(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】フィブリン組成物、再生医療用基材、フィブリン組成物の製造方法およびキット
(51)【国際特許分類】
A61L 27/24 20060101AFI20220308BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20220308BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20220308BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220308BHJP
【FI】
A61L27/24
A61L27/36 100
A61L27/54
C12N15/12 ZNA
(21)【出願番号】P 2019569107
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2019002869
(87)【国際公開番号】W WO2019151205
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2018013283
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】平塚 崇浩
(72)【発明者】
【氏名】我妻 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 知之
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-123576(JP,A)
【文献】国際公開第2011/048803(WO,A1)
【文献】特表2010-519251(JP,A)
【文献】国際公開第2011/108537(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/108517(WO,A1)
【文献】特開2005-160669(JP,A)
【文献】特表2004-505747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/22
C07K 14/00
C12N 15/00
C12P 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと血液とを混合する工程:および
得られた混合物を遠心する工程;
を含む、フィブリン組成物の製造方法
であって、
前記ブロックは、タンパク質の多孔質体を粉砕することにより得られる、前記の製造方法。
【請求項2】
前記ブロックが、顆粒の形態にある、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
顆粒が、1000μmのふるいを通過し100μmのふるいに残留する大きさの顆粒である、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
顆粒が、710μmのふるいを通過し500μmのふるいに残留する大きさの顆粒である、請求項
2に記載の方法。
【請求項5】
顆粒の気孔率が70~95%である、請求項
2から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質が、リコンビナントペプチドである、請求項
1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記リコンビナントペプチドが、下記式で示される、請求項
6に記載の方法。
式:A-[(Gly-X-Y)
n]
m-B
式中、Aは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、Bは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、n個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、n個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、nは3~100の整数を示し、mは2~10の整数を示す。なお、n個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【請求項8】
前記リコンビナントペプチドが、
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド;
配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;または
配列番号1に記載のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;
の何れかである、請求項
6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記ブロックにおいて、前記タンパク質が熱、紫外線または酵素により架橋されている、請求項
1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
血液が全血である、請求項
1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
ブロックと血液との質量比が、1:500~1:100である、請求項
1から10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項
1から11の何れか一項に記載のフィブリン組成物の製造方法において使用するためのキットであって、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロック
であって、タンパク質の多孔質体を粉砕することにより得られるブロックと、プラスチックチューブとを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトコラーゲン由来のアミノ酸配列を含むタンパク質を含むブロックと、フィブリンと、血小板とを含む、フィブリン組成物に関する。本発明はさらに、上記フィブリン組成物を含む再生医療用基材、フィブリン組成物の製造方法、およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
歯槽骨再建および歯周再生治療などの再生医療においては、血小板濃縮材料が使用されている。血小板濃縮材料としては、抗凝固剤を含んだ血液から調製するPRP(platelet-rich plasma:多血小板血漿)と、抗凝固剤を含まない血液から調製するPRF(platelet-rich fibrin:多血小板フィブリン)とがある。自己血液から分離調製したPRFは、2000年代前半に開発され、その後、急速に普及している。PRFの治療効果は、PRPと同様に、血小板由来の豊富な増殖因子とフィブリンによるものと考えられている。PRPの調製においては、抗凝固剤による採血とその後の遠心およびピペッティングなどの煩雑な操作を必要とするが、PRFは遠心することのみで調製できるという点で有利である。
【0003】
特許文献1には、再生治療用低分解性フィブリンゲル膜の製造方法およびその製造装置が記載されている。特許文献2には、フィブリンゲルを傷つけずに均一に薄く圧延できるフィブリンゲル圧延装置が記載されている。特許文献3には、血小板および/または成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤が記載されている。また、特許文献4には、多血小板フィブリンを生成するためのチューブとして、遠心分離中の血液接触表面が純チタンまたはチタン合金で構成されているチューブが記載されている。
【0004】
PRFの調製においては、従来はガラス製採血管が一般的に使用されていた。これは、第XII凝固因子がガラス表面との接触によって最初に活性化され、続いて内因性凝固系が次々と活性化され最終的にトロンビンによりフィブリノーゲンがフィブリンに転換されることによってフィブリンクロットが形成されるためである。しかし、ガラス採血管の製造は、近年のエコロジー化の影響により中止されつつある。このような状況下において、血液凝固活性試験用のシリカを含むフィルムを含むプラスチック採血管を使用してPRFを調製する場合があるが、上記プラスチック採血管は、採取した血液成分を再び投与することを前提として製造されたものではないために生体安全性が保証されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-167606号公報
【文献】国際公開WO2012/102094号公報
【文献】特表2016-528225号公報
【文献】特表2014-531467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、凝固因子の活性化を引き金とするPRF(多血小板フィブリン)の製造方法に替わる方法により製造されるフィブリン組成物、およびそれを用いた再生医療用基材を提供することである。本発明の別の課題は、凝固因子の活性化を引き金とするPRFの製造方法に替わる、フィブリン組成物の製造方法、並びに上記方法において使用するためのキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として、凝固因子の活性化を引き金とするフィブリン組成物の製造方法に替わる方法として、ヒトコラーゲン様の人工タンパクを使用する方法を試みた。即ち、血液凝固を促進しないプラスチック製採血管に、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックを加えた採血管を用いて、フィブリン組成物を製造した。その結果、本発明者らは、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと、フィブリンと、血小板とを含む、フィブリン組成物が、生体内で骨再生を顕著に促進することを実証した。本発明は、上記の知見に基づいて完成したものである。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと、フィブリンと、血小板とを含む、フィブリン組成物。
(2) 上記ブロックが、顆粒の形態にある、(1)に記載のフィブリン組成物。
(3) 上記ブロックが、タンパク質の多孔質体を粉砕することにより得られるブロックをふるい分けして得られる顆粒の形態にある、(1)または(2)に記載のフィブリン組成物。
(4) 顆粒が、1000μmのふるいを通過し100μmのふるいに残留する大きさの顆粒である、(2)または(3)に記載のフィブリン組成物。
(5) 顆粒が、710μmのふるいを通過し500μmのふるいに残留する大きさの顆粒である、(2)または(3)に記載のフィブリン組成物。
(6) 顆粒の気孔率が70~95%である、(2)から(5)の何れか一に記載のフィブリン組成物。
(7) 上記タンパク質が、リコンビナントペプチドである、(1)から(6)の何れか一に記載のフィブリン組成物。
(8) 上記リコンビナントペプチドが、下記式で示される、(7)に記載のフィブリン組成物。
式:A-[(Gly-X-Y)n]m-B
式中、Aは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、Bは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、n個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、n個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、nは3~100の整数を示し、mは2~10の整数を示す。なお、n個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
(9) 上記リコンビナントペプチドが、
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド;
配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;または
配列番号1に記載のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;
の何れかである、(7)または(8)に記載のフィブリン組成物。
(10) 上記ブロックにおいて、上記タンパク質が熱、紫外線または酵素により架橋されている、(1)から(9)の何れか一に記載のフィブリン組成物。
(11) (1)から(10)の何れか一に記載のフィブリン組成物を含む、再生医療用基材。
【0009】
(12) ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと血液とを混合する工程:および
得られた混合物を遠心する工程;
を含む、フィブリン組成物の製造方法。
(13) 上記ブロックが、顆粒の形態にある、(12)に記載の方法。
(14) 上記ブロックが、タンパク質の多孔質体を粉砕することにより得られる顆粒の形態にある、(12)または(13)に記載の方法。
(15) 顆粒が、1000μmのふるいを通過し100μmのふるいに残留する大きさの顆粒である、(13)または(14)に記載の方法。
(16) 顆粒が、710μmのふるいを通過し500μmのふるいに残留する大きさの顆粒である、(13)または(14)に記載の方法。
(17) 顆粒の気孔率が70~95%である、(13)から(16)の何れか一に記載の方法。
(18) 上記タンパク質が、リコンビナントペプチドである、(12)から(17)の何れか一に記載の方法。
(19) 上記リコンビナントペプチドが、下記式で示される、(18)に記載の方法。
式:A-[(Gly-X-Y)n]m-B
式中、Aは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、Bは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、n個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、n個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、nは3~100の整数を示し、mは2~10の整数を示す。なお、n個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
(20) 上記リコンビナントペプチドが、
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド;
配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;または
配列番号1に記載のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;
の何れかである、(18)または(19)に記載の方法。
(21) 上記ブロックにおいて、上記タンパク質が熱、紫外線または酵素により架橋されている、(12)から(20)の何れか一に記載の方法。
(22) 血液が全血である、(12)から(21)の何れか一に記載の方法。
(23) ブロックと血液との質量比が、1:500~1:100である、(12)から(22)の何れか一に記載の方法。
(24) (12)から(23)の何れか一に記載のフィブリン組成物の製造方法において使用するためのキットであって、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと、プラスチックチューブとを含むキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、凝固因子の活性化を引き金とするPRFの製造方法に替わる方法により製造されるフィブリン組成物、およびそれを用いた再生医療用基材が提供される。さらに本発明によれば、凝固因子の活性化を引き金とするPRFの製造方法に替わる、フィブリン組成物の製造方法、並びに上記方法において使用するためのキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、フィブリン組成物の肉眼的状態を示す。
【
図2】
図2は、フィブリン組成物の走査型電子顕微鏡の画像を示す。
【
図3】
図3は、フィブリン組成物の走査型電子顕微鏡の画像を示す。
【
図4】
図4は、頭蓋骨欠損モデルマウスにおける骨再生効果の比較の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、詳細に説明する。
[フィブリン組成物]
本発明のフィブリン組成物は、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと、フィブリンと、血小板とを含む、フィブリン組成物である。
【0013】
本発明のフィブリン組成物は、プラスチックチューブに、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと、血液とを添加することにより製造することができる。本発明のフィブリン組成物は、ガラス製採血管を使用することなく製造できるという点において、コスト的な観点および国際的なエコロジー政策の観点から利点が大きい。
【0014】
本発明のフィブリン組成物は、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと、多血小板フィブリン(PRF)との相乗的な作用による骨再生効果を期待できる。
【0015】
本発明のフィブリン組成物は、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと、フィブリンと、血小板との複合体を一塊として移植することができることから、時間の節約を達成でき、手術者のスキルの違いによる効果のばらつきを低減することができる。
【0016】
<ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質>
ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質においては、Arg-Gly-Asp配列で示される細胞接着シグナルが1分子中に2配列以上含まれている。
【0017】
ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質は、好ましくはリコンビナントペプチドである。
【0018】
ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質としては、コラーゲンの部分アミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を有するリコンビナントゼラチンを用いることができる。例えばEP1014176、米国特許6992172号、国際公開WO2004/85473、国際公開WO2008/103041等に記載のものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。本発明で用いるリコンビナントゼラチンとして好ましいものは、以下の態様のリコンビナントゼラチンである。
【0019】
リコンビナントゼラチンは、天然のゼラチン本来の性能から、生体親和性に優れ、且つ天然由来ではないことで牛海綿状脳症(BSE)などの懸念がなく、非感染性に優れている。また、リコンビナントゼラチンは天然ゼラチンと比べて均一であり、配列が決定されているので、強度および分解性においても架橋等によってブレを少なく精密に設計することが可能である。
【0020】
リコンビナントゼラチンの分子量は、特に限定されないが、好ましくは2000以上100000以下(2kDa(キロダルトン)以上100kDa以下)であり、より好ましくは2500以上95000以下(2.5kDa以上95kDa以下)であり、さらに好ましくは5000以上90000以下(5kDa以上90kDa以下)であり、最も好ましくは10000以上90000以下(10kDa以上90kDa以下)である。
【0021】
リコンビナントゼラチンは、コラーゲンに特徴的なGly-X-Yで示される配列の繰り返しを有することが好ましい。ここで、複数個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Gly-X-Y において、Glyはグリシンを表し、XおよびYは、任意のアミノ酸(好ましくは、グリシン以外の任意のアミノ酸)を表す。コラーゲンに特徴的なGly-X-Yで示される配列とは、ゼラチン・コラーゲンのアミノ酸組成および配列における、他のタンパク質と比較して非常に特異的な部分構造である。この部分においてはグリシンが全体の約3分の1を占め、アミノ酸配列では3個に1個の繰り返しとなっている。グリシンは最も簡単なアミノ酸であり、分子鎖の配置への束縛も少なく、ゲル化に際してのヘリックス構造の再生に大きく寄与している。XおよびYで表されるアミノ酸にはイミノ酸(プロリンまたはオキシプロリン)が多く含まれ、全体の10%~45%を占めることが好ましい。好ましくは、リコンビナントゼラチンの配列の80%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上のアミノ酸が、Gly-X-Yの繰り返し構造である。
【0022】
一般的なゼラチンは、極性アミノ酸のうち電荷を持つものと無電荷のものが1:1で存在する。ここで、極性アミノ酸とは具体的にシステイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシンおよびアルギニンを指し、このうち極性無電荷アミノ酸とはシステイン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンおよびチロシンを指す。本発明で用いるリコンビナントゼラチンにおいては、構成する全アミノ酸のうち、極性アミノ酸の割合が10~40%であり、好ましくは20~30%である。且つ上記極性アミノ酸中の無電荷アミノ酸の割合が5%以上20%未満、好ましくは5%以上10%未満であることが好ましい。さらに、セリン、スレオニン、アスパラギン、チロシンおよびシステインのうちいずれか1アミノ酸、好ましくは2以上のアミノ酸を配列上に含まないことが好ましい。
【0023】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンにおけるRGD配列の配置としては、RGD間のアミノ酸数が0~100の間で均一でないことが好ましく、RGD間のアミノ酸数が25~60の間で均一でないことがより好ましい。
この最小アミノ酸配列の含有量は、細胞接着・増殖性の観点から、タンパク質1分子中に好ましくは3~50個であり、さらに好ましくは4~30個であり、特に好ましくは5~20個であり、最も好ましくは12個である。
【0024】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンにおいて、アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合は少なくとも0.4%であることが好ましい。リコンビナントゼラチンが350以上のアミノ酸を含む場合、350のアミノ酸の各ストレッチが少なくとも1つのRGDモチーフを含むことが好ましい。アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合は、より好ましくは少なくとも0.6%であり、更に好ましくは少なくとも0.8%であり、更に一層好ましくは少なくとも1.0%であり、特に好ましくは少なくとも1.2%であり、最も好ましくは少なくとも1.5%である。リコンビナントペプチド内のRGDモチーフの数は、250のアミノ酸あたり、好ましくは少なくとも4、より好ましくは少なくとも6、更に好ましくは少なくとも8、特に好ましくは12以上16以下である。RGDモチーフの0.4%という割合は、250のアミノ酸あたり、少なくとも1つのRGD配列に対応する。RGDモチーフの数は整数であるので、0.4%の特徴を満たすには、251のアミノ酸からなるゼラチンは、少なくとも2つのRGD配列を含まなければならない。好ましくは、本発明のリコンビナントゼラチンは、250のアミノ酸あたり、少なくとも2つのRGD配列を含み、より好ましくは250のアミノ酸あたり、少なくとも3つのRGD配列を含み、さらに好ましくは250のアミノ酸あたり、少なくとも4つのRGD配列を含む。本発明のリコンビナントゼラチンのさらなる態様としては、好ましくは少なくとも4つのRGDモチーフを含み、より好ましくは少なくとも6つのRGDモチーフを含み、さらに好ましくは少なくとも8つのRGDモチーフを含み、特に好ましくは12以上16以下のRGDモチーフを含む。
【0025】
リコンビナントゼラチンは部分的に加水分解されていてもよい。
【0026】
好ましくは、本発明で用いるリコンビナントゼラチンは、式1:A-[(Gly-X-Y)n]m-Bで示されるものである。n個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、n個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示す。mは好ましくは2~10の整数を示し、より好ましくは3~5の整数を示す。nは3~100の整数が好ましく、15~70の整数がさらに好ましく、50~65の整数が最も好ましい。Aは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、Bは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示す。なお、n個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0027】
より好ましくは、本発明で用いるリコンビナントゼラチンは、Gly-Ala-Pro-[(Gly-X-Y)63]3-Gly(式中、63個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、63個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示す。なお、63個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)で示されるものである。
【0028】
繰り返し単位には天然に存在するコラーゲンの配列単位を複数結合することが好ましい。ここで言う天然に存在するコラーゲンとは天然に存在するものであればいずれでも構わないが、好ましくはI型、II型、III型、IV型、またはV型コラーゲンである。より好ましくは、I型、II型、またはIII型コラーゲンである。別の形態によると、上記コラーゲンの由来は好ましくは、ヒト、ウシ、ブタ、マウスまたはラットであり、より好ましくはヒトである。
【0029】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンの等電点は、好ましくは5~10であり、より好ましくは6~10であり、さらに好ましくは7~9.5である。リコンビナントゼラチンの等電点の測定は、公知の等電点を測定できる方法であれば限定されないが、例えば、等電点電気泳動法(Maxey,C.R.(1976;Phitogr.Gelatin 2,Editor Cox,P.J.Academic,London,Engl.参照)によって、1質量%ゼラチン溶液をカチオンおよびアニオン交換樹脂の混晶カラムに通したあとのpHを測定することで実施することができる。
【0030】
好ましくは、リコンビナントゼラチンは脱アミン化されていない。
好ましくは、リコンビナントゼラチンはテロペプタイドを有さない。
好ましくは、リコンビナントゼラチンは、アミノ酸配列をコードする核酸により調製された実質的に純粋なポリペプチドである。
【0031】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンとして特に好ましくは、
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;または
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と80%以上(より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;
の何れかである。
【0032】
本発明における配列同一性は、以下の式で計算される値を指す。
%配列同一性=[(同一残基数)/(長い方のアラインメント長)]×100
2つのアミノ酸配列における配列同一性は当業者に公知の任意の方法で決定することができ、BLAST((Basic Local Alignment Search Tool))プログラム(J.Mol.Biol.215:403-410,1990)等を使用して決定することができる。分母の「長い方のアラインメント長」とは、二つのアラインメントを比較した場合に、分母には長い方のアラインメント長を用いることを意味する。
【0033】
「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」における「1若しくは数個」とは、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。
【0034】
本発明で用いる「ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質」の親水性値「1/IOB」値は、0から1.0が好ましい。より好ましくは、0から0.6であり、さらに好ましくは0から0.4である。IOBとは、藤田穆により提案された有機化合物の極性/非極性を表す有機概念図に基づく、親疎水性の指標であり、その詳細は、例えば、Pharmaceutical Bulletin,vol.2,2,pp.163-173(1954)、「化学の領域」vol.11,10,pp.719-725(1957)、フレグランスジャーナル,vol.50, pp.79-82(1981)等で説明されている。簡潔に言えば、全ての有機化合物の根源をメタン(CH4)とし、他の化合物はすべてメタンの誘導体とみなして、その炭素数、置換基、変態部、環等にそれぞれ一定の数値を設定し、そのスコアを加算して有機性値(OV)、無機性値(IV)を求め、この値を、有機性値をX軸、無機性値をY軸にとった図上にプロットしていくものである。有機概念図におけるIOBとは、有機概念図における有機性値(OV)に対する無機性値(IV)の比、すなわち「無機性値(IV)/有機性値(OV)」をいう。有機概念図の詳細については、「新版有機概念図-基礎と応用-」(甲田善生等著、三共出版、2008)を参照されたい。本明細書中では、IOBの逆数をとった「1/IOB」値で親疎水性を表している。「1/IOB」値が小さい(0に近づく)程、親水性であることを表す表記である。
【0035】
本発明で用いる「ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質」の「1/IOB」値を上記範囲とすることにより、親水性が高く、かつ、吸水性が高くなる。
【0036】
本発明で用いるヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質においては、Grand average of hydropathicity(GRAVY)値で表される親疎水性指標が、0.3以下、マイナス9.0以上であることが好ましく、0.0以下、マイナス7.0以上であることがさらに好ましい。Grand average of hydropathicity(GRAVY)値は、『Gasteiger E.,Hoogland C.,Gattiker A.,Duvaud S.,Wilkins M.R.,Appel R.D.,Bairoch A.;Protein Identification and Analysis Tools on the ExPASy Server;(In)John M. Walker(ed):The Proteomics Protocols Handbook, Humana Press(2005).pp. 571-607』および『Gasteiger E.,Gattiker A.,Hoogland C.,Ivanyi I.,Appel R.D., Bairoch A.;ExPASy:the proteomics server for in-depth protein knowledge and analysis.;Nucleic Acids Res. 31:3784-3788(2003).』に記載された方法により得ることができる。
【0037】
GRAVY値を上記範囲とすることにより、親水性が高く、かつ、吸水性が高くなる。
【0038】
本発明で用いるヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質は、当業者に公知の遺伝子組み換え技術によって製造することができ、例えばEP1014176A2号公報、米国特許第6992172号公報、国際公開WO2004/85473号、国際公開WO2008/103041号等に記載の方法に準じて製造することができる。具体的には、所定のタンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子を取得し、これを発現ベクターに組み込んで、組み換え発現ベクターを作製し、これを適当な宿主に導入して形質転換体を作製する。得られた形質転換体を適当な培地で培養することにより、リコンビナントゼラチンが産生されるので、培養物から産生されたリコンビナントペプチドを回収することにより、本発明で用いるヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を調製することができる。
【0039】
<架橋>
本発明で用いるヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質は、架橋されているものでもよいし、架橋されていないものでもよいが、架橋されているものが好ましい。架橋されているタンパク質を使用することにより、培地中で培養する際および生体に移植した際に瞬時に分解してしまうことを防ぐという効果が得られる。一般的な架橋方法としては、熱架橋、アルデヒド類(例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなど)による架橋、縮合剤(カルボジイミド、シアナミドなど)による架橋、酵素架橋、光架橋、紫外線架橋、疎水性相互作用、水素結合、およびイオン性相互作用などが知られており、本発明においても上記の架橋方法を使用することができる。本発明で使用する架橋方法としては、さらに好ましくは熱架橋、紫外線架橋、または酵素架橋であり、特に好ましくは熱架橋である。
【0040】
酵素による架橋を行う場合、酵素としては、タンパク質材料間の架橋作用を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはトランスグルタミナーゼまたはラッカーゼ、最も好ましくはトランスグルタミナーゼを用いて架橋を行うことができる。トランスグルタミナーゼで酵素架橋するタンパク質の具体例としては、リジン残基およびグルタミン残基を有するタンパク質であれば特に制限されない。トランスグルタミナーゼは、哺乳類由来のものであっても、微生物由来のものであってもよく、具体的には、味の素(株)製アクティバシリーズ、試薬として販売されている哺乳類由来のトランスグルタミナーゼ、例えば、オリエンタル酵母工業(株)製、Upstate USA Inc.製、Biodesign International製などのモルモット肝臓由来トランスグルタミナーゼ、ヤギ由来トランスグルタミナーゼ、ウサギ由来トランスグルタミナーゼなど、並びにヒト由来の血液凝固因子(Factor XIIIa、Haematologic Technologies,Inc.社)などが挙げられる。
【0041】
架橋(例えば、熱架橋)を行う際の反応温度は、架橋ができる限り特に限定されないが、好ましくは、-100℃~500℃であり、より好ましくは0℃~300℃であり、更に好ましくは50℃~300℃であり、特に好ましくは100℃~250℃であり、最も好ましくは120℃~200℃である。
【0042】
<ブロック>
本発明では、上記したヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロック(塊)を使用する。
ブロックの形態は特に限定されるものではない。例えば、不定形、球状、粒子状(顆粒)、粉状、多孔質状、繊維状、紡錘状、扁平状およびシート状であり、好ましくは、不定形、球状、粒子状(顆粒)、粉状および多孔質状であり、特に好ましくは顆粒である。不定形とは、表面形状が均一でないもののことを示し、例えば、岩のような凹凸を有する物を示す。なお、上記の形状の例示はそれぞれ別個のものではなく、例えば、粒子状(顆粒)の下位概念の一例として不定形となる場合もある。
【0043】
本発明におけるブロックの形状は特に限定されるものではないが、タップ密度が、好ましくは10mg/cm3以上500mg/cm3以下であり、より好ましくは20mg/cm3以上400mg/cm3以下であり、さらに好ましくは40mg/cm3以上220mg/cm3以下であり、特に好ましくは50mg/cm3以上150mg/cm3以下である。
【0044】
タップ密度は、ある体積にどれくらいのブロックを密に充填できるかを表す値であり、値が小さいほど、密に充填できない、すなわちブロックの構造が複雑であることが分かる。ブロックのタップ密度とは、ブロックの表面構造の複雑性、およびブロックを集合体として集めた場合に形成される空隙の量を表していると考えられる。タップ密度が小さい程、ブロック間の空隙が多くなり、細胞の生着領域が多くなる。また、小さ過ぎないことで、細胞同士の間に適度にブロックが存在できるようになる。
【0045】
本明細書でいうタップ密度は、特に限定されないが、以下のように測定できる。測定のために(直径6mm、長さ21.8mmの円筒状:容量0.616cm3)の容器(以下、キャップと記載する)を用意する。まず、キャップのみの質量を測定する。その後、キャップにロートを付け、ブロックがキャップに溜まるようにロートから流し込む。十分量のブロックを入れた後、キャップ部分を200回机などの硬いところにたたきつけ、ロートをはずし、スパチュラですりきりにする。このキャップにすりきり一杯入った状態で質量を測定する。キャップのみの質量との差からブロックのみの質量を算出し、キャップの体積で割ることで、タップ密度を求めることができる。
【0046】
ブロックの架橋度(1分子当たりの架橋数)は、特に限定されないが、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは2以上30以下であり、さらに好ましくは4以上25以下であり、特に好ましくは4以上22以下である。
【0047】
ブロックの架橋度(1分子当たりの架橋数)の測定方法は、特に限定されないが、タンパク質がCBE3の場合には、例えば、後記実施例に記載のTNBS(2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)法で測定することができる。具体的には、ブロック、NaHCO3水溶液およびTNBS水溶液を混合して37℃で3時間反応させた後に反応停止したサンプルと、ブロック、NaHCO3水溶液およびTNBS水溶液を混合した直後に反応停止させたブランクとをそれぞれ調製し、純水で希釈したサンプルおよびブランクの吸光度(345nm)を測定し、以下の(式2)、および(式3)から架橋度(1分子当たりの架橋数)を算出することができる。
【0048】
(式2) (As-Ab)/14600×V/w
(式2)は、ブロック1g当たりのリジン量(モル等量)を示す。
(式中、Asはサンプル吸光度、Abはブランク吸光度、Vは反応液量(g)、wはブロック質量(mg)を示す。)
【0049】
(式3) 1-(サンプル(式2)/未架橋のタンパク質(式2))×34
(式3)は、1分子あたりの架橋数を示す。
【0050】
ブロックの吸水率は、特に限定されないが、好ましくは300%以上、より好ましくは400%以上、さらに好ましくは500%以上、特に好ましくは600%以上、最も好ましくは700%以上である。なお吸水率の上限は特に限定されないが、一般的には4000%以下、または2000%以下である。
【0051】
ブロックの吸水率の測定方法は、特に限定されないが、例えば、後記実施例に記載の方法により測定することができる。具体的には、25℃において3cm×3cmのナイロンメッシュ製の袋の中に、ブロック約15mgを充填し、2時間イオン交換水中で膨潤させた後、10分風乾させ、それぞれの段階において質量を測定し、(式4)に従って吸水率を求めることができる。
【0052】
(式4)
吸水率=(w2-w1-w0)/w0
(式中、w0は、吸水前の材料の質量、w1は吸水後の空袋の質量、w2は吸水後の材料を含む袋全体の質量を示す。)
【0053】
本発明で用いるブロックは好ましくは、タンパク質の多孔質体を粉砕することにより得られるブロックをふるい分けして得られる顆粒の形態にある。本発明で用いるブロックはさらに好ましくは、タンパク質の多孔質体を粉砕することにより得られるブロックに架橋を施すことにより架橋ブロックを得、さらに得られた架橋ブロックを、ふるい分けすることにより得た所望の大きさの顆粒である。
顆粒は、好ましくは1000μmのふるいを通過し100μmのふるいに残留する大きさの顆粒であり、より好ましくは、710μmのふるいを通過し500μmのふるいに残留する大きさの顆粒である。
【0054】
顆粒のふるい分けにはISO3310規格の試験ふるいを使用し、ふるい分けの方法は、第16改正日本薬局方3.04節の第2法に記載のふるい分け法に準じる。すなわち、5分間の振とうを断続的に複数回行い、振とう後にふるい上に残った粒子群の質量が、振とう前のふるい上の粒子群の質量に対して5%以下となったとき、終了する。本発明において「通過」とは、上記終点時にふるい上に残る粒子がふるい前の全質量の10質量%以下であることを意味し、「残留」との語は、上記終点時にふるい上に残る粒子がふるい前の全質量の95質量%以上であることを意味する。
【0055】
ブロックが顆粒の場合、顆粒の気孔率は、好ましくは70~95%であり、より好ましくは80~90%である。
【0056】
顆粒の気孔率(P)は、嵩密度(ρ)と真密度(ρc)より、
P = 1-ρ/ρc (%)
により求めることができる。嵩密度(ρ)は、乾燥重量と体積から算出し、真密度(ρc)は、ハーバード形の比重瓶法により求めることができる。
【0057】
<ブロックの製造方法>
ブロックの製造方法は特に制限されないが、例えば、以下の方法により得ることができる。
ブロックの製造方法の一例は、(a)水性媒体に溶解した、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むタンパク質溶液を準備すること(以下、タンパク質溶液調製工程という)、(b)タンパク質溶液を凍結乾燥に供して凍結乾燥体を得ること(以下、凍結乾燥工程という)、(c)タンパク質の凍結乾燥体を粉砕して粉砕物を得ること(以下、粉砕工程という)、および(d)粉砕物を架橋して基材を得ること(以下、架橋工程という)を含んでいてもよい。
【0058】
タンパク質溶液調製工程で準備されるタンパク質溶液の水性媒体としては、タンパク質を溶解可能であり、生体組織に対して使用可能なものであれば特に制限はなく、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液等、当分野で通常使用可能なものを挙げることができる。
【0059】
タンパク質溶液におけるタンパク質の含有率については、タンパク質が溶解可能な含有率であればよく、特に制限はない。タンパク質溶液中のタンパク質の含有率は、例えば、0.5質量%~20質量%とすることが好ましく、2質量%~16質量%であることがより好ましく、4質量%~12質量%であることが更に好ましい。
【0060】
タンパク質溶液を調製する工程では、材料としてのタンパク質を準備し、タンパク質を水性媒体に溶解させることにより調製する。材料としてのタンパク質は、粉末状のものであってもよく、固体状のものであってもよい。タンパク質溶液は、調製済みのものを準備して用いてもよい。
【0061】
タンパク質溶液を調製する際の温度については、特に制限はなく、通常用いられる温度、例えば、0℃~60℃、好ましくは、3℃~30℃程度であればよい。
またタンパク質溶液には、後述する各工程に必要な成分、例えば架橋剤や、再生医療用基材に所定の特性を付加するために有用な成分等が、必要に応じて含有されていてもよい。
【0062】
空隙を有するタンパク質顆粒を得るには、凍結乾燥工程の前に、タンパク質溶液を氷晶形成温度以下に冷却する工程を設けることが好ましい。
これにより、内部に適当な大きさの氷晶を有するタンパク質含有中間体を得ることができる。形成された氷晶によりタンパク質のペプチド鎖の粗密が生じてタンパク質含有中間体が固体化するため、氷晶が消失した後には、タンパク質含有中間体の網目の空隙が形成される。氷晶の消失は、後段の乾燥工程により容易に行われる。タンパク質含有中間体の網目の孔径は、氷晶温度、冷却時間又はこれらの組み合わせにより調整することができる。
【0063】
氷晶形成温度は、タンパク質溶液の少なくとも一部が凍結する温度を意味する。氷晶形成温度は、タンパク質溶液中のタンパク質を含む固形分濃度によって異なるが、一般に-10℃以下とすることができる。好ましくは、タンパク質溶液を-100℃~-10℃に冷却することができ、より好ましくは-80℃~-20℃に冷却することができ、-40℃~-60℃に冷却することができる。
【0064】
氷晶形成温度以下に維持する時間としては、氷晶形成が均一に生じやすいという点で1時間~6時間とすることが好ましい。
【0065】
氷晶形成温度処理を行うことにより、網目構造を有するタンパク質含有中間体が得られる。本明細書において「網目構造」との語は、内部に多量の空隙を含む構造を意味しており、平面的なものに限定されない。また、構造部が繊維状であるもののみでなく、壁状であるものも含むものとする。さらに、タンパク質を含む材料の構造物の構造を意味しており、コラーゲン繊維等の分子レベルの構造は含まない。
「網目構造を有する」とは、タンパク質を含む材料で構成される壁状構造によりミクロンオーダー以上の空隙が形成されていること、即ち、1μm以上の孔径を有することを意味する。
【0066】
タンパク質含有中間体における網目の形状については、特に制限はなく、ハニカムのような二次元的な構造でも、海綿骨のような三次元的な構造でもよい。網目の断面形状は、多角形であっても、円又は楕円等であってもよい。タンパク質含有中間体における網目の三次元形状は、柱状であっても球状であってもよい。
【0067】
凍結乾燥工程では、タンパク質溶液を凍結乾燥に供して、凍結乾燥体を得る。タンパク質溶液に対して氷晶形成処理を行った場合には、上記のタンパク質含有中間体をそのまま凍結乾燥処理に供してもよい。
凍結条件としては、タンパク質の凍結乾燥に通常用いられる条件をそのまま採用すればよい。凍結乾燥の期間としては、例えば、0.5時間~300時間とすることができる。使用可能な凍結乾燥器についても特に制限はない。
【0068】
粉砕工程では、タンパク質の凍結乾燥体を粉砕して粉砕物を得る。得られた粉砕物は、タンパク質顆粒として組織修復材に含有されうる。粉砕は、ハンマーミルやスクリーンミル等の粉砕機を適用可能であり、一定の大きさに粉砕されたものから随時回収されるため試験ごとの粒径分布のばらつきが小さいという観点から、スクリーンミル(例えばクアドロ社製コーミル)が好ましい。粉砕の条件としては、粉砕物表面の構造を維持するため、破砕する方式より切断する方式のほうが好ましい。また、顆粒内部の構造を維持するため、粉砕中に強い圧縮がかからない方式とすることが好ましい。
【0069】
粉砕工程の後には、整粒を目的として分級工程を含むことができる。これにより、均一な粒子径を有するタンパク質粉砕物を得ることができる。分級には、例えば、目開き300μm~710μmのふるいを用いることが好ましい。
【0070】
粉砕工程の後には、得られた粉砕物中のタンパク質を架橋する架橋工程を含むことが好ましい。架橋の方法としては、例えば、熱架橋、酵素による架橋、各種の化学架橋剤を用いた架橋、UV(紫外線)架橋など公知の方法を用いることができる。架橋の方法としては、化学架橋剤を用いた架橋又は熱架橋であることが好ましい。架橋(共有結合)のほかに、疎水性相互作用、水素結合、及びイオン性相互作用の少なくともいずれかにより、更に高次構造化されているものも好ましい。
【0071】
酵素による架橋を行う場合、酵素としては、生分解性材料間の架橋作用を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはトランスグルタミナーゼ及びラッカーゼ、最も好ましくはトランスグルタミナーゼを用いて架橋を行うことができる。
【0072】
本発明において、アルデヒド類又は縮合剤などの架橋剤で処理する際のタンパク質との混合温度は、溶液を均一に攪拌できる限り特に限定されないが、好ましくは0℃~40℃であり、より好ましくは0℃~30℃であり、より好ましくは3℃~25℃であり、より好ましくは3℃~15℃であり、さらに好ましくは3℃~10℃であり、特に好ましくは3℃~7℃である。
【0073】
架橋剤を混合して攪拌した後は、温度を上昇させることができる。反応温度としては架橋が進行する限りは特に限定はないが、タンパク質の変性や分解を考慮すると実質的には0℃~60℃であり、より好ましくは0℃~40℃であり、より好ましくは3℃~25℃であり、より好ましくは3℃~15℃であり、さらに好ましくは3℃~10℃であり、特に好ましくは3℃~7℃である。
【0074】
化学架橋剤を用いた架橋法の場合には、グルタルアルデヒドを化学架橋剤として用いた架橋であることがより好ましい。化学架橋剤を用いた架橋法を採用する場合には、化学架橋剤は、タンパク質溶液に添加して、乾燥工程の前に架橋を行ってもよい。
【0075】
熱架橋法に適用される架橋温度は、100℃~200℃であることが好ましく、120℃~170℃であることがより好ましく、130℃~160℃であることがさらに好ましい。熱架橋法を採用することにより、架橋剤の使用を回避することができる。
熱架橋の処理時間としては、架橋温度、タンパク質の種類やどの程度の分解性を保持させるかによって異なる。例えば、タンパク質として後述する実施例で使用のCBE3を用いた場合の熱架橋条件は、次のとおりである。実温約136℃のとき、2時間~20時間であることが好ましく、3時間~18時間であることがより好ましく、5時間~8時間であることが更に好ましい。熱架橋の処理は、酸化防止の点で減圧又は真空下又は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。減圧度としては、4hPa以下とすることが好ましい。不活性ガスとしては窒素が好ましく、均一な加熱の観点より真空下より不活性ガス雰囲気下での架橋が好ましい。加熱手段としては特に制限はなく、例えばヤマト科学製DP-43のような真空オーブン等を挙げることができる。
【0076】
好ましくは、ブロックの製造方法は、7質量%~9質量%のタンパク質を含有するタンパク質溶液を、-40℃~-60℃で1時間~6時間にわたって冷却した後に凍結乾燥処理を行って、タンパク質の凍結乾燥体を得ること、凍結乾燥体を粉砕して粉砕物を得ること、粉砕物に対して、130℃~160℃で窒素雰囲気下3時間~7時間の熱架橋を行うことを含む。
【0077】
さらに、得られた架橋ブロックを、ふるい分けすることにより、所望の大きさの顆粒を得ることができる。本発明で使用するブロックは、好ましくは、上記により得られる顆粒の形態のものである。
【0078】
<フィブリン>
フィブリンは、血液凝固に関与するタンパク質である。活性化等された血小板からフィブリノーゲンが放出され、フィブリノーゲンからトロンビンの作用によりフィブリンモノマーが生成し、フィブリンモノマーがポリマーを形成してゲル化したものがフィブリンクロットである。
【0079】
<血小板>
活性化等された血小板は、フィブリノーゲンを放出する。血小板の活性化は、例えば、トロンビンが血小板に結合することにより生じることが知られている。本発明においては、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと血小板との接触によりフィブリノーゲンが放出されることが見出された。本発明においては、上記ブロックと血小板との接触を通じて、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと、フィブリンと、血小板とを含む、フィブリン組成物が製造される。
【0080】
[フィブリン組成物の製造方法]
本発明はさらに、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと血液とを混合する工程:および得られた混合物を遠心する工程を含む、フィブリン組成物の製造方法に関する。
【0081】
ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックは、本明細書中上記した通りである。
血液としては、全血または血漿のいずれでもよいが、好ましくは全血を使用することができる。また、血液は、自家または同種(他家)のいずれでもよいが、好ましくは自家である。
【0082】
ブロックと血液との質量比は特に限定されないが、好ましくは1:500~1:100であり、より好ましくは1:400~1:100であり、さらに好ましくは1:300~1:150である。
【0083】
ブロックと血液の混合は、好ましくはプラスチックチューブにおいて行うことができる。プラスチックチューブについては後記する。例えば、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックを予め入れておいたプラスチックチューブに血液を添加することにより、ブロックと血液を混合することができる。
【0084】
上記で得られたブロックと血液との混合物を遠心する。遠心の条件は、ブロックとフィブリンと血小板とを含むフィブリン組成物が形成される条件であれば特に限定されないが、一般的には200×g~1000×g、好ましくは400×g~800×gの遠心力で行うことができる。遠心時間は特に限定されないが、一般的には3分間から15分間であり、好ましくは5分間~10分間である。遠心は、室温(例えば、25℃)で行うことができる。なお、1×g=1.12×r×(rpm/1000)2である。rは半径(mm)を示し、rpmは1分間当たりの回転数を示す。
【0085】
上記の遠心により、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと、フィブリンと、血小板とを含む、フィブリン組成物を製造することができる。
【0086】
[再生医療用基材]
本発明のフィブリン組成物は、再生医療用基材として使用することができる。
本発明のフィブリン組成物または再生医療用基材は、骨再生を必要とする対象(例えば、ヒトなどの哺乳動物)に投与することによって、骨再生を誘導することができる。
【0087】
本発明のフィブリン組成物または再生医療用基材は、例えば、歯周病の治療またはインプラント治療の前処置としての骨造成のための基材として使用することができる。
本発明のフィブリン組成物または再生医療用基材は、整形外科領域での骨再生治療のための基材として使用することもできる。
本発明のフィブリン組成物または再生医療用基材の対象疾患としては、歯周病、口腔外科疾患、外傷などによる骨欠損、骨粗鬆症、関節症、筋肉・腱の炎症性疾患、難治性の皮膚粘膜潰瘍、ドライアイなどが挙げられる。
【0088】
本発明のフィブリン組成物または再生医療用基材は、その使用目的に合わせて用量、用法、剤型を適宜決定することが可能である。例えば、本発明のフィブリン組成物または再生医療用基材は、生体内の目的部位に直接投与してもよいし、あるいは注射用蒸留水、注射用生理食塩水、pH5~8の緩衝液(リン酸系、クエン酸系等)等の水性溶媒等の液状賦形剤に懸濁して、例えば注射、塗布等により投与してもよい。また、適当な賦形剤と混合し、軟膏状、ゲル状、クリーム状等にしてから塗布してもよい。
【0089】
好ましくは、本発明のフィブリン組成物または再生医療用基材は、生体中の骨が欠損した部位へ直接投与することができる。
【0090】
本発明のフィブリン組成物または再生医療用基材の投与量は、特に限定されないが、例えば、投与される生体の表面積1cm2当たり1mg~100mgであり、好ましくは10mg~100mgであり、より好ましくは10mg~30mgである。
【0091】
[キット]
本発明によれば、本発明のフィブリン組成物の製造方法において使用するためのキットであって、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと、プラスチックチューブとを含むキットが提供される。
【0092】
ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックの詳細は本明細書中上記した通りである。
【0093】
プラスチックチューブとは、プラスチックから作られる有底の管体容器である。
プラスチックチューブとしては、プラスチック採血管を使用することが好ましく、真空採血管を使用してもよい。真空採血管を使用する真空採血システムにおいては、密閉されたプラスチック製の管内を減圧にしておき、両頭針で採血を行い、採血針を血管に刺し、針のもう一端で管を刺すと、減圧されているので血液が引き込まれる。
【0094】
真空採血管は、密封部材を開口部に有する有底の管体容器である。具体的には、真空採血管は、一端が開口し他端が閉塞した有底の管体容器と、上記有底管体の開口部を密封するとともに採血器具の穿刺針により刺通可能な構造の密封部材とから構成されており、内部が減圧されている。
【0095】
プラスチックチューブは、例えば、管外直径がl0~20mmであり、管長が60~170mmであり、肉厚が約0.5mm~2mmの寸法を有する。
【0096】
プラスチックチューブの素材は、特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、アクリル樹脂およびポリカーボーネート等を挙げることができる。プラスチックチューブの素材は、ガスバリア性の高いプラスチックが好ましく、例えば、ポリエステルがより好ましい。
プラスチックチューブには、血清(血漿)分離剤が含まれていないことが好ましい。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0097】
[参考例1]リコンビナントペプチド(リコンビナントゼラチン)
リコンビナントペプチド(リコンビナントゼラチン)として以下のCBE3を用意した(国際公開WO2008/103041号公報に記載)。
CBE3:
分子量:51.6kD
構造: GAP[(GXY)63]3G
アミノ酸数:571個
RGD配列:12個
イミノ酸含量:33%
ほぼ100%のアミノ酸がGXYの繰り返し構造である。CBE3のアミノ酸配列には、セリン、スレオニン、アスパラギン、チロシンおよびシステインは含まれていない。CBE3はERGD配列を有している。
等電点:9.34
GRAVY値:-0.682
1/IOB値:0.323
アミノ酸配列(配列表の配列番号1)(国際公開WO2008/103041号公報の配列番号3と同じ。但し末尾のXは「P」に修正)
GAP(GAPGLQGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPIGPPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPIGPPGPAGAPGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPP)3G
【0098】
[参考例2]リコンビナントペプチド多孔質体の顆粒の作製
厚さ5mm、直径98mmのアルミ製円筒カップ状容器を用意した。円筒カップは曲面を側面としたとき、側面は1mmのアルミで閉鎖されており、底面(平板の円形状)も5mmのアルミで閉鎖されている。一方、上面は開放された形をしている。また、側面の内部にのみ、肉厚3mmのテフロン(登録商標)を均一に敷き詰め、結果として円筒カップの内径は90mmになっている。以後、この容器のことを円筒形容器と呼称する。
【0099】
組換えゼラチンを7.5質量%で含むゼラチン水溶液を、円筒形容器に約18ml流し込んだ後、-50℃の冷凍庫(日立、超低温フリーザーRS-U30T)に1時間以上静置することによって、凍結したゼラチンブロックを得た。このゼラチンブロックを凍結乾燥(タカラ、TF5-85ATNNN)し、粉砕機(クワドロ、コーミルU10)にて孔径約1mmのスクリーンにて粉砕し、目開き1.4mmのふるい下の画分を回収した。得られたゼラチン顆粒を、窒素雰囲気下135℃(ヤマト科学、DP-43)で4.75時間処理し、多孔質体の顆粒を得た。
【0100】
[実施例1:プラスチック採血管がPRFクロット形成に及ぼす影響]
参考例2で得られた多孔質体の顆粒を、粉砕用ミル(筒井理化学器機、MICRO VIBRO SIFTER(M-3T))を用いて粉砕した。粉砕は断続的に3回、合計50秒間実施した。得られた粉砕物について、日本工業規格JIS Z8801-1の付表2に記載されている公称目開き710μmのステンレス製試験用ふるいを通過し、かつ、公称目開き500μmのステンレス製試験用ふるいに残留する顆粒(以下において、FBGとも称する)を収集し、以下の実験に用いた。
顆粒の気孔率は80~90%であった。気孔率の測定は、本明細書中上記した通りに行った。
【0101】
プレーンのプラスチック採血管(テルモ社製のVenoject(登録商標)II)に対して上記FBGまたはTerudermis(登録商標)(Olympus-Terumo Biomaterials社製)(1x1x1mm程度に細片化したもの)を添加した採血管を用意した。FBGはプラスチック採血管当たり22mg~28mg(平均25mg)添加し、Terudermis(登録商標)はプラスチック採血管当たり13mg~22mg(平均17mg)添加した。
【0102】
プラスチック採血管で採血した新鮮な静脈血をこれらの3種類のプラスチック採血管に分注して混合した後、遠心機(商品名Medifuge)にかけた。プラスチック採血管当たりの採血量は約7mLである。遠心条件は1100×gとし、25℃で8分間遠心した。得られたフィブリン組成物の肉眼的状態を
図1に示す。
図1のAは、FBGをプラスチック採血管に添加した場合を示し、
図1のBは、無添加のプラスチック採血管を使用した場合を示し、
図1のCは、Terudermis(登録商標)をプラスチック採血管に添加した場合を示す。
【0103】
図1の所見から、無添加のプラスチック採血管ではPRFクロットの形成は認められないが、FBGまたはTerudermis(登録商標)を添加して、転倒混和後に遠心することでPRFクロットを形成することが確認された。
【0104】
得られたフィブリン組成物の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)の画像を
図2および
図3に示す。
【0105】
図2においては、FBGとの複合体(
図2のA)、Terudermis(登録商標)との複合体(
図2のB)、および無添加のPRFクロット(
図2のC)の微細構造を示している。FBGとTerudermis(登録商標)はともに血小板(直径数ミクロンの球状の物体)と接着しているが、Terudermis(登録商標)のほうが血小板の凝集を強く惹起している様子が認められる。なお、フィブリン線維の形成は、これらの視野の外、すなわちそれぞれの基材がないところで認められた。一方、PRFクロット単独の場合、血小板は白血球とともにフィブリン網のなかに取り込まれているような様子が確認された。
【0106】
図3は、FBGとの複合体の微細構造を示す。FBGの周囲にフィブリン線維の形成が認められる。
図2および
図3においては、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質を含むブロックと、フィブリンと、血小板とを含む、フィブリン組成物が製造されたことが確認された。
【0107】
[実施例2:頭蓋骨欠損モデルマウスにおける骨再生効果の比較]
FBGとPRFの複合体の骨再生活性を比較するために、免疫不全のヌードマウス(ICRヌードマウス、雄、6~8週齢)の頭蓋骨に直径3mmの欠損を作製し、そこに(1)未処置、(2)PRF単独移植、(3)PRF+Terudermis複合体移植、(4)PRF+FBG複合体移植という4条件で骨再生を評価した。処置後4週間目での病理組織所見を
図4に示す。
【0108】
図4に示す所見から、PRF単独では、移植部位で4週間存在せず早期に生分解を受けることが確認され、また骨再生もほとんど認められなかった。一方、Terudermis(登録商標)またはFBGと複合化した場合、PRF自体の存在は、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色所見からは明確に確認できなかったものの、骨再生(新生骨の形成)は再現性よく認められた。また、Terudermis(登録商標)とFBGを比較した場合、FBGのほうが顕著に新生骨形成を誘導している様子が認められた。
【0109】
移植部位における新生骨形成の面積を、表1に示す。
移植部位の病理組織写真から、画像処理ソフトウェアImage Jを用いて、形成骨とそれ以外の組織を2値化した画像を作成し、形成骨面積を算出した。FBGは、PRF単独と比べ約18倍、Terudermis(登録商標)と比べ約6倍の形成骨面積を示した。
【0110】
【0111】
[実施例のまとめ]
以上の所見より、FBGをプラスチック採血管に添加することにより、ガラス採血管の場合と同様にPRFクロットを形成することが可能となり、そのPRF+FBG複合体には強力な骨再生活性があることが明らかになった。よって、ヒトコラーゲン由来のArg-Gly-Asp配列の繰り返しを含むタンパク質によるPRF複合化技術は単にプラスチック採血管をガラス採血管の代わりにすることができるというだけではなく、治療効果においてPRF単独以上の有効性が期待できることが示唆された。
【配列表】