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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】リン含有エポキシ樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20220309BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20220309BHJP
   C08K 5/08 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
C08L63/00 Z
C08K5/524
C08K5/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017185399
(22)【出願日】2017-09-26
(65)【公開番号】P2019059845
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-07-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋
(72)【発明者】
【氏名】軍司 雅男
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/114166(WO,A1)
【文献】特開2012-072304(JP,A)
【文献】特開2002-249552(JP,A)
【文献】特開2002-097249(JP,A)
【文献】特開2002-012739(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0125433(US,A1)
【文献】特開2006-342217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08K 5/524
C08K 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるリン化合物、下記式(2)で表される1,4-ナフトキノン化
合物、及び多官能エポキシ樹脂を含む反応原料から得られるリン含有エポキシ樹脂の品質を管理する方法であって、
1,4-ナフトキノン化合物として、純度98%以上であり、溶媒テトラヒドロフラン
100mLにナフトキノン化合物を0.5g溶解させた溶液の光路長10mm、550n
mにおける光透過率が70%以上を示すものだけを選択して使用することを特徴とするリ
ン含有エポキシ樹脂の品質管理方法。
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の炭
化水素基を示し、直鎖状、分岐鎖状、環状であってもよく、また、R1とR2が結合して
環状構造を形成してもよい。n1及びn2はそれぞれ独立に0又は1である。)
【化2】

(式中、Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基である。)
【請求項2】
リン化合物(p)と1,4-ナフトキノン化合物(q)の反応割合が、モル比で(p)
/(q)=1.0~5.0である請求項1に記載のリン含有エポキシ樹脂の品質管理方法。
【請求項3】
リン化合物と1,4-ナフトキノン化合物を予め反応させたのち、多官能エポキシ樹脂
を反応させる請求項1又は2に記載のリン含有エポキシ樹脂の品質管理方法。
【請求項4】
反応装置内に、リン化合物、1,4-ナフトキノン化合物、及び有機溶媒を仕込み、5
0~150℃で反応させてリン含有フェノール化合物を得た後、多官能エポキシ樹脂を仕
込み、リン含有フェノール化合物と多官能エポキシ樹脂とを100~200℃で反応させ
る請求項3に記載のリン含有エポキシ樹脂の品質管理方法。
【請求項5】
リン化合物が下記式(1a)及び/又は(1b)で表される化合物である請求項1~4
のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂の品質管理方法。
【化3】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基である
。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリン含有エポキシ樹脂の製造方法、及びその製造方法で得られるリン含有エポキシ樹脂を必須成分とするエポキシ樹脂組成物、さらにはそのエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その優れた密着性、電気特性ゆえに電気電子材料部品を中心に幅広く使用されている。これら電気電子材料部品は、ガラスエポキシ積層板やIC封止材に代表される様に高い難燃性(UL:V-0)が求められるため、通常ハロゲン化されたエポキシ樹脂が用いられている。例えば、ガラスエポキシ積層板では、難燃化されたFR-4グレードとして、一般に臭素で置換されたエポキシ樹脂を主原料成分とし、これに種々のエポキシ樹脂を混合したエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂用硬化剤とを配合して用いられている。しかし、このようなハロゲン化されたエポキシ樹脂の使用は、近年のダイオキシンに代表される環境問題の一要因となっている他、高温環境下でのハロゲン解離による電気的な長期信頼性への悪影響等から、ハロゲンの使用量を低減するか、ハロゲンに代替できる他化合物を使用した難燃剤、あるいは他の難燃処方が強く求められている。
【0003】
そこで、エポキシ樹脂の難燃化はリン化合物を利用したハロゲンフリー難燃技術が検討され、特許文献1~3では、特定のリン化合物とエポキシ樹脂とを反応させて得られるリン含有難燃性エポキシ樹脂が開示されている。特許文献1、2には、10-(2、5-ジヒドロキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO-HQ)と、エポキシ樹脂とを所定のモル比で反応させて得られるリン含有難燃性エポキシ樹脂が開示されている。また、特許文献3には、10-(2,7-ジヒドロキシナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO-NQ)と、エポキシ樹脂とを所定の比率で反応させてなるリン含有難燃性エポキシ樹脂が開示されている。DOPO-HQは、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO)と、1,4-ベンゾキノン(BQ)とを反応させることによって得られる化合物であり、特許文献8に記載の方法で製造できる。また、DOPO-NQは、DOPOと1,4-ナフトキノン(NQ)とを反応させることによって得られる化合物であり、特許文献9に記載の方法で製造できる。
【0004】
特許文献1、2に記載の発明においては、精製して純度を99質量%以上にしたDOPO-HQを用い、これにエポキシ樹脂を反応させ、目的のリン含有難燃性エポキシ樹脂を得ている。また、特許文献3では純度の記載はないが単品としてのDOPO-NQをエポキシ樹脂と反応させ、目的のリン含有難燃性エポキシ樹脂を得ている。一方、DOPO-HQやDOPO-NQは、特許文献8、9に記載されている様に、収率が悪く、高純度化には再結晶法等により精製が必要であり収率はさらに低くなる。また、ろ過、再結晶、再ろ過、乾燥等の工程を経なければならず、工業生産上不利であった。
【0005】
そこで、特許文献4~7では、DOPOとBQやNQを原料にしてDOPO-HQやDOPO-NQを製造した後、得られた反応組成物を精製せずにエポキシ樹脂と反応させるリン含有難燃性エポキシ樹脂の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平04-11662号公報
【文献】特開2000-309623号公報
【文献】特開平11-279258号公報
【文献】特開2001-123049号公報
【文献】特開2006-342217号公報
【文献】特開2000-309624号公報
【文献】特開2012-072304号公報
【文献】特開昭60-126293号公報
【文献】特開昭61-236787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
DOPOとNQを原料にしてDOPO-NQを製造した後、得られた反応組成物を精製せずにエポキシ樹脂と反応させるような場合等にあっては、原料のDOPO及びNQの純度を管理しただけでは、得られるリン含有エポキシ樹脂は、それを使用した硬化物の耐熱性や難燃性や接着性が大きく変動するといった現象が見られた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者は、NQを含むナフトキノン化合物類とリン化合物の反応方法について鋭意検討した結果、ナフトキノン化合物類の純度管理ではなく、他の管理指標を用いることで安定した品質のリン含有エポキシ樹脂が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表されるリン化合物、下記式(2)で表されるナフトキノン化合物、及び多官能エポキシ樹脂を含む反応原料から得られるリン含有エポキシ樹脂を製造する方法であって、
ナフトキノン化合物が、溶媒テトラヒドロフラン100mLにナフトキノン化合物を0.5g溶解させた溶液の光路長10mm、550nmにおける光透過率が70%以上であることを特徴とするリン含有エポキシ樹脂の製造方法である。
【0010】
【化1】

式中、R及びRはそれぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の炭化水素基を示し、直鎖状、分岐鎖状、環状であってもよく、また、RとRが結合して環状構造を形成してもよい。n1及びn2はそれぞれ独立に0又は1である。
【0011】
【化2】

式中、Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基である。
【0012】
なお、本明細書において、ナフトキノン化合物の光透過率は、以下の測定方法で得られた測定値を示す。
ナフトキノン化合物0.500gに、テトラヒドロフラン(THF)を加えて完全に溶解してメスフラスコを用いて100mLとした。直ちにこの溶液の光透過率を下記の条件で測定した。校正は、遮蔽板で光路を遮断した状態を0%とし、使用したTHFの光透過率を100%とした。
機種:分光測色計CM-5(コニカミノルタ株式会社製)
セル:光路長10mm石英ガラス製
波長:550nm
【0013】
本発明の製造方法において、リン化合物(p)とナフトキノン化合物(q)の反応割合は、モル比[(p)/(q)]で1.0~5.0の範囲が好ましい。
【0014】
本発明の製造方法は、リン化合物とナフトキノン化合物と多官能エポキシ樹脂とを同時に仕込んで反応する方法、或いは、リン化合物とナフトキノン化合物を予め反応させた後、多官能エポキシ樹脂と反応する方法で行うことができる。後者の反応の場合、反応装置内に、リン化合物、ナフトキノン化合物、及び有機溶媒を仕込み、50~150℃で反応させてリン含有フェノール化合物を得た後、多官能エポキシ樹脂を仕込み、リン含有フェノール化合物と多官能エポキシ樹脂とを100~200℃で反応させることが好ましい。
【0015】
リン化合物は、下記式(1a)及び/又は(1b)で表される化合物であることが好ましい。
【0016】
【化3】

式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基である。
【0017】
本発明の他の態様は、上記製造方法により得られるリン含有エポキシ樹脂である。また、上記リン含有エポキシ樹脂に、他のエポキシ樹脂、硬化剤又は両者を配合してなるエポキシ樹脂組成物である。また、リン含有エポキシ樹脂、又はリン含有エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、硬化剤を官能基として0.4~2.0当量配合してなる硬化性エポキシ樹脂組成物である。さらに、上記硬化性エポキシ樹脂組成物からなる硬化物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法では、ナフトキノン化合物とリン化合物の反応生成物を精製せずに多官能エポキシ樹脂と反応してリン含有エポキシ樹脂を得る場合であっても、安定的に、耐熱性、難燃性、及び密着性に優れた高品質のリン含有エポキシ樹脂が得られる。この製造方法で得られるリン含有エポキシ樹脂は、塗料、接着剤、半導体封止用組成物又は積層板用ワニスとして有用であり、特に積層板(プリント配線板)用ワニスとして難燃性、密着性、及び耐熱性に優れた積層板を提供できる、ハロゲンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明は、リン化合物、ナフトキノン化合物及び多官能エポキシ樹脂を反応させて得られるリン含有エポキシ樹脂の製造方法である。
【0020】
上記リン化合物は上記式(1)で表される化合物であり、上記式(1a)又は上記式(1b)で表される化合物が好ましい。
式(1)において、R及びRはヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の炭化水素基を示し、それぞれは異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であってもよい。また、RとRが結合して環状構造を形成してもよい。特に、ベンゼン環等の芳香族環基が好ましい。R及びRが芳香族環基の場合は置換基として、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~11のアラルキル基、炭素数6~10のアリールオキシ基又は炭素数7~11のアラルキルオキシ基を有してもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子等が例示され、これは炭化水素鎖又は炭化水素環を構成する炭素間に含まれることができる。
n1及びn2はそれぞれ独立に、0又は1である。
【0021】
式(1a)及び式(1b)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基である。具体的な炭化水素基を例示すると、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基、ベンジル基等が挙げられ、メチル基、フェニル基、又はベンジル基が好ましい。なお、R又はRが、炭化水素基である場合、その置換数は0~3が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0022】
式(1)で表されるリン化合物を例示すると、ジメチルホスフィンオキシド、ジエチルホスフィンオキシド、ジブチルホスフィンオキシド、ジフェニルホスフィンオキシド、ジベンジルホスフィンオキシド、シクロオクチレンホスフィンオキシド、トリルホスフィンオキシド、ビス(メトキシフェニル)ホスフィンオキシド等や、フェニルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸エチル、トリルホスフィン酸トリル、ベンジルホスフィン酸ベンジル等や、DOPO、8-メチル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、8-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、8-フェニル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、2,6,8-トリ-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、6,8-ジシクロヘキシル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等や、ホスホン酸ジフェニル、ホスホン酸ジトリル、ホスホン酸ジベンジル、5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサホスホリナン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのリン化合物は単独でも2種類以上混合して使用してもよい。
【0023】
ナフトキノン化合物は、上記式(2)で表される。
式(2)において、Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基である。具体的な炭化水素基を例示すると、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基、ベンジル基等が挙げられ、メチル基、フェニル基、シクロヘキシル基、又はベンジル基が好ましい。なお、炭化水素基の数は、0~2が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0024】
上記キノン化合物を例示すると、1,4-ナフトキノン、5-メチル-1,4-ナフトキノン、6-メチル-1,4-ナフトキノン、5-シクロヘキシル-1,4-ナフトキノン、6-シクロヘキシル-1,4-ナフトキノン、5-メトキシ-1,4-ナフトキノン、6-メトキシ-1,4-ナフトキノン、5-エトキシ-1,4-ナフトキノン、6-エトキシ-1,4-ナフトキノン、5,6-ジメチル-1,4-ナフトキノン、6,7-ジメチル-1,4-ナフトキノン、2-フェニル-1,4-ナフトキノン等が挙げられる。これらのキノン化合物は単独でも2種類以上混合して使用しても良く、これらに限定されるものではない。
【0025】
ナフトキノン化合物は、純品である必要はなく、10%(質量%)以下の不純物を含有するものであってもよい。ナフトキノン化合物の純度は特に規定されないが、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましい。本明細書において、ナフトキノン化合物の純度は、以下の測定方法で得られた値を示す。
【0026】
ナフトキノン化合物0.2gを0.1mgまで精量し、100mLビーカーに採り、アセトン10mLで完全に溶解させた後、エタノール20mL及び25%ヨウ化カリウム水溶液50mL加えて、氷浴上でよく混合し、1分間放置後、塩酸(1:1)10mL加えて0.1Mチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定する。純度は次式により算出する。
P={(V×f×0.7907)/S}×100
ここで、Pは純度(質量%)、Vは0.1Mチオ硫酸ナトリウム溶液の消費量(mL)、fは0.1Mチオ硫酸ナトリウム溶液のファクター、Sはナフトキノン化合物の質量(g)を表す。
【0027】
ナフトキノン化合物に含まれる不純物としては、その製造に使用される原料に由来する不純物、未反応物や反応副生物がある。例えば、1,4-ナフトキノンの場合は、キシレン、ジメチル-1,4-ベンゾキノン、エチル-1,4-ベンゾキノン、安息香酸、ジメチルフェノ-ル、ナフタレン、フタル酸無水物、1,3-インダンジオン、フタリド、ジメチルアセトフェノン、1,2-ナフトキノン、メチルフタル酸無水物、ジメチルフタル酸無水物、1a,7a-ジヒドロナフト[2,3-b]オキシレン-2,7-ジオン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、メチル-1,4-ナフトキノン、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、ジメチルフタル酸無水物、ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、アントラキノン、2,2’-ビ(1,4-ナフトキノン)、ジナフト[2,3-b:2’,3’-d]フラン-5,7,12,13-テトラオン等が挙げられる。これらの不純物の含有量はそれぞれ微量であり、それぞれを単離してリン含有エポキシ樹脂に対する影響を調査することは非常に難しく、他の方法で管理する必要がある。
【0028】
そのため、本発明では、使用するナフトキノン化合物の管理を、光透過率で行う。この光透過率は、上記で説明した光透過率の測定方法で測定される。この光透過率は70%以上であり、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。光透過率が低いナフトキノン化合物では、純度が高くても、得られるリン含有エポキシ樹脂を用いた硬化物の難燃性や耐熱性が悪化する。光透過率が上記以上であれば、純度が低くても、得られるリン含有エポキシ樹脂を用いた硬化物の難燃性や耐熱性は良好となる。
このようなナフトキノン化合物は、市販品のナフトキノン化合物を入手し、それについて光透過率を測定し、光透過率が一定値以上のものを選択してもよいが、市販品(又はここではじかれた市販品)や、合成品を再結晶等の手段により精製することが望ましい。この精製は純度を上げることが主目的ではなく、光透過率が上がるように行う。
【0029】
本発明で使用するナフトキノン化合物は、光透過率を向上させる目的で精製することが好ましい。精製方法としては、特に制限されず公知の方法が利用できるが、以下の方法が好適である。
(1)炭素数1~6の脂肪族アルコール(含水率0~50質量%)にナフトキノン化合物を混合分散した後、濾別、乾燥する精製方法、
(2)非水系溶媒にナフトキノン化合物を溶解させた後、温水を混合撹拌し、分液により水層を除去した後、非水系溶媒を蒸留除去する精製方法、
(3)芳香族炭化水素系溶媒を用いて再結晶法により精製する方法、
また、これらの方法を複数繰り返すことや、組み合わせて精製することもできる。
(1)の精製方法の場合、脂肪族アルコールの例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール等が挙げられ、メタノール、エタノール、n-プロパノールが好ましく、含水率は10質量%以下が好ましい。
(2)の精製方法の場合、非水系溶媒の例としては、ベンゼン、tert-ブチルベンゼン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素又はその置換体や、シクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ぺンタン、n-オクタン等の脂肪族炭化水素や、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロルメチル、ジクロルエタン等の塩素化脂肪族炭化水素等が挙げられ、シクロヘキサンが好ましい。
(3)の精製方法の場合、芳香族炭化水素系溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられ、オルソキシレンが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法では、リン化合物とナフトキノン化合物と多官能エポキシ樹脂とを同時に仕込んで反応する製造方法(1)でもよいし、リン化合物とナフトキノン化合物を予め反応させた後、多官能エポキシ樹脂と反応する製造方法(2)でもよい。反応混合物中にナフトキノン化合物の残存は好ましくないため、得られるリン含有エポキシ樹脂の品質から、製造方法(2)が好ましい。
【0031】
リン化合物とナフトキノン化合物との反応は、溶媒中でも多官能エポキシ樹脂中でも行うことができる。多官能エポキシ樹脂中で行う場合は、多官能エポキシ樹脂とリン化合物との反応が進まないように、反応温度を調整することが特に重要である。この時の反応温度は、50~100℃が好ましく、60~90℃がより好ましく、70~80℃がさらに好ましい。
【0032】
リン化合物とナフトキノン化合物との反応は不活性溶媒中で行うことが適する。使用できる不活性溶媒とは、リン化合物やナフトキノン化合物と反応しなければ特に限定はない。具体的には、ヘキサン、へプタン、オクタン、デカン、ジメチルブタン、ペンテン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の各種炭化水素、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、アミルフェニルエーテル、エチルベンジルエーテル、ジオキサン、メチルフラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブ、セロソルブアセテート、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種類以上混合して使用してもよい。
【0033】
リン化合物を不活性溶媒に溶解するには、リン化合物と不活性溶媒を配合した後加熱しながら撹拌して溶解する。溶解温度は、使用する溶媒の種類や不揮発分によっても異なるが、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。
【0034】
リン化合物を不活性溶媒に溶解した後、ナフトキノン化合物を反応発熱に注意しながら添加する。このときの反応温度は50~150℃であり、55~120℃が好ましく、60~100℃がより好ましく、65~90℃がさらに好ましく、70~80℃が特に好ましい。反応時間は、0.5~5時間が好ましく、1~3時間がより好ましい。
【0035】
リン化合物とナフトキノン化合物との反応では系内水分がなくてもよいが、0.5~3.5質量%の水分範囲で行なうことが好ましい。また、ナフトキノン化合物の微粉が飛散しないようにあらかじめナフトキノン化合物に水を含ませておくことができ、あらかじめ系内に水を入れて系内水分を調整しておいてもよい。リン化合物とナフトキノン化合物との反応は、初期段階において激しく発熱しながら反応が進行するが、系内に水分を含むことによって反応発熱を抑え、緩やかに反応を進行することができる。また、反応発熱の制御のため、ナフトキノン化合物は分割投入することが好ましい。但し、系内水分が多すぎると反応温度に昇温する時間が長くなるため好ましくない。
【0036】
リン化合物とナフトキノン化合物とのモル比は、ナフトキノン化合物1モルに対して、リン化合物を1.0~5.0モルにすることが好ましく、1.2~4.0モルがより好ましく、1.3~3.0モルがさらに好ましい。リン化合物が少なすぎるとナフトキノン化合物が残存した状態で多官能エポキシ樹脂と反応することになり、いくらナフトキノン化合物の光透過率を範囲内に管理しても、リン含有エポキシ樹脂の耐熱性や接着性が悪化する恐れがあり好ましくない。また多すぎると、リン化合物が多く残存した状態で多官能エポキシ樹脂と反応することになり、同様に耐熱性や接着性が悪化する恐れがあり好ましくない。
【0037】
リン化合物とナフトキノン化合物との反応終了後には、系内温度を上げて還流脱水により系内水分を除去することが好ましい。系内に水分が多量に残存する場合は、リン含有フェノール化合物を含む反応生成物と多官能エポキシ樹脂との反応を阻害する恐れがある。系内水分が多いと多官能エポキシ樹脂との反応で使用する触媒の種類によっては、活性を失ってしまい理論エポキシ当量まで反応しないことがある。脱水温度は、使用する溶媒の種類や不揮発分によっても異なるが、100~160℃が好ましく、110~130℃がより好ましい。
【0038】
本発明の製造方法において、使用される多官能エポキシ樹脂としては、分子内にエポキシ基を2個以上、好ましくは3個以上有しているものを使用する。具体的には、ポリグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルアミン化合物、ポリグリシジルエステル化合物、脂環式エポキシ樹脂、その他変性エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのエポキシ樹脂は単独で使用してもよいし、同一系のエポキシ樹脂を2種類以上併用して使用しても良く、また、異なる系のエポキシ樹脂を組み合わせて使用してもよい。これらのエポキシ樹脂の中で、コスト面や耐熱性、難燃性等の特性面から特にフェノールノボラック型エポキシ樹脂が優れており好ましい。
【0039】
ポリグリシジルエーテル化合物としては、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジフェニルスルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルノボラック型エポキシ樹脂、スチレン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、β-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレンジオールアラルキル型エポキシ樹脂、α-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラヒドロキシフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アルキレングリコール型エポキシ樹脂、脂肪族環状エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
ポリグリシジルアミン化合物としては、具体的には、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、メタキシレンジアミン型エポキシ樹脂、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、アニリン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
ポリグリシジルエステル化合物としては、具体的には、ダイマー酸型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、トリメリット酸型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
脂環式エポキシ樹脂としては、セロキサイド2021(ダイセル化学工業株式会社製)等の脂肪族環状エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
その他変性エポキシ樹脂としては、具体的には、ウレタン変性エポキシ樹脂、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリブタジエンゴム誘導体、CTBN変性エポキシ樹脂、ポリビニルアレーンポリオキシド(例えば、ジビニルベンゼンジオキシド、トリビニルナフタレントリオキシド等)、リン含有エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
リン化合物とナフトキノン化合物とを反応して得られた反応混合物は、反応生成物である2価のリン含有フェノール化合物のほか、原料由来の不純物や、副反応由来の不純物や、未反応のリン化合物等の不純物が混合した状態で存在する。上記反応混合物は精製して不純物の一部又は全部を除去してから、次の反応に供してもよいが、本発明にあっては、反応溶媒や水分等の低沸点物を分離するだけで、次の反応に供することができる利点がある。
【0045】
多官能エポキシ樹脂と反応する上記反応混合物中の成分は明確ではないが、含まれる不純物は少量のため計算上無視することができるので、リン化合物のリン含有率と使用量、キノン化合物の分子量と使用量、多官能エポキシ樹脂のエポキシ当量と使用量から、概算値ではあるが、得られるリン含有エポキシ樹脂のエポキシ当量やリン含有率を計算で求めることができる。従って、所望するリン含有エポキシ樹脂のリン含有率やエポキシ当量が定まれば、原料の使用量を逆算で求めることができる。
【0046】
また、反応には時間短縮や反応温度低減のため、触媒を使用することが好ましい。使用できる触媒は特に制限はなく、エポキシ樹脂の合成に通常使用されているものが使用できる。使用できる触媒としては、具体的には、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、トリキシリルホスフィン、トリス(パラ-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(tert-ブトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン類や、n-ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムヨージド、テトラフェニルホスホニウムブロミド等の四級ホスホニウム塩類や、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類や、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド等の四級アンモニウム塩類や、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の三級アミン類等の公知慣用の触媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの触媒は単独で使用してもよいし、同一系の触媒を2種類以上併用して使用しても良く、また、異なる系の触媒を組み合わせて使用してもよい。
これら触媒を使用する場合の使用量は、リン化合物とナフトキノン化合物の合計量100質量部に対して、0.002~2質量部が好ましく、0.003~1質量部がより好ましく、0.005~0.5質量部がさらに好ましい。使用量が多くなると、反応制御が難しく、安定した粘度のリン含有エポキシ樹脂が得られない恐れがある。また、エポキシ樹脂組成物とした場合の貯蔵安定性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0047】
反応時間は、約1~10時間程度がよく、エポキシ基と反応性の官能基又はリン化合物の水酸基がほぼ消滅するまで行うことがよい。また、低粘度化等の特性を付与するために、状況によっては、特開2012-172079号公報に記載の製造方法で反応率を60~95%にしてもよい。反応終了後は必要により反応で使用した溶媒等を除去してもよいし、溶媒を加え樹脂ワニスとしてもよい。
【0048】
本発明の製造方法で得られるリン含有エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq.)は、特に制限は無いが、100~1500が好ましく、160~1200がより好ましく、200~800がさらに好ましく、250~700が特に好ましい。エポキシ当量が低いと、リン構造の導入が少なく難燃性が悪化する恐れがある。エポキシ当量が高いと必要以上に分子鎖が長くなり、溶剤溶解性の悪化や樹脂粘度の増大といった悪影響が多くなる恐れがある。また、エポキシ基との付加反応部分が多く、エポキシ基が少なくなっている。従って、硬化物の架橋密度が低くなることから半田リフローの温度において弾性率が低下する等の問題が生じる恐れがある。
【0049】
また、リン含有エポキシ樹脂中のリン含有率は、特に制限は無いが、リンとして0.5~15質量%が好ましく、1.0~8.0質量%がより好ましく、1.5~6.0質量%がさらに好ましく、2.0~3.5質量%が特に好ましい。リン含有率が低いと、難燃性が悪化する恐れがある。リン含有率が高いと難燃性の向上効果より、溶剤溶解性、耐吸湿性の悪化や樹脂粘度の増大といった悪影響が多くなる恐れがある。そのため、上限を管理することが効果的である。
【0050】
本発明のリン含有エポキシ樹脂は、上記本発明の製造方法で得られる。このリン含有エポキシ樹脂は通常のエポキシ樹脂と同様にして使用することができるが、難燃性に優れるので、それが望まれる用途に適する。
本明細書において、リン含有エポキシ樹脂とは、リン含有エポキシ樹脂単独だけではなく、これを含む反応混合物、例えば、原料多官能エポキシ樹脂との混合物も包含する。
【0051】
本発明のリン含有エポキシ樹脂組成物は、上記リン含有エポキシ樹脂と、その他のエポキシ樹脂、硬化剤、又は両者を含む。
エポキシ樹脂組成物に配合できる他のエポキシ樹脂は、上記リン含有エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂であれば、特に限定はないが、本発明の製造方法で説明した多官能エポキシ樹脂が好ましい。
【0052】
また、リン含有エポキシ樹脂や、これに他のエポキシ樹脂を配合したエポキシ樹脂組成物に硬化剤を配合することにより、硬化性のエポキシ樹脂組成物とすることができる。
硬化剤としては各種フェノール樹脂類や酸無水物類、アミン類、ヒドラジッド類、酸性ポリエステル類等の通常使用されるエポキシ樹脂用硬化剤を使用することができ、これらの硬化剤は1種類だけ使用しても2種類以上使用してもよい。これらのうち、本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物が含有する硬化剤としてはジシアンジアミド又はノボラックフェノール樹脂が好ましい。本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物において硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂の官能基であるエポキシ基1当量に対して硬化剤の官能基0.4~2.0当量が好ましく、0.5~1.5当量がより好ましく、特に好ましくは0.5~0.8当量である。エポキシ基1当量に対して硬化剤が0.4当量に満たない場合、あるいは2.0当量を超える場合は硬化が不完全になり良好な硬化物性が得られない恐れがある。
【0053】
エポキシ樹脂組成物には、粘度調整用として有機溶媒又は反応性希釈剤を使用することができる。
【0054】
有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジメトキシジエチレングリコール、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類や、メタノール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-エチル-1-ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチルジグリコール、パインオイル等のアルコール類や、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、メチルセロソルブアセテート、セロソルブアセテート、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート、ベンジルアルコールアセテート等の酢酸エステル類や、安息香酸メチル、安息香酸エチル等の安息香酸エステル類や、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類や、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類や、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類や、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N-メチルピロリドン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
反応性希釈剤としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリルグリシジルエーテル等の単官能グリシジルエーテル類や、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等の二官能グリシジルエーテル類や、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、トリメチロールエタンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等の多官能グリシジルエーテル類や、ネオデカン酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル類や、フェニルジグリシジルアミン、トリルジグリシジルアミン等のグリシジルアミン類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
これらの有機溶媒又は反応性希釈剤は、単独又は複数種類を混合したものを、不揮発分として90質量%以下で使用することが好ましく、その適正な種類や使用量は用途によって適宜選択される。例えば、プリント配線板用途では、メチルエチルケトン、アセトン、1-メトキシ-2-プロパノール等の沸点が160℃以下の極性溶媒であることが好ましく、その使用量は不揮発分で40~80質量%が好ましい。また、接着フィルム用途では、例えば、ケトン類、酢酸エステル類、カルビトール類、芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を使用することが好ましく、その使用量は不揮発分で30~60質量%が好ましい。
【0057】
本発明のエポキシ樹脂組成物には必要に応じて硬化促進剤を使用することができる。使用できる硬化促進剤の例としては2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン等のホスフィン類、オクチル酸スズ等の金属化合物が挙げられる。硬化促進剤はエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂成分100質量部に対して0.02~5.0質量部が必要に応じて用いられる。
【0058】
エポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、特性を損ねない範囲で、充填材、熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂、シランカップリング剤、酸化防止剤、離型剤、消泡剤、乳化剤、揺変性付与剤、平滑剤、顔料等のその他の添加剤を配合することができる。具体的には水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、焼成タルク、クレー、カオリン、酸化チタン、ガラス粉末、シリカバルーン等の無機フィラーが挙げられるが、顔料等を配合してもよい。一般的無機充填材を用いる理由として、耐衝撃性の向上が挙げられる。また、水酸化アルミ、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を用いた場合、難燃助剤として作用し、リン含有率が少なくても難燃性を確保することができる。特に配合量が10%以上でないと、耐衝撃性の効果は少ない。しかしながら、配合量が150%を越えると積層板用途として必要な項目である接着性が低下する。また、ガラス繊維、パルプ繊維、合成繊維、セラミック繊維等の繊維質充填材や微粒子ゴム、熱可塑性エラストマー等の有機充填材を上記樹脂組成物に含有することもできる。
【0059】
硬化性エポキシ樹脂組成物を硬化することによってリン含有エポキシ樹脂硬化物を得ることができる。硬化の際には例えば樹脂シート、樹脂付き銅箔、プリプレグ等の形態とし、積層して加熱加圧硬化することで積層板としてのリン含有エポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0060】
光透過率が特定の範囲にあるナフトキノン化合物を使用する本発明の製造方法で得られたリン含有エポキシ樹脂は、これを用いたエポキシ樹脂組成物を加熱硬化により得られた積層板は、安定的に難燃性、接着性及び耐熱性に優れる。
【実施例
【0061】
実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。特に断りがない限り、部は質量部を表す。
分析方法、測定方法を以下に示す。
【0062】
(1)光透過率:上記
(2)純度:上記
(3)エポキシ当量:
JIS K7236規格に準拠して測定を行い、単位は(g/eq.)である。
(4)リン含有率:
リン含有エポキシ樹脂中のリン含有率は、試料に硫酸、塩酸、過塩素酸を加え、加熱して湿式灰化し、全てのリン原子をオルトリン酸とした。硫酸酸性溶液中でメタバナジン酸塩及びモリブデン酸塩を反応させ、生じたリンバナードモリブデン酸錯体の420nmにおける吸光度を測定し、予め作成した検量線により求めたリン原子含有率を質量%で表した。また、エポキシ樹脂組成物(積層板)のリン含有率は、積層板の樹脂分(固形分)に対する含有率とし、単位は(質量%)で表した。ここで、積層板の樹脂分(固形分)とは、エポキシ樹脂組成物に配合された成分のうち、溶媒を除く有機成分(エポキシ樹脂、及びエポキシ樹脂用硬化剤等)に該当するものをいう。
(5)銅箔剥離強さ及び層間接着力:
JIS C6481、5.7に準じて、25℃の雰囲気下で測定した。なお、層間接着力は7層目と8層目の間で引きはがし測定した。
(6)ガラス転移温度(Tg):
IPC-TM-650 2.4.25.c規格に準じて示差走査熱量測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、EXSTA16000 DSC6200)にて20℃/分の昇温条件で測定を行ったときのDSC・Tgm(ガラス状態とゴム状態の接線に対して変異曲線の中間温度)の温度で表した。
(7)難燃性:
UL94に準じ、垂直法により評価した。評価はV-0、V-1、V-2で記した。
(8)残炎時間:
難燃性の測定結果より、5本の残炎時間の合計秒数を表した。
【0063】
実施例及び比較例で使用した略号の説明は以下のとおりである。
【0064】
・ナフトキノン化合物
NQ(1):純度:99.2質量%、光透過率:85%
NQ(2):純度:98.4質量%、光透過率:80%
NQ(3):純度:99.8質量%、光透過率:62%
NQ(4):純度:98.5質量%、光透過率:68%
【0065】
・リン化合物
DOPO:上記(活性水素当量216、リン含有率14.3%)
DPPO:ジフェニルホスフィンオキシド(活性水素当量202、リン含有率15.3%)
【0066】
・エポキシ樹脂
YDPN-638:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製、エポトートYDPN-638、エポキシ当量176)
YDF-170:ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製、エポトートYDF-170、エポキシ当量167)
【0067】
・触媒
TPP:トリフェニルホスフィン
TDMPP:トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン
【0068】
・硬化剤
PN:フェノールノボラック樹脂(昭和電工株式会社製、ショウノールBRG-557、軟化点80℃、フェノール性水酸基当量105)
DICY:ジシアンジアミド(日本カーバイド工業株式会社製、DIHARD、活性水素当量21)
【0069】
・硬化促進剤
2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、キュアゾール2E4MZ)
【0070】
実施例1
撹拌機、温度計、窒素吹き込み管、及び冷却管を備えた反応装置に、トルエンを200部、DOPOを210部、水を2.0部仕込み、窒素雰囲気下で70℃まで昇温して完全に溶解した。そこに、NQ(1)38部(DOPO/NQ(1)のモル比=4.0)を反応発熱に注意しながら30分かけて仕込んだ。仕込み終了後、系内温度を85~90℃で制御しながら2時間反応を継続した。反応終了後、さらに温度を上げ、100℃付近で還流脱水を行い、その後130℃まで昇温してトルエンを300部回収した後、YDPN-638を752部仕込み、加熱撹拌を行ってさらにトルエンを回収した。その後減圧蒸留によりトルエンを除去した後、TPPを0.25部仕込み、160~165℃の反応温度を維持しながらで4時間反応を継続して、リン含有エポキシ樹脂(樹脂1)を得た。得られたリン含有エポキシ樹脂のエポキシ当量は325であり、リン含有率は3.0%であった。
【0071】
実施例2
実施例1において、NQ(1)をNQ(2)に変更した以外は実施例1と同様にして、リン含有エポキシ樹脂(樹脂2)を得た。樹脂2のエポキシ当量は325であり、リン含有率は3.0%であった。
【0072】
実施例3
実施例1において、DOPOを175部、水を4.7部、NQ(1)を90部(DOPO/NQ(1)のモル比=1.4)使用し、752部のYDPN-638の代わりに、220部のYDF-170と515部のYDPN-638を使用し、TPPを0.26部使用した以外は実施例1と同様にして、リン含有エポキシ樹脂(樹脂3)を得た。樹脂3のエポキシ当量は350であり、リン含有率は2.5%であった。
【0073】
実施例4
実施例1において、DOPOを165部のDPPOに変更し、水を4.7部、NQ(1)を90部(DPPO/NQ(1)のモル比=1.4)使用し、YDPN-638を223部のYDF-170と521部のYDPN-638に変更し、TPPを0.26部使用した以外は実施例1と同様にして、リン含有エポキシ樹脂(樹脂4)を得た。樹脂4のエポキシ当量は345であり、リン含有率は2.5%であった。
【0074】
実施例5
実施例1において、DOPOを212部、水を8.0部、NQ(1)を153部(DOPO/NQ(1)のモル比=1.01)使用し、YDPN-638を635部のYDF-170に変更し、TPPを0.36部のTDMPPに変更した以外は実施例1と同様にして、リン含有エポキシ樹脂(樹脂5)を得た。樹脂5のエポキシ当量は545であり、リン含有率は3.0%であった。
【0075】
実施例6
実施例1と同様な装置に、トルエンを50部、YDF-170を635部、DOPOを212部、水を8.0部仕込み、窒素雰囲気下で70℃まで昇温して完全に溶解した。そこに、NQ(1)153部(DOPO/NQ(1)のモル比=1.01)を反応発熱に注意しながら30分かけて仕込んだ。仕込み終了後、系内温度を75~80℃で制御しながら2時間反応を継続した。反応終了後、さらに温度を上げ、100℃付近で還流脱水を行い、その後130℃まで昇温してトルエンを40部回収した後、減圧蒸留によりトルエンを除去した後、TDMPPを0.36部仕込み、160~165℃の反応温度を維持しながらで4時間反応を継続して、リン含有エポキシ樹脂(樹脂6)を得た。樹脂6のエポキシ当量は545であり、リン含有率は3.0%であった。
【0076】
比較例1
実施例1において、NQ(1)をNQ(3)に変更した以外は実施例1と同様にして、リン含有エポキシ樹脂(樹脂H1)を得た。樹脂H1のエポキシ当量は325であり、リン含有率は3.0%であった。
【0077】
比較例2
実施例1において、NQ(1)をNQ(4)に変更した以外は実施例1と同様にして、リン含有エポキシ樹脂(樹脂H2)を得た。樹脂H2のエポキシ当量は325であり、リン含有率は3.0%であった。
【0078】
比較例3
実施例1において、DOPOを175部、水を4.7部、NQ(1)を90部のNQ(3)(DOPO/NQ(3)のモル比=1.4)を使用し、YDPN-638を220部のYDF-170と515部のYDPN-638に変更し、TPPを0.26部使用した以外は実施例1と同様にして、リン含有エポキシ樹脂(樹脂H3)を得た。樹脂H3のエポキシ当量は350であり、リン含有率は2.5%であった。
【0079】
比較例4
実施例1と同様な装置を用い、DOPOを212部、水を8.0部、NQ(1)を153部のNQ(3)(DOPO/NQ(3)のモル比=1.01)を使用し、YDPN-638を635部のYDF-170に変更し、TPPを0.36部のTDMPPに変更した以外は実施例1と同様して、リン含有エポキシ樹脂(樹脂H4)を得た。樹脂H4のエポキシ当量は545であり、リン含有率は3.0%であった。
【0080】
実施例7
リン含有エポキシ樹脂として樹脂1を100部、硬化剤としてPNを32部、硬化促進剤として2E4MZを0.2部配合し、メチルエチルケトン(MEK)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)で調整した混合溶媒に溶解して、不揮発分50%のエポキシ樹脂組成物のワニスを得た。
【0081】
得られたワニスをガラスクロス(日東紡績株式会社製、WEA2116、0.1mm厚)に含浸した。含浸したガラスクロスを150℃の熱風循環オーブン中で10分間乾燥してプリプレグを得た。得られたプリプレグ8枚と、上下に銅箔(三井金属鉱業株式会社製、3EC-III、厚み35μm)を重ね、130℃×15分+170℃×70分の温度条件で2MPaの真空プレスを行い、1mm厚の積層板を得た。得られた積層板の銅箔部分をエッチング液に浸漬することで除去し、洗浄と乾燥を行った後に、127mm×12.7mmの大きさに切り出して難燃性測定用試験片とした。エポキシ樹脂組成物のリン含有率、及び積層板の銅箔剥離強さ、層間接着力、ガラス転移温度(Tg)及び難燃性の結果を表1に示す。
【0082】
実施例8、9及び比較例5~7
リン含有エポキシ樹脂として実施例2で得られた樹脂2と比較例1、2で得られた樹脂H1、H2を使用し、表1の配合とした他は、実施例7と同様にして、樹脂組成物のワニスを得て、さらに積層板、難燃性測定用試験片を得た。実施例7と同様の試験を行った結果を表1に示す。なお、表中、YDPN-638、PN及び2E4MZの(部)は配合量であり、リン含有エポキシ樹脂100部に対する量である。表2~3も同様である。
【0083】
【表1】
【0084】
実施例7~9(比較例5~7)は、ナフトキノン化合物とリン化合物のモル比[(p)/(q)]が4.0で、フェノールノボラック硬化系の例である。リン含有エポキシ樹脂の品質はほぼ同じなのに、積層板として時の品質が大きく異なり、比較例は、接着性が悪く、難燃性も若干劣っている。
【0085】
実施例10、11及び比較例8
リン含有エポキシ樹脂として実施例3、4で得られた樹脂3、4と比較例3で得られた樹脂H3を使用し、表2の配合とした他は実施例7と同様にして、樹脂組成物のワニスを得て、さらに積層板、難燃性測定用試験片を得た。実施例7と同様の試験を行った結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
実施例10、11(比較例8)は、ナフトキノン化合物とリン化合物のモル比[(p)/(q)]が1.4で、DICY硬化系の例である。リン含有エポキシ樹脂の品質はほぼ同じなのに、積層板として時の品質が大きく異なり、比較例は、難燃性が悪く、接着性も若干劣っている。
【0088】
実施例12、13及び比較例9
リン含有エポキシ樹脂として実施例5、6で得られた樹脂5、6と比較例4で得られた樹脂H4を使用し、表3の配合とした他は、実施例7と同様にして、樹脂組成物のワニスを得て、さらに積層板、難燃性測定用試験片を得た。実施例7と同様の試験を行った結果を表3に示す。
【0089】
参考例1
実施例1と同様な装置に、トルエンを200部、DOPOを212部、水を8.0部仕込み、窒素雰囲気下で70℃まで昇温して完全に溶解した。そこに、NQ(1)153部(DOPO/NQ(1)のモル比=1.01)を反応発熱に注意しながら30分かけて仕込んだ。仕込み終了後、系内温度を85~90℃で制御しながら2時間反応を継続した。反応終了後、さらに温度を上げ、100℃付近で還流脱水を行った。脱水終了後25℃まで冷却し、吸引濾過にて濾滓として反応物を得た。実施例1と同様な装置に、その反応物200部と酢酸ベンジル1000部と仕込み、加熱混合した後、再結晶精製を行った。この操作を2回繰り返して、結晶粉末(DOPO-NQ)を得た。
実施例1と同様な装置に、得られた結晶粉末を364部、YDF-170を636部、TDMPPを0.36部仕込み、窒素雰囲気下で160℃まで昇温し、160~165℃の反応温度を維持しながらで4時間反応を継続して、リン含有エポキシ樹脂(樹脂S1)を得た。得られたリン含有エポキシ樹脂のエポキシ当量は545であり、リン含有率は3.0%であった。
【0090】
参考例2
実施例1と同様な装置を用い、NQ(1)をNQ(3)に変更した以外は参考例1と同様な操作を行い、リン含有エポキシ樹脂(樹脂S2)を得た。得られたリン含有エポキシ樹脂のエポキシ当量は545であり、リン含有率は3.0%であった。
【0091】
【表3】
【0092】
実施例12、13(比較例9)は、ナフトキノン化合物とリン化合物のモル比がほぼ1.0の例である。この場合、リン含有エポキシ樹脂に対するナフトキノン化合物の影響が大きく現れている。
また、参考例1、2は、樹脂5、樹脂H4の製造で使用したナフトキノン化合物を原料にしているが、再結晶により精製した高純度のDOPO-NQを使用してリン含有エポキシ樹脂を製造した例である。この場合、ナフトキノン化合物の影響は現れない。