IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-有機電界発光素子 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】有機電界発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20220309BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
H05B33/14 B
H05B33/22 D
H05B33/22 B
C09K11/06 640
C09K11/06 690
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019507459
(86)(22)【出願日】2018-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2018006065
(87)【国際公開番号】W WO2018173598
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2017055596
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】多田 匡志
(72)【発明者】
【氏名】相良 雄太
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/070963(WO,A1)
【文献】特表2013-509406(JP,A)
【文献】国際公開第2012/077520(WO,A1)
【文献】特表2011-509247(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194604(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/069321(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
C09K 11/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する陽極と陰極の間に1つ以上の発光層を含む有機電界発光素子において、少なくとも1つの発光層が、ホスト材料とともに、下記一般式(1)で表される化合物を熱活性化遅延蛍光発光ドーパント材料として含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】

ここで、Zは式(2)で表される縮合芳香族複素環であり、環Aは式(2a)で表される芳香族炭化水素環であり、環Bは式(2b)で表される複素環であり、環A及び環Bはそれぞれ隣接する環と任意の位置で縮合する。
Ar1は置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~8個連結して構成される連結芳香族基であり、Ar2は、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~8個連結して構成される連結芳香族基である。Ar1、Ar2が連結芳香族基である場合、連結する芳香族環は同一であっても異なっていても良く、直鎖上でも分岐状でも良い。
R1はそれぞれ独立に炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、置換もしくは未置換の炭素数12~44のジアリールアミノ基、置換もしくは未置換の炭素数3~18の芳香族炭化水素基、又は置換もしくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基である。
nは1~2の整数を表し、aは0~4の整数を表し、bは0~2の整数を表す。一般式(1)で表される化合物は少なくとも1個の重水素を有する。
【請求項2】
一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(3)~(8)のいずれかで表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化2】
【化3】

【化4】

ここで、Ar2、R1、a及びbは一般式(1)と同義である。
Lは単結合、置換若しくは未置換の炭素数6~12の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~10の芳香族複素環基である。
Ar3は式(9)で表される基であり、XはCR2又はNを表し、少なくとも1つのXはNを表す。
R2は水素、炭素数3~10の脂肪族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数6~18の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~10の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~5個連結して構成される連結芳香族基である。R2が連結芳香族基である場合、連結する芳香族環は同一であっても異なっていても良く、直鎖状でも分岐状でも良い。
一般式(3)~(8)で表される化合物は少なくとも1個の重水素を有する。
【請求項3】
一般式(3)~(6)のいずれかで表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
Lが置換若しくは未置換の炭素数6~12の芳香族炭化水素基であることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記ホスト材料が、下記一般式(10)で表される化合物であることを特徴とする請求項に記載の有機電界発光素子。
【化5】

ここで、Ar4はベンゼン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、カルボラン、トリアジン、又はこれらが2~3個連結した化合物から生じるp価の基を表す。
pは1又は2の整数を表し、qは0~4の整数を表すが、Ar4がベンゼンから生じるp価の基である場合、qは1~4の整数である。
【請求項6】
一般式(10)で表されるホスト材料を少なくとも2種類含有することを特徴とする請求項に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
ホスト材料の励起三重項エネルギー(T1)、が一般式(1)で表される熱活性化遅延蛍光材料の励起一重項エネルギー(S1)よりも大きいことを特徴とする請求項に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記発光層に隣接する層に、一般式(10)で表される化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
一般式(1)で表される化合物の励起一重項エネルギー(S1)と励起三重項エネルギー(T1)の差が、0.2eV以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電界発光素子(有機EL素子という)に関するものである。
【0002】
有機EL素子に電圧を印加することで、陽極から正孔が、陰極からは電子がそれぞれ発光層に注入される。そして発光層において、注入された正孔と電子が再結合し、励起子が生成される。この際、電子スピンの統計則により、一重項励起子及び三重項励起子が1:3の割合で生成する。一重項励起子による発光を用いる蛍光発光型の有機EL素子は、内部量子効率は25%が限界であるといわれている。一方で三重項励起子による発光を用いる燐光発光型の有機EL素子は、一重項励起子から項間交差が効率的に行われた場合には、内部量子効率が100%まで高められることが知られている。
近年では、燐光型有機EL素子の長寿命化技術が進展し、携帯電話等のディスプレイへ応用されつつある。しかしながら青色の有機EL素子に関しては、実用的な燐光発光型の有機EL素子は開発されておらず、高効率であり、且つ長寿命な青色有機EL素子の開発が求められている。
【0003】
さらに最近では、遅延蛍光を利用した高効率の遅延蛍光型の有機EL素子の開発がなされている。例えば特許文献1には、遅延蛍光のメカニズムの1つであるTTF(Triplet-Triplet Fusion)機構を利用した有機EL素子が開示されている。TTF機構は2つの三重項励起子の衝突によって一重項励起子が生成する現象を利用するものであり、理論上内部量子効率を40%まで高められると考えられている。しかしながら、燐光発光型の有機EL素子と比較すると効率が低いため、更なる効率の改良が求められている。
【0004】
一方で特許文献2では、熱活性化遅延蛍光(TADF;Thermally Activated Delayed Fluorescence)機構を利用した有機EL素子が開示されている。TADF機構は一重項準位と三重項準位のエネルギー差が小さい材料において三重項励起子から一重項励起子への逆項間交差が生じる現象を利用するものであり、理論上内部量子効率を100%まで高められると考えられている。しかしながら燐光発光型素子と同様に寿命特性の更なる改善が求められている。このような遅延蛍光型の有機EL素子は、発光効率が高いという特徴があるが、更なる改良が求められている。
【0005】
特許文献2では、インドロカルバゾール化合物について、TADF材料としての使用を開示している。
【0006】
特許文献3では、下記に示すようなインドロカルバゾール化合物を重水素化した化合物を開示している。
【化1】
【0007】
特許文献4では、重水素化されたインドロカルバゾール化合物について、ホスト材料としての使用を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2010/134350号公報
【文献】WO2011/070963号公報
【文献】WO2011/059463号公報
【文献】WO2012/087955号公報
【発明の概要】
【0009】
有機EL素子をフラットパネルディスプレイ等の表示素子、又は光源に応用するためには素子の発光効率を改善すると同時に駆動時の安定性を十分に確保する必要がある。本発明は、上記現状を鑑み、高効率、且つ高い駆動安定性を有した実用上有用な有機EL素子を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、対向する陽極と陰極の間に1つ以上の発光層を含む有機EL素子において、少なくとも1つの発光層が、下記一般式(1)で表される化合物を熱活性化遅延蛍光発光材料として含有することを特徴とする有機EL素子である。
【0011】
【化2】
【0012】
ここで、Zは式(2)で表される縮合芳香族複素環であり、環Aは式(2a)で表される芳香族炭化水素環であり、環Bは(2b)で表される複素環であり、環A及び環Bはそれぞれ隣接する環と任意の位置で縮合する。Ar1は置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~8個連結して構成される連結芳香族基である。Ar2は、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~8個連結して構成される連結芳香族基である。Ar1、Ar2が連結芳香族基である場合、連結する芳香族環は同一であっても異なっていても良く、直鎖上でも分岐状でも良い。R1は独立に炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、置換もしくは未置換の炭素数12~44のジアリールアミノ基、置換もしくは未置換の炭素数6~18の芳香族炭化水素基、又は置換もしくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基である。nは1~2の整数を表し、aは0~4の整数を表し、bは0~2の整数を表す。一般式(1)で表される化合物は少なくとも1個の重水素を有する。
【0013】
一般式(1)の好ましい態様として、下記一般式(3)~(8)のいずれかがあり、一般式(3)~(6)のいずれかがより好ましい。更に一般式(3)~(8)中のLが置換若しくは未置換の炭素数6~12の芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0014】
【化3】

【化4】
【0015】
ここで、Ar2、a、b及びR1は一般式(1)と同義である。Lは単結合、置換若しくは未置換の炭素数6~12の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~10の芳香族複素環基である。Ar3は一般式(9)で表され、XはCR2又はNを表し、少なくとも1つのXはNを表す。R2は水素、炭素数3~10の脂肪族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数6~18の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~10の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~5個連結して構成される連結芳香族基である。R2が連結芳香族基である場合、連結する芳香族環は同一であっても異なっていても良く、直鎖状でも分岐状でも良い。aは0~4の整数を表し、bは0~2の整数を表す。一般式(3)~(8)で表される化合物は少なくとも1個の重水素を有する。
【0016】
本発明の有機EL素子は、一般式(1)で表される熱活性化遅延蛍光材料を含有する発光層中にホスト材料を含有することができる。
上記ホスト材料としては、下記一般式(10)で表される化合物がある。
【化5】

ここで、Ar4はベンゼン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、カルボラン、トリアジン、又はこれらが2~3個連結した化合物から生じるp価の基を表す。pは1又は2の整数を表し、qは0~4の整数を表すが、Ar4がベンゼンから生じるp価の基である場合、qは1~4の整数を表す。
【0017】
上記発光層は、一般式(10)で表されるホスト材料を少なくとも2種類含有することができる。
【0018】
上記ホスト材料の励起三重項エネルギー(T1)が一般式(1)で表される熱活性化遅延蛍光材料の励起一重項エネルギー(S1)よりも大きいことが好ましい。
【0019】
前記発光層に隣接する層に、一般式(10)で表される化合物を含有してもよい。
【0020】
上記発光層中の一般式(1)で表される熱活性化遅延蛍光発光材料の励起一重項エネルギー(S1)と励起三重項エネルギー(T1)の差が0.2eV以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の有機EL素子は、発光層に特定の熱活性化遅延蛍光材料を含有するため、高発光効率、且つ長寿命な遅延蛍光型の有機EL素子となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】有機EL素子の一例を示した模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の有機EL素子は、対向する陽極と陰極の間に、1つ以上の発光層を有し、発光層の少なくとも1層が、上記一般式(1)で表される熱活性化遅延蛍光材料(TADF材料という。)を含有する。この有機EL素子は、対向する陽極と陰極の間に複数の層からなる有機層を有するが、複数の層の少なくとも1層は発光層であり、発光層には必要によりホスト材料を含有することができ、好ましいホスト材料は、上記一般式(10)で表される化合物である。
【0024】
上記一般式(1)について、説明する。
Zは式(2)で表される縮合芳香族複素環であり、式(2)中の環Aは式(2a)で表される芳香族炭化水素環であり、環Bは式(2b)で表される複素環であり、環A及び環Bはそれぞれ隣接する環と任意の位置で縮合する。nは1~2の整数を表し、好ましくは、1の整数を表す。
【0025】
一般式(1)で表される化合物は少なくとも1個の重水素を有する。すなわち、一般式(1)は、例えばCnHmXq(ここで、Xはヘテロ原子であり、qは2以上の整数である。)で表されるが、m個のHの内、少なくとも1個は重水素Dである。好ましくは、平均としてm個のHの10%以上、より好ましくは20%以上がDである。
【0026】
一般式(1)又は式(2b)において、Ar1はn価の基であり、Ar2は1価の基である。
Ar1及びAr2はそれぞれ独立に置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~8個連結して構成される連結芳香族基を表す。好ましくは、置換若しくは未置換の炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~12の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~8個連結して構成される連結芳香族基である。より好ましくは、置換若しくは未置換の炭素数6~10の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~9の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~8個連結して構成される連結芳香族基を表す。
Ar1、Ar2が連結芳香族基である場合、連結する芳香族環は同一であっても異なっていても良く、直鎖状であっても、分岐状でも良い。
【0027】
本明細書でいう連結芳香族基は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2個以上直接結合で結合した構造を有する基を言い、置換基を有してもよく、芳香族環は異なっていてもよく、分岐していてもよいものであると解される。
【0028】
Ar1、Ar2の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アセナフテン、アセナフチレン、アズレン、アントラセン、クリセン、ピレン、ペリレン、フェナントレン、トリフェニレン、コランニュレン、コロネン、テトラセン、ペンタセン、フルオレン、ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、インデノ[1,2,3-cd]ピレン、ジベンゾ[a,h]アントラセン、ピセン、テトラフェニレン、アンタントレン、1,12-ベンゾペリレン、ヘプタセン、ヘキサセン、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、チオフェン、イソチアゾール、チアゾール、ピリダジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラジン、フラン、イソキサゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、チアジアゾール、ベンゾトリアジン、フタラジン、テトラゾール、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾイソチアゾール、ベンゾチアジアゾール、プリン、ピラノン、クマリン、イソクマリン、クロモン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ジベンゾセレノフェン、カルバゾール又はこれらが2~8個連結して構成される連結芳香族化合物から水素を取って生じる基が挙げられる。ここで、Ar1の場合は、n個の水素を取って生じる基であり、Ar2の場合は、1個の水素を取って生じる基である。
好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、アセナフテン、アセナフチレン、アズレン、アントラセン、クリセン、ピレン、ペリレン、フェナントレン、トリフェニレン、コランニュレン、テトラセン、フルオレン、ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、チオフェン、イソチアゾール、チアゾール、ピリダジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラジン、フラン、イソキサゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、チアジアゾール、ベンゾトリアジン、フタラジン、テトラゾール、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾイソチアゾール、ベンゾチアジアゾール、プリン、ピラノン、クマリン、イソクマリン、クロモン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ジベンゾセレノフェン、カルバゾール、又はこれらが2~8個連結して構成される連結芳香族化合物から水素を取って生じる基が挙げられる。より好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、チオフェン、イソチアゾール、チアゾール、ピリダジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラジン、フラン、イソキサゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、チアジアゾール、ベンゾトリアジン、フタラジン、テトラゾール、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾイソチアゾール、ベンゾチアジアゾール、プリン、ピラノン、クマリン、イソクマリン、クロモン、又はこれらが2~8個連結して構成される連結芳香族化合物から水素を取って生じる基が挙げられる。
【0029】
一般式(1)又は式(2)又は式(2a)において、R1はそれぞれ独立に炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数12~44のジアリールアミノ基、置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基を表す。好ましくは、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数12~22のジアリールアミノ基、置換若しくは未置換の炭素数3~12の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~15の芳香族複素環基を表す。より好ましくは、置換若しくは未置換の炭素数3~10の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~10の芳香族複素環基を表す。
aは0~4の整数を表し、好ましくは0~2の整数を表し、より好ましくは0~1の整数を表す。bは0~2の整数を表し、好ましくは0~1の整数を表す。
【0030】
上記R1の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ジフェニルアミノ、ナフチルフェニルアミノ、ジナフチルアミノ、ジアントラニルアミノ、ジフェナンスレニルアミノ、フェニル、ビフェニリル、ターフェニリル、ナフチル、ピリジル、ピリミジル、トリアジル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチエニル、又はカルバゾリル等が挙げられる。好ましくは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、ジフェニルアミノ、ナフチルフェニルアミノ、ジナフチルアミノ、フェニル、ナフチル、ピリジル、ピリミジル、トリアジル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチエニル、又はカルバゾリル等が挙げられる。より好ましくは、フェニル、ナフチル、ピリジル、ピリミジル、又はトリアジルが挙げられる。
【0031】
一般式(1)の好ましい態様として、一般式(3)~(8)がある。一般式(3)~(8)において、Ar2、a、b及びR1は一般式(1)と同義である。
Lは単結合、置換若しくは未置換の炭素数6~12の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~10の芳香族複素環基であり、好ましくは、単結合、置換若しくは未置換の炭素数6~10の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~8の芳香族複素環基であり、より好ましくは、単結合、置換若しくは未置換のフェニル基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~6の芳香族複素環基である。
【0032】
上記Lの具体例としては、単結合、又はベンゼン、ナフタレン、アセナフテン、アセナフチレン、アズレン、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、チオフェン、イソチアゾール、チアゾール、ピリダジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラジン、フラン、イソキサゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、チアジアゾール、ベンゾトリアジン、フタラジン、テトラゾール、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾイソチアゾール、ベンゾチアジアゾール、プリン、ピラノン、クマリン、イソクマリン、クロモン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ジベンゾセレノフェン、カルバゾール等から2個の水素を除いて生じる基が挙げられる。好ましくは、単結合、又はベンゼン、ナフタレン、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、チオフェン、イソチアゾール、チアゾール、ピリダジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラジン、フラン、イソキサゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、チアジアゾール、ベンゾトリアジン、フタラジン、テトラゾール、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール等から生じる基が挙げられる。より好ましくは、単結合、又はベンゼン、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、チオフェンから生じる基が挙げられる。
【0033】
一般式(3)~(8)において、Ar3は式(9)で表される基である。
式(9)において、XはCR2又はNを表し、少なくとも1つのXはNを表す。R2は水素、炭素数3~10の脂肪族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数6~18の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~10の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~5個連結して構成される連結芳香族基を表す。好ましくは、水素、置換若しくは未置換の炭素数6~12の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~8の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~5個連結して構成される連結芳香族基を表す。より好ましくは、水素、置換若しくは未置換の炭素数6~10の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~6の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~4個連結して構成される連結芳香族基を表す。連結芳香族基の説明は、前記Ar1、Ar2が連結芳香族基である場合と同様である。
【0034】
本明細書において、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が置換基を有する場合、好ましい置換基としては、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数3~30のアルキルシリル基等が挙げられる。
【0035】
一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、これらの例示化合物に限定されるものではない。以下の化合物は、少なくとも1つの水素が重水素に置換された化合物であるが、その置換位置は特定されない。
【0036】
【化6】

【化7】

【化8】
【0037】
【化9】

【化10】

【化11】
【0038】
【化12】

【化13】
【0039】
一般式(1)で表される化合物の少なくとも1つの水素を重水素とする方法は特に限定されないが、反応原料又は前駆体化合物として重水素化化合物を用いるか、一般式(1)で表される非重水素化化合物を得たのち、ルイス酸H/D交換触媒(三塩化アルミニウム又はエチルアルミニウムクロライド、又はCF3COOD、DCl等の酸等)の存在下で、非重水素化合物を重水素化溶媒で処理することにより調製できる。重水素化の程度は、NMR分析及び質量分析法によって求めることができる。
【0040】
前記一般式(1)で表される化合物をTADF材料として、発光層に含有させることで優れた遅延蛍光型の有機EL素子とすることができる。
【0041】
また、発光層には、必要により、上記TADF材料と共にホスト材料を含有させることができる。ホスト材料を含有させることにより、優れた有機EL素子となる。この場合、TADF材料はドーパントともいう。ホスト材料は、ドーパントであるTADF材料からの発光を促進する。ホスト材料は、励起三重項エネルギー(T1)がTADF材料の励起一重項エネルギー(S1)よりも大きいことが望ましい。
【0042】
一般式(1)で表される化合物は、励起一重項エネルギー(S1)と励起三重項エネルギー(T1)の差(ΔE)が0.2eV以下であることが好ましく、このようなΔEを示すことにより、優れた熱活性化遅延蛍光発光材料となる。
【0043】
ホスト材料としては、上記一般式(10)で表される化合物が適する。
一般式(10)において、Ar4はp価の基であり、ベンゼン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、カルボラン、トリアジン、又はこれらが2~3個連結した連結化合物からp個の水素を除いて生じる基である。ここで、連結化合物は、ベンゼン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、又はカルボランの環が、直接結合で連結した構造の化合物であり、これらの化合物から2個の水素を除いて生じる基は、例えば-Ar-Ar-、-Ar-Ar-Ar-、又は-Ar-Ar(Ar)-で表される。ここで、Arは、ベンゼン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、又はカルボランの環であり、複数のArは同一であっても、異なってもよい。好ましい連結化合物としては、ベンゼン環が2又は3連結した化合物であるビフェニル、又はターフェニルが挙げられる。
【0044】
好ましくは、Ar4は、ベンゼン、ビフェニル、ターフェニル、ジベンゾフラン、N-フェニルカルバゾール、カルボラン、又はトリアジンからp個の水素を取って生じるp価の基である。pは1又は2の整数を表し、好ましくは1の整数を表す。qは0~4の整数を表し、好ましくは0~3の整数、より好ましくは0~2の整数を表すが、Ar4がベンゼンから生じるp価の基である場合、qが0であることは無い。
【0045】
一般式(10)で表される化合物は、Ar4及びカルバゾール環を有するが、このAr4及びカルバゾール環は、ホストとしての機能を阻害しない限り置換基を有してもよい。かかる置換基としては、炭素数1~8の炭化水素基、炭素数1~8のアルコキシ基が挙げられ、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~3のアルコキシ基である。
【0046】
以下に、一般式(10)で表される化合物の具体例を示す。
【0047】
【化14】

【化15】

【化16】

【化17】
【0048】
前記一般式(1)で表される化合物から選ばれる熱活性化遅延蛍光材料を含有する発光層を有することで、遅延蛍光発光が可能な有機EL素子とすることができる。また、この熱活性化遅延蛍光材料をドーパント材料として含有し、前記一般式(10)で表される化合物から選ばれるホスト材料を含有する発光層を有することでより優れた特性を有する有機EL素子を提供することができる。更に、2種以上のホスト材料を含有することで、特性を改良することもできる。2種のホストを含有する場合、少なくとも1種は、一般式(10)で表される化合物から選ばれるホスト材料であることがよい。第1ホストが一般式(10)で表される化合物であることが好ましい。第2ホストは、前記一般式(10)の化合物であってもよいし、他のホスト材料であってもよいが、一般式(10)で表される化合物であることが好ましい。
【0049】
ここで、S1、T1は次のようにして測定される。
石英基板上に真空蒸着法にて、真空度10-4Pa以下の条件にて試料化合物を蒸着し、蒸着膜を100nmの厚さで形成する。S1は、この蒸着膜の発光スペクトルを測定し、この発光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸の交点の波長値λedge[nm]を、次に示す式(i)に代入してS1を算出する。
S1[eV] = 1239.85/λedge (i)
【0050】
T1は、上記の蒸着膜の燐光スペクトルを測定し、この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸の交点の波長値λedge[nm]を、式(ii)に代入してT1を算出する。
T1[eV] = 1239.85/λedge (ii)
【0051】
次に、本発明の有機EL素子の構造について、図面を参照しながら説明するが、本発明の有機EL素子の構造はこれに限定されない。
【0052】
図1は本発明に用いられる一般的な有機EL素子の構造例を示す断面図であり、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表す。本発明の有機EL素子は発光層と隣接して励起子阻止層を有してもよく、また発光層と正孔注入層との間に電子阻止層を有しても良い。励起子阻止層は発光層の陰極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。本発明の有機EL素子では、陽極、発光層、そして陰極を必須の層として有するが、必須の層以外に正孔注入輸送層、電子注入輸送層を有することが良く、更に発光層と電子注入輸送層の間に正孔阻止層を有することがよい。なお、正孔注入輸送層は、正孔注入層と正孔輸送層のいずれか、または両者を意味し、電子注入輸送層は、電子注入層と電子輸送層のいずれかまたは両者を意味する
【0053】
図1とは逆の構造、すなわち基板1上に陰極7、電子輸送層6、発光層5、正孔輸送層4、陽極2の順に積層することも可能であり、この場合も必要により層を追加、省略することが可能である。
【0054】
―基板―
本発明の有機EL素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については特に制限はなく、従来から有機EL素子に用いられているものであれば良く、例えばガラス、透明プラスチック、石英等からなるものを用いることができる。
【0055】
―陽極―
有機EL素子における陽極材料としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物又はこれらの混合物からなる材料が好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3-ZnO)等の非晶質で、透明導電膜を作成可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成しても良く、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合(100μm以上程度)は、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは有機導電性化合物のような塗布可能な物質を用いる場合には印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。膜厚は材料にもよるが、通常10~1000nm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0056】
―陰極―
一方、陰極材料としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物、又はこれらの混合物からなる材料が用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム―カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えばマグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの陰極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光輝度は向上し、好都合である。
【0057】
また、陰極に上記金属を1~20nmの膜厚で形成した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に形成することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0058】
―発光層―
発光層は陽極及び陰極のそれぞれから注入された正孔及び電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層である。発光層には、本発明のTADF材料を単独で使用しても良いし、本発明のTADF材料をホスト材料と共に使用してもよい。ホスト材料と共に使用する場合は、本発明のTADF材料は、有機発光性ドーパント材料となる。
【0059】
有機発光性ドーパント材料は、発光層中に1種類のみが含有されても良いし、2種類以上を含有しても良い。TADF材料又は有機発光性ドーパント材料の含有量は、ホスト材料に対して0.1~50wt%であることが好ましく、1~30wt%であることがより好ましい。
本発明の有機EL素子は、遅延蛍光発光を利用するものであるので、燐光発光型の有機EL素子に使用されるIr錯体のようなドーパントは使用されない。
【0060】
発光層におけるホスト材料としては、燐光発光素子や蛍光発光素子で使用される公知のホスト材料をすることができるが、前記一般式(10)で表される化合物を用いることが好ましい。またホスト材料を複数種類併用して用いても良い。ホスト材料を複数種類併用して用いる場合、少なくとも1種類のホスト材料が前記一般式(10)で表される化合物から選ばれることが好ましい。
【0061】
使用できる公知のホスト材料としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ高いガラス転移温度を有する化合物であり、TADF材料又は発光性ドーパント材料のT1よりも大きいS1を有していることが好ましい。
【0062】
このような他のホスト材料は、多数の特許文献等により知られているので、それらから選択することができる。ホスト材料の具体例としては、特に限定されるものではないが、インドール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニレン誘導体、カルボラン化合物、ポルフィリン系化合物、フタロシアニン誘導体、8―キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾール誘導体の金属錯体に代表される各種金属錯体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等の高分子化合物等が挙げられる。
【0063】
ホスト材料を複数種使用する場合は、それぞれのホストを異なる蒸着源から蒸着するか、蒸着前に予備混合して予備混合物とすることで1つの蒸着源から複数種のホストを同時に蒸着することもできる。
【0064】
-注入層-
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層又は正孔輸送層の間、及び陰極と発光層又は電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0065】
-正孔阻止層-
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
正孔阻止層には、公知の正孔阻止材料をすることができるが、前記一般式(10)で表される化合物を用いることが好ましい。また正孔阻止材料を複数種類併用して用いても良
い。
【0066】
-電子阻止層-
電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
電子阻止層の材料としては、公知の電子阻止層材料を用いることができるが、前記一般式(10)で表される化合物を用いることが好ましい。電子阻止層の膜厚は好ましくは3~100nmであり、より好ましくは5~30nmである。
【0067】
-励起子阻止層-
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は2つ以上の発光層が隣接する素子において、隣接する2つの発光層の間に挿入することができる。
励起子阻止層の材料としては、公知の励起子阻止層材料を用いることができるが、前記一般式(10)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0068】
発光層に隣接する層としては、正孔阻止層、電子阻止層、励起子阻止層などがあるが、これらの層が設けられない場合は、正孔輸送層、電子輸送層などが隣接層となる。2つの隣接層の少なくとも1つに一般式(10)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0069】
-正孔輸送層-
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層又は複数層設けることができる。
【0070】
正孔輸送材料としては、正孔の注入、又は輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。正孔輸送層には従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。かかる正孔輸送材料としては例えば、ポルフィリン誘導体、アリールアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン誘導体、アリールアミン誘導体及びスチリルアミン誘導体を用いることが好ましく、アリールアミン化合物を用いることがより好ましい。
【0071】
-電子輸送層-
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層又は複数層設けることができる。
【0072】
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。電子輸送層には、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントロリン等の多環芳香族誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、ビピリジン誘導体、キノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体等が挙げられる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0073】
本発明の有機EL素子を作製する際の、各層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製しても良い。
【実施例
【0074】
以下、本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
実施例及び比較例で用いた化合物を次に示す。
【化18】
【0076】
合成例1
化合物104の重水素化体(104D)の合成
【0077】
化合物104(2.0g、3.1mmol)を100mLの三口フラスコに入れ、25gの重ベンゼンを加え、窒素雰囲気下室温で撹拌した。重水素化トリフル酸(12.0g、104mmol)を加え、50℃で5時間撹拌した。炭酸ナトリウムの重水溶液を加え、有機層を水で洗浄した。有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥、濾過した後、濃縮乾燥させた。更に再結晶することにより得られた固体を昇華により精製することで、化合物104の重水素化体(104D)を1.6g得た。
質量分析の結果より算定される化合物104Dの重水素化率は、約31%であった。
APCI-TOFMS m/z:650[M+1]+
【0078】
合成例2~8
化合物115、119、125、131、142、150、又は158を合成例1と同様の方法で重水素化することで、それぞれの重水素化体の化合物115D、119D、125D、131D、142D、150D、又は158Dをそれぞれ得た。
【0079】
上記重水素化体、及び重水素化される前の化合物104のS1とT1を測定した。更に前記化合物215、217、238、243、及びmCPのS1とT1を測定した。測定方法および算出方法は、前述した方法と同様である。
【0080】
【表1】
【0081】
実験例1
化合物104Dの蛍光寿命を測定した。石英基板上に真空蒸着法にて、真空度10-4Pa以下の条件にて化合物104Dと化合物217を異なる蒸着源から蒸着し、化合物104Dの濃度が15重量%である共蒸着膜を100nmの厚さで形成した。この薄膜の発光スペクトルを測定し、483nmをピークとする発光が確認された。また、窒素雰囲気下で小型蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス(株)製Quantaurus-tau)により発光寿命を測定した。励起寿命が12nsの蛍光と13μsの遅延蛍光が観測され、化合物104Dが遅延蛍光発光を示す化合物であることが確認された。
【0082】
重水素化体115D、119D、125D、131D、142D、150D、158Dについても、上記と同様に蛍光寿命を測定したところ、遅延蛍光が観測され、遅延蛍光発光を示す材料であることが確認された。また重水素化される前の化合物104、115、119、125、131、142、150、158についても、同様に蛍光寿命及を測定したところ、遅延蛍光が観測され、遅延蛍光発光を示す材料であることが確認された。
【0083】
実施例1
膜厚70nmのITOからなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度4.0×10-5Paで積層した。まず、ITO上に正孔注入層としてHAT-CNを10nmの厚さに形成し、次に正孔輸送層としてHT-1を25nmの厚さに形成した。次に、電子阻止層として化合物(217)を5nmの厚さに形成した。そして、ホストとして化合物(217)を、ドーパントとして化合物(104D)をそれぞれ異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さに発光層を形成した。この時、化合物(104D)の濃度が15wt%となる蒸着条件で共蒸着した。次に、正孔阻止層として化合物(238)を5nmの厚さに形成した。次に電子輸送層としてET-1を40nmの厚さに形成した。更に、電子輸送層上に電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)を1nmの厚さに形成した。最後に、電子注入層上に、陰極としてアルミニウム(Al)を70nmの厚さに形成し、有機EL素子を作製した。
【0084】
実施例2~11、比較例1~8
ドーパント、及びホストを表2に示す化合物とした他は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0085】
実施例12、13
電子阻止層、ホスト、及び正孔阻止層を表2に示す化合物とした他は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0086】
実施例14
膜厚70nmのITOからなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度4.0×10-5Paで積層した。まず、ITO上に正孔注入層としてHAT-CNを10nmの厚さに形成し、次に正孔輸送層としHT-1を25nmの厚さに形成した。次に、電子阻止層として化合物(217)を5nmの厚さに形成した。次に、ホストとして化合物(217)を、第2ホストとして化合物(238)を、そしてドーパントとして化合物(104D)をそれぞれ異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さに発光層を形成した。この時、化合物(104D)の濃度が15wt%、ホストと第2ホストの重量比が50:50となる蒸着条件で共蒸着した。次に、正孔阻止層として化合物(238)を5nmの厚さに形成した。次に電子輸送層としてET-1を40nmの厚さに形成した。更に、電子輸送層上に電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)を1nmの厚さに形成した。最後に、電子注入層上に、陰極としてアルミニウム(Al)を70nmの厚さに形成し、有機EL素子を作製した。
【0087】
ドーパント、ホスト、第2ホスト、正孔阻止層、電子阻止層として使用した化合物を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
作製した有機EL素子の発光スペクトルの極大発光波長、外部量子効率、寿命を表3に示す。極大発光波長、外部量子効率は駆動電流密度が2.5mA/cm2時の値であり、初期特性である。寿命は、初期輝度500cd/m2時に輝度が初期輝度の95%まで減衰するまでの時間を測定した。
【0090】
【表3】
【0091】
表3から一般式(1)で表される重水素化されたTADF材料を発光ドーパントとして使用した有機EL素子は、重水素化されていないTADF材料を発光ドーパントとして使用した場合に対して、優れた寿命特性を有することが分かる。これは、重水素化により炭素―水素結合が炭素―重水素結合になったことで、結合解離エネルギーが大きくなり、炭素―水素結合の開裂によるTADF材料の劣化が抑制されたことによるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の有機EL素子は、高発光効率、且つ長寿命な遅延蛍光型の有機EL素子であり、携帯電話等のディスプレイ等の表示素子や光源素子として実用上有用である。
【符号の説明】
【0093】
1 基板、2 陽極、3 正孔注入層、4 正孔輸送層、5 発光層、6 電子輸送層、7 陰極
図1