(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤、該剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の前記がんの予防又は治療剤、該剤を含む組合せ医薬、並びに、がんの予防又は治療剤をスクリーニングする方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20220309BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220309BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220309BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220309BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220309BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220309BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220309BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220309BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20220309BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220309BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
A61K31/7088 ZNA
A61K31/7105
A61K39/395 N
A61K48/00
A61K45/00
A61P35/00
A61P43/00 121
C12Q1/02
C12Q1/68 100Z
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2021542198
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2021017019
【審査請求日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2020081351
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代がん医療創生研究事業」、「がん幹細胞を標的とした分子標的薬の創製」、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514150664
【氏名又は名称】TAK-Circulator株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】秋山 徹
(72)【発明者】
【氏名】林 寛敦
(72)【発明者】
【氏名】山角 祐介
(72)【発明者】
【氏名】小田 健昭
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-011593(JP,A)
【文献】国際公開第2011/036118(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/008750(WO,A1)
【文献】JIANG, H. et al.,Knockdown of hMex-3A by small RNA interference suppresses cell proliferation and migration in human,Molecular Medicine Reports,2012年,Vol.6,p.575-580
【文献】HUANG, L. et al.,The RNA-binding Protein MEX3B Mediates Resistance to Cancer Immunotherapy by Downregulating HLA-A Ex,Clinical Cancer Research,2018年,Vol.24, No.14,p.3366-3376,retrieved from the Internet<https://www.globenewswire.com/news-release/2019/04/23/1807895/0/en/ARCA-biopharma-Announces-Steering-Committee-of-Leading-International-Cardiology-and-Electrophysiology-Experts-for-PRECISION-AF-Phase-3-Clinical-Trial.html>
【文献】XUE, M. et al.,HOTAIR induces the ubiquitination of Runx3 by interacting with Mex3b and enhances the invasion of ga,Gastric Cancer,2018年,Vol.21,p.756-764
【文献】JASINSKI-BERGNER, S. et al.,The Role of the RNA-Binding Protein Family MEX-3 in Tumorigenesis,International Journal of Molecular Sciences,2020年07月,Vol.21, 5209,p.1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 45/00
A61K 48/00
C12Q 1/00
G01N 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤であって、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質、又はMEX3Bタンパク質の阻害物質を含
み、
前記低下物質が、MEX3B遺伝子に対する、アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNAi作用を有する核酸、miRNA、及び人工ヌクレアーゼよりなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記阻害物質が、MEX3Bタンパク質に対するアプタマー及び抗体よりなる群から選択される少なくとも1つである、剤。
【請求項2】
前記低下物質がMEX3B遺伝子中又は前記遺伝子の発現制御領域中の連続する部分配列に相補的な配列を有し、MEX3B遺伝子の発現を抑制することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
前記低下物質がMEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のコーディング領域中又は非翻訳領域中の連続する部分配列若しくはそれに相補的な配列を含み、かつMEX3B遺伝子の発現を抑制することができる、RNAi作用を有する核酸又はmiRNAである、請求項1に記載の剤。
【請求項4】
前記少なくとも1種のがんが、他の抗がん剤に対して難治性のがんであり、前記他の抗がん剤に対して難治性の患者に投与するための、請求項1~3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
他の抗がん剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
前記他の抗がん剤が、免疫チェックポイント阻害剤及びピリミジン系代謝拮抗剤よりなる群から選択される少なくとも1種の抗がん剤を含む、請求項4又は5に記載の剤。
【請求項7】
前記肺がんが非小細胞肺がんである、請求項1~6のいずれか1項に記載の剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤。
【請求項9】
免疫チェックポイント阻害剤及びピリミジン系代謝拮抗剤よりなる群から選択される少なくとも1種の抗がん剤を含む、請求項8に記載の剤。
【請求項10】
請求項5に記載の剤と、前記他の抗がん剤とを含む
、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種の予防又は治療用のコンビネーション医薬。
【請求項11】
すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤をスクリーニングする方法であって、
MEX3B遺伝子又はMEX3Bタンパク質の発現の低下、及びMEX3Bタンパク質の機能の低下よりなる群から選択される少なくとも1つを指標とする、方法。
【請求項12】
前記予防又は治療剤が他の抗がん剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の剤である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記指標が、MEX3B遺伝子を発現する細胞を被験物質の存在下及び非存在下において培養し、前記被験物質の有無に応じたMEX3B遺伝子又はMEX3Bタンパク質の発現の低下、及びMEX3Bタンパク質の機能の低下よりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記肺がんが非小細胞肺がんである、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤、該剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の前記がんの予防又は治療剤、該剤を含む組合せ医薬、並びに、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん細胞がPD-1、CTLA4等の免疫チェックポイント分子を介して免疫系によるがん細胞への攻撃を抑制していることが明らかになってきている。
抗PD-1抗体、抗CTLA4抗体などの免疫チェックポイント阻害剤は、悪性黒色腫、非小細胞肺がん等に著効を示す場合があることがわかってきている(例えば、特許文献1)。
しかし、免疫チェックポイント阻害剤を適用した症例のうち、有効な症例は20%以下程度であることが現状である。
したがって、従来の抗がん剤とは作用点、作用機序等が異なり、従来の抗がん剤とは異なる経路でがんを治療し得る新規抗がん剤の開発が望まれている。
【0003】
一方、MEX3Bタンパク質はRNA結合タンパク質であり、シグナルカスケード系において、p53等の下流にて機能することが知られ、種々の標的mRNAの3’UTR(エクソン中のアミノ酸をコードしない非翻訳領域)に結合してそれらmRNAの機能(つまりタンパク質への翻訳)又は安定性を制御していることが知られている。
例えば、特許文献2には、MEX3Bタンパク質が、インターロイキン6(IL-6)、IL-13、TNF(腫瘍壊死因子:Tumor Necrosis Factor)、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子:Granulocyte-Colony Stimulating Factor)、CXCL1、CXCL2、又はCXCL5等の炎症性サイトカインないしは炎症性ケモカインのmRNAに結合しそれらmRNAの機能(つまりタンパク質への翻訳)又は安定性に関与し、上記炎症性サイトカインないしはケモカインに起因する疾病の発症に関わる旨が開示されている。
また、MEX3Bタンパク質はアポトーシスの誘導に関わることが知られている(例えば、特許文献3、非特許文献1等)。
また、非特許文献2等には、気管支喘息マウスモデルを用い、Mex3Bに対するアンチセンス核酸の吸入により気道におけるMex3Bの発現を抑制することにより、気道炎症を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4409430号公報
【文献】国際公開2018/008750A1号
【文献】特許第4429269号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Oncogene.2018 Sep;37(38):5233-5247
【文献】Cell Rep.2016 Aug 30;16(9):2456-71.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そして、MEX3Bタンパク質は、がん化、増殖、分化等に関わる遺伝子の発現を制御していることが分かってきており、大腸がん等で発現が高いことも分かってきている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤、該剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の前記がんの予防又は治療剤、該剤を含む組合せ医薬、並びに、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤をスクリーニングする方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、MEX3B遺伝子をノックダウンすることにより、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんを抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下の通りである。
【0008】
本発明の第1の態様は、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤であって、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質、又はMEX3Bタンパク質の阻害物質を含む剤である。
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る予防又は治療剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤である。
本発明の第3の態様は、第1の態様に係る予防又は治療剤と、上記他の抗がん剤とを含むコンビネーション医薬(組合せ医薬)である。
本発明の第4の態様は、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤をスクリーニングする方法であって、MEX3B遺伝子又はMEX3Bタンパク質の発現の低下、及びMEX3Bタンパク質の機能の低下よりなる群から選択される少なくとも1つを指標とする、方法である。
また、本発明は、下記第5又は第6の態様であってもよい。
本発明の第5の態様は、第1の態様に係る予防又は治療剤を対象に投与することを含む、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療方法である。
本発明の第6の態様は、第1の態様に係る予防又は治療剤と、上記他の抗がん剤と組み合わせて対象に投与することを含む、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療方法である。
【発明の効果】
【0009】
第1の態様に係る予防又は治療剤は、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんを予防又は治療することができる。
第2の態様に係る予防又は治療剤は、作用点、作用機序等が異なる第1の態様に係る予防又は治療剤と組み合わせてすい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんを予防又は治療することができる。
第3の態様に係る組合せ医薬は、作用点、作用機序等が異なる他の抗がん剤では難治性のがんを予防又は治療することができ、又は、上記他の抗がん剤の投与量を低減することができ、好ましくは、第1の態様に係る予防又は治療剤と、他の抗がん剤との相乗効果を得ることができる。
第4の態様に係るすい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤をスクリーニングする方法は、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる膵がん細胞PK1の増殖抑制試験結果を示す図である。
【
図2】MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる膵がん細胞AsPC1の増殖抑制試験結果を示す図である。
【
図3】MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる非小細胞肺がん細胞の増殖抑制試験結果を示す図である。
【
図4】MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる胆管がん細胞の増殖抑制試験結果を示す図である。
【
図5】MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド及び免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせ投与による大腸がん細胞の増殖抑制試験手順及び結果を示す図である。
【
図6】MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド及びピリミジン系代謝拮抗剤の組み合わせ投与によるすい臓がん細胞の増殖抑制試験結果を示す図である。
【
図7】MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる肝臓がん細胞の増殖抑制試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
(MEX3B遺伝子)
MEX3B遺伝子はエクソン1、イントロン及びエクソン2を含み、この構成はヒト、マウス、その他の哺乳類において高度に保存されている。また、エクソン1及びエクソン2にはコーディング領域(CDS)及びUTRが含まれる。
エクソン中のアミノ酸をコードしない非翻訳領域(UTR)としては、開始コドンより上流に5’UTRが存在し、終始コドンより下流に3’UTRが存在する。
ヒトMEX3BのmRNAをコードするヒトMEX3B遺伝子は後記の配列番号1で表される配列を有する。
配列番号1において、437~2146番目の塩基配列がCDSであり、1~436番目の塩基配列が5’UTRであり、2147~3532番目の塩基配列が3’UTRである。
後記の配列番号2はヒトMEX3B遺伝子の転写開始点から上流約36キロ塩基の発現制御領域を含む配列を示す。後記の配列番号3はヒトMEX3B遺伝子のイントロン領域の836塩基を示す。ヒトMEX3B遺伝子において、上記イントロン領域は、配列番号1で表される配列における694番目の塩基と695番目の塩基との間に存在する。
配列番号7は、スプライシング前のヒトMEX3BのプレmRNAをコードする塩基配列を示す。配列番号7で表されるヒトMEX3BのプレmRNAをコードする配列における437~692番目及び1529~2982番目の塩基配列がCDSであり、1~436番目の塩基配列が5’UTRであり、2983~4368番目の塩基配列が3’UTRであり、693~1528番目の領域が、配列番号3で表されるヒトMEX3B遺伝子のイントロン領域に相当する。
【0013】
マウスMEX3BのmRNAをコードするマウスMEX3B遺伝子は後記の配列番号4で表される配列を有する。
配列番号4において、319~2049番目の塩基配列がCDSであり、1~318番目の塩基配列が5’UTRであり、2050~3416番目の塩基配列が3’UTRである。
また、MEX3Bタンパク質(例えば、後記の配列番号5又は6で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質)をコードする遺伝子は全てMEX3B遺伝子に属する。
MEX3B遺伝子は、MEX3Bタンパク質は種々のmRNAに結合してそれらmRNAの機能(つまりタンパク質への翻訳)又は安定性を制御する分子であることが知られている(例えば、Oncogene.2018 Sep;37(38):5233-5247)。
MEX3B遺伝子の具体例としては、以下の(a)又は(b)の何れかに記載の遺伝子が挙げられ、ヒト由来の遺伝子をそのまま用いることができ余計な形質転換等が要求されない観点から、下記(a)の遺伝子であることが好ましい。
(a)配列表の配列番号1又は4に記載の塩基配列からなる遺伝子、
(b)配列表の配列番号1又は4に記載の塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列からなり、かつ
p53により発現誘導される遺伝子、
細胞老化を誘導する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、
すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんを促進する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は、
炎症性サイトカインないしは炎症性ケモカイン(IL-6、IL-13、TNF、G-CSF、CXCL1、CXCL2、CXCL5等)の発現を誘導する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0014】
本明細書で言う「塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列」における「1もしくは数個」の範囲は特には限定されないが、好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、更に好ましくは1から5個程度を意味する。
上記のDNA変異の程度としては、例えば、配列表の配列番号1又は4に記載したMEX3B遺伝子の塩基配列と80%以上の相同性を有するものが挙げられ、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0015】
(MEX3B遺伝子の取得)
MEX3B遺伝子の取得方法は特に限定されない。本明細書の配列表の配列番号1、4又は7及び5又は6に記載した塩基配列およびアミノ酸配列の情報に基づいて適当なプローブやプライマーを調製し、それらを用いて、ヒトcDNAライブラリー(MEX3B遺伝子が発現される適当な細胞より常法に従い調製したもの)から所望クローンを選択することにより、MEX3B遺伝子を単離することができる。
【0016】
本明細書中上記した、上記(b)の遺伝子(変異遺伝子)は、化学合成、遺伝子工学的手法又は突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することもできる。例えば、配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAを利用し、これらDNAに変異を導入することにより変異DNAを取得することができる。具体的には、配列番号1又は4に記載の塩基配列を有するDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法等を用いて行うことができる。
【0017】
(MEX3Bタンパク質)
MEX3Bタンパク質は、以下の(a)又は(b)の何れかのタンパク質である。
(a)配列表の配列番号5又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列表の配列番号5又は6に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるか、又は、配列表の配列番号5又は6に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ
p53により発現誘導されるタンパク質、
細胞老化を誘導する活性を有するタンパク質、又は
すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんを促進する活性を有するタンパク質、若しくは、炎症性サイトカインないしは炎症性ケモカイン(IL-6、IL-13、TNF、G-CSF、CXCL1、CXCL2、CXCL5等)の発現を誘導する活性を有するタンパク質
【0018】
ヒト由来のタンパク質をそのまま用いることができ余計な形質転換等が要求されない観点から、上記(a)のタンパク質であることが好ましい。
配列番号5は、ヒトMEX3Bタンパク質のアミノ酸配列を表す。配列番号6は、マウスMEX3Bタンパク質のアミノ酸配列を表す。
【0019】
本明細書で言う「アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、好ましくは1から10個、より好ましくは1から5個、さらに好ましくは1から3個程度を意味する。
本明細書で言う「95%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、アミノ酸の相同性が95%以上であることを意味し、相同性は好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上である。
上述の通り、配列表の配列番号1又は4に記載の塩基配列を有する遺伝子と相同性の高い変異体遺伝子にコードされるタンパク質であって、特定のmRNAに対する結合活性を有する生理活性タンパク質は全て本発明の範囲内のものである。
タンパク質の構成要素となるアミノ酸の側鎖は、疎水性、電荷、大きさなどにおいてそれぞれ異なるものであるが、実質的にタンパク質全体の3次元構造(立体構造とも言う)に影響を与えないという意味で保存性の高い幾つかの関係が、経験的にまた物理化学的な実測により知られている。例えば、アミノ酸残基の置換については、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、Glyとアラニン(Ala)またはバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、Thrとセリン(Ser)またはAla、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)、等が挙げられる。
【0020】
従って、配列表の配列番号5又は6に記載したMEX3Bのアミノ酸配列上の置換、挿入、欠失等による変異タンパク質であっても、その変異がMEX3Bの3次元構造において保存性が高い変異であって、その変異タンパク質がMEX3Bと同様に、特定のmRNAに対する結合活性を有する生理活性タンパク質であれば、これらは全てMEX3Bの範囲内に属する。
MEX3Bタンパク質の取得方法については特に制限はなく、化学合成により合成したタンパク質でもよいし、生体試料又は培養細胞などから単離した天然由来のタンパク質でもよいし、遺伝子組み換え技術による作製した組み換えタンパク質でもよい。
【0021】
<すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤>
第1の態様に係るすい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤(以下、単に「第1の態様に係る予防又は治療剤」ともいう。)は、有効成分として、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質、又はMEX3Bタンパク質の阻害物質を含む。
有効成分として、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質を含むことが好ましく、MEX3B遺伝子の発現の低下物質を含むことがより好ましい。
【0022】
MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質としては、以下説明するアンチセンスオリゴヌクレオチド、RNAi作用を有する核酸(例えば、siRNA、shRNA)、miRNA、人工ヌクレアーゼ、低分子化合物等が挙げられる。
また、MEX3Bタンパク質の阻害物質としては、MEX3Bタンパク質の機能を阻害する限り任意の物質であってもよく、具体的には、高分子化合物(例えば、アプタマー等の核酸)、抗体、低分子化合物等が挙げられ、これらについては後述する。
【0023】
(アンチセンスオリゴヌクレオチド)
MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質としては、MEX3B遺伝子(エクソン中のCDS若しくはUTR又はイントロン)中又は上記遺伝子の発現制御領域中の連続する配列に相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられ、MEX3B遺伝子(エクソン中のCDS又はUTR)中又は上記遺伝子の発現制御領域中に含まれるオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドが好ましく、MEX3B遺伝子(エクソン中のCDS又はUTR)中に含まれるオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドがより好ましく、MEX3B遺伝子のUTR中に含まれるオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドが更に好ましく、MEX3B遺伝子の3’UTR中に含まれるオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドが特に好ましく、配列番号7で表されるヒトMEX3BのプレmRNAをコードする配列における3129~4293番目の塩基配列に含まれるオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドが最も好ましい。
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドが細胞内(好ましくは核内)に取り込まれると、MEX3B遺伝子の転写、翻訳等を抑制することにより、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんを予防又は治療することができる。
例えば、MEX3B遺伝子(エクソン中のCDS若しくはUTR又はイントロン)中又は上記遺伝子の発現制御領域中に含まれるオリゴヌクレオチドと、それと相補的な上記アンチセンスオリゴヌクレオチドとが、細胞内(好ましくは核内)に取り込まれた後にハイブリッド形成することにより、生じたハイブリッド二本鎖に特異的なヌクレアーゼ(例えば、RNアーゼH)によりヌクレオチド鎖を含むMEX3BのmRNAが分解されMEX3B遺伝子の転写、翻訳等を抑制することができる。
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、DNAであってもRNAであってもよいが、上記特異的なヌクレアーゼによりmRNAが切断される観点から、DNAであることが好ましい。
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、MEX3B遺伝子の塩基配列(エクソン中のCDS若しくはUTR又はイントロン)中又は上記遺伝子の発現制御領域中の、MEX3B遺伝子の発現を抑制するために要求される数の連続配列に相補的な配列を有せばよく、典型的には、連続する少なくとも10ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることが好ましく、少なくとも11ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることがより好ましく、少なくとも12ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることが更に好ましく、少なくとも13ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることが特に好ましく、少なくとも14ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることが最も好ましい。
また、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドの塩基長の上限値としては、MEX3B遺伝子の塩基配列(エクソン中のCDS若しくはUTR又はイントロン)中又は上記遺伝子の発現制御領域中の連続する40ヌクレオチド以下のオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることが好ましく、連続する30ヌクレオチド以下のオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることがより好ましく、連続する25ヌクレオチド以下のオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることが更に好ましく、連続する20ヌクレオチド以下のオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることが特に好ましく、連続する17ヌクレオチド以下のオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることがとりわけ好ましく、連続する16ヌクレオチド以下のオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることが最も好ましい。
【0024】
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、人工的に合成された人工核酸であってもなくてもよく、ホスホロチオエート構造、架橋構造及びアルコキシ構造よりなる群から選択される少なくとも1つの構造を有するヌクレオチドを少なくとも1つ含むアンチセンスオリゴヌクレオチドであることが好ましい。
例えば、ヌクレオチド同士をつなぐリン酸ジエステル結合部がホスホロチオエート構造を有することにより、ヌクレアーゼ耐性を獲得することができ、また、疎水性が向上することから細胞内又は核内への取り込みも向上することができる。
また、ヌクレオチドの糖部が、2’,4’-BNA(2’,4’-Bridged Nucleic Acid;別名LNA(Locked Nucleic Acid))、ENA(2’-O,4’-C-Ethylene-bridged Nucleic Acid)等の架橋構造、2’-O-メチル化、2’-O-メトキシエチル化(2’-MOE)等のアルコキシ構造を有することにより、ヌクレアーゼ耐性獲得及びmRNAの結合能を向上することができる。
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドにおいて、ヌクレオチド同士をつなぐ少なくとも1つのリン酸ジエステル結合部がホスホロチオエート構造を有することが好ましく、上記アンチセンスオリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合のうちの50%以上がホスホロチオエート構造を有することがより好ましく、上記アンチセンスオリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合のうちの70%以上がホスホロチオエート構造を有することが更に好ましく、上記アンチセンスオリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合のうちの90%以上がホスホロチオエート構造を有することが特に好ましく、上記アンチセンスオリゴヌクレオチド中の全てのリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート構造を有することが最も好ましい。
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドにおいて、少なくともいずれか一方の末端(好ましくは末端から1~3塩基)のヌクレオチドが架橋構造又はアルコキシ構造を有することが好ましく、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドの両末端のヌクレオチドが架橋構造又はアルコキシ構造を有することがより好ましく(いわゆるギャップマー(Gapmer)型アンチセンスオリゴヌクレオチド)、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドの両末端において、独立して、末端から4塩基までが架橋構造又はアルコキシ構造を有することが更に好ましく、末端から2又は3塩基が架橋構造又はアルコキシ構造を有することが特に好ましい。
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドにおいて、任意の位置のシトシン(シチジン)の5位がメチル化修飾されていてもいなくてもよい。
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA合成機及び公知の有機合成技術を用いて常法により製造することができる。
【0025】
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドの細胞内(好ましくは核内)への取り込みは、自由取り込み(Free uptake)であってもよい。
第1の態様に係る予防又は治療剤は、細胞内への取り込みを向上させる観点から、任意のトランスフェクション剤を更に含んでいてもよいが含んでいなくてもよい。
トランスフェクション剤としては、ポリエチレンイミン(PEI)を含むトランスフェクション剤が挙げられ、直鎖状PEIを含むトランスフェクション剤が好ましい。
直鎖状PEIは、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)の加水分解により合成され得る。
直鎖状PEIを含むトランスフェクション剤としては、jetPEI(登録商標;ポリプラストランスフェクション社製)として市販されているトランスフェクション剤を使用することができ、in-vivo-jetPEI(登録商標)として市販されているトランスフェクション剤を使用することが好ましい。例えば、N/P比(核酸のリン酸エステル1つ当りのPEIの窒素残基)が1~30の量(好ましくは1~10の量、より好ましくは2~5の量)にて、上記トランスフェクション剤を含有させることができる。
【0026】
第1の態様に係る予防又は治療剤は、細胞内への取り込みを向上させる観点から、任意のドラッグデリバリーシステム(DDS)若しくはDDS剤を更に含んでいてもよいが、含んでいなくてもよい。
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドが任意のドラッグデリバリーシステム(DDS)若しくはDDS剤に含有されていてもよいが含んでいなくてもよい。
DDS剤としては、例えば、粒径300nm以下(好ましくは粒径200nm以下、より好ましくは粒径100nm以下)の粒子を含むDDS剤が挙げられる。
上記粒子はコアシェル構造を有する単分散性の粒子が好ましく、上記コアシェル構造は自己組織化により形成されることが好ましい。
【0027】
上記粒子は高分子ミセルを含むことが好ましい。上記高分子ミセルとしては、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリアミノ酸を含むブロック共重合体を含む高分子ミセルが挙げられ、上記ブロック共重合体と上記アンチセンスオリゴヌクレオチドとの間で形成される高分子ミセルが好ましい。
上記DDS剤は、標的(好ましくは標的細胞)に結合し得るリガンド分子を含むことが好ましく、上記PEGに(好ましくは、上記PEGの先端に)リガンド分子が結合している高分子ミセルを含むことがより好ましい。
上記リガンド分子としては、各種がん細胞を標的とする、アルギニン、グリシン及びアスパラギン酸を含む環状RGD(cRGD)ペプチド、抗体フラグメント、ラクトース、葉酸、フェニルボロン酸等が挙げられ、cRGDペプチドが好ましい。
上記DDS剤として、Miyata K.et al.React.Funct.Polym.71,227-234(2011)、Miyata K.Drug Discov.Ther.10,236-247(2016)等に記載のDDS剤を使用し得る。
【0028】
第1の態様に係る予防又は治療剤は、細胞内への取り込みを向上させる観点から、リポフェクション用担体を更に含んでいてもよいが含んでいなくてもよい。
リポフェクション用担体としては、細胞膜との親和性の高い担体(例えばリポソーム、コレステロール等)が挙げられ、リポフェクトアミン又はリポフェクチンが好ましく、リポフェクトアミンがより好ましい。
【0029】
例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、単独で、又は、上述したトランスフェクション剤、DDS剤、リポフェクション用担体と一緒に対象(患者、未発症者等)の患部又は全身に注射など(腫瘍内投与、静脈投与、腹腔内投与、局所経皮投与、吸入投与等)により投与し、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんを予防又は治療することができる。
また、アンチセンスオリゴヌクレオチドがホスホロチオエート構造、架橋構造及びアルコキシ構造よりなる群から選択される少なくとも1つの構造を有することと、上記リポフェクション用担体とを組み合わせて用いることにより対象(患者、未発症者等)の細胞内又は核内への取り込みを向上させることができる。
有効成分であるアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与量としては、一般的には一回につき体重1kgあたり0.1μg~100mg程度の範囲である。
【0030】
また、アンチセンスオリゴヌクレオチドの細胞内(好ましくは核内)への取り込みの1つの実施態様としては、適当なベクター又はウイルス中に挿入し、更に適当なパッケージング細胞に導入してベクター又はウイルスを調製した後に該ベクター又はウイルスを標的がん細胞に感染させる態様であってもよい。
上記適当なベクター又はウイルスの種類は特に限定されず、例えば、自律的に複製するベクター又はウイルスでもよいが、パッケージング細胞に導入された際にパッケージング細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであることが好ましい。
【0031】
また、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、必要に応じて、例えばヒト成長ホルモンターミネーター又は真菌宿主についてはTPI1ターミネーター若しくはADH3ターミネーターのような適切なターミネーターに機能的に結合されていてもよい。組み換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル(例えばSV40またはアデノウイルス5E1b領域由来のもの)、転写エンハンサー配列(例えばSV40エンハンサー)及び翻訳エンハンサー配列(例えばアデノウイルスVARNAをコードするもの)のような要素を有していてもよい。
組み換えベクターは更に、該ベクター又はウイルスがパッケージング細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点が挙げられる。
【0032】
上記アンチセンスオリゴヌクレオチド又はそれを含むベクター若しくはウイルスを導入して上記ベクター若しくはウイルスを調製するパッケージング細胞としては、高等真核細胞、細菌、酵母、真菌等が挙げられるが、哺乳類細胞であることが好ましい。
哺乳類細胞の例としては、HEK293細胞(例えば、HEK293FT細胞、HEK293T細胞)等が挙げられる。哺乳類細胞を形質転換し、該細胞に導入された遺伝子を発現させる方法も公知であり、例えば、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法等を用いることができる。
【0033】
(RNAi作用を有する核酸)
MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質として、MEX3B遺伝子の発現を抑制することができるRNAi作用を有する核酸も好ましい例として挙げられる。上記RNAi作用を有する核酸は、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のコーディング領域中又は非翻訳領域中の連続する部分配列若しくはそれに相補的な配列を含むことが好ましい。
RNAi(RNAinterference)とは、ある標的遺伝子の一部をコードするmRNAの一部を二本鎖にしたRNA(double strandedRNA:dsRNA)を細胞へ導入すると、標的遺伝子の発現が抑制される現象を言う。
RNAi作用を有する核酸としては、siRNA(small interfering RNA)、shRNA(small hairpin RNA)等が挙げられる。以下、siRNA、shRNAについて説明する。
【0034】
(1)siRNA
siRNAとしては、RNAi作用によりMEX3B遺伝子の発現を抑制することができる二本鎖RNA若しくは上記二本鎖RNAをコードするDNAが挙げられ、RNAi作用によりMEX3B遺伝子の発現を抑制することができ、かつMEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中の連続する部分配列を有する二本鎖RNA若しくは上記二本鎖RNAをコードするDNAが好ましい。
siRNAとしてより具体的には、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの、MEX3B遺伝子の発現を抑制するために要求される数の連続配列に相補的な配列を有せばよく、典型的には、連続する少なくとも17ヌクレオチドを含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAが好ましく、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のUTRの連続する少なくとも17ヌクレオチドを含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAがより好ましく、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中の3’UTRの連続する少なくとも17ヌクレオチドを含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAが更に好ましく、配列番号7で表されるヒトMEX3BのプレmRNAをコードする配列における3129~4293番目の塩基配列から転写されるRNAの塩基配列中の連続する少なくとも17ヌクレオチドを含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAが特に好ましい。
【0035】
また、siRNAとしては、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの、MEX3B遺伝子の発現を抑制するために要求される数の連続配列に相補的な配列を有せばよく、典型的には、連続する少なくとも18ヌクレオチドを含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAであることが好ましく、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する少なくとも19ヌクレオチドを含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAであることがより好ましく、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する少なくとも20ヌクレオチドを含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAであることが更に好ましく、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する少なくとも21ヌクレオチドを含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAであることが特に好ましい。
siRNAとしては、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する30ヌクレオチド以下を含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAであることが好ましく、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する25ヌクレオチド以下を含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAであることがより好ましい。
【0036】
上記二本鎖RNAをコードするDNAとしては、例えば、MEX3Bの部分配列の逆向き反復配列を有するDNAを挙げることができる。
このような逆向き反復配列を有するDNAを哺乳動物の細胞に導入することにより、細胞内でMEX3Bの部分配列の逆向き反復配列を発現させることができ、これによりRNAi作用により標的遺伝子(MEX3B)の発現を抑制することができる。
逆向き反復配列とは、標的遺伝子(MEX3B)の部分配列及びそれに相補的な逆向きの配列が適当な配列を介して並列している配列を言う。具体的には、標的遺伝子の部分配列が、以下に示すn個の塩基配列から成る2本鎖を有する場合、
5’-X1X2......Xn-1Xn-3’
3’-Y1Y2......Yn-1Yn-5’
その逆向き配列は以下の配列を有する。
5’-YnYn-1......Y2Y1-3’
3’-XnXn-1......X2X1-5’
(ここで、Xで表される塩基とYで表される塩基において、添え字の数字が同じものは互いに相補的な塩基である)
【0037】
逆向き反復配列は上記2種の配列が適当な配列を介した配列である。逆向き反復配列としては、標的遺伝子の部分配列がそれに相補的な逆向き配列の上流にある場合と、逆向き配列が、それに相補的な標的遺伝子の部分配列の上流にある場合の2つの場合が考えられる。本発明で用いる逆向き反復配列は上記の何れでもよいが、好ましくは、逆向き配列がそれに相補的な標的遺伝子の部分配列の上流に存在する。
【0038】
(2)shRNA
shRNAとしては、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中の部分配列及びそれに相補的な逆向きの配列を、ヘアピンループを形成し得る配列を介して並列している逆向き反復配列を有する一本鎖RNA若しくは上記RNAをコードするDNAが挙げられる。
shRNAは、shRNAを発現するベクター若しくはウイルスを細胞に導入する方法に好適であり、細胞内において、上記siRNAと同様に機能し得る。
【0039】
shRNAについて、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中の部分配列として、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの、MEX3B遺伝子の発現を抑制するために要求される数の連続配列に相補的な配列であればよく、典型的には、連続する少なくとも17ヌクレオチドを含む部分配列が好ましく、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のUTRの連続する少なくとも17ヌクレオチドを含む部分配列がより好ましく、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中の3’UTRの連続する少なくとも17ヌクレオチドを含む部分配列が更に好ましく、配列番号7で表されるヒトMEX3BのプレmRNAをコードする配列における3129~4293番目の塩基配列から転写されるRNAの塩基配列中の連続する少なくとも17クレオチドを含む部分配列が特に好ましい。
【0040】
また、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中の部分配列としては、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する少なくとも18ヌクレオチドを含む部分配列であることが好ましく、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する少なくとも19ヌクレオチドを含む部分配列であることがより好ましく、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する少なくとも20ヌクレオチドを含む部分配列であることが更に好ましく、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する少なくとも21ヌクレオチドを含む部分配列であることが特に好ましい。
MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中の部分配列としては、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する30ヌクレオチド以下を含む部分配列であることが好ましく、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する25ヌクレオチド以下を含む部分配列であることがより好ましい。
【0041】
ヘアピンループを形成し得る配列の長さは、ヘアピンループを形成できる限り特には限定されないが、好ましくは0~300bp、より好ましくは1~100bp、更に好ましくは2~75bp、特に好ましくは3~50bpである。この配列の中には制限酵素部位が存在していてもよい。
【0042】
哺乳動物で作動可能なプロモーター配列の下流に標的遺伝子の逆向き反復配列を組み込むことにより、哺乳動物の細胞内において標的遺伝子の逆向き反復配列を発現させることができる。上記プロモーター配列は、哺乳動物で作動可能であれば特に限定されない。
【0043】
(miRNA)
MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質として、MEX3B遺伝子の発現を抑制することができるmiRNA(マイクロRNA)も好ましい例として挙げられる。
miRNAは、mRNAの3’UTRに対合してMEX3B遺伝子の翻訳を抑制することができる。より具体的には、miRNAは、ヘアピン様構造のRNA前駆体として転写され、RNaseIII切断活性を有するdsRNA切断酵素により切断され、RISC若しくはRISC様タンパク質複合体に取り込まれ、mRNAの翻訳を抑制することができる。
本発明において、miRNAは、pri-miRNA(primary miRNA)、pre-miRNA、及び成熟miRNAのいずれをも包含し得る。
本発明において、miRNAは、MEX3B遺伝子から転写されるRNAの3’UTR中の連続する部分配列若しくはそれに相補的な配列を含むことが好ましく、配列番号7で表されるヒトMEX3BのプレmRNAをコードする配列における3129~4293番目の塩基配列から転写されるRNAの塩基配列中の部分配列若しくはそれに相補的な配列を含むことがより好ましい。
上記部分配列の長さとしては特に制限されず、7塩基以上が好ましく、8塩基以上がより好ましく、9塩基以上が更に好ましく、11塩基以上が更により好ましく、13塩基以上が特に好ましく、15塩基以上がとりわけ好ましく、17塩基以上が最も好ましい。
上記部分配列の長さの上限としては特に制限されず、50塩基以下が好ましく、40塩基以下がより好ましく、30塩基以下が更に好ましく、25塩基以下が特に好ましく、23塩基以下が最も好ましい。
また、pri-miRNAの長さは通常数百~数千塩基であり、pre-miRNAの長さは通常50~80塩基である。
【0044】
また、上記RNAi作用を有する核酸又はmiRNAの細胞内(好ましくは核内)への取り込みは、自由取り込み(Free uptake)であってもよい。
上記したRNAi作用を有する核酸又はmiRNAの細胞内への取り込みの1つの実施態様としては、適当なベクター又はウイルス中に挿入し、更に適当なパッケージング細胞に導入してベクター又はウイルスを調製した後に標的がん細胞に感染させる態様であってもよい。
上記適当なベクター又はウイルスの種類は特に限定されず、例えば、自律的に複製するベクター又はウイルスでもよいが、パッケージング細胞に導入された際にパッケージング細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであることが好ましい。
上記適当なベクター又はウイルスとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322、pUC118その他)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110、pSH19その他)、さらに、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、バクテリオファージ、ワクシニアウイルス等の動物ウイルス等が挙げられる。組み換えに際しては、適当な合成DNAアダプターを用いて翻訳開始コドンや翻訳終止コドンを付加することも可能である。
【0045】
また、上記したRNAi作用を有する核酸又はmiRNAは、必要に応じて、例えばヒト成長ホルモンターミネーター又は真菌宿主についてはTPI1ターミネーター若しくはADH3ターミネーターのような適切なターミネーターに機能的に結合されていてもよい。組み換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル(例えばSV40またはアデノウイルス5E1b領域由来のもの)、転写エンハンサー配列(例えばSV40エンハンサー)及び翻訳エンハンサー配列(例えばアデノウイルスVARNAをコードするもの)のような要素を有していてもよい。
組み換えベクター又はウイルスは更に、該ベクター又はウイルスがパッケージング細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点が挙げられる。
組み換えベクター又はウイルスはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはシゾサッカロマイセス・ポンベTPI遺伝子等のようなその補体がパッケージング細胞に欠けている遺伝子、又は例えばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン若しくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。
【0046】
上記したRNAi作用を有する核酸又はmiRNA又はそれを含むベクター若しくはウイルスを導入して上記ベクター若しくはウイルスを調製するパッケージング細胞としては、高等真核細胞、細菌、酵母、真菌等が挙げられるが、哺乳類細胞であることが好ましい。
哺乳類細胞の例としては、HEK293細胞(例えば、HEK293FT細胞、HEK293T細胞)等が挙げられる。哺乳類細胞を形質転換し、該細胞に導入された遺伝子を発現させる方法も公知であり、例えば、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法等を用いることができる。
【0047】
上記したRNAi作用を有する核酸又はmiRNAには、アンチセンスオリゴヌクレオチドにおいて上述したトランスフェクション剤、リポフェクション用担体、DDS剤を、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドと同様に適用し得る。
【0048】
例えば、上記したRNAi作用を有する核酸又はmiRNAは、単独で、又は、細胞への取り込みを助けるために使用される、上述した、トランスフェクション剤、DDS剤、リポフェクション用担体と一緒に対象(患者、未発症者等)の患部又は全身に注射などにより投与(腫瘍内投与、静脈投与、腹腔内投与、局所経皮投与、吸入投与等)し、対象(患者、未発症者等)の細胞に取り込ませることができる。有効成分である二本鎖RNAまたはDNAの投与量としては、一般的には一回につき体重1kgあたり0.1μg~10mg程度の範囲である。
【0049】
(人工ヌクレアーゼ)
MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質としては、CRISPR(Clusterd Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)/Casヌクレアーゼ等のゲノム編集用の人工ヌクレアーゼも挙げられ、Transcription Activator-Like Effector Nuclease(TALEN)及びジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を用いた人工制限酵素(人工ヌクレアーゼ)であってもよい。
TALENは4種類の塩基(A、T、G及びC)のいずれかを認識して結合する4種類のユニットを重合させてなるドメインであるTALEs及びDNA切断ドメインを含む人工ヌクレアーゼであり、TALEsがMEX3B遺伝子中の少なくとも部分配列を認識し結合する。
ZFNはジンクフィンガードメイン及びDNA切断ドメインを含むキメラタンパク質の形態の人工ヌクレアーゼである。ジンクフィンガードメインは、特異的な3塩基配列を認識するジンクフィンガーユニットを、複数重合した構造を有し、3の倍数のDNA配列を認識し結合するドメインであり、ジンクフィンガードメインがMEX3B遺伝子中の少なくとも部分配列を認識し結合する。
【0050】
CRISPR/Casヌクレアーゼは、ガイドRNA及びCasヌクレアーゼ(好ましくはCas9)を含む。
ガイドRNAとは、DNA切断酵素であるCasヌクレアーゼと結合して、Casヌクレアーゼを標的DNA(MEX3B遺伝子中の少なくとも部分配列)に導く機能を有するRNAを意味する。ガイドRNAは、その5’末端に標的DNA(MEX3B遺伝子中の少なくとも部分配列)に相補的な配列を有し、該相補的な配列を介して標的DNAに結合することにより、Casヌクレアーゼを標的DNAに導く。Casヌクレアーゼは、DNAエンドヌクレアーゼとして機能し、標的DNAが存在する部位でDNAを切断し、例えば、MEX3B遺伝子の発現を特異的に低下させることができる。
標的となるMEX3B遺伝子中の少なくとも部分配列は、MEX3B遺伝子(エクソン中のCDS若しくはUTR又はイントロン)中又は上記遺伝子の発現制御領域中に含まれるオリゴヌクレオチドが挙げられ、MEX3B遺伝子の発現を確実に低下させる観点から、MEX3B遺伝子(エクソン中のCDS又はUTR)中又は上記遺伝子の発現制御領域中に含まれるオリゴヌクレオチドが好ましく、MEX3B遺伝子(エクソン中のCDS)中又は上記遺伝子の発現制御領域中に含まれるオリゴヌクレオチドがより好ましく、MEX3B遺伝子(エクソン中のCDS)中に含まれるオリゴヌクレオチドが更に好ましく、MEX3B遺伝子(エクソン1中のCDS)中に含まれるオリゴヌクレオチドが特に好ましく、MEX3B遺伝子の開始コドンを含むオリゴヌクレオチドが最も好ましい。
標的となるMEX3B遺伝子中の部分配列は、15~25塩基であることが好ましく、17~22塩基がより好ましく、18~21塩基がさらに好ましく、20塩基であることが特に好ましい。
【0051】
MEX3B遺伝子に特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、及びCasヌクレアーゼをコードする核酸もしくはCasヌクレアーゼを含有する組成物を、MEX3B遺伝子を含む真核細胞又は真核生物にトランスフェクトすることによりMEX3B遺伝子の発現を低下させることができる。
Casヌクレアーゼをコードする核酸又はCasヌクレアーゼ、及びガイドRNA又はガイドRNAをコードするDNAは、当技術分野において公知の様々な方法、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、DEAE-デキストラン処理、リポフェクション、ナノ粒子媒介性トランスフェクション、タンパク質形質導入ドメイン媒介性形質導入、ウイルス媒介性遺伝子送達、およびプロトプラストへのPEG媒介性トランスフェクションなどによって、細胞内に移入されうるが、これらに限定されない。また、Casヌクレアーゼをコードする核酸又はCasヌクレアーゼ及びガイドRNAは、注入などの遺伝子もしくはタンパク質を投与するための、当技術分野において公知の様々な方法によって、生物内に移入されうる。Casヌクレアーゼをコードする核酸又はCasタンパク質は、ガイドRNAとの複合体の形態で、もしくは別々に、細胞内に移入されうる。Tatなどのタンパク質形質導入ドメインと融合されたCasヌクレアーゼもまた、細胞内に効率的に送達され得る。
好ましくは、真核細胞又は真核生物は、Cas9ヌクレアーゼ及びガイドRNAが同時トランスフェクトまたは連続トランスフェクトされる。
連続トランスフェクションは、最初にCasヌクレアーゼをコードする核酸によるトランスフェクション、続いて裸のガイドRNAによる第二のトランスフェクションによって行われうる。好ましくは、第二のトランスフェクションは、3、6、12、18、24時間後であるが、それらに限定されない。
ガイドRNAの発現は、ガイドRNA発現ユニットを用いてもよい。ガイドRNA発現ユニットとしては、標的配列(MEX3B遺伝子の部分配列)とガイドRNAとを含むCRISPR-Cas9系の転写ユニットとすることが好ましく、ガイドRNAを発現するためのプロモーター領域(RNAポリメラーゼIIIのプロモーター(例えば、U6プロモーターおよびH1プロモーターから選択されるプロモーター))、標的配列(MEX3B遺伝子)及びガイドRNAを有することが好ましく、プロモーター、標的配列(MEX3B遺伝子の少なくとも部分配列)に相補的な配列及びガイドRNAがシームレスに連結していることがより好ましい。
CRISPR/Casヌクレアーゼは、オフターゲットを防ぐために、ニッカーゼとして二本鎖DNAの一方の鎖のみを切断するCas9変異体を用いることもできる。一本鎖切断型Cas9変異体としては、例えば、Cas9(D10A)が挙げられる。一本鎖切断型Cas9変異体は例えば、標的DNAの一方の鎖に相補的な標的配列を有するガイドRNAと、そのごく近傍の他方の鎖に相補的な標的配列を有するガイドRNAとを組み合わせて用いると、一方の鎖を20塩基の特異性で切断し、他方の鎖をさらに20塩基の特異性で切断するため、併せて40塩基の特異性でDNAを切断することになり、標的の特異性を大幅に向上させることが可能となる。
【0052】
有効成分である上記人工ヌクレアーゼ又は上記人工ヌクレアーゼをコードする核酸の投与量としては、一般的には一回につき体重1kgあたり0.1μg~10mg程度の範囲である。
【0053】
(MEX3Bタンパク質に選択的に結合するアプタマー又は抗体)
MEX3Bタンパク質の阻害物質としては、MEX3Bタンパク質の機能を阻害する限り、高分子化合物(例えば、アプタマー等の核酸)、抗体、低分子化合物等任意の物質であってもよい。
MEX3Bタンパク質の阻害物質の好ましい態様の1つとして、MEX3Bタンパク質に選択的に結合するアプタマーを用いたすい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤が挙げられる。
アプタマーとは、一本鎖RNA又はDNAで構成され、その立体構造により標的タンパク質と結合して機能を阻害する核酸医薬品をいう。
アプタマーは標的タンパク質に対する結合性及び特異性が高く、免疫原性が低く、化学合成により製造することができ、保存安定性も高い。
MEX3Bタンパク質に選択的に結合するアプタマーの塩基長としては、MEX3Bタンパク質に特異的に結合する限り特に制限はないが、15~60塩基であることが好ましく、20~50塩基であることがより好ましく、25~47塩基であることが更に好ましく、26~45塩基であることが特に好ましい。
MEX3Bタンパク質に選択的に結合するアプタマーはSELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法により取得することができる。
【0054】
MEX3Bタンパク質の阻害物質のもう1つの好ましい態様として、MEX3Bタンパク質に選択的に結合する抗体を用いたすい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤が挙げられる。上記MEX3Bタンパク質に特異的に結合できるものであれば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれでもよい。
ポリクローナル抗体は、抗原を免疫した動物から得られる血清を分離、精製することにより調製することができる。モノクローナル抗体は、抗原を免疫した動物から得られる抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを作製し、該ハイブリドーマを培養するか、動物に投与して該動物を腹水癌化させ、上記の培養液または腹水を分離、精製することにより調製することができる。
モノクローナル抗体は、該抗体産生細胞と非ヒト哺乳動物由来の骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを作製し、該ハイブリドーマを培養するか、動物に投与して該動物を腹水癌化させ、該培養液または腹水を分離、精製することにより調製することができる。抗体産生細胞としては、脾細胞、リンパ節、末梢血中の抗体産生細胞を使用することができ、特に好ましくは脾細胞を使用することができる。
【0055】
抗体をヒトに投与する目的で使用する場合は、免疫原性を低下させるために、ヒト型化抗体あるいはヒト化抗体を用いることが好ましい。これらのヒト型化抗体やヒト化抗体は、トランスジェニックマウスなどの哺乳動物を用いて作製することができる。ヒト型化抗体については、例えば、Morrison,S.L.et al.〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984)〕、野口浩〔医学のあゆみ 167:457-462(1993)〕に記載されている。ヒト化キメラ抗体は、マウス抗体のV領域とヒト抗体のC領域を遺伝子組換えにより結合し、作製することができる。ヒト化抗体は、マウスのモノクローナル抗体から相補性決定部位(CDR)以外の領域をヒト抗体由来の配列に置換することによって作製できる。
また、抗体は、固相担体などの不溶性担体上に固定された固定化抗体として使用したり、標識物質で標識した標識抗体として使用することができる。このような固定化抗体や標識抗体も全て本発明の範囲内である。
【0056】
上記した抗体のうち、MEX3Bタンパク質に選択的に(好ましくは特異的に)結合してその機能を阻害できる抗体については、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤として使用することができる。
【0057】
抗体を第1の態様に係る予防又は治療剤として医薬組成物の形態で使用する場合には、上記抗体を有効成分として使用し、さらに薬学的に許容可能な担体、希釈剤(例えば、免疫原性アジュバントなど)、安定化剤または賦形剤などを用いて医薬組成物を調製することができる。抗体を含む予防又は治療剤は、濾過滅菌および凍結乾燥し、投薬バイアルまたは安定化水性調製物中に投薬形態に製剤化することができる。
【0058】
第1の態様に係る予防又は治療剤において、上記すい臓がんとして具体的には、すい臓腺がん等が挙げられ、上記肺がんとしては、非小細胞肺がん等が挙げられ、上記大腸がんとしては、結腸がん等が挙げられ、上記肝臓がんとしては、肝細胞がん等が挙げられる。
対象(患者、未発症者等)への投与は、たとえば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などの当業者に公知の方法により行うことができる。投与量は、対象(患者、未発症者等)の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。有効成分である抗体の投与量としては、一般的には一回につき体重1kgあたり0.1μg~100mg程度の範囲である。
【0059】
第1の態様に係る予防又は治療剤において、上記少なくとも1種のがんは、他の抗がん剤に対して難治性のがんでなくてもよいが、他の抗がん剤に対して難治性のがんとすることができ、第1の態様に係る予防又は治療剤は、他の抗がん剤とは、作用点、作用機序等が異なることから、上記難治性のがんに対して有効となることができ、又は、従来の他の抗がん剤の投与量を低減(すなわち、従来の他の抗がん剤による副作用を低減、投薬コンプライアンスを改善)することができる。
すなわち、第1の態様に係る予防又は治療剤は、上記難治性のがんに罹患した患者に投与するための剤でなくてもよいが、上記難治性のがんに罹患した患者に投与するための剤とすることができる。
上記他の抗がん剤としては、任意の抗がん剤が挙げられ、免疫チェックポイント阻害剤及びピリミジン系代謝拮抗剤よりなる群から選択される少なくとも1種の抗がん剤が好ましい。
免疫チェックポイント阻害剤としては、免疫チェックポイント分子の機能(例えば、免疫チェックポイント分子同士の結合(例えば、受容体及びリガンド間の結合))を阻害する剤が挙げられる。
上記免疫チェックポイント分子としては、受容体であるPD-1、CTLA4等、リガンドであるPD-L1、PD-L2、CD80/86等が挙げられる。
上記免疫チェックポイント阻害剤としては、これら免疫チェックポイント分子に選択的(好ましくは特異的)に結合する物質(例えば、抗体、アプタマーなど)が挙げられる。
上記免疫チェックポイント阻害剤として、具体的には、抗PD-1抗体、抗CTLA4抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、抗CD80/86抗体などが挙げられる。
【0060】
ピリミジン系代謝拮抗剤としては、生体内において核酸合成を阻害する剤、生体内において核酸合成を阻害する剤に変化する剤等が挙げられ、具体的には、ゲムシタビン(略号:Gem)、シタラビン、カペシタビン、TS-1(登録商標)、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1)、テガフール・ウラシル、フルオロウラシル等が挙げられる。
【0061】
第1の態様に係る予防又は治療剤は、上記他の抗がん剤と組み合わせるコンビネーション医薬(組み合わせ医薬)用の剤に関するものでもあり、上記他の抗がん剤の投与量を低減(すなわち、従来の他の抗がん剤による副作用を低減、投薬コンプライアンスを改善)することができる。
また、第1の態様に係る予防又は治療剤は、上記少なくとも1種のがんが、上記他の抗がん剤に対して難治性のがんであり、上記他の抗がん剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の剤とすることもでき、すなわち、上記難治性のがんに罹患した患者に投与するためのコンビネーション医薬用の剤とすることができる。
【0062】
第1の態様に係る予防又は治療剤は、経口または非経口的に全身又は局所的に投与することができる。非経口的な投与方法としては、腫瘍内注射、点滴などの静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射、筋肉内注射などを挙げることができる。対象(患者、未発症者等)の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。その投与量は、年齢、投与経路、投与回数により異なり、当業者であれば適宜選択できる。
非経口投与に適した製剤形態として、例えば安定剤、緩衝剤、保存剤、等張化剤等の添加剤を含有したものは挙げられ、さらに薬学的に許容される担体や添加物を含むものでもよい。このような担体及び添加物の例として、水、有機溶剤、高分子化合物(コラーゲン、ポリビニルアルコールなど)、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ツルビトール、ラクトース、界面活性剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
<第1の態様に係る予防又は治療剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤>
第2の態様に係る予防又は治療剤は、第1の態様に係る予防又は治療剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤である。
第2の態様に係る予防又は治療剤は、有効成分として、任意の抗がん剤を含むことができ、第1の態様に係る予防又は治療剤とは作用点、作用機序等が異なる抗がん剤を含むことが好ましく、免疫チェックポイント阻害剤及びピリミジン系代謝拮抗剤よりなる群から選択される少なくとも1種の抗がん剤を含むことがより好ましい。
免疫チェックポイント阻害剤、及びピリミジン系代謝拮抗剤の具体例及び好ましい例としては上述の通りである。
第2の態様に係る予防又は治療剤は、経口または非経口的に全身又は局所的に投与することができる。非経口的な投与方法としては、腫瘍内注射、点滴などの静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射、筋肉内注射などを挙げることができる。対象(患者、未発症者等)の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。その投与量は、年齢、投与経路、投与回数により異なり、当業者であれば適宜選択できる。
非経口投与に適した製剤形態として、例えば安定剤、緩衝剤、保存剤、等張化剤等の添加剤を含有したものは挙げられ、さらに薬学的に許容される担体や添加物を含むものでもよい。このような担体及び添加物の例として、水、有機溶剤、高分子化合物(コラーゲン、ポリビニルアルコールなど)、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ツルビトール、ラクトース、界面活性剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
<コンビネーション医薬>
第3の態様に係るコンビネーション医薬は、第1の態様に係る予防又は治療剤と、他の抗がん剤とを含む。第3の態様に係るコンビネーション医薬は、上記他の抗がん剤の投与量を低減(すなわち、他の抗がん剤による副作用を低減、投薬コンプライアンスを改善)することができる。
また、第3の態様に係るコンビネーション医薬は、上記少なくとも1種のがんが、上記他の抗がん剤に対して難治性のがんであり、上記難治性のがんに罹患した患者に投与するためのコンビネーション医薬とすることもできる。
他の抗がん剤としては、任意の抗がん剤が挙げられ、第1の態様に係る予防又は治療剤とは作用点、作用機序等が異なる抗がん剤が好ましく、免疫チェックポイント阻害剤及びピリミジン系代謝拮抗剤よりなる群から選択される少なくとも1種の抗がん剤がより好ましい。
免疫チェックポイント阻害剤及びピリミジン系代謝拮抗剤の具体例及び好ましい例としては上述の通りである。
【0065】
第3の態様に係るコンビネーション医薬は、第1の態様に係る予防又は治療剤と、他の抗がん剤とを混合して投与してもよいし、第1の態様に係る予防又は治療剤と、他の抗がん剤と別々であるが同時期に投与してもよい。
第3の態様に係るコンビネーション医薬において、第1の態様に係る予防又は治療剤の投与経路と、他の抗がん剤の投与経路とは、同一であっても異なっていてもよく、投与量も同一であっても異なっていてもよい。
第3の態様に係るコンビネーション医薬は、経口または非経口的に全身又は局所的に投与することができる。非経口的な投与方法としては、腫瘍内注射、点滴などの静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射、筋肉内注射などを挙げることができる。対象(患者、未発症者等)の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。その投与量は、年齢、投与経路、投与回数により異なり、当業者であれば適宜選択できる。
非経口投与に適した製剤形態として、例えば安定剤、緩衝剤、保存剤、等張化剤等の添加剤を含有したものは挙げられ、さらに薬学的に許容される担体や添加物を含むものでもよい。このような担体及び添加物の例として、水、有機溶剤、高分子化合物(コラーゲン、ポリビニルアルコールなど)、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ツルビトール、ラクトース、界面活性剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
<すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤をスクリーニングする方法>
第4の態様に係るスクリーニング方法は、MEX3B遺伝子又はMEX3Bタンパク質の発現の低下、及びMEX3Bタンパク質の機能の低下よりなる群から選択される少なくとも1つを指標とすることにより、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤をスクリーニングすることができる。
【0067】
第4の態様に係るスクリーニング方法において、上記少なくとも1種のがんは、他の抗がん剤に対して難治性のがんであってもなくてもよいが、他の抗がん剤に対して難治性のがんとすることができる。
スクリーニングされる上記予防又は治療剤は、上記他の抗がん剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の剤であってもなくてもよいが、上記他の抗がん剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の剤とすることができる。
上記他の抗がん剤としては、上述のように、任意の抗がん剤が挙げられ、上記予防又は治療剤とは作用点、作用機序等が異なる抗がん剤が好ましく、免疫チェックポイント阻害剤及びピリミジン系代謝拮抗剤よりなる群から選択される少なくとも1種の抗がん剤がより好ましい。
【0068】
第4の態様に係るスクリーニング方法は、MEX3B遺伝子発現の低下を指標とすることが好ましい。
MEX3Bタンパク質の機能としては、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんを促進する機能、p53により発現誘導される機能、細胞老化を誘導する機能、上記炎症性サイトカインないしは炎症性ケモカインの遺伝子の種々のmRNAに結合してそれらmRNAの機能(つまりタンパク質への翻訳)又は安定性を制御する機能、上記炎症性サイトカインないしは炎症性ケモカインの発現を誘導する機能等が挙げられる。
また、上記低下の程度としては統計的に有意な低下であれば特に制限はないが、被験物質の非存在下(例えば、被験物質の投与前の系(例えば、野生型)、又は陰性対照(MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現又は機能に影響しない物質を投与した対照)の系)におけるMEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現又は機能に対して、1/2以下であることが好ましく、1/4以下であることがより好ましく、1/10以下であることがさらに好ましく、発現又は機能がなくなることが特に好ましい。
【0069】
スクリーニング方法としては、上記を指標とする限り、インビボ(in vivo)、インビトロ(in vitro)、インシリコ(in silico)等の任意のスクリーニング方法であってもよい。スクリーニング方法の好ましい一例としては、MEX3B遺伝子を発現する細胞を被験物質の存在下及び非存在下において培養し、上記被験物質の有無に応じたMEX3B遺伝子又はMEX3Bタンパク質の発現の低下、及びMEX3Bタンパク質の機能の低下を指標として、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤をスクリーニングすることが挙げられる。上記スクリーニングにおいて、全長MEX3Bタンパク質を使用してもよく、あるいはMEX3Bタンパク質の一部分(例えば、MEX3Bタンパク質を特徴付ける任意の1以上のドメインを含む)を使用してもよい。
上記ドメインとしては、MEX3Bタンパク質中の、任意のRNA結合ドメイン、任意のタンパク質結合ドメインが挙げられ、より具体的には、KHドメイン、RINGフィンガードメイン等が挙げられる。
【0070】
MEX3B遺伝子の塩基配列情報を基にすれば、インシリコでも各種のヒト組織におけるMEX3B遺伝子の発現を検出することができる。また、インビボ、インビトロでも、例えば該遺伝子の一部又は全部の塩基配列を有するプローブまたはプライマーを利用することにより、各種のヒト組織におけるMEX3B遺伝子の発現を検出することができる。MEX3B遺伝子の発現の検出は、RT-PCR、ノザンブロット、サザンブロット等の常法により行うことができる。
また、MEX3B遺伝子のmRNAレベルでの発現量の測定も、RT-PCR、ノザンブロット、サザンブロット等の常法により行うことができる。
【0071】
PCRを行なう場合、プライマーは、MEX3B遺伝子のみを特異的に増幅できるものであれば特に限定されず、MEX3B遺伝子の配列情報に基づき適宜設定することができる。例えば、MEX3B遺伝子又は上記遺伝子の発現制御領域の塩基配列中の連続する少なくとも10ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチド、並びに該オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドをプローブまたはプライマーとして使用することができる。より具体的には、MEX3B遺伝子又は上記遺伝子の発現制御領域の塩基配列中の連続した10~60残基、好ましくは10~40残基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、並びに該オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用することができる。
【0072】
上記したオリゴヌクレオチド及びアンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA合成機を用いて常法により製造することができる。該オリゴヌクレオチドまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドとして、例えば、検出したいmRNAの一部の塩基配列において、5’末端側の塩基配列に相当するセンスプライマー、3’末端側の塩基配列に相当するアンチセンスプライマー等を挙げることができる。センスプライマー及びアンチセンスプライマーとしては、それぞれの融解温度(Tm)および塩基数が極端に変わることのないオリゴヌクレオチドであって、10~60塩基程度のものが挙げられる、10~40塩基程度のものが好ましい。また、本発明においては、上記したオリゴヌクレオチドの誘導体を用いることも可能であり、例えば、該オリゴヌクレオチドのメチル体やホスホロチオエート体等を用いることもできる。
【0073】
またMEX3Bタンパク質の発現量の測定は、後述の抗体を用いたウェスタンブロット又はELISA等の通常の免疫分析により行なうことができる。具体的には、モレキュラークローニング第2版又はカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された当業者に公知の常法により行うことができる。
また、MEX3Bタンパク質の機能の低下の分析は、MEX3Bタンパク質のmRNAへの結合能の有無または程度の測定、MEX3Bタンパク質が結合するmRNAの機能発現の有無または程度を測定することにより分析することができる。
MEX3Bタンパク質mRNAへの結合能の有無または程度の測定は、競争的阻害試験等任意の分析でおこなうことができる。
MEX3Bタンパク質が結合するmRNAの機能発現の有無または程度についてのタンパク質レベルでの発現量の測定は、ウェスタンブロット又はELISA等の通常の免疫分析により行なうことができる。例えば、モレキュラークローニング第2版又はカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された当業者に公知の常法により行うことができる。
【0074】
第4の態様に係るスクリーニング方法に供される被験物質としては任意の物質を使用することができる。被験物質の種類は特に限定されず、核酸分子でもよいし、抗体でもよく、個々の低分子合成化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。後述するゲノム編集用の人工ヌクレアーゼであってもよい。あるいは、被験化合物はまた、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
被験物質は、好ましくは低分子化合物(例えば、化合物ライブラリー)、核酸分子、ゲノム編集用の人工ヌクレアーゼ又は抗体であり、MEX3B遺伝子又はタンパク質に対して特異性が高い観点から、核酸分子又は抗体がより好ましく、MEX3B遺伝子(エクソン中のCDS若しくはUTR又はイントロン)中又は上記遺伝子の発現制御領域中に含まれるオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する核酸分子又はMEX3Bタンパク質に選択的に結合するアプタマー又は抗体であることが更に好ましい。
【0075】
<すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療方法>
本発明は、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療方法であってもなくてもよい。
第5の態様に係る、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療方法は、第1の態様に係る予防又は治療剤を対象に投与することを含む。
第6の態様に係る、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療方法は、第1の態様に係る予防又は治療剤と、上記他の抗がん剤と組み合わせて対象に投与することを含む。
対象としては、動物が挙げられ、脊椎動物が好ましく、ヒト、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の哺乳類がより好ましく、ヒトが更に好ましく、ヒトの発症患者が特に好ましい。
投与方法、投与量等の具体例及び好ましい例については上述の通りである。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
(使用したアンチセンスオリゴヌクレオチド)
以降の実施例において使用したアンチセンスオリゴヌクレオチドは以下の通りである。
ギャップマー89(配列番号8)、ギャップマー89-2(配列番号9)及びギャップマーNCを下記表1にまとめる。
【0078】
【表1】
上記表に示したように、ギャップマー89-2は、ギャップマー89の標的配列から2塩基分5’末端側に標的配列をずらしたアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
ギャップマーNCは、ゲノム上に存在しない配列を標的としたネガティブコントロール(NC)としてのギャップマーである。
【0079】
なお、上記各ギャップマー型アンチセンスオリゴヌクレオチドの両末端には2塩基のLNA(2’,4’-BNA)を配置し、それ以外の間を埋める塩基は通常のDNAとし、各ヌクレオチドを結ぶリン酸ジエステル結合は全てホスホロチオエート化した。
【0080】
<実施例1>
ヌードマウス(Balb/c nu/nu、雌、7週齢)にヒト膵がん細胞PK1(3×10
6細胞/マウス)を移植後23、26、28、31、33、35日目にギャップマー89(20μg/200μlミセル(50%cRGD)/マウス)又はギャップマー89-2(20μg/200μlミセル(50%cRGD)/マウス)を尾静脈から投与し、22、26、28、31、33、35、37日後に腫瘍の長径及び短径をノギスにて計測し、腫瘍体積(Tumor size)を(長径×短径
2)/2として算出した(mm
3;以下同様である。)。37日目には腫瘍を摘出し、腫瘍重量(Tumor weight)を測定した(g)。
上記ミセルは、PEG及びポリアミノ酸を含むブロック共重合体と上記アンチセンスオリゴヌクレオチドとの間で形成されるコアシェル構造を有し、リガンド分子としてcRGDを有する粒径100nm以下の高分子ミセルである。
ネガティブコントロール(NC)として、ゲノム上に存在しない配列を標的としたギャップマーNCについても同様に試験した。結果を
図1に示す。
【0081】
図1は、MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる膵がん細胞PK1の増殖抑制試験結果を示す図である。図中のエラーバーは、標準誤差である。*は、チューキー=クレーマー検定によるp値<0.05である。
図1A及びBに示した結果から明らかなように、ギャップマー89及びギャップマー89-2を投与した腫瘍は体積及び重量とも、ギャップマーNCを投与した腫瘍に比べ低下している(特に33日目以降は有意に低下している)ことがわかる。
すなわち、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質であるギャップマー89及びギャップマー89-2はいずれも、膵がん細胞の増殖を抑制していることがわかる。
以上の結果から、MEX3B遺伝子中のノックダウンされる標的配列に依存されることなく、MEX3B遺伝子の発現を抑制することにより、膵がん細胞の増殖を抑制し得るといえる。
【0082】
なお、上記ミセルを使用した尾静脈投与の代わりに、上記ギャップマー89をin vivo jet PEI(登録商標)と混合して用いて[ギャップマー8μg/in vivo jet PEI(登録商標)80μl/マウス]の投与量にて腫瘍内投与した場合についても、
図1(a)及び(b)に示した結果と同様に、ギャップマー89を投与した腫瘍は体積及び重量とも、ギャップマーNCを投与した腫瘍に比べ有意に低下した結果が得られている。
以上の結果から、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質の投与方法、投与経路に依存されることなく、MEX3B遺伝子の発現を抑制することにより、膵がん細胞の増殖を抑制し得るといえる。
【0083】
<実施例2>
ヌードマウス(Balb/c nu/nu、雌、7週齢)にヒト膵がん細胞AsPC1(3×10
6細胞/マウス)を移植後、腫瘍体積の平均が80mm
3程度になった後の17、19、21、24、26、28、31、33、35日にギャップマー89(20μg/200μlミセル(50%cRGD)/マウス)を尾静脈から投与し、17、19、21、24、26、28、31、33、35日後に腫瘍の長径及び短径をノギスにて計測し、腫瘍体積(Tumor size)を算出した(mm
3)。
上記ミセルは、PEG及びポリアミノ酸を含むブロック共重合体と上記アンチセンスオリゴヌクレオチドとの間で形成されるコアシェル構造を有し、リガンド分子としてcRGDを有する粒径100nm以下の高分子ミセルである。
ネガティブコントロール(NC)として、ゲノム上に存在しない配列を標的としたギャップマーNCについても同様に試験した。結果を
図2に示す。
【0084】
図2は、MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる膵がん細胞AsPC1の増殖抑制試験結果を示す図である。図中のエラーバーは、標準誤差である。*は、t検定によるp値<0.05である。
図2に示した結果から明らかなように、ギャップマー89を投与した腫瘍は体積が、ギャップマーNCを投与した腫瘍に比べ低下している(特に28日目以降は有意に低下している)ことがわかる。
すなわち、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質であるギャップマー89は、膵がん細胞の増殖を抑制していることがわかる。
【0085】
<実施例3>
ヌードマウス(Balb/c nu/nu、雌、7週齢)の皮下にヒト非小細胞肺がん細胞A549(3.0×10
6細胞/マウス)を移植後25、27、32、34、37、39、41、43日目にギャップマー89[20μg/200μlミセル(50%cRGD)/マウス]を尾静脈内投与し、25、27、32、34、37、39、41、43日後に腫瘍の長径及び短径をノギスにて計測し、腫瘍体積(Tumor size)を算出した。43日目には腫瘍を摘出し、腫瘍重量(Tumor weight)を測定した(g)。
上記ミセルは、PEG及びポリアミノ酸を含むブロック共重合体と上記アンチセンスオリゴヌクレオチドとの間で形成されるコアシェル構造を有し、リガンド分子としてcRGDを有する粒径100nm以下の高分子ミセルである。
NCとして、ゲノム上に存在しない配列を標的としたギャップマーNCについても同様に試験した。結果を
図3に示す。
【0086】
図3は、MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる非小細胞肺がん細胞の増殖抑制試験結果を示す図である。図中のエラーバーは、標準誤差である。*は、ワルドt検定によるp値<0.05である。
図3A及びBに示した結果から明らかなように、ギャップマー89を投与した腫瘍は体積及び重量とも、ギャップマーNCを投与した腫瘍に比べ低下している(特に34日目以降は有意に低下している)ことがわかる。
すなわち、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質であるギャップマー89は、非小細胞肺がん細胞の増殖を抑制していることがわかる。
【0087】
<実施例4>
ヌードマウス(Balb/c nu/nu、雌、7週齢)にヒト胆管がん細胞HUCCT1(3×10
6細胞/マウス)を移植後12日目から3日に一度の頻度にてギャップマー89をin vivo jet PEI(登録商標)を用いて[ギャップマー5μg/in vivo jet PEI(登録商標)80μl/マウス]の投与量にて腫瘍内に投与し、腫瘍の長径及び短径をノギスにて計測し、腫瘍体積(tumor size)を(長径)×(短径)
2/2にて算出した(mm
3)。
NCとして、ゲノム上に存在しない配列を標的としたギャップマーNCについても同様に試験した。結果を
図4に示す。
【0088】
図4は、MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる胆管がん細胞の増殖抑制試験結果を示す図である。図中のエラーバーは、標準誤差である。*は、p値<0.01である。
図4に示した結果から明らかなように、ギャップマー89を投与した腫瘍は体積及び重量とも、ギャップマーNCを投与した腫瘍に比べ低下している(特に18日目以降は有意に低下している)ことがわかる。
すなわち、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質であるギャップマー89は、胆管がん細胞の増殖を抑制していることがわかる。
【0089】
<実施例5>
野生型マウス(Balb/c、雄、8週齢)にマウス大腸がん細胞株CT26細胞(1.0×10
5細胞/マウス)を移植後、6、8、10、14、17日目にギャップマー89(ギャップマー8μg/80μl in vivo jet PEI(登録商標)/マウス)を腫瘍内投与し、抗PD-L1抗体は10日目(200μg/マウス)、14日目(100μg/マウス)、17日目(100μg/マウス)に腹腔内に投与し、6、8、10、14、17、20日後に腫瘍の縦径及び横径をノギスにて計測し、腫瘍体積(Tumor volume)を算出した(mm
3)。20日目には腫瘍を摘出し、腫瘍重量(Tumor weight)を測定した(g)。
NCとして、ゲノム上に存在しない配列を標的としたギャップマーNCについても同様に試験した。結果を
図5に示す。
【0090】
図5Aは、MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド及び免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせ投与による大腸がん細胞の増殖抑制試験手順の概要を示す図である。
図5Bは、ギャップマーNC及び免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせ投与による増殖抑制試験結果(腫瘍体積)を示す図である。
図5Cは、MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド及び免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせ投与による増殖抑制試験結果(腫瘍体積)を示す図である。
図5Dは、MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド及び免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせ投与による増殖抑制試験結果(腫瘍重量)を示す図である。
図中のエラーバーは、標準誤差である。*は、ワルドt検定によるp値<0.05である。
【0091】
図5B及びCに示された結果同士の比較、及び
図4Dに示した結果から明らかなように、ギャップマーNC及び抗PD-L1抗体の組み合わせ投与に対し、ギャップマー89及び抗PD-L1抗体の組み合わせ投与は、腫瘍体積及び重量とも、有意に低下していることがわかる。
すなわち、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質であるギャップマー89及び免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせ投与は、免疫チェックポイント阻害剤によりがん細胞増殖が抑制されている場合、及び免疫チェックポイント阻害剤により抑制されていない場合のいずれに対しても、大腸がん細胞の増殖を更に抑制することができるといえる。
【0092】
<実施例6>
ヌードマウス(Balb/c nu/nu、雌、7週齢)の皮下にヒト膵がん細胞PK1(3×10
6細胞/マウス)を移植後23日目から1日おきに39日目までギャップマー89[20μg/200μlミセル(50%cRGD)/マウス]を尾静脈内投与し、23、27、31、35日目にはゲムシタビン[50mg/kg]を腹腔内投与し、23、27、31、35、38、41日後に腫瘍の縦径及び横径をノギスにて計測し、腫瘍体積(Tumor size)を算出した(mm
3)。41日目には腫瘍を摘出し、腫瘍重量(Tumor weight)を測定した(g)。
NCとして、ゲノム上に存在しない配列を標的としたギャップマーNCについても同様に試験した。結果を
図6に示す。
【0093】
図6は、MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド及びピリミジン系代謝拮抗剤の組み合わせ投与によるすい臓がん細胞の増殖抑制試験結果を示す図である。図中のエラーバーは、標準誤差である。
図6Aに示した結果から明らかなように、ギャップマーNC及びゲムシタビン(Gem)の組み合わせ投与及びギャップマー89の単独投与のいずれに対しても、ギャップマー89及びゲムシタビンの組み合わせ投与は、腫瘍体積が低下していることがわかる。また、ギャップマーNC及びGemの組み合わせ投与及びギャップマー89の単独投与のいずれに対しても、ギャップマー89及びゲムシタビンの組み合わせ投与は、特に、移植38日以降、t検定によるp値<0.05で有意に低下していた。
【0094】
図6Bに示した結果から明らかなように、ギャップマーNC及びGemの組み合わせ投与及びギャップマー89の単独投与のいずれに対しても、ギャップマー89及びゲムシタビンの組み合わせ投与は、腫瘍重量が低下していることがわかる。また、ギャップマーNC及びGemの組み合わせ投与及びギャップマー89の単独投与のいずれに対しても、ギャップマー89及びゲムシタビンの組み合わせ投与は、腫瘍重量が、t検定によるp値<0.05で有意に低下していた。
すなわち、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質であるギャップマー89及びピリミジン系代謝拮抗剤の組み合わせ投与は、ピリミジン系代謝拮抗剤によりがん細胞増殖が抑制されている場合、及びピリミジン系代謝拮抗剤により抑制されていない場合のいずれに対しても、すい臓がん細胞の増殖を更に抑制することができることがわかる。
【0095】
<実施例7>
ヌードマウス(Balb/c nu/nu、雌、7週齢)にヒト肝臓がん細胞Hep3B(3×10
6細胞/マウス)を移植後、腫瘍体積の平均が150mm
3程度になった後の21、24、26日にギャップマー89(20μg/200μlミセル(50%cRGD)/マウス)を尾静脈から投与し、21、24、26、28日後に腫瘍の長径及び短径をノギスにて計測し、腫瘍体積(Tumor size)を算出した(mm
3)。
ネガティブコントロール(NC)として、ゲノム上に存在しない配列を標的としたギャップマーNCについても同様に試験した。結果を
図7に示す。
【0096】
図7は、MEX3Bに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる膵がん細胞AsPC1の増殖抑制試験結果を示す図である。図中のエラーバーは、標準誤差である。
図7に示した結果から明らかなように、ギャップマー89を投与した腫瘍は体積が、ギャップマーNCを投与した腫瘍に比べ低下していることがわかる。
すなわち、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質であるギャップマー89は、肝臓がん細胞の増殖を抑制していることがわかる。
【要約】
すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤、該剤と組み合わせるコンビネーション医薬用の前記がんの予防又は治療剤、該剤を含む組合せ医薬、並びに、すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤をスクリーニングする方法を提供すること。
すい臓がん、肺がん、大腸がん、胆管がん及び肝臓がんよりなる群から選択される少なくとも1種のがんの予防又は治療剤であって、MEX3B遺伝子若しくはMEX3Bタンパク質の発現の低下物質、又はMEX3Bタンパク質の阻害物質を含む剤。
【配列表】