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特許7034549非水系電解液及びそれを用いた非水系電解液電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】非水系電解液及びそれを用いた非水系電解液電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20220307BHJP
【FI】
H01M10/0567
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018039769
(22)【出願日】2018-03-06
(65)【公開番号】P2019153541
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】山口 亮
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-018667(JP,A)
【文献】国際公開第2015/111676(WO,A1)
【文献】特開2015-159109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを吸蔵・放出しうる正極及び負極を備える非水系電解液電池用の非水系電解液であって、該非水系電解液が電解質及び非水溶媒とともに、下記式(1)で表される芳香族カルボン酸エステルを含有し、さらにアジポニトリルを含有することを特徴とする非水系電解液。
【化1】
(式(1)中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1~12の飽和炭化水素基を表し、RおよびRはそれぞれ独立してフッ素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~12の炭化水素基であり、互いに結合して環を形成していてもよい。Aは炭素数1~12の炭化水素基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~12のアルコキシ基、フッ素原子、またはフッ素原子を含む置換基であり、mは1~5の整数である。mが2以上の場合、複数のAは互いに同一であってもよく異なるものであってもよく、また、2つのAが互いに結合して、Aを有するベンゼン環に縮合する環を形成していてもよい。)
【請求項2】
前記式(1)中、Aが炭素数4~12の炭化水素基であり、かつ該炭化水素基の前記ベンゼン環に結合する炭素原子が4級炭素原子であることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記式(1)中、Aがフッ素原子またはフッ素原子を含む置換基であることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項4】
前記式(1)中、RおよびRがそれぞれ独立して炭素数1~12の炭化水素基であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記式(1)で表される芳香族カルボン酸エステルが、非水系電解液中に0.001~10質量%含有されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項6】
前記アジポニトリルが、非水系電解液中に0.001~10質量%含有されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項7】
前記非水系電解液が、更に、フッ素原子を有する環状カーボネートより選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項8】
前記非水系電解液が、更に、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネートより選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項9】
正極及び負極、並びに請求項1乃至8のいずれか1項に記載の非水系電解液を含む非水系電解液電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液及びそれを用いた非水系電解液電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン等のいわゆる民生用の電源から自動車用等の駆動用車載電源まで広範な用途に、リチウム二次電池等の非水系電解液電池が実用化されつつある。しかしながら、近年の非水系電解液電池に対する高性能化の要求はますます高くなっており、特に、高容量、低温使用特性、高温保存特性、サイクル特性、過充電時安全性等の種々の電池特性の改善が要望されている。
【0003】
非水系電解液電池に用いる電解液は、通常、主として電解質と非水溶媒とから構成されている。非水溶媒の主成分には、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネートやジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル等が用いられている。
【0004】
こうした非水系電解液電池の負荷特性、サイクル特性、保存特性等の電池特性を改良したり、過充電時の電池の安全性を高めるために、非水溶媒や電解質、添加剤について種々の検討がなされている。
特許文献1,2では、芳香族カルボン酸エステル等の各種芳香族化合物を、他の添加剤と共に電解液に添加する方法が提案され、過充電時安全性向上と耐久性の問題をある程度解決することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2015/111676号
【文献】特開2015-18667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等の検討によれば、特許文献1,2に記載されているような芳香族エステル化合物は他の電解液構成物質よりも酸化電位が卑であるため、通常の電池動作範囲内で酸化されて正極上で被膜を形成し、抵抗成分となることが判明した。このような芳香族エステル化合物をスクシノニトリルなどの正極保護剤と併用すると酸化がある程度抑制されるが、特に耐久試験後の容量やレート特性は低下してしまい、電池としては、未だ満足しうるものではなかった。
本発明は上記問題に鑑み、芳香族エステルを使用しながらも電池の耐久試験後のレート特性に優れた非水系電解液、及びそれを用いた非水系電解液電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ベンゼン環上に特定の置換基を有し特定の構造を介してエステル基と結合する芳香族カルボン酸エステルと、アジポニトリルを非水系電解液中に含有させることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の要旨は、下記に示すとおりである。
【0008】
[1] 金属イオンを吸蔵・放出しうる正極及び負極を備える非水系電解液電池用の非水系電解液であって、該非水系電解液が電解質及び非水溶媒とともに、下記式(1)で表される芳香族カルボン酸エステルを含有し、さらにアジポニトリルを含有することを特徴とする非水系電解液。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1~12の飽和炭化水素基を表し、RおよびRはそれぞれ独立してフッ素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~12の炭化水素基であり、互いに結合して環を形成していてもよい。Aは炭素数1~12の炭化水素基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~12のアルコキシ基、フッ素原子、またはフッ素原子を含む置換基であり、mは1~5の整数である。mが2以上の場合、複数のAは互いに同一であってもよく異なるものであってもよく、また、2つのAが互いに結合して、Aを有するベンゼン環に縮合する環を形成していてもよい。)
【0011】
[2] 前記式(1)中、Aが炭素数4~12の炭化水素基であり、かつ該炭化水素基の前記ベンゼン環に結合する炭素原子が4級炭素原子であることを特徴とする[1]に記載の非水系電解液。
【0012】
[3] 前記式(1)中、Aがフッ素原子またはフッ素原子を含む置換基であることを特徴とする[1]に記載の非水系電解液。
【0013】
[4] 前記式(1)中、RおよびRがそれぞれ独立して炭素数1~12の炭化水素基であることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の非水系電解液。
【0014】
[5] 前記式(1)で表される芳香族カルボン酸エステルが、非水系電解液中に0.001~10質量%含有されていることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載の非水系電解液。
【0015】
[6] 前記アジポニトリルが、非水系電解液中に0.001~10質量%含有されていることを特徴とする[1]乃至[5]のいずれかに記載の非水系電解液。
【0016】
[7] 前記非水系電解液が、更に、フッ素原子を有する環状カーボネートより選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする[1]乃至[6]のいずれかに記載の非水系電解液。
【0017】
[8] 前記非水系電解液が、更に、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネートより選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする[1]乃至[7]のいずれかに記載の非水系電解液。
【0018】
[9] 正極及び負極、並びに[1]乃至[8]のいずれかに記載の非水系電解液を含む非水系電解液電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐久試験後のレート特性に優れた非水系電解液電池を実現できる非水系電解液及びこれを用いた非水系電解液電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。以下の説明は、本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0021】
〔非水系電解液〕
本発明の非水系電解液は、金属イオンを吸蔵・放出しうる正極及び負極を備える非水系電解液電池用の非水系電解液であって、該非水系電解液が電解質及び非水溶媒とともに、下記式(1)で表される芳香族カルボン酸エステル(以下、「芳香族カルボン酸エステル(1)」と称す場合がある。)を含有し、さらにアジポニトリルを含有することを特徴とする。
【0022】
【化2】
【0023】
(式(1)中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1~12の飽和炭化水素基を表し、RおよびRはそれぞれ独立してフッ素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~12の炭化水素基であり、互いに結合して環を形成していてもよい。Aは炭素数1~12の炭化水素基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~12のアルコキシ基、フッ素原子、またはフッ素原子を含む置換基であり、mは1~5の整数である。mが2以上の場合、複数のAは互いに同一であってもよく異なるものであってもよく、また、2つのAが互いに結合して、Aを有するベンゼン環に縮合する環を形成していてもよい。)
【0024】
本発明の非水電解液において、芳香族カルボン酸エステル(1)は、特定の置換基をもつベンゼン環とエステル基のカルボニル基側が水素原子を持たない炭素原子を介して結合している。またエステル基のエーテル酸素に結合している炭化水素基は飽和炭化水素基である。芳香族カルボン酸エステル(1)は置換基を持つ芳香族化合物であるため過充電時に高電位状態となった正極上で酸化され、電池の初期充電時には負極上で還元され電池特性に悪影響を及ぼすが、本発明で用いる芳香族カルボン酸エステル(1)はエステル基がベンゼン環と水素原子を持たない炭素原子を介して結合しており、またエーテル酸素に飽和炭化水素基が結合しているため還元が抑制される。またベンゼン環上に特定の置換基を導入することで連続する酸化反応が起こりにくくなることにより電池の耐久試験後のレート特性が改善される。
【0025】
さらに非水電解液中にアジポニトリルを共存させることで、2つのシアノ基によって正極の金属酸化物に配位して、耐久試験時に芳香族カルボン酸エステル(1)の酸化を抑制する。同じジニトリルでもより炭素数が小さいスクシノニトリルでは、正極酸化物への配位が十分ではなく、芳香族カルボン酸エステル(1)との相互作用が小さく、酸化を抑制する効果が小さいと考えられる。故に芳香族カルボン酸エステル(1)とアジポニトリルを併用して用いることにより、エネルギーデバイスの特性を低下させることなく、高温保存耐久試験後の容量やレート特性を向上させることができる。
【0026】
[芳香族カルボン酸エステル(1)]
本発明の非水系電解液は、芳香族カルボン酸エステル(1)を含有する。なお、前記式(1)で表される芳香族カルボン酸エステル(1)においては、シス-トランス異性体及び光学異性体の区別はつけないものとし、いずれかの異性体単独又はこれらの混合として適用することもできる。
【0027】
式(1)中、Rは炭素数1~12の飽和炭化水素基であれば特に制限はなく、直鎖飽和炭化水素基であっても分岐飽和炭化水素基であっても、環状構造を有するものであってもよく、また、置換基を有していてもよい。
の飽和炭化水素基は特に限定されないが、その炭素数は1~12、好ましくは8以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは2以下、最も好ましくは1である。
【0028】
の飽和炭化水素基としては、低反応性の観点からメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基等の炭素数1~5のアルキル基が好ましく、立体障害が小さく高溶解度となる観点からメチル基またはエチル基の炭素数1~2のアルキル基がより好ましく、分子内酸素と結合が切れにくく低反応性となる観点からメチル基がさらに好ましい。
【0029】
の飽和炭化水素基が置換基を有する場合、その置換基としては、後述のR,Rが有していてもよい置換基として例示したものが挙げられるが、電池中で還元され充放電反応を阻害させない観点から、Rはこれらの置換基を有さないことが好ましい。
【0030】
式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立してフッ素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~12の炭化水素基であり、RとRは互いに結合して環を形成していてもよい。
,Rの炭化水素基が置換基を有する場合、その置換基の具体例としては、フッ素原子;フッ素原子で置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基などの炭化水素基;シアノ基、イソシアナト基、エーテル基、カーボネート基、カルボニル基、カルボキシル基、スルホニル基、ホスファントリイル基およびホスホリル基などが挙げられる。
【0031】
電解液への溶解性の観点からRおよびRはそれぞれ独立して、フッ素原子、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよいアリール基が好ましく、より好ましくはフッ素原子、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基であり、さらに好ましくはフッ素原子で置換されていないアルキル基である。
【0032】
なお、上記RおよびRが炭化水素基である場合、その種類は特に限定されないが、炭素数は1~12、好ましくは10以下、より好ましくは4以下である。
【0033】
,Rの具体的な炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基、トリフルオロメチル基等のフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基等の炭素数2~4のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基等の炭素数2~4のアルキニル基;ベンジル基、フェネチル基等の芳香族基を置換基として有するアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、n-プロピルフェニル基、i-プロピルフェニル基、n-ブチルフェニル基、sec-ブチルフェニル基、i-ブチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基、フルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、キシリル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、トリフルオロメトキシフェニル基等の、置換基としてフッ素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基の1種又は2種以上を有していてもよいアリール基等が挙げられる。
【0034】
これらのうち、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基、トリフルオロメチル基等のフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、n-プロピルフェニル基、i-プロピルフェニル基、n-ブチルフェニル基、sec-ブチルフェニル基、i-ブチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基、フルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基等の置換基を有していてもよい炭素数10以下のアリール基等が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、メチル基またはエチル基がさらに好ましい。
【0035】
およびRが互いに結合して環を形成する場合、RおよびRとR,Rが結合した炭素原子とで形成される環としては、具体的にはシクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環などが挙げられ、好ましくはシクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環であり、より好ましくはシクロペンタン環、シクロヘキサン環であり、さらに好ましくはシクロペンタン環である。
【0036】
式(1)中、Aはフェニル基上の置換基であり、炭素数1~12の炭化水素基、炭素数1~12のアルコキシ基、フッ素原子、またはフッ素原子を含む置換基である。Aがフッ素原子を含む置換基である場合、該置換基は炭化水素基であることが好ましく、この炭化水素基としては、Aの炭化水素基として挙げられる炭素数1~12の炭化水素基であることが好ましい。
【0037】
即ち、Aは、フッ素原子、炭化水素基1~12の炭化水素基、炭素数1~12のアルコキシ基、又はフッ素原子で置換された炭素数1~12の炭化水素基であることが通常使用時、電池中で還元され充放電反応を阻害しない観点から好ましい。フッ素原子で置換された炭化水素基の炭化水素基としては、以下に例示するAの炭化水素基として例示するものが好ましい。
【0038】
上記Aが炭化水素基である場合、その種類は特に限定されず、直鎖であっても分岐を有するものであっても環状構造を有するものであってもよいが、炭素数は1~12であり、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、好ましくは9以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。
Aの炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアリール基等が挙げられる。そのうちアルキル基、アリール基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0039】
具体的な炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基等のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基等のアルキニル基;
フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、n-プロピルフェニル基、i-プロピルフェニル基、n-ブチルフェニル基、sec-ブチルフェニル基、i-ブチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基、シクロヘキシルフェニル基、キシリル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基等の置換基としてアルキル基、アルコキシ基を有していてもよいアリール基;
ベンジル基、フェネチル基等の置換基としてアリール基を有するアルキル基;
等が挙げられ、
メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、n-プロピルフェニル基、i-プロピルフェニル基、n-ブチルフェニル基、sec-ブチルフェニル基、i-ブチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基等の置換基としてアルキル基を有していてもよい炭素数10以下のアリール基等が好ましく、
メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、
ベンゼン環に結合するのが4級炭素原子である炭化水素基が、電池の通常動作範囲での反応を抑制する観点から好ましく、この4級炭素原子を有するアルキル基の中でも特にtert-ブチル基が好ましい。
【0040】
Aのフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~12のアルコキシ基として好ましいのはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~4のアルコキシ基であり、より好ましいのは炭素数1~4のアルコキシ基である。これらの具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、モノフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基等が挙げられる。
【0041】
Aのフッ素原子又はフッ素原子を含む置換基としては、フッ素原子、フッ化アルキル基、フッ化アルケニル基、フッ化アルコキシ基、およびフッ化アリール基等が挙げられる。そのうちフッ素原子、フッ化アルキル基、フッ化アリール基が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
具体的なフッ素原子、フッ素原子を含む炭化水素基としては、フッ素原子;モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、モノフルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基等のフッ化アルキル基;モノフルオロビニル基、ジフルオロビニル基、トリフルオロビニル基等のフッ化アルケニル基;モノフルオロフェニル基、2-フルオロトリル基、3-フルオロトリル基、4-フルオロトリル基、トリフルオロメチルフェニル基等のフッ化アリール基等が挙げられ、
フッ素原子、トリフルオロメチル基、モノフルオロフェニル基、2-フルオロトリル基、3-フルオロトリル基、4-フルオロトリル基、トリフルオロメチルフェニル基等が好ましく、
フッ素原子がさらに好ましい。
【0042】
式(1)中、Aの数を表すmは1~5であり、溶解性の観点から1~3が好ましく、1~2がより好ましく、1がさらに好ましい。mが2以上の場合、複数のAは同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、2つのAが互いに結合してベンゼン環に縮合する環を形成していてもよい。この場合、ベンゼン環に縮合する環としては、シクロヘキサン環、シクロペンタン環、2-メチル-2-フェニル-4,4-ジメチルシクロペンタン環、ベンゼン環等が挙げられる。
【0043】
式(1)におけるベンゼン環に置換するAの置換位置としては、エステル基を有する基が置換する炭素原子を1位とした場合、2位、3位又は4位であることが好ましく、過充電時の反応性の観点から4位であることが好ましい。
【0044】
芳香族カルボン酸エステル(1)の具体例としては、前記式(1)中、各置換基が以下である化合物が挙げられる。
がメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基から選ばれる基であり、
、Rがそれぞれ独立にフッ素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基、トリフルオロメチル基等の炭素数1~4のアルキル基、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、n-プロピルフェニル基、i-プロピルフェニル基、n-ブチルフェニル基、sec-ブチルフェニル基、i-ブチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基、フルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、或いは、RとRが互いに結合して、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環を形成するものから選ばれる基であり、
Aが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、n-プロピルフェニル基、i-プロピルフェニル基、n-ブチルフェニル基、sec-ブチルフェニル基、i-ブチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基、フッ素原子、トリフルオロメチル基、モノフルオロフェニル基、2-フルオロトリル基、3-フルオロトリル基、4-フルオロトリル基、トリフルオロメチルフェニル基、トリフルオロメトキシフェニル基から選ばれる基であり、
mが1~3であり(mが2~3の場合、2~3個のAは同一でも異なるものであってもよい)、
Aがベンゼン環の2位、3位、4位に置換する。
【0045】
これらのうち、溶解性と耐久性の観点から、芳香族カルボン酸エステル(1)としては、より好ましくは前記式(1)中各置換基が以下である化合物が挙げられる。
:メチル基又はエチル基である。
,R:フッ素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基、R,Rが互いに結合して環を形成したシクロペンタン環、シクロヘキサン環から選ばれる基である。
A:メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基、フッ素原子から選ばれる基であり、m=1又は2であり、m=2の場合、Aは同一でも異なるものであってもよく、ベンゼン環の2位、3位または4位に置換する。
【0046】
芳香族カルボン酸エステル(1)としては、さらに好ましくは以下の化合物が挙げられる。
【0047】
【化3】
【0048】
【化4】
【0049】
芳香族カルボン酸エステル(1)は最も好ましくは以下の化合物である。
【0050】
【化5】
【0051】
芳香族カルボン酸エステル(1)は1種を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
本発明の非水系電解液に占める芳香族カルボン酸エステル(1)の割合は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以下である。非水系電解液の芳香族カルボン酸エステル(1)の含有量が上記範囲内にあることにより、本発明の効果を発現しやすく、また、電池の抵抗増大を防ぐことができる。
【0053】
[アジポニトリル]
本発明の非水系電解液は、芳香族カルボン酸エステル(1)に加えて、更にアジポニトリルを含有する。
本発明の非水系電解液に占めるアジポニトリルの割合は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以下である。非水系電解液中のアジポニトリルの含有量が上記範囲内にあることにより、本発明の効果が発現しやすく、また、電池の抵抗増大を防ぐことができる。
【0054】
[フッ素原子を有する環状カーボネート]
本発明の非水系電解液は、芳香族カルボン酸エステル(1)及びアジポニトリルの他、フッ素原子を有する環状カーボネート(以下、「フッ素化環状カーボネート」と記載する場合がある)を含むものであってもよく、フッ素化環状カーボネートを含むことで電池性能を更に向上させることができる。
本発明の非水系電解液に含まれるフッ素化環状カーボネートとしては、フッ素原子を有する環状カーボネートであれば、特に制限はされず、不飽和結合を有していても、有していなくてもよい。
【0055】
フッ素化環状カーボネートとしては、炭素原子数2~6のアルキレン基を有する環状カーボネートのフッ素化物、及びその誘導体が挙げられ、例えばエチレンカーボネートのフッ素化物(以下、「フッ素化エチレンカーボネート」と記載する場合がある)、及びその誘導体が挙げられる。エチレンカーボネートのフッ素化物の誘導体としては、例えば、アルキル基(例えば、炭素原子数1~4個のアルキル基)で置換されたエチレンカーボネートのフッ素化物が挙げられる。中でもフッ素原子を1~8個有するエチレンカーボネート、及びその誘導体が好ましい。
【0056】
具体的には、
モノフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(ジフルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(トリフルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-4-フルオロエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-5-フルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5,5-ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0057】
中でも、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート及び4,5-ジフルオロエチレンカーボネートよりなる群から選ばれる少なくとも1種が、高イオン伝導性を与え、かつ好適に界面保護被膜を形成する点でより好ましい。
【0058】
なお、これらフッ素化環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0059】
また、フッ素化環状カーボネートとして、不飽和結合とフッ素原子とを有する環状カーボネート(以下、「フッ素化不飽和環状カーボネート」と記載する場合がある)を用いることも好ましい。フッ素化不飽和環状カーボネートが有するフッ素原子の数は1以上であれば、特に制限されない。中でもフッ素原子が通常6以下、好ましくは4以下であり、1又は2のものが最も好ましい。
【0060】
フッ素化不飽和環状カーボネートとしては、フッ素化ビニレンカーボネート誘導体、芳香環又は炭素-炭素二重結合を有する置換基で置換されたフッ素化エチレンカーボネート誘導体等が挙げられる。
フッ素化ビニレンカーボネート誘導体としては、4-フルオロビニレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルビニレンカーボネート、4-フルオロ-5-フェニルビニレンカーボネート、4-アリル-5-フルオロビニレンカーボネート、4-フルオロ-5-ビニルビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0061】
芳香環又は炭素-炭素二重結合を有する置換基で置換されたフッ素化エチレンカーボネート誘導体としては、4-フルオロ-4-ビニルエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-アリルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-ビニルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-アリルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-4-ビニルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-4-アリルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-ビニルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-アリルエチレンカーボネート、4-フルオロ-4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4-フルオロ-4,5-ジアリルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジアリルエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-フェニルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-フェニルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5-フェニルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-フェニルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0062】
中でも、特に芳香族カルボン酸エステル(1)とアジポニトリルと併用するのに好ましいフッ素化不飽和環状カーボネートとしては、4-フルオロビニレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルビニレンカーボネート、4-フルオロ-5-ビニルビニレンカーボネート、4-アリル-5-フルオロビニレンカーボネート、4-フルオロ-4-ビニルエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-アリルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-ビニルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-アリルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-4-ビニルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-4-アリルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-ビニルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-アリルエチレンカーボネート、4-フルオロ-4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4-フルオロ-4,5-ジアリルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジアリルエチレンカーボネートが、安定な界面保護被膜を形成するので、より好適に用いられる。
【0063】
フッ素化不飽和環状カーボネートの分子量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。分子量は、好ましくは50以上であり、また、250以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対するフッ素化環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が発現されやすい。
フッ素化不飽和環状カーボネートの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。分子量は、より好ましくは100以上であり、また、より好ましくは200以下である。
【0064】
なお、これらフッ素化不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0065】
本発明の非水系電解液がフッ素化環状カーボネートを含む場合、非水電解液中のフッ素化環状カーボネート(2種以上の場合は合計量)の含有量は、0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上で、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、特に好ましくは0.5質量%以上、また、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0066】
なお、フッ素化環状カーボネートは非水溶媒として用いることもでき、その場合、非水電解液中の含有量は、非水溶媒100体積%中、好ましくは1体積%以上、より好ましくは5体積%以上、更に好ましくは10体積%以上であり、また、好ましくは50体積%以下、より好ましくは35体積%以下、更に好ましくは25体積%以下である。
この範囲内であれば、エネルギーデバイスは十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0067】
[炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート]
本発明の非水系電解液は、芳香族カルボン酸エステル(1)及びアジポニトリルの他に炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート(以下、「不飽和環状カーボネート」と略記する場合がある)を含むものであってもよく、不飽和環状カーボネートを含むことで電池性能を更に向上させることができる。
【0068】
本発明の非水系電解液に含まれる不飽和環状カーボネートとしては、炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合を有する環状カーボネートであれば、特に制限はなく、任意の不飽和環状カーボネートを用いることができる。なお、芳香環を有する環状カーボネートも、不飽和環状カーボネートに包含されることとする。不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート類、芳香環もしくは炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類、フェニルカーボネート類、ビニルカーボネート類、アリルカーボネート類、カテコールカーボネート類等が挙げられる。
【0069】
ビニレンカーボネート類としては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、4,5-ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5-ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5-ジアリルビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0070】
芳香環もしくは炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類の具体例としては、ビニルエチレンカーボネート、4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-ビニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,5-ジエチニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-ビニル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-エチニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、4,5-ジフェニルエチレンカーボネート、4-フェニル-5-ビニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-フェニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5-ジアリルエチレンカーボネート、4-メチル-5-アリルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0071】
中でも、特に芳香族カルボン酸エステル(1)とアジポニトリルと併用するのに好ましい不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5-ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5-ジアリルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-ビニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5-ジアリルエチレンカーボネート、4-メチル-5-アリルエチレンカーボネート、4-アリル-5-ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,5-ジエチニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-ビニル-5-エチニルエチレンカーボネートが挙げられる。また、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネートはさらに安定な界面保護被膜を形成するので、特に好ましい。
【0072】
不飽和環状カーボネートの分子量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。分子量は、好ましくは、86以上250以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対する不飽和環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が十分に発現されやすい。不飽和環状カーボネートの分子量は、より好ましくは86以上150以下である。不飽和環状カーボネートの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。
【0073】
不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0074】
本発明の非水系電解液が不飽和環状カーボネートを含有する場合、その含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。不飽和環状カーボネートの含有量は、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。この範囲内であれば、非水系電解液電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0075】
[非水溶媒]
本発明の非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様、通常はその主成分として、後述する電解質を溶解する非水溶媒を含有する。ここで用いる非水溶媒について特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、好ましくは、飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、エーテル系化合物、及びスルホン系化合物から選ばれる少なくとも1つが挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
<飽和環状カーボネート>
飽和環状カーボネートとしては、炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられる。具体的には、炭素数2~4の飽和環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から好ましい。飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0077】
本発明の非水系電解液が非水溶媒として飽和環状カーボネートを含む場合、その含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、1種を単独で用いる場合の含有量の下限は、非水溶媒100体積%中、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上である。この範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、蓄電デバイスの大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。また上限は、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。この範囲とすることで、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては蓄電デバイスの入出力特性を更に向上させたり、サイクル特性や保存特性といった耐久性が更に向上させたりできるために好ましい。
【0078】
<鎖状カーボネート>
鎖状カーボネートとしては、炭素数3~7のものが好ましい。具体的には、炭素数3~7の鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、n-ブチルメチルカーボネート、イソブチルメチルカーボネート、t-ブチルメチルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート、n-ブチルエチルカーボネート、イソブチルエチルカーボネート、t-ブチルエチルカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネートが好ましく、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートが特に好ましい。
【0079】
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と略記する場合がある。)も好適に用いることができる。フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、それらは互いに同一の炭素原子に結合していてもよく、異なる炭素原子に結合していてもよい。フッ素化鎖状カーボネートとしては、フッ素化ジメチルカーボネート誘導体、フッ素化エチルメチルカーボネート誘導体、フッ素化ジエチルカーボネート誘導体等が挙げられる。
【0080】
鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0081】
本発明の非水系電解液が非水溶媒として鎖状カーボネートを含む場合、その含有量は特に限定されないが、非水溶媒100体積%中、通常15体積%以上であり、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上である。また、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。鎖状カーボネートの含有量を上記範囲とすることによって、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては蓄電デバイスの入出力特性や充放電レート特性を良好な範囲としやすくなる。また、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、蓄電デバイスの入出力特性や充放電レート特性を良好な範囲としやすくなる。
【0082】
<鎖状カルボン酸エステル>
鎖状カルボン酸エステルとしては、その構造式中の全炭素数が3~7のものが挙げられる。具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-t-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸-n-プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸-n-ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸-t-ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸-n-プロピル、酪酸イソプロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸-n-プロピル、イソ酪酸イソプロピル等が挙げられる。これらの中でも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸-n-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸-n-プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル等が、粘度低下によるイオン伝導度の向上、及びサイクルや保存といった耐久試験時の電池膨れの抑制の観点から好ましい。
【0083】
<環状カルボン酸エステル>
環状カルボン酸エステルとしては、その構造式中の全炭素原子数が3~12のものが挙げられる。具体的には、ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン、ガンマカプロラクトン、イプシロンカプロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、ガンマブチロラクトンがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。
【0084】
<エーテル系化合物>
エーテル系化合物としては、炭素数3~10の鎖状エーテル、及び炭素数3~6の環状エーテルが好ましい。
【0085】
炭素数3~10の鎖状エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジ(2-フルオロエチル)エーテル、ジ(2,2-ジフルオロエチル)エーテル、ジ(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル、エチル(2-フルオロエチル)エーテル、エチル(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル、エチル(1,1,2,2-テトラフルオロエチル)エーテル、(2-フルオロエチル)(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル、(2-フルオロエチル)(1,1,2,2-テトラフルオロエチル)エーテル、(2,2,2-トリフルオロエチル)(1,1,2,2-テトラフルオロエチル)エーテル、エチル-n-プロピルエーテル、エチル(3-フルオロ-n-プロピル)エーテル、エチル(3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル)エーテル、エチル(2,2,3,3-テトラフルオロ-n-プロピル)エーテル、エチル(2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-n-プロピル)エーテル、2-フルオロエチル-n-プロピルエーテル、(2-フルオロエチル)(3-フルオロ-n-プロピル)エーテル、(2-フルオロエチル)(3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル)エーテル、(2-フルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロ-n-プロピル)エーテル、(2-フルオロエチル)(2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-n-プロピル)エーテル、2,2,2-トリフルオロエチル-n-プロピルエーテル、(2,2,2-トリフルオロエチル)(3-フルオロ-n-プロピル)エーテル、(2,2,2-トリフルオロエチル)(3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル)エーテル、(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロ-n-プロピル)エーテル、(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-n-プロピル)エーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-n-プロピルエーテル、(1,1,2,2-テトラフルオロエチル)(3-フルオロ-n-プロピル)エーテル、(1,1,2,2-テトラフルオロエチル)(3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル)エーテル、(1,1,2,2-テトラフルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロ-n-プロピル)エーテル、(1,1,2,2-テトラフルオロエチル)(2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-n-プロピル)エーテル、ジ-n-プロピルエーテル、(n-プロピル)(3-フルオロ-n-プロピル)エーテル、(n-プロピル)(3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル)エーテル、(n-プロピル)(2,2,3,3-テトラフルオロ-n-プロピル)エーテル、(n-プロピル)(2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-n-プロピル)エーテル、ジ(3-フルオロ-n-プロピル)エーテル、(3-フルオロ-n-プロピル)(3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル)エーテル、(3-フルオロ-n-プロピル)(2,2,3,3-テトラフルオロ-n-プロピル)エーテル、(3-フルオロ-n-プロピル)(2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-n-プロピル)エーテル、ジ(3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル)エーテル、(3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル)(2,2,3,3-テトラフルオロ-n-プロピル)エーテル、(3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル)(2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-n-プロピル)エーテル、ジ(2,2,3,3-テトラフルオロ-n-プロピル)エーテル、(2,2,3,3-テトラフルオロ-n-プロピル)(2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-n-プロピル)エーテル、ジ(2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-n-プロピル)エーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジメトキシメタン、メトキシエトキシメタン、メトキシ(2-フルオロエトキシ)メタン、メトキシ(2,2,2-トリフルオロエトキシ)メタンメトキシ(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)メタン、ジエトキシメタン、エトキシ(2-フルオロエトキシ)メタン、エトキシ(2,2,2-トリフルオロエトキシ)メタン、エトキシ(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)メタン、ジ(2-フルオロエトキシ)メタン、(2-フルオロエトキシ)(2,2,2-トリフルオロエトキシ)メタン、(2-フルオロエトキシ)(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)メタンジ(2,2,2-トリフルオロエトキシ)メタン、(2,2,2-トリフルオロエトキシ)(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)メタン、ジ(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)メタン、ジメトキシエタン、メトキシエトキシエタン、メトキシ(2-フルオロエトキシ)エタン、メトキシ(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン、メトキシ(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)エタン、ジエトキシエタン、エトキシ(2-フルオロエトキシ)エタン、エトキシ(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン、エトキシ(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)エタン、ジ(2-フルオロエトキシ)エタン、(2-フルオロエトキシ)(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン、(2-フルオロエトキシ)(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)エタン、ジ(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン、(2,2,2-トリフルオロエトキシ)(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)エタン、ジ(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)エタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0086】
炭素数3~6の環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、2-メチル-1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン等、及びこれらのフッ素化物が挙げられる。
【0087】
これらの中でも、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルが、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、リチウムイオン解離性を向上させる点で好ましい。特に好ましくは、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタンである。
【0088】
<スルホン系化合物>
スルホン系化合物としては、炭素数3~6の環状スルホン、及び炭素数2~6の鎖状スルホンが好ましい。1分子中のスルホニル基の数は、1又は2であることが好ましい。
【0089】
環状スルホンとしては、モノスルホン化合物であるトリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類;ジスルホン化合物であるトリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類等が挙げられる。これらの中でも誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
【0090】
スルホラン類としては、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体(以下、スルホランも含めて「スルホラン類」と略記する場合がある。)が好ましい。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子上に結合した水素原子の1以上がフッ素原子やアルキル基で置換されたものが好ましい。
【0091】
これらの中でも、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、2-フルオロスルホラン、3-フルオロスルホラン、2,2-ジフルオロスルホラン、2,3-ジフルオロスルホラン、2,4-ジフルオロスルホラン、2,5-ジフルオロスルホラン、3,4-ジフルオロスルホラン、2-フルオロ-3-メチルスルホラン、2-フルオロ-2-メチルスルホラン、3-フルオロ-3-メチルスルホラン、3-フルオロ-2-メチルスルホラン、4-フルオロ-3-メチルスルホラン、4-フルオロ-2-メチルスルホラン、5-フルオロ-3-メチルスルホラン、5-フルオロ-2-メチルスルホラン、2-フルオロメチルスルホラン、3-フルオロメチルスルホラン、2-ジフルオロメチルスルホラン、3-ジフルオロメチルスルホラン、2-トリフルオロメチルスルホラン、3-トリフルオロメチルスルホラン、2-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)スルホラン、3-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)スルホラン、4-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)スルホラン、5-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)スルホラン等がイオン伝導度が高く入出力が高い点で好ましい。
【0092】
また、鎖状スルホンとしては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、n-プロピルメチルスルホン、n-プロピルエチルスルホン、ジ-n-プロピルスルホン、イソプロピルメチルスルホン、イソプロピルエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、n-ブチルメチルスルホン、n-ブチルエチルスルホン、t-ブチルメチルスルホン、t-ブチルエチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、モノフルオロエチルメチルスルホン、ジフルオロエチルメチルスルホン、トリフルオロエチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン、エチルモノフルオロメチルスルホン、エチルジフルオロメチルスルホン、エチルトリフルオロメチルスルホン、パーフルオロエチルメチルスルホン、エチルトリフルオロエチルスルホン、エチルペンタフルオロエチルスルホン、ジ(トリフルオロエチル)スルホン、パーフルオロジエチルスルホン、フルオロメチル-n-プロピルスルホン、ジフルオロメチル-n-プロピルスルホン、トリフルオロメチル-n-プロピルスルホン、フルオロメチルイソプロピルスルホン、ジフルオロメチルイソプロピルスルホン、トリフルオロメチルイソプロピルスルホン、トリフルオロエチル-n-プロピルスルホン、トリフルオロエチルイソプロピルスルホン、ペンタフルオロエチル-n-プロピルスルホン、ペンタフルオロエチルイソプロピルスルホン、トリフルオロエチル-n-ブチルスルホン、トリフルオロエチル-t-ブチルスルホン、ペンタフルオロエチル-n-ブチルスルホン、ペンタフルオロエチル-t-ブチルスルホン等が挙げられる。
【0093】
これらの中でも、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、n-プロピルメチルスルホン、イソプロピルメチルスルホン、n-ブチルメチルスルホン、t-ブチルメチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、モノフルオロエチルメチルスルホン、ジフルオロエチルメチルスルホン、トリフルオロエチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン、エチルモノフルオロメチルスルホン、エチルジフルオロメチルスルホン、エチルトリフルオロメチルスルホン、エチルトリフルオロエチルスルホン、エチルペンタフルオロエチルスルホン、トリフルオロメチル-n-プロピルスルホン、トリフルオロメチルイソプロピルスルホン、トリフルオロエチル-n-ブチルスルホン、トリフルオロエチル-t-ブチルスルホン、トリフルオロメチル-n-ブチルスルホン、トリフルオロメチル-t-ブチルスルホン等がイオン伝導度が高く入出力が高い点で好ましい。
【0094】
[電解質]
本発明の非水系電解液は通常、電解質が含まれる。特に、本発明の非水系電解液をリチウムイオン二次電池である場合には、通常リチウム塩が含まれる。非水系電解液のイオン電導度を高めるために以下のリチウム塩(A)が用いられ、また、本発明の非水系電解液に更に所望の性能を高めるためにリチウム塩(A)以外のリチウム塩(B)を用いることもできる。また、本発明の非水系電解液をナトリウムイオン二次電池に用いる場合には、以下に例示するリチウム塩のそれぞれについてリチウムイオンをナトリウムイオンに置き換えたナトリウム塩を用いることが好ましい。
【0095】
本発明の非水系電解液に用いることができるリチウム塩(A)としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF、LiTaF等が挙げられる。これらの中でもLiBF及びLiPFの少なくとも一方を含むことが好ましい。また、リチウム塩(A)は1種類のみで用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
本発明の非水系電解液がリチウム塩(A)を含む場合、その含有量は非水溶媒に対し、好ましくは0.5mol/L以上であり、より好ましくは0.6mol/L以上であり、更に好ましくは0.7mol/L以上であり、一方、好ましくは3mol/L以下であり、より好ましくは2mol/L以下であり、更に好ましくは1.8mol/L以下である。リチウム塩(A)の含有量が上記範囲内であることによりイオン電導度を適切に高めることができる。
【0097】
また、本発明の非水系電解液に用いることができるリチウム塩(B)としては、LiCFSO、LiCSO、Li(CFSON、Li(CSON、Li(CF)SOC、LiBF(C)、LiB(C、LiB(C、LiPF(C、LiPO、LiFSO等が挙げられる。これらは1種類のみで用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
本発明の非水系電解液がリチウム塩(B)を含む場合、その含有量は非水溶媒に対し、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、一方、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下であり、特に好ましいのは5質量%以下である。リチウム塩(B)の含有量が上記範囲内であることによりイオン電導度を適切に高めることができる。
【0099】
なお、以上に挙げたリチウム塩の含有量を測定する方法としては特に制限はなく、公知の方法を任意に用いることができる。このような方法としては例えば、イオンクロマトグラフィー、F磁気共鳴分光法等が挙げられる。
【0100】
[その他の添加剤]
本発明の非水系電解液は、以上に挙げた各種化合物の他に、保存特性向上剤として、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、アゼラニトリル、セバコニトリル、ウンデカンジニトリル、ドデカンジニトリル等のアジポニトリル以外のシアノ基を有する化合物;負極保護剤として、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、1,2-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン等のジイソシアナト化合物;耐久性向上剤として、アクリル酸無水物、2-メチルアクリル酸無水物、3-メチルアクリル酸無水物、安息香酸無水物、2-メチル安息香酸無水物、4-メチル安息香酸無水物、4-tert-ブチル安息香酸無水物、4-フルオロ安息香酸無水物、2,3,4,5,6-ペンタフルオロ安息香酸無水物、メトキシギ酸無水物、エトキシギ酸無水物等のカルボン酸無水物化合物等の助剤;過充電防止剤としては、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の各種添加剤を本発明の効果を著しく損なわない範囲で配合することができる。これらの化合物は適宜組み合わせて用いてもよい。
【0101】
〔非水系電解液電池〕
本発明の非水系電解液、正極及び負極を用いて非水系電解液(以下、「本発明の非水系電解液電池」と称することがある。)とすることができる。非水系電解液電池としては例えば、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池等が挙げられるが、好ましいのはリチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池は通常、本発明の非水系電解液と、集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る正極と、集電体及び該集電体上に設けられた負極活物質層を有し、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る負極とを備えるものである。
【0102】
[正極]
本発明の非水系電解液電池に用いる正極は通常、複合酸化物、ポリアニオン化合物、フッ化物等を含む。正極は通常、集電体上に正極活物質層を有するものであり、正極活物質層は正極活物質を含有する。以下、正極活物質について述べる。
【0103】
前記複合酸化物としては例えば、下記式(2)で表されるものが挙げられる。
Li1-y (2)
【0104】
式(2)中、0<x<1.2、0<y<1である。
【0105】
式(2)におけるMは遷移金属であり、好ましくは、Mn、Fe、Co、Niである。式(2)におけるMは、複合酸化物中、1種のみが含まれていても、異なる複数種が含まれていてもよい。
【0106】
式(2)におけるNはV、Fe、Cu、Nb、Mo、Ta、W、Zn、Ti、Zr、Al、B、Mg、Li、Na及びKから選ばれる少なくとも1つである。これらの中でも出力向上の観点では、V、Fe、Cu、Nb、Mo、Ta及びWから選ばれる少なくとも1つが好ましく、これらの中でもNb、Mo、Ta及びWから選ばれる少なくとも1つがより好ましい。一方、耐久試験後の容量維持率の観点では、Zn、Ti、Zr、Al、B、Mg、Li、Na及びKから選ばれる少なくとも1つが好ましく、これらの中でもZr、Al、Mg及びLiから選ばれる少なくとも1つがより好ましい。
【0107】
複合酸化物の好ましいものとしては、例えば、NaFeMn、NaNiMn、NaNiMn、NaNiMn、NaCoO、NaCrO、NaNiCoMn、NaNiFeMn等が挙げられる。
【0108】
前記ポリアニオン化合物としては例えば、下記式(3)で表されるものが挙げられる。
Nax`M’y`(QO (3)
【0109】
式(3)中、1<x`<2、1<y`<3、1<z<3である。
【0110】
式(3)におけるM’は遷移金属であり、好ましくは、Mn、Fe、Co、Niである。式(3)におけるM’は、ポリアニオン化合物中、1種のみが含まれていても、異なる複数種が含まれていてもよい。
【0111】
式(3)におけるQはP、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Po、Si、Ge、Sn及びPbから選ばれる少なくとも1つである。これらの中でも化合物の安定性の観点では、P、S、及びSiから選ばれる少なくとも1つが好ましく、これらの中でもP及びSから選ばれる少なくとも1つがより好ましい。
【0112】
ポリアニオン化合物の好ましいものとしては、例えば、LiFePO、LiFe(PO、LiFe(SO、LiFe(SiO、LiMnPO、LiMnFe(PO、LiMn(SO、LiMn(SiOなどが挙げられる。
【0113】
前記フッ化物としては、例えば、LiM’’F、LiM’’POF(ここでM’’は、遷移金属であり、好ましくは、Mn、Fe、Co、Niであり、1種のみが含まれていても、異なる複数種が含まれていてもよい)が挙げられ、より具体的には、LiFeF、LiFePOF、LiFMnF、LiMnPOF、LiFNiF、LiNiPOF等が挙げられる。
【0114】
本発明に用いる正極は以上に挙げた中でも複合酸化物、ポリアニリン化合物及びフッ化物を含むものが好ましいが、本発明の効果を阻害しない限り、その他の正極活物質が含まれていてもよい。その他の正極活物質としては、前記複合酸化物、前記ポリアニオン化合物及び前記フッ化物のいずれかに該当せず、電気化学的にs-ブロック金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限はないが、例えば、アルカリ金属と少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましい。具体例としては、リチウム含有遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物、リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物が挙げられる。例えば、NaFeP、NaFe(PO(P)等が挙げられる。上記その他の正極活物質は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0115】
[負極]
負極は、通常、集電体上に負極活物質層を有するものであり、負極活物質層は負極活物質を含有する。以下、負極活物質について述べる。
【0116】
負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオンなどのs-ブロック金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。その具体例としては、炭素質材料、金属合金系材料、s-ブロック金属含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0117】
負極活物質として用いられる炭素質材料としては、天然黒鉛、難黒鉛化炭素、人造炭素質物質などが挙げられるが特に制限はなく、通常、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能はポーア構造を有すればよい。具体的には、国際公開2014/188722号に記載されている多孔性単相材料が高容量の観点から好ましい。
【0118】
[セパレータ]
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、本発明の非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
【0119】
セパレータの材料や形状については特に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。これらの中でも、本発明の非水系電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態のものなどを用いるのが好ましい。
【0120】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。これらの中でも好ましくはガラスフィルター、ポリオレフィンであり、さらに好ましくはポリオレフィンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0121】
上記セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、蓄電デバイス全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0122】
さらに、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下がより好ましい。空孔率が、上記範囲より小さ過ぎると、膜抵抗が大きくなってレート特性が悪化する傾向がある。また、上記範囲より大き過ぎると、セパレータの機械的強度が低下し、絶縁性が低下する傾向にある。
【0123】
また、セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましく、また、通常0.05μm以上である。平均孔径が、上記範囲を上回ると、短絡が生じ易くなる。また、上記範囲を下回ると、膜抵抗が大きくなりレート特性が低下する場合がある。
【0124】
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物類、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物類、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩類が用いられ、粒子形状若しくは繊維形状のものが用いられる。
【0125】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01~1μm、厚さが5~50μmのものが好適に用いられる。前記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着剤を用いて前記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることもできる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素原子樹脂を結着剤として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0126】
[導電材]
上述の正極及び負極は、導電性の向上のために、導電材を含むことがある。導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素質材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0127】
導電材は、正極材若しくは負極材の100質量部に対し、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、また、通常50質量部以下、好ましくは30質量部以下、より好ましくは15質量部以下含有するように用いられる。導電材の含有量が上記範囲よりも下回ると、導電性が不十分となる場合がある。また、上記範囲よりも上回ると、電池容量が低下する場合がある。
【0128】
[結着剤]
上述の正極及び負極は、結着性の向上のために、結着剤を含むことがある。結着剤は、非水系電解液や電極製造時用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に限定されない。
【0129】
塗布法の場合は、結着剤は電極製造時に用いる後述の液体媒体に対して溶解又は分散される材料であればよいが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、フッ素原子ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素原子系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0130】
結着剤の割合は、正極材若しくは負極材の100質量部に対し、通常0.1質量部以上であり、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、また、通常50質量部以下であり、30質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下がさらに好ましい。結着剤の割合が、上記範囲内であると電極の結着性を十分保持でき電極の機械的強度が保たれ、サイクル特性、電池容量及び導電性の点から好ましい。
【0131】
[液体媒体]
塗布法で正極、負極を形成する場合に、スラリーを形成するための液体媒体としては、活物質、導電材、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
【0132】
水系媒体の例としては、例えば、水、アルコールと水との混合媒等が挙げられる。有機系媒体の例としては、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジン等の複素環化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチル等のエステル類;ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン等のアミン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルフォキシド等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0133】
[増粘剤]
塗布法で正極、負極を形成する場合に、スラリーを形成するための液体媒体として水系媒体を用いる場合、増粘剤と、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等のラテックスを用いてスラリー化するのが好ましい。増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。
【0134】
増粘剤としては、本発明の効果を著しく制限しない限り制限はないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0135】
これらの増粘剤を使用する場合、その使用量は、正極材若しくは負極材の100質量部に対し、通常0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上、また、通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下が望ましい。上記範囲を下回ると著しく塗布性が低下する場合があり、また上記範囲を上回ると、活物質層に占める活物質の割合が低下し、電池の容量が低下する問題や活物質間の抵抗が増大する場合がある。
【0136】
[集電体]
集電体の材質としては特に制限は無く、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル、銅等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素質材料が挙げられる。これらの中でも金属材料、特にアルミニウムが好ましい。
【0137】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素質材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属薄膜が好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
【0138】
集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、また、通常1mm以下であり、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。集電体の厚さが、上記範囲内であると集電体として必要な強度が保たれ、また取り扱い性の点からも好ましい。
【0139】
[電池設計]
<電極群>
電極群は、前述の正極板と負極板とを前述のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び前述の正極板と負極板とを前述のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のものの何れでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する。)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましく、また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。電極群占有率が、上記範囲を下回ると、電池容量が小さくなる。また、上記範囲を上回ると空隙スペースが少なく、電池が高温になることによって部材が膨張したり電解質の液成分の蒸気圧が高くなったりして内部圧力が上昇し、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存等の諸特性を低下させたり、さらには、内部圧力を外に逃がすガス放出弁が作動する場合がある。
【0140】
<集電構造>
集電構造は特に限定されるものではないが、本発明の非水系電解液による放電特性の向上をより効果的に実現するには、配線部分や接合部分の抵抗を低減する構造にすることが好ましい。この様に内部抵抗を低減させた場合、本発明の非水系電解液を使用した効果は特に良好に発揮される。
【0141】
電極群が前述の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。1枚の電極面積が大きくなる場合には、内部抵抗が大きくなるので、電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が前述の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0142】
[外装ケース]
本発明の非水系電解液電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装ケース(外装体)内に収納して構成される。この外装ケースに制限はなく、本発明の効果を著しく損なわない限り公知のものを任意に採用することができる。
【0143】
非水系電解液電池の外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に限定されるものではない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、ニッケル、チタン、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0144】
前記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して前記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。前記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、前記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変性樹脂が好適に用いられる。
【0145】
外装ケースの形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【0146】
[保護素子]
本発明の非水系電解液電池には、保護素子として、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を設けてもよい。前記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、高出力の観点から、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【実施例
【0147】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0148】
以下の実施例で用いた芳香族カルボン酸エステル(1)及び比較例に使用した化合物の構造を以下に示す。
【0149】
【化6】
【0150】
[実施例1]
<非水系電解液の調製>
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネートをそれぞれ30体積%、40体積%、30体積%となるように混合した非水溶媒に対し、LiPFを1.2mol/Lとなるように溶解させた。更にビニレンカーボネートを2.0質量%、モノフルオロエチレンカーボネートを2.0質量%添加した。これを「基準電解液1」と呼ぶ。
【0151】
基準電解液1に、更にアジポニトリルを0.5質量%、化合物(A)を0.4質量%加え、実施例1の非水系電解液を調製した。
【0152】
<正極の作製>
正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO)97質量%と、導電材としてアセチレンブラック1.5質量%と、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)1.5質量%とを、N-メチルピロリドン溶媒中で、ディスパーザーで混合してスラリー化した。これを厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして正極とした。
【0153】
<負極の作製>
負極活物質として天然黒鉛粉末、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)、結着材としてスチレンブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレンブタジエンゴムの濃度50質量%)を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。このスラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして負極とした。なお、乾燥後の負極において、天然黒鉛:カルボキシメチルセルロースナトリウム:スチレンブタジエンゴム=98:1:1の質量比となるように作製した。
【0154】
<リチウム二次電池の作製>
上記の正極、負極、及びポリプロピレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正・負極の端子を突設させながら挿入した後、非水系電解液を袋内に注入し、真空封止を行ない、シート状のリチウム二次電池を作製した。
【0155】
上記作製したリチウム二次電池を用いて、以下の初期充放電試験及び高温保存耐久試験を実施した。評価結果を表1に示す。
なお、表1中、アジポニトリルを「AdpCN」と略記し、比較例で用いたスクシノニトリルを「SN」と略記する。
【0156】
[初期充放電試験(初期容量)]
リチウム二次電池をガラス板で挟んで加圧した状態で、25℃において、0.05Cに相当する電流で6時間定電流充電した後、0.2Cで3.0Vまで定電流放電した。更に、0.2Cに相当する電流で4.1Vまで定電流―定電圧充電(「CC-CV充電」ともいう)(0.05Cカット)した後、45℃、72時間の条件下で放置した。その後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。次いで、0.2Cで4.4VまでCC-CV充電(0.05Cカット)した後、0.5Cで3.0Vまで再度放電し、これを初期容量とした。ここで、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、例えば、0.2Cとはその1/5の電流値を表す。
【0157】
[高温保存耐久試験(保存後容量、保存後ハイレート容量)]
初期充放電を実施したリチウム二次電池を、25℃において、0.2Cで4.4VまでCC-CV充電(0.05Cカット)した。その後、85℃、1日間の条件で高温保存を行った。次いで、25℃において、0.2Cで3.0Vまで定電流放電させた。その後、25℃において0.2Cの定電流で4.4VまでCC-CV充電(0.05Cカット)した後、0.5Cで3.0Vまで再度放電し、これを保存後容量とした。更に、0.2Cで4.4VまでCC-CV充電(0.05Cカット)した後、1.0Cで3.0Vまで放電し、これを保存後ハイレート容量とした。
【0158】
[実施例2]
基準電解液1に、更にアジポニトリルを0.5質量%、更に化合物(A)を0.8質量%加えた非水系電解液を用いた以外、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成し、上記の評価を実施した。
【0159】
[実施例3]
基準電解液1に、更にアジポニトリルを0.5質量%、更に化合物(B)を0.5質量%加えた非水系電解液を用いた以外、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成し、上記の評価を実施した。
【0160】
[実施例4]
基準電解液1に、更にアジポニトリルを0.5質量%、更に化合物(B)を1.0質量%加えた非水系電解液を用いた以外、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成し、上記の評価を実施した。
【0161】
[比較例1]
基準電解液1に、更にアジポニトリルを0.5質量%、化合物(C)を0.4質量%加えた非水系電解液を用いた以外、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成し、上記の評価を実施した。
【0162】
[比較例2]
基準電解液1に、更にスクシノニトリルを0.5質量%、化合物(C)を0.4質量%加えた非水系電解液を用いた以外、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成し、上記の評価を実施した。
【0163】
[比較例3]
基準電解液1に、更にスクシノニトリルを0.5質量%、化合物(A)を0.4質量%加えた非水系電解液を用いた以外、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成し、上記の評価を実施した。
【0164】
[比較例4]
基準電解液1に、更にスクシノニトリルを0.5質量%、化合物(B)を0.5質量%加えた非水系電解液を用いた以外、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成し、上記の評価を実施した。
【0165】
【表1】
【0166】
表1より、本発明にかかる実施例1~4の非水系電解液を用いると、アジポニトリルと共に芳香族カルボン酸エステル(1)が添加されていない場合(比較例1)に比べ、初期容量を損なうことなく、保存後容量及び保存後ハイレート容量が向上することが分かる。また実施例1~4の非水系電解液を用いると、アジポニトリル以外の添加剤であるスクシノニトリルと共に芳香族カルボン酸エステル(1)を添加した場合(比較例3、4)と比べ、初期容量を殆ど損なうことなく、保存後容量、及び保存後ハイレート容量が向上することが分かる。
なお、実施例1~4と比較例1~4においては各種評価はモデル的に短期間の耐久試験を行ったものであるが、実際の非水電解液二次電池の使用は数年に及ぶ場合もあるため、特に上記保存後ハイレート容量の結果の差は長期間の使用を想定した場合、更に顕著な差となる。
このように、本発明に従って、芳香族カルボン酸エステル(1)をアジポニトリルと共に添加することにより、非水系電解液の分解が抑制され、分解物の電極上での電気化学的副反応が抑制される相乗効果の存在が示唆された。
よって、本発明の非水系電解液を用いた非水系電解液電池が優れた特性であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明の非水系電解液によれば、非水系電解液を含む非水系電解液電池等のエネルギーデバイスの高温保存耐久試験後の充放電効率やレート特性を改善することができるために有用である。そのため、本発明の非水系電解液及び非水系電解液電池は、公知の各種の用途に用いることが可能である。具体例としては、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用バックアップ電源、事業所用バックアップ電源、負荷平準化用電源、自然エネルギー貯蔵電源等が挙げられる。