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特許7034218シミュレータ、該シミュレータを備える注入装置又は撮像システム、及びシミュレーションプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】シミュレータ、該シミュレータを備える注入装置又は撮像システム、及びシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20220304BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20220304BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20220304BHJP
   A61M 5/142 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
A61B6/00 331E
A61B6/03 375
A61B6/03 360D
A61B5/055 383
A61M5/142 530
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020125181
(22)【出願日】2020-07-22
(62)【分割の表示】P 2016561247の分割
【原出願日】2015-11-26
(65)【公開番号】P2020179229
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2020-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2014240006
(32)【優先日】2014-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391039313
【氏名又は名称】株式会社根本杏林堂
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107401
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 誠一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120064
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 徹
(72)【発明者】
【氏名】粟井 和夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 優子
(72)【発明者】
【氏名】増田 和正
(72)【発明者】
【氏名】弓場 孝治
(72)【発明者】
【氏名】根本 茂
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-506398(JP,A)
【文献】特開2013-106990(JP,A)
【文献】特開2012-147934(JP,A)
【文献】特表平07-508202(JP,A)
【文献】特表2013-533028(JP,A)
【文献】特開2014-100555(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0028494(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/14
A61B 5/055
A61M 5/00 - 5/52
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体の組織における画素値の経時変化を予測するシミュレータであって、
前記被写体の情報を取得する被写体情報取得部と、
造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部と、
前記組織の情報を取得する組織情報取得部と、
前記被写体の情報と、前記注入プロトコルと、前記組織の情報とに基づいて、前記組織の画素値の経時変化を予測する予測部とを備え、
前記組織の情報は、前記組織における第1のパラメータである前記造影剤の染み出し速度と、前記第1のパラメータとは異なる第2のパラメータである染み戻り速度とを含む、シミュレータ。
【請求項2】
前記染み出し速度及び前記染み戻り速度は、各組織の質量に応じた毛細血管面積を各組織に割り当て、各組織の毛細血管面積と各組織の透過性の積によって算出される、請求項1に記載のシミュレータ。
【請求項3】
表示部と、前記表示部を制御する表示制御部とを備え、
前記表示制御部は、所定の組織の予測画像を前記画素値に応じた濃度の色で表示するように、前記表示部を制御する、請求項1又は2に記載のシミュレータ。
【請求項4】
前記表示制御部は、前記画素値の経時変化に応じて前記予測画像の濃淡を変更するように、前記表示部を制御する、請求項3に記載のシミュレータ。
【請求項5】
前記表示制御部は、オペレータが選択した組織の時間濃度曲線を、前記予測画像と同時に表示するように、前記表示部を制御する、請求項3又は4に記載のシミュレータ。
【請求項6】
前記表示制御部は、所定の時間に遅延時間を加算した時間における画素値に応じた濃度の色で前記予測画像を表示するように、前記表示部を制御する、請求項3から5のいずれか1項に記載のシミュレータ。
【請求項7】
被写体の組織における画素値の経時変化を予測するシミュレータであって、
前記被写体の情報を取得する被写体情報取得部と、
造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部と、
前記組織の情報を取得する組織情報取得部と、
前記被写体の情報と、前記注入プロトコルと、前記組織の情報とに基づいて、前記組織の画素値の経時変化を予測する予測部と、
表示部と、
前記表示部を制御して所定の組織の予測画像を画素値に応じた表示様式で表示させる表示制御部とを備え、
前記組織の情報は、前記組織における前記造影剤の染み出し速度と染み戻り速度とを含み、
前記表示制御部は、オペレータが選択した組織の時間濃度曲線を、前記予測画像と同時に前記表示部に表示させる、シミュレータ。
【請求項8】
被写体の組織における画素値の経時変化を予測するシミュレータであって、
前記被写体の情報を取得する被写体情報取得部と、
造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部と、
前記組織の情報を取得する組織情報取得部と、
前記被写体の情報と、前記注入プロトコルと、前記組織の情報とに基づき、前記造影剤の注入開始からの経過時間として規定する所定の時間に、ヘリカルスキャンによる遅延時間を加算した時間における前記組織の画素値の経時変化を予測する予測部とを備え、
前記組織の情報は、前記組織における前記造影剤の染み出し速度と染み戻り速度とを含む、シミュレータ。
【請求項9】
表示部と、前記表示部を制御して所定の組織の予測画像を画素値に応じた表示様式で表示させる表示制御部とを更に備え、
前記表示制御部は、前記造影剤の注入開始からの経過時間として規定する所定の時間に、ヘリカルスキャンによる遅延時間を加算した時間における画素値に応じた表示様式で前記予測画像を前記表示部に表示させる、請求項8に記載のシミュレータ。
【請求項10】
注入プロトコルに従って造影剤を注入する注入ヘッドと、
請求項1からのいずれか1項に記載のシミュレータとを備える、注入装置。
【請求項11】
被写体を撮像する医療用の撮像装置と、
請求項1からのいずれか1項に記載のシミュレータとを備える、撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体の組織における撮像画像の画素値(CT値)の経時変化を予測するシミュレータ、該シミュレータを備える注入装置又は撮像システム、及びシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被写体としての患者の組織を、血管内に注入される造影剤で増強してCT(Computed Tomography)装置を用いて撮像する方法があった。また、被写体の体質的特徴と、造影剤の注入プロトコルとにより、造影剤によるコントラスト強度の増強レベル(画素値)を予測する予測方法が知られていた。そして、この予測方法は、被写体の組織におけるコントラスト強度の増強程度を、造影剤の注入開始時刻からの時間経過の関数として予測している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3553968号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、心臓及び血管が1つのコンパートメントであると仮定されている。また、その他の臓器は、血管内空間及び細胞外空間を有する1つのコンパートメントであると仮定されている。そして、各コンパートメントにおいて、造影剤の到達と同時にコンパートメント全体に造影剤が拡散すると仮定して予測が行われる。しかし、実際には組織毎に体積が異なるため、予測結果が実際の画素値の変化と大きく異なることがあった。特に、造影剤の注入量が少ない場合、造影剤の注入時間が短い場合、又は造影剤の濃度が低い場合には、実際の組織内での拡散速度が遅い。そのため、予測結果は、実際の画素値の変化と大きく異なりやすい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の一例としてのシミュレータは、被写体の組織における画素値の経時変化を予測するシミュレータであって、前記被写体の情報を取得する被写体情報取得部と、造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部と、前記組織の情報を取得する組織情報取得部と、前記被写体の情報と、前記注入プロトコルと、前記組織の情報とに基づいて、前記組織の画素値の経時変化を予測する予測部とを備え、前記組織の情報は、前記組織の情報における第1のパラメータである前記造影剤の染み出し速度と、前記第1のパラメータとは異なる第2のパラメータである染み戻り速度と、を含む
【0006】
また、本発明の他の例としての注入装置は、注入プロトコルに従って造影剤を注入する注入ヘッドと、上記シミュレータとを備える。
【0007】
また、本発明の他の例としての撮像システムは、被写体を撮像する医療用の撮像装置と、上記シミュレータとを備える。
【0008】
また、本発明の他の例としてのシミュレーションプログラムは、被写体の組織における画素値の経時変化をコンピューターに予測させるシミュレーションプログラムであって、前記シミュレーションプログラムは前記コンピューターを、前記被写体の情報を取得する被写体情報取得部、造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部、前記組織の情報を取得する組織情報取得部、及び前記被写体の情報と、前記注入プロトコルと、前記組織の情報とに基づいて、前記組織を血流方向に沿って分割した複数のコンパートメントのそれぞれの画素値の経時変化を予測する予測部として機能させる。
【0009】
これにより、実際の組織における画素値の経時変化に近似したより高精度の予測を行うことができる。特に、造影剤の注入量が少ない場合、造影剤の注入時間が短い場合、又は造影剤の濃度が低い場合であっても、高精度の予測を行うことができる。また、各組織内における造影剤の位置を予測することができる。そのため、最適な注入条件又は撮像条件を実際に注入する前に予測することができるので、組織の撮像に失敗することを防止できる。
【0010】
本発明のさらなる特徴は、添付図面を参照して例示的に示した以下の実施例の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】シミュレータの概略ブロック図である。
図2】第1実施形態に係る複数のコンパートメントを説明する図面である。
図3】血流モデルを説明する図面である。
図4】胃、脾臓、膵臓及び腸管のパラメータを示す表である。
図5】シミュレータの表示部に表示される予測画像である。
図6】表示部に表示される一例としての操作画面である。
図7】ヘリカルスキャン選択時にシミュレータの表示部に表示される予測画像である。
図8】注入装置及び撮像システムの概略図である。
図9】第2実施形態に係る複数のコンパートメントを説明する図面である。
図10】加算処理を説明するフローチャートである。
図11】変形形態に関する血流モデルを説明する図面である。
図12】変形形態に関するタイムデンシティカーブを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態で説明する寸法、材料、形状、構成要素の相対的な位置等は任意であり、本発明が適用される装置の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において、上下とは重力方向における上方向と下方向とにそれぞれ対応する。
【0013】
[第1実施形態]
図1に示すように、被写体の組織における画素値の経時変化を予測するシミュレータ(灌流シミュレータ)20は、予測部16を備えている。そして、予測部16は、被写体の情報と、注入プロトコルと、組織の情報とに基づいて、被写体の組織を血流方向に沿って分割した複数のコンパートメントのそれぞれの画素値の少なくとも造影剤に起因する経時変化を予測する。なお、画素値は、造影剤の他に生理食塩水及び血液等の影響を受けて変化する。
【0014】
また、シミュレータ20は、被写体の情報を取得する被写体情報取得部11を備えている。そして、予測部16は、被写体情報取得部11から、ヘモグロビン量(g/dL)及び被写体の体重(kg)等の被写体である被験者に関する被写体情報を受け取る。ここで被写体情報取得部11は、シミュレータ20の入力部27を介して、オペレーターが入力した被写体情報を取得する。
【0015】
また、被写体情報取得部11は、シミュレータ20の記憶部24又は外部記憶装置(サーバー)から被写体情報を取得してもよい。このようなサーバーとしては、例えば、RIS(Radiology Information System)、PACS(Picture Archiving and Communication Systems)、HIS(Hospital Information System)、検像システム及び画像作成用ワークステーション等がある。さらに、被写体情報取得部11は、撮像装置3(図8)又は注入装置2(図8)から被写体情報を取得してもよい。なお、被写体情報は、除脂肪体重、循環血液量、被験者番号(被験者ID)、被験者氏名、性別、生年月日、年齢、身長、血液量、血流速度、体表面積、被験者の疾病、副作用の履歴、クレアチニン値、心拍数、及び心拍出量等を含んでいてもよい。
【0016】
また、シミュレータ20は、造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部12を備える。そして、予測部16は、プロトコル取得部12から、造影剤注入速度(mL/sec)及び造影剤注入時間(sec)等の注入プロトコルを取得する。ここでプロトコル取得部12は、入力部27を介してオペレーターが入力した注入プロトコルを取得する。なお、注入プロトコルは、注入方法、造影剤注入箇所、注入量、注入タイミング、造影剤濃度及び注入圧力等の注入条件に関する情報を含んでいてもよい。また、プロトコル取得部12は、記憶部24、外部記憶装置又は注入装置2から注入プロトコルを取得してもよい。
【0017】
特に、造影剤注入箇所は、シミュレータ20の注入設定画面から入力することができ、標準の場合は上肢静脈が選択される。その他の注入箇所としては、肝動脈(肝動脈造影法:CTHA)、上腸間膜動脈(門脈造影法:CTAP)、右心室、上行大動脈等を選択することができる。また、注入プロトコルは、一定の造影剤注入速度の他、造影剤の後押し注入の有無、生理食塩水の注入速度、生理食塩水の注入時間、注入速度の増減、及び注入用チューブの体積等の情報を含んでいてもよい。
【0018】
また、シミュレータ20は、被写体の組織の情報を取得する組織情報取得部13を備えている。そして、予測部16は、組織情報取得部13から、組織におけるコンパートメント数(血管及び臓器の分割コンパートメント数)、組織の体積(血管腔の体積)、毛細血管の体積、細胞外液腔の体積、単位組織あたりの血流量(血流速度)、組織における造影剤の染み出し速度(毛細血管透過性表面積)、組織における造影剤の染み戻り速度(毛細血管透過性表面積)、及び組織生来の画素値等の組織情報を取得する。
【0019】
ここで組織情報取得部13は、入力部27を介してオペレーターが入力した被写体情報を取得する。なお、組織には、心臓(右心室及び左心室)、血管、その他の臓器及び筋肉等が含まれる。そして、予測部16が組織生来の画素値を取得した場合、各組織の生来の画素値に基づいて造影剤による増強の程度が予測される。また、組織情報取得部13は、記憶部24、外部記憶装置又は注入装置2から組織情報を取得してもよい。
【0020】
また、シミュレータ20は、薬液に関する薬液情報を取得する薬液情報取得部14を備えている。そして、予測部16は、薬液情報取得部14から、造影剤濃度(mgI/mL)、造影剤量(mL)、総ヨード量(mgI)及び造影剤の半減期(造影剤排出レート)等の薬液情報を取得する。さらに、予測部16は、総ヨード量と被写体の体重から、体重1kgあたりのヨード量(mgI/kg)を算出することができる。ここで薬液情報取得部14は、入力部27を介してオペレーターが入力した薬液情報を取得する。なお、薬液情報は、製品名称、製品ID、化学分類、含有成分、濃度、粘度、消費期限、シリンジ容量、シリンジ耐圧、シリンダ内径、ピストンストローク及びロット番号等を含んでいてもよい。
【0021】
また、薬液情報取得部14は、記憶部24、外部記憶装置又は注入装置2から薬液情報を取得してもよい。さらに、薬液情報取得部14は、注入装置2に内蔵された読取部から薬液情報を取得してもよい。そして、読取部は、注入ヘッドに搭載されるシリンジに取り付けられたデータキャリアの読み取りを行う。このデータキャリアには、RFIDチップ、ICタグ、バーコード等があり、薬液に関連する薬液情報が記憶されている。
【0022】
また、予測部16は、入力部27を介して管球電圧(kVp)等の検査情報を取得することができる。この検査情報は、検査番号(検査ID)、検査部位、検査日時、薬液種類、薬液名称、及び撮像条件(撮像部位等)等を含んでいてもよい。
【0023】
さらに、予測部16は、局所灌流(ボーラス伝送)の考慮の有無及び解析時間(sec)等の付加情報を入力部27を介して取得することができる。ここで、解析時間は、予測の対象となる時間の長さであり、時間濃度曲線(TDCカーブ)43を示すグラフ(図6)のX軸の長さに対応する。また、オペレーターが局所灌流を考慮することを選択した場合、予測部16は、組織内で毛細血管から細胞外液腔への造影剤の染み出しを考慮する。
【0024】
そして、予測部16は、被写体の情報と、注入プロトコルと、組織の情報とに基づき、組織を血流方向に沿って分割した複数のコンパートメントのそれぞれについて、画素値の経時変化を予測する。その後、予測部16は、時間ごとの各コンパートメントの画素値を、各組織と関連付けてシミュレータ20の記憶部24に記憶させる。
【0025】
また、シミュレータ20はCPU等の制御部25を備え、予測部16による予測結果を記憶する記憶部24は制御プログラム等を記憶している。そして、制御部25は、記憶部24に記憶された制御プログラムに従ってシミュレータ20を制御している。また、制御部25は、被写体情報取得部11、プロトコル取得部12、組織情報取得部13、薬液情報取得部14、及び表示部26を制御する表示制御部15を有している。そして、記憶部24に実装された制御プログラムに対応して制御部25が各種処理を実行することにより、各部が各種機能として論理的に実現される。
【0026】
また、記憶部24には、被写体の組織における画素値の経時変化をコンピューター(制御部)に予測させるシミュレーションプログラムが記憶されている。このシミュレーションプログラムは、コンピューターを、被写体の情報を取得する被写体情報取得部11、造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部12、組織の情報を取得する組織情報取得部13、及び被写体の情報と、注入プロトコルと、組織の情報とに基づいて、組織を血流方向に沿って分割した複数のコンパートメントのそれぞれの画素値の経時変化を予測する予測部16として機能させる。なお、このシミュレーションプログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶させることができる。
【0027】
また、記憶部24は、制御部25が動作するためのシステムワークメモリであるRAM(Random Access Memory)、プログラム若しくはシステムソフトウェア等を格納するROM(Read Only Memory)、又はハードディスクドライブ等を有する。なお、制御部25は、CD(Compact Disc)及びDVD(Digital Versatile Disc)、CF(Compact Flash)カード等の可搬記録媒体、又はインターネット上のサーバー等の外部記憶媒体に記憶されたプログラムに従って各種処理を制御することもできる。
【0028】
さらに、シミュレータ20は、各組織のコンパートメントを画素値に応じた濃度の色で表示する表示部26を備えている。そして、表示制御部15は、画素値の経時変化に応じて、表示部26に表示された各組織のコンパートメントの濃淡を変更する。そのために、表示制御部15は、記憶部24から所定の時間におけるコンパートメントの画素値を読み出して、コンパートメントの濃淡を変更する。なお、表示部26には、入力画面等の操作画面が表示される。また、注入プロトコル、装置の入力状態、設定状態、及び注入結果等の各種情報が表示されてもよい。
【0029】
また、シミュレータ20の入力部27は、被写体情報取得部11、プロトコル取得部12、組織情報取得部13、及び薬液情報取得部14に接続されている。なお、入力部27としてはキーボード等を用いることができるが、タッチパネルを用いることにより入力部27と表示部26とを兼用させることもできる。
【0030】
上述したシミュレータ20は、後述する図8に記載された、医療用の撮像装置3を備える撮像システム100、又は造影剤を注入するための注入装置2に搭載されることができる。また、シミュレータ20は、撮像装置3又は注入装置2に有線又は無線接続される外部コンピューターに搭載することもできる。なお、撮像装置3としては、例えば、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、CT(Computed Tomography)装置、アンギオ撮像装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置、CTアンギオ装置、MRアンギオ装置、超音波診断装置、及び血管撮像装置等の各種医療用の撮像装置があるが、本明細書ではCT装置について説明している。
【0031】
次に、図2を参照して予測部16による画素値の経時変化の予測について説明する。この図2の上側には、血流方向Dにおいて直列に連通する血管A1、臓器A2、血管A3及び臓器A4が、それぞれ1つのコンパートメントに対応する場合の模式図が示されている。この場合、予測部16は、造影剤が各組織に到達した直後に、それぞれの組織全体の画素値が変化するものとして予測を行う。そして、実際の拡散速度及び位置に関わらず、組織全体の画素値が変化したものと予測されてしまう。
【0032】
すなわち、図2の臓器A4では、造影剤が到達した直後であり、実際には臓器A4のほとんどの部分で画素値の変化が生じていないが、臓器A4全体の画素値が増加したもの(白)として予測されてしまう。また、血管A3では、実際には造影剤が臓器A4にほとんど移動してないが、血管A3全体の画素値が減少したもの(灰色)として予測されてしまう。さらに、臓器A2では、実際には造影剤が残っているが、臓器A2全体の画素値が減少したもの(黒)として予測されてしまう。そのため、特に実際の組織内での拡散速度が遅い場合には、組織の画素値の変化を正確に予測することができなくなってしまう。
【0033】
一方、図2の下側には第1実施形態に係る模式図が示されている。そして、血流方向Dにおいて直列に連通する血管B1、臓器B2、血管B3及び臓器B4が、それぞれ血流方向Dに沿って15個の複数のコンパートメントに分割されている。すなわち、各組織が、組織情報取得部13から取得された組織の分割コンパートメント数に応じて、血流方向Dに沿って複数のコンパートメントに分割されている。
【0034】
この場合、予測部16は、予測対象のコンパートメントを含む組織の体積と、当該組織の毛細血管体積と、当該組織の細胞外液腔体積とを、分割コンパートメント数で除算して、各コンパートメントについて予測を行う。例えば、分割コンパートメント数が15である場合、予測部16は、組織の体積と、毛細血管体積と、細胞外液腔体積とのそれぞれを、15で除算した値に基づいて画素値の経時変化を予測する。
【0035】
そのため、実際にはほとんどの部分で画素値の変化が生じていない臓器B4では、血管B3側に位置するコンパートメントのみの画素値が増加したもの(白)として予測される。同様に、血管B3では、実際には造影剤が臓器B4にほとんど移動してないので、臓器B2側に位置するコンパートメントのみの画素値が減少したもの(灰色)として予測される。さらに、臓器B2では、実際には造影剤が残っているので、血管B1側に位置するコンパートメントのみの画素値が減少したもの(黒)として予測される。これにより、実際の組織内での拡散速度が遅い場合であっても、組織の画素値の変化を正確に予測することができる。
【0036】
次に、図3を参照して具体的な画素値の変化の予測について説明する。図3に示すように、第1実施形態における被写体の組織は、右心室、大動脈、静脈、動脈、脳(頭)、上肢、右冠動脈(右冠動脈が支配的な心筋)、前下行枝(前下行枝が支配的な心筋)、回旋枝(回旋枝が支配的な心筋)、肺、肝臓、胃、脾臓、膵臓、腸管、腎臓、下肢、左心室、上行大動脈、下行大動脈、及び腹部大動脈を含む。そして、上肢静脈から注入された造影剤は、右心室、肺、左心室、大動脈(上行大動脈、下行大動脈)を介して各臓器に移動し、その後、静脈を介して右心室に到達する。そして、体内に注入された造影剤は、腎臓を介して体外に排出される。
【0037】
予測部16は、血流方向における上流及び下流のそれぞれに向かって右心室から順に各組織の画素値の経時変化を予測する。すなわち、予測部16は、最初に1-右心室の予測を行い、次いで右心室に対して血流方向の上流側に位置する2-大静脈及び2-静脈と、右心室に対して血流方向の下流側に位置する2-動脈とを含む第2組織群の予測を行う。その後、予測部16は、静脈、脳、上肢、右冠動脈、前下行枝、回旋枝及び肺を含む第3組織群、動脈、静脈及び肝臓を含む第4組織群、左心室、動脈、上行大動脈、下行大動脈、腎臓及び下肢を含む第5組織群、腹部大動脈、胃、脾臓、膵臓、腸管及び動脈を含む第6組織群、動脈を含む第7組織群の順に予測を行う。なお、図3においては、各組織の名称の前にハイフンを介して付した数字によって予測の順番を示している。
【0038】
なお、予測部16は、血流方向における上流及び下流のそれぞれに向かって造影剤の注入箇所に近い組織から順に各組織の画素値の経時変化を予測してもよい。例えば、造影剤を肝動脈に注入する場合(CTHA)、予測部16は、最初に肝臓の予測を行ってもよい。その後、予測部16は、肝臓に対して血流方向の上流側に位置する動脈と、肝臓に対して血流方向の下流側に位置する静脈とを含む組織群の予測を行う。
【0039】
また、予測部16は、各組織(血管及び臓器)における画素値の変化を時間関数として求めるために、例えば下記式1のような微分方程式を用いている。なお、コンパートメントに流入する造影剤の濃度をCとし、コンパートメントから流出する造影剤の濃度をCとし、コンパートメントの体積をVとし、コンパートメントにおける単位組織あたりの血流量(血流速度)をQとしている。
【0040】
【数1】
【0041】
さらに、予測部16は、右心室、左心室、血管以外の組織における画素値の変化を求めるために、造影剤が毛細血管から細胞外液腔へと透過する際の染み出し速度と、細胞外液腔から毛細血管へと透過する際の染み戻り速度とを考慮する。そのため、予測部16は、例えば下記式2及び式3のような微分方程式を用いている。なお、細胞外液腔の体積をVecとし、細胞外液腔の造影剤の濃度をCecとし、毛細血管の体積をVivとし、毛細血管の造影剤の濃度をCivとし、染み出し速度をPSとし、染み戻り速度をPSとしている。
【0042】
【数2】
【0043】
【数3】
【0044】
そして、上記微分方程式を解くことにより、注入開始からの経過時間と画素値(造影剤濃度)の変化が時間関数として求められる。この予測に用いられるパラメータの例として、図4には、胃、脾臓、膵臓及び腸管の各組織についての値を表に示している。第1実施形態において、予測部16は、胃と、脾臓と、膵臓と、腸管とをそれぞれ別の組織として画素値の経時変化を予測している。
【0045】
図4に示すように、胃については、120mL以上160mL以下の組織体積、2mL以上5mL以下の毛細血管体積、12mL以上18mL以下の細胞外液腔体積、120mL/min以上180mL/min以下の単位組織あたり血流量(動脈血流速度)、15以上25以下の染み出し速度、及び15以上25以下の染み戻り速度が用いられる。
【0046】
また、脾臓については、120mL以上160mL以下の組織体積、10mL以上15mL以下の毛細血管体積、45mL以上65mL以下の細胞外液腔体積、150mL/min以上250mL/min以下の単位組織あたり血流量、15以上25以下の染み出し速度15-25、及び15以上25以下の染み戻り速度が用いられる。
【0047】
また、膵臓については、120mL以上150mL以下の組織体積、3mL以上6mL以下の毛細血管体積、30mL以上50mL以下の細胞外液腔体積、120mL/min以上180mL/min以下の単位組織あたり血流量、15以上25以下の染み出し速度、及び15以上25以下の染み戻り速度が用いられる。
【0048】
また、腸管については、1800mL以上2000mL以下の組織体積、30mL以上40mL以下の毛細血管体積、500mL以上600mL以下の細胞外液腔体積、0.4mL/min以上0.5mL/min以下の単位組織あたり血流量、150以上250以下の染み出し速度、及び150以上250以下の染み戻り速度が用いられる。
【0049】
ここで、染み出し速度及び染み戻り速度は、毛細血管面積と透過性(permeability)の積により算出することができる。例えば、人体内の毛細血管の総面積を800m2と仮定して、各臓器ごとにその重量に応じた毛細血管面積を割り当てる。そして、全ての臓器の透過性を1ml/min/gと仮定して、染み出し速度及び染み戻り速度を求めることができる。
【0050】
予測部16は、予測結果を記憶部24(図1)に順次記憶させる。この予測結果は、組織に関連付けられた時間ごとの画素値の情報が含まれている。そして、表示部26(図1)は、複数のコンパートメントを含む各組織の予測画像を模式的に表示する。さらに、表示制御部15は、記憶部24から画素値を読み出して、画素値の経時変化に応じて各コンパートメントの濃淡を変更するように表示部26を制御する。
【0051】
図5は、一例としての予測画像における濃淡の変化を示しており、体の頭尾方向の水平断面に対応する。ただし、実際の断面とは異なり、各組織を一覧できるように全ての組織を示している。また、ウィンドウ幅350及びウィンドウレベル40が設定されている。なお、ウィンドウ幅は、画素値のコントラストの範囲に対応し、ウィンドウレベルは画面の明るさに対応する。そして、ウィンドウレベルの値からウィンドウ幅の値の半分を減算して得られた値よりも画素値が小さい場合、表示部26は黒で表示する。また、ウィンドウレベルの値にウィンドウ幅の値の半分を加算して得た値よりも画素値が大きい場合、表示部26は白で表示する。
【0052】
図5の上側には、上肢静脈に造影剤を注入した直後の各組織の画像N1を示しており、上肢静脈は生来の画素値(濃い灰色)で示されている。そして、腹部大動脈及び腹腔動脈を含む全ての血管にはまだ造影剤が到達しておらず、全ての血管は生来の画素値(濃い灰色)で示されている。次に、図5の中央には、注入開始から約25秒経過したときの各組織の画像N2が示されており、腹部大動脈及び腹腔動脈、内頸静脈などが特に白く染まっている。一方、上肢静脈は、造影剤が早い段階で流出したために画素値が減少して薄い灰色で示されている。
【0053】
そして、図5の下側には、注入開始から約120秒経過したときの各組織の画像N3が示されている。全身の血管及び臓器に造影剤が拡散し一様に分布したことで、画像N2と比較すると画素値が低下して全体が薄い灰色で示されている。
【0054】
続いて図6を参照して、表示部に表示される一例としての操作画面について説明する。図6の右側に示すように、予測部16による予測が完了すると、表示制御部15は、所定の時間、例えばオペレーターが選択した時間における各コンパートメントの画素値を記憶部24から読み出す。そして、表示制御部15は、読み出した画素値を予測画像41に反映させ、表示部26に表示させる。例えば、図6においては、9.90秒の時点が選択され、当該時点の予測画像41が表示されている。なお、初期設定では、注入時、つまり0秒の時点における予測画像41が表示される。
【0055】
図6の予測画像41においては、ウィンドウ幅350及びウィンドウレベル40が設定され、予測画像41の右上隅にそれぞれの値が表示されている。また、ウィンドウ幅及びウィンドウレベルの下には、画素値として-1000HUが表示されている。これは、予測画像41において、矢印で示されたポインターが指し示す部分に対応する位置の画素値を表示している。なお、オペレーターは、ウィンドウ幅(WW)、及びウィンドウレベル(WL)を、入力部27を介して入力することができる。
【0056】
予測画像41の下方には、操作ボタン42が表示されている。この操作ボタン42には、図6の左から順に停止ボタン、再生ボタン、2倍速再生ボタン、3倍速再生ボタン及び10倍速再生ボタンが含まれている。そして、オペレーターが再生ボタンを選択すると、経過時間に沿って予測画像41が連続的に動画として再生される。これにより、オペレーターは、所望の時間における、各組織内の造影剤の位置を視覚により認識することができる。
【0057】
予測画像41の左側には、時間濃度曲線43が表示されている。この時間濃度曲線43は、X軸(横軸)が注入開始からの経過時間に対応し、Y軸(縦軸)が画素値に対応する。また、Y軸には第1軸と第2軸とがあり、複数の組織を1つのグラフ上で表示させることができる。例えば、図6では、肝臓、門脈及び肝動脈の時間濃度曲線が表示されている。
【0058】
オペレーターは、時間濃度曲線43に表示する組織を、時間濃度曲線43の下側にある表示オプション44において選択できる。例えば、図6では、脳、肝臓、門脈、肝動脈及び右心室の中から、肝臓、門脈及び肝動脈が選択されている。また、体内から排出された造影剤の量を表示させることもできる。なお、他の選択可能な組織としては、上肢、肺、左心室、心筋、右冠動脈、前下行枝、回旋枝、気管支、脾臓、腸管、腎臓、下肢、膵臓、肺動脈、肺静脈、上行大動脈、下行大動脈、腹部大動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腹部大動脈、肝静脈、腎動脈、腎静脈、脳動脈、脳静脈、上肢動脈、上肢静脈、下肢動脈、下肢静脈、上部大静脈及び下部大静脈等が挙げられる。
【0059】
また、表示オプション44の右側には、Y軸入力ボックス45が表示されている。オペレーターは、Y軸入力ボックス45において自動設定を選択するか、又は所望の値を入力することができる。例えば、図6では、第1軸について自動設定が選択されており、第1軸の最大値と最小値が自動で設定されている。また、第2軸については最大値として100が入力され、最小値として50が入力されている。
【0060】
また、Y軸入力ボックス45の下側には、現在時点ボックス46が表示されている。そして、オペレーターが現在時点ボックス46を選択すると、時間濃度曲線43に現在時点バー47が表示される。この現在時点バー47は、予測画像41に対応する時間(図6では9.90秒)を示している。そして、現在時点バー47は、予測画像41が連続的に再生されると、経過時間に対応してX軸に沿って移動する。
【0061】
さらに、現在時点ボックス46の下側には、ヘリカルスキャンボックス48が表示されている。そして、オペレーターは、ヘリカルスキャンボックス48を選択して、寝台移動速度(cm/sec)を入力することができる。なお、図6では、8.0cm/secの寝台移動速度が入力されている。
【0062】
ヘリカルスキャンボックス48が選択されると、表示制御部15は、ヘリカルスキャンによる遅延時間を取得する。ここで、遅延時間は、頭を撮像してから各組織を撮像するまでの経過時間(寝台の移動時間)に対応し、予測画像41の上端から各組織までの長さに基づいて求められる。そして、表示制御部15は、所定の時間に遅延時間を加算した時間における画素値を記憶部24から読み出す。すなわち、表示制御部15は、取得した遅延時間を所定の時間(現在時点)に加算して得られた時間における各組織の画素値を読み出す。例えば、図6の予測画像41においては、頭(脳)は現在時点である9.90秒経過した時点の画素値を示し、右心室は14.90秒経過した時点の画素値を示している。
【0063】
これにより、ヘリカルスキャンを行った際の予測画像を得ることができる。例えば、現在時点を注入開始直後の時点(0秒)とした場合に、脳については注入開始直後の画素値を示し、右心室については注入開始から5秒経過した時点の画素値を示し、肝臓については注入開始から7.5秒経過した時点の画素値を示すことができる。なお、表示制御部15は、算出することによって遅延時間を取得してもよい。また、寝台移動速度と関連付けた遅延時間を予め記憶部24に記憶しておき、表示制御部15が記憶部24から遅延時間を取得してもよい。
【0064】
このようにして得られた予測画像について、図7を参照して説明する。図7は、ヘリカルスキャン時の一例としての予測画像の濃淡の変化を示している。なお、図7の画像は、体の頭尾方向の水平断面に対応するが、実際の断面とは異なり全ての組織を示している。また、ウィンドウ幅350及びウィンドウレベル40が設定されている。
【0065】
図7の上側には、上肢静脈に造影剤を注入した直後の各組織の画像H1を示している。しかし、図5の画像N1とは異なり、上肢静脈は遅延時間が加算された時点の画素値を示している。そのため、上肢静脈が造影剤により白く染まっている。そして、その他の血管にはまだ造影剤が到達しておらず、その他の血管は生来の画素値(濃い灰色)で示されている。
【0066】
次に、図7の中央には、注入開始から約25秒経過したときの各組織の画像H2が示されており、内頸静脈は造影剤が到達したために白く染まっている。しかし、図5の画像N2とは異なり、遅延時間が加算された時点の画素値を示しているため、造影剤が既に流出した腹部大動脈及び腹腔動脈は、画素値が減少して薄い灰色で示されている。また、造影剤が循環して門脈に到達したことから、門脈が白く染まっている。
【0067】
そして、図7の下側には、注入開始から約120秒経過したときの各組織の画像H3が示されており、全身の血管及び臓器に造影剤が拡散し一様に分布したことで、画像H2と比較すると画素値が低下して全体が薄い灰色で示されている。
【0068】
図6の説明に戻り、ヘリカルスキャンボックス48の下側には、解析ボタン49が表示されている。そして、オペレーターが解析ボタン49を選択すると、予測部16が画素値の予測を開始する。なお、予測部16は、被写体情報と、注入プロトコルと、組織情報とを取得した時に画素値の予測を開始してもよい。
【0069】
続いて図8を参照して、シミュレータ20を備える撮像システム100について説明する。撮像システム100は、造影剤を注入するための注入装置2と、注入装置2に有線又は無線で接続され且つ被写体を撮像する医療用の撮像装置3とを備えている。そして、注入装置2又は撮像装置3は、上述のシミュレータ20を備えている。
【0070】
撮像装置3は、撮像プランに従って被験者の撮像を行う撮像部31と、撮像装置3の全体を制御する制御装置32と、表示部26としてのディスプレイ33とを有している。なお、制御装置32とディスプレイ33とは、一体的に構成することもできる。また、撮像装置3は、注入装置2と有線又は無線で接続され、例えば、ゲートウェイ装置(不図示)を介して接続される。
【0071】
撮像装置3の撮像プランには、撮像部位、実効管電圧、機種名、メーカー名、撮像時間、管電圧、撮像範囲、回転速度、ヘリカルピッチ、曝射時間、線量及び撮像方法等の情報を含めることができる。そして、制御装置32は、撮像プランに従うように撮像部31を制御して被験者を撮像する。また、制御装置32は、ディスプレイ33に接続されており、ディスプレイ33には、装置の入力状態、設定状態、撮像結果、及び各種情報等が表示される。
【0072】
撮像部31は、寝台と、被写体である被験者にX線を照射するX線源と、被験者を透過したX線を検出するX線検出器等を有している。そして、撮像部31は、被験者にX線を曝射し、被験者を透過したX線に基づいて被験者の体内を逆投影することで、被験者の透視画像を撮像する。なお、撮像部31は、X線に代えて、ラジオ波又は超音波を用いて撮像してもよい。また、制御装置32は、撮像部31及び注入装置2等と有線又は無線で通信を行うことができる。
【0073】
造影剤を注入するための注入装置2は、シリンジに充填された薬液、例えば、各種造影剤及び生理食塩水等を被写体としての被験者の体内に注入する。また、注入装置2は注入プロトコルに従って造影剤を注入する注入ヘッド21を備えている。さらに、注入装置2は、注入ヘッド21を保持するスタンド22と、注入ヘッド21に有線又は無線で接続されたコンソール23とを有する。
【0074】
コンソール23は、注入ヘッド21を制御する制御装置として機能すると共に、シミュレータ20としても機能する。また、コンソール23は、入力部27及び表示部26として機能するタッチパネルを備え、注入ヘッド21及び撮像装置3等と有線又は無線で通信を行うことができる。なお、注入装置2は、タッチパネルに代えて、表示部26としてのディスプレイと、入力部27としてのキーボード等のユーザインタフェースとを備えていてもよい。
【0075】
また、シミュレータ20、入力部27及び表示部26は、それぞれ別体で構成することができる。例えば、注入装置2は、コンソール23に代えて、注入ヘッド21に接続された制御装置と、該制御装置に接続され且つ薬液の注入状況等が表示される表示部26(タッチパネルディスプレイ等)とを有していてもよい。このような制御装置も、シミュレータ20として機能する。また、注入ヘッド21及び制御装置は、スタンド22と一体的に構成することもできる。また、スタンド22に代えて天吊部材を設け、該天吊部材を介して天井から注入ヘッド21を天吊することもできる。
【0076】
また、注入装置2は、電源又はバッテリー、コンソール23に接続されるハンドスイッチ、及び注入ヘッド21を遠隔操作する遠隔操作装置等を有していてもよい。この遠隔操作装置は、注入ヘッド21を遠隔操作して注入を開始又は停止することができる。また、電源又はバッテリーは、注入ヘッド21又は制御装置(コンソール23)のいずれかに設けることができ、これらとは別に設けることもできる。
【0077】
注入ヘッド21は、造影剤が充填されたシリンジが搭載される第1保持部214と、造影剤を後押しするための薬液としての生理食塩水が充填されたシリンジが搭載される第2保持部215とを有する。また、注入ヘッド21は、第1保持部214に搭載されたシリンジ内の薬液を注入プロトコルに従って押し出す駆動機構(不図示)と、第2保持部215に搭載されたシリンジ内の薬液を注入プロトコルに従って押し出す駆動機構(不図示)とを有している。
【0078】
また、注入ヘッド21は、注入条件、注入状況、装置の入力状態、設定状態、及び各種注入結果等が表示されるヘッドディスプレイ211と、駆動機構の動作を入力するための操作部212とを有している。なお、ヘッドディスプレイ211は省略することができる。また、ヘッドディスプレイ211は、タッチパネル等から構成することによって、操作部212として用いることもできる。
【0079】
操作部212には、駆動機構の前進ボタン、駆動機構の後進ボタン、又は最終確認ボタン等が設けられている。そして、薬液を注入する際には、注入ヘッド21に搭載されたシリンジの先端部にミキシングチューブ等が接続される。オペレーターは、ミキシングチューブの接続等の注入準備が完了すると最終確認ボタンを押す。これにより、注入ヘッド21は、注入を開始できる状態で待機する。
【0080】
その後、シリンジから押し出された薬液は、ミキシングチューブ等を介して、被験者の体内へ注入される。このミキシングチューブは、造影剤と希釈薬液との混合器として機能する。なお、このような混合器としては、株式会社根本杏林堂製の「SPIRAL FLOW(登録商標)」等がある。
【0081】
注入ヘッド21には、例えば、RFIDチップ、ICタグ、バーコード等のデータキャリアを有するプレフィルドシリンジ等の、種々のシリンジを搭載することができる。そして、注入ヘッド21は、シリンジに取り付けられたデータキャリアの読み取りを行う読取部(不図示)を内蔵している。このデータキャリアには、薬液に関連する薬液情報が記憶されている。
【0082】
注入装置2は、内部又は外部のゲートウェイ装置を介して、不図示のサーバー(外部記憶装置)から情報を受信することができ、サーバーへ情報を送信することもできる。また、撮像装置3は、サーバーから情報を受信することができ、サーバーへ情報を送信することもできる。このサーバーには、予め検査オーダーが記憶されている。そして、検査オーダーは、被験者に関する被写体情報と、検査内容に関する検査情報とを含んでいる。また、サーバーは、撮像装置3から送信された画像のデータ等の撮像結果に関する情報と、注入装置2から送信された注入結果に関する情報を記憶することができる。
【0083】
このようなシミュレータ20を備えた撮像装置3によれば、オペレーターは、ディスプレイ33で予測画像41を確認しながら撮像装置3を操作することができる。また、撮像装置3は、予測部16による予測結果に応じて撮像プランを変更してもよい。例えば、オペレーターが撮像装置3に所望の画素値を入力し、当該所望の画素値が、撮像対象となる組織について予測部16が予測した画素値と異なる場合に、撮像装置3は予測結果が所望の画素値と一致するように、管電圧又は管電流等を変更してもよい。
【0084】
また、シミュレータ20を備えた注入装置2によれば、オペレーターは、コンソール23で予測画像41を確認しながら注入装置2を操作することができる。また、注入装置2は、予測部16による予測結果に応じて注入プロトコルを変更してもよい。例えば、オペレーターが注入装置2に所望の画素値を入力し、当該所望の画素値が、撮像対象となる組織について予測部16が予測した画素値と異なる場合に、注入装置2は予測結果が所望の画素値と一致するように、注入速度又は注入時間等を変更してもよい。
【0085】
以上説明した第1実施形態に係る発明によれば、実際の組織における画素値の経時変化に近似したより高精度の予測を行うことができる。特に、造影剤の注入量が少ない場合、造影剤の注入時間が短い場合、又は造影剤の濃度が低い場合であっても、高精度の予測を行うことができる。また、各組織内における造影剤の位置を予測することができる。さらに、オペレーターは、所望の時間における、各組織内の造影剤の位置を視覚により認識することができる。
【0086】
また、第1実施形態に係る発明によれば、注入プロトコルが、造影剤の後押し注入又は注入速度の増減等を含んでいても各組織の画素値を予測することができる。例えば、造影剤の注入速度を徐々に減少させると同時に生理食塩水の注入速度を増加させる、いわゆるクロス注入法の場合であっても、実際の撮像画像を予測することができる。さらに、新しい注入プロトコル又は撮像プランを作成した場合に、実際の撮像画像を予測することができる。
【0087】
[第2実施形態]
第2実施形態について、図9を参照して説明する。第1実施形態では、各組織がそれぞれ同じ数のコンパートメントに分割されていた。一方、第2実施形態では、大きな体積を有する組織が、より多くの数のコンパートメントに分割される。すなわち、第2実施形態に係る予測部16は、小さな体積を有する組織(第1組織)を分割した複数のコンパートメントのそれぞれにおける画素値の経時変化を予測すると共に、大きな体積を有する組織(第2組織)を、小さな体積を有する組織よりも多くの数に分割した複数のコンパートメントのそれぞれにおける画素値の経時変化を予測する。
【0088】
なお、第2実施形態の説明においては、第1実施形態との相違点について説明し、第1実施形態で説明した構成要素については同じ参照番号を付し、その説明を省略する。特に説明した場合を除き、同じ参照符号を付した構成要素は略同一の動作及び機能を奏し、その作用効果も略同一である。
【0089】
実際の臓器は、それぞれ異なる体積を有している。例えば図9の臓器A8の体積は、臓器A6の体積よりも数倍大きい。そのため、臓器A8の各コンパートメントの体積は、臓器A6の各コンパートメントの体積よりも数倍大きくなる。そして、第1実施形態と同様に予測を行った場合、予測画像41においては、1つのコンパートメントの画素値の変化であっても、臓器A6においては小さな変化(造影剤の移動距離が短い)として表示される。一方、臓器A8においては、臓器A6と比較して大きな変化(造影剤の移動距離が長い)として表示される。これにより、オペレーターは、視覚により各組織内の造影剤の位置を正確に認識することが困難となってしまう。
【0090】
そこで、第2実施形態においては、大きな体積を有する組織を、小さな体積を有する組織よりも多くの数のコンパートメントに分割している。具体的に、図9においては、臓器B6を3個のコンパートメントに分割し、臓器B8を15個のコンパートメントに分割している。これにより、臓器B6及び臓器B8のそれぞれのコンパートメントの体積が近似するため、オペレーターは、視覚により各組織内の造影剤の位置を正確に認識することができる。
【0091】
このような第2実施形態においては、各組織の体積に応じた最適な分割コンパートメント数が予め求められ、記憶部24に記憶されている。そして、組織情報取得部13は、記憶部24から分割コンパートメント数を取得し、予測部16は取得された分割コンパートメント数に基づいて画素値の変化を予測する。
【0092】
以上説明した第2実施形態に係る発明によっても、実際の組織における画素値の経時変化に近似したより高精度の予測を行うことができる。特に、造影剤の注入量が少ない場合、造影剤の注入時間が短い場合、又は造影剤の濃度が低い場合であっても、高精度の予測を行うことができる。また、各組織内における造影剤の位置を予測することができる。さらに、オペレーターは、所望の時間における、各組織内の造影剤の位置を視覚により認識することができる。
【0093】
また、第2実施形態に係る発明によれば、大きな体積を有する組織と小さな体積を有する組織とが予測画像41に含まれる場合であっても、オペレーターは、視覚により各組織内の造影剤の位置を正確に認識することができる。
【0094】
なお、図9においては、血管A5、血管A7、血管B5及び血管B7がそれぞれ同じ数、すなわち15個のコンパートメントに分割されている。しかし、大きな体積を有する血管を、小さな体積を有する血管と比較してより多くの数のコンパートメントに分割してもよい。また、大きな体積を有する組織B8と小さな体積を有する組織B6の各コンパートメントの体積が略一致するように、分割コンパートメント数を設定してもよい。
【0095】
以上、各実施形態を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。また、上述の実施形態及び各変形形態は、本発明に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【0096】
例えば、表示部26は、体の水平断面のみでなく、冠状断面の予測画像41を表示させることもできる。また、組織の分割コンパートメント数は15には限られず、2以上の任意の数が選択される。
【0097】
また、記憶部24に予め画素値のノイズ情報を記憶させ、表示制御部15が記憶部24からノイズ情報を読み出して、各コンパートメントの予測画像41にノイズ情報を加えてもよい。このノイズ情報としては、例えば、造影剤によって白く染まった組織同士の間に発生する放射状のノイズを示した画像等がある。ノイズを示した画像を予測画像41に重ねわせて加えることにより、より実際の撮像画像に近似した予測画像41を得ることができる。
【0098】
なお、上記各実施形態において、表示部26は、複数の組織が血流方向において連続する模式図を構成するようにコンパートメントを配置して、各コンパートメントを画素値に応じた濃度の色で表示していた。しかし、表示部26は、各組織がそれぞれ単独で表示されるようにコンパートメントを配置して、各コンパートメントを画素値に応じた濃度の色で表示してもよい。また、表示制御部15は、各組織におけるコンパートメント数が異なるように、表示部26を制御してもよい。この場合、表示制御部15は、オペレーターが設定したコンパートメント数、又は予め記憶部24に記憶されたコンパートメント数を含むように各組織を表示させる。なお、表示部26は、各コンパートメントを白黒以外の色で表示してもよい。
【0099】
また、注入ヘッド21は、2つのシリンジを保持するタイプには限定されず、3つ以上のシリンジ保持部を有するタイプ、又は1つのみのシリンジ保持部を有するタイプであってもよい。さらに、表示制御部15は、図6に示す予測画像41において、所定の組織が最大画素値に到達した時に、所定の組織の画像上又は所定の組織の画像近傍に読み出した最大画素値を表示させてもよい。例えば、表示オプション44において肝臓、門脈及び肝動脈が選択されている場合、表示制御部15は、予測画像41における肝臓、門脈及び肝動脈の近傍に、選択されたそれぞれの組織の最大画素値を表示させてもよい。なお、最大画素値は、白黒以外の色、例えば、青色、緑色、赤色又は黄色で表示させることができる。
【0100】
また、表示制御部15は、図6に示す予測画像41において、各組織(コンパートメント)を白黒の濃淡(グレースケール)以外の色、例えば、青色、緑色、赤色又は黄色の濃淡で表示してもよい。さらに、表示制御部15は、所定の組織を、白黒以外の色の濃淡で表示してもよい。例えば、表示オプション44において肝臓、門脈及び肝動脈が選択されている場合、表示制御部15は、予測画像41における肝臓、門脈及び肝動脈をそれぞれ、赤色、青色及び緑色の濃淡で表示させることができる。
【0101】
[変形形態]
予測部16は、薬液の注入による単位組織あたりの血流量(血流速度)の変化を考慮してもよい。すなわち、薬液を注入すると、注入箇所よりも血流方向おいて下流にある組織(コンパートメント)では、注入された薬液に押されて血流速度が変化する。特に、通常の血流速度よりも速い速度で薬液を注入した場合、下流にある組織では血流速度が上昇する。そこで、予測部16は、薬液の注入速度が通常の血流速度よりも速い場合には、注入速度から血流速度を差し引いて得られた差分を血流速度に加算し、血流速度の上昇を考慮することができる。
【0102】
そのため、予測部16は、加算して得られた血流速度に基づいて画素値の経時変化を予測する。すなわち、予測部16は、上述した数式を用いて画素値の経時変化を予測する際に、コンパートメントにおける単位組織あたりの血流速度Qに得られた差分を加算する。具体的には、図10の加算処理のフローチャートに示すように、予測部16は被写体情報取得部11から被写体情報として注入箇所に対応する組織、すなわち薬液が注入される組織の通常の血流速度を取得する(S101)。また、予測部16は、プロトコル取得部12から受け取った注入プロトコルに含まれる薬液の注入速度を取得する(S102)。なお、予測部16は、注入速度の後に血流速度を取得してもよい。また、予測部16は、被写体情報取得部11からの取得に代えて、被験者の体重から算出することによって血流速度を取得しもよい。
【0103】
次に、予測部16は、血流速度と注入速度を比較して、注入速度が血流速度よりも速いか否かを判断する(S103)。そして、注入速度が血流速度以下である場合には(S103でNO)、予測部16が加算を行わずに処理を終了する。一方、注入速度が血流速度よりも速い場合には(S103でYES)、予測部16は、注入速度から注入箇所に対応する組織の血流速度を差し引いて差分を算出する(S104)。そして、予測部16は、算出した差分を血流速度に加算し(S105)、処理を終了する。例えば、注入速度が2.0mL/secであり、血流速度が1.5mL/secである場合、予測部16は、以下のように0.5mL/secを血流速度に加算する。そして、速度上昇後の血流速度として2.0mL/secを適用する。
1.5mL/sec+(注入速度2.0mL/sec-1.5mL/sec)=2.0mL/sec
【0104】
ここで、注入速度は単位時間当たりの薬液の注入量である。そのため、造影剤と生理食塩水とを同時に注入する場合、予測部16は、両者の合計注入速度に基づいて加算を行う。また、通常の血流速度よりも速い速度の生理食塩水で後押し注入する場合、予測部16は、生理食塩水の注入速度に基づいて加算を行う。加算処理の終了後、予測部16は、加算して得られた血流速度を含む被写体の情報と、注入プロトコルと、組織の情報とに基づき、組織を血流方向に沿って分割した複数のコンパートメントのそれぞれについて、画素値の経時変化を予測する。これにより、血流速度をより実際の速度に近づけて、画素値の予測精度を向上させることができる。
【0105】
また、加算処理において、予測部16は、複数の組織の全てを加算対象として血流速度に差分を加算できる。しかし、予測部16は、複数の組織の一部のみを加算対象としてもよい。具体的には、注入箇所に対応する組織に対して血流方向のすぐ下流にある組織から、血流方向において注入箇所に対応する組織に至るまでの組織のみについて血流速度に差分を加算してもよい。例えば、図11を参照して、上肢静脈から薬液を注入する場合に複数の組織の一部のみの血流速度に差分を加算する例を説明する。図11において、右心室、動脈、肺、静脈、左心室、上行大動脈、動脈、心筋(右冠動脈が支配的な心筋、前下行枝が支配的な心筋及び回旋枝が支配的な心筋)、及び静脈は、右心室を起点とする閉回路を構成している。すなわち、これらの組織は、注入箇所に対応する組織に対して、血流方向のすぐ下流にある右心室を起点とする閉回路を構成している。そこで、予測部16は、当該閉回路に含まれる右心室から静脈までの組織のみを加算対象とし、例えば下肢の組織の血流速度には差分を加算しない。これにより、加算の影響を閉回路内に留めることができるので、シミュレーションを簡略化して算出時間を削減できる。
【0106】
また、予測部16は、薬液の注入開始と同時に加算対象となる全組織の血流速度に差分を加算して画素値の経時変化を予測する。しかし、予測部16は、注入開始から所定の時間を経過した時点で血流速度に差分が加算されるものとして画素値の経時変化を予測してもよい。すなわち、注入箇所に対応する組織の下流に位置する組織においては、注入開始から所定の時間が経過してから、血流速度が変化する場合がある。そこで、予測部16は、注入箇所に対応する組織に対しては、薬液の注入開始と同時に血流速度に差分が加算されるものとして画素値の経時変化を予測する。一方、当該組織から血流方向において距離が遠い組織に対して、予測部16は、距離に応じて長くなる時間を経過した時点で差分が加算されるものとして画素値の経時変化を予測する。
【0107】
図12は、変形形態に係る加算処理を行って得られた予測結果であるタイムデンシティカーブを示すグラフである。なお、図12は肝動脈のタイムデンシティカーブを示しており、横軸が注入開始からの経過時間に対応し、縦軸が画素値に対応している。また、被験者の身長が170cmに設定され、被験者の体重が70kgに設定され、造影剤濃度が300mgI/mLに設定されている。また、図12では、100mLの造影剤を2.0mL/secの注入速度で50秒間注入し、続けて30mLの生理食塩水を2.0mL/secの注入速度で15秒間後押し注入した場合のタイムデンシティカーブを表示している。そして、加算処理を行った場合のタイムデンシティカーブを実線で示し、加算処理を行わない場合のタイムデンシティカーブを破線で示している。
【0108】
加算処理を行わない場合、造影剤が組織に到達する時間が遅くなる。そのため、加算処理を行った場合と比較すると、遅れたタイミングで造影剤が到達したかのようにシミュレートされてしまう。そのため、破線で示されたタイムデンシティカーブにおいては、図12の矢印Aに示すように画素値の第2のピークが生じている。一方、加算処理を行った場合には、造影剤の循環がシミュレートされる。そのため、実線で示されたタイムデンシティカーブに示されるように、第2のピークが生じない。
【0109】
このように、加算処理を行うことによって、より実際に近い画素値を予測できる。さらに、生理食塩水による後押し注入をシミュレートすることもできる。具体的には、後押し注入によれば、造影剤の注入終了後にうっ滞していた造影剤が、より早いタイミングで押し出される。そして、図12の実線で示すタイムデンシティカーブでは、後押し注入がシミュレートされた結果、ピークにおける画素値の予測精度が向上し、より画素値が高くなっている。
【0110】
さらに、予測部16は、隣り合うコンパートメント間での造影剤の拡散を考慮してもよい。すなわち、隣り合うコンパートメント間において造影剤の濃度差が存在する場合、濃度の高いコンパートメントから濃度の低いコンパートメントへと造影剤の拡散が生じる。そこで、予測部16は、濃度の高いコンパートメントの造影剤濃度を低下させて、濃度の低いコンパートメントの造影剤濃度を増加させるように画素値の予測を行い、造影剤の拡散を考慮してもよい。
【0111】
ここで、予測部16は、濃度差が大きい場合には、造影剤濃度の低下量及び増加量を大きくする。また、予測部16は、薬液情報取得部14から造影剤の浸透圧を取得し、浸透圧が大きいときには、造影剤濃度の低下量及び増加量を大きくする。さらに、予測部16は、コンパートメント同士の接触面積が大きい場合には、造影剤濃度の低下量及び増加量を大きくする。例えば、予測部16は、異なる組織のコンパートメント同士が隣り合う場合には、接触面積が小さくなるため、造影剤濃度の低下量及び増加量を小さくする。そして、同じ組織のコンパートメント同士が隣り合う場合には、接触面積が大きくなるため、予測部16は、造影剤濃度の低下量及び増加量を大きくする。
【0112】
なお、予測部16は、接触面積を算出して、算出した接触面積が大きい場合には、造影剤濃度の低下量及び増加量を大きくしてもよい。また、上述した各変形形態は、本発明に反しない範囲で他の実施形態又は変形形態と適宜組み合わせることができる。
【0113】
この出願は2014年11月27日に出願された日本国特許出願第2014-240006号からの優先権を主張し、その全内容を引用してこの出願の一部とする。
【符号の説明】
【0114】
2:注入装置、3:撮像装置、20:シミュレータ、11:被写体情報取得部、12:プロトコル取得部、13:組織情報取得部、15:表示制御部、16:予測部、21:注入ヘッド、26:表示部、100:撮像システム、D:血流方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12