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特許7036571電子錠システム、電子錠制御装置、電子錠システムにおける電子錠の解錠方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】電子錠システム、電子錠制御装置、電子錠システムにおける電子錠の解錠方法
(51)【国際特許分類】
   E05B 49/00 20060101AFI20220308BHJP
   B60R 25/24 20130101ALI20220308BHJP
   H04Q 9/00 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
E05B49/00 J
B60R25/24
H04Q9/00 301B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017210641
(22)【出願日】2017-10-31
(65)【公開番号】P2019082064
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】308033711
【氏名又は名称】ラピスセミコンダクタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079119
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 元彦
(74)【代理人】
【識別番号】100147728
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 信司
(72)【発明者】
【氏名】上原 輝昭
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-087843(JP,A)
【文献】特開2012-056343(JP,A)
【文献】特開2017-155420(JP,A)
【文献】特表2006-511105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 49/00-49/04
B60R 25/24
H04Q 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子錠の解錠制御を行う電子錠制御部と、電子鍵と、を含む電子錠システムであって、
前記電子錠制御部は、
クロック同期信号を受信し、受信した前記クロック同期信号に第1のクロック信号を同期させる同期処理を行うクロック同期部と、
前記同期処理の終了後に、前記第1のクロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を計測開始信号で位相変調した変調計測開始信号を生成しこれを無線送信する第1の送信部と、
応答信号に対応した変調応答信号を受信し、受信した前記変調応答信号に位相復調処理を施すことで前記応答信号を取得する第1の受信部と、
前記変調計測開始信号が生成されてから、前記第1の受信部で前記応答信号が取得されるまでに掛かる遅延時間が所定時間以下である場合に前記電子錠を解錠する解錠指令部と、を含み、
前記電子鍵は、
第2のクロック信号に同期した信号を前記クロック同期信号として生成するクロック同期信号生成部と、
前記変調計測開始信号を受信し、受信した前記変調計測開始信号に位相復調処理を施すことで前記計測開始信号を取得する第2の受信部と、
前記クロック同期信号を無線送信し、前記計測開始信号の取得に応じて前記応答信号を生成し、前記第2のクロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を前記応答信号で位相変調することで前記変調応答信号を生成してこれを無線送信する第2の送信部と、を含むことを特徴とする電子錠システム。
【請求項2】
前記電子錠制御部は、
起動信号を無線送信し、前記起動信号の無線送信後に所定の鍵識別子を受信した場合に乱数からなるトライコードを無線送信し、前記トライコードの無線送信後に前記トライコードに対応した暗号トライコードを受信した場合にはクロック同期要求信号を無線送信し、
前記電子鍵は、
前記起動信号を受信した場合に前記鍵識別子を無線送信し、前記トライコードを受信した場合に前記トライコードを所定の暗号鍵で暗号化した前記暗号トライコードを無線送信し、前記クロック同期要求信号を受信した場合に、前記クロック同期信号を無線送信することを特徴とする請求項1に記載の電子錠システム。
【請求項3】
前記電子錠制御部は、
起動信号を無線送信し、前記起動信号の無線送信後に所定の鍵識別子及び前記クロック同期信号を受信した場合に前記同期処理を行った後で前記変調計測開始信号及び乱数からなるトライコードを順に無線送信し、前記トライコードに対応した暗号トライコードを受信した場合に、前記遅延時間が前記所定時間以下であるか否かを判定し、前記遅延時間が前記所定時間以下である場合に前記電子錠を解錠し、
前記電子鍵は、
前記起動信号を受信した場合に前記鍵識別子及び前記クロック同期信号を順に無線送信し、前記変調計測開始信号及び前記トライコードを受信した場合に、前記トライコードを所定の暗号鍵で暗号化した前記暗号トライコードを無線送信し、引き続き前記変調応答信号を無線送信することを特徴とする請求項1に記載の電子錠システム。
【請求項4】
前記電子鍵は、前記変調計測開始信号を所定期間内において規定回数以上受けた場合に不正な無線アクセスを受けていると判定して、自身の動作を強制的に停止することを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の電子錠システム。
【請求項5】
前記電子錠制御部は、前記不正な無線アクセスを受けたことを表す文字情報をディスプレイに表示させることを特徴とする請求項4に記載の電子錠システム。
【請求項6】
電子錠の解錠制御を行う電子錠制御装置であって、
クロック同期信号を受信し、受信した前記クロック同期信号にクロック信号を同期させる同期処理を行うクロック同期部と、
前記同期処理の終了後に、前記クロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を計測開始信号で位相変調した変調計測開始信号を生成しこれを無線送信する送信部と、
応答信号に対応した位相変調応答信号を受信し、受信した前記位相変調応答信号に位相復調処理を施すことで前記応答信号を取得する受信部と、
前記変調計測開始信号が生成されてから、前記受信部で前記応答信号が取得されるまでに掛かる遅延時間が所定時間以下である場合に前記電子錠を解錠する解錠指令部と、を有することを特徴とする電子錠制御装置。
【請求項7】
電子錠の解錠制御を行う電子錠制御部と、電子鍵と、を含む電子錠システムにおける電子錠の解錠方法であって、
前記電子錠制御部は、
クロック同期信号を受信した場合に前記クロック同期信号に第1のクロック信号を同期させる同期処理を行い、
前記同期処理の終了後に、前記第1のクロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を計測開始信号で位相変調した変調計測開始信号を生成しこれを無線送信し、
応答信号に対応した変調応答信号を受信した場合に前記変調応答信号に位相復調処理を施すことで前記応答信号を取得し、
前記変調計測開始信号が生成されてから、前記応答信号が取得されるまでに掛かる遅延時間が所定時間以下である場合に前記電子錠を解錠し、
前記電子鍵は、
前記クロック同期信号を無線送信し、
第2のクロック信号に同期した信号を前記クロック同期信号として生成し、
前記変調計測開始信号を受信した場合に前記変調計測開始信号に位相復調処理を施すことで前記計測開始信号を取得し、
前記計測開始信号の取得に応じて前記応答信号を生成し、前記第2のクロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を前記応答信号で位相変調することで前記変調応答信号を生成してこれを無線送信することを特徴とする電子錠システムにおける電子錠の解錠方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵が錠前に近接することにより自動的に解錠される電子錠システム、電子錠制御装置及び電子錠システムにおける電子錠の解錠方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、使用者が鍵開けの操作を行うことなく、車両に近接するだけで車両のドア錠を自動的に解錠できるようにしたスマートエントリーシステムを採用した車両が製品化されている。
【0003】
当該スマートエントリーシステムでは、車両に搭載されておりこの車両のドア錠の開閉制御を行う車載機が、電子鍵を起動させる為の起動信号を例えばLF帯を利用して無線送信する。電子鍵は、かかる起動信号を受信すると自身のID(identification)を例えばUHF帯を利用して無線送信する。車載機は、かかるIDを受信すると乱数等からなるトライコードを生成し、これをLF帯を利用して無線送信する。電子鍵は、このトライコードを受信すると、当該トライコードを暗号鍵で暗号化した暗号トライコードをUHF帯を利用して無線送信する。車載機は、かかる暗号トライコードを受信すると、当該暗号トライコードが、上記したように無線送信したトライコードに対応しているか否かを判定する。車載機は、受信した暗号トライコードが、無線送信したトライコードに対応していると判定された場合にだけ、車載機は車両のドア錠を解錠する。
【0004】
ところで、このようなスマートエントリーシステムを採用した車両は、不正者が車載機と電子鍵との間の通信を増幅して中継することにより、車載機を不正に解錠するという、いわゆるリレーアタックと称されるセキュリティ攻撃を受ける虞がある。
【0005】
リレーアタックでは、例えば駐車場等で車両のユーザが当該車両から十分に離れたところで、不正者が準備した高出力の無線中継機により、車載機及び使用者所有の電子鍵間における、解錠の為の上記した無線通信を中継する。これにより、車両のユーザが知らない間に、不正に車両のドア錠が解錠されてしまうのである。
【0006】
そこで、このようなリレーアタックを防ぐ為に、車載機及び電子鍵間の無線通信に費やされた時間を計測し、その時間が適正範囲内にある場合にだけ、車載機が車両のドア錠を解錠するようにしたシステムが提案された(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1に記載のシステムでは、車載機に搭載されているRF送受信部が、RF帯(10~数十メガヘルツ)のRFクロックに同期するチャレンジ信号を送信する。電子鍵としての携帯機は、かかるチャレンジ信号の受信に応答してレスポンス信号を送信する。車載機は、チャレンジ信号を送信した時点から、このレスポンス信号を受信するまでの時間間隔を計測し、その時間間隔が適正範囲内にある場合に、車両に対する操作を許可する。
【0008】
また、車載機及び電子鍵間で3.1GHz~10.25GHzのUWB(Ultra Wide Band)の電波を用いた無線通信を行うことにより、車載機及び電子鍵間の距離を測定し、その距離が閾値以下である場合に、車両のドア錠を解錠するようにしたシステムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-131608号公報
【文献】特開2014-227647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記した特許文献1では、その無線通信にLF帯のような比較的波長が長い電波を用いている。よって、例えば電子鍵側が自身のアンテナでチャレンジ信号を受信し、これを電子鍵内で生成されたクロック信号で取り込んでチャレンジ信号の検出を行う場合、そのチャレンジ信号の検出タイミングにはLF帯の波長に対応した分の誤差が生じる。
【0011】
これにより、電子鍵側がレスポンス信号を送信するタイミングにも、その誤差分に対応した時間差が生じるため、車両の使用者がこの車両に対応した電子鍵を所持して近づいても車両のドアを解錠できないという誤動作を生じさせる虞があった。
【0012】
また、特許文献2のように、車載機及び電子鍵間の距離を測定するために、3GHz帯の高周波の電波を使用する場合には専用の送信器を新たに設ける必要があり、コスト高を招くという問題が生じる。
【0013】
そこで、本発明は、コスト高を抑え且つ誤動作することなくリレーアタックを防止することが可能な電子錠システム、電子錠制御装置、及び電子錠システムにおける電子錠の解錠方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る電子錠システムは、電子錠の解錠制御を行う電子錠制御部と、電子鍵と、を含む電子錠システムであって、前記電子錠制御部は、クロック同期信号を受信し、受信した前記クロック同期信号に第1のクロック信号を同期させる同期処理を行うクロック同期部と、前記同期処理の終了後に、前記第1のクロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を計測開始信号で位相変調した変調計測開始信号を生成しこれを無線送信する第1の送信部と、応答信号に対応した変調応答信号を受信し、受信した前記変調応答信号に位相復調処理を施すことで前記応答信号を取得する第1の受信部と、前記変調計測開始信号が生成されてから、前記第1の受信部で前記応答信号が取得されるまでに掛かる遅延時間が所定時間以下である場合に前記電子錠を解錠する解錠指令部と、を含み、前記電子鍵は、第2のクロック信号に同期した信号を前記クロック同期信号として生成するクロック同期信号生成部と、前記変調計測開始信号を受信し、受信した前記変調計測開始信号に位相復調処理を施すことで前記計測開始信号を取得する第2の受信部と、前記クロック同期信号を無線送信し、前記計測開始信号の取得に応じて応答信号を生成し、前記第2のクロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を前記応答信号で位相変調することで前記変調応答信号を生成してこれを無線送信する第2の送信部と、を含む。
【0015】
本発明に係る電子錠制御装置は、電子錠の解錠制御を行う電子錠制御装置であって、クロック同期信号を受信し、受信した前記クロック同期信号にクロック信号を同期させる同期処理を行うクロック同期部と、前記同期処理の終了後に、前記クロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を計測開始信号で位相変調した変調計測開始信号を生成しこれを無線送信する送信部と、応答信号に対応した位相変調応答信号を受信し、受信した前記位相変調応答信号に位相復調処理を施すことで前記応答信号を取得する受信部と、前記変調計測開始信号が生成されてから、前記受信部で前記応答信号が取得されるまでに掛かる遅延時間が所定時間以下である場合に前記電子錠を解錠する解錠指令部と、を有する。
【0016】
本発明に係る電子錠システムにおける電子錠の解錠方法は、電子錠の解錠制御を行う電子錠制御部と、電子鍵と、を含む電子錠システムにおける電子錠の解錠方法であって、前記電子錠制御部は、クロック同期信号を受信した場合に前記クロック同期信号に第1のクロック信号を同期させる同期処理を行い、前記同期処理の終了後に、前記第1のクロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を計測開始信号で位相変調した変調計測開始信号を生成しこれを無線送信し、応答信号に対応した変調応答信号を受信した場合に前記変調応答信号に位相復調処理を施すことで前記応答信号を取得し、前記変調計測開始信号が生成されてから、前記第1の受信部で前記応答信号が取得されるまでに掛かる遅延時間が所定時間以下である場合に前記電子錠を解錠し、前記電子鍵は、前記クロック同期信号を無線送信し、第2のクロック信号に同期した信号を前記クロック同期信号として生成し、前記変調計測開始信号を受信した場合に前記変調計測開始信号に位相復調処理を施すことで前記計測開始信号を取得し、前記計測開始信号の取得に応じて応答信号を生成し、前記第2のクロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を前記応答信号で位相変調することで前記変調応答信号を生成してこれを無線送信する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、先ず、電子錠の解錠を行う電子錠制御部で用いるクロック信号と、電子鍵で用いるクロック信号とを同期させる。引き続き、電子錠制御部が、計測開始信号を無線送信してから、この計測開始信号の受信に応じて電子鍵が無線送信した応答信号を受信するまでに掛かる遅延時間を計測し、この計測した遅延時間が所定時間以内である場合にだけ電子錠を解除する。つまり、電子鍵と電子錠制御部との間の物理的な距離(遅延時間にに相当)が所定距離内である場合にだけ電子錠を解錠する。
【0018】
この際、リレーアタックを受けると、上記した遅延時間が所定時間よりも長くなる、つまり、電子鍵と電子錠制御部との間の物理的な距離が所定距離よりも離れているので、電子錠の解錠は行われない。
【0019】
よって、リレーアタックによる不正なドアの解錠を防止することが可能となる。
【0020】
更に、本発明では、上記した無線通信を行う際の変調方式として、クロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を計測開始信号(応答信号)で位相変調する位相変調を採用している。
【0021】
よって、電子錠制御部(又は電子鍵)が受信する信号は、クロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を応答信号(又は計測開始信号)で位相変調した位相変調信号である。これにより、電子錠制御部(又は電子鍵)の復調部では、位相変調信号中の位相変化点を、応答信号(又は計測開始信号)の信号レベル(論理レベル0又は1)の遷移点として検知することができる。よって、当該復調部では、応答信号(又は計測開始信号)に対応した位相変調信号をアンテナで受信した時点から、常に所定の一定時間経過後に、応答信号(又は計測開始信号)を取得することが可能となる。
【0022】
つまり、電子錠制御部(又は電子鍵)内では位相変調信号を受信してから応答信号(又は計測開始信号)を取得するまでに掛かる時間が一定となる。これにより、スマートエントリーシステムで一般的に使用されている帯域(例えばUHF)の搬送波信号を用いても、電子錠制御部及び電子鍵間の距離をメートル単位で精度良く計測することが可能となる。
【0023】
従って、本発明によれば、コスト高を抑え且つ誤動作することなくリレーアタックを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る電子錠システム100の構成を示すブロック図である。
図2】電子錠制御部200及び電子鍵300で実施される解錠処理の一例を示す通信フロー図である。
図3】電子錠制御部200の内部構成の一部を表すブロック図である。
図4】計測開始信号DMの一例と、当該計測開始信号DMに基づき位相変調部24で生成された変調計測開始信号PMの一例を示す波形図である。
図5】位相変調部24及び39の内部構成を示す回路図である。
図6】位相復調部28及び32の内部構成を示す回路図である。
図7】位相復調部28の内部動作の一例を表すタイムチャートである。
図8】クロック同期部29の内部構成の一例を示す回路図である。
図9】クロック同期パターン及びクロック同期信号SYCの一例を表す波形図である。
図10】電子鍵300の内部構成の一部を表すブロック図である。
図11】電子錠制御部200及び電子鍵300で実施される解錠処理の他の一例を示す通信フロー図である。
図12】本発明に係る電子錠システム100の他の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明に係る電子錠システム100の構成を示すブロック図である。図1に示すように、電子錠システム100は、電子錠制御部200、電子鍵300、及び電子錠400を有する。
【0027】
電子錠制御部200は、例えば車両に搭載されており、電子鍵300との双方向の無線通信によって解錠の許可が下された場合に、解錠を促す解錠指令信号LKを電子錠400に供給する。電子鍵300は、車両のドア錠を解錠する為の「鍵」として機能する、携帯可能な無線通信端末である。電子錠400は、車両のドア錠であり、解錠指令信号LKに応じて解錠する。
【0028】
図2は、電子錠制御部200及び電子鍵300間で実施される解錠処理の一例を示す通信フロー図である。
【0029】
図2において、電子錠制御部200は、例えば30kHz~300kHzのLF(Low Frequency)帯の電波で、電子鍵300を起動させる起動信号を無線送信する(ステップS11)。ステップS11の実行後、電子錠制御部200は、所定の鍵識別子を表す鍵ID(identification)信号を受信したか否かを判定する(ステップS12)。
【0030】
電子錠制御部200は、ステップS12において鍵ID信号を受信したと判定した場合、乱数発生器で発生した乱数からなるトライコードを、LF帯の電波で無線送信する(ステップS13)。ステップS13の実行後、電子錠制御部200は、ステップS13で無線送信したトライコードに対応した適正な暗号トライコードを受信したか否かを判定する(ステップS14)。
【0031】
尚、電子錠制御部200は、上記ステップS12で鍵ID信号を受信していないと判定した場合、又は上記ステップS14で適正な暗号トライコードを受信していないと判定した場合、上記ステップS11に戻り、再び前述した一連の動作を実行する。
【0032】
この間、電子鍵300は、起動信号を受信したか否かを判定し(ステップS21)、起動信号を受信したと判定した場合に所定の鍵ID信号を、例えば300MHz~3GHzのUHF(Ultra High Frequency)帯の電波で無線送信する(ステップS22)。電子鍵300は、ステップS22の実行後、ステップS21に戻り、再び前述した動作を行う。
【0033】
電子鍵300は、ステップS21において、起動信号を受信していないと判定した場合には、トライコードを受信したか否かを判定する(ステップS23)。かかるステップS23において、トライコードを受信したと判定した場合、電子鍵300は、このトライコードに所定の暗号鍵を用いた暗号化演算を施して得られた暗号トライコードを、UHF帯の電波で無線送信する(ステップS24)。ステップS24の実行後、電子鍵300は、ステップS21に戻り、再び前述した動作を行う。
【0034】
この間、電子錠制御部200は、上記ステップS14で適正な暗号トライコードを受信したと判定した場合、クロック同期要求信号をLF帯の電波で無線送信する(ステップS15)。
【0035】
ここで、電子鍵300は、上記ステップS23において、トライコードを受信していないと判定した場合、クロック同期要求信号を受信したか否かの判定を行う(ステップS25)。かかるステップS25において、クロック同期要求信号を受信していないと判定した場合、電子鍵300は、ステップS21に戻り、再び前述した動作を行う。一方、当該ステップS25において、クロック同期要求信号を受信したと判定した場合、電子鍵300は、自身のクロック信号に位相同期したクロック同期信号を、UHF帯の電波で無線送信する(ステップS26)。ステップS26の実行後、電子鍵300は、計測開始信号を受信したか否かの判定を行う(ステップS27)。かかるステップS27において、計測開始信号を受信していないと判定した場合、電子鍵300は、上記ステップS21に戻り、再び前述した一連の動作を行う。
【0036】
電子錠制御部200は、クロック同期信号を受信すると、当該クロック同期信号の位相に自身のクロック信号を同期させる同期処理を行う(ステップS16)。ステップS16の実行後、電子錠制御部200は、計測開始信号をUHF帯(例えば300MHz)の電波で無線送信する(ステップS17)。更に、電子錠制御部200は、この計測開始信号を無線送信した時点から、時間の計時を開始する。ステップS17の実行後、電子錠制御部200は、計測開始信号を無線送信した時点から所定時間内に、電子鍵300から無線送信された応答信号を受信したか否かを判定する(ステップS18)。かかるステップS18において、所定時間内に応答信号を受信していないと判定された場合、電子錠制御部200は、上記ステップS11に戻り、再び前述した一連の動作を実行する。
【0037】
ここで、電子鍵300が、上記ステップS27において計測開始信号を受信したと判定した場合、これに応答する応答信号をUHF帯(例えば300MHz)の電波で無線送信する(ステップS28)。ステップS28の実行後、電子鍵300は、上記ステップS21に戻り、再び前述した一連の動作を行う。
【0038】
電子錠制御部200は、上記ステップS18において所定時間内に応答信号を受信したと判定した場合、解錠指令信号LKを電子錠400に供給する(ステップS19)。電子錠400は、この解錠指令信号LKに応じて車両のドアを解錠する。一方、かかるステップS18において、所定時間内に応答信号を受信していないと判定した場合、電子錠制御部200は、上記ステップS11に戻り、再び前述した一連の動作を実行する。すなわち、この際、電子錠400は解錠されない。
【0039】
このように、図2に示す解錠処理では、車両に搭載されている電子錠制御部200が、所定の時間間隔で、電子鍵300を起動させる為の起動信号を無線送信する(S11)。ここで、電子鍵300を所持するユーザがこの車両に近づくと、電子鍵200は、電子錠制御部200から無線送信された起動信号を受信し、この電子鍵固有の鍵IDを無線送信する(S21、S22)。電子錠制御部200は、この鍵IDを受信すると、乱数からなるトライコードを無線送信する(S12、S13)。電子鍵300は、かかるトライコードを受信すると、このトライコードに所定の暗号鍵を用いた暗号化演算を施して得られた暗号トライコードを無線送信する(S23、S24)。電子錠制御部200は、受信した暗号トライコードが適切なものであるか否かを判定する(S14)。
【0040】
ここで、適正な暗号トライコードを受信した場合にだけ、電子錠制御部200及び電子鍵300は、ステップS15~S18及びS25~S28によるリレーアタック防止処理の実行に移行する。当該リレーアタック防止処理は、ステップS15、S16、S25及びS26によるクロック同期処理と、ステップS17、S18、S27及びS28による遅延時間計測処理と、を含む。
【0041】
クロック同期処理では、先ず、電子錠制御部200から無線送信されたクロック同期要求(S15)に応じて、電子鍵300は、自身のクロック信号に位相同期したクロック同期信号を電子錠制御部200に送信する。電子錠制御部200は、受信したクロック同期信号に、自身のクロック信号の位相を同期する(S16)。
【0042】
よって、当該クロック同期処理(S15、S16、S25及びS26)によれば、電子鍵300の内部で用いられるクロック信号に、電子錠制御部200の内部で用いられるクロック信号の位相が同期する。
【0043】
そして、このクロック同期処理に続く遅延時間計測処理では、先ず、電子錠制御部200が計測開始信号を無線送信する(S17)。電子鍵300は、受信した計測開始信号に応答する応答信号を無線送信する(S27、S28)。ここで、電子錠制御部200は、計測開始信号を無線送信してから、当該計測開始信号の受信に応じて電子鍵200が無線送信した応答信号を受信するまでに掛かる遅延時間を計測し、所定時間内に当該応答信号を受信したか否かを判定する(S18)。この際、所定時間内に応答信号を受信したと判定した場合にだけ解錠許可を下し、電子錠400を解錠する(S19)。つまり、電子錠制御部200が計測開始信号を無線送信してから、応答信号を受信するまでに掛かる時間が所定時間を超える場合には、電子錠400の解錠は行われない。
【0044】
ここで、上記した所定時間は、電子錠制御部200及び電子鍵300間の距離が例えば5メートルである場合に、電子錠制御部200が計測開始信号を送信してから、電子鍵300からの応答信号を受信するまでに掛かる遅延時間長に設定されている。よって、電子鍵300が電子錠制御部200から5メートル以上離れている場合には、車両ドアは解錠されない。
【0045】
すなわち、不正者は、自身が不正者であることを確認されないように、電子鍵300を所持しているユーザが車両から例えば5メートル以上離れてから、前述したようなリレーアタックを仕掛ける。これにより、電子錠制御部200が計測開始信号を送信してから、電子鍵300からの応答信号を受信するまでに掛かる時間は、必ず上記した所定時間よりも長くなる。
【0046】
よって、リレーアタックにより、仮に電子錠制御部200が適正な暗号トライコードを受信してしまっても、車両のドアは解錠されない。
【0047】
従って、図2に示される解錠処理によれば、リレーアタックによる不正な車両ドアの解錠を防止することが可能となる。
【0048】
尚、上記したような解錠処理を実現するには、電子錠制御部200が計測開始信号を送信してから応答信号を受信するまでに掛かる時間、つまり電子錠制御部200及び電子鍵300間の物理的な距離を、少なくともメートル単位で計測する必要がある。
【0049】
そこで、図1に示される電子錠システム100では、電子錠制御部200及び電子鍵300として以下の構成を採用している。
【0050】
図3は、電子錠制御部200の内部構成の一例を示すブロック図である。尚、図3では、電子錠制御部200として、上記したステップS15~S19及びS25~S28によるリレーアタック防止処理を行う為に必要となる構成を抜粋して示している。
【0051】
図3において、クロック同期要求信号生成部21は、解錠指令生成部41から供給された送信指令X1に応じて、クロック信号CK1に同期している2値(論理レベル0、1)のビット列からなるクロック同期要求信号CRQを生成して出力する。クロック同期要求信号生成部21は、クロック同期要求信号CRQを送信アンプ22に供給する。
【0052】
計測開始信号生成部23は、解錠指令生成部41から供給された送信指令X2に応じて、クロック信号CK1に同期している2値のビット列、例えば図4に示すようなビット列[10111001]からなる計測開始信号DMを生成して出力する。計測開始信号生成部23は、出力した計測開始信号DMを位相変調部24及び遅延計測部40に供給する。
【0053】
位相変調部24は、クロック信号CK1に同期した位相を有するUHF帯の例えば300MHzの搬送波信号を、計測開始信号DMで位相変調する2相位相変調(BPSK:binary phase-shift keying)にて得られた変調計測開始信号PMを送信アンプ22に供給する。
【0054】
図5は、位相変調部24の内部構成の一例を示す回路図である。
【0055】
図5において、インバータ220は、計測開始信号DMの位相を反転した信号をミキサ221に供給する。電圧制御水晶発振器としてのVCXO(Voltage-Controlled Crystal Oscillator)222は、搬送波信号として、クロック信号CK1に位相同期した例えば300MHzの発振信号Vfを発生し、これをミキサ221及び180度位相反転部223に供給する。
【0056】
ミキサ221は、2値のビット列からなる計測開始信号DMの位相を反転した信号に、発振信号Vfを乗算して得られた乗算結果を出力し、これを加算器224に供給する。
【0057】
180度位相反転部223は、発振信号Vfの位相を180度反転した反転発振信号Vfbを生成し、これをミキサ225に供給する。
【0058】
ミキサ225は、上記した計測開始信号DMに反転発振信号Vfbを乗算して得られた乗算結果を出力し、これを加算器224に供給する。
【0059】
加算器224は、ミキサ221の出力と、ミキサ225の出力とを加算した加算結果を表す信号を、変調計測開始信号PMとして出力する。
【0060】
上記した構成により、位相変調部24は、例えば図4に示す発振信号Vf(搬送波信号)を、2値のビット列[10111001]からなる計測開始信号DMで位相変調した、図4に示す波形を有する変調計測開始信号PMを生成する。
【0061】
図3に示す送信アンプ22は、当該変調計測開始信号PM、又は上記したクロック同期要求信号CRQを増幅し、これをアンテナ26を介して無線送信する。
【0062】
受信アンプ27は、アンテナ26を介して受信した信号を増幅した受信信号RFを位相復調部28及びクロック同期部29に供給する。
【0063】
位相復調部28は、受信信号RFに対して、クロック信号CK1に同期した位相を有する搬送波信号を用いた位相復調処理を施すことで、2値のビット列からなる復調データ信号PDを生成する。
【0064】
図6は、位相復調部28の内部構成の一例を示す回路図である。
【0065】
図6において、電圧制御水晶発振器としてのVCXO281は、クロック信号CK1に位相同期した搬送波信号としての例えば300MHzの発振信号Vfを発生し、これをミキサ282及び180度位相反転部283に供給する。
【0066】
ミキサ282は、受信信号RFに発振信号Vfを乗算して得られた乗算結果を出力し、これをビット判定部284に供給する。
【0067】
180度位相反転部283は、発振信号Vfの位相を180度反転した反転発振信号Vfbを生成し、これをミキサ285に供給する。
【0068】
ミキサ285は、受信信号RFに反転発振信号Vfbを乗算して得られた乗算結果を出力し、これをビット判定部284に供給する。
【0069】
ビット判定部284は、ミキサ282及び285各々の出力結果に基づき、例えば発振信号Vfの2周期毎に表されるビットの論理レベルが、論理レベル0であるのか、或いは論理レベル1であるのかを判定する。そして、ビット判定部284は、その判定結果に基づく2値のビット列からなる復調データ信号PDを生成して、図3に示す遅延計測部40に供給する。
【0070】
例えばビット列[111001]からなる応答信号に対応した受信信号RFが位相復調部28に供給された場合、図7に示す発振信号Vf及び反転発振信号Vfbにより、ミキサ282及び285は夫々、図7に示す波形を有する信号を出力する。ここで、ビット判定部284は、ミキサ282から出力された信号のレベルが所定の振幅中心値Th1より低く且つミキサ285から出力された信号のレベルが振幅中心値Th1以上である場合には、論理レベル0と判定する。また、ビット判定部284は、ミキサ282から出力された信号のレベルが所定の振幅中心値Th1以上であり且つミキサ285から出力された信号のレベルが振幅中心値Th1より低い場合には、論理レベル1と判定する。
【0071】
よって、図7に示す波形を有する受信信号RFに応じて、ビット判定部284は、2値のビット列[111001]からなる応答信号を表す復調データ信号PDを生成し、これを遅延計測部40に供給する。
【0072】
図3に示すクロック同期部29は、搬送波信号と同一周波数のクロック信号、例えば300MHzのクロック信号を、クロック信号CK1として生成する。クロック同期部29は、クロック信号CK1をクロック同期要求信号生成部21、位相変調部24、計測開始信号生成部23、位相復調部28及び遅延計測部40に供給する。
【0073】
尚、クロック同期部29は、受信信号RFに含まれるクロック同期信号に応じて、クロック信号CK1の位相を当該クロック同期信号に同期させる同期処理を行う。
【0074】
図8は、クロック同期部29の内部構成の一例を示すブロック図である。
【0075】
図8に示すように、クロック同期部29は、位相比較器291、ループフィルタ292及び電圧制御水晶発振器としてのVCXO293を有する、いわゆるPLL(phase locked loop)回路である。
【0076】
位相比較器291は、受信信号RFに含まれるクロック同期信号とクロック信号CK1との位相差を表す位相誤差信号をループフィルタ292を介してVCXO293に供給する。VCXO293は、当該位相誤差信号に基づいて周波数を変更したクロック信号CK1を出力する。
【0077】
図9は、受信信号RFに含まれるクロック同期信号のフォーマットの一例を表す波形図である。図9に示すように、クロック同期信号は、2値のビット列[1101]からなるヘッダ部と、論理レベル0のビットが16個連続する同期信号部と、同期信号の最後尾を表すビット列[11]からなるエンド部とを含むクロック同期パターンに対応したものである。つまり、クロック同期信号は、上記した搬送波信号を、クロック同期パターン[1101000000000000000011]で位相変調したものである。
【0078】
図3に示す遅延計測部40は、カウント開始部401、カウンタ402、応答判定部403、及びカウント停止部404を含む。
【0079】
カウント開始部401は、計測開始信号生成部23から計測開始信号DMが出力されたときに、カウント動作の開始を指示するカウント開始信号STAをカウンタ402に供給する。
【0080】
応答判定部403は、位相復調部28から供給された復調データ信号PDが応答信号を表すか否かを判定する。すなわち、応答判定部403は、復調データ信号PDが例えば2値のビット列[111001]を含む場合に、応答信号を検出したことを表す応答検出信号RPDをカウンタ停止部404に供給する。
【0081】
カウンタ停止部404は、当該応答検出信号RPDに応じて、カウント動作の停止を指示するカウント停止信号STPをカウンタ402に供給する。
【0082】
カウンタ402は、カウント開始信号STAに応じて、例えば初期値「0」からクロック信号CK1のパルス数のカウントを開始する。また、カウンタ402は、カウント停止信号STPに応じて、クロック信号CK1のパルス数のカウント動作を停止し、その停止時点でのカウント値を、カウント値CNVとして解錠指令生成部41に供給する。尚、当該カウント値CNVは、電子錠制御部200が計測開始信号を無線送信してから、当該計測開始信号の受信に応じて電子鍵300が無線送信した応答信号を受信するまでに掛かる遅延時間、つまり電子錠制御部200及び電子鍵300間の距離に対応している。
【0083】
解錠指令生成部41は、図2に示されるステップS15~S19に示される動作を実行する。例えば、解錠指令生成部41は、図2に示すステップS15において、送信指令X1をクロック同期要求信号生成部21に供給することにより、クロック同期要求信号生成部21に対してクロック同期要求信号CRQの生成を促す。
【0084】
また、解錠指令生成部41は、図2に示すステップS17において、送信指令X2を計測開始信号生成部23に供給することにより、計測開始信号生成部23に対して計測開始信号DMの生成を促す。
【0085】
更に、解錠指令生成部41は、ステップS18において、カウント値CNVが所定閾値未満であるか否かを判定する。ここで、当該カウント値CNVが所定閾値未満であると判定された場合に、解錠指令生成部41は、ステップS19において、電子錠400を解錠させる解錠指令信号LKを電子錠400に供給する。
【0086】
図10は、電子鍵300の内部構成の一例を示すブロック図である。尚、図10では、電子鍵300の内部構成として、上記したステップS15~S18及びS25~S28によるリレーアタック防止処理を行う為に必要となる構成を抜粋して示している。
【0087】
図10において、受信アンプ31は、アンテナ30を介して受信した信号を増幅し、増幅された信号を受信信号RFQとして位相復調部32に供給する。
【0088】
位相復調部32は、受信信号RFQに対して、クロック信号CK2に同期した位相を有する搬送波信号を用いた位相復調処理を施すことにより、2値のビット列からなる復調データ信号PDQを生成し、これを計測開始判定部33に供給する。尚、位相復調部32の内部構成は、図6に示す位相復調部28の内部構成と同一である。
【0089】
計測開始判定部33は、復調データ信号PDQが計測開始信号を表すか否かを判定する。すなわち、計測開始判定部33は、復調データ信号PDQが例えば2値のビット列[10111001]を含む場合に、計測開始信号を検出したことを表す遅延計測検出信号DTMをカウンタ34及び制御部35に供給する。
【0090】
カウンタ34は、遅延計測検出信号DTMが供給された時点からクロック信号CK1のパルス数をカウントし、そのカウント値をカウント値Tmとして制御部35に供給する。
【0091】
制御部35は、図2に示されるステップS21~S28に示される動作を実行する。例えば、制御部35は、図2に示すステップS26において、送信指令Y1をクロック同期信号生成部36に供給することにより、クロック同期信号生成部36に対してクロック同期信号の生成を促す。
【0092】
尚、制御部35に含まれる応答開始制御部は、現時点でトライコードの暗号化演算が終了している場合には、遅延計測検出信号DTMに応じて、図2に示すステップS28のタイミングで送信指令Y1をクロック同期信号生成部36に供給する。一方、現時点でトライコードの暗号化演算が終了していない場合には、応答開始制御部は、カウンタ34から供給されたカウント値Tmが、トライコードの暗号化演算に費やされる時間に対応したカウント値と等しくなったときに、送信指令Y2を応答信号生成部37に供給する。
【0093】
クロック同期信号生成部36は、送信指令Y1に応じて、上記した搬送波信号を例えば図9に示すような、2値のビット列[1101000000000000000011]からなるクロック同期パターンで位相変調したクロック同期信号SYCを生成する。クロック同期信号生成部36は、クロック同期信号SYCを送信アンプ38に供給する。
【0094】
応答信号生成部37は、上記した送信指令Y2に応じて、クロック信号CK2に同期した、例えば2値のビット列[111001]からなる応答信号RSPを生成し、これを位相変調部39に供給する。
【0095】
位相変調部39は、クロック信号CK2に同期した位相を有する、例えば300MHzの搬送波信号を、2値のビット列[111001]からなる応答信号RSPで位相変調した変調応答信号PMQを生成し、これを送信アンプ38に供給する。尚、位相変調部39の内部構成は、図5に示す位相変調24の内部構成と同一である。
【0096】
クロック生成部50は、当該搬送波信号と同一周波数を有するクロック信号を生成し、これを上記したクロック信号CK2として、位相復調部32、クロック同期信号生成部36、応答信号生成部37、及び位相変調部39に供給する。
【0097】
送信アンプ38は、上記した変調応答信号PMQ、又はクロック同期信号SYCを増幅し、これをアンテナ30を介して無線送信する。
【0098】
このように、電子錠制御部200及び電子鍵300では、電子錠制御部200が計測開始信号を無線送信してから、電子鍵300からの応答信号を受信するまでに掛かる遅延時間を、カウンタ402がクロック信号CK1のパルス数をカウントすることで計測している。
【0099】
この遅延時間は、主に以下の(1)~(8)の合計時間となる。
【0100】
(1)電子錠制御部200の位相変調部24での処理時間
(2)電子錠制御部200及び電子鍵300間の空間を電波が伝わる時間
(3)電子鍵300の位相復調部32の処理時間
(4)電子鍵300内で応答信号RSPを生成するのに掛かる時間
(5)電子鍵300の位相変調部39の処理時間
(6)電子鍵300及び電子錠制御部200間の空間を電波が伝わる時間
(7)電子錠制御部200の位相復調部28の処理時間
(8)電子錠制御部200の応答判定部403の処理時間
尚、クロック同期処理(S15、S16、S25及びS26)により、電子錠制御部200のクロック信号CK1と電子鍵300のクロック信号CK2の位相が同期している。これにより、上記(1)~(8)のうちで、(1)、(3)~(5)、(7)及び(8)での各処理時間は固定値となる。
【0101】
よって、カウンタ402がクロック信号のパルス数をカウントして得たカウント値CNVは、上記した(2)及び(6)、すなわち電子錠制御部200及び電子鍵300の間を電波が1往復する時間、つまり電子錠制御部200及び電子鍵300間の物理的な距離によって変化する。
【0102】
この際、電波の速度が3×108[m/s]であることから、UHF帯の例えば300MHzの搬送波信号と同一周波数のクロック信号を用いると、このクロック信号の1周期は1メートルとなる。これにより、カウント値CNNの「10」カウント分が10メートル、すなわち、電子錠制御部200及び電子鍵300間の物理的な距離として5メートルを表すことになる。よって、カウント値CNVが、上記した(1)、(3)~(5)、(7)及び(8)の処理時間を合計した所定の固定時間に対応したカウント値に、「10」を加えた値よりも大きい場合に、両者(200、300)間の距離が5メートルを超えていると判断できる。
【0103】
ところで、電子錠システム100では、上記した遅延時間(電子錠制御部200及び電子鍵300間の距離)を計測する為に、電子錠制御部200及び電子鍵300間で行う無線通信の変調方式として位相変調を採用している。
【0104】
つまり、電子錠システム100では、クロック信号に同期した位相を有する搬送波信号(Vf)を用いて、先ず、電子錠制御部200の位相変調部24が、この搬送波信号を計測開始信号DMで位相変調した変調計測開始信号PMを電子鍵300に無線送信する。
【0105】
すると、電子鍵300の位相復調部32は、受信した変調計測開始信号に位相復調処理を施すことにより復調データ信号PDQを得る。そして、電子鍵300の計測開始判定部33が、この復調データ信号PDQが計測開始信号を表すか否かを判定する。この際、電子鍵300が受信した変調計測開始信号は、クロック信号に位相同期した搬送波信号を計測開始信号で位相変調した、いわゆる2相位相変調が施されたものである。よって、位相復調部32は、位相変調信号中の位相変化点を計測開始信号の信号レベル(論理レベル0又は1)の遷移点として検知することができる。これにより、電子鍵300では、計測開始信号に対応した位相変調信号を受信した時点から、所定の一定時間を経ることによって、計測開始信号を取得することが可能となる。
【0106】
ここで、電子鍵300の計測開始判定部33において復調データ信号PDQが計測開始信号を表すと判定されると、電子鍵300の位相変調部39が、搬送波信号を応答信号RSPで位相変調した変調応答信号PMQを電子錠制御部200に無線送信する。
【0107】
すると、電子錠制御部200の位相復調部28は、受信した変調応答信号に位相復調処理を施すことにより復調データ信号PDを得る。そして、電子錠制御部200の応答判定部403が、この復調データ信号PDが応答信号を表すか否かを判定する。この際、電子錠制御部200が受信した変調応答信号は、クロック信号に位相同期した搬送波信号を応答信号で位相変調した、いわゆる2相位相変調を施したものである。よって、位相復調部28は、位相変調信号中の位相変化点を応答信号の信号レベル(論理レベル0又は1)の遷移点として検知することができる。これにより、電子錠制御部200では、応答信号に対応した位相変調信号を受信した時点から、所定の一定時間を経ることにより、応答信号を取得することが可能となる。
【0108】
従って、電子錠システム100によれば、ノイズや妨害波等の影響下においても、アンテナ(26、30)で変調信号を受信した時点から所定の一定期間の経過時点で、復調された信号(計測開始信号、応答信号)を取得することが可能となる。
【0109】
尚、変調方式として振幅変調を採用した場合には、その復調処理の前段階で包絡線検波を行うので、ノイズや妨害波の影響を受けてその振幅が変動する。例えば、振幅が小さくなると、その分だけ復調が困難となり、その復調処理に費やされる時間が長くなる。これにより、アンテナで変調信号を受信した時点から、復調された信号を取得するまでの時間が大幅に変動することになる。よって、使用する搬送波の帯域がLF帯又はUHF帯のように比較的低い場合には、電子錠制御部及び電子鍵間の距離をメートル単位で計測することは困難となる。
【0110】
それに対して、電子錠システム100では、スマートエントリーシステムにおいて一般的に使用されているUHF帯の例えば300MHzの搬送波信号を用いることにより、電子錠制御部200及び電子鍵300間の距離をメートル単位で計測することが可能となる。
【0111】
よって、本発明によれば、コスト高を抑え、且つ誤動作することなくリレーアタックを防止することが可能となる。
【0112】
図11は、電子錠制御部200及び電子鍵300間で実施される解錠処理の他の一例を示す通信フロー図である。
【0113】
図11において、電子錠制御部200は、LF帯の電波で、電子鍵300を起動させる起動信号を無線送信する(ステップS101)。ステップS101の実行後、電子錠制御部200は、所定の鍵ID信号を受信したか否かを判定し(ステップS102)、受信していないと判定した場合、ステップS101に戻り、再び前述した動作を行う。
【0114】
この間、電子鍵300は、起動信号を受信したか否かを判定し(ステップS201)、起動信号を受信したと判定した場合に所定の鍵ID信号、及びクロック同期信号を、UHF帯の電波で無線送信する(ステップS202)。電子鍵300は、ステップS202の実行後、ステップS201に戻り、再び前述した動作を行う。ステップS201において起動信号を受信していないと判定された場合、電子鍵300は、計測開始信号を受信したか否かの判定を行う(ステップS203)。
【0115】
電子錠制御部200は、ステップS102において鍵ID信号を受信したと判定した場合、この鍵ID信号に続いて受信したクロック同期信号の位相に、自身のクロック信号を同期させる同期処理を行う(ステップS103)。ステップS103の実行後、電子錠制御部200は、計測開始信号及び前述したトライコードを順に連続してUHF帯の電波で無線送信する(ステップS104)。ステップS104の実行後、電子錠制御部200は、ステップS104で無線送信したトライコードに対応した適正な暗号トライコードを受信したか否かを判定する(ステップS105)。
【0116】
電子鍵300は、ステップS203において計測開始信号を受信したと判定した場合、この計測開始信号に続いて受信したトライコードに対して、所定の暗号鍵を用いた暗号化演算を施して暗号トライコードを得る(ステップS204)。次に、電子鍵300は、かかる暗号トライコードをUHF帯の電波で無線送信し(ステップS205)、引き続き、応答信号をUHF帯の電波で無線送信する(ステップS206)。ステップS206の実行後、電子鍵300は、上記ステップS201に戻り、再び前述した一連の動作を行う。
【0117】
ここで、上記ステップS105において、適正な暗号トライコードを受信していないと判定された場合、電子錠制御部200は、上記ステップS101に戻り、再び前述した一連の動作を実行する。
【0118】
一方、ステップS105において、適正な暗号トライコードを受信したと判定した場合、電子錠制御部200は、計測開始信号を無線送信した時点から所定時間内に、電子鍵300から無線送信された応答信号を受信したか否かを判定する(ステップS106)。
【0119】
かかるステップS106において、応答信号を受信していない、或いは所定時間を超えてから応答信号を受信したと判定された場合、電子錠制御部200は、上記ステップS101に戻り、再び前述した一連の動作を実行する。尚、当該ステップS106において、所定時間内で応答信号を受信したと判定した場合には、解錠指令信号LKを電子錠400に供給する(ステップS107)。電子錠400は、この解錠指令信号LKに応じて車両のドアを解錠する。
【0120】
このように、図11に示す解錠処理では、鍵IDを確認(ステップS102、S202)し、引き続きクロック同期処理(S202、S103)を実行した後で、電子錠制御部200が、計測開始信号及びトライコードの順に両信号を連続して無線送信する(S104)。これら計測開始信号及びトライコードを受信すると、電子鍵300は、受信したトライコードを所定の暗号鍵を用いて暗号化した暗号トライコードを無線送信(S204、S205)し、直ちに応答信号を無線送信する(S206)。この間、電子錠制御部200は、受信した暗号トライコードが適正なものであるか否かを判定し(S105)、適正な暗号トライコードを受信した場合に、引き続き、計測開始信号を発信してから所定時間内に応答信号を受信したか否かの判定を行う(S106)。ここで、電子錠制御部200は、所定時間内に応答信号を受信したと判定した場合にだけ解錠許可を下し、電子錠400を解錠する(S107)。
【0121】
よって、図11に示す解錠処理によれば、リレーアタックによって適正な暗号トライコードを取得した後で、不正者が遅延時間(距離)計測用の疑似電子鍵を用いて電子錠制御部200との近接距離での通信によってドアの解錠を図る攻撃を阻止することができる。つまり、リレーアタックによって適正な暗号トライコードを取得するには時間が掛かるため、その時間分だけ、電子錠制御部200が応答信号を受信するタイミングが遅れる。よって、電子錠制御部200では、所定時間内に応答信号を受信することができないので、解錠は為されず、その結果、不正なドア解錠が阻止されるのである。
【0122】
尚、電子錠制御部200又は電子鍵300において、所定期間を超えて継続する無線アクセス、或いは規定回数を超える無線アクセス等の不正な無線アクセスを受けた場合には、強制的に自身の動作を停止させて、安全の確保及び節電を図るようにしても良い。
【0123】
例えば、電子鍵300は、所定期間内において規定回数以上に亘り連続して変調計測開始信号を受信した場合には、不正な無線アクセスによるリレーアタックを受けていると判定し、自身の動作を停止することにより電力消費量を抑える。尚、動作停止状態にある電子錠制御部200は、例えば電子鍵300に設けられている解除スイッチの操作によって当該電子鍵300から無線送信された鍵IDを受信した場合に再起動する。
【0124】
また、上記したような不正な無線アクセスを受けた場合には、不正な無線アクセスを受けたことを車両に搭載されているディスプレイに表示させるようにしても良い。
【0125】
図12は、かかる点に鑑みて為された電子錠システム100の他の構成を示すブロック図である。図12に示される電子錠システム100では、ディスプレイ500を設けた点を除く他の構成は、図1に示されるものと同一である。
【0126】
図12において、電子錠制御部200は、上記したような不正な無線アクセスを受けた場合には、不正な無線アクセスを受けたことを文字及び音声で表すための画像信号及び音声信号をディスプレイ500に供給する。
【0127】
また、上記実施例では、図1に示される電子錠システム100を車両のスマートエントリーシステムに適用してその動作を説明したが、電子錠システム100を家屋のドア等に適用しても良い。
【0128】
また、上記実施例では、搬送波信号とクロック信号CK1及びCK2の周波数を同一としているが、クロック信号CK1及びCK2の周波数を、搬送波信号の1/n(nは1以上の整数)としても良い。
【0129】
また、図2又は図11に示される解錠処理中には、鍵ID及び暗号トライコードの認証を行うための処理(S11~S14、S21~S24、S101~S104、S201、S202、S204及びS205)が含まれるが、当該処理を省略しても良い。
【0130】
要するに、電子錠システムとしては、以下の動作を行う電子錠制御部及び電子鍵を含むものであれば良いのである。
【0131】
すなわち、電子錠制御部(200)は、以下のクロック同期部、第1の送信部、第1の受信部及び解錠司令部と、を含む。 クロック同期部(27、29)は、クロック同期信号を受信し、受信したクロック同期信号に第1のクロック信号(CK1)を同期させる同期処理を行う。第1の送信部(22~24、26)は、この同期処理の終了後に、第1のクロック信号に同期した位相を有する搬送波信号を計測開始信号(DM)で位相変調した変調計測開始信号(PM)を生成しこれを無線送信する。第1の受信部(26~28、403)は、応答信号に対応した変調応答信号を受信し、受信した変調応答信号に位相復調処理を施すことで応答信号を取得する。そして、解錠指令部(41)は、変調計測開始信号(DM)が生成されてから、第1の受信部で応答信号が取得されるまでに掛かる遅延時間が所定時間以下である場合に電子錠(400)を解錠する。
【0132】
電子鍵(300)は、以下のクロック同期信号生成部、第2の受信部、及び第2の送信部を含む。クロック同期信号生成部(36)は、第2のクロック信号(CK2)に同期した位相を有する信号をクロック同期信号(SYC)として生成する。第2の受信部(30~33)は、変調計測開始信号を受信し、受信した変調計測開始信号に位相復調処理を施すことで計測開始信号を取得する。第2の送信部(30、37~39)は、クロック同期信号を無線送信すると共に、計測開始信号の取得に応じて応答信号を生成し、第2のクロック信号に同期した位相を有する搬送波信号をこの応答信号で位相変調することで変調応答信号(PMQ)を生成してこれを無線送信する。
【符号の説明】
【0133】
21 クロック同期要求信号生成部
23 計測開始信号生成部
24、39 位相変調部
28、32 位相復調部
29 クロック同期部
36 クロック同期信号生成部
37 応答信号生成部
40 遅延計測部
41 解錠指令生成部
100 電子錠システム
200 電子錠制御部
300 電子鍵
400 電子錠
図1
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図12