(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/51 20060101AFI20220310BHJP
A61K 31/12 20060101ALI20220310BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20220310BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
A61K31/51
A61K31/12
A61K47/08
A61P3/02
(21)【出願番号】P 2017191235
(22)【出願日】2017-09-29
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】P 2016194935
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(72)【発明者】
【氏名】石田 素子
(72)【発明者】
【氏名】塩見 隆史
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-042021(JP,A)
【文献】特開2000-189125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 3/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンB1、及びナブメトンを含有する、医薬組成物。
【請求項2】
ビタミンB1の総量100重量部当たり、ナブメトンを55~100000重量部含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ビタミンB1を0.05~20重量%、ナブメトンを5~99.9重量%含む、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
固体状製剤である、請求項1~
3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
ナブメトンを有効成分とする、
ビタミンB1の不快臭抑制剤。
【請求項6】
医薬組成物に、
ビタミンB1と共にナブメトンを配合する、
ビタミンB1の不快臭低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンB1類の不快臭を抑制できる医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンB1類には、炭水化物の代謝を促進することで、神経や筋肉の機能を正常に保つ作用があり、疲労回復やストレス緩和等に有効であることが知られている。しかしながら、ビタミンB1には特有の不快臭があり、ビタミンB1を含む製剤は、ビタミンB1に起因する不快臭が経時的に増大するという欠点がある。このような不快臭は、服用感の悪化や服薬コンプライアンスの低下をもたらすため、ビタミンB1の不快臭を抑制するため製剤化技術の開発が求められている。
【0003】
従来、ビタミンB1類を含有する素錠を、ポリビニルアルコールを含有するフィルム層でコーティングしたコーティング錠がビタミンB1類の不快臭を抑制できることが報告されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1では、フィルムコーティングが必須になっており、製造時間やコストの増大を招くという欠点がある。
【0004】
また、従来、ビタミンB1に起因する不快臭を低減させる技術として、ビタミンB1と共にスクラロースを配合する方法(特許文献2)、酸性飲用液組成物において0.001~0.01重量%のビタミンB1類及び0.1~0.3重量%のアスコルビン酸又はその塩を配合する方法(特許文献3)等も報告されている。しかしながら、特許文献2及び3の技術では、製剤処方に制約があるため、近年の多様化する製剤処方に対応できないケースがある。そこで、ビタミンB1の不快臭を抑制できる新たな製剤技術の開発が望まれている。
【0005】
一方、ナブメトンは、白色~帯黄白色を呈する結晶又は結晶性の粉末であり、水には殆ど解けず、それ自体は味も示さない成分である。また、ナブメトンは、長時間作用型の鎮痛作用があり、繰り返す痛みをぶり返しなく鎮めるのに適していることが知られている。しかしながら、従来、ナブメトンをビタミンB1と共に配合した製剤は報告されておらず、ナブメトンが、ビタミンB1の不快臭に対して及ぼす影響については一切明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-197410号公報
【文献】特開2010-42021号公報
【文献】特開2000-189125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、ビタミンB1の不快臭を抑制する新たな製剤技術について検討を進めたところ、ビタミンB1を製剤化して保存すると、ビタミンB1の不快臭は経時的に増大するという新たな知見を得た。そのため、ビタミンB1を含む医薬組成物では、単に、製剤化直後の不快臭を抑制するだけではなく、経時的に増大する不快臭を抑制することは、服用性を向上させ、服薬コンプライアンスを高める上で重要になる。しかしながら、従来、ビタミンB1を含む医薬組成物については、製剤化直後のビタミンB1の不快臭を抑制する手法について検討がなされているものの、経時的に増大するビタミンB1の不快臭に対処できる製剤化技術については検討されていない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ビタミンB1類を含む医薬組成物において、製剤化直後のビタミンB1類の不快臭のみならず、製剤化後に経時的に増大するビタミンB1類の不快臭をも抑制できる医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ビタミンB1類と共にナブメトンを配合した医薬組成物では、製剤化直後のビタミンB1類の不快臭だけでなく、製剤化後に経時的に増大するビタミンB1類の不快臭をも抑制できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ビタミンB1類、及びナブメトンを含有する、医薬組成物。
項2. ビタミンB1類の総量100重量部当たり、ナブメトンを55~100000重量部含む、項1に記載の医薬組成物。
項3. ビタミンB1類を0.05~20重量%、ナブメトンを5~99.9重量%含む、項1又は2に記載の医薬組成物。
項4. ビタミンB1類がビタミンB1である、項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
項5. 固体状製剤である、項1~4のいずれかに記載の医薬組成物。
項6. ナブメトンを有効成分とする、ビタミンB1類の不快臭抑制剤。
項7. 医薬組成物に、ビタミンB1類と共にナブメトンを配合する、ビタミンB1類の不快臭低減方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製造直後のビタミンB1類の不快臭、及び経時的に増大するビタミンB1類の不快臭を抑制できるので、ビタミンB1類を含む医薬組成物を服用し易くし、服薬コンプライアンスを高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、ビタミンB1類、及びナブメトンを含有することを特徴とする。以下、本発明の医薬組成物について詳述する。
【0013】
ビタミンB1類
本発明の医薬組成物はビタミンB1類を含有する。ビタミンB1には、不快臭があり、製剤化すると経時的に不快臭が増大するという欠点があるが、本発明では、ナブメトンを使用することによって、かかる欠点を克服し、ビタミンB1の不快臭を抑制することができる。
【0014】
本発明において、「ビタミンB1類」とは、ビタミンB1及びその誘導体を指す。本発明で使用されるビタミンB1の種類については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが例えば、チアミン、チアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩、ジベンゾイルチアミン、ジベンゾイルチアミン塩酸塩、チアミンセチル硫酸塩、チアミンチオシアン酸塩、チアミンナフタレン-1,5-ジスルフォン酸塩、チアミンラウリル硫酸塩、塩酸フルスルチアミン等が挙げられる。また、本発明で使用されるビタミンB1の誘導体の種類については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが例えば、オクトチアミン、フルスルチアミン、塩酸シコチアミン、塩酸ジセチアミン、硝酸ビスチアミン、チアミンジスルフィド、チアミンジセチル硫酸エステル塩、ビスブチチアミン、ビスベンチアミン、ベンフォチアミン、ジベンゾイルチアミン、ビスイブチアミン、チアミンナフタリンー1、5ージスルホン酸塩、チアミンチオシアン酸塩、チアミンジスルフィド硝化物、チアミンプロピルジスルフィド(TPD)、チアミンテトラヒドロフルフィリルジスルフィド(TTFD)、チアミン-8-メチル-6-アセチルジヒドロチオクテートジスルフィド(TATD)、O,S-ジベンゾイルチアミン(DBT)、O,S-ジカルボエトキシチアミン塩酸(DCET)、S-ベンゾイルチアミン-O-一リン酸(BTMP)、O-ベンゾイルチアミンジスルフィド(BTDS)等が挙げられる。
【0015】
本発明において、ビタミンB1類として、ビタミンB1及びその誘導体の中から、1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
これらのビタミンB1類の中でも、好ましくはビタミンB1、更に好ましくはチアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩、塩酸フルスルチアミン、フルスルチアミン、塩酸ジセチアミン、硝酸ビスチアミン、ビスベンチアミン、ベンフォチアミン、チアミンジスルフィド、特に好ましくはチアミン塩酸塩が挙げられる。
【0017】
本発明の医薬組成物において、ビタミンB1類の含有量については、使用するビタミンB1類の種類、剤型、用途、一日当たりの投与量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.05~20重量%、好ましくは0.08~15重量%、更に好ましくは0.08~5重量%が挙げられる。
【0018】
本発明の医薬組成物において、ビタミンB1類の一日当たりの投与量については、使用するビタミンB1類の種類、剤型、用途、投与形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1~170mg/日、好ましくは2~120mg/日、更に好ましくは5~30mg/日が挙げられる。
【0019】
ナブメトン
本発明の医薬組成物では、ビタミンB1の不快臭を抑制するために、ナブメトンを含有する。
【0020】
ナブメトンとは、4-(6-メトキシナフタレン-2-イル)-2-ブタノンとも称される公知の化合物である。
【0021】
本発明の医薬組成物において、ビタミンB1類に対するナブメトンの比率については、特に制限されず、使用するビタミンB1の種類、剤型等に応じて適宜設定すればよいが、ビタミンB1の不快臭をより一層効果的に抑制するという観点から、ビタミンB1類の総量100重量部当たり、ナブメトンが55~100000重量部、好ましくは80~80000重量部、更に好ましくは330~80000重量部、特に好ましくは3200~80000重量部となる比率が挙げられる。
【0022】
また、本発明の医薬組成物において、ナブメトンの含有量については、前述する比率を充足する範囲で適宜設定すればよいが、例えば、5~99.9重量%、好ましくは10~95重量%、更に好ましくは20~90重量%、特に好ましくは30~85重量%が挙げられる。
【0023】
本発明の医薬組成物において、ナブメトンの一日当たりの投与量については、特に制限されないが、例えば、100~1000mg/日、好ましくは200~900mg/日、更に好ましくは400~900mg/日、特に好ましくは600~800mg/日が挙げられる。
【0024】
その他の含有成分
本発明の医薬組成物には、ビタミンB1類及びナブメトン以外に、必要に応じて、他の薬理成分を含んでいてもよい。このような薬理成分の種類については、特に制限されないが、例えば、ナブメトン以外の鎮痛剤、腸管運動改善剤、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬、生薬エキス末、ビタミンB1以外のビタミン類、カフェイン類、メントール類、ポリフェノール等が挙げられる。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの薬理成分の含有量については、使用する薬理成分の種類や医薬組成物の剤型等に応じて適宜設定すればよい。
【0025】
本発明の医薬組成物には、所望の剤型に調製するために、必要に応じて、薬学的に許容される基剤や添加剤等が含まれていてもよい。このような基剤及び添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤、等が挙げられる。これらの基剤や添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの基剤や添加剤の含有量については、使用する添加成分の種類や医薬組成物の剤型等に応じて適宜設定すればよい。
【0026】
剤型・投与形態
本発明の医薬組成物の剤型については、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよい。
【0027】
本発明の医薬組成物の剤型として、具体的には、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、散剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)等の固体状製剤;ゼリー剤、フォーム剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤等の半固体状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤、ローション剤、スプレー剤、エアゾール剤、乳液剤等の液体状製剤が挙げられる。これらの剤型の中でも、固体状製剤は、ビタミンB1類の不快臭が顕著に感じられ易く、その抑制が強く求められる剤型であり、本発明の医薬組成物の剤型として好適である。
【0028】
本発明の医薬組成物を前記剤型に調製するには、ビタミンB1類、ナブメトン、及び必要に応じて添加される他の薬理成分、基剤、及び添加剤を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0029】
本発明の医薬組成物の投与形態については、特に制限されず、経口投与、経皮投与、経腸投与、経粘膜投与、血管内(動脈内又は静脈内)投与等のいずれであってもよいが、好ましくは経口投与が挙げられる。
【0030】
用途
本発明の医薬組成物は、ビタミンB1類による疲労回復作用やストレス緩和作用を発揮すると共に、ナブメトンによる鎮痛作用を発揮できるので、例えば、頭痛・月経痛(生理痛)・歯痛・抜歯後の疼痛・咽喉痛・腰痛・関節痛・神経痛・筋肉痛・肩こり痛・耳痛・打撲痛・骨折痛・ねんざ痛・外傷痛の鎮痛;悪寒・発熱時の解熱等の目的で使用することができる。
【0031】
2.ビタミンB1類の不快臭抑制剤、及びビタミンB1類の不快臭低減方法
前述するように、ナブメトンは、ビタミンB1類の不快臭を抑制することができる。従って、本発明は、更に、ナブメトンを有効成分とするビタミンB1類の不快臭抑制剤を提供する。また、本発明は、医薬組成物に、ビタミンB1類と共にナブメトンを配合する、ビタミンB1類の不快臭低減方法を提供する。
【0032】
前記不快臭抑制剤はナブメトンの添加剤としての用途であり、また、前記不快臭低減方法は、ナブメトンを利用して、ビタミンB1類を含む医薬組成物の不快臭を抑制する方法である。
【0033】
前記不快臭抑制剤及び不快臭低減方法において、使用する成分の種類や使用量、医薬組成物の形態等については、前記「1.医薬組成物」の欄に示す通りである。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
試験例1
表1に示す組成の錠剤(1錠当たり300mg、1日当たりの投与量4錠)を常法に従って調製した。製造直後に各錠剤10錠をアルミラミネート袋に入れて、ヒートシールにより密封し、60℃で2週間保管した。
【0036】
保管前にアルミラミネート袋を開封し、無臭の場合を0点、強い臭いを感じる場合を15点として、臭いの強さに応じて段階的に評点化することにより、不快臭の評価を行った。更に、保管後に、品温が常温になるまで戻した後に、アルミラミネート袋を開封し、同様に不快臭の評価を行った。なお、本評価法において、評点が9点以下と判断される場合には、服用感の点では問題ないレベルの臭いであることを示している。
【0037】
得られた結果を表1に示す。チアミン塩酸塩を単独で含む錠剤(比較例1及び2)は、保管前に不快臭が強く感じられ、保管後には不快臭が増大していた。これに対して、チアミン塩酸塩及びナブメトンを含む錠剤(実施例1~6)では、比較例の錠剤に比べて保管前後で不快臭を効果的に低減できていた。
【0038】
【0039】
処方例
表2~9に示す組成の錠剤(1錠当たり300mg、1日当たりの投与量4錠)を調製した。得られた錠剤は、いずれも、ビタミンB1類の不快臭を抑制できていた。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】