(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】活物質保持用チューブ、電極及び鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/76 20060101AFI20220310BHJP
H01M 4/14 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
H01M4/76 A
H01M4/14 R
(21)【出願番号】P 2019571883
(86)(22)【出願日】2018-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2018005306
(87)【国際公開番号】W WO2019159287
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100201226
【氏名又は名称】水木 佐綾子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】実公昭44-012726(JP,Y1)
【文献】実公昭30-000574(JP,Y1)
【文献】米国特許第04351889(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/76
H01M 4/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚の繊維基材が重ねられて中空筒状に形成された活物質保持用チューブであって、
2枚の前記繊維基材のうち、外側の繊維基材における前記活物質保持用チューブの軸方向の引張強度は、前記軸方向に垂直な方向の引張強度よりも大きく、内側の繊維基材における前記軸方向の引張強度は、前記軸方向に垂直な方向の引張強度よりも小さく、
前記内側の繊維基材及び前記外側の繊維基材は不織布である、活物質保持用チューブ。
【請求項2】
少なくとも2枚の繊維基材が重ねられて中空筒状に形成された活物質保持用チューブであって、
2枚の前記繊維基材のうち、内側の繊維基材における
前記活物質保持用チューブの軸方向の引張強度に対する外側の繊維基材における
前記軸方向の引張強度の比である第1の比
が1を超え、
内側の繊維基材における
前記軸方向に垂直な方向の引張強度に対する外側の繊維基材における
前記軸方向に垂直な方向の引張強度の比である第2の比
が1未満であり、
前記内側の繊維基材及び前記外側の繊維基材は不織布である、活物質保持用チューブ。
【請求項3】
少なくとも2枚の繊維基材が重ねられて中空筒状に形成された活物質保持用チューブであって、
2枚の前記繊維基材は繊維配向性を有しており、
2枚の前記繊維基材のうち、外側の繊維基材における前記活物質保持用チューブの軸方向と繊維配向の方向とのなす角度は、内側の繊維基材における前記軸方向と繊維配向の方向とのなす角度よりも小さく、
前記内側の繊維基材及び前記外側の繊維基材は不織布である、活物質保持用チューブ。
【請求項4】
前記内側の繊維基材及び前記外側の繊維基材はポリマー繊維で形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の活物質保持用チューブ。
【請求項5】
前記活物質保持用チューブの
前記軸方向の引張強度に対する
、前記軸方向に垂直な方向の引張強度の比は0.5~2.6である、請求項
1~4のいずれか一項に記載の活物質保持用チューブ。
【請求項6】
前記内側の繊維基材及び前記外側の繊維基材の少なくとも一方の目付量は50g/m
2以上である、請求項
1~5のいずれか一項に記載の活物質保持用チューブ。
【請求項7】
請求項
1~6のいずれか一項に記載の活物質保持用チューブと、前記活物質保持用チューブ内に配置された芯金及び電極材と、を備える電極。
【請求項8】
請求項
7に記載の電極を正極として備える、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質保持用チューブ、電極及び鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、産業用又は民生用の二次電池として広く用いられており、特に、電気車用鉛蓄電池(例えばフォークリフト用バッテリー)、及び、UPS(Uninterruptible Power Supply)、防災(非常)無線、電話等のバックアップ用鉛蓄電池の需要が多い。
【0003】
鉛蓄電池は、例えば、筒状のチューブ、チューブ内に挿入された芯金(集電体)、及び、チューブと芯金との間に充填された電極材とから構成されている。例えば特許文献1には、筒状のチューブとして、ガラス繊維又は合成繊維を主成分とする織布チューブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、鉛蓄電池を長期間好適に使用するためには、鉛蓄電池のサイクル特性を向上させることが重要である。
【0006】
本発明は、鉛蓄電池のサイクル特性を向上させることができる活物質保持用チューブ及びこれを用いた電極を提供することを目的とする。また、本発明は、サイクル特性に優れた鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1の態様として、少なくとも2枚の繊維基材が重ねられて中空筒状に形成された活物質保持用チューブであって、2枚の繊維基材における軸方向の引張強度に対する軸方向に垂直な方向の引張強度の比が互いに異なる、活物質保持用チューブを提供する。
【0008】
第1の態様において、好ましくは、2枚の繊維基材のうち、外側の繊維基材における軸方向の引張強度は、軸方向に垂直な方向の引張強度よりも大きく、内側の繊維基材における軸方向の引張強度は、軸方向に垂直な方向の引張強度よりも小さい。
【0009】
本発明は、第2の態様として、少なくとも2枚の繊維基材が重ねられて中空筒状に形成された活物質保持用チューブであって、2枚の繊維基材のうち、内側の繊維基材における軸方向の引張強度に対する外側の繊維基材における軸方向の引張強度の比である第1の比、及び、内側の繊維基材における軸方向に垂直な方向の引張強度に対する外側の繊維基材における軸方向に垂直な方向の引張強度の比である第2の比のいずれか一方が1を超え、他方が1未満である、活物質保持用チューブを提供する。
【0010】
第2の態様において、好ましくは、第1の比が1を超え、第2の比が1未満である。
【0011】
本発明は、第3の態様として、少なくとも2枚の繊維基材が重ねられて中空筒状に形成された活物質保持用チューブであって、2枚の繊維基材は繊維配向性を有しており、活物質保持用チューブの軸方向と繊維配向の方向とのなす角度が互いに異なるように重ねられている、活物質保持用チューブを提供する。
【0012】
第3の態様において、好ましくは、外側の繊維基材における軸方向と繊維配向の方向とのなす角度は、内側の繊維基材における軸方向と繊維配向の方向とのなす角度よりも小さい。
【0013】
第1~第3の態様において、活物質保持用チューブの軸方向の引張強度に対する軸方向に垂直な方向の引張強度の比は、好ましくは0.5~2.6である。
【0014】
第1~第3の態様において、好ましくは、2枚の繊維基材の少なくとも一方の目付量は50g/m2以上である。
【0015】
本発明は、第4の態様として、上記の活物質保持用チューブと、活物質保持用チューブ内に配置された芯金及び電極材と、を備える電極を提供する。
【0016】
本発明は、第5の態様として、上記の電極を正極として備える、鉛蓄電池を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鉛蓄電池のサイクル特性を向上させることができる活物質保持用チューブ及びこれを用いた電極を提供することができる。また、本発明は、サイクル特性に優れた鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態に係る鉛蓄電池を示す模式断面図である。
【
図2】(a)は一実施形態に係る活物質保持用チューブ群を模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)の活物質保持用チューブ群の一部を示す拡大図である。
【
図3】(a)は
図2に示す活物質保持用チューブの要部を示す分解斜視図であり、(b)は(a)に示す活物質保持用チューブを構成する繊維基材の引張強度を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。各図における構成要素の大きさは概念的なものであり、構成要素間の大きさの相対的な関係は各図に示されたものに限定されない。
【0020】
図1は、一実施形態に係る鉛蓄電池を示す模式断面図である。
図1に示すように、鉛蓄電池1は、正極10と、負極20と、セパレータ30とを備える鉛蓄電池である。正極10、負極20及びセパレータ30は、電槽(図示せず)内に収容されている。正極10及び負極20は、セパレータ30を介して交互に配置されている。電槽内は、電解液40で満たされている。
【0021】
セパレータ30の一方面は、正極10に接しており、セパレータ30の他方面は、負極20に接している。正極10及び負極20のそれぞれは、セパレータ30に挟まれている。正極10及び負極20のそれぞれは、二つのセパレータによって挟まれていてもよく、折りたたまれた一つのセパレータによって挟まれていてもよい。セパレータ30,30間における正極10の周囲の空間には、電解液40が充填されている。
【0022】
セパレータ30の材料としては、正極と負極との電気的な接続を阻止し、電解液を透過させるものであれば特に限定されない。セパレータ30の材料としては、微多孔性ポリエチレン;ガラス繊維及び合成樹脂の混合物等が挙げられる。
【0023】
負極20は、板状であり、例えばペースト式負極板である。負極20は、負極集電体と、当該負極集電体に保持された負極材と、を有する。負極集電体としては、板状の集電体を用いることができる。負極集電体は、後述する正極の芯金の組成と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0024】
負極材は、化成後において、負極活物質を含有し、必要に応じて添加剤を更に含有することができる。化成後の負極材は、例えば、負極活物質の原料を含む負極材ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成の負極材を得た後に未化成の負極材を化成することで得ることができる。負極活物質の原料としては、鉛粉、酸化鉛粉等が挙げられる。化成後の負極材における負極活物質としては、多孔質の海綿状鉛(Spongy Lead)等が挙げられる。
【0025】
負極材の添加剤としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)等の補強用短繊維、硫酸バリウム、炭素材料(炭素質導電材)、スルホン基及びスルホン酸塩基からなる群より選択される少なくとも一種を有する樹脂(スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂)などが挙げられる。
【0026】
炭素材料としては、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック(ケッチェンブラック(登録商標)等)、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。
【0027】
スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂としては、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩、フェノール類とアミノアリールスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物等が挙げられる。リグニンスルホン酸塩としては、リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。フェノール類としては、ビスフェノール等のビスフェノール系化合物などが挙げられる。アミノアリールスルホン酸としては、アミノベンゼンスルホン酸、アミノナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
【0028】
正極10は、板状であり、例えば、互いに並設された複数の筒状電極(棒状電極)12から構成される筒状電極群14で構成される電極(正極板)である。筒状電極12の数は、例えば2~19本である。各筒状電極12は、活物質保持用チューブ(「ガントレット」とも呼ばれる。以下、単にチューブと呼ぶことがある。)12aと、チューブ12a内に挿入された芯金(集電体)12bと、チューブ12a及び芯金12bの間に充填された正極材12cと、を有している。正極材12cは化成後において正極活物質を含有しており、チューブ12aは少なくとも活物質(正極活物質)を保持する。
【0029】
チューブ12aの軸方向の両端部には、チューブ12aと芯金12bとを保持するための連座(図示せず)が取り付けられている。上部連座は、チューブ12aの軸方向における一方の端部(芯金12bを挿入し、且つ、正極材の原料(鉛粉等)を充填するための開口部)側に取り付けられている。下部連座は、チューブ12aの軸方向における他方の端部(チューブ12aの底部)側に取り付けられる。上部連座及び下部連座は、必ずしも両方設けられている必要はなく、少なくとも下部連座が設けられていればよい。
【0030】
芯金12bは、チューブ12aの中心部においてチューブ12aの軸方向に沿って配置されている。芯金12bは、例えば、加圧鋳造法により鋳造して得ることができる。芯金12bの構成材料としては、導電性材料であればよく、例えば、鉛-カルシウム-錫系合金、鉛-アンチモン-ヒ素系合金等の鉛合金が挙げられる。当該鉛合金は、セレン、銀、ビスマス等を含んでいてもよい。芯金12bの長手方向に垂直な断面形状は、円形、楕円形等であってよい。芯金12bの長さは、例えば170~400mmである。芯金12bの直径は、例えば2.0~4.0mmである。
【0031】
芯金12bにおけるアンチモンの含有量は、芯金12bの強度及び硬度に優れる観点から、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、更に好ましくは4.0質量%以上である。アンチモンの含有量は、耐食性に優れる観点、及び、自己放電を抑制しやすい観点から、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下、更に好ましくは4.0質量%以下である。アンチモンの含有量は、例えば高周波誘導結合プラズマ発光分析(ICP発光分析)により測定することができる。
【0032】
正極材12cは、化成後において、正極活物質を含有し、必要に応じて添加剤を更に含有することができる。化成後の正極材は、例えば、正極活物質の原料を含む未化成の正極材を化成することで得ることができる。化成後の正極材は、例えば、正極活物質の原料を含む正極材ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成の正極材を得た後に未化成の正極材を化成することで得てもよい。正極活物質の原料としては、鉛粉、鉛丹等が挙げられる。化成後の正極材における正極活物質としては、二酸化鉛等が挙げられる。正極材の添加剤としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)等の補強用短繊維、グラファイト、四塩基性硫酸鉛などが挙げられる。
【0033】
チューブ12aは、複数のチューブ12aにより構成される活物質保持用チューブ群(以下、単に「チューブ群」と呼ぶことがある。)として筒状電極群14に含まれている。
図2(a)は、一実施形態に係る活物質保持用チューブ群を模式的に示す斜視図である。
図2(a)に示すように、チューブ群13は、互いに並設された複数のチューブ12aを含んでいる。チューブ群13に含まれるチューブ12aの数は、2~19本であってよい。
【0034】
チューブ12aは、中空筒状である。チューブ12aの軸方向(長手方向)に垂直な断面形状は、円形、楕円形、角丸四角形等であってよい。チューブ12aの軸方向の長さL12は、例えば160~400mmである。チューブ12aの直径(外径)D12は、例えば5~12mmである。
【0035】
チューブ群13では、例えば、一対の繊維基材の積層体同士が所定の間隔(チューブ12aの直径(外径)D12に対応する間隔)で軸方向に沿って縫合されることにより、各チューブ12aが形成されている(詳細は後述する)。すなわち、チューブ群13において、各チューブ12a間には、縫合による縫目で形成された接続部15が設けられている。縫目は、本縫い、単環縫い、二重環縫い、又は偏平縫いによる縫目であってよい。
【0036】
図2(b)は、
図2(a)のチューブ群13の一部Pを示す拡大図である。
図2(b)に示すように、チューブ12aは、2枚の繊維基材(以下、単に基材ということもある。)が重ねられて中空筒状に形成されている。より具体的には、チューブ12aは、チューブ12aの一方の略半筒部分を構成する第1の基材積層体16と、他方の略半筒部分を構成する第2の基材積層体17とが、接続部15で接続(縫合)されることにより、筒状になっている。
【0037】
第1の基材積層体16は、チューブ12aの外側に配置された第1の外側基材16aと、チューブ12aの内側(中空側)に配置された第1の内側基材16bとの積層体である。第2の基材積層体17は、チューブ12aの外側に配置された第2の外側基材17aと、チューブ12aの内側(中空側)に配置された第1の内側基材17bとの積層体である。第1の基材積層体16は、第2の基材積層体17と同一であっても異なっていてもよく、好ましくは同一である。すなわち、第1の外側基材16a及び第1の内側基材16bは、それぞれ、第2の外側基材17a及び第2の内側基材17bと同一であっても異なっていてもよく、好ましくは同一である。
【0038】
基材積層体16,17を構成する各繊維基材16a,16b,17a,17bは、繊維で形成された基材であり、一実施形態において、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート等のポリマー繊維、又は、ガラス、炭化ケイ素、アルミナ等の無機繊維で形成された織布又は不織布であってよく、好ましくはポリオレフィン繊維で形成された織布又は不織布である。
【0039】
基材16a,16b,17a,17bがポリオレフィン繊維で形成されている場合、ポリオレフィンは、例えば炭素数2~3のオレフィン(アルケン)の少なくとも1種をモノマー単位として含む。ポリオレフィンは、好ましくは、エチレン及びプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種をモノマー単位として含む。基材16a,16b,17a,17bは、好ましくは、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維又はこれらの混合物で形成されている。ポリオレフィンの重量平均分子量は、例えば10000~10000000であってよい。
【0040】
基材16a,16b,17a,17bは、細孔を有する多孔質体である。基材16a,16b,17a,17bの平均細孔径は、正極材の流出を抑制し、サイクル特性を更に向上させる観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは25μm以下、更に好ましくは10μm以下である。基材16a,16b,17a,17bの平均細孔径は、電気抵抗を小さくでき、放電性能を更に向上させる観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上である。平均細孔径は、細孔分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、AUTO PORE IV 9520)によって測定される。
【0041】
基材16a,16bの少なくとも一方の目付量は、電解液による抵抗を小さくする観点から、好ましくは100g/m2以下、より好ましくは80g/m2以下、更に好ましくは70g/m2以下である。基材16a,16bの少なくとも一方の目付量は、サイクル特性に更に優れる観点から、好ましくは50g/m2以上、より好ましくは60g/m2以上、更に好ましくは70g/m2以上である。より好ましくは、基材16a,16bの両方の目付量が上記の範囲内である。基材17a,17bの目付量も、基材16a,16bと同様であってよい。目付量は、JIS L1913に準拠して測定される単位面積当たりの質量を意味する。
【0042】
基材積層体16,17の目付量(少なくとも2枚の基材を積層させた積層体全体の目付量)は、電解液による抵抗を小さくする観点から、好ましくは200g/m2以下、より好ましくは150g/m2以下、更に好ましくは130g/m2以下である。基材積層体16,17の目付量は、サイクル特性に更に優れる観点から、好ましくは70g/m2以上、より好ましくは100g/m2以上、更に好ましくは115g/m2以上である。
【0043】
基材16a,16b,17a,17bには、樹脂が保持されていてもよい。樹脂は、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等であってよく、基材16a,16b,17a,17bの内表面上若しくは外表面上、又は基材における細孔内の表面上に保持されていてよく、一実施形態において、基材16a,16b,17a,17b上に付着していてよい。樹脂は、基材16a,16b,17a,17b上の一部に保持されていてもよく、基材16a,16b,17a,17b上の全部に保持されていてもよい。
【0044】
図3(a)は、
図2に示すチューブ12aの要部を示す分解斜視図であり、具体的には、チューブ12aの略半筒部分を構成する第1の基材積層体16(第1の外側基材16a及び第1の内側基材16b)を分解した斜視図である。
図3(b)は、
図3(a)に示す第1の外側基材16a及び第1の内側基材16bの引張強度を説明するために、第1の外側基材16a及び第1の内側基材16bを平面状に広げた模式図である。なお、以下では、第1の外側基材16a及び第1の内側基材16bについて説明するが、第2の外側基材17a及び第2の内側基材17bは、それぞれ第1の外側基材16a及び第1の内側基材16bと同様であってよい。すなわち、以下の説明において、第1の外側基材16aは第2の外側基材17aに、第1の内側基材16bは第2の内側基材17bに読み替えることができる。
【0045】
一実施形態では、チューブ12aにおいて、第1の外側基材16aの軸方向(X方向)の引張強度SX1に対する軸方向に垂直な方向(Y方向)の引張強度SY1の比(SY1/SX1)と、第1の内側基材16bのX方向の引張強度SX2に対するY方向の引張強度SY2の比(SY2/SX2)とが、互いに異なっていてよい。軸方向(X方向)とはチューブの長軸に沿う方向をいい、軸方向に垂直な方向(Y方向)とは、基材の主面内において軸方向(X方向)と垂直な方向(直交する方向)をいう。
【0046】
第1の外側基材16aのX方向の引張強度SX1に対するY方向の引張強度SY1の比(SY1/SX1)は、3.0以下、2.0以下、又は1.0以下であってよく、例えば0.1以上であってよい。第1の外側基材16aにおいては、好ましくは、X方向の引張強度SX1が、Y方向の引張強度SY1よりも大きい。したがって、SY1/SX1は、好ましくは1.0未満である。
【0047】
第1の内側基材16bのX方向の引張強度SX2に対するY方向の引張強度SY2の比(SY2/SX2)は、1.0以上、1.5以上、2.0以上であってよく、例えば3.0以下であってよい。第1の内側基材16bにおいては、好ましくは、X方向の引張強度SX2が、Y方向の引張強度SY2よりも小さい。したがって、SY2/SX2は、好ましくは1.0超である。
【0048】
SY1/SX1及びSY2/SX2を掛け合わせた値((SY1/SX1)×(SY2/SX2))は、好ましくは1に近い値である。SY1/SX1及びSY2/SX2を掛け合わせた値は、好ましくは、0.3~6.0であり、より好ましくは0.5~3.0であり、更に好ましくは0.7~1.5である。
【0049】
一実施形態では、チューブ12aにおいて、第1の内側基材16bにおけるX方向の引張強度SX2に対する第1の外側基材16aにおけるX方向の引張強度SX1の比(SX1/SX2;第1の比)、及び、第1の内側基材16bにおけるY方向の引張強度SY2に対する第1の外側基材16aにおけるY方向の引張強度SY1の比(SY1/SY2;第2の比)のいずれか一方が1を超え、他方が1未満であってもよい。
【0050】
第1の比(SX1/SX2)は、0.1以上、又は0.3以上であってよく、3.0以下であってよい。SX1/SX2は、好ましくは1.0超である。
【0051】
第2の比(SY1/SY2)は、3.5以下、又は3.0以下であってよく、0.1以上であってよい。SY1/SY2は、好ましくは1.0未満である。
【0052】
第1の外側基材16aにおけるX方向の引張強度SX1及びY方向の引張強度SY1は、2.0N/mm以上、2.5N/mm以上、又は4.0N/mm以上であってよい。第1の内側基材16bにおけるX方向の引張強度SX2及びY方向の引張強度SY2は、2.0N/mm以上、3.5N/mm以上、又は6.0N/mm以上であってよい。
【0053】
引張強度は、例えば以下のように測定することができる。まず、チューブ12aを、軸方向(X方向)の長さが略60mmの筒状に切り出す。切り出したチューブの接続部15のみを裁断により除去し、半筒状とする。この半筒状のサンプルにおいて、内側基材と外側基材とを分離させて、第1の外側基材16a及び第1の内側基材16bについて、それぞれ、軸方向(X方向)の長さLX(mm;略60mm)、軸方向に垂直な方向(Y方向)の長さLY(mm;チューブ12aの半周の長さと略同一)の平面略矩形状の試料を得る。この試料について、精密万能試験機(例えば、株式会社島津製作所製のオートグラフ(EZ-FX))を用いて、掴み間距離20mm、掃引速度5mm/分の条件で、X方向及びY方向のそれぞれについて引張試験を実施する。引張強度は、試料が破断するまでの最大強度を試料の引張方向の単位長さ当たりの強度に換算した値(X方向の最大強度/LX、及び、Y方向の最大強度/LY)として算出される。
【0054】
一実施形態では、繊維基材は繊維配向性を有している。繊維基材が織布である場合、織布においては繊維が所定の方向を向いて織られているため、繊維配向性を有する繊維基材であるということができる。繊維基材が不織布である場合、繊維配向性を有する繊維基材とは、JIS L0222で定義される「不織布」のうち繊維が一方向に配向している不織布を意味する。繊維基材が繊維配向性を有していること及びその繊維配向の方向は、目視により確認することができる。
【0055】
基材が繊維配向性を有する場合、第1の外側基材16a及び第1の内側基材16bは、チューブ12aの軸方向(X方向)とそれぞれの基材16a,16bの繊維配向の方向とのなす角度が互いに異なるように重ねられている。
【0056】
第1の外側基材16aにおけるX方向と繊維配向の方向とのなす角度は、好ましくは、第1の内側基材16bにおけるX方向と繊維配向の方向とのなす角度よりも小さい。第1の外側基材16aにおけるX方向と繊維配向の方向とのなす角度は、好ましくは0°~45°、より好ましくは0°~30°、更に好ましくは0°~15°である。第1の内側基材16bにおけるX方向と繊維配向の方向とのなす角度は、好ましくは45°~90°、より好ましくは60°~90°、更に好ましくは75°~90°である。
【0057】
基材が繊維配向性を有する場合、第1の外側基材16a及び第1の内側基材16bにおいては、それぞれ、基材の面内の所定方向に繊維が配向しており、その結果、基材の面内方向によって引張強度が互いに異なっている。第1の外側基材16aは、繊維が配向している方向と略一致する方向d1において、最大の引張強度を有している。第1の外側基材16aが最大の引張強度を有する方向d1は、チューブ12aの軸方向に対して、好ましくは0°~45°、より好ましくは0°~30°、更に好ましくは0°~15°の角度をなしている。同様に、第1の内側基材16bは、繊維が配向している方向と略一致する方向d2において、最大の引張強度を有している。第1の内側基材16bが最大の引張強度を有する方向d2は、チューブ12aの軸方向に対して、好ましくは45°~90°、より好ましくは60°~90°、更に好ましくは75°~90°の角度をなしている。
【0058】
基材16a,16bが最大の引張強度を有する方向(繊維配向の方向)とX方向とのなす角を上記のようにすることにより、基材に樹脂を保持させる場合に、より多くの樹脂を保持させることができ、鉛蓄電池1において、サイクル特性を更に向上させることが可能となる。
【0059】
チューブ12a全体(基材積層体16)においては、軸方向の引張強度SXに対する軸方向に垂直な方向の引張強度SYの比(SY/SX)は、好ましくは1に近い値である。当該比(SY/SX)は、例えば0.5~2.6であってよく、好ましくは0.6~2.5、より好ましくは0.8~2.3である。
【0060】
本実施形態のチューブ12aでは、基材積層体16全体の引張強度をより等方的に高めることができる。そのため、この第1の基材積層体16で構成されたチューブ12aを用いた鉛蓄電池1では、鉛蓄電池1の使用に伴い、例えば正極材12cが膨張した場合であっても、チューブ12aが特定の方向に破損しやすいといった問題が生じにくくなる。特に、細孔径が小さく、厚みが小さく多孔質な不織布を基材として用いた場合、不織布はより大きな繊維配向を有する傾向にあるため、第1の外側基材16a及び第1の内側基材16bの最大の引張強度を有する方向(繊維配向の方向)を上述した関係とすることによって、第1の基材積層体16全体の引張強度をより等方的に高めることが重要となる。
【0061】
続いて、鉛蓄電池1の製造方法を説明する。本実施形態に係る鉛蓄電池1は、例えば、電極(正極及び負極)を得る電極作製工程と、電極を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池を得る組み立て工程とを備える製造方法により製造される。
【0062】
電極作製工程は、正極作製工程と、負極作製工程とを有している。正極作製工程は、例えば、活物質保持用チューブ作製工程と、仕上げ工程と、を有している。
【0063】
活物質保持用チューブ作製工程では、例えば、まず、繊維基材として、繊維配向性を有する不織布(互いに同一の不織布)を4枚重ねあわせた積層体(第1の外側基材16a、第1の内側基材16b、第2の内側基材17b及び第2の外側基材17aがこの順で積層された積層体)を用意する。このとき、第1の外側基材16a及び第2の外側基材17aと、第1の内側基材16b及び第2の内側基材17bとの間で、軸方向に相当する方向と最大の引張強度を有する方向(繊維配向の方向)が上述した角度になるように各基材をずらして積層させる。この積層体において、第1の外側基材16a及び第2の外側基材17aの最大の引張強度を有する方向は互いに同じ方向であっても異なる方向であってもよいが、好ましくは同じ方向である。また、第1の内側基材16b及び第2の内側基材17bの最大の引張強度を有する方向も、互いに同じ方向であっても異なる方向であってもよいが、好ましくは同じ方向である。
【0064】
次に、例えば、所定の間隔(チューブ12aの外径D12分の間隔)を設けて、積層体を縫合することにより、接続部15を形成させる。その後、間隔を空けて隣接する接続部15間において、第1の内側基材16bと第2の内側基材17bとの間を広げることにより、中空筒状のチューブ12aを複数備える筒状体群を得る。この筒状体群を所定本数(2~19本)毎に分断することにより、チューブ群13を得ることができる。
【0065】
基材に樹脂を保持させる場合には、例えば、樹脂を水に分散させたエマルジョンを中空筒状に形成した基材に含浸させた後、例えば60~130℃で1~3時間乾燥させる方法であってよい。エマルジョン中の樹脂の平均粒径は、例えば50~150nmであってよい。樹脂の平均粒径は、粒度分布測定装置(例えば、BECKMAN COULTER社製、LS1320)によって測定される。具体的には、樹脂を純水中に分散させ、装置本体内に注入し、以下の測定条件で測定される。
分散溶媒:H2O-D
分散溶媒屈折率:1.33
サンプル屈折率:1.5
光学モデル:1.5、rt780dPIDS
実行時間:60秒間
ポンプスピード:50%
サンプル密度:1g/mL
【0066】
活物質保持用チューブ作製工程では、4枚の基材積層体に上記と同様の方法により樹脂を保持させた後、アクリル樹脂が保持された積層体を筒状に成形してもよい。
【0067】
仕上げ工程では、例えば、正極原料と芯金とをチューブ内に充填した後、チューブの下部末端の下部連座を塞ぐことにより、未化成の正極材を有する正極を得る。仕上げ工程では、例えば、水、希硫酸等の溶媒及び正極原料を含むスラリーと、芯金とをチューブ内に充填した後、チューブの下部末端の連座(下部連座)を塞ぐことにより、未化成の正極材を有する正極を得てもよい。
【0068】
負極作製工程では、例えば、負極活物質の原料を含む負極材ペーストを負極集電体(例えば集電体格子(鋳造格子体、エキスパンド格子体等))に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより、未化成の負極材を有する負極を得る。熟成は、例えば、温度35~85℃、湿度50~98RH%の雰囲気で15~60時間実施される。乾燥は、例えば、温度45~80℃で15~30時間実施される。
【0069】
負極材ペーストは、例えば、負極活物質の原料に加えて、上述した添加剤を更に含んでいてもよい。負極材ペーストは、溶媒及び硫酸を更に含んでいてもよい。溶媒としては、例えば、水及び有機溶媒が挙げられる。
【0070】
負極材ペーストにおいて、硫酸バリウム、炭素材料、補強用短繊維、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂を添加剤として用いる場合、硫酸バリウムの配合量は、例えば、負極活物質の原料100質量部に対して0.01~2質量部である。炭素材料の配合量は、例えば、負極活物質の原料100質量部に対して0.1~3質量部である。補強用短繊維の配合量は、例えば、負極活物質の原料100質量部に対して0.01~0.3質量部である。スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の配合量は、例えば、負極活物質の原料100質量部に対して、樹脂固形分換算で0.01~2質量部である。
【0071】
組み立て工程では、例えば、セパレータを介して未化成の正極及び未化成の負極を積層すると共に、同極性の電極の集電部をストラップで溶接させて電極群を得る。この電極群を電槽内に配置して未化成の電池を作製する。次に、未化成の電池に希硫酸を入れて直流電流を通電して電槽化成する。化成後の硫酸の比重を適切な比重に調整して鉛蓄電池が得られる。硫酸の比重(化成前)は、例えば1.100~1.260である。
【0072】
化成条件及び硫酸の比重は、電極のサイズに応じて調整することができる。また、化成処理は、組み立て工程後に実施されることに限られず、電極作製工程において実施されてもよい(タンク化成)。
【0073】
本実施形態の鉛蓄電池1におけるチューブ12aは、種々の変形例を取りうる。例えば、3枚以上の繊維基材が重ねられて中空筒状の筒状体が形成されてもよい。この場合、筒状体に含まれる少なくとも2枚の繊維基材において、上述した外側基材16a,17aと内側基材16b、17bとの関係が満たされていればよい。また、不織布と織布を併用してもよく、例えば、2枚の不織布に加えて、1枚以上の織布が重ねられていてもよい。
【0074】
本実施形態に係る鉛蓄電池は、フォークリフト、ゴルフカート等の電気車用の鉛蓄電池として特に好適に用いられる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
基材として、繊維配向性を有するポリオレフィン不織布シート(ポリエチレン及びポリプロピレンを含む、平均細孔径:20μm、目付量:60g/m2)を4枚重ね合わせてから、14.5mm間隔で略平行に300mm以上縫合し、接続部を形成させた。次に、接合部から外側3mmの位置で、接合部と略平行するように裁断し、接続部を備えたシート状の積層体を得た。シート状の積層体を、接合部と平行な長さが294mmとなるよう裁断してから、不織布シートの2枚目と3枚目の間に9mmφの心棒を通して、シート状積層体を中空筒状に形成させ、筒状体を得た。このとき、第1の外側基材、第1の内側基材、第2の内側基材及び第2の外側基材の順になるように4枚の基材を積層させ、第1の外側基材及び第2の外側基材における最大の引張強度を有する方向(繊維配向の方向)と、筒状体の軸方向(X方向)に対してなす角がいずれも0°になるように積層させた。また、第1の内側基材及び第2の内側基材における最大の引張強度を有する方向(繊維配向の方向)と、筒状体の軸方向(X方向)に対してなす角がいずれも90°になるように積層させた。
【0077】
外側基材について、X方向の引張強度SX1、軸方向と垂直な方向(Y方向)の引張強度SY1を、オートグラフ(EZ-FX、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。同様に、内側基材及び筒状体(基材積層体)についても、X方向の引張強度SX2及びSX、Y方向の引張強度SY2及びSYを測定した。測定の際、掴み間距離は20mm、掃引速度は5mm/分とした。各引張強度は、表1のとおりであった。
【0078】
筒状体に、アクリル樹脂(DIC株式会社製、AJ-1800)のエマルジョン(平均粒径:78nm)を1分間含浸させた。その後、100℃の恒温槽で1時間乾燥させて、基材にアクリル樹脂が保持されたチューブ(内径9mmφ×294mmの円筒状)を得た。チューブ(アクリル樹脂が保持された不織布)の厚みは、ノギスで測定したところ、0.2mmであった。
【0079】
(実施例2~8、比較例1~2)
実施例1の筒状体について、外側基材が最大の引張強度を有する方向とチューブの軸方向とのなす角、及び、内側基材が最大の引張強度を有する方向とチューブの軸方向とのなす角が表1に記載された角度となるように4枚の基材(不織布)を積層させた以外は、実施例1と同様の方法によりチューブを作製した。基材の引張強度は、表1のとおりであった。
【0080】
<電極板の作製>
得られたチューブ内に、一酸化鉛及び鉛丹からなる鉛粉と、鉛-アンチモン(4.0wt%)-ヒ素(0.2wt%)-スズ(0.015wt%)系合金製の芯金(2.7mmφ×150mmの円柱状)とを入れ、チューブの上端及び下端を封止したものを3本並べて、未化成の正極板を得た。
【0081】
一方、鉛-アンチモン合金(アンチモン含有量:3質量%)を溶融し、鋳造方式によって格子体(寸法:縦116.0mm、横58.0mm、厚み2.4mm)を作製した。次に、一酸化鉛を主成分とする鉛粉100質量部に対して、硫酸バリウム0.3質量部、補強用短繊維0.03質量部、リグニンスルホン酸塩0.2質量部、水8質量部、希硫酸(比重:1.260)10質量部加えた後、これらを混練して負極材ペーストを調製した。そして、負極材ペーストを上記格子体に充填した後、下記条件で熟成及び乾燥を行い、未化成の負極板を得た。
(熟成条件)温度:40℃、湿度:98RH%、時間:40時間
(乾燥条件)温度:60℃、時間:24時間
この未化成の負極板を2枚用い、ポリエチレン製のセパレータを介して正極板を挟むように対向させて、正極単板セルを作製した。
【0082】
<鉛蓄電池の作製>
上記正極単板セルを、ポリエチレン製のセパレータを介して交互に積層して極板群を作製した後、正極端子及び負極端子を極板群に溶接した。次に、極板群を電槽内に収容した後、電槽蓋を取り付けた。そして、希硫酸(比重:1.260)(20℃換算)を液口部から注入した後、電槽化成を行い、鉛蓄電池を作製した。電槽化成条件は、水槽中、水温40℃、荷電量(基準:正極活物質の理論化成電気量)250%、36時間とした。その後、電解液比重が1.280(20℃換算)となるよう調整した。
【0083】
<初期容量の測定>
作製した正極単板セルの初期放電特性の評価を0.2CAにて行った。すなわち、満充電後の鉛蓄電池を水槽(温度:30℃)中に24時間放置した後、0.2CAで終止電圧1.7Vまで放電し、そのときの放電容量(5時間率容量、0.2CA放電容量、定格容量。単位:Ah)を測定した。その後、放電容量に対して120%定電流充電(電流値:0.1CA)を行って満充電状態にした。このサイクルを8回繰り返した後、電解液比重が1.280(20℃換算)となるように調整した。その後、再度、上記放電、充電のサイクルを2回実施し、合計10サイクル目の容量を初期容量とした。
【0084】
<サイクル特性の評価>
作製した正極単板セルのサイクル耐久性の評価を行った。すなわち、電解液比重が1.280(20℃換算)の満充電後の鉛蓄電池を水槽(温度:40℃)中に24時間放置した後、0.25CAで3時間放電し、その後、0.18CAで5時間充電するサイクルを100サイクル実施した。100サイクル後、電解液比重が1.280(20℃換算)となるよう調整し、30℃で24時間放置した。放置後、0.2CAで終止電圧1.7Vまで放電し、そのときの放電容量(5時間率容量、0.2CA放電容量、定格容量。単位:Ah)を測定した。その後、放電容量に対して120%定電流充電(電流値:0.1CA)を行って満充電状態にした。100サイクルの充放電サイクルと放電容量確認を繰り返し、放電容量が初期容量の80%となるまで繰り返した。外側基材と内側基材との間で最大引張強度を有する方向が同一方向である場合(比較例1、2)のサイクル特性を100とした場合の各実施例のサイクル特性の評価結果を表1~2に示す。
【0085】
【0086】
【0087】
表1~2に示すように、外側基材と内側基材との間で最大引張強度を有する方向(繊維配向の方向)と軸方向との角度の差が大きくなるにつれてサイクル耐久性が大きくなった。これは、活物質の膨張に対して強度が弱い部分の基材が裂け、活物質が流出したためである。よって、外側基材と内側基材との間で最大引張強度を有する方向(繊維配向の方向)と軸方向との角度の差が大きい方が、全体としての強度が均一となり、強度が弱い方向において基材が裂けるような事態が生じ難くなり、サイクル耐久性が高くなった(サイクル特性が向上した)と推測される。
【符号の説明】
【0088】
1…鉛蓄電池、10…正極、12a…活物質保持用チューブ、12b…芯金、12c…正極材、16a,16b,17a,17b…繊維基材(基材)。