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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】形状測定方法及び形状測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/00 20060101AFI20220304BHJP
   G01B 21/20 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
G01B21/00 G
G01B21/20 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016212915
(22)【出願日】2016-10-31
(65)【公開番号】P2018072201
(43)【公開日】2018-05-10
【審査請求日】2019-10-01
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】澤岡 浩貴
【合議体】
【審判長】居島 一仁
【審判官】濱野 隆
【審判官】中塚 直樹
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し精度の異なる複数種類の測定センサで同一の測定対象物の長さをそれぞれ測定して得られた複数種類の測定データを取得する測定データ取得ステップと、
前記測定データ取得ステップで取得した複数種類の前記測定データに対して、それぞれ対応する前記測定センサの前記繰り返し精度に対応した重み付けを行い、前記重み付けされた複数種類の前記測定データに基づき前記長さを演算する形状演算ステップと、
を有し、
前記複数種類の測定センサには、接触式の第1測定センサと、前記第1測定センサよりも前記繰り返し精度が低い非接触式の第2測定センサとが含まれ、
前記測定データ取得ステップは、複数種類の前記測定データとして、前記第1測定センサにより前記長さを測定して得られた第1測定データと、前記第2測定センサにより前記長さを測定して得られ且つ前記第1測定データよりも測定数が多い第2測定データと、を取得する形状測定方法。
【請求項2】
前記形状演算ステップでは、複数種類の前記測定データに対して、それぞれ対応する前記測定センサの前記繰り返し精度の逆数を二乗した重み係数で重み付けを行う請求項1に記載の形状測定方法。
【請求項3】
前記形状演算ステップは、前記測定センサの種類ごとの前記繰り返し精度を記憶した記憶部を参照して、複数種類の前記測定データに対して前記重み付けを行う請求項1または2に記載の形状測定方法。
【請求項4】
前記形状演算ステップは、前記重み付けされた複数種類の前記測定データに基づき、最小二乗法を用いて前記長さを演算する請求項1からのいずれか1項に記載の形状測定方法。
【請求項5】
繰り返し精度の異なる複数種類の測定センサで同一の測定対象物の長さをそれぞれ測定して得られた複数種類の測定データを取得する測定データ取得部と、
前記測定データ取得部が取得した複数種類の前記測定データに対して、それぞれ対応する前記測定センサの前記繰り返し精度に対応した重み付けを行い、前記重み付けされた複数種類の前記測定データに基づき前記長さを演算する形状演算部と、
を備え
前記複数種類の測定センサには、接触式の第1測定センサと、前記第1測定センサよりも前記繰り返し精度が低い非接触式の第2測定センサとが含まれ、
前記測定データ取得部は、複数種類の前記測定データとして、前記第1測定センサにより前記長さを測定して得られた第1測定データと、前記第2測定センサにより前記長さを測定して得られ且つ前記第1測定データよりも測定数が多い第2測定データと、を取得する形状測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の測定センサで測定対象物の形状を測定する形状測定方法及び形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の形状を測定する形状測定装置として、例えば、測定センサを用いて測定対象物の様々な測定ポイントの三次元座標値を検出することにより測定対象物の形状を得る三次元測定装置(三次元座標測定装置或いは三次元(座標)測定機ともいう)が知られている。このような三次元測定装置で用いられる測定センサとしては、接触式の測定センサと、非接触式の測定センサとがよく知られている。
【0003】
接触式の測定センサは、例えば特許文献1に記載のプローブなどが知られており、測定対象物の測定ポイントに直に接触して測定を行う測定センサである。この接触式の測定センサは、繰り返し精度が高いというメリットが存在するものの、測定時間が長くなる(単位時間当たりの測定数が少ない)というデメリットが存在する。
【0004】
一方、非接触式の測定センサは、例えば特許文献2に記載の光学式プローブ(ラインセンサ)などが知られており、測定対象物の測定ポイントに接触することなく光学的に測定を行う測定センサである。この非接触式の測定センサは、測定時間が短くなる(単位時間当たりの測定数が多い)というメリットが存在するものの、接触式の測定センサよりも繰り返し精度が低いというデメリットが存在する。
【0005】
このように、接触式の測定センサ及び非接触式の測定センサには、互いに相反するメリットとデメリットとがある。このため、測定対象物の測定ポイントを接触式の測定センサで間隔をあけて測定すると共に、接触式の測定センサにより測定された測定ポイントの間の多数の測定ポイントを非接触式の測定センサで測定することで、両測定センサのメリット及びデメリットのバランスを取ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-75431号公報
【文献】特開2015-59825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、接触式の測定センサ及び非接触式の測定センサを併用して測定対象物の測定を行った場合、繰り返し精度が異なる両測定センサの測定データが混在することになる。このため、両測定センサの測定データに対して、例えば最小二乗法によるフィッティングを行って測定対象物の形状を演算した際に、繰り返し精度の低く(バラツキが大きく)且つ測定数の多い非接触式の測定センサの測定データの影響を受けて、測定対象物の形状の測定精度が低下するという問題が発生する。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、繰り返し精度が異なる併用して測定対象物の形状の測定を行う場合に、測定精度を向上させることができる形状測定方法及び形状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を達成するための形状測定方法は、繰り返し精度の異なる複数種類の測定センサで同一の測定対象物の形状をそれぞれ測定して得られた複数種類の測定データを取得する測定データ取得ステップと、測定データ取得ステップで取得した複数種類の測定データに対して、それぞれ対応する測定センサの繰り返し精度に対応した重み付けを行い、重み付けされた複数種類の測定データに基づき形状を演算する形状演算ステップと、を有する。
【0010】
この形状測定方法によれば、複数種類の測定データに対してそれぞれ対応する測定センサの繰り返し精度に対応した重み付けを行うことで、重み付けを行わないで測定対象物の形状を演算する場合と比較して、測定対象物の形状の測定精度を向上させることができる。
【0011】
本発明の他の態様に係る形状測定方法において、形状演算ステップでは、複数種類の測定データに対して、それぞれ対応する測定センサの繰り返し精度の逆数を二乗した重み係数で重み付けを行う。これにより、測定対象物の形状の測定精度を向上させることができる。
【0012】
本発明の他の態様に係る形状測定方法において、複数種類の測定センサには、接触式の第1測定センサと、第1測定センサよりも繰り返し精度が低い非接触式の第2測定センサとが含まれ、測定データ取得ステップは、複数種類の測定データとして、第1測定センサにより形状を測定して得られた第1測定データと、第2測定センサにより形状を測定して得られ且つ第1測定データよりも測定数が多い第2測定データと、を取得する。これにより、繰り返し精度が高く測定時間が長い測定センサによる測定と、繰り返し精度が低く測定時間が短い測定センサによる測定とを併用して、短時間で測定対象物の多数の測定ポイントを測定した場合であっても、測定対象物の形状の測定精度を向上させることができる。
【0013】
本発明の他の態様に係る形状測定方法において、複数種類の測定センサの中に、複数軸方向での繰り返し精度が異なる第3測定センサが含まれる場合、形状演算ステップでは、第3測定センサにより得られた測定データの複数軸方向の各成分に対して、複数軸方向ごとの繰り返し精度に対応した重み付けを行う。これにより、測定対象物の形状の測定精度をより向上させることができる。
【0014】
本発明の他の態様に係る形状測定方法において、形状演算ステップは、測定センサの種類ごとの繰り返し精度を記憶した記憶部を参照して、複数種類の測定データに対して重み付けを行う。これにより、複数種類の測定データに対してそれぞれ対応する測定センサの繰り返し精度に対応した重み付けを行うことができる。
【0015】
本発明の他の態様に係る形状測定方法において、形状演算ステップは、重み付けされた複数種類の測定データに基づき、最小二乗法を用いて形状を演算する。これにより、公知の最小二乗法を用いて測定対象物の形状を簡単に演算することができる。
【0016】
本発明の目的を達成するための形状測定装置は、繰り返し精度の異なる複数種類の測定センサで同一の測定対象物の形状をそれぞれ測定して得られた複数種類の測定データを取得する測定データ取得部と、測定データ取得部が取得した複数種類の測定データに対して、それぞれ対応する測定センサの繰り返し精度に対応した重み付けを行い、重み付けされた複数種類の測定データに基づき形状を演算する形状演算部と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明の形状測定方法及び形状測定装置は、繰り返し精度が異なる併用して測定対象物の形状の測定を行う場合に、測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の形状測定装置の一例である三次元測定装置の正面図である。
図2】三次元測定装置の側面図である。
図3】プローブを着脱自在に保持している測定ヘッドの外観斜視図である。
図4】ラインセンサを着脱自在に保持している測定ヘッドの外観斜視図である。
図5】ラインセンサの概略構成を示した概略図である。
図6】X軸方向の長さがXの測定対象物の概略図である。
図7】測定対象物のX軸方向の長さをプローブ及びラインセンサでそれぞれ繰り返し測定行って得られた測定データ(実測長さx)の分布を示したグラフである。
図8】プローブ及びラインセンサを併用して同一の測定対象物の測定を行う場合の一例を説明するための説明図である。
図9】制御部の電気的構成を示すブロック図である。
図10】三次元測定装置による測定対象物の形状測定の流れを示すフローチャートである。
図11】三次元測定装置の効果を説明するための説明図である。
図12】実施例1及び実施例2で用いられる測定対象物の概略図である。
図13】実施例1の測定結果を示したグラフである。
図14】実施例2の測定結果を示したグラフである。
図15】実施例3で用いられる測定対象物の概略図である。
図16】実施例3の測定結果を示したグラフである。
図17】他実施形態の制御部の電気的構成を示すブロック図である。
図18】ラインセンサ以外の非接触式の測定センサの一例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[三次元測定装置の構成]
図1は本発明の形状測定装置の一例である三次元測定装置10の正面図であり、図2は三次元測定装置10の側面図である。この三次元測定装置10は、繰り返し精度が異なる複数種類(本実施形態では2種類)の測定センサ11を用いて、同一の測定対象物Wの各測定ポイント(測定位置)の三次元座標値(X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の各座標値)を測定して、測定対象物Wの形状を演算する。ここでいう測定対象物Wの形状とは、測定対象物Wの三次元形状、二次元形状、表面形状、輪郭形状、及び長さ又は径などの各種の寸法形状などが含まれる。
【0020】
なお、図1及び図2中のX軸、Y軸、及びZ軸は、三次元測定装置10に固有の機械座標原点に基づいて定められる座標系である機械座標系である。また、繰り返し精度とは、繰り返し測定による測定値のバラツキ幅(標準偏差σ)である。
【0021】
図1及び図2に示すように、三次元測定装置10は、架台12と、架台12上に設けられたテーブル14(定盤)と、テーブル14の両端部に立設された右Yキャリッジ16R及び左Yキャリッジ16Lと、右Yキャリッジ16R及び左Yキャリッジ16Lの上部を連結するXガイド18と、を備える。右Yキャリッジ16Rと左Yキャリッジ16LとXガイド18とにより門型フレーム19が構成される。
【0022】
テーブル14の上面には、測定対象物Wと、後述する交換マガジン27(交換ラックともいう)とが配置されている。また、テーブル14の両端部の上面と側面には、Y軸方向に沿って右Yキャリッジ16R及び左Yキャリッジ16Lが摺動する摺動面が形成されている。なお、右Yキャリッジ16R及び左Yキャリッジ16Lには、テーブル14の摺動面に対向する位置にエアベアリング(図示は省略)が設けられている。これにより、右Yキャリッジ16R及び左Yキャリッジ16Lは、Xガイド18と共にY軸方向に移動自在となる。
【0023】
Xガイド18には、Xキャリッジ20が取り付けられている。このXガイド18には、Xキャリッジ20が摺動する摺動面がX軸方向に沿って形成されている。また、Xキャリッジ20には、Xガイド18の摺動面に対向する位置にエアベアリング(図示は省略)が設けられている。これにより、Xキャリッジ20はX軸方向に移動自在となる。
【0024】
Xキャリッジ20には、Zキャリッジ(Zスピンドルともいう)22が取り付けられている。また、Xキャリッジ20には、Zキャリッジ22をZ軸方向に案内するZ軸方向案内用のエアベアリング(図示せず)が設けられている。これにより、Zキャリッジ22は、Xキャリッジ20によってZ軸方向に移動可能に保持されている。このZキャリッジ22の下端には、複数種類の測定センサ11を選択的に着脱自在に保持する測定ヘッド24が取り付けられている。
【0025】
なお、三次元測定装置10には、図示は省略するが門型フレーム19をY軸方向に移動させるY軸駆動部と、Xキャリッジ20をX軸方向に移動させるX軸駆動部と、Zキャリッジ22をZ軸方向に移動させるZ軸駆動部と、を含む第1駆動部32(図9参照)が設けられている。これにより、測定ヘッド24及び測定センサ11を、互いに直交する3軸方向(XYZ軸方向)に移動させることができる。
【0026】
テーブル14の右Yキャリッジ16R側の端部には、Y軸リニアスケール(図示せず)が設けられている。また、Xガイド18にはX軸リニアスケール(図示せず)が設けられ、Zキャリッジ22にはZ軸リニアスケール(図示せず)が設けられている。
【0027】
一方、右Yキャリッジ16Rには、Y軸リニアスケールを読み取るY軸検出部(図示せず)が設けられている。また、Xキャリッジ20には、X軸リニアスケール及びZ軸リニアスケールをそれぞれ読み取るX軸検出部(図示せず)とZ軸検出部(図示せず)とが設けられている。各検出部の検出結果は、コントローラ25を介して制御部26へ出力される。
【0028】
測定ヘッド24は、交換マガジン27にセットされている複数種類の測定センサ11を選択的に着脱自在に保持する。なお、測定ヘッド24により測定センサ11を着脱自在に保持する方式は、例えばコネクター方式又はマグネット脱着方式などの各種方式を採用可能である。
【0029】
交換マガジン27は、テーブル14の上面のY軸方向の一端部側に載置されている。この交換マガジン27は、複数種類の測定センサ11をそれぞれ個別に支持するセンサ支持部27aを有している。なお、センサ支持部27aによる測定センサ11の支持方式は特に限定されない。
【0030】
交換マガジン27の各センサ支持部27aの三次元位置情報は、事前に三次元測定装置10の制御部26にインプットされている。このため、制御部26は、オペレータの指示或いは事前に作成されたプログラムに従って、各キャリッジ16R,16L,20,22を駆動して、測定ヘッド24を測定対象物Wの測定に使用する測定センサ11(センサ支持部27a)まで移動させた後、測定ヘッド24に測定センサ11を着脱自在に保持させる。
【0031】
また、制御部26は、測定ヘッド24が保持している測定センサ11を交換する場合には、各キャリッジ16R,16L,20,22を駆動して、測定ヘッド24を対応するセンサ支持部27aまで移動させた後、測定ヘッド24による測定センサ11の保持を解除してこの測定センサ11を元のセンサ支持部27aへ戻す。次いで、制御部26は、各キャリッジ16R,16L,20,22を駆動して、次に使用する測定センサ11(センサ支持部27a)まで測定ヘッド24を移動させた後、測定ヘッド24に測定センサ11を着脱自在に保持させる。これにより、測定ヘッド24の測定センサ11の交換を自動で行うことができる。
【0032】
本実施形態では、複数種類の測定センサ11として、接触式タッチトリガのプローブ29と、ラインセンサ30との2種類を用い、これらプローブ29及びラインセンサ30を併用して測定対象物Wの形状を測定する。
【0033】
図3は、プローブ29を着脱自在に保持している測定ヘッド24の外観斜視図である。図4は、ラインセンサ30を着脱自在に保持している測定ヘッド24の外観斜視図である。
【0034】
図3及び図4に示すように、測定ヘッド24は、例えば無段階位置決め機構を備えた5軸同時制御測定ヘッドである。この測定ヘッド24には、プローブ29及びラインセンサ30をそれぞれ互いに直交する2つの回転軸R1及び回転軸R2の軸周りに回転自在に保持及び回転させるモータなどの第2駆動部33(図9参照)が設けられている。これにより、測定ヘッド24は、プローブ29及びラインセンサ30の回転軸R1の軸周りの回転角φと、プローブ29及びラインセンサ30の回転軸R2の軸周りの回転角θとをそれぞれ無段階に調整することができる。その結果、測定ヘッド24は、プローブ29及びラインセンサ30の姿勢を任意に変位(回転)させることができる。
【0035】
なお、測定ヘッド24には、プローブ29及びラインセンサ30の回転角θ,φをそれぞれ検出するロータリエンコーダ等の回転角検出部(図示せず)が設けられている。この回転角検出部による検出結果は、コントローラ25を介して制御部26へ出力される。以下、前述のX軸・Y軸・Z軸検出部及び回転角検出部を単に各検出部35(図9参照)という。
【0036】
図1に戻って、コントローラ25には、三次元測定装置10が手動測定モードである場合に、プローブ29及びラインセンサ30の位置及び姿勢を調整するための操作部(不図示)が設けられている。このコントローラ25は、手動測定モード時には操作部に対する操作入力に応じて、第1駆動部32及び第2駆動部33(図9参照)を制御することにより、プローブ29及びラインセンサ30の位置と姿勢とを変位させる。一方、コントローラ25は、三次元測定装置10が自動測定モードである場合、制御部26の制御の下、第1駆動部32及び第2駆動部33を制御して、プローブ29及びラインセンサ30の位置と姿勢とを変位させる。
【0037】
また、コントローラ25には、前述の各検出部35(図9参照)、プローブ29、及びラインセンサ30等が接続されており、これら各部から出力された信号等を制御部26へ出力する。
【0038】
制御部26は、例えばパーソナルコンピュータ等の各種演算処理装置が用いられ、三次元測定装置10の各部の動作を統括的に制御する。この制御部26は、前述の自動測定モード時には、第1駆動部32及び第2駆動部33を制御して、プローブ29及びラインセンサ30による測定対象物Wの測定ポイントの測定を実行させる。
【0039】
また、制御部26は、詳しくは後述するが、プローブ29及びラインセンサ30による測定対象物Wの測定ポイントの測定結果(三次元座標)等に基づき、測定対象物Wの形状を演算する。
【0040】
図3に戻って、プローブ29は、本発明の接触型の測定センサ(第2測定センサ)に相当するものであり、その基端側が測定ヘッド24に着脱自在に保持される。このプローブ29の先端にはスタイラス29aの基端が取り付けられており、さらにこのスタイラス29aの先端には接触子29b(先端球ともいう)が取り付けられている。
【0041】
また、プローブ29には、接触子29bの測定対象物Wへの接触の有無、及び接触子29bの測定対象物Wへの接触により生じるスタイラス29aの変位量を検出する接触検出センサ(不図示)が設けられている。この接触検出センサの検出信号は、コントローラ25を介して制御部26へ出力される。これにより、制御部26は、プローブ29(スタイラス29a)の先端の接触子29bが測定対象物Wの測定ポイントに接触した瞬間における各検出部35の検出結果に基づき、測定ポイントの三次元座標を検出する。
【0042】
図5は、本発明の非接触型の測定センサ(第1測定センサ)に相当するラインセンサ30の概略構成を示した概略図である。図5に示すように、ラインセンサ30は、例えば本実施形態では三角測距方式を採用した拡散反射受光型のレーザ変位計(レーザプローブともいう)が用いられる。この拡散反射受光型のラインセンサ30は、入射部30aと検出部30bとを備える。
【0043】
入射部30aは、不図示の半導体レーザ光源及び投光レンズ等により構成されており、測定対象物Wの測定ポイントにレーザ光LAを入射させる。測定ポイントに入射されたレーザ光LAは拡散反射され、拡散反射されたレーザ光LAは検出部30bに入射する。
【0044】
検出部30bは、不図示の受光レンズと、CCD(Charge Coupled Device)型又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型の撮像素子とを含んで構成されており、測定ポイントにて拡散反射されたレーザ光LAを撮像素子の撮像面に入射させる。この撮像素子は、複数の画素が2次元配列された撮像面を有しており、画素ごとに光を検出する。この撮像面には、前述のレーザ光LAがスポット光として入射する。
【0045】
ここで、撮像素子の撮像面上でのレーザ光LAの入射位置(スポット位置)は、ラインセンサ30と、レーザ光LAが拡散反射される測定ポイントとの位置関係に応じて変位する。このため、撮像素子の画素ごとの受光量の検出結果に基づき、ラインセンサ30からレーザ光LAの反射点である測定ポイントまでの距離を検出することができる。
【0046】
検出部30bは、拡散反射されたレーザ光LAの検出結果として、撮像素子の画素ごとの受光量を示す受光信号を、コントローラ25を介して制御部26へ出力する。これにより、制御部26は、ラインセンサ30による距離検出結果と、前述の各検出部35(図9参照)の検出結果とに基づき、測定対象物Wの測定ポイントの三次元座標を検出する。そして、ラインセンサ30を測定対象物Wの測定面に沿って移動させることにより、このラインセンサ30の移動方向に沿って測定面の各測定ポイントの三次元座標を連続して検出することができる。
【0047】
図6は、X軸方向の長さがXの測定対象物Wの概略図である。図7は、図6に示した測定対象物WのX軸方向の長さをプローブ29及びラインセンサ30でそれぞれ繰り返し測定行って得られた測定データ(実測長さx)の分布を示したグラフである。なお、実測長さxは、プローブ29及びラインセンサ30により、測定対象物WのX軸方向の長さとして測定される基準位置RPから実測点APまでの長さである。
【0048】
接触型の測定センサであるプローブ29と、非接触型の測定センサであるラインセンサ30とは、繰り返し精度及び測定時間(単位時間当たりの測定数)がそれぞれ異なる。具体的に、プローブ29の繰り返し精度(標準偏差σ1)は、ラインセンサ30の繰り返し精度(標準偏差σ2)よりも高くなる(σ1<σ2)。このため、プローブ29及びラインセンサ30でそれぞれ測定対象物WのX軸方向の長さを繰り返し測定した場合、プローブ29の方がラインセンサ30よりも測定データ(実測長さx)のバラツキが小さくなる。
【0049】
一方、プローブ29の測定時間は、ラインセンサ30の測定時間よりも長いため、ラインセンサ30の方がプローブ29よりも測定数を多くすることができる。
【0050】
このように、繰り返し精度の異なるプローブ29及びラインセンサ30には互いに相反するメリット及びデメリットがある。このため、本実施形態では、両者のメリット及びデメリットのバランスを取るため、プローブ29及びラインセンサ30を併用して測定対象物Wの測定を行う。
【0051】
図8は、プローブ29及びラインセンサ30を併用して同一の測定対象物Wの測定を行う場合の一例を説明するための説明図である。図8に示すように、本実施形態では、測定対象物Wの測定ポイント(接触測定ポイントP1)をプローブ29で間隔をあけて測定すると共に、プローブ29により測定された測定ポイントの間に複数設定された多数の測定ポイント(非接触測定ポイントP2)をラインセンサ30で測定する。
【0052】
そして、本実施形態では、プローブ29及びラインセンサ30の双方により測定された測定データから測定対象物Wの形状を演算する際に、繰り返し精度が低く且つ測定数の多いラインセンサ30の測定データの影響が支配的にならないように、すなわち測定対象物Wの形状がラインセンサ30の測定データに引きずられないように形状の演算を行う。具体的に制御部26は、プローブ29及びラインセンサ30により得られた測定データから測定対象物Wの形状を演算する際に、プローブ29及びラインセンサ30の双方の繰り返し精度を考慮して形状の演算を行う。
【0053】
[制御部の構成]
図9は、制御部26の電気的構成を示すブロック図である。図9に示すように、制御部26は、例えばCPU(Central Processing Unit)或いはFPGA(field-programmable gate array)を含む各種の演算部と処理部とメモリ等により構成されている。この制御部26は、メモリ等から読み出した不図示の制御プログラムを実行することで、測定制御部40と、測定データ取得部41と、記憶部42と、形状演算部43と、表示制御部44として機能する。
【0054】
測定制御部40は、三次元測定装置10の自動測定モード時に、予め作成された不図示のパートプログラム(測定経路情報)に基づき、コントローラ25を介して第1駆動部32及び第2駆動部33を駆動して、プローブ29及びラインセンサ30によりそれぞれ測定対象物Wの測定ポイント(接触測定ポイントP1、非接触測定ポイントP2)を自動測定する。
【0055】
また、測定制御部40は、プローブ29及びラインセンサ30のいずれか一方による測定が終了した場合、予め作成された不図示のセンサ交換プログラムに基づき、コントローラ25を介して第1駆動部32及び第2駆動部33を駆動して、センサ支持部27aに支持されているプローブ29及びラインセンサ30の他方まで測定ヘッド24を移動させる。次いで、測定制御部40は、測定ヘッド24を駆動して、測定ヘッド24に保持されているプローブ29及びラインセンサ30の一方を他方に交換する。
【0056】
なお、三次元測定装置10が手動測定モードの場合、オペレータがコントローラ25を操作して第1駆動部32、第2駆動部33、及び測定ヘッド24を駆動することにより、プローブ29及びラインセンサ30の移動、測定、及び交換を行う。
【0057】
測定データ取得部41は、測定ヘッド24にプローブ29が着脱自在に保持されている場合、コントローラ25を介して、プローブ29の既述の接触検知センサの検出結果と各検出部35の検出結果とを取得する。これにより、測定データ取得部41は、プローブ29が接触した測定対象物Wの各接触測定ポイントP1の三次元座標を示す測定データ(第1測定データ)を取得する。そして、測定データ取得部41は、測定対象物Wの接触測定ポイントP1毎の測定データを形状演算部43へ出力する。
【0058】
一方、測定データ取得部41は、測定ヘッド24にラインセンサ30が着脱自在に保持されている場合、コントローラ25を介して、検出部30b(撮像素子)の検出結果と各検出部35の検出結果とを取得する。これにより、測定データ取得部41は、ラインセンサ30からレーザ光LAが入射された測定対象物Wの各非接触測定ポイントP2の三次元座標を示す測定データ(第2測定データ)を取得することができる。そして、測定データ取得部41は、測定対象物Wの非接触測定ポイントP2毎の測定データを形状演算部43へ出力する。
【0059】
記憶部42は、各測定センサ11(プローブ29、ラインセンサ30)の種類ごとの繰り返し精度を示す繰り返し精度情報46を記憶している。測定センサ11の種類ごとの繰り返し精度は既知の情報であるので、繰り返し精度情報46は予め作成されて記憶部42に記憶されている。なお、記憶部42には、図示は省略するが、既述のパートプログラム、センサ交換プログラム、及び後述の形状演算部43の演算結果等も記憶される。
【0060】
<測定対象物の形状の演算処理>
形状演算部43は、記憶部42を参照して取得した繰り返し精度情報46と、測定データ取得部41から取得した接触測定ポイントP1毎及び非接触測定ポイントP2毎の測定データとに基づき、測定対象物Wの形状を演算する。具体的に形状演算部43は、接触測定ポイントP1毎及び非接触測定ポイントP2毎の測定データに対して、それぞれ対応する測定センサ11(プローブ29、ラインセンサ30)の繰り返し精度に基づく重み付けを行い、重み付けされた各測定データに基づき最小二乗法を用いて形状を演算する。本実施形態では、プローブ29及びラインセンサ30の繰り返し精度をそれぞれσ1、σ2とした場合、σ1及びσ2の逆数の二乗で各測定データの重み付けを行う。すなわち、接触測定ポイントP1の測定データに対しては(1/σ1)の重み係数を用いて重み付けを行い、非接触測定ポイントP2の測定データに対しては(1/σ2)の重み係数を用いて重み付けを行う。
【0061】
以下、形状演算部43による測定対象物Wの形状の演算処理の一例として、既述の図6に示した測定対象物Wの長さを測定する場合について説明を行う。なお、比較例(従来例)における形状の演算処理の違いを明確にするため、最初に、比較例の演算処理について説明を行う。
【0062】
(比較例の演算処理)
比較例では、プローブ29による接触測定ポイントP1ごとの測定データ(実測点)をx1とし、ラインセンサ30による非接触測定ポイントP2ごとの測定データ(実測点)をx2とした場合、測定データx1,x2から測定対象物Wの長さX(推定)を演算する。なお、比較例では、プローブ29及びラインセンサ30の繰り返し精度(標準偏差)を用いた演算を行わないので、ここでは同じ繰り返し精度「σ」とする。
【0063】
測定データx1の確率分布をP(x1)とし、測定データx2の確率分布をP(x2)とした場合、確率分布P(x1)は下記の[数1]式で表され、確率分布P(x2)は下記の[数2]式で表される。
【0064】
【数1】
【0065】
【数2】
【0066】
そして、上記[数1]式及び上記[数2]に基づき、測定データx1,x2の同時確率分布は下記の[数3]式で表される。
【0067】
【数3】
【0068】
上記[数3]式が最大となるような測定対象物Wの長さX従来は、通常の最小二乗法の式である下記の[数4]式が最大となるXから求められ、下記の[数5]式で表される。
【0069】
【数4】
【0070】
【数5】
【0071】
(本実施形態の演算処理)
本実施形態の形状演算部43は、測定データx1,x2の他に、プローブ29の繰り返し精度σ1及びラインセンサ30の繰り返し精度σ2に関する情報を取得しているので、測定データx1の確率分布P(x1)は下記の[数6]式で表され、測定データx2の確率分布P(x2)は下記の[数7]式で表される。
【0072】
【数6】
【0073】
【数7】
【0074】
そして、上記[数6]式及び上記[数7]に基づき、測定データx1,x2の同時確率分布は下記の[数8]式で表される。
【0075】
【数8】
【0076】
上記[数8]式が最大となるような測定対象物Wの長さX改善は、繰り返し精度σ1,σ2を反映した最小二乗法の式である下記の[数9]式が最大となるXから求められ、下記の[数10]式で表される。
【0077】
【数9】
【0078】
【数10】
【0079】
このように形状演算部43は、記憶部42から取得した繰り返し精度情報46と、測定データ取得部41から取得した接触測定ポイントP1毎及び非接触測定ポイントP2毎の測定データとに基づき、測定対象物Wの長さX改善を演算処理する。
【0080】
ここで、比較例で演算される上記[数5]式の長さX従来の標準偏差σ従来を求めると下記の[数11]式で表される。一方、本実施形態で演算される上記[数10]式の長さX改善の標準偏差σ改善を求めると下記の[数12]式で表される。
【0081】
【数11】
【0082】
【数12】
【0083】
上記[数11]式及び上記[数12]式を比較すると、公知の相加平均相乗平均の関係より、下記の[数13]式が成り立つ。
【0084】
【数13】
【0085】
上記[数13]式において、繰り返し精度が異なるプローブ29及びラインセンサ30によりそれぞれ異なる測定数で測定された測定データx1,x2は、x1≠x2となるため、上記[数13]式の上段に示した不等号関係は常に成り立つ。このため、本実施形態で演算される長さX改善の方が比較例で演算される長さX従来よりも値がばらつかなくなるので、測定精度が向上する。
【0086】
なお、上記例では、図6に示した測定対象物Wの長さを演算処理する場合を説明したが、各種の測定対象物Wの様々な形状を測定する場合にも同様に、測定センサ11の種類ごとの繰り返し精度で重み付けを行って形状を演算処理する。そして、形状演算部43は、測定対象物Wの形状の演算結果を記憶部42に記憶させると共に、表示制御部44に出力する。
【0087】
表示制御部44は、形状演算部43から入力された測定対象物Wの形状の演算結果を、制御部26に有線接続又は無線接続されている表示部48に表示させる。
【0088】
[三次元測定装置の作用]
次に、図10を用いて上記構成の三次元測定装置10による測定対象物Wの形状測定方法について説明を行う。ここで図10は、三次元測定装置10による測定対象物Wの形状測定の流れを示すフローチャートである。なお、三次元測定装置10は自動測定モードと手動測定モードとを有しているが、ここでは自動測定モードが設定されている場合を例に挙げて説明を行う。また、測定対象物Wの測定用のパートプログラム、及び測定センサ11(プローブ29、ラインセンサ30)の交換用のセンサ交換プログラムは予め作成されて記憶部42等に記憶されているものとして説明を行う。
【0089】
オペレータがテーブル14上に測定対象物Wをセットした後、コントローラ25を操作して測定開始操作を行うと、測定制御部40は、記憶部42等に記憶されているセンサ交換プログラムに基づき、コントローラ25を介して第1駆動部32及び第2駆動部33を駆動して、センサ支持部27aに支持されているプローブ29まで測定ヘッド24を移動させる。次いで、測定制御部40は、測定ヘッド24を駆動して、測定ヘッド24にプローブ29を着脱自在に保持させる(ステップS1)。
【0090】
なお、測定ヘッド24にプローブ29が着脱自在に保持された後、公知の校正冶具を用いて自動又は手動でプローブ29の校正が行われる。なお、プローブ29の校正方法は公知であるのでここでは具体的な説明は省略する。
【0091】
次いで、測定制御部40は、記憶部42等に記憶されているパートプログラムに基づき、コントローラ25を介して第1駆動部32及び第2駆動部33を駆動して、プローブ29によりそれぞれ測定対象物Wの各接触測定ポイントP1を自動測定させる(ステップS2)。
【0092】
この際に、測定データ取得部41は、コントローラ25を介して取得したプローブ29の既述の接触検知センサ(不図示)の検出結果と各検出部35の検出結果とに基づき、プローブ29が接触した測定対象物Wの各接触測定ポイントP1の三次元座標を示す測定データを取得する(ステップS3、本発明の測定データ取得ステップに相当)。これにより、測定数は少ないものの、バラツキが少ない精度の高い測定データが得られる。そして、測定データ取得部41は、取得した接触測定ポイントP1毎の測定データを形状演算部43へ出力する。
【0093】
測定制御部40は、プローブ29による測定対象物Wの測定が完了すると、記憶部42等に記憶されているセンサ交換プログラムに基づき、コントローラ25を介して第1駆動部32及び第2駆動部33を駆動して、プローブ29を支持していたセンサ支持部27aまで測定ヘッド24を移動させる。そして、測定制御部40は、測定ヘッド24を駆動して、測定ヘッド24によるプローブ29の保持を解除させる。これにより、測定ヘッド24からプローブ29が取り外され、元のセンサ支持部27aに支持される。
【0094】
次いで、測定制御部40は、コントローラ25を介して第1駆動部32及び第2駆動部33を駆動して、センサ支持部27aに支持されているラインセンサ30まで測定ヘッド24を移動させる。次いで、測定制御部40は、測定ヘッド24を駆動して、測定ヘッド24にラインセンサ30を着脱自在に保持させる(ステップS4)。これにより、測定ヘッド24に保持されているプローブ29がラインセンサ30に交換される。なお、ラインセンサ30への交換後に、校正冶具等を用いてラインセンサ30の校正を行ってもよい。
【0095】
測定制御部40は、測定ヘッド24にラインセンサ30が着脱自在に保持されると、パートプログラムに基づき、コントローラ25を介して第1駆動部32及び第2駆動部33を駆動して、ラインセンサ30によりそれぞれ測定対象物Wの各非接触測定ポイントP2を自動測定させる(ステップS5)。
【0096】
この際に、測定データ取得部41は、コントローラ25を介して取得した検出部30b(撮像素子)の検出結果と各検出部35の検出結果とに基づき、入射部30aからレーザ光LAが入射された測定対象物Wの各非接触測定ポイントP2の三次元座標を示す測定データを取得する(ステップS6、本発明の測定データ取得ステップに相当)。これにより、バラツキは大きくなるものの、多数の各非接触測定ポイントP2の測定データを短時間で取得することができる。そして、測定データ取得部41は、取得した非接触測定ポイントP2毎の測定データを形状演算部43へ出力する。
【0097】
なお、既述の図3及び図4に示したように、本実施形態では測定ヘッド24によりプローブ29及びラインセンサ30の姿勢を任意に変位(回転)させることができるので、測定対象物Wが複雑な形状を有している場合であっても、測定対象物Wの各接触測定ポイントP1及び各非接触測定ポイントP2を測定可能である。すなわち、複雑な形状の測定対象物Wの形状測定を行うことができる。
【0098】
形状演算部43は、測定データ取得部41からの各測定データの入力と前後して、記憶部42を参照して繰り返し精度情報46を取得し、プローブ29及びラインセンサ30のそれぞれの繰り返し精度を判別する(ステップS7)。なお、形状演算部43による繰り返し精度情報46の取得のタイミングは特に限定されず、ステップS6よりも前の工程で繰り返し精度情報46を取得してもよい。
【0099】
そして、形状演算部43は、接触測定ポイントP1毎に測定データに対してプローブ29の繰り返し精度に対応した重み付けを行い、且つ非接触測定ポイントP2毎の測定データに対してラインセンサ30の繰り返し精度に対応した重み付けを行い、重み付けされた各測定データに対して最小二乗法によるフィッティングを行って測定対象物Wの形状を演算する。具体的に、形状演算部43は、前述の[数5]式から[数10]式を用いて、測定対象物Wの形状を演算する(ステップS8、本発明の形状演算ステップに相当)。
【0100】
次いで、形状演算部43は、測定対象物Wの形状の演算結果を記憶部42及び表示制御部44へそれぞれ出力する。これにより、測定対象物Wの形状の演算結果が記憶部42に記憶されると共に、表示制御部44により表示部48に表示される(ステップS9)。
【0101】
[本実施形態の三次元測定装置の効果]
図11は、本実施形態の三次元測定装置10の効果を説明するための説明図である。なお、図11では測定対象物Wの面の形状を演算する場合を例に挙げて説明する。図11の上段に符号50で示す比較例の(従来例)のように、繰り返し精度の異なるプローブ29及びラインセンサ30により得られた測定データに対して単純に最小二乗法によるフィッティングを行った場合、測定対象物Wの形状の演算結果が、繰り返し精度の低く且つ測定数の多いラインセンサ30の測定データの影響を受ける。その結果、測定対象物Wの形状の測定精度が低下する。
【0102】
これに対して本実施形態では、繰り返し精度の異なるプローブ29及びラインセンサ30により得られた測定データに対して、繰り返し精度に対応した重み付けを行い、重み付けされた測定データに対して最小二乗法によるフィッティングを行っている。これにより、図11の下段に符号51で示す本実施形態のように、測定対象物Wの形状の演算結果に与えるラインセンサ30の測定データの影響が抑えられ、逆に繰り返し精度が高く且つ測定数の少ないプローブ29の測定データが測定対象物Wの形状の演算結果に与える影響が大きくなる。これにより、繰り返し精度が高く測定時間が長いプローブ29による測定と、繰り返し精度が低く測定時間が短いラインセンサ30による測定とを併用して、短時間で測定対象物Wの多数の測定ポイントを測定した場合であっても、測定対象物Wの形状の測定精度を向上させることができる。
【0103】
以下、本発明について行った実施例1~3を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
<実施例1>
図12は、実施例1及び後述の実施例2で用いられる測定対象物W1の概略図である。図12に示すように、実施例1では三次元測定装置10(株式会社東京精密製のザイザックス SVA NEX)を用いて、Z軸に平行な中心軸を有し且つ半径rが1.0mmの円筒体である測定対象物W1の半径rを測定した。最初に、繰り返し精度がσ1=1μmのプローブ29(レニショー株式会社製のTP)を用いて測定対象物W1の半径rを5点測定した。また、繰り返し精度がσ2=10μmのラインセンサ30(レニショー株式会社製のTDS)を用いて測定対象物W1の半径rを500点測定した。
【0105】
次いで、既述の制御部26(形状演算部43)により、プローブ29及びラインセンサ30の両測定データに対してそれぞれ対応する繰り返し精度σ1,σ2で重み付けを行った後、最小二乗法によるフィッティングを行って測定対象物W1の半径rの分布(半径r=1.0mmからのずれ量δr)を演算した(前述の[数5]式から[数10]式参照)。そして、プローブ29及びラインセンサ30による測定と、形状演算部43による演算とを1000回繰り返し行った。
【0106】
図13は、実施例1の測定結果(半径r=1.0mmからのずれ量δrの分布)を示したグラフである。図13において、「改善505_Point」は、本実施形態の形状演算部43により演算された測定対象物W1の半径rの分布(半径r=1.0mmからのずれ量δr)を示す。また、「従来505_Point」は、繰り返し精度σ1,σ2による重み付けを行わずに最小二乗法によるフィッティングを行って演算した測定対象物W1の半径rの分布である。
【0107】
さらに、「SI1_5Point」は、プローブ29により測定された5点の測定データに対して最小二乗法によるフィッティングを行って演算した測定対象物W1の半径rの分布である。さらにまた、「SI10_500Point」は、ラインセンサ30により測定された500点の測定データに対して最小二乗法によるフィッティングを行って演算した測定対象物W1の半径rの分布である。なお、図13に示した各分布は1000回の測定の平均値を示したものである。
【0108】
図13に示すように、本実施形態の「改善505_Point」は、「δr=0μmm」のデータ数が最も大きくなり、比較例の「従来505_Point」と比較して、測定対象物W1の半径rの測定精度が向上していることが確認された。
【0109】
<実施例2>
実施例2では、測定対象物W1に対するラインセンサ30の測定数を5点に減らして、実施例1と同様の測定を行った。
【0110】
図14は、実施例2の測定結果(半径r=1.0mmからのずれ量δrの分布)を示したグラフである。図14において、「改善10_Point」は、本実施形態の形状演算部43により演算された測定対象物W1の半径rの分布を示す。また、「従来10_Point」は、繰り返し精度σ1,σ2による重み付けを行わずに最小二乗法によるフィッティングを行って演算した測定対象物W1の半径rの分布である。さらに、「SI1_5Point」は実施例1と同じであり、「SI10_5Point」はラインセンサ30により測定された5点の測定データに対して最小二乗法によるフィッティングを行って演算した測定対象物W1の半径rの分布である。
【0111】
図14に示すように、比較例の「従来10_Point」では、ラインセンサ30の測定データの影響を受けて、測定対象物W1の半径rの分布(半径r=1.0mmからのずれ量δr)のバラツキ幅が大きくなることが確認された。これに対して、本実施形態の「改善10_Point」は、繰り返し精度σ1,σ2による重み付けを行うことで、ラインセンサ30の測定データの影響が抑えられ、比較例よりも測定対象物W1の半径rの分布のバラツキ幅が小さくなることが確認された。また、本実施形態の「改善10_Point」は、比較例よりも「δr=0μmm」のデータ数が最も大きくなることが確認された。その結果、本実施形態では、比較例と比較して、測定対象物W1の半径rの測定精度が向上していることが確認された。
【0112】
<実施例3>
図15は、実施例3で用いられる測定対象物W2の概略図である。実施例3では三次元測定装置10を用いて、半径rが1.0mmの球体である測定対象物W2の中心座標(0,0,0)を基準としたX軸方向の半径rを、プローブ29及びラインセンサ30を用いてそれぞれ実施例1と同じ条件で測定した。
【0113】
図16は、実施例3の測定結果(半径r=1.0mmからのずれ量δrの分布)を示したグラフである。図16に示すように、本実施形態の「改善505_Point」は、「δr=0μmm」のデータ数が最も大きくなり、比較例の「従来505_Point」などと比較して、測定対象物W2の半径r(X軸方向の半径r:X座標)の測定精度が向上していることが確認された。
【0114】
以上のように、プローブ29及びラインセンサ30の両測定データに基づき測定対象物W1,W2の各種形状(半径r)等を演算する際に、両測定データに対してそれぞれ対応する繰り返し精度σ1,σ2で重み付けを行うことにより、形状の測定精度が向上することが確認された。
【0115】
[その他]
図17は、他実施形態の制御部26の電気的構成を示すブロック図である。上記実施形態では、プローブ29及びラインセンサ30の各々のXYZ軸方向(複数軸方向)の繰り返し精度が全て同じであるものとして説明を行っている。これに対して、XYZ軸方向の全ての繰り返し精度が同一でないプローブ29及びラインセンサ30等の測定センサ11(本発明の第3測定センサに相当)を用いて測定を行う場合にも本発明を適用可能である。
【0116】
具体的には図17に示すように、形状演算部43は、上述の測定センサ11(第3測定センサ)により得られた測定データに対して繰り返し精度に基づく重み付けを行う場合、この測定データのXYZ軸方向の各成分に対して、XYZ軸方向ごとの繰り返し精度に対応した重み付けを行う。この場合、記憶部42内の繰り返し精度情報46Aには、測定センサ11(第3測定センサ)のXYZ軸方向ごとの繰り返し精度が記憶されている。
【0117】
例えば、図中の「プローブA」は、XY軸方向の繰り返し精度とZ軸方向の繰り返し精度とが異なるため、XY軸方向の繰り返し精度(σA1)とZ軸方向の繰り返し精度(σA2)とがそれぞれ繰り返し精度情報46Aに記憶されている。このため、形状演算部43は、「プローブA」により測定された測定データに対して重み付けを行う場合、測定データのXY軸方向成分(X座標、Y座標)に対して繰り返し精度σA1に基づく重み付けを行い、測定データのZ軸方向成分(Z座標)に対して繰り返し精度σA2に基づく重み付けを行う。なお、「プローブA」のXYZ軸方向の各方向の繰り返し精度が互いに異なる場合、測定データのXYZ軸方向の各成分に対してそれぞれ異なる繰り返し精度に基づく重み付けを行う。
【0118】
また、図中の「顕微鏡B」はXY軸方向のみで測定可能な測定センサ11であるため、XY軸方向の繰り返し精度(σB1)のみが繰り返し精度情報46Aに記憶され、Z軸方向の繰り返し精度は繰り返し精度情報46Aに記憶されていない。このため、形状演算部43は、「顕微鏡B」により測定された測定データに対して重み付けを行う場合、測定データのXY軸方向成分(X座標、Y座標)に対して繰り返し精度σB1に基づく重み付けを行うと共に、Z軸方向成分の重みはゼロにする。
【0119】
このように、測定センサ11(第3測定センサ)により得られた測定データに対して繰り返し精度に基づく重み付けを行う場合、この測定データのXYZ軸方向の各成分に対して、XYZ軸方向ごとの繰り返し精度に対応した重み付けを行うことで、測定対象物Wの形状の測定精度をより向上させることができる。
【0120】
図18は、ラインセンサ30以外の非接触式の測定センサ11の一例を説明するための説明図である。上記実施形態では、非接触式の測定センサ11としてラインセンサ30(レーザプローブ、レーザ変位計)を例に挙げて説明したが、例えば図18に示すようにラインセンサ30の代わりに画像プローブ56を用いた場合にも本発明を適用することができる。この場合、制御部26には、画像プローブ56により得られた測定対象物Wの撮影画像を解析して、測定対象物Wの各種形状を測定する画像処理部が設けられている。なお、画像プローブ56を用いた測定対象物Wの形状測定については公知技術であるので、詳細な説明は省略する。
【0121】
なお、非接触式の測定センサ11は、前述のラインセンサ30及び画像プローブ56に限定されるものではなく、公知の各種の非接触式の測定センサ11を使用可能である。また、接触式の測定センサ11もプローブ29に限定されるものではなく、公知の各種の接触式の測定センサ11を使用可能である。
【0122】
上記実施形態では、形状演算部43が制御部26内の記憶部42に記憶されている繰り返し精度情報46,46Aに基づき測定データの重み付けを行っているが、繰り返し精度情報46,46Aが外部の記憶部に記憶されていてもよい。すなわち、形状演算部43が、例えばインターネット等の各種通信ネットワークを介して外部の記憶部(データベース等)にアクセスして、この記憶部に記憶されている繰り返し精度情報46,46Aに基づき測定データの重み付けを行ってもよい。
【0123】
上記実施形態では、交換マガジン27を用いて測定ヘッド24の測定センサ11の交換を自動で行っているが、測定センサ11の自動交換方法は特に限定されるものではない。また、測定センサ11の自動交換を行う代わりに、例えばオペレータが測定センサ11の交換を直接行ってもよい。
【0124】
なお、測定ヘッド24の測定センサ11を交換する代わりに、複数種類の測定センサ11を同時に着脱自在に保持可能な測定ヘッドを用いて、測定センサ11毎の測定対象物Wの測定を順次或いは同時に行ってもよい。
【0125】
上記実施形態では、プローブ29及びラインセンサ30の計2種類の測定センサ11を用いて測定対象物Wの測定を行っているが、3種類以上の測定センサ11を用いて測定対象物Wの測定を行ってもよい。また、接触式の測定センサ11(プローブ29等)と非接触式の測定センサ11(ラインセンサ30)とを用いて測定を行う代わりに、同種類の測定センサ11のみを用いて測定対象物Wの測定を行ってもよい。すなわち、繰り返し精度が異なる複数種類の接触式の測定センサ11のみを用いて測定対象物Wの測定を行った場合、或いは繰り返し精度が異なる複数種類の非接触式の測定センサ11のみを用いて測定対象物Wの測定を行った場合にも本発明を適用可能である。
【0126】
上記実施形態では、プローブ29及びラインセンサ30の測定データに対して、それぞれ対応するプローブ29及びラインセンサ30の繰り返し精度σ1,σ2の逆数を二乗した重み係数で重み付けを行っているが、繰り返し精度σ1,σ2にそれぞれ対応する重み係数であれば重み係数は適宜変更してもよい。また、上記実施形態では、重み付けされた各測定データに基づき最小二乗法によるフィッティングを行って測定対象物Wの形状を演算しているが、最小二乗法以外の形状演算方法を用いてもよい。
【0127】
上記実施形態では、本発明の形状測定装置として三次元測定装置10を例に挙げて説明したが、三次元測定装置10以外の測定対象物Wの形状を測定する各種形状測定装置において繰り返し精度の異なる複数種類の測定センサ11を用いて測定を行う場合に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0128】
10…三次元測定装置,11…測定センサ,24…測定ヘッド,26…制御部,29…プローブ,30…ラインセンサ,41…測定データ取得部,42…記憶部,43…形状演算部,46,46A…繰り返し精度情報,56…画像プローブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18