(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】画像形成方法、画像形成装置および印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20220308BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20220308BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20220308BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B41M5/00 132
C09D11/037
C09D11/54
B41J2/01 123
B41J2/01 501
B41M5/00 120
(21)【出願番号】P 2018027955
(22)【出願日】2018-02-20
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】熊井 未央
(72)【発明者】
【氏名】左部 顕芳
(72)【発明者】
【氏名】山本 淳史
(72)【発明者】
【氏名】宮明 杏実
(72)【発明者】
【氏名】長島 英文
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 裕理
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/176255(WO,A1)
【文献】特開2011-149015(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156569(WO,A1)
【文献】特開2017-218541(JP,A)
【文献】特表2011-526322(JP,A)
【文献】特開2015-013971(JP,A)
【文献】特開2003-160750(JP,A)
【文献】特開2011-011390(JP,A)
【文献】特開2010-241068(JP,A)
【文献】特開平08-072234(JP,A)
【文献】特開2004-243624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
C09D 11/037
C09D 11/54
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に前処理液を付与する前処理液付与工程と、前記前処理液付与工程後の前記記録媒体にインクを付与して画像を形成するインク付与工程とを含み、
前記インクが、水、アゾ顔料、キナクリドン顔料および有機溶剤を含有するマゼンタインクを含
み、
前記アゾ顔料がC.I.PR150であり、前記キナクリドン顔料がC.I.PR122およびC.I.PV19であり、
前記前処理液が、当該前処理液中、カチオンポリマーを30質量%以上60質量%以下含む、脂肪族系有機酸塩化合物を5質量%以上15質量%以下含む、または、無機金属化合物を5質量%以上15質量%以下含む
ことを特徴とする画像形成方法。
【請求項2】
記録媒体に前処理液を付与する前処理液付与手段と、前記前処理液付与工程後の前記記録媒体にインクを付与して画像を形成するインク付与手段とを含み、
前記インクが、水、アゾ顔料、キナクリドン顔料および有機溶剤を含有するマゼンタインクを含
み、
前記アゾ顔料がC.I.PR150であり、前記キナクリドン顔料がC.I.PR122およびC.I.PV19であり、
前記前処理液が、当該前処理液中、カチオンポリマーを30質量%以上60質量%以下含む、脂肪族系有機酸塩化合物を5質量%以上15質量%以下含む、または、無機金属化合物を5質量%以上15質量%以下含む
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
記録媒体に前処理液を付与する前処理液付与工程と、前記前処理液付与工程後の前記記録媒体にインクを付与して画像を形成するインク付与工程とを含み、
前記インクが、水、アゾ顔料、キナクリドン顔料および有機溶剤を含有するマゼンタインクを含
み、
前記アゾ顔料がC.I.PR150であり、前記キナクリドン顔料がC.I.PR122およびC.I.PV19であり、
前記前処理液が、当該前処理液中、カチオンポリマーを30質量%以上60質量%以下含む、脂肪族系有機酸塩化合物を5質量%以上15質量%以下含む、または、無機金属化合物を5質量%以上15質量%以下含む
ことを特徴とする印刷物の製造方法。
【請求項4】
前処理液と、
水、アゾ顔料、キナクリドン顔料および有機溶剤を含有するマゼンタインクと、を含
み、
前記アゾ顔料がC.I.PR150であり、前記キナクリドン顔料がC.I.PR122およびC.I.PV19であり、
前記前処理液が、当該前処理液中、カチオンポリマーを30質量%以上60質量%以下含む、脂肪族系有機酸塩化合物を5質量%以上15質量%以下含む、または、無機金属化合物を5質量%以上15質量%以下含む
ことを特徴とする前処理液とインクのセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成方法、画像形成装置および印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録媒体に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る記録方式である。この方式によれば、使用する装置の騒音が小さく、操作性がよいという利点を有するのみならず、カラー化が容易であり、かつ記録媒体として普通紙を使用することができるという利点があるため、オフィスや家庭での出力機として広く用いられている。産業用途においても、インクジェット技術の向上によりデジタル印刷の出力機としての利用が期待され、溶剤インクやUVインクによる非吸収性の機材に対しても印刷が可能な印刷機が実際に市販されてきた。しかし、近年、環境面や安全面への対応といった点から水性インクの需要が高まっている。
【0003】
産業分野に展開される水性インクジェットインクでは、顔料の微細な分散が求められる。インク中に凝集物が存在すると、ノズル詰まりが発生するため、その都度クリーニング作業が必要となってしまい、生産性の低下の原因となるためである。さらに、オフセットに変わる技術としての期待の高まりから、品質の高い画像が求められる。中でも画像濃度と耐光性については、印字物の使われ方によらず共通して求められる項目である。
【0004】
特許文献1では、アゾ顔料とキナクリドン顔料を併用することで、分散性と耐光性の両立を図っている。
特許文献2では、布状繊維製品のうち所定の部分を前処理するインクジェット捺染方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、画像濃度は記録媒体の種類によって大きく変化するものであり、特許文献1では画像濃度の出やすい非浸透系記録媒体を用いて評価しているのみであるため、十分な画像濃度が得られているとは言えない。
特許文献2では、画像を形成する対象物は布状繊維製品に限られており、また顔料の分散性、耐光性、画像濃度を高度に両立できるものとは言えない。
【0006】
画像濃度や耐光性を高めるためには、顔料がある程度凝集している必要があるが、これはノズル詰まりを防ぐために必要な顔料の微細な分散状態とは逆の状態である。よってこれらはトレードオフの関係にあると言え、全てを高次元に両立する画像形成方法は提供されていない。
【0007】
本発明は、優れた顔料分散性および耐光性並びに高い画像濃度を高次元に両立させる画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、下記構成1)により解決される。
1)記録媒体に前処理液を付与する前処理液付与工程と、前記前処理液付与工程後の前記記録媒体にインクを付与して画像を形成するインク付与工程とを含み、
前記インクが、水、アゾ顔料、キナクリドン顔料および有機溶剤を含有するマゼンタインクを含み、
前記アゾ顔料がC.I.PR150であり、前記キナクリドン顔料がC.I.PR122およびC.I.PV19であり、
前記前処理液が、当該前処理液中、カチオンポリマーを30質量%以上60質量%以下含む、脂肪族系有機酸塩化合物を5質量%以上15質量%以下含む、または、無機金属化合物を5質量%以上15質量%以下含む
ことを特徴とする画像形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた顔料分散性および耐光性並びに高い画像濃度を高次元に両立させる画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、インクジェット記録装置の一例を示す斜視説明図である。
【
図2】
図2は、インクジェット記録装置におけるメインタンクの一例を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る画像形成方法、画像形成装置および印刷物の製造方法の実施形態について説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0012】
本発明の画像形成方法および印刷物の製造方法は、記録媒体に前処理液を付与する前処理液付与工程と、前記前処理液付与工程後の前記記録媒体にインクを付与して画像を形成するインク付与工程とを含み、前記インクが、水、アゾ顔料、キナクリドン顔料および有機溶剤を含有するマゼンタインクを含むことを特徴とする。
また本発明の画像形成装置は、記録媒体に前処理液を付与する前処理液付与手段と、前記前処理液付与工程後の前記記録媒体にインクを付与して画像を形成するインク付与手段とを含み、前記インクが、水、アゾ顔料、キナクリドン顔料および有機溶剤を含有するマゼンタインクを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の方法および装置によれば、記録媒体に前処理液を付与する前処理液付与工程および手段を含むことにより、顔料を記録媒体表面に留めることができ、高い画像濃度が得られる。特にアゾ顔料のような結晶径の小さな顔料や、微細な分散をしている顔料は、記録媒体表面にある繊維やコート剤に引っかかりにくく、奥深くまで浸透してしまうため、この工程および手段がもたらす効果は顕著である。前処理液には、カチオンポリマー、脂肪族系有機酸塩化合物、無機金属化合物のいずれかを含有することで、顔料の急速な凝集が促されるため、より好ましい。
【0014】
<インク>
以下、インクに用いる有機溶剤、水、色材、樹脂、添加剤等について説明する。
【0015】
<有機溶剤>
本発明に使用する有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類が挙げられる。
水溶性有機溶剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
湿潤剤として機能するだけでなく、良好な乾燥性を得られることから、沸点が250℃以下の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0016】
炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物も好適に使用される。炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
グリコールエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
【0017】
炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物は、記録媒体として紙を用いた場合に、インクの浸透性を向上させることができる。
【0018】
有機溶剤のインク中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0019】
<水>
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%~60質量%がより好ましい。
【0020】
本発明では、公知の各色インクを使用できる。
【0021】
<色材>
色材としては特に限定されず、顔料、染料を使用可能である。
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、混晶を使用してもよい。
顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンダ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
【0022】
無機顔料として、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
【0023】
また、有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶媒と親和性のよいものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料があげられる。
さらに、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド(PR)1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、150、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、269、C.I.ピグメントバイオレット(PV)1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、等がある。
染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能であり、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
【0024】
本発明では、マゼンタインクがアゾ顔料およびキナクリドン顔料を含有することを要件とする。
マゼンタインクがアゾ顔料を含むことで顔料の分散性が高められるため好ましい。この分散性の観点並びにキナクリドン顔料との相互作用の観点から、アゾ顔料の中でもC.I.PR150、C.I.PR269およびC.I.PR48:3から選択された1種または2種以上の顔料が好ましく、C.I.PR150がさらに好ましい。
【0025】
マゼンタインクがキナクリドン顔料を含むことにより画像の耐光性を高められるため好ましい。またキナクリドン顔料は結晶径が大きく、また凝集体を作りやすく、印字した際に顔料が記録媒体表面に留まることができるため、高い画像濃度を出すことが出来るため好ましい。この作用効果の観点から、キナクリドン顔料の中でもC.I.PR122、C.I.PR202およびC.I.PV19から選択された1種または2種以上の顔料が好ましく、C.I.PR122および/またはC.I.PV19がさらに好ましい。
【0026】
マゼンタインクがアゾ顔料とキナクリドン顔料を含むことにより、優れた顔料分散性および耐光性並びに高い画像濃度を高次元に両立できるため好ましい。アゾ顔料のみでは分散性はよいが、耐光性、画像濃度の点で好ましくない。キナクリドン顔料のみでは耐光性、画像濃度はよいが、分散性の点で好ましくない。
【0027】
マゼンタインクにおいて、アゾ顔料とキナクリドン顔料の割合は、前者:後者(質量比)として、例えば10~50:90~50、好ましくは15~40:85~60、さらに好ましくは25~35:75~65である。
また、マゼンタインクに使用されるすべての顔料中、アゾ顔料およびキナクリドン顔料は、50質量%以上、好ましくは80質量%以上を占めることが好ましい。
【0028】
インク中の色材の含有量は、画像濃度の向上、良好な定着性や吐出安定性の点から、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0029】
<顔料の分散方法>
顔料を分散してインクを得るためには、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法、などが挙げられる。
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法が挙げられる。
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法が挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。
分散剤としては、顔料に応じて例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。
竹本油脂社製RT-100(ノニオン系界面活性剤)や、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0030】
<顔料分散体>
顔料に、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを得ることが可能である。また、顔料と、その他水や分散剤などを混合して顔料分散体としたものに、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを製造することも可能である。
前記顔料分散体は、水、顔料、顔料分散剤、必要に応じてその他の成分を混合、分散し、粒径を調整して得られる。分散は分散機を用いると良い。
顔料分散体における顔料の粒径については特に制限はないが、顔料の分散安定性が良好となり、吐出安定性、画像濃度などの画像品質も高くなる点から、最大個数換算で最大頻度が20nm以上500nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。顔料の粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
前記顔料分散体における顔料の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な吐出安定性が得られ、また、画像濃度を高める点から、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
前記顔料分散体は、必要に応じて、フィルター、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、脱気することが好ましい。
【0031】
<樹脂>
インク中に含有する樹脂の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂からなる樹脂粒子を用いても良い。樹脂粒子を、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合してインクを得ることが可能である。前記樹脂粒子としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。また、これらは、1種を単独で用いても、2種類以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な定着性、高い画像硬度を得る点から、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。
前記体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0033】
樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、定着性、インクの保存安定性の点から、インク全量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0034】
インク中の固形分の粒径については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、吐出安定性、画像濃度などの画像品質を高くする点から、最大個数換算で最大頻度が20nm以上1000nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。固形分は樹脂粒子や顔料の粒子等が含まれる。粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0035】
<添加剤>
インクには、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えても良い。
【0036】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤のいずれも使用可能である。
シリコーン系界面活性剤には特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。中でも高pHでも分解しないものが好ましく、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。また、前記シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を用いることもでき、例えば、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が、起泡性が小さいので特に好ましい。前記パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。前記パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。前記パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH4、NH3CH2CH2OH、NH2(CH2CH2OH)2、NH(CH2CH2OH)3等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩、などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
このような界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルジョン株式会社、共栄社化学などから入手できる。
上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一般式(S-1)式で表わされる、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入したものなどが挙げられる。
【0038】
【0039】
(但し、一般式(S-1)式中、m、n、a、及びbは、それぞれ独立に、整数を表わし、Rは、アルキレン基を表し、R’は、アルキル基を表す。)
上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、KF-618、KF-642、KF-643(信越化学工業株式会社)、EMALEX-SS-5602、SS-1906EX(日本エマルジョン株式会社)、FZ-2105、FZ-2118、FZ-2154、FZ-2161、FZ-2162、FZ-2163、FZ-2164(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社)、BYK-33、BYK-387(ビックケミー株式会社)、TSF4440、TSF4452、TSF4453(東芝シリコン株式会社)などが挙げられる。
【0040】
前記フッ素系界面活性剤としては、フッ素置換した炭素数が2~16の化合物が好ましく、フッ素置換した炭素数が4~16である化合物がより好ましい。
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物などが挙げられる。 これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少ないため好ましく、特に一般式(F-1)及び一般式(F-2)で表わされるフッ素系界面活性剤が好ましい。
【0041】
【0042】
上記一般式(F-1)で表される化合物において、水溶性を付与するためにmは0~10の整数が好ましく、nは0~40の整数が好ましい。
【0043】
一般式(F-2)
CnF2n+1-CH2CH(OH)CH2-O-(CH2CH2O)a-Y
【0044】
上記一般式(F-2)で表される化合物において、YはH、又はCmF2m+1でmは1~6の整数、又はCH2CH(OH)CH2-CmF2m+1でmは4~6の整数、又はCpH2p+1でpは1~19の整数である。nは1~6の整数である。aは4~14の整数である。
【0045】
上記のフッ素系界面活性剤としては市販品を使用してもよい。 この市販品としては、例えば、サーフロンS-111、S-112、S-113、S-121、S-131、S-132、S-141、S-145(いずれも、旭硝子株式会社製);フルラードFC-93、FC-95、FC-98、FC-129、FC-135、FC-170C、FC-430、FC-431(いずれも、住友スリーエム株式会社製);メガファックF-470、F-1405、F-474(いずれも、大日本インキ化学工業株式会社製);ゾニール(Zonyl)TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、UR、キャプストーンFS-30、FS-31、FS-3100、FS-34、FS-35(いずれも、Chemours社製);FT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW(いずれも、株式会社ネオス社製)、ポリフォックスPF-136A,PF-156A、PF-151N、PF-154、PF-159(オムノバ社製)、ユニダインDSN-403N(ダイキン工業株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも、良好な印字品質、特に発色性、紙に対する浸透性、濡れ性、均染性が著しく向上する点から、Chemours社製のFS-3100、FS-34、FS-300、株式会社ネオス製のFT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW、オムノバ社製のポリフォックスPF-151N及びダイキン工業株式会社製のユニダインDSN-403Nが特に好ましい。
【0046】
インク中における界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、濡れ性、吐出安定性に優れ、画像品質が向上する点から、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0047】
<消泡剤>
消泡剤としては、特に制限はなく、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、破泡効果に優れる点から、シリコーン系消泡剤が好ましい。
【0048】
<防腐防黴剤>
防腐防黴剤としては、特に制限はなく、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
【0049】
<防錆剤>
防錆剤としては、特に制限はなく、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0050】
<pH調整剤>
pH調整剤としては、pHを7以上に調整することが可能であれば、特に制限はなく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンなどが挙げられる。
【0051】
インクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
インクの25℃での粘度は、印字濃度や文字品位が向上し、また、良好な吐出性が得られる点から、5mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上25mPa・s以下がより好ましい。ここで、粘度は、例えば回転式粘度計(東機産業社製RE-80L)を使用することができる。測定条件としては、25℃で、標準コーンローター(1°34’×R24)、サンプル液量1.2mL、回転数50rpm、3分間で測定可能である。
インクの表面張力としては、記録媒体上で好適にインクがレベリングされ、インクの乾燥時間が短縮される点から、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。
インクのpHとしては、接液する金属部材の腐食防止の観点から、7~12が好ましく、8~11がより好ましい。
【0052】
<前処理液>
前処理液は、凝集剤、有機溶剤、水を含有し、必要に応じて界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤等を含有してもよい。
有機溶剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤は、インクに用いる材料と同様の材料を使用でき、その他、公知の処理液に用いられる材料を使用できる。
凝集剤の種類は特に限定されないが、カチオンポリマー、脂肪族系有機酸塩化合物、無機金属化合物等が好ましいものとして挙げられる。
【0053】
カチオンポリマーとしては、エピクロルヒドリン・ジメチルアミン付加重合物、ジシアンジアミド・ホルマリン重縮物、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド・SO2共重合物、ジアリルアミン塩・SO2共重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、アリルアミン塩の重合物、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩重合物、ポリアリルアミン、カチオンエポキシ、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ビニルホルムアミド、カチオン性樹脂エマルジョン等や、カチオン性樹脂多価金属塩などが挙げられる。
これらカチオンポリマーは市販のものを用いることが可能で、具体的には、カチオンG-50、サンスタットE-818、サンフィックス70、サンフィックス555C、サンフィックスLC-55、サンフックスPAC-700コンク、サンヨウエリオンA-3、サンフィックス414、サンフィックス555、サンフィックスPRO-100、サンフィックス555US、セロポールYM-500(以上三洋化成工業株式会社製)、#675、#FR-2P、#1001(以上住友化学工業株式会社製)、LUPASOL SC61B(BASF社製)等が挙げられる。 また、ZP-700(ビニルホルムアミド系)、MP-184(ポリアクリル酸エステル系)、MP-173H(ポリメタクリル酸エステル系)、MP-180(ポリメタクリル酸エステル系)、MX-0210(ポリメタクリル酸エステル系)、MX-8130(ポリアクリル酸エステル系)、E-395(ポリアクリル酸エステル系)、E-305(ポリアクリル酸エステル系)、Q-101(ポリアミン系)、Q-311(ポリアミン系)、Q-501(ポリアミン系)、Q-105H(ジシアンジアミド系)、Neo-600(ポリアクリルアミド系)、(以上ハイモ株式会社製)、スーパーフロック2490(ポリアクリル酸塩系)、スーパーフロック3180、3380、3580、3880、3390、3590、3500、SD2081(ポリアクリルアミド)、アコフロックC498T、C498Y(ポリアクリル酸エステル系)、スーパーフロック1500、1600、アコフロックC481、C483、C485、C488、C480 (ポリメタアクリル酸エステル)、アコフロックC567、C573、C577、C581(ポリアミン系)、(以上三井サイテック株式会社製)等が挙げられる。
【0054】
前処理液中のカチオンポリマー量は10質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。10質量%以上であることで十分な顔料凝集の効果が得られ、80質量%以下であることによりポリマー同士の凝集による画像ムラが発生しない。
【0055】
脂肪族系有機酸塩化合物としては、例えば、L-アスパラギン酸ナトリウム、L-アスパラギン酸マグネシウム、アスコルビン酸カルシウム、L-アスコルビン酸ナトリウム、琥珀酸ナトリウム、琥珀酸二ナトリウム、琥珀酸二アンモニウム、クエン酸アルミニウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸二アンモニウム、クエン酸二ナトリウム、乳酸亜鉛、乳酸アルミニウム、乳酸アンモニウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、乳酸マグネシウム、酒石酸カリウム、酒石酸カルシウム、DL-酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウム等が挙げられる。
【0056】
前処理液中の脂肪族系有機酸塩化合物量は0.1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。0.1質量%以上であることで十分な凝集の効果が得られ、30質量%以下であることにより脂肪族系有機酸塩化合物の析出を防ぐことが出来る。
【0057】
無機金属化合物としては、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マンガン、硫酸ニッケル、硫酸鉄(II)、硫酸銅(II)、硫酸亜鉛、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硝酸コバルト、硝酸ストロンチウム、硝酸銅(II)、硝酸ニッケル(II)、硝酸鉛(II)、硝酸マンガン(II)、塩化ニッケル(II)、塩化カルシウム、塩化スズ(II)、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。
中でも、多価金属塩を用いることが、色材の凝集性を向上し、画像濃度を上げることができるため好ましい。
【0058】
前処理液中の無機金属化合物量は0.1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。0.1質量%以上であることで十分な凝集の効果が得られ、30質量%であることにより脂肪族系無機金属化合物の析出を防ぐことが出来る。
【0059】
記録媒体に対する前処理液の塗工量は、例えば60~120mg/A4である。
【0060】
また本発明は、前記前処理液と、水、アゾ顔料、キナクリドン顔料および有機溶剤を含有する前記マゼンタインクと、を含むことを特徴とする前処理液とインクのセットを提供する。
前記セットによれば、顔料を記録媒体表面に留めることができ、高い画像濃度が得られる。特にアゾ顔料のような結晶径の小さな顔料や、微細な分散をしている顔料は、記録媒体表面にある繊維やコート剤に引っかかりにくく、奥深くまで浸透してしまうため、このセットがもたらす効果は顕著である。前処理液には、前記のように、カチオンポリマー、脂肪族系有機酸塩化合物、無機金属化合物のいずれかを含有することで、顔料の急速な凝集が促されるため、より好ましい。
また前記のように、顔料の分散性の観点並びにキナクリドン顔料との相互作用の観点から、アゾ顔料の中でもC.I.PR150、C.I.PR269およびC.I.PR48:3から選択された1種または2種以上の顔料が好ましく、C.I.PR150がさらに好ましい。さらに、高い画像濃度を提供できるという観点から、キナクリドン顔料の中でもC.I.PR122、C.I.PR202およびC.I.PV19から選択された1種または2種以上の顔料が好ましく、C.I.PR122および/またはC.I.PV19がさらに好ましい。
【0061】
<後処理液>
後処理液は、透明な層を形成することが可能であれば、特に限定されない。後処理液は、有機溶剤、水、樹脂、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤等、必要に応じて選択し、混合して得られる。また、後処理液は、記録媒体に形成された記録領域の全域に塗布しても良いし、インク像が形成された領域のみに塗布しても良い。
【0062】
<記録媒体>
記録に用いる記録媒体としては、普通紙、光沢紙、特殊紙、フィルム、OHPシート、汎用印刷紙等が挙げられる。さらに一般的な記録媒体として用いられるものに限られず、壁紙、床材、タイル等の建材等を適宜使用することができる。また、記録媒体を搬送する経路の構成を調整することにより、セラミックスやガラス、金属などを使用することもできる。なお、インクが深くまで浸透するTシャツなど衣料用等の布、テキスタイルは本発明に用いる記録媒体としては好ましくない。。
【0063】
<記録物>
本発明のインク記録物は、記録媒体上に、本発明のインクを用いて形成された画像を有してなる。
インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法により記録して記録物とすることができる。
【0064】
<記録装置、記録方法>
本発明のインクは、インクジェット記録方式による各種記録装置、例えば、プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機、立体造形装置などに好適に使用することができる。
本発明において、記録装置、記録方法とは、記録媒体に対してインクや各種処理液等を吐出することが可能な装置、当該装置を用いて記録を行う方法である。記録媒体とは、インクや各種処理液が一時的にでも付着可能なものを意味する。
この記録装置には、インクを吐出するヘッド部分だけでなく、記録媒体の給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
記録装置、記録方法は、加熱工程に用いる加熱手段、乾燥工程に用いる乾燥手段を有しても良い。加熱手段、乾燥手段には、例えば、記録媒体の印字面や裏面を加熱、乾燥する手段が含まれる。加熱手段、乾燥手段としては、特に限定されないが、例えば、温風ヒーター、赤外線ヒーターを用いることができる。加熱、乾燥は、印字前、印字中、印字後などに行うことができる。
また、記録装置、記録方法は、インクによって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、幾何学模様などのパターン等を形成するもの、3次元像を造形するものも含まれる。
また、記録装置には、特に限定しない限り、吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、吐出ヘッドを移動させないライン型装置のいずれも含まれる。
更に、この記録装置には、卓上型だけでなく、A0サイズの記録媒体への印刷も可能とする広幅の記録装置や、例えばロール状に巻き取られた連続用紙を記録媒体として用いることが可能な連帳プリンタも含まれる。
【0065】
記録装置の一例について
図1乃至
図2を参照して説明する。
図1は同装置の斜視説明図である。
図2はメインタンクの斜視説明図である。記録装置の一例としての画像形成装置400は、シリアル型画像形成装置である。画像形成装置400の外装401内に機構部420が設けられている。ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク410(410k、410c、410m、410y)の各インク収容部411は、例えばアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。インク収容部411は、例えば、プラスチックス製の収容容器ケース414内に収容される。これによりメインタンク410は、各色のインクカートリッジとして用いられる。
一方、装置本体のカバー401cを開いたときの開口の奥側にはカートリッジホルダ404が設けられている。カートリッジホルダ404には、メインタンク410が着脱自在に装着される。これにより、各色用の供給チューブ436を介して、メインタンク410の各インク排出口413と各色用の吐出ヘッド434とが連通し、吐出ヘッド434から記録媒体へインクを吐出可能となる。
【0066】
この記録装置には、インクを吐出する部分だけでなく、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
前処理装置、後処理装置の一態様として、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)などのインクの場合と同様に、前処理液や、後処理液を有する液体収容部と液体吐出ヘッドを追加し、前処理液や、後処理液をインクジェット記録方式で吐出する態様がある。
前処理装置、後処理装置の他の態様として、インクジェット記録方式以外の、例えば、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法による前処理装置、後処理装置を設ける態様がある。
【0067】
なお、インクの使用方法としては、インクジェット記録方法に制限されず、広く使用することが可能である。インクジェット記録方法以外にも、例えば、ブレードコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法、スプレーコート法などが挙げられる。
【0068】
<用途>
本発明のインクの用途は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、印刷物、塗料、コーティング材、下地用などに応用することが可能である。記録媒体等の基材上にインクを付与した構造体を加工してなる成形加工品も含まれる。前記成形加工品は、例えば、シート状、フィルム状に形成された記録物や構造体に対して、加熱延伸や打ち抜き加工等の成形加工を施したものであり、例えば、自動車、OA機器、電気・電子機器、カメラ等のメーターや操作部のパネルなど、表面を加飾後に成形する用途に好適に使用される。
【0069】
また、本発明の用語における、画像形成、記録、印字、印刷等は、いずれも同義語とする。
【0070】
記録媒体、メディア、被印刷物は、いずれも同義語とする。
【実施例】
【0071】
以下に本発明の実施例および比較例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。 なお、実施例に記載の各成分の量(%)は特に記載の無い場合は固形分で質量基準である。また、実施例1~5、7~11、13~17とあるのは、本発明に含まれない参考例1~5、7~11、13~17とする。
【0072】
<マゼンタインク1~8の作成>
表1記載の処方(質量%)にて各成分を混合攪拌した後、pHが9になるように水酸化リチウム10%水溶液にて調整し、平均孔径0.1μmのメンブレンフィルターで濾過を行いマゼンタインクを得た。
【0073】
【0074】
<マゼンタインク9~16の作成>
表2に記載の処方(質量%)にて各成分を混合攪拌した後、平均孔径0.1μmのメンブレンフィルターで濾過を行いマゼンタインクを得た。
【0075】
―ポリマー溶液の調製―
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管、及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー4.0g、及びメルカプトエタノール0.4gを混合し65℃に昇温した。
次に、スチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g、及びメチルエチルケトン18.0gの混合溶液を、2.5時間かけてフラスコ内に滴下した。 滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけてフラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加して、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364.0gを添加し、濃度が50質量%のポリマー溶液を800g得た。
【0076】
―マゼンタ顔料分散体の調製―
前記ポリマー溶液を28g、C.I.PR57:1を42g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20.0g、及びイオン交換水13.6gを十分に攪拌した後、ロールミルを用いて混練した。
得られたペーストを純水200gに投入し、充分に攪拌した後、エバポレータを用いてメチルエチルケトン及び水を留去し、更に粗大粒子を除くために平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターで加圧濾過し、顔料15質量%含有、固形分20質量%のC.I.PR57:1のマゼンタ顔料分散体を得た。
C.I.PR48:3、PR150、PR209、PR202、PR122、PV19についても同様の操作でそれぞれ分散体を得た。
【0077】
【0078】
<マゼンタインク17~24の作成>
表3に記載の処方(質量%)にて各成分を混合攪拌した後、平均孔径0.1μmのメンブレンフィルターで濾過を行いインクを得た。顔料分散体については、マゼンタインク9~16と同様の方法で得た。
【0079】
【0080】
<前処理液1(カチオンポリマー含有)の作成>
下記処方にて各成分を混合攪拌した後、pHが7になるようにトリエタノールアミンで調整し、前処理液1を得た。
カチオンG-50(三洋化成工業株式会社製アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド カチオン界面活性剤)・・・1質量%
PAS-J-81L(ニートーボーメディカル株式会社製ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体)カチオン樹脂(重合平均分子量10000)・・・50質量%
グリセリン・・・10質量%
サンパックAP(三愛石油製防カビ剤)・・・0.4質量%
トリエタノールアミン・・・pH7になるように調整
イオン交換水・・・残量
【0081】
<前処理液2(脂肪族系有機酸塩化合物含有)の作成>
下記処方にて各成分を混合攪拌した後、平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターで加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去して前処理液2を得た。
乳酸カルシウム・・・10質量%
1,3-ブタンジオール・・・10質量%
グリセリン・・・10質量%
2-エチル-1,3-ヘキサンジオール・・・1質量%
イオン交換水・・・残量
【0082】
<前処理液3(無機金属化合物含有)の作成>
下記処方にて各成分を混合攪拌した後、平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターで加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去して前処理液3を得た。
硫酸マグネシウム・・・10質量%
1,3-ブタンジオール・・・10質量%
グリセリン・・・10質量%
2-エチル-1,3-ヘキサンジオール・・・1質量%
イオン交換水・・・残量
【0083】
実施例1~18、比較例1~15
マゼンタインクおよび前処理液を表4~6に示す組み合わせで使用し、マゼンタインクの分散性、耐光性、画像濃度に関する評価を行った。マゼンタインクの分散性評価については前処理液を使用せず、インクのみで評価を行った。結果も表4~6に記載する。
【0084】
<マゼンタインクの分散性の評価>
粘度計(RE-80L、RE-550L、東機産業株式会社製)を使用し、25℃条件下でマゼンタインクの粘度を測定した。次に密封した容器中で70℃、14日保存したマゼンタインクについて、同様に粘度を測定した。次式に従って分散安定度の値を算出し、以下の評価基準に基づいて評価した。
分散安定度(%)=保存後の粘度÷保存前の粘度×100
〔分散性の評価基準〕
◎:分散安定度が100±5%以下
○:分散安定度が100±5%超10%以下
△:分散安定度が100±10%超20%未満
×:分散安定度が100±20%以上
【0085】
<耐光性の評価>
インクカートリッジに詰めたインクおよび前処理液を、インクジェットプリンタ(株式会社リコー製、IPSIO G707)に充填し、コート紙LAG90に前処理液をワンパスでベタを印字した後、マゼンタインクをワンパスでベタを印字した。アトラス社製ウェザオメータCi35AWを用いて、70℃、50%RH、ブラックパネル温度89℃の環境下にて、屋外太陽光近似のキセノン放射照度0.35W/m2(340nm)で24時間照射し、前後の退色、色変化を以下の評価基準で判定した。
【0086】
〔耐光性の評価基準〕
◎:変化がない
○:ほとんど変化がない
△:退色、色変化がある
×:基材の白地部が見える程度の明らかな退色、色変化がある
【0087】
<濃度の評価>
耐光性評価と同様の方法で画像を作成した。記録媒体はコート紙LAG90に加え、普通紙マイペーパー(リコー社製)についても試験を行った。反射型カラー分光測色濃度計(X-Rite社製)により測定した。
【0088】
〔濃度の評価基準〕
◎:OD1.1以上
○:OD1.0以上1.1未満
△:OD0.9以上1.0未満
×:OD0.9未満
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
表4~6の結果から、各実施例では、記録媒体に前処理液を付与する前処理液付与工程と、前記前処理液付与工程後の前記記録媒体にインクを付与して画像を形成するインク付与工程とを含み、前記インクが、水、アゾ顔料、キナクリドン顔料および有機溶剤を含有するマゼンタインクを含む画像形成方法を適用しているので、各比較例に比べて、優れた顔料分散性および耐光性並びに高い画像濃度を高次元に両立できることが判明した。
【符号の説明】
【0093】
400 画像形成装置
401 画像形成装置の外装
401c 装置本体のカバー
404 カートリッジホルダ
410 メインタンク
410k、410c、410m、410y ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク
411 インク収容部
413 インク排出口
414 収容容器ケース
420 機構部
434 吐出ヘッド
436 供給チューブ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0094】
【文献】特許第6110744号公報
【文献】特許第5947712号公報