(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】シートモールディングコンパウンドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
(21)【出願番号】P 2019550865
(86)(22)【出願日】2019-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2019034369
(87)【国際公開番号】W WO2020050200
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2019-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018165832
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】太田 智
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 隼人
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-145986(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150521(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/001764(WO,A1)
【文献】特開2000-309626(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190329(WO,A1)
【文献】特開2002-012649(JP,A)
【文献】特開平11-302507(JP,A)
【文献】特開2014-185256(JP,A)
【文献】特開昭61-078841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04-5/10,5/24
B29B 11/16,15/08-15/14
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョップド炭素繊維束にエポキシ樹脂組成物を含浸させた後、前記エポキシ樹脂組成物を増粘させることを含む、シートモールディングコンパウンドの製造方法であって、
前記エポキシ樹脂組成物に下記成分(A)、成分(B)および成分(C)が配合され、
前記エポキシ樹脂組成物における下記成分(B)の配合量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂100質量部に対し1~20質量部である、シートモールディングコンパウンドの製造方法。
成分(A):25℃において液状のエポキシ樹脂。
成分(B):25℃において液状の酸無水物。
成分(C):融点が40~69℃の硬化剤。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物に、前記成分(C)としてエポキシ樹脂アミンアダクトが配合される、請求項
1に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂組成物における前記成分(C)の配合量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂100質量部に対し1~10質量部である、請求項
1または
2に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂組成物に、下記成分(D)がさらに配合される、請求項
1~
3のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
成分(D):融点が180~300℃の硬化剤。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂組成物に、前記成分(D)としてイミダゾール系化合物が配合される、請求項
4に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂組成物に、前記成分(D)としてジシアンジアミドが配合される、請求項
4または
5に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂組成物における前記成分(D)の配合量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂100質量部に対し0.1~10質量部である、請求項
4~
6のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂組成物に、前記成分(A)としてグリシジルアミン系エポキシ樹脂が配合される、請求項
1~
7のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項9】
前記エポキシ樹脂組成物における前記グリシジルアミン系エポキシ樹脂の配合量が、前記エポキシ樹脂組成物における前記成分(A)の配合量の1~30質量%である、請求項
8に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートモールディングコンパウンド、および繊維強化複合材料に関する。
本願は、2018年9月5日に、日本で出願された特願2018-165832号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を含む強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料は、その優れた機械特性等から、航空機、自動車、産業用途に幅広く用いられている。近年、その使用実績を積むにしたがって繊維強化複合材料の適用範囲はますます拡がってきている。
繊維強化複合材料のマトリックス樹脂には、高温環境にあっても高度の機械特性を発現することが必要とされる。また、繊維強化複合材料の製造に用いられる成形材料(シートモールディングコンパウンド(以下、SMCとも記す。)、プリプレグ等)のマトリックス樹脂には、成形性に優れることが必要とされる。
【0003】
成形材料のマトリックス樹脂としては、強化繊維への含浸性や硬化後の耐熱性に優れる熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物が用いられることが多い。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が用いられている。
このうち、エポキシ樹脂組成物は、成形性および硬化後の耐熱性に優れており、エポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料が高度の機械特性を発揮できることから、マトリックス樹脂として好適である。
【0004】
成形材料を成形して繊維強化複合材料を製造する方法としては、オートクレーブ成形法、フィラメントワインド成形法、樹脂注入成形法、真空樹脂注入成形法、プレス成形法等がある。このうち、プレス成形法は、生産性が高く、優れた意匠面を有する繊維強化複合材料が得られやすいことから需要が高まっている。
プレス成形法に用いる成形材料としては、複雑な形状の繊維強化複合材料の製造が可能であり、構造部材に最適な繊維強化複合材料が得られることから、強化短繊維とマトリックス樹脂とから構成されるSMCが活発に利用されている。
【0005】
SMCに用いられるマトリックス樹脂には、下記の特性が求められる。
・SMCの製造時の炭素繊維への含浸性を確保するため、SMCのマトリックス樹脂がSMCの製造時に非常に低粘度であること。
・プレス成形時のSMCの取り扱い作業性を確保するため、SMCのマトリックス樹脂が適度に増粘することによってBステージ(半硬化によって増粘した状態であって、加熱によって流動化し得る状態)となり、適度なタック性(粘着性)およびドレープ性(柔軟性)を有すること。
・プレス成形時のマトリックス樹脂の流動性を確保するため、SMCのマトリックス樹脂がBステージを長期間保持できること(Bステージの安定性)。
・プレス成形法においては短時間かつ高温でSMCを成形するため、SMCのマトリックス樹脂が短時間で硬化し、かつ硬化後に高い耐熱性を有すること。
・プレス成形後の脱型作業やバリ取り作業の時間をできるだけ短時間にするために、SMCのマトリックス樹脂を成形した後のバリの発生が少なく、型温に対して同等以上の高い剛性を有すること。
・高い機械特性および耐熱性を有する炭素繊維強化複合材料を得るため、SMCのマトリックス樹脂を硬化した後に高い機械特性および耐熱性を発現できること。
【0006】
しかし、エポキシ樹脂組成物は、硬化物の機械特性および耐熱性に優れるものの、速硬化性とBステージの安定性とを両立することは困難である。
すなわち、エポキシ樹脂を短時間で硬化させる硬化剤は、室温において硬化反応を速やかに進行させるため、エポキシ樹脂組成物のBステージを長期間保持できない。一方、エポキシ樹脂組成物のBステージを長期間保持できる硬化剤は、短時間でエポキシ樹脂を硬化させることが困難である。
【0007】
そのため、SMCのマトリックス樹脂としては、通常、不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂をスチレンで希釈した熱硬化性樹脂組成物が用いられる。しかし、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物は、硬化収縮が大きいことや成形品中に含まれる低揮発性有機化合物が多いことから、マトリックス樹脂のエポキシ化が望まれている。エポキシ樹脂組成物は、該不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂をスチレンで希釈した熱硬化性樹脂組成物と比較し、硬化収縮が小さく、成形品中に含まれる低揮発性有機化合物も極少量である。
【0008】
SMCに用いられるエポキシ樹脂組成物としては、下記のものが提案されている。
(1)水酸基を有するエポキシ樹脂、ポリオール、ポリイソシアネート化合物からなる樹脂組成物(特許文献1)。
(2)エポキシ樹脂、ポリオール、ポリイソシアネート化合物、ジシアンジアミド、特定のイミダゾール化合物からなる樹脂組成物(特許文献2)。
(3)エポキシ樹脂、アミノアルキルイミダゾール化合物、ジアザビシクロアルキレン化合物からなる樹脂組成物(特許文献3)。
【0009】
接着剤に用いられるエポキシ樹脂組成物としては、下記のものが提案されている。
(4)エポキシ樹脂と、活性化温度が20~100℃である硬化剤と、活性化温度が100~200℃である硬化剤からなる液状接着剤(特許文献4)。
(5)室温において固体のエポキシ樹脂、室温において液体のエポキシ樹脂、アミノ基末端を有する線状ポリオキシプロピレン、潜伏性硬化剤(ジシアンジアミド)を含有する反応性ホットメルト接着剤(特許文献5)。
【0010】
プリプレグに用いられるエポキシ樹脂組成物としては、下記のものが提案されている。
(6)エポキシ樹脂、潜在性硬化剤、重合性不飽和基を有する樹脂、重合開始剤を含有する含浸用樹脂組成物(特許文献6)。
(7)エポキシ樹脂、酸無水物、ルイス酸塩(三塩化ホウ素アミン錯体)を含むエポキシ樹脂組成物(特許文献7~9)。
【0011】
エポキシ樹脂を安定してBステージ化することができるエポキシ樹脂組成物としては、下記のものが提案されている。
(8)エポキシ樹脂と、硬化剤として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサメチレンジアミン、メンセンジアミンを含有する樹脂組成物(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】日本国特開昭58-191723号公報
【文献】日本国特開平4-88011号公報
【文献】国際公開第2008/77836号
【文献】日本国特開平2-88684号公報
【文献】日本国特開平2-88685号公報
【文献】日本国特開平2-286722号公報
【文献】日本国特開2004-189811号公報
【文献】日本国特開2004-43769号公報
【文献】日本国特開2001-354788号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】新保正樹編、「エポキシ樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、昭和62(1987)年12月25日、p.155~156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
(1)、(2)の樹脂組成物は、ウレタン化反応を利用しているため、樹脂組成物中の水分の影響で増粘反応速度とBステージの状態が大幅に変化する。そのため、SMCの取り扱い作業性およびBステージの安定性を確保することが困難である。
(3)の樹脂組成物は、速硬化性を有するが貯蔵安定性が低く、SMCの取り扱い作業性およびBステージの安定性を確保することが困難である。
(4)の液状接着剤は、活性化温度が20~100℃である硬化剤(ポリアミン、メルカプタン、イソシアネート、イミダゾール、ポリアミド、ポリサルファイドフェノール、BF3錯体、ケチミン等)を用いているため、1段目の硬化反応でゲル化状態に至ってしまう。そのため、2段階目の硬化前では流動性が少なく、賦形が困難であり、SMCのマトリックス樹脂として用いることができない。
(5)の反応性ホットメルト接着剤は、粘度が高く、強化繊維への良好な含浸性を得ることができず、SMCのマトリックス樹脂として用いることができない。
【0015】
(6)の含浸用樹脂組成物を用いたプリプレグの製造においては、含浸用樹脂組成物に溶媒を含ませ、加熱によって溶媒の除去および硬化反応の一部を進めることが、特許文献5に記載されている。この方法は、溶媒の除去が容易であり、加熱、冷却時の厚さによる温度むらが少ない薄いプリプレグの製造には適用できる。しかし、SMCのような厚物のシートでは、溶媒の除去が困難であり、温度むらが大きくなるため、Bステージ化後には表面と内部の状態が違った不良物となる。
(7)のエポキシ樹脂組成物は、室温(23℃)でBステージ化するまでに時間が長くかかる。また、室温でBステージ化した後の粘度が低く、タックが強すぎるためSMCには適さない。
(8)の樹脂組成物は、2、5-ジメチル-2,5-ヘキサンジアミンを含有するため、ポットライフが短い。また、メンセンジアミンを含有するため、樹脂組成物の硬化性が不十分である。そのため、SMCのマトリックス樹脂には適さない。
【0016】
本発明は、プレス成形時のバリの発生を抑制でき、プレス成形時のマトリックス樹脂の流動性および速硬化性に優れるとともに、脱型性、機械特性および耐熱性に優れた繊維強化複合材料を得ることができるシートモールディングコンパウンドを提供することを目的とする。また、脱型性、機械特性および耐熱性に優れた繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは鋭意検討の結果、エポキシ樹脂組成物のゲルタイムおよび硬化反応開始時の温度が、シートモールディングコンパウンドを成形する際のバリの発生と因果関係があることを突き止めた。そして、エポキシ樹脂組成物のゲルタイムおよび硬化反応開始時の温度を規定することで上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0018】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを含有し、
前記エポキシ樹脂組成物の140℃におけるゲルタイムが30~140秒であり、
前記エポキシ樹脂組成物の硬化反応開始時の温度が70~115℃であり、
調製から7日後の前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度をb1とし、調製から14日後の前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度をb2としたときに、b2/b1≦5である、シートモールディングコンパウンド。
[2]エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを含有し、
前記エポキシ樹脂組成物はエポキシ樹脂と酸無水物との反応物を含み、
前記エポキシ樹脂組成物の140℃におけるゲルタイムが30~140秒であり、
前記エポキシ樹脂組成物の硬化反応開始時の温度が70~115℃である、シートモールディングコンパウンド。
[3]エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを含有し、
前記エポキシ樹脂組成物が下記成分(A)、成分(B)および成分(C)を含む、シートモールディングコンパウンド。
成分(A):25℃において液状のエポキシ樹脂。
成分(B):25℃において液状の酸無水物。
成分(C):融点が40℃以上180℃未満の硬化剤。
[4]前記成分(B)が、前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ基の1当量に対して、0.1~0.5当量の酸無水物基を含む、[3]に記載のシートモールディングコンパウンド。
[5]前記成分(C)が、融点が40℃以上120℃以下の硬化剤を含む、[3]または[4]に記載のシートモールディングコンパウンド。
[6]前記エポキシ樹脂組成物が、前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の総質量(100質量部)に対して、1~30質量部の前記成分(B)を含み、かつ1~10質量部の前記成分(C)を含む、[3]~[5]のいずれかに記載のシートモールディングコンパウンド。
[7]前記エポキシ樹脂組成物が下記成分(D)をさらに含む、[3]~[6]のいずれかに記載のシートモールディングコンパウンド。
成分(D):融点が180~300℃の硬化剤。
[8]前記エポキシ樹脂組成物が、前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の総質量(100質量部)に対して、0.1~10質量部の前記成分(D)を含む、[7]に記載のシートモールディングコンパウンド。
[9]前記成分(A)がグリシジルアミン系エポキシ樹脂を含み、前記成分(A)に含まれるグリシジルアミン系エポキシ樹脂の含有量が、前記成分(A)の総質量(100質量%)のうち1~30質量%である、[3]~[8]のいずれかに記載のシートモールディングコンパウンド。
[10]前記エポキシ樹脂組成物が、前記エポキシ樹脂組成物の増粘物である、[1]~[9]のいずれかに記載のシートモールディングコンパウンド。
[11]前記エポキシ樹脂組成物の硬化反応開始時の粘度が0.4~100Pa・sである、[1]~[10]のいずれかに記載のシートモールディングコンパウンド。
[12]前記強化繊維の平均長さが0.3~10cmである、[1]~[11]のいずれかに記載のシートモールディングコンパウンド。
[13][1]~[12]のいずれかに記載のシートモールディングコンパウンドのプレス成形物である、繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシートモールディングコンパウンドは、プレス成形時のバリの発生を抑制でき、プレス成形時のマトリックス樹脂の流動性および速硬化性に優れるとともに、脱型性、機械特性および耐熱性に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
また、本発明の繊維強化複合材料は、本発明のシートモールディングコンパウンドのプレス成型物であって、脱型性、機械特性および耐熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「25℃において液状」とは、25℃、1気圧の条件下で液体であることを意味する。
「25℃において固体状」とは、25℃、1気圧の条件下で固体であることを意味する。
「エポキシ樹脂」は、エポキシ基を分子内に2個以上有する化合物である。
「酸無水物基」は、2つの酸基(カルボキシ基等)から1つの水分子が除去された構造を有する基である。
「酸無水物」は、酸無水物基を有する化合物である。
「水素添加無水フタル酸」は、無水フタル酸のベンゼン環の不飽和炭素結合の一部または全部が飽和炭素結合に置き換わった化合物である。
「増粘物」は、エポキシ樹脂組成物に含まれる成分を混合してエポキシ樹脂組成物を調製し、調製直後のエポキシ樹脂組成物を23℃の環境下に静置し、7~14日経過し、Bステージ化したエポキシ樹脂組成物である。
「シートモールディングコンパウンド(SMC)」は、短繊維の強化繊維と熱硬化性樹脂とを含むシート状の成形材料である。
「粘度」は、レオメータを用い、測定モード:応力一定、応力値:300Pa、周波数:1.59Hz、プレート径:25mm、プレートタイプ:パラレルプレート、プレートギャップ:0.5mmの条件で測定された値である。
「バリ」は、SMCのプレス成形時に上下の金型の隙間からエポキシ樹脂組成物が流出し、固化することで形成される成形品(SMCのプレス成形物)の端部に形成される不要部分である。
「室温」とは、25℃を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0021】
[シートモールディングコンパウンド]
本発明のシートモールディングコンパウンドは、エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを含有する。
【0022】
<エポキシ樹脂組成物>
本発明のSMCに含有されるエポキシ樹脂組成物は、成分(A):25℃において液状のエポキシ樹脂と、成分(B):25℃において液状の酸無水物と、成分(C):融点が40℃以上180℃未満の硬化剤とを含むことが好ましい。エポキシ樹脂組成物は、成分(D):融点が180~300℃の硬化剤をさらに含むことがより好ましい。
エポキシ樹脂組成物においては、成分(B)が成分(A)と作用することによってエステル結合を形成する。エポキシ樹脂組成物の調製直後から、エポキシ樹脂と酸無水物との反応物により、エポキシ樹脂組成物を増粘させることができる。そして、エポキシ樹脂と酸無水物との反応物を含む増粘物が本発明のSMCのマトリックス樹脂であってもよく、本発明のマトリックス樹脂は、エポキシ樹脂と酸無水物の反応物を含んでいてもよい。
本発明のSMCに含まれるエポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂組成物の増粘物であれば、SMCの生産性と取扱い性とを両立させることができ、SMCのBステージの安定性がより優れる(すなわち、Bステージを長期間保持できる)傾向にあるとともに、SMCの経時による粘度変化が小さく、貯蔵安定性に優れる傾向にあるので好ましい。
【0023】
エポキシ樹脂組成物の140℃におけるゲルタイムは、30~140秒であり、40~120秒が好ましく、50~85秒がより好ましい。
140℃におけるゲルタイムが30秒以上、好ましくは40秒以上、より好ましくは50秒以上であれば、SMCのプレス成形時におけるマトリックス樹脂の流動性が向上する。140℃におけるゲルタイムが140秒以下、好ましくは120秒以下、より好ましくは85秒以下であれば、SMCのプレス成形時におけるバリの発生を抑制でき、脱型作業に時間がかかりにくく、生産性を維持できる。また、140℃におけるゲルタイムが前記範囲内であれば、SMCのプレス成形時におけるマトリックス樹脂の速硬化性にも優れる。
エポキシ樹脂組成物のゲルタイムは、エポキシ樹脂組成物の配合組成により調節できる。
【0024】
エポキシ樹脂組成物のゲルタイムは以下のようにして測定される値である。
すなわち、調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で7日間静置する。予め140℃に熱したホットプレート上に、カバーガラスを120秒保持した後、このカバーガラスの上に調製から7日後のエポキシ樹脂組成物を置き、他のカバーガラスでエポキシ樹脂組成物を挟み、挟んだ直後から時間の計測を始め、上側のカバーガラスをピンセット等で動かし、カバーガラスが動かなくなるまでの時間を測定し、これをエポキシ樹脂組成物の140℃におけるゲルタイムとする。
なお、ゲルタイムは、エポキシ樹脂組成物単独で測定した場合と、SMCの状態で測定した場合とで、ほぼ一致する。
【0025】
エポキシ樹脂組成物の硬化反応開始時の温度は、70~115℃であり、80~110℃が好ましく、90~105℃がより好ましい。
硬化反応開始時の温度が70℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上であれば、SMCのプレス成形時におけるマトリックス樹脂の流動性が向上する。硬化反応開始時の温度が115℃以下、好ましくは110℃以下、より好ましくは105℃以下であれば、バリの発生を抑制でき、脱型作業に時間がかかりにくく、生産性を維持できる。また、硬化反応開始時の温度が前記範囲内であれば、SMCのプレス成形時におけるマトリックス樹脂の速硬化性にも優れる。
エポキシ樹脂組成物の硬化反応開始時の温度は、エポキシ樹脂組成物の配合組成により調節できる。
【0026】
エポキシ樹脂組成物の硬化反応開始時の粘度は、0.4~100Pa・sが好ましく、0.6~80Pa・sがより好ましく、0.8~50Pa・sがさらに好ましい。
硬化反応開始時の粘度が0.4Pa・s以上、好ましくは0.6Pa・s以上、より好ましくは0.8Pa・s以上であれば、SMCのプレス成形時におけるバリの発生をより抑制できる。硬化反応開始時の粘度が100Pa・s以下、好ましくは80Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以下であれば、SMCのプレス成形時におけるマトリックス樹脂の流動性がより向上する。
エポキシ樹脂組成物の硬化反応開始時の粘度は、エポキシ樹脂組成物の配合組成により調節できる。
【0027】
エポキシ樹脂組成物の硬化反応開始時の温度および粘度は以下のようにして測定される値である。
すなわち、調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で7日間静置した後、レオメータを用い、測定モード:応力一定、応力値:300Pa、周波数:1.59Hz、プレート径:25mm、プレートタイプ:パラレルプレート、プレートギャップ:0.5mm、昇温速度:2℃/minの条件で、調製から7日後のエポキシ樹脂組成物を25℃から昇温しながら粘度を測定し、エポキシ樹脂組成物が硬化反応を開始する直前(すなわち、急激に粘度が上昇する直前)の粘度をエポキシ樹脂組成物の硬化反応開始時の粘度とする。また、エポキシ樹脂組成物が硬化反応を開始する直前の温度をエポキシ樹脂組成物の硬化反応開始時の温度とする。
なお、硬化反応開始時の温度は、エポキシ樹脂組成物単独で測定した場合と、SMCの状態で測定した場合とで、ほぼ一致する。
硬化反応開始時の粘度は、エポキシ樹脂組成物単独で測定した場合と、SMCの状態で測定した場合とで、ほぼ一致する。
【0028】
下記粘度測定(a)で測定される、調製から30分後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度は、0.5~15Pa・sが好ましく、0.5~10Pa・sがより好ましく、1~5Pa・sがさらに好ましい。
調製から30分後の30℃における粘度が0.5Pa・s以上、好ましくは1Pa・s以上であれば、詳しくは後述するが、SMCの製造時において、エポキシ樹脂組成物をフィルムに塗工する際の目付(エポキシ樹脂組成物の厚み)の精度が安定しやすい傾向にある。調製から30分後の30℃における粘度が15Pa・s以下、好ましくは10Pa・s以下、より好ましくは5Pa・s以下であれば、このエポキシ樹脂組成物と強化繊維等を用いてSMCを製造する際に、エポキシ樹脂組成物の強化繊維への含浸性が高くなる傾向にあり、SMCの製造に好適に使用することができる。
粘度測定(a):調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で30分間静置した後、エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を測定する。
【0029】
下記粘度測定(b)で測定される、調製から7日後と14日後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度は、それぞれ5,000~75,000Pa・sが好ましく、6,000~60,000Pa・sがより好ましく、7,000~50,000Pa・sがさらに好ましい。
調製から7日後と14日後の30℃における粘度が、それぞれ5,000Pa・s以上、好ましくは6,000Pa・s以上、より好ましくは7,000Pa・s以上であれば、SMCの取り扱い時において表面のタックが適切な範囲となり、カットや積層作業がしやすくなる傾向にある。調製から7日後と14日後の30℃における粘度が75,000Pa・s以下、好ましくは60,000Pa・s以下、より好ましくは50,000Pa・s以下であれば、SMCのドレープ性が適切な範囲となり、取り扱い作業性が良好となる傾向にある。
粘度測定(b):調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で7日間または14日間静置した後、エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を測定する。
【0030】
また、調製から7日後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度をb1とし、調製から14日後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度をb2としたときに、b2/b1≦5であることが好ましく、b2/b1≦4がより好ましく、b2/b1≦3がさらに好ましい。
b2/b1≦5、好ましくはb2/b1≦4、さらに好ましくはb2/b1≦3であれば、SMC中でのエポキシ樹脂組成物、またはその増粘物のBステージの安定性がより優れる、すなわち、Bステージを長期間保持できる傾向にあるとともに、SMCの経時による粘度変化が小さく、貯蔵安定性に優れる傾向にある。
【0031】
(成分(A))
成分(A)は、25℃において液状のエポキシ樹脂である。
成分(A)は、エポキシ樹脂組成物の粘度を前記範囲に調整し、SMCの製造時において、エポキシ樹脂組成物の強化繊維への含浸性を高める成分である。また、SMCのプレス成形物である繊維強化複合材料の機械特性および耐熱性を高める成分である。また、成分(A)が芳香族環を有する場合、繊維強化複合材料の機械特性を所望の範囲に調整しやすい。
【0032】
成分(A)としては、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、これらのハロゲン置換体等)のグリシジルエーテル(ビスフェノール型エポキシ樹脂);フェノール類と芳香族カルボニル化合物との縮合反応により得られる多価フェノール類のグリシジルエーテル;多価アルコール類(ポリオキシアルキレンビスフェノールA等)のグリシジルエーテル;芳香族アミン類から誘導されるポリグリシジル化合物等が挙げられる。
【0033】
成分(A)としては、エポキシ樹脂組成物の粘度を強化繊維への含浸に適した粘度に調整しやすく、かつ繊維強化複合材料の機械特性を所望の範囲に調整しやすい点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、二官能のビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。ここで「二官能」とは、分子内にエポキシ基を2つ有することを意味する。
ある態様として、繊維強化複合材料の耐熱性および耐薬品性が良好である点からは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂がより好ましい。
別の態様として、同程度の分子量を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂よりも粘度が低く、繊維強化複合材料の弾性率が高い点からは、ビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましい。
さらに別の態様として、成分(A)としては、低粘度でありながら、耐熱性が高くでき、また、耐候性も高くなることから脂環式エポキシも好ましい。
【0034】
成分(A)は、三官能以上のエポキシ樹脂であってもよい。特に、三官能のエポキシ樹脂、四官能のエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物の粘度を大きく変えずに、繊維強化複合材料の耐熱性をさらに向上できる。ここで「三官能」とは、分子内にエポキシ基を3つ有することを意味する。「四官能」とは、分子内にエポキシ基を4つ有することを意味する。
【0035】
二官能のビスフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、下記のものが挙げられる。
三菱ケミカル社製のjER(登録商標。以下同様。)の825、827、828、828EL、828XA、806、806H、807、4004P、4005P、4007P、4010P、
DIC社製のエピクロン(登録商標)の840、840-S、850、850-S、EXA-850CRP、850-LC、830、830-S、835、EXA-830CRP、EXA-830LVP、EXA-835LV、
新日鉄住金化学社製のエポトート(登録商標)のYD-115、YD-115G、YD-115CA、YD-118T、YD-127、YD-128、YD-128G、YD-128S、YD-128CA、YDF-170、YDF-2001、YDF-2004、YDF-2005RL等。
【0036】
二官能の脂環式エポキシ樹脂の市販品としては、下記のものが挙げられる。
ダイセル社製のセロキサイド(登録商標)の2021P、2081、2000、
JIANGSU TETRA NEW MATERIAL TECHNOLOGY社製のTTA26等。
【0037】
三官能以上の成分(A)の市販品としては、下記のものが挙げられる。
三菱ケミカル社製のjERの152、154、157S70、1031S、1032H60、604、630、630LSD、
DIC社製のN-730A、N-740、N-770、N-775、N-740-80M、N-770-70M、N-865、N-865-80M、N-660、N-665、N-670、N-673、N-680、N-690、N-695、N-665-EXP、N-672-EXP、N-655-EXP-S、N-662-EXP-S、N-665-EXP-S、N-670-EXP-S、N-685-EXP-S、HP-5000、
三菱ガス化学社製のTETRAD-X等。
【0038】
成分(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0039】
特に、成分(A)が上記のTETRAD-X等のようなグリシジルアミン系エポキシ樹脂を含むことによって、エポキシ樹脂組成物の粘度の経時変化を早めることができる。
すなわち、このグリシジルアミン系エポキシ樹脂の含有量を調整することで、上記の粘度b1や粘度b2の値を制御でき、SMCの製造においてエポキシ樹脂組成物がBステージ化する時間を早め、その生産性を高めることもできる。
グリシジルアミン系エポキシ樹脂としては、増粘する早さを調節しやすく、物性低下の懸念も少ない点から、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンが好ましい。
【0040】
エポキシ樹脂組成物が成分(A)としてグリシジルアミン系エポキシ樹脂を含む場合、成分(A)に含まれるグリシジルアミン系エポキシ樹脂の含有量は、成分(A)の総質量(100質量%)のうち、1~30質量%が好ましく、2~20質量%がより好ましく、3~15質量%がさらに好ましい。
成分(A)の総質量のうち、グリシジルアミン系エポキシ樹脂の含有量が1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であれば、エポキシ樹脂組成物のBステージ化時間を好適に短縮できる傾向にある。成分(A)の総質量のうち、グリシジルアミン系エポキシ樹脂の含有量が30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下であれば、SMCの貯蔵安定性が良好となる傾向にある。
【0041】
成分(A)の25℃における粘度は、調製から30分後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度が0.5~15Pa・sとなる粘度であればよく、成分(A)の25℃における粘度は0.3~500Pa・sが好ましく、0.3~400Pa・sがより好ましい。
【0042】
エポキシ樹脂組成物における成分(A)の含有量は、調製から30分後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度が0.5~15Pa・sとなるように設定するのが好ましく、成分(A)の種類により選択することができる。
エポキシ樹脂組成物における成分(A)の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量(100質量%)のうち、20~100質量%が好ましく、50~95質量%がより好ましい。
エポキシ樹脂組成物における成分(A)の含有量が前記範囲内であれば、調製から30分後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を前記範囲に容易に調整でき、強化繊維への含浸性が高くなる。また、繊維強化複合材料の耐熱性がより高くなる。
【0043】
(成分(B))
成分(B)は、25℃において液状の酸無水物である。
成分(B)は、成分(A)に対して室温で作用できる成分であり、エポキシ樹脂組成物を調製直後から増粘させ、エポキシ樹脂組成物をBステージ化させる成分である。
成分(B)は、25℃において液状であることによって、エポキシ樹脂組成物における各成分が均一に混合され、25℃においてエポキシ樹脂組成物を均一に増粘させることができる。
【0044】
成分(B)としては、分子内の2つの酸から1つの水分子が除去された構造(環状酸無水物基)を1つまたは2つ以上有する環状酸無水物を挙げることができる。
分子内に1つの環状酸無水物基を有する環状酸無水物としては、例えばドデセニル無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、3-アセトアミドフタル酸無水物、4-ペンテン-1,2-ジカルボン酸無水物、6-ブロモ-1,2-ジヒドロ-4H-3,1-ベンゾオキサジン-2,4-ジオン、2,3-アントラセンジカルボン酸無水物等が挙げられる。
分子内に2つの環状酸無水物基を有する環状酸無水物としては、例えばグリセリルビスアンヒドロトリメリテートモノアセテート、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、N,N-ビス[2-(2,6-ジオキソモルホリノ)エチル]グリシン、4,4’-スルホニルジフタル酸無水物、4,4’-エチレンビス(2,6-モルホリンジオン)、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等が挙げられる。
【0045】
成分(B)としては、エポキシ樹脂組成物の増粘の安定性、エポキシ樹脂組成物の硬化物の耐熱性や機械特性の点から、無水フタル酸または置換基を有してもよい水素添加無水フタル酸が好ましく、下記式(1)で表される化合物または下記式(2)で表される化合物がより好ましい。
【0046】
【0047】
成分(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0048】
エポキシ樹脂組成物における成分(B)の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ基の1当量に対して、酸無水物基が0.1~0.5当量となる量が好ましく、0.1~0.4当量となる量がより好ましく、0.1~0.3当量となる量がさらに好ましい。
エポキシ樹脂組成物における成分(B)の含有量が前記範囲内であれば、エポキシ樹脂組成物のBステージ化が適度に進行する。成分(B)の含有量が、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ基の1当量に対して、酸無水物基が0.1当量以上となる量であれば、エポキシ樹脂組成物のBステージ化が良好に達成され、適度なタックが得られ、SMCからのキャリアフィルムの離形性も良好となる傾向にある。成分(B)の含有量がエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ基の1当量に対して、酸無水物基が0.5当量以下、より好ましくは0.4当量以下、さらに好ましくは0.3当量値以下となる量であれば、エポキシ樹脂組成物のBステージ化が適度に進むため、良好なドレープ性が得られるとともに、SMCのカット作業、積層作業等の作業性も良好となる傾向にある。
【0049】
また、エポキシ樹脂組成物における成分(B)の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量(100質量部)に対して、1~30質量部が好ましく、3~25質量部がより好ましく、5~20質量部がさらに好ましい。
エポキシ樹脂組成物における成分(B)の含有量が前記範囲内であれば、エポキシ樹脂組成物のBステージ化が適度に進行する。成分(B)の含有量が、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量に対して、1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上であれば、エポキシ樹脂組成物のBステージ化が良好に達成され、適度なタックが得られ、SMCからのキャリアフィルムの離形性も良好となる傾向にある。成分(B)の含有量が、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量に対して、30質量部以下、より好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下であれば、エポキシ樹脂組成物のBステージ化が適度に進むため、良好なドレープ性が得られるとともに、SMCのカット作業、積層作業等の作業性も良好となる傾向にある。
【0050】
また、エポキシ樹脂組成物が成分(B)として上述の分子内に2つの環状酸無水物基を有する環状酸無水物を含む場合、分子内に2つの環状酸無水物基を有する環状酸無水物の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量(100質量部)に対して、1~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましく、1~5質量部がさらに好ましい。
エポキシ樹脂組成物における分子内に2つの環状酸無水物基を有する環状酸無水物の含有量が前記範囲内であれば、SMCのプレス成形時におけるマトリックス樹脂の流動性がより良好となる傾向にある。分子内に2つの環状酸無水物基を有する化合物の含有量が、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量に対して20質量部以下、好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下であれば、成形型に対して、SMCを十分に充填できる傾向がある。
【0051】
(成分(C))
成分(C)は、融点が40℃以上180℃未満の硬化剤である。
成分(C)は、エポキシ樹脂の硬化剤として働くとともに、成分(A)と成分(B)とが反応するBステージ化の際に、成分(A)と成分(B)とを室温で反応させるための触媒として作用する成分である。
成分(C)は、25℃において固体状であることが好ましい。成分(C)が25℃において固体状であることにより、SMC製造時や製造されたSMCの貯蔵中における成分(C)の反応が抑制され、SMCの生産性、貯蔵安定性、取扱い性、プレス成形時におけるマトリックス樹脂の流動性等がより良好となる傾向にある。
【0052】
成分(C)の融点は、40℃以上180℃未満であり、50~170℃が好ましく、60~150℃がより好ましく、65~120℃がさらに好ましい。また、別の態様として、成分(C)の融点は、40℃以上180℃未満であり、40~120℃が好ましい。
成分(C)の融点が40℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは65℃以上であれば、低温側でも急激な反応を抑制でき、SMCの成形性や貯蔵安定性が良好になる傾向にある。成分(C)の融点が180℃未満、好ましくは170℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは120℃以下であれば、SMCのプレス成形時にバリの発生をより抑制できる傾向にあるとともに、硬化時間が長くなりすぎず、生産性が向上する傾向にある。
【0053】
成分(C)の融点は、示差走査熱流計(TAインスツルメント社製Q1000)で測定される値である。具体的には、専用のアルミニウムハーメチックパンに測定試料を約3mg封入し、測定温度:-50℃から300℃まで、昇温速度:10℃/minで昇温したデータを、横軸に温度、縦軸に発熱量をとったとき、発熱量のベースラインと、吸熱反応によって生じたピークトップとの変曲点を融点とする。
【0054】
成分(C)の平均粒子径は、25μm以下が好ましく、1~15μmがより好ましい。
成分(C)の平均粒子径が25μm以下、より好ましくは15μm以下であれば、成分(C)の表面積が充分となり、エポキシ樹脂組成物中の成分(C)の含有量を低減させることができ、SMCの硬化時間を短縮することができる。また、エポキシ樹脂組成物中で成分(C)が均一に分散しやすく、硬化物中における未反応の成分(C)の割合を低減でき、本発明のSMCのプレス成型物の物性が良好となる。
成分(C)の平均粒子径は、スプレー粒子径分布測定装置を用いて測定される値である。
【0055】
成分(C)としては、融点が40℃以上180℃未満の脂肪族アミン、芳香族アミン、変性アミン、二級アミン、三級アミン、イミダゾール系化合物、メルカプタン類等が挙げられる。
成分(C)としては、具体的には、1H-イミダゾール(融点:90℃)、2-メチルイミダゾール(融点:144℃)、2-ウンデシルイミダゾール(融点:73℃)、2-フェニルイミダゾール(融点:142℃)、2-フェニル4-メチルイミダゾール(融点:179℃)、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール(融点55℃)、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(融点108℃)等が挙げられる。
【0056】
また、成分(C)としては、融点が40℃以上180℃未満であれば、アミンを変性した化合物でもよい。このような化合物としては、例えば、2-メチルイミダゾールと、フェニルグリシジルエーテルやビスフェノールAジグリシジルエーテルとの化合物(エポキシ樹脂アミンアダクト)などが挙げられる。
エポキシ樹脂アミンアダクトの市販品としては、味の素ファインテクノ社製のPN-23(融点:60℃)、PN-23J(融点:60℃)、PN-31(融点:52℃)、PN-31J(融点:52℃)、PN-40(融点:76℃)、PN-40J(融点:76℃)、PN-50(融点:83℃)、PN-50J(融点:84℃)、P-0505(融点:69℃)が挙げられ、なかでも、PN-23、PN-23J、PN-31,PN-31J、P-0505が好ましい。
【0057】
成分(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0058】
エポキシ樹脂組成物における成分(C)の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量(100質量部)に対して、1~10質量部が好ましく、2~8質量部がより好ましく、4~8質量部がさらに好ましい。
成分(C)の含有量が、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量に対して、1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは4質量部以上であれば、SMCのプレス成形時にバリの発生をより抑制できる傾向にある。成分(C)の含有量が、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量に対して、10質量部以下、より好ましくは8質量部以下であれば、エポキシ樹脂組成物の強化繊維への含浸性が高くなる傾向にある。
【0059】
(成分(D))
成分(D)は、融点が180~300℃の硬化剤である。
エポキシ樹脂組成物が成分(D)を含むことで、SMCの貯蔵安定性を向上させることができる。
成分(D)の融点は、成分(C)の融点と同様の方法により測定される値である。
【0060】
成分(D)の平均粒子径は、25μm以下が好ましく、1~15μmがより好ましい。
成分(D)の平均粒子径が25μm以下、より好ましくは15μm以下であれば、成分(D)の表面積が充分となり、エポキシ樹脂組成物中の成分(D)の含有量を低減させることができ、SMCの硬化時間を短縮することができる。また、エポキシ樹脂組成物中で成分(D)が均一に分散しやすく、硬化物中における未反応の成分(D)の割合を低減でき、本発明のSMCのプレス成型物の物性が良好となる。
成分(D)の平均粒子径は、成分(C)の平均粒子径と同様の方法により測定される値である。
【0061】
成分(D)としては、ジシアンジアミド、融点が180~300℃のイミダゾール系化合物等が挙げられる。
本発明のSMCのプレス成形物の耐熱性がさらに向上する観点から、イミダゾール系化合物の中でも特に、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン(融点:253℃)が好適である。
また、エポキシ樹脂組成物が成分(D)としてジシアンジアミド(融点:206℃)をさらに含むことによって、エポキシ樹脂組成物のBステージ化およびBステージ化の安定性、ならびに速硬化性を損なうことなく、エポキシ樹脂組成物から得られるSMCのプレス成形物の靱性および耐熱性をさらに向上することができる。
【0062】
成分(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0063】
エポキシ樹脂組成物における成分(D)の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量(100質量部)に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.3~7質量部がより好ましく、1~5質量部がさらに好ましい。
成分(D)の含有量が、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量に対して、0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上であれば、SMCのプレス成形時にバリの発生をより抑制でき、SMCのプレス成形物の靱性や耐熱性がより良好となる傾向にある。成分(D)の含有量が、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量に対して、10質量部以下、より好ましくは7質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下であれば、エポキシ樹脂組成物の強化繊維への含浸性やBステージの安定性が良好となる傾向にある。
【0064】
(他の成分)
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて上述した成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)以外の成分(他の成分)を含んでいてもよい。
エポキシ樹脂組成物が必要に応じて含んでいてもよい他の成分としては、増粘促進剤、エポキシ樹脂の硬化促進剤、無機質充填材、内部離型剤、界面活性剤、有機顔料、無機顔料、成分(A)以外のエポキシ樹脂、エポキシ樹脂以外の他の樹脂等が挙げられる。
【0065】
増粘促進剤としては、エポキシ樹脂組成物がBステージ化する時間を早めることができる点から、25℃において液状のイミダゾール系化合物が好適である。
25℃において液状のイミダゾールとしては、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール等を挙げることができる。
25℃において液状のイミダゾールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
エポキシ樹脂組成物が増粘促進剤として25℃において液状のイミダゾールを含む場合、25℃において液状のイミダゾールの含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量(100質量部)に対して、0.01~0.2質量部が好ましく、0.01~0.1質量部がより好ましく、0.03~0.07質量部がさらに好ましい。
25℃において液状のイミダゾールの含有量が、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量に対して、0.01質量部以上、さらに好ましくは0.03質量部以上であれば、エポキシ樹脂組成物がBステージ化する時間をより早めることができる傾向にある。25℃において液状のイミダゾールの含有量が、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の総質量に対して、0.2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下、さらに好ましくは0.07質量部以下であれば、エポキシ樹脂組成物のBステージの安定性が良好となる傾向にある。
【0066】
エポキシ樹脂の硬化促進剤としては、繊維強化複合材料の機械特性(曲げ強度、曲げ弾性率)がより高くなる点から、尿素化合物が好ましい。
尿素化合物としては、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、2,4-ビス(3,3-ジメチルウレイド)トルエン、1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)等が挙げられる。
さらに、硬化剤の保存安定性を高めることを目的とし、アミンに配位する化合物(例えばホウ酸、ホウ酸エステル化合物等)をエポキシ樹脂組成物が含むこともできる。アミンに配位する化合物の市販品としては、例えば、L-070E(四国化成工業社製、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、フェノールのバラック樹脂、ホウ酸エステル化合物の混合物)等を挙げることができる。
【0067】
無機質充填材としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、クレー、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、ガラスパウダー、中空ガラスビーズ、エアロジル等が挙げられる。
エポキシ樹脂組成物が無機充填材を含むことで、硬化収縮の低減が可能となる。
【0068】
内部離型剤としては、カルナバワックス、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
エポキシ樹脂組成物が内部離型剤を含むことで、SMCの成形後の脱型性がより容易となる。
【0069】
界面活性剤としては、SMCの表面への移行性の点から、液状の界面活性剤が好ましく、炭素数12~18のアルキル鎖を含む液状の界面活性剤がより好ましい。
エポキシ樹脂組成物が界面活性剤を含むことで、SMCからのキャリアフィルムの離形性を向上することができる。また、SMCに含まれるボイドを減らすことができる。
【0070】
成分(A)以外のエポキシ樹脂としては、25℃で半固形または固形状態のエポキシ樹脂が挙げられる。成分(A)以外のエポキシ樹脂としては、芳香族環を有するエポキシ樹脂が好ましく、二官能のエポキシ樹脂がさらに好ましい。また、二官能のエポキシ樹脂以外にも、SMCのプレス成形物の耐熱性向上やエポキシ樹脂組成物の粘度調節を目的として、様々なエポキシ樹脂を本発明のエポキシ樹脂組成物が含んでいてもよい。耐熱性を向上させるためには、多官能のエポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格のエポキシ樹脂が有効である。
【0071】
エポキシ樹脂以外の他の樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、および熱可塑性エラストマー以外のエラストマー等が挙げられる。これらは、エポキシ樹脂組成物の粘弾性を変化させて、エポキシ樹脂組成物の粘度、貯蔵弾性率およびチキソトロープ性を適正化するだけでなく、エポキシ樹脂組成物の硬化物の靭性を向上させる役割がある。
エポキシ樹脂以外の他の樹脂としては、コアシェル型エラストマー微粒子が好ましい。コアシェル型エラストマー微粒子として市販品として入手可能なものとしては「メタブレン(登録商標)」(三菱ケミカル社製)や、「スタフィロイド(登録商標)」(アイカ工業社製)、「パラロイド(登録商標)」(ダウケミカル社製)等が挙げられる。コアシェル型エラストマー微粒子はエポキシ樹脂に予め分散されたマスターバッチ型のエポキシ樹脂としても入手することができ、このようなコアシェル型エラストマー分散エポキシ樹脂としては、「カネエース(登録商標。以下同様。)」(カネカ社製)や「アクリセット(登録商標)BPシリーズ」(日本触媒社製)等が挙げられる。
エポキシ樹脂組成物の調製時間を短縮するだけでなく、エポキシ樹脂組成物中のゴム粒子の分散状態を良好にすることができる点から、エポキシ樹脂以外の他の樹脂としては、コアシェル型エラストマー分散エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
具体的には、カネカ社製のカネエースのMXシリーズである、MX-113、MX-120、MX-125、MX-128、MX-130、MX-135、MX-136、MX-156、MX-153、MX-257、MX-150、MX-154、MX-960、MX-170、MX-267、MX-965、MX-217、MX-416、MX-451、MX-553、MX-710、MX-714等を用いることができる。
エポキシ樹脂以外の他の樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0072】
(エポキシ樹脂組成物の調製方法)
エポキシ樹脂組成物は、従来公知の方法で調製できる。例えば、各成分を同時に混合して調製してもよく、予め成分(A)に、成分(C)と、必要に応じて成分(D)等を各々適宜分散させたマスターバッチを調製し、マスターバッチと残りの成分とを混合して調製してもよい。また、混練による剪断発熱等で、系内の温度が上がる場合には、混練速度を調節したり、調製釜や混練釜を水冷したりする等、混練中に温度を上げない工夫をすることが好ましい。
混練装置としては、らいかい機、アトライタ、プラネタリミキサー、ディゾルバー、三本ロール、ニーダー、万能撹拌機、ホモジナイザー、ホモディスペンサー、ボールミル、ビーズミルが挙げられる。混練装置は、2種以上を併用してもよい。
【0073】
(エポキシ樹脂組成物の効果)
本発明のSMCに含有されるエポキシ樹脂組成物にあっては、成分(A)を含むことで調製直後の粘度を低くすることができる。例えば、調製から30分後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を15Pa・s以下とすることができる。そのため、強化繊維への含浸性に優れ、SMCの製造に好適に使用することができる。
また、本発明のSMCに含有されるエポキシ樹脂組成物にあっては、調製後から短時間で増粘させることができる。例えば、調製から7日後の前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を5,000~75,000Pa・sとすることができる。そのため、SMCの取り扱い時において表面のタックを抑えることができるとともに、適切なドレープ性を得ることができ、良好な取り扱い作業性を得ることができる。
さらに、本発明のSMCに含有されるエポキシ樹脂組成物にあっては、増粘後の粘度を長時間保持させることができる。例えば、調製から14日後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を5,000~75,000Pa・sとすることができる。そのため、Bステージ化後のタック性およびドレープ性、ならびにBステージの安定性に優れる。
また、本発明のSMCに含有されるエポキシ樹脂組成物にあっては、成分(A)を含むことで、SMCのプレス成形物の剛性、機械特性および耐熱性をより高めることができる。
【0074】
<強化繊維>
本発明のSMCに含有される強化繊維としては、SMCの用途や使用目的に応じて様々なものを採用することができ、炭素繊維(黒鉛繊維を含む。以下同様。)、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、タングステンカーバイド繊維、ガラス繊維等が挙げられる。これらの中でも、繊維強化複合材料の機械特性の点から、炭素繊維、ガラス繊維が好ましく、炭素繊維が特に好ましい。
【0075】
強化繊維は、通常1000本以上、60000本以下の範囲の単繊維からなる強化繊維束の状態で使用される。SMC中では、強化繊維は強化繊維束の形状を保ったまま存在している場合もあれば、より少ない繊維からなる束に分かれて存在する場合もあるが、通常は、より少ない繊維からなる束に分かれて存在する。
【0076】
強化繊維としては、短繊維からなるチョップド強化繊維束が好ましい。
強化繊維の平均長さは、0.3~10cmが好ましく、1~5cmがより好ましく、2.5~5cmがさらに好ましい。
強化繊維の平均長さが前記範囲内であれば、成形性と機械的特性のバランスに優れたSMCが得られる。強化繊維の平均長さが0.3cm以上、より好ましくは1cm以上、さらに好ましくは2.5cm以上であれば、機械特性がより良好な繊維強化複合材料が得られやすくなる傾向にある。強化繊維の平均長さが10cm以下、より好ましくは5cm以下であれば、プレス成形時におけるマトリックス樹脂の流動性がより向上する傾向にある。
SMCにおける強化繊維の形態としては、チョップド強化繊維束が二次元ランダムに積み重なったシート状物がより好ましい。
【0077】
<シートモールディングコンパウンドの製造方法>
SMCは、例えば、チョップド強化繊維束のシート状物に、上述したエポキシ樹脂組成物を十分に含浸させ、エポキシ樹脂組成物を増粘させることによって製造される。
【0078】
チョップド強化繊維束のシート状物にエポキシ樹脂組成物を含浸させる方法については、強化繊維の形態に応じて、従来公知の様々な方法を採用できる。例えば、下記の方法が挙げられる。
エポキシ樹脂組成物を均一に塗布したフィルムを2枚用意する。一方のフィルムのエポキシ樹脂組成物の塗布面にチョップド強化繊維束を無秩序に撒き、チョップド強化繊維束のシート状物とする。他方のフィルムのエポキシ樹脂組成物の塗布面をチョップド強化繊維束のシート状物の上に貼り合わせ、エポキシ樹脂組成物をチョップド強化繊維束のシート状物に圧着含浸させ、シートモールディングコンパウンド前駆体(SMC前駆体)を得る。
【0079】
エポキシ樹脂組成物をチョップド強化繊維束に含浸させたSMC前駆体を室温~60℃程度の温度で数時間~数十日間、または、60~80℃程度の温度で数秒~数十分保持することによって、エポキシ樹脂組成物中の成分(A)および任意に配合された他のエポキシ樹脂が有するエポキシ基と、成分(B)に由来するカルボキシ基とがエステル化反応し、エポキシ樹脂組成物がBステージ化(増粘)する。このようにエポキシ樹脂組成物を増粘させることによって、SMCの表面のタックが抑制され、成形作業に適したSMCが得られる。
エポキシ樹脂が有するエポキシ基と成分(B)に由来するカルボキシ基との反応条件は、エステル化反応後に得られるエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度や硬化反応開始時の粘度が上述した範囲になるよう選択することが好ましい。
【0080】
<作用効果>
以上説明した、140℃におけるゲルタイムが30~140秒であり、かつ硬化反応開始時の温度が70~115℃であるエポキシ樹脂組成物を含む本発明のSMCにあっては、SMCのプレス成形時におけるマトリックス樹脂の流動性に優れるとともに、バリの発生を抑制できる。また、SMCのプレス成形時におけるマトリックス樹脂の速硬化性に優れる、すなわちプレス成形時の硬化速度が速いことから、金型占有時間が短くなり、繊維強化複合材料の生産性が高くなる。特に、上述した成分(A)、成分(B)および成分(C)を含むエポキシ樹脂組成物を用いれば、Bステージ化後のタック性およびドレープ性により優れるエポキシ樹脂組成物の増粘物となり、SMCの取り扱い作業性がより向上する。
また、調製から7日後の30℃における粘度をb1とし、調製から14日後の30℃における粘度をb2としたときに、b2/b1≦5である本発明のSMCにあっては、SMCのBステージの安定性に優れ、Bステージを長期間保持できる傾向にあるとともに、SMCの経時による粘度変化が小さく、貯蔵安定性に優れる傾向にある。
さらに、本発明のSMCにあっては、硬化物の剛性、機械特性および耐熱性に優れるエポキシ樹脂組成物を含むため、脱型性、機械特性および耐熱性に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
【0081】
[繊維強化複合材料]
本発明の繊維強化複合材料は、本発明のSMCのプレス成形物である。
本発明の繊維強化複合材料は、本発明のSMCをプレス成形して、本発明のSMCに含有されるエポキシ樹脂組成物を硬化させることによって製造できる。
【0082】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
1枚の本発明のSMCまたは複数枚の本発明のSMCを重ねたものを、1対の金型の間にセットする。SMCをプレス成形(圧縮成形)して、SMCに含有されるエポキシ樹脂組成物を硬化させ、SMCのプレス成形物、すなわちSMCの硬化物である繊維強化複合材料を得る。ダンボール等のハニカム構造体を芯材とし、その両面または片面に本発明のSMCを配してもよい。
なお、本明細書において、例えば2枚のSMCを積層することを「2ply積層」という。
プレス成形の温度は、120~230℃が好ましい。
プレス成形の時間は、2~60分が好ましい。
【0083】
<作用効果>
以上説明した本発明の繊維強化複合材料にあっては、本発明のSMCのプレス成形物であるため、プレス成形時のバリの発生が抑制される。そのため、作業性に優れ、脱型性、機械特性および耐熱性に優れる。
【0084】
[他の実施形態]
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された範囲内で種々の変更が可能である。異なる実施形態に、上述した各実施形態に示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
<各成分>
(成分(A))
・jER828:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、25℃における粘度:12Pa・s)。
・jER807:ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、25℃における粘度:3Pa・s)。
・jER827:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、25℃における粘度:9Pa・s)。
・TETRAD-X:N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン(三菱ガス化学社製、25℃における粘度:2Pa・s)。
【0087】
(成分(B))
・HN-2200:3-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸または4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸(日立化成社製、25℃における粘度:75mPa・s)。
【0088】
(成分(C))
・PN-23J:エポキシ樹脂アミンアダクト(味の素ファインテクノ社製、融点:59℃、平均粒子径:5μm)。
・PN-31J:エポキシ樹脂アミンアダクト(味の素ファインテクノ社製、融点:52℃、平均粒子径:5μm)。
・P-0505:エポキシ樹脂アミンアダクト(四国化成工業社製、融点:69℃、平均粒子径:5μm)。
【0089】
(成分(D))
・2MZA-PW:2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン(四国化成工業社製、融点:253℃、平均粒子径:約4μm)。
・DICYANEX1400F:ジシアンジアミド(エアープロダクツ社製、融点206℃、平均粒子径:4μm)。
【0090】
(他の成分)
・L-070E:ビスフェノールAジグリシジルエーテル、フェノールのバラック樹脂、ホウ酸エステル化合物の混合物(四国化成工業社製)。
・カーボンブラック(無機顔料):三菱カーボンブラック#1000(三菱ケミカル社製)
【0091】
<マスターバッチの調製>
成分(C)、成分(D)については、それぞれをjER828と1:1(質量比)で混合した。混合には、遊星式撹拌・脱泡装置MAZERUSTAR(倉敷紡績社製)を用いた。
得られた混合物をそれぞれ三本ロールで混練しマスターバッチを得た。
【0092】
[実施例1~13、比較例1]
<エポキシ樹脂組成物の調製>
表1~3に示す配合に従い、各成分をフラスコに秤量した。PN-23J、PN-31J、P-0505、カーボンブラック、2MZA-PW、DICYANEX1400Fについては、マスターバッチを用いた。フラスコに秤量した各成分を室温にて均一に撹拌し、エポキシ樹脂組成物を得た。撹拌には、遊星式撹拌・脱泡装置MAZERUSTAR(倉敷紡績社製)を用いた。
得られたエポキシ樹脂組成物について、下記の測定および評価を行った。結果を表1~3に示す。
【0095】
(粘度の測定2:昇温粘度の測定)
調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃の部屋で直射日光の当たらない場所に静置し、保管した。調製から7日後、14日後のエポキシ樹脂組成物の粘度を以下のように測定し、エポキシ樹脂組成物が硬化反応を開始する直前の粘度を「硬化反応開始時の粘度」とし、エポキシ樹脂組成物が硬化反応を開始する直前の温度を「硬化反応開始時の温度」とした。
レオメータ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、HAAKE MARS40)のプレートを予め25℃まで加温し、温度が安定するまで待った。温度が安定したことを確認してから、エポキシ樹脂組成物をプレートに分取し、ギャップを調整した後、下記条件にて測定を開始した。
・測定モード:応力一定、
・応力値:300Pa、
・周波数:1.59Hz、
・プレート径:25mm、
・プレートタイプ:パラレルプレート、
・プレートギャップ:0.5mm、
・昇温速度:25℃から、エポキシ樹脂組成物が硬化反応を開始する直前の温度(つまり、急激に粘度が上昇する温度)まで、2℃/minで昇温した。
【0096】
昇温粘度の測定は、SMCのプレス成形時におけるマトリックス樹脂、すなわちエポキシ樹脂組成物の流動性およびプレス成形時のバリの発生量の目安となる。
硬化反応開始時の温度について、下記の評価基準で評価した。「A」の場合、マトリックス樹脂の流動性が良好であり、かつプレス成形時のバリの発生が少ないと判断した。
A(良好):7日後および14日後のエポキシ樹脂組成物の硬化反応開始時の温度が70℃~115℃である。
B(不良):7日後および14日後のエポキシ樹脂組成物の硬化反応開始時の温度が70℃未満または115℃超である。
【0097】
(ゲルタイムの測定)
調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃の部屋で直射日光の当たらない場所に7日間静置した。予め140℃に熱したホットプレート上に、厚さ0.13~0.17mmのカバーガラス(松浪硝子工業社製)を120秒保持した後、このカバーガラスの上に調製から7日後のエポキシ樹脂組成物を置き、他のカバーガラスでエポキシ樹脂組成物を挟み、挟んだ直後から時間の計測を始め、上側のカバーガラスをピンセットで動かし、カバーガラスが動かなくなるまでの時間を測定し、これをエポキシ樹脂組成物の140℃におけるゲルタイムとした。
ゲルタイム測定は、SMCの成形時間の目安となる。また、SMCのプレス成形時のバリの発生の目安となる。
A(良好):ゲルタイムが50~85秒である。
B(やや良好):ゲルタイムが30秒以上50秒未満、または85秒超140秒以下である。
C(不良):ゲルタイムが30秒未満、または、140秒超である。
【0098】
<SMCの製造>
ドクターブレードを用いて、エポキシ樹脂組成物をポリエチレン製キャリアフィルム上に塗工量が360g/m2となるように塗布したものを2枚用意した。
一方のフィルムのエポキシ樹脂組成物の塗布面に、フィラメント数が3,000本の炭素繊維束(三菱ケミカル社製、TR50S 3L)が平均長さ25mmに切断されたチョップド炭素繊維束を、炭素繊維の目付が1080g/m2で略均一になるように、かつ炭素繊維の繊維方向がランダムになるように散布し、シート状物とした。
他方のフィルムのエポキシ樹脂組成物の塗布面を、先に得られたシート状物の上に貼り合わせて、エポキシ樹脂組成物でチョップド炭素繊維束を挟み込み、これをロールの間に通して押圧して、エポキシ樹脂組成物をチョップド炭素繊維束に圧着含浸させ、SMC前駆体を得た。
得られたSMC前駆体を室温にて7日間静置することによって、SMC前駆体中のエポキシ樹脂組成物を十分に増粘させて、エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを含有する、縦280mm、横280mmのSMCを得た。
【0099】
<繊維強化複合材料の製造>
SMCを2ply積層した積層物を、縦300mm、横300mm、厚さ2mmの成形用金型にチャージ率(金型面積に対するSMCの面積の割合)65%でチャージして、金型温度140℃、圧力4MPaの条件で5分間加熱圧縮し、エポキシ樹脂組成物を硬化させ、厚さ約2mm、300mm角の平板状の繊維強化複合材料(CFRP成形板)を得た。
得られた繊維強化複合材料について、下記の測定および評価を行った。結果を表1~3に示す。
【0100】
(バリの発生の評価)
繊維強化複合材料を製造する際のバリ発生率を下記式(I)より算出した。
バリ発生率=(X-Y)/(X)×100 ・・・(I)
(式(I)中、Xは成形用金型にチャージしたSMCの質量であり、Yは成形後、成形用金型から取り出した成形物(繊維強化複合材料)の質量である。)
【0101】
成形用金型へのバリの発生が少ないと、成形後、短時間でバリを除去できるので、成形サイクルを短縮することができる。
下記評価基準により、バリの発生を評価した。
A(良好):バリ発生率が6%未満である。
B(不良):バリ発生率が6%以上である。
【0102】
(機械特性の評価1:3点曲げ試験)
繊維強化複合材料から幅25mm、長さ100mm、厚さ約2mmの試験片を12枚切り出し、万能試験機(インストロン社製、インストロン5965)を用い、JIS K 7017に準拠し、下記条件にて曲げ強度、曲げ弾性率および曲げ破断伸度を測定し、12枚の平均値を求めた。
・クロスヘッドスピード;1mm/分、
・スパン間距離:繊維強化複合材料の厚さを実測し、(厚さ×16)mmとした。
【0103】
(機械特性の評価2:引張試験)
繊維強化複合材料から幅25mm、長さ250mm、厚さ約2mmの試験片を6枚切り出し、万能試験機(インストロン社製、インストロン4482型)を用い、JIS K 7164に準拠し、下記条件にて引張強度および引張弾性率を測定し、6枚の平均値を求めた。
・スパン間距離:150mm、
・歪ゲージ:KFGS-20-120-C1-11L1M2R、
・ゲージ長:20mm、
・データ記録装置:KYOWA EDX100A、
・クロスヘッドスピード:2mm/分。
【0104】
(耐熱性の評価:耐熱性試験)
繊維強化複合材料を長さ55mm×幅12.5mmの試験片に加工し、レオメータ(TAインスツルメント社製、ARES-RDA)を用いて測定周波数1Hz、昇温速度5℃/分で測定を行った。温度-tanδ曲線が極大値を示すときの温度をガラス転温度とし、以下の評価基準にて耐熱性を評価した。
A(良好):ガラス転移温度が140℃以上である。
B(不良):ガラス転移温度が140℃未満である。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
実施例1~13で用いたエポキシ樹脂組成物は、調製から7日後に適度にBステージ化しており、SMCとした場合、ほどよいタックとドレープ性を有した。また、14日後のタック性とドレープ性は7日後と大きく変わらず、SMCのプレス成形時のマトリックス樹脂の流動性も同等であった。昇温粘度の測定の結果からも前記流動性が安定していることが分かる。
また、実施例1~13で得られたSMCは、エポキシ樹脂組成物のゲルタイムが30~140秒であり、マトリックス樹脂の速硬化性が良好であり、繊維強化複合材料の製造において、短時間で成形できた。
また、実施例1~13で得られたSMCのプレス成形物(繊維強化複合材料)は、バリの発生も少なく、実施例1~13からは生産性が高いSMCが得られたことが示された。ゲルタイム測定の結果からも前記速硬化性、前記生産性の高さに優れることが分かる。
さらに、実施例1~13で得られたSMCからは、機械特性および耐熱性に優れた繊維強化複合材料が得られた。
【0109】
対して、比較例1の場合は、タック性およびドレープ性と、それらの経時変化等による取り扱い性は各実施例と差はないが、SMCの成形時にバリが多く発生した。
比較例1の場合、実施例1~13に比べてエポキシ樹脂組成物のゲルタイムおよび硬化反応開始時の温度が大きく異なることから、エポキシ樹脂組成物の硬化性とバリの発生量とが相関関係にあることが示された。実施例および比較例の結果から明らかなように、エポキシ樹脂組成物の硬化性を適切にすることで、すなわち、エポキシ樹脂組成物のゲルタイムおよび硬化反応開始時を規定することで、SMCの成形性を変えることができた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のシートモールディングコンパウンドは、プレス成形時のバリの発生が抑制されると共に、シートモールディングコンパウンドの製造に用いるエポキシ樹脂組成物の強化繊維への含浸性、Bステージ化後のタック性およびドレープ性、Bステージの安定性(プレス成形時の流動性)、加熱した際の速硬化性(プレス成形時の金型占有時間が短いこと)、およびプレス成形物の耐熱性に優れ、生産が非常に高い材料である。また、本発明のシートモールディングコンパウンドは、硬化後の機械特性および耐熱性に優れることから、工業用、自動車用の構造部品の原料として好適である。