IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-二次電池用正極活物質の製造方法 図1
  • 特許-二次電池用正極活物質の製造方法 図2
  • 特許-二次電池用正極活物質の製造方法 図3
  • 特許-二次電池用正極活物質の製造方法 図4
  • 特許-二次電池用正極活物質の製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220304BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220304BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220304BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20220304BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/505
H01M4/52
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020546083
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 KR2019006894
(87)【国際公開番号】W WO2019235886
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】10-2018-0065528
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ヒ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ペ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ス・パク
(72)【発明者】
【氏名】イ・ラン・リム
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-120752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
C01G 53/00
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル‐コバルト‐マンガン水酸化物のコア部と、前記コア部を取り囲み、コバルト水酸化物のシェル部とからなる正極活物質前駆体を提供するステップと、
前記正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合し、970℃以上の温度で焼成を行うことにより、単一粒子からなるリチウム複合遷移金属酸化物を形成するステップと、を含み、
前記正極活物質前駆体は、遷移金属の全含量中ニッケル(Ni)の含量が60モル%以下であり、コバルト(Co)がマンガン(Mn)より多く含有されている、二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記焼成の温度は、980℃から1050℃である、請求項1に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記コア部は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)を含む第1遷移金属溶液を共沈反応させて形成される、請求項1または2に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記シェル部は、コバルト(Co)を含む第2遷移金属溶液を共沈反応させて形成される、請求項1から3のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記シェル部は、正極活物質前駆体100体積部に対し5から30体積部となるように形成される、請求項1から4のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記正極活物質前駆体は、1次粒子が凝集した2次粒子の形態である、請求項1から5のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記正極活物質が2から10μmの平均粒径(D50)を有する1次粒子からなるように焼成される、請求項1からのいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記正極活物質が210nm以上の結晶粒サイズを有するように焼成される、請求項1からのいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記リチウム複合遷移金属酸化物の全金属元素(M)に対する前記リチウム原料物質のリチウム(Li)のモル比(Li/M)が1.06以下となるようにリチウム原料物質を混合する、請求項1からのいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記リチウム複合遷移金属酸化物と、Al、B、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo、W及びCrからなる群より選択される少なくとも1種を含むコーティング原料物質とを混合し、熱処理してコーティング部を形成するステップをさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年6月7日付韓国特許出願第10-2018-0065528号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、携帯電話、ノートパソコン、電気自動車など、電池を用いる電子器具の急速な普及に伴い、小型軽量でありながらも相対的に高容量である二次電池の需要が急速に増大されている。特に、リチウム二次電池は、軽量で、かつ高エネルギー密度を有しているので、携帯機器の駆動電源として脚光を浴びている。これに伴い、リチウム二次電池の性能を向上させるための研究/開発の努力が活発に進められている。
【0004】
リチウム二次電池は、リチウムイオンの挿入(intercalation、インタカレーション)及び脱離(deintercalation、デインタカレーション)が可能な活物質からなる正極と負極との間に有機電解液またはポリマー電解液を充填させた状態で、正極及び負極においてリチウムイオンが挿入及び脱離される際の酸化と還元反応によって電気エネルギーが生産される。
【0005】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、リチウムマンガン酸化物(LiMnOまたはLiMnなど)、リン酸鉄リチウム化合物(LiFePO)などが使用されていた。中でも、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)は、作動電圧が高くて容量特性に優れるという利点があるため広く用いられており、高電圧用正極活物質として適用されている。しかし、コバルト(Co)の価格の上昇及び供給の不安定のため、電気自動車などのような分野の動力源として大量で使用するには限界があるので、これを代替することができる正極活物質の開発の必要性が台頭している。
【0006】
これに伴い、コバルト(Co)の一部をニッケル(Ni)とマンガン(Mn)で置換したニッケルコバルトマンガン系リチウム複合遷移金属酸化物(以下、簡単に「NCM系リチウム複合遷移金属酸化物」と記す)が開発された。しかし、従来に開発されたNCM系リチウム複合遷移金属酸化物は、一般に1次粒子が凝集した2次粒子の形態であって、比表面積が大きくて粒子の強度が低く、リチウム副産物の含量が高いため、セル駆動の際にガスの発生量が多く、安定性が落ちる問題があった。すなわち、従来に開発されたNCM系リチウム複合遷移金属酸化物は、安定性が確保されないため高電圧電池への適用に限界があり、高電圧リチウム二次電池に適用可能なNCM系リチウム複合遷移金属酸化物を含む正極活物質の開発が依然として必要な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高電圧リチウム二次電池に適用可能なNCM系リチウム複合遷移金属酸化物を含む正極活物質の製造方法に関する。具体的に、比表面積を減少させ、粒子の強度を改善し、リチウム副産物の含量を減少させてセル駆動の際にガスの発生量を減少させることができるNCM系リチウム複合遷移金属酸化物を含む正極活物質の製造方法の提供を図る。
【0008】
さらに、高い温度で焼成して単一粒子形の正極材を製造する場合、粒子間の凝集力が高くて解砕が難しいという問題点があるところ、本発明は、このような問題を解決することができる正極活物質の製造方法の提供を図る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)を含むコア部と、前記コア部を取り囲み、コバルト(Co)を含むシェル部とからなる正極活物質前駆体を設けるステップと、前記正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合し、970℃以上の温度で焼成することにより、単一粒子(single particle)からなるリチウム複合遷移金属酸化物を形成するステップと、を含む二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって製造されたNCM系正極活物質は、比表面積が減少し、粒子の強度が改善され、リチウム副産物の含量が減少してセル駆動の際にガスの発生量を減少させることができる。このような本発明によって製造されたNCM系正極活物質は、優れた安定性を確保することができるので、高電圧リチウム二次電池に適用することができる。
【0011】
また、本発明によれば、1回の焼成だけで容易に単一粒子(single particle)のNCM系正極活物質を製造することができ、高い温度で焼成して製造された単一粒子形の粒子であるにもかかわらず解砕度を向上させることができるので、工程の容易性及び生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で製造された正極活物質を解砕した後、走査型電子顕微鏡(SEM)で拡大して観察した写真である。
図2】実施例1で製造された正極活物質を解砕した後、走査型電子顕微鏡(SEM)で拡大して観察した写真である。
図3】比較例1で製造された正極活物質を解砕した後、走査型電子顕微鏡(SEM)で拡大して観察した写真である。
図4】比較例1で製造された正極活物質を解砕した後、走査型電子顕微鏡(SEM)で拡大して観察した写真である。
図5】実施例1及び比較例1で製造された正極活物質の加圧前後の粒度の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に対する理解を深めるために本発明をさらに詳細に説明する。このとき、本明細書及び特許請求の範囲に用いられた用語や単語は、通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最良の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0014】
<正極活物質の製造方法>
本発明の正極活物質の製造方法は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)を含むコア部と、前記コア部を取り囲み、コバルト(Co)を含むシェル部とからなる正極活物質前駆体を提供するステップと、前記正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合し、970℃以上の温度で焼成することにより、単一粒子(single particle)からなるリチウム複合遷移金属酸化物を形成するステップと、を含む。
【0015】
前記正極活物質の製造方法をステップ別に具体的に説明する。
【0016】
先ず、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)を含むコア部と、前記コア部を取り囲み、コバルト(Co)を含むシェル部とからなる正極活物質前駆体を提供する。
【0017】
前記コア部は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)を含む第1遷移金属溶液を共沈反応させて形成することができ、前記シェル部は、コバルト(Co)を含む第2遷移金属溶液を共沈反応させて形成することができる。
【0018】
より具体的に、前記前駆体のコア部は、ニッケル含有原料物質、コバルト含有原料物質及びマンガン含有原料物質を含む第1遷移金属溶液にアンモニウム陽イオン含有錯体形成剤と塩基性化合物を添加し、共沈反応させて製造されるものであってよい。
【0019】
前記ニッケル含有原料物質は、例えば、ニッケル含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などであってよく、具体的には、Ni(OH)、NiO、NiOOH、NiCO・2Ni(OH)・4HO、NiC・2HO、Ni(NO・6HO、NiSO、NiSO・6HO、脂肪酸ニッケル塩、ニッケルハロゲン化物、またはこれらの組み合わせであってよいが、これらに限定されるものではない。
【0020】
前記コバルト含有原料物質は、コバルト含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などであってよく、具体的には、Co(OH)、CoOOH、Co(OCOCH・4HO、Co(NO・6HO、CoSO、Co(SO・7HO、またはこれらの組み合わせであってよいが、これらに限定されるものではない。
【0021】
前記マンガン含有原料物質は、例えば、マンガン含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物、オキシ水酸化物、またはこれらの組み合わせであってよく、具体的には、Mn、MnO、Mnなどのようなマンガン酸化物;MnCO、Mn(NO、MnSO、酢酸マンガン、ジカルボン酸マンガン塩、クエン酸マンガン、脂肪酸マンガン塩などのマンガン塩;オキシ水酸化マンガン、塩化マンガン、またはこれらの組み合わせであってよいが、これらに限定されるものではない。
【0022】
前記第1遷移金属溶液は、ニッケル含有原料物質、コバルト含有原料物質及びマンガン含有原料物質を溶媒、具体的には、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(例えば、アルコールなど)の混合溶媒に添加して製造されるか、または、ニッケル含有原料物質の水溶液、コバルト含有原料物質の水溶液及びマンガン含有原料物質の水溶液を混合して製造されたものであってよい。
【0023】
前記アンモニウム陽イオン含有錯体形成剤は、例えば、NHOH、(NHSO、NHNO、NHCl、CHCOONH、NHCO、またはこれらの組み合わせであってよいが、これらに限定されるものではない。一方、前記アンモニウム陽イオン含有錯体形成剤は水溶液の形態で用いられてもよく、このとき、溶媒には水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的に、アルコールなど)と水の混合物が用いられてよい。
【0024】
前記塩基性化合物は、NaOH、KOHまたはCa(OH)などのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、これらの水和物、またはこれらの組み合わせであってよい。前記塩基性化合物も水溶液の形態で用いられてもよく、このとき、溶媒には水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的に、アルコールなど)と水の混合物が用いられてよい。
【0025】
前記塩基性化合物は、反応溶液のpHを調節するために添加されるものであって、金属溶液のpHが10から12.5になる量で添加されてよい。
【0026】
一方、前記共沈反応は、窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気下で、40℃から70℃の温度で行われてよい。
【0027】
前記のような工程によってニッケル‐コバルト‐マンガン水酸化物の粒子が生成され、反応溶液内に沈澱される。
【0028】
その後、前記コア部を取り囲むシェル部を形成するため、前記ニッケル‐コバルト‐マンガン水酸化物に、コバルト含有原料物質を含む第2遷移金属溶液、アンモニウム陽イオン含有錯体形成剤、塩基性化合物を添加して共沈反応させてよい。
【0029】
前記コバルト含有原料物質は、コバルト含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などであってよく、具体的には、Co(OH)、CoOOH、Co(OCOCH・4HO、Co(NO・6HO、CoSO、Co(SO・7HO、またはこれらの組み合わせであってよいが、これらに限定されるものではない。
【0030】
前記第2遷移金属溶液は、コバルト含有原料物質を溶媒、具体的には、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(例えば、アルコールなど)の混合溶媒に添加して製造されてよい。
【0031】
前記アンモニウム陽イオン含有錯体形成剤及び塩基性化合物に関する説明は、前記コア部の形成時と同様に適用されるので省略する。
【0032】
前記シェル部の形成時の塩基性化合物は、金属溶液のpHが10から12.5になる量で添加されてよい。
【0033】
一方、前記シェル部の形成時の共沈反応は、前記コア部の形成時と同様に窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気下で、40℃から70℃の温度で行われてよい。
【0034】
前記のような工程によってニッケル‐コバルト‐マンガン水酸化物のコア部及びコバルト水酸化物のシェル部からなる粒子が生成され、反応溶液内に沈澱される。沈澱された粒子を通常の方法によって分離させ、乾燥させて正極活物質前駆体を得ることができる。
【0035】
このように製造された正極活物質前駆体は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)を含むコア部、及びコバルト(Co)を含むシェル部からなるコア‐シェル構造を形成する。
【0036】
高い温度で焼成して製造する従来の単一粒子形の粒子の場合、粒子間の凝集力が高くて解砕が難しいという問題点があるが、本発明は、コア部の表面にコバルト(Co)を含むシェル部が形成されたコア‐シェル構造の正極活物質前駆体を用いて単一粒子形の粒子を製造することにより、解砕度を改善して工程の容易性を向上させることができる。すなわち、本発明によれば、高い温度で焼成して製造する単一粒子形の粒子であるにもかかわらず解砕度を向上させることができるので、使用可能な粉砕装備の範囲が広くなり、生産性が向上され得る。また、リチウム副産物の含量をさらに減少させることができる。
【0037】
このとき、前記シェル部は、正極活物質前駆体の100体積部に対し5から30体積部になるように形成されてよい。より好ましくは、前記シェル部は、5から20体積部、さらに好ましくは、5から15体積部で形成されてよい。前記シェル部は、シェル部の形成において共沈反応の第2遷移金属溶液の濃度及び共沈時間などを調節することにより、前記範囲内の重量比となるように製造することができる。前記シェル部が前記範囲内の重量比を満たすように形成することにより、リチウム副産物の含量を減少させて解砕度を向上させるという効果を具現することができる。
【0038】
一方、前記正極活物質前駆体は、遷移金属の全含量中ニッケル(Ni)の含量が60モル%以下であり、コバルト(Co)がマンガン(Mn)より多く含有された組成を有するように製造することができる。このとき、前記組成は、コア部/シェル部を含む前駆体全体基準の組成であってよい。前駆体の製造時にニッケル含有原料物質、コバルト含有原料物質及びマンガン含有原料物質の濃度及びコア部/シェル部の共沈時間を調節することにより、前記組成を有するように製造することができる。より好ましくは、ニッケル(Ni)の含量が55モル%以下、さらに好ましくは、50モル%以下を満たすことができる。また、より好ましくは、コバルト(Co)の濃度がマンガン(Mn)より5モル%以上大きくてよく、さらに好ましくは、10モル%以上大きくてよい。前記組成を満たす正極活物質前駆体を用いれば、970℃以上の温度で1回の焼成だけで容易に単一粒子(single particle)のNCM系正極活物質を形成することができる。
【0039】
前記のように製造された正極活物質前駆体は、1次粒子が凝集して形成された2次粒子であり、前記前駆体2次粒子の平均粒径(D50)が3から8μmであってよく、より好ましくは3から7μm、さらに好ましくは3から6μmであってよい。本発明において、「1次粒子」は、単一粒子の1次構造体を意味し、「2次粒子」は、2次粒子をなす1次粒子に対する意図的な凝集または組立ての工程がなくとも、1次粒子の間の物理的または化学的結合によって1次粒子同士凝集した凝集体、すなわち、2次構造体を意味する。
【0040】
次に、前記正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合し、970℃以上の温度で焼成することにより、単一粒子(single particle)からなるリチウム複合遷移金属酸化物を形成する。このように、単一粒子(single particle)である本発明のNCM系正極活物質は、比表面積が減少し、粒子の強度が改善され、リチウム副産物の含量が減少するので、セル駆動時のガスの発生量を減少させることができる。また、このような本発明によって製造されたNCM系正極活物質は、優れた安定性を確保することができるので、高電圧リチウム二次電池への適用が可能である。
【0041】
前記リチウム原料物質には、リチウム含有硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、ハロゲン化物、水酸化物またはオキシ水酸化物などが用いられてよく、水に溶解可能な限り、特に限定されない。具体的に、前記リチウムソースは、LiCO、LiNO、LiNO、LiOH、LiOH・HO、LiH、LiF、LiCl、LiBr、LiI、CHCOOLi、LiO、LiSO、CHCOOLiまたはLiなどであってよく、これらのうちいずれか一つまたは二つ以上の混合物が用いられてよい。
【0042】
前記リチウム複合遷移金属酸化物の金属元素全体(M)に対する前記リチウム原料物質のリチウム(Li)のモル比(Li/M)が1.06以下となるように前記リチウム原料物質を混合することができる。より好ましくは、Li/Mが1から1.05、さらに好ましくは、1から1.04となるようにリチウム原料物質を混合することができる。Li/Mが前記範囲を満たすことによってR3m空間群タイプの層状形結晶構造を有し、単一粒子(single particle)からなるリチウム複合遷移金属酸化物を形成することができる。
【0043】
前記正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合して970℃以上の温度で焼成することにより、1回の焼成だけで容易に単一粒子(single particle)のNCM系正極活物質を製造することができる。すなわち、前記前駆体は2次粒子の形態であったが、本発明に係る前駆体を用いて特定条件の焼成を行う場合、前記焼成工程によって1次粒子の平均粒径(D50)が2から10μmである単一粒子(single particle)のNCM系正極活物質を製造することができる。また、既存には高い温度で焼成して単一粒子形の正極材を製造する場合、解砕が難しいという問題点があったが、本発明は、前記のようにコバルト(Co)を含むシェル部を有するコア‐シェル構造の前駆体を用いることにより、製造される単一粒子形の正極材の解砕度を向上させることができる。一方、前記単一粒子(single particle)のNCM系正極活物質を製造するために970℃以上の温度で焼成する過程を介し、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)の濃度勾配を有していた組成が平衡化されて前駆体のコバルト(Co)シェル部は消えるようになり、最終的に製造されるリチウム複合遷移金属酸化物の正極活物質は、コア‐シェル構造でないことがある。
【0044】
前記焼成の温度は、単一粒子(single particle)を形成するために970℃以上が好ましく、より好ましくは980℃から1050℃、さらに好ましくは980℃から1020℃であってよい。焼成の温度が970℃未満の場合、単一粒子(single particle)のNCM系正極活物質の製造が難しいことがあり、凝集した2次粒子の形態のNCM系正極活物質が製造され得る。
【0045】
前記焼成は、空気または酸素の雰囲気下で進めてよく、5から13時間行ってよい。
【0046】
前記焼成は、製造される単一粒子(single particle)のNCM系正極活物質の1次粒子の平均粒径(D50)が2から10μmとなるように行ってよい。より好ましくは、1次粒子の平均粒径(D50)が3から9μm、最も好ましくは、4から8μmとなるように焼成を行ってよい。前記1次粒子の平均粒径(D50)を有する単一粒子(single particle)からなる正極活物質の場合、粒子の強度が大きくなって圧延時の粒子の亀裂を抑えることができ、圧延密度を向上させることができ、比表面積が減少し、リチウム副産物が減少するので、電解液との副反応によるガスの発生量を減少させることができる。
【0047】
本発明において、平均粒径(D50)は、粒径分布の曲線で体積累積量の50%に該当する粒径と定義することができる。前記平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折法(laser diffraction method)を利用して測定することができる。例えば、前記正極活物質の平均粒径(D50)の測定方法は、正極活物質の粒子を分散媒中に分散させ、市販されるレーザー回折粒度測定装置(例えば、Microtrac MT 3000)に導入して約28kHzの超音波を出力40Wで照射した後、測定装置における体積累積量の50%に該当する平均粒径(D50)を算出することができる。
【0048】
また、前記焼成は、製造される単一粒子(single particle)のNCM系正極活物質の結晶粒サイズ(Crystalite size)が210nm以上となるように行ってよい。より好ましくは215nm以上、さらに好ましくは220nm以上となるように焼成を行ってよい。本発明の一実施形態に係る、前記結晶粒サイズ(Crystalite size)を満たす正極活物質は、圧延による粒子の亀裂を抑えることができ、寿命特性及び安定性が向上され得る。
【0049】
本発明において、「粒子」は、マイクロメートル単位の粒子を称し、これを拡大して観測すれば、数十ナノメートル単位の結晶の形態を有する「グレーン(grain)」に区分することができる。これをさらに拡大すれば、原子等が一定した方向の格子構造をなす形態の区分された領域を確認することができる。これを「結晶粒(crystallite)」と称し、XRDで観測する粒子の大きさは結晶粒(Crystallite)の大きさと定義される。結晶粒サイズ(Crystalite size)を測定する方法は、XRDデータのピーク広がり(peak broadening)を利用して結晶粒サイズを見積ることができ、シェラーの式(Scherrer equation)を介して定量的に計算することができる。
【0050】
次に、選択的に前記リチウム複合遷移金属酸化物と、Al、B、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo、W及びCrからなる群より選択される少なくとも1種を含むコーティング原料物質とを混合し、熱処理してコーティング部を形成してよい。前記コーティング原料物質は、より好ましくは、Al、B及び/またはWを含んでよく、さらに好ましくは、Alを含んでよい。前記コーティング原料物質は、Alの場合、例えば、Al(OH)、Al、AlPO、AlCl、Al(SOなどが用いられてよい。
【0051】
前記熱処理は、300℃から700℃の温度で行われてよく、より好ましくは、400℃から600℃の温度で行われてよい。前記熱処理は、1から6時間行われてよい。
【0052】
前記コーティング部をさらに形成することによって粒子表面のリチウム副産物をさらに減少させ、セル駆動時のガスの発生量をさらに減少させることができる。
【0053】
<正極及び二次電池>
本発明の一実施形態によって製造された正極活物質を用いることで、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を製造することができる。
【0054】
具体的に、前記正極は、正極集電体及び前記正極集電体の上に形成され、前記正極活物質を含む正極活物質層を含む。
【0055】
前記正極において、正極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば、特に制限されるのではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが用いられてよい。また、前記正極集電体は、通常3から500μmの厚さを有してよく、前記正極集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態に用いられてよい。
【0056】
また、前記正極活物質層は、前述で説明した正極活物質とともに、導電材及びバインダを含むことができる。
【0057】
このとき、前記導電材は、電極に導電性を与えるために用いられるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく電気伝導性を有するものであれば、特別な制限なく使用可能である。具体的な例には、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウイスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などを挙げることができ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてよい。前記導電材は、通常、正極活物質層の全重量に対し1から30重量%で含まれてよい
【0058】
また、前記バインダは、正極活物質粒子同士の付着及び正極活物質と正極集電体との接着力を向上させる役割を担う。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ビニリデンフルオリド‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF‐co‐HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体が挙げられ、これらのうち1種が単独で、または2種以上の混合物が用いられてよい。前記バインダは、正極活物質層の全重量に対し1から30重量%で含まれてよい。
【0059】
前記正極は、前記正極活物質を用いることを除いては、通常の正極の製造方法によって製造されてよい。具体的に、前記正極活物質、及び選択的にバインダ及び導電材を含む正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延することで製造されてよい。このとき、前記正極活物質、バインダ、導電材の種類及び含量は、前記で説明した通りである。
【0060】
前記溶媒としては、当該技術分野で一般に用いられる溶媒であってよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide,DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N‐メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などを挙げることができ、これらのうち1種が単独で、または2種以上の混合物が用いられてよい。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造歩留まりを考慮して前記正極活物質、導電材及びバインダを溶解または分散させ、それ以後、正極の製造のための塗布時に、優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0061】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得たフィルムを正極集電体上にラミネーションすることにより製造されてもよい。
【0062】
本発明のまた他の一実施形態によれば、前記正極を含む電気化学素子が提供される。前記電気化学素子は、具体的に電池またはキャパシタなどであってよく、より具体的にはリチウム二次電池であってよい。
【0063】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極、前記正極と対向して位置する負極、前記正極と負極の間に介在されるセパレータ及び電解質を含み、前記正極は前記で説明した通りである。また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、及び前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含んでよい。
【0064】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体及び前記負極集電体の上に位置する負極活物質層を含む。
【0065】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが用いられてよい。また、前記負極集電体は、通常3μmから500μmの厚さを有してよく、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態で用いられてよい。
【0066】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに選択的にバインダ及び導電材を含む。前記負極活物質層は、例えば、負極集電体上に負極活物質、及び選択的にバインダ及び導電材を含む負極形成用組成物を塗布して乾燥するか、または前記負極形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得たフィルムを負極集電体上にラミネーションすることにより製造されてもよい。
【0067】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインタカレーション及びデインタカレーションが可能な化合物が用いられてよい。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金などの、リチウムとの合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のように、リチウムをドープ及び脱ドープすることができる金属酸化物;または、Si‐C複合体またはSn‐C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などを挙げることができ、これらのうちいずれか一つまたは二つ以上の混合物が用いられてよい。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料は、低結晶性炭素及び高結晶性炭素などが全て用いられてよい。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)及び硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、麟片状、球状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソ相ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソ炭素微小球体(meso‐carbon microbeads)、メソ相ピッチ(Mesophase pitches)及び石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0068】
また、前記バインダ及び導電材は、前記正極で説明したところと同一のものであってよい。
【0069】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離してリチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常、リチウム二次電池でセパレータとして用いられるものであれば特別な制限なく使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低い抵抗でありながら電解液含湿能に優れたものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体及びエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルム、またはこれらの2層以上の積層構造体が用いられてよい。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が用いられてもよい。また、耐熱性または機械的強度の確保のために、セラミック成分または高分子物質が含まれているコーティングされたセパレータが用いられてもよく、選択的に単層または多層構造で用いられてよい。
【0070】
また、本発明で用いられる電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などを挙げることができ、これらに限定されるものではない。
【0071】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含むことができる。
【0072】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオン等が移動することができる媒質の役割が可能なものであれば、特別な制限なく用いられてよい。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ‐ブチロラクトン(γ‐butyrolactone)、ε‐カプロラクトン(ε‐caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate,DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate,DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate,MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate,EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate,EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate,PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R‐CN(Rは、C2からC20の直鎖状、分枝状または環状構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3‐ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが用いられてよい。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の線形カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1から約1:9の体積比で混合し用いた方が電解液の性能が優れて現れ得る。
【0073】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池で用いられるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特別な制限なく用いられてよい。具体的に、前記リチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAl0、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが用いられてよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1から2.0Mの範囲内で用いるのがよい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適した伝導度及び粘度を有するので、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0074】
前記電解質には、前記電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池容量の減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的に、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。このとき、前記添加剤は、電解質の全重量に対し0.1から5重量%で含まれてよい。
【0075】
前記のように、本発明に係る正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性及び容量維持率を安定的に示すため、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle,HEV)などの電気自動車の分野などに有用である。
【0076】
これによって、本発明の他の一具現例によれば、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュール、及びこれを含む電池パックが提供される。
【0077】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle,EV)、ハイブリッド電気自動車、及びプラグインハイブリッド電気自動車(Plug‐in Hybrid Electric Vehicle,PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのうちいずれか一つ以上の中大型デバイスの電源として用いられてよい。
【0078】
以下、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるよう、本発明の実施例に対して詳しく説明する。しかし、本発明は、いくつか異なる形態に具現されてよく、ここで説明する実施例に限定されない。
【0079】
実施例1
50℃に設定された回分式バッチ(batch)型の40L反応器で、NiSO、CoSO、MnSOをニッケル:コバルト:マンガンのモル比が57:20:23のモル比となるようにする量で水中で混合することにより、2.4M濃度の第1遷移金属溶液を準備した。
【0080】
共沈反応器(容量40L)に脱イオン水13リットルを入れた後、窒素ガスを反応器に25リットル/分の速度でパージングして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気に造成した。その後、25%濃度のNaOH水溶液83gを投入した後、50℃の温度で700rpmの撹拌速度で撹拌しながら、pH 11.5を維持させた。
【0081】
その後、前記第1遷移金属溶液を1.9L/hrの速度でそれぞれ投入し、NaOH水溶液及びNHOH水溶液を共に投入しながら41.8時間共沈反応させることにより、ニッケル‐コバルト‐マンガン含有水酸化物のコア部を形成した。
【0082】
その後、CoSOを水中で混合して2.2M濃度の第2遷移金属溶液を準備した。前記第2遷移金属溶液を1.9L/hrの速度で投入し、NaOH水溶液及びNHOH水溶液を共に投入しながら6.2時間共沈反応させることでシェル部を形成した。
【0083】
前記水酸化物粒子を分離して洗浄した後、120℃のオーブンで12時間乾燥して正極活物質前駆体を製造した。このように製造された正極活物質前駆体はコア‐シェル構造を有し、全体の組成がNi0.5Co0.3Mn0.2(OH)であるニッケル‐コバルト‐マンガン含有水酸化物粒子を形成した。
【0084】
このように製造された正極活物質前駆体及びリチウムソースLiCOを、Li/M(Ni、Co、Mn)のモル比が1.02となるようにヘンシェルミキサー(20L)に投入し、300rpmの中心部rpmで20分間ミキシング(mixing)した。混合された粉末を330mm×330mm大きさのアルミナるつぼに入れ、大気(air)の雰囲気下、990℃で21時間焼成することによりリチウム複合遷移金属酸化物の正極活物質を製造した。
【0085】
実施例2
実施例1のように製造されたリチウム複合遷移金属酸化物とAlを混合した。前記混合された混合物を大気(air)の雰囲気、500℃で3時間熱処理することにより、Alコーティング部が形成されている正極活物質を製造した。
【0086】
比較例1
50℃に設定された回分式バッチ(batch)型の40L反応器で、NiSO、CoSO、MnSOをニッケル:コバルト:マンガンのモル比が50:30:20のモル比となるようにする量で水中で混合することにより、2.4M濃度の前駆体形成溶液を準備した。
【0087】
共沈反応器(容量40L)に脱イオン水13リットルを入れた後、窒素ガスを反応器に25リットル/分の速度でパージングして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気に造成した。その後、25%濃度のNaOH水溶液83gを投入した後、50℃の温度で700rpmの撹拌速度で撹拌しながら、pH 11.5を維持させた。
【0088】
その後、前記前駆体形成溶液を1.9L/hrの速度でそれぞれ投入し、NaOH水溶液及びNHOH水溶液を共に投入しながら48時間共沈反応させることでニッケル‐コバルト‐マンガン含有水酸化物(Ni0.5Co0.3Mn0.2(OH))の粒子を形成した。前記水酸化物粒子を分離して洗浄した後、120℃のオーブンで乾燥して正極活物質前駆体を製造した。
【0089】
このように製造された正極活物質前駆体及びリチウムソースLiCOを、Li/M(Ni、Co、Mn)のモル比が1.02となるようにヘンシェルミキサー(20L)に投入し、300rpmの中心部rpmで20分間ミキシング(mixing)した。混合された粉末を330mm×330mm大きさのアルミナるつぼに入れ、大気(air)の雰囲気下、990℃で21時間焼成することによりリチウム複合遷移金属酸化物の正極活物質を製造した。
【0090】
[実験例1:正極活物質の解砕度]
前記実施例1及び比較例1で製造された正極活物質をロールミルで粗粉砕してハンドミキサーに100gを投入した後、2分間解砕した。その後、解砕された正極活物質を走査型電子顕微鏡(SEM)で拡大して観察した写真を図1~2(実施例1)、図3~4(比較例1)に示した。
【0091】
図1から図4に示す通り、実施例1及び比較例1で製造された正極活物質はいずれも単一粒子(single particle)の形態ではあるが、コバルト(Co)シェル部を有する前駆体を用いた実施例1(図1~2)はよく解砕されて凝集していない反面、前駆体がコバルト(Co)シェル部を有しない比較例1(図3~4)の場合、解砕が十分なされずに凝集した粒子が多数確認された。
【0092】
[実験例2:正極活物質の1次粒子の粒径及び結晶粒サイズ]
前記実施例1~2、比較例1~2で製造された正極活物質をロールミルで粗粉砕してハンドミキサーに100gを投入した後、2分間解砕した。その後、解砕された正極活物質の1次粒子の平均粒径(D50)及び結晶粒サイズを測定した。実施例1~2の1次粒子の平均粒径(D50)はレーザー回折法(laser diffraction method、Microtrac)を利用して測定し、結晶粒サイズ(Crystalite size)はXRD(Ultima IV)を測定してその値を計算した。
【0093】
【表1】
【0094】
前記表1に示す通り、実施例1~2、比較例1はいずれも単一粒子を形成したものの、コバルト(Co)シェル部を有する前駆体を用いた実施例1~2の正極活物質は、解砕後のD50が7.0μm以下で小さいことに比べ、前駆体がコバルト(Co)シェル部を有しない比較例1は、解砕後のD50が7.7μmで大きく表れたという点で違いがあった。コバルト(Co)シェル部を有する前駆体を用いた実施例1~2の場合、解砕度が高くて解砕後のD50が減少したことを確認することができる。
【0095】
[実験例3:加圧解砕後の粒度の分布]
前記実施例1、比較例1で製造された正極活物質を、Carver_4350を利用して加圧した。具体的に、実施例1、比較例1で製造された正極活物質3gをそれぞれ円柱形のモールドに投入した後、2.5トンの圧力で正極活物質が入ってあるモールドを加圧した。その後、レーザー回折法(laser diffraction method、Microtrac)を利用して加圧解砕された正極活物質の粒度を測定し、その結果を下記表2及び図5に示した。
【0096】
【表2】
【0097】
前記表2及び図5に示す通り、コバルト(Co)シェル部を有する前駆体を用いた実施例1の正極活物質は、加圧せずに解砕した時のD50に対する、2.5tonで加圧した後の、すなわち、圧力によって解砕された状態のD50の変化が1.6で小さい反面、前駆体がコバルト(Co)シェル部を有しない比較例1は、D50の変化が2.3で実施例1に比べて大きく表れた。これを介し、加圧せずに解砕した時の解砕度は、比較例1が実施例1に比べて低いことが分かる。
【0098】
[実験例4:リチウム副産物の測定]
前記実施例1、比較例1で製造されたそれぞれの正極活物質5gを水100mLに分散させた後、0.1MのHClで滴定しながらpH値の変化を測定してpH滴定曲線(pH titration Curve)を得た。前記pH滴定曲線を利用して各正極活物質内のLiOHの残留量とLiCOの残留量を計算し、これらを合算した値を全リチウム副産物の残留量として評価し、下記表3に示した。
【0099】
【表3】
【0100】
前記表3に示す通り、実施例1で製造された正極活物質は、リチウム副産物の含量が0.15重量%以下で、比較例1の正極活物質よりリチウム副産物の含量が減少した。
図1
図2
図3
図4
図5