(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】立体表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 30/26 20200101AFI20220304BHJP
G03B 35/20 20210101ALI20220304BHJP
G03B 35/24 20210101ALI20220304BHJP
H04N 13/302 20180101ALI20220304BHJP
【FI】
G02B30/26
G03B35/20
G03B35/24
H04N13/302
(21)【出願番号】P 2017231941
(22)【出願日】2017-12-01
【審査請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100171446
【氏名又は名称】高田 尚幸
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100171930
【氏名又は名称】木下 郁一郎
(72)【発明者】
【氏名】河北 真宏
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隼人
【審査官】近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-017822(JP,A)
【文献】特開2016-021013(JP,A)
【文献】特開2008-134617(JP,A)
【文献】特開2005-176004(JP,A)
【文献】特開平10-253926(JP,A)
【文献】特開平10-246869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 30/00
G03B 35/20
G03B 35/24
H04N 13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体映像を再生するための
多視点画像を表示し光線
として出力する光線再生部と、
前記光線再生部から出力される光線の光路上に設けられ、均一な形状およびサイズを有する複数の開口を形成して成る開口スクリーンと
を具備
し、
前記開口における回折により前記光線を広げて前記複数の開口からの光線について連続する光強度の分布を得ることにより立体像を表示する、
ことを特徴とする立体表示装置。
【請求項2】
前記開口のサイズは、前記光線再生部
が表示する前記多視点画像の光線が前記開口に投射された際の、前記開口における、ある一つの多視点画像の光線と隣接する多視点画像の光線との間の角度φと、前記開口における前記光線の回折による広がり角度θとの比率であるR(Rは、θ/φである)が1より大きくなるようにしたものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の立体表示装置。
【請求項3】
前記開口のサイズは、前記比率が1.5≦R≦2.0の条件を満たすようにしたものである、
ことを特徴とする請求項2に記載の立体表示装置。
【請求項4】
前記開口の水平方向のサイズは、前記光線再生部から出力される隣接する水平方向の前記光線間の角度に応じて定めたものであり、
前記開口の垂直方向のサイズは、前記光線再生部から出力される隣接する垂直方向の前記光線間の角度に応じて定めたものである、
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の立体表示装置。
【請求項5】
前記開口スクリーンに設けられた前記開口の密度は、前記光線再生部が前記開口スクリーンに投射する画像の画素密度よりも高い、
ことを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載の立体表示装置。
【請求項6】
複数の前記開口は、前記開口スクリーン上の不規則的な位置に設けられている、
ことを特徴とする請求項
5に記載の立体表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特殊な眼鏡が不要な裸眼立体表示を行うための従来技術の例として、複数のプロジェクターを用いて、垂直方向に大きな拡散特性を有し且つ水平方向には小さな拡散角度を有するスクリーンに像を投射し、水平視差の立体表示を行う方法が提案されている。特許文献1および特許文献2には、上記の方法を用いた立体表示装置等が記載されている。
この従来技術において使用する拡散フィルムは、例えば、ホログラフィック光学素子と呼ばれる。ホログラフィック光学素子では、特定の微細パターンを形成することによって、垂直方向および水平方向の光の拡散特性を制御することができる。ホログラフィック光学素子を作製するためには、一般に、金型を作成し、モールド製法により特定微細パターンの形状をフィルムやプラスチック基板に形成していく方法が使われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-035353号公報
【文献】特開2010-081440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術における光の広がり特性の制御は、素子を構成する微小な表面形状の制御により行うものである。そのため、高精度な光拡散特性の制御は困難であり、また像を投射する光線再生装置に応じて素子を最適化することも容易ではない。また、ホログラフィック光学素子のための初期の金型製作には高額な製作費用がかかる。さらに、例えば対角40インチから60インチ(1インチは約2.54センチメートル)程度のサイズ以上の大型のスクリーンを製作するのは技術的に困難である。
【0005】
本発明は、上記の課題認識に基づいて行なわれたものであり、低コストで実現可能な裸眼立体視のための立体表示装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]上記の課題を解決するため、本発明の一態様による立体表示装置は、立体映像を再生するための光線を出力する光線再生部と、前記光線再生部から出力される光線の光路上に設けられ、均一な形状およびサイズを有する複数の開口を形成して成る開口スクリーンとを具備することを特徴とする。
【0007】
[2]また、本発明の一態様は、上記の立体表示装置において、前記開口のサイズは、前記光線再生部から出力される隣接する前記光線間の角度φと、前記開口における前記光線の回折による広がり角度θとの比率であるR(Rは、θ/φである)が1より大きくなるようにしたものである、ことを特徴とする。
【0008】
[3]また、本発明の一態様は、上記の立体表示装置において、前記開口のサイズは、前記比率が1.5≦R≦2.0の条件を満たすようにしたものである、ことを特徴とする。
【0009】
[4]また、本発明の一態様は、上記の立体表示装置において、前記開口の水平方向のサイズは、前記光線再生部から出力される隣接する水平方向の前記光線間の角度に応じて定めたものであり、前記開口の垂直方向のサイズは、前記光線再生部から出力される隣接する垂直方向の前記光線間の角度に応じて定めたものである、ことを特徴とする。
【0010】
[5]また、本発明の一態様は、上記の立体表示装置において、前記開口スクリーンに設けられた前記開口の密度は、前記光線再生部が前記開口スクリーンに投射する画像の画素密度よりも高い、ことを特徴とする。
【0011】
[6]また、本発明の一態様は、上記の立体表示装置において、複数の前記開口は、前記開口スクリーン上の不規則的な位置に設けられている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、均一な形状およびサイズを有する複数の開口を持つ開口スクリーンを用いて、立体像を表示することができる。開口スクリーンの個々の開口は、印刷技術等によって実現できるサイズである。その開口による回折効果により、光線再生部から出力される光線が広がるため、光線間のギャップをなくすことができる。また、例えば印刷技術によって、開口スクリーンを低コストで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態による立体表示装置の構成を示す概略図である。
【
図2】同実施形態による立体表示装置のより詳細な構成を示す構成図である。
【
図3】同実施形態による開口アレイスクリーンの開口の形状の例を示す概略図である。
【
図4】同実施形態による開口アレイスクリーンにおける開口の配置の例を示す概略図である。
【
図5】同実施形態において、開口アレイスクリーンからの距離がzである位置における回折光の強度を示すグラフである。
【
図6】同実施形態において、隣接する光線間での開口アレイスクリーンへの入射の角度と、回折による光の広がりとの関係を示す概略図である。
【
図7】同実施形態において、隣接する光線、およびそれらの合成光の輝度分布を示すグラフである。
【
図8】同実施形態による開口アレイスクリーンにおいて開口をランダムに配置する例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態による立体表示装置の概略構成を示す概略図である。同図は、立体表示装置および観察者を上からみたときの、特定の水平面を示す図である。図示するように、立体表示装置10は、光線再生装置1と、スクリーン3とを含んで構成される。
光線再生装置1は、立体映像を再生するための光線を出力する装置である。光線再生装置1は、「光線再生部」とも呼ばれる。光線再生装置1は、上記の光線を出力するため、多視点画像群表示部2を備える。
多視点画像群表示部2は、立体映像を再生するための多視点画像群を表示する。多視点画像群表示部2は、例えば、単一もしくは複数のプロジェクターや、直視型表示パネル等を用いて実現される。直視型表示パネルとしては、例えば、液晶パネルや有機ELパネルなどを使用することができる。なお「EL」は「エレクトロルミネッセンス(electro-luminescence)」の略である。多視点画像群表示部2は、多数の多視点画像領域を有する。各多視点画像領域に、1つの多視点画像が表示される。多視点画像領域は、多視点画像群表示部2の表示面において垂直方向および水平方向にアレイ状に配置されている。前述の通り、
図1は所定の水平面における構成を示しているものであり、同図では同じ高さ(垂直位置)に属する複数の多視点画像領域を示している。なお、多視点画像群は、例えば、予め撮影された画像である。多視点画像群は、例えば、レンズアレイと撮像素子とを有する立体像撮影用カメラを用いて撮影することができる。
【0015】
多視点画像群表示部2は、実際には多数の多視点画像領域を有しているが、同図では、簡略化して代表の3つの多視点画像領域を示している。それら3つの多視点画像領域から投射される光線に、便宜的に符号を付している。第1の多視点画像領域からは、光線101および光線102を含む光線が投射される。第2の多視点画像領域からは、光線111および光線112を含む光線が投射される。第3の多視点画像領域からは、光線121および光線122を含む光線が投射される。
【0016】
光線再生装置1からの光線は、スクリーン3に投射される。ここで、多視点画像群表示部2からの各光線は、光線間でのクロストークが少なく、直進性の良い光線である。スクリーン3は、微小な開口を密に配列した開口アレイスクリーン5である。つまり、開口アレイスクリーン5は、光線再生装置1から出力される光線の光路上に設けられ、均一な形状およびサイズを有する複数の開口を形成して成るものである。なお、開口アレイスクリーン5において、開口の部分以外は遮光される。なお、開口アレイスクリーン5は、「開口スクリーン」とも呼ばれる。開口アレイスクリーン5に設けられた個々の開口は、互いに、同じ大きさおよび形状を有するものである。各開口は、上記の通り微小なものであるため、投射される光線について回折効果を生じさせる。つまり、多視点画像群表示部2から開口アレイスクリーン5に投射された各光線は、開口の回折効果により、所定の角度に広がって観察者側に出力される。
【0017】
例えば、光線101は、開口の回折効果により、所定の広がり角に広がった光線101Dとして出力される。他の光線についても同様であり、光線102、111、112、121、122は、それぞれ、広がった光線102D、111D、112D、121D、122Dとして出力される。多視点画像群表示部2から投射される光線の光線間隔に応じて、適切な広がり角になるよう開口アレイスクリーンを実現することにより、観察者の観察位置において、画面に欠落のない立体像を観察することが可能となる。
【0018】
図2は、立体表示装置のより詳細な構成を示す概略図である。
図1と同様に、本図も、立体表示装置および観察者を上からみたときの、特定の水平面を示す図である。
図2は、特に、光線再生装置1の詳細な構成例を示す。図示するように、光線再生装置1は、
多視点画像群表示部2と、レンズアレイ6と、アパーチャーアレイ7と、集光レンズ8と、コリメーターレンズ9とを含んで構成される。
【0019】
図示する構成要素のうち、多視点画像群表示部2については、既に述べた通である。
レンズアレイ6は、多視点画像群表示部2における多視点画像領域に対応するレンズを2次元のアレイとして配置したものである。レンズアレイ6を構成する各レンズは、それぞれに対応する多視点画像の光線を透過する。
アパーチャーアレイ7は、上記の多視点画像領域に対応して、即ちレンズアレイ6を構成する各レンズに対応してアパーチャーを有するものである。アパーチャーアレイ7は、上記のアパーチャーをアレイ状に配置して成るものである。なお、アパーチャーアレイ7が有する各アパーチャーが、レンズアレイ6を構成する各レンズの集光点に位置するように設けられる。このような構成により、レンズアレイ6のレンズを透過した光線は、アパーチャーアレイ7内の対応するアパーチャーを通って出力される。
集光レンズ8は、アパーチャーアレイ7から出力された光線を屈折させる。集光レンズ8は、アパーチャーアレイ7から出力される光線が、開口アレイスクリーン5の中心部に投射されるように屈折させる作用を有する。
コリメーターレンズ9は、集光レンズ8から出力された光線を屈折させる。コリメーターレンズ9は、開口アレイスクリーン5の直前に設けられている。コリメーターレンズ9は、各多視点画像からの光線を平行光として開口アレイスクリーン5に投射する作用を有する。
【0020】
つまり、多視点画像群表示部2が多視点画像群を表示し、それら多視点画像の光線は、レンズアレイ6や、集光レンズ8や、コリメーターレンズ9などにより、開口アレイスクリーン5に異なる角度方向から投射表示される。
なお、
図2に示した構成例では、レンズアレイ6の各レンズによる集光点にアパーチャーアレイ7のアパーチャーを設けているため、光線の直進性が向上する。
【0021】
開口アレイスクリーン5上に投射される多視点画像の1つの光線のサイズ(つまり投射される画像の1画素サイズ)に対して、開口のサイズを小さく設定する。これにより、開口による画像の解像度の低下を防ぐことができる。
【0022】
前述の通り、
図2は上から見た図であり、つまり水平方向における光線の進み方を示している。水平方向と同様に、垂直方向にもここで説明したように光線を投射することによって、水平方向と垂直方向の両方に視差をもつ立体表示が可能となる。
なお、水平方向のみに視差を持ち、垂直方向に視差を持たないように光線再生装置1を実現してもよい。水平方向のみに視差を持つように光線を投射する場合には、水平方向の光の広がり角を小さくするために水平方向の開口幅を大きくし、垂直方向の広がり角を大きくするために垂直方向の開口幅を小さく設定すればよい。
【0023】
図3は、開口アレイスクリーンの開口の形状の例を示す概略図である。同図(a)、(b)、(c)、(d)のそれぞれは、開口アレイスクリーン5を観察者側から平面視した図である。同図において、ハッチングのある部分は遮光部であり、白く抜いた部分が開口である。
同図(a)は、開口の形状が正方形である場合の開口アレイスクリーン5を示す。即ち、開口の、水平方向と垂直方向のサイズの比が1対1である。(a)の場合、回折による、光線の広がり角の比も、水平方向と垂直方向とで1対1である。
同図(b)は、開口の形状が長方形である場合の開口アレイスクリーン5を示す。ここに示す例では、各開口について、水平方向のサイズが垂直方向のサイズよりも大きい。開口のサイズに応じて光線の回折角が異なる。即ち、開口のサイズが大きい場合には回折光の広がり角度は狭くなり、開口のサイズが小さい場合には回折光の広がり角度が広くなる。つまり、この(b)のような開口により、再生光線の広がり角度を、水平方向と垂直方向とで異ならせることができる。例えば、光線再生装置1の水平方向の視差を形成する光線の間隔が狭い場合には、水平方向の開口幅を広くすることによって、回折による、水平方向の広がり角を狭くすることができる。また、垂直方向の視差を形成する光線間隔が広い場合には、垂直方向の開口幅を小さくすることによって、回折による、垂直方向の光線の広がり角を広くすることができる。
同図(c)は、開口の形状が円形である場合の開口アレイスクリーン5を示す。水平方向と垂直方向だけでなく、全方向において光線の再生角度間隔が一定である場合には、この円形の開口を用いてもよい。この場合、光線の回折による広がり角は、全方向において一定となる。
同図(d)は、開口の形状が楕円形である場合の開口アレイスクリーン5を示す。この場合も、光線の回折に関して、各方向のサイズに応じてその方向の広がり角が得られる。
なお、
図3(a)~(d)に例示した形状の開口に限らず、適宜、開口の形状を定めて開口アレイスクリーン5を形成してもよい。
【0024】
また、開口アレイスクリーン5において、必ずしも開口を規則的なパターンで設ける必要はない。例えば、ランダムな要素を取り入れて、開口を開口アレイスクリーン5上に配置するようにしてもよい。
【0025】
図4は、開口アレイスクリーンにおける開口の配置の例を示す概略図である。同図(a)、(b)、(c)、(d)のそれぞれは、開口アレイスクリーン5を観察者側から平面視した図である。同図においても、ハッチングのある部分は遮光部であり、白く抜いた部分が開口である。ここに示す例では、開口の配列にランダムな要素を取り入れている。つまり、開口は、開口アレイスクリーン5上の不規則的な位置に設けられている。なお、(a)、(b)、(c)、(d)における開口の形状は、それぞれ、正方形、長方形、円形、楕円形である。
不規則的な位置に開口を配置することにより、光線再生装置1から投射される画像の画素構造とのモアレが生じないというメリットが得られる。
なお、開口のサイズは、光線再生装置1から投射される画像の1画素(投射光線の光線幅)より小さいサイズとする。
また、開口アレイスクリーン5上における開口の密度を、光線再生装置1から投射される画像の画素の密度より高くする。即ち、開口アレイスクリーン5上における単位面積当たりの開口の数を、同じ単位面積当たりの画素の数より多くする。これにより、開口マスクによる立体像の解像度の低下を防ぐことができる。
【0026】
なお、開口を、開口アレイスクリーン5上の不規則的な位置に設けるための一手法を、後で
図8を参照しながら説明する。
【0027】
一例として、x方向(水平歩行)の開口幅が2wx、y方向(垂直歩行)の開口幅が2wyである四角形開口の場合について説明する。開口アレイスクリーン5に対して垂直に入射する光線(波長λ)が開口を透過して出力した光強度Iは、下の式(1)で表される。
【0028】
【0029】
式(1)において、Aは開口面積であり、A=4wxwyである。また、zは、開口からの距離(奥行き方向)である。なお、開口のサイズに対して、距離zが充分に大きいことを前提とする。式(1)においてyの値を固定すると、x方向の回折像を得ることができる。
【0030】
図5は、水平方向の平面において、開口からの距離がzである位置における回折光の強度を示すグラフである。図示するように、距離zを固定したとき、回折像の中心から、x座標の正方向および負方向のそれぞれに、光強度が0になる点が存在する。回折像の中心から、x座標の正方向および負方向のそれぞれに光強度が最初に0になる点が、図中の点P1および点P2である。点P1および点P2の間の距離Δxは、下の式(2)で与えられる。
【0031】
【0032】
よって、x軸方向への光の広がり角θxは、wxに対してzが充分に大きいことを前提とした近似値として、下の式(3)で与えられる。
【0033】
【0034】
つまり、開口サイズ幅2wxの設定により、光の広がり角度θxを制御調整することができる。
なお、ここではx軸方向の光線の広がりについて説明したが、y軸方向の光の広がりについても、開口サイズ幅の設定により同様に制御調整することができる。
【0035】
次に、光線角度間隔と広がり角との関係について説明する。
図6は、隣接する光線間での開口アレイスクリーンへの入射の角度と、回折による光の広がりとの関係を示す概略図である。
図6(a)において、光線Aおよび光線Bは、それぞれ光線再生装置1から開口アレイスクリーン5に投射された光線であり、互いに隣接する光線である。開口アレイスクリーン5の位置において光線Aと光線Bとが成す角度をφとする。
図6(b)に示すように、光線Aおよび光線Bのそれぞれは、開口アレイスクリーン5の開口における回折効果で、広がり角θで広がる。前述の通り、開口のサイズを適切に設定することにより所望の広がり角θを得ることができる。また、角度φと角度θとを適切に設定することにより、隣接する光線間で、連続する(0になる位置がない)光強度の分布を得ることができる。
図6(b)は、光線Aおよび光線Bのそれぞれの、開口からの所定の距離の位置における回折像を示している。
図5でも説明したように、開口からの所定の距離において、光線Aの光の強度が0となる点が存在する。回折像の中心から、xの正方向および負方向のそれぞれに最初に存在する、強度0の点を、それぞれ、点A1および点A2とする。また、光線Bについても同様に、回折像の中心から、xの正方向および負方向のそれぞれに最初に存在する、強度0の点を、それぞれ、点B1および点B2とする。
図6(b)に示すように、隣接する光線Aおよび光線Bをそれぞれ角度θで広げることにより、光線間の輝度分布を連続的にすることができる。言い換えれば、
図6(b)において、点A2よりも点A1側に点B1が存在するようにでき、また、点B1よりも点B2側に点A2が存在するようにできる。これにより、表示する立体像を、位置的に連続的に観察できるようにすることができる。
なお、光線Aと光線Bとの関係だけでなく、他の隣接する光線間においても同様である。
【0036】
次に、光線の広がりと光線間のクロストークについて説明する。
図7は、隣接する光線、およびそれらの合成光の輝度分布を示すグラフである。同図の(a)、(b)、(c)のそれぞれのグラフにおいて、破線で示す輝度分布が、光線Aと光線Bとの合成光の輝度分布である。グラフにおける横軸は、開口アレイスクリーン5と平行な方向の位置(x座標)に対応する。また、縦軸は、正規化した光強度である。具体的には、光線AおよびBそれぞれの光強度の最大値を1.00とした相対値として、光強度を正規化している。開口アレイスクリーン5に入射する光線間の角度間隔φと、開口による広がり角度θとの比をRとする。即ち、R=(θ/φ)である。このRの値に応じて、光線の輝度分布は変化する。
図7(a)、(b)、(c)のそれぞれは、Rの値が異なる場合における合成光の強度を示す。
【0037】
図7(a)は、R=1.0の場合(即ち、φ=θの場合)における、光線A、光線B、およびそれらの合成光の輝度分布を示す。この場合、光線間の重なりがほぼない。この場合には、観察位置に応じて光線間にギャップが生じる。
図7(b)は、R=1.5の場合における、光線A、光線B、およびそれらの合成光の輝度分布を示す。この(b)場合は、光線A・B間の重なりがある。つまり、(a)の場合と異なり、光線間において画像のギャップが少なくなり、良好な画質の立体画像を得ることができる。なお、(b)の場合における合成光の、光線Aと光線Bとのほぼ中央における光強度の極小値は、0.34(正規化した値)である。
図7(c)は、R=2.0の場合における、光線A、光線B、およびそれらの合成光の輝度分布を示す。(c)の場合には、光線A・B間の重なりが、(b)の場合よりもさらに多い。このため、(c)の場合にも、光線間において画像のギャップが少なくなる。(b)の場合における合成光の、光線Aと光線Bとのほぼ中央における光強度の極小値は、0.81(正規化した値)である。
【0038】
つまり、開口を狭くして広がり角θを大きくすることにより、
図7(b)または(c)のような、光線間の重なりのある強度分布を実現することができる。
ただし、光の広がり角を大きくし過ぎると、隣接する光線間のクロストーク量が多くなる。
つまり、開口のサイズを小さくするほど光線間において画像のギャップが少なくなる一方で、開口のサイズを小さくし過ぎると光線間のクロストークが増えて立体像の奥行再生特性が低下する。即ち、これら両者はトレードオフの関係にある。言い換えれば、開口のサイズを適切に選択、設定することにより、上記両者を総合的に評価した場合における最適な光線の重なりを実現することができる。
1.5≦R≦2.0というRの範囲は、概ね良好な立体像が得られる範囲である。
【0039】
一般的に、光線再生の立体像再生の場合、隣接光線間の角度は0.2度以上且つ2.0度以下の程度の範囲内である。この範囲にある光線間隔角度に対して、Rの値が1.5以上且つ2.0以下程度となるように開口サイズを設定することで、質の良い立体画像を得ることができる。例えば、波長550nm(ナノメートル)の可視光を基準とした場合、次の通りである。例えば、再生する隣接光線間の角度が1.0度の場合、R=1.5となるような開口幅(全幅)は42.0μm(マイクロメートル、R=2.0となる開口幅は31.5μmである。また、例えば、再生する隣接光線間の角度が0.5度の場合、R=1.5となるような開口の幅(全幅)は84.0μm、R=2.0となる開口幅は63.0μmである。
このサイズの開口マスクはガラス基板上にエッチング方法や印刷で製作することができる。もしくは高精細な印刷技術により製作することができる。
【0040】
開口のサイズについてまとめると、次の通りである。
前述の通り、開口のサイズは、光線再生装置1から投射される画像の1画素(投射光線の光線幅)より小さいサイズとする。
また、開口は、入射する直線状の光線を回折効果により広げる作用を有する。開口のサイズは、適切な回折効果を生じさせるほどに小さいものとする。
また、開口のサイズは、光線再生装置1から出力される隣接する光線間の角度φと、開口における光線の回折による広がり角度θとの比率であるR(Rは、θ/φである)が1より大きくなるようにすることが好ましい。これにより、観察位置による光線間にギャップが生じないようにすることができる。
また、開口のサイズは、前記比率が1.5≦R≦2.0の条件を満たすようにすることが、さらに好ましい。これにより、光線間が適度に重なり光線間のギャップは生じないとともに、光線間のクロストークによる立体像の質の低下を防ぐこともできる。
なお、開口アレイスクリーン5上の方向のそれぞれについて、上記のRの値が適切になるように、開口のサイズを定めてもよい。例えば、開口の形状が長方形等の場合において、水平方向と垂直方向の各方向について、開口のサイズを上記の通り定める。即ち、開口の水平方向のサイズは、光線再生装置1から出力される隣接する水平方向の光線間の角度に応じて定める。また、開口の垂直方向のサイズは、光線再生装置1から出力される隣接する垂直方向の光線間の角度に応じて定める。
R=(θ/φ)であるので、式(3)より、任意の方向の開口サイズwは、当該方向の入射光線間の角度φに基づいて、w=λ/(φR)とすればよい。なお、λは光線の波長である。
つまり、R>1.0とするためには、w<λ/φとする。
また、1.5≦R≦2.0とするたには、λ/(2φ)≦w≦λ/(1.5φ)とする。
【0041】
次に、開口アレイスクリーン5における開口の不規則的な配置例について説明する。開口の配列に関して、開口の形状には関わらず、不規則な配列としてもよいということを既に述べた。ここでは、開口を密に配置し、且つ、ランダムな要素を取り入れた不規則的な配列とする例を説明する。
【0042】
図8は、開口アレイスクリーン5において開口をランダムに(あるいは、疑似的にランダムに)配置する例を示す概略図である。同図では、開口アレイスクリーン5を平面視している。同図は、開口アレイスクリーン5における、4個の開口が配置された領域のみを切り出して示している。図示する範囲において、4個の開口形成エリア61が田の字型に配置されている。図示する範囲外に、さらに多数の開口形成エリア61が配置されていてよい。
【0043】
図示するように、各々の開口形成エリア61には、1個の開口62が含まれる。図示する例では、開口形成エリア61も、開口62も、正方形の形状を有する。開口形成エリア61の一辺の長さはaであり、開口62の一辺の長さはb(ただし、b<a)である。図示する4個の開口形成エリア61のうち、左上の1個を、第i番目(iは自然数)の開口形成エリア61とする。第i番目の開口形成エリアの中心点63の座標を(Xi,Yi)とする。第i番目の開口形成エリア61内の、開口の中心点64の座標を(xi,yi)とする。開口をランダムに配置するためには、開口形成エリアの中心点63を基準としたときの開口の中心点64の座標位置がランダムになるようにする。つまり、座標(Δxi,Δyi)がランダムになるようにする。ただし、Δxi=xi-Xiであり、Δyi=yi-Yiである。また、Δxi,Δyiに関する制約として、{-(a-b)/2}<Δxi,Δyi<{(a-b)/2}である。この制約は、一辺がbの開口62の一部が、一辺がaの開口形成エリア61の外に出ないための制約、言い換えれば他の開口形成エリア61内の開口62と重ならないための制約である。つまり、上記制約の範囲内で、ΔxiおよびΔyiの値をランダムに決めて、開口アレイスクリーン5を形成する。
【0044】
具体的には、例えば、自然数iの値ごとに、乱数または疑似乱数を発生させて、ΔxiおよびΔyiの値を決める。そして、決められた座標値(Δxi,Δyi)にしたがって、第i番目の開口形成エリア61内の開口62の位置を定める。そして、定められた座標値を用いて、コンピューター制御による印刷技術等を用いて、開口アレイスクリーン5を製作する。
【0045】
以上、説明したように、本実施形態によれば、光線再生装置1は、直進性の良い光線を再生する。そして光線再生装置1から投射される光線の光路上に、均一な形状およびサイズを有する複数の開口を形成して成る開口アレイスクリーン5を設ける。これにより、低コストで製造することのできる開口アレイスクリーン5を用いて、立体像を表示することができる。
また、開口アレイスクリーン5における各開口のサイズは、再生する光線密度に適した光線の広がり角を実現するように設定する。これにより、光線間のギャップをなくし、且つ質の高い立体像を表示することができる。
【0046】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、例えば、立体像を表示するための装置や、立体像を表示するサービスなどに利用することができる。ただし、本発明の利用範囲は、ここに例示したものには限られない。
【符号の説明】
【0048】
1 光線再生装置(光線再生部)
2 多視点画像群表示部
3 スクリーン
5 開口アレイスクリーン(開口スクリーン)
6 レンズアレイ
7 アパーチャーアレイ
8 集光レンズ
9 コリメーターレンズ
10 立体表示装置
61 開口形成エリア
62 開口
63 開口形成エリアの中心点
64 開口の中心点
101,101D,102,102D,111,111D,112,112D,121,121D,122,122D 光線