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特許7035220セラミックス焼結体及び半導体装置用基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】セラミックス焼結体及び半導体装置用基板
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/119 20060101AFI20220307BHJP
   H01L 23/15 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
C04B35/119
H01L23/14 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020558758
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2018044950
(87)【国際公開番号】W WO2020115870
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391039896
【氏名又は名称】NGKエレクトロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】梅田 勇治
(72)【発明者】
【氏名】河野 浩
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/103465(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217490(WO,A1)
【文献】特開平1-212273(JP,A)
【文献】特開昭57-140371(JP,A)
【文献】特開昭57-100976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/119
H01L 23/15
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zrと、Alと、Yと、Mgとを含み、
Zrの含有量は、ZrO換算で、7.5質量%以上23.5質量%以下であり、
Alの含有量は、Al換算で、74.9質量%以上91.8質量%以下であり、
Yの含有量は、Y換算で、0.41質量%以上1.58質量%以下であり、
Mgの含有量は、MgO換算で、0.10質量%以上0.80質量%以下であって、
結晶相として、ZrO結晶相を含み、
前記ZrO結晶相は、結晶構造として、単斜晶相と正方晶相とを有し、
180℃環境下で100時間の熱エージング処理を施した場合、X線回折パターンにおいて、単斜晶相及び正方晶相それぞれのピーク強度の和に対する単斜晶相のピーク強度の比は、15%以下である、
セラミックス焼結体。
【請求項2】
180℃環境下で100時間の熱エージング処理を施した場合、X線回折パターンにおいて、単斜晶相及び正方晶相それぞれのピーク強度の和に対する単斜晶相のピーク強度の比は、4%以上である、
請求項1に記載のセラミックス焼結体。
【請求項3】
結晶相として、Al結晶相とMgAl結晶相とを含み、
前記熱エージング処理を施す前、X線回折パターンにおいて、Al結晶相のピーク強度に対するMgAl結晶相のピーク強度の比は、4%以下である、
請求項1又は2に記載のセラミックス焼結体。
【請求項4】
180℃環境下で100時間の熱エージング処理を施した場合、曲げ強度が、500MPa以上である、
請求項1乃至3のいずれかに記載のセラミックス焼結体。
【請求項5】
前記熱エージング処理を施す前、X線回折パターンにおいて、単斜晶相及び正方晶相それぞれのピーク強度の和に対する単斜晶相のピーク強度の比は、7%以下である、
請求項1乃至4のいずれかに記載のセラミックス焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス焼結体及び半導体装置用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
パワートランジスタモジュールなどに用いる半導体装置用基板として、セラミックス焼結体の表面に銅板を備えたDBOC基板(Direct Bonding of Copper Substrate)や、セラミックス焼結体の表面にアルミニウム板を備えたDBOA基板(Direct Bonding of Aluminum Substrate)が知られている。
【0003】
特許文献1には、アルミナと部分安定化ジルコニアとマグネシアとを含むセラミックス焼結体が開示されている。特許文献1に記載のセラミックス焼結体において、部分安定化ジルコニアの含有量は1~30wt%であり、マグネシアの含有量は0.05~0.50wt%であり、部分安定化ジルコニアにおけるイットリアのモル分率は0.015~0.035であり、セラミックス焼結体に含まれるジルコニア結晶のうち80~100%が正方晶相である。特許文献1に記載のセラミックス焼結体によれば、機械的強度を向上させてセラミックス焼結体と銅板又はアルミニウム板との接合界面にクラック及びボイド(部分的な剥離又は浮き上がり)が生じることを抑制できるとされている。
【0004】
特許文献2には、アルミナとジルコニアとイットリアとを含むセラミックス焼結体が開示されている。特許文献2に記載のセラミックス焼結体において、ジルコニアの含有量は2~15重量%であり、アルミナの平均粒径は2~8μmである。特許文献2に記載のセラミックス焼結体によれば、熱伝導率を向上させることができるとされている。
【0005】
特許文献3には、アルミナ、安定化成分、ハフニア及びジルコニアを含むセラミック基板が開示されている。特許文献3に記載のセラミックス基板において、ハフニア及びジルコニアのアルミナに対する重量比は7~11重量比であり、アルミナの平均粒径は1.0~1.5μmであり、ジルコニアの平均粒径は0.3~0.5μmである。特許文献3に記載のセラミックス焼結体によれば、熱伝導率を向上させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許4717960号公報
【文献】特表2015-534280号公報
【文献】国際公開第2016-208766号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に記載のセラミックス焼結体では、高温環境下に曝されると機械的強度が低下しやすいという問題に加えて、半導体装置用基板に組み込んだ状態で熱サイクルを繰り返すとクラックが発生しやすいという問題もある。
【0008】
本発明は、機械的強度の低下とクラックの発生とを抑制可能なセラミックス焼結体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るセラミックス焼結体は、Zrと、Alと、Yと、Mgとを含み、Zrの含有量は、ZrO換算で7.5質量%以上23.5質量%以下であり、Alの含有量は、Al換算で74.9質量%以上91.8質量%以下であり、Yの含有量は、Y換算で0.41質量%以上1.58質量%以下であり、Mgの含有量は、MgO換算で0.10質量%以上0.80質量%以下である。セラミックス焼結体は、結晶相として、ZrO結晶相を含む。ZrO結晶相は、結晶構造として、単斜晶相と正方晶相とを有する。180℃環境下で100時間の熱エージング処理を施した場合、X線回折パターンにおいて、単斜晶相及び正方晶相それぞれのピーク強度の和に対する単斜晶相のピーク強度の比は、15%以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械的強度の低下とクラックの発生とを抑制可能なセラミックス焼結体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
図2】実施形態に係る半導体装置用基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3】実施例に係る半導体装置用基板サンプルの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るセラミックス焼結体及びそれを用いた半導体装置用基板の構成について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
(半導体装置1の構成)
図1は、実施形態に係る半導体装置1の断面図である。半導体装置1は、自動車、空調機、産業用ロボット、業務用エレベータ、家庭用電子レンジ、IH電気炊飯器、発電(風力発電、太陽光発電、燃料電池など)、電鉄、UPS(無停電電源)などの様々な電子機器においてパワーモジュールとして用いられる。
【0014】
半導体装置1は、半導体装置用基板2、第1接合材5、第2接合材5’、半導体チップ6、ボンディングワイヤ7及びヒートシンク8を備える。
【0015】
半導体装置用基板2は、いわゆるDBOC基板(Direct Bonding of Copper Substrate)である。半導体装置用基板2は、セラミックス焼結体3、第1銅板4及び第2銅板4’を備える。
【0016】
セラミックス焼結体3は、半導体装置用基板2用の絶縁体である。セラミックス焼結体3は、平板状に形成される。セラミックス焼結体3は、半導体装置用基板2の基板である。セラミックス焼結体3の構成については後述する。
【0017】
第1銅板4は、セラミックス焼結体3の表面に接合される。第1銅板4には、電送回路が形成されている。第2銅板4’は、セラミックス焼結体3の裏面に接合される。第2銅板4’は、平板状に形成される。
【0018】
なお、半導体装置用基板2は、第1及び第2銅板4,4’に代えて、第1及び第2アルミニウム板を用いた、いわゆるDBOA基板(Direct Bonding of Aluminum Substrate)であってもよい。銅板よりも柔らかいアルミニウム板が用いられるDBOA基板では、内部に発生する熱応力を更に緩和させることができる。
【0019】
また、半導体装置用基板2では、電送回路が形成された第1銅板4がセラミックス焼結体3の表面に接合されているが、電送回路は、サブトラクティブ法又はアディティブ法によって形成されてもよい。
【0020】
半導体装置用基板2の作製方法は特に制限されないが、例えば次のように作製することができる。まず、セラミックス焼結体3の表裏面に第1及び第2銅板4,4’を配置した積層体を形成する。次に、積層体を1070℃~1075℃の窒素雰囲気条件下で10分程度加熱する。これによって、セラミックス焼結体3と第1及び第2銅板4,4’とが接合する界面(以下、「接合界面」と総称する。)にCu-O共晶液相が生成され、セラミックス焼結体3の表裏面が濡れる。次に、積層体を冷却することによってCu-O共晶液相が固化されて、セラミックス焼結体3に第1及び第2銅板4,4’が接合される。
【0021】
第1接合材5は、第1銅板4と半導体チップ6との間に配置される。半導体チップ6は、第1接合材5を介して第1銅板4に接合される。ボンディングワイヤ7は、半導体チップ6と第1銅板4とを接続する。
【0022】
第2接合材5’は、第2銅板4’とヒートシンク8との間に配置される。ヒートシンク8は、第2接合材5’を介して第2銅板4’に接合される。ヒートシンク8は、例えば銅などによって構成することができる。
【0023】
(セラミックス焼結体3の構成元素)
セラミックス焼結体3は、Zr(ジルコニウム)と、Al(アルミニウム)と、Y(イットリウム)と、Mg(マグネシウム)とを含む。
【0024】
セラミックス焼結体3における各構成元素の含有量は、以下の通りである。
【0025】
・Zr:ZrO換算で、7.5質量%以上23.5質量%以下
・Al:Al換算で、74.9質量%以上91.8質量%以下
・ Y:Y換算で、0.41質量%以上1.58質量%以下
・Mg:MgO換算で、0.10質量%以上0.80質量%以下
【0026】
Zrの含有量をZrO換算で7.5質量%以上とすることによって、セラミックス焼結体3の線熱膨張係数が過小になることを抑制でき、セラミックス焼結体3と第1及び第2回路板4,4’との線熱膨張係数差を小さくできると考えられる。その結果、接合界面に生じる熱応力を小さくでき、熱サイクルによってクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0027】
Zrの含有量をZrO換算で23.5質量%以下とすることによって、回路板接合時の接合界面における反応が過剰になることを抑制できると考えられる。その結果、接合界面にボイドが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0028】
Yの含有量をY換算で0.41質量%以上とすることによって、後述する熱エージング後M相率が過大になることを抑制できると考えられる。その結果、熱エージング処理によってセラミックス焼結体3の機械的強度が低下することの抑制に寄与するものと考えられる。
【0029】
Yの含有量をY換算で1.58質量%以下とすることによって、後述する熱エージング後M相率が過小になることを抑制できると考えられる。その結果、熱エージング処理によってセラミックス焼結体3の機械的強度が低下することの抑制に寄与するものと考えられる。
【0030】
Mgの含有量をMgO換算で0.10質量%以上とすることによって、焼成温度を過剰に高くしなくてもセラミックス焼結体3を焼結させられ、Al粒子及びZrO粒子の粗大化を抑制できると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、熱サイクルによってクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。また、セラミックス焼結体3中に十分な量のMgAl(スピネル)結晶を生成でき、回路板接合時におけるCu-O共晶液相との濡れ性を向上させることができると考えられる。その結果、接合界面にボイドが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0031】
Mgの含有量をMgO換算で0.80質量%以下とすることによって、アルミナ結晶及びジルコニア結晶の過剰な成長を抑制でき、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上できると考えられる。その結果、熱サイクルによってクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。また、セラミックス焼結体3中にMgAl結晶が過剰に生成されることを抑制でき、回路板接合時の接合界面における反応が過剰になることを抑制できると考えられる。その結果、接合界面にボイドが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0032】
本実施形態において、セラミックス焼結体3の構成元素の含有量は、上記のとおり酸化物換算にて算出されるが、セラミックス焼結体3の構成元素は、酸化物の形態で存在していてもよいし、酸化物の形態で存在していなくてもよい。例えば、Y、Mg及びCaのうち少なくとも1種は、酸化物の形態で存在せず、ZrO中に固溶していてもよい。
【0033】
なお、セラミックス焼結体3の構成元素の酸化物換算での含有量は、以下のように算出される。まず、蛍光X線分析装置(XRF)、又は、走査型電子顕微鏡(SEM)に付設のエネルギー分散型分析器(EDS)を用いて、セラミックス焼結体3の構成元素を定性分析する。次に、この定性分析により検出された各元素につき、ICP発光分光分析装置を用いて定量分析を行う。次に、この定量分析により測定された各元素の含有量を酸化物に換算する。
【0034】
セラミックス焼結体3は、上記の構成元素のほか、Hf(ハフニウム)、Si(ケイ素)、Ca(カルシウム)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Fe(鉄)、Ti(チタン)及びMn(マンガン)のうち少なくとも1種の酸化物を含んでいてもよい。これらの酸化物は、意図的に添加されるものであってもよいし、不可避的に混入するものであってもよい。
【0035】
(セラミックス焼結体3のM相率)
セラミックス焼結体3は、結晶相としてZrO結晶相を含む。ZrO結晶相は、結晶構造として、単斜晶相(monoclinic相)と正方晶相(tetragonal相)とを有する。
【0036】
焼結後に180℃環境下で100時間の熱エージング処理が施されたセラミックス焼結体3のX線回折パターンにおいて、単斜晶相及び正方晶相それぞれのピーク強度の和に対する単斜晶相のピーク強度の比(以下、「熱エージング後M相率」という。)は、15%以下である。これにより、セラミック焼結体3において、ジルコニア結晶の正方晶相が単斜晶相に相転移して起こる体積膨張に伴う応力歪みによって欠陥が堆積することを抑制できると考えられる。
【0037】
熱エージング後M相率は、4%以上であることが好ましい。これにより、セラミック焼結体3に機械的応力が印加された場合に発生するクラックの先端においてジルコニア結晶の正方晶相が単斜晶相に相転移し、クラックが伝播することを抑制できると考えられる。その結果、熱エージング後におけるセラミックス焼結体3の機械的強度の低下の抑制に寄与するものと考えられる。
【0038】
また、熱エージング処理が施されていないセラミックス焼結体3のX線回折パターンにおいて、単斜晶相及び正方晶相それぞれのピーク強度の和に対する単斜晶相のピーク強度の比(以下、「熱エージング前M相率」という。)は、7%以下であることが好ましい。これにより、熱エージング時にジルコニア結晶の正方晶相が単斜晶相に相転移することを抑制でき、熱エージング後におけるセラミックス焼結体3の機械的強度の低下をより抑制することができると考えられる。
【0039】
なお、熱エージング前後におけるM相率は、セラミックス焼結体3の外表面をX線回折装置(XRD:リガク社製、MiniFlexII)で解析して得られるX線回折パターンを用いて、以下の式(1)から求めることができる。式(1)において、M1は単斜晶(111)面のピーク強度であり、M2は単斜晶(11-1)面のピーク強度であり、T1は正方晶(111)面のピーク強度であり、T2は立方晶(111)面のピーク強度である。
【0040】
単斜晶相の比=100×(M1+M2)/(T1+T2+M1+M2) ・・・(1)
【0041】
熱エージング後M相率は、上述のようにセラミックス焼結体3の構成元素の含有量を至適化したうえで、焼結後のセラミックス焼結体3に含まれるZrO結晶粒子の粒子特性を制御することによって簡便に調整できる。具体的には、セラミックス焼結体3に含まれるZrO結晶粒子の平均粒径を0.6μm以上1.5μm以下とし、かつ、セラミックス焼結体3に含まれるZrO結晶粒子のうち粒径が1.8μm以上の粗大ZrO結晶粒子の面積割合を15%以下とする。なお、セラミック焼結体3におけるZrO結晶粒子の平均粒径と粗大ZrO結晶粒子の含有割合との制御手法については後述する。
【0042】
ZrO結晶粒子の平均粒径は、以下のように算出される。まず、走査型電子顕微鏡を用いて、セラミックス焼結体3の外表面を6000倍の倍率で撮像する。次に、画像処理ソフトを用いて、撮像画像から無作為に選出した300個のZrO結晶粒子の平均円相当径を平均粒径として算出する。平均円相当径とは円相当径の平均値であり、円相当径とは粒子と同じ面積を有する円の直径である。
【0043】
粗大ZrO結晶粒子の面積割合は、平均粒径の測定のために選出した300個のZrO結晶粒子のうち円相当径が1.8μm以上の粗大ZrO結晶粒子の合計面積を、300個のZrO結晶粒子の合計面積で除した値である。
【0044】
(セラミックス焼結体3のスピネル相率)
セラミックス焼結体3は、結晶相として、MgAl結晶相を含んでいてもよい。この場合、熱エージング処理が施されていないセラミックス焼結体3のX線回折パターンにおいて、Al結晶相のピーク強度に対するMgAl結晶相のピーク強度の比(以下、「スピネル相率」という。)は、4%以下であることが好ましい。これにより、銅板接合時の接合界面における反応が過剰になることを抑制でき、接合界面にボイドが生じることを抑制できる。なお、スピネル相率は0%であってもよい。
【0045】
スピネル相率は、0.5%以上3.5%以下であることがより好ましい。これにより、銅板接合時におけるセラミックス焼結体3とCu-O共晶液相との濡れ性を向上させることができるとともに、銅板接合時の接合界面における反応が過剰になることをより抑制でき、接合界面にボイドが生じることを更に抑制できる。
【0046】
スピネル相率は、セラミックス焼結体3の表面をXRDで解析して得られるX線回折パターンを用いて、以下の式(2)から求めることができる。式(2)において、A1はスピネル相の(311)面のピーク強度であり、B1はAl結晶相の(104)面のピーク強度である。
【0047】
MgAlの比(%)=100×A1/(A1+B1) ・・・(2)
【0048】
(セラミックス焼結体3の製造方法)
図2を参照しながらセラミックス焼結体3の製造方法について説明する。図2は、セラミックス焼結体3の製造方法を示すフローチャートである。
【0049】
ステップS1において、以下の粉体材料を調合する。
【0050】
・ZrO換算で、7.5質量%以上23.5質量%以下のZrO
・Al換算で、74.9質量%以上91.8質量%以下のAl
・Y換算で、0.41質量%以上1.58質量%以下のY
・MgO換算で、0.10質量%以上0.80質量%以下のMgO
【0051】
この際、比表面積が5m/g以上10m/gのZrO粉体を用いることが好ましい。これにより、熱サイクルによってクラックが生じることを抑制しやすくなる。
【0052】
なお、ZrO及びYのそれぞれは単独の粉体材料でもいいが、予めYで部分安定化されたZrO粉体を用いてもよい。また、所望により、HfO、SiO、CaO、NaO及びKOなどの粉体材料を調合してもよい。
【0053】
ステップS2において、調合した粉体材料を、例えばボールミルなどにより粉砕混合する。
【0054】
ステップS3において、粉砕混合した粉体材料に、有機質バインダー(例えば、ポリビニルブチラール)、溶剤(キシレン、トルエンなど)及び可塑剤(フタル酸ジオクチル)を添加してスラリー状物質を形成する。
【0055】
ステップS4において、所望の成形手段(例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、射出成形、ドクターブレード法、押し出し成型法など)によって、スラリー状物質を所望の形状に成形してセラミックス成形体を作製する。
【0056】
ステップS5において、セラミックス成形体を、酸素雰囲気又は大気雰囲気で焼成(1580℃~1620℃、0.7時間~1.0時間)することによって、セラミックス焼結体3が形成される。このセラミックス焼結体3は、上述のとおり、焼結後におけるZrO結晶粒子の平均粒径が0.6μm以上1.5μm以下、かつ、粗大ZrO結晶粒子の面積割合が15%以下であるため、熱エージング処理によって機械的強度が低下することを抑制できる。また、上述のとおり、セラミックス焼結体3における各構成元素の含有量が至適化され、かつ、比表面積が5m/g以上10m/gのZrO粉体を用いて作製されているため、熱サイクルによってクラックが生じることを抑制できる。
【0057】
なお、セラミック焼結体3におけるZrO結晶粒子の平均粒径と粗大ZrO結晶粒子の含有割合は、粉体材料の調合組成(ステップS1)、粉砕混合時間(ステップS2)、及び焼成温度(ステップS5)を制御することによってある程度調整できる。粉砕混合時間を長くすると、ZrO結晶粒子の平均粒径は小さくなる傾向があり、粗大ZrO結晶粒子の含有割合も少なくなる傾向がある。焼成温度を高くすると、ZrO結晶粒子の平均粒径は大きくなる傾向があり、粗大ZrO結晶粒子の含有割合も多くなる傾向がある。
【0058】
(特徴)
セラミックス焼結体3において、Zrの含有量は、ZrO換算で、7.5質量%以上23.5質量%以下であり、Alの含有量は、Al換算で、74.9質量%以上91.8質量%以下であり、Yの含有量は、Y換算で、0.41質量%以上1.58質量%以下であり、Mgの含有量は、MgO換算で、0.10質量%以上0.80質量%以下である。また、熱エージング後M相率は、15%以下である。
【0059】
このように、セラミックス焼結体3の構成元素の含有量を至適化し、かつ、熱エージング後M相率を15%以下とすることによって、熱エージング処理後において機械的強度(3点曲げ強度試験で測定される抗折強度を)を維持できるとともに、熱サイクルによるクラックの発生を抑制することができる。
【実施例
【0060】
以下のように、実施例1~9及び比較例1~8に係るセラミックス焼結体3を作製して、熱エージング前後のM相率と熱エージング前後の抗折強度(機械的強度)とを測定した。また、実施例1~9及び比較例1~8に係るセラミックス焼結体3を用いて、図3に示される半導体装置用基板サンプル10を作製して、セラミックス焼結体3にクラックが生じる熱サイクル回数を測定した。
【0061】
(セラミックス焼結体3の作製)
まず、表1に示す組成の材料を、ボールミルで粉砕混合した。実施例1~9及び比較例1~6では、比表面積が5m/g以上10m/g以下のZrO粉体を用い、比較例7,8では、比表面積が13m/g以上19m/g以下のZrO粉体を用いた。
【0062】
次に、粉砕混合した粉体材料に、有機質バインダーとしてのポリビニルブチラールと、溶剤としてのキシレンと、可塑剤としてのフタル酸ジオクチルとを添加してスラリー状物質を形成した。
【0063】
次に、ドクターブレード法によって、スラリー状物質をシート状に成形してセラミックス成形体を作製した。
【0064】
次に、セラミックス成形体を、酸素雰囲気又は大気雰囲気において表1に示す焼成温度で0.8時間焼成してセラミックス焼結体3を作製した。セラミックス焼結体3のサイズは、厚み0.32mm、縦39mm、横45mmであった。
【0065】
(M相率)
焼結後の各セラミックス焼結体3の外表面をXRD(リガク社製、MiniFlexII)で解析して得たX線回折パターンを用いて、上記式(1)から、熱エージング前M相率を算出した。算出した熱エージング前M相率を表1にまとめて示す。
【0066】
続いて、焼結後の各セラミックス焼結体3に180℃環境下で100時間の熱エージング処理を施した。
【0067】
次に、熱エージング後の各セラミックス焼結体3の外表面をXRD(リガク社製、MiniFlexII)で解析して得たX線回折パターンを用いて、上記式(1)から、熱エージング後M相率を算出した。算出した熱エージング後M相率を表1にまとめて示す。
【0068】
(スピネル相率)
焼結後の各セラミックス焼結体3の外表面をXRD(リガク社製、MiniFlexII)で解析して得たX線回折パターンを用いて、上記式(2)から、Al結晶相のピーク強度に対するMgAl結晶相のピーク強度の比(熱エージング前のスピネル相率)を算出した。熱エージング前のスピネル相率を表1にまとめて示す。
【0069】
(抗折強度)
焼結後の各セラミックス焼結体3について10ピースずつの抗折強度(機械的強度)を、試料サイズ(15×45×厚み0.32mm)、スパン30mmの3点曲げ強度試験で測定して、10ピースの測定値の算術平均値(熱エージング前の抗折強度)を算出した。熱エージング前の抗折強度を表1にまとめて示す。
【0070】
続いて、焼結後の各セラミックス焼結体3に180℃環境下で100時間の熱エージング処理を施した。
【0071】
次に、熱エージング後の各セラミックス焼結体3について10ピースずつの抗折強度(機械的強度)を、試料サイズ(15×45×厚み0.32mm)、スパン30mmの3点曲げ強度試験で測定して、10ピースの測定値の算術平均値(熱エージング後の抗折強度)を算出した。熱エージング後の抗折強度を表1にまとめて示す。
(半導体装置用基板サンプル10の作製)
【0072】
JIS C1020に準拠した無酸素銅からなる第1及び第2銅板4,4’(それぞれ、0.40mm厚み)を大気中で300℃に加熱することによって、第1及び第2銅板4,4’それぞれの外表面を酸化させた。
【0073】
次に、実施例1~9及び比較例1~8に係るセラミックス焼結体3を第1及び第2銅板4,4’で挟んだ積層体を、Mo(モリブデン)からなるメッシュ材11上に載置し、窒素(N)雰囲気中において1070℃で10分加熱した。
【0074】
次に、積層体を冷却することによって、セラミックス焼結体3に第1及び第2銅板4,4’を接合するとともに、第2銅板4’にメッシュ材11を接合した。
【0075】
(クラック発生率)
各半導体装置用基板サンプル10について、セラミックス焼結体3にクラックが発生するまで、N(窒素)とH(水素)の混合ガス(N:H=7:3)の雰囲気中で「室温→310℃×5分」の熱サイクルを繰り返した。
【0076】
表1では、各セラミックス焼結体3について10ピースのいずれかにクラックが発生した熱サイクル回数が、クラック発生熱サイクル回数として記載されている。表1では、クラック発生熱サイクル回数が20回以上のサンプルが「◎」と評価され、7回以上19回以下のサンプルが「○」と評価され、6回以下のサンプルが「×」と評価されている。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、比表面積が5m/g以上10m/g以下のZrO粉体を用いたセラミックス焼結体3において、構成元素の含有量が以下の通り至適化され、かつ、熱エージング後M相率が15%以下である実施例1~9では、熱エージング処理後の機械的強度維持と熱サイクルによるクラック抑制とを両立することができた。具体的には、実施例1~9において、熱エージング後の抗折強度は500MPa以上であり、クラック発生熱サイクル回数は7回以上にであった。
【0079】
・ZrO換算で、7.5質量%以上23.5質量%以下のZrO
・Al換算で、74.9質量%以上91.8質量%以下のAl
・Y換算で、0.41質量%以上1.58質量%以下のY
・MgO換算で、0.10質量%以上0.80質量%以下のMgO
【0080】
一方、比較例1~6では構成元素の含有量が至適化されていないため、また、比較例7,8では熱エージング後のM相率が15%超であったため、機械的強度維持とクラック抑制とを両立することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、セラミックス焼結体における機械的強度の低下とクラックの発生とを抑制できるため、本発明に係るセラミックス焼結体は、種々の電子機器に用いられる半導体装置用基板に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1…半導体装置
2…半導体装置用基板
3…セラミックス焼結体
4,4’…銅板
5,5’…接合材
6…半導体チップ
7…ボンディングワイヤ
8…ヒートシンク
10…半導体装置用基板サンプル
11…メッシュ材
図1
図2
図3