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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】植物根の活性化方法及び栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20220308BHJP
   A01G 9/00 20180101ALI20220308BHJP
   A01G 7/02 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
A01G7/00 602A
A01G7/00 602Z
A01G9/00 J
A01G7/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017181617
(22)【出願日】2017-09-21
(65)【公開番号】P2019054759
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】514231295
【氏名又は名称】株式会社テヌート
(73)【特許権者】
【識別番号】513144453
【氏名又は名称】藤原 慶太
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】藤原 慶太
(72)【発明者】
【氏名】荻原 勲
(72)【発明者】
【氏名】車 敬愛
(72)【発明者】
【氏名】玉川 由梨
【審査官】赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-120523(JP,A)
【文献】特開2004-081088(JP,A)
【文献】特開2015-043711(JP,A)
【文献】登録実用新案第3133679(JP,U)
【文献】実開平01-167847(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00-7/06
A01G 9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌中における植物が根を張る領域に、酸素含有ガスを注入する第一の工程と、
植物へ灌水を行う第二の工程と
を含む植物根の活性化方法であって、
前記第一の工程と前記第二の工程が交互に繰り返して1日に3~8回行われることを特徴とする植物根の活性化方法。
【請求項2】
前記土壌中には多孔質管が埋設されており、該多孔質管を介して酸素含有ガスを前記植物が根を張る領域に注入することを特徴とする請求項1に記載の植物根の活性化方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の植物根の活性化方法を用いることを特徴とする栽培方法。
【請求項4】
植物に対して炭酸ガスを局所的に施用する第三の工程を更に含むことを特徴とする請求項に記載の栽培方法。
【請求項5】
前記植物根の活性化方法が、複数の植物に対して同時に適用されることを特徴とする請求項又はに記載の栽培方法。
【請求項6】
前記植物の栽培がポット栽培であることを特徴とする請求項のいずれか一項に記載の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物根の活性化方法及び該植物根の活性化方法を用いた栽培方法に関し、特には、過湿の原因である土壌水分量の過剰な上昇を抑えることが可能な植物根の活性化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、果樹の栽培において、鉢やプランター等の容器に果樹を植えて栽培するポット栽培が全国的に普及しており、例えば、カキ(滋賀県)、ブドウ(鳥取県)、ミカン(愛媛県)、モモ(神奈川県)などが挙げられる。特に、カキのポット栽培では、ポット栽培による摘蕾作業の軽労・省力効果などが報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者は、ブルーベリーのポット栽培を行っているが、定時に灌水を行う栽培方法では、過湿状態になった土壌で栽培される個体は草勢が著しく悪くなることが観察された。ポット栽培における通常の灌水方法では、ポットに対して個々に灌水量を変えることは困難であるが、天候、樹勢、苗の大きさによって、ポットの土壌水分が異なるため、土壌が過湿状態になることが考えられる。そのため、それぞれのポットに適切な水分量を与える方法を確立する必要がある。
【0004】
そこで、本発明の目的は、過湿の原因である土壌水分量の過剰な上昇を抑えることが可能な植物根の活性化方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる植物根の活性化方法を用いた栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、土壌中に気体としての酸素や空気を注入することで、土壌水分量を適切な範囲内に調整でき、それによって、土壌水分量の過剰な上昇を抑えることができることを見出した。また、本発明者は、土壌中の根を張る領域(根域)に対して気体としての酸素や空気の注入を行うことで、根の細胞の代謝を活性化させ、根からの養水分の吸収が増加し、これによって、植物の根量の増大と茎葉の生長の促進を図ることができることも見出した。
【0006】
なお、例えば特開2013-106563号公報に記載されるように、水耕栽培においては、酸素が溶解した水を根等の育成対象物に供給して、植物の生長を促進させる方法も知られているが、土耕栽培において根域に酸素を供給する目的で、酸素が溶解した水や養液を利用すると、土壌水分量や土壌中の肥料濃度が高くなりすぎるため、植物の生長は却って悪くなることが考えられる。この点からも、土壌中に気体としての酸素や空気を注入することによって奏される効果は驚くべきものであるといえる。
【0007】
即ち、本発明の植物根の活性化方法は、土壌中における植物が根を張る領域に、酸素含有ガスを注入する第一の工程を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の植物根の活性化方法の好適例においては、植物へ灌水を行う第二の工程を更に含む。
【0009】
本発明の植物根の活性化方法の他の好適例においては、前記第一の工程と前記第二の工程が交互に繰り返して行われる。
【0010】
本発明の植物根の活性化方法の他の好適例においては、前記土壌中には多孔質管が埋設されており、該多孔質管を介して酸素含有ガスを前記植物が根を張る領域に注入する。
【0011】
また、本発明の栽培方法は、上記の植物根の活性化方法を用いることを特徴とする。
【0012】
本発明の栽培方法の好適例においては、植物に対して炭酸ガスを局所的に施用する第三の工程を更に含む。
【0013】
本発明の栽培方法の他の好適例においては、前記植物根の活性化方法が、複数の植物に対して同時に適用される。
【0014】
本発明の栽培方法の他の好適例においては、前記植物の栽培がポット栽培である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、過湿の原因である土壌水分量の過剰な上昇を抑えることが可能な植物根の活性化方法、及びかかる植物根の活性化方法を用いた栽培方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の植物根の活性化方法及び本発明の栽培方法に使用できる栽培システムの一例の概略図である。
図2】本発明の植物根の活性化方法及び本発明の栽培方法に使用できる多孔質管の一例の概略図(a)と該多孔質管の使用態様の概略図(b)とを示す。
図3】Air区及び無処理区で栽培したブルーベリーの地上部の比較を示す(2016年11月19日撮影)。
図4】Air区及び無処理区で栽培したブルーベリーの地上部と地下部の比較を示す(2017年6月1日撮影)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の植物根の活性化方法及び本発明の栽培方法を詳細に説明する。
【0018】
本発明の植物根の活性化方法は、土壌中における植物が根を張る領域に、酸素含有ガスを注入する工程(以下、第一の工程や酸素含有ガス注入工程ともいう)を含むことを特徴とする。本発明の植物根の活性化方法は、土壌中における植物が根を張る領域に、酸素含有ガスを注入することで、土壌水分量を適切な範囲内に調整し、土壌水分量の過剰な上昇を抑えることができると共に、根の細胞の代謝を活性化させ、根からの養水分の吸収が増加し、植物の根量の増大と茎葉の生長の促進を図ることができる。
【0019】
本発明の植物根の活性化方法において、上記酸素含有ガス注入工程は、灌水や天候の影響などによって土壌水分量が高くなり得る環境下での植物の栽培や複数の植物に対して同一の条件下で栽培を行っている場合に行われることが好ましい。植物の栽培における好適な土壌水分量は、対象となる植物によるものの、例えば35~45%の範囲を例示することができる。このため、土壌水分量が上記特定した範囲を超えた場合に酸素含有ガス注入工程を行い、土壌水分量を調整することが好ましい。
【0020】
なお、本明細書において、土壌水分量とは、土壌体積当たりの水の体積パーセントを指し、この土壌体積含有率%(m/m)を土壌水分量(%)として示す。また、土壌水分量は、誘電率を測定できるTDR(Time Domain Reflectometry)センサーなどを使った方法によって測定できる。
【0021】
本発明の植物根の活性化方法において、酸素含有ガスとしては、通常、酸素や空気が使用されるが、空気中の酸素濃度(約21体積%)より酸素濃度が高く調整された混合ガスを使用してもよい。
【0022】
本発明の植物根の活性化方法においては、土壌中における植物が根を張る領域(根域)に酸素含有ガスを直接注入する観点から、酸素含有ガスを注入するための管を土壌中に埋設することが好ましい。また、植物根は、土壌中において四方に広がっているため、酸素含有ガスを注入するための管は、土壌中において多孔質であることが好ましい。よって、本発明の植物根の活性化方法においては、土壌中に多孔質管が埋設され、該多孔質管を介して酸素含有ガスを植物が根を張る領域に注入することが特に好ましい。
【0023】
本発明の植物根の活性化方法において、多孔質管は、該多孔質管の内側から酸素含有ガスを外側に通過させる複数の細孔、好ましくは多数の微細な孔が該多孔質管の側面に形成されている導管であり、多孔質樹脂から構成されたものが好ましい。なお、多孔質管としては、市販品を好適に使用することができる。
【0024】
本発明の植物根の活性化方法においては、例えば、酸素含有ガス供給源(酸素含有ガス充填タンクや周囲環境など)から圧縮機等の圧送機を介して酸素含有ガス注入管に酸素含有ガスを供給し、酸素含有ガス注入管から根域に酸素含有ガスを注入することができる。ここで、酸素含有ガス注入管が多孔質である場合は、土壌中に埋設された管部分や土壌表面に接している管部分が多孔質であり、その他の管部分は非多孔質であることが好ましい。このため、酸素含有ガス注入管の一部を多孔質としたり、多孔質管と非多孔質管を連結して酸素含有ガス注入管としたりすることが好ましい。
【0025】
上記酸素含有ガス注入工程において、酸素含有ガスは、圧力が好ましくは0.1~0.4MPa、より好ましくは0.2~0.3MPaで、流量が好ましくは20~40L/min、より好ましくは20~30L/minの条件下で、根域に注入される。また、本発明の植物根の活性化方法においては、土壌水分量が適切な範囲内になるまで、酸素含有ガス注入工程を連続して行うことができるが、1日に複数回行うことが好ましく、1日に3~8回行うことが好ましく、1日に3~5回行うことがより好ましい。
【0026】
植物根を活性化の観点からは、過湿の原因となる土壌水分量の過剰な上昇を抑えることに加えて、乾湿のメリハリをつけることが有効である。植物根は、灌水直後の土壌水分量が比較的高い状態から低い状態になるとよく伸長し、またその反対に、土壌水分量が比較的低い状態から灌水により高い状態になるときもよく伸長するからである。このため、本発明の植物根の活性化方法は、植物へ灌水を行う工程(以下、第二の工程や灌水工程ともいう)を更に含むことが好ましく、上記酸素含有ガス注入工程(第一の工程)と灌水工程(第二の工程)を交互に繰り返して行うことが更に好ましい。
【0027】
本発明の植物根の活性化方法において、灌水工程は、特に限定されるものではなく、通常の栽培方法で行われる灌水工程を適用することができる。例えば、各ポットに対して定時に同量の水や養液を供給する灌水工程によって、土壌が過湿状態にあるポットが生じたとしても、その後に行われる酸素含有ガス注入工程によって、土壌水分量を適切な範囲内に調整することができる。
【0028】
本発明の植物根の活性化方法において、灌水工程は、1日に複数回行うことが好ましく、1日に3~8回行うことが好ましく、1日に3~5回行うことがより好ましい。また、1回の灌水量は、通常、植物の生育に適した範囲に調節されるが、複数の植物に対して灌水工程が同時に適用される場合には、必要な灌水量が最も高い個体を基準に決定され、すべての植物に対して同じ量の灌水が行われることが一般的である。例えば、土壌の量が最も多いもの、ポット栽培である場合にはポットのサイズが最も大きいものを基準に灌水量を決定することができる。
【0029】
本発明の植物根の活性化方法においては、例えば、養液供給源(養液タンクなど)から圧縮機等の圧送機を介して養液供給管に養液を供給し、養液供給管から植物に灌水を行うことができる。なお、本発明の栽培方法において、灌水工程は、例えば植物が果樹である場合、植物の地上部(茎や葉など)に対して灌水を行うよりも、根域に養液を注入する工程であることが好ましく、この場合、切換え弁等を利用することにより、養液供給管と酸素含有ガス注入管として同一の導管、好ましくは多孔質管を用いることも可能である。
【0030】
本発明の植物根の活性化方法は、上記したように、酸素含有ガス注入工程(第一の工程)と灌水工程(第二の工程)を交互に繰り返して行うことが好ましいが、この繰り返しを1日に複数回行うことが好ましく、1日に3~8回行うことが好ましく、1日に3~5回行うことがより好ましい。この場合、酸素含有ガス注入工程は、ある灌水工程から次の灌水工程までの間の任意の時間行うことができるが、例えばポット栽培に用いるポットのサイズが大きい場合や土壌水分量が高い場合には、酸素含有ガス注入工程を行う時間を長く設定することが好ましい。また、灌水完了直後よりも、灌水が完了して少し時間をおいてから(例えば灌水完了後1~60分後、好ましくは3~30分後、より好ましくは5~15分後に)酸素含有ガス注入工程を開始することが好ましい。
【0031】
本発明の植物根の活性化方法が灌水工程を含む場合、酸素含有ガス注入工程のみの場合と比較して、植物根を活性化の観点から好ましいものの、土壌の過湿状態を緩和する効果は低くなる。このため、本発明の植物根の活性化方法が灌水工程を含む場合であって、過湿状態(例えば土壌水分量が50~60%)になった土壌で栽培される個体が存在する場合には、本発明の植物根の活性化方法を少なくとも10日間、より好ましくは少なくとも30日間継続して行うことが好ましい。
【0032】
次に、本発明の栽培方法は、上述した本発明の植物根の活性化方法を用いることを特徴とする。即ち、本発明の栽培方法は、上記酸素含有ガス注入工程(第一の工程)を含み、更に上記灌水工程(第二の工程)を含むことが好ましく、第一の工程と第二の工程が交互に繰り返して行われることが更に好ましい。
【0033】
また、本発明の栽培方法は、植物に対して炭酸ガスを局所的に施用する工程(以下、第三の工程やCO施用工程ともいう)を更に含むことが好ましい。なお、本明細書において、「植物に対して炭酸ガスを局所的に施用する」とは、植物に対して高濃度(700~800ppm)の炭酸ガスを直接与えることを意味する。これにより、光合成の促進を図ることができる。
【0034】
本発明の栽培方法においては、例えば、炭酸ガス供給源(炭酸ガス充填タンクなど)から圧縮機等の圧送機を介して炭酸ガス供給管に炭酸ガスを供給し、炭酸ガス供給管から植物、好ましくは植物の葉に炭酸ガスを供給(局所的施用)することができる。なお、本発明の栽培方法において、CO施用工程は、植物の地上部に対して行うことが好ましいものの、例えば、酸素含有ガス注入管や養液供給管として使用する導管の土壌から出ている部分が多孔質であれば、該多孔質管を炭酸ガス供給管として利用することも可能である。
【0035】
本発明の栽培方法において用いる植物根の活性化方法は、複数の植物に対して同時に適用されることが好ましい。作業やコストの効率化の観点からは、複数の植物を同時に栽培する場合には同一の条件で栽培することが好ましいものの、同一の条件下で複数の植物を栽培していると、天候、樹勢、苗の大きさによって、土壌が過湿状態になることも考えられる。しかしながら、上述した本発明の植物根の活性化方法によれば、土壌水分量の過剰な上昇を抑えることができるため、好ましい。また、本発明の植物根の活性化方法は、上記酸素含有ガス注入工程によって、土壌水分量の過剰な上昇を抑えることができるため、正常な土壌状態で栽培されている個体に対しても悪影響を与えることもない。
【0036】
本発明において、植物の栽培は、鉢やプランター等の容器に植物を植えて栽培するポット栽培であることが好ましく、複数の植物を同時に栽培することが更に好ましい。例えば、天候、樹勢、苗の大きさの違いによって、土壌が過湿状態になり、個体の草勢を悪化させるような課題は、複数の植物のポット栽培により起こりやすいため、このような栽培手法に対して本発明を適用することがより効果的である。なお、ポット栽培において「土壌中における植物が根を張る領域」とは、通常、容器中の土壌全体を指す。
【0037】
本発明において、対象となる植物は、特に制限されるものではないが、ブルーベリー、ラズベリー、ミカンやレモン等の柑橘類、桜桃、リンゴ、梨、ビワ、ブドウ、マンゴー、パパイヤ、ドラゴンフルーツ、バナナ等の果樹などが好適に挙げられる。
【0038】
本発明において、日長時間、光強度、潅水量、相対湿度、CO濃度、土壌pH、土壌EC(Electric Conductivity(電気伝導度):肥料濃度を推定できる)等の各種パラメーターを植物の生育に適した範囲に調節することが好ましい。また、このようなパラメーターは、光源、暖房機、冷房設備、送風機、除湿器、加湿器、換気扇、ドライミスト及び遮光カーテンといった各種の装置を単独で或いは組み合わせて使用することで実現することができる。そのためには、これら装置を組み込んだ人工光を利用した閉鎖系室や、これら装置を備える通常の太陽光を利用した温室が利用できる。
【0039】
次に、図を参照しながら、本発明の植物根の活性化方法及び本発明の栽培方法に使用できる栽培システムについて説明する。図1は、本発明の植物根の活性化方法及び本発明の栽培方法に使用できる栽培システムの一例の概略図である。図示例の栽培システムは、酸素含有ガス供給源1と、養液供給源2と、炭酸ガス供給源3と、切換え弁4と、複数のポット5と、酸素含有ガス供給源1と切換え弁4とを連結する導管6と、養液供給源2と切換え弁4とを連結する導管7と、炭酸ガス供給源3と切換え弁4とを連結する導管8と、切換え弁4と各ポット5とを連結する導管9とを備えており、該導管9の先端部は多孔質管10で構成されており、各ポット5内の土壌11中に埋設されている。なお、導管6~8と、導管9は、上記多孔質管10部分を除き、非多孔質である。
【0040】
図示例の栽培システムにおいては、酸素含有ガス供給源1から導管6及び切換え弁4を介して導管9に酸素含有ガスを供給し、多孔質管10から根域に酸素含有ガスを注入することができる。また、養液供給源2から導管7及び切換え弁4を介して導管9に養液を供給し、多孔質管10から根域にて灌水を行うことができる。また、炭酸ガス供給源3から導管8及び切換え弁4を介して導管9に炭酸ガスを供給し、多孔質管10から植物に炭酸ガスを供給(局所的施用)することができる。なお、図示例の栽培システムにおいては、植物の葉に対して局所的施用を行うため、導管9の先端部を構成する多孔質管10は、その全体が土壌11中に埋設されているのではなく、その一部は地上部に出ていることが好ましい。このような栽培システムであれば、切換え弁4を利用することで、酸素含有ガス注入管、養液供給管及び炭酸ガス供給管として共通の導管9を用いることができるため、好ましい。
【0041】
図示例の栽培システムは、酸素含有ガス供給源1、養液供給源2及び炭酸ガス供給源3から導管6、導管7及び導管8へ適切な圧力及び流量にて流体を供給するため、各供給源の下流には圧送機(図示せず)を備えることが好ましい。なお、本発明において酸素含有ガスとして空気を利用する場合、酸素含有ガス供給源は周囲環境であることが好ましく、この場合、圧送機を介して導管6に酸素含有ガスを供給することが可能である。
【0042】
図示例の栽培システムは、流体の圧力や流量、及び切換え弁の制御のため、圧送機及び切換え弁には制御装置(図示せず)が連結されていることが好ましい。
【0043】
図2は、本発明の植物根の活性化方法及び本発明の栽培方法に使用できる多孔質管の一例の概略図(a)と該多孔質管の使用態様の概略図(b)とを示す。図2(a)に示す多孔質管20は、土壌中に埋設され、酸素含有ガスを根域に注入するための埋設部21と、土壌表面から地上に露出した、埋設部21に酸素含有ガスを供給するための露出部とから構成されており、該露出部は、植物を囲むように土壌表面に配置される環状部22と、該環状部22と非多孔質管とを連結する連結部23とから構成されることが好ましい。図示例の多孔質管は、2本の埋設部21を備えるが、本発明においてはこれに限定されるものではなく、1本又は3本以上の埋設部を備えていてもよい。
【0044】
本発明の植物根の活性化方法及び本発明の栽培方法において複数の植物を対象にして実施される場合は、図2(a)に示す多孔質管20が、植物毎に、好ましくはポット毎に配置されていることが好ましい。図2(b)は、植物24が植えられているポット25に、図2(a)に示される多孔質管20が配置されている多孔質管の使用態様の概略図を示す。図示例の使用態様によれば、埋設部21から根域に酸素含有ガスを注入できると共に、環状部22からも根域に酸素含有ガスを注入できるため、好ましい。更に、多孔質管20は、露出部を備えるため、炭酸ガス供給管としても利用できる。
【実施例
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
[材料及び方法]
<供試植物>
サザンハイブッシュブルーベリー「Sharpblue」の3~8年生苗木を用いた。
<実験施設>
東京農工大学植物工場内のガラス温室で実験を行った。また、ガラス温室には、2つの処理区を設けた。一つは、土壌中に空気を注入するAir区であり、もう一方は、土壌中への空気の注入を行わない無処理区であった。各処理区では、3株の苗木を対象にポット栽培が同時に行われた。
・酸素含有ガス注入工程
リョービ社製空気圧縮注入機「(商品名)ACP-50」からチューブに空気を供給し、該チューブの先端に連結された多孔質管を介して土壌中に空気を注入した。
チューブとしては非多孔質チューブを用い、多孔質管としては、大和実業株式会社製ウォータチューブから作製した図2に示される多孔質管を用いた。
なお、テヌート社製CO2局所施用コントローラー「ブレス」を制御装置として用いて、空気圧縮注入機から注入される空気の圧力及び流量を制御した。
・灌水工程
水に液肥を混入した養液を、ドリップチューブを介して、土壌に供給した。日射比例灌水を基本にした定時灌水を行った。
<実験方法>
2016年11月16日から養液土耕によるポット栽培を行った。灌水は、1日に5回定時(9時、11時、13時、15時、17時)にて行われた。なお、Air区では、各灌水の完了後、直ちに1時間、圧力0.2MPa及び流量22.5L・min-1の条件下で土壌中への空気の注入を行った。
【0047】
[結果及び考察]
表1は、12月14日に測定したAir区及び無処理区の土壌水分量と1月11日に測定したAir区及び無処理区の土壌水分量とを示す。なお、土壌水分量は、TDR(Time Domain Reflectometry)センサーを用いて、ポット毎に4か所測定した値の平均値である。表1から分かるように、Air区では、土壌水分量の低減効果が確認することができた。
図3は、Air区及び無処理区で栽培したブルーベリーの地上部の比較を示す(2017年1月19日撮影)。無処理区では新梢の発生が確認できなかったが、Air区では、矢印で示したように、多数の新梢が発生した。
図4は、Air区及び無処理区で栽培したブルーベリーの地上部と地下部の比較を示す(2017年6月1日撮影)。Air区ではブルーベリーの根がよく発達していることが分かる。
以上の結果から、土壌中における植物が根を張る領域(根域)に、酸素含有ガスを注入することで、土壌の過湿状態を緩和することができ、これによって、植物の根量の増大と茎葉の生育の促進を図ることが可能であった。
【0048】
【表1】
【符号の説明】
【0049】
1 酸素含有ガス供給源
2 養液供給源
3 炭酸ガス供給源
4 切換え弁
5 ポット
6,7,8,9 導管
10 多孔質管
11 土壌
20 多孔質管
21 埋設部
22 環状部
23 連結部
24 植物
25 ポット
図1
図2
図3
図4