(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】ケーブルの止水構造及びワイヤハーネス
(51)【国際特許分類】
H02G 15/04 20060101AFI20220308BHJP
H01B 7/282 20060101ALI20220308BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20220308BHJP
H02G 1/14 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
H02G15/04
H01B7/282
H01B7/00 301
H02G1/14 050
(21)【出願番号】P 2018149116
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 範行
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-134369(JP,A)
【文献】特開平8-64301(JP,A)
【文献】特開2018-46616(JP,A)
【文献】特開2015-213396(JP,A)
【文献】特開2017-112756(JP,A)
【文献】特開2017-98143(JP,A)
【文献】特開2011-205891(JP,A)
【文献】特開2016-91731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 15/04
H01B 7/282
H01B 7/00
H02G 1/14
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線と、前記電線の外周を被覆するシースと、を有するケーブルの止水構造であって、
前記シースから露出した前記電線の外周に配置された防水栓と、
前記電線が挿通されると共に前記防水栓を収容する挿通孔が形成された樹脂部材と、
前記シースの一部と前記樹脂部材の少なくとも一部とを覆う樹脂からなるモールド成形体と、
を備え
、
前記モールド成形体は、前記樹脂部材の一部を覆い、
前記樹脂部材は、前記挿通孔が前記モールド成形体に覆われていない露出部分に開口を有し、
前記電線は、前記樹脂部材の前記開口から導出されている、
ケーブルの止水構造。
【請求項2】
前記シース、前記樹脂部材、及び前記モールド成形体は、同種の樹脂材料で形成されている、
請求項
1に記載のケーブルの止水構造。
【請求項3】
前記樹脂部材は、前記シースを把持する把持部を有する、
請求項1
又は2に記載のケーブルの止水構造。
【請求項4】
電線及び前記電線の外周を被覆するシースと、
前記シースから露出した前記電線の外周に配置された防水栓と、
前記電線が挿通されると共に前記防水栓を収容する挿通孔が形成された樹脂部材と、
前記シースの一部と前記樹脂部材の少なくとも一部とを覆う樹脂からなるモールド成形体と、
を備え
、
前記モールド成形体は、前記樹脂部材の一部を覆い、
前記樹脂部材は、前記挿通孔が前記モールド成形体に覆われていない露出部分に開口を有し、
前記電線は、前記樹脂部材の前記開口から導出されている、
ワイヤハーネス。
【請求項5】
アウタシースと、前記アウタシースに収容されたインナシースと、前記アウタシースと前記インナシースとの間に配置された第1の電線と、前記インナシースに収容された第2の電線と、を有するケーブルの止水構造であって、
前記第1の電線の外周に配置された防水栓と、
前記第1の電線が挿通されると共に前記防水栓を収容する挿通孔が形成された樹脂部材と、
前記アウタシース及び前記インナシースのそれぞれの一部と前記樹脂部材の少なくとも一部とを覆う樹脂からなるモールド成形体と、
を備えたケーブルの止水構造。
【請求項6】
前記モールド成形体は、前記樹脂部材の一部を覆い、
前記樹脂部材は、前記挿通孔が前記モールド成形体に覆われていない露出部分に開口を有し、
前記第1の電線は、前記樹脂部材の前記開口から導出されており、
前記第2の電線は、前記モールド成形体の外部で前記インナシースから導出されている、
請求項
5に記載のケーブルの止水構造。
【請求項7】
前記アウタシース、前記インナシース、前記樹脂部材、及び前記モールド成形体は、同種の樹脂材料で形成されている、
請求項
5又は
6に記載のケーブルの止水構造。
【請求項8】
前記樹脂部材は、前記アウタシースを把持する把持部を有する、
請求項
5乃至
7の何れか1項に記載のケーブルの止水構造。
【請求項9】
アウタシース、前記アウタシースに収容されたインナシース、前記アウタシースと前記インナシースとの間に配置された第1の電線、及び前記インナシースに収容された第2の電線を有するケーブルと、
前記第1の電線の外周に配置された防水栓と、
前記第1の電線が挿通されると共に前記防水栓を収容する挿通孔が形成された樹脂部材と、
前記アウタシース及び前記インナシースのそれぞれの一部と前記樹脂部材の少なくとも一部とを覆う樹脂からなるモールド成形体と、
を備えたワイヤハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルの止水構造及びワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車のABS(アンチロックブレーキシステム)用のセンサケーブルとパーキングブレーキを動作させるパーキングブレーキ用ケーブルとを共通のシースで被覆して一体化したワイヤハーネスには、シースの内部への水分の浸入を防ぐ止水構造を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のワイヤハーネスは、センサケーブル及びパーキングブレーキ用ケーブルがシースから露出した部分に、止水部とブラケット取付部とを有する成形部が設けられている。成形部は、ウレタン成形により、止水部とブラケット取付部とが一体に成形されている。止水部は、シースの端部と、シースから露出したセンサケーブル及びパーキングブレーキ用ケーブルの一部とを覆っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
センサケーブルやパーキングブレーキ用ケーブル等の電線は、導体を被覆する絶縁体が例えばポリエチレン等のウレタンよりも融点が高い材料からなる場合がある。このような場合において、モールド成形により成形部(モールド成形体)を形成しようとすると、電線(絶縁体)と成形部とが溶着せず、電線(絶縁体)の周囲に僅かな隙間が発生することがある。これにより、シースの内部への水分の侵入を防ぐ止水性が低下し、上記隙間からシースの内部に水分が浸入してしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、たとえ電線を構成する絶縁体としてモールド成形体と溶着しにくい材料を用いた場合であっても、シースの内部への水分の侵入を防ぐ止水性の低下を抑制することが可能なケーブルの止水構造及びワイヤハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、線と、前記電線の外周を被覆するシースと、を有するケーブルの止水構造であって、前記シースから露出した前記電線の外周に配置された防水栓と、前記電線が挿通されると共に前記防水栓を収容する挿通孔が形成された樹脂部材と、前記シースの一部と前記樹脂部材の少なくとも一部とを覆う樹脂からなるモールド成形体と、備えたケーブルの止水構造を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、電線及び前記電線の外周を被覆するシースと、前記シースから露出した前記電線の外周に配置された防水栓と、前記電線が挿通されると共に前記防水栓を収容する挿通孔が形成された樹脂部材と、前記シースの一部と前記樹脂部材の少なくとも一部とを覆う樹脂からなるモールド成形体と、備えたワイヤハーネスを提供する。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、アウタシースと、前記アウタシースに収容されたインナシースと、前記アウタシースと前記インナシースとの間に配置された第1の電線と、前記インナシースに収容された第2の電線と、を有するケーブルの止水構造であって、前記第1の電線の外周に配置された防水栓と、前記第1の電線が挿通されると共に前記防水栓を収容する挿通孔が形成された樹脂部材と、前記アウタシース及び前記インナシースのそれぞれの一部と前記樹脂部材の少なくとも一部とを覆う樹脂からなるモールド成形体と、備えたケーブルの止水構造を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、アウタシース、前記アウタシースに収容されたインナシース、前記アウタシースと前記インナシースとの間に配置された第1の電線、及び前記インナシースに収容された第2の電線を有するケーブルと、前記第1の電線の外周に配置された防水栓と、前記第1の電線が挿通されると共に前記防水栓を収容する挿通孔が形成された樹脂部材と、前記アウタシース及び前記インナシースのそれぞれの一部と前記樹脂部材の少なくとも一部とを覆う樹脂からなるモールド成形体と、備えたワイヤハーネスを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るケーブルの止水構造及びワイヤハーネスによれば、たとえ電線を構成する絶縁体としてモールド成形体と溶着しにくい材料を用いた場合であっても、止水性の低下を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るケーブルの止水構造を有するワイヤハーネスを示す斜視図である。
【
図3】(a)は、
図1に示すワイヤハーネスの要部断面図であり、(b)は、(a)の一部を拡大して示す拡大図である。
【
図4】(a)は、ホルダを示す斜視図である。(b)は、(a)とは異なる方向から見たホルダを示す斜視図である。
【
図5】(a)~(d)は、各製造工程を示す説明図である。
【
図6】アウタケースを成形するためにモールド成形工程で用いられる金型をワイヤハーネスと共に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係るケーブルの止水構造を有するワイヤハーネスを示す斜視図である。
図2は、ケーブルの断面図である。
図3(a)は、
図1に示すワイヤハーネスの要部断面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の一部を拡大して示す拡大図である。
【0014】
このワイヤハーネス1は、例えば自動車の電動ブレーキ用のものであり、車体に取り付けられたコントローラと、サスペンションよりも車輪側に配置されたバネ下部材との間の接続のために用いられる。止水構造は、例えば自動車の走行に伴って車輪に跳ね上げられた水沫などの水分がワイヤハーネス1の内部に浸透してコントローラに至ることを防止するための構造である。
【0015】
ワイヤハーネス1は、アウタシース2と、アウタシース2に収容されたインナシース3と、アウタシース2とインナシース3との間に配置された複数の第1の電線4と、インナシース3に収容された複数の第2の電線5とを有するケーブル10を有している。また、ワイヤハーネス1は、複数の第1の電線4のそれぞれに装着された複数の防水栓6と、第1の電線4が挿通されると共に防水栓6を収容する挿通孔70が形成された樹脂部材としてのホルダ7と、アウタシース2及びインナシース3のそれぞれの一部とホルダ7の少なくとも一部とを覆うウレタン等のモールド樹脂からなるモールド成形体としてのアウタケース8とを有している。
【0016】
アウタシース2及びインナシース3は、可撓性及び絶縁性を有する筒状の弾性体である。インナシース3及び複数の第1の電線4は、アウタケース8の内部でアウタシース2から露出している。アウタケース8は、アウタシース2の端部の全周を覆う胴部81と、アウタシース2を導出する第1の導出部82と、インナシース3を導出する第2の導出部83と、ホルダ7の露出部分711(後述)を導出する第3の導出部84とを一体に有している。なお、第1の導出部82は、アウタシース2の全周を覆っており、第2の導出部83は、インナシース3の全周を覆っており、第3の導出部84は、ホルダ7の露出部分711を除く部分における全周を覆っている。第1の導出部82の外周には、ワイヤハーネス1を車体等の被固定対象に固定するための固定金具(図示せず)が取り付けられていてもよい。
【0017】
本実施の形態では、
図2に示すように、アウタシース2とインナシース3との間に、5本の第1の電線4が繊維状の介在11と共に配置されている。また、インナシース3には、2本の第2の電線5が収容されている。第1の電線4は、例えば銅からなる複数の素線を撚り合わせた導体線41、及び導体線41を被覆する絶縁体42からなる絶縁電線である。第1の電線4は、例えば電動パーキングブレーキ(EPB)や電気機械式ブレーキ(EMB)の電動モータ等のアクチュエータに駆電流を供給する電源線として用いられる。また、第1の電線4は、タイヤの空気圧を検出する空気圧センサや、サスペンションの伸縮状態を検出するストロークセンサ等の各種センサの検出信号を伝送する信号線として用いられてもよい。なお、複数の第1電線4は、上記電源線と上記信号線とを組み合わせたものあってもよい。
【0018】
第2の電線5は、第1の電線4と同様に、例えば銅からなる複数の素線を撚り合わせた導体線51、及び導体線51を被覆する絶縁体52からなる絶縁電線である。第2の電線5は、例えば車輪の回転速度を検出するための回転速センサの検出信号を伝送する信号線として用いられる。なお、アウタシース2内におけるインナシース3を編組シールドにより覆ってもよい。
【0019】
アウタケース8の内部において、インナシース3及び複数の第2の電線5は直線状である。一方、複数の第1の電線4は、アウタケース8の内部において屈曲されており、ケーブル10、インナシース3及び複数の第2の電線5に対して交差する方向(本実施の形態では、垂直な方向)に沿って互いに平行に導出されている。アウタケース8の胴部81は、インナシース3及び複数の第2の電線5を覆っているとともに、屈曲された複数の第1の電線4を覆っている。なお、電線の配線レイアウトによっては、インナシース3及び第2の電線5をケーブル10の長手方向に対して交差する方向に屈曲させ、複数の第1の電線4をケーブル10の長手方向に沿って直線状とすることも可能である。しかし、本実施の形態のように、インナシース3よりも小径で、かつインナシース3よりも曲げ半径を小さくすることができる複数の第1の電線4を屈曲させることで、ケーブル10の長手方向におけるアウタケース8の大きさを小型化することが可能である。
【0020】
図4(a)は、ホルダ7を示す斜視図である。
図4(b)は、
図4(a)とは異なる方向から見たホルダ7を示す斜視図である。
【0021】
ホルダ7は、複数の防水栓6を保持している。ホルダ7は、挿通孔70が形成された本体部71と、アウタシース2を把持する把持部72と、インナシース3を挟持する挟持部73とを一体に有している。挿通孔70は、
図3(b)に示すように、防水栓6を収容する大径部701と、大径部701よりも内径が小さい小径部702とからなり、大径部701と小径部702との間には段差面70aが環状に形成されている。小径部702の内径は、第1の電線4の外径よりも僅かに大きく形成されている。
【0022】
第1の電線4は、大径部701から小径部702に向かって挿通されており、大径部701は小径部702よりも挟持部73側に形成されている。防水栓6は、大径部701の内周面701a及び第1の電線4の外周面4aに弾接(弾性的に接触)しており、挿通孔70から挟持部73側に水分が浸入することを防いでいる。
【0023】
ホルダ7の本体部71における挿通孔70の小径部702の開口端面71aは、アウタケース8から露出している。すなわち、本実施の形態では、アウタケース8がホルダ7の一部を覆っており、ホルダ7は、アウタケース8に覆われていない本体部71の露出部分711に挿通孔70の開口を有している。第1の電線4は、開口端面71aにおける挿通孔70の開口からホルダ7の外部に導出されており、センサの接続端子に接続される。第2の電線5は、
図1に示すようにアウタケース8の外部でインナシース3から導出されており、アクチュエータの電源端子に接続される。
【0024】
ホルダ7は、把持部72によりアウタシース2を把持すると共に、挟持部73によりインナシース3を挟持することでケーブル10に仮固定される。把持部72は、
図4(a),(b)に示すように略半円筒状(略ハーフパイプ状)であり、インナシース3の長手方向に見た形状が略半円形である。把持部72は、インナシース3の外周面を180°よりも大きな角度範囲にわたって囲うように形成されている。ホルダ7をケーブル10に仮固定する際には、把持部72の開口720から把持部72内にアウタシース2を配置する。把持部72は、開口720の開口幅Wがアウタシース2の直径よりも小さく、アウタシース2が容易に離脱しないようになっている。
【0025】
ホルダ7の挟持部73は、一対の壁部731,732からなり、把持部72に連続して形成されている。ホルダ7をケーブル10に仮固定する際には、一対の壁部731,732の間にインナシース3が挟まれる。インナシース3の長手方向における挟持部73の一方の端面(把持部72との境界面)73aには、アウタシース2の長手方向の端面2a(
図3(a)参照)が突き当てられる。この挟持部73の端面73aは、アウタシース2とインナシース3との径差による平面であり、把持部72の底面を形成する。
【0026】
一対の壁部731、732の間には、インナシース3及び複数の第2の電線5、及び屈曲された複数の第1の電線4を収容する収容空間Sが形成されている。収容空間Sには、
図3(a)に示すように、アウタケース8を構成するモールド樹脂が充填されている。当該モールド樹脂は、防水栓6の収容空間S側の端面まで到達している。これにより、防水栓6がホルダ7から収容空間S側(
図3(a)における上側)に離脱してしまうことを抑制することが可能となる。
【0027】
また、一対の壁部731、732には、インナシース3の一部を収容する円弧状の収容溝731a、732aが形成されている。インナシース3が収容溝731a、732aに収容されていることにより、インナシース3がホルダ7から容易に離脱してしまうことを抑制することが可能になる。
【0028】
(ワイヤハーネス1の製造方法)
次に、
図5及び
図6を参照してワイヤハーネス1の製造方法について説明する。ワイヤハーネス1は、アウタシース2の一部を除去して複数の第1の電線4及びインナシース3を露出させてケーブル10を形成するケーブル加工工程と、第1の電線4の外周に防水栓6を配置する防水栓配置工程と、ホルダ7をケーブル10に仮固定する仮固定工程と、アウタケース8をモールド成形するモールド成形工程と、によって製造される。
【0029】
図5(a)は、ケーブル加工工程により形成されたケーブル10を示している。
図5(b)は、防水栓配置工程において複数の防水栓6が複数の第1の電線4のそれぞれに装着された状態を示している。
図5(c)は、ホルダ7をケーブル10に仮固定した状態を示している。この仮固定工程では、第1の電線4が挿通孔70に挿通されて防水栓6が挿通孔70の大径部701に収容されると共に、ホルダ7の把持部72がアウタシース2を把持し、かつ挟持部73がインナシース3を挟持する。
図5(d)は、アウタケース8がモールド成形されたワイヤハーネス1を示している。
【0030】
図6は、アウタケース8を成形するためにモールド成形工程で用いられる金型9をワイヤハーネス1と共に示す説明図である。
【0031】
金型9は、上型91及び下型92からなり、アウタケース8は、上型91と下型92とを組み合わせた状態で金型9内に形成される空洞に溶融した樹脂を注入(射出)することで成形される。上型91及び下型92には、切り欠き状の凹部910,920がそれぞれ形成されており、金型9にケーブル10及びホルダ7を配置して上型91と下型92とを組み合わせたとき、ホルダ7の本体部71における露出部分711の周面に凹部910,920の内面910a,920aが当接する。
【0032】
このワイヤハーネス1の製造方法により、金型9に複数の第1の電線4を収容する収容孔を形成する必要がなくなり、アウタケース8の成型時に第1の電線4の絶縁体42を傷つけることもなくなる。つまり、仮にホルダ7の全体をアウタケース8で覆う場合には、上型91と下型92に第1の電線4の本数に応じた溝をそれぞれ形成し、これらの溝の組み合わせにより形成される収容孔に複数の第1の電線4をそれぞれ挿通させる必要があり、金型形状が複雑化すると共に複数の第1の電線4を配置するための工数が嵩んでしまい、さらには溝のエッジ部分により絶縁体42が傷ついてしまうおそれもある。
【0033】
しかし、本実施の形態では、ホルダ7の挿通孔70がアウタケース8に覆われない露出部分711に開口を有しているので、金型9に複数の第1の電線4をそれぞれ収容する収容孔を形成する必要がなく、ケーブル10及びホルダ7を金型9にセットする作業を簡素化できると共に、第1の電線4の絶縁体42を上型91や下型92のエッジ部分で傷つけてしまうこともない。
【0034】
アウタシース2、インナシース3、ホルダ7、及びアウタケース8は、同種の樹脂材料で形成されている。この樹脂材料としては、例えばウレタンを好適に用いることができる。アウタシース2、インナシース3、及びホルダ7がアウタケース8と同種の樹脂材料で形成されていることにより、モールド成形時に溶融樹脂の熱によってアウタシース2、インナシース3、及びホルダ7の表面が溶けてアウタケース8と溶着し、第1乃至第3の導出部82~84における高い止水性が得られる。
【0035】
第1の電線4の絶縁体42は、アウタケース8と溶着しにくい(たとえば、アウタケース8の樹脂材料よりも高い融点を有する)材料からなる。第1の電線4の絶縁体42は、例えばポリエチレンや架橋ポリエチレンからなる。また、防水栓6は、アウタケース8の樹脂材料よりも高い融点を有する材料からなる。防水栓6は、例えばシリコンゴムからなる。第1の電線4の絶縁体42がアウタケース8の樹脂材料よりも高い融点を有する材料からなることにより、モールド成形時に絶縁体42が溶融して導体線41同士が短絡してしまうことを防ぐことができる。また、防水栓6がアウタケース8の樹脂材料よりも高い融点を有する材料からなることにより、モールド成形時に防水栓6が溶けて止水性が損なわれてしまうことを避けることができる。
【0036】
なお、モールド成形工程では、ホルダ7の把持部72及び挟持部73とアウタシース2及びインナシース3との隙間などから本体部71側に入り込んだ溶融樹脂により防水栓6が小径部702側に押圧されてしまう場合があるが、溶融樹脂の圧力による防水栓6の挿通孔70内での移動は、防水栓6が段差面70aに突き当たることにより規制される。
【0037】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、第1の電線4の周囲からの水分の浸入が防水栓6により抑止される。これにより、たとえ第1の電線4を構成する絶縁体42としてモールド成形体(アウタケース8)と溶着しにくい材料を用いた場合であっても、シースの内部への水分の侵入を防ぐ止水性の低下を抑制することが可能である。
【0038】
また、ホルダ7の周囲からの水分の侵入がホルダ7とアウタケース8との密着により抑止される、これにより、ワイヤハーネス1の止水性が高められる。この際、ホルダ7がアウタケース8と溶着しやすい材料であるウレタンからなることにより、ホルダ7がアウタケース8と溶着し、ワイヤハーネス1の止水性がより高められる。なお、防水栓6がホルダ7に収容されていることにより、アウタケース8のモールド成形時の熱が防水栓6に直接伝わりにくくすることが可能である。
【0039】
さらに、アウタシース2及びインナシース3の周囲からの水分の浸入がアウタシース2及びインナシース3とアウタケース8との密着により抑止される。これにより、ワイヤハーネス1の止水性が高められる。また、アウタシース2及びインナシース3がアウタケース8と溶着しやすい材料であるウレタンからなることにより、アウタシース2及びインナシース3がアウタケース8と溶着し、ワイヤハーネス1の止水性がより高められる。
【0040】
また、上記の実施の形態では、アウタシース2内にインナシース3が収容され、さらにインナシース3内に第2の電線5が収容された場合について説明したが、インナシース3及び第2の電線5を省略してもよい。この場合、ワイヤハーネスは、電線(第1の電線4)及び電線の外周を被覆するシース(アウタシース2)を有するケーブルと、シースを把持部72により把持するホルダ7と、ホルダ7の露出部分711を除く部分を覆うアウタケース8と、ホルダ7の挿通孔70内で電線の外周に配置された防水栓6とを備える。このようなワイヤハーネス及び止水構造によっても、上記と同様に止水性が高められる。
【0041】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0042】
[1]電線(4)と、前記電線(第1の電線4)の外周を被覆するシース(アウタシース2)と、を有するケーブル(10)の止水構造であって、前記シース(2)から露出した前記電線(4)の外周に配置された防水栓(6)と、前記電線(4)が挿通されると共に前記防水栓(6)を収容する挿通孔(70)が形成された樹脂部材(ホルダ7)と、前記シース(2)の一部と前記樹脂部材(7)の少なくとも一部とを覆う樹脂からなるモールド成形体(アウタケース8)と、を備えたケーブルの止水構造。
【0043】
[2]前記モールド成形体(8)は、前記樹脂部材(7)の一部を覆い、前記樹脂部材(7)は、前記挿通孔(70)が前記モールド成形体(8)に覆われていない露出部分(711)に開口を有し、前記電線(4)は、前記樹脂部材(7)の前記開口から導出されている、上記[1]に記載のケーブルの止水構造。
【0044】
[3]前記シース(2)、前記樹脂部材(7)、及び前記モールド成形体(8)は、同種の樹脂材料で形成されている、上記[1]又は[2]に記載のケーブルの止水構造。
【0045】
[4]前記樹脂部材(7)は、前記シース(2)を把持する把持部(72)を有する、上記[1]乃至[3]の何れか1つに記載のケーブルの止水構造。
【0046】
[5]電線(4)及び前記電線(4)の外周を被覆するシース(2)と、前記シース(2)から露出した前記電線(4)の外周に配置された防水栓(6)と、前記電線(4)が挿通されると共に前記防水栓(6)を収容する挿通孔(70)が形成された樹脂部材(7)と、前記シース(2)の一部と前記樹脂部材(7)の少なくとも一部とを覆う樹脂からなるモールド成形体(8)と、を備えたワイヤハーネス(1)。
【0047】
[6]アウタシース(2)と、前記アウタシース(2)に収容されたインナシース(3)と、前記アウタシース(2)と前記インナシース(3)との間に配置された第1の電線(4)と、前記インナシース(3)に収容された第2の電線(5)と、を有するケーブル(10)の止水構造であって、前記第1の電線(4)の外周に配置された防水栓(6)と、前記第1の電線(4)が挿通されると共に前記防水栓(6)を収容する挿通孔(70)が形成された樹脂部材(7)と、前記アウタシース(2)及び前記インナシース(3)のそれぞれの一部と前記樹脂部材(7)の少なくとも一部とを覆う樹脂からなるモールド成形体(8)と、を備えたケーブルの止水構造。
【0048】
[7]前記モールド成形体(8)は、前記樹脂部材(7)の一部を覆い、前記樹脂部材(7)は、前記挿通孔(70)が前記モールド成形体(8)に覆われていない露出部分(711)に開口を有し、前記第1の電線(4)は、前記樹脂部材(7)の前記開口から導出されており、前記第2の電線(5)は、前記モールド成形体(8)の外部で前記インナシース(3)から導出されている、上記[6]に記載のケーブルの止水構造。
【0049】
[8]前記アウタシース(2)、前記インナシース(3)、前記樹脂部材(7)、及び前記モールド成形体(8)は、同種の樹脂材料(7)で形成されている、上記[6]又は[7]に記載のケーブルの止水構造。
【0050】
[9]前記樹脂部材(7)は、前記アウタシース(2)を把持する把持部(72)を有する、上記[6]乃至[8]の何れか1項に記載のケーブルの止水構造。
【0051】
[10]アウタシース(2)、前記アウタシース(2)に収容されたインナシース(3)、前記アウタシース(2)と前記インナシース(3)との間に配置された第1の電線(4)、及び前記インナシース(3)に収容された第2の電線(5)を有するケーブル(10)と、前記第1の電線(4)の外周に配置された防水栓(6)と、前記第1の電線(4)が挿通されると共に前記防水栓(6)を収容する挿通孔(70)が形成された樹脂部材(7)と、前記アウタシース(2)及び前記インナシース(3)のそれぞれの一部と前記樹脂部材(7)の少なくとも一部とを覆う樹脂からなるモールド成形体(8)と、を備えたワイヤハーネス(1)。
【0052】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0053】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、ワイヤハーネス1を自動車の電動ブレーキ用に用いる場合について説明したが、ワイヤハーネス1の用途はこれに限らない。また、上記実施の形態では、第1の電線4を信号線として使用し、また第2の電線5を電源線として使用する場合について説明したが、第1の電線4を電源線として使用してもよく、第2の電線5を信号線として用いてもよい。
【0054】
また、上記では、電線4を構成する絶縁体42がモールド成形体8と溶着しにくい材料からなるものとして説明したが、電線4を構成する絶縁体42は、モールド成形体8と溶着しやすい材料からなるものであってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…ワイヤハーネス
10…ケーブル
2…アウタシース(シース)
3…インナシース
4…第1の電線(電線)
5…第2の電線
6…防水栓
7…ホルダ(樹脂部材)
70…挿通孔
72…把持部
711…露出部分
8…アウタケース(モールド成形体)