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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】異常判定方法および描画装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20220307BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20220307BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20220307BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
H01L21/30 541L
G03F7/20 504
H01J37/305 B
H01J37/20 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018163839
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020035984
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】金澤 駿
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-216407(JP,A)
【文献】特開2014-011374(JP,A)
【文献】特開平10-303093(JP,A)
【文献】特開平11-067884(JP,A)
【文献】特開2010-074046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
H01J 37/305
37/317
37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象を接地させる第1アース部材を前記処理対象に取り付ける第1チャンバと、荷電粒子ビームで前記処理対象に所定のパターンを描画する第2チャンバと、前記処理対象の抵抗値を判定する演算処理部とを備えた描画装置における異常判定方法であって、
前記第1チャンバ内において、前記第1アース部材を前記処理対象に取り付けたときに、前記第1アース部材を介して前記処理対象の第1抵抗値を測定し、
前記第2チャンバ内において、接地された第2アース部材に前記第1アース部材を接触させ、前記第1および第2アース部材を介して前記処理対象の第2抵抗値を測定し、
複数の前記処理対象についての前記第1抵抗値と前記第2抵抗値との抵抗差の動向に基づいて、前記第2アース部材の異常を前記演算処理部で判定することを具備する異常判定方法。
【請求項2】
前記演算処理部は、前記抵抗差が第1閾値を超えた回数に基づいて、前記第2アース部材の異常を判定する、請求項1に記載の異常判定方法。
【請求項3】
前記演算処理部は、前記回数が第2閾値を超えたときに、前記第2アース部材に異常があると判定する、請求項2に記載の異常判定方法。
【請求項4】
前記演算処理部は、前記抵抗差が第1閾値を超える頻度に基づいて、前記第2アース部材の異常を判定する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の異常判定方法。
【請求項5】
処理対象を接地させる第1アース部材を該処理対象に取り付ける第1チャンバと、
荷電粒子ビームで前記処理対象に所定のパターンを描画する第2チャンバと、
前記第1チャンバ内において前記処理対象を接地させる第1アース部材を該処理対象に取り付け、前記第1アース部材を介して前記処理対象の第1抵抗値を測定する第1抵抗測定部と、
前記第2チャンバ内に設置され、接地された第2アース部材に前記処理対象に取り付けた前記第1アース部材を接触させて、前記処理対象の第2抵抗値を、前記第1および第2アース部材を介して測定する第2抵抗測定部と、
複数の前記処理対象についての前記第1抵抗値と前記第2抵抗値との抵抗差の動向に基づいて、前記第2アース部材の異常を判定する演算処理部とを具備する描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、異常判定方法および描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マスク描画装置は、基板(主にガラス基板)及び該基板上に成膜された遮光膜(例えば、クロム(Cr))からなるマスク基板(ブランク)に荷電粒子ビームを照射して所望のパターンを描画する装置である。マスク基板の表面にはレジスト膜が形成されており、このレジスト膜を荷電粒子ビームで感光させて所望のパターンを描画する。荷電粒子ビームによる描画は、マスク基板を接地した状態で行われる。これは、荷電粒子ビームによりマスク基板に電荷が蓄積すると、荷電粒子ビームの軌道が曲がってしまったり、荷電粒子ビームが拡散してぼけが生じたりするためである。
【0003】
マスク基板を接地するために、マスク描画装置では、接地用のアース体をマスク基板にセットし、アース体をアーススプリングに接触させて、荷電粒子ビームによる描画を行っている。荷電粒子ビームによりマスク基板に蓄積する電荷は、アース体およびアーススプリングを介して排出されるためマスク基板の帯電を防止することができる。
【0004】
しかしながら、アース体とアーススプリングとの接触抵抗値(以下、抵抗値)が高くなると、マスク基板を充分に接地することができず、アースエラーが発生する。
【0005】
このような抵抗値の上昇の原因としては、アーススプリングの表面が変質または劣化が考えられる。従来、アースエラーが発生してからその原因を調査し、アーススプリングの変質または劣化が原因であることが判明した場合、アース体とアーススプリングとの接触点を変更するために、アーススプリング上におけるマスク基板の位置をずらしたり、アース体を交換していた。また、アーススプリング自体を交換することもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-011374号公報
【文献】特開2012-176832号公報
【文献】特開2016-115678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、アース体とアーススプリングとの接触点を変更して暫定的に抵抗値が低下しても、アーススプリングが変質あるいは劣化している場合、抵抗値が充分に低下せず、あるいは短期間で再上昇してしまう。また、アース体とアーススプリングとの接触点を変更するために、マスク描画装置を長期間停止させる必要があった。
【0008】
また、アーススプリング自体の交換は抵抗値を確実に低下させる対策となるが、そのためには、マスク描画装置をさらに長期間停止させる必要があった。このような停止期間の長期化は、描画処理の遅延の原因となっていた。
【0009】
そこで、本発明の目的は、アース部材の異常を早期に発見し、マスク描画装置の停止期間を低減させることができる異常判定方法および描画装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態による異常判定方法は、処理対象を接地させる第1アース部材を処理対象に取り付ける第1チャンバと、荷電粒子ビームで処理対象に所定のパターンを描画する第2チャンバと、処理対象の抵抗値を判定する演算処理部とを備えた描画装置における異常判定方法であって、第1チャンバ内において、第1アース部材を処理対象に取り付けたときに、第1アース部材を介して処理対象の第1抵抗値を測定し、第2チャンバ内において、接地された第2アース部材に第1アース部材を接触させ、第1および第2アース部材を介して処理対象の第2抵抗値を測定し、複数の処理対象についての第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差の動向に基づいて、第2アース部材の異常を演算処理部で判定することを具備する。
【0011】
演算処理部は、回数が第2閾値を超えたときに、第2アース部材に異常があると判定してもよい。
【0012】
演算処理部は、抵抗差が第1閾値を超える頻度に基づいて、第2アース部材の異常を判定してもよい。
【0013】
本実施形態による描画装置は、処理対象を接地させる第1アース部材を該処理対象に取り付ける第1チャンバと、荷電粒子ビームで処理対象に所定のパターンを描画する第2チャンバと、第1チャンバ内において処理対象を接地させる第1アース部材を該処理対象に取り付け、第1アース部材を介して処理対象の第1抵抗値を測定する第1抵抗測定部と、第2チャンバ内に設置され、接地された第2アース部材に処理対象に取り付けた第1アース部材を接触させて、処理対象の第2抵抗値を、第1および第2アース部材を介して測定する第2抵抗測定部と、複数の処理対象についての第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差の動向に基づいて、第2アース部材の異常を判定する演算処理部とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係るマスク描画装置の模式図。
図2】アース体の模式図。
図3】アース体の構成をさらに詳細に示す斜視図。
図4】アースピンおよびアーススプリングの構成をより詳細に示す斜視図。
図5】Hチャンバ内部の模式図。
図6】Wチャンバ内部の模式図。
図7】抵抗測定部の構成図。
図8】Hチャンバ内において、マスク基板の第1抵抗値を測定する様子を示す概略図。
図9】Wチャンバ内において、マスク基板の第2抵抗値を測定する様子を示す概略図。
図10】マスク描画装置の動作の一例を示すフロー図。
図11】アーススプリングEb、Ecの異常を判定する方法の一例を示すフロー図。
図12】アーススプリングの異常判定を説明するためのグラフ。
図13】第2実施形態によるマスク描画装置11の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。図面は模式的または概念的なものであり、各部分の比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。明細書と図面において、既出の図面に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0016】
(第1実施形態)
図1(A)および図1(B)は、第1実施形態に係るマスク描画装置10の模式図である。図1(A)は、マスク描画装置10の平面模式図である。図1(B)は、マスク描画装置10の断面模式図である。以下、図1(A)および図1(B)を参照して、マスク描画装置10の構成について説明する。なお、図1(A)では、電子ビーム鏡筒500の図示を省略している。
【0017】
図1(A)に示すように、マスク描画装置10は、インターフェース(I/F)100と、搬入出(I/O)チャンバ200と、ロボットチャンバ(Rチャンバ)300と、ライティングチャンバ(Wチャンバ)400と、電子ビーム鏡筒500と、制御機構600と、演算処理部700と、ゲートバルブG1~G3とを備える。なお、図1中の鎖線は、制御信号やデータ等の流れを示している。
【0018】
I/F100は、マスク基板Wが収容された容器C(例えば、SMIFPod)を載置する載置台110と、マスク基板Wを搬送する搬送ロボット120とを備える。
【0019】
I/Oチャンバ200は、Rチャンバ300内を真空(低気圧)に保ったままマスク基板Wを搬入出するためのいわゆるロードロックチャンバである。I/Oチャンバ200には、I/F100との間にゲートバルブG1が設けられており、真空ポンプ210と、ガス供給系220とを備える。真空ポンプ210は、例えば、ドライポンプやターボ分子ポンプ等であり、I/Oチャンバ200内を真空引きする。ガス供給系220は、I/Oチャンバ200を大気圧とする際にI/Oチャンバ200内へベント用ガス(例えば、窒素ガスやCDA)を供給する。
【0020】
I/Oチャンバ200内を真空引きする際は、I/Oチャンバ200に接続された真空ポンプ210を用いて真空引きする。また、I/Oチャンバ200内を大気圧に戻す際には、ガス供給系220からベント用ガスが供給され、I/Oチャンバ200内が大気圧となる。なお、I/Oチャンバ200内を真空引きする際及び大気圧とする際には、ゲートバルブG1,G2はClose(閉)される。
【0021】
Rチャンバ300は、真空ポンプ310と、アライメントチャンバ(ALNチャンバ)320と、アース体チャンバ(Hチャンバ)330と、搬送ロボット340とを備える。Rチャンバ300は、ゲートバルブG2を介してI/Oチャンバ200と接続されている。
【0022】
真空ポンプ310は、例えば、Cryoポンプやターボ分子ポンプ等である。真空ポンプ310は、Rチャンバ300に接続されており、Rチャンバ300内を真空引きして高真空を保つ。
【0023】
Hチャンバ330は、マスク基板Wを接地するためのアース体Hを収容する。アース体Hは、マスク基板Wの外縁を被覆し、マスク基板Wの外縁に荷電粒子ビーム(例えば、電子ビーム)の電荷が蓄積することを抑制する。即ち、アース体Hは、マスク基板Wの外縁に対するひさしとして機能する。また、アース体Hは、マスク基板Wに蓄積される荷電粒子ビームの電荷をアースに逃がすために設けられている。Hチャンバ330は、マスク基板Wにアース体Hを取り付けるために、マスク基板Wを収容可能である。また、Hチャンバ330には、抵抗測定部40が設けられている。抵抗測定部40は、アース体Hがマスク基板Wにセットされた状態で、アース体Hを介してマスク基板Wの抵抗値を測定する。例えば、抵抗測定部40は、複数の測定ピンを有し、その複数の測定ピンをアース体Hに接触させて該測定ピン間の抵抗値を測定する。これにより、抵抗測定部40は、アース体Hを介してマスク基板Wの抵抗値(第1抵抗値)を測定する。マスク基板Wの抵抗値の測定は、図8(A)および図8(B)を参照して後で説明する。
【0024】
ALNチャンバ320は、マスク基板Wを位置決め(アライメント)するためのチャンバである。ALNチャンバ320において、マスク基板Wのアライメントが行われる。
ALNチャンバ320におけるアライメント中、アース体Hを昇降ステージ上で待機させ、アライメント完了後、ALNチャンバ320でマスク基板Wにアース体Hを搭載してもよい。この場合、ALNチャンバ320には、Hチャンバ330と同様に、抵抗測定部40が設けられ、同様に、アース体Hがマスク基板Wにセットされた状態で、アース体Hを介してマスク基板Wの抵抗値を測定することができる。
【0025】
搬送ロボット340は、アーム341と、アーム341の末端に設けられたエンドエフェクタ342とを備える。搬送ロボット340は、I/Oチャンバ200、ALNチャンバ320、Hチャンバ330及びWチャンバ400間で、マスク基板Wを搬送する。
【0026】
Wチャンバ400は、真空ポンプ410と、X-Yステージ420と、駆動機構430A,430Bと、を備え、ゲートバルブG3を介してRチャンバ300と接続されている。Wチャンバ400は、荷電粒子ビームでマスク基板Wに所定のパターンを描画するためにマスク基板Wを収容可能である。
【0027】
真空ポンプ410は、例えば、Cryoポンプやターボ分子ポンプ等である。真空ポンプ410は、Wチャンバ400に接続されており、Wチャンバ400内を真空引きして高真空を保つ。X-Yステージ420は、マスク基板Wを載置するための台である。駆動機構430Aは、X-Yステージ420をX方向に駆動する。駆動機構430Bは、X-Yステージ420をY方向に駆動する。
【0028】
Wチャンバ400内には、第2アース部材としてのアーススプリング(図4参照)が設けられている。アーススプリングは、接地されており、X-Yステージ420上にマスク基板Wを載置したときに、アース体Hと接触するように構成されている。これにより、描画の際に、マスク基板Wは、アース体Hおよびアーススプリングを介して接地される。また、Wチャンバ400には、抵抗測定部50が設けられている。抵抗測定部50は、アース体Hおよびアーススプリングを介してマスク基板Wの抵抗値(第2抵抗値)を測定する。
【0029】
図1(B)の電子ビーム鏡筒500は、電子銃510、アパーチャ520、偏向器530、レンズ540(照明レンズ(CL)、投影レンズ(PL)、対物レンズ(OL))等から構成される荷電粒子ビーム照射手段を備え、X-Yステージ420上に載置されたマスク基板Wに荷電粒子ビームを照射する。
【0030】
制御機構600は、例えば、コンピュータ等であり、MPU601、メモリ602(例えば、solid state drive(SSD)、hard disk drive(HDD))等を備える。制御機構600は、マスク描画装置10の動作を制御する。
【0031】
演算処理部700は、例えば、制御機構600とは別に設けられたコンピュータ等であり、MPU701、メモリ702(例えば、 SSD、HDD)等を備える。演算処理部700は、制御機構600と同一コンピュータであっても構わない。演算処理部700は、抵抗測定部40、50からのマスク基板Wの第1および第2抵抗値を受け取り、アーススプリングの異常を判定するために第1および第2抵抗値を記憶し、演算処理する。アーススプリングの異常判定および演算処理については、後で詳細に説明する。
【0032】
(アース体Hの構成)
図2(A)および図2(B)は、アース体Hの模式図である。図2(A)は、アース体Hの平面図である。図2(B)は、図2(A)の線分L-Lでの断面図である。なお、図2には、マスク基板Wにセットした状態のアース体Hを示している。
【0033】
図2(A)および図2(B)に示すように、アース体Hは、3本のアースピンH1a~H1cと、額縁形状の枠体H2とを備える。枠体H2、アースピンH1a~H1cには、例えば、チタン、ジルコニア等の導電性材料を用いている。アースピンH1aは、枠体H2に電気的に接続されているが、接地されない。アースピンH1b、H1cの一方は、枠体H2に電気的に接続されている。アースピンH1b、H1cの他方は絶縁体を介して枠体H2に設けられており枠体H2から電気的に分離されている。アースピンH1b、H1cは、アーススプリングを介して接地される。また、マスク基板Wは、ガラス基板Wa上に遮光膜Wb(例えば、クロム(Cr))と、レジスト膜Wcとが積層された構成を有する。
【0034】
アース体Hをマスク基板Wにセットすると、アース体HのアースピンH1a~H1cが自重によりレジスト膜Wcを突き破って導電体である遮光膜Wbと接触する。これにより、マスク基板Wの遮光膜Wbは、アースピンH1a~H1cを介して接地される。このため、荷電粒子ビームの照射によりマスク基板Wへ蓄積される電荷は、このアース体Hを介して排出される。また、アース体Hの枠体H2は、アースピンH1aを介して接地される。このため、枠体H2に蓄積される電荷は、アースピンH1aを介して排出される。
【0035】
図3は、アース体Hの構成をさらに詳細に示す斜視図である。例えば、アースピンH1a~H1cは、枠体H2の内周と外周とを挟んで固定される金属部材である。アースピンH1a~H1cは、枠体H2の内周側に鋭角に尖ったピン部Pa~Pcを有する。上述のとおり、アース体Hをマスク基板Wにセットしたときに、ピン部Pa~Pcがマスク基板Wのレジスト膜Wcを突き破って遮光膜Wbと接触する。また、アースピンH1a~H1cは、枠体H2の外周側にコネクタCa~Ccを有する。コネクタCa~Ccは、それぞれピン部Pa~Pcと電気的に接続されている。コネクタCbおよびCcは、アースピンH1bおよびH1cをアーススプリングに電気的に接続するために設けられている。
【0036】
図4は、アースピンH1bおよびアーススプリングEbの構成をより詳細に示す斜視図である。アースピンH1a、H1cの構成は、アースピンH1bの構成と同じであるので、ここでは、アースピンH1bの構成を説明する。ただし、アースピンH1aは、アーススプリングEbと同様の構成を有するスプリング部材上に配置されるが、そのスプリング部材は接地されていない。アースピンH1aは、アースピンH1bまたはH1cと電気的に接続されており、ほぼ同電圧となっている。従って、描画中において、アースピンH1b、H1cは、接地され、アースピンH1aはアースピンH1bまたはH1cを介して接地される。
【0037】
第2アース部材としてのアーススプリングEbは、Wチャンバ400内に設けられており、描画中にアースピンH1b、H1cを介してマスク基板Wの遮光膜Wbを接地する。アーススプリングEbの一端は、マスク描画装置10の本体等のアースに接続されており、他端は、図4に示すように略水平方向に延伸しており、コネクタCbと接触する。アーススプリングEbには、例えば、チタン等の導電性材料を用いている。
【0038】
マスク基板Wおよびアース体Hをアーススプリング上に載置すると、アースピンH1bのコネクタCbは、アーススプリングEbに接触し、アーススプリングEbと電気的に導通する。これにより、アースピンH1bは、アーススプリングEbを介して接地され、マスク基板Wは、アースピンH1bおよびアーススプリングEbを介して接地される。
【0039】
ここでは図示しないが、アースピンH1cのコネクタCcは、それに対応するアーススプリングに接触し、該アーススプリングと電気的に導通する。これにより、マスク基板Wは、アースピンH1cおよびそれに対応するアーススプリングを介して接地される。
【0040】
このように、Wチャンバ400内において、アースピンH1a~H1cは、アーススプリングを介してマスク基板Wの遮光膜Wbを接地する。これにより、描画中に、荷電粒子ビームの照射により遮光膜Wbに蓄積される電荷をアースへ放電することができる。
【0041】
(Hチャンバ330内部の構成)
図5(A)および図5(B)は、Hチャンバ330内部の模式図である。図5(A)は、Hチャンバ330の側面図である。図5(B)は、Hチャンバ330の平面図である。以下、図5(A)および図5(B)を参照して、Hチャンバ330の構成について説明する。
【0042】
図5(A)に示すように、Hチャンバ330内には、アース体Hを載置する載置棚20と、マスク基板Wを回転させる回転機構30とが設けられている。
【0043】
回転機構30は、マスク基板Wを載置する載置台31と、一端が載置台31に接続された回転軸32とを備えている。載置台31は、搬送ロボット340のエンドエフェクタ342を逃すための逃し溝33が4方向に設けられている。また、回転軸32は、他端側が図示しないモータに接続されており、載置台31を90°ごとに回転させることができるように構成されている。
【0044】
載置棚20は、アース体Hを上下移動させ、マスク基板W上にアース体Hを載置する。このとき、アース体HのアースピンH1a~H1cは、アース体Hの自重で、レジスト膜Wcを突き破って導電体である遮光膜Wbと接触する。これにより、図2(B)に示す状態となる。
【0045】
(Wチャンバ400内部の構成)
図6は、Wチャンバ400内部の模式図である。Wチャンバ400内のX-Yステージ420は、マスク基板Wを支持する複数のマスク支持部421と、マスク基板Wを接地するアーススプリングEb、Ecとを備える。図6は、X-Yステージ420上にマスク基板Wを載置した状態を示している。マスク支持部421は、X-Yステージ420上に載置されたマスク基板Wおよびアース体Hを下方から支持する。アーススプリングEb、Ecは、アースピンH1b、H1cと弾性的に接触し、アースピンH1b、H1cを介してマスク基板Wの遮光膜Wbを接地する。このように、Wチャンバ400では、マスク基板WをX-Yステージ420上に載置し、アーススプリングEb、Ecで接地した状態で描画を実行する。
【0046】
(抵抗測定部40または50の構成)
図7は、抵抗測定部40または50の構成図である。抵抗測定部50の構成は、基本的に抵抗測定部40のそれと同じであるので、ここでは、抵抗測定部40の構成について説明する。
抵抗測定部40は、Hチャンバ330の外部に配置されたDC電源41と、DC電源41に接続されたコントローラ42とを備える。コントローラ42は、電流制御回路42aと、電圧測定回路42bと、抵抗値算出回路42cとを備え、端子40a,40b間の電気抵抗を測定する。端子40a、40bは、Hチャンバ330内に設けられ、上述したアース体HのアースピンH1b,H1cと接続可能となっている。
【0047】
抵抗測定部40は、アース体Hがマスク基板Wにセットされた状態で、アース体Hとマスク基板Wとの接触抵抗値(抵抗値)を測定する。具体的には、アース体Hがマスク基板Wにセットされた状態で、電流制御回路42aが端子40a,40b間に一定値の電流を流し、電圧測定回路42bが端子40a,40b間の電圧を測定する。そして、抵抗値算出回路42cが端子40a,40b間を流れる電流値と測定される電圧値から端子40a,40b間の抵抗値を算出する。なお、抵抗値を測定する際は、抵抗測定部40の端子40a,40bとアース体HのアースピンH1b,H1cとは接続された状態となっている。例えば、抵抗測定部40は、端子40a、40bのそれぞれに接続された複数の測定ピン(図8参照))を備え、その測定ピンをアースピンH1b,H1cに接触させればよい。
【0048】
上述したように、アースピンH1b又はH1cは、絶縁体を介して枠体H2に設けられている。このため、電流制御回路42aにより印可される電流は、アースピンH1b,H1c及びマスク基板Wの遮光膜Wbを介して端子40a,40b間を流れる。ここで、端子40a,40bとアースピンH1b,H1cとの接続抵抗値は非常に小さく、ほぼ無視できる。このため、アースピンH1bとアースピンH1cとの間、例えば、アースピンH1b,H1c及びマスク基板Wの遮光膜Wb間の抵抗値を測定することができる。
【0049】
抵抗測定部50も抵抗測定部40と同様に図7に示す構成を有する。しかし、抵抗測定部50の端子40a、40bは、それぞれ異なるアーススプリングに接続されており、アーススプリングを介してアースピンH1b,H1cにそれぞれ接続されている。これにより、抵抗測定部50は、アーススプリング、アースピンH1b,H1cおよびマスク基板Wの遮光膜Wbの抵抗値を測定することができる。
【0050】
(マスク基板Wの第1および第2抵抗値の測定)
図8(A)および図8(B)は、Hチャンバ330内において、マスク基板Wの抵抗値(第1抵抗値)を測定する様子を示す概略図である。測定ピンMb、Mcは、抵抗測定部40の端子40a、40bのそれぞれに接続されている。抵抗測定部40は、測定ピンMb、McをアースピンH1b,H1cにそれぞれ接触させ、アースピンH1bとアースピンH1cとの間の第1抵抗値を測定する。測定ピンMb、Mcは、アースピンH1b、H1cに低抵抗で接触する。従って、第1抵抗値は、マスク基板Wの遮光膜Wbの抵抗値とほぼ等しくなる。
【0051】
図9は、Wチャンバ400内において、マスク基板Wの抵抗値(第2抵抗値)を測定する様子を示す概略図である。マスク基板Wの第2抵抗値は、アーススプリングEb、Ecを介して測定する。例えば、図6を参照して説明したように、Wチャンバ400内において、マスク基板WがX-Yステージ420上に載置されたときに、アースピンH1b、H1cは、それぞれアーススプリングEb、Ecに接触する。アースピンH1b、H1cのコネクタCb、Ccは、アーススプリングEb、Ecに接触し、アーススプリングEb、Ecと電気的に導通する。
【0052】
図4を参照して説明したように、描画中においては、アースピンH1b、H1cを介してマスク基板Wの遮光膜Wbを接地する。一方、描画を実行する前および/またはその後において、抵抗測定部50は、アーススプリングEbとアーススプリングEcとの間の抵抗値を測定する。これにより、第1アース部材としてのアースピンH1b、H1cおよび第2アース部材としてのアーススプリングEb、Ecを介してマスク基板Wの遮光膜Wbの抵抗値を測定する。このとき、第2抵抗値は、第1抵抗値と異なり、コネクタCb、CcとアーススプリングEb、Ecとの接触抵抗を含む。従って、Wチャンバ400で測定される第2抵抗値は、Hチャンバ330で測定される第1抵抗値よりも幾分高いものの、コネクタCb、CcとアーススプリングEb、Ecとが充分に低い抵抗で接触している場合には、第1抵抗値に近い値となるはずである。しかし、コネクタCb、CcとアーススプリングEb、Ecとの接触不良が生じている場合、第2抵抗値は、第1抵抗値よりも抵抗値がかなり高くなる。従って、第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差は、コネクタCb、CcとアーススプリングEb、Ecとの接触状態を表すパラメータとして用いることができる。そこで、本実施形態によるマスク描画装置10は、第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差の動向に基づいて、アーススプリングEb、Ecの異常を判定する。
【0053】
(マスク描画装置10の動作)
次に、マスク描画装置10の動作について説明する。図10は、マスク描画装置10の動作の一例を示すフロー図である。なお、マスク描画装置10は、制御機構600により制御される。また、アーススプリングEb、Ecの異常は、演算処理部700にて判定される。
【0054】
まず、マスク基板Wを収容した容器Cを載置台110に載置する。搬送ロボット120は、マスク基板Wを容器Cから取り出す。次に、I/Oチャンバ200が大気圧とされ、ゲートバルブG1がOpen(開)する。
【0055】
搬送ロボット120は、マスク基板WをI/Oチャンバ200内に載置した後、I/Oチャンバ200内から退避する(S10)。次に、ゲートバルブG1がCloseする。I/Oチャンバ200内が所定の圧力まで真空引きされた後、ゲートバルブG2がOpenする。次に、搬送ロボット340は、マスク基板WをI/Oチャンバ200内から取り出す。その後、ゲートバルブG2がCloseする。
【0056】
次に、搬送ロボット340は、ALNチャンバ320にマスク基板Wを搬送する。そして、ALNチャンバ320で、マスク基板Wの位置合わせ(アライメント)が行われる(S20)。
【0057】
アライメント後、搬送ロボット340は、マスク基板WをHチャンバ330に搬送し、Hチャンバ330の載置棚20に載置されているアース体Hをマスク基板Wにセットする(S30)。Hチャンバ330の抵抗測定部40は、測定ピンMb、McをアースピンH1b、H1cに接触させてアースピンH1b、H1cを介してマスク基板Wの遮光膜Wbの第1抵抗値を測定する(S40)。演算処理部700は、抵抗測定部40で測定された第1抵抗値をメモリ702に記憶する。
【0058】
演算処理部700のMPU701は、第1抵抗値を用いてアースチェックを行う(S50)。アースチェックは、アースピンH1b、H1cがマスク基板Wの遮光膜Wbに電気的に接続しており、マスク基板Wを接地可能であることを確認する処理である。MPU701は、第1抵抗値を所定値と比較する。第1抵抗値が所定値以上である場合、MPU701はアースエラーと判定する(S50のNO)。アースエラーが発生した場合、測定ピンMb、Mcの上げ下げ動作を行い、第1抵抗値の測定を再度実施する(S40、S50)。
【0059】
第1抵抗値が所定値未満である場合、MPU701は、マスク基板Wの抵抗値が正常で、接地可能状態であると判定する(S50のYES)。
【0060】
次に、ゲートバルブG3がOpenし、搬送ロボット340が、マスク基板WをWチャンバ400内のX-Yステージ420上に載置する(S60)。搬送ロボット340はWチャンバ400内から退避した後、ゲートバルブG3がCloseする。マスク基板WがX-Yステージ420上に載置されることによって、アースピンH1b、H1cのコネクタCb、Ccは、Wチャンバ400内に設けられたアーススプリングEb、Ecに接触する。
【0061】
次に、Wチャンバ400の抵抗測定部50は、アーススプリングEb、EcおよびアースピンH1b、H1cを介してマスク基板Wの遮光膜Wbの第2抵抗値を測定する(S70)。制御機構600は、抵抗測定部50で測定された第2抵抗値をメモリ702に記憶する。
【0062】
次に、演算処理部700のMPU701は、第2抵抗値を用いてアースチェックを行う(S80)。アースチェックは、アースピンH1b、H1cおよびアーススプリングEb、Ecを介して、マスク基板Wの遮光膜Wbに電圧を印加し、遮光膜Wbが接地されていることを確認する処理である。MPU701は、第2抵抗値を所定値と比較する。第2抵抗値が所定値以上である場合(S80のNO)、MPU701はアースエラーと判定する。アースエラーが発生した場合、遮光膜Wbに電圧を再度印加し、アースチェックを再度実施する(S70、S80)。
【0063】
ステップS50、S80のアースチェックを所定回数実行してもアースエラーとなる場合、描画処理(S90)を実行することなく、処理は終了する。この場合、図11を参照して後述するように、アーススプリングEb、Ecの異常検出等を実行する。
【0064】
第2抵抗値が所定値未満である場合(S80のYES)、MPU701は、マスク基板Wの抵抗値が正常であり、マスク基板Wが接地状態であると判定する。この場合、Wチャンバ400において、荷電粒子ビームがマスク基板Wに照射され、マスク基板Wの遮光膜Wbに所望のパターンが描画される(S90)。このとき、マスク基板Wに蓄積される電荷は、アースピンH1b、H1cおよびアーススプリングEb、Ecを介してアースへ流れる。よって、マスク基板Wが描画中に帯電することを抑制することができる。
【0065】
マスク基板Wへの描画が終了すると、駆動機構430A,430Bは、X-Yステージ420を所定の位置に移動させる。次に、ゲートバルブG3がOpenし、搬送ロボット340は、マスク基板WをWチャンバ400から取り出す。次に、ゲートバルブG3がCloseする。搬送ロボット340は、マスク基板WをHチャンバ330内へ搬送し、マスク基板Wにアース体Hをセットした時とは逆の手順で、アース体HをHチャンバ330内へ収容する。
【0066】
次に、ゲートバルブG2がOpenし、搬送ロボット340は、マスク基板WをI/Oチャンバ200内へ載置した後、I/Oチャンバ200内から退避する。次に、ゲートバルブG2がCloseする。ガス供給系220からベント用ガスが供給されI/Oチャンバ200内が大気圧まで昇圧された後、ゲートバルブG1がOpenする。
【0067】
搬送ロボット120は、I/Oチャンバ200内からマスク基板Wを取り出して、I/Oチャンバ200内から退避する。次に、ゲートバルブG1がCloseする。次に、搬送ロボット120は、マスク基板Wを容器C内へ収容する。このように、マスク描画装置10は、マスク基板のアースチェックを行い、描画処理を実行する。
【0068】
ここで、アースエラーは、マスク基板W自体の抵抗値の異常だけでなく、アーススプリングEb、Ecの異常や、他の要因で生じていることも多い。また、アースチェックは、個々のマスク基板Wに対して実行される処理であり、複数のマスク基板Wに亘るマスク基板Wの抵抗値の動向(変動あるいは傾向)を確認するものではない。従って、アースチェックでは、アーススプリングEb、Ecが次第に劣化(酸化)していることを判定することは困難である。
【0069】
図11は、アーススプリングEb、Ecの異常の判定方法の一例を示すフロー図である。演算処理部700のMPU701は、マスク基板Wの描画処理ごとに、図10のステップS40およびS70で測定された第1抵抗値と第2抵抗値、又はこれらの差(抵抗差)をメモリ702に格納(記憶)する(S110)。複数のマスク基板Wについて描画処理を行うと、この複数のマスク基板Wの抵抗差の動向(変動または傾向)が得られる。本実施形態によれば、MPU701は、複数のマスク基板Wの抵抗差の動向に基づいて、アーススプリングEb、Ecの異常を判定する(S120)。
【0070】
例えば、図12は、アーススプリングEb、Ecの異常判定を説明するためのグラフである。このグラフの横軸は、マスク基板Wの処理枚数を示し、縦軸は、第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差を示す。MPU701は、各マスク基板Wの描画処理ごとに第1および第2抵抗値、あるいは、第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差をメモリ702に格納(記憶)する。これにより、演算処理部700は、複数のマスク基板Wについて、第1および第2抵抗値の履歴、あるいは、第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差の履歴が得られる。
【0071】
図11を再度参照する。MPU701は、第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差と第1閾値Rthとを比較し、抵抗差が第1閾値Rthよりも小さい場合には、アーススプリングEb、Ecが正常であると判定する(S120のNO)。
【0072】
ところで、マスク基板Wの描画処理を繰り返し、アーススプリングEb、Ecの表面が酸化すると、例えば、酸化チタン等の絶縁物がアーススプリングEb、Ecの表面に形成される。この場合、アースピンH1b、H1cとアーススプリングEb、Ecとの間の接触抵抗が上昇し、第2抵抗値が高くなる。これにより、第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差(例えば、第2抵抗値-第1抵抗値)は大きくなる。しかし、或る1つのマスク基板Wにおいて、第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差が過渡的に第1閾値Rthを超えても、上述の通り、アーススプリングEb、Ec以外の他の要因で生じていることもある。従って、MPU701は、1つのマスク基板Wの抵抗差が第1閾値Rthを超えても、アーススプリングEb、Ecの異常とは判断しない。例えば、図12の抵抗差R1は、第1閾値Rthを超えている。しかし、この段階では、MPU701は、アーススプリングEb、Ecの異常とは判断しない。
【0073】
MPU701は、第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差の動向を、該抵抗差が第1閾値Rthを超えた回数で把握してもよい。この場合、MPU701は、抵抗差が第1閾値Rthを超えた回数に基づいて、アーススプリングEb、Ecの異常を判定する。例えば、抵抗差が第1閾値Rthを超えた回数が第2閾値を超えたときに、MPU701は、アーススプリングEb、Ecに異常があると判定してもよい。第2閾値を7とすると、図12のR8が発生したときに、MPU701は、アーススプリングEb、Ecに異常があると判定する。
【0074】
アーススプリングEb、Ecの異常判定は、抵抗差が第1閾値Rthを超えた回数に限定されず、他のパラメータを用いて行ってもよい。例えば、MPU701は、抵抗差が第1閾値を超える頻度(密度)に基づいて、アーススプリングEb、Ecの異常を判定してもよい。第1閾値を超える頻度(密度)が、例えば、マスク基板Wの描画枚数の半数(50%)以上となった場合、MPU701は、アーススプリングEb、Ecに異常があると判定する。
【0075】
例えば、MPU701は、抵抗差が第1閾値を超える連続回数に基づいて、アーススプリングEb、Ecの異常を判定してもよい。第1閾値を超える事象の連続回数が第3閾値以上となった場合、MPU701は、アーススプリングEb、Ecに異常があると判定する。
【0076】
MPU701は、第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差と第1閾値Rthとを比較し、抵抗差が第1閾値Rth以上である場合(S120のYES)、アーススプリングEb、Ecが異常であると判定する。アーススプリングEb、Ecに異常があると判定された場合、アーススプリングEb、EcとアースピンH1b、H1cとの接触抵抗を低減させるために、演算処理部700は、制御機構600へ指令を送信し、アース体HまたはアーススプリングEb、Ecに対して保全処置を実行する(S130)。例えば、アース体Hの接触位置をずらしたり、アース体Hを交換する。あるいは、アーススプリングEb、Ec自体を交換してもよい。
【0077】
このようなアーススプリングEb、Ecの異常検出は、図10に示すステップS40、S70で第1および第2抵抗値が得られて後の任意の時点で実行してよい。
【0078】
尚、上記実施形態において、第2抵抗値は、Wチャンバ400内において、描画処理前に測定されている。しかし、第2抵抗値は、描画処理後に測定されてもよい。第2抵抗値は、描画処理前後の両方で測定される場合もある。このような場合、描画処理前後のいずれか一方の第2抵抗値、あるいは、両方の第2抵抗値を用いてもよい。描画処理前後の両方の第2抵抗値を用いる場合、抵抗差は、描画処理前後の第2抵抗値の平均値と第1抵抗値との差であってもよい。あるいは、描画処理前後の両方の第2抵抗値を用いる場合、演算処理部700は、描画処理前後の第2抵抗値のうち第1抵抗値との差が大きい第2抵抗値を用いてもよい。
【0079】
本実施形態による異常判定方法によれば、演算処理部700は、アースピンH1b、H1cを介して測定されたマスク基板Wの第1抵抗値とアースピンH1b、H1cおよびアーススプリングEb、Ecを介して測定された複数のマスク基板Wの第2抵抗値との抵抗差を用いてアーススプリングEb、Ecの異常を判定している。第1抵抗差は、アースピンH1b、H1cとアーススプリングEb、Ecとの接触抵抗を含まないが、第2抵抗差は、アースピンH1b、H1cとアーススプリングEb、Ecとの接触抵抗を含む。従って、この抵抗差は、アーススプリングEb、Ecの劣化(例えば、酸化)を判定するのに用いることができる。尚、アースピンH1b、H1cのコネクタCb、Ccは、描画処理ごとにメンテナンスされているので、コネクタCb、Ccの劣化は考慮しなくてよい。
【0080】
さらに、本実施形態によれば、Hチャンバ330およびWチャンバ400におけるアースチェックと異なり、第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差の動向(変動あるいは傾向)でアーススプリングEb、Ecの異常判断を行っている。従って、演算処理部700は、アーススプリングによるアースエラーが発生する前に、第1抵抗値と第2抵抗値との抵抗差の動向によって、アーススプリングEb、Ecの変質または劣化を発見することができる。これにより、アーススプリングEb、Ecの異常を早期に発見することができ、他のアーススプリングEb、Ecや他のアース体Hを予め準備することができる。その結果、マスク描画装置10の停止期間(ダウンタイム)を低減させることができる。
【0081】
また、演算処理部700は、複数のマスク基板Wの抵抗差の動向でアーススプリングEb、Ecの異常を判定している。アーススプリングEb、Ecの表面に酸化膜が形成されると、アースピンH1b、H1cとアーススプリングEb、Ecとの接触抵抗が定常的に高くなるので、抵抗差もそれに伴い大きくなる。これにより、演算処理部700は、突発的に発生する他の異常をアーススプリングEb、Ecの異常として判定してしまうことを抑制することができ、アーススプリングEb、Ecの異常をより正確に判定することができる。
【0082】
(第2実施形態)
図13は、第2実施形態によるマスク描画装置11の模式図である。第2実施形態では、ALNチャンバ(アライメントチャンバ)320に抵抗測定部40が設けられている。第2実施形態によるマスク描画装置11は、ALNチャンバ320においてアース体Hを昇降ステージ上で待機させ、マスク基板Wの位置合わせを行う。抵抗測定部40は、位置合わせの完了後、ALNチャンバ320において、マスク基板Wにアース体Hを取り付け、マスク基板Wの遮光膜Wbの抵抗値(第1抵抗値)を測定する。このとき、第1抵抗値の測定方法は、第1実施形態における第1抵抗値の測定方法と同様でよい。第2実施形態によるアーススプリングEb、Ecの異常の判定方法も、第1実施形態のそれと同様である。また、第2実施形態によるマスク描画装置11のその他の構成は、第1実施形態の構成と同様でよい。これにより、第2実施形態は、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0083】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0084】
10 マスク描画装置、320 アライメントチャンバ(ALNチャンバ)、330 アース体チャンバ(Hチャンバ)、400 ライティングチャンバ(Wチャンバ)、500 電子ビーム鏡筒、600 制御機構、700 演算処理部、H1a~H1c アースピン、Ea~Ec アーススプリング、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13