(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】スラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 5/06 20060101AFI20220308BHJP
C04B 5/00 20060101ALI20220308BHJP
F27D 15/02 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C04B5/06
C04B5/00 B
F27D15/02 B
(21)【出願番号】P 2017236399
(22)【出願日】2017-12-08
【審査請求日】2020-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】竹田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 宏
(72)【発明者】
【氏名】加地 伸行
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆行
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-124095(JP,A)
【文献】特開2017-001894(JP,A)
【文献】特開2004-121801(JP,A)
【文献】特開2016-114317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
F27D 7/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe及びSiを主成分とし、As及びPbを不純物として含有するスラグを水砕処理する水砕処理工程と、
前記水砕処理工程で得られたスラグを、酸素を含むガス雰囲気下で形成されるアークプラズマ中に供給して高温熱処理する熱処理工程と、を含
み、
前記熱処理工程では、前記ガス雰囲気中の酸素分圧を1kPa~20kPaとする
スラグの製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程では、1回の高温熱処理の処理時間が1.0秒以下である
請求項
1に記載のスラグの製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程では、交流多相アークプラズマにより前記アークプラズマを形成する
請求項1
又は2に記載のスラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグの製造方法に関するものであり、より詳しくは、Fe及びSiを主成分とし、As及びPbを不純物として含有するスラグから、その不純物の溶出を有効に抑制したスラグを効率的に得るスラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートに配合される細骨材としては、従来、海砂や川砂、砂利等が用いられてきたが、天然資源であるこれらの砂は、環境保護の観点から採取量の削減や禁止の動きが強化されてきている。
【0003】
このような背景から、非鉄金属製錬、例えば銅の乾式製錬において副生成するスラグについて、コンクリート用細骨材としての適用がJIS A5011-3として規格化され、安定的に供給可能なことから天然資源の各種砂からの代替の動きが加速している。
【0004】
ところが、スラグを適用するにあたっては、平成15年環境省告示第19号に規定される有害物質の含有量試験(JIS K0058-2:2005)、及び平成3年環境庁告示第46号に規定される有害物質の溶出量試験(JIS K0058-1:2005)の結果に基づいて、土壌汚染に関する基準を満たすことが求められている。特に、平成15年環境省告示第19号に規定される有害物質の含有量試験(JIS K0058-2:2005)に基づく基準では、その規制が強化されており、As(砒素)、Pb(鉛)の溶出量については、可能な限り低減させることが求められている。
【0005】
例えば、特許文献1及び非特許文献1においては、上述した有害物質の含有量試験及び有害物質の溶出量試験の両方において、スラグからのAs及びPbの溶出量を抑えたスラグを安定的に製造する技術が示されている。
【0006】
しかしながら、これらの文献に記載の技術は、スラグを500℃~800℃の温度で30分以上加熱処理するというものであり、そのため大量のスラグを処理するにあたってかなり多くの熱エネルギーと時間が必要となる。
【0007】
加熱方法としては、例えばキルン等の加熱装置やバーナー等の熱源を使用して熱処理を行うことが一般的であるが、いずれの方法であっても専用の炉が必要となり、またその炉本体を加熱維持しなければ、スラグからのAs及びPbの溶出量を確実に抑制することが難しかった。こうした炉を維持管理するためには、一般的には24時間操業を行って立ち上げ/立ち下げ時の熱のロスを最低限に保つ必要があり、結果的にかなり多くの熱エネルギーが必要となっていた。
【0008】
銅製錬のプロセス等から生成するスラグは大量であり、大量のスラグを短時間の熱処理で、As及びPbの溶出量を抑えたスラグを効率的に製造する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】河原正泰、小森慎太郎、「銅スラグからの重金属の溶出性」、Journal of The Mining and Materials Processing Institute of Japan、Vol.129(2013)p192-196
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、As及びPbを不純物として含有するスラグにおいて、その不純物の溶出の少ないスラグを短時間の熱処理で効率的に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、熱処理方法として、アークプラズマ発生装置を用いた熱処理を選定し、アークプラズマが発生している高温空間にスラグを自然落下させてスラグの表層のみ高温で変質させることで、As及びPbの溶出量を有効に抑制したスラグを短時間の熱処理で効率的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1)本発明の第1の発明は、Fe及びSiを主成分とし、As及びPbを不純物として含有するスラグを水砕処理する水砕処理工程と、前記水砕処理工程で得られたスラグを、酸素を含むガス雰囲気下で形成されるアークプラズマ中に供給して高温熱処理する熱処理工程と、を含む、スラグの製造方法である。
【0014】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記熱処理工程では、前記ガス雰囲気中の酸素分圧を1~20kPaとする、スラグの製造方法である。
【0015】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記高温熱処理工程では、1回の高温熱処理の処理時間が1.0秒以下である、スラグの製造方法である。
【0016】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至3のいずれかの発明において、前記熱処理工程では、交流多相アークプラズマにより前記アークプラズマを形成する、スラグの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、As及びPbを不純物として含有するスラグにおいて、その不純物の溶出の少ないスラグを、短時間の熱処理により効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】スラグの製造方法について説明するための図であり、熔錬炉にて得られ錬かん炉から排出された熔融スラグに対して水砕処理を施す流れを示す模式図である。
【
図2】アークプラズマ装置の概略構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
本実施の形態に係るスラグの製造方法は、銅の乾式製錬等の非鉄金属製錬のプロセスにて副産物として生成されるスラグであって、Fe及びSiを主成分とし、さらにAs及びPbを不純物として含有するスラグから、それらAs及びPbの溶出量を抑制したスラグを製造する方法である。なお、主成分とは、スラグ中の含有割合が51質量%以上のものをいう。Fe及びSiを主成分とするスラグでは、主成分の含有割合とはFe及びSiの合計含有割合をいう。
【0021】
具体的に、このスラグの製造方法は、Fe及びSiを主成分とし、As及びPbを不純物として含有するスラグを、水砕処理する水砕処理工程と、水砕処理工程で得られたスラグを、酸素を含むガス雰囲気下で形成されるアークプラズマ中に供給して高温熱処理する熱処理工程とを含む。
【0022】
(原料のスラグ)
先ず、原料のスラグとしては、上述したように、Fe及びSiを主成分とし、さらにAs及びPbを含むスラグである。例えば、原料スラグの組成としては、Feの含有量が35質量%~45質量%であり、SiO2の含有量が25質量%~40質量%であり、不純物成分としてPbを0.01質量%~0.2質量%、Asを0.01質量%~0.2質量%の割合で含む。また、この原料スラグにおいては、Cuを0.5質量%~3.0質量%、CaOを1.0質量%~6.0質量%、及びその他の不純物として例えばAl2O3(アルミナ)、MgO(マグネシア)等を含んでいてもよい。
【0023】
このようなスラグとしては、例えば、非鉄製錬スラグ、廃棄物熔融スラグ等が挙げられ、より具体的には、銅の製錬プロセスにて副産物として生成する銅スラグ(例えば、自溶炉スラグ、錬かん炉スラグ)が挙げられる。
【0024】
例えば
図1に示すように、銅製錬プロセスにおいては、原料としての銅精鉱及び銅精鉱以外の銅原料と、フラックスとしての珪酸鉱とが自熔炉1等の熔錬炉に装入され、その後約1300℃の高温で熔解されて、比重が相対的に大きいマット2と比重が相対的に小さいスラグ3とに比重分離される。得られたマット2は、次工程の転炉に送られ、FeとSが除去されてCu品位が98%の粗銅となる。一方、不純物の多くが分配されているスラグ3は、自熔炉樋4を通して錬かん炉5に送られ、分離しきれなかったCu分がその錬かん炉5にて分離されて約1300℃の熔融スラグ6として、スラグ樋7から排出される。
【0025】
(水砕処理工程)
水砕処理工程では、原料のスラグを水砕処理する。一般的にスラグは、非鉄製錬等から得られるものであるため、そのスラグに対して水砕処理を施すことにより、冷却を兼ねることができ、大気中で徐冷するのに比べると冷却に要する時間を短くすることができる。また、水砕して急冷させることにより、スラグ組成を均一にすることができる。さらに、販売、運搬しやすい粒度に効率的に調整することができる。
【0026】
また、このようにスラグを水砕することで、後述する熱処理工程におけるアークプラズマに供給しやすい粒度に調整することができる。また、アークプラズマによる熱処理で生成する、スラグ表面の酸化被膜の種類や厚み等を的確に調整することができる。
【0027】
さらに、後述するアークプラズマによる熱処理を施すにあたってスラグを水砕処理しておくことで、キルン等の加熱装置やバーナー等の熱源を使用して熱処理する場合に比べ、極めて短時間の熱処理で済み、また少ない熱エネルギーで、As及びPbの溶出の少ないスラグを効率的に得ることができる。
【0028】
水砕の方法としては、スラグに加圧水を噴射させて、粒状化する方法、スラグを水槽に注入して急冷させて、粒状化する方法等が挙げられる。
【0029】
なお、例えば
図1に示したように、スラグ樋7から水砕樋8に供給された熔融スラグ6が、水砕樋8内を流れる水砕水により水砕されることで、100℃以下まで急冷されるとともに細かい粒子に砕かれて水砕スラグとなる。
【0030】
(熱処理工程)
熱処理工程では、水砕処理して得られたスラグ(水砕スラグ)を、酸素を含むガス雰囲気下で形成されるアークプラズマ中に供給して高温熱処理する。このとき、水砕スラグの供給は、大量のスラグの処理を可能にしつつスラグ同士の密着を避ける観点から、アークプラズマ装置の上部から自然落下させながら、アークプラズマ中を通過させるようにして行うことが好ましい。
【0031】
ここで、Fe及びSiを主成分とするスラグにおいて、微量含まれている不純物のAsやPbの溶出を抑制したスラグを得る方法として、結晶化を促進させる方法がある。ところが、原料として“常温”の水砕水により水砕スラグを得るようにした場合には、その水砕処理により結晶化を促進させることは困難となる。また、スラグの表層をマグネタイトで覆うことによってAsやPbの溶出をバリアする層を形成する方法として、大気圧雰囲気下で500℃程度の温度に加熱する方法が知られているが、処理に長時間を要し、かなりの大きな熱エネルギーを必要とする。
【0032】
これに対して、アークプラズマによる高温熱処理では、短時間で効率よく、不純物であるAs及びPbの溶出を安定して抑えることができる。すなわち、アークプラズマによる処理では、酸素を含むガス雰囲気下で高温での熱処理が可能となるため、短時間でスラグ表面にヘマタイト層(Fe2O3)層又はマグネタイト(Fe3O4)層からなる酸化被膜を形成できるとともに、その直下にSiO2リッチな層を形成することできる。アークプラズマによる熱処理によれば、これらの酸化被膜等を効率的に形成できることから、スラグ自体が溶解しにくくなり、スラグ溶解によるPb、As等の溶出を安定して抑えることができると推測される。
【0033】
図2は、アークプラズマ装置の構成を示す模式図である。アークプラズマ装置10は、主として、炉本体11と、電極12と、ガス導入口13と、スラグ供給口14とにより構成されている。炉本体11は、例えば、外形直径355mm×高さ750mm程度のステンレス製水冷二重ジャケット式で構成されている。また、電極12としては、例えば、φ40×540mm程度のタングステンアーク電極6本が配置され、水冷二重ジャケット式を採用している。さらに、電極12間は、約50mm程度の間隙が設けられており、電極12間に多相交流のアークプラズマXを発生させる。
【0034】
また、ガス導入口13は、炉本体11の上部に設けられ、例えば、アルゴン等の不活性ガスと空気との混合ガスを導入することにより、アークプラズマXが形成される領域を、酸素を含むガス雰囲気下とする。また、スラグ供給口14は、例えばφ15mm~19mm程度の配管であり、バルブ14aによりスラグの流量を調整しながら、アルゴンフィードガスによりスラグを落下供給する。
【0035】
なお、アークプラズマ装置の構成としてはこれに限定されず、また装置構成の大きさについてもあくまでも例示であってこれに限定されるものではない。
【0036】
アークプラズマ装置10では、大気圧下、酸素を含むガス雰囲気において、スラグ供給口14からスラグが落下供給され、電極12間に生じたアークプラズマX中で熱処理が施される。これにより、スラグ表面に酸化被膜を形成することができる。
【0037】
このように、水砕処理後のスラグをアークプラズマX中に供給して高温加熱処理を施すことにより、スラグ自体が溶解しにくくなり、スラグ溶解によるPb、As等の溶出を抑えることが容易なスラグを、短時間で効率的に製造することができる。
【0038】
アークプラズマによる高温熱処理の条件に関して、酸素を含むガス雰囲気、プラズマ出力、プラズマ処理時間、水砕スラグの供給流量等は、適宜設定することができる。
【0039】
具体的に、酸素を含むガス雰囲気としては、例えば、アルゴン等の不活性ガスと、酸素を含む空気との混合ガス雰囲気とすることができる。このような、酸素を含むガス雰囲気とすることで、アークプラズマを効率よく発生させてスラグ表面を有効に酸化させることができ、スラグ表面への酸化被膜の形成を促すことができる。
【0040】
酸素を含むガス雰囲気中における酸素分圧(酸素濃度)としては、1kPa~20kPa程度とすることが好ましく、10kPa~20kPa程度とすることがより好ましい。酸素分圧が1~20kPa程度の混合ガスを用いてアークプラズマによる高温熱処理を施すことで、スラグ表面により効率的に酸化被膜を形成することができ、As及びPbの溶出量をより効果的に抑えることができる。プラズマを安定して発生させることができる限り、酸素分圧が高い方が酸化被膜を効率よく形成することができると考えられる。酸素分圧が1kPa未満であると、効率的に酸化被膜を形成することができない可能性がある。一方で、混合ガス雰囲気における酸素分圧を大気の酸素分圧(略20kPa)を超える圧力とする場合、酸化被膜を極めて効率的に形成できるものの、酸素を濃縮する必要が生じる。そのため、混合ガス雰囲気における酸素分圧は、経済的な点からは20kPa以下が好ましい。
【0041】
また、プラズマ出力としては、典型的には、1000W~4000Wとすることが好ましい。プラズマ出力が過小であるとアークプラズマが安定せず、一方で、プラズマ出力が過大であるとアークプラズマが形成される領域が高温になり過ぎ、溶融、酸化が進みすぎて良好な結果が得られないことがある。
【0042】
また、プラズマ処理時間としては、アークプラズマの温度条件に影響されるが、主として自由落下によるプラズマ通過時間によって制御可能であり、極短時間とすることができる。また、プラズマ処理時間は、電極の設置段数によって調整することができる。より具体的に、プラズマ処理時間として、1.0秒程度以下とすることができ、またこのような短時間の高温熱処理を複数回行ってもよい。
【0043】
ここで、アークプラズマの形成にあたっては、交流多相アークプラズマを使用することが好ましい。アークプラズマは、安定して特定の場所に保持させることが難しく、形成させたアークプラズマの間に物質(スラグ)を供給して熱処理を行うためには、より一層に安定的にアークプラズマを存在させておくことが必要になる。この点において、交流多相アークプラズマを用いることによれば、形成したアークプラズマを安定的に存在させることができる。具体的に、交流多相アークプラズマにおいては、多数の電極を円周上に配置し、交流多相で順次アークプラズマを発生させるものであり、安定したプラズマ領域を生成させることができる。また、この交流多相アークプラズマでは、交流化することで一時的にアークが途切れても次のアークが発生するようになり、プラズマを維持できる。
【0044】
水砕スラグの供給量としては、アークプラズマが形成される領域の大きさにもよるが、例えば、5~50g/分であることが好ましい。供給流量が過小であると、大量のスラグを処理するのに時間がかかってしまい、一方で、供給流量が過大であると、スラグ表面の酸化被膜の形成量が不十分になりやすい。
【0045】
以上のように、本実施の形態に係るスラグの製造方法は、As及びPbを不純物として含有するスラグを水砕処理する水砕処理工程と、水砕処理工程で得られたスラグを、酸素を含むガス雰囲気下で形成されるアークプラズマ中に供給して高温熱処理する熱処理工程と、を含む。このような方法によれば、従来のようなキルン等を用いた熱処理に比べて、極めて短時間で、しかも大きな熱エネルギーを必要とすることなく、効率的にスラグに対して熱処理を施すことができる。これにより、スラグの表面に効率的に酸化被膜を形成させることができ、As及びPbの溶出を抑えたスラグを容易に製造することができる。
【0046】
なお、上述した処理の終了後、As及びPbの溶出量が土壌汚染に関する基準に満たない場合であっても、As及びPnの溶出量をさらに低減するべく、さらになる処理を組み合わせてもよい。このようにさらなる処理を組み合わせて施すことで、容易に当該基準を満足するスラグとすることができ、そのような場合であっても、処理全体としては、短時間でかつ少ない熱エネルギーで処理することが可能となる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
(原料スラグの調製)
表1に示したような組成のスラグを原料スラグとして用いた。この原料スラグは、
図1に示したように、銅精製工程において錬かん炉で生成した副産物の熔融スラグである。
【0049】
【0050】
(水砕処理)
次に、
図1に示すように、錬かん炉5から水砕樋8に原料スラグを供給し、水砕ノズル9から放出される圧力1MPaの高圧水砕水により、水量をスラグ1t当たり10m
3以上20m
3以下に調整して、水砕処理を施した。そして、水砕処理後のスラグに対して、篩分けや粉砕等の処理によって粒度調整加工を行い、粒径1mm未満に整粒した。
【0051】
(高温熱処理)
水砕処理後のスラグに対して、
図2に示されるような、多相交流アークプラズマ装置(福伸工業株式会社製)を用いて、高温熱処理を行った。具体的には、炉本体11上部のガス導入口13より、エアー5L/min、アルゴン3L/minで供給し、炉本体11内部をエアーとアルゴンの混合ガス雰囲気とした。そのときの酸素分圧は、5kPaであった。そして、交流多相アークプラズマ発生装置により、大気圧下で、アーク電流100A、アーク電圧20Vとして、アークプラズマXを発生させた。その後、粒径1mm未満に整粒されたスラグをアークプラズマ装置10の上部に仕込み、スラグ供給口14からアークプラズマX中に自然落下させることで高温熱処理を行った。そのときの高温熱処理時間は、0.1秒であった。高温熱処理後のスラグは、炉本体11下部のフランジを割って取り出した。
【0052】
[比較例1]
水砕処理のみとし、高温熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にスラグを製造した。
【0053】
<熱処理後に得られたスラグの評価>
(平成15年環境省告示第19号(含有量試験))
JIS K0058-2に準じ、得られたスラグを粉砕して試料を得たのち、当該試料を用いて「六価クロム化合物及びシアン化合物以外の物質についての検液の調製」の項に従って検液を調製した。そして、得られた検液を用いて、JIS K0102:2008に従い、ICP-AES(発光分光分析)法によりPb、Asの濃度を測定した。下記表2に測定結果を示す。
【0054】
【0055】
表2の結果に示すように、アークプラズマによる高温熱処理を施した実施例1では、JIS K0058-2に準じて測定されるAs、Pbの溶出量が、500mg/kg以下となり、有効に溶出を抑制することができた。
【0056】
一方、比較例1では、高温熱処理は行わず、水砕処理のみのため、As、Pbの溶出量は、500mg/kgを超える値となった。
【0057】
なお、原料のスラグ1kgを、水砕処理した後、キルンを用いた加熱処理(温度1000℃)でAs及びPbの溶出量を500mg/kg以下となるように処理するために必要な時間としては、およそ0.5時間程度が必要となる。これに対し、本実施例1では、熱処理にかかった実質の時間は1秒以下であり、極めて短時間で行うことができる。
【符号の説明】
【0058】
1 自熔炉
2 マット
3 スラグ
4 自熔炉樋
5 錬かん炉
6 熔融スラグ
7 スラグ樋
8 水砕樋
9 水砕ノズル
10 アークプラズマ装置
11 炉本体
12 電極
13 ガス導入口
14 スラグ供給口
14a バルブ