(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】輻射デバイスおよび放射冷却装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20220304BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20220304BHJP
F25B 23/00 20060101ALI20220304BHJP
F25D 31/00 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B5/22
F25B23/00
F25D31/00
(21)【出願番号】P 2020533941
(86)(22)【出願日】2018-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2018028674
(87)【国際公開番号】W WO2020026345
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 武
(72)【発明者】
【氏名】金森 弘雄
(72)【発明者】
【氏名】大塚 節文
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼原 淳一
(72)【発明者】
【氏名】君野 和也
【審査官】▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-96516(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031547(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106772706(CN,A)
【文献】Tianji Liu,etc.,Metasurface-based three dimensional sky radiator and auxiliary heat mirror,2016年<第77回>応用物理学会秋季学術講演会[講演予稿集],公益社団法人応用物理学会,2016年09月01日,03-375
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
H05K 9/00
H05B 3/10
F24D 19/00
F25B 23/00
F25D 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に沿って互いに対向するよう配置された第1下面と第1上面を有する導電体層と、
前記導電体層の前記第1上面上に設けられた半導体層であって、前記第1上面に対面する第2下面と前記第2下面に対向する第2上面とを有する半導体層と、
互いに離間した状態で前記半導体層の前記第2上面上に設けられた複数の導電体ディスクと、
を備え、
前記複数の導電体ディスクは、前記第2上面上に設定された、同一面積および同一形状を有する複数の単位構成領域それぞれに同じ配置パターンが構成されるよう配置され、
前記複数の単位構成領域それぞれは、一辺が4.5μm以上かつ5.5μm以下の長さを有する矩形形状を有し、前記第2上面上で規定される互いに直交する第2および第3方向のそれぞれに沿って隣接する単位構成領域同士が共通する辺を有するよう、前記複数の単位構成領域を配置することにより、前記第2および第3方向のそれぞれに沿って周期性を有する前記配置パターンの二次元周期構造が構成され、
前記配置パターンは、前記矩形形状の第1辺に沿って3個の要素が並ぶとともに前記第1辺と直交する第2辺に沿って3個の要素が並ぶ3×3のマトリクスに対応するよう配置された9個の導電体ディスクにより構成され、
前記9個の導電体ディスクは、前記第2上面上において規定される直径が互いに異なる4種類以上の導電体ディスクを含む、
ことを特徴とする輻射デバイス。
【請求項2】
前記第1方向に沿って規定される、前記複数の導電体ディスクそれぞれの厚みは、前記導電体層の厚みよりも薄いことを特徴とする請求項1に記載の輻射デバイス。
【請求項3】
前記複数の導電体ディスクぞれぞれは、Alからなることを特徴とする請求項1または2に記載の輻射デバイス。
【請求項4】
前記第1方向に沿って規定される、前記複数の導電体ディスクそれぞれの厚みは、100nm以下であることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の輻射デバイス。
【請求項5】
前記導電体層は、Alからなることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の輻射デバイス。
【請求項6】
前記第1方向に沿って規定される、前記導電体層の厚みは、100nm以上であることを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の輻射デバイス。
【請求項7】
前記9個の導電体ディスクは、最小直径を有する3個の導電体ディスクを含む一方、直径が互いに異なる7種以下の導電体ディスクを含むことを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の輻射デバイス。
【請求項8】
前記矩形形状は、正方形状であることを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の輻射デバイス。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の輻射デバイスを含む放射冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、輻射デバイスおよびそれを含む放射冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁波による熱エネルギーの輸送を「熱輻射」あるいは単に「輻射」と言い、熱エネルギーが蓄積された物質は、輻射によりプランクの法則で決まる波長の電磁波を放出している。また、金属と誘電体界面では、電子の集団的振動であるプラズモンが発生する。なお、光を含む電磁波に対して、元々の物質にはない振る舞いをする人工的なナノ・マイクロオーダーの微細構造を有するデバイスをメタマテリアルと言う。特に、メタマテリアルのうち、プラズモンが介在するデバイスをプラズモニックメタマテリアルと呼ぶ。
【0003】
上述のプラズモニックメタマテリアルにより輻射スペクトルを制御し、選択された波長を輻射する輻射デバイスが構成できることが知られている。このようなプラズモンを利用した輻射デバイスの典型的な構造として、金属層と、該金属層の上に形成された誘電体層と、該誘電体層の上に配置された所定の形状等を有する金属パターンを含む金属層と、で構成された積層構造が知られている。
【0004】
輻射デバイスの例としては、例えば特許文献1に開示されたように、貴金属-誘電体-貴金属の積層型メタマテリアルをベースに、特定の波長付近の光、電磁波を高効率で吸収する材料を製作することができる。また、特許文献1には、金属層12と、金属層12の上に形成された導電体層14と、導電体層の上に形成された金属ディスク層16を備え、金属ディスク層16は、複数の円形導電体ディスク16aを含む、電磁波吸収および輻射デバイスの構造が開示されている。なお、特許文献1には、複数の円形導電体ディスク16aの直径によって吸収波長が変わることが記載されており、金属ディスク層16に含まれる複数の導電体ディスク16aの直径を等しくすることにより、単一波長で輻射や吸収のピークを有する狭帯域の電磁波吸収および輻射デバイスが開示されている。
【0005】
また、プラズモニックメタマテリアルではないが、特許文献2には、輻射デバイスの応用例として、放射冷却装置が開示されている。この放射冷却装置は、大気の影響が小さく電磁波の透過率が高い波長域である、いわゆる「大気の窓」のうち8~13μmの波長域において高い吸収特性および輻射特性を有する輻射デバイスを利用し、波長8~13μmの電磁波に変換された熱を大気圏外に放射する。なお、「大気の窓」とは、大気の影響が小さく、光の透過率が高い波長域を意味し、0.2~1.2μm、1.6~1.8μm、2~2.5μm、3.4~4.2μm、4.4~5.5μm(4.5~5.5μm)、8~14μm(8~13μm)の各波長域が知られている。
【0006】
更に、非特許文献1には、放射冷却用途を目的として、銅層と、該銅層の上に形成されたアモルファスシリコン層と、該アモルファスシリコン層の上に形成されたディスク形状のパターンを含む銅層を備えた輻射デバイスが開示されている。ディスク形状の銅層には、輻射帯域を広げるため、直径の異なる8種類のディスク(直径800~1360nm)が利用され、周期8μmの単位領域に、5個×5個の合計25個のディスクが並べられている。解析結果では、8~13μmの波長域で高い輻射特性が得られる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開WO/2016/031547号公報
【文献】米国特許公開US2015/0338175公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】T. Liu他、“Metasurface-based three dimensional sky radiator and auxiliary heat mirror” 第77回応用物理学会秋季学術講演会、講演番号15p-B4-13(2016)
【発明の概要】
【0009】
本開示の輻射デバイスは、導電体層と、半導体層と、複数の導電体ディスクを少なくとも備える。導電体層は、第1方向に沿って互いに対向するよう配置された第1下面と第1上面を有する。半導体層は、導電体層の第1上面上に設けられ、第1上面に対面する第2下面と該第2下面に対向する第2上面とを有する。導電体ディスクは、互いに離間した状態で半導体層の第2上面上に設けられる。また、複数の導電体ディスクは、第2上面上に設定された、同一面積および同一形状を有する複数の単位構成領域それぞれに同じ配置パターンが構成されるよう配置される。なお、複数の単位構成領域それぞれは、一辺が4.5μm以上かつ5.5μm以下の長さを有する矩形形状を有する。このような構造を有する複数の単位構成領域を、第2上面上で規定される互いに直交する第2および第3方向のそれぞれに沿って隣接する単位構成領域同士が共通する辺を有するよう配置することにより、第2および第3方向のそれぞれに沿って周期性を有する配置パターンの二次元周期構造(プラズモン周期構造)が第2上面上に構成される。配置パターンは、矩形形状の第1辺に沿って3個の要素が並ぶとともに該第1辺と直交する第2辺に沿って3個の要素が並ぶ3×3のマトリクスに対応するよう配置された9個の導電体ディスクにより構成される。更に、9個の導電体ディスクは、第2上面上で規定される直径が互いに異なる4種類以上の導電体ディスクを含む。
【0010】
また、本開示の放射冷却装置は、上述のような構造を有する輻射デバイスを含み、一例として、比較的熱伝導効率が高く、平滑な表面の形成が可能な材料からなる基板層上に、本実施形態に係る輻射デバイスが搭載される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る放射冷却装置の概略構成を説明するための図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る放射冷却装置のうち
図1中に示された領域Aの断面構造を示す図である。
【
図3】
図3は、半導体層上に設けられた導電体ディスクの配置パターンの二次元周期構造を説明するための平面図である。
【
図4】
図4は、単位構成領域Rにおける導電体ディスクの配置パターンを説明するための平面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る輻射デバイスの断面構造を示す図である。
【
図6】
図6は、導電体ディスクの基準配置パターンを有する輻射デバイスの吸収スペクトルである。
【
図7】
図7は、周期ピッチP(一辺の長さに一致)の異なるタイプA~Cの単位構成領域Rを示す図である。
【
図8】
図8は、
図7に示されたタイプA~Cの単位構成領域Rに基づいて導電体ディスクの配置パターンの二次元周期構造がそれぞれ構成された輻射デバイスの複数サンプルの吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示が解決しようとする課題]
本発明者らは、従来の輻射デバイスおよび放射冷却装置について検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、上記非特許文献1では、プラズモンの効果を利用して大気圏外へ熱を放射する放射冷却装置を目指しているが、「大気の窓」のうち波長8~13μmの波長域のみ積極的に利用している。そのため、他の波長域に相当するエネルギーは輻射デバイス内にとどまってしまう。また、「大気の窓」以外の波長帯での輻射は、大気に吸収される。この場合、大気の再輻射を吸収することになり、冷却効率が悪化する原因となる。
【0013】
また、金属ディスク層を利用したメタマテリアルでは、吸収波長が導電体ディスクの直径に依存することが知られている。しかしながら、所望の吸収波長特性から複数の導電体ディスクの最適な直径と配置を逆算するのは難しく、通常は、FDTD法(Finite-difference time-domain:有限差分時間領域法)法などに代表される電磁場解析を繰り返し行い、試行錯誤的によりよい設計値が求められる。そのため、8~13μmの波長域と他の「大気の窓」の双方の波長域に吸収特性を有する複数の導電体ディスクの直径と配置を求めることは困難であった。
【0014】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、従来使用されていた「大気の窓」に相当する波長域に加え、別の「大気の窓」に相当する波長域の電磁波に熱エネルギーを選択的に変換可能な輻射デバイスおよび放射冷却装置を提供することを目的としている。
【0015】
[本開示の効果]
本開示によれば、「大気の窓」に相当する8~13μmの波長域と4.5~5.5μmの波長域の双方の高精度の利用が可能になり、熱エネルギー放射効率が向上し得る。すなわち、当該輻射デバイスの積層構造内に閉じ込められたプラズモンの効果による共振モードが、8~13μmの波長域に相当する「大気の窓」の電磁波として、プラズモン周期構造により選択的に放出される。一方、プラズモン周期構造の周期(単位構成領域の一辺の長さで規定される導電体ディスクの周期ピッチ)が、互いに直交する2方向それぞれに沿って4.5~5.5μmに調節される。そのため、当該プラズモン周期構造による回折の吸収ピークの利用(回折による吸収増強効果の利用)が可能になり、4.5~5.5μmの波長域に相当する「大気の窓」の電磁波が選択的に放出され得る。
【0016】
[本開示の実施形態の説明]
本開示の輻射デバイスは、ナノ・マイクロオーダーの微細構造を持つ金属等を用いて、熱を電磁波(光)に変換するプラズモニックメタマテリアルであって、上記微細構造に周期構造(プラズモン周期構造)を与えるとともに該周期構造の周期を制御することにより、「大気の窓」における複数波長域の効率的な利用を可能にする。すなわち、本実施形態に係る輻射デバイスは、プラズモン周期構造による回折モードと、プラズモンに起因する共振モードとの双方を利用することにより、従来から利用されてきた8~13μmの波長域に加え、4.5~5.5μmの波長域の電磁波に変換された熱も大気圏外に放射することを可能にする輻射デバイスである。最初に本開示の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0017】
(1) 本実施形態に係る輻射デバイスは、導電体層と、半導体層と、複数の導電体ディスクを備える。導電体層は、第1方向に沿って互いに対向するよう配置された第1下面と第1上面を有する。半導体層は、導電体層の第1上面上に設けられ、第1上面に対面する第2下面と該第2下面に対向する第2上面とを有する。導電体ディスクは、互いに離間した状態で半導体層の第2上面上に設けられる。また、複数の導電体ディスクは、第2上面上に設定された、同一面積および同一形状を有する複数の単位構成領域それぞれが同じ配置パターンを有するよう配置される。なお、複数の単位構成領域それぞれは、一辺が4.5μm以上かつ5.5μm以下の長さを有する矩形形状を有する。このような構造を有する複数の単位構成領域を、第2上面上で規定される互いに直交する第2および第3方向のそれぞれに沿って隣接する単位構成領域同士が共通する辺を有するよう配置することにより、第2および第3方向のそれぞれに沿って周期性を有する配置パターンの二次元周期構造(プラズモン周期構造)が第2上面上に構成される。配置パターンは、矩形形状を構成する辺のうち互いに直交する一方の辺(第1辺)に沿って3個の要素が並ぶとともに他方の辺(第2辺)に沿って3個の要素が並ぶ3×3のマトリクスを構成するよう配置された9個の導電体ディスクにより構成される。更に、9個の導電体ディスクは、第2上面上で規定される直径が互いに異なる4種類以上の導電体ディスクを含む。なお、本明細書において、「矩形」とは、4つの内角が全て等しい、正方形を含む四角形を意味する。
【0018】
上述のように、本実施形態によれば、第2上面上で規定される互いに直交する第2および第3方向のそれぞれに沿って隙間なく複数の単位構成領域が第2上面上に配置される。これにより、該矩形を規定する4辺のうち1つの内角(直角)を挟んで隣接する2辺(上記第1および第2辺に相当)それぞれの長さに一致した周期ピッチを有する二次元周期構造、すなわち複数の導電体ディスクの配置パターンの二次元周期構造が得られる。なお、本明細書において「二次元周期構造」とは、互いに直交する2つの方向のそれぞれに沿って周期性を有する構造を意味する。つまり、単位構成領域の平面形状として1つの内角を挟んで隣接する辺の長さが異なる四角形が採用された場合、互いに直交する第2および第3方向のそれぞれに沿って異なる周期ピッチを有する二次元周期構造が第2上面上に形成されることになる。本実施形態は、このような二次元周期構造による回折モードと、プラズモンの効果による共振モードとの双方を利用し、波長8~13μmの大気の窓に相当する波長域の電磁波に加え、少なくとも波長4.5~5.5μmの大気の窓に相当する波長域の電磁波の双方に対して、高い輻射率を有する輻射デバイスが得られる。特に、1つの内角を挟んで隣接する2辺の長さが異なる場合であっても、該隣接する2辺の長さが何れも4.5~5.5μmの範囲内に収まる場合には、波長4.5~5.5μmの大気の窓を有効に利用することが可能になる。また、本実施形態では、導電体層と導電体ディスクとの間に、誘電体層ではなく8μmよりも短い波長域での吸収が少ない半導体層が配置される。これにより、大気の窓の波長域である中赤外域波長域での熱―電磁波変換特性が向上する。
【0019】
(2)本実施形態の一態様として、複数の導電体ディスクぞれぞれは、Alからなるのが好ましい。また、本実施形態の一態様として、導電体層は、Alからなるのが好ましい。何れの場合も、層構成材料としてAlを利用すれば、当該輻射デバイスの製造コストを抑制することが可能になる。特に、複数の導電体ディスクと導電体層の双方がAlからなる場合、準備する層構成材料の種類を少なくできるため、当該輻射デバイスの製造コストを更に抑制することができる。
【0020】
(3)本実施形態の一態様として、上記第1方向に沿って規定される、複数の導電体ディスクそれぞれの厚みは、導電体層の厚みよりも薄いのが好ましい。具体的に、本実施形態の一態様として、複数の導電体ディスクそれぞれの厚みは、導電体ディスクそれぞれの形状の制御性を向上させるため、100nm以下であるのが好ましい。また、本実施形態の一態様として、第1方向に沿って規定される、導電体層の厚みは、電磁波の透過を防止するため、100nm以上であるのが好ましい。
【0021】
(4)本実施形態の一態様として、1つの単位構成領域内に配置される9個の導電体ディスクは、最小直径を有する3個の導電体ディスクを含む一方、直径が互いに異なる7種以下の導電体ディスクを含むのが好ましい。この場合、単に直径の異なる4種類以上の導電体ディスクを含む場合と比較して、所望の輻射波長域における短波長側の輻射率を向上させることが可能になる。
【0022】
(5)本実施形態の一態様として、1つの内角を挟んで隣接する2辺の長さは互いに異なってもよい。これら隣接する2辺の長さが何れも4.5~5.5μmの場合(2辺の長さの差が1μm以下)、波長4.5~5.5μmの大気の窓を有効に利用することが可能になる。また、本実施形態の一態様として、単位構成領域の平面形状は、1つの内角を挟んで隣接する2辺の長さが等しい正方形状であってもよい。このように単位構成領域の平面形状が正方形状に設定された場合、当該輻射デバイスの偏波依存性を小さくすることが可能になる。
【0023】
(6)本実施形態に係る放射冷却装置は、上述のような構造を有する輻射デバイスを含む。当該放射冷却装置は、その一態様として、比較的熱伝導効率が高く、平滑な表面の形成が可能な材料からなる基板層上に、本実施形態に係る輻射デバイスが搭載される。また、輻射デバイスの半導体層表面は、複数の導電体ディスクの保護および外部光の反射を目的として、複数の導電体ディスクを覆うように表面保護層(反射膜)が設けられるのが好ましい。
【0024】
以上、この[本開示の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本実施形態に係る輻射デバイスおよび冷却装置の具体的な構造を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0026】
図1は、本実施形態に係る放射冷却装置の概略構成を説明するための図であり、
図2は、本実施形態に係る放射冷却装置のうち
図1中に示された領域Aの断面構造を示す図である。なお、各図はXYZ直交座標系により表現されるものとする。
【0027】
図1に示されたように、本実施形態に係る放射冷却装置100は、大気の窓波長帯に輻射率の高いスペクトルを有する輻射パネル等である。当該放射冷却装置100は、基板層110上に輻射デバイス100A(本実施形態に係る輻射デバイス)が搭載された構造を有する。また、放射冷却装置100は、特定波長域の電磁波を放出する装置表面(輻射デバイス100A側)が建物200の外側に向けられる一方、装置裏面(基板層110側)が建物200内において熱源210により温められた空気に直接的または間接的に接するよう、配置される。
【0028】
放射冷却装置100は、建物200内で温められた空気を吸収し、大気の窓波長域の電磁波230に変換して建物200の外部へ放出する。大気の窓波長域を通じて宇宙との熱平衡を行うため、放射冷却装置100は、熱エネルギーを失い温度が下がる。建物200内の温められた空気は上述のように放射冷却装置100の裏面に接しているため、該温められた空気は、一端蓄えた熱エネルギーを放射冷却装置100へ移すことで冷却される。冷却された空気は建物200内の自然対流220もしくは強制循環により屋内に還流されるため、本実施形態に係る放射冷却装置100は冷房として機能し得る。
【0029】
具体的に、放射冷却装置100は、
図2に示されたように、Z軸(第1の方向)に沿って互いに対向するよう配置された下面110aおよび上面110bを有する基板層110と、該基板層110の上面110b上に設けられた輻射デバイス100Aを備える。なお、基板層110の下面110aは、装置裏面に相当する。基板層110は、比較的熱伝導効率が高く、平滑な表面の形成が可能な材料からなる。輻射デバイス100Aは、導電体層120と、半導体層130と、複数の導電体ディスク150を含む表面保護層140と、を備える。導電体層120は、基板層110の上面110b上に設けられ、上面110bに対面する下面120aと、該下面120aに対向する上面120bと、を有する。半導体層130は、導電体層120の上面120b上に設けられ、上面120bに対面する下面130aと、該下面130aに対向する上面130bと、を有する。複数の導電体ディスク150は、互いに離間した状態で、半導体層130の上面130b上に配置されている。また、半導体層130の上面130b上には、複数の導電体ディスク150の保護と装置外部からの光入射等を防止するため、該複数の導電体ディスク150を覆うように表面保護層(反射膜)140が設けられている。
【0030】
次に、半導体層130の上面130b上に設けられる複数の導電体ディスク150の配置について、
図3および
図4を用いて説明する。なお、
図3は、複数の導電体ディスク150の配置パターンの二次元周期構造を説明するための平面図であり、
図4は、単位構成領域Rにおける導電体ディスク150の配置パターンを説明するための平面図である。
【0031】
図3に示されたように、複数の導電体ディスク150は、半導体層130の上面130b面上に設定された、同一面積および同一形状を有する複数の単位構成領域Rそれぞれが同じ配置パターンを有するよう配置される。また、複数の単位構成領域Rそれぞれの平面形状には、1つの内角を挟んで隣接する2辺それぞれが4.5μm以上かつ5.5μm以下の長さを有する一方、該隣接する2辺の長さが互いに異なる矩形形状、または、該2辺の長さが等しい矩形形状(正方形状)が採用される。なお、以下の説明では、矩形形状の一例として、各単位構成領域Rが正方形状を有する場合について説明する。すなわち、
図3の例では、複数の単位構成領域Rそれぞれは、一辺が4.5μm以上かつ5.5μm以下の長さを有する正方形状を有する。このような構造を有する複数の単位構成領域Rが、互いに隣接する単位構成領域同士が共通する辺を有するよう、すなわち、
図3中に示された互いに直交するX軸とY軸の双方に沿って接触するよう、隙間なく上面130b上に配置される。これにより、該上面130b上に、複数の導電体ディスク150の配置パターンの二次元周期構造が構成される。この二次元周期構造は、中赤外波長域の電磁波を発生させる赤外プラズモン周期構造であり、単位構成領域Rの一辺の長さがこの二次元周期構造の周期ピッチPに相当する。
図3の例では、各単位構成領域Rにおける配置パターンは、正方形状を構成する辺のうち互いに直交する一方の辺に沿って3個の要素が並ぶとともに他方の辺に沿って3個の要素が並ぶ3×3のマトリクスを構成するよう配置された9個の導電体ディスクにより構成される。すなわち、X軸に平行に等間隔に設定された線a1~a3と、Y軸に平行に等間隔に設定された線b1~b3との交点(格子点)Oそれぞれに、その中心が一致するよう対応する導電体ディスク150が配置される。
【0032】
また、1つの単位構成領域R内に配置された9個の導電体ディスクは、Y軸またはX軸に沿った方向(第2の方向)で規定される直径が互いに異なる4種類以上の導電体ディスクを含む。
図4の例では、単位構成領域R内に、9個の導電体ディスク150a~150iが、線a1~a3と線b1~b3の交点O上に互いに離間した状態で配置される。第1導電体ディスク150aの直径は、0.9μmである。第2導電体ディスク150bの直径は、1.1μmである。第3導電体ディスク150cの直径は、0.9μmである。第4導電体ディスク150dの直径は、1.4μmである。第5導電体ディスク150eの直径は、1.5μmである。第6導電体ディスク150fの直径は、1.2μmである。第7導電体ディスク150gの直径は、0.9μmである。第8導電体ディスク150hの直径は、1.3μmである。第9導電体ディスク150iの直径は、1.0μmである。すなわち、
図4の例では、1つの単位構成領域R内に配置された9個の導電体ディスクは、最小直径(0.9μm)を有する3個の導電体ディスク150a、150c、150gを含むとともに、直径が互いに異なる7種(0.9μm、1.0μm、1.1μm、1.2μm、1.3μm、1.4μm、1.5μm)の導電体ディスクを含む。なお、
図4の例では、互いに隣接する導電体ディスクの中心間隔(すなわち、交点Oの間隔)は、1.7μmであり、周期ピッチPに相当する単位構成領域Rの一辺の長さは、5.1μmに設定される。
【0033】
発明者らは、上記非特許文献1に開示されたように複数のディスクパターン(配置パターン)の組み合わせを周期的に並べると、その周期に依存した波長の電磁波の回折も起こることに着目した。通常回折が起こる波長と配置パターンの周期は概ね等しくなる。そのため、本実施形態では、周期を4.5~5.5μmに設定することにより、従来から利用されている波長8~13μmの「大気の窓」とは異なる波長域4.5~5.5μmの輻射も利用される。また、波長8~13μmでプラズモンの効果による輻射を発生させるには、上記非特許文献1に記載されているように、ディスク径は概ね1±0.5μm(0.5~1.5μm)の範囲に収まる。隣接するディスク間のスペースなども考慮すると、周期を4.5~5.5μmの範囲内に設定する場合、1つの配置パターン(1つの単位構成領域当たり)が、3個×3個の合計9個のディスクで構成されるのが適当である。そこで、本実施形態に係る輻射デバイス100Aは、1つの配置パターンを構成する9個の導電性ディスク150a~150iの配置と直径の組み合わせで得られるプラズモンの共振モードにより、波長8~13μmの「大気の窓」での輻射特性を有する。更に、当該輻射デバイス100Aは、配置パターンの周期ピッチP(単位構成領域Rの一辺の長さに対応)を4.5~5.5μmに設定することにより、回折モードに起因した波長4.5~5.5μmの「大気の窓」でも輻射特性を有する。なお、輻射デバイスでは、吸収率が輻射率と等しくなるため、波長特性を示す場合にグラフの縦軸を吸収率(Absorptivity)で表す場合と、輻射率(Emissivity)で表す場合とがある。
【0034】
図5は、本実施形態に係る輻射デバイス100Aの断面構造を示す図である。具体的に、
図5の断面構造は、
図4中のI-I線で示された輻射デバイス100Aの断面に相当する。
【0035】
本実施形態に係る輻射デバイス100Aは、上述のように、例えばSiからなる基板層110の上面110b上に搭載される。なお、実際に放射冷却装置100として使用される場合は、
図1に示されたように、基板層110(Si基板)の下方に熱源210が設置されることになる。当該輻射デバイス100Aは、一例として、導電体層120に相当するAl層と、該半導体層130に相当するSi層と、表面保護層140に含まれる導電体ディスク150(150f、150i)に相当するAlディスク(Alからなる導電体ディスク)と、を備える。
【0036】
Z軸に沿って規定される導電体ディスク150(Alディスク)の厚みW1は、形状の制御性をよくするため、30~100nm程度の薄さが好ましく、製造コストも抑制され得る。なお、厚みW1が変化すると輻射特性も若干変化するが、この範囲であれば波長8~13μmの波長域で十分な輻射率が得られる。また、Z軸方向に沿って規定される導電体層120(Al層)の厚みW2は、100~200nm程度であるのが好ましい。Al層が薄すぎると、電磁波が透過してしまうためである。したがって、本実施形態において、厚みW2は、厚みW1よりも厚くなるよう設定されている。
【0037】
Z軸に沿って2つのAl層で挟まれている半導体層130(Si層)に適用される材料としては、中赤外波長域において8μmより短い波長域で吸収の少ないSi、Geなどが好ましい。
【0038】
なお、導電体層120や導電体ディスク150(150a~150i)の構成材料は、Alの他、Au,Ag,Cuなども適用可能である。最下層に位置する基板層110の構成材料は、比較的熱伝導率が高く、平滑な表面を形成できる素材が適しており、例えば、Si、ダイヤモンド、Alなどが好ましい。導電体ディスク150a~150iそれぞれの直径は、0.8~1.5μmの範囲でFDTD法による解析を繰り返し、8~13μmの波長域で高い輻射率が得られる直径が選択される。
【0039】
上述のような構造を備えた輻射デバイス100Aは、以下のように製造される。すなわち、シリコン基板(基板層110)上に、厚さ100nmのAl層と厚さ500nmのSi層がスパッタリング法により連続製膜される。次に、リソグラフィ技術により厚さ150nmのレジストパターンがSi層上に形成された後、厚さ50nmのAl層がスパッタリング法により製膜される。導電体ディスク150a~150iの形成寄与しない、Al層とレジストは、N-メチルピロリドンを用いたリフトオフ法により除去される。
【0040】
(輻射特性)
次に、FDTD法により形成された輻射特性について説明する。この輻射特性の計算は、単位構成領域Rを無限遠領域に敷き詰めた状態で、該無限遠領域の垂直上方から平面波を入射させる構成について実施された。なお、基板層110(Si層)は本質的に影響を与えないため省略されている。
【0041】
図6は、導電体ディスクの基準配置パターンを有する輻射デバイスの吸収スペクトルである。なお、
図6の吸収スペクトルにおいて、横軸は波長(μm)を示し、縦軸は、基準周期ピッチでの吸収率を示す。なお、縦軸の吸収率の値は、最大値を1として正規化されている。
【0042】
用意された単位構成領域Rの一辺(周期ピッチP)は、5.1μmに設定されている。また、単位構成領域R内に配置される9個の導電体ディスクの直径は、全て1.2μmに統一され、導電体ディスク間の中心間隔が1.7μmに設定されている。
【0043】
図6から分かるように、周期ピッチPに略一致した波長5μm付近で、0.7以上の吸収率が得られる帯域が約1μm確保できている。重ね合わせにより、8~13μmの波長域に相当する「大気の窓」での吸収率を得ることを考慮すると、直径の異なる4種類以上の導電体ディスクの組み合わせが好ましい。更に、複数の導電体ディスクのうち、直径の小さいディスクは入射光に対する有効面積も小さくなるため、複数の最小直径を有する導電体ディスクが単位構成領域R内に配置されるのが好ましい。例えば、
図4の例では、最小直径0.9μmを有す3個の導電体ディスク150a、150c、150gが配置されている。
【0044】
図7は、周期ピッチP(一辺の長さに一致)の異なるタイプA~Cの単位構成領域Rを示す図である。タイプAの単位構成領域Rでは、半導体層130上に構成される二次元周期構造の周期ピッチPに相当する一辺が4.5μm、導電体ディスク間の中心間隔が1.5μmに設定されている。タイプBの単位構成領域Rでは、半導体層130上に構成される二次元周期構造の周期ピッチPに相当する一辺が5.1μm、導電体ディスクの中心間隔が1.7μmに設定されている。タイプCの単位構成領域Rでは、半導体層130上に構成される二次元周期構造の周期ピッチPに相当する一辺が5.5μm、導電体ディスクの中心間隔が1.833μmに設定されている。また、タイプA~Cの単位構成領域Rの何れにも、
図4に示された導電体ディスク150a~150iにそれぞれ対応する9個の導電体ディスクが配置されている。すなわち、タイプA~Cの単位構成領域Rの何れにも、直径が互いに異なる7種(0.9μm、1.0μm、1.1μm、1.2μm、1.3μm、1.4μm、1.5μm)の導電体ディスクを含み、そのうち3個の導電体ディスクが最小直径0.9μmを有する。なお、
図7中の各単位構成領域R内に示された数字が、各導電体ディスクの直径を示している。
【0045】
図8は、
図7に示されたタイプA~Cの単位構成領域Rに基づいて導電体ディスク150の配置パターンの二次元周期構造がそれぞれ構成された輻射デバイスの複数サンプルの吸収スペクトルである。
図8の吸収スペクトルにおいて、横軸は波長(μm)を示し、縦軸は、4.5μm(
図7のタイプA)、5.1μm(
図7のタイプB)、5.5μm(
図7のタイプC)の周期ピッチPそれぞれの吸収率を示す。なお、縦軸の各周期ピッチPの吸収率の値は、最大値を1として正規化されている。この輻射特性の計算も、上述のように、単位構成領域Rを無限遠領域に敷き詰めた状態で、該無限遠領域の垂直上方から平面波を入射させる構成について実施された。なお、基板層110(Si層)は本質的に影響を与えないため省略されている。
【0046】
図8中、破線で囲まれた領域B1は、「大気の窓」のうち4.5~5.5μmの波長域を示し、領域B2は、「大気の窓」のうち8~13μmの波長域を示す。この
図8から分かるように、タイプA~Cの何れが適用されたサンプルにおいても、領域B2に相当する8~13μmの波長域で大きい吸収率が得られる。同様に、領域B1に相当する4.5~5.5μmの波長域においても、大きい吸収率が得られる。特に、領域B1では、周期ピッチPの変化に伴い、回折による吸収ピークが変化している。このことから、周期ピッチP(単位構成領域Rの一辺の長さ)を制御することにより、4.5~5.5μmの波長域に相当する「大気の窓」付近で大きな吸収を得ることが可能になる。
【符号の説明】
【0047】
100…放射冷却装置(輻射パネル)、100A…輻射デバイス、110…基板層、120…導電体層、130…半導体層、140…表面保護層、150、150a~150i…導電体ディスク。