(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】撮影レンズ系および撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 13/00 20060101AFI20220308BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B13/18
(21)【出願番号】P 2018024300
(22)【出願日】2018-02-14
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】村山 稔
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-174326(JP,A)
【文献】特開2016-057387(JP,A)
【文献】特開2015-114366(JP,A)
【文献】国際公開第2014/006844(WO,A1)
【文献】特開昭49-113623(JP,A)
【文献】特開2009-198855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00-17/08
G02B 21/02-21/04
G02B 25/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側へ向かって順次、正のパワーの第1群、正のパワーの第2群を順次配してなり、
第1群は、最も物体側のレンズから最初の負レンズ成分までで構成される1a群と、その像側に配された1b群とからなり、
第2群は、物体側から像側へ向かって順次、2a群、絞り、2b群を配してなり、
無限遠から近距離へのフォーカシング時に、第2群が物体側に第1群との間隔を変化させながら移動し、
無限遠合焦時における全系の焦点距離:f、第1群の焦点距離:f1、無限遠合焦時における第2群の焦点距離:f2、2a群の焦点距離:f2a、1a群の最も像側の面の曲率半径:R1aNが、条件:
(1) 0.07 < f2 / f1 < 0.4
(2
A)
0.47 < f2 / f2a <
0.68
(3) 1.05 < f/R1aN < 1.55
を満たす撮影レンズ系。
【請求項2】
物体側から像側へ向かって順次、正のパワーの第1群、正のパワーの第2群を順次配してなり、
第1群は、2枚以上の正レンズと3枚以上の負レンズを有し、最も物体側のレンズから最初の負レンズ成分までを含む1a群と、その像側に配された1b群とからなり、
第2群は、物体側から像側へ向かって順次、2a群、絞り、2b群を配してなり、
無限遠から近距離へのフォーカシング時に、第2群が物体側に第1群との間隔を変化させながら移動し、
第1群の焦点距離:f1、第2群の焦点距離:f2、2a群の焦点距離:f2aが、条件:
(1) 0.07 < f2 / f1 < 0.4
(2) 0.45 < f2 / f2a < 0.7
を満足
し、
無限遠合焦時における全系の焦点距離:f、1a群の焦点距離:f1aが条件:
(4)-0.75 < f/f1a <-0.45
を満足する撮影レンズ系。
【請求項3】
請求項1
に記載の撮影レンズ系であって、
無限遠合焦時における全系の焦点距離:f、1a群の焦点距離:f1aが条件:
(4)-0.75 < f/f1a <-0.45
を満足する撮影レンズ系。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか1項に記載の撮影レンズ系であって、
1b群は物体側から像側へ向かって順に、物体側に凸面を向けた正レンズと負レンズを接合し、正のパワーを有する正レンズ成分、負レンズまたは接合レンズからなる負レンズ成分、正レンズからなり、
最も物体側の負レンズ成分の像側に隣接する正レンズの材質の屈折率:n12Pが、条件:
(5) 1.75 < n12P
を満足する撮影レンズ系。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか1項に記載の撮影レンズ系であって、
第2群が1枚以上の負レンズを含み、
第2群中の負レンズの材質の屈折率の平均値:n2GNが、条件:
(6) 1.55 < n2GN< 1.62
を満たす撮影レンズ系。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか1項に記載の撮影レンズ系であって、
2a群は、正レンズと負レンズを各々1枚以上有し、2a群中の正レンズの材質のアッベ数の平均:ν2aPgaが、条件:
(7) 50 <ν2aP
を満たす撮影レンズ系。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか1項に記載の撮影レンズ系であって、
1a群は物体側から像側へ向かって順に、物体側に凸面を向けた正レンズ、負レンズを配してなり、1a群の最も物体側の正レンズの材質の、アッベ数:νd11およびg線の部分分散比:θgF11が、条件:
(8) 30 <νd11 < 50
(9)θgF11 >-0.002×νd11+0.656
を満足する撮影レンズ系。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか1項に記載の撮影レンズ系であって、
2b群は、物体側から像側へ負レンズと正レンズを接合してなる物体側接合レンズ、像側に凸の正メニスカスレンズと負レンズとを接合してなる像側接合レンズを有し、
前記物体側接合レンズの正レンズの材質の、アッベ数:νd22、g線に対する部分分散比:θgF22、前記像側接合レンズの正メニスカスレンズの材質の屈折率:n2Pが、条件:
(10)νd22> 55
(11)θgF22 >-0.00162×νd22+0.64
(12) 1.70 < n2P
を満足する撮影レンズ系。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか1項に記載の撮影レンズ系を用いる撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、撮影レンズ系および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から一眼レフカメラに必要なバックフォーカスを確保し、F値が1.4程度と明るく、画角が45度前後のいわゆる標準レンズとして、絞りを挟んで前後対称の構成に近い変形ダブルガウス型が広く知られている(特許文献1等)。また、描写性能を向上させつつ長いバックフォーカスを確保するため、フォーカス群の前方に負レンズ群先行でフロントコンバーターの作用を持つレンズ群を配置したタイプも知られている(特許文献2、3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は、2群構成で、球面収差やサジタルコマ収差、歪曲収差、軸上色収差等の諸収差を無限遠撮影時から近距離撮影時にかけて良好に補正できる新規な撮影レンズ系の実現を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明の撮影レンズ系は、物体側から像側へ向かって順次、正のパワーの第1群、正のパワーの第2群を順次配してなり、第1群は、最も物体側のレンズから最初の負レンズ成分までで構成される1a群と、その像側に配された1b群とからなり、第2群は、物体側から像側へ向かって順次、2a群、絞り、2b群を配してなり、無限遠から近距離へのフォーカシング時に、第2群が物体側に第1群との間隔を変化させながら移動し、無限遠合焦時における全系の焦点距離:f、第1群の焦点距離:f1、第2群の焦点距離:f2、2a群の焦点距離:f2a、1a群の最も像側の面の曲率半径:R1aNが、条件:
(1) 0.07 < f2 / f1 < 0.4
(2A)0.47 < f2 / f2a < 0.68
(3) 1.05 < f/R1aN < 1.55
を満たす。
【発明の効果】
【0005】
この発明によれば、2群構成で、球面収差やサジタルコマ収差、歪曲収差、軸上色収差等の諸収差を無限遠撮影時から近距離撮影時にかけて良好に補正できる新規な撮影レンズ系を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施例1の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態のレンズ配置を示す断面図である。
【
図2】実施例1の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す図である。
【
図3】実施例1の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態における横収差図である。
【
図4】実施例1の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態のレンズ配置を示す断面図である。
【
図5】実施例1の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す図である。
【
図6】実施例1の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態における横収差図である。
【
図7】実施例2の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態のレンズ配置を示す断面図である。
【
図8】実施例2の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す図である。
【
図9】実施例2の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態における横収差図である。
【
図10】実施例2の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態のレンズ配置を示す断面図である。
【
図11】実施例2の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す図である。
【
図12】実施例2の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態における横収差図である。
【
図13】実施例3の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態のレンズ配置を示す断面図である。
【
図14】実施例3の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す図である。
【
図15】実施例3の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態における横収差図である。
【
図16】実施例3の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態のレンズ配置を示す断面図である。
【
図17】実施例3の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す図である。
【
図18】実施例3の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態における横収差図である。
【
図19】実施例4の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態のレンズ配置を示す断面図である。
【
図20】実施例4の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す図である。
【
図21】実施例4の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態における横収差図である。
【
図22】実施例4の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態のレンズ配置を示す断面図である。
【
図23】実施例4の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す図である。
【
図24】実施例4の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態における横収差図である。
【
図25】実施例5の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態のレンズ配置を示す断面図である。
【
図26】実施例5の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す図である。
【
図27】実施例5の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態における横収差図である。
【
図28】実施例5の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態のレンズ配置を示す断面図である。
【
図29】実施例5の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す図である。
【
図30】実施例5の撮影レンズ系の近距離に合焦した状態における横収差図である。
【
図31】実施例1の撮影レンズ系の光学データである。
【
図32】実施例2の撮影レンズ系の光学データである。
【
図33】実施例3の撮影レンズ系の光学データである。
【
図34】実施例4の撮影レンズ系の光学データである。
【
図35】実施例5の撮影レンズ系の光学データである。
【
図36】実施例1ないし5の撮影レンズ系に係る条件式のパラメータの値である。
【
図37】撮像装置の実施の1例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1を参照して説明する。
図1は、この発明の撮影レンズ系の具体的な1実施例のレンズ構成(断面図)を示している。この図は、後述する実施例1の撮影レンズ系の「無限遠に合焦した状態」を示している。図における左方が物体側、右方が像側である。この実施の形態では、撮影レンズ系による物体像を撮像素子により読み取る場合が想定されており、撮像素子の受光面の物体側には一般に、ローパスフィルターや赤外カットフィルター等の各種フィルター、撮像素子のカバーガラス等が配置される。これらフィルターやカバーガラス等を「これらに光学的に等価な透明平行平板」を図中に符号CGで示している。
【0008】
この発明の撮影レンズ系は、物体側(
図1の左方)から像側(右方)へ向かって順次、正のパワーの第1群G1、正のパワーの第2群G2を順次配してなる。即ち、撮影レンズ系は、物体側から像側に向かって正・正の屈折力配分を有する。
第1群G1は、「最も物体側のレンズから最初の負レンズ成分」までで構成される1a群G1aと、その像側に配された1b群G1bとからなる。
ここで「負レンズ成分」は「1枚の負レンズ」もしくは「複数枚のレンズを接合してなり、負の屈折力を持つ接合レンズ」を言う。説明中の例では、最も物体側に配された両凸レンズに、像側の凹面が強い曲率を持つ両凹レンズが接合されて全体として負の屈折力を持つ「接合レンズ」が1a群G1aの負レンズ成分である。
第2群G2は、物体側から像側へ向かって順次、2a群G2a、絞りS、2b群G2bを配してなる。
【0009】
無限遠から近距離へのフォーカシング時には、第2群G2が物体側に、第1群G1との間隔を変化させながら移動する。
この発明の撮影レンズ系は、無限遠合焦時における全系の焦点距離:f、第1群G1の焦点距離:f1、第2群G2の焦点距離:f2、2a群G2aの焦点距離:f2a、1a群G1aの最も像側の面の曲率半径:R1aNが、条件:
(1) 0.07 < f2 / f1 < 0.4
(2) 0.45 < f2 / f2a < 0.7
(3) 1.05 < f/R1aN < 1.55
を満足する。
【0010】
撮影レンズ系の、このような構成を「構成1」という。
この発明の撮影レンズ系は、以下のように構成することもできる。
物体側から像側へ向かって順次、正のパワーの第1群G1、正のパワーの第2群G2を順次配してなり、第1群G1は、2枚以上の正レンズと3枚以上の負レンズを有し、最も物体側のレンズから最初の負レンズ成分までを含む1a群G1aと、その像側に配された1b群G1bとからなり、第2群G2は、物体側から像側へ向かって順次、2a群G2a、絞りS、2b群G2bを配してなり、無限遠から近距離へのフォーカシング時に、第2群G2が物体側に第1群G1との間隔を変化させながら移動し、第1群G1の焦点距離:f1、第2群G2の焦点距離:f2、2a群G2aの焦点距離:f2aが、条件:
(1) 0.07 < f2 / f1 < 0.4
(2) 0.45 < f2 / f2a < 0.7
を満足する。
このような構成を「構成2」と呼ぶ。
【0011】
上記構成1または2の撮影レンズ系は、無限遠合焦時における全系の焦点距離:f、1a群の焦点距離:f1aが条件:
(4) -0.75 < f/f1a < -0.45
を満足することが好ましい。この構成を「構成3」と呼ぶ。
【0012】
上記構成1ないし3の何れかの撮影レンズ系は、1b群が、物体側から像側へ向かって順に「物体側に凸面を向けた正レンズと負レンズを接合し、正のパワーを有する正レンズ成分」および「負レンズまたは接合レンズからなる負レンズ成分」および正レンズを配してなり、最も物体側の負レンズの像側に隣接する正レンズの材質の屈折率:n12Pが、条件:
(5) 1.75 < n12P
満足する構成であることができる。
この構成を「構成4」と呼ぶ。
【0013】
上記構成1ないし4の何れかの撮影レンズ系は、第2群G2が1枚以上の負レンズを含み、第2群G2中の負レンズの材質の屈折率の平均値:n2GNが、条件:
(6) 1.55 < n2GN< 1.62
を満たす構成であることができる。
この構成を「構成5」と呼ぶ。
上記構成1ないし5の何れかの撮影レンズ系は、2a群G2aが、正レンズと負レンズを各々1枚以上有し、2a群G2a中の正レンズの材質のアッベ数:ν2aPが、条件: (7) 50 < ν2aP
を満たす構成であることができる。
この構成を「構成6」と呼ぶ。
【0014】
上記構成1ないし6の何れかの撮影レンズ系は、1a群G1aが、物体側から像側へ向かって順に、物体側に凸面を向けた正レンズ、負レンズを配してなり、1a群G1aの最も物体側の正レンズの材質の、アッベ数:νd11およびg線の部分分散比:θgF11が、条件:
(8) 30 < νd11 < 50
(9) θgF11 > -0.002×νd11+0.656
を満足する構成であることができる。
この構成を「構成7」と呼ぶ。
【0015】
上記構成1ないし7の何れかの撮影レンズ系は、2b群G2bが、物体側から像側へ負レンズと正レンズを接合してなる「物体側接合レンズ」、像側に凸の正メニスカスレンズと負レンズとを接合してなる「像側接合レンズ」を有し、物体側接合レンズの正レンズの材質の、アッベ数:νd22、g線に対する部分分散比:θgF22、像側接合レンズの正メニスカスレンズの材質の屈折率:n2Pが、条件:
(10) νd22> 55
(11) θgF22 > -0.00162×νd22+0.64
(12) 1.70 < n2P
を満足する構成であることができる。
この構成を「構成8」と呼ぶ。
付言すると、構成1ないし8の撮影レンズ系は、上記の如く、物体側から像側へ向かって順次、正のパワーの第1群G1、正のパワーの第2群G2を順次配してなる。
第1群G1に正のパワーを持たせることにより、物体光を第1群G1により収束光として第2群G2に入射させる。このようにすると「近距離の物体に合焦した時も、第1群G1からの射出光が発散せず、第2群G2に入射する光線高さを抑える」ように、第1群G1と第2群G2のパワーの比率を調整することが可能である。
【0016】
構成1では、1a群G1aの最も像側の面の曲率半径:R1aNが、条件(3)を満足することにより、この「像側に向いた凹面の負のパワー」が過大にならないようにしている。1a群G1aは「軸外光束が光軸から最も離れる箇所」であり、その最も像側の凹面の曲率が過大にならないようにすることにより「サジタルコマ収差や非点収差の増大」を防ぐことができるようにしている。
【0017】
構成2では、第1群G1に負レンズを3枚以上含め、第1群G1の負のパワーを「複数の負レンズに分散」させることにより、第1群G1中の個々の負レンズのパワーが強くなり過ぎないようにしている。なお、第1群G1は正のパワーを持つから、負レンズで発散された光束をスムーズに収束させるためには2枚以上の正レンズを必要とする。
【0018】
これらの構成要素により、物体距離が変化しても「第1群G1中で最も物体側にある負レンズの凹面で発生する収差変動」や、第2群G2へ入射する光線の光線高さを抑制できるので、フォーカシングによる性能変化を小さく抑えることができる。
構成3においては、1a群G1aの焦点距離:f1aが条件(4)を満足するので、1a群G1aは負のパワーを有する。1a群G1aのパワーを負のパワーとすることにより、撮影レンズ系を「全体的にレトロフォーカスタイプ」とし、バックフォーカスを確保するとともに軸外光束を緩やかに屈折させて収差の増大を防ぐことができる。
なお、色収差をより良好に補正するため、構成1ないし8の何れにおいても、1a群G1aは「物体側に正レンズを配置」するのが望ましい。
【0019】
構成4においては、1b群G1bは「物体側に凸面を向けた正レンズと負レンズの接合レンズ」および「負の単レンズまたは負レンズと正レンズを接合し負のパワーを有する負レンズ成分」および「正レンズ」からなる。
【0020】
1b群G1bを、このように構成すると、構成1のように「1a群G1aの最も像側が凹面」である場合に、この凹面で発生する収差を、1b群G1bの最も物体側の凸面により良好に補正することができる。また、この凸面を有するレンズの像側に負レンズ成分を配置することで、軸外光束を緩やかに屈折させることができる。1b群G1bの最も像側に「正レンズ」を配置することにより、上記物体側の負レンズや負レンズ成分で発散された光束を収束させつつ第2群に導くことができる。
【0021】
構成1、2においては、条件(2)が満足されるので、2a群G2aは正のパワーを有する。
後述する実施例1ないし5において、2a群G2aは「正の単レンズ、正レンズと像側に凹面を有する負レンズとの接合レンズ」を物体側から像側へ順に配置してなる。絞りSの物体側においては、1a群G1aと1b群G1bの負レンズで軸上光束が拡大されるが、2a群G2aが正のパワーを有するので、絞り径を大きくしないで済む。なお、諸収差を良好に補正するため、2a群G2aは「1枚以上の正レンズと1枚以上の負レンズ」を有することが望ましい。
【0022】
構成8では、2b群G2bが、物体側から像側へ負レンズと正レンズを接合してなる「物体側接合レンズ」、像側に凸の正メニスカスレンズと負レンズとを接合してなる「像側接合レンズ」を有する。
絞りSに対して2a群G2aと2b群G2bが共に正のパワーを持ち、絞りSに近い両接合レンズを対称的な形状とすることで、歪曲収差やコマ収差などを打ち消し合って良好に補正することが可能である。最も像側のレンズは「大きな収束作用を持ち、かつ軸外主光線が光軸から高い位置を通るため、軸上光線と軸外光線の収差をバランスよく補正するために非球面を有する」ことが好ましい。
この発明の撮影レンズ系における「無限遠から近距離物体へのフォーカシング」につき、説明する。
構成1ないし8の撮影レンズ系とも「無限遠から近距離物体へのフォーカシング」は
「第1群との間隔を変化させつつ、第2群を物体側に移動させ」て行う。
このようなフォーカシングには、以下の如き態様が可能である。
第1群は、上記フォーカシングに際して「固定」とすることもできるし、フォーカシングに際して「移動」とすることもできる。
第2群については、上記フォーカシングに際して「第2群を一体として移動させる」用にしてもよいし、「2a群2Gaと2b群2Gbを別個の移動量で移動させる(所謂フローティング方式)こともできる。
【0023】
フォーカシングを行うメカ機構的には、径が大きくて重量がある第1群を像面に対して固定とするフォーカシング方式が望ましい。
【0024】
以下、上述した各条件式について説明する。
条件式(1)は、正の第1群G1と正の第2群G2のパワーの比を規定する。上限を上回ると、絞りから離れた位置にある第1群G1のパワーが強くなり、コマ収差や歪曲収差が大きくなる。下限を下回ると第1群G1のパワーが弱くなり、第1群G1からの光束の収束度が弱いため、球面収差やコマ収差を無限遠撮影時から近距離撮影時まで良好に補正するのが困難になる。なお、条件式(1)のパラメータ:f2 / f1は、条件式(1)よりも若干狭い条件:
(1A) 0.1 < f2 / f1 < 0.37
を満足することが好ましい。
【0025】
条件式(2)は第2群G2における2a群G2aのパワーを規定する。上限を上回ると2a群G2aのパワーが大きくなり、球面収差や像面湾曲が大きくなる。下限を下回ると2a群G2aの正のパワーが弱くなり、直後に位置する絞り径が大きくなるとともに、球面収差と像面湾曲が大きくなる。なお、条件式(2)のパラメータ:f2 / f2aは、条件式(2)よりも若干狭い条件:
(2A) 0.47 < f2 / f2a < 0.68
を満足することが好ましい。
【0026】
条件式(3)は、構成1において、1a群G1aの最も像側の面が凹面であることを示し、その曲率半径を規定する。画角:45度前後でF値:1.4程度を想定すると、入射する軸外光束が太くなり、1a群G1aではその軸外光線が光軸から離れた位置にあるため、適切な曲率半径を規定する必要がある。上限を上回ると曲率半径が小さくなり、サジタルコマ収差や非点収差が大きくなる。また、撮影距離の変化で球面収差の変動が大きくなる。下限を下回ると球面収差や像面湾曲の補正が不足する。なお、条件式(3)のパラメータ:f/R1aNは、条件式(3)よりも若干狭い条件:
(3A) 1.15 < f/R1aN < 1.45
を満足することが好ましい。
【0027】
構成3においては、1a群G1aを「負のパワー」とすることでレンズ系を全体的にレトロフォーカスタイプとし、バックフォーカスを確保するとともに軸外光束を緩やかに屈折させて収差の増大を抑制している。
【0028】
条条件式(4)の上限を上回ると1a群G1aの負のパワーが過小となり、非点収差やコマ収差の補正が不足し易く、下限を下回ると1a群G1aの負のパワーが過大となり、サジタルコマ収差や歪曲収差が大きくなり易い。なお、条件式(4)のパラメータ:f/f1aは、条件式(4)より若干狭い条件:
(4A) -0.7 < f/f1a < -0.5
を満足することが好ましい。
【0029】
条件式(5)は、構成4において、1b群G1bの最も物体側の正レンズの材質の屈折率:n12Pを規定する。下限を下回ると該正レンズの物体側の曲率半径を小さくする必要が生じ易く、コマ収差や非点収差が大きくなり易い。
【0030】
なお、上記屈折率:n12Pは、より好ましくは、以下の条件:
(5A) 1.85 < n12P
を満足するのが良い。
【0031】
構成5においては、第2群G2が1枚以上の負レンズを含み、第2群G2中に含まれる負レンズの材質の屈折率の平均値:n2GNを規定する。なお、第2群G2に含まれる負レンズが1枚の場合には、当該平均値:n2GNは、当該1枚の負レンズの材質の屈折率である。
条件式(6)は、平均値:n2GNの範囲を規定する。
条件式(6)の上限を上回ると負レンズの屈折率が高くなってパッツバール和が大きくなり易く、像面湾曲が大きくなり易い。下限を下回ると必要なパワーを得るために曲率半径が小さくなり易く、コマ収差や非点収差が大きくなり易い。
【0032】
構成6においては、2a群G2aが、正レンズと負レンズを各々1枚以上有し、2a群G2a中の正レンズの材質のアッベ数:ν2aPgaが、条件:
(7) 50 < ν2aP
を満たす。
条件式(7)は2a群G2aの正レンズのアッベ数の平均を規定する。下限を下回ると軸上色収差が大きく発生し易い。
【0033】
構成7においては、1a群G1aが、物体側から像側へ向かって順に、物体側に凸面を向けた正レンズ、負レンズを配してなり、条件式(8)、(9)は、色収差の良好な補正のために、1a群G1aの最も物体側の正レンズの材質の、アッベ数:νd11およびg線の部分分散比:θgF11が満足することが好ましい条件である。
【0034】
条件式(8)は上記正レンズの材質のアッべ数を規定する。上限を上回ると倍率色収差の補正が困難になり易い。下限を下回ると軸上色収差が大きくなり易い。
条件式(9)の下限を下回ると、軸上色収差のg線の2次スペクトルの補正が困難になり易い。なお、g線の部分分散比は、ng、nF、nCを各々、g線、F線、C線の屈折率として、以下の式で定義される。
θgF=(ng-nF)/(nF-nC) 。
【0035】
構成8においては、2b群G2bが、負レンズと正レンズを接合してなる「物体側接合レンズ」および、像側に凸の正メニスカスレンズと負レンズとを接合してなる「像側接合レンズ」を有する。条件式(10)および(11)は、物体側接合レンズの正レンズの材質の、アッベ数:νd22、g線に対する部分分散比:θgF22が満足することが好ましい条件であり、条件式(12)は、像側接合レンズの正メニスカスレンズの材質の屈折率:n2Pが満足することが好ましい条件である。
条件式(10)、(11)を満たすことで軸上色収差、特に2次スペクトルを良好に補正することが可能である。また、条件式(10)、(11)を満たす硝材は一般的に屈折率が低いため、像側に凸のメニスカスレンズが条件式(12)を満たすことでペッツバール和を押さえつつ、物体側の凹面で球面収差や像面湾曲を良好に補正することが可能である。
なお「2b群G2bの最も像側のレンズ」は非球面を有することが好ましい。大きな収束作用を持ち、かつ軸外主光線が光軸から高い位置を通る最終レンズに非球面を用いることで、球面収差やコマ収差、非点収差をバランスよく補正することが可能である。
【0036】
撮影レンズ系の具体的な実施例を挙げる前に、撮像装置の実施の形態を
図37を参照して説明する。この撮像装置は「携帯情報端末装置」である。
図37(a)は、携帯情報端末装置の「正面側と上部面」とを示し、同図(b)は「背面側と上部面」を示す。
携帯情報端末装置は、撮影レンズ系1として、請求項1ないし8の何れかに記載の撮影レンズ系(具体的には後述の実施例1ないし5の適宜のもの)が用いられる。
【0037】
図37(a)、(b)において、符号2はファインダ、符号3はフラッシュ、符号4はシャッタボタン、符号5はボディケース、符号6は電源スイッチ、符号7は液晶モニタ、符号8は操作ボタン、符号9はメモリーカードスロットを示している。
【0038】
図37(c)は「携帯情報端末装置」のシステム構成を示す図である。
同図に示すように、携帯情報端末装置は撮影レンズ系1と撮像素子13を有し、撮影レンズ系1によって形成される「撮影対象物の像」を撮像素子13によって読取るように構成されている。
撮像素子13の出力は、中央演算装置11の制御を受ける信号処理装置14によって処理されてデジタル情報に変換される。即ち、携帯情報端末装置は「撮影画像をデジタル情報とする機能」を有している。
デジタル情報化された撮影画像は、中央演算装置11による制御を受ける画像処理装置12により画像処理される。画像処理された画像は、液晶モニタ7に表示することも、半導体メモリ15に記憶させることもできる。撮影の操作は操作ボタンにより行なわれる。
【0039】
また、通信カード等16を介して外部に送信することもできる。通信カード16等は、
図37(b)に示すメモリーカードスロット9内に収納される。
【実施例】
【0040】
以下、撮影レンズ系の具体的な実施例を5例挙げる。
「実施例1」
実施例1の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態のレンズ配置の断面図を
図1に示す。
【0041】
図1における各符号の意味するところは、先に説明した通りである。
【0042】
実施例1の光学データを
図31に示す。
図31の最上位の図は、各レンズの面の曲率半径・面間隔・材質の屈折率およびアッベ数のデータである。
「NO」は、物体側(
図1の左方)から数えた面(レンズ面および絞りSの面を含む)の番号を示し、「R」は各面の曲率半径、「D」は隣接する面の面間隔、「N(D)」はd線に対する屈折率、「V(D)」は、d線に対するアッベ数を示す。また、面番号に付された「*印」は外面が非球面であることを示す。
【0043】
図31の中間の図は、非球面のデータである。
非球面は、非球面量:Z、光軸からの高さ:r、円錐定数:K、4次~12次の偶数次の非球面係数:A4,A6、A8、A10、A12を用いて、周知の次式により表す。
【0044】
Z=(1/R)r2/[1+√{1-(1+k)(1/R)2r2}]
+A4・r4 +A6・r6+A8・r8+A10・r10+A12・r12 。
【0045】
図31の下の図は「Fナンバ―や焦点距離等の各種データ」を、無限遠に合焦している状態と近距離物体に合焦している状態について示す。
図2に、実施例1の撮影レンズ系が無限遠に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す。
図3に、実施例1の撮影レンズ系が無限遠に合焦した状態における横収差図を示す。
【0046】
図4に、実施例1の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態のレンズ配置を断面図により示す。
無限遠から近距離へのフォーカシングの際に、第1群G1は移動せず、第2群G2が一体として物体側へ移動する。
図5に、実施例1の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す。
図6に、実施例1の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態における横収差図を示す。
【0047】
「実施例2」
実施例1の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態のレンズ配置の断面図を
図1に倣って
図7に示す。
【0048】
実施例2の光学データを
図31に倣って
図32に示す。
図8に、実施例2の撮影レンズ系が無限遠に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を
図2に倣って示す。
図9に、実施例2の撮影レンズ系が無限遠に合焦した状態における横収差図を示す。
【0049】
図10に、実施例2の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態のレンズ配置を断面図により示す。
無限遠から近距離へのフォーカシングの際に、第1群G1は移動せず、第2群G2が一体として物体側へ移動する。
図11に、実施例2の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す。
図12に、実施例2の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態における横収差図を示す。
【0050】
「実施例3」
実施例3の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態のレンズ配置の断面図を
図1に倣って
図13に示す。
【0051】
実施例3の光学データを
図31に倣って
図33に示す。
図14に、実施例3の撮影レンズ系が無限遠に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を
図2に倣って示す。
図15に、実施例3の撮影レンズ系が無限遠に合焦した状態における横収差図を示す。
【0052】
図16に、実施例3の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態のレンズ配置を断面図により示す。
無限遠から近距離へのフォーカシングの際に、第1群G1は移動せず、第2群G2が一体として物体側へ移動する。
図17に、実施例3の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す。
図18に、実施例3の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態における横収差図を示す。
【0053】
「実施例4」
実施例4の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態のレンズ配置の断面図を
図1に倣って
図19に示す。
【0054】
実施例4の光学データを
図31に倣って
図34に示す。
図20に、実施例4の撮影レンズ系が無限遠に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を
図2に倣って示す。
図21に、実施例4の撮影レンズ系が無限遠に合焦した状態における横収差図を示す。
【0055】
図22に、実施例4の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態のレンズ配置を断面図により示す。
無限遠から近距離へのフォーカシングの際に、第1群G1は移動せず、第2群G2は、2a群G2aと2b群G2bが別個に異なる移動量で移動する。
図23に、実施例4の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す。
図24に、実施例4の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態における横収差図を示す。
【0056】
「実施例5」
実施例5の撮影レンズ系の無限遠に合焦した状態のレンズ配置の断面図を
図1に倣って
図25に示す。
【0057】
実施例5の光学データを
図31に倣って
図35に示す。
図26に、実施例5の撮影レンズ系が無限遠に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を
図2に倣って示す。
図27に、実施例5の撮影レンズ系が無限遠に合焦した状態における横収差図を示す。
【0058】
図28に、実施例5の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態のレンズ配置を断面図により示す。
無限遠から近距離へのフォーカシングの際に、第1群G1、2a群G2a、2b群G2bが各々別個に異なる移動量で移動する。
図29に、実施例5の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態における球面収差、倍率色収差、非点収差及び歪曲収差を示す。
図30に、実施例4の撮影レンズ系が近距離に合焦した状態における横収差図を示す。
【0059】
図36は、上に説明した実施例1ないし5における条件式(1)ないし(12)のパラメータの値を示す図表である。この図において、「*1」は「-0.002νd11+0.656」の値であり、「*2」は「-0.00162νd22+0.64」の値である。
【0060】
実施例1ないし5の撮影レンズ系は、各収差図に示す如く、無限遠合焦時・近距離合焦時とも、収差は極めて良好に補正され、高性能である。
実施例1ないし5に示す如く、この発明によれば、一眼レフカメラに必要なバックフォーカスが確保され、F値が1.4程度と明るく、画角が45度前後の高性能の撮影レンズ系を実現できる。
【0061】
以上、発明の好ましい実施の形態について説明したが、この発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
この発明の実施の形態に記載された効果は、発明から生じる好適な効果を列挙したに過ぎず、発明による効果は「実施の形態に記載されたもの」に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0062】
G1 第1群
G2 第2群
G1a 1a群
G1b 1b群
G2a 2a群
G2b 2b群
S 絞り
CG 透明平行平板
【先行技術文献】
【特許文献】
【0063】
【文献】特開2010-14897号公報
【文献】特開2011-107450号公報
【文献】特開2015-114366号公報