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特許7037475シート状細胞培養物回収システムおよび方法
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  • 特許-シート状細胞培養物回収システムおよび方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】シート状細胞培養物回収システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220309BHJP
【FI】
C12N5/071
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018236148
(22)【出願日】2018-12-18
(62)【分割の表示】P 2014179148の分割
【原出願日】2014-09-03
(65)【公開番号】P2019037255
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2019-01-15
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】大橋 文哉
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 正
(72)【発明者】
【氏名】宮川 繁
(72)【発明者】
【氏名】澤 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 充弘
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】中島 庸子
【審判官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-115080号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N 5/00, C12M 1/00, C12M 3/00
JST7580/JSTPlus/JMEDPlus
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状細胞培養物を接着培養面から剥離する方法であって、接着培養面に接着したシート状細胞培養物が容器内の液体中に浸漬した状態で、該液体を、液体とシート状細胞培養物との間に生じる摩擦力が、シート状細胞培養物と接着培養面とが接着している面の外縁に対して垂直に作用するように振動させることを含み、該振動は、前記容器を振幅が0.1cm~4cm、振動数が100rpm~250rpmで水平偏芯震動させることにより生じるものである、前記方法。
【請求項2】
振動が、容器を振幅が0.1cm~4cm、振動数が250rpmで水平偏芯震動させることにより生じるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シート状細胞培養物が、引張試験において10N未満の破断荷重を示すシート状細胞培養物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
液体が、静置時にシート状細胞培養物全体がちょうど液体に浸かっている状態となる量の液体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
液体がハンクス平衡塩溶液である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
接着培養面が、周辺環境に依存して性状が変化するものである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の方法によりシート状細胞培養物を接着培養面から剥離することを含む、シート状細胞培養物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状細胞培養物を回収するための方法および該方法を用いるためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。心不全の治療法としては、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われるが、これらの治療が奏功しないほど重症化した心不全には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療、つまり外科治療が行われる。
【0003】
このような外科治療の対象となる重症心不全には、進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの、急性心筋梗塞やその合併症、急性心筋炎、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性憎悪など、多種多様の原因がある。
これらの原因と重症度に応じて弁形成術や置換術、冠動脈バイパス術、左室形成術、機械的補助循環などが適用される。
【0004】
この中で、ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全を来たしたものについては、心臓移植や人工心臓による置換型治療のみが有効な治療法とされてきた。しかしながら、これら重症心不全患者に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫抑制の必要性、合併症の発症など解決すべき問題が多く、すべての重症心不全に対する普遍的な治療法とは言い難い。
【0005】
その一方、最近、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の展開が不可欠と考えられている。
重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されてアポトーシスに陥るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。
このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が開始されている。
【0006】
近年、その一例として、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いることによって、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む心臓に適用可能な三次元に構成された細胞培養物と、その製造方法が提供された(特許文献1)。
【0007】
特許文献1に記載の温度応答性培養皿は、培養皿からの細胞培養物の剥離を容易にしたものの、完全に剥離させ得るものではなく、完全な剥離のためにはピペッティングなどの人為的操作が必要であることから、コンタミネーションや皺、破れ、破損などが生じる原因となり、とくに脆弱な細胞培養物を剥離する際には慎重を要するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2007-528755号公報
【文献】特開2011-115080号公報
【文献】特開2011-155869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、培養面からシート状細胞培養物を簡便、迅速かつ破損させることなく回収する方法およびかかる方法を実行するためのシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
剥離の際に問題となる前記の人為的操作を減らすことを目的として、剥離作業を自動化するシステムが提供された(特許文献2および3)。しかしながら、これらのシステムもまた、とくに脆弱なシート状細胞培養物を扱う際には、剥離に時間がかかり、剥離時に皺、破れ、破損などが生じる可能性が依然として残るものであった。
【0011】
そこで本発明者らは、さらなるシート状細胞培養物の剥離方法を研究する中で、液体中のシート状細胞培養物を振動させる際に、往復振動を与えることで、回転振動を与えるよりも迅速に剥離することができ、振動を与える時間を短時間にすることが可能となるために振動による破損を生じるリスクを低減できることを見出した。さらに、剥離の際にシート状細胞培養物にしわやよれが生じた場合、液体中のシート状細胞培養物を中心として回転振動を与えることにより、シートを伸展し、しわやよれを改善することができることを見出し、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は以下に関する。
〔1〕シート状細胞培養物を接着培養面から剥離する方法であって、接着培養面に接着したシート状細胞培養物が容器内の液体中に浸漬した状態で、該液体を振動させること(容器を回転または円振動させることによって振動させることを除く)を含む、前記方法。
〔2〕シート状細胞培養物が、脆弱なシート状細胞培養物である、〔1〕の方法。

〔3〕液体の振動が、容器を往復振動することによって生じるものであり、該往復振動の振動数が一定であり、振幅がシート状細胞培養物と接着培養面との接着面積の減少に従って増大する、〔1〕または〔2〕の方法。
〔4〕振動数が、200rpm以下である、〔3〕の方法。
〔5〕液体の往復振動が、容器を往復振動することによって生じるものであり、該振動の振幅が一定であり、振動数がシート状細胞培養物と接着培養面との接着面積の減少に従って増大する、〔1〕または〔2〕の方法。
〔6〕液体が、シート状細胞培養物がちょうど浸漬する量の液体である、〔1〕~〔5〕の方法。
〔7〕液体がハンクス平衡塩溶液である、〔6〕の方法。
〔8〕接着培養面が、周辺環境に依存して性状が変化するものである、〔1〕~〔7〕の方法。
【0013】
〔9〕シート状細胞培養物を伸展させる方法であって、シート状細胞培養物が容器内の液体中に浸漬した状態で、前記容器内の液体を回転させることを含む、前記方法。
〔10〕シート状細胞培養物が、脆弱なシート状細胞培養物である、〔9〕の方法。

〔11〕容器内の液体の回転が、容器を回転振動させることにより生じるものである、〔9〕または〔10〕の方法。
〔12〕液体が、ハンクス平衡塩液である、〔9〕~〔11〕の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来よりも簡便、迅速に、かつ破損のリスクを低減して、シート状細胞培養物を接着培養面から剥離することが可能となる。本発明により、シート状細胞培養物の製造において律速工程かつ品質低下のリスクを有する工程であったシート状細胞培養物の剥離工程が改善される。また、よれやしわが生じた場合であっても、剥離作業に引き続き迅速に伸展作業を行うことが可能となるため、破損のリスク低減と相俟って、一層品質を向上できる。したがって、シート状細胞培養物の生産効率向上および品質改善に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、水平振動による振動剥離試験の結果を表す写真図である。
図2図2は、様々な振動方法による振動剥離試験の結果を表す写真図である。
図3図3は、回転伸展試験の結果を表す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、簡便、迅速かつ破損のリスクを抑えたシート状細胞培養物の剥離方法に関する。また、しわ、よれの生じたシート状細胞培養物を伸展し、しわ、よれを解消するための、シート状細胞培養物の伸展方法に関する。さらに、前記剥離方法を用いる剥離工程および前記伸展方法を用いる伸展工程を含む、シート状細胞培養物の回収方法、並びにかかる方法を実現するためのシステムに関する。
以下、本発明の好適な実施態様に基づき、本発明を説明する。
(1)剥離方法
本発明のシート状細胞培養物の回収方法は、シート状細胞培養物を接着培養面から剥離する工程を包含する。したがって本発明は、1つの側面において、接着培養面に接着したシート状細胞培養物が容器内の液体中に浸漬した状態で、該液体に接着培養面に並行に単一軸の往復振動をさせることを含む、シート状細胞培養物を接着培養面から剥離する方法に関する。
【0017】
本発明において「シート状細胞培養物」は、典型的には哺乳動物、例えば、ヒトや家畜等の疾病、傷病の治療等に用いられるものであるが、これに限定されるものではない。細胞培養物とは、典型的には培養した細胞および/またはその産生物で構成されるが、生体の所定部(例えば患部等)を補填および/または支持するための各種の材料(補填材料や支持材料)なども含む。
【0018】
シート状細胞培養物を構成する細胞は、シート状細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたものであってもよい。シート状細胞培養物を構成する細胞の例としては、限定されずに、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。シート状細胞培養物を構成する細胞が由来する動物も特に限定されず、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。
【0019】
本発明において、「接着培養面」(単に「培養面」と記載することもある)とは、シートを形成する細胞が接着する面を意味する。通常は接着培養面に接着する形でシート状細胞培養物が形成される。接着培養面としては、典型的には細胞培養容器の培養面、細胞培養担体の表面などが挙げられるが、これに限定されるものではない。接着培養面は、液体を入れた容器に必ずしも固定されている必要はないが、好ましくは固定されている。
【0020】
本発明の剥離方法は、シート状細胞培養物が液体中に浸漬した状態で実行される。本発明において「液体中に浸漬」された状態とは、静置時にシート全体が液体に浸かっている状態をいう。すなわち、静置時にシート状細胞培養物が液体に覆われた状態であれば「液体中に浸漬」された状態であり、その状態から振動を与えた場合にシートの一部が一時的に液体の外部に露出することがあったとしても、再び静置した場合に液体に覆われた状態に戻れば、一時的に外部に露出した状態もまた「液体中に浸漬」された状態であるといえる。
【0021】
本発明の剥離方法においては、シート状細胞培養物を浸漬させた液体を振動させることで、液体とシート状細胞培養物との間に摩擦力を生じさせ、かかる摩擦力がシート状細胞培養物を接着培養面から剥離する力となって剥離が可能となるものと考えられる。したがって、シート状細胞培養物と接着培養面とが接着している面の外縁に対して垂直に剥離力が作用するのが最も効率よく剥離が進行する。逆に該外縁に対して平行に近い方向に剥離力が作用するのが最も効率が悪いことになる。したがって容器内の液体が回転する方向に運動する円振動や回転は好ましくない。
【0022】
本発明の剥離方法は、接着培養面に接着したシート状細胞培養物が容器内の液体中に浸漬した状態で、該液体を振動させることを含む。かかる振動は液体とシート状細胞培養物との間に生じる摩擦力が、シート状細胞培養物を接着培養面から剥離する力となる限りいかなる振動でもよい。典型的には、例えば接着培養面に平行な単一軸の往復振動などが挙げられる。ここで、「接着培養面に平行に単一軸の往復振動をする」とは、往復振動の軸が接着培養面と平行な平面上に存在し、一つの軸(「振動軸」ともいう)に沿って行き来することをいう。このとき、振動軸自体が固定されている必要は必ずしもなく、任意に変化してもよい。ただし、上述のとおり、剥離力の作用効率の観点から、振動軸の変化と往復振動とが組み合わさって全体の動きが円振動となる場合は望ましくない。したがって好ましくは、本発明の剥離方法において、容器を回転または円振動させて、液体が容器内で回転するように運動する場合を含まない。
【0023】
液体に振動をさせる方法としては、液体中に存在するシート状細胞培養物を破損させない限りにおいて、当該技術分野において知られたあらゆる方法を用いることができる。具体的には、これに限定するものではないが、例えば液体の入った容器を往復運動させて振動する、板状の攪拌子などを液体中で往復させる、などの方法が挙げられる。シート状細胞培養物に直接的にダメージを与えるリスクが少ない、コンタミネーションのリスクが少ない、などの観点から、液体に直接触れずに容器を運動させることにより、液体を振動させる方法が好ましい。容器の運動としては、例えば水平振動、揺動、回転、円振動、水平偏芯震動などが挙げられ、剥離力の作用効率などの観点から、好ましくは水平振動、揺動、水平偏芯震動などが挙げられる。
【0024】
本発明の剥離方法は、シート状細胞培養物を浸漬した液体とシート状細胞培養物との間の摩擦力を剥離力とするものであるため、剥離力が極端に強くなることや偏って負荷がかかることがない。したがって、とくにシート状細胞培養物が脆弱なシート状細胞培養物である場合に好適に用いることができる。「脆弱」なシートとは、例えば液体外でシートのつかみ具への固定がなされる通常の引張試験機(例えば、JIS K 7161等に記載のもの)での引張特性の評価が、その脆弱性のために困難であるか、実質的に不可能であるシートを指す。かかるシートとしては、例えば、引張特性の各数値が小さく、通常の引張試験機では正確に測定することが困難な試料などが挙げられる。かかる脆弱なシートとしては、引張試験において、例えば、10N(ニュートン)未満、5N未満、2N未満、1N未満、0.5N未満、0.1N未満、0.05N未満の破断荷重を示すものが挙げられる。また、通常の引張試験の測定限界は、破断荷重として一般に1N程度であるため、好ましくは、これを下回る破断荷重(例えば、0.5N未満)を示すものが挙げられる。
【0025】
剥離対象であるシート状細胞培養物が脆弱なシートである場合、ピンセットなどの器具でつまむことが困難であることや、剥離する際に破損が生じるリスクが高いことなどの理由から、細胞培養面からの剥離が格段に困難となる。しかし本態様の剥離方法を用いることにより、迅速かつ簡便に剥離することが可能となるため、脆弱なシートであっても破損するリスクが最小限に抑えられる。
【0026】
本方法に用いることができる細胞は、シート状細胞培養物を形成できる細胞(「シート形成細胞」ともいう)であればとくに限定されず、当該技術分野において知られたあらゆる細胞を用いることができる。具体的には、これに限定するものではないが、例えば骨格筋芽細胞、皮膚細胞、角膜上皮細胞、歯根膜細胞、心筋細胞、肝細胞、膵細胞、口腔粘膜上皮細胞などが挙げられる。本発明の剥離方法は、治療上の有用性や、脆弱性に由来する慣用の技法によるハンドリングの難しさなどの観点から、骨格筋芽細胞からなるシート状細胞培養物に対して用いるのがとくに好ましい。
【0027】
上述のとおり、本発明の好ましい一態様において、液体の振動は、容器を往復振動することにより生じるものである。本発明において「往復振動」という語は、単一軸方向の往復運動を意味し、好ましくは水平振動(水平横振とう)である。以下別段の記載のない限り、かかる好適な態様を用いて本発明の剥離方法を説明するものとする。
かかる態様において、振動数が一定である場合、振幅の大きさを変更することにより、シート状細胞培養物に作用する剥離力を変更することができる。また逆に、振幅が一定である場合、振動数を変更することにより、シート状細胞培養物に作用する剥離力を変更することができる。ここで本明細書において「剥離力」とは、シート状細胞培養物に作用する、接着培養面からシート状細胞培養物を剥がそうとする力を意味する。シート状細胞培養物に剥離力を作用させた場合、シート状細胞培養物と接着培養面との接着力が抵抗力となり、その結果シート状細胞培養物に剪断力が生じる、すなわち破断荷重がかかることとなる。
【0028】
剥離に際しては、シート状細胞培養物と接着培養面との接着面積に比例して、シート状細胞培養物と接着培養面との接着力が大きくなると考えられる。したがって剥離開始段階における接着力が最も大きい。接着力が大きい場合、大きな剥離力を作用させる、すなわち大きな振幅で振動すると、シート状細胞培養物が破損するリスクが高まることになる。したがって剥離開始段階においては小さな剥離力を作用させる、すなわち小さな振幅で振動することが好ましい。しかしながら剥離が進むにつれ、接着力も低下してくると考えられるため、大きな剥離力を作用させた場合であってもシート状細胞培養物の破損のリスクは低下し、逆に剥離力が大きい方が剥離の進行が速くなる。したがって剥離の進行、すなわち接着面積の減少に従って振幅を大きくするのが好ましい。
【0029】
振幅の制御は、いかなる方法で行ってもよい。振幅制御の例としては、これに限定するものではないが、例えば剥離の進行状況を、例えば画像解析、光学センサー、目視などにより随時光学的に観察し、剥離の進行に合わせて振幅を増大させていってもよい。また、剥離の進行は、同一条件下においては剥離開始からの経過時間と相関すると考えられるため、剥離開始からの時間経過とともに振幅を増大させてもよい。
振幅の大きさは、振動する容器の形状や種類、シート状細胞培養物の脆弱さ、液体の量や種類などにより変化し得、当業者であれば適切な数値を適宜決定できる。例えば、シート状細胞培養物が骨格筋芽細胞である場合、およそ0.1cm~10cm程度の振幅が適切である。
【0030】
振動数が一定である場合は振幅が大きければ剥離力が大きいと考えられるが、逆に振幅が一定である場合であれば、振動数が大きければ剥離力が大きいと考えられる。したがって大きな振動数での振動は、シート状細胞培養物を破損するリスクを高めることとなる。振動数も振幅と同様、振動する容器の形状や種類、シート状細胞培養物の脆弱さ、液体の量や種類などにより変化し得、当業者であれば適切な数値を適宜決定できる。例えば、シート状細胞培養物が骨格筋芽細胞である場合、およそ5rpm~300rpm程度の振動数が適切である。
【0031】
シート状細胞培養物を浸漬する液体は、シート状細胞培養物の品質を低下させる(例えば細胞毒性を有する、製造工程不純物を含む、など)でなければとくに限定されない。液体を入れ替える工程が不要となることから、好ましい一態様において、液体として培養培地を用いる。他の液体の例としては、これに限定するものではないが、例えばハンクス平衡塩溶液(HBSS)、アール平衡塩液(EBSS)、HEPES、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、電解質輸液(大塚生食注)などが挙げられる。また、シート状細胞培養物を補強する目的のため、シート状細胞培養物の支持体とともに振動させてもよい。かかる支持体としては、これに限定するものではないが、例えばコラーゲン、フィブリノーゲンなどの生体材料、ポリ乳酸などの生分解性ポリマーなどから製造された薄膜シートなどが挙げられる。
【0032】
容器に入れる液体の量は、シート状細胞培養物を浸漬可能な量であればとくに限定されない。シート状細胞培養物を浸積可能な量は、容器の大きさやシート状細胞培養物の厚み、シート形成細胞の種類などにより変化し得、当業者であれば適切な量をすぐに決定できる。一般に容器中の液体が占める範囲が、シート状細胞培養物が自由に移動できる範囲であると考えられるが、シートのしわ、よれの発生を抑制する、シートの破損のリスクを低減させる、などの観点から、液体の量はなるべく少ない方が好ましい。したがって、好ましい態様において、液体の量は、シート状細胞培養物がちょうど浸漬する量である。具体的には例えば、UpCell3.5cm(株式会社セルシード、型番:CS3007)の場合は、約1.55mlであるが、これに限定するものではない。また、剥離終了後に後続の工程に最適化させるために液量を調整してもよい。
【0033】
接着培養面は、シート状細胞培養物を剥離しやすいように、その周辺環境に依存して性状が変化するものであってよい。本態様において接着培養面の「周辺環境」には、典型的には容器内の液体の温度、pH、接着角(親水性または疎水性)などが挙げられる。接着培養面の「性状が変化する」とは、接着培養面の有する物理化学的性質が変化することをいい、好ましくは接着培養面とシート状細胞培養物の接着性に関与する性状が変化する。性状変化の例としては、これに限定するものではないが、例えば親水性が疎水性に変化する(または疎水性が親水性に変化する)などの変化が挙げられる。「周辺環境に依存して性状が変化する」とは、物理化学的性質の変化が周辺環境の変化によって引き起こされることを意味し、典型的には温度変化に応答して親水性が変化する、pH変化に応答して吸水性が変化する、などが挙げられる。
【0034】
上記剥離方法による剥離の後、シート状細胞培養物によれやしわが生じている場合、続けてかかるよれやしわを解消するための伸展工程が行われてよい。
【0035】
(2)伸展方法
本発明のシート状細胞培養物の回収方法は、接着培養面から剥離したシート状細胞培養物にしわやよれが生じていた場合、シート状細胞培養物を伸展してしわやよれを解消する工程を包含する。したがって本発明は、1つの側面において、シート状細胞培養物が容器内の液体中に浸漬した状態で、前記容器内の液体を回転させることを含む、シート状細胞培養物を伸展する方法に関する。
【0036】
本発明において、シート状細胞培養物を「伸展」するとは、シート状細胞培養物に生じたしわやよれを、伸ばして解消することを意味する。
本発明の伸展方法は、シート状細胞培養物を浸漬した液体を容器内で回転させることにより、液体中に遠心力を生じさせ、かかる遠心力およびシート状細胞培養物と液体との間の摩擦力によりシート状細胞培養物が外側に牽引され、結果として伸展できるものと考えられる。したがって容器内の液体は、容器の中央を中心として回転することが好ましい。
【0037】
液体を回転させる方法としては、液体中に存在するシート状細胞培養物を破損させない限りにおいて、当該技術分野において知られたあらゆる方法を用いることができる。具体的には、これに限定するものではないが、例えば液体の入った容器を回転または回転振動させる、攪拌子などを液体中で回転させる、などの方法が挙げられる。シート状細胞培養物に直接的にダメージを与えるリスクが少ない、コンタミネーションのリスクが少ない、などの観点から、液体に直接触れずに容器を回転または回転振動させることにより、内部の液体を回転させる方法が好ましい。力の伝達効率を考えると、容器を回転振動させるのが最も好ましい。なお、本発明において、容器を「回転」させるとは、容器自体を自転させることをいい、容器を「回転振動」させるとは、容器を円運動させて振動することをいう。
【0038】
本発明の伸展方法は、シート状細胞培養物を浸漬した液体を回転させた際に生じる遠心力および、該液体とシート状細胞培養物との間の摩擦力を伸展させる力とするものであるため、力が極端に強くなることやシート状細胞培養物に偏って負荷がかかることがない。したがって、とくにシート状細胞培養物が脆弱なシート状細胞培養物である場合に好適に用いることができる。
【0039】
伸展対象であるシート状細胞培養物が脆弱なシートである場合、ピンセットなどの器具でつまむことが困難であることや、伸展させる際に破損が生じるリスクが高いことなどの理由から、しわやよれが生じた場合にそれを解消することが格段に困難となる。しかし本態様の伸展方法を用いることにより、迅速、簡便かつ破損のリスクも低く伸展することが可能になる。
【0040】
本方法に用いることができる細胞は、シート形成細胞であればとくに限定されず、当該技術分野において知られたあらゆる細胞を用いることができる。具体的には、これに限定するものではないが、例えば骨格筋芽細胞、皮膚細胞、角膜上皮細胞、歯根膜細胞、心筋細胞、肝細胞、膵細胞、口腔粘膜上皮細胞などが挙げられる。本発明の伸展方法は、治療上の有用性や、脆弱性に由来する慣用の技法によるハンドリングの難しさなどの観点から、骨格筋芽細胞からなるシート状細胞培養物に対して用いるのがとくに好ましい。
【0041】
シート状細胞培養物を浸漬する液体は、シート状細胞培養物の品質を低下させる(例えば細胞毒性を有する、製造工程不純物を含む、など)でなければとくに限定されず、上記(1)の剥離方法に用いられる液体と同様の液体を用い得る。本発明の伸展方法は、通常シート状細胞培養物を剥離した後、必要に応じて行われるものであることから、好ましい一態様において、前記剥離の際に用いた液体をそのまま使う。
【0042】
容器に入れる液体の量は、シート状細胞培養物を浸漬可能な量であればとくに限定されない。シート状細胞培養物を浸積可能な量は、容器の大きさやシート状細胞培養物の厚み、シート形成細胞の種類などにより変化し得、当業者であれば適切な量をすぐに決定できる。一般に容器中の液体が占める範囲が、シート状細胞培養物が自由に移動できる範囲であると考えられるが、シートのしわ、よれを伸展して解消する必要があることから、可動域は広い方がよいため、液体の量はなるべく多い方が好ましい。具体的には例えば、UpCell 3.5cm(株式会社セルシード、型番:CS3007)の場合は、約1.55mlであるが、これに限定するものではない。また、別の好ましい態様において、剥離工程の後、液量の調整を行うことなくそのまま用いられる。
【0043】
以上のとおり、本発明の剥離方法を行う工程および、必要に応じて、続けて本発明の伸展方法を行う工程により、シート状細胞培養物を簡便、迅速かつ破損のリスクを低減し、しわ、よれのない高品質な状態で回収可能となる。
なお、本発明の回収方法に係る好適な態様として本発明の剥離方法および伸展方法を説明してきたが、当然ながらこれらの剥離方法および伸展方法は、それぞれ独立した方法として用いることも可能である。したがって本発明の剥離方法および伸展方法は、それぞれ単独で用いられても良いし、別の方法と組み合わせて用いられてもよい。
【0044】
(3)システム
本発明は、一側面において、上記回収方法を実行するためのシステムに関する。
本発明のシステムは、少なくとも
(i)シート状細胞培養物を培養している培養容器を収納する収納部
(ii)収納部内の培養容器に振動を与えて、シート状細胞培養物を剥離および/または伸展させる振動部
を有している。
【0045】
培養容器の収納部の形状は限定されず、例えば倉庫状のものであってもよく、培養容器を振動台に固定するだけのものであってもよい。倉庫状とは収納部として温度や湿度を制御可能な密閉された空間に1つ以上の配置用棚部材を設け、棚部材の上に1つ以上の培養容器を配置できることを意味する。
【0046】
収納部は、一態様において、培養容器の周辺環境を制御し得る制御部を有している。本態様における周辺環境とは、これに限定されるものではないが、例えば温度、圧力、湿度、CO濃度などが挙げられる。制御部は、制御すべき設定を入力する入力部や、設定値を記録しておく記録部、現在の周辺環境の状態を測定する測定部、測定部にて測定した情報などを出力する出力部などを有していてもよい。例えば、本発明の1つの態様において、培養容器として周辺環境に依存して性状が変化する接着培養面を有する培養皿(例えば温度応答性培養皿)を用いることができ、培養容器の周辺環境を剥離に適した範囲に制御することで、剥離効率を上げることが可能となる。
【0047】
また、本発明のシステムの一態様において、該収納部は、培養容器周辺を細胞培養に適した環境に保つことが可能である。したがって、かかる態様における収納部は、細胞培養インキュベーターとして機能することができる。この態様において、収納部をインキュベーターとして用いてシート形成細胞を培養し、シート形成完了後、シート状細胞培養物を剥離するステップへとそのまま移行することも可能である。さらに、本発明の収納部は、一態様において剥離前および/または剥離後のシート状細胞培養物を一定温度で保存しておくことが可能である。
【0048】
振動部は、収納部の内部にあっても外部にあってもよく、培養容器のみを振動させるものであっても収納部ごと振動させるものであってもよい。また、収納部が倉庫状である場合には、棚部材を振動させるものであってもよい。振動の種類は少なくとも往復振動が可能である必要があり、好ましい態様においては、さらに回転振動が可能である。本発明に用いることができる振動機としては、例えばTAITEC社製ダブルシェーカーNR-3などが挙げられる。
シートの損傷の軽減という観点から、振動は必要以上に与えないことが好ましい。したがって振動部は、一定時間後に振動が停止するような機構を備えていてもよいし、前記制御部によって振動および/または振動時間を制御されていてもよい。
【0049】
上述のように、制御部は周辺環境の制御のみならず、振動の制御にも関与し得る。また、他の部材において何らかの制御(例えば入力部による入力値や測定部による測定値の出力制御など)が必要な場合においても、上記制御部が兼用可能である。したがって、本発明のシステムにおけるあらゆる制御を制御部が担ってよい。制御部、入力部、記録部、測定部および出力部は当該技術分野において知られた部材を用いることができる。典型的には、制御部としてはCPUなど、入力部としては、キーボード、タッチパネルなど、記録部としては光磁気ディスク、フラッシュメモリなど、測定部としてはセンサー、タイマーなど、出力部としてはモニタ、プリンタなどが挙げられるが、これに限定するものではない。
【0050】
以上、本発明におけるシステムを説明したが、各部について、様々な形態を考えることができる。したがって、本発明の目的を達成する範囲において、本発明の改変した態様もまた本発明の範囲に包含され、かかる改変は当業者にとっては容易に理解可能である。
【0051】
以下に本発明の具体的な態様を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【実施例
【0052】
例1.振動剥離
(1)シート状細胞培養物の調製
シート状骨格筋芽細胞培養物は以下の通りに作製した。
骨格筋芽細胞としては、ヒト骨格筋試料より単離したヒト骨格筋芽細胞を、FBSを含むMCDB131培地(GIBCO製)で増殖させた後、回収し、DMSOを含む凍結保存液内で凍結保存したものを用いた。
凍結保存したヒト骨格筋芽細胞を約37℃に設定したウォーターバス内で解凍し、ヒト血清アルブミンを含む緩衝液で洗浄した。その後、細胞を、ヒト血清を含有するDMEM/F12培地(GIBCO製)を入れた温度応答性培養皿(UpCell(R)3.5cmディッシュ、セルシード製)に6×10個/cmの密度で播種し、37℃、5%COで24時間培養し、単層のシートを形成させた
【0053】
(2)水平振動剥離試験
(1)で調製したシート状細胞培養物の培養培地を廃棄し、4℃に冷却したハンクス平衡塩液(HBSS)1.55mLを添加した。恒温機(EYELA LTI-600SD)を25℃に設定し、その中で、TAITEC社製ダブルシェーカーNR-3を用いて100rpm、振幅4cmで横方向に水平往復振動させた。比較例として、振動を74rpmの回転振動にしたもの、振動をさせなかったもの、200rpm、振幅4cmの横方向水平往復振動にしたもの、培地をHBSSに置換せず、74rpmの回転振動にしたもの、液量を2.5mLとし、100rpm、振幅4cmの回転振動にしたものについても観察した。結果を表1および図1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
100rpm、振幅4cmの水平横往復で振動した場合、振動開始から30分で剥離が完了した(図1a)。それに対し、74rpmの回転振動の場合(比較例1)は、3時間でシート周縁の剥離が観察できたが、中心部は剥離せず、4時間で剥離が完了した(図1b)。振動を加えなかった場合(比較例2)では4時間で剥離が観察され、4時間半で剥離が完了した(図1c)。200rpm、振幅4cmの水平横往復で振動した場合は、シートに破損が生じた。冷HBSSに置換せずに74rpmで回転振動を行った場合は、7時間が経過しても剥離しなかった(図1d)。液量を2.5mLとし、100rpmで回転振動を行った場合は、シート周辺部分がぼろぼろに破損した(図1e)。
以上のことから、水平横方向の往復振動により、シートの剥離時間が大幅に短縮でき、破損も生じないことが分かった。
【0056】
(3)他の振動による剥離試験
(1)で調製したシート状細胞培養物の培養培地を廃棄し、4℃に冷却したハンクス平衡塩液(HBSS)1.55mLを添加した。恒温機(EYELA LTI-600SD)を25℃に設定し、その中で、TAITEC社製ダブルシェーカーNR-3を用いて30rpm、振幅4cmで横方向に水平往復振動させた。他の例として、アズワン社製Hot Rocking Mixerを用いて2.8秒/往復の速度で揺動させたもの、バイオサン社製PST-60HL Plusを用いて250rpmで水平偏芯震動させたものについても観察した。結果を表2および図2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
30rpm、振幅4cmの水平横振とうした場合(実施例2)、振とう開始から約2時間で剥離が完了した(図2a)。水平横振とうに代えて揺動により液体を往復振動させた場合(実施例3)、揺動開始から約4時間で剥離が完了した(図2b)。また、水平偏芯震動により、振幅を減少させる代わりに振動数を大きくした場合(実施例4)、震動開始から約1時間で剥離が完了した(図2c)。いずれの場合もシート状細胞培養物の破損は観察されなかった。
【0059】
例2.伸展実験
例1と同様にシート状細胞培養物を調製し、剥離した。剥離の際によれ、しわが生じたシート状細胞培養物を伸展実験に用いた。
恒温機(EYELA LTI-600SD)を25℃に設定し、その中でTAITEC社製ダブルシェーカーNR-3の中心に容器を設置し、70rpmで回転振動させた。比較例として、同一の条件で回転振とう機の端に容器を設置したもの、および100rpm、振幅4cmの水平横方向の往復振動を与えたものについても観察を行った。結果を図3に示す。
振とう機の中心に設置した場合、2分間の振動でシートの伸展が完了した(図3a)。振とう機の端に設置した場合は、シートが片側に寄ってしまった(図3b)。水平横方向の往復振動の場合は、伸展しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の方法によれば、形成したシート状細胞培養物を短時間で、簡便に、破損することなく剥離可能である。また、剥離の際に多少よれやしわが生じた場合であっても、簡便に伸展することが可能となり、高品質なシート状細胞培養物を提供可能となる。
図1
図2
図3