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特許7035209前処理液、インクセット及び画像記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】前処理液、インクセット及び画像記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20220307BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20220307BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20220307BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41M5/00 100
C09D11/54
C09D11/30
B41J2/01 123
B41J2/01 125
B41J2/01 501
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020548294
(86)(22)【出願日】2019-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2019034817
(87)【国際公開番号】W WO2020066516
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2018185461
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠貴
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/050751(WO,A1)
【文献】特開2013-001854(JP,A)
【文献】特開2006-248049(JP,A)
【文献】特開2007-176966(JP,A)
【文献】特開2016-168782(JP,A)
【文献】特開2007-002122(JP,A)
【文献】特開2000-019467(JP,A)
【文献】特開2018-114751(JP,A)
【文献】特開2012-223975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が5000以上の水溶性ポリマーと、酸と、酸の塩と、
を含み、
前記酸の少なくとも一種がカルボン酸であり、前記酸の塩の少なくとも一種が前記カルボン酸の塩であり、
前記酸及び前記酸の塩における酸基の合計の含有量が、前処理液100gに対して0.25mol以上であり、
pHが4.0~5.0である前処理液。
【請求項2】
pHが、前記酸及び前記酸の塩に含まれる酸基の最大のpKaよりも小さい請求項1に記載の前処理液。
【請求項3】
前記水溶性ポリマーが、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される少なくとも一種類を含む請求項1又は請求項2に記載の前処理液。
【請求項4】
前記水溶性ポリマーが、非イオン性の水溶性ポリマーである請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項5】
前処理液の全質量に対する前記水溶性ポリマーの含有量が、0.1質量%~9質量%である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項6】
更に、リン酸及びリン酸の塩の少なくとも一方を含む請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項7】
前記カルボン酸の塩が、アルカリ金属の塩である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の前処理液と、
水及び着色剤を含むインク組成物と、
を備えるインクセット。
【請求項9】
請求項8に記載のインクセットにおける前処理液を記録媒体に付与する前処理液付与工程と、
前記前処理液付与工程で前記前処理液が付与された記録媒体に、請求項8に記載のインクセットにおける前記インク組成物を付与するインク付与工程と、
を有する画像記録方法。
【請求項10】
更に、前記インク付与工程によって記録された画像を加熱定着する加熱定着工程を有する請求項9に記載の画像記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本開示は、前処理液、インクセット及び画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】

画像記録の技術分野において、インク中の成分を凝集させる凝集剤を含有する前処理液を用いることが知られている。前処理液は、インクを記録媒体に付与する前に前処理液を記録媒体に付与することで、インクによって記録される画像の滲みを防止する目的で用いられることがある。
【0003】

上記の技術として、例えば特許文献1には、顔料及び水溶性樹脂を含有してなるインクと、酸性領域に緩衝能を持つ反応液との組み合わせを有するインクと反応液とのセットであって、上記顔料が、コロイド滴定により求められる表面電荷量が0.20mmol/g以上である自己分散顔料であり、かつ、上記水溶性樹脂が、(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有する共重合体であるインクと反応液とのセットが記載されている。
【0004】

特許文献2には、顔料及び水を含有するインク組成物と、有機酸性化合物、下記一般式(A)で表される構造単位及び下記一般式(B)で表される構造単位を含む高分子化合物、並びに水を含有する処理液と、を含むインクセットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】

【文献】特開2012-223975号公報
【文献】特許第5554290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】

上記の凝集剤として、例えば酸が使用されることがあり、凝集剤として酸を用いる場合には、画像の滲みを抑制し、画質を良好にすることができると考えられる。

しかし、凝集剤として酸を用いる場合には前処理液のpHが低くなるために、作業安全性(例えば、オペレーションの際に作業者の皮膚、目等に前処理液が付着する等)、システムの部材腐食性等の点が懸念される場合がある。

そこで、前処理液のpHを上昇させて作業安全性、及び酸による部材腐食性を改善する観点から、凝集剤としての酸の他に、酸の塩(例えば、上記酸を中和することによって得られる)を添加することが考えられる。

ここで、前処理液の凝集機能を保持するためには、前処理液における上記酸及び上記酸の塩の含有量を増加させる必要があるところ、上記酸及び上記酸の塩の含有量を増加させた場合には、前処理液を付与する記録媒体の種類によっては、画像ムラが発生しやすくなるという課題が明らかになった。
【0007】

上記の画像ムラが発生する原因は明らかではないが、以下の点が画像ムラを生じる一因であると推測される。

前処理液を記録媒体の表面に付与して乾燥させる場合に、記録媒体の表面の形状、組成等の不均一に起因して、前処理液の乾燥が充分な領域と前処理液の乾燥が充分でない領域とが生じ、前処理液の乾燥ムラが発生する。そして、前処理液の乾燥が充分な領域と、前処理液の乾燥が充分でない領域とでは、各領域内のインク組成物の濃度に差が生じ、結果として画像ムラを発生させる一因となると推測される。
【0008】

これに対し、本開示の前処理液は重量平均分子量が5000以上の水溶性ポリマーを含むことで、水溶性ポリマーを記録媒体の内部に浸透しすぎることなく記録媒体の表面に存在させることができる。これによって、記録媒体の表面を水溶性ポリマーによって形成される膜で均一に覆うことができるため、上記の乾燥ムラを低減し、画像ムラを抑制することができる。
【0009】

上記特許文献1に記載の発明はポリマーの分子量が小さく、記録媒体の内部に浸透しやすいと考えられるため、画像ムラの抑制性については期待できない。

上記特許文献2に記載の発明は、処理液のpHが低いと推定されるため、部材腐食性が顕在化する場合がある。
【0010】

本開示の実施形態が解決しようとする課題は、部材腐食性が抑制され、かつ、画像ムラを良好に抑制できる前処理液及びインクセットを提供することである。

本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、部材腐食性が抑制され、かつ、画像ムラを良好に抑制できる画像記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】

上記課題を解決する手段には、以下の態様が含まれる。

<1> 重量平均分子量が5000以上の水溶性ポリマーと、酸と、酸の塩と、を含み、上記酸の少なくとも一種がカルボン酸であり、上記酸の塩の少なくとも一種が上記カルボン酸の塩である前処理液である。

<2> pHが、上記酸及び上記酸の塩に含まれる酸基の最大のpKaよりも小さい<1>に記載の前処理液である。

<3> 上記水溶性ポリマーが、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、及びポリアクリル酸からなる群から選択される少なくとも一種類を含む<1>又は<2>に記載の前処理液である。

<4> 上記水溶性ポリマーが、非イオン性の水溶性ポリマーである<1>~<3>のいずれか1つに記載の前処理液である。

<5> 前処理液の全質量に対する上記水溶性ポリマーの含有量が、0.1質量%~9質量%である<1>~<4>のいずれか1項に記載の前処理液である。

<6> 上記酸及び上記酸の塩における酸基の合計の含有量が、前処理液100gに対して0.25mol以上である<1>~<5>のいずれか1項に記載の前処理液である。

<7> 更に、リン酸及びリン酸の塩の少なくとも一方を含む<1>~<6>のいずれか1項に記載の前処理液である。

<8> 上記カルボン酸の塩が、アルカリ金属の塩である<1>~<7>のいずれか1項に記載の前処理液である。

<9> <1>~<8>のいずれか1項に記載の前処理液と、水及び着色剤を含むインク組成物と、を備えるインクセットである。

<10> <9>に記載のインクセットにおける前処理液を記録媒体に付与する前処理液付与工程と、上記前処理液付与工程で上記前処理液が付与された記録媒体に、<9>に記載のインクセットにおける上記インク組成物を付与するインク付与工程と、を有する画像記録方法である。

<11> 更に、上記インク付与工程によって記録された画像を加熱定着する加熱定着工程を有する<10>に記載の画像記録方法である。
【発明の効果】
【0012】

本開示の実施形態によれば、部材腐食性が抑制され、かつ、画像ムラを良好に抑制できる前処理液及びインクセットを提供することができる。

本開示の他の実施形態によれば、部材腐食性が抑制され、かつ、画像ムラを良好に抑制できる画像記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】

図1】実施例における、画像の滲みの評価に用いた文字画像における文字を概念的に示す図である。
図2】実施例における、画像の滲みの評価基準の詳細を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】

本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。

本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。

本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。

本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。

本開示において、「画像記録」又は「画像の記録」とは、第1インク組成物及び第2インク組成物を用い、基材上に画像を描くことを意味する。

本開示において、「画質」とは、画像の精細さを指す。

本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。

本開示において、「酸基」は、酸及び酸の塩に含まれる酸基を含む。例えば、酸及び酸の塩がカルボン酸及びカルボン酸の塩である場合には、-COOH及び-COOが酸基である。
【0015】

≪前処理液≫

本開示の前処理液は、重量平均分子量が5000以上の水溶性ポリマーと、酸と、酸の塩と、を含み、上記酸の少なくとも一種がカルボン酸であり、上記酸の塩の少なくとも一種が上記カルボン酸の塩である。
【0016】

本開示における前処理液は、酸を含み、上記酸の塩を一部含むことで、前処理液のpHを上昇させることができる。これによって、作業安全性の向上及び前処理液による腐食性を低減させることができる。

しかし、前処理液の凝集機能を保持するためには、前処理液における上記酸及び上記酸の塩の含有量を増加させる必要があるところ、両者の含有量を増加させた場合には、前処理液を付与する記録媒体の種類によっては、前処理液を付与した後に着色インクを付与して記録される画像に画像ムラ(濃度ムラ)を生じやすくなる。この画像ムラは、例えば、紙器パッケージ等に使用されるコート紙の場合に特に顕著に現れる傾向にある。

これに対し、本開示の前処理液は、酸と酸の塩を凝集成分として含み、かつ、重量平均分子量が5000以上の水溶性ポリマーを含むことで、前処理液に凝集機能を保持しつつも水溶性ポリマーを記録媒体の内部に浸透しすぎることなく記録媒体の表面に存在させることができる。これによって、記録媒体の表面を水溶性ポリマーによって形成される膜で均一に覆うことができるため、上記の乾燥ムラを低減し、画像ムラを抑制することができる。

以下、本開示の前処理液について詳細に説明する。
【0017】

(水溶性ポリマー)

本開示の前処理液は、重量平均分子量が5000以上の水溶性ポリマーを含む。

水溶性ポリマーの重量平均分子量が5000以上であることで、水溶性ポリマーが記録媒体内部に浸透しすぎることを防ぐことができる。また、前処理液を付与した後に後述するインク組成物を付与する場合に、インク組成物の凝集速度をある程度抑えることができ、親水性の高い水溶性ポリマーで記録媒体の表面が被覆されることで、インク組成物のインク滴の広がりを良好にすることができる。これにより、画像ムラを良好に抑えることができる。

なお、本開示において、水溶性とは、25℃の水100gに対する溶解量が1g以上であること(好ましくは3g以上)を指す。
【0018】

水溶性ポリマーの重量平均分子量は、記録媒体への浸透を抑え、画像ムラを抑える観点から、7500以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましい。

水溶性ポリマーの重量平均分子量は、塗布法で記録媒体に付与する場合の塗布性、前処理液をインクジェット法で付与する際の吐出性、及び前処理液への溶解性の観点から、40000以下であることが好ましく、30000以下であることがより好ましい。

なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定することができる。GPCは、例えば、HLC-8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、例えばTSKgel、Super Multipore HZ-H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いることができる。また、条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行う。また、検量線は、例えば、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作製することができる。
【0019】

また、本開示における前処理液中における上記水溶性ポリマーの含有量には特に限定はないが、前処理液の全質量に対する上記水溶性ポリマーの含有量が、0.1質量%~9質量%であることが好ましい。

上記含有量が0.1質量%以上であれば、インク滴の広がりをより促進でき、上記含有量が9質量%以下であれば、前処理液の増粘をより抑制できる。

上記含有量が9質量%以下であれば、水溶性ポリマーと後述する酸の塩との凝析又は塩析による水溶性ポリマーの析出、相分離等を回避することができ、前処理液の液安定性が向上する。

上記と同様の観点から、前処理液の全質量に対する上記水溶性ポリマーの含有量が、0.5質量%~9質量%であることがより好ましい。
【0020】

水溶性ポリマーとしては、セルロース誘導体、ポリビニル誘導体、ポリアクリル酸、多価アルコールポリマー等が挙げられる。

中でも、画像ムラを抑制する観点から、水溶性ポリマーは、ポリビニル誘導体、ポリアクリル酸及び多価アルコールポリマーが好ましい。
【0021】

水溶性ポリマーとしては、画像ムラをより良好に抑制する観点から、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメチルビニルエーテル及びポリイソプロピルアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも一種類を含むことが好ましく、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール及びポリアクリル酸からなる群から選択される少なくとも一種類を含むことがより好ましい。

水溶性ポリマーは共重合体であってもよく、例えば、ビニルピロリドン、アクリル酸、エチレングリコール等の単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。
【0022】

水溶性ポリマーは、非イオン性の水溶性ポリマーであることが好ましい。これによって、前処理液の液安定性をより良好に保持することができる。

非イオン性の水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリメチルビニルエーテル及びポリイソプロピルアクリルアミド等が挙げられる。
【0023】

(酸、酸の塩)

本開示における前処理液は、酸と、酸の塩と、を含み、上記酸の少なくとも一種がカルボン酸であり、上記酸の塩の少なくとも一種が上記カルボン酸の塩である。

即ち、本開示の前処理液は、カルボン酸及びカルボン酸の塩のみを含む場合の他、カルボン酸及びカルボン酸の塩と、他の酸及び/又はその塩を含む場合も含まれる。
【0024】

-酸-

本開示の前処理液が、少なくとも一種のカルボン酸を含むことで、上記カルボン酸が後述するインク組成物を凝集させることができる。また、強酸を含むよりも弱酸であるカルボン酸を含むことで、前処理液中にインクを凝集させるのに十分な酸基の量を含有させても、pHの低下を抑えることができる。前処理液のpHの低下を抑えることができるため、前処理液による部材腐食性を良好に抑制することができる。

上記酸としては、一分子内に2つ以上のカルボキシ基を含む化合物が好ましい。

一分子内に2つ以上のカルボキシ基を含む化合物としては、酒石酸、フタル酸、4-メチルフタル酸、DL-リンゴ酸、こはく酸、クエン酸、ピメリン酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ジメチルマロン酸、又はマレイン酸が好ましく、DL-リンゴ酸、マロン酸、こはく酸、クエン酸、グルタル酸、ジメチルマロン酸、又はマレイン酸がより好ましい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】

また、上記酸としては、下記一般式(I)で表される化合物も好適である。これにより、凝集性がより高められ、記録媒体上に付与されたインク滴の移動がより抑制される。

2n+2-m(COOH) … 一般式(I)

〔一般式(I)中、nは2以上の整数を表し、mは3以上の整数を表す。〕
【0026】

上記一般式(I)において、上記nは、3~5の整数であることが好ましい。

また、上記一般式(I)において、上記mは、3~5の整数であることが好ましい。
【0027】

上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、1,2,3-プロパントリカルボン酸、1,3,5-ペンタントリカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、等が挙げられる。
【0028】

また、本開示における前処理液に含まれる酸の含有量は、後述の酸及び上記酸の塩における酸基の合計の含有量が、前処理液100gに対して0.25mol以上である範囲で適宜選択することができる。
【0029】

-酸の塩-

本開示の前処理液は、酸の塩を含み、上記酸の塩の少なくとも一種がカルボン酸の塩である。

前処理液中に、少なくとも一種のカルボン酸の塩を含むことで、カルボン酸の有する凝集機能を損なわずpHをある程度上昇させることができる。これによって、記録画像の画質を良好にすることができ、かつ、部材腐食性を抑えることができる。
【0030】

カルボン酸の塩は、例えば上述の酸(カルボン酸)の一部を、塩基性化合物で中和することで得ることができる。

上記塩基性化合物としては、特に制限はないが、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物が挙げられる。中でも、前処理液への溶解性の観点から、アルカリ金属の水酸化物であることが好ましい。

即ち、上述のカルボン酸の一部を、例えばアルカリ金属の水酸化物で中和することで得られるカルボン酸の塩は、アルカリ金属の塩でもあることが好ましい。
【0031】

上記アルカリ金属の水酸化物及びアルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。中でも、前処理液への溶解性の観点から、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムとの比較では、前処理液への溶解性の点から水酸化カリウムがより好ましいが、実用上水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。
【0032】

上述のように、酸を中和して酸の塩を得る場合には、中和を行った後に、前処理液のpHが、上記酸及び上記酸の塩に含まれる酸基の最大のpKaよりも小さいことが好ましい。つまり、複数種の酸基が混在する場合に最もpKaの大きい酸のpKaの値より、前処理液のpHの値が小さいことが好ましい。これによって、酸の凝集機能をより良好に保持でき、かつ、前処理液のpHを上昇させ、部材腐食性をより良好に抑えることができる。

なお、本開示において、pKaは、分析化学便覧(改訂六版) 日本分析化学会編 625項に記載の値を用いる。

酸及び酸の塩に含まれる酸基の最大のpKaとは、酸及び酸の塩に含まれるすべての酸基のpKaの内、最大値を示すpKaである。
【0033】

酸及び上記酸の塩における酸基の合計の含有量が、前処理液100gに対して0.25mol以上であることが好ましい。

これによって、インク組成物をより良好に凝集させることができ、得られる画像の画質を良好にすることができる。また、画像の滲み(ブリーディング)を抑制することができる。

上記の観点から、酸及び酸の塩における酸基の合計の含有量が、前処理液100gに対して0.3mol以上であることがより好ましく、0.4mol以上であることがより好ましい。

酸及び上記酸の塩における酸基の合計の含有量は、前処理液100gに対して1.0mol以下であってもよい。なお、酸基の合計の含有量は、用いる酸の価数を乗じて算出される。例えば、マロン酸(2価)0.05molとクエン酸三カリウム0.05molとが前処理液100gに溶解していれば、酸基の含有量は、0.05×2+0.05×3=0.25molと算出される。
【0034】

上記酸の全質量に対する上記酸の塩の含有量は、後述の酸及び上記酸の塩における酸基の合計の含有量が、前処理液100gに対して0.25mol以上である範囲で適宜選択することができる。
【0035】

本開示における前処理液は、酸及び酸の塩として、更に、リン酸及びリン酸の塩の少なくとも一方を含むことが好ましい。

前処理液にリン酸を含むことにより、例えば、記録媒体中に炭酸カルシウムが含まれる場合に、炭酸カルシウムと前処理液中のリン酸とが反応することにより、炭酸カルシウム中のカルシウムが不溶化することによって、カルシウムが画像表面に析出することを抑制することができる。これによって、上記カルシウムの析出によって発生する記録画像上の白い部分、いわゆる白斑(white spot、即ち画像上の白い析出物)の発生をより抑制することができる。

リン酸としては、例えば、オルトリン酸(以下、単に「リン酸」ともいう)、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、又はこれらの塩を用いることができる。
【0036】

本開示における前処理液において、酸及び酸の塩の総和に対する、上記カルボン酸及びカルボン酸の塩の含有量には特に限定はないが、凝集性を良好に発現する点から、全酸基のうち、酸基の数の割合で、カルボン酸またはカルボン酸の塩を60%以上含むことが好ましい。
【0037】

(水)

本開示における前処理液は、水を含有することが好ましい。水の含有量は、特に制限はないが、10質量%~99質量%の範囲が好ましく、より好ましくは50質量%~90質量%であり、更に好ましくは60質量%~80質量%である。
【0038】

(有機溶剤)

本開示における前処理液は、有機溶剤から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。

上記有機溶剤としては、20℃で100gの水に5g以上溶解する有機溶剤(以下、「水溶性有機溶剤」ともいう。)であることが好ましい。

上記水溶性有機溶剤としては、後述するインクに含まれる水溶性有機溶剤と同様のものを用いることができる。中でも、カール抑制、及び前処理液の表面張力を低下させて塗布性を向上させる観点から、ポリアルキレングリコール又はその誘導体であることが好ましく、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。

有機溶剤の前処理液中における含有率としては、特に制限はされないが、カール抑制、及び前処理液の表面張力を低下させて塗布性を向上させる観点から、前処理液全体に対して0.5質量%~30質量%であることが好ましく、0.5質量%~10質量%であることがより好ましい。
【0039】

(含窒素ヘテロ環化合物及び有機メルカプト化合物)

本開示における前処理液は、含窒素ヘテロ環化合物及び有機メルカプト化合物から選択される少なくとも1種を含有してもよい。
【0040】

-含窒素ヘテロ環化合物-

上記含窒素ヘテロ環化合物の構造としては、含窒素5員環構造又は6員環構造が好ましく、中でも含窒素5員環構造が好ましい。
【0041】

上記含窒素5員環構造又は上記含窒素6員環構造の中でも、好ましくは炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子及びセレン原子の少なくとも一種の原子を含む5又は6員のヘテロ環の構造が好ましい。

尚、このヘテロ環は炭素芳香環又は複素芳香環で縮合していてもよい。

ヘテロ環としては、例えばテトラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、チアジアゾール環、オキサジアゾール環、セレナジアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンズイミダゾール環、ピリミジン環、トリアザインデン環、テトラアザインデン環、ペンタアザインデン環等があげられる。
【0042】

これらの環は、置換基を有してもよく、置換基は、ニトロ基、ハロゲン原子(例えば塩素原子、臭素原子)、メルカプト基、シアノ基、それぞれ置換もしくは無置換のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、t-ブチル、シアノエチルの各基)、アリール基(例えばフェニル、4-メタンスルホンアミドフェニル、4-メチルフェニル、3,4-ジクロルフェニル、ナフチルの各基)、アルケニル基(例えばアリル基)、アラルキル基(例えばベンジル、4-メチルベンジル、フェネチルの各基)、スルホニル基(例えばメタンスルホニル、エタンスルホニル、p-トルエンスルホニルの各基)、カルバモイル基(例えば無置換カルバモイル、メチルカルバモイル、フェニルカルバモイルの各基)、スルファモイル基(例えば無置換スルファモイル、メチルスルファモイル、フェニルスルファモイルの各基)、カルボンアミド基(例えばアセトアミド、ベンズアミドの各基)、スルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、p-トルエンスルホンアミドの各基)、アシルオキシ基(例えばアセチルオキシ、ベンゾイルオキシの各基)、スルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、ウレイド基(例えば無置換ウレイド、メチルウレイド、エチルウレイド、フェニルウレイドの各基)、アシル基(例えばアセチル、ベンゾイルの各基)、オキシカルボニル基(例えばメチキシカルボニル、フェノキシカルボニルの各基)、オキシカルボニルアミノ基(例えばメトキシカルボニルアミノ、フェノキシカルボニルアミノ、2-エチルヘキシルオキシカルボニルアミノの各基)、ヒドロキシル基などで置換されていてもよい。置換基は、一つの環に複数置換してもよい。
【0043】

好ましい含窒素ヘテロ環化合物の具体例としては以下のものが挙げられる。

即ち、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾインダゾール、ベンゾトリアゾール、テトラゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ピリジン、キノリン、ピリミジン、ピペリジン、ピペラジン、キノキサリン、モルホリンなどが挙げられ、これらは、上記記載のアルキル基、カルボキシ基、スルホ基、などの置換基を有してよい。
【0044】

好ましい含窒素6員環化合物としては、トリアジン環、ピリミジン環、ピリジン環、ピロリン環、ピペリジン環、ピリダジン環、又はピラジン環を有する化合物であり、中でもトリアジン環、ピリミジン環を有する化合物が好ましい。これらの含窒素6員環化合物は置換基を有していてもよく、その場合の置換基としては炭素数1~6、より好ましくは1~3のアルキル基、炭素数1~6、より好ましくは1~3のアルコキシ基、水酸基、カルボキシ基、メルカプト基、炭素数1~6、より好ましくは1~3のアルコキシアルキル基、炭素数1~6、より好ましくは1~3のヒドロキシアルキル基が挙げられる。

好ましい含窒素6員環化合物の具体例としては、トリアジン、メチルトリアジン、ジメチルトリアジン、ヒドロキシエチルトリアジン環、ピリミジン、4-メチルピリミジン、ピリジン、又はピロリンがあげられる。
【0045】

-有機メルカプト化合物-

上記有機メルカプト化合物としては、アルキルメルカプト化合物や、アリールメルカプト化合物、ヘテロ環メルカプト化合物などが挙げられる。

アルキルメルカプト化合物としては、システインやチオリンゴ酸などが挙げられ、アリールメルカプト化合物としては、チオサリチル酸などが挙げられ、ヘテロ環メルカプト化合物としては、2-フェニル-1-メルカプトテトラゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-メルカプトピリミジン、2,4-ジメルカプトピリミジン、2-メルカプトピリジンなどが挙げられ、これらは、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、などの置換基を有してよい。
【0046】

上記含窒素ヘテロ環化合物及び上記有機メルカプト化合物の中でも、ベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、5-アミノベンゾトリアゾール、5-クロロベンゾトリアゾール、テトラゾール、5-アミノテトラゾール、5-メチルテトラゾール、5-フェニルテトラゾールが特に好ましく、ベンゾトリアゾールが最も好ましい。
【0047】

上記含窒素ヘテロ環化合物及び上記有機メルカプト化合物は、単独あるいは複数種併用して用いることができる。

前処理液中における上記含窒素ヘテロ環化合物及び上記有機メルカプト化合物の含有量(総含有量)には特に限定はないが、前処理液の全量に対し、0.1質量%~5.0質量%であることが好ましく、0.1質量%~3.0質量%であることがより好ましい。
【0048】

(界面活性剤)

本開示における前処理液は、界面活性剤の少なくとも1種を含んでいてもよい。界面活性剤は、表面張力調整剤として用いることができる。表面張力調整剤としては、ノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0049】

界面活性剤の具体的な例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0050】

(消泡剤)

本開示の前処理液は、消泡剤を含んでいてもよい。

本開示における消泡剤としては、特に制限はないが、ポリシロキサン系の消泡剤を用いることができる。例えば、ポリシロキサン系の消泡剤としてはBYK-038が挙げられる。
【0051】

(その他の凝集成分)

本開示における前処理液は本開示の効果を損なわない限り、前述の酸に加え、その他の凝集成分を含むことができる。その他の凝集剤としては、多価金属塩及びポリアリルアミン等を挙げることができる。

多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩、及びポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体を挙げることができる。金属の塩としては、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。

多価金属塩の前処理液中における含有量としては、例えば1質量%~10質量%とすることができる。
【0052】

-その他の添加剤-

本開示における前処理液は、上記成分に加えて、その他の添加剤を含んで構成することができる。前処理液におけるその他の添加剤としては、後述のインク組成物中におけるその他の添加剤と同様である。
【0053】

~前処理液の物性~

上記前処理液の表面張力としては特に制限はなく、例えば、25mN/m以上であることが好ましく、25mN/m~60mN/mであることがより好ましく、25mN/m~45mN/mであることが更に好ましい。

前処理液の表面張力は、例えば、界面活性剤を添加することで調整することができる。

また前処理液の表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、プレート法により25℃の条件下で測定されるものである。
【0054】

また本開示における前処理液は、インク組成物の凝集速度の観点から、pH(25℃±1℃)が6.0以下であることが好ましく、5.5以下であることがより好ましく、5.0以下であることがさらに好ましい。

また本開示における前処理液は、部材腐食性の観点から、pH(25℃±1℃)が2.5以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましく、3.5以上であることがさらに好ましく、4.0以上であることが特に好ましい。本開示における前処理液は、部材腐食性及びインク組成物の凝集速度の観点から、pH(25℃±1℃)が4.0~5.0であることが好ましい。

なお、本開示においてpHは、例えばpHメーター(型番:HM-31、東亜ディーケーケー(株)製)を用いて25℃で測定することができる。
【0055】

また前処理液の粘度としては、インク組成物の凝集速度の観点から、1mPa・s~30mPa・sの範囲が好ましく、1mPa・s~20mPa・sの範囲がより好ましく、2mPa・s~15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2mPa・s~10mPa・sの範囲が特に好ましい。なお、粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0056】

≪インクセット≫

本開示のインクセットは、本開示に記載の前処理液と、水及び着色剤を含むインク組成物と、を備える。なお、前処理液については、既述の通りであり、好ましい態様も同様である。
【0057】

<インク組成物>

本開示におけるインク組成物は、水及び着色剤を含む。

上記インク組成物は、必要に応じ、樹脂粒子、顔料分散剤(ポリマー分散剤)、有機溶剤、中和剤、水、及びその他の成分を含む。
【0058】

(着色剤)

本開示におけるインク組成物は、着色剤を含有する。

本開示における着色剤としては、公知の染料、顔料等を特に制限なく用いることができる。中でも、インク着色性の観点から、水に殆ど不溶であるか、又は難溶である着色剤であることが好ましい。具体的には例えば、各種顔料、分散染料、油溶性染料、J会合体を形成する色素等を挙げることができ、中でも、顔料であることがより好ましい。
【0059】

(顔料)

本開示におけるインク組成物は、顔料を少なくとも1種含むことが好ましい。

上記顔料としては、その種類に特に制限はなく、従来公知の有機顔料及び無機顔料を用いることができる。例えば、アゾレーキ顔料、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性レーキ染料、酸性レーキ染料等;ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料;酸化チタン、酸化鉄系、カーボンブラック系等の無機顔料;が挙げられる。また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても、水相に分散可能であればいずれも使用できる。更に、上記顔料を界面活性剤や高分子分散剤等で表面処理したものや、グラフトカーボン等も使用可能である。

これら顔料のうち、特に、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、及びカーボンブラック系顔料が好ましい。
【0060】

~分散剤~

本開示におけるインク組成物では、上記顔料が分散剤によって分散されている形態が好ましい。

この形態の中でも、特に、上記顔料がポリマー分散剤によって分散されている形態、即ち、顔料の少なくとも一部がポリマー分散剤により被覆されている形態が好ましい。少なくとも一部がポリマー分散剤により被覆されている顔料を、以下、「樹脂被覆顔料」ともいう。
【0061】

上記分散剤としては、ポリマー分散剤でも低分子の界面活性剤型分散剤でもよい。また、ポリマー分散剤としては、水溶性のポリマー分散剤でも非水溶性のポリマー分散剤でもよい。

上記低分子の界面活性剤型分散剤としては、特開2010-188661号公報の段落0016~0020に記載の界面活性剤型分散剤を用いることができる
【0062】

上記ポリマー分散剤のうち、水溶性のポリマー分散剤としては、親水性高分子化合物を用いることができる。

上記水溶性のポリマー分散剤としては、例えば、特開2010-188661号公報の段落0021~0022に記載の天然の親水性高分子化合物を用いることができる。
【0063】

また、上記水溶性のポリマー分散剤としては、合成系の親水性高分子化合物を用いることもできる。

上記合成系の親水性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物等が挙げられる。
【0064】

これらの中でも、顔料の分散安定性と凝集性の観点から、カルボキシ基を含む高分子化合物が好ましく、例えば、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂等のようなカルボキシ基を含む高分子化合物が特に好ましい。
【0065】

上記ポリマー分散剤のうち非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部との両方を有するポリマーを用いることができる。例えば、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体、ベンジル(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸-メチル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体等が挙げられる。

上記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、上記(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、上記ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)

アクリル酸共重合体、上記スチレン-マレイン酸共重合体は、2元共重合体であっても3元以上の共重合体であってもよい。

上記ポリマー分散剤としては、これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)

アクリル酸共重合体及びベンジル(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸-メチル(メタ)アクリレート共重合体が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸-メチル(メタ)アクリレート3元共重合体がより好ましい。

ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を指し、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを指す。
【0066】

上記ポリマー分散剤の重量平均分子量としては、3,000~200,000が好ましく、より好ましくは5,000~100,000、更に好ましくは5,000~80,000、特に好ましくは10,000~60,000である。
【0067】

上記ポリマー分散剤の酸価には特に限定はないが、凝集性の観点からは、ポリマー分散剤の酸価は、必要に応じ用いられることがある後述する樹脂粒子(好ましくは自己分散性樹脂粒子)の酸価よりも大きいことが好ましい。
【0068】

また、本開示におけるインク組成物において、顔料と分散剤との質量比(顔料:分散剤)としては、1:0.06~1:3の範囲が好ましく、1:0.125~1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125~1:1.5である。
【0069】

顔料の平均粒子径(樹脂被覆顔料である場合には樹脂被覆顔料の平均粒子径。以下、同じ。)としては、10nm~200nmが好ましく、10nm~150nmがより好ましく、10nm~110nmがさらに好ましい。平均粒子径は、200nm以下であると色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になり、10nm以上であると耐光性が良好になる。また、顔料の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ色材を2種以上混合して使用してもよい。

なお、顔料の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA-EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒子径を測定することにより求められるものである。
【0070】

本開示において、顔料のインク組成物中における含有量としては、画像濃度の観点から、インク組成物全量に対して、1質量%~25質量%であることが好ましく、2質量%~20質量%がより好ましく、2質量%~10質量%が特に好ましい。

顔料は、1種単独で又は2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0071】

(水)

本開示におけるインク組成物は、水を含有することが好ましい。水の含有量は、特に制限はないが、10質量%~99質量%の範囲が好ましく、より好ましくは30質量%~80質量%であり、更に好ましくは50質量%~70質量%である。
【0072】

(樹脂粒子)

本開示におけるインク組成物は、樹脂粒子の少なくとも1種を含むことが好ましい。

上記樹脂粒子は、前述のポリマー分散剤(顔料の少なくとも一部を覆うポリマー分散剤)とは異なり、上記顔料とは別に存在する粒子である。

上記樹脂粒子は、前述の前処理液中の有機酸性化合物によって凝集される。これにより、画像の定着性や凝集速度がさらに向上する。

樹脂粒子を含むインク組成物と、上記特定高分子化合物を含む上記前処理液と、が用いられることにより、凝集速度がある程度抑えられてインク滴の広がりが促進されるので、インク滴の広がり不足に起因する画像の均一性の低下がさらに改善される。
【0073】

上記樹脂粒子は、非水溶性又は難水溶性の樹脂粒子であることが好ましい。

ここで、「非水溶性又は難水溶性」であるとは、樹脂を105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させた場合に、その溶解量が15g以下であることをいう。インクの連続吐出性及び吐出安定性が向上する観点から、上記溶解量は好ましくは10g以下、より好ましくは5g以下であり、更に好ましくは1g以下である。上記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0074】

上記樹脂粒子としては、例えば、熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、又はフッ素系の樹脂、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、又はポリビニルブチラール等のポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系樹脂、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系材料、あるいはそれらの共重合体又は混合物などのアニオン性基を有する樹脂の粒子が挙げられる。これらのうち、アニオン性のアクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有するアクリルモノマー(アニオン性基含有アクリルモノマー)及び必要に応じてアニオン性基含有アクリルモノマーと共重合可能な他のモノマーを溶媒中で重合して得られる。上記アニオン性基含有アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、及びホスホン基からなる群より選ばれる1以上を有するアクリルモノマーが挙げられ、中でもカルボキシ基を有するアクリルモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸等)が好ましく、特にはアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
【0075】

本開示で用いることができる樹脂粒子としては、吐出安定性及び顔料を含む系の液安定性(特に分散安定性)の観点から、自己分散性樹脂の粒子(自己分散性樹脂粒子)であること好ましい。ここで、自己分散性樹脂とは、界面活性剤の不存在下、転相乳化法により分散状態とした場合、ポリマー自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーをいう。

ここで、分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。

また、上記水性媒体は水を含む媒体を指す。上記水性媒体は、必要に応じて親水性有機溶媒を含んでいてもよい。上記水性媒体は、水と水に対して0.2質量%以下の親水性有機溶媒とから構成されることが好ましく、水から構成されることがより好ましい。

上記自己分散性樹脂としては、インク組成物に含有された場合の凝集速度と定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる自己分散性樹脂粒子であることが好ましい。
【0076】

上記自己分散性樹脂の乳化又は分散状態を得る方法、すなわち自己分散性樹脂粒子の水性分散物の調製方法としては、転相乳化法が挙げられる。

上記転相乳化法としては、例えば、自己分散性樹脂を溶媒(例えば、水溶性有機溶剤等)中に溶解又は分散させた後、界面活性剤を添加せずにそのまま水中に投入し、自己分散性樹脂が有する塩生成基(例えば、酸性基)を中和した状態で、攪拌、混合し、上記溶媒を除去した後、乳化又は分散状態となった水性分散物を得る方法が挙げられる。
【0077】

また、自己分散性樹脂における安定な乳化又は分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、混合液から有機溶媒を除去した後でも、乳化又は分散状態が、25℃で少なくとも1週間安定に存在する状態(即ち、沈殿を目視で確認できない状態)であることをいう。
【0078】

また、自己分散性樹脂における乳化又は分散状態の安定性は、遠心分離による沈降の加速試験によっても確認することができる。遠心分離による、沈降の加速試験による安定性は、例えば、上記の方法により得られた樹脂粒子の水性分散物を、固形分濃度25質量%に調整した後、12000rpmで一時間遠心分離し、遠心分離後の上澄みの固形分濃度を測定することによって評価できる。

遠心分離前の固形分濃度に対する遠心分離後の固形分濃度の比が大きければ(1に近い数値であれば)、遠心分離による樹脂粒子の沈降が生じない、すなわち、樹脂粒子の水性分散物がより安定であることを意味する。本開示においては、遠心分離前後での固形分濃度の比が0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましく、0.95以上であることが特に好ましい。
【0079】

自己分散性樹脂は、分散状態とした場合に水溶性を示す水溶性成分の含有量が10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。水溶性成分を10質量%以下とすることで、樹脂粒子の膨潤や樹脂粒子同士の融着を効果的に抑制し、より安定な分散状態を維持することができる。

また、水性インク組成物の粘度上昇を抑制でき、例えば、水性インク組成物をインクジェット法に適用する場合に、吐出安定性がより良好になる。

ここで水溶性成分とは、自己分散性樹脂に含有される化合物であって、自己分散性樹脂を分散状態にした場合に水に溶解する化合物をいう。上記水溶性成分は自己分散性樹脂を製造する際に、副生又は混入する水溶性の化合物である。
【0080】

上記水不溶性ポリマーの主鎖骨格としては、特に制限は無く、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)を用いることができる。その中で、特にビニルポリマーが好ましい。
【0081】

ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001-181549号公報及び特開2002-88294号公報に記載されているものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤或いは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。

また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001-247787号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0082】

本開示において用いることができる自己分散性樹脂粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と、芳香族基含有モノマー又は環状脂肪族基含有モノマーに由来する構成単位と、を含む水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。
【0083】

上記「親水性の構成単位」は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。上記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であってもノニオン性親水性基であってもよい。

上記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。上記解離性基としては、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、インク組成物を構成した場合の定着性の観点から、カルボキシ基が好ましい。
【0084】

上記親水性基含有モノマーは、自己分散性と凝集性の観点から、解離性基含有モノマーであることが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーであることが好ましい。

上記解離性基含有モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0085】

上記不飽和カルボン酸モノマーとして、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。

上記不飽和スルホン酸モノマーとして、具体的には、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス-(3-スルホプロピル)-イタコン酸エステル等が挙げられる。

上記不飽和リン酸モノマーとして具体的には、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル-2-アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル-2-アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。

上記解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0086】

上記自己分散性樹脂粒子は、自己分散性と前処理液と接触した場合の凝集速度の観点から、カルボキシ基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシ基を有し、酸価が25mgKOH/g~100mgKOH/gであるポリマーを含むことがより好ましい。

更に、上記酸価は、自己分散性と前処理液と接触した場合の凝集速度の観点から、25mgKOH/g~80mgKOH/gであることがより好ましく、30mgKOH/g~65mgKOH/gであることが特に好ましい。

特に、酸価は、25以上であると自己分散性の安定性が良好になり、100以下であると凝集性が向上する。
【0087】

上記芳香族基含有モノマーは、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば特に制限はない。上記芳香族基は芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本開示においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。

また上記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。本開示においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
【0088】

上記芳香族基含有モノマーは、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましい。芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。

上記芳香族基含有モノマーとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが更に好ましい。

なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0089】

上記環状脂肪族基含有モノマーは、環状脂肪族炭化水素に由来する環状脂肪族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましく、環状脂肪族基含有(メタ)

アクリレートモノマー(以下、脂環式(メタ)アクリレートということがある)がより好ましい。

脂環式(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリル酸に由来する構造部位と、アルコールに由来する構造部位とを含み、アルコールに由来する構造部位に、無置換又は置換された脂環式炭化水素基(環状脂肪族基)を少なくとも1つ含む構造を有しているものである。尚、上記脂環式炭化水素基は、アルコールに由来する構造部位そのものであっても、連結基を介してアルコールに由来する構造部位に結合していてもよい。
【0090】

脂環式炭化水素基としては、環状の非芳香族炭化水素基を含むものであれば特に限定はなく、単環式炭化水素基、2環式炭化水素基、3環式以上の多環式炭化水素基が挙げられる。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基や、シクロアルケニル基、ビシクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、アダマンチル基、デカヒドロナフタレニル基、ペルヒドロフルオレニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、及びビシクロ[4.3.0]ノナン等を挙げることができる。

上記脂環式炭化水素基は、更に置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アルキル又はアリールカルボニル基、及びシアノ基等が挙げられる。また、脂環式炭化水素基は、さらに縮合環を形成していてもよい。本開示における脂環式炭化水素基としては、粘度や溶解性の観点から、脂環式炭化水素基部分の炭素数が5~20であることが好ましい。
【0091】

脂環式(メタ)アクリレートの具体例を以下に示すが、本開示はこれらに限定されるものではない。

単環式(メタ)アクリレートとしては、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基の炭素数が3~10のシクロアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。

2環式(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。

3環式(メタ)アクリレートとしては、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。

これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0092】

これらのうち、自己分散性樹脂粒子の分散安定性と、定着性、ブロッキング耐性の観点から、2環式(メタ)アクリレート、又は3環式以上の多環式(メタ)アクリレートを少なくとも1種であることが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0093】

自己分散性樹脂は、(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、更には、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含み、その含有量が樹脂の全質量に対して10質量%~95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量が樹脂の全質量に対して10質量%~95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。

自己分散状態の安定性、芳香環同士又は脂環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量が樹脂の全質量に対して15質量%~90質量%であることがより好ましく、15質量%~80質量%であることがより好ましく、25質量%~70質量%であることが特に好ましい。
【0094】

上記自己分散性樹脂は、例えば、芳香族基含有モノマー又は環状脂肪族基含有モノマーに由来する構成単位と、解離性基含有モノマーに由来する構成単位とを用いて構成することができる。更に、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んでもよい。
【0095】

上記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、上記芳香族基含有モノマーと解離性基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限はない。中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点から、アルキル基含有モノマーであることが好ましい。

上記アルキル基含有モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-(n-,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-(n-、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0096】

上記自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量範囲は、重量平均分子量で3000~20万であることが好ましく、5000~15万であることがより好ましく、10000~10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
【0097】

なお、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC-8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel、Super Multipore HZ-H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なう。また、検量線は、東ソー(株)

製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0098】

上記自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位(好ましくは、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)

アクリレートに由来する構造単位)又は環状脂肪族基含有モノマー(好ましくは脂環式(メタ)アクリレート)を共重合比率として自己分散性樹脂粒子の全質量の15質量%~80質量%を含むことが好ましい。

また、上記水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を共重合比率として15質量%~80質量%と、カルボキシ基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を共重合比率として15質量%~80質量%と、カルボキシ基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1~4のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことがより好ましい。

また、上記水不溶性ポリマーは、酸価が25~100であって重量平均分子量が3000~20万であることが好ましく、酸価が25~95であって重量平均分子量が5000~15万であることがより好ましい。
【0099】

以下に、自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーの具体例として、例示化合物B-01~B-23を挙げるが、本開示はこれらに限定されるものではない。尚、括弧内は共重合成分の質量比を表す。
【0100】

B-01:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(50/45/5)

B-02:フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(30/35/29/6)

B-03:フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(50/44/6)

B-04:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(30/55/10/5)

B-05:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/59/6)

B-06:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(10/50/35/5)

B-07:ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(55/40/5)

B-08:フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸 共重合体(45/47/8)

B-09:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(5/48/40/7)

B-10:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/30/30/5)

B-11:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸 共重合体(12/50/30/8)

B-12:ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(93/2/5)

B-13:スチレン/フェノキシエチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(50/5/20/25)

B-14:スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(62/35/3)

B-15:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/51/4)

B-16:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/49/6)

B-17:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/48/7)

B-18:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/47/8)

B-19:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/45/10)

B-20:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/72/8)

B-21:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(40/52/8)

B-22:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/62/10/8)

B-23メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/72/8)
【0101】

上記自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーの製造方法としては特に制限はなく、例えば、重合性界面活性剤の存在下に、乳化重合を行い、界面活性剤と水不溶性ポリマーとを共有結合させる方法、上記親水性基含有モノマーと芳香族基含有モノマー又は脂環族基含有モノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法により、共重合させる方法を挙げることができる。上記重合法の中でも、凝集速度とインク組成物とした場合の打滴安定性の観点から、溶液重合法が好ましく、有機溶媒を用いた溶液重合法がより好ましい。
【0102】

上記自己分散性樹脂粒子は、凝集速度の観点から、有機溶媒中で合成されたポリマーを含み、ポリマーはアニオン性基(カルボキシ基)を有し、(好ましくは酸価が20~100であって)ポリマーのアニオン性基(カルボキシ基)の一部又は全部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物として調製されたものであることが好ましい。

すなわち、上記自己分散性樹脂粒子の製造は、有機溶媒中でポリマーを合成する工程と、上記ポリマーのアニオン性基(カルボキシ基)の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程と、を設けて行なうことが好ましい。
【0103】

上記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。

工程(1):ポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を、攪拌する工程

工程(2):上記混合物から上記有機溶媒を除去する工程
【0104】

上記工程(1)は、まずポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶媒に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。

有機溶媒中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性樹脂粒子を得ることができる。

混合物の攪拌方法に特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。

また、上記工程(2)においては、上記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散性樹脂粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0105】

上記有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。有機溶媒としては、特開2010-188661号公報の段落0059に例示された有機溶媒を用いることができる。

上記中和剤としては、特開2010-188661号公報の段落0060~0061に例示された中和剤を用いることができる。
【0106】

本開示で用いることができる樹脂粒子(特に自己分散性樹脂粒子)の平均粒子径は、体積平均粒子径で10nm~400nmの範囲が好ましく、10nm~200nmの範囲がより好ましく、10nm~100nmの範囲が更に好ましく、特に好ましくは10nm~50nmの範囲である。体積平均粒子径が10nm以上であると製造適性が向上する。また、体積平均粒子径が400nm以下であると保存安定性が向上する。また、上記樹脂粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、上記樹脂粒子を2種以上混合して使用してもよい。

なお、樹脂粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA-EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0107】

本開示におけるインク組成物が樹脂粒子(好ましくは自己分散性樹脂粒子)を含む場合、樹脂粒子(好ましくは自己分散性樹脂粒子)を1種単独で含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。

本開示におけるインク組成物が樹脂粒子(好ましくは自己分散性樹脂粒子)を含む場合、樹脂粒子(好ましくは自己分散性樹脂粒子)のインク組成物中における含有量(総含有量)としては、画像の光沢性などの観点から、インク組成物全量に対して、1~30質量%であることが好ましく、3質量%~15質量%であることがより好ましい。
【0108】

(有機溶剤)

本開示におけるインク組成物は、有機溶剤(好ましくは、水溶性有機溶剤)の少なくとも1種を更に含有することがより好ましい。有機溶剤、特に、水溶性有機溶剤を含有することで、乾燥防止、浸透促進を図ることができる。

水溶性有機溶剤を乾燥防止剤として用いる場合、インク組成物をインクジェット法で吐出して画像記録する際に、インク吐出口でのインクの乾燥によって発生し得るノズルの目詰まりを効果的に防止することができる。
【0109】

乾燥防止のためには、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。乾燥防止に好適な水溶性有機溶剤の具体的な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)

エーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3-スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体等が挙げられる。

中でも、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。また、これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの水溶性有機溶剤は、インク組成物中に10質量%~50質量%含有されることが好ましい。
【0110】

また、浸透促進のためには、インク組成物を記録媒体により良く浸透させる観点から水溶性有機溶剤が好適に用いられる。浸透促進に好適な水溶性有機溶剤の具体的な例としては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジ(トリ)エチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、1,2-ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等が挙げられる。これらは、インク組成物中に5質量%~30質量%含有されることで良好な効果が得られる。また、これらの水溶性有機溶剤は、印字・画像の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない添加量の範囲内で用いられるのが好ましい。
【0111】

また、水溶性有機溶剤は、上記以外にも粘度の調整に用いることができる。粘度の調整に用いることができる水溶性有機溶剤の具体的な例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)

、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。

なお、水溶性有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0112】

(界面活性剤)

本開示におけるインク組成物は、界面活性剤の少なくとも1種を含有することが好ましい。

上記界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。凝集速度の観点からは、アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0113】

界面活性剤は、インクジェット法で良好に打滴するために、インク組成物の表面張力を25mN/m以上40mN/m以下に調整できる量を含有するのが好ましい。中でも、界面活性剤の含有量は、表面張力を27mN/m~37mN/mに調整できる量が好ましい。
【0114】

また、これら界面活性剤は、消泡剤としても使用することができる。界面活性剤としては、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、及びEDTAに代表されるキレート剤等、も使用することができる。
【0115】

(重合性化合物、重合開始剤)

本開示におけるインク組成物は、上記成分以外に重合性化合物を更に含有することができる。重合性化合物とは、重合性基を有する化合物であって、上記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。上記重合性基としては、水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。

また、本開示におけるインク組成物は、重合性化合物のほかに、重合開始剤を含有することができる。上記重合開始剤としては、熱重合開始剤及び光重合開始剤が挙げられる。
【0116】

(その他の添加剤)

本開示におけるインク組成物は、上記成分以外にその他の添加剤を更に含有することができる。その他の添加剤としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、インク組成物を調製後に直接添加してもよく、インク組成物の調製時に添加してもよい。
【0117】

上記pH調整剤としては、中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。

pH調整剤は、インク組成物の保存安定性を向上させる観点から、インク組成物のpHが6~10となるように添加するのが好ましく、pH7~10となるように添加するのがより好ましい。
【0118】

本開示におけるインク組成物の粘度は、インクジェット法で吐出する場合の吐出安定性、及び後述の前処理液を用いた際の凝集速度の観点から、1mPa・s~30mPa・sの範囲が好ましく、1mPa・s~20mPa・sの範囲がより好ましく、2mPa・s~15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2mPa・s~10mPa・sの範囲が特に好ましい。

粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、インク組成物を25℃の条件下で測定されるものである。
【0119】

本開示におけるインク組成物は、カルボキシ基を有するポリマー分散剤で被覆された顔料と、樹脂粒子とを含み、固形分含有率が7質量%~10質量%であって、顔料に対する顔料以外の固形分の含有比が質量比で0.8~1.6であることが好ましく、アクリル系ポリマーで被覆された顔料と、自己分散性樹脂粒子とを含み、固形分含有率が7質量%~9質量%であって、顔料に対する顔料以外の固形分の含有比が質量比で1.0~1.4であることがより好ましい。
【0120】

以上、本開示のインクセットについて説明したが、本開示のインクセットは、上記インク組成物と、上記前処理液と、を含んでいれば、具体的な構成には特に限定はない。

本開示のインクセットの好適な構成としては、上記インク組成物であるシアンインクと、上記インク組成物であるマゼンタインクと、上記インク組成物であるイエローインクと、上記前処理液と、の組み合わせからなる構成(3色構成)や、上記インク組成物であるブラックインクと、上記インク組成物であるシアンインクと、上記インク組成物であるシアンインクと、上記インク組成物であるマゼンタインクと、上記インク組成物であるイエローインクと、上記前処理液と、の組み合わせからなる構成(4色構成)が挙げられる。

但し、本開示のインクセットは、必要に応じ、1種又は2種のインク組成物と前処理液とからなる1色構成又は2色構成のインクセットであってもよい。

また、本開示のインクセットは、上述のインク組成物に加え、必要に応じ、ライトシアンインク、ライトマゼンタインク、及びライトイエローインクから選択される少なくとも1つ等、その他のインク組成物を有していてもよい。上述のその他のインク組成物としては、公知のインク組成物を特に制限無く使用することができる。

また、本開示のインクセットは、必要に応じ、2種以上の前処理液を含んでいてもよい。

本開示のインクセットは、下記の本開示の画像記録方法に好適に用いられるものである。
【0121】

<画像記録方法>

本開示の画像記録方法は、既述の本開示のインクセットが用いられ、上記前処理液を記録媒体に付与する前処理液付与工程と、上記前処理液付与工程で上記前処理液が付与された記録媒体に上記インク組成物を付与するインク付与工程と、を有する。

かかる構成の画像記録方法により、画像の均一性の低下を抑制できる。
【0122】

(前処理液付与工程)

前処理液付与工程は、上記前処理液を記録媒体に付与する工程である。

前処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレッドコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、後述する。
【0123】

前処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程前に設けられる。

すなわち、記録媒体上に、インク組成物を付与(打滴)する前に、予めインク組成物中の成分を凝集させるための前処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された前処理液に接触するようにインク組成物を打滴して画像化する。

これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0124】

また本開示においては、前処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の前処理液を加熱乾燥することが好ましい。これにより、にじみ防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0125】

加熱乾燥は、ヒーター等の公知の加熱手段やドライヤー等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。

加熱方法としては、例えば、記録媒体の前処理液の付与面と反対側からヒーター等で熱を与える方法や、記録媒体の前処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒーターを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0126】

(インク付与工程)

インク付与工程は、既述のインク組成物をインクジェット法により、前処理液が付与された記録媒体上(の前処理液上)に付与(打滴)する。

本工程では、記録媒体上にインク組成物を付与でき、所望の可視画像を記録できる。なお、インク組成物の詳細については既述の通りである。
【0127】

インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54-59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。

尚、上記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0128】

また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気-機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気-熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。

尚、上記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0129】

インクジェットヘッドとしては、単尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。

本開示の画像記録方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
【0130】

上記インク付与工程は、前処理液付与工程の後、10秒以内に開始されることが好ましく、0.1秒以上10秒以内に開始されることがより好ましい。これにより高速に画像を記録することができる。

また本開示の画像記録方法においては、既述のインクセットを用いることで、高速に画像を記録した場合でも、着弾干渉が抑制され、高精細な画像を記録することができる。

ここで「前処理液付与工程の後、10秒以内に開始」とは、前処理液の付与・乾燥終了から、最初のインク滴が記録媒体上に着滴するまでの時間が10秒以内であることを意味する。
【0131】

また、上記インク付与工程は、高精細印画の観点から、付与(打滴)されるインク滴の液滴量が1.5pL~3.0pLであることが好ましく、1.5pL~2.5pLであることがより好ましい。

尚、インク滴の液滴量は、打滴するインク組成物に応じて、インクジェット法における吐出条件を適宜選択することで調整することができる。
【0132】

(加熱定着工程)

本開示においては、インク付与工程後に、更に、上記インク付与工程によって記録された画像(インク)を加熱定着する加熱定着工程を設けることが好ましい。

かかる加熱定着により、記録媒体上の画像の定着が施され、画像の耐擦過性がより向上する。
【0133】

上記加熱は、画像中の樹脂粒子の最低造膜温度(MFT)以上の温度で行なうことが好ましい。MFT以上に加熱されることで、粒子が皮膜化して画像が強化される。

加熱に加えて、さらに加圧する場合、加圧時における圧力は、表面平滑化の点で、0.1MPa~3.0MPaの範囲が好ましく、より好ましくは0.1MPa~1.0MPaの範囲であり、更に好ましくは0.1MPa~0.5MPaの範囲である。
【0134】

加熱の方法は特に制限されないが、ニクロム線ヒーター等の発熱体で加熱する方法、温風又は熱風を供給する方法、ハロゲンランプ、赤外線ランプ等で加熱する方法など、非接触で乾燥させる方法を好適に挙げることができる。

また、加熱加圧の方法は、特に制限はないが、例えば、熱板を記録媒体の画像記録面に押圧する方法や、一対の加熱加圧ローラ、一対の加熱加圧ベルト、あるいは記録媒体の画像記録面側に配された加熱加圧ベルトとその反対側に配された保持ローラとを備えた加熱加圧装置を用い、対をなすローラ等を通過させる方法など、接触させて加熱定着を行なう方法が好適に挙げられる。
【0135】

加熱加圧する場合、好ましいニップ時間は、1ミリ秒~10秒であり、より好ましくは2ミリ秒~1秒であり、更に好ましくは4ミリ秒~100ミリ秒である。また、好ましいニップ幅は、0.1mm~100mmであり、より好ましくは0.5mm~50mmであり、更に好ましくは1mm~10mmである。
【0136】

上記加熱加圧ローラとしては、金属製の金属ローラでも、あるいは金属製の芯金の周囲に弾性体からなる被覆層及び必要に応じて表面層(又は離型層ともいう)が設けられたものでもよい。後者の芯金は、例えば、鉄製、アルミニウム製、SUS製等の円筒体で構成することができ、芯金の表面は被覆層で少なくとも一部が覆われているものが好ましい。

被覆層は、特に、離型性を有するシリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂で形成されるのが好ましい。また、加熱加圧ローラの一方の芯金内部には、発熱体が内蔵されていることが好ましく、ローラ間に記録媒体を通すことによって、加熱処理と加圧処理とを同時に施したり、あるいは必要に応じて、2つの加熱ローラを用いて記録媒体を挟んで加熱してもよい。発熱体としては、例えば、ハロゲンランプヒーター、セラミックヒーター、ニクロム線等が好ましい。
【0137】

加熱加圧装置に用いられる加熱加圧ベルトを構成するベルト基材としては、シームレスのニッケル電鍮が好ましく、基材の厚さは10μm~100μmが好ましい。また、ベルト基材の材質としては、ニッケル以外にもアルミニウム、鉄、ポリエチレン等を用いることができる。シリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂を設ける場合は、これら樹脂を用いて形成される層の厚みは、1μm~50μmが好ましく、更に好ましくは10μm~30μmである。
【0138】

また、上記圧力(ニップ圧)を実現するには、例えば、加熱加圧ローラ等のローラ両端に、ニップ間隙を考慮して所望のニップ圧が得られるように、張力を有するバネ等の弾性部材を選択して設置すればよい。
【0139】

加熱加圧ローラ、あるいは加熱加圧ベルトを用いる場合の記録媒体の搬送速度は、200mm/秒~700mm/秒が好ましく、より好ましくは300mm/秒~650mm/秒であり、更に好ましくは400mm/秒~600mm/秒である。
【0140】

(記録媒体)

本開示の画像記録方法では、上述のとおり、記録媒体上に画像が記録される。

記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、セルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。
【0141】

また、記録媒体としては、いわゆる塗工紙が好適である。

塗工紙は、支持体となるセルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面に、無機顔料などを含有するコート層(塗工層ともいう。)を設けたものである。塗工紙は画像部の画像ムラが発生しやすい傾向があるが、上記前処理液にリン酸又はリン酸化合物を含む場合には、画像部の画像ムラの発生を効果的に抑制することができる。具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙が好ましい。
【0142】

上記コート層に含有される無機顔料としては特に制限はないが、シリカ、カオリン、クレー、焼成クレー、酸化亜鉛、酸化錫、硫酸マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、スメクタイト、ゼオライト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、及び珪藻土から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、炭酸カルシウム、シリカ、及びカリオンがより好ましい。
【0143】

記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しおらい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」、王子製紙(株)製の「UFコート」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【0144】

上記の中でも、色材移動の抑制効果が大きく、従来以上に色濃度及び色相の良好な高品位な画像を得る観点からは、好ましくは、水の吸収係数Kaが0.05mL/m・ms1/2~0.5mL/m・ms1/2の記録媒体であり、より好ましくは0.1mL/m・ms1/2~0.4mL/m・ms1/2の記録媒体であり、更に好ましくは0.2mL/m・ms1/2~0.3mL/m・ms1/2の記録媒体である。
【0145】

水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、吸収係数Kaは、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機(株)製)を用いて接触時間100msと接触時間900msの水の転移量の差から算出されるものである。
【0146】

本開示において、前処理液の付与量、及び水性インクの付与量は、必要に応じて調節することが好ましい。例えば、記録媒体に応じて、前処理液と水性インクとが混合してできる凝集物の粘弾性等の物性を調節する等のために、前処理液の付与量を変えてもよい。
【実施例
【0147】

以下に実施例を挙げて本開示を更に具体的に説明する。本開示の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。尚、特に断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。

本実施例において、重量平均分子量、pH及びpKaは既述の方法により測定した。
【0148】

≪実施例1~実施例17及び比較例1~比較例4≫

<ポリマー分散剤P-1の合成>

下記スキームにしたがって、以下に示す方法でポリマー分散剤P-1を合成した。
【0149】

【化1】


【0150】

攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。

得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥し、ポリマー分散剤P-1を96g得た。なお、上記に示したポリマー分散剤P-1の各構成単位の数字は質量比を表す。

得られた樹脂の組成は、H-NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は44,600であった。さらに、JIS規格(JISK0070:1992)に記載の方法により酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。
【0151】

<顔料分散液の調製>

(シアン分散液の調製)

シアン顔料であるピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブル-A220、大日精化株式会社製)5部と、上記ポリマー分散剤P-1を2部と、メチルエチルケトン42部と、1規定 NaOH水溶液5.5部と、イオン交換水87.2部と、を混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて2~6時間分散した。

得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去した後、更に、高速遠心冷却機7550(久保田製作所製)を用いて、50mL遠心管を使用し、8000rpm(revolutions per minute)で30分間遠心処理を行ない、沈殿物以外の上澄み液を回収した。その後、吸光度スペクトルから顔料濃度を求め、顔料濃度が10.2質量%の樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物(シアン分散液C)を得た。得られたシアン分散液Cの平均粒径は105nmであった。
【0152】

(マゼンタ分散液の調製)

シアン分散液の調製において、ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブル-A220、大日精化株式会社製)の代わりに、マゼンタ顔料であるピグメント・レッド122を用いた以外はシアン分散液の調製と同様にして、樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物(マゼンタ分散液M)を調製した。得られたマゼンタ分散液Mの平均粒径は85nmであった。
【0153】

<自己分散性樹脂粒子の調製>

攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。反応容器内温度を75℃に保ちながら、フェノキシエチルアクリレート180.0g、メチルメタクリレート162.0g、アクリル酸18.0g、メチルエチルケトン72g、及び「V-601」(富士フイルム和光純薬(株)製)1.44gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、「V-601」0.72g、メチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V-601」0.72g、イソプロパノール36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続けた。得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は64000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出、使用カラムはTSKgel SuperHZM-H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー社製))、酸価は38.9(mgKOH/g)であった。

次に、重合溶液668.3gを秤量し、イソプロパノール388.3g、1mol/L NaOH水溶液145.7mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に蒸留水720.1gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化せしめた。その後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保った後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を合計で913.7g留去し、固形分濃度28.0%の自己分散性樹脂粒子(B-01)の水分散物(エマルジョン)を得た。なお、下記に示した化合物例(B-01)の各構成単位の数字は質量比を表す。以下、各構造式に関しても同様である。
【0154】

【化2】


【0155】

<インクの作製>

上記で得られた各顔料分散液(シアン分散液C,マゼンタ分散液M)及び自己分散性樹脂粒子B-01を用い、下記表1に示すインクの組成となるように各成分を混合し、各インク組成物(マゼンタインク組成物M、シアンインク組成物C)をそれぞれ調製した。

調製した各インク組成物をプラスチック製ディスポーサブルシリンジにて、PVDF5μmフィルター(ミリポア社製Millex SV、直径25mm)で濾過してインク(マゼンタインクM、シアンインクC)とした。
【0156】

【表1】


【0157】

<表1の説明>

・オルフィンE1010 … 日信化学工業(株)製のノニオン系界面活性剤
【0158】

<前処理液の作製>

下記組成を混合して、前処理液1~21を作製した。

-前処理液の組成-

・マロン酸… 表2に記載の量

・クエン酸… 表2に記載の量

・リン酸(オルトリン酸)… 表2に記載の量

・表2に記載の水溶性ポリマー… 表2に記載の量

・ジエチレングリコールモノブチルエーテル… 1質量%

・水酸化カリウム… 表2に記載の量

・BYK-038(消泡剤)… 0.01質量%

・イオン交換水… 残量
【0159】

<インクセット>

上記各インク(マゼンタインクM、シアンインクC)と、各前処理液(前処理液1~前処理液21)と、を組み合わせたインクセット1~インクセット21を準備した。
【0160】

<インクジェット画像記録>

炭酸カルシウムを含有するコート層を有する記録媒体としてUFコート(王子製紙株式会社製)を準備して、上記のインクセット1~インクセット21を用い、下記画像記録条件で画像を記録した。

尚、下記画像記録では、前処理液付与工程の後、10秒以内にインク打滴を開始した。
【0161】

(前処理液付与工程)

記録媒体へのインク付与の直前に、前処理液を塗布バーを用いて、塗工量1.7g/mになるように記録媒体表面に塗設した。
【0162】

次いで、記録媒体上に付与された前処理液を、下記条件で乾燥させた。

~前処理液用乾燥条件(送風乾燥)~

風速: 15m/s

温度及び加熱方法: 記録媒体の表面温度(前処理液が付与された側の温度)が60℃となるように記録媒体の背面(前処理液が付与されていない側の面)から接触型平面ヒーターで加熱した。

送風領域: 450mm(乾燥時間0.7秒)
【0163】

(インク付与工程)

前処理液が付与された記録媒体上に、下記の条件で2色シングルパス画像記録を行った。

具体的には、前処理液が付与された記録媒体の上記前処理液上に、下記条件で各色のインクを付与(打滴)して画像を記録した。

ヘッド :1,200dpi/20inch幅ピエゾフルラインヘッドを4色分配置したヘッドを用いた。

吐出液滴量:2.4pLとした。

駆動周波数:30kHz(記録媒体搬送速度635mm/sec)とした。
【0164】

次に、記録媒体上に付与されたインクを下記条件で乾燥させた。

~インク用乾燥条件(送風乾燥)~

風速 :15m/s

温度 :記録媒体の表面温度(インクが付与された側の温度)が60℃となるように記録媒体の背面(インクが付与されていない側の面)から接触型平面ヒーターで加熱した。

送風領域:640mm(乾燥時間1秒間)
【0165】

(加熱定着工程)

上記インクの付与により記録された画像を、シリコンゴムローラ(硬度50°、ニップ幅5mm)を用い、下記条件で加熱定着した。

これにより、記録媒体上に画像が記録された試料を得た。

~加熱定着の条件~

ローラ温度:90℃

圧力:0.8MPa
【0166】

<評価>

(画像ムラ)

上記インク付与工程において、シアンインクC及びマゼンタインクMを用いてブルーのベタ画像(網点率30%)を記録した。

得られたベタ画像に対し、上述の加熱定着処理を施した。

加熱定着後のベタ画像を目視で観察し、画像の均一性を下記基準に従って評価し、画像ムラの指標とした。評価結果を下記表2に示す。

-評価基準-

6:全体に色むらが見られず均一であった。

5:良く見ると稀に色むらが観察されるが全体としてはほぼ均一であった。

4:色むらが観察されるが濃淡差は極僅かであった。

3:少数の色むらが観察され、部分濃淡差が見られた。

2:色むらが散発し部分濃淡差が見られるが、実用上の許容範囲内であった。

1:大きな縞状の濃淡が発生し、実用上の許容範囲を超えていた。
【0167】

(白斑の評価)

上記インク付与工程において、シアンインクC及びマゼンタインクMを用いてブルーのベタ画像(網点率100%)を記録した。

得られたベタ画像に対し、上述の加熱定着処理を施した。

加熱定着後に、水で濡らした指を布で軽く拭き取り、画像の表面に指を接触させて1秒静止させた後に離した。画像中の指を接触させた領域を目視で観察し、下記基準に従って白斑の程度を評価した。評価結果を下記表2に示す。

なお、白斑とはカルシウムの析出によって発生する記録画像上の白い部分を指す。

-評価基準-

A:白斑は発生しなかった。

B:白斑は発生したが、拭くと取れた。

C:白斑が発生し、拭いても取れなかった。
【0168】

(部材腐食性)

前処理液中に15mm×10mm×5mmサイズのステンレス板(SUS303)を用意し、このステンレス板を3日間、60℃で加熱しながら浸漬し、腐食の程度を目視で評価した。評価は以下の評価基準に従って行った。

-評価基準-

3:腐食は全くみられなかった。

2:腐食は僅かにみられるが、実用上の許容範囲内であった。

1:腐食が顕著であり、実用上の許容範囲を超えていた。
【0169】

(液安定性)

前処理液の調製後に、前処理液を25℃で1時間静置して、析出物及び/又は相分離の発生を目視で観察し、以下の評価基準に従って前処理液の液安定性を評価した。

-評価基準-

A:前処理液の調製後、析出物及び/又は相分離が発生しなかった。

B:前処理液の調製後、析出物及び/又は相分離が発生した。
【0170】

(画像の滲み(ブリーディング)の評価)

上記インク付与工程において、シアンインクCを用いて文字画像を記録した。

得られた文字画像に対し、上述の加熱定着処理を施して、図1に示す文字画像(unicode:U+9DF9;2pt、3pt、4pt、及び5pt)を記録した。

記録された文字画像を観察し、下記評価基準により、画像の滲みの評価を行った。

結果を表2に示す。

下記評価基準において、画像の滲みが最も抑制されているランクは「5」である。
【0171】

-画像の滲みの評価基準-

5:2pt文字が再現可能であった。

4:3pt文字が再現可能であったが、2ptの文字は再現できなかった。

3:4pt文字が再現可能であったが、3pt以下の文字は再現できなかった。

2:5pt文字が再現可能であったが、4pt以下の文字は再現できなかった。

1:5pt文字が再現できなかった。

なお、上記「再現可能」とは、0.5m離れた場所から確認した場合に、図2に記載の文字画像において、図2に記載の111で表された横線と、図2に記載の112で表された横線とが、分離されていることを意味する。
【0172】

【表2】


【0173】

表2に記載の各成分の詳細は以下の通りである。

・PEG1:ポリエチレングリコール(ポリエチレングリコール2000、富士フイルム和光純薬株式会社製、重量平均分子量2000)

・PEG2:ポリエチレングリコール(ポリエチレングリコール 4000、富士フイルム和光純薬株式会社製、重量平均分子量4000)

・PEG3:ポリエチレングリコール(ポリエチレングリコール 6000、富士フイルム和光純薬株式会社製、重量平均分子量6000)

・PVP1:ポリビニルピロリドン(ポリビニルピロリドン K-15、 富士フイルム和光純薬株式会社製、重量平均分子量10000)

・PVP2:ポリビニルピロリドン(ポリビニルピロリドン K-30、富士フイルム和光純薬株式会社製、重量平均分子量24500)

・PVP3:ポリビニルピロリドン(ポリビニルピロリドン K-90、富士フイルム和光純薬株式会社製、重量平均分子量40000)

・ポリアクリル酸:ポリアクリル酸(25,000、富士フイルム和光純薬株式会社製、重量平均分子量25000)
【0174】

表2に示すように、実施例1~実施例17は画像ムラ及び部材腐食性に優れていた。

中でも、非イオン性の水溶性ポリマーであるポリエチレングリコールを用いた実施例1は、イオン性の水溶性ポリマーであるポリアクリル酸を用いた実施例2と比較して画像ムラに優れていた。

酸及び上記酸の塩における酸基の合計の含有量が、前処理液100gに対して0.25mol以上である実施例1~実施例14は、実施例15及び実施例16と比較して画像の滲みがより抑制されていた。
【符号の説明】
【0175】

111 11画目

112 12画目
図1
図2