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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】樹脂製歯車
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/14 20060101AFI20220308BHJP
   F16H 55/06 20060101ALI20220308BHJP
   F16H 55/12 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
F16H55/14
F16H55/06
F16H55/12 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018012834
(22)【出願日】2018-01-29
(65)【公開番号】P2019132299
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100180851
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼口 誠
(72)【発明者】
【氏名】森尾 洋一
(72)【発明者】
【氏名】青柳 達也
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-089778(JP,A)
【文献】特開平08-210467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/14
F16H 55/06
F16H 55/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の金属製ブッシュと、
前記金属製ブッシュの周囲に設けられ、外周部に歯形が形成された環状の樹脂部材と、
前記金属製ブッシュと前記樹脂部材との間に設けられた環状の弾性部材と、を備え、
前記弾性部材は、径方向において前記金属製ブッシュとの界面側に設けられる第一層と、前記径方向において前記第一層の外側に設けられる第二層と、を有しており、
前記第二層は、フッ素ゴムから形成され、前記第一層は、ニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴムから形成され
前記第一層は、前記径方向において前記金属製ブッシュと前記第二層との間に配置されており、
前記金属製ブッシュの外周面と前記第一層の内周面とは互いに固着され、前記第一層の外周面と前記第二層の内周面とは互いに固着されている、樹脂製歯車。
【請求項2】
前記第一層の層厚は、前記第二層の層厚よりも小さい、請求項1記載の樹脂製歯車。
【請求項3】
前記第一層の層厚は、0.1mm~20mmである、請求項1又は2記載の樹脂製歯車。
【請求項4】
環状の金属製ブッシュと、
前記金属製ブッシュの周囲に設けられ、外周部に歯形が形成された環状の樹脂部材と、
前記金属製ブッシュと前記樹脂部材との間に設けられた環状の弾性部材と、
前記樹脂部材と前記弾性部材との間に設けられ、前記樹脂部材の内周面に結合される環状の金属部材と、を備え、
前記弾性部材は、径方向において前記金属製ブッシュとの界面側に設けられる第一層と、前記径方向において前記第一層の外側に設けられる第二層と、径方向において前記金属部材との界面に設けられ、前記径方向において前記第二層よりも外側に設けられる第三層と、を有しており、
前記第一層は、ニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴムから形成され、前記第二層は、フッ素ゴムから形成され、前記第三層は、ニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴムから形成されている、樹脂製歯車。
【請求項5】
前記第三層の層厚は、前記第二層の層厚よりも小さい、請求項4記載の樹脂製歯車。
【請求項6】
前記第三層の層厚は、0.1mm~20mmである、請求項4又は5記載の樹脂製歯車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製歯車は、軽量で且つ静粛性に優れており、例えば車両用又は産業用の歯車として広く用いられている。樹脂製歯車としては、環状の金属製ブッシュと、金属製ブッシュの周囲に設けられ外周部に歯形が形成された環状の樹脂部材と、金属製ブッシュと樹脂部材との間に設けられた弾性部材と、を備えた樹脂製歯車が知られている(例えば、特許文献1参照)。上述したような樹脂製歯車では、他の歯車との噛み合いで生じた衝撃を、弾性部材の弾性変形によって吸収することによって、樹脂製歯車に一時的に強い負荷がかかった場合であってもその損傷の発生を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-151000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような樹脂製歯車の弾性部材には、強度、耐油性、耐熱性等を考慮して、フッ素ゴムが用いられることが好ましい。しかしながら、一般的にフッ素ゴムは、金属製ブッシュと一体成形するときに、金属製ブッシュと強固に結合することが難しい。したがって、弾性部材によって所望の減衰機能が発揮されるよりも前に、金属製ブッシュと弾性部材との結合が解かれ、樹脂製歯車が損傷してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、弾性部材としてフッ素ゴムを用いる場合であっても、所望の減衰機能を得ることが可能な樹脂製歯車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の樹脂製歯車は、環状の金属製ブッシュと、金属製ブッシュの周囲に設けられ、外周部に歯形が形成された環状の樹脂部材と、金属製ブッシュと樹脂部材との間に設けられた環状の弾性部材と、を備え、弾性部材は、径方向において金属製ブッシュとの界面側に設けられる第一層と、径方向において第一層の外側に設けられる第二層と、を有しており、第二層は、フッ素ゴムから形成され、第一層は、ニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴムから形成されている。
【0007】
この構成の樹脂製歯車は、フッ素ゴムから形成される第二層に加え、金属製ブッシュとの界面に配置され、ニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴムから形成されている第一層を有する弾性部材が、金属製ブッシュと樹脂部材との間に設けられる。これにより、環状の金属製ブッシュは、フッ素ゴムと比べて非接触性及びすべり性が低くかつ金属との接着性に優れるニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴムから形成される第一層と接触した状態で弾性部材に結合されるので、フッ素ゴム単体からなる弾性部材と金属製ブッシュとが結合される場合に比べて、弾性部材と金属製ブッシュとの結合力を高めることができる。また、金属製ブッシュと樹脂部材との間に、ニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴム単体から形成される層を設ける場合と比べて、耐薬品性及び耐熱性等を向上させることができる。この結果、弾性部材としてフッ素ゴムを用いる場合であっても、所望の減衰機能を得ることが可能となる。
【0008】
この構成の樹脂製歯車では、第一層の層厚を、第二層の層厚よりも小さくしてもよい。これにより、強度、耐油性、耐熱性等の優位性を維持しつつ、弾性部材と金属製ブッシュとの結合力を高めることができる。
【0009】
本発明の樹脂製歯車では、第一層の層厚を、0.1mm~20mmとしてもよい。この弾性部材では、第二層の層厚に比べて第一層の層厚を小さくすることができるので、強度、耐油性、耐熱性等の優位性を維持しつつ、弾性部材と金属製ブッシュとの結合力を高めることができる。
【0010】
本発明の樹脂製歯車は、樹脂部材と弾性部材との間には、樹脂部材の内周面に結合される環状の金属部材を更に備え、弾性部材は、径方向において金属部材との界面に設けられ、径方向において第二層よりも外側に設けられる第三層と、を更に有しており、第三層は、フッ素ゴムよりもせん断強度が大きな樹脂材料から形成されていてもよい。
【0011】
この構成の樹脂製歯車は、樹脂部材の内周面には環状の金属部材が設けられているので、圧入、焼嵌め等の方法により金属製シャフトとの締結が可能となる。この場合、フッ素ゴムから形成される第二層に加え、環状の金属部材との界面に配置され、ニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴムから形成されている第三層を更に有する弾性部材が、金属製ブッシュと樹脂部材との間に設けられる。これにより、環状の金属材料は第三層と接触した状態で弾性部材に結合されるので、フッ素ゴム単体からなる弾性部材と金属材料とが結合される場合に比べて、弾性部材と金属材料との結合力を高めることができる。この結果、弾性部材としてフッ素ゴムを用いる場合であっても、所望の減衰機能を得ることが可能となる。
【0012】
本発明の樹脂製歯車では、第三層の層厚を、第二層の層厚よりも小さくしてもよい。これにより、強度、耐油性、耐熱性等の優位性を維持しつつ、弾性部材と金属製ブッシュとの結合力を高めることができる。
【0013】
本発明の樹脂製歯車では、前記第三層の層厚を、0.1mm~20mmとしてもよい。この弾性部材では、第二層の層厚に比べて第三層の層厚を小さくすることができるので、強度、耐油性、耐熱性等の優位性を維持しつつ、弾性部材と金属製ブッシュとの結合力を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、弾性部材としてフッ素ゴムを用いる場合であっても、所望の減衰機能を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一実施形態に係る樹脂製歯車の平面図である。
図2図2は、図1におけるII-II線に沿った断面構成を示す図である。
図3図3(a)~(d)は、一実施形態に係る樹脂製歯車の製造方法を説明する説明図である。
図4図4は、変形例に係る樹脂製歯車の平面図である。
図5図5は、図4におけるV-V線に沿った断面構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
一実施形態に係る樹脂製歯車1は、いわゆる高強度樹脂ギヤであって、車両用又は産業用の歯車として用いられる。図1及び図2に示されるように、樹脂製歯車1は、金属製ブッシュ3と、弾性部材5と、樹脂部材7と、接着層9と、接着層11と、を備えている。本実施形態に係る樹脂製歯車1は、平歯車である。なお、図1では、接着層9,11の図示を省略している。
【0018】
金属製ブッシュ3は、回転軸(図示省略)に取り付けられる部材である。金属製ブッシュ3は、円環状である。金属製ブッシュ3は、金属材料により形成されており、例えば、機械構造用炭素鋼S45C等の炭素鋼、焼結金属等で形成されている。金属製ブッシュ3には、貫通孔3hが設けられている。貫通孔3hは、金属製ブッシュ3の一方の側面3aと他方の側面3bとを貫通している。貫通孔3hには、回転軸が挿入される。金属製ブッシュ3は、内周面4aと、外周面4bと、を有している。内周面4aは、貫通孔3hを画成している。外周面4bは、弾性部材5と対向する面である。
【0019】
弾性部材5は、樹脂製歯車1が他の歯車と噛み合いにより発生する衝撃を減衰する部材である。具体的には、後段にて詳述する駆動中の樹脂部材7の歯形7bが相手歯車との噛み合うことによって樹脂部材7に過剰の衝突エネルギが加わると、樹脂部材7と金属製ブッシュ3との間に配置された弾性部材5が変形(圧縮変形又は引張変形)して上記エネルギを吸収する。弾性部材5は、円環状である。弾性部材5は、金属製ブッシュ3の周囲に設けられている。弾性部材5は、金属製ブッシュ3と樹脂部材7との間に設けられている。
【0020】
弾性部材5は、径方向Rにおいて金属製ブッシュ3との界面に設けられる第一層5aと、径方向Rにおいて第一層5aの外側に設けられる第二層5bと、を有している。第二層5bは、フッ素ゴムから形成されている。第一層5aは、NBR(ニトリルゴム)、ACM(アクリルゴム)又は天然ゴムから形成されている。なお、第一層5aに用いられる材料としてはニトリルゴムが好ましい。
【0021】
弾性部材5の径方向Rのサイズ(層厚)T1の例は、1mm~45mmである。第一層5aの層厚は、第二層5bの層厚よりも小さい。第一層5aの層厚T11の例は、0.1mm~20mmであり、第二層5bの層厚T12の例は、0.9mm~25mmである。第二層5bの層厚T12に対する第一層5aの層厚T11の比は、1:1.25~1:9である。
【0022】
樹脂部材7は、他の歯車と噛み合う部材である。樹脂部材7は、環状である。樹脂部材7は、樹脂で形成されている。樹脂部材7は、弾性部材5の周囲に設けられている。ここでの樹脂部材7は、弾性部材5の外周面に接するように設けられている。樹脂部材7の外周部には、歯形7bが形成されている。歯形7bは、樹脂部材7の周方向において、所定の間隔をあけて複数形成されている。なお、弾性部材5の周囲に設けられることには、弾性部材5の周りに直接接するように設けられることだけでなく、弾性部材5の周りに他の部材を介して設けられることを含む。
【0023】
金属製ブッシュ3と弾性部材5の第一層5aとの間には、加硫接着時に形成される接着層9が配置されている。弾性部材5の第一層5aと弾性部材5の第二層5bとの間には、加硫接着時に形成される接着層11が配置されている。弾性部材5の第二層5bと樹脂部材7との間には、加硫接着時に形成される接着層13が配置されている。
【0024】
続いて、樹脂製歯車1の製造方法について説明する。樹脂製歯車1の製造方法は、ブッシュ加工工程と、抄造素形体形成工程と、樹脂部材形成工程と、切削工程と、樹脂部材加工工程と、弾性部材形成工程と、歯切加工工程と、を含む。
【0025】
[ブッシュ加工工程]
ブッシュ加工工程では、金属製ブッシュ3の外周面4bに加工を施す。具体的には、例えば、金属製ブッシュ3の外周面4bにリン酸塩被膜処理を施し、外周面4bにリン酸層を形成する。リン酸層は、例えば、リン酸亜鉛被膜(亜鉛を含む組成)であり得る。リン酸亜鉛被膜の主成分は、ホパイト(Zn(PO・4HO)及びフォスフォフィライト(ZnFe(PO・4HO)である。リン酸亜鉛被膜は、リン酸イオン及び亜鉛イオンを主成分とする処理液を用いて処理され、亜鉛が析出することで形成される。リン酸亜鉛被膜の厚さは、例えば、2μm~3μmである。金属製ブッシュ3の外周面4bにリン酸層を形成することにより、外周面4bに凹凸が形成される。金属製ブッシュ3に加工を施した後、金属製ブッシュ3を洗浄する。金属製ブッシュ3の洗浄は、接着剤塗布工程の前に実施されればよい。
【0026】
[抄造素形体形成工程]
抄造素形体形成工程では、抄造法によって、円環状の抄造素形体を形成する。抄造素形体は、短繊維のみを含むものであっても、短繊維及び樹脂を含むものであってもよい。
【0027】
抄造法による抄造素形体の形成には、従来公知の方法を適用することができる。例えば、円環形状は、筒状金型を用いることにより形成することができる。また、抄造素形体は、例えば、金型の中央にブッシュを配置し、ブッシュの周囲に短繊維、分散媒及び任意の樹脂の分散液を注入し、金型から分散媒を排出した後に、筒状金型内に残った集合体を圧縮することにより形成することができる。
【0028】
短繊維の融点、又は、短繊維の分解温度は、250℃以上であることが好ましい。このような短繊維を用いることで、成形時の成形温度又は加工温度、実使用時の雰囲気温度において、短繊維が熱劣化を起こすことなく、耐熱性に優れた繊維基材又は樹脂製歯車とすることができる。
【0029】
短繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、及びポリビニルアルコール系繊維から選ばれた少なくとも1種以上の短繊維を使用することが好ましい。特に、パラ系アラミド繊維と、メタ系アラミド繊維との混合繊維を短繊維として用いた場合には、耐熱性、強度、樹脂成形後の加工性のバランスが優れている。
【0030】
スラリとしては、有機溶媒、有機溶媒と水との混合物、又は、水等を用いることができる。スラリとしては、特に経済的で、環境への負荷が少ない、水を使用することが好ましい。有機溶媒を用いる場合には、安全面に充分注意し、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、ジエチルエーテル等の有機溶媒を使用することも可能である。
【0031】
樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれであってもよいが、製造される樹脂製歯車の強度を向上させる観点から、熱硬化性樹脂であると好ましい。より具体的には、エポキシ樹脂、ポリアミノアミド樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等から選ばれた1以上の樹脂と、選択された樹脂の種類に応じた硬化剤とを組み合わせたものが使用できる。これらの中でも、樹脂硬化物の強度、耐熱性等の点からポリアミノアミド樹脂が好ましく、耐熱性、強度が優れる2,2’-(1,3フェニレン)ビス2-オキサゾリンとアミン硬化剤の混合物100質量部に対し、触媒には硬化促進剤として、例えば、n-オクチルブロマイドが5質量部以下からなる樹脂を使用することが好ましい。
【0032】
なお、樹脂は、抄造素形体形成工程において短繊維と一緒に抄造されてもよく、短繊維のみを含む抄造素形体を形成した後に、樹脂部材形成工程において抄造素形体に含浸されてもよい。
【0033】
[樹脂部材形成工程]
樹脂部材形成工程では、金型内に上記抄造素形体を配置し、樹脂を硬化させて樹脂部材7を形成する。抄造素形体形成工程において樹脂を用いなかった場合には、金型内に樹脂を注入して抄造素形体に含浸させた後に、樹脂を硬化させる。
【0034】
[切削工程]
切削工程では、金属製ブッシュ3及び樹脂部材7からなる成形品を切削して成形品の寸法を調整する。切削工程では、成形品を旋盤等の工作機械によって切削加工する。具体的には、切削工程では、成形品の外径部分及び内径部側面を削り、成形品を所定の寸法に加工する。
【0035】
[樹脂部材加工工程]
樹脂部材加工工程では、樹脂部材7の内周面7aに加工を施す。具体的には、例えば、樹脂部材7の内周面7aにショットブラスト加工を施し、内周面7aに凹凸を形成する。樹脂部材加工工程の後、樹脂部材7を洗浄する。樹脂部材7の洗浄は、接着剤塗布工程の前に実施されればよい。なお、当該樹脂部材加工工程は省略されてもよい。
【0036】
[弾性部材形成工程]
弾性部材形成工程では、金属製ブッシュ3と樹脂部材7との間に第一層5a及び第二層5bからなる弾性部材5を形成する。図3(a)に示されるように、第一成形金型20Aに金属製ブッシュ3を配置し、金属製ブッシュ3の外周面4bに接着剤A1を塗布する。接着剤A1は、加硫接着剤であり、例えば、ケムロック 607(ロード・ジャパンインク製)を用いることができる。
【0037】
続いて、図3(b)に示されるように、未加硫のゴム材料(ニトリルゴム)G1を第一押込部材22Aによって第一注入部21Aに押し込み、第一注入部21Aを介してゴム材料G1を注入する。これにより、金属製ブッシュ3の外側にゴム材料G1が充填される。そして、充填したゴム材料G1を加硫すると共に、加硫したゴム材料G1に熱及び圧力を加える。これにより、金属製ブッシュ3とゴム材料G1とが加硫接着され、金属製ブッシュ3の外側にニトリルゴムからなる第一層5aが形成される。また、上記の加硫接着によって、金属製ブッシュ3と弾性部材5の第一層5aとの間(界面)に接着層9が形成される。
【0038】
続いて、図3(c)に示されるように、第二成形金型20Bに金属製ブッシュ3と弾性部材5の第一層5aとが一体化された中間体と樹脂部材7とを配置し、第一層5aの外周面5aaに接着剤A2を塗布し、樹脂部材7の内周面7aに接着剤A3を塗布する。接着剤A2,A3は、接着剤A1と同様に、加硫接着剤であり、例えば、ケムロック 607(ロード・ジャパンインク製)を用いることができる。
【0039】
続いて、図3(d)に示されるように、未加硫のゴム材料(フッ素ゴム)G2を第二押込部材22Bによって第二注入部21Bに押し込み、金属製ブッシュ3と弾性部材5の第一層5aとの間に、第二注入部21Bを介してゴム材料G2を注入する。これにより、金属製ブッシュ3と弾性部材5の第一層5aとの間にゴム材料G2が充填される。そして、充填したゴム材料G2を加硫すると共に、加硫したゴム材料G2に熱及び圧力を加える。これにより、弾性部材5の第一層5aとゴム材料G2とが加硫接着されると共に金属製ブッシュ3とゴム材料G2とが加硫接着され、弾性部材5の第一層5aと樹脂部材7との間にフッ素ゴムから形成される第二層5bが形成される。また、上記の加硫接着によって、弾性部材5の第一層5aと弾性部材5の第二層5bとの間(界面)に接着層11が形成され、弾性部材5の第二層5bと樹脂部材7との間に接着層13が形成される。
【0040】
以上の工程を経て、金属製ブッシュ3と樹脂部材7との間に第一層5a及び第二層5bからなる弾性部材5が形成される。弾性部材5は、必要に応じて、バリの除去等を行う。
【0041】
[歯切加工工程]
歯切加工工程では、樹脂部材7の歯切加工を行う。適用される歯切加工としては、ホブ盤又はシェービング盤による仕上げ加工が挙げられる。ホブ盤としては、例えば三菱重工業株式会社製のGE15A(商品名)を用いることができる。なお、ホブ盤による切削量は、200μm以上になる。シェービング盤としては、例えば三菱重工業株式会社製のFE30A(商品名)を用いることができる。なお、シェービング加工による切削量は少なく、20~150μm程度になる。歯切加工工程により、樹脂部材7に歯形7bが形成される。
【0042】
以上の工程により、樹脂製歯車1が製造される。
【0043】
上記実施形態の樹脂製歯車1では、図1及び図2に示されるように、フッ素ゴムから形成される第二層5bに加え、金属製ブッシュ3との界面に配置され、ニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴムから形成されている第一層5aを有する弾性部材5が、金属製ブッシュ3と樹脂部材7との間に設けられる。これにより、環状の金属製ブッシュ3は、フッ素ゴムと比べて非接触性及びすべり性が低くかつ金属との接着性に優れるニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴムから形成される第一層5aと接触した状態で弾性部材5に結合されるので、フッ素ゴム単体からなる弾性部材と金属製ブッシュ3とが結合される場合に比べて、弾性部材5と金属製ブッシュ3との結合力を高めることができる。また、金属製ブッシュ3と樹脂部材7との間に、ニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴム単体から形成される層を設ける場合と比べて、耐薬品性及び耐熱性等を向上させることができる。この結果、弾性部材5としてフッ素ゴムを用いる場合であっても、所望の減衰機能を得ることが可能となる。
【0044】
上記実施形態の樹脂製歯車1では、第一層5aの層厚T11を、第二層5bの層厚T12よりも小さくしてもよい。これにより、強度、耐油性、耐熱性等の優位性を維持しつつ、弾性部材5と金属製ブッシュ3との結合力を高めることができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0046】
例えば、図4及び図5に示されるような樹脂製歯車101であってもよい。すなわち、樹脂製歯車101は、上記実施形態の樹脂製歯車1の構成に加え、樹脂部材7と弾性部材5との間には、樹脂部材7の内周面に結合される環状の金属部材8と、接着層13,15と、を更に備えている。更に、弾性部材5は、径方向において金属部材8との界面に設けられ、径方向において第二層5bよりも外側に設けられる第三層5cを更に有している。そして、第三層5cは、ニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴムから形成されている。
【0047】
金属製ブッシュ3と弾性部材5の第一層5aとの間には、加硫接着時に形成される接着層9が配置されている。弾性部材5の第一層5aと弾性部材5の第二層5bとの間には、加硫接着時に形成される接着層11が配置されている。弾性部材5の第二層5bと弾性部材5の第三層5cとの間には、加硫接着時に形成される接着層13が配置されている。弾性部材5の第三層5cと金属部材8との間には、加硫接着時に形成される接着層15が配置されている。なお、図4では、接着層9,11,13,15の図示を省略している。
【0048】
弾性部材5の径方向Rのサイズ(層厚)T2の例は、2mm~65mmである。第三層5cの層厚は、第二層5bの層厚よりも小さい。第三層5cの層厚T23の例は、0.1mm~20mmであり、第二層5bの層厚T22の例は、0.8mm~25mmである。第二層5bの層厚T21に対する第三層5cの層厚T23の比は、1:1.25~1:8である。なお、第一層5aにおける層厚T21及び第二層5bの層厚T22に対する第一層5aの層厚T21の比は、上記実施形態と同様である。
【0049】
変形例に係る樹脂製歯車101は、樹脂部材7の内周面には環状の金属部材8が設けられているので、圧入、焼嵌め等の方法により金属製シャフトとの締結が可能になる。この場合、ニトリルゴム等から形成される第一層5a及びフッ素ゴムから形成される第二層5bに加え、環状の金属部材8との界面に配置され、ニトリルゴム、アクリルゴム又は天然ゴムから形成されている第三層5cを更に有する弾性部材5が、金属製ブッシュ3と金属部材8との間に設けられる。これにより、環状の金属部材8は第三層5cと接触した状態で弾性部材5に結合されるので、フッ素ゴム単体からなる弾性部材5と金属部材8とが結合される場合に比べて、弾性部材5と金属部材8との結合力を高めることができる。この結果、弾性部材5としてフッ素ゴムを用いる場合であっても、所望の減衰機能を得ることが可能となる。
【0050】
また、変形例に係る樹脂製歯車101において、第三層5cの層厚T13は、第二層の層厚T12よりも小さくしてもよい。これにより、強度、耐油性、耐熱性等の優位性を維持しつつ、弾性部材5と金属部材8との結合力を高めることができる。
【0051】
上記実施形態では、金属製ブッシュ3の外周面がフラットに形成されている例を挙げて説明したが、外周面から外側に向かって突出する複数の突出部を有していてもよい。この突出部が形成された金属製ブッシュを有する樹脂製歯車では、金属ブッシュと樹脂材料との結合力を強化させることができる。
【0052】
上記実施形態又は変形例では、加硫接着剤が用いられる間接接着の例を挙げて説明したが、加硫接着剤が用いられない直接接着としてもよい。
【0053】
上記実施形態では、樹脂製歯車1が平歯車である形態を一例に説明した。しかし、樹脂製歯車1は、はすば歯車等であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1,101…樹脂製歯車、3…金属製ブッシュ、5…弾性部材、5a…第一層、5b…第二層、5c…第三層、7…樹脂部材、7b…歯形、8…金属部材。
図1
図2
図3
図4
図5