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特許7034321前処理液、インクセット、画像記録用基材、画像記録用基材の製造方法、画像記録物、及び画像記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】前処理液、インクセット、画像記録用基材、画像記録用基材の製造方法、画像記録物、及び画像記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20220304BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20220304BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41M5/00 112
C09D11/54
B41J2/01 123
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020548245
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034033
(87)【国際公開番号】W WO2020066454
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2018180921
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白兼 研史
(72)【発明者】
【氏名】小林 将一朗
(72)【発明者】
【氏名】藤井 勇介
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-013349(JP,A)
【文献】特開2010-023266(JP,A)
【文献】特開2017-222833(JP,A)
【文献】国際公開第2017/013984(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/163738(WO,A1)
【文献】特開2013-001854(JP,A)
【文献】特開2016-204524(JP,A)
【文献】特開2019-111687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
C09D 11/54
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非浸透性基材上への画像記録の前に行われる前記非浸透性基材の前処理に用いられる前処理液であって、
凝集剤と、樹脂と、水性媒体と、を含有し、
前記樹脂が、下記構造単位(1)、下記構造単位(2)、及び下記構造単位(3)からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記樹脂のガラス転移温度が、-40℃~90℃であり、
前記樹脂において、炭素数2以上の鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造単位の含有量が、前記樹脂の全体に対し、5質量%未満である前処理液。
【化1】


構造単位(1)、構造単位(2)、及び構造単位(3)中、Rは、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
構造単位(1)中、
は、-NH-又は-N(L-Y)-を表し、
は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、-O-、-NH-、-N(L-Y)-、及び-C(=O)-からなる第1群から選択される1種である2価の基、前記第1群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は、単結合を表し、
は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rを表し、
、L、及びYのうちの2つは、互いに連結し、環を形成してもよい。
構造単位(2)中、
は、前記第1群から選択される1種である2価の基、又は、前記第1群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基を表し、
は、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rを表し、前記L及び前記Yは、互いに連結し、環を形成してもよいを表し、
及びYは、互いに連結し、環を形成してもよい。
構造単位(1)及び構造単位(2)中、
は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、-O-、-NH-、及び-C(=O)-からなる第2群から選択される1種である2価の基、前記第2群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は、単結合を表し、
は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rを表し、
及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す。
構造単位(1)及び構造単位(2)中、
-N(L-Y)-におけるL及びYは、互いに連結し、環を形成してもよく、
-NRにおけるR及びRは、互いに連結し、環を形成してもよい。
【請求項2】
前記樹脂が、更に、下記構造単位(A)、下記構造単位(B)、下記構造単位(C)、下記構造単位(D)、下記構造単位(E)、及び下記構造単位(F)からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の前処理液。
【化2】


構造単位(A)、構造単位(B)、構造単位(C)、構造単位(D)、構造単位(E)、及び構造単位(F)中、Rは、水素原子又はメチルを表し、Rは、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表し、mは、0~5の整数を表し、nは、0~11の整数を表し、Lは、炭素数1~18のアルキレン基、炭素数6~18のアリーレン基、-O-、-NH-、-S-、及び-C(=O)-からなる第3群から選択される1種である2価の基、前記第3群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は、単結合を表す。
【請求項3】
前記樹脂が、前記構造単位(A)及び前記構造単位(B)からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項2に記載の前処理液。
【請求項4】
前記構造単位(2)中、前記Yは、ハロゲン原子、-OH、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rを表し、前記L及び前記Yは、互いに連結し、環を形成してもよい請求項2又は請求項3に記載の前処理液。
【請求項5】
前記構造単位(1)、前記構造単位(2)、及び前記構造単位(3)の総含有量が、前記樹脂の全体に対し、5質量%~80質量%である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項6】
前記構造単位(1)、前記構造単位(2)、及び前記構造単位(3)の総含有量が、前記樹脂の全体に対し、10質量%~60質量%である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項7】
前記樹脂が、前記構造単位(1)及び前記構造単位(2)からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項8】
前記樹脂のガラス転移温度が、-20℃~90℃である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項9】
前記樹脂のガラス転移温度が、-10℃~60℃である請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項10】
前記樹脂が、更に、下記構造単位(4)を含む請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の前処理液。
【化3】


構造単位(4)中、Rはメチル基又は水素原子を表し、Lは、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、-O-、-NH-、-S-、-C(=O)-、及び-CH(-OH)-からなる第4群から選択される1種である2価の基、前記第4群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は単結合を表し、Mは、水素原子又は陽イオンを表す。
【請求項11】
前記樹脂と前記水性媒体とのHansen溶解度パラメータの距離が、33MPa1/2~40MPa1/2である請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項12】
前記凝集剤に対する前記樹脂の含有質量比が、1.0~10である請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項13】
前記樹脂と前記凝集剤とのHansen溶解度パラメータの距離が、5MPa1/2~28MPa1/2である請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項14】
非浸透性基材上への画像記録に用いられるインクセットであって、
請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の前処理液と、
水及び着色剤を含有するインクと、
を備えるインクセット。
【請求項15】
非浸透性基材と、
前記非浸透性基材の少なくとも一方の面上に配置され、請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の前処理液中の固形分を含む前処理層と、
を備える画像記録用基材。
【請求項16】
非浸透性基材上に、請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の前処理液を付与する工程を含む画像記録用基材の製造方法。
【請求項17】
非浸透性基材と、
前記非浸透性基材の少なくとも一方の面上に配置され、請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の前処理液中の固形分と着色剤とを含有する画像と、
を備える画像記録物。
【請求項18】
非浸透性基材上に、請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の前処理液を付与する工程と、
前記非浸透性基材の前記前処理液が付与された面上に、水及び着色剤を含有するインクを付与して画像を記録する工程と、
を含む画像記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本開示は、前処理液、インクセット、画像記録用基材、画像記録用基材の製造方法、画像記録物、及び画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】

従来、インク及び処理液を用いた画像記録に関し、様々な検討がなされている。

例えば、特許文献1には、所望とする濃度のベタ画像部が得られ、筋状のムラの発生を抑制できるインクセットとして、着色剤及び水を含むインクと、処理液と、を有するインクセットが開示されている。この処理液は、スルホ基及びスルホ基の塩から選ばれる少なくとも一つの基を含む第1の単量体に由来の構成単位、及び、芳香環構造及び脂環構造から選ばれる少なくとも一つの構造を含む第2の単量体に由来の構成単位を有する水不溶性樹脂の粒子と、インク中の着色剤を凝集させる化合物と、水と、を含んでいる。

また、特許文献2には、光沢度が高い記録物を与えることのできる記録方法として、被記録媒体に対して前処理液を塗布し、乾燥温度T1で乾燥させる第1乾燥工程と、前処理液が塗布された被記録媒体に対して、インクを付着させ、乾燥温度T2で乾燥させる第2乾燥工程と、インクが付着した被記録媒体に対して、後処理液を塗布し、乾燥温度T3で乾燥させる第3乾燥工程と、を有し、前処理液が、ガラス転移温度Tg1を有する樹脂を含み、インクが、ガラス転移温度Tg2を有する樹脂を含み、後処理液が、ガラス転移温度Tg3を有する樹脂を含み、下記関係(1)及び(2)を満たす、記録方法が開示されている

Tg1<Tg2<Tg3 (1)

T1<T2<T3 (2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】

【文献】国際公開第2017/163738号
【文献】特開2017-13350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】

特許文献1及び特許文献2に記載の技術を、非浸透性基材上に前処理液を付与し、非浸透性基材の前処理液が付与された面上に画像を記録する態様の画像記録に適用した場合において、非浸透性基材に対する画像の密着性をより向上させることが求められる場合がある。
【0005】

本開示は、上記事情に鑑みてなされた。

本開示の第1態様の課題は、非浸透性基材上への画像記録の前に行われる上記非浸透性基材の前処理に用いられる前処理液であって、非浸透性基材に対する画像の密着性を向上させることができる前処理液を提供することである。

本開示の第2態様の課題は、非浸透性基材に対する密着性に優れた画像を記録できるインクセットを提供することである。

本開示の第3態様の課題は、密着性に優れた画像を記録できる画像記録用基材を提供することである。

本開示の第4態様の課題は、上記画像記録用基材を製造できる画像記録用基材の製造方法を提供することである。

本開示の第5態様の課題は、非浸透性基材と、非浸透性基材に対する密着性に優れた画像と、を備える画像記録物を提供することである。

本開示の第6態様の課題は、非浸透性基材上に対する密着性に優れた画像を記録できる画像記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】

課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。

<1> 非浸透性基材上への画像記録の前に行われる非浸透性基材の前処理に用いられる前処理液であって、

凝集剤と、樹脂と、水性媒体と、を含有し、

樹脂が、下記構造単位(1)、下記構造単位(2)、及び下記構造単位(3)からなる群から選択される少なくとも1種を含み、

樹脂のガラス転移温度が、-40℃以上100℃未満である前処理液。
【0007】

【化1】
【0008】

構造単位(1)、構造単位(2)、及び構造単位(3)中、Rは、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。

構造単位(1)中、

は、-NH-又は-N(L-Y)-を表し、

は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、-O-、-NH-、-N(L-Y)-、及び-C(=O)-からなる第1群から選択される1種である2価の基、第1群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は、単結合を表し、

は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rを表し、

、L、及びYのうちの2つは、互いに連結し、環を形成してもよい。

構造単位(2)中、

は、第1群から選択される1種である2価の基、又は、第1群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基を表し、

は、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rを表し、

及びYは、互いに連結し、環を形成してもよい。

構造単位(1)及び構造単位(2)中、

は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、-O-、-NH-、及び-C(=O)-からなる第2群から選択される1種である2価の基、第2群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は、単結合を表し、

は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rを表し、

及びRは、それぞれ独立に、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基、又はアリール基を表す。

構造単位(1)及び構造単位(2)中、

-N(L-Y)-におけるL及びYは、互いに連結し、環を形成してもよく、

-NRにおけるR及びRは、互いに連結し、環を形成してもよい。
【0009】

<2> 樹脂が、更に、下記構造単位(A)、下記構造単位(B)、下記構造単位(C)、下記構造単位(D)、下記構造単位(E)、及び下記構造単位(F)からなる群から選択される少なくとも1種を含む<1>に記載の前処理液。
【0010】

【化2】
【0011】

構造単位(A)、構造単位(B)、構造単位(C)、構造単位(D)、構造単位(E)、及び構造単位(F)中、Rは、水素原子又はメチルを表し、Rは、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表し、mは、0~5の整数を表し、nは、0~11の整数を表し、Lは、炭素数1~18のアルキレン基、炭素数6~18のアリーレン基、-O-、-NH-、-S-、及び-C(=O)-からなる第3群から選択される1種である2価の基、第3群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は、単結合を表す。
【0012】

<3> 樹脂が、構造単位(A)及び構造単位(B)からなる群から選択される少なくとも1種を含む<2>に記載の前処理液。

<4> 構造単位(1)、構造単位(2)、及び構造単位(3)の総含有量が、樹脂の全体に対し、5質量%~80質量%である<1>~<3>のいずれか1つに記載の前処理液。

<5> 構造単位(1)、構造単位(2)、及び構造単位(3)の総含有量が、樹脂の全体に対し、10質量%~60質量%である<1>~<4>のいずれか1つに記載の前処理液。

<6> 樹脂が、構造単位(1)及び構造単位(2)からなる群から選択される少なくとも1種を含む<1>~<5>のいずれか1つに記載の前処理液。

<7> 樹脂のガラス転移温度が、-20℃~90℃である<1>~<6>のいずれか1つに記載の前処理液。

<8> 樹脂のガラス転移温度が、-10℃~60℃である<1>~<7>のいずれか1つに記載の前処理液。
【0013】

<9> 樹脂が、更に、下記構造単位(4)を含む<1>~<8>のいずれか1つに記載の前処理液。
【0014】

【化3】
【0015】

構造単位(4)中、Rはメチル基又は水素原子を表し、Lは、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、-O-、-NH-、-S-、-C(=O)-、及び-CH(-OH)-からなる第4群から選択される1種である2価の基、第4群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は単結合を表し、Mは、水素原子又は陽イオンを表す。
【0016】

<10> 樹脂において、炭素数2以上の鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造単位の含有量が、樹脂の全体に対し、5質量%未満である<1>~<9>のいずれか1つに記載の前処理液。

<11> 樹脂と水性媒体とのHansen溶解度パラメータの距離が、33MPa1/2~40MPa1/2である<1>~<10>のいずれか1つに記載の前処理液。

<12> 凝集剤に対する樹脂の含有質量比が、1.0~10である<1>~<11>のいずれか1つに記載の前処理液。

<13> 樹脂と凝集剤とのHansen溶解度パラメータの距離が、5MPa1/2~28MPa1/2である<1>~<12>のいずれか1つに記載の前処理液。

<14> 非浸透性基材上への画像記録に用いられるインクセットであって、

<1>~<13>のいずれか1つに記載の前処理液と、

水及び着色剤を含有するインクと、を備えるインクセット。

<15> 非浸透性基材と、

非浸透性基材の少なくとも一方の面上に配置され、<1>~<13>のいずれか1つに記載の前処理液中の固形分を含む前処理層と、を備える画像記録用基材。

<16> 非浸透性基材上に、<1>~<13>のいずれか1つに記載の前処理液を付与する工程を含む画像記録用基材の製造方法。

<17> 非浸透性基材と、

非浸透性基材の少なくとも一方の面上に配置され、<1>~<13>のいずれか1つに記載の前処理液中の固形分と着色剤とを含有する画像と、を備える画像記録物。

<18> 非浸透性基材上に、<1>~<13>のいずれか1つに記載の前処理液を付与する工程と、

非浸透性基材の前処理液が付与された面上に、水及び着色剤を含有するインクを付与して画像を記録する工程と、を含む画像記録方法。
【発明の効果】
【0017】

本開示の第1態様によれば、非浸透性基材上への画像記録の前に行われる上記非浸透性基材の前処理に用いられる前処理液であって、非浸透性基材に対する画像の密着性を向上させることができる前処理液が提供される。

本開示の第2態様によれば、非浸透性基材に対する密着性に優れた画像を記録できるインクセットが提供される。

本開示の第3態様によれば、密着性に優れた画像を記録できる画像記録用基材が提供される。

本開示の第4態様によれば、上記画像記録用基材を製造できる画像記録用基材の製造方法が提供される。

本開示の第5態様によれば、非浸透性基材と、この非浸透性基材に対する密着性に優れた画像と、を備える画像記録物が提供される。

本開示の第6態様によれば、非浸透性基材上に、この非浸透性基材に対する密着性に優れた画像を記録できる画像記録方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】

本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。

本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。

本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。

本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。

本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。

本開示において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルの両方を包含する概念である。

本開示において、化学式中の「*」は、結合位置を表す。
【0019】

〔前処理液〕

本開示の前処理液は、非浸透性基材上への画像記録の前に行われる上記非浸透性基材の前処理に用いられる前処理液であって、

凝集剤と、樹脂と、水性媒体と、を含有し、

上記樹脂が、下記構造単位(1)、下記構造単位(2)、及び下記構造単位(3)からなる群から選択される少なくとも1種を含み、

上記樹脂のガラス転移温度が-40℃以上100℃未満である。

本開示では、上記樹脂を、特定樹脂と称することがある。
【0020】

【化4】
【0021】

構造単位(1)~構造単位(3)中、Rは、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。

構造単位(1)中、

は、-NH-又は-N(L-Y)-を表し、

は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、-O-、-NH-、-N(L-Y)-、及び-C(=O)-からなる第1群から選択される1種である2価の基、第1群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は、単結合を表し、

は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rを表し、

、L、及びYのうちの2つは、互いに連結し、環を形成してもよい。

構造単位(2)中、Lは、第1群から選択される1種である2価の基、又は、第1群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基を表し、

は、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rを表し、

及びYは、互いに連結し、環を形成してもよい。

構造単位(1)及び構造単位(2)中、

は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、-O-、-NH-、及び-C(=O)-からなる第2群から選択される1種である2価の基、第2群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は、単結合を表し、

は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rを表し、

及びRは、それぞれ独立に、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基、又はアリール基を表す。

構造単位(1)及び構造単位(2)中、

-N(L-Y)-におけるL及びYは、互いに連結し、環を形成してもよく、

-NRにおけるR及びRは、互いに連結し、環を形成してもよい。
【0022】

本開示において、構造単位(1)中に、例えばLが複数含まれる場合があるが、この場合の複数含まれるLは、同一であっても異なっていてもよい。他の基(例えばY)についても同様である。

他の構造単位についても同様である。
【0023】

本開示の前処理液は、上述したとおり、非浸透性基材上への画像記録の前に行われる上記非浸透性基材の前処理に用いられる前処理液である。

即ち、本開示の前処理液は、非浸透性基材上に、凝集剤と樹脂と水性媒体とを含有する前処理液を付与し、次いで、非浸透性基材の前処理液が付与された面上にインクを付与して画像を記録する態様の画像記録における、上記前処理液として用いられるものである。

上記態様の画像記録では、非浸透性基材上に付与されたインク中の成分(着色剤等)が、凝集剤の作用によって凝集し、画像が記録される。これにより、精細さに優れた画像が記録される。また、前処理液が凝集剤を含むことは、画像記録の高速化にも寄与する。

また、前処理液中の樹脂は、非浸透性基材に対する画像の密着性を確保することを意図した成分である。
【0024】

本開示において、「画像」とは、前処理液に由来する層(以下、「前処理層」ともいう)と、インクに由来する層(以下、「インク層」ともいう)と、を合わせた膜を意味する。前処理層は、非浸透性基材とインク層との間に配置される。

ここで、インク層と前処理層との界面は、必ずしも明確である必要はない。

例えば、画像(膜)の組成が、層厚方向について連続的に変化していてもよい。
【0025】

本開示の前処理液によれば、上記態様の画像記録において、非浸透性基材に対する画像の密着性を向上させることができる。

かかる効果が奏される理由は明らかではないが、以下のように推測される。
【0026】

本発明者等の検討により、上記態様の画像記録において、非浸透性基材に対する画像の密着性が不足する場合があることが判明した。

密着性不足の原因は明らかではないが、一因として、記録された画像中(即ち、前処理層中及び/又はインク層中)で凝集剤が結晶化し、画像の膜強度が低下することが考えられる。

本開示の前処理液では、前処理液に含有される特定樹脂が、親水性の構造単位である、構造単位(1)、構造単位(2)、及び構造単位(3)からなる群から選択される少なくとも1種(以下、「特定親水性構造単位」ともいう)を含むことと、特定樹脂のガラス転移温度が-40℃以上100℃未満であることと、の組み合わせの効果により、上述した凝集剤の結晶化が抑制され、その結果、非浸透性基材に対する画像の密着性の不足が解消される(即ち、密着性が向上する)と考えられる。
【0027】

<非浸透性基材>

本開示の前処理液は、非浸透性基材上への画像記録における、上記非浸透性基材の前処理に用いられるものである。

本開示において、非浸透性基材における非浸透性とは、ASTM D570に準拠して測定された24時間での吸水率が2.5%以下である性質を指す。

ここで、吸水率の単位である「%」は、質量基準である。

上記吸水率としては、1.0%以下が好ましく、0.5%以下が好ましい。
【0028】

非浸透性基材の材質としては、例えば、ガラス、金属(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ナイロン、アクリル樹脂、等)などが挙げられる。
【0029】

非浸透性基材の形状は、シート状(フィルム状)又は板状が好適である。

かかる形状の非浸透性基材としては、ガラス板、金属板、樹脂シート(樹脂フィルム)、プラスチックがラミネートされた紙、金属がラミネート又は蒸着された紙、金属がラミネート又は蒸着されたプラスチックシート(プラスチックフィルム)、等が挙げられる。
【0030】

また、非浸透性基材の厚みは、0.1μm~1,000μmであることが好ましく、0.1μm~800μmであることがより好ましく、1μm~500μmであることが更に好ましい。
【0031】

非浸透性基材の材質としては、樹脂が好ましい。

樹脂の例については前述のとおりであるが、汎用性の点から、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル樹脂、又はポリ塩化ビニル樹脂が好ましい。

樹脂製の非浸透性基材としては、樹脂シート(樹脂フィルム)が挙げられ、より具体的には、食品等を包装する軟包装材、量販店のフロア案内用のパネルなどが挙げられる。
【0032】

非浸透性基材としては、シート状(フィルム状)又は板状の非浸透性基材以外にも、非浸透性を有する繊維によって形成された、テキスタイル(織物)又は不織布も挙げられる。
【0033】

非浸透性基材には、親水化処理が施されてもよい。

親水化処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、熱処理、摩耗処理、光照射処理(例えばUV処理)、火炎処理等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。

コロナ処理は、例えば、コロナマスター(信光電気計社製、PS-10S)等を用いて行なうことができる。コロナ処理の条件は、非浸透性基材の種類などに応じて適宜選択すればよい。
【0034】

前述したとおり、本開示の前処理液は、非浸透性基材に対して用いられるものである。

但し、本開示の前処理液は、非浸透性基材と、浸透性基材(例えば、浸透性の紙、浸透性のテキスタイル、浸透性の不織布、等)と、の両方に対して用いられてもよい。

ここで、浸透性基材における浸透性とは、上述した吸水率が2.5%超である性質を指す。
【0035】

次に、本開示の前処理液に含有され得る各成分について説明する。
【0036】

<凝集剤>

本開示の前処理液は、凝集剤を含有する。

凝集剤は、画像記録に用いるインク中の成分(例えば着色剤)を凝集させるための成分である。

本開示の前処理液に含有される凝集剤は、1種のみであっても2種以上であってもよい。

凝集剤としては、多価金属化合物、有機酸、金属錯体、及び水溶性カチオン性ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。

凝集剤は、多価金属化合物、有機酸、及び金属錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、有機酸を含むことがより好ましい。
【0037】

-多価金属化合物-

多価金属化合物としては、周期表の第2族のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3族の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13族からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。

これらの金属の塩としては、後述する有機酸の塩、硝酸塩、塩化物、又はチオシアン酸塩が好適である。

中でも、好ましくは、有機酸(ギ酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩若しくはマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩若しくはマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、又は、チオシアン酸のカルシウム塩若しくはマグネシウム塩である。

多価金属化合物は、処理液中において、少なくとも一部が多価金属イオンと対イオンとに解離していることが好ましい。
【0038】

-有機酸-

有機酸としては、酸性基を有する有機化合物が挙げられる。

酸性基としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、カルボキシ基等を挙げることができる。

上記酸性基は、インクの凝集速度の観点から、リン酸基又はカルボキシ基であることが好ましく、カルボキシ基であることがより好ましい。

なお、上記酸性基は、処理液中において、少なくとも一部が解離していることが好ましい。
【0039】

カルボキシ基を有する有機化合物としては、(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸、酢酸、蟻酸、安息香酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸(好ましくは、DL-リンゴ酸)、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、アジピン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、4-メチルフタル酸、乳酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、等が好ましい。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0040】

カルボキシ基を有する有機化合物としては、インクの凝集速度の観点から、2価以上のカルボン酸(以下、多価カルボン酸ともいう。)が好ましく、ジカルボン酸がより好ましい。

多価カルボン酸としては、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、酒石酸、4-メチルフタル酸、又はクエン酸が好ましく、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルタル酸、又はクエン酸がより好ましい。
【0041】

有機酸は、pKaが低い(例えば、1.0~5.0)ことが好ましい。

これにより、カルボキシ基等の弱酸性の官能基で分散安定化しているインク中の顔料、ポリマー粒子などの粒子の表面電荷を、よりpKaの低い有機酸性化合物と接触させることにより減じ、分散安定性を低下させることができる。
【0042】

有機酸は、pKaが低く、水に対する溶解度が高く、価数が2価以上であることが好ましく、インク中の粒子を分散安定化させている官能基(例えば、カルボキシ基等)のpKaよりも低いpH領域に高い緩衝能を有する2価又は3価の酸性物質であることがより好ましい。
【0043】

-金属錯体-

金属錯体としては、金属元素として、ジルコニウム、アルミニウム、及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属錯体が好ましい。

金属錯体としては、配位子として、アセテート、アセチルアセトネート、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、オクチレングリコレート、ブトキシアセチルアセトネート、ラクテート、ラクテートアンモニウム塩、及びトリエタノールアミネートからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属錯体が好ましい。
【0044】

金属錯体としては、様々な金属錯体が市販されており、本開示においては、市販の金属錯体を使用してもよい。また、様々な有機配位子、特に金属キレート触媒を形成し得る様々な多座配位子が市販されている。そのため、市販の有機配位子と金属とを組み合わせて調製した金属錯体を使用してもよい。
【0045】

金属錯体としては、例えば、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックスZC-150」)、ジルコニウムモノアセチルアセトネート(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックスZC-540」)、ジルコニウムビスアセチルアセトネート(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックスZC-550」)、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックスZC-560」)、ジルコニウムアセテート(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックスZC-115」)、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス TC-100」)、チタンテトラアセチルアセトネート(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス TC-401」)、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス TC-200」)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス TC-750」)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス ZC-700」)、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス ZC-540」)、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネート ビス(エチルアセトアセテート)(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス ZC-570」))、ジルコニウムジブトキシ ビス(エチルアセトアセテート)(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス ZC-580」)、アルミニウムトリスアセチルアセトネート(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス AL-80」)、チタンラクテートアンモニウム塩(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス TC-300」)、チタンラクテート(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス TC-310、315」)、チタントリエタノールアミネート(マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス TC-400」)、塩化ジルコニル化合物(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス ZC-126」)が挙げられる。

これらの中で、チタンラクテートアンモニウム塩(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス TC-300」)、チタンラクテート(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス TC-310、315」)、チタントリエタノールアミネート(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス TC-400」)、又は塩化ジルコニル化合物(例えば、マツモトファインケミカル(株)製「オルガチックス ZC-126」)が好ましい。
【0046】

-水溶性カチオン性ポリマー-

水溶性カチオン性ポリマーとしては、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体、ポリ-2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロリド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、等が挙げられる。

水溶性カチオン性ポリマーについては、特開2011-042150号公報(特に、段落0156)、特開2007-98610号公報(特に、段落0096~0108)等の公知文献の記載を適宜参照できる。

水溶性カチオン性ポリマーの市販品としては、シャロール(登録商標)DC-303P、シャロールDC-902P(以上、第一工業製薬(株)製)、カチオマスター(登録商標)PD-7、カチオマスターPD-30(以上、四日市合成(株)製)、ユニセンスFPA100L(センカ(株)製)等が挙げられる。
【0047】

本開示において、「水溶性」とは、25℃の水100gに対して1g以上(好ましくは3g以上、より好ましくは10g以上)溶解する性質を意味する。
【0048】

前処理液中における凝集剤の含有量は、前処理液の全量に対し、0.1質量%~40質量%であることが好ましく、0.1質量%~30質量%であることがより好ましく、1質量%~20質量%であることが更に好ましく、1質量%~10質量%であることが特に好ましい。
【0049】

<水性媒体>

本開示の前処理液は、水性媒体を含有する。

本開示の前処理液に含有される水性媒体は、1種のみであっても2種以上であってもよい。

水性媒体としては、水、水溶性有機溶剤、等が挙げられる。

水性媒体は、水及び水溶性有機溶剤であることがより好ましい。

水としては、イオン交換水、蒸留水等が挙げられる。
【0050】

水性媒体の含有量は、前処理液の全量に対し、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。

水性媒体の含有量の上限は、凝集剤等の他の成分の量にもよるが、例えば95質量%であり、好ましくは90質量%であり、より好ましくは85質量%である。
【0051】

水性媒体が水を含む場合、水の含有量は、前処理液の全量に対し、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。

水の含有量の上限は、凝集剤等の他の成分の量にもよるが、例えば95質量%であり、好ましくは90質量%であり、より好ましくは85質量%である。
【0052】

水溶性有機溶剤としては、例えば、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール等)、ポリアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等)などの多価アルコール;ポリアルキレングリコールエーテル(例えば、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル等)などの多価アルコールエーテル;特開2011-42150号公報の段落0116に記載の、糖アルコール類、ヒアルロン酸類、炭素原子数1~4のアルキルアルコール類、グリコールエーテル類、2-ピロリドン、及びN-メチル-2-ピロリドン;等が挙げられる。

中でも、成分の転写の抑制の観点から、多価アルコール、又は、多価アルコールエーテルが好ましく、アルカンジオール、ポリアルキレングリコール、又は、ポリアルキレングリコールエーテルがより好ましい。
【0053】

前処理液が水溶性有機溶剤を含有する場合、前処理液中における水溶性有機溶剤の含有量は、前処理液の全量に対し、好ましくは1質量%~25質量%であり、より好ましくは2質量%~20質量%であり、更に好ましくは3質量%~15質量%である。
【0054】

<特定樹脂>

本開示の前処理液は、特定樹脂を含有する。

特定樹脂は、下記構造単位(1)、下記構造単位(2)、及び下記構造単位(3)からなる群から選択される少なくとも1種を含み、かつ、ガラス転移温度が-40℃以上100℃未満である樹脂である。

本開示の前処理液に含有される特定樹脂は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0055】

(ガラス転移温度)

特定樹脂のガラス転移温度は、-40℃以上100℃未満である。

特定樹脂のガラス転移温度が-40℃以上100℃未満であることは、非浸透性基材に対する画像の密着性向上に寄与する。

詳細には、特定樹脂のガラス転移温度が100℃未満であることにより、特定樹脂の造膜性が向上し、画像の密着性が向上する。

特定樹脂のガラス転移温度が-40℃以上であることにより、画像の膜強度が向上し、画像の密着性が向上する。また、特定樹脂のガラス転移温度が-40℃以上であることは、前処理液の経時安定性(詳細には、前処理液中の特定樹脂の分散安定性。以下同じ。)の点でも有利である。
【0056】

本開示において、特定樹脂のガラス転移温度(以下、Tgともいう)は、示差走査熱量測定(DSC)を用い、JIS K 7121(1987年)又はJIS K 6240(2011年)に記載の方法に準じて測定された、補外ガラス転移開始温度(以下、Tigともいう)を意味する。

本開示におけるTg(即ち、Tig)の測定方法をより具体的に説明する。

まず、予想される樹脂のTgより約50℃低い温度にて装置が安定するまで保持した後、加熱速度:20℃/分で、ガラス転移が終了した温度よりも約30℃高い温度まで加熱し,示差熱分析(DTA)曲線又はDSC曲線を作成する。

DTA曲線又はDSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になる点で引いた接線と、の交点の温度を、Tg(即ち、Tig)とする。
【0057】

また、前処理液が特定樹脂を2種以上含有する場合には、前処理液に含有される個々の特定樹脂のガラス転移温度を、個々の特定樹脂の質量分率に応じて加重平均し、得られた加重平均値を、前処理液に含有される特定樹脂のガラス転移温度(Tg)とする。
【0058】

非浸透性基材に対する画像の密着性をより向上させる観点から、特定樹脂のガラス転移温度は、好ましくは90℃以下であり、より好ましくは60℃以下であり、更に好ましくは30℃以下である。

同様に、非浸透性基材に対する画像の密着性及び前処理液の経時安定性をより向上させる観点から、特定樹脂のガラス転移温度は、好ましくは-35℃以上であり、より好ましくは-30℃以上であり、更に好ましくは-20℃以上であり、更に好ましくは-10℃以上であり、更に好ましくは0℃以上である。
【0059】

(構造単位(1)~構造単位(3):特定親水性構造単位)

特定樹脂は、特定親水性構造単位、即ち、構造単位(1)~構造単位(3)からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0060】

-構造単位(1)-
【0061】

【化5】
【0062】

構造単位(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。

構造単位(1)中、Rとしては、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0063】

構造単位(1)中、Aは、-NH-又は-N(L-Y)-を表す。

-N(L-Y)-については後述する。
【0064】

構造単位(1)中、Lは、第1群(即ち、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、-O-、-NH-、-N(L-Y)-、及び-C(=O)-からなる第1群)から選択される1種である2価の基、第1群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は、単結合を表す。

-N(L-Y)-については後述する。
【0065】

構造単位(1)中のLにおける、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基の各々は、直鎖状であってもよいし、分岐構造を有していてもよい。
【0066】

構造単位(1)中のLにおける、アルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基の各々は、置換基を有していてもよい。この場合の置換基としては、後述する構造単位(2)中のYと同様の基(即ち、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、及び-C(=O)Rからなる群から選択される少なくとも1種、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す)が好ましい。

構造単位(1)中のLにおけるアリーレン基は、置換基を有していてもよい。この場合の置換基としては、後述するYと同様の基(即ち、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、及び-C(=O)Rからなる群から選択される少なくとも1種、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す)が好ましい。
【0067】

構造単位(1)全体の親水性をより高める観点から、構造単位(1)中のLにおける、アルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基の各々の炭素数は、好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4であり、更に好ましくは1又は2である。

構造単位(1)全体の親水性をより高める観点から、構造単位(1)中のLにおける、アリーレン基としては、フェニレン基又はナフチレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
【0068】

で表される「第1群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基」としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、及びアリーレン基のうちの少なくとも1つと、-O-、-NH-、-N(L-Y)-、及び-C(=O)-のうちの少なくとも1つと、を組み合わせた2価の基が好ましく、下記基(AO2)が特に好ましい。
【0069】

【化6】
【0070】

基(AO2)中、R1A及びR2Aは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、nは、1~8の整数(好ましくは1~4の整数、より好ましくは1又は2)を表し、*1は、Aとの結合位置を表し、*2は、Yとの結合位置を表す。

1A及びR2Aの一方がメチル基である場合、他方は水素原子であることが好ましい。
【0071】

構造単位(1)中のLとしては、単結合、炭素数1~6(より好ましくは1~4、更に好ましくは1又は2)のアルキレン基、ヒドロキシ基で置換された炭素数1~6(より好ましくは1~4、更に好ましくは1又は2)のアルキレン基、又は、基(AO2)が好ましく、単結合又は炭素数1~6(より好ましくは1~4、更に好ましくは1又は2)のアルキレン基がより好ましい。
【0072】

構造単位(1)中、Yは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rを表す。

及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す。
【0073】

構造単位(1)中のYにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が好ましく、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子がより好ましく、フッ素原子又は塩素原子が更に好ましい。
【0074】

構造単位(1)中のYにおける、アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基の各々は、直鎖状であってもよいし、分岐構造を有していてもよい。
【0075】

構造単位(1)中のYにおける、アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基の各々の炭素数は、好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4であり、更に好ましくは1又は2である。
【0076】

構造単位(1)中のYにおけるアリール基としては、フェニル基又はナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。

構造単位(1)中のYにおけるアリール基は、置換基を有していてもよい。この場合の置換基としては、このYと同様の基(即ち、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、及び-C(=O)Rからなる群から選択される少なくとも1種、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す)が好ましい。
【0077】

構造単位(1)中のYとしては、炭素数1~6(より好ましくは1~4、更に好ましくは1又は2)のアルキル基、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rが好ましい。

及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~6(より好ましくは1~4、更に好ましくは1又は2)のアルキル基が好ましい。
【0078】

構造単位(1)中、A、L及びYのうちの2つは、互いに連結し、環を形成してもよい。
【0079】

次に、A及びLにおける-N(L-Y)-について説明する。

-N(L-Y)-中、Lは、第2群(即ち、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、-O-、-NH-、及び-C(=O)-からなる第2群)から選択される1種である2価の基、第2群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は、単結合を表す。

第2群は、-N(L-Y)-がないことを除き、第1群と同様である。

-N(L-Y)-中、Yは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、又は-C(=O)Rを表す。

中、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す。

-NRにおけるR及びRは、互いに連結し、環を形成してもよい。

-N(L-Y)-におけるL及びYは、互いに連結し、環を形成してもよい。
【0080】

-N(L-Y)-中におけるLの好ましい態様は、Lの好ましい態様と同様である。

-N(L-Y)-中におけるLとしては、単結合、炭素数1~6(より好ましくは1~4、更に好ましくは1又は2)のアルキレン基、ヒドロキシ基で置換された炭素数1~6(より好ましくは1~4、更に好ましくは1又は2)のアルキレン基、又は、下記の基(AO4)が好ましく、単結合又は炭素数1~6(より好ましくは1~4、更に好ましくは1又は2)のアルキレン基がより好ましい。
【0081】

【化7】
【0082】

基(AO4)中、R1A及びR2Aは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、nは、1~8の整数(好ましくは1~4の整数、より好ましくは1又は2)を表し、*1は、N(窒素原子)との結合位置を表し、*2は、Yとの結合位置を表す。

1A及びR2Aの一方がメチル基である場合、他方は水素原子であることが好ましい。
【0083】

-N(L-Y)-中におけるLとしては、単結合又は炭素数1~6(より好ましくは1~4、更に好ましくは1又は2)のアルキレン基が更に好ましい。
【0084】

-N(L-Y)-中におけるYの好ましい態様は、Yの好ましい態様と同様である。
【0085】

構造単位(1)全体の親水性をより高める観点から、構造単位(1)全体の炭素数は、好ましくは30以下であり、より好ましくは20以下であり、更に好ましくは12以下であり、更に好ましくは8以下である。

また、構造単位(1)全体の炭素数は3以上であるが、好ましくは4以上である。
【0086】

また、構造単位(1)中、「-A-L-Y」は、以下の基(1A)~基(1H)のいずれか1つであることも好ましい。基(1A)~基(1H)において、*は、結合位置を表す。
【0087】

【化8】
【0088】

構造単位(1)は、(メタ)アクリルアミド化合物に由来する構造単位又は(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位であることが好ましい。

(メタ)アクリルアミド化合物及び(メタ)アクリロイルモルホリンの各々の好ましい炭素数は、それぞれ、構造単位(1)全体の好ましい炭素数と同様である。
【0089】

本開示において、(メタ)アクリルアミド化合物に由来する構造単位とは、(メタ)アクリルアミド化合物を原料として形成される構造単位を意味する。

その他の化合物に由来する構造単位についても同様である。
【0090】

以下、構造単位(1)の具体例を示すが、構造単位(1)は、以下の具体例には限定されない。
【0091】

【化9】
【0092】

-構造単位(2)-
【0093】

【化10】
【0094】

構造単位(2)中、Rは、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。

構造単位(2)中のRは、構造単位(1)中のRと同義であり、好ましい態様も同様である。
【0095】

構造単位(2)中、Lは、第1群(即ち、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、-O-、-NH-、-N(L-Y)-、及び-C(=O)-からなる第1群)から選択される1種である2価の基、又は、第1群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基を表す。

構造単位(2)中のLは、単結合ではない点で、構造単位(1)中のLとは異なる。
【0096】

構造単位(2)中のLにおける、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基の各々は、直鎖状であってもよいし、分岐構造を有していてもよい。
【0097】

構造単位(2)中のLにおける、アルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基の各々は、置換基を有していてもよい。この場合の置換基としては、後述するYと同様の基(即ち、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、及び-C(=O)Rからなる群から選択される少なくとも1種、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す)が好ましい。

構造単位(2)中のLにおけるアリーレン基は、置換基を有していてもよい。この場合の置換基としては、前述した構造単位(1)におけるYと同様の基(即ち、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、及び-C(=O)Rからなる群から選択される少なくとも1種、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す)が好ましい。
【0098】

構造単位(2)全体の親水性をより高める観点から、構造単位(2)中のLにおける、アルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基の各々の炭素数は、好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4であり、更に好ましくは1又は2である。

構造単位(2)全体の親水性をより高める観点から、構造単位(2)中のLにおける、アリーレン基としては、フェニレン基又はナフチレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
【0099】

で表される「第1群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基」としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、及びアリーレン基のうちの少なくとも1つと、-O-、-NH-、-N(L-Y)-、及び-C(=O)-のうちの少なくとも1つと、を組み合わせた2価の基が好ましく、下記基(AO3)が特に好ましい。
【0100】

【化11】
【0101】

基(AO3)中、R1A及びR2Aは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、nは、1~8の整数(好ましくは1~4の整数、より好ましくは1又は2)を表し、*1は、O(酸素原子)との結合位置を表し、*2は、Yとの結合位置を表す。

1A及びR2Aの一方がメチル基である場合、他方は水素原子であることが好ましい。
【0102】

構造単位(2)中のLとしては、炭素数1~6(より好ましくは1~4、更に好ましくは1又は2)のアルキレン基、ヒドロキシ基で置換された炭素数1~6(より好ましくは1~4、更に好ましくは1又は2)のアルキレン基、又は、基(AO3)が好ましい。
【0103】

構造単位(2)中、Yは、ハロゲン原子、-OH、-OR、-NH、-NRH、-NR、及び-C(=O)Rを表す。

及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す。
【0104】

構造単位(2)中のYは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアリール基のいずれでもない点で、構造単位(1)中のYとは異なる。

この点を除き、構造単位(2)中のYは、構造単位(1)中のYと同義であり、好ましい態様も同様である。

構造単位(2)中のYは、更に好ましくは、-OH、-NH、又は-NRHである。
【0105】

構造単位(2)における-N(L-Y)-は、構造単位(1)中における-N(L-Y)-と同義であり、好ましい態様も同様である。

構造単位(2)におけるR及びRは、それぞれ、構造単位(1)におけるR及びRと同義であり、好ましい態様も同様である。
【0106】

構造単位(2)中のL及びYは、互いに連結し、環を形成してもよい。
【0107】

構造単位(2)全体の親水性をより高める観点から、構造単位(2)全体の炭素数は、好ましくは30以下であり、より好ましくは20以下であり、より好ましくは12以下であり、更に好ましくは10以下である。

構造単位(2)全体の炭素数は3以上であるが、好ましくは4以上である。
【0108】

また、構造単位(2)中、「-L-Y」は、以下の基(2A)~基(2R)のいずれか1つであることも好ましい。基(2A)~基(2R)において、*は、結合位置を表す。
【0109】

【化12】
【0110】

構造単位(2)は、親水性基を有する(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位であることが好ましい。

親水性基を有する(メタ)アクリレート化合物における親水性基としては、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、メチルアミノ基、又はジメチルアミノ基が好ましい。

親水性基を有する(メタ)アクリレート化合物の好ましい炭素数は、それぞれ、構造単位(2)全体の好ましい炭素数と同様である。
【0111】

以下、構造単位(2)の具体例を示すが、構造単位(2)は、以下の具体例には限定されない。
【0112】

【化13】
【0113】

-構造単位(3)-
【0114】

【化14】
【0115】

構造単位(3)中、Rは、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。

構造単位(3)中のRは、構造単位(1)中のRと同義であり、好ましい態様も同様である。
【0116】

構造単位(3)は、(メタ)アクリルアミドに由来する構造単位であることが好ましい。

以下、構造単位(3)の具体例を示すが、構造単位(3)は、以下の具体例には限定されない。
【0117】

【化15】
【0118】

構造単位(1)、構造単位(2)、及び構造単位(3)の総含有量は、特定樹脂の全体に対し、好ましくは3質量%~85質量%である。

上記総含有量が3質量%~85質量%であると、非浸透性基材に対する画像の密着性がより向上する。

詳細には、上記総含有量が3質量%以上であると、特定親水性構造単位(即ち、構造単位(1)~構造単位(3)からなる群から選択される少なくとも1種)による効果がより効果的に発揮され、その結果、非浸透性基材に対する画像の密着性がより向上する。

上記総含有量が85質量%以下であると、前処理液の乾燥性がより向上し、その結果、非浸透性基材に対する画像の密着性がより向上する。

非浸透性基材に対する画像の密着性をより向上させる観点から、上記総含有量は、より好ましくは5質量%~80質量%であり、更に好ましくは10質量%~60質量%である。
【0119】

なお、言うまでもないが、「構造単位(1)、構造単位(2)、及び構造単位(3)の総含有量」との語は、必ずしも、特定樹脂が、構造単位(1)、構造単位(2)、及び構造単位(3)の全てを含むことを意味する語ではない。

例えば、特定樹脂が、構造単位(1)を含み、かつ、構造単位(2)及び構造単位(3)を含まない場合、「構造単位(1)、構造単位(2)、及び構造単位(3)の総含有量」は、構造単位(1)の含有量を意味する。
【0120】

特定樹脂は、前処理液の経時安定性(詳細には、前処理液中の特定樹脂の分散安定性。以下同じ。)をより向上させる観点から、構造単位(1)及び構造単位(2)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0121】

(構造単位(A)~構造単位(F))

特定樹脂は、非浸透性基材に対する画像の密着性をより向上させる観点から、更に、下記構造単位(A)、下記構造単位(B)、下記構造単位(C)、下記構造単位(D)、下記構造単位(E)、及び下記構造単位(F)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。

画像の密着性を更に向上させる観点から、特定樹脂は、下記構造単位(A)及び下記構造単位(B)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0122】

【化16】
【0123】

構造単位(A)~構造単位(F)中、Rは、水素原子又はメチルを表し、Rは、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表し、mは、0~5の整数を表し、nは、0~11の整数を表し、Lは、炭素数1~18のアルキレン基、炭素数6~18のアリーレン基、-O-、-NH-、-S-、及び-C(=O)-からなる第3群から選択される1種である2価の基、第3群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は、単結合を表す。
【0124】

構造単位(A)~構造単位(F)中、Rで表されるアルキル基の炭素数は、1~4が好ましく、1又は2がより好ましく、1が更に好ましい。

構造単位(A)~構造単位(F)中、Rで表される、アルケニル基及びアルキニル基の各々の炭素数は、2~4が好ましく、2又は3がより好ましく、2が更に好ましい。
【0125】

また、Rは、無置換の基でもよいし、置換基で置換された基でもよい。Rが置換基で置換されている場合、置換基としては、例えば、ハロゲン(例:塩素原子、臭素元素)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)などが挙げられる。
【0126】

構造単位(A)~構造単位(F)中、mは、構造単位(A)及び構造単位(B)の各々におけるベンゼン環に対する置換基Rの数を示している。

mは、0~5の整数であるが、0~3の整数が好ましく、0~2の整数がより好ましく、0又は1が更に好ましい。
【0127】

構造単位(A)~構造単位(F)中、nは、構造単位(C)におけるシクロヘキサン環に対する置換基Rの数を示している。

nは、0~11の整数であるが、0~6の整数が好ましく、0~2の整数がより好ましく、0又は1が更に好ましい。
【0128】

構造単位(A)~構造単位(F)中、Lは、炭素数1~18のアルキレン基、炭素数6~18のアリーレン基、-O-、-NH-、-S-、及び-C(=O)-からなる第3群から選択される1種である2価の基、第3群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は、単結合を表す。
【0129】

における炭素数1~18のアルキレン基は、直鎖状であってもよいし、分岐構造を有していてもよい。

における炭素数1~18のアルキレン基の炭素数としては、1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1又は2が更に好ましい。
【0130】

炭素数6~18のアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、トリル基などを挙げることができる。

における炭素数6~18のアリーレン基の炭素数としては、6~12が好ましく、6~10が更に好ましい。
【0131】

における、「第3群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基」としては、炭素数1~18のアルキレン基及び炭素数6~18のアリーレン基のうちの少なくとも1つと、-O-、-NH-、-S-、及び-C(=O)-のうちの少なくとも1つと、を組み合わせた2価の基が好ましく、下記基(AO5)又は下記基(AO6)が特に好ましい。
【0132】

【化17】
【0133】

基(AO5)中、R1A及びR2Aは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、nは、1~8の整数(好ましくは1~4の整数、より好ましくは1又は2)を表し、*1は、カルボニル炭素原子との結合位置を表し、*2は、非カルボニル炭素原子との結合位置を表す。

1A及びR2Aの一方がメチル基である場合、他方は水素原子であることが好ましい。

基(AO6)中、Lは、炭素数1~8(好ましくは1~4、より好ましくは1又は2)のアルキレン基を表し、*1は、カルボニル炭素原子との結合位置を表し、*2は、非カルボニル炭素原子との結合位置を表す。
【0134】

としては、単結合、-O-、基(AO5)、又は基(AO6)が好ましい。
【0135】

以下、構造単位(A)の具体例を示すが、構造単位(A)は、以下の具体例には限定されない。
【0136】

【化18】
【0137】

以下、構造単位(B)の具体例を示すが、構造単位(B)は、以下の具体例には限定されない。
【0138】

【化19】
【0139】

以下、構造単位(C)の具体例を示すが、構造単位(C)は、以下の具体例には限定されない。
【0140】

【化20】
【0141】

以下、構造単位(D)の具体例を示すが、構造単位(D)は、以下の具体例には限定されない。
【0142】

【化21】
【0143】

以下、構造単位(E)の具体例を示すが、構造単位(E)は、以下の具体例には限定されない。
【0144】

【化22】
【0145】

以下、構造単位(F)の具体例を示すが、構造単位(F)は、以下の具体例には限定されない。
【0146】

【化23】
【0147】

特定樹脂が、構造単位(A)~構造単位(F)からなる群から選択される少なくとも1種を含む場合、特定樹脂の全体に対する構造単位(A)~構造単位(F)の合計含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上が好ましい。

この場合の構造単位(A)~構造単位(F)の合計含有量の上限は、他の構造単位の量にもよるが、例えば90質量%であり、好ましくは80質量%であり、より好ましくは70質量%であり、更に好ましくは60質量%であり、更に好ましくは50質量%であり、更に好ましくは40質量%である。
【0148】

特定樹脂が、構造単位(A)及び構造単位(B)からなる群から選択される少なくとも1種を含む場合、特定樹脂の全体に対する構造単位(A)及び構造単位(B)の合計含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上が好ましい。

この場合の構造単位(A)及び構造単位(B)の合計含有量の上限は、他の構造単位の量にもよるが、例えば90質量%であり、好ましくは80質量%であり、より好ましくは70質量%であり、更に好ましくは60質量%であり、更に好ましくは50質量%であり、更に好ましくは40質量%である。
【0149】

(酸性基)

特定樹脂は、前処理液の経時安定性(詳細には、前処理液中の特定樹脂の分散安定性)をより向上させる観点から、酸性基を含むことが好ましい。この場合、特定樹脂は、酸性基を1種のみ含んでもよいし、酸性基を2種以上含んでもよい。

酸性基としては、スルホ基、スルホ基の塩、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、リン酸基、又はリン酸基の塩が好ましく、スルホ基、スルホ基の塩、カルボキシ基、又はカルボキシ基の塩がより好ましく、スルホ基又はスルホ基の塩が更に好ましい。

上述した塩における対イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンなどのアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン;等が挙げられる。
【0150】

(酸性基を含む構造単位)

特定樹脂が酸性基を含む場合、特定樹脂は、酸性基を含む構造単位(以下、「酸性基単位」ともいう)を少なくとも1種含むことがより好ましい。

特定樹脂が酸性基単位を含む場合、特定樹脂の全体に対する酸性基単位の含有量は、前処理液の経時安定性をより向上させる観点から、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上が更に好ましく、10質量%以上が更に好ましい。

この場合の酸性基単位の含有量の上限は、他の構造単位の量にもよるが、例えば25質量%であり、好ましくは20質量%であり、更に好ましくは15質量%である。
【0151】

前処理液の経時安定性をより向上させる観点から、酸性基単位としては、下記構造単位(4)、又は、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位が好ましく、下記構造単位(4)がより好ましい。
【0152】

-構造単位(4)-

特定樹脂は、前処理液の経時安定性(詳細には、前処理液中の特定樹脂の分散安定性)をより向上させる観点から、更に、下記構造単位(4)を含むことが好ましい。
【0153】

【化24】
【0154】

構造単位(4)中、Rはメチル基又は水素原子を表し、Lは、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、-O-、-NH-、-S-、-C(=O)-、及び-CH(-OH)-からなる第4群から選択される1種である2価の基、第4群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基、又は単結合を表し、Mは、水素原子又は陽イオンを表す。
【0155】

構造単位(4)中、Lで表される炭素数1~10のアルキレン基は、直鎖状のアルキレン基であってもよいし、分岐構造及び/又は環状構造を有していてもよい。
【0156】

構造単位(4)中、Lで表される「第4群から選択される2種以上を組み合わせた2価の基」としては、炭素数1~10のアルキレン基及び炭素数6~10のアリーレン基のうちの少なくとも1つと、-O-、-NH-、-S-、-C(=O)-、及び-CH(-OH)-のうちの少なくとも1つと、を組み合わせた2価の基が好ましく、以下に示す2価の基が更に好ましい。

以下に示す2価の基において、nは1から5までの整数を表し、*1は炭素原子との結合位置を表し、*2は、硫黄原子との結合位置を表す。
【0157】

【化25】
【0158】

構造単位(4)中、Mは、水素原子又は陽イオンを表す。

Mで表される陽イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンなどのアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン;等が挙げられる。
【0159】

構造単位(4)を形成するためのモノマーとしては、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、α-メチルスチレンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、3-スルホプロピル(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシエチルスルホン酸、ビニルベンジルスルホン酸、1-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、及びアリロキシポリエチレングリコール(エチレングリコール部分の繰り返し数10)スルホン酸、並びに、これらの化合物の塩が挙げられる。

上述した塩における対イオンとしては、上述したMで表される陽イオンが挙げられる。
【0160】

構造単位(4)を形成するためのモノマーとしては、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の塩、又は3-スルホプロピル(メタ)アクリレートが好ましい。

塩における対イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、又はアンモニウムイオンが好ましい。

上記の中でも、構造単位(4)を形成するためのモノマーとしては、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又は2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
【0161】

以下、構造単位(4)の具体例を示すが、構造単位(4)は、以下の具体例には限定されない。
【0162】

【化26】
【0163】

特定樹脂が構造単位(4)を含む場合、特定樹脂の全体に対する構造単位(4)の含有量は、前処理液の経時安定性をより向上させる観点から、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上が更に好ましく、10質量%以上が更に好ましい。

この場合の構造単位(4)の含有量の上限は、他の構造単位の量にもよるが、例えば25質量%であり、好ましくは20質量%であり、更に好ましくは15質量%である。
【0164】

-(メタ)アクリル酸に由来する構造単位-

(メタ)アクリル酸に由来する構造単位におけるカルボキシ基は中和されていてもよい(即ち、カルボキシ基の塩の形態であってもよい)。
【0165】

以下、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位の具体例を示すが、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位は、以下の具体例には限定されない。
【0166】

【化27】
【0167】

(メタ)アクリル酸に由来する構造単位の具体例としては、AA及びMAAにおけるカルボキシ基が、カルボキシ基の塩の形態(例えば、-COONa、-COOK、等)となっている構造単位も挙げられる。
【0168】

特定樹脂がメタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む場合、特定樹脂の全体に対するメタ)アクリル酸に由来する構造単位の含有量は、前処理液の経時安定性をより向上させる観点から、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上が更に好ましく、10質量%以上が更に好ましい。

この場合のメタ)アクリル酸に由来する構造単位の含有量の上限は、他の構造単位の量にもよるが、例えば25質量%であり、好ましくは20質量%であり、更に好ましくは15質量%である。
【0169】

(その他の構造単位)

特定樹脂は、上述した構造単位以外のその他の構造単位を含んでいてもよい。

その他の構造単位としては、鎖状アルキル基(即ち、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基)を有する(メタ)アクリレートに由来する構造単位が挙げられる。

その他の構造単位の具体例を以下に示すが、その他の構造単位は、以下の具体例には限定されない。
【0170】

【化28】
【0171】

但し、画像の筋ムラをより抑制する観点から、炭素数2以上の鎖状アルキル基(即ち、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基)を有する(メタ)アクリレートに由来する構造単位(以下、「C2以上の鎖状アルキル基単位」ともいう)の含有量は、特定樹脂の全量に対し、5質量%未満であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、0質量%(即ち、特定樹脂がC2以上の鎖状アルキル基単位を含まないこと)であることが更に好ましい。

例えば、上述したその他の構造単位の具体例中、C2以上の鎖状アルキル基単位は、EMA、nBMA、2EHMA、及びnBAである。

言うまでも無いが、MA、MMA、AA、及びMAAは、いずれも、C2以上の鎖状アルキル基単位には該当しない。
【0172】

ここで、画像の筋ムラとは、ベタ画像中に存在する筋(スジ)状のムラを意味する。

画像の筋ムラは、非浸透性基材上の前処理液が付与された面の濡れ性が不足した場合に、インク滴の拡がりが不足することによって生じると考えられる。

上述したとおり、特定樹脂中におけるC2以上の鎖状アルキル基単位の含有量が5質量%未満である場合には、画像の筋ムラが顕著に抑制される。

この理由は明らかではないが、C2以上の鎖状アルキル基単位が、非浸透性基材上の前処理液が付与された面の濡れ性を低下させる性質を有するためと考えられる。
【0173】

特定樹脂の重量平均分子量は、3,000~2,000,000であることが好ましく、10,000~1,500,000であることがより好ましく、10,000~1,000,000であることがより好ましく、30,000~200,000が更に好ましい。

特定樹脂の重量平均分子量が3,000以上であると、非浸透性基材に対する画像の密着性がより向上する。

特定樹脂の重量平均分子量が2,000,000以下であると、特定樹脂の分散安定性がより向上する。
【0174】

本開示において、重量平均分子量(Mw)は、特別な記載がない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値を意味する。

ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定は、測定装置として、HLC(登録商標)-8020GPC(東ソー(株))を用い、カラムとして、TSKgel(登録商標)Super Multipore HZ-H(4.6mmID×15cm、東ソー(株))を3本用い、溶離液として、THF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、測定条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、及び測定温度を40℃とし、RI検出器を用いて行う。

検量線は、東ソー(株)の「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、及び「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0175】

特定樹脂は、水不溶性の樹脂であることが好ましい。

本開示において、水不溶性の樹脂における「水不溶性」とは、25℃の水100gに対する溶解量が1.0g未満(より好ましくは0.5g未満)である性質を指す。
【0176】

特定樹脂が水不溶性の樹脂である場合、特定樹脂は、前処理液中において、樹脂粒子の形態で存在する。

樹脂粒子の体積平均粒径は、1nm~300nmであることが好ましく、3nm~200nmであることがより好ましく、5nm~150nmであることが更に好ましい。
【0177】

本開示において、体積平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布計により測定された値を意味する。

測定装置としては、例えば、粒度分布測定装置「マイクロトラックMT-3300II」(日機装(株)製)が挙げられる。
【0178】

樹脂粒子については、国際公開第2017/163738号の段落0137~0171、及び特開2010-077218号公報の段落0036~0081の記載を参照してもよい。
【0179】

本開示の前処理液中における特定樹脂の含有量は、前処理液の全量に対し、好ましくは1質量%~25質量%であり、より好ましくは2質量%~20質量%であり、更に好ましくは3質量%~15質量%であり、更に好ましくは5質量%~15質量%である。

特定樹脂の含有量が1質量%以上である場合には、非浸透性基材に対する画像の密着性がより向上する。

特定樹脂の含有量が25質量%以下である場合には、前処理液の粘度がより低減され、前処理液の付与性がより向上する。
【0180】

<凝集剤に対する特定樹脂の含有質量比>

本開示の前処理液中における、凝集剤に対する特定樹脂の含有質量比(以下、「含有質量比〔特定樹脂/凝集剤〕」ともいう)には特に制限はない。

含有質量比〔特定樹脂/凝集剤〕は、好ましくは0.2~20であり、より好ましくは0.5~10であり、更に好ましくは1.0~10である。

含有質量比〔特定樹脂/凝集剤〕が0.2以上である場合には、非浸透性基材に対する画像の密着性がより向上する。

含有質量比〔特定樹脂/凝集剤〕が20以下である場合には、筋ムラがより低減される。
【0181】

<特定樹脂と水性媒体とのHansen溶解度パラメータの距離(HSP距離)>

本開示の前処理液において、特定樹脂と水性媒体とのHansen溶解度パラメータの距離には特に制限はない。

以下、Hansen溶解度パラメータをHSPと称することがあり、Hansen溶解度パラメータの距離をHSP距離と称することがある。

特定樹脂と水性媒体とのHSP距離は、好ましくは33MPa1/2~40MPa1/2である。

これにより、非浸透性基材に対する画像の密着性がより向上する。

特定樹脂と水性媒体とのHSP距離としては、34MPa1/2~40MPa1/2がより好ましく、34MPa1/2~38MPa1/2がさらに好ましい。
【0182】

ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、ある物質(X)の、他の物質(Z)への溶解性を、多次元のベクトルを用いて数値化した値である。XとZとのベクトル間距離が短いほど溶解しやすい(相溶性が高い)ことを示す。

本開示では、「水性媒体」及び「樹脂」のHSPに関し、HSPiPソフトウェアー(https://www.pirika.com/JP/HSP/index.html、https://www.hansen-solubility.com/index.php?id=11参照)を用いて3つのベクトル(δD(分散項)、δP(分極項)、及びδH(水素結合項))を決定する。HSP距離は、比較したい2種類の対象物それぞれのδD(分散項)、δP(分極項)、及びδH(水素結合項)を下記式に当てはめて算出される値と定義する。例えば、特定樹脂と水性媒体のHSP距離は、特定樹脂の分散項をδD、分極項をδP、水素結合項をδHとし、水性媒体の分散項をδD、分極項をδP、水素結合項をδHとして、下記式に当てはめることで求めることができる。
【0183】

【数1】
【0184】

以下に、特定樹脂と水性媒体のHSP距離の計算方法について具体的に説明する。
【0185】

-特定樹脂のδD、δP、及びδHの算出-

特定樹脂のδD、δP、及びδHは、特定樹脂を構成する構造単位毎に、それぞれδD、δP及びδHを算出し、δD、δP及びδHに、特定樹脂中における各構造単位のモル分率を乗じ、得られた値の合計値として算出する。
【0186】

まず、例えば表1のように、樹脂の各構造単位を構造式エディタソフト(ChemBioDraw Ultra 13.0)を用いて、HSP計算用構造式をSmiles表記に変換する。その後、得られたSmiles表記重合体の結合点*をXに書き換え、HSPiP(HSPiP 4th edition 4.1.07)のY-MBにより、各構造単位のδD、δP、及びδHの値を算出する。
【0187】

【表1】
【0188】

表1に示す構造単位からなる樹脂であって、HEMA、IBOMA、MMA、及びMAAのモル分率が、それぞれ0.21、0.24、0.40、及び0.15である場合には、δD、δP、及びδHは次のように算出する。

・δD=0.21×17.2(HEMA)+0.24×16.9(IBOMA)+0.40×16.6(MMA)+0.15×17.0(MAA)≒16.9

・δP=0.21×5.3(HEMA)+0.24×0.9(IBOMA)+0.40×1.8(MMA)+0.15×3.4(MAA)≒2.6

・δH=0.21×12.4(HEMA)+0.24×1.3(IBOMA)+0.40×4.0(MMA)+0.15×12.6(MAA)≒6.4
【0189】

-水性媒体のδD、δP、及びδHの算出-

水性媒体を構成する化合物毎のδD、δP、及びδHを、HSPiP(HSPiP 4th edition 4.1.07)の登録データより導出し、δD、δP、及びδHに、水性媒体中における各化合物の体積分率を乗じ、得られた値の合計値として算出する。体積分率は、25℃、1気圧下の体積分率である。
【0190】

まず、水性媒体が水とプロピレングリコール(PG)の混合液であり、水とPGの体積比が、水:PG=78:22(体積比)であったとする。水とPGのδD、δP、及びδHを表2に示す。
【0191】

【表2】
【0192】

δD、δP、及びδHは次のように算出する。

・δD=0.78×15.5(HO)+0.22×16.8(PG)≒15.8

・δP=0.78×16.0(HO)+0.22×10.4(PG)≒14.8

・δH=0.78×42.3(HO)+0.22×21.3(PG)≒37.7
【0193】

以上より、上記の樹脂と水性媒体とのHSP距離は、次の通りとなる。

HSP距離={4×(16.9-15.8)+(2.6-14.8)+(6.4-37.7)1/2≒33.7
【0194】

<特定樹脂と凝集剤とのHSP距離>

本開示の前処理液において、特定樹脂と凝集剤とのHSP距離(即ち、Hansen溶解度パラメータの距離)には特に制限はない。

特定樹脂と凝集剤とのHSP距離は、好ましくは5MPa1/2~28MPa1/2である。

これにより、非浸透性基材に対する画像の密着性がより向上する。

特定樹脂と凝集剤とのHSP距離としては、6MPa1/2~25MPa1/2がより好ましい。

特定樹脂と凝集剤とのHSP距離は、特定樹脂と水性媒体とのHSP距離と同様の方法によって求める。
【0195】

<界面活性剤>

前処理液は、界面活性剤の少なくとも1種を含んでもよい。

界面活性剤は、表面張力調整剤又は消泡剤として用いることができる。表面張力調整剤又は消泡剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。中でも、インクの凝集速度の観点から、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が好ましい。
【0196】

界面活性剤としては、特開昭59-157636号公報の第37~38頁及びリサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)に界面活性剤として挙げた化合物も挙げられる。また、特開2003-322926号、特開2004-325707号、特開2004-309806号の各公報に記載のフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等も挙げられる。
【0197】

例えば、前処理液が消泡剤としての界面活性剤を含む場合、消泡剤としての界面活性剤の含有量は、前処理液の全量に対し、0.0001質量%~1質量%が好ましく、0.001質量%~0.1質量%がより好ましい。
【0198】

<その他の成分>

前処理液は、必要に応じ、上記以外のその他の成分を含んでいてもよい。

前処理液に含有され得るその他の成分としては、固体湿潤剤、コロイダルシリカ、無機塩、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、キレート剤、水溶性カチオン性ポリマー以外の水溶性高分子化合物(例えば、特開2013-001854号公報の段落0026~0080に記載された水溶性高分子化合物)、等の公知の添加剤が挙げられる。

また、水溶性高分子化合物の市販品の具体例として、以下が挙げられる。

アクアリックHL、アクリセットARL-453(株式会社日本触媒)

イソバン-600(株式会社クラレ)

AQナイロン P-95(東レ株式会社)

クラレポバール PVA-105(株式会社クラレ)

3-SQ100(大成ファインケミカル株式会社)

アルコックスL-6(明成化学工業株式会社)

プラスコート Z-221(互応化学工業株式会社)

ジュリマー AT-210(東亜合成株式会社)

ウォーターゾール EFD-5560(DIC株式会社)

さらに、水溶性高分子化合物の合成化合物の具体例として、以下が挙げられる。


(各構造単位の組成:AMPSNa50質量%、HEMA50質量%)

但し、水溶性高分子化合物はこれらの具体例に限定されない。

水溶性高分子化合物の含有量は、特定樹脂に対し、1~50質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。
【0199】

-前処理液の物性-

インクの凝集速度の観点から、処理液の25℃におけるpHは0.1~3.5であることが好ましい。

前処理液のpHが0.1以上であると、非浸透性基材のザラツキがより低減され、画像部の密着性がより向上する。

前処理液のpHが3.5以下であると、凝集速度がより向上し、非浸透性基材の表面上におけるインクによるドット(インクドット)の合一がより抑制され、画像のザラツキがより低減される。

前処理液の25℃におけるpHは、0.2~2.0がより好ましい。

pHは、市販のpHメーターを用いて25℃で測定される値である。
【0200】

前処理液の粘度としては、インクの凝集速度の観点から、0.5mPa・s~10mPa・sの範囲が好ましく、1mPa・s~5mPa・sの範囲がより好ましい。

粘度は、粘度計を用い、25℃で測定される値である。

粘度計としては、例えば、VISCOMETER TV-22型粘度計(東機産業(株)製)を用いることができる。
【0201】

前処理液の25℃における表面張力としては、60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m~50mN/mであることがより好ましく、30mN/m~45mN/mであることが更に好ましい。

表面張力は、25℃の温度下で測定される値である。

表面張力の測定は、例えば、Automatic Surface Tentiometer CBVP-Z(共和界面科学(株)製)を用いて行うことができる。
【0202】

〔インクセット〕

本開示のインクセットは、前述した本開示の前処理液と、水及び着色剤を含有するインクと、を備える。

本開示のインクセットによれば、上述した態様の画像記録(即ち、非浸透性基材上に前処理液を付与し、次いで、非浸透性基材の前処理液が付与された面上にインクを付与して画像を記録する態様の画像記録)を実施できる。

従って、本開示のインクセットによれば、非浸透性基材に対する密着性に優れた画像を記録できる。
【0203】

本開示のインクセットは、インクを1種のみ備えていてもよいし、2種以上備えていてもよい。

本開示のインクセットは、前処理液を1種のみ備えていてもよいし、2種以上備えていてもよい。
【0204】

本開示のインクセットの好ましい態様の一つとして、2種以上のインクと、1種以上の前処理液と、を備える態様が挙げられる。

かかる態様によれば、多色の画像を記録することができる。

以下、2種以上のインクとしては、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクからなる3種のインク;シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、及びブラックインクからなる4種のインク;上記3種の着色インクと、ホワイトインク、グリーンインク、オレンジインク、バイオレットインク、ライトシアンインク、ライトマゼンタインク及びライトイエローインクから選択される少なくとも1つと、からなる4種以上のインク;上記4種の着色インクと、ホワイトインク、グリーンインク、オレンジインク、バイオレットインク、ライトシアンインク、ライトマゼンタインク及びライトイエローインクから選択される少なくとも1つと、からなる5種以上のインク;等が挙げられる。

但し、2種以上のインクは、これらの具体例には限定されない。
【0205】

<インク>

本開示のインクセットにおけるインクは、着色剤及び水を含有する。

インクは、水性インクであることが好ましい。

ここで、水性インクとは、水の含有量がインクの全量に対して50質量%以上であるインクをいう。

また、インクにおいて、有機溶剤の含有量は、インクの全量に対し、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。

また、インクにおいて、重合性化合物(例えば、カチオン性重合性化合物、ラジカル重合性化合物)の含有量は、インクの全量に対し、10質量%以下であることが好ましい。
【0206】

(着色剤)

着色剤としては、有機顔料又は無機顔料が好ましい。

有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。

無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。

着色剤としては、特開2009-241586号公報の段落0096~0100に記載の着色剤が好ましく挙げられる。
【0207】

着色剤の含有量としては、インクの全質量に対して、1質量%~25質量%が好ましく、2質量%~20質量%がより好ましく、5質量%~20質量%が更に好ましく、5質量%~15質量%が特に好ましい。
【0208】

(水)

インクは、水を含有する。

水の含有量は、インクの全量に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上である。

水の含有量の上限は、着色剤等の他の成分の量にもよるが、例えば90質量%であり、好ましくは85質量%であり、より好ましくは80質量%である。
【0209】

(分散剤)

インクは、上記着色剤を分散するための分散剤を含有してもよい。

分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。

分散剤としては、例えば、特開2016-145312号公報の段落0080~0096に記載の分散剤が好ましく挙げられる。
【0210】

着色剤(p)と分散剤(s)との混合質量比(p:s)としては、1:0.06~1:3の範囲が好ましく、1:0.125~1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125~1:1.5である。
【0211】

(樹脂粒子)

インクは、樹脂粒子の少なくとも1種を含有することが好ましい。

樹脂粒子を含有することにより、インクの非浸透性基材への定着性、及び、画像の耐擦過性をより向上させることができる。

また、樹脂粒子は、既述の凝集剤と接触した際に凝集又は分散不安定化してインクを増粘させることにより、インク、すなわち画像を固定化させる機能を有する。

このような樹脂粒子は、水及び含水有機溶媒に分散されているものが好ましい。

樹脂粒子としては、例えば、特開2016-188345号公報の段落0062~0076に記載の樹脂粒子が好ましく挙げられる。
【0212】

(水溶性有機溶剤)

インクは、水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含有することが好ましい。

インクが水溶性有機溶剤を含有する場合には、インクジェットヘッドからのインクの吐出性がより向上する。
【0213】

水溶性有機溶剤としては、

アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール);

多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン);

グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル);

アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン);

その他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン);等が挙げられる。
【0214】

(その他の添加剤)

インクは、上記成分以外のその他の成分を含有してもよい。

その他の成分としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、上述した以外の分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤、等が挙げられる。
【0215】

〔画像記録用基材〕

本開示の画像記録用基材は、非浸透性基材と、非浸透性基材の少なくとも一方の面上に配置され、前述した本開示の前処理液中の固形分を含む前処理層と、を備える。

ここで、前処理液中の固形分とは、前処理液中における溶媒成分(少なくとも水性媒体)を除いた全成分を意味する。即ち、前処理液中の固形分には、少なくとも、特定樹脂及び凝集剤が含まれる。

本開示の画像記録用基材における前処理層上にインクを付与して画像を記録することにより、非浸透性基材に対する密着性に優れた画像を記録できる。

本開示の画像記録用基材は、例えば、以下に示す画像記録用基材の製造方法によって好適に製造できる。
【0216】

〔画像記録用基材の製造方法〕

本開示の画像記録用基材の製造方法の一例は、非浸透性基材上に、前述した本開示の前処理液を付与する工程(以下、「前処理液付与工程」ともいう)を含む製造方法である。

上記一例は、必要に応じ、その他の工程を含んでいてもよい。
【0217】

<前処理液付与工程>

前処理液付与工程における前処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の付与方法を適用して行うことができる。

塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、等を用いた公知の塗布方法が挙げられる。

インクジェット法の詳細については、後述する画像記録方法におけるインクジェット法と同様である。
【0218】

前処理液の付与量としては、インクを凝集可能であれば特に制限はないが、画像の密着性を高める観点、画像の剥離を抑制する観点等から、前処理液の乾燥後の付与量が0.05g/m以上となる量が好ましく、前処理液の乾燥後の付与量が0.05g/m~1.0g/mとなる量がより好ましい。
【0219】

また、前処理液を付与する前に、非浸透性基材を加熱してもよい。

加熱温度としては、非浸透性基材の種類や前処理液の組成に応じて適宜設定すればよいが、非浸透性基材の温度を30℃~70℃とすることが好ましく、30℃~60℃とすることがより好ましい。
【0220】

非浸透性基材としては、予め表面処理がなされた非浸透性基材を使用してもよい。

また、表面処理がなされていない非浸透性基材を用い、前処理付与工程において前処理液の塗布前に非浸透性基材の表面処理を行ってもよい

表面処理の具体例については前述したとおりである。
【0221】

前処理液付与工程では、非浸透性基材上に付与された前処理液を加熱乾燥させてもよい。

前処理液の加熱乾燥を行うための手段としては、ヒータ等の公知の加熱手段、ドライヤ等の公知の送風手段、及び、これらを組み合わせた手段が挙げられる。

前処理液の加熱乾燥を行うための方法としては、例えば、非浸透性基材の前処理液が付与された面とは反対側からヒータ等で熱を与える方法、非浸透性基材の前処理液が付与された面に温風又は熱風をあてる方法、非浸透性基材の前処理液が付与された面又は前処理液が付与された面とは反対側から、赤外線ヒータで熱を与える方法、これらの複数を組み合わせた方法、等が挙げられる。
【0222】

前処理液の加熱乾燥時の加熱温度は、35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。

加熱温度の上限には特に制限はないが、上限としては、100℃が好ましく、90℃がより好ましく、70℃が更に好ましい。

加熱乾燥の時間には特に制限はないが、0.5秒~60秒が好ましく、0.5秒~20秒がより好ましく、0.5秒~10秒が特に好ましい。
【0223】

〔画像記録物〕

本開示の画像記録物は、非浸透性基材と、非浸透性基材の少なくとも一方の面上に配置され、前述した本開示の前処理液中の固形分(例えば特定樹脂及び凝集剤)と着色剤とを含有する画像と、を備える。

本開示の画像記録物は、特定樹脂を含有する画像を備えるため、画像と非浸透性基材との密着性に優れる。

本開示の画像記録物は、例えば、以下に示す画像記録方法によって好適に製造できる。
【0224】

〔画像記録方法〕

本開示の画像記録方法の一例は、

非浸透性基材上に、前述した本開示の前処理液を付与する工程と、

非浸透性基材の前処理液が付与された面上に、着色剤及び水を含有するインクを付与して画像を記録する工程と、を含む画像記録方法である。

上記一例は、必要に応じ、その他の工程を含んでいてもよい。
【0225】

前処理液を付与する工程の好ましい態様は、上述した画像記録用基材の製造方法の一例中における「前処理液付与工程」の好ましい態様と同様である。
【0226】

<画像記録工程>

画像記録工程は、非浸透性基材の前処理液が付与された面上に、着色剤及び水を含有するインクを付与して画像を記録する工程である。

画像記録工程におけるインクの付与方法としては、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用できる。

中でも、インクジェット法が好ましい。

インクジェット法におけるインクの吐出方式には特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。

インクジェット法としては、特に、特開昭54-59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。

インクジェット法として、特開2003-306623号公報の段落番号0093~0105に記載の方法も適用できる。
【0227】

非浸透性基材上へのインクジェット法によるインクの付与は、インクジェットヘッドのノズルからインクを吐出することにより行う。

インクジェットヘッドの方式としては、短尺のシリアルヘッドを、被記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、被記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式と、がある。

ライン方式では、記録素子の配列方向と交差する方向に被記録媒体を走査させることで被記録媒体の全面に画像記録を行なうことができる。ライン方式では、シャトル方式における、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、ライン方式では、シャトル方式と比較して、キャリッジの移動と被記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、被記録媒体だけが移動する。このため、ライン方式によれば、シャトル方式と比較して、画像記録の高速化が実現される。
【0228】

インクの付与は、300dpi以上(より好ましくは600dpi以上、更に好ましくは800dpi以上)の解像度を有するインクジェットヘッドを用いて行うことが好ましい。ここで、dpiは、dot per inchの略であり、1inch(1インチ)は2.54cmである。
【0229】

インクジェットヘッドのノズルから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点から、1pL(ピコリットル)~10pLが好ましく、1.5pL~6pLがより好ましい。

また、画像のムラ、連続階調のつながりを改良する観点から、異なる液適量を組み合わせて吐出することも有効である。
【0230】

画像記録工程では、非浸透性基材上に付与されたインクを加熱乾燥させて画像を得てもよい。

加熱乾燥を行うための手段としては、ヒータ等の公知の加熱手段、ドライヤ等の公知の送風手段、及び、これらを組み合わせた手段が挙げられる。

インクの加熱乾燥を行うための方法としては、例えば、非浸透性基材のインクが付与された面とは反対側からヒータ等で熱を与える方法、非浸透性基材のインクが付与された面に温風又は熱風をあてる方法、非浸透性基材のインクが付与された面又はインクが付与された面とは反対側から、赤外線ヒータで熱を与える方法、これらの複数を組み合わせた方法、等が挙げられる。
【0231】

加熱乾燥時の加熱温度は、55℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、65℃以上が特に好ましい。加熱温度の上限には特に制限はないが、上限としては、例えば100℃が挙げられ、90℃が好ましい。

インクの加熱乾燥の時間には特に制限はないが、3秒~60秒が好ましく、5秒~60秒がより好ましく、10秒~45秒が特に好ましい。
【0232】

また、インクの付与前に、あらかじめ非浸透性基材を加熱してもよい。

加熱温度としては、適宜設定すればよいが、非浸透性基材の温度を20℃~50℃とすることが好ましく、25℃~40℃とすることがより好ましい。
【0233】

画像記録工程では、非浸透性基材の前処理液が付与された面上に、2色以上のインクを付与し、2色以上の画像を記録してもよい。
【実施例
【0234】

以下、本開示の実施例を表すが、本開示は以下の実施例には限定されない。

なお、特に断りのない限り、「%」は質量%を意味する。

以下では、構造単位(1)を、単に「単位(1)」ということがある。他の構造単位についても同様である。
【0235】

<実施例1の前処理液に用いる特定樹脂(以下、「特定樹脂1」ともいう)の合成>

特定樹脂1を以下のようにして合成した。

攪拌機及び冷却管を備えた1000mlの三口フラスコに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(62質量%水溶液、東京化成工業社製)3.0g及び水376gを加え、窒素雰囲気下で90℃に加熱した。加熱された三口フラスコ中の混合溶液に、水20gに2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウムの50質量%水溶液(Aldrich社製)11.0gを溶解した溶液Aと、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(富士フイルム和光純薬工業社製)12.5g、メタクリル酸nブチル(富士フイルム和光純薬工業社製)11.0g、メタクリル酸2-エチルヘキシル(富士フイルム和光純薬工業社製)11.0g、及びスチレン(富士フイルム和光純薬工業社製)10.0gを混合した溶液Bと、水40gに過硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬工業社製)6.0gを溶解した溶液Cと、を3時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、さらに3時間反応させることにより、特定樹脂1の水分散液(特定樹脂1の固形分量:10.1質量%)500gを合成した。

水分散液中の特定樹脂1のガラス転移温度は28℃であった。また、特定樹脂1の重量平均分子量は、52000であった。
【0236】

<実施例2~49の前処理液に用いる特定樹脂の合成>

原料モノマーの種類及び量を変更することにより、各単位の種類及び量を表3に示すように変更したこと以外は特定樹脂1の合成と同様の操作を行った。
【0237】

<実施例48の前処理液に用いる合成樹脂1の合成>

原料モノマーの種類及び量を下記のように変更したこと以外は特定樹脂1の合成と同様の操作を行い、実施例48における合成樹脂1(水溶性樹脂)を得た。合成樹脂1の重量平均分子量(Mw)は52000であった。

(合成樹脂1)


(各構造単位の組成:AMPSNa50質量%、HEMA50質量%)

また、実施例49の水溶性樹脂AT-210は、ジュリマー AT-210(東亜合成株式会社)を用いた。

<比較例1~2の前処理液に用いる比較樹脂の合成>

原料モノマーの種類及び量を変更することにより、各単位の種類及び量を表3に示すように変更したこと以外は特定樹脂1の合成と同様の操作を行った。
【0238】

表4に、各特定樹脂又は各比較樹脂について、単位(1)~単位(3)の合計量、C2以上の鎖状アルキル基単位の量(%)、重量平均分子量(Mw)、ガラス転移温度(Tg)、水性媒体とのHSP距離、及び、凝集剤とのHSP距離を示す。

ここで、「C2以上の鎖状アルキル基単位」とは、炭素数2以上の鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を意味する。

また、各単位の量は、樹脂全量に対する各単位の含有量(質量%)を意味する。
【0239】

〔実施例1〕

<前処理液の調製>

下記「前処理液の組成」に記載の各成分を混合し、前処理液を調製した。
【0240】

-前処理液の組成-

・特定樹脂1の水分散物:特定樹脂1の量として10.0質量%

・マロン酸(凝集剤):5.0質量%

・プロピレングリコール(水溶性有機溶剤):10.0質量%

・消泡剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製TSA-739(15%)、エマルジョン型シリコーン消泡剤):消泡剤の量として0.01質量%

・イオン交換水:合計で100質量%となる残量

-水溶性樹脂を含む前処理液の組成(実施例48及び49)-

・特定樹脂の水分散物:特定樹脂の量として10.0質量%

・プロピレングリコール(水溶性有機溶剤):10.0質量%

・水溶性樹脂:1.0質量%

・消泡剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社TSA-739(15%);エマルジョン型シリコーン消泡剤):消泡剤の量として0.01質量%

・イオン交換水:合計で100質量%となる残量
【0241】

<インクの調製>

下記「インクの組成」に記載の各成分を混合し、インク(詳細には、シアンインク)を調製した。
【0242】

-インクの組成-

・Projet Cyan APD1000(FUJIFILM Imaging Colorants社製、シアン顔料分散液、顔料濃度:12質量%):20質量%

・下記のポリマー粒子水分散物:8質量%

・プロピレングリコール(水溶性有機溶剤):20.0質量%

・オルフィンE1010(界面活性剤、日信化学工業(株)製):1.0質量%

・イオン交換水:合計で100質量%となる残量
【0243】

-ポリマー粒子水分散物の作製-

ポリマー粒子水分散物は、以下のようにして作製した。

撹拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン560.0gを仕込んで87℃まで昇温した。次いで反応容器内の還流状態を保ちながら(以下、反応終了まで還流状態を保った)、反応容器内のメチルエチルケトンに対し、メチルメタクリレート220.4g、イソボルニルメタクリレート301.6g、メタクリル酸58.0g、メチルエチルケトン108g、及び「V-601」(富士フイルム和光純薬工業(株)製の重合開始剤、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート))2.32gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、1時間撹拌した後に、この1時間撹拌後の溶液に対し、下記工程(1)の操作を行った。

工程(1) … 「V-601」1.16g及びメチルエチルケトン6.4gからなる溶液を加え、2時間撹拌を行った。
【0244】

続いて、上記工程(1)の操作を4回繰り返し、次いで、さらに「V-601」1.16g及びメチルエチルケトン6.4gからなる溶液を加えて3時間撹拌を続けた(ここまでの操作を、「反応」とする)。

反応終了後、溶液の温度を65℃に降温し、イソプロパノール163.0gを加えて放冷することにより、メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸(=38/52/10[質量比])共重合体を含む重合溶液(固形分濃度41.0%)を得た。

上記共重合体は、重量平均分子量(Mw)が63000であり、酸価が65.1(mgKOH/g)であった。
【0245】

次に、得られた重合溶液317.3g(固形分濃度41.0%)を秤量し、ここに、イソプロパノール46.4g、20%無水マレイン酸水溶液1.65g(水溶性酸性化合物、共重合体に対してマレイン酸として0.3%相当)、及び2モル/LのNaOH水溶液40.77gを加え、反応容器内の液体の温度を70℃に昇温した。

次に、70℃に昇温された溶液に対し、蒸留水380gを10ml/分の速度で滴下し、水分散化を行った(分散工程)。

その後、減圧下、反応容器内の液体の温度を70℃で1.5時間保つことにより、イソプロパノール、メチルエチルケトン、及び蒸留水を合計で287.0g留去した(溶剤除去工程)。得られた液体に対し、プロキセルGXL(S)(アーチ・ケミカルズ・ジャパン(株)製)を0.278g(ポリマー固形分に対してベンゾイソチアゾリン-3-オンとして440ppm)添加した。

得られた液体を、1μmのフィルターでろ過し、ろ液を回収することにより、固形分濃度26.5%のポリマー粒子水分散物を得た。
【0246】

<画像の記録>

長尺状の非浸透性基材を連続搬送するための搬送系と、非浸透性基材に前処理液を塗布するためのワイヤーバーコーターと、非浸透性基材上の前処理液が付与された面にインクを付与するためのインクジェットヘッドと、を備えたインクジェット記録装置を準備した。

また、非浸透性基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材(フタムラ化学社製「FE2001」(厚さ25μm、幅500mm、長さ2000m)、以下、「非浸透性基材A」とする)を準備した。
【0247】

インクジェット記録装置を用い、非浸透性基材Aを635mm/秒で連続搬送させながら、以下のようにして、シアン色のベタ画像を記録した。

非浸透性基材A上に上記前処理液を、ワイヤーバーコーターによって約1.7g/mとなるように塗布し、次いで50℃で2秒間乾燥させた。

次に、非浸透性基材Aの前処理液が塗布された面に、上記インクを以下の付与条件にてベタ画像状に付与し、付与されたインクを、80℃で30秒間乾燥させることにより、シアン色のベタ画像を記録した。

前処理液の乾燥方法及びインクの乾燥方法は、いずれも温風乾燥とした。
【0248】

-インクの付与条件-

インクジェットヘッド:1200dpi/20inch幅ピエゾフルラインヘッド

(ここで、dpiは、dot per inchの略であり、1 inchは2.54cmである)

インクジェットヘッドからのインク吐出量:4.0pL

駆動周波数:30kHz(基材の搬送速度:635mm/秒)
【0249】

<密着性の評価>

上記ベタ画像の記録(即ち、80℃での30秒間の乾燥)から1分経過後の上記ベタ画像上に、セロテープ(登録商標、No.405、ニチバン(株)製、幅12mm、以下、単に「テープ」ともいう。)のテープ片を貼り付け、次いでテープ片をベタ画像から剥離することにより、画像の密着性を評価した。

テープの貼り付け及び剥離は、具体的には、下記の方法により行った。

一定の速度でテープを取り出し、約75mmの長さにカットし、テープ片を得た。

得られたテープ片をベタ画像に重ね、テープ片の中央部の幅12mm、長さ25mmの領域を指で貼り付け、指先で十分にこすった。ここで、ベタ画像中、テープ片を貼り付けた幅12mm、長さ25mmの領域を、以下では「評価領域」とする。

テープ片を貼り付けてから5分以内に、テープ片の端をつかみ、約60°の角度で0.5秒~1.0秒で剥離した。

次に、ベタ画像の評価領域全体に対する非浸透性基材上に残存している画像の面積率(%)を求め、下記評価基準に従い、画像の密着性を評価した。

結果を表4に示す。

下記評価基準において、画像の密着性にもっとも優れるランクは「A」である。
【0250】

-画像の密着性の評価基準-

A:非浸透性基材上に残存している画像の面積率(%)が、90%以上100%以下であった。

B:非浸透性基材上に残存している画像の面積率(%)が、70%以上90%未満であった。

C:非浸透性基材上に残存している画像の面積率(%)が、50%以上70%未満であった。

D:非浸透性基材上に残存している画像の面積率(%)が、30%以上50%未満であった。

E:非浸透性基材上に残存している画像の面積率(%)が、30%未満であった。
【0251】

<画像の筋ムラの評価>

上記ベタ画像中、50mm(非浸透性基材の搬送方向)×20mm(非浸透性基材の搬送方向と直交する方向)の領域を、「筋ムラ評価領域」として設定した。

ベタ画像における筋ムラ評価領域を目視で観察し、非浸透性基材の搬送方向に対して平行な筋ムラの発生有無及び発生の度合いを確認し、下記評価基準に従って画像の筋ムラを評価した。

結果を表4に示す。

下記評価基準において、画像の筋ムラがもっとも抑制されているランクは「A」である。

また、下記評価基準において、容易に視認できる筋ムラとは、50cm離れた位置から観察した場合に視認できる筋ムラを意味する。
【0252】

-画像の筋ムラの評価基準-

A:ベタ画像中に、筋ムラの発生が視認されない。

B:ベタ画像中に、ごく細い筋ムラが1本視認され、容易に視認できる筋ムラは確認されない。

C:ベタ画像中に、ごく細い筋ムラが数本視認され、容易に視認できる筋ムラは確認されない。

D:ベタ画像中に、容易に視認できる筋ムラが確認される。
【0253】

<前処理液の経時安定性の評価>

上記処理液25gを、30mLのポリエチレン製のボトルに収容した。前処理液が収容されたボトルを、40℃に設定したサーモセル中に入れて2週間保存した。保存前後における前処理液の粘度をそれぞれ測定し、下記式に従ってΔ粘度(mPa・s)を算出した。

Δ粘度=(40℃で2週間保存した後の前処理液の粘度)-(保存前の前処理液の粘度)

なお、粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、前処理液を25℃に調温した状態で測定した。

上記のようにして得たΔ粘度に基づいて、以下の評価基準に従い、前処理液の経時安定性を評価した。

結果を表4に示す。

下記評価基準において、前処理液の経時安定性に最も優れるランクは「A」である。
【0254】

-前処理液の経時安定性の評価基準-

5:Δ粘度が0.1mPa・s以下である。

4:Δ粘度が0.1mPa・sを超え0.4mPa・s以下である。

3:Δ粘度が0.4mPa・sを超え1.0mPa・s以下である。

2:Δ粘度が1.0mPa・sを超え2.0mPa・s以下である。

1:Δ粘度が2.0mPa・sを超える。
【0255】

〔実施例2~28、32~35、及び44~47〕

前処理液中の特定樹脂を、表3及び表4に示す特定樹脂に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。

結果を表4に示す。
【0256】

〔実施例29~31〕

非浸透性基材A(PET基材)を、下記の非浸透性基材B~Dに変更したこと以外は実施例28と同様の操作を行った。

結果を表4に示す。
【0257】

非浸透性基材B:二軸延伸ポリプロピレン(OPP)基材(東洋紡社製「P6181」、厚さ25μm、幅500mm、長さ2000m)

非浸透性基材C:ナイロン基材(ユニチカ社製「エンブレムON-25」、厚さ25μm、幅500mm、長さ2000m)

非浸透性基材D:ポリエチレン基材(フタムラ化学社製「LL-RP2」、厚さ30μm、幅500mm、長さ2000m)
【0258】

〔実施例36~39〕

前処理液中における凝集剤の量を、表4に示すように変更したこと以外は実施例28と同様の操作を行った。

結果を表4に示す。
【0259】

〔実施例40、41〕

前処理液中における凝集剤の種類を、表4に示すように変更したこと以外は実施例28と同様の操作を行った。

結果を表4に示す。
【0260】

〔実施例42、43〕

前処理液中の特定樹脂を、表3及び表4に示す特定樹脂に変更し、かつ、前処理液中における凝集剤の種類を、表4に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。

結果を表4に示す。
【0261】

【表3】
【0262】

【表4】
【0263】

表3及び表4に示すように、凝集剤と水性媒体と特定樹脂とを含有し、特定樹脂が、単位(1)~単位(3)からなる群から選択される少なくとも1種を含み、特定樹脂のガラス転移温度が-40℃以上100℃未満である前処理液を用いた実施例1~49では、画像の密着性に優れていた。

これに対し、ガラス転移温度が100℃である比較樹脂を含有する前処理液を用いた比較例1では、画像の密着性が低下した。

また、単位(1)~単位(3)のいずれをも含まない比較樹脂を含有する前処理液を用いた比較例2でも、画像の密着性が低下した。
【0264】

実施例27~34の結果から、特定樹脂が、更に、単位(A)~(E)からなる群から選択される少なくとも1種を含む場合(実施例27~33)、画像の密着性がより向上することがわかる。
【0265】

実施例22~26の結果から、特定樹脂が、単位(A)及び単位(B)からなる群から選択される少なくとも1種を含む場合(実施例22~25)、画像の密着性がより向上することがわかる。
【0266】

実施例6~9の結果から、単位(1)~単位(3)の総含有量が、特定樹脂の全体に対し、5質量%~80質量%である場合(実施例8及び9)、画像の密着性がより向上することがわかる。
【0267】

実施例8~11の結果から、単位(1)~単位(3)の総含有量が、特定樹脂の全体に対し、10質量%~60質量%である場合(実施例10及び11)、画像の密着性がより向上することがわかる。
【0268】

実施例1~13の結果から、特定樹脂が、単位(1)及び単位(2)からなる群から選択される少なくとも1種を含む場合(実施例1~12)、前処理液の経時安定性がより向上することがわかる。
【0269】

実施例13~25の結果から、特定樹脂のガラス転移温度(Tg)が、-20℃~90℃である場合(実施例15~17及び20~25)、画像の密着性がより向上することがわかる。
【0270】

実施例13~25の結果から、特定樹脂のガラス転移温度(Tg)が、-10℃~60℃である場合(実施例17及び22~25)、画像の密着性が更に向上することがわかる。
【0271】

全実施例の結果から、特定樹脂が、更に、単位(4)を含む場合(実施例1~34及び36~49)、前処理液の経時安定性がより向上することがわかる。
【0272】

全実施例の結果から、特定樹脂が、C2以上の鎖状アルキル基単位(即ち、特定樹脂の全量に対する、炭素数2以上の鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造単位)を含まないか、又は、含む場合には、特定樹脂の全量に対するC2以上の鎖状アルキル基単位の含有量が5質量%未満である場合(実施例6、9、11~15、23~25、27~33、35~42、及び45~49)、画像の筋ムラがより抑制されることがわかる。
【0273】

実施例6及び33の結果から、特定樹脂と水性媒体とのHSP距離(即ち、Hansen溶解度パラメータの距離)が、33MPa1/2以上40MPa1/2以下である場合(実施例6)、画像の密着性がより向上することがわかる。
【0274】

実施例28及び36~39の結果から、含有質量比〔特定樹脂/凝集剤〕が1.0~10である場合(実施例28、36、及び37)、画像の密着性がより向上することがわかる。
【0275】

以上、インクとして、シアンインクを用いた実施例群について説明したが、これらの実施例群において、シアンインクをシアンインク以外のインク(例えば、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク等)に変更した場合、又は、シアンインクに加えてシアンインク以外のインクの少なくとも1つを用いて多色の画像を記録した場合にも、上述した実施例群と同様の効果が得られることはいうまでもない。