(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】コイル部品及びアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 7/08 20060101AFI20220308BHJP
H01F 1/34 20060101ALI20220308BHJP
C04B 35/30 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
H01Q7/08
H01F1/34 140
C04B35/30
(21)【出願番号】P 2019525359
(86)(22)【出願日】2018-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2018021820
(87)【国際公開番号】W WO2018230426
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2017115701
(32)【優先日】2017-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓喜
(72)【発明者】
【氏名】多田 智之
(72)【発明者】
【氏名】田中 智
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第5841312(JP,B2)
【文献】特開2007-1781(JP,A)
【文献】特開2006-151743(JP,A)
【文献】特開2005-97085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 7/08
H01F 1/34
C04B 35/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと、前記コイルの磁路に配置されるフェライトコアとを含み、少なくとも一部が、樹脂で被覆されたコイル部品であって、
前記フェライトコアは平均結晶粒径が5~9μmのNi系フェライトコアであり、
前記Ni系フェライトコアは、
(a)周波数100 kHz、温度20℃における初透磁率μiが450以上であり、
(b)式1: TLa=[(L
T2―L
T1)/L
T1]×100(%)、及び
式2:TLb=[(L
T3―L
T1)/L
T1]×100(%)[ただし、L
T1は周波数100 kHzで20℃における非圧縮状態でのインダクタンス、L
T2は周波数100 kHzで-40℃における非圧縮状態でのインダクタンス、及びL
T3は周波数100 kHzで80℃における非圧縮状態でのインダクタンスである。]
で規定される温度変化に対するインダクタンスの変化率TLa及びTLbがともに-0.6%~+0.6%であり、
(c)式3: PLa=[(L
P2-L
P1)/L
P1]×100(%)、及び
式4:PLb=[(L
T1-L
P1)/L
P1]×100(%)
[ただし、L
P1は周波数100 kHz、20℃で、一軸方向に10 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス、L
P2は周波数100 kHz、20℃で、一軸方向に20 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス、及びL
T1は周波数100 kHzで20℃における非圧縮状態でのインダクタンスである。]
で規定される応力変化に対するインダクタンスの変化率PLa及びPLbとがともに-0.6%~+0.6%であり、かつ
(d)TLaとPLaとの和、及びTLbとPLbとの和がともに-1.0%超+1.0%未満である
特性を有するコイル部品。
【請求項2】
請求項1に記載のコイル部品において、
前記Ni系フェライトコアの成分組成が、47.5~48.4 mol%のFe
2O
3、25.0~30.5 mol%のZnO、6.0~11.5 mol%のCuO、及び残部NiOと不可避不純物として表されるコイル部品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコイル部品を用いたアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂でモールドされたコイル部品及びそれを用いたアンテナに関し、例えば、自動車用の電子キーによるキーレスエントリシステムや電子盗難防止装置(イモビライザー)、タイヤ空気圧監視システム(TPMS)に用いるコイル部品及びアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
利便性や安全性の向上の要求のもと、自動車のインテリジェンス化に伴って、キーレスエントリシステムやTPMS(Tire Pressure Monitoring System:タイヤ空気圧監視システム)等が広く採用されようになった。例えばTPMSでは、車両に装着されたタイヤのそれぞれに、空気圧を測定する空気圧センサユニットが配置されており、車両側に設けたコントロールユニットとの間で、前記空気圧センサユニットに含まれるアンテナを介して車両識別情報及びセンサユニットの動作/停止制御等の情報を無線通信する。無線通信は、例えば周波数125 kHzのLF波を搬送波として行われる。前記アンテナは回路駆動用の電力伝送の機能を担う場合もある。
【0003】
このようなシステムに用いられるアンテナ回路の構成例を
図2に示す。アンテナ回路は、アンテナ1にコンデンサ20が並列に接続された並列共振回路10を含み、アンテナ1のインダクタンスとコンデンサ20のキャパシタンスで決まる共振周波数を、LF波信号の通信周波数と一致するように設定している。アンテナ1は制御回路30に接続されている。例えば、空気圧センサユニットでは、車両側のコントロールユニットからの信号を受信し、それがセンサユニットを起動させる信号かどうかを制御回路30にて判断し、その結果に基づいて動作を開始する。
【0004】
アンテナ回路で用いられるLF波用のアンテナの構成例を
図1に示す。アンテナ1は、コイル5と、その空芯部に通されたフェライトコア7と、前記コイル5及びフェライトコア7の少なくとも一部を被覆する外装部8(破線で示した。)とを含むコイル部品であって、樹脂モールド型アンテナと呼ばれるものである。モールド用の樹脂は、耐熱性、絶縁性、成形性等の観点からエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂又は液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂が用いられる。
【0005】
フェライトコアを構成するフェライト材料は透磁率の温度特性や応力特性を有するため、環境温度の変化によって樹脂モールド型アンテナのインダクタンスが変動する。それにより並列共振回路の共振周波数と通信周波数との間にずれが生じて通信が行えなかったり、通信距離が短くなったりする問題が生じる場合がある。
【0006】
フェライト材料の温度特性に起因する共振周波数のずれ対策として、組み合わせるコンデンサのキャパシタンスの温度変化を利用する方法がある。例えば、特開昭57-17110号は、カーラジオ等の電子同調チューナ用のフェライトコアに、温度上昇に対して透磁率が減少するNi系のフェライト材料を用い、並列共振回路を構成するコンデンサに、温度の上昇に対してキャパシタンスが増加する可変容量ダイオードを組み合わせる方法を開示している。
【0007】
特開昭57-17110号は共振周波数のずれに対して対処的な方法を開示するが、インダクタンスの変動の要因であるフェライト材料の応力特性については何ら考慮されていない。また、フェライトコアの温度に対する透磁率の変化や、コンデンサのキャパシタンスの変化は線形でない場合も多く、市場に供給されているコンデンサの中から、使用目的に適した性能・特性を有し、かつフェライト材料の温度特性に適合するようなものを選定する必要があり、組み合わせても共振周波数のずれを抑えることができず、十分な対策がとれない場合がある。
【0008】
特開平6-140229号は、樹脂モールド型のインダクタにおいて、温度変化によるインダクタンスの変動を減少するのに、フェライト材料を、a(Ni(1-x)Cux)O・bZnO・cFe2O3で表した場合に、x=0.1~0.8、a+b+c=100、b=0~35(0も含む)、c=32~48.5として、その透磁率の温度係数を負とすることで、フェライトコアと樹脂との間に生じる応力に関係する透磁率の変化を補正する方法を開示している。
【0009】
特開平6-140229号は、Ni系のフェライト材料の温度特性により、応力による透磁率の変化を補正する。しかしながら、応力による透磁率への影響もまたフェライト材料に起因するため、応力特性を補正するように温度特性を調整しようとすると、それに伴って応力特性が変化してしまう。したがって単にフェライト材料の透磁率の温度係数を負とするだけでは温度変化によるインダクタンスの変動を減少させることができない場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであって、温度に対するインダクタンスの変化とともに、応力に対するインダクタンスの変化を抑えて、広い温度範囲でインダクタンスの変動を少なくすることができる少なくとも一部が樹脂で被覆されたコイル部品及び前記コイル部品を用いたアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のコイル部品は、コイルと、前記コイルの磁路に配置されるフェライトコアとを含み、少なくとも一部が樹脂で被覆されており、
前記フェライトコアは平均結晶粒径が5~9μmのNi系フェライトコアであり、
前記Ni系フェライトコアは、
(a)周波数100 kHz、温度20℃における初透磁率μiが450以上であり、
(b)式1: TLa=[(LT2―LT1)/LT1]×100(%)、及び
式2:TLb=[(LT3―LT1)/LT1]×100(%)[ただし、LT1は周波数100 kHzで20℃における非圧縮状態でのインダクタンス、LT2は周波数100 kHzで-40℃における非圧縮状態でのインダクタンス、及びLT3は周波数100 kHzで80℃における非圧縮状態でのインダクタンスである。]
で規定される温度変化に対するインダクタンスの変化率TLa及びTLbがともに-0.6%~+0.6%であり、
(c)式3: PLa=[(LP2-LP1)/LP1]×100(%)、及び
式4:PLb=[(LT1-LP1)/LP1]×100(%)
[ただし、LP1は周波数100 kHz、20℃で、一軸方向に10 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス、LP2は周波数100 kHz、20℃で、一軸方向に20 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス、及びLT1は周波数100 kHzで20℃における非圧縮状態でのインダクタンスである。]
で規定される応力変化に対するインダクタンスの変化率PLa及びPLbとがともに-0.6%~+0.6%であり、かつ
(d)TLaとPLaとの和、及びTLbとPLbとの和がともに-1.0%超+1.0%未満である
特定を有する。
【0012】
前記Ni系フェライトコアの成分組成は、47.5~48.4 mol%のFe2O3、25.0~30.5 mol%のZnO、6.0~11.5 mol%のCuO、及び残部NiOと不可避不純物として表されるのが好ましい。
【0013】
本発明のアンテナは、前記コイル部品を用いたアンテナである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、温度に対するインダクタンスの変化とともに、応力に対するインダクタンスの変化を抑えて、応力環境下でも広い温度範囲でインダクタンスの変動を少なくすることができるコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のコイル部品の一例を示す斜視図である。
【
図2】コイル部品をLF波用のアンテナとして用いて構成したアンテナ回路図である。
【
図3】実施例1、比較例1、3及び6について、インダクタンスの応力による変化率を示すグラフである。
【
図4】実施例3、8、比較例5及び6について、インダクタンスの応力による変化率を示すグラフである。
【
図5】実施例1、比較例1、3及び6について、インダクタンスの温度による変化率を示すグラフである。
【
図6】実施例3、8、比較例5及び6について、インダクタンスの温度による変化率を示すグラフである。
【
図7】圧縮応力によるインダクタンスの変化率を測定する方法を示す模式図である。
【
図8】Ni系のフェライト材料の透磁率の応力特性を説明するための模式図である。
【
図9】樹脂封止されたフェライトコアに作用する応力と温度との関係を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るコイル部品として、樹脂モールド型アンテナについて具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。技術的思想の範囲内で適宜変更可能である。なお、図の一部又は全部において、説明に使用した図面は発明の要旨の理解が容易なように要部を主に記載し、細部については適宜省略するなどしている。
【0017】
樹脂モールド型アンテナの構成は
図1と同様であり、アンテナを用いて構成されるアンテナ回路は
図2と同様であるので、それらを用いて説明を行う。
【0018】
樹脂モールド型アンテナは、フェライトコア7と、コイル5と、それらを被覆して封止する外装部8とを含む。フェライトコア7は、Ni系のフェライト材料で構成され、周波数100 kHz、温度20℃における初透磁率は450以上で、平均結晶粒径は5~9μmであって、以下の式1及び式2で規定される温度変化に対するインダクタンスの変化率TLa及びTLb、並びに式3及び式4で規定される応力変化に対するインダクタンスの変化率PLa及びPLbが全て-0.6%~+0.6%で、かつTLaとPLaとの和、及びTLbとPLbとの和がともに-1.0%超+1.0%未満である。
【0019】
式1:TLa=[(LT2―LT1)/LT1]×100(%)、
式2:TLb=[(LT3―LT1)/LT1]×100(%)、
式3:PLa=[(LP2-LP1)/LP1]×100(%)、及び
式4:PLb=[(LT1-LP1)/LP1]×100(%)
[ただし、LT1は周波数100 kHzで20℃における非圧縮状態でのインダクタンス、LT2は周波数100 kHzで-40℃における非圧縮状態でのインダクタンス、及びLT3は周波数100 kHzで80℃における非圧縮状態でのインダクタンス、LP1は周波数100 kHz、20℃で、一軸方向に10 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス、及びLP2は周波数100 kHz、20℃で、一軸方向に20 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンスである。]。
【0020】
フェライトコア7は、巻線を施す円柱状や角型柱状の巻軸と、その両端に設けられた鍔部とを備えている。Ni系のフェライト材料により構成され、アンテナが実装される空間による制限から、外形は全長が7~16 mm、巻軸の断面は1.2 mm×0.6 mm~2.8 mm×2.5 mmに構成される場合が多い。このフェライトコア7に導線を900回程度巻回して、鍔部間の空間を埋めるようにコイル5を設ける。導線にはポリウレタン性被覆線やポリイミド性被覆線を用いる。そして、フェライトコア7とコイル5をエポキシ系樹脂等の樹脂で被覆して封止し、外装部8を形成して樹脂モールド型アンテナとする。コイルの端部は図示していないが、外装部8から直接引き出しても良いし、フェライトコアに設けた図示しない内部端子に、はんだ付け、導電性接着剤、溶接等の接続手段で固定しても良い。さらにリードフレームで外装部に図示しない外部端子を設けて前記内部端子と接続して、面実装可能としても良い。
【0021】
フェライトコアへの導線の巻数は、所望のインダクタンスが得られるように適宜設定される。例えばTPMS用であれば、125 KHzで1 mH~8 mHのインダクタンスとなるように設定されている。初透磁率が450未満であると所望のインダクタンスを得るのに導線の巻数が増し、それに伴ってアンテナの外形が大型化する。また巻数の増加により導線間に発生する浮遊容量も増して自己共振周波数が低下する。自己共振周波数が通信周波数に近づくにつれて、コイルの自己インダクタンスが増加し、アンテナのQ値は低下するため、通信距離が低下する等、アンテナとしての機能が損なわれる場合がある。また、通信する周波数でインダクタンスのばらつきが生じ、安定した共振周波数が得られない場合がある。
【0022】
フェライトコアはNi系のフェライト材料からなる多結晶体であって、その平均結晶粒径が5μm未満であると、所望の初透磁率が得られない場合があり、また空孔が多い結晶組織となって強度が低下する場合もある。9μm超であると、温度に対する初透磁率の変化が大きくなり易く、所望の変化率が得られない場合がある。
【0023】
樹脂モールド型アンテナでは、フェライトコアに、温度変化に対するインダクタンスの変化率TLa及びTLb、並びに応力変化に対するインダクタンスの変化率PLa及びPLbが全て-0.6%~+0.6%で、かつTLaとPLaとの和、及びTLbとPLbとの和がともに-1.0%超+1.0%未満の特性を有するNi系のフェライトコアを用いる。ここで、TLa、TLb、PLa及びPLbは前述の式1~式4により算出することができる。
【0024】
図8にフェライトコアに作用する圧縮応力と初透磁率との関係を示す。Ni系のフェライト材料のような磁歪定数が負であるフェライト材料では、一般に圧縮応力に応じて初透磁率が増加し、極大値を経て減少する応力特性を示すことが知られている。図中、初透磁率が極大値を示す圧縮応力よりも低圧側であって、圧縮応力が増加するに従い初透磁率が増加する範囲を領域Aとし、高圧側で圧縮応力が増加するに従い初透磁率が低下する範囲を領域Bとして示している。
【0025】
周囲温度が常温で定常状態にある樹脂モールド型アンテナでは、
図8で示した領域A~領域Bのいずれかの応力がフェライトコアに作用する状態となっていると考えられる。フェライトコアに作用する応力が領域A内にある場合(a点、σa)、圧縮応力の増加に伴ってフェライト材料の初透磁率はμiaよりも増加する。領域B内にある場合(b点、σb)、圧縮応力の増加に伴って初透磁率はμibよりも低下する。また、初透磁率が極大値を示す圧縮応力近傍である場合(c点、σc)、圧縮応力の増加・低下によって初透磁率はμicよりも低下する。
【0026】
通常、樹脂モールド型アンテナで用いるような樹脂の線膨張係数は、フェライト材料よりも大きく、温度変化によってフェライトコアに作用する応力が変化する。
図9に温度とフェライトコアに作用する応力との関係の一例を示す。例えば、定常状態T1でフェライトコアにσT1の応力が作用しているとすると、樹脂モールド型アンテナが高温の温度環境T2へ晒された場合(温度+)、前述の線膨張係数差によりフェライトコアに作用する応力は減少(応力-)してσT2となり、低温の温度環境T3へ晒された場合(温度-)には、フェライトコアに作用する応力(応力+)はσT3へ増加する。
【0027】
このような線膨張係数差に由来する応力変化でも、フェライト材料の初透磁率が変動する。
【0028】
フェライト材料の透磁率の温度特性を考慮しない、即ち温度が変化しても初透磁率は変化しない理想的な条件である場合だと、温度変化に伴う応力変化によってフェライト材料の初透磁率は以下のように変動する。
【0029】
例えば樹脂モールド型アンテナが使用される温度環境下で、フェライトコアが-40℃から+80℃の温度範囲にあって、フェライトコアに作用する応力が領域A内にある場合(a点)、定常状態から温度が上がる(温度+)に従い前述の通り作用する応力は減少(応力-)するので初透磁率は減少(初透磁率-)し、温度が下がる(温度-)に従い作用する応力は増加(応力+)するので初透磁率は増加(初透磁率+)するように変化する。
【0030】
フェライトコアに作用する応力が領域B内にある場合(b点)、定常状態から温度が上がる(温度+)に従い前述の通り作用する応力は減少(応力-)するので初透磁率は増加(初透磁率+)し、温度が下がる(温度-)に従い作用する応力は増加(応力+)するので初透磁率は低下(初透磁率-)する。
【0031】
フェライトコアに作用する応力が、初透磁率が極大値を示す応力近傍である場合(c点)、定常状態から温度が上がり(温度+)応力が減少(応力-)しても、温度が下がり(温度-)応力が増加(応力+)しても初透磁率は低下(初透磁率-)する。
【0032】
このような理想状態における初透磁率の変化は、フェライト材料の温度特性を加味すると異なる状態となる。次に、特開平6-140229号に記載されたように、温度上昇(温度+)に対して初透磁率が減少(初透磁率-)する、透磁率の温度係数が負のNi系のフェライト材料をフェライトコアに用いる場合について説明する。
【0033】
フェライトコアに作用する応力が領域A内にある場合(a点)、定常状態から温度が上がる(温度+)に従い応力が減少(応力-)し、初透磁率の温度特性と相まって初透磁率はいっそう減少(初透磁率-)する。また温度が下がる(温度-)に従い作用する応力は増加(応力+)するので、初透磁率はいっそう増加(初透磁率+)し、温度に対して初透磁率の変化が大きくなってしまう。
【0034】
一方、フェライトコアに作用する応力が領域B内にある場合(b点)、応力による初透磁率の変化が相殺されて、定常状態から温度が上がる場合でも下がる場合でも、初透磁率の変化は温度が変化しても初透磁率は変化しない(フェライト材料の透磁率の温度特性を考慮しない)とした前述の理想状態よりもいっそう小さなものになる。
【0035】
またフェライトコアに作用する応力が、初透磁率が極大値を示す圧縮応力近傍である場合(c点)、定常状態から温度が上がる(温度+)に従い応力が減少(応力-)し、初透磁率の温度特性と相まって初透磁率はいっそう減少(初透磁率-)し変化が大きくなってしまう。一方で、温度が下がる(温度-)に従い作用する応力は増加(応力+)するので、応力による初透磁率の変化が相殺されて、初透磁率の変化は理想状態よりも小さなものになる。
【0036】
このような初透磁率の変動はフェライトコアのインダクタンスの変動と一致する。つまり、特開平6-140229号に記載の方法ではインダクタンスの変動の抑制は、定常状態でフェライトコアに作用する応力が領域B内にある場合に限られ、限定的であることがわかる。
【0037】
本発明者らは、温度に対するインダクタンスの変動を抑制するには、定常状態から温度変化に対するインダクタンスの変化率(TLa、TLb)と、応力変化に対するインダクタンスの変化率(PLa、PLb)を小さくするとともに、定常状態よりも低温側のインダクタンスの変化率TLaと定常状態よりも高圧側のインダクタンスの変化率PLaとの和、及び定常状態よりも高温側のインダクタンスの変化率TLbと定常状態よりも低圧側のインダクタンスの変化率PLbとの和も小さくすることが必要であることを知見した。
【0038】
さらに、本発明者等は鋭意検討する中で、TLa、TLb、PLa及びPLbが全て-0.6%~+0.6%で、かつTLaとPLaとの和、及びTLbとPLbとの和がともに-1.0%超+1.0%未満であるNi系フェライトコアを用いた樹脂モールド型アンテナが、温度に対してインダクタンスの変動を抑制できることを見出した。
【0039】
樹脂モールド型アンテナにおいては、PLa及びPLbが-0.6%未満又は+0.6%超えであると、封止する樹脂の厚みや線膨張係数の影響を受け易く、また、TLa+PLa、及びTLb+PLbが-1.0%以下又は+1.0%以上であると、樹脂モールド型アンテナの温度に対するインダクタンスの変動を抑えることが困難な場合がある。
【0040】
インダクタンスの温度特性であるTLa及びTLb、並びにインダクタンスの応力特性であるPLa及びPLbを求めるためのインダクタンスL
T1、L
T2、L
T3、L
P1及びL
P2の測定は、フェライトコアの巻線を施す巻軸の形状寸法に応じて、1.0 mm×0.5 mm角~2.8 mm×2.5 mm角で、長さ6 mm~15 mmの棒状のフェライトコアを試料として行うのが好ましい。巻数は50ターン以上とするのが好ましい。
図7に測定に用いた試料の斜視図を示す。導線300を60ターン巻いたコイルボビン205の中空部にフェライトコア200を配置して測定試料を構成する。
【0041】
20℃における非圧縮状態でのインダクタンス(LT1)は、20℃の温度環境で、周波数100 kHz及び1 mAの電流で測定して求めたインダクタンスである。インダクタンスの測定は、LCRメーター(例えば、アジレント・テクノロジー株式会社製4284A)を用いて行う。-40℃における非圧縮状態でのインダクタンス(LT2)及び80℃における非圧縮状態でのインダクタンス(LT3)は、測定試料をそれぞれ-40℃及び+80℃の電子恒温槽に配置した以外同様にして測定したインダクタンスである。また、同様の方法で-40℃~+80℃でのインダクタンスの温度依存性を測定することもできる。
【0042】
インダクタンスの応力依存性は、フェライトコア200の長手方向に所定の応力が作用するように加圧簡易治具に測定試料を配置して測定することができる。例えば、フェライトコアを定盤とフォースゲージの板状先端部とで挟持し、前記定盤を上下させてフェライトコア内部に発生する磁束方向と同方向に所定の荷重を加えた状態で、インダクタンス(LT1)と同様にして、20℃、周波数100 kHz及び1 mAの電流でインダクタンスを測定する。一軸方向に10 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス(LP1)、及び一軸方向に20 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス(LP2)は、それぞれ面圧が10 MPa及び20 MPaとなる条件で測定した値である。
【0043】
樹脂モールド型アンテナにおいては、前記Ni系フェライトコアの成分組成が、47.5~48.4 mol%のFe2O3、25.0~30.5 mol%のZnO、6.0~11.5 mol%のCuO、及び残部NiOと不可避不純物として表されることが好ましい。
【0044】
Fe2O3が47.5 mol%未満では所望の初透磁率が得られない場合があり、一方、Fe2O3が48.4 mol%超では、温度に対する初透磁率の変化が大きくなり易くなる。Fe2O3の含有量は、47.6 mol%以上であるのが好ましく、47.8 mol%以上であるのがより好ましい。また48.3 mol%以下であるのが好ましく、48.2 mol%以下であるのがより好ましい。
【0045】
ZnOが25.0 mol%未満では、初透磁率が低下し所望の初透磁率が得られ難い。一方、ZnOが多いとキュリー温度(Tc)が下がるため、キュリー温度130℃以上を得るには30.5 mol%以下であるのが好ましい。ZnOの含有量は、25.1 mol%以上であるのが好ましく、25.3 mol%以上であるのがより好ましい。また30.4 mol%以下であるのが好ましく、30.2 mol%以下であるのがより好ましい。
【0046】
CuOが6.0 mol%未満では緻密化が不足し所望の初透磁率が得られ難く、平均粒径を5~9μmの結晶構造の維持が困難となる。一方で11.5 mol%超であると、余剰なCuOにより焼結が増して同様な結晶構造の維持が困難でかつ、温度に対する初透磁率の変化が大きくなり易くなる。CuOの含有量は、6.5 mol%以上であるのが好ましく、7.0 mo%以上であるのがより好ましく、7.5 mol%以上であるのが最も好ましい。また11.0 mol%以下であるのが好ましく、10.5 mol%以下であるのがより好ましく、10.0 mol%以下であるのが最も好ましい。
【0047】
残部は、NiOと不可避不純物である。
【0048】
不可避不純物として、Fe2O3、ZnO、CuO及びNiOの総量100質量部に対して、1質量部以下であればその他の成分を含んでも良い。例えば、CaをCaO換算で0.1質量部以下、及びSiをSiO2換算で0.1質量部以下含有しても良い。また、Na、S、Cl、P、Mn、Cr、B等はできるだけ少ない方が好ましく、工業的な許容範囲は合計で0.05質量部以下である。
【0049】
図2に示したように、本発明のコイル部品からなる樹脂モールド型アンテナを用いて構成するアンテナ回路は、樹脂モールド型アンテナ1と並列にコンデンサ20が接続され、樹脂モールド型アンテナ1は制御回路30に接続されている。樹脂モールド型アンテナ1のインダクタンスとコンデンサ20のキャパシタンスとにより決定される共振周波数は通信周波数にあわせて設定される。本発明によれば、温度変化に対してインダクタンスの変動が抑えられるので共振周波数が安定し、アンテナとしての通信機能を損ねることがない。また温度変化に対してインダクタンスの変動を考慮しなくても良いのでコンデンサの選択自由度が向上する。
【実施例】
【0050】
本発明のコイル部品について以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0051】
(1)実施例1~8及び比較例1~6の作製
焼結後の組成がFe、Zn、Cu及びNiの酸化物換算で表1に示す組成となるように秤量し湿式混合した後、乾燥し、900℃で1時間仮焼した。得られた仮焼粉をイオン交換水とともにボールミルに投入し、平均粉砕粒径が1.6μmとなるまで粉砕した。仮焼粉にポリビニルアルコールを加えてスプレードライヤー法により顆粒化した後成形し、表1に示した温度にて大気中で焼結し、リング状フェライトコア(外径25 mm、内径15 mm及び厚さ5 mmのサンプル)及び角型柱状フェライトコア(断面が2.0 mm×2.0 mm角及び長さが10 mmのサンプル、及び断面が1.8 mm×0.8 mm角及び長さが11 mmのサンプル)を作製した。
【0052】
断面が1.8 mm×0.8 mm角及び長さが11 mmの角型柱状フェライトコアに、線径がφ0.2 mmのマグネットワイヤを850ターン巻回し、液晶ポリマーで封止して、断面が4.0 mm×3.0 mm角及び長さ12 mmのコイル部品を作製した。なお比較例1及び2についてはフェライトコアの特性の測定のみ行い、コイル部品の作製は行わなかった。
【0053】
(2)フェライトコアの特性
リング状フェライトコアのサンプルを用いて焼結密度、平均結晶粒径、初透磁率μi、初透磁率μiの相対温度係数αμirを測定又は算出し、測定結果を表1及び表2に示す。測定及び評価はJIS C 2560-2に準拠し、フェライトコアの組成分析は蛍光X線分析により行った。
【0054】
(焼結密度)
リング状サンプルを用いて水中置換法により算出した。なお、試料形状は特に限定されず角型柱状や円柱状等でも良い。
【0055】
(平均結晶粒径)
リング状サンプルの破断面を走査型電子顕微鏡で3000倍にて写真撮影し、実際の32μm×42μmに相当する長方形領域を横断する長さL1の任意の直線を引き、この直線上に存在する粒子の数N1を計測し、長さL1を粒子数N1で除した値L1/N1を4本の直線について求めて平均した値を平均結晶粒径とした。なお、試料形状はリング状サンプルに限定されず角型柱状や円柱状等でも良い。
【0056】
(初透磁率μi)
リング状サンプルに導線を巻回し、LCRメーター(アジレント・テクノロジー株式会社製4284A)により、20℃で、周波数100 kHz及び1 mAの電流で測定したインダクタンスから次式により求めた。
初透磁率μi=(le×L)/(μ0×Ae×N2)
[ただし、le:磁路長(m)、L:試料のインダクタンス(H)、μ0:真空の透磁率=4π×10-7(H/m)、Ae:磁心の断面積(m2)、及びN:導線の巻数である。]
【0057】
(相対温度係数αμir)
相対温度係数αμirは式:
αμir=[(μi2-μi1)/μi1
2]/(T2-T1)
[ただし、T1及びT2は測定温度であり、μi1は温度T1における初透磁率であり、μi2は温度T2における初透磁率である。]により定義される。
【0058】
例えば、-40℃~+20℃の相対温度係数αμirの場合、T1=+20℃であり、T2=-40℃であり、μi1は+20℃における初透磁率であり、μi2は-40℃における初透磁率である。また+20℃~+80℃の相対温度係数αμirの場合、T1=+20℃であり、T2=+80℃であり、μi1は+20℃における初透磁率であり、μi2は+80℃における初透磁率である。
【0059】
(インダクタンスの温度及び応力依存性)
角型柱状フェライトコア(断面が2.0 mm×2.0 mm角及び長さが10 mmのサンプル)を使用し、応力に対するインダクタンスの変化率PLa及びPLbと、温度に対するインダクタンスの変化率TLa及びTLbを以下のようにして算出した。結果を表3に示す。
図3及び
図4に無負荷の状態を基準として見た応力によるインダクタンスの変化率を示した。
図5及び
図6に20℃の状態を基準として見た温度によるインダクタンスの変化率を示した。
【0060】
なおTLa、TLb、PLa及びPLbは以下の式1~式4により算出した。
式1:TLa=[(LT2―LT1)/LT1]×100(%)、
式2:TLb=[(LT3―LT1)/LT1]×100(%)
式3:PLa=[(LP2-LP1)/LP1]×100(%)、及び
式4:PLb=[(LT1-LP1)/LP1]×100(%)
[ただし、LT1は周波数100 kHzで20℃における非圧縮状態でのインダクタンス、LT2は周波数100 kHzで-40℃における非圧縮状態でのインダクタンス、及びLT3は周波数100 kHzで80℃における非圧縮状態でのインダクタンス、LP1は周波数100 kHz、20℃で、一軸方向に10 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス、及びLP2は周波数100 kHz、20℃で、一軸方向に20 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンスである。]。
【0061】
各式で用いる周波数100 kHzで20℃における非圧縮状態でのインダクタンス(LT1)、周波数100 kHzで-40℃における非圧縮状態でのインダクタンス(LT2)、周波数100 kHzで80℃における非圧縮状態でのインダクタンス(LT3)、周波数100 kHz、20℃で、一軸方向に10 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス(LP1)、周波数100 kHz、20℃で、一軸方向に20 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス(LP2)は、それぞれ以下のように求めた。
【0062】
2.0 mm×2.0 mm及び長さ10 mmの角型柱状のフェライトコア200を、
図7に示すように、導線300を60ターン巻いたコイルボビン205の中空部に配置して測定試料を構成した。LCRメーター(アジレント・テクノロジー株式会社製4284A)により、20℃の温度環境で、周波数100 kHz及び1 mAの電流でインダクタンスを測定して、非圧縮状態でのインダクタンス(L
T1)を得た。さらに測定試料を電子恒温槽に配置し、-40℃及び+80℃でのインダクタンスを測定し、-40℃における非圧縮状態でのインダクタンス(L
T2)、及び80℃における非圧縮状態でのインダクタンス(L
T3)を得た。得られた結果から前述の式1及び式2によりTLa及びTLbを算出した。なお
図5及び
図6で示した変化率は、同様の方法で-40℃~+80℃でのインダクタンスを得て算出した結果である。
【0063】
圧縮状態でのインダクタンスは、同様に構成された測定試料を使用し、フェライトコア200の長手方向に所定の応力を作用させた状態で測定した。フェライトコアを定盤とフォースゲージの板状先端部とで挟持し、前記定盤を上下させてフェライトコア内部に発生する磁束方向と同方向に所定の荷重を加え(
図7を参照)、面圧が10 MPa及び20 MPaとなる条件で、20℃で、周波数100 kHz及び1 mAの電流でのインダクタンスを測定し、それぞれ一軸方向に10 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス(L
P1)、及び一軸方向に20 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス(L
P2)を得た。得られたインダクタンスから式3及び式4によりPLa及びPLbを算出した。なお
図3及び
図4で示した変化率は、同様の方法で0 MPa~29 MPaでのインダクタンスを得て算出した結果である。
【0064】
【0065】
【表2】
注(1) 相対温度係数αμir=[(μi
2-μi
1)/μi
1
2]/(T
2-T
1) [ただし、T
1及びT
2は測定温度であり、μi
1は温度T
1における初透磁率であり、μi
2は温度T
2における初透磁率である。]
【0066】
【表3】
注(1) TLa=[(L
T2―L
T1)/L
T1]×100(%)、TLb=[(L
T3―L
T1)/L
T1]×100(%)、PLa=[(L
P2-L
P1)/L
P1]×100(%)、及びPLb=[(L
T1-L
P1)/L
P1]×100(%) [ただし、L
T1は周波数100 kHzで20℃における非圧縮状態でのインダクタンス、L
T2は周波数100 kHzで-40℃における非圧縮状態でのインダクタンス、及びL
T3は周波数100 kHzで80℃における非圧縮状態でのインダクタンス、L
P1は周波数100 kHz、20℃で、一軸方向に10 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンス、及びL
P2は周波数100 kHz、20℃で、一軸方向に20 MPaの面圧で圧縮した場合のインダクタンスである。]である。
【0067】
実施例1~8のフェライトコアは、いずれも初透磁率が450以上であり、温度変化に対するインダクタンスの変化率TLa及びTLb、並びに応力変化に対するインダクタンスの変化率であるPLa及びPLbが全て-0.6%~+0.6%で、かつTLaとPLaとの和及びTLbとPLbとの和がともに-1.0%超~+1.0%未満であった。TLaはいずれも負の変化率となった。また
図3及び
図4に示すように、インダクタンスの変化率が最大となる応力は10 MPa以下であった。
【0068】
一方、比較例1ではインダクタンスの変化率は小さいが、Cu量が6.0 mol%と少ないため、焼成温度が1000℃では結晶粒の緻密化が進まず、平均結晶粒径が5μm未満となり、初透磁率が333と低かった。比較例2も比較例1同様、焼結密度が低く、初透磁率が417と低かった。CuOが11.5 mol%を超える比較例3~5は初透磁率が450以上であるが、平均結晶粒径が9μm以上になり、温度変化に対するインダクタンスの変化率TLaが-0.6%未満で、応力変化に対するインダクタンスPLaとの和(TLa+PLa)も-1.0%以下となった。比較例6はFe
2O
3が47.5 mol%よりも少なく、初透磁率が450未満であって、応力変化に対するインダクタンスの変化率であるPLbが-0.6%未満で、温度変化に対するインダクタンスの変化率TLbとの和(TLb+PLb)も-1.0%以下となった。また
図3及び
図4に示すように、インダクタンスの変化率が最大となる応力は15 MPa付近にあった。また
図5及び
図6に示すように、20℃を基準とした温度に対する変化率は負となっていた。
【0069】
(3)コイル部品の評価
実施例1~8及び比較例3~6のコイル部品のインダクタンスをLCRメーター(アジレント・テクノロジー株式会社製4284A)により、-40℃、+20℃、+80℃の温度環境で、周波数100 kHz及び1 mAの電流で測定した。
【0070】
測定した結果から+20℃に対する-40℃と+80℃のインダクタンスの変化率を次式により求めた。
ΔL(T2)=〔(L2-L1)/L1〕/(T2-T1)×100 (%)
[ただし、T1は+20℃、T2は-40℃又は+80℃であり、L1は温度T1におけるインダクタンスであり、L2は温度T2におけるインダクタンスである。]
【0071】
実施例1のコイル部品は、T2が-40℃である場合のインダクタンスの変化率ΔL(-40)は-0.72%、T2が+80℃である場合のインダクタンスの変化率ΔL(+80)は-0.65%で、ともに-1.0%~+1.0%の範囲内であった。また、実施例2~8のコイル部品はいずれも、T2が-40℃である場合のインダクタンスの変化率ΔL(-40)、T2が+80℃である場合のインダクタンスの変化率ΔL(+80)ともに、-1.0%~+1.0%の範囲内となっていて、温度に対するインダクタンスの変化が抑制されていた。
【0072】
比較例6のコイル部品は、T2が-40℃である場合のインダクタンスの変化率ΔL(-40)は+0.65%、T2が+80℃である場合のインダクタンスの変化率ΔL(+80)は-1.95%であった。また、比較例3~5のコイル部品は、T2が-40℃である場合のインダクタンスの変化率ΔL(-40)、T2が+80℃である場合のインダクタンスの変化率ΔL(+80)のどちらかが、-1.0%~+1.0%の範囲外で、温度に対するインダクタンスの変化が大きなものとなった。