(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】炭素繊維製造用アクリロニトリル系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 20/44 20060101AFI20220309BHJP
C08F 2/00 20060101ALI20220309BHJP
D01F 6/18 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
C08F20/44
C08F2/00 A
D01F6/18 E
(21)【出願番号】P 2019571197
(86)(22)【出願日】2018-09-18
(86)【国際出願番号】 KR2018011007
(87)【国際公開番号】W WO2019066360
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2019-09-11
(31)【優先権主張番号】10-2017-0127936
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0110670
(32)【優先日】2018-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】キム、チャン-フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョン-ミン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、チョン-フン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、チュン-ヒ
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-214562(JP,A)
【文献】特開2012-025810(JP,A)
【文献】米国特許第03479312(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/00-20/70
C08F 2/00-2/60
D01F 6/00-6/96
D01F 9/08-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロニトリル系単量体及び第1反応溶媒を含む反応溶液を準備する段階と、
前記反応溶液に開始剤を1次投入して重合を開始する段階と、
重合転換率が70から80%である時点に到達した時、開始剤を2次投入して重合を行う段階とを含み、
前記1次投入された開始剤と2次投入された開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド、[(シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)及び2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)から選択される1種以上のものであ
り、
前記1次投入された開始剤と2次投入された開始剤の重量比が1:1から10:1である
炭素繊維用アクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記2次投入された開始剤は、第2反応溶媒と混合された状態で投入されるものである、
請求項1に記載の炭素繊維製造用アクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記第2反応溶媒は、第1反応溶媒と同一のものである、
請求項2に記載の炭素繊維製造用アクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記2次投入された開始剤と第2反応溶媒は、1:15から1:35の重量比で混合されるものである、
請求項2または3に記載の炭素繊維製造用アクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記第2反応溶媒は、前記第1反応溶媒100重量部に対して1から10重量部である、
請求項2~4のいずれか一項に記載の炭素繊維製造用アクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記1次投入された開始剤と2次投入された開始剤の全体含量は、前記(メタ)アクリロニトリル系単量体100重量部に対して0.2から2重量部のものである、
請求項1~5のいずれか一項に記載の炭素繊維製造用アクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記開始剤を1次投入する前に、前記反応溶液を50から70℃に昇温させる段階をさらに含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の炭素繊維製造用アクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記反応溶液は、カルボン酸系共単量体及び(メタ)アクリレート系単量体でなる群から選択される1種以上の共単量体をさらに含むものである、
請求項1~7のいずれか一項に記載の炭素繊維製造用アクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記共単量体は、前記(メタ)アクリロニトリル系単量体100重量部に対して1から10重量部で含まれるものである、
請求項8に記載の炭素繊維製造用アクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本発明は、2017年9月29日に出願された韓国特許出願第10-2017-0127936号及び2018年9月17に出願された韓国特許出願第10-2018-0110670号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容を本明細書の一部として含む。
【0002】
本発明は、炭素繊維製造用アクリロニトリル系重合体の製造方法に関し、ラジカル重合開始剤を特定時点で分割投入する炭素繊維製造用アクリロニトリル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
炭素繊維は、全体重量に対して炭素元素が90重量%以上でなる繊維状の炭素材料であって、アクリロニトリル系重合体、石油系/石炭系炭化水素残留物であるピッチ(pitch)又はレーヨンから製造された繊維形態の前駆体を不活性雰囲気で熱分解し得られる繊維を意味する。
【0004】
炭素繊維は、構成要素である炭素の構造及び組職特性を有しつつ繊維形態を有した材料であって、耐熱性、化学的安定性、電気熱伝導性、低熱膨張による寸法安定性、低密度、摩擦摩耗特性、X線透過性、電磁波遮蔽性、生体親和性、柔軟性等の優れた特徴を有しており、活性化条件によっては非常に優れた吸着特性の付与も可能である。
【0005】
一方、アクリロニトリル系重合体は、炭素繊維前駆体の原料として広く用いられている。アクリロニトリル系重合体を製造する方法には、溶液重合が主に用いられる。溶液重合は、単量体、開始剤、反応溶媒を用いる方法で、重合体溶液をそのまま紡糸溶液として用いられるため、重合体を紡糸溶媒に溶解する過程が不要であるという長所を有している。
【0006】
しかし、開始剤を過量投入して溶液重合の重合転換率を高めれば、重量平均分子量が低下され重合体溶液の粘度が高くなり過ぎ、ポリアクリロニトリル系繊維の紡糸溶液として利用時に効率が低下される問題がある。これにより、重合体の生産効率及び重量平均分子量を高めつつ重合体溶液の粘度を適切に維持する研究が継続している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、重合体の分子量分布が低く、重合体溶液の粘度が全て優秀であり、最終の重合転換率も増加された炭素繊維製造用アクリロニトリル系重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、(メタ)アクリロニトリル系単量体及び第1反応溶媒を含む反応溶液を準備する段階と、前記反応溶液に開始剤を1次投入して重合を開始する段階と、重合転換率が70から80%である時点に到達した時、開始剤を2次投入して重合を行う段階とを含む炭素繊維用アクリロニトリル系共重合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の炭素繊維製造用アクリロニトリル系重合体の製造方法によれば、分子量分布が低いながらも最終の重合転換率が高いアクリロニトリル系重合体を製造できる。それだけでなく、溶液重合で製造されたアクリロニトリル系重合体溶液の粘度が適切であるため、アクリロニトリル系重合体繊維製造用の紡糸溶液として別途の後処理なく利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に対する理解を深めるために、本発明をより詳細に説明する。
【0011】
本明細書及び特許請求の範囲において用いられた用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最善の方法によって説明するために、用語の概念を適宜定義することができるという原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念に解釈されなければならない。
【0012】
本発明で重合転換率は、収得された重合体溶液の一定量を水に沈殿させ、温水で洗浄し70℃で4時間乾燥し、乾燥された樹脂の重さを測定して固形分の含量を測定し、下記式によって測定した。
【0013】
重合転換率(%):(測定された固形分の含量)/(反応器内に投入された固形分と溶媒の比率で計算された反応溶液一定量当たりの固形分の含量)×100
本発明の一実施形態による炭素繊維製造用アクリロニトリル系重合体の製造方法は、(1)(メタ)アクリロニトリル系単量体及び第1反応溶媒を含む反応溶液を準備する段階、(2)前記反応溶液に開始剤を1次投入して重合を開始する段階、及び、(3)重合転換率が70から80%である時点に到達した時、開始剤を2次投入して重合を行う段階を含む。
【0014】
以下、本発明による製造方法の各段階を具体的に説明する。
【0015】
(1)反応溶液を準備する段階
先ず、(メタ)アクリロニトリル系単量体及び第1反応溶媒を含む反応溶液を準備する。
【0016】
前記(メタ)アクリロニトリル系単量体は、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルでなる群から選択される1種以上であってよく、このうちアクリロニトリルが好ましい。
【0017】
前記第1反応溶媒は、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミドでなる群から選択される1種以上であってよく、このうちジメチルスルホキシドが好ましい。
【0018】
前記反応溶液は、前記(メタ)アクリロニトリル単量体100重量部に対し、前記第1反応溶媒を200から500重量部、好ましくは300から450重量部、より好ましくは320から380重量部で含んでよい。
【0019】
上述の範囲を満足すれば、反応溶液の粘度が適切であるため、溶液重合の重合転換率及び重量平均分子量が増加され得る。
【0020】
一方、前記反応溶液は、(メタ)アクリロニトリル単量体以外に追加的な単量体を共単量体としてさらに含んでよい。前記共単量体は、例えば、カルボン酸系単量体及び(メタ)アクリレート系単量体でなる群から選択される1種以上であってよい。前記カルボン酸系単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、マレイン酸及びメサコン酸でなる群から選択される1種以上であってよく、このうちイタコン酸が好ましい。前記(メタ)アクリレート系単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート及びプロピルメタクリレートでなる群から選択される1種以上であってよく、このうちメチルアクリレートが好ましい。
【0021】
前記共単量体は、前記(メタ)アクリロニトリル系単量体100重量部に対し、1から10重量部、好ましくは1から7重量部、より好ましくは1から4重量部で含まれてよい。上述の範囲を満足すれば、アクリロニトリル系重合体繊維の製造工程において酸化安定化反応開始温度を低める役割ができるだけでなく、アクリロニトリル系重合体繊維に適切な延伸性を付与できる。
【0022】
(2)開始剤の1次投入段階
次に、前記反応溶液に開始剤を1次投入して重合を開始する。
【0023】
前記開始剤は、反応溶液内の単量体の重合反応を開始するためのものであり、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド、[(シアの-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等が用いられてよく、このうちにもアゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)でなる1種以上が好ましい。
【0024】
前記開始剤は、前記反応溶液を50℃から70℃に昇温させた後、1次投入されてよい。上述の温度まで昇温させた後、前記開始剤が1次投入されたら、反応溶液内の単量体の気化によって重合収率が低下されることを防止でき、開始剤による重合開始が効果的に行われるので、重合速度が優秀である。
【0025】
前記1次投入された開始剤は、前記(メタ)アクリロニトリル系単量体100重量部に対し、0.2から1重量部、好ましくは0.3から0.9重量部、より好ましくは0.4から0.8重量部で投入されてよい。
【0026】
上述の範囲を満足すれば、収得された重合体の最終の重合転換率を増加させることができる。
【0027】
前記開始剤が1次投入された後、2から10時間、好ましくは4から8時間、より好ましくは5から7時間の間重合が行われてよい。
【0028】
上述の条件を満足すれば、分子量分布(Mw/Mn)が低いアクリロニトリル系重合体を製造でき、最終の重合転換率も高くなり得る。具体的に、2.0から2.5の分子量分布を有するアクリロニトリル系重合体を製造できる。また、アクリロニトリル系重合体の分子量分布が低くなるにつれ、物性の偏差が少ないポリアクリロニトリル系繊維を製造できる。
【0029】
(3)開始剤の2次投入段階
次に、1次開始剤投入後に重合が進行され重合転換率が70から80%である時点に到達した時、開始剤を2次に投入し、重合反応を進行させる。
【0030】
具体的には、前記開始剤の2次投入は、好ましくは重合転換率が73から80%である時点、より好ましくは重合転換率が75から80%である時点で行われてよい。
【0031】
上述の時点で開始剤が2次投入されれば、分子量分布(Mw/Mn)が低いアクリロニトリル系重合体を製造でき、最終の重合転換率も高くなり得る。具体的に、2.0から2.5の分子量分布を有するアクリロニトリル系重合体を製造できる。また、アクリロニトリル系重合体の分子量分布が低くなるにつれ、物性の偏差が少ないポリアクリロニトリル系繊維を製造できる。
【0032】
前記開始剤が、重合転換率が上述の範囲未満の時点で2次に投入されたら、重合体の分子量分布の高くなる問題点が発生し、上述の範囲超過の時点で2次に投入されたら、最終の重合転換率が低くなる問題点が発生する。
【0033】
一方、前記2次投入された開始剤は、第2反応溶媒と混合された状態で投入されてよく、このとき、前記第2反応溶媒は、前記第1反応溶媒と同一のものが好ましい。前記2次投入された開始剤が第2反応溶媒と混合された状態で投入されたら、前記2次投入された開始剤が第1反応溶液とより均一に混合され得る。
【0034】
このとき、前記2次投入された開始剤と第2反応溶媒は、1:15から1:35、好ましくは1:20から1:30、より好ましくは1:23から1:27の重量比で混合されてよい。
【0035】
上述の範囲で混合されれば、収得された重合体溶液の粘度を調節できるため、別途の後処理なくポリアクリロニトリル系繊維の製造時に紡糸溶液として利用できる。具体的に説明すれば、300から800poise(45℃基準)の粘度、好ましくは500から800poise(45℃基準)の粘度を有する重合体溶液が製造されるので、ポリアクリロニトリル系繊維の製造時に紡糸溶液として利用するために、別途の粘度の調節が不要であることがある。
【0036】
また、前記第2反応溶媒は、前記第1反応溶媒100重量部に対し、1から10重量部、好ましくは1から5重量部、より好ましくは1から2重量部で投入されてよい。
【0037】
上述の範囲を満足すれば、収得された重合体溶液の粘度を調節できるため、別途の後処理なくポリアクリロニトリル系繊維の製造時に紡糸溶液として利用できる。具体的に説明すれば、300から800poise(45℃基準)粘度、好ましくは500から800poise(45℃基準)粘度を有する重合体溶液が製造されるので、ポリアクリロニトリル系繊維の製造時に紡糸溶液として利用するために、別途の粘度の調節が不要であることがある。
【0038】
一方、前記1次投入された開始剤と2次投入された開始剤の重量比は、1:1から10:1、好ましくは2:1から8:1、より好ましくは2:1から6:1であってよい。
【0039】
上述の範囲を満足すれば、分子量分布(Mw/Mn)が低いアクリロニトリル系重合体を製造でき、最終の重合転換率も高くなり得る。具体的に、2.0から2.5の分子量分布を有するアクリロニトリル系重合体を製造できる。また、アクリロニトリル系重合体の分子量分布が低くなるにつれ、物性の偏差が少ないポリアクリロニトリル系繊維を製造できる。
【0040】
前記第1次投入された開始剤と2次投入された開始剤の全体含量は、前記単量体混合物100重量部に対し、0.2から2重量部、好ましくは0.5から1.5重量部、より好ましくは0.6から1.2重量部であってよい。上述の範囲を満足すれば、収得された重合体の重合転換率が低下されることなく、溶液重合が容易に行われ得る。
【0041】
[実施例]
以下、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施形態に対して詳しく説明する。しかし、本発明は、色々と異なる形態に具現されてよく、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0042】
<アクリロニトリル系重合体の製造方法>
[実施例1]
ジメチルスルホキシド365重量部に、アクリロニトリルとメチルアクリレートとイタコン酸を97:2:1のモル比で混合した単量体混合物100重量部を均一に溶解し反応溶液を準備した。ジメチルスルホキシド5重量部にラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.2重量部を均一に溶解しラジカル重合開始剤溶液を準備した。
【0043】
前記反応溶液を撹拌機が装着された反応器に投入し窒素置換した後、前記反応器の内部温度を70℃に昇温させた。ラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.4重量部を投入し、5時間の間溶液重合を行った後、前記ラジカル重合開始剤溶液の全量を一括投入(重合転換率が70%である時点)し、8時間の間重合反応をさらに行った後に反応を終了して、アクリロニトリル系重合体溶液を収得した。
【0044】
[実施例2]
6時間の間溶液重合を行った後、前記ラジカル重合開始剤溶液の全量を一括投入(重合転換率が75%である時点)したことを除いては、実施例1と同一の方法でアクリロニトリル系重合体溶液を収得した。
【0045】
[実施例3]
7時間の間溶液重合を行った後、前記ラジカル重合開始剤溶液の全量を一括投入(重合転換率が80%である時点)したことを除いては、実施例1と同一の方法でアクリロニトリル系重合体溶液を収得した。
【0046】
[実施例4]
アゾビスイソブチロニトリルの代わりに、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)を均一に溶解したラジカル重合開始剤溶液を投入したことを除いては、実施例1と同一の方法でアクリロニトリル系重合体溶液を収得した。
【0047】
[実施例5]
アゾビスイソブチロニトリルの代わりに、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)を均一に溶解したラジカル重合開始剤溶液を投入したことを除いては、実施例3と同一の方法でアクリロニトリル系重合体溶液を収得した。
【0048】
[比較例1]
4.9時間の溶液重合を行った後、前記ラジカル重合開始剤溶液の全量を一括投入(重合転換率が69%である時点)したことを除いては、実施例1と同一の方法でアクリロニトリル系重合体溶液を収得した。
【0049】
[比較例2]
7.2時間の溶液重合を行った後、前記ラジカル重合開始剤溶液の全量を一括投入(重合転換率が81%である時点)したことを除いては、実施例1と同一の方法でアクリロニトリル系重合体溶液を収得した。
【0050】
[比較例3]
ジメチルスルホキシド370重量部に、アクリロニトリルとメチルアクリレートとイタコン酸を97:2:1のモル比で混合した単量体混合物100重量部を均一に溶解し反応溶液を準備した。
【0051】
前記反応溶液を撹拌機が装着された反応器に投入し窒素置換した後、反応器の内部温度を70℃に昇温させた。ラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.6重量部を投入し、14時間の間溶液重合を行った後に反応を終了して、アクリロニトリル系重合体溶液を収得した。
【0052】
[比較例4]
ジメチルスルホキシド365重量部に、アクリロニトリルとメチルアクリレートとイタコン酸を97:2:1のモル比で混合した単量体混合物100重量部を均一に溶解し反応溶液を準備した。
【0053】
前記反応溶液を撹拌機が装着された反応器に投入し窒素置換した後、前記反応器の内部温度を70℃に昇温させた。ラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.6重量部を投入し、6時間の間溶液重合を行った。その後、ジメチルスルホキシド5重量部を一括投入し、8時間の間重合反応をさらに行った後に反応を終了して、アクリロニトリル系重合体溶液を収得した。
【0054】
[比較例5]
ジメチルスルホキシド370重量部に、アクリロニトリルとメチルアクリレートとイタコン酸を97:2:1のモル比で混合した単量体混合物100重量部を均一に溶解し反応溶液を準備した。
【0055】
前記反応溶液を撹拌機が装着された反応器に投入し窒素置換した後、反応器の内部温度を70℃に昇温させた。ラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.4重量部を投入し、14時間の間溶液重合を行った後に反応を終了して、アクリロニトリル系重合体溶液を収得した。
【0056】
[実験例1]
実施例1、比較例1から比較例3のアクリロニトリル系重合体の重合転換率、分子量分布(PDI:Mw/Mn)を測定しており、重合体溶液の粘度を測定し下記表1に記載した。
【0057】
1)最終の重合転換率:収得された重合体溶液1gを水に沈殿させ、温水で洗浄し70℃で4時間乾燥した。乾燥された樹脂の重さを測定して固形分の含量を測定し、下記式で重合転換率を測定した。
【0058】
重合転換率(%):(測定された固形分の含量)/(反応器内に投入された固形分と溶媒の比率で計算された反応溶液1g当たりの固形分の含量)×100
2)分子量分布(PDI):収得された重合体溶液1gを下記条件でGPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定し、分子量分布を算出した。
【0059】
カラム:PLmixed B×2、溶媒:DMF/0.05M LiBr(0.45um Filtered)、流速:1.0ml/min、試料濃度:4.0mg/ml、注入量:100ul、カラム温度:65℃、Detector:Waters RI Detector、Standard:PMMA)
3)粘度:下記条件でブルックフィールド(Brookfield)を用いて測定した。
【0060】
スピンドル(spindle)種類-Cone type(CPA-52Z)、cone angle=3°、cone radius=1.2cm、ギャップ(gap):13μm以下、測定せん断速度(shear rate):10~20/sec、測定温度-45℃
【0061】
【0062】
表1を参照すれば、実施例1から5の重合体は分子量分布が低いため、均一な分布を有するアクリロニトリル系重合体が製造されたことを確認できた。また、実施例1から5の重合体溶液は粘度が高いため、別途の後処理なく繊維製造用紡糸溶液として利用され得ることを確認できる。一方、比較例1の重合体は、分子量分布の高い重合体が製造されており、重合体溶液は粘度も顕著に低いため、別途の後処理なく繊維製造用紡糸溶液として利用するには不適切であった。
【0063】
比較例2の重合体は、最終の重合転換率が顕著に低下されており、比較例2の重合体溶液は、固形分含量が低いだけでなく、粘度も顕著に低いため、別途の後処理なく繊維製造用紡糸溶液として利用するには不適切であった。
【0064】
比較例3及び4の場合、分子量分布の高い重合体が製造されており、重合体溶液の粘度も顕著に低いため、繊維製造用紡糸溶液として利用するには不適切であった。
【0065】
また、比較例5の場合、最終の重合転換率が低く、重合体溶液の粘度が低いため、繊維製造用紡糸溶液として利用するには不適切であった。