409-43-1である。
【0018】
本発明における(+)ローズオキシドの由来は特に限定されず、例えば、添加されるフレーバー等の製剤由来であってもよいし、飲食品に配合される調味料や食品原料等の由来であってもよい。(+)ローズオキシドが、食品原料等の由来の場合、(+)ローズオキシドを含む植物素材の抽出物が好ましい。ここで、(+)ローズオキシドを含む植物素材としては、例えば、バラ、ゼラニウム等の精油や、レモングラス、イエローバタイ、エルダーフワラー等のハーブ類などが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本発明の酢酸含有組成物が、(B)(+)ローズオキシドを含有する場合、当該酢酸含有組成物中の(B)成分の含有量は、単独で又は他の2種の成分とともに酢酸臭を抑制するという観点から、0.001ppb以上1000ppb以下であればよいが、下限は、0.1ppbが好ましく、1ppbがより好ましく、10ppbがさらに好ましい。一方、上限は500ppbが好ましく、100ppbがより好ましい。(B)成分の含有量が0.001ppbを下回ると、酢酸臭の抑制が不十分になることがあり、また、(B)成分の含有量が1000ppbを上回ると、成分の香気が酢酸含有組成物に好ましくない影響を与えることがある。
【0020】
酢酸の含有量に対する(B)(+)ローズオキシドの含有量の比率((+)ローズオキシド(ppb)/酢酸(w/v%))は、0.0005~500が好ましく、0.001~100がより好ましく、0.01~50がさらに好ましい。
【0021】
((C)1,8-シネオール)
1,8-シネオール(体系名:1,3,3-トリメチル-2-オキサビシクロ[2.2.2]オクタン、英文表記:1,8-Cineole)は、分子式C1018O(分子量154.25)を有するモノテルペン環状エーテル類であって、CAS登録番号は、470-82-6である。
【0022】
本発明における1,8-シネオールの由来は特に限定されず、例えば、添加されるフレーバー等の製剤由来であってもよいし、飲食品に配合される調味料や食品原料等の由来であってもよい。1,8-シネオールが、食品原料等の由来の場合、1,8-シネオールを含む植物素材の抽出物が好ましい。ここで、1,8-シネオールを含む植物素材としては、例えば、ユーカリ、ペパーミント、フェヌグリーク、カモミール、カルダモン、クミン、アップルミント、ローレル、シナモン、ローズマリー、タイム、ナツメグ、エルダーフワラー等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本発明の酢酸含有組成物が、(C)1,8-シネオールを含有する場合、当該酢酸含有組成物中の(C)成分の含有量は、単独で又は他の2種の成分とともに酢酸臭を抑制するという観点から、0.001ppb以上1000ppb以下であればよいが、下限は、0.1ppbが好ましく、1ppbがより好ましく、10ppbがさらに好ましい。一方、上限は500ppbが好ましく、100ppbがより好ましい。(C)成分の含有量が0.001ppbを下回ると、酢酸臭の抑制が不十分になることがあり、また、(C)成分の含有量が1000ppbを上回ると、成分の香気が酢酸含有組成物に好ましくない影響を与えることがある。
【0024】
酢酸の含有量に対する(C)1,8-シネオールの含有量の比率(1,8-シネオール(ppb)/酢酸(w/v%))は、0.0005~500が好ましく、0.001~100がより好ましく、0.01~50がさらに好ましい。
【0025】
各成分を2種以上組み合わせる場合、その合計含有量は0.001~1000ppbとすることが好ましい。前記下限を下回ると酢酸臭のマスキング(抑制)効果が不十分となることがある。また、前記上限を上回ると、各香気成分に由来する臭いが強く感じられ、好ましくない。
【0026】
本発明の酢酸含有組成物中の(A)、(B)、又は(C)の各成分の含有量(濃度)は、その成分の配合量が明らかである場合(例えば、酢酸含有組成物が精製された各成分を混合することにより得られたものである場合等)はその配合量及び酢酸含有組成物の容量から算出することができ、その成分の配合量が不明である場合は、後記の方法に従って又は準じて算出することができる。なお、本明細書中の「ppb」は、質量濃度(w/w)を意味する。
【0027】
本発明の酢酸含有組成物中の(A)、(B)、又は(C)の含有量は、そのまま喫食又は使用する酢酸含有組成物である場合、上記で示した(A)、(B)、又は(C)の含有量のとおりである。すなわち、本発明の酢酸含有組成物中の(A)、(B)、又は(C)の含有量は、喫食時又は使用時の含有量をいう。従って、例えば濃縮した液体調味料の場合には希釈後の液体調味料における(A)、(B)、又は(C)の含有量が、上記の範囲となることを意味する。具体的には、例えば10倍濃縮品において、(A)~(C)の合計の含有量が、100ppbの場合は、喫食時の含有量は10ppbとなる。
【0028】
(飲食品)
本発明の酢酸含有組成物の好ましい一態様として、飲食品が挙げられる。飲食品は、酢酸を含有する飲食品であれば特に限定はされない。酢酸を含有する飲食品としては、具体的には、食酢又は食酢を原料に用いて製造される飲食品が挙げられる。
【0029】
上記食酢には、米や麦などの穀物や果汁を主原料として生産される醸造酢と、氷酢酸や酢酸の希釈液に砂糖等の調味料を加えるか、又はそれに醸造酢を加えた合成酢があり、本発明においてはいずれも使用できる。醸造酢としては、例えば、穀物酢(米酢、玄米酢、黒酢、粕酢、麦芽酢、はと麦酢、大豆酢等)、果実酢(リンゴ酢、ブドウ酢、白ブドウ酢、柑橘(レモン、柚子、カボス、オレンジ、ミカン、シークワーサー、グレープフルーツ等)酢、マンゴー酢、イチゴ酢、ブルーベリー酢、ザクロ酢、モモ酢、ウメ酢、パイナップル酢、カシス酢、ラズベリー酢、ワイン酢、バルサミコ酢等)、エタノールを原料とした酢酸発酵によって製造される酒精酢、中国酢、シェリー酢などが挙げられ、また、合成酢としては、氷酢酸又は酢酸を水で適宜希釈したものなどが挙げられる。これらの食酢は、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0030】
食酢を原料に用いて製造される飲食品のうち、飲料としては、食酢飲料(穀物酢飲料、果実酢飲料、果汁配合食酢飲料等)、食酢を配合した各種飲料[乳製品含有飲料(例えば乳及びその加工品である脱脂粉乳や全脂粉乳、濃縮乳、ヨーグルト、生クリーム、練乳、バター、脱脂乳、クリームパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、ホエイパウダー、バターミルクパウダー等の乳成分を含む飲料)、野菜飲料(例えばトマト、ニンジン、かぼちゃ等のジュース、スムージー、青汁等)、清涼飲料水(例えばスポーツドリンク、レモネード等のエード、果実風味ドリンク)、炭酸飲料、ゼリー飲料、穀物飲料(例えば米、豆乳、アーモンドを主原料とする穀物飲料類等)、茶系飲料(例えば紅茶、ウーロン茶、緑茶、黒茶、抹茶、ジャスミン茶、ローズヒップ茶、カモミール茶、ほうじ茶等)、コーヒー飲料、酒(例えばビール、発泡酒等のビールテイスト飲料、果実酒、日本酒等の醸造酒、焼酎、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ等の蒸留酒、蒸留酒に糖類等の副原料を混合するリキュール等の混成酒、さらにこれら酒類に果汁やフレーバー、炭酸ガス等を加えたカクテル、フィズ、チューハイ等)]等が挙げられる。飲料の形態は、濃縮タイプであっても良く、適当な飲料で希釈してから、飲用に供される。推奨される希釈倍率は、例えば1.1~50倍、好ましくは2~20倍、より好ましくは3~12倍、さらに好ましくは4~8倍である。
【0031】
また、本発明の飲食品として、飲料以外では、デザート用ソース類(ストロベリーソース、ブルーベリーソース、アップルソース、ラズベリーソース、ザクロソース等のフルーツソース、キャラメルソース、カスタードソース、チョコレートソース)、ジャム類(イチゴジャム、リンゴジャム、ブドウジャム、イチジクジャム、ブルーベリージャム、ラズベリージャム、ブラックベリージャム、マンゴージャム等)、スプレッド類(クリーム、チーズスプレッド、マーガリン、ファットスプレッド等)、菓子類(ゼリー、プディング、ババロア、ムース等)、冷菓(アイスクリーム、シャーベット、スムージー等)、調味酢(ぽん酢、ぽん酢醤油、甘酢、酢の物用調味酢、すし飯用調味酢、酢漬け(例えばピクルス等)用調味液等)、マヨネーズ、チャツネ、マスタード、ドレッシング類(ノンオイルドレッシング、分離ドレッシング、乳化ドレッシング等)、たれ類(ゴマだれ等のゴマ含有調味料、焼肉だれ等)、調理用ソース類(ウスターソース、ケチャップ、オイスターソース、サルサソース、サンバルソース、チリソース等)、つゆ類(めんつゆ、鍋つゆ等)、各種メニュー用調味料(米飯用調味料、中華用調味料、煮物用調味料、納豆用調味料等)、発酵飲食品(漬け物、キムチ、ヨーグルト、乳酸菌飲料、発酵乳飲料等)、食酢配合調理食品(寿司、酢の物、サラダ、酢豚、酢漬け等)等が挙げられる。
【0032】
本発明の対象となる飲食品としては、上記のような一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は健康増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、ならびに科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。ここで、飲食品に付される特定の保健の効果や栄養成分の機能等の表示は、製品の容器、包装、説明書、添付文書などの表示物、製品のチラシやパンフレット、新聞や雑誌等の製品の広告などにすることができる。
【0033】
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。
【0034】
本発明の飲食品は、飲食品の種類に応じて、他の原料を含有することができる。他の原料としては、タンパク質類、ペプチド類、アミノ酸類、ビタミン類、ミネラル類(カルシウム、カリウム、ナトリウム等)、脂質類(植物油、魚油、動物脂等)、甘味成分(ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等)、フレーバー類(エステル類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、フェノール類、エーテル類、ラクトン類、フラン類、炭化水素類、含窒素化合物類、含硫化合物類等)、果実や野菜を切削やすり潰す等の処理により得られる破砕物(搾汁液(果汁や野菜汁)、ピューレ、ペースト等)、食塩、アミノ酸系調味料、核酸系調味料、有機酸系調味料、酸味料、風味原料、旨味調味料、酒類、油脂類、香辛料、香辛料抽出物、香味オイル、粘度調整剤、着色料、具材等が挙げられる。これら他の原料の組み合わせ及び含有量は、特に限定はされず、飲食品の種類に応じて適宜設定することができる。
【0035】
これらの酢酸含有飲食品は、(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、及び(C)1,8-シネオールからなる群より選択される1種又は2種以上の成分を添加する以外は、通常行われる方法で製造することができる。例えば、食酢飲料の場合は、食酢に上記(A)、(B)、及び(C)から選ばれる1種又は2種以上の成分と、果汁や蜂蜜などを加え、適宜希釈することにより製造できる。またぽん酢醤油の場合は、食酢に上記(A)、(B)、及び(C)から選ばれる1種又は2種以上の成分と、醤油、砂糖、塩、柑橘果汁、香辛料などを加えることにより製造することができる。また、寿司酢の場合は、食酢に上記(A)、(B)、及び(C)から選ばれる1種又は2種以上の成分と、砂糖、塩、みりんなどの調味料を適量加えることにより、製造することができる。
【0036】
(洗浄剤組成物)
本発明の酢酸含有組成物の別の好ましい一態様として、洗浄用組成物が挙げられる。洗浄用組成物は、酢酸を含有するものであれば特に限定はされない。
【0037】
本発明の洗浄用組成物は、住居用、台所用、浴室用、トイレ用の洗浄剤として好適に使用できる。本発明の洗浄用組成物の使用方法としては、具体的には、散布器や噴霧器などを用い、対象物に直接散布又は噴霧したり、雑巾等に含浸させて、対象物に塗布することが挙げられる。対象物としては、リビングや玄関等の壁面や床面;ドアノブや手すりの表面;乳幼児用の製品(チャイルドシート等)の表面;台所や調理場等の壁面や床面;流し台、レンジ、冷蔵庫、オーブン等の表面及び内面;浴室の壁面や床面、浴槽や洗面器の表面;トイレの壁面や床面、便器の表面等が挙げられる。
【0038】
本発明の洗浄剤組成物の形態は、液状、乳液状、ゲル状、ペースト状、固体状、粉末状等のいずれであってもよいが、液状が好ましい。液状の場合は、本発明の洗浄剤組成物の使用態様に好適な剤型である、圧縮ガスやポンプによる噴霧及び/又は吐出に適したスプレー剤とすることができる。本発明の洗浄剤組成物をスプレー剤とする場合に使用する容器は、特に限定はされないが、トリガースプレー容器(直圧式又は蓄圧式)、ディスペンサースプレー容器等が好ましい。
【0039】
本発明の酢酸含有洗浄剤組成物は、例えば、酢酸と、上記(A)、(B)、及び(C)から選ばれる1種又は2種以上の成分を、必要に応じて界面活性剤を用いて、液体担体を用いて溶液を調製し、この溶液を適量の水に混合、攪拌することにより製造できる。ここで使用される液体担体としては、例えばアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族又は脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン等)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、レモン油等)、及び水が挙げられる。
【0040】
製剤化の際に用いられる界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤の各種界面活性剤が挙げられる。
【0041】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物の塩、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物の塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸及び燐酸塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸及び燐酸塩、ポリカルボン酸塩及びポリスチレンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0042】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル(例、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンラウレート)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エーテル等が挙げられる。
【0043】
両性界面活性剤としては、アルキルアミンオキシド、アミノ酸型界面活性剤、N-アシルアミノ酸型界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤、スルホン酸型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
上記界面活性剤は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。酢酸含有洗浄剤組成物中の界面活性剤の含有量は、界面活性剤の種類にもよるが、例えば、0.1~10重量%の範囲が例示される。
【0045】
本発明の洗浄剤組成物は、必要に応じてさらに任意の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、洗浄剤組成物において通常使用される成分であればよく、ポリオール、安定化剤、無機塩類、粘度調整剤、キレート剤、色素(着色剤)、乳化剤、pH調整剤、洗浄助剤、分散剤、酵素、泡調整剤、再付着防止剤、溶剤、ハイドロトープ剤、水軟化剤などが挙げられる。
【0046】
本発明の酢酸含有組成物の酢酸含有量は、例えば以下の方法で定量することができる。
酢酸の濃度が0.1w/v%付近になるように超純水で希釈し、以下の条件に従って、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、酢酸のピーク面積を分析する。また、超純水で希釈した0.1w/v%の酢酸を、標準サンプルとして同様に分析し、外部標準法により各サンプルの酢酸の含有量を算出する。
【0047】
<高速液体クロマトグラフィー(HPLC)条件>
・装置:島津製作所社製 LC-10ADVP
・移動相(1)4mMp-トルエンスルホン酸水溶液、流速0.9mL/min
・移動相(2)4mMp-トルエンスルホン酸、80μM EDTAを含む16mM Bis-Tris水溶液、流速0.9mL/min
・カラム:昭和電工社製 Shodex KC810P+KC-811×2
・カラム温度:50℃
・検出:島津製作所社製 電気伝導度検出器CDD-10VP
【0048】
本発明の酢酸含有組成物における(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、(C)1,8-シネオールの含有量は、例えば、以下のガスクロマトグラフィー質量分析計(GC/MS)を用いたStir Bar Sorptive Extraction(SBSE)法によって定量することができる。
【0049】
含有量既知の各成分の標品を1000ppmとなるように99.5%エタノールで希釈し、さらに超純水で適当な含有量に希釈したもの(希釈標品)と試料とを分析する。希釈標品及び試料10mlの中で、2本の攪拌子(GERSTEL 社製Twister)を2時間攪拌させ、攪拌子のPDMS(ポリジメチルシロキサン)層に成分を吸着させた後、その攪拌子を分析に供する。質量分析計のマススペクトルパターンに基づく分析によって、標準品保持時間と比較した際に目的成分と考えられる保持時間において、それらの希釈標品と試料との確認イオン量のピーク領域の積分結果を比較することで試料中の成分の定量を行うことができる。2-オクテナールは保持時間20~23分付近のm/z=41、55、70、83、(+)ローズオキシドは保持時間16~22分付近のm/z=69、139、1,8-シネオールは保持時間12~17分付近のm/z=43、81、154がともに有意が有意に検出される保持時間において、2-オクテナールはm/z=41、(+)ローズオキシドはm/z=139、1,8-シネオールはm/z=43のピーク面積積分結果を測定する。
【0050】
<ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC/MS)条件>
・装置:Agilent社製 7890B(GC)、5977B(MS)、
Gester社製 MultiPurpose Sampler(auto-sampler)
・吸着樹脂:TENAX
・インキュベーション温度:80℃
・窒素ガスパージ量:60ml
・窒素ガスパージ流量:10mL/min
・TDU:[30℃]-[720℃/分]-[240℃(3分)]
・CIS:[10℃]-[12℃/秒]-[240℃]
【0051】
キャピラリーカラムとしては、一次元カラムとしてDB-WAX(長さ30m、内径250μm、膜厚0.25μm、LTM用)(Agilent社)を使用し、キャリアガスとしてはヘリウムを用いることができる。
【0052】
2.酢酸臭マスキング剤
本発明によればまた、(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、及び(C)1,8-シネオールからなる群より選択される1種又は2種以上の成分を含む、酢酸臭マスキング剤が提供される。本発明の酢酸臭マスキング剤は、その一態様において、上記(A)、(B)、及び(C)から選ばれる1種又は2種以上の成分を、上記酢酸臭マスキング剤100質量%に対して、例えば1~100質量%、20~100質量%、40~100質量%、60~100質量%、80~100質量%、90~100質量%、95~100質量%、99~100質量%、又は99.9~100質量%含有することができる。
【0053】
本発明の酢酸臭マスキング剤は、例えば上記酢酸含有組成物の製造工程で該組成物に配合して使用することができる。本発明の酢酸臭マスキング剤の形態(剤型)は、特に限定されず、例えば、液体状、流動状、ゲル状、固形状、又は半固形状などの何れの形態であってもよい。本発明の酢酸臭マスキング剤は、酢酸臭の抑制効果の妨げとならない限り、(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、及び(C)1,8-シネオールから選ばれる1種又は2種以上の成分に加えて、飲食品などにおいて許容され、当該組成物を所望の形状(剤型)に調製するのに使用される添加剤等を含有させてもよい。例えば、添加剤としては、界面活性剤、賦形剤、希釈剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、分散剤、溶解剤、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、懸濁化剤等が含まれる。これらの添加剤の種類及び量は、本発明の酢酸臭マスキング剤の使用態様に応じて、適宜選択することができる。
【0054】
3.酢酸含有組成物の製造方法及び酢酸臭抑制方法
本発明によればまた、酢酸含有組成物に、(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、(C)1,8-シネオールから選ばれる1種又は2種以上の成分を、所定の含有量で添加する工程を含む酢酸臭が抑制された酢酸含有組成物の製造方法、及び酢酸含有組成物の酢酸臭を抑制する方法が提供される。
【0055】
酢酸含有組成物に、(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、(C)1,8-シネオールから選ばれる1種又は2種以上の成分を添加するタイミングは、特に限定されない。該タイミングとしては、例えば酢酸含有組成物の製造時、酢酸含有組成物の製造後、喫食前又は使用前等が挙げられる。酢酸含有組成物における酢酸の含有量、及び酢酸含有組成物中の上記(A)、(B)、及び(C)から選ばれる1種又は2種以上の成分の由来及び添加量は、前記の通りである。酢酸含有組成物に、上記(A)、(B)、及び(C)から選ばれる1種又は2種以上の成分を添加した後は、必要に応じて、成分ができるだけ均一に分散されるように、混合することが好ましい。
【実施例
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
(試験例1)
(1)試験品の調製
酢酸(関東化学社製:カタログ番号01021-70)を、超純水で希釈して、4%(w/v)の酢酸水溶液を調製した。
【0058】
99.5%エタノール(関東化学社製:カタログ番号14033-70)に、評価成分として2-オクテナール(東京化成工業社製:カタログ番号O0176)、(+)ローズオキシド(シグマアルドリッチ社製:カタログ番号83915-1ML)、又は1,8-シネオール(東京化成工業社製:カタログ番号C0542)をそれぞれ添加し、十分に攪拌して1000ppm濃度の溶液を調製した。得られた溶液を超純水で希釈して、各評価成分の希釈液を調製した。
【0059】
上記4%(w/v)の酢酸水溶液に、表1に示す各濃度となるように上記各評価成分の希釈液をそれぞれ添加し、試験品(A1~A6、B1~B6、C1~C6)を調製した。また、上記評価成分を添加しない酢酸水溶液をコントロールとした。
【0060】
(2)官能評価試験
(官能検査員の選定)
下記(I)及び(II)の識別訓練を行い、特に成績が優秀な者を官能検査員として選定した。
(I)五味(甘味:砂糖の味、酸味:酒石酸の味、旨み:グルタミン酸ナトリウムの味、塩味:塩化ナトリウムの味、苦味:カフェインの味)について、各成分の閾値に近い濃度の水溶液を各1つずつ作製し、これに蒸留水2つを加えた計7つのサンプルから、それぞれの味のサンプルを正確に識別する味質識別試験。
(II)濃度がわずかに異なる5種類の食塩水溶液、酢酸水溶液の濃度差を正確に識別する濃度差識別試験。
【0061】
(評価方法及び評価基準)
酢酸含有飲料を想定し、次の方法にて酢酸臭抑制の評価を行った。色付きブランデーグラスに各試験品又はコントロールを10mL入れ、選定された官能検査員10名がその臭いを嗅ぎ、酢酸臭を評価した。
【0062】
(評価基準)
評価は、下記の基準に従って行い、評価点の算出は、10名の官能検査員の評価点を平均し、得られた平均点の小数第二位以下を四捨五入し、最終的な評価点とした。
【0063】
5点:コントロールと比較して、酢酸臭が同じ。
4点:コントロールと比較して、酢酸臭がわずかに弱い。
3点:コントロールと比較して、酢酸臭がやや弱い。
2点:コントロールと比較して、酢酸臭が弱い。
1点:コントロールと比較して、酢酸臭が非常に弱い。
【0064】
結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示されるように、2-オクテナール、(+)ローズオキシド、1,8-シネオールは、いずれも酢酸臭を抑制することが確認された。
【0067】
(試験例2)
(1)試験液の調製
試験例1と同様にして、4%(w/v)の酢酸水溶液に、表2に示す各濃度となるように評価成分2-オクテナール、(+)ローズオキシド、又は1,8-シネオールの各希釈液の2種以上を添加し、試験品D1~D9を調製した。また、上記評価成分を添加しない酢酸水溶液をコントロールとした。
【0068】
(2)官能評価試験
(1)で調製した試験品について、試験例1と同様にして酢酸臭の官能評価を行った。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示されるように、2-オクテナール、(+)ローズオキシド、1,8-シネオールの2種以上の組み合わせについても、酢酸臭を抑制することが確認された。また、各成分を2種以上組み合わせることで、酢酸臭のマスキング効果が高くなる傾向が見られた。
【0071】
(試験例3)
(1)試験液の調製
試験例1と同様にして、4%(v/v)の酢酸水溶液に、表3に示す各濃度となるように評価成分2-オクテナール、(+)ローズオキシド、又は1,8-シネオールの各希釈液の1種又は3種を添加し、試験品A7、B7、C7、D10を調製した。また、上記評価成分を添加しない酢酸水溶液をコントロールとした。
【0072】
(2)官能評価試験
酢酸含有洗浄剤組成物を想定し、次の方法にて酢酸臭抑制の評価を行った。100mL容量のスプレーボトルに、各試験品又はコントロールを入れ、200mL容量のガラスビーカーの内部に1回スプレーし、選定された官能検査員10名がその臭いを嗅ぎ、酢酸臭を評価した。評価基準は、試験例1に従った。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3に示されるように、2-オクテナール、(+)ローズオキシド、1,8-シネオールから選ばれる1種以上の成分を含有することで、スプレーされた酢酸溶液の酢酸臭を抑制することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、酢酸を含有する飲食品や洗浄剤などの酢酸含有組成物の製造分野において利用できる。
【要約】
【課題】酢酸を含有する飲食品や洗浄剤などの酢酸含有組成物の酢酸臭を抑制すること。
【解決手段】酢酸と、(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、及び(C)1,8-シネオールからなる群より選択される1種又は2種以上の成分を含有する酢酸含有組成物、及び、酢酸含有組成物に、(A)2-オクテナール、(B)(+)ローズオキシド、及び(C)1,8-シネオールからなる群より選択される1種又は2種以上の成分を添加する工程を含む、酢酸含有組成物の製造方法又は酢酸含有組成物の酢酸臭を抑制する方法。
【選択図】なし