(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】細胞の三次元培養方法、細胞構造体、細胞構造体の製造方法、細胞の運搬方法及び細胞の保存方法
(51)【国際特許分類】
C12N 11/04 20060101AFI20220307BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220307BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20220307BHJP
C12N 11/10 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
C12N11/04
C12N1/00 B
C12N1/04
C12N11/10
(21)【出願番号】P 2017203281
(22)【出願日】2017-10-20
【審査請求日】2020-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】池田 和弘
【審査官】田村 直寛
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-512660(JP,A)
【文献】特開平10-248557(JP,A)
【文献】特開昭63-209581(JP,A)
【文献】BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING,2001年,Vol.75, No.6,pp.741-744
【文献】Biomed Eng Appl Basis Comm,2006年,Vol.18,pp.62-66
【文献】Applied Biochemistry and Biotechnology,2006年,Vol.134,pp.61-76
【文献】PLOS one,2011年,Vol.6, No.8, e23212,1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 11/04
C12N 1/00
C12N 1/04
C12N 11/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類を含有する第1の溶液と、マイクロキャリアと、接着性細胞とを混合し、前記多糖類に対する凝固剤を含む第2の溶液を添加して、前記多糖類をゲル化
して、前記マイクロキャリア、前記接着性細胞及びゲル状の前記多糖類を含むファイバー状の混合物を得るゲル化工程と、
ポリアミノ酸を含む第3の溶液を添加して、前記マイクロキャリア、前記接着性細胞及びゲル状の前記多糖類を含む
ファイバー状の混合物を前記ポリアミノ酸で被覆する第1の被覆工程と、
前記ゲル状の多糖類の可溶化剤を含む第4の溶液を添加し、前記多糖類を除去する除去工程と、
前記ポリアミノ酸で被覆された前記マイクロキャリア及び前記接着性細胞を含む
ファイバー状の混合物を培養する培養工程と、
を備える細胞の三次元培養方法。
【請求項2】
前記第1の被覆工程の後であって、前記除去工程の前に、更に、前記第1の溶液及び前記第2の溶液を添加し、前記ポリアミノ酸で被覆された前記マイクロキャリア、前記接着性細胞及びゲル状の前記多糖類を含む
ファイバー状の混合物を、更にゲル状の前記多糖類で被覆する第2の被覆工程を備える請求項1に記載の細胞の三次元培養方法。
【請求項3】
前記第1の溶液が、更に細胞外マトリックスを含む請求項1又は2に記載の細胞の三次元培養方法。
【請求項4】
マイクロキャリア及び接着性細胞を含み、
前記マイクロキャリア及び前記接着性細胞を含む混合物がポリアミノ酸で被覆されて
おり、
ファイバー状である、細胞構造体。
【請求項5】
前記混合物が、更にゲル状の多糖類を含む請求項4に記載の細胞構造体。
【請求項6】
前記混合物が、更に細胞外マトリックスを含む請求項4又は5に記載の細胞構造体。
【請求項7】
前記ポリアミノ酸で被覆された前記混合物が、更にゲル状の多糖類で被覆されている請求項4~6のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項8】
マイクロキャリアと、接着性細胞と、多糖類を含有する第1の溶液とを混合し、前記多糖類に対する凝固剤を含む第2の溶液を添加して、前記多糖類をゲル化
して、前記マイクロキャリア、前記接着性細胞及びゲル状の前記多糖類を含むファイバー状の混合物を得るゲル化工程と、
ポリアミノ酸を含む第3の溶液を添加して、前記マイクロキャリア、前記接着性細胞及びゲル状の前記多糖類を含む
ファイバー状の混合物をポリアミノ酸で被覆する第1の被覆工程と、
を備える細胞構造体の製造方法。
【請求項9】
前記第1の被覆工程の後に、更に、前記ゲル状の多糖類の可溶化剤を含む第4の溶液を添加し、前記多糖類を除去する除去工程を備える請求項8に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項10】
前記第1の被覆工程の後であって、前記除去工程の前に、更に、前記第1の溶液及び前記第2の溶液を添加し、前記ポリアミノ酸で被覆された前記マイクロキャリア、前記接着性細胞及びゲル状の前記多糖類を含む
ファイバー状の混合物を、更にゲル状の前記多糖類で被覆する第2の被覆工程を備える請求項9に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項11】
前記第1の溶液が、更に細胞外マトリックスを含む請求項8~10のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項5~7のいずれか一項に記載の細胞構造体を用いる細胞の運搬方法。
【請求項13】
請求項8に記載の製造方法により得られた細胞構造体を4℃以上40℃以下で保存する保存工程を備える、細胞の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の三次元培養方法、細胞構造体、細胞構造体の製造方法及び細胞の運搬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の三次元培養方法は、特に細胞を大量に培養するための手法として知られている。特に、体内の細胞の大半である接着性細胞は、単に培地に懸濁して培養すると、全く増殖しない。そのため、マイクロキャリアという細胞が接着する足場となる部材と共に懸濁培養するのが一般的である。
【0003】
特許文献1及び2には、マイクロキャリアを用いた接着性細胞を大量に培養する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-030453号公報
【文献】特開2017-136042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2等に記載の従来のマイクロキャリアを用いた懸濁培養方法では、マイクロキャリア同士が細胞を介して大きな凝集塊を形成し、酸素や栄養の透過性が低下することによって、当該凝集塊内部の細胞死や細胞の性質変化に繋がることが問題となってきた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、マイクロキャリア及び細胞の過剰な凝集による細胞死が抑制された細胞の三次元培養方法を提供する。また、マイクロキャリア及び細胞の凝集塊の大きさが制御されており、細胞生存率及び細胞増殖率が良好な細胞構造体及びその製造方法を提供する。また、細胞生存率を保ちながら安全かつ簡便に細胞を運搬可能な細胞の運搬方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る細胞の三次元培養方法は、多糖類を含有する第1の溶液と、マイクロキャリアと、接着性細胞とを混合し、前記多糖類に対する凝固剤を含む第2の溶液を添加して、前記多糖類をゲル化して、前記マイクロキャリア、前記接着性細胞及びゲル状の前記多糖類を含むファイバー状の混合物を得るゲル化工程と、ポリアミノ酸を含む第3の溶液を添加して、前記マイクロキャリア、前記接着性細胞及びゲル状の前記多糖類を含むファイバー状の混合物を前記ポリアミノ酸で被覆する第1の被覆工程と、前記ゲル状の多糖類の可溶化剤を含む第4の溶液を添加し、前記多糖類を除去する除去工程と、前記ポリアミノ酸で被覆された前記マイクロキャリア及び前記接着性細胞を含むファイバー状の混合物を培養する培養工程と、を備える方法である。
【0008】
上記第1態様に係る細胞の三次元培養方法は、前記第1の被覆工程の後であって、前記除去工程の前に、更に、前記第1の溶液及び前記第2の溶液を添加し、前記ポリアミノ酸で被覆された前記マイクロキャリア、前記接着性細胞及びゲル状の前記多糖類を含むファイバー状の混合物を、更にゲル状の前記多糖類で被覆する第2の被覆工程を備えてもよい。
【0009】
上記第1態様に係る細胞の三次元培養方法において、前記第1の溶液が、更に細胞外マトリックスを含んでもよい。
【0010】
本発明の第2態様に係る細胞構造体は、マイクロキャリア及び接着性細胞を含み、前記マイクロキャリア及び前記接着性細胞を含む混合物がポリアミノ酸で被覆されており、ファイバー状である。
【0011】
上記第2態様に係る細胞構造体において、前記混合物が、更にゲル状の多糖類を含んでもよい。
【0012】
上記第2態様に係る細胞構造体において、前記混合物が、更に細胞外マトリックスを含んでもよい。
【0013】
上記第2態様に係る細胞構造体において、前記ポリアミノ酸で被覆された前記混合物が、更にゲル状の多糖類で被覆されていてもよい。
【0014】
本発明の第3態様に係る細胞構造体の製造方法は、マイクロキャリアと、接着性細胞と、多糖類を含有する第1の溶液とを混合し、前記多糖類に対する凝固剤を含む第2の溶液を添加して、前記多糖類をゲル化して、前記マイクロキャリア、前記接着性細胞及びゲル状の前記多糖類を含むファイバー状の混合物を得るゲル化工程と、ポリアミノ酸を含む第3の溶液を添加して、前記マイクロキャリア、前記接着性細胞及びゲル状の前記多糖類を含むファイバー状の混合物をポリアミノ酸で被覆する第1の被覆工程と、を備える方法である。
【0015】
上記第3態様に係る細胞構造体の製造方法は、前記第1の被覆工程の後に、更に、前記ゲル状の多糖類の可溶化剤を含む第4の溶液を添加し、前記多糖類を除去する除去工程を備えてもよい。
【0016】
上記第3態様に係る細胞構造体の製造方法は、前記第1の被覆工程の後であって、前記除去工程の前に、更に、前記第1の溶液及び前記第2の溶液を添加し、前記ポリアミノ酸で被覆された前記マイクロキャリア、前記接着性細胞及びゲル状の前記多糖類を含むファイバー状の混合物を、更にゲル状の前記多糖類で被覆する第2の被覆工程を備えてもよい。
【0017】
上記第3態様に係る細胞構造体の製造方法において、前記第1の溶液が、更に細胞外マトリックスを含んでもよい。
【0018】
本発明の第4態様に係る細胞の運搬方法は、上記第2態様に係る細胞構造体を用いる方法である。
本発明の第5態様に係る細胞の保存方法は、上記第3態様に係る製造方法により得られた細胞構造体を4℃以上40℃以下で保存する保存工程を備える。
【発明の効果】
【0019】
上記態様の細胞の三次元培養方法によれば、マイクロキャリア及び細胞の過剰な凝集による細胞死を抑制することができる。上記態様の細胞構造体及びその製造方法によれば、マイクロキャリア及び細胞の凝集塊の大きさを制御することができ、細胞生存率及び細胞増殖率を良好なものとすることができる。上記態様の細胞の運搬方法によれば、細胞生存率を保ちながら安全かつ簡便に細胞を運搬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態の細胞の三次元培養方法の一例を示す概略工程図である。
【
図2A】実施例1におけるマイクロキャリア、C2C12細胞及びゲル状のアルギン酸を含む混合物の顕微鏡像である。スケールバーは500μmである。
【
図2B】実施例1における細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)の顕微鏡像である。スケールバーは500μmである。
【
図3】実施例1における培養1日目の細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)及び細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)の蛍光顕微鏡像である。スケールバーは250μmである。
【
図4A】実施例1における培養4日目の対照群、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)及び細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を観察した画像である。上は明視野での顕微鏡像であり、下は蛍光顕微鏡像である。スケールバーは400μmである。
【
図4B】実施例1における培養4日目の対照群、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)及び細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)での細胞増殖率を示すグラフである。
【
図5】実施例2における細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)の蛍光顕微鏡像である。スケールバーは500μmである。
【
図6】実施例3におけるT字状の細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)の観察写真である。
【
図7】実施例4における継代培養した各細胞の細胞増殖率を示すグラフである。
【
図8A】実施例5における分化誘導前の細胞の顕微鏡像である。スケールバーは500μmである。
【
図8B】実施例5における分化誘導後の細胞の顕微鏡像である。スケールバーは500μmである。
【
図9A】実施例6における培養1日目及び4日目の対照群1(Static MC)、対照群2(Agitation MC)及び細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)(MC fiber)を観察した画像である。左及び中央は明視野での顕微鏡像であり、右は蛍光顕微鏡像である。スケールバーは500μmである。
【
図9B】実施例6における培養4日目の対照群1(Static MC)、対照群2(Agitation MC)及び細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)(MC fiber)での細胞増殖率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<細胞の三次元培養方法>
本実施形態の細胞の三次元培養方法は、ゲル化工程と、第1の被覆工程と、除去工程と、培養工程と、を備える方法である。
【0022】
図1は、本実施形態の細胞の三次元培養方法の一例を示す概略工程図である。
図1を参照しながら、各工程について、以下に詳細を説明する。
【0023】
[ゲル化工程]
ゲル化工程では、まず、多糖類を含有する第1の溶液1aと、マイクロキャリア2と、接着性細胞3とを混合する。このとき、混合溶液が均一になるように、撹拌することが好ましい。次いで、均一な状態の混合溶液に多糖類に対する凝固剤を含む第2の溶液4を添加して、多糖類をゲル化する。混合溶液を第2の溶液に添加する方法としては、例えば、
図1に示すように、注射器等に混合溶液を充填し、第2の溶液を含む容器に、混合溶液を注射器を用いて吐出する方法が挙げられる。又は、例えば、マイクロ流路に、混合溶液及び第2の溶液をそれぞれ送液し、接触させる方法が挙げられる。
【0024】
ゲル化工程において、多糖類を凝固剤と接触させてハイドロゲルを形成することで、マイクロキャリア2、接着性細胞3及びゲル状の多糖類1bを含む固形の混合物が得られる。この混合物中では、ゲル状の多糖類1bに、マイクロキャリア2及び接着性細胞3が均一に分散した状態が保たれている。
【0025】
(第1の溶液)
第1の溶液に含まれる多糖類としては、凝固剤を添加することでハイドロゲルを形成でき、可溶化剤を添加することで可溶化できるものであればよい。多糖類として具体的には、例えば、カラギーナン、LM(Low Methylester)ペクチン、キシログルカン、ジェランガム、ヒアルロン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩等が挙げられ、これらに限定されない。これら多糖類を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0026】
また、ヒアルロン酸塩及びアルギン酸塩としては、ヒアルロン酸及びアルギン酸と1価の金属イオンとの塩であることが好ましい。1価の金属イオンとしては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、これらに限定されない。
【0027】
中でも、多糖類としては、アルギン酸又はその塩であることが好ましい。
【0028】
また、上記多糖類と組み合わせて、例えば、寒天、ゼラチン、アガロース、デンプン、グリコーゲン、ヘパリン、セルロース等のその他の多糖類を併用してもよい。これらその他の多糖類は加温することで溶解し、冷却することでハイドロゲルとすることができる。
【0029】
第1の溶液中の多糖類の濃度としては、例えば0.5質量%以上3質量%以下とすることができ、例えば1質量%以上2質量%以下とすることができる。
【0030】
また、多糖類を溶解する溶媒としては、水系溶媒であればよい。水系溶媒として具体的には、例えば、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液等の当該分野において公知の緩衝液等が挙げられる。
【0031】
前記緩衝液は、必要に応じて、NaCl、界面活性剤(例えば、Tween 20、Triton X-100等)、又は防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)を含んでいてもよい。
【0032】
公知の緩衝液の具体例としては、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline;PBS)、PBS-T(PBS-Tween 20)、トリス緩衝生理食塩水(Tris Buffered Saline;TBS)、TBS-T(TBS-Tween 20)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0033】
また、水系溶媒の代わりに、細胞培養用の培地を用いてもよく、上記水系溶媒と培地との混合溶液であってもよい。前記培地としては、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基本培地であればよい。
【0034】
前記基本培地としては、例えば、DMEM、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI-1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F-12(DMEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0035】
また、前記培地はさらに血清、又は、成長因子を含んでいてもよい。
【0036】
前記血清としては、例えば、FBS/FCS(Fetal Bovine/Calf Serum)、NCS(Newborn Calf serum)、CS(Calf Serum)、HS(Horse Serum)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0037】
培地に含まれる血清の濃度は、例えば2質量%以上10質量%以下であればよい。
【0038】
前記成長因子としては、例えば、細胞増殖因子、細胞接着因子等が挙げられ、これらに限定されない。
【0039】
前記成長因子としてより具体的には、例えば、上皮成長因子(Epidermal growth factor:EGF)、酸性繊維芽細胞成長因子(acidic fibroblast growth factor:aFGF)、塩基性繊維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)、インスリン様成長因子-1(Insulin-like growth factor-1:IGF-1)、マクロファージ由来成長因子(Macrophage-derived growth factor:MDGF)、血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor:PDGF)、腫瘍血管新生因子(Tumor angiogenesis factor:TAF)等が挙げられる。これらの成長因子を単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
【0040】
培地に含まれる成長因子の濃度は、特別な限定はなく、例えば1ng/mL以上10μg/mL以下であればよい。
【0041】
培地にはさらに、以下に例示するホルモン、抗生物質等のその他の添加物を含有していてもよい。
【0042】
培地に含まれるホルモンとしては、例えば、インシュリン、グルカゴン、トリヨードチロニン、副腎皮質ホルモン等が挙げられる。これらのホルモンを単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
【0043】
培地に含まれるホルモンの濃度は、特別な限定はなく、例えば1ng/mL以上10μg/mL以下であればよい。
【0044】
培地に含まれる抗生物質としては、例えば、ゲンタマイシン、アンフォテリシン、アンピシリン、ミノマイシン、カナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタシン、タイロシン、オーレオマイシン等、通常の動物細胞の培養に用いられるものが挙げられる。これらの抗生物質を単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
【0045】
培地に含まれる抗生物質の濃度は、特別な限定はなく、例えば0.1μg/mL以上100μg/mL以下であればよい。
【0046】
また、第1の溶液は、更に、細胞外マトリックスを含んでいてもよい。細胞外マトリックスとしては、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型等)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン等を含む)より再構成された基底膜成分(商品名:マトリゲル)、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、ゼラチン等が挙げられ、これらに限定されない。
【0047】
(マイクロキャリア)
ゲル化工程において用いられるマイクロキャリアとしては、細胞培養に一般的に用いられる公知のものを用いることができる。また、その形状は、特別な限定はなく、例えば、球状、多角体状、円球状、円錐状、角錐状、円錐台状、角錐台状等が挙げられる。中でも、表面積が大きく、万遍なく細胞が接着可能であることから、球状であることが好ましい。
【0048】
マイクロキャリアが球状である場合、その粒子径は、例えば10μm以上500μm以下とすることができ、例えば100μm以上300μm以下とすることができる。
【0049】
また、マイクロキャリアの材質としては、細胞適合性を有するものであればよい。マイクロキャリアとして具体的には、例えば、セルロース、デキストラン、ヒドロキシル化メタクリレート、ヒアルロン酸、コラーゲン、ゼラチン、ポリスチレン、プラスチック、ガラス、セラミック、シリコーン等を含むものであればよい。これらを1種単独含むものであってもよく、2種以上組み合わせて含むものであってもよい。
【0050】
また、マイクロキャリアの材質がセルロース、デキストラン、ヒアルロン酸、コラーゲン、ゼラチンである場合、後述に示す培養工程において、所望の細胞数に達した後、マイクロキャリアの材質を分解する酵素(セルラーゼ、デキストラナーゼ、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、プロテアーゼ)等で処理することで、マイクロキャリアを容易に除去することができる。さらに、細胞構造体を被覆するポリアミノ酸を除去することで、細胞を簡便に単離することができる。また、このとき、細胞構造体を被覆するポリアミノ酸を除去せずに継続して培養し、マイクロキャリアが除去された生じた空間を埋めるように細胞をさらに増殖させて、ポリアミノ酸を除去することもできる。これにより、三次元的に形成された細胞のみからなる細胞構造体を得ることができる。
【0051】
多糖類を含有する第1の溶液と、マイクロキャリアと、接着性細胞との混合溶液中のマイクロキャリアの濃度は、例えば20mg/mL以上100mg/mL以下とすることができ、例えば30mg/mL以上80mg/mL以下とすることができる。
【0052】
(接着性細胞)
ゲル化工程において用いられる接着性細胞としては、固体表面に接着して増殖する細胞であれば特に限定されない。接着性細胞として具体的には、例えば、上皮細胞(Vero細胞、MDCK細胞、CHO細胞、HEK293細胞、COS細胞、HmLu細胞等)、腫瘍細胞(Hela細胞、VACO細胞等)、内皮細胞(HUVEC細胞、DBAE細胞等)、白血球(HIT-T15細胞等)、線維芽細胞(WI38細胞、BHK21細胞、SFME細胞等)、筋肉細胞(HL1細胞、C2C12細胞等)、神経/内分泌腺細胞(ROC-1細胞、IMR-32細胞等)等が挙げられる。これら細胞を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせ用いてもよい。
【0053】
細胞の由来となる動物としては、脊椎動物であってもよく、無脊椎動物であってもよい。脊椎動物としては、特別な限定はなく、例えば、哺乳動物、両類、爬虫類、両生類、魚類等が挙げられる。無脊椎動物としては、特別な限定はなく、例えば、昆虫、甲殻類、軟体動物、原生動物等が挙げられる。
【0054】
中でも、細胞の由来となる動物としては、脊椎動物であることが好ましく、哺乳動物であることがより好ましい。哺乳動物として具体的には、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、哺乳動物としては、ヒトであることが好ましい。
【0055】
(第2の溶液)
第2の溶液に含まれる多糖類に対する凝固剤としては、多糖類の種類に応じて適宜選択すればよい。
多糖類がカラギーナン、LM(Low Methylester)ペクチン、ジェランガム、アルギン酸及びその塩である場合、凝固剤として具体的には、例えば、2価の金属塩が挙げられる。2価の金属塩としては、例えば、バリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられ、これらに限定されない。
【0056】
バリウム塩として具体的には、例えば、塩化バリウム、フッ化バリウム、臭化バリウム、水酸化バリウム、炭酸バリウム、リン酸バリウム等が挙げられる。
【0057】
塩化カルシウム、フッ化カルシウム、臭化カルシウム、過酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。
【0058】
塩化マグネシウム、フッ化マグネシウム、臭化マグネシウム、過酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0059】
多糖類がキシログルカンである場合、凝固剤として具体的には、例えば、単糖類、オリゴ糖類、アルコール、ポリオール、ポリフェノール類等が挙げられる。
【0060】
多糖類がヒアルロン酸である場合、凝固剤として具体的には、例えば、グルタルアルデヒド、グリセリンアルデヒド等のアルデヒド類等が挙げられる。
【0061】
第2の溶液中の凝固剤の濃度としては、凝固剤が2価の金属塩である場合、例えば50mM以上200mM以下とすることができ、例えば75mM以上150mM以下とすることができる。
【0062】
また、凝固剤を溶解する溶媒としては、水系溶媒であればよい。水系溶媒としては、上記第1の溶液で例示されたものと同様のものが挙げられる。また、水系溶媒の代わりに、細胞培養用の培地を用いてもよく、上記水系溶媒と培地との混合溶液であってもよい。培地としては、上記第1の溶液で例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0063】
[第1の被覆工程]
第1の被覆工程では、ポリアミノ酸を含む第3の溶液5を添加して、マイクロキャリア2、接着性細胞3及びゲル状の多糖類1bを含む混合物をポリアミノ酸6で被覆する。混合物に第3の溶液5を添加する方法としては、例えば、
図1に示すように、混合物を加温した第3の溶液に浸漬させる方法が挙げられる。又は、例えば、混合物に加温した第3の溶液を滴下する方法が挙げられる。第3の溶液の温度としては、例えば30℃以上40℃以下とすることができる。これにより、ポリアミノ酸で被覆されたマイクロキャリア2、接着性細胞3及びゲル状の前記多糖類1bを含む混合物(以下、「細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)」10と称する)が得られる。また、ポリアミノ酸で被覆することで、マイクロキャリア2、接着性細胞3及びゲル状の前記多糖類1bを含む混合物同士が凝集することを防止でき、該混合物に含まれるマイクロキャリア2及び接着性細胞3が拡散することを防止することができる。
【0064】
(第3の溶液)
第3の溶液に含まれるポリアミノ酸としては、例えば、ポリ-L-オルニチン、ポリ-L-リジン、ポリ-L-アルギニン、ポリ-L-ヒスチジン、ポリ-L-グルタミン酸、ポリ-L-アスパラギン酸等が挙げられ、これらに限定されない。これらポリアミノ酸を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0065】
中でも、ポリアミノ酸としては、ポリ-L-リジンであることが好ましい。
【0066】
第3の溶液中のポリアミノ酸の濃度としては、凝固剤が2価の金属塩である場合、例えば50mM以上200mM以下とすることができ、例えば75mM以上150mM以下とすることができる。
【0067】
また、ポリアミノ酸を溶解する溶媒としては、水系溶媒であればよい。水系溶媒としては、上記第1の溶液で例示されたものと同様のものが挙げられる。また、水系溶媒の代わりに、細胞培養用の培地を用いてもよく、上記水系溶媒と培地との混合溶液であってもよい。培地としては、上記第1の溶液で例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0068】
[除去工程]
除去工程では、細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)10に、ゲル状の多糖類の可溶化剤を含む第4の溶液7を添加し、多糖類を除去する。第4の溶液を添加する方法としては、例えば、
図1に示すように、細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)10を第4の溶液7に浸漬させる方法が挙げられる。又は、例えば、細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)10に第4の溶液7を滴下する方法が挙げられる。これにより、細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)10に含まれるゲル状の多糖類を分解し、除去して、細胞構造体(ゲル状の多糖類不含)が得られる。
【0069】
(第4の溶液)
第4の溶液に含まれるゲル状の多糖類の可溶化剤としては、多糖類の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0070】
多糖類がカラギーナン、LM(Low Methylester)ペクチン、ジェランガム、並びに、アルギン酸及びその塩である場合、ゲル状の多糖類の可溶化剤としては、例えば、キレート剤、酵素等が挙げられる。
【0071】
キレート剤として具体的には、例えば、クエン酸、エチレンジアミン(Ethylenediamine)、エチレンジアミン四酢酸(Ethylene Diamine Tetraacetic Acid;EDTA)、ニトリロ三酢酸(Nitrilo Triacetic Acid;NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(Diethylene Triamine Pentaacetic Acid;DTPA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸(Hydroxyethyl Ethylene Diamine Triacetic Acid;HEDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(Glycol Ether Diamine Tetraacetic Acid;GEDTA、EGTA)、トリエチレンテトラミン-N,N,N’,N’ ’,N’ ’ ’,N’ ’ ’-六酢酸(Triethylene Tetramine Hexaacetic Acid;TTHA)、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(Hydroxyethyl Imino Diacetic Acid;HIDA)、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Dihydroxyethyl Glycine;DHEG)等が挙げられ、これらに限定されない。また、クエン酸は、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等のクエン酸塩の形であってもよい。
【0072】
酵素としては、例えば、λ-カラギナーゼ、ペクチナーゼ、ジェランガム分解酵素、アルギン酸リアーゼ等が挙げられ、これらに限定されない。
【0073】
多糖類がキシログルカン、並びに、ヒアルロン酸及びその塩である場合、ゲル状の多糖類の可溶化剤としては、例えば、キシログルカン分解酵素、ヒアルロニダーゼ等の酵素が挙げられる。
【0074】
第4の溶液に含まれるゲル状の多糖類の可溶化剤がクエン酸である場合、該クエン酸の濃度としては、例えば0.1mM以上100mM以下とすることができる。
【0075】
また、第4の溶液に含まれるゲル状の多糖類の可溶化剤がEDTAである場合、該EDTAの濃度としては、例えば0.5mM以上100mM以下とすることができる。
【0076】
また、第4の溶液に含まれるゲル状の多糖類の可溶化剤が酵素である場合、該酵素の濃度としては、例えば0.01mg/mL以上1mg/mL以下とすることができ、0.02mg/mL以上500mg/mL以下とすることができる。
【0077】
また、ゲル状の多糖類の可溶化剤を溶解する溶媒としては、水系溶媒であればよい。水系溶媒としては、上記第1の溶液で例示されたものと同様のものが挙げられる。また、水系溶媒の代わりに、細胞培養用の培地を用いてもよく、上記水系溶媒と培地との混合溶液であってもよい。培地としては、上記第1の溶液で例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0078】
[培養工程]
培養工程では、ポリアミノ酸6で被覆されたマイクロキャリア2及び接着性細胞3を含む混合物(以下、「細胞構造体(ゲル状の多糖類不含)」20と称する場合がある)を培養する。培養方法としては、例えば、
図1に示すように、培地9を含むスピンナーフラスコ8内に、細胞構造体(ゲル状の多糖類不含)20を入れて、培養する方法が挙げられる。又は、その他の三次元培養法として公知の方法を用いてもよい。これにより、細胞構造体(ゲル状の多糖類不含)20中において、上記除去工程で除去されたゲル状の多糖類が存在した空間を埋めるように接着細胞を増殖させることができる。また、ゲル状の多糖類の存在により、マイクロキャリア2及び接着性細胞3が均一に分散した状態が保たれたことで、ゲル状の多糖類の除去後においても、過剰な凝集を抑制することができ、細胞構造体の内部に存在する細胞にも、充分に栄養分及び酸素が供給される。これにより、本実施形態の三次元培養方法では、従来の三次元培養方法よりも、細胞生存率及び細胞増殖率が良好なものとなる。
【0079】
また、培養工程において用いられる培地としては、上記第1の溶液で例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0080】
培養条件は、細胞構造体20に含まれる細胞の種類に応じて、適宜調整することができる。培養温度としては、例えば30℃以上40℃以下とすることができる。培養環境としては、例えば約5%CO2を含有する空気の条件下とすることができる。
【0081】
また、本実施形態の細胞の三次元培養方法では、上記ゲル化工程、上記第1の被覆工程、上記除去工程及び上記培養工程に加えて、更に、その他の工程を備えていてもよい。その他の工程としては、第2の被覆工程、回収工程及び洗浄工程等が挙げられる。第2の被覆工程は、上記第1の被覆工程の後であって、上記除去工程の前に行えばよい。回収工程は、上記培養工程の後に行えばよい。洗浄工程は、上記各工程の後であって、後に続く工程の前に行えばよい。
【0082】
[第2の被覆工程]
第2の被覆工程では、第1の被覆工程で得られた細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)10に、多糖類を含む第1の溶液1a及び多糖類に対する凝固剤を含む第2の溶液4を添加する。第1の溶液1a及び第2の溶液4を添加する方法としては、例えば、細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)10及び第1の溶液1aの懸濁液を調製し、該懸濁液と第2の溶液4とをマイクロ流路に送液して、接触させる方法が挙げられる。
【0083】
これにより、ポリアミノ酸6で被覆されたマイクロキャリア2、接着性細胞3及びゲル状の多糖類1bを含む混合物(細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)10)を、更にゲル状の多糖類1bで被覆することができる。得られる細胞構造体の構造としては、最外表面がゲル状の多糖類1bで被覆され、中間層がポリアミノ酸6であり、その内部にマイクロキャリア2、接着性細胞3及びゲル状の多糖類1bを含む混合物が存在する。この得られた細胞構造体を、以下において、「細胞構造体(ゲル状の多糖類を内外に含有)」と称する場合がある。
【0084】
[回収工程]
回収工程では、培養工程で得られた培養後の細胞構造体(ゲル状の多糖類不含)20から接着性細胞3を回収する。具体的には、まず、ポリアミノ酸を物理的に引き剥がして、内部からマイクロキャリア2及び接着性細胞3を含む混合物を取り出す。次いで、トリプシン処理等により、マイクロキャリア2と接着性細胞3とを解離させて、接着性細胞3を回収する。
【0085】
[洗浄工程]
洗浄工程では、上記ゲル化工程で得られたマイクロキャリア2、接着性細胞3及びゲル状の多糖類1bを含む混合物を洗浄するために行ってもよい。又は、上記第1の被覆工程で得られた細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)10を洗浄するために行ってもよい。又は、上記第2の被覆工程で得られた細胞構造体(ゲル状の多糖類を内外に含有)を洗浄するために行ってもよい。上記除去工程で得られた細胞構造体(ゲル状の多糖類不含)20を洗浄するために行ってもよい。又は、培養工程で得られた培養後の細胞構造体(ゲル状の多糖類不含)20を洗浄するために行ってもよい。
【0086】
洗浄工程では、水系溶媒又は培地を用いて、上記工程で得られたものを1回以上(例えば2回以上3回以下程度)洗浄することができる。洗浄工程で用いられる水系溶媒又は培地としては、上記第1の溶液において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0087】
<細胞構造体>
本実施形態の細胞構造体は、上記細胞の三次元培養方法により得られる。
図1の本実施形態の細胞の三次元培養方法の一例を示す概略構成図において、細胞構造体の構成図を示している。
【0088】
図1に示す細胞構造体(ゲル状の多糖類不含)20は、マイクロキャリア2及び接着性細胞3を含む。また、マイクロキャリア2及び接着性細胞3を含む混合物がポリアミノ酸6で被覆されている。この細胞構造体(ゲル状の多糖類不含)20は、接着性細胞3の生存率及び増殖率が良好である。そのため、接着性細胞3の大量培養に好適に用いられる。
【0089】
マイクロキャリア2及び接着性細胞3を含む混合物は、更に、細胞外マトリックスを含んでいてもよい。これにより、接着性細胞をより良好に増殖させることができる。細胞外マトリックスとしては、上記第1の溶液において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0090】
また、
図1に示す細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)10では、マイクロキャリア2、接着性細胞3及びゲル状の多糖類1bを含む混合物がポリアミノ酸6で被覆されている。すなわち、本実施形態の細胞構造体は、更に、ゲル状の多糖類1bを含んでいてもよい。この細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)10は、接着性細胞3の増殖率は低いが、生存率が良好である。そのため、接着性細胞の運搬に好適に用いられる。
【0091】
また、図示していないが、上記細胞の三次元培養方法の第2の被覆工程により得られる細胞構造体(ゲル状の多糖類を内外に含有)では、最外表面がゲル状の多糖類1bで被覆され、中間層がポリアミノ酸6であり、その内部にマイクロキャリア2、接着性細胞3及びゲル状の多糖類1bを含む混合物が存在する。すなわち、本実施形態の細胞構造体は、細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)10が、更にゲル状の多糖類1bで被覆されていてもよい。この細胞構造体(ゲル状の多糖類を内外に含有)は、接着性細胞3の増殖率は低いが、生存率が良好である。そのため、接着性細胞の運搬に好適に用いられる。
【0092】
本実施形態の細胞構造体の形状としては、特別な限定はなく、例えば、シート状(板状)、ファイバー状(繊維状)、球状等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、形状としては、製造しやすい点から、ファイバー状(繊維状)が好ましい。特に、細い構造のファイバー状である場合、より効果的にマイクロキャリア及び細胞の過剰な凝集による細胞死を抑制することができる。
【0093】
本実施形態の細胞構造体の大きさとしては、撹拌培養可能な大きさであればよい。
本実施形態の細胞構造体の形状がファイバー状(繊維状)である場合、その筒径は、例えば100μm以上1000μm以下とすることができる。また、その長さは、例えば500μm以上100μm以下とすることができる。
【0094】
<細胞構造体の製造方法>
本実施形態の細胞構造体の製造方法は、上記ゲル化工程と、上記第1の被覆工程とを備える方法である。
【0095】
本実施形態の細胞構造体の製造方法によれば、細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)10を得ることができる。
【0096】
本実施形態の細胞構造体の製造方法は、上記ゲル化工程及び上記第1の被覆工程に加えて、更に、上記除去工程、上記培養工程及び上記第2の被覆工程を備えていてもよい。上記除去工程は上記第1の被覆工程の後に行えばよい。上記培養工程は、上記除去工程の後に行えばよい。また、上記第2の被覆工程は、上記第1の被覆工程の後であって、上記除去工程の前に行えばよい。
【0097】
本実施形態の細胞構造体の製造方法は、上記除去工程を備えることで、細胞構造体(ゲル状の多糖類不含)20を得ることができる。
【0098】
本実施形態の細胞構造体の製造方法は、上記培養工程を備えることで、細胞構造体(ゲル状の多糖類不含)20中の接着性細胞3を増殖させることができる。
【0099】
本実施形態の細胞構造体の製造方法は、上記第2の被覆工程を備えることで、細胞構造体(ゲル状の多糖類を内外に含有)を得ることができる。
【0100】
本実施形態の細胞構造体の製造方法は、上記ゲル化工程、上記第1の被覆工程、上記除去工程及び上記第2の被覆工程に加えて、更に、その他の工程を備えていてもよい。その他の工程としては、例えば、洗浄工程及び第2の除去工程等が挙げられる、洗浄工程は、上記細胞の三次元培養方法において記載したものと同様の工程である。また、第2の除去工程は、上記培養工程の後に行えばよい。
【0101】
[第2の除去工程]
また、第2の除去工程では、マイクロキャリアの材質がセルロース、デキストラン、ヒアルロン酸、コラーゲン、ゼラチンである場合、該マイクロキャリアを除去する。具体的には、まず、上記培養工程において、所望の細胞数に達した後、マイクロキャリアの材質を分解する酵素(セルラーゼ、デキストラナーゼ、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、プロテアーゼ)等で処理する。これにより、マイクロキャリアを容易に除去することができ、ポリアミノ酸で被覆されており、マイクロキャリアを含まず、接着性細胞を含む細胞構造体(以下、「細胞構造体(マイクロキャリア不含)」と称する場合がある)を得ることができる。
【0102】
また、得られた細胞構造体(マイクロキャリア不含)をさらに培養することで、マイクロキャリアが除去された生じた空間を埋めるように細胞をさらに増殖させることができる。その後、ポリアミノ酸を物理的に引き剥がして取り除くことで、三次元的に形成された接着性細胞の細胞構造体を得ることができる。
【0103】
<細胞の運搬方法>
本実施形態の細胞の運搬方法は、上記細胞構造体を用いる方法である。
【0104】
本実施形態の細胞の運搬方法で用いられる細胞構造体としては、細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)又は細胞構造体(ゲル状の多糖類を内外に含有)であることが好ましい。後述の実施例に示すとおり、細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)は、接着性細胞3の増殖率は低いが、生存率が良好である。そのため、接着性細胞の運搬に好適に用いられる。
【0105】
運搬方法としては、例えば、培地を含む開閉可能な密封容器に上記細胞構造体を封入し、運搬する方法が挙げられる。
【0106】
培地としては、上記第1の溶液において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0107】
密封容器としては、例えば、スクリューキャップ付のコニカルチューブ、スクリューキャップ付の細胞培養用フラスコ等が挙げられ、これらに限定されない。
【0108】
運搬する条件としては、運搬する細胞の種類により適宜選択することができる。
【0109】
運搬時の温度としては、例えば4℃以上40℃以下とすることができ、例えば10℃以上39℃以下とすることができ、例えば18℃以上37℃以下とすることができる。
【0110】
また、運搬時の環境は、例えば約5%CO2を含有する空気の条件下であってもよい。
【0111】
運搬可能な時間としては、細胞の種類、細胞数等により異なる。例えば1時間以上300日以下とすることができ、例えば1日以上100日以下とすることができ、例えば3日以上60日以下とすることができる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0113】
[実施例1]
1.細胞構造体の作製
(1)ゲル化工程
2mg/mLのネイティブコラーゲン及び1%のアルギン酸を含む溶液を調製した。次いで、該溶液に、マイクロキャリア(終濃度:60mg/mL、商品名:Cytodex3、GEヘルスケア・ジャパン社製)及びマウス筋芽細胞株C2C12細胞(終濃度:1.0×10
6cells/mL)を混合して、混合溶液を調製した。次いで、該混合溶液を注射器に充填し、100mM塩化カルシウム溶液に吐出して、アルギン酸をゲル化した。これにより、マイクロキャリア、C2C12細胞及びゲル状のアルギン酸を含む混合物が得られた(
図2A参照)。なお、
図2A中、矢印は細胞を示す。
【0114】
(2)被覆工程
次いで、該混合物をポリリジン溶液に入れて37℃まで加温し、ポリリジンを被覆させた。これにより、ポリリジンで被覆されたマイクロキャリア、C2C12細胞及びゲル状のアルギン酸を含む細胞構造体(以下、「細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)」と称する場合がある)が得られた(
図2B参照)。なお、
図2B中、矢印は細胞を示す。
【0115】
(3)除去工程
次いで、40μg/mLのアルギン酸リアーゼ含有又は不含の培地を用いて、(2)で得られた細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)を1日間培養した。培地としては、10%ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum;FBS)含有ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium;DMEM)を用いた。培養条件は、37℃、5%CO
2環境下とした。また、オービタルシェーカー(回転数:約50rpm)を用いて、撹拌培養した。次いで、培養後の各細胞構造体をカルセインAM(生細胞を染色)を用いて染色した。その結果を
図3に示す。
図3において、「Alginate lyase(-)」は細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)を示し、「Alginate lyase(+)」は細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を示す。
【0116】
図3から、アルギン酸リアーゼ含有培地を用いて培養した細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)では、ゲル状のアルギン酸が分解されて除去されていた。そのため、C2C12細胞がマイクロキャリア表面に接着していた。一方、アルギン酸リアーゼ不含培地を用いて培養した細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)では、C2C12細胞がマイクロキャリアには接着していなかった。
【0117】
(4)培養工程
次いで、アルギン酸リアーゼ不含のDMEM(10%FBS含有)に交換し、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)及び細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を、さらに3日間(培養開始から4日間)培養した。
【0118】
また、対照群として、6ウェルプレートにC2C12細胞(2.0×105cells/mL)を播種し、4mg/mLのマイクロキャリア(商品名:Cytodex3、GEヘルスケア・ジャパン社製)を含有するDMEM(10%FBS含有)を用いて4日間撹拌培養した。培養条件は、37℃、5%CO2環境下とした。また、オービタルシェーカー(回転数:約50rpm)を用いて、撹拌培養した。
【0119】
4日間の培養後、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)及び対照群を、カルセインAM(生細胞を染色)及びエチジウムホモダイマー(死細胞を染色)を用いて染色した。結果を
図4Aに示す。
図4Aにおいて、「MC suspension(conventioal)」とは対照群を示す。「MC fiber Alginate lyase(-)」とは、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)を示す。「MC fiber Alginate lyase(+)」とは、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を示す。また、上は明視野での顕微鏡像であり、下は蛍光顕微鏡像である。また、スケールバーは400μmである。
【0120】
図4Aから、対照群では、死細胞が多く観察された。一方、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)及び細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)は、ほとんど生細胞であった。これは、細胞構造体では、マイクロキャリア及び細胞の凝集塊の大きさが制御されており、過剰な凝集が抑制されたためであると推察された。
【0121】
次いで、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)及び対照群をトリプシン-EDTA処理して、細胞及びマイクロキャリアを解離させた。次いで、細胞数を測定した。結果を
図4Bに示す。
図4Bにおいて、細胞増殖率は、培養開始時の細胞数を1としたときの相対比を示している。
図4Bにおいて、「MC suspension(conventioal)」とは対照群を示す。「MC fiber Alginate lyase(-)」とは、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)を示す。「MC fiber Alginate lyase(+)」とは、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を示す。
【0122】
図4Bから、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)では細胞がほとんど増殖していなかった。一方、対照群では6.9倍であるの対し、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)では細胞増殖率が9.9倍であり、高い細胞増殖率を示した。
【0123】
[実施例2]
1.細胞構造体の作製
実施例1の「1.」の(1)~(2)と同様の方法を用いて、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)を得た。
【0124】
2.培養
細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)を、DMEM(10%FBS含有)を用いて、2日間培養した。
【0125】
3.ゲル状のアルギン酸の除去
次いで、40μg/mLのアルギン酸リアーゼ含有DMEMに交換し、「2.」で2日間培養した細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)を1日間培養し、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を得た。なお、培養条件としては、オービタルシェーカー(回転数:約50rpm)を用いて、撹拌培養した。次いで、培養後の細胞構造体を、カルセインAM(生細胞を染色)を用いて染色した。その結果を
図5に示す。
図5中、スケールバーは500μmである。
【0126】
図5から、細胞がマイクロキャリア上に接着し、扁平な形をとることが観察された。また、大半が生細胞であった。
【0127】
このことから、アルギン酸リアーゼ処理をしない細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)で運送し、任意のタイミングでアルギン酸リアーゼ処理をして培養再開できることが示唆された。
【0128】
[実施例3]
1.細胞構造体の作製
まず、セルトレーナー(孔:70μm)を100mM塩化カルシウム溶液に浸して、取り出した。次いで、2mg/mLのネイティブコラーゲン及び1%のアルギン酸を含む溶液を調製した。次いで、該溶液に、マイクロキャリア(終濃度:60mg/mL、商品名:Cytodex3、GEヘルスケア・ジャパン社製)及びマウス筋芽細胞株C2C12細胞(終濃度:1.0×10
6cells/mL)を混合して、混合溶液を調製した。次いで、この混合溶液を、ピペットを用いて、塩化カルシウム溶液に浸潤させたセルトレーナーの上に、T字状に滴下した。これにより、塩化カルシウム溶液に浸潤させたセルトレーナーと触れた部分がゲル化し、T字状の細胞構造体が得られた(
図6参照)。また、セルトレーナーの孔サイズはマイクロキャリアを通さないため、細胞及びマイクロキャリアを損失しなかった。
【0129】
この結果から、立体的な任意の構造の細胞構造体が得られることが示唆された。
【0130】
[実施例4]
1.細胞構造体の作製
実施例1の「1.」の(1)~(4)と同様の方法を用いて、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を得た。
【0131】
2.回収工程
次いで、「1.」で得られた細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)のポリリジンを物理的に引き剥がして、内部からマイクロキャリア及び細胞を含む混合物を取り出した。次いで、トリプシン-EDTA処理により、マイクロキャリアと細胞とを解離させて、細胞を回収した。得られた細胞を1継代目(Passage 1;P1)とした。
【0132】
3.細胞構造体の作製(2回目)及び回収工程(2回目)
次いで、得られたP1の細胞を用いて、実施例1の「1.」の(1)~(4)と同様の方法を用いて、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を得た。次いで、得られた細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を用いて、上記「2.」と同様の方法で、細胞を回収した。得られた細胞を2継代目(Passage 2;P2)とした。
【0133】
4.細胞構造体の作製(3回目)及び回収工程(3回目)
次いで、得られたP2の細胞を用いて、実施例1の「1.」の(1)~(4)と同様の方法を用いて、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を得た。次いで、得られた細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を用いて、上記「2.」と同様の方法で、細胞を回収した。得られた細胞を3継代目(Passage 3;P3)とした。
【0134】
5.細胞増殖率の確認
P1、P2及びP3の細胞の数を測定し、当初培養に用いた細胞数(2×10
6cells/細胞構造体1つ当たり)を1とした場合のP1、P2及びP3の各細胞数の比を細胞増殖率として算出した。結果を
図7に示す。
【0135】
図7から、安定的に細胞が増殖することが確かめられた。
【0136】
この結果から、本実施形態の細胞構造体は、細胞を継続的に増殖させる手段として使用可能であることが示唆された。
【0137】
[実施例5]
1.細胞構造体の作製
実施例1の「1.」の(1)~(4)と同様の方法を用いて、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を得た。
【0138】
2.回収工程
次いで、「1.」で得られた細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を用いて、実施例4の「2.」と同様の方法で、細胞を回収した。
【0139】
3.分化誘導
次いで、回収した細胞を播種し、2質量%のウマ血清含有DMEMを用いて、4日間培養することで、C2C12細胞を筋管細胞に分化誘導させた。また、対照群として、回収した細胞を、DMEMを用いて、3日間培養した。対照群(分化誘導前の細胞)の顕微鏡像を
図8Aに、分化誘導後の細胞を
図8Bに示す。
図8A及び
図8B中、スケールバーは500μmである。
【0140】
図8A及び
図8Bから、分化誘導により、細胞同士が融合し、太く多核な筋管細胞が形成されることが確かめられた。
【0141】
このことから、本実施形態の三次元培養方法では、細胞の性質が保持されていることが示唆された。
【0142】
[実施例6]
1.細胞構造体の作製
実施例1の「1.」の(1)~(4)と同様の方法を用いて、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)を得た。
【0143】
また、対照群1として、6ウェルプレートにC2C12細胞(2.0×105cells/mL)を播種し、4mg/mLのマイクロキャリア(商品名:Cytodex3、GEヘルスケア・ジャパン社製)を含有するDMEM(10%FBS含有)を用いて4日間静置培養した。培養条件は、37℃、5%CO2環境下とした。
【0144】
さらに、対照群2として、6ウェルプレートにC2C12細胞(2.0×105cells/mL)を播種し、4mg/mLのマイクロキャリア(商品名:Cytodex3、GEヘルスケア・ジャパン社製)を含有するDMEM(10%FBS含有)を用いて4日間撹拌培養した。培養条件は、37℃、5%CO2環境下とした。また、オービタルシェーカー(回転数:約50rpm)を用いて、撹拌培養した。
【0145】
4日間の培養後、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)、対照群1及び対照群2を、カルセインAM(生細胞を染色)及びエチジウムホモダイマー(死細胞を染色)を用いて染色した。結果を
図9Aに示す。
図9Aにおいて、「MC fiber」とは細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)を示す。「Static MC」とは、対照群1を示す。「Agitation MC」とは、対照群2を示す。また、左及び中央は明視野での顕微鏡像であり、右は蛍光顕微鏡像である。また、スケールバーは500μmである。
【0146】
図9Aから、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)では、死細胞に対し、生細胞が顕著に多かった。
一方、対照群1では、細胞の凝集が制御できず、内部に死細胞が多く観察された。さらに、対照群2では、比較的小さい凝集塊を形成していたが、撹拌によるシアストレス(流体のせん断応力)によって、大量の死細胞が観察された。
【0147】
次いで、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)、対照群1及び対照群2をトリプシン-EDTA処理して、細胞及びマイクロキャリアを解離させた。次いで、細胞数を測定した。結果を
図9Bに示す。
図9Bにおいて、細胞増殖率は、培養開始時の細胞数を1としたときの相対比を示している。
図9Bにおいて、「MC fiber」とは細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)を示す。「Static MC」とは、対照群1を示す。「Agitation MC」とは、対照群2を示す。また、左及び中央は明視野での顕微鏡像であり、右は蛍光顕微鏡像である。
【0148】
図9Bから、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)での細胞増殖率が顕著に高かった。一方、対照群2では、細胞増殖率が著しく低下していた。
【0149】
特に、対照群2は、従来のマイクロキャリアを用いた懸濁培養方法であり、非効率的な増殖や細胞死、性質の変化が問題であることがいわれてきた。また、培養4日目では、小さめの凝集塊で収まっているが、培養を継続することで、対照群1と同様に、凝集が大きくなりすぎる問題が発生する。
【0150】
これに対し、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)では、静置培養であるため、シアストレスの影響が軽減され、且つ、凝集塊の大きさを制御することで死細胞発生が抑制されたものと推察された。
【0151】
以上のことから、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸不含)では、高い細胞生存率及び高い細胞増殖率で、細胞を培養できることが示唆された。また、細胞構造体(ゲル状のアルギン酸含有)では、細胞増殖率は低く、細胞生存率が高いことから、細胞を保存又は運搬するために活用できることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本実施形態の細胞の三次元培養方法によれば、マイクロキャリア及び細胞の過剰な凝集による細胞死を抑制することができる。本実施形態の細胞構造体及びその製造方法によれば、マイクロキャリア及び細胞の凝集塊の大きさを制御することができ、細胞生存率及び細胞増殖率を良好なものとすることができる。本実施形態の細胞の運搬方法によれば、細胞生存率を保ちながら安全かつ簡便に細胞を運搬することができる。
【符号の説明】
【0153】
1a…多糖類を含有する第1の溶液、1b…ゲル状の多糖類、2…マイクロキャリア、3…接着性細胞、4…多糖類に対する凝固剤を含む第2の溶液、5…ポリアミノ酸を含む第3の溶液、6…ポリアミノ酸、7…ゲル状の多糖類の可溶化剤を含む第4の溶液、8…スピンナーフラスコ、9…培地、10…細胞構造体(ゲル状の多糖類含有)、20…細胞構造体(ゲル状の多糖類不含)