(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】炭素ナノチューブ分散液及びこの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20220308BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2020558605
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 KR2019006907
(87)【国際公開番号】W WO2019240439
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-10-21
(31)【優先権主張番号】10-2018-0066857
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】キム、トン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ユ、フン-シク
(72)【発明者】
【氏名】チャ、チン-ミョン
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ケ-ミン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ヒョン-シク
(72)【発明者】
【氏名】チョ、トン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、サン-フン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ヒョン-ソク
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0224211(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0054355(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0133711(KR,A)
【文献】特開2010-195671(JP,A)
【文献】特開2015-188774(JP,A)
【文献】国際公開第2013/147087(WO,A1)
【文献】AL-HAMADANI,Yasir A J.et al.,Stabilization and dispersion of carbon nanomaterials in aqueous solutions,A review.Separation and Purification Technology,NL,Elsevier B.V.,2015年11月02日,Vol.156,861-874
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素ナノチューブ(CNT)、アミンを含有する高分子分散剤、芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物、及び水系溶媒を含み、
前記アミンを含有する高分子分散剤及び
前記芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を100:
20から100:
80の重量比で含む、炭素ナノチューブ分散液。
【請求項2】
前記炭素ナノチューブは、210m
2/g以下の比表面積(BET)を有する、請求項1に記載の炭素ナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記炭素ナノチューブは、前記炭素ナノチューブ分散液の100重量部に対して2重量部から10重量部含まれる、請求項1または2に記載の炭素ナノチューブ分散液。
【請求項4】
前記アミンを含有する高分子分散剤は、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリアクリル酸ヒドラジド(polyacrylic acid hydrazide)、ポリ-N-ビニル-5-メトキサゾリドン(poly-N-vinyl-5-methoxazolidon)、N-アルキルポリイミン(N-alkyl polyimine)、N-アセチルポリイミン(N-acetyl polyimine)、ポリアクリルアミド(polyacrylamide)、ポリ-L-リジンヒドロブロミド(poly-L-lysine hydrobromide)、ベンジル-ドデシル-ジメチルアンモニウムクロリド(benzyl-dodecyl-dimethylammonium chloride)、及びポリエチレンイミン(polyethylenimine)からなる群より選択される1種以上である、請求項1~3のいずれかに記載の炭素ナノチューブ分散液。
【請求項5】
前記芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物は、前記芳香族環のうち1つ以上にフェノール構造、カテコール構造、ガロール構造、及びナフトール構造からなる群より選択される1つ以上の構造を含む、請求項1~4のいずれかに記載の炭素ナノチューブ分散液。
【請求項6】
前記芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物は、分子構造内に3つ以上の芳香族環が融合(fused)された構造を含まない、請求項1~5のいずれかに記載の炭素ナノチューブ分散液。
【請求項7】
前記芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物は、バイカリン、ルテオリン、タキシフォリン、ミリセチン、クェルセチン、ルチン、カテキン、没食子酸エピガロカテキン、ブテイン(butein)、ピセアタンノール及びタンニン酸からなる群より選択される1種以上である、請求項1~6のいずれかに記載の炭素ナノチューブ分散液。
【請求項8】
前記炭素ナノチューブ分散液は、前記炭素ナノチューブ100重量部を基準としてアミンを含有する高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を合計量で11重量部から100重量部含む、請求項1~7のいずれかに記載の炭素ナノチューブ分散液。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の炭素ナノチューブ分散液及び電極活物質を含むリチウム二次電池用電極スラリー組成物。
【請求項10】
(1)炭素ナノチューブ、アミンを含有する高分子分散剤、芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物、及び水系溶媒を混合して混合物を製造する段階;及び
(2)前記混合物をミーリング処理する段階を含む、請求項1~8のいずれかに記載の炭素ナノチューブ分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年6月11日付韓国特許出願第10-2018-0066857号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は炭素ナノチューブ分散液及びこの製造方法に関し、より具体的には、粘度が低く、粘度の経時変化が少ない炭素ナノチューブ分散液及びこの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に対する技術の開発と需要の増加に伴い、エネルギー源としての二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化されて広く用いられている。また、このような高容量リチウム二次電池用電極として、電極密度を向上させて単位体積当たりのエネルギー密度がさらに高い電極を製造するための方法に対して研究が活発に進められている。
【0004】
一般的に、高密度電極は、数μmから数十μmの大きさを有する電極活物質粒子を高圧プレスによって成形して形成されるところ、成形工程の途中、粒子が変形され、粒子の間に空間が減少し得るため、電解液の浸透性が低下しやすい。
【0005】
前記のような問題を解決するため、電極の製造時に優れた電気伝導性と強度を有する導電材を用いている。前記導電材は、電極活物質の間に位置して成形工程を経る場合にも、活物質粒子間の微細気孔を維持して電解液が容易に浸透することができ、電気伝導性に優れるので電極内抵抗を減少させることができる。このような導電材の中でも電極内の電気的導電経路を形成することにより、電極抵抗をさらに減少させることができる繊維状炭素系導電材である炭素ナノチューブの使用が増加している。
【0006】
微細炭素繊維の一種である炭素ナノチューブは、直径1μm以下の太さのチューブ状炭素繊維であって、その特異的構造に起因した高い導電性、引張強度及び耐熱性などによって多様な分野への適用及び実用化が期待されている。しかし、炭素ナノチューブは高い比表面積によって相互間の強いファンデルワールス引力によって分散性が低く、凝集現象が起こるという問題がある。
【0007】
このような問題点を解決するため、超音波処理などの機械的分散処理を介して炭素ナノチューブを分散媒に分散させる方法が提案されたことがある。しかし、機械的分散処理方法の場合、超音波照射が終わるのと同時に炭素ナノチューブが凝集してしまうという問題がある。
【0008】
これによって、炭素ナノチューブの分散性を向上させることができながらも、低い粘度を有し、時間経過による粘度の増加が抑制された炭素ナノチューブ分散液を製造することができる方法の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来の技術の問題点を解決するためのものであって、アミンを含有する高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を含み、分散性に優れ、粘度が低く、粘度の経時変化が少ない炭素ナノチューブ分散液を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記炭素ナノチューブ分散液を含むリチウム二次電池用負極スラリー組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記炭素ナノチューブ分散液の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明は、炭素ナノチューブ(CNT)、アミンを含有する高分子分散剤、芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物、及び水系溶媒を含み、前記高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を100:1から100:90の重量比で含む、炭素ナノチューブ分散液を提供する。
【0013】
前記他の課題を解決するために、本発明は、前記炭素ナノチューブ分散液及び電極活物質を含むリチウム二次電池用電極スラリー組成物を提供する。
【0014】
前記また他の課題を解決するために、本発明は、炭素ナノチューブ、アミンを含有する高分子分散剤、芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物、及び水系溶媒を混合して混合物を製造する段階;及び前記混合物をミーリング処理する段階を含む、前記炭素ナノチューブ分散液の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炭素ナノチューブ分散液は、アミンを含有する高分子分散剤及び特定構造のフェノール化合物をともに含み、炭素ナノチューブの分散性に優れ、低い粘度を有して、粘度の経時変化が少ないので、炭素ナノチューブ分散液の貯蔵及び使用において有利である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に対する理解を助けるために本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明の説明及び特許請求の範囲で用いられた用語や単語は、通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最良の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0018】
本明細書で用いられる用語は、単に例示的な実施例を説明するために用いられたもので、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は、文脈上、明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。
【0019】
本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないものとして理解されなければならない。
【0020】
本明細書において、「%」は、明示上な他の表示がない限り、重量%を意味する。
【0021】
本明細書において、平均粒度「D50」は、体積累積量が50%に該当する粒度を意味するものである。前記D50は、例えば、レーザー回折法(laser diffraction method)を用いて測定することができる。前記レーザー回折法は、一般的に、サブミクロン(submicron)領域から数mm程度の粒度の測定が可能であり、高再現性及び高分解性の結果を得ることができる。
【0022】
本明細書において、「比表面積」は、BET法により測定したものであって、具体的には、BELジャパン社のBELSORP-mino IIを用いて液体窒素温度下(77K)での窒素ガス吸着量から算出されてよい。
【0023】
以下、本発明に対して具体的に説明する。
【0024】
本発明による炭素ナノチューブ分散液は、炭素ナノチューブ(CNT)、アミンを含有する高分子分散剤、芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物、及び水系溶媒を含み、前記高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を100:1から100:90の重量比で含むものである。
【0025】
(炭素ナノチューブ分散液)
以下、本発明の炭素ナノチューブ分散液の各成分に対して具体的に説明する。
【0026】
(1)炭素ナノチューブ
本発明で用いる用語「炭素ナノチューブ」は、炭素ナノチューブの単位体が全体または部分的にバンドル型をなすように集合されて形成された2次構造物であって、前記炭素ナノチューブの単位体は、グラファイトシート(graphite sheet)がナノサイズの直径のシリンダ状を有し、sp2結合構造を有する。このとき、前記グラファイトシートが巻かれる角度及び構造に応じて導体または半導体の特性を示し得る。炭素ナノチューブの単位体は、壁をなしている結合数に応じて、単一壁炭素ナノチューブ(SWCNT、single-walled carbon nanotube)、二重壁炭素ナノチューブ(DWCNT、double-walled carbon nanotube)及び多重壁炭素ナノチューブ(MWCNT、multi-walled carbon nanotube)に分類することができる。
【0027】
本発明において用いる用語「バンドル型(bundle type)」とは、他に言及されない限り、複数個の炭素ナノチューブの単位体が、単位体の長手方向の軸が実質的に同一の配向に並んで配列されるか、配列された後に絡むか又はもつれている、束(bundle)あるいはロープ(rope)状の二次形状を指す。「非-バンドル型(non-bundle type)またはエンタングル型(entangled type)」とは、炭素ナノチューブの単位体が束あるいはロープ状のような一定の形状がなくもつれている形態を指す。
【0028】
炭素ナノチューブは、伝導性は高い方であるが、炭素ナノチューブ間に発生するファンデルワールス力(van der Waals force)によって凝集性が高い。導電材が凝集されると、導電経路をきちんと形成することができず、相対的にさらに多くの導電材を用いることとなり、活物質の量が少なくなるので、電極の性能がかえって低下し得る。よって、炭素ナノチューブを導電材に商用化することに困難があった。
【0029】
本発明による炭素ナノチューブ分散液は、アミンを含有する高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を含むので、水系炭素ナノチューブ分散液の粘度を顕著に減少させ、経時変化の発生を抑制することができ、リチウム二次電池の電極スラリーに適用時に前記炭素ナノチューブの高い伝導性による高い伝導性を発揮することができる。
【0030】
具体的に、本発明による炭素ナノチューブ分散液を電極スラリーの製造に適用する場合、活物質の間に均一に炭素ナノチューブが位置するようになるので、電極スラリーをコーティング及び乾燥後に圧延して電極を製造する途中にも電極活物質の間の微細空間が一定に維持され得る。また、前記炭素ナノチューブが凝集されず均一に分布して少量の炭素ナノチューブでも導電経路が十分に形成され得る。
【0031】
本発明の一例による炭素ナノチューブ分散液は、前記炭素ナノチューブであって、単一壁、二重壁及び多重壁の炭素ナノチューブ単位体のうち1つ以上を含むことができ、具体的に多重壁炭素ナノチューブを含むことができる。
【0032】
前記炭素ナノチューブは、210m2/g以下の比表面積(BET)を有するものであってよく、具体的に30m2/gから200m2/g、さらに具体的に100m2/gから200m2/gの比表面積(BET)を有してよい。前記炭素ナノチューブの比表面積(BET)が前記範囲を満たす場合、前記範囲を超える比表面積を有する炭素ナノチューブを用いる場合に比べて炭素ナノチューブ分散液に含まれる炭素ナノチューブの含量を増加させることができる。
【0033】
前記炭素ナノチューブの平均粒度(D50)は、例えば3μmから300μmであってよく、具体的に10μmから200μm、さらに具体的に50μmから150μmであってよい。前記炭素ナノチューブの平均粒度を測定するため、炭素ナノチューブそれぞれの単位体の粒度は、レーザー回折方式(laser diffration)を用いて測定することができる。
【0034】
前記炭素ナノチューブは、前記炭素ナノチューブ分散液の100重量部に対して2重量部から10重量部の量で含まれてよく、具体的に3重量部から8重量部、さらに具体的に3重量部から6重量部の量で含まれてよい。
【0035】
本発明の一例による炭素ナノチューブ分散液は、炭素ナノチューブが均一に分散されるので、前記範囲のような従来一般的に用いられる炭素ナノチューブ分散液に比べて高い炭素ナノチューブの含量を有し得る。炭素ナノチューブの含量が少ない炭素ナノチューブ分散液を電極スラリーの製造に用いる場合、製造された電極スラリーの固形分の含量が減少し、前記電極スラリーを塗布して乾燥する前の厚さ(濡れ厚さ)が厚いので、その後の乾燥及び圧延処理を経た後に測定される圧延率が高くなり、乾燥及び圧延の前後の厚さ比率の差が大きくなる。このように、圧延率が高くなると、工程の途中で正極活物質を含めたスラリー内部の組成物が損傷し、これによる電池の性能が低下されるという問題点が発生し得る。
【0036】
(2)アミンを含有する高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物
本発明による炭素ナノチューブ分散液は、前記炭素ナノチューブの分散性向上のためにアミンを含有する高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物をともに含む。前記炭素ナノチューブ分散液内で前記アミンを含有する高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物は、分散剤として炭素ナノチューブの分散性を増加させる役割を担い、特に粘度の経時変化を抑制する効果を発揮することができる。
【0037】
本発明者の研究によれば、炭素ナノチューブ分散液に芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物をともに含む場合、従来の分散剤のみを用いた炭素ナノチューブ分散液に比べて分散性に優れ、スラリー組成物の粒子の塊が少なく、沈降速度が小さく、分離膜の基材との接着性も改善されるものと現われた。
【0038】
前記芳香族環を2つ以上含むフェノール化合物は、2つ以上の芳香族環によって発生するバルキー(bulky)な構造及びフェノール基に含まれたヒドロキシ基の影響により、従来に比べて炭素ナノチューブ分散液、特に水系炭素ナノチューブ分散液の粘度を減少させ、時間の経過による粘度の増加を顕著に改善させることができる。
【0039】
芳香族環を1つだけ含むフェノール化合物(例えば、ドーパミン、没食子酸、ピロガロール、カテコールなど)を用いる場合には、分散液の粘度の改善効果及び粘度の経時変化抑制効果が十分ではなかった。
【0040】
一方、高分子分散剤としては、高分子構造内にアミンを含有する特定の高分子分散剤が適用される場合にさらに向上された粘度の改善効果及び粘度の経時変化抑制効果を発揮することができた。前記アミンを含有する高分子分散剤は、水に溶解されるものであってよく、例えば、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリアクリル酸ヒドラジド(polyacrylic acid hydrazide)、ポリ-N-ビニル-5-メトキサゾリドン(poly-N-vinyl-5-methoxazolidon)、N-アルキルポリイミン(N-alkyl polyimine)、N-アセチルポリイミン(N-acetyl polyimine)、ポリアクリルアミド(polyacrylamide)、ポリ-L-リジンヒドロブロミド(poly-L-lysine hydrobromide)、ベンジル-ドデシル-ジメチルアンモニウムクロリド(benzyl-dodecyl-dimethylammonium chloride)、及びポリエチレンイミン(polyethylenimine)からなる群より選択される1種以上であってよい。
【0041】
一方、前記芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物は、前記芳香族環のうち1つ以上にフェノール構造、カテコール構造、ガロール構造及びナフトール構造からなる群より選択される1つ以上の構造を含むものであってよく、具体的に、前記芳香族環のうち1つ以上にカテコール構造及びガロール構造からなる群より選択される1つ以上の構造を含むものであってよい。前記フェノール構造は、ベンゼン環にヒドロキシ基が2つ結合された構造であり、前記カテコール構造は、ベンゼン環にヒドロキシ基が2つ結合された構造であり、前記ガロール構造は、ベンゼン環にヒドロキシ基が3つ結合された構造であり、前記ナフトール構造は、ナフタリンにヒドロキシ基が1つ結合された構造である。
【0042】
前記芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物が前記構造を含む場合、炭素ナノチューブ分散液中で前記芳香族環と炭素ナノチューブの間の相互作用と、前記フェノール系化合物の-OHと前記高分子分散剤の間の水素結合による相互作用が適切に均衡をなすことにより、前記炭素ナノチューブ分散液の粘度減少及び経時変化による粘度の上昇抑制効果を発揮することができる。
【0043】
前記芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物の具体的な例としては、バイカリン、ルテオリン、タキシフォリン、ミリセチン、クェルセチン、ルチン、カテキン、没食子酸エピガロカテキン、ブテイン(butein)、ピセアタンノール及びタンニン酸からなる群より選択される1種以上であってよく、好ましくは、タンニン酸、クェルセチンまたはこれらの組み合せであってよい。
【0044】
本発明の一例において、前記芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物が含む前記芳香族環は、他の芳香族環と融合(fused)されない1つの芳香族環または2つの芳香族環が互いに融合された構造であってよく、3つ以上の芳香族環が互いに融合された構造は含まれなくてよい。
【0045】
すなわち、前記芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物の範囲には、分子構造内に3つ以上の芳香族環が融合された構造を含むものは除外されてよい。
【0046】
前記芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物が分子構造内に3つ以上の芳香族環が融合(fused)された構造を含む場合、前記3つ以上の芳香族環が融合された構造が炭素ナノチューブ分散液内で炭素ナノチューブと適正な程度以上の強い結合力を発揮して炭素ナノチューブの間の凝集を誘導することができるので、炭素ナノチューブの分散性向上には適切でないことがある。また、前述した前記炭素ナノチューブ分散液中での前記芳香族環と炭素ナノチューブの間の相互作用と、前記フェノール系化合物の-OHと前記高分子分散剤の間の水素結合による相互作用の均衡が崩れることにより、適切な前記炭素ナノチューブ分散液の粘度の減少効果及び経時変化による粘度の上昇抑制効果が発揮されにくいことがある。
【0047】
前記芳香族環を2つ以上含むフェノール化合物は、前記高分子分散剤と適切な重量比で含まれる場合、分散液の粘度の改善効果及び粘度の経時変化抑制効果をいずれも発揮することができ、前記芳香族環を2つ以上含むフェノール化合物と前記高分子分散剤が所定重量比を外れる場合には、粘度の改善効果はあるが粘度の経時変化抑制効果が十分ではなかった。
【0048】
前記高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物は、100:1から100:90の重量比で含まれてよく、具体的に100:10から100:80の重量比、さらに具体的に100:20から100:70の重量比で含まれてよい。前記高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物が前記重量比で前記炭素ナノチューブ分散液に含まれる場合、炭素ナノチューブが前記炭素ナノチューブ分散液内で均一に分散され、低い粘度とともに時間の経過にも粘度を一定の水準に維持することができる。
【0049】
前記炭素ナノチューブ分散液は、前記炭素ナノチューブ100重量部を基準として高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を合計量で11重量部から100重量部含んでよく、具体的に11重量部から70重量部、さらに具体的に15重量部から50重量部含んでよい。
【0050】
前記高分子分散剤及び前記フェノール系化合物が前記範囲より過量に含まれる場合には、過量の分散剤によって前記炭素ナノチューブ分散液が適用されることができる電極の伝導性が阻害され、前記高分子分散剤及び前記フェノール系化合物が電極内で不純物と作用し、前記範囲より少量で含まれる場合には、分散性向上の効果、粘度低下の効果及び粘度の経時変化抑制の効果が足りないことがある。
【0051】
(3)水系溶媒
前記溶媒は、前記炭素ナノチューブ、高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を分散させるための分散媒であって、粉末状態の炭素ナノチューブを直ちに電極スラリー組成物の製造時に用いる場合、凝集されるのを防止するために予備分散させて炭素ナノチューブ分散液に供給するために用いられるものである。
【0052】
前記溶媒は、前記炭素ナノチューブ、高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を一定程度の水準以上溶解または分散させることができるものである。前記水系溶媒は、例えば、水であってよく、前記水系溶媒はその後の前記炭素ナノチューブ分散液を用いて製造される電極スラリー組成物のコーティング性などを勘案し、電極スラリー組成物が適切な粘度を有し得る含量で含まれてよい。
【0053】
前記のような成分を含む本発明の炭素ナノチューブ分散液は分散性に優れるので、分散液の粘度が低く、時間経過による粘度の上昇の程度が小さい。
【0054】
前記炭素ナノチューブ分散液は、粘度計(TOKI社製、viscometer TV-22)を用いて25℃、1rpmで粘度を測定したとき、0.1から5cpsの粘度を有してよく、具体的に0.1から4cpsの粘度を有してよい。前記炭素ナノチューブ分散液が前記範囲の粘度を有する場合、これを用いてより円滑に電極スラリーを製造することができ、前記炭素ナノチューブ分散液を含む電極スラリーが電極形成のための適切な粘度を有することができる。
【0055】
また、前記炭素ナノチューブ分散液は、これを25℃で1週間放置したとき、粘度の上昇率が100%以下、具体的に50%以下、さらに具体的に20%以下であってよい。
【0056】
(炭素ナノチューブ分散液の製造方法)
以下、炭素ナノチューブ分散液の製造方法に対して説明する。本発明による導電材分散液の製造方法は、(1)炭素ナノチューブ、高分子分散剤、芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物、及び水系溶媒を混合して混合物を製造する段階;及び(2)前記混合物をミーリング処理する段階を含む。
【0057】
段階(1)では、炭素ナノチューブ、高分子分散剤、芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物、及び水系溶媒を混合して混合物を製造する。
【0058】
前記混合物を製造する段階は、水系溶媒の蒸発によって混合物の粘度などを含めた物性が変化しない温度条件下で行われてよい。例えば、50℃以下、より具体的には5℃から50℃の温度で行われてよい。
【0059】
段階(2)では、前記混合物を分散処理して炭素ナノチューブ分散液を製造する。
【0060】
前記ミーリングは、ボールミル(ball mill)、ビーズミル(bead mill)、ディスクミル(disc mill)またはバスケットミル(basket mill)、 高圧均質機(high pressure homogenizer)などを用いた方法により行われてよく、より具体的にはディスクミルまたは高圧均質機(high pressure homogenizer)を用いたミーリング方法により行われてよい。
【0061】
前記ディスクミルによるミーリング時、ビーズの大きさはカーボンナノチューブの種類と量、そして分散剤の種類により適切に決定されてよく、具体的には、前記ビーズの直径は0.1mmから5mm、より具体的には0.5mmから4mmであってよい。また、ビーズミーリング工程は、2,000rpmから10,000rpmの速度で行われてよく、より具体的には5,000rpmから9,000rpmの速度で行われてよい。
【0062】
前記高圧均質機によるミーリングは、例えば、高圧均質機のプランジャポンプ(plunger pump)で前記混合物を加圧し、均質用バルブの隙間にこれを押し出すことにより、前記隙間を通過したときの空洞(cavitation)、せん断(shear)、衝撃(impact)及び破裂(explosion)などの力によりなされる。
【0063】
前記ミーリング工程は、炭素ナノチューブ分散液の分散程度により行われてよく、具体的には30分から120分、より具体的には60分から90分間行われてよい。
【0064】
(電極スラリー組成物)
また、本発明は、前記炭素ナノチューブ分散液及び電極活物質を含むリチウム二次電池用電極スラリー組成物を提供する。
【0065】
前記リチウム二次電池用電極スラリー組成物は、正極スラリー組成物または負極スラリー組成物であってよく、具体的に負極スラリー組成物であってよい。
【0066】
前記リチウム二次電池用電極スラリー組成物は、前記炭素ナノチューブ分散液、電極活物質として正極活物質または負極活物質、バインダー、必要に応じて溶媒及び/またはその他の添加剤を含んでよい。
【0067】
前記正極活物質としては、当該技術分野でよく知られている正極活物質が制限なく用いられてよく、例えば、リチウムコバルト系酸化物、リチウムニッケル系酸化物、リチウムマンガン系酸化物、リン酸鉄リチウム化合物、リチウムニッケルマンガンコバルト系酸化物またはこれらの組み合せなどが用いられてよい。具体的には、前記正極活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiCoPO4、LiFePO4及びLiNiaMnbCocO2(ここで、0<a<1、0<b<1、0<c<1)などが用いられてよいが、これに限定されるものではない。
【0068】
前記負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、炭素質材料;リチウム含有チタン複合酸化物(LTO)、Si、Sn、Li、Zn、Mg、Cd、Ce、NiまたはFeである金属類(Me);前記金属類(Me)からなる合金類;前記金属類(Me)の酸化物(MeOx);及び前記金属類(Me)と炭素との複合体からなる群より選択された1種または2種以上の負極活物質を挙げることができる。前記負極活物質は、負極スラリー中で溶媒を除いた固形物の全体重量を基準として60から98重量%、より好ましくは70から98重量%で含まれてよい。
【0069】
前記バインダーは、活物質と導電材などの結合と集電体に対する結合に役立つ成分であって、通常、電極活物質を含む混合物の全体重量を基準として1から30重量%で添加される。このようなバインダーの例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、多様な共重合剤などを挙げることができる。
【0070】
前記溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、ジメチルアセトアミドなどの有機溶媒または水などがあり、これら溶媒は単独または2種以上を混合して用いることができる。溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造歩留まりを考慮して前記電極活物質、バインダー、導電材を溶解及び分散させることができる程度であれば十分である。
【0071】
前記粘度調節剤は、カルボキシメチルセルロース、またはポリアクリル酸などであってよく、添加により前記電極スラリーの製造と前記電極集電体上の塗布工程が容易であるように電極スラリーの粘度が調節されてよい。
【0072】
前記充填剤は、電極の膨張を抑制する成分として選択的に用いられ、当該電池に化学的変化を誘発することなく繊維状材料であれば、特に制限されるものではなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系重合剤;ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状物質が用いられる。
【0073】
前記電極スラリー組成物が正極を形成するための正極スラリーの組成物である場合、前記正極スラリーの組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延を経て正極を製造することができる。または、前記正極スラリーを別の支持体上にキャスティングした後、前記支持体から剥離して得たフィルムを前記正極集電体上にラミネーションすることにより製造することもできる。
【0074】
前記正極スラリーによって形成される正極活物質層の厚さは、前記正極スラリーを塗布するためのローディング量、ローディング速度などにより変わり得る。
【0075】
前記正極集電体は、一般的に3μmから500μmの厚さを有する。このような正極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発することなく高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではない。例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したものなどが用いられてよい。また、正極集電体の表面に微細な凹凸を形成して正極活物質の結合力を強化させることもでき、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態で用いられてよい。
【0076】
前記電極スラリー組成物が負極を形成するための負極スラリーの組成物である場合、負極集電体上に前記負極スラリーの組成物を塗布した後、乾燥及び圧延を経て負極を製造することができる。または、前記負極スラリーを別の支持体上にキャスティングした後、前記支持体から剥離して得たフィルムを前記負極集電体上にラミネーションすることにより製造することもできる。
【0077】
前記負極スラリーによって形成される負極活物質層の厚さは、前記負極スラリーを塗布するためのローディング量、ローディング速度により変わり得る。
【0078】
前記負極集電体は、一般的に3μmから500μmの厚さを有する。このような負極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発することなく高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが用いられてよい。また、負極集電体と同様に、表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させることもでき、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態で用いられてよい。
【0079】
(リチウム二次電池)
リチウム二次電池は、正極、負極、前記正極及び負極の間に配置される分離膜、及び電解液を含む。前記正極及び負極は、前述の内容と同一なので、具体的な説明を省略する。
【0080】
前記分離膜は、負極と正極を分離してリチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常、リチウム二次電池で分離膜に用いられるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗でありながら、電解液の含湿能に優れているものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体及びエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルム、またはこれらの2層以上の積層構造体が用いられてよい。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が用いられてよい。また、耐熱性または機械的強度の確保のため、セラミックス成分または高分子物質が含まれているコーティングされた分離膜が用いられてもよく、選択的に単層または多層構造で用いられてよい。
【0081】
前記電解質は、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などであってよく、これらに限定されるのではない。具体的に、前記電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含むことができる。
【0082】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動することができる媒質の役割を担うことができるものであれば、特に制限なく用いられてよい。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R-CN(RはC2からC20の直鎖状、分枝状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3-ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが用いられてよい。この中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の線状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1から約1:9の体積比で混合して用いることが、電解質の性能が優れて現われ得る。
【0083】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池で用いられるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特に制限なく用いられてよい。具体的に、前記リチウム塩は、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiCl、LiI、またはLiB(C2O4)2などが用いられてよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1Mから2.0Mの範囲内で用いることがよい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適した伝導度及び粘度を有するので、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0084】
前記電解質には、前記電解質の構成成分以外にも、電池の寿命特性の向上、電池容量の減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。このとき、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1重量%から5重量%で含まれてよい。
【0085】
本発明による炭素ナノチューブ分散液を用いて製造された電極を含むリチウム二次電池、具体的に、炭素ナノチューブ分散液を用いて製造された負極を含むリチウム二次電池は、負極内に炭素ナノチューブが均一に分散されており、従来のカーボンブラックのような導電材を含む場合に比べてその含量を減らすことができるので、優れた放電容量及び出力特性を安定的に示すことができる。その結果、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車の分野などに有用に用いられ得る。
【0086】
これによって、本発明の他の一具現例によれば、前記リチウム二次電池、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュール、及びこれを含む電池パックが提供され得る。
【0087】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、及びプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのいずれか1つ以上の中大型デバイスの電源として用いられ得る。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。しかし、下記実施例は本発明を例示するためのものであって、これらだけに本発明の範囲が限定されるものではない。
【0089】
(実施例1)
比表面積185m2/g、平均粒度(D50)93μmである多重壁炭素ナノチューブ(MWCNT、LG化学製)4重量%、高分子分散剤としてポリビニルピロリドン(PVP、Zhangzhou Huafu Chemical社製)0.6重量%、芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物としてタンニン酸(シグマアルドリッチ社製)0.2重量%、及び溶媒として水を混合して200gの混合物を製造した後、これにジルコニアビーズ700gを混合し、ディスクタイプミル(Dispermat-CC、VMA-Getzmaan社製)を用いて8,000rpm条件で1時間の間ミーリングすることで炭素ナノチューブ分散液を製造した。
【0090】
(実施例2)
前記実施例1で多重壁炭素ナノチューブの含量を5.14重量%に、ポリビニルピロリドンの含量を1.03重量%に、タンニン酸の含量を0.51重量%に異にしたことを除いては、実施例1と同一の方法で炭素ナノチューブ分散液を製造した。
【0091】
(実施例3)
前記実施例1でポリビニルピロリドンの含量を0.75重量%に、タンニン酸の含量を0.05重量%に異にしたことを除いては、実施例1と同一の方法で炭素ナノチューブ分散液を製造した。
【0092】
(実施例4)
前記実施例1でポリビニルピロリドンの含量を0.45重量%に、タンニン酸の含量を0.35重量%に異にしたことを除いては、実施例1と同一の方法で炭素ナノチューブ分散液を製造した。
【0093】
(比較例1)
前記実施例1でタンニン酸を含まず、ポリビニルピロリドンの含量を0.8重量%に異にしたことを除いては、実施例1と同一の方法で炭素ナノチューブ分散液を製造した。
【0094】
(比較例2)
前記実施例1でポリビニルピロリドンの含量を0.4重量%に、タンニン酸を0.4重量%にそれぞれその含量を異にしたことを除いては、実施例1と同一の方法で炭素ナノチューブ分散液を製造した。
【0095】
(比較例3)
前記実施例1でポリビニルピロリドンの代わりに同一の含量のカルボキシメチルセルロース(Daicel社製)を用いたことを除いては、実施例1と同一の方法で炭素ナノチューブ分散液を製造した。
【0096】
(実験例)
前記実施例1から4と、比較例1から3の炭素ナノチューブ分散液の粘度を測定し、これらを25℃で1週間放置した後の粘度を再び測定し、その結果を下記表1に示した。
【0097】
粘度は、粘度計(viscometer TV-22、TOKI社製)を用いて25℃、1rpmで測定された。
【0098】
【0099】
前記表1を参照すれば、ポリビニルピロリドンのみを高分子分散剤として含む比較例1の炭素ナノチューブ分散液に比べ、芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を高分子分散剤とともに含む実施例1から4の炭素ナノチューブ分散液は、水系溶媒に炭素ナノチューブを分散させた直後の粘度が低く、特に時間経過による炭素ナノチューブ分散液の粘度上昇が非常に効果的に抑制されていることを確認することができる。また、実施例1から4と比較例2の結果を比べると、炭素ナノチューブ分散液に含まれるアミンを含有する高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物の重量比及び総合計量が、炭素ナノチューブ分散液の粘度及び粘度の経時変化に影響を及ぼすことを確認することができる。具体的に、比較例2は、アミンを含有する高分子分散剤と芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を1:1の重量比で含んでおり、この場合は、アミンを含有する高分子分散剤のみを用いた場合に比べて初期粘度は下げることができたが、経時変化による粘度の上昇抑制の効果は事実上得ることができなかった。
【0100】
一方、比較例3は、ポリビニルピロリドンの代わりにカルボキシメチルセルロースを高分子分散剤として含み、アミンを含有する高分子分散剤でない高分子分散剤を、芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物とともに含んでいるところ、比較例1の結果に比べては若干の粘度の下落及び経時変化による粘度の上昇抑制の効果を示したものの、その効果が微細であり、高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を同一の含量で含んでいる実施例1と比較した時にはその結果の差がさらに明らかであった。
【0101】
したがって、水系溶媒に炭素ナノチューブを分散させた炭素ナノチューブ分散液が、アミンを含有する高分子分散剤及び芳香族環を2つ以上含むフェノール系化合物を一定の重量比で含む場合にのみ炭素ナノチューブ分散液が低い粘度を示し、経時変化による粘度の上昇が抑制され得ることを確認することができた。