(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】立体造形物の製造方法、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造プログラム
(51)【国際特許分類】
B22F 10/14 20210101AFI20220308BHJP
B29C 64/165 20170101ALI20220308BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220308BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20220308BHJP
【FI】
B22F10/14
B29C64/165
B33Y10/00
B22F3/00 A
(21)【出願番号】P 2018045368
(22)【出願日】2018-03-13
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】大谷 直生
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-139977(JP,A)
【文献】特開2016-172416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00
B22F 3/00
B22F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形用粒子、水に可溶である第1の樹脂及び水に不可溶である第2の樹脂を含む粉体層を形成する形成工程と、
前記第1の樹脂を溶解可能な水溶液である第1の液を前記粉体層の造形領域に吐出して固化する第1の固化工程と、
前記第2の樹脂を溶解可能な第2の液を前記造形領域と隣接する隣接領域に吐出して固化する第2の固化工程と、
を含むことを特徴とする立体造形物の製造方法。
【請求項2】
前記隣接領域で固化した前記第2の樹脂のほうが、前記造形領域で固化した前記第1の樹脂よりも結着力が低い請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項3】
前記造形領域の周縁部に前記第1の液を吐出し、前記造形領域と隣接する側における前記隣接領域の周縁部に前記第2の液を吐出する場合には、前記第1の液及び前記第2の液を実質的に同時に吐出する請求項1から2のいずれかに記載の立体造形物の製造方法。
【請求項4】
前記第1の固化工程において、前記造形領域に前記第2の液を吐出し、
前記第2の固化工程において、前記隣接領域に前記第1の液を吐出する請求項1から3のいずれかに記載の立体造形物の製造方法。
【請求項5】
前記造形用粒子が前記第1の樹脂及び前記第2の樹脂の少なくともいずれかによって覆われている請求項1から4のいずれかに記載の立体造形物の製造方法。
【請求項6】
前記造形用粒子の融点をTmとし、前記第1の樹脂及び前記第2の樹脂の熱分解開始温度をそれぞれTd1及びTd2としたとき、
次式、Td1<0.8×Tm、かつ、次式、Td2<0.8×Tm、を満たす請求項1から5のいずれかに記載の立体造形物の製造方法。
【請求項7】
造形用粒子、水に可溶である第1の樹脂及び水に不可溶である第2の樹脂を含む粉体層を形成する形成手段と、
前記第1の樹脂を溶解可能な水溶液である第1の液を前記粉体層の造形領域に吐出して固化する第1の固化手段と、
前記第2の樹脂を溶解可能な第2の液を前記造形領域と隣接する隣接領域に吐出して固化する第2の固化手段と、
を有することを特徴とする立体造形物の製造装置。
【請求項8】
造形用粒子、水に可溶である第1の樹脂及び水に不可溶である第2の樹脂を含む粉体層を形成し、
前記第1の樹脂を溶解可能な水溶液である第1の液を前記粉体層の造形領域に吐出して固化し、
前記第2の樹脂を溶解可能な第2の液を前記造形領域と隣接する隣接領域に吐出して固化する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする立体造形物の製造プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形物の製造方法、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
粉末積層造形法は、粉末状の材料に対し、レーザなどの電磁照射源による融解やバインダー樹脂による接着で一層ずつ一体化させて層状造形物を造形し、その層状造形物を積層して立体造形物を製造する方法である。
【0003】
電磁照射源による方法としては、例えば、選択的にレーザ光を粉末材料に照射することにより粉末材料を融解して一体化させ、立体造形物を製造するSLS(Selective Laser Sintering)方式などが知られている。一方、バインダー樹脂による方法としては、例えば、バインダー樹脂を含むインクをインクジェット等の方法により粉末材料に吐出して一体化させ、立体造形物を製造するバインダージェット(Binder Jetting)方式などが知られている。
【0004】
このバインダージェット方式で製造する立体造形物の品質を向上させるため、様々な提案がされている。例えば、立体造形物の外表面を滑らかにして寸法精度を向上する目的で、造形領域と非造形領域にそれぞれ別種の熱硬化性樹脂含有インクを吐出する製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、立体造形物を造形するための液の吐出安定性を高めることができ、かつ立体造形物の寸法精度及び余剰粉除去効率を向上できる立体造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するための手段としての本発明の立体造形物の製造方法は、造形用粒子、第1の樹脂及び第2の樹脂を含む粉体層を形成する形成工程と、前記第1の樹脂を溶解可能な第1の液を前記粉体層の造形領域に吐出して固化する第1の固化工程と、前記第2の樹脂を溶解可能な第2の液を前記造形領域と隣接する隣接領域に吐出して固化する第2の固化工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、立体造形物を造形するための液の吐出安定性を高めることができ、かつ立体造形物の寸法精度及び余剰粉除去効率を向上できる立体造形物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1における立体造形物の製造装置を示す概略平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した立体造形物の製造装置の概略側面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した立体造形物の製造装置の造形部を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態1における立体造形物の製造装置を示すブロック図である。
【
図5A】
図5Aは、実施形態1での造形動作の流れを示す概略断面図である。
【
図5B】
図5Bは、実施形態1での造形動作の流れを示す概略断面図である。
【
図5C】
図5Cは、実施形態1での造形動作の流れを示す概略断面図である。
【
図5D】
図5Dは、実施形態1での造形動作の流れを示す概略断面図である。
【
図5E】
図5Eは、実施形態1での造形動作の流れを示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態1における造形動作を示す説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態2における造形動作を示す説明図である。
【
図8】
図8は、実施形態3における造形動作を示す説明図である。
【
図9】
図9は、実施形態4における造形動作を示す説明図である。
【
図10】
図10は、実施形態5における造形動作を示す説明図である。
【
図11】
図11は、実施形態3における造形動作を行う処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(立体造形物の製造方法、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造プログラム)
本発明の立体造形物の製造装置は、本発明の立体造形物の製造プログラムを読み出して実行することで、本発明の立体造形物の製造方法を実行する装置として動作する。即ち、本発明の立体造形物の製造装置は、本発明の立体造形物の製造方法と同様の機能をコンピュータに実行させる本発明の立体造形物の製造プログラムを有する。
つまり、本発明の立体造形物の製造装置は、本発明の立体造形物の製造方法を実施することと同義であるので、本発明の立体造形物の製造装置の説明を通じて本発明の立体造形物の製造方法の詳細についても明らかにする。また、本発明の立体造形物の製造プログラムは、ハードウェア資源としてのコンピュータ等を用いることにより、本発明の立体造形物の製造装置として実現させる。このため、本発明の立体造形物の製造装置の説明を通じて本発明の立体造形物の製造プログラムの詳細についても明らかにする。
なお、本発明の立体造形物の製造プログラムは、本発明の立体造形物の製造装置によって実行されることに限定されるものではない。例えば、本発明の立体造形物の製造プログラムは、他のコンピュータ又はサーバによって実行されてもよく、本発明の立体造形物の製造装置、他のコンピュータ、及びサーバのいずれかが協働して実行されてもよい。
【0010】
本発明の立体造形物の製造装置は、造形用粒子、第1の樹脂及び第2の樹脂を含む粉体層を形成する形成手段と、第1の樹脂を溶解可能な第1の液を粉体層の造形領域に吐出して固化する第1の固化手段と、第2の樹脂を溶解可能な第2の液を造形領域と隣接する隣接領域に吐出して固化する第2の固化手段と、を有する。
本発明の立体造形物の製造装置は、従来のバインダージェット方式の技術では、造形用インクが樹脂を含んでいるため粘度が高くなり、インクジェットの吐出安定性が低くなりやすいという知見に基づくものである。
【0011】
本発明の立体造形物の製造方法は、立体造形物を造形する造形領域に第1の液、及び、造形領域に隣接する周縁の領域に第2の液を吐出することで、第1の液が造形領域からはみ出して浸透することを抑制するため、立体造形物の寸法精度を高めることができる。また、例えば、立体造形物を第1の樹脂で造形した場合には、立体造形物に隣接して固化されている第2の樹脂を第2の液で溶解させることにより、立体造形物の周りに付着する余剰粉体を一挙に除去できるため、外力印加で除去する場合と比べて余剰粉除去効率を向上できる。さらに、第1の液及び第2の液は、樹脂を含まないため粘度を低くすることができる。このため、本発明の立体造形物の製造装置は、粘度が低めの第1の液及び第2の液を吐出することから、吐出安定性を高めることができる。
【0012】
本発明の立体造形物の製造装置は、形成手段と、第1の固化手段と、第2の固化手段とを有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0013】
<形成手段>
形成手段は、造形用粒子、第1の樹脂及び第2の樹脂を含む粉体層を形成する。
形成手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉体を供給する機構と供給された粉体を均しながら層を形成する機構の組合せなどが挙げられる。
【0014】
<<造形用粒子>>
造形用粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水及び有機溶媒に不溶な材質による粒子などが挙げられる。
水及び有機溶媒に不溶な材質としては、例えば、ステンレス、チタン、アルミニウム、磁性材料、ガラス、砂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの中でも、発火性を有する造形用粒子としては、例えば、ステンレス、チタン、アルミニウムなどが挙げられる。
【0015】
<<第1の樹脂及び第2の樹脂>>
第1の樹脂としては、例えば、水に可溶であり、かつ有機溶媒に不可溶な樹脂(以下、「水可溶・有機溶媒不溶樹脂」と称することがある)などが挙げられる。
水可溶・有機溶媒不溶樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリグリコール酸(PGA)、グルコースなどが挙げられる。
第2の樹脂としては、例えば、水に不可溶である、かつ有機溶媒に可溶な樹脂(以下、「水不溶・有機溶媒可溶樹脂」と称することがある)などが挙げられる。
水不溶・有機溶媒可溶樹脂とは、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ビフェニル、ポリ酢酸ビニルなどが挙げられる。
有機溶媒としては、例えば、アセトン、エタノール、ベンゼン、クロロホルムなどが挙げられる。
なお、第1の樹脂及び第2の樹脂は、例えば、一方が水可溶・有機溶媒不溶樹脂であれば、他方が水不溶・有機溶媒可溶樹脂であればよいが、ここでは説明を容易にするため、第1の樹脂が水可溶・有機溶媒不溶樹脂、第2の樹脂が水不溶・有機溶媒可溶樹脂とする。
【0016】
第1の樹脂及び第2の樹脂の少なくともいずれかが微粒子であることが好ましい。第1の樹脂及び第2の樹脂の少なくともいずれかが微粒子であると、造形用粒子の流動性を阻害しにくくなるため、粉体層を容易に形成することができる。また、第1の樹脂及び第2の樹脂の少なくともいずれかの微粒子を1種又は2種以上の造形用粒子に混合することにより、容易に粉体層の材料として用いることができるため、粉体層の材料のバリエーションを増やすことができる。
【0017】
造形用粒子は、第1の樹脂及び第2の樹脂の少なくともいずれかによって覆われていることが好ましい。造形用粒子が第1の樹脂及び第2の樹脂の少なくともいずれかによって覆われていると、発火性を有する造形用粒子を用いる場合には、造形用粒子の大気曝露を防止することにより発火を抑制することができる。また、造形用粒子が第1の樹脂及び第2の樹脂の少なくともいずれかによって覆われていると、いずれかの液が吐出されたときに、造形用粒子同士が接着しやすくなるため、固化した状態の焼結させる前のグリーン体の機械的強度を向上させることができる。
【0018】
造形用粒子の融点をTmとし、第1の樹脂及び第2の樹脂の熱分解開始温度をそれぞれTd1及びTd2としたとき、次式、Td1<0.8×Tm、かつ、次式、Td2<0.8×Tm、を満たすことが好ましい。これらの2つの式を満たすと、 造形物をTm以上の温度で加熱したとき、第1の樹脂及び第2の樹脂が消失し、造形物の純度を向上 する点で有利である。
【0019】
融点は、例えば、示差走査熱量測定を用いて測定することができる。
また、熱分解開始温度とは、熱分解が可能な最低温度を意味する。熱分解開始温度は、例えば、示差熱熱重量同時測定(TG-DTA)により測定することができる。
【0020】
<第1の固化手段>
第1の固化手段は、第1の樹脂を溶解可能な第1の液を粉体層の造形領域に吐出して固化する。なお、造形領域とは、立体造形物を造形する領域を意味する。
第1の固化手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インクジェット方式の吐出ヘッドなどが挙げられる。
【0021】
<<第1の液>>
第1の液としては、第1の樹脂を溶解可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、架橋剤含有水、水系インクなどが挙げられる。
【0022】
<第2の固化手段>
第2の固化手段は、第2の樹脂を溶解可能な第2の液を造形領域と隣接する隣接領域に吐出して固化する。なお、隣接領域とは、造形領域に隣接する周縁の領域を意味する。
第2の固化手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、第1の固化手段と同様に、インクジェット方式の吐出ヘッドなどが挙げられる。
【0023】
<<第2の液>>
第2の液としては、第2の樹脂を溶解可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、アセトン、クロロホルム、有機溶媒系インク、などが挙げられる。
【0024】
隣接領域で固化した第2の樹脂のほうが、造形領域で固化した第1の樹脂よりも結着力が低いことが好ましい。第1の樹脂を固化させた立体造形物から隣接領域で固化した第2の樹脂を除去しやすい点で有利である。
【0025】
各液の吐出のタイミングとしては、造形領域の周縁部に第1の液を吐出し、造形領域と隣接する側における隣接領域の周縁部に第2の液を吐出する場合には、第1の液及び第2の液を実質的に同時に吐出することが好ましい。第1の固化手段及び第2の固化手段は、実質的に同時に第1の液及び第2の液を吐出できれば、いずれかの液が粉体層の隣接領域に意図せず浸透することを抑制することができ、立体造形物の寸法精度を高めることができる。
また、実質的に同時としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100ミリ秒以内が好ましい。100ミリ秒以内であると、一方の液が粉体層の造形領域に浸透する前に他方の液が粉体層の隣接領域に浸透することにより、一方の液が隣接領域に浸透させないようにすることができる。
【0026】
なお、水を含有する第1の液を造形領域に吐出し、有機溶媒を含有する第2の液を隣接領域に吐出するとしたが、第2の液を造形領域に吐出し、第1の液を隣接領域に吐出するようにしてもよい。これにより、造形領域が広い場合には第2の液が揮発することにより、すぐに次に粉体層を重ねて形成することができるため、造形速度を高めることができる。
【0027】
<その他の手段>
その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、固化手段における吐出不良の発生を抑制するメンテナンス手段などが挙げられる。
【0028】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は、これらの実施形態に何ら限定されるものではない。
なお、下記構成部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
【0029】
(実施形態1)
図1は、実施形態1における立体造形物の製造装置を示す概略平面図である。
図2は、
図1に示した立体造形物の製造装置の概略側面図である。
図3は、
図1に示した立体造形物の製造装置の造形部を示す拡大側面図である。
図4は、実施形態1における立体造形物の製造装置を示すブロック図である。
図1から
図4に示すように、立体造形物の製造装置601は、粉体を供給する粉体供給部80と、粉体が結合された層状造形物である造形層30が形成される造形部1と、造形部1の層状に敷き詰められた粉体層31に第1の液としての水系インク10a及び第2の液としての有機溶媒系インク10bを吐出して立体造形物を造形する造形ユニット5とを備えている。なお、水系インク10a及び有機溶媒系インク10bをまとめて「造形液10」と称することがある。
【0030】
造形部1は、粉体槽11と、平坦化部材(リコータ)である回転体としての平坦化ローラ12などを備えている。なお、平坦化部材は、回転体に代えて、例えば板状部材(ブレード)とすることもできる。
【0031】
粉体槽11は、粉体20を供給する供給槽21と、造形層30が積層されて立体造形物が造形される造形槽22とを有している。造形前に粉体供給部80から粉体を供給される、供給槽21の底部は供給ステージ23として鉛直方向(高さ方向)に昇降自在となっている。同様に、造形槽22の底部は造形ステージ24として鉛直方向(高さ方向)に昇降自在となっている。造形ステージ24上に造形層30が積層された立体造形物が造形される。
【0032】
供給ステージ23は、モータによって矢印Z方向(高さ方向)に昇降され、造形ステージ24は、同じく、モータ28によって矢印Z方向に昇降される。
【0033】
平坦化ローラ12は、供給槽21の供給ステージ23上に供給された粉体20を造形槽22に供給し、平坦化部材である平坦化ローラ12によって均して平坦化して、粉体層31を形成する。
この平坦化ローラ12は、造形ステージ24のステージ面(粉体20が積載される面)に沿って矢印Y方向に、ステージ面に対して相対的に往復移動可能に配置され、Y方向走査機構552によって移動される。また、平坦化ローラ12は、モータ26によって回転駆動される。
【0034】
一方、造形ユニット5は、造形ステージ24上の粉体層31に造形液10を吐出する液体吐出ユニット50を備えている。
液体吐出ユニット50は、キャリッジ51と、キャリッジ51に搭載された2つ(1又は3つ以上でもよい。)の液体吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)52a、52bを備えている。
【0035】
キャリッジ51は、ガイド部材54及び55に移動可能に保持されている。ガイド部材54及び55は、両側の側板70、70に昇降可能に保持されている。
このキャリッジ51は、後述するX方向走査機構550によってプーリ及びベルトから構成される主走査移動機構を介して主走査方向である矢印X方向(以下、単に「X方向」という。他のY、Zについても同様とする。)に往復移動される。
【0036】
2つのヘッド52a、52b(以下、区別しないときは「ヘッド52」という。)は、液体を吐出する複数のノズルを配列したノズル列がそれぞれ2列配置されている。一方のヘッド52aの2つのノズル列は、第1の液としての水系インク10aを吐出する。他方のヘッド52bの2つのノズル列は、第2の液としての有機溶媒系インク10bをそれぞれ吐出する。なお、ヘッド構成はこれに限るものではない。
これらの水系インク10a及び有機溶媒系インク10bをそれぞれ収容した複数のタンク60がタンク装着部56に装着され、供給チューブなどを介してヘッド52a、52bに供給される。
また、X方向の一方側には、液体吐出ユニット50のヘッド52の維持回復を行うメンテナンス機構61が配置されている。
【0037】
メンテナンス機構61は、主にキャップ62とワイパ63で構成される。キャップ62をヘッド52のノズル面(ノズルが形成された面)に密着させ、ノズルから造形液を吸引する。ノズルに詰まった粉体の排出や高粘度化した造形液を排出するためである。その後、ノズルのメニスカス形成(ノズル内は負圧状態である)のため、ノズル面をワイパ63でワイピング(払拭)する。また、メンテナンス機構61は、造形液の吐出が行われない場合に、ヘッドのノズル面をキャップ62で覆い、粉体20がノズルに混入することや造形液10が乾燥することを防止する。
【0038】
造形ユニット5は、ベース部材7上に配置されたガイド部材71に移動可能に保持されたスライダ部72を有し、造形ユニット5全体がX方向と直交するY方向(副走査方向)に往復移動可能である。この造形ユニット5は、後述するモータ駆動部512を含むY方向走査機構552によって全体がY方向に往復移動される。
【0039】
液体吐出ユニット50は、ガイド部材54、55とともに矢印Z方向に昇降可能に配置され、後述するモータ駆動部511を含むZ方向昇降機構551によってZ方向に昇降される。
【0040】
ここで、造形部1の詳細について説明する。
粉体槽11は、箱型形状をなし、供給槽21と造形槽22と、余剰粉体受け槽25の3つの上面が開放された槽とを備えている。供給槽21内部には供給ステージ23が、造形槽22内部には造形ステージ24がそれぞれ昇降可能に配置される。
【0041】
供給ステージ23の側面は供給槽21の内側面に接するように配置されている。造形ステージ24の側面は造形槽22の内側面に接するように配置されている。これらの供給ステージ23及び造形ステージ24の上面は水平に保たれている。
【0042】
平坦化ローラ12は、供給槽21から粉体20を造形槽22へと移送供給して、表面を均すことで平坦化して所定の厚みの層状の粉体である粉体層31を形成する。
この平坦化ローラ12は、造形槽22及び供給槽21の内寸(即ち、粉体が供される部分又は仕込まれている部分の幅)よりも長い棒状部材であり、Y方向走査機構552によってステージ面に沿ってY方向(副走査方向)に往復移動される。
この平坦化ローラ12は、モータ26によって回転されながら、供給槽21の外側から供給槽21及び造形槽22の上方を通過するようにして水平移動する。これにより、粉体20が造形槽22上へと移送供給され、平坦化ローラ12が造形槽22上を通過しながら粉体20を平坦化することで粉体層31が形成される。
【0043】
また、
図2にも示すように、平坦化ローラ12の周面に接触して、平坦化ローラ12に付着した粉体20を除去するための粉体除去部材である粉体除去板13が配置されている。
粉体除去板13は、平坦化ローラ12の周面に接触した状態で、平坦化ローラ12とともに移動する。また、粉体除去板13は、平坦化ローラ12が平坦化を行うときの回転方向に回転するときにカウンタ方向でも、順方向での配置可能である。
【0044】
本実施形態では、造形部1の粉体槽11が供給槽21と造形槽22の二つの槽を有する構成としているが、造形槽22のみとして、造形槽22に粉体供給部80から粉体を供給して、平坦化手段で平坦化する構成とすることもできる。
【0045】
次に、立体造形物の製造装置601の制御部の概要について、
図4を参照して説明する。
制御部500は、この立体造形物の製造装置601全体の制御を司るCPU501と、CPU501に本発明に係わる制御を含む立体造形動作の制御を実行させるためのプログラムを含むプログラム、その他の固定データを格納するROM502と、造形データ等を一時格納するRAM503とを含む主制御部500Aを備えている。
【0046】
制御部500は、装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための不揮発性メモリ(NVRAM)504を備えている。また、制御部500は、画像データに対する各種信号処理等を行う画像処理やその他装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC505を備えている。
【0047】
制御部500は、外部の造形データ作成装置600から造形データを受信するときに使用するデータ及び信号の送受を行うためのI/F506を備えている。なお、造形データ作成装置600は、最終形態の造形物を各造形層にスライスした造形データを作成する装置であり、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置で構成されている。
【0048】
制御部500は、各種センサの検知信号を取り込むためのI/O507を備えている。
制御部500は、液体吐出ユニット50の各ヘッド52を駆動制御するヘッド駆動制御部508を備えている。
制御部500は、液体吐出ユニット50のキャリッジ51をX方向(主走査方向)に移動させるX方向走査機構550を構成するモータを駆動するモータ駆動部510と、造形ユニット5をY方向(副走査方向)に移動させるY方向走査機構552を構成するモータを駆動するモータ駆動部512を備えている。
制御部500は、液体吐出ユニット50のキャリッジ51をZ方向に移動(昇降)させるZ方向昇降機構551を構成するモータを駆動するモータ駆動部511を備えている。なお、矢印Z方向への昇降は造形ユニット5全体を昇降させる構成とすることもできる。
制御部500は、供給ステージ23を昇降させるモータ27を駆動するモータ駆動部513と、造形ステージ24を昇降させるモータ28を駆動するモータ駆動部514を備えている。
制御部500は、平坦化ローラ12を移動させるY方向走査機構552のモータ553を駆動するモータ駆動部515と、平坦化ローラ12を回転駆動するモータ26を駆動するモータ駆動部516を備えている。
制御部500は、供給槽21に粉体20を供給する粉体供給部80を駆動する供給駆動部519と、液体吐出ユニット50のメンテナンス機構61を駆動するメンテナンス駆動部518を備えている。
制御部500は、粉体供給部80から粉体20の供給を行わせる供給駆動部519を備えている。
制御部500のI/O507には、装置の環境条件としての温度及び湿度を検出する温湿度センサ560などの検知信号やその他のセンサ類の検知信号が入力される。
制御部500には、この装置に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル522が接続されている。
なお、造形データ作成装置600と立体造形物の製造装置601によって造形装置が構成される。
【0049】
次に、造形の流れについて
図5A~
図5Eを参照して説明する。
図5A~
図5Eは、造形の流れの説明に供する模式的説明図である。
造形槽22の造形ステージ24上に、1層目の造形層30が形成されている状態から説明する。
この造形層30上に次の造形層30を形成するときには、
図5Aに示すように、供給槽21の供給ステージ23をZ1方向に上昇させ、造形槽22の造形ステージ24をZ2方向に下降させる。
【0050】
このとき、造形槽22の上面(粉体層表面)と平坦化ローラ12の下部(下方接線部)との間隔がΔtとなるように造形ステージ24の下降距離を設定する。この間隔Δtが次に形成する粉体層31の厚さに相当する。間隔Δtは、数十~100μm程度であることが好ましい。
【0051】
次いで、
図5Bに示すように、供給槽21の上面レベルよりも上方に位置する粉体20を、平坦化ローラ12を順方向(矢印方向)に回転しながらY2方向(造形槽22側)に移動することで、粉体20を造形槽22へと移送供給する(粉体供給)。
【0052】
さらに、
図5Cに示すように、平坦化ローラ12を造形槽22の造形ステージ24のステージ面と平行に移動させ、
図5Dに示すように、造形ステージ24の造形層30上で所定の厚さΔtになる粉体層31を形成する(平坦化)。粉体層31を形成後、平坦化ローラ12は、
図5Dに示すように、Y1方向に移動されて初期位置に戻される。
【0053】
ここで、平坦化ローラ12は、造形槽22及び供給槽21の上面レベルとの距離を一定に保って移動できるようになっている。一定に保って移動できることで、平坦化ローラ12で粉体20を造形槽22の上へと搬送させつつ、造形槽22上又は既に形成された造形層30の上に均一厚さΔtの粉体層31を形成できる。
【0054】
その後、
図5Eに示すように、液体吐出ユニット50のヘッド52から造形液10の液滴を吐出して、次の粉体層31に造形層30を積層形成する(造形)。なお、この造形動作についての詳細の説明は、
図6~
図11を参照しながら後述する。
【0055】
次いで、上述した粉体供給・平坦化よる粉体層31を形成する工程、ヘッド52による造形液吐出工程を繰り返して新たな造形層30を形成する。このとき、新たな造形層30とその下層の造形層30とは一体化して三次元形状造形物の一部を構成する。
以後、粉体の供給・平坦化よる粉体層31を形成する工程、ヘッド52による造形液吐出工程を必要な回数繰り返すことによって、三次元形状造形物(立体造形物)を完成させる。
【0056】
次に、実施形態1における造形動作を説明する。
図6は、実施形態1における造形動作を示す説明図である。
図6は、
図5A~
図5Dに示したように、粉体20が供給されて平坦化することで粉体層31を形成した状態である。粉体20は、造形用粒子20cと、第1の樹脂としての水可溶・有機溶媒不溶樹脂20aと、第2の樹脂としての水不溶・有機溶媒可溶樹脂20bとを含有する。
【0057】
まず、ヘッド52は、第1の液としての水系インク10aを粉体層31の造形領域に吐出する。水系インク10aは、水を含み、有機溶媒を含まない。このため、水系インク10aが吐出された造形領域の水可溶・有機溶媒不溶樹脂20aを溶解し、水系インク10aの溶媒成分が揮発した後に、溶解した水可溶・有機溶媒不溶樹脂20aが固化する。
【0058】
次に、ヘッド52は、第2の液としての有機溶媒系インク10bを造形領域の周縁部に該当する非造形領域(この非造形領域を「隣接領域」又は「非造形・固化領域」と称することがある)に吐出する。なお、水系インク10a及び有機溶媒系インク10bのいずれも浸透しない非造形領域を「非造形・非固化領域」と称することがある。有機溶媒系インク10bは、有機溶媒を含み、水を含まない。このため、有機溶媒系インク10bが吐出された非造形・固化領域の水不溶・有機溶媒可溶樹脂20bが溶解し、有機溶媒系インク10bの溶媒成分が揮発した後に、溶解した水不溶・有機溶媒可溶樹脂20bが固化する。有機溶媒系インク10bを隣接領域に吐出することにより、水系インク10aの非造形領域への浸透が抑制されるため、立体造形物を形成する領域である造形領域から水系インク10aがはみ出さず、立体造形物の寸法精度を高めることができる。また、水系インク10a及び有機溶媒系インク10bのいずれにも樹脂が含まれておらず、ヘッド52で吐出するインクの粘度を低くすることができるため、ヘッド52の吐出安定性を高めることができる。
【0059】
そして、実施形態1における立体造形物の製造装置は、粉体の供給、平坦化、水系インク10aの吐出、有機溶媒系インク10bの吐出といった造形動作を造形データに基づいて必要な回数繰り返して完了させる。造形データに基づいた造形動作により造形された立体造形物は、造形ステージから取り出され、有機溶媒に浸漬される。すると、非造形・固化領域中の水不溶・有機溶媒可溶樹脂20bが溶解することにより、不要な余剰粉が一挙に除去されるため、エアーブラストのような外力印加と比べて余剰粉除去効率を向上させることができる。
【0060】
(実施形態2)
実施形態2では、実施形態1において、ヘッド52を主走査方向で往復移動可能とし、往路で水系インクを吐出し、復路で有機溶媒系インクを吐出する。
図7は、実施形態2における造形動作を示す説明図である。
図7に示すように、ヘッド52が往路方向に移動する際に、造形領域に水系インク10aを吐出し、次いでヘッド52が復路方向に移動する際に、有機溶媒系インク10bを非造形・固化領域に吐出する。ただし、水系インク10aの吐出から有機溶媒系インク10bの吐出までの時間は100ミリ秒以内とする。100ミリ秒以内であると、吐出された水系インク10aが粉体層31の非造形領域にはみ出して浸透する前に、有機溶媒系インク10bが粉体層31の隣接領域に浸透することにより、造形領域から水系インク10aをはみ出さないようにすることができる。これにより、実施形態2における立体造形物の製造装置は、立体造形物の寸法精度を向上させることができる。
なお、実施形態2においても、実施形態1と同様に、ヘッド52の吐出安定性を高めること及び余剰粉除去効率を向上させることもできる。
【0061】
(実施形態3)
実施形態3では、実施形態2において、ヘッド52が主走査方向の往路で水系インク10a及び有機溶媒系インク10bの両方の吐出を行う。
図8は、実施形態3における造形動作を示す説明図である。
図8に示すように、ヘッド52が往路方向に移動する際に、造形領域に水系インク10aを吐出し、次いで有機溶媒系インク10bを非造形・固化領域に吐出する。ただし、水系インク10aの吐出から有機溶媒系インク10bの吐出までの時間は100ミリ秒以内とする。実施形態2と同様に、100ミリ秒以内であると、吐出された水系インク10aが粉体層31の非造形領域にはみ出して浸透する前に、有機溶媒系インク10bが粉体層31の隣接領域に浸透することにより、造形領域から水系インク10aをはみ出さないようにすることができる。これにより、実施形態3における立体造形物の製造装置は、立体造形物の寸法精度を向上させることができる。
なお、実施形態3においても、実施形態1と同様に、ヘッド52の吐出安定性を高めること及び余剰粉除去効率を向上させることもできる。
【0062】
(実施形態4)
実施形態4では、実施形態1において、水系インク10a及び有機溶媒系インク10bを入れ替えている。
図9は、実施形態4における造形動作を示す説明図である。
図9に示すように、粉体20は、実施形態1と同様に、造形用粒子20cと、第1の樹脂としての水可溶・有機溶媒不溶樹脂20aと、第2の樹脂としての水不溶・有機溶媒可溶樹脂20bとを含有する。
【0063】
ヘッド52は、実施形態1とは異なり、有機溶媒系インク10bを粉体層31の造形領域に吐出する。このため、有機溶媒系インク10bが吐出された造形領域の水不溶・有機溶媒可溶樹脂20bを溶解し、有機溶媒系インク10bの溶媒成分が揮発した後に、溶解した水不溶・有機溶媒可溶樹脂20bが固化する。このとき、揮発する溶媒成分が有機溶媒であるので、速乾性に優れていることから造形面積が大きい場合であっても、すぐに次の粉体層を重ねて形成することができるため、造形速度を向上させることができる。
【0064】
次に、ヘッド52は、水系インク10aを非造形・固化領域に吐出する。水系インク10aが吐出された非造形・固化領域の水可溶・有機溶媒不溶樹脂20aが溶解し、水系インク10aの溶媒成分が揮発した後に、溶解した水可溶・有機溶媒不溶樹脂20aが固化する。水系インク10aを隣接領域に吐出することにより、有機溶媒系インク10bの非造形領域への浸透が抑制されるため、立体造形物を形成する領域である造形領域から有機溶媒系インク10bをはみ出さないようにすることができる。
【0065】
そして、実施形態4における立体造形物の製造装置は、粉体の供給、平坦化、有機溶媒系インク10bの吐出、水系インク10aの吐出といった造形動作を造形データに基づいて必要な回数繰り返して完了させる。造形データに基づいた造形動作により造形された立体造形物は、造形ステージから取り出され、水に浸漬される。すると、非造形・固化領域中の水可溶・有機溶媒不溶樹脂20aが溶解することにより、実施形態1と同様に、不要な余剰粉が一挙に除去されるため、エアーブラストのような外力印加と比べて余剰粉除去効率を向上させることができる。
なお、実施形態4においても、実施形態1と同様に、ヘッド52の吐出安定性を高めることもできる。
【0066】
(実施形態5)
実施形態5では、実施形態1において、造形用粒子20cに水可溶・有機溶媒不溶樹脂20aを被覆させている。
図10は、実施形態5における造形動作を示す説明図である。
図10に示すように、造形動作としては、実施形態1と同様であるが、造形用粒子20cに水可溶・有機溶媒不溶樹脂20aを被覆させているため、造形用粒子が発火性を有する場合には、造形用粒子の大気曝露を防止することにより発火を抑制することができる。また、造形用粒子が第1の樹脂及び第2の樹脂の少なくともいずれかによって覆われていると、いずれかの液が吐出されたときに、造形用粒子20c同士が接着しやすくなるため、固化した状態の焼結前のグリーン体の機械的強度を向上させることができる。
なお、実施形態5においても、実施形態1と同様に、ヘッド52の吐出安定性を高めること及び余剰粉除去効率を向上させることもできる。
【0067】
次に、実施形態1~5のうち、実施形態3における立体造形物の製造方法の造形動作と同様の機能をコンピュータに実行させる本発明の立体造形物の製造プログラムについて説明する。本発明の立体造形物の製造プログラムによる処理は、本発明の立体造形物の製造装置601の制御部500を有するコンピュータを用いて実行することができる。
【0068】
図11は、実施形態3における造形動作を行う処理の流れを示すフローチャートである。ここでは、実施形態3における造形動作を行う処理の流れを
図11に示すフローチャートの図中Sで表すステップにしたがって説明する。
【0069】
ステップS101では、制御部500は、造形データ作成装置600から受信した造形データを読み込むと、処理をS102に移行する。
【0070】
ステップS102では、制御部500は、造形データに基づく造形動作を開始し、各駆動部によりヘッド52などの各部を初期位置に移動させると、処理をS103に移行する。
【0071】
ステップS103では、制御部500は、造形用粒子20cと、第1の樹脂としての水可溶・有機溶媒不溶樹脂20aと、第2の樹脂としての水不溶・有機溶媒可溶樹脂20bとを含有する粉体20により粉体層31を形成すると、処理をS104に移行する。
【0072】
ステップS104では、制御部500は、造形データに基づき、ヘッド52の吐出位置が造形領域であると判定すると、処理をS107に移行する。また、制御部500は、ヘッド52の吐出位置が造形領域ではないと判定すると、処理をS105に移行する。
【0073】
ステップS105では、制御部500は、造形データに基づき、ヘッド52の吐出位置が非造形・固化領域であると判定すると、処理をS106に移行する。また、制御部500は、ヘッド52の吐出位置が非造形・固化領域ではないと判定すると、処理をS108に移行する。
【0074】
ステップS106では、制御部500は、ヘッド52に有機溶媒系インク10bを吐出させると、処理をS108に移行する。
【0075】
ステップS107では、制御部500は、ヘッド52に水系インク10aを吐出させると、処理をS108に移行する。
【0076】
ステップS108では、制御部500は、当該粉体層の造形動作が終了したと判定すると、処理をS110に移行する。また、制御部500は、当該粉体層の造形動作が終了していないと判定すると、処理をS109に移行する。
【0077】
ステップS109では、制御部500は、ヘッド52の吐出位置を移動させると、処理をS104に戻す。
【0078】
ステップS110では、制御部500は、造形データに基づく造形動作が終了していないと判定すると、処理をS103に戻す。また、制御部500は、造形データに基づく造形動作が終了したと判定すると、本処理を終了する。
【0079】
以上説明したように、本発明の立体造形物の製造方法では、まず、造形用粒子、第1の樹脂及び第2の樹脂を含む粉体層を形成する。そして、第1の樹脂を溶解可能な第1の液を粉体層の造形領域に吐出して固化し、第2の樹脂を溶解可能な第2の液を造形領域と隣接する隣接領域に吐出して固化する。
これにより、本発明の立体造形物の製造方法では、例えば、粉体層に第1の液及び第2の液を吐出できれば、いずれかの液が粉体層の隣接領域に意図せず浸透することを抑制することができ、立体造形物の寸法精度を高めることができる。
また、例えば、立体造形物を第1の樹脂で造形した場合には、立体造形物に隣接して固化されている第2の樹脂を第2の液で溶解させることにより、立体造形物の周りに付着する余剰粉体を一挙に除去できるため、外力印加で除去する場合と比べて生産性を高めることができる。
さらに、第1の液及び第2の液は、樹脂を含まないため粘度を低くすることができる。このため、本発明の立体造形物の製造装置は、粘度が低めの第1の液及び第2の液を吐出するため、吐出安定性を高めることができる。
【0080】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 造形用粒子、第1の樹脂及び第2の樹脂を含む粉体層を形成する形成工程と、
前記第1の樹脂を溶解可能な第1の液を前記粉体層の造形領域に吐出して固化する第1の固化工程と、
前記第2の樹脂を溶解可能な第2の液を前記造形領域と隣接する隣接領域に吐出して固化する第2の固化工程と、
を含むことを特徴とする立体造形物の製造方法である。
<2> 前記隣接領域で固化した前記第2の樹脂のほうが、前記造形領域で固化した前記第1の樹脂よりも結着力が低い前記<1>に記載の立体造形物の製造方法である。
<3> 前記造形領域の周縁部に前記第1の液を吐出し、前記造形領域と隣接する側における前記隣接領域の周縁部に前記第2の液を吐出する場合には、前記第1の液及び前記第2の液を実質的に同時に吐出する前記<1>から<2>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法である。
<4> 前記第1の固化工程において、前記造形領域に前記第2の液を吐出し、
前記第2の固化工程において、前記隣接領域に前記第1の液を吐出する前記<1>から<3>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法である。
<5> 前記第1の樹脂及び前記第2の樹脂の少なくともいずれかが微粒子である前記<1>から<4>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法である。
<6> 前記造形用粒子が前記第1の樹脂及び前記第2の樹脂の少なくともいずれかによって覆われている前記<1>から<5>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法である。
<7> 前記第1の樹脂が水に可溶であり、前記第2の樹脂が水に不可溶であり、前記第1の液が水溶液である前記<1>から<6>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法である。
<8> 前記造形用粒子の融点をTmとし、前記第1の樹脂及び前記第2の樹脂の熱分解開始温度をそれぞれTd1及びTd2としたとき、
次式、Td1<0.8×Tm、かつ、次式、Td2<0.8×Tm、を満たす前記<1>から<7>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法である。
<9> 造形用粒子、第1の樹脂及び第2の樹脂を含む粉体層を形成する形成手段と、
前記第1の樹脂を溶解可能な第1の液を前記粉体層の造形領域に吐出して固化する第1の固化手段と、
前記第2の樹脂を溶解可能な第2の液を前記造形領域と隣接する隣接領域に吐出して固化する第2の固化手段と、
を有することを特徴とする立体造形物の製造装置である。
<10> 前記隣接領域で固化した前記第2の樹脂のほうが、前記造形領域で固化した前記第1の樹脂よりも結着力が低い前記<9>に記載の立体造形物の製造装置である。
<11> 前記第1の固化手段が前記造形領域の周縁部に前記第1の液を吐出し、前記第2の固化手段が前記造形領域と隣接する側における前記隣接領域の周縁部に前記第2の液を吐出する場合には、
前記第1の固化手段及び前記第2の固化手段が、前記第1の液及び前記第2の液を実質的に同時に吐出する前記<9>から<10>のいずれかに記載の立体造形物の製造装置である。
<12> 前記第2の固化手段が前記造形領域に前記第2の液を吐出し、
前記第1の固化手段が前記隣接領域に前記第1の液を吐出する前記<9>から<11>のいずれかに記載の立体造形物の製造装置である。
<13> 前記第1の樹脂及び前記第2の樹脂の少なくともいずれかが微粒子である前記<9>から<12>のいずれかに記載の立体造形物の製造装置である。
<14> 前記造形用粒子が前記第1の樹脂及び前記第2の樹脂の少なくともいずれかによって覆われている前記<9>から<13>のいずれかに記載の立体造形物の製造装置である。
<15> 造形用粒子、第1の樹脂及び第2の樹脂を含む粉体層を形成し、
前記第1の樹脂を溶解可能な第1の液を前記粉体層の造形領域に吐出して固化し、
前記第2の樹脂を溶解可能な第2の液を前記造形領域と隣接する隣接領域に吐出して固化する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする立体造形物の製造プログラムである。
<16> 前記隣接領域で固化した前記第2の樹脂のほうが、前記造形領域で固化した前記第1の樹脂よりも結着力が低い前記<15>に記載の立体造形物の製造プログラムである。
<17> 前記造形領域の周縁部に前記第1の液を吐出し、前記造形領域と隣接する側における前記隣接領域の周縁部に前記第2の液を吐出する場合には、前記第1の液及び前記第2の液を実質的に同時に吐出する前記<15>から<16>のいずれかに記載の立体造形物の製造プログラムである。
<18> 前記造形領域に前記第2の液を吐出し、
前記隣接領域に前記第1の液を吐出する前記<15>から<17>のいずれかに記載の立体造形物の製造プログラムである。
<19> 前記第1の樹脂及び前記第2の樹脂の少なくともいずれかが微粒子である前記<15>から<18>のいずれかに記載の立体造形物の製造プログラムである。
<20> 前記造形用粒子が前記第1の樹脂及び前記第2の樹脂の少なくともいずれかによって覆われている前記<15>から<19>のいずれかに記載の立体造形物の製造プログラムである。
【0081】
前記<1>から<8>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法、前記<9>から<14>のいずれかに記載の立体造形物の製造装置、前記<15>から<20>のいずれかに記載の立体造形物の製造プログラムによれば、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0082】
【符号の説明】
【0083】
10a 水系インク(第1の液)
10b 有機溶媒系インク(第2の液)
12 平坦化ローラ(形成手段の一部)
20 粉体
20a 水可溶・有機溶媒不溶樹脂(第1の樹脂)
20b 水不溶・有機溶媒可溶樹脂(第2の樹脂)
20c 造形用粒子
31 粉体層
52 ヘッド(第1の固化手段、第2の固化手段)
80 粉体供給部(形成手段の一部)
601 立体造形物の製造装置