(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】細胞集合体、その製造方法、その作製キット、及びそれを用いた化合物の評価方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/07 20100101AFI20220311BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20220311BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20220311BHJP
C12N 5/079 20100101ALI20220311BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20220311BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20220311BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220311BHJP
C12N 11/02 20060101ALI20220311BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220311BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20220311BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220311BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
C12N5/07
C12N5/0735
C12N5/074
C12N5/079
C12N5/077
C12N5/09
C12N1/00 A
C12N11/02
C12M1/00 C
C12M3/00 A
C12Q1/02
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2021538843
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2020042861
(87)【国際公開番号】W WO2021100718
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2019210649
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020150816
(32)【優先日】2020-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】澤田 光平
(72)【発明者】
【氏名】馬場 敦
(72)【発明者】
【氏名】早乙女 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】島田 直樹
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514942(JP,A)
【文献】特開2004-148014(JP,A)
【文献】特開2018-023361(JP,A)
【文献】特開2018-007608(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235745(WO,A1)
【文献】特表2019-526255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞及び足場を含む細胞集合体であって、
前記足場は、ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布、及び前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層されたゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成されており、
前記ゼラチンフィルムと、前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維が部分的に溶着していることにより、前記ゼラチン不織布と前記ゼラチンフィルムは一体化されており、
前記ゼラチン不織布は、厚みが0.1mm以上2.0mm以下であり、
前記ゼラチンフィルムは、厚みが0.5μm以上10μm以下であり、
前記ゼラチン不織布は、目付が10g/m
2以上600g/m
2以下であり、
前記細胞は、前記ゼラチン不織布の表面及び内部の少なくとも一方に存在
しており、
前記ゼラチンフィルムは培養容器に接しており、前記細胞は培養容器に直接触れていない状態であることを特徴とする細胞集合体。
【請求項2】
前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維は、膨潤後の平均繊維径が2μm以上400μm以下であり、繊維交点が少なくとも部分的に溶着している請求項1に記載の細胞集合体。
【請求項3】
前記ゼラチン不織布の厚みTnと前記ゼラチンフィルムの厚みTfとの比Tf/Tnが7.5×10
-3以下である請求項1
又は2に記載の細胞集合体。
【請求項4】
前記ゼラチン不織布及びゼラチンフィルムは、熱脱水架橋されている請求項1~
3のいずれかに記載の細胞集合体。
【請求項5】
前記細胞は、前記ゼラチン不織布の表面及び内部の両方に存在する請求項1~
4のいずれかに記載の細胞集合体。
【請求項6】
前記細胞は、幹細胞、がん細胞、幹細胞由来の心筋細胞、神経細胞、肝細胞、線維芽細胞、内皮細胞及び上皮細胞、並びに生体由来の心筋細胞、神経細胞、肝細胞、線維芽細胞、内皮細胞及び上皮細胞からなる群から選ばれる1種以上である請求項1~
5のいずれかに記載の細胞集合体。
【請求項7】
前記細胞は、成熟した心筋細胞を含み、前記成熟した心筋細胞は、幹細胞から分化した心筋細胞又は体細胞から分化した心筋細胞が成熟したものである請求項1~
6のいずれかに記載の細胞集合体。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載の細胞集合体の製造方法であって、
ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布、及び前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層されたゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成された足場と、内面が親水化処理されていない培養容器を準備する工程、
内面が乾燥状態の培養容器中に膨潤後の足場をゼラチンフィルム側が培養容器の内底面に接するように配置する工程、及び
足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下して培養する工程を含むことを特徴とする細胞集合体の製造方法。
【請求項9】
足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下して所定時間静置した後、液体培地を添加して細胞培養を行う請求項
8に記載の細胞集合体の製造方法。
【請求項10】
前記細胞懸濁液は、幹細胞から分化した心筋細胞又は体細胞から分化した心筋細胞を含み、所定時間細胞培養することで心筋細胞を成熟させる請求項
8又は
9に記載の細胞集合体の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれかに記載の細胞集合体の作製キットであって、
ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布、及び前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層されたゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成された足場、及び内面が親水化処理されていない培養容器を含み、
細胞集合体の作製時に、内面が乾燥状態の培養容器中に膨潤後の足場をゼラチンフィルム側が培養容器の内底面に接するように配置し、足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下する細胞集合体の作製キット。
【請求項12】
前記細胞懸濁液は、幹細胞から分化した心筋細胞又は体細胞から分化した心筋細胞を含み、成熟した心筋細胞の作製に用いる請求項
11に記載の細胞集合体の作製キット。
【請求項13】
化合物の性質を評価する化合物の評価方法であって、
請求項1~
7の何れかに記載の細胞集合体に化合物を接触させる工程と、
化合物と接触することで細胞集合体の生理学的特性が変更するか否かを判断する
判断工程を含む、化合物の評価方法。
【請求項14】
前記化合物の性質は、代謝、薬理作用及び毒性作用からなる群から選ばれる一つ以上である請求項
13に記載の化合物の評価方法。
【請求項15】
前記細胞集合体は、心筋細胞を含み、
前記判断工程は、細胞内のカルシウムイオンのイメージング、細胞内の膜電位のイメージング及び細胞集合体の収縮力評価からなる群から選ばれる一つ以上にて行う請求項
13又は
14に記載の化合物の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足場からの細胞の脱落が抑制された高い播種効率の細胞集合体、その製造方法、その作製キット、及びそれを用いた化合物の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内で、細胞は、3次元的に相互作用しており、生体外においても、細胞を3次元的に相互作用させることで、機能が高まることが知られている。繊維シートで構成された細胞培養足場材は、細胞を3次元的に培養するための場を提供し、相互作用を促すため、細胞の大量培養や、医療機器、細胞移植治療、薬の安全性評価、疾患モデル等への利用が期待されている。特に生体適合性ポリマーを用いた繊維シートは、医療用及び細胞培養の足場として好適に用いられている。例えば、特許文献1には、ガーゼやスポンジ等の支持体上に、ゼラチン、コラーゲン及びセルロース等の生体高分子からなるナノファイバーを形成させて培養基材として用いることが記載されている。特許文献2には、平均繊維径が1~70μmの生体適合性長繊維の繊維交点を部分的に溶着させた生体適合性長繊維不織布を細胞培養用足場として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2014/196549号
【文献】国際公開2018/235745号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、繊維シートで構成された細胞培養足場材に細胞を播種すると、足場材の繊維径、空孔サイズ、粗密等の構造の違いにより、細胞分布が変わることが知られている。例として、密な足場では細胞が表層に留まりやすく、足場の周囲を回り込んで細胞が脱落する問題がある。一方で、疎な足場では細胞が内部に侵入するものの、足場を貫通したり、足場の側面から細胞が漏れて脱落する問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、足場からの細胞の脱落が抑制された播種効率の高い細胞集合体、その製造方法、その作製キット、及びそれを用いた化合物の評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、細胞及び足場を含む細胞集合体であって、前記足場は、ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布、及び前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層されたゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成されており、前記細胞は、前記ゼラチン不織布の表面及び内部の少なくとも一方に存在することを特徴とする細胞集合体に関する。
【0007】
本発明は、また、前記の細胞集合体の製造方法であって、ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布、及び前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層されたゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成された足場と、内面が親水化処理されていない培養容器を準備する工程、内面が乾燥状態の培養容器中に膨潤後の足場をゼラチンフィルム側が培養容器の内底面に接するように配置する工程、及び足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下して培養する工程を含むことを特徴とする細胞集合体の製造方法に関する。
【0008】
本発明は、また、化合物の性質を評価する化合物の評価方法であって、前記の細胞集合体に化合物を接触させる工程と、化合物と接触することで細胞集合体の生理学的特性が変更するか否かを判断する工程を含む、化合物の評価方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、足場からの細胞の脱落が抑制された播種効率の高い細胞集合体を提供することができる。
本発明の製造方法によれば、足場からの細胞の脱落を抑制し、高い播種効率で、細胞集合体を作製することができる。
本発明の作製キットを用いることで、足場からの細胞の脱落を抑制し、高い播種効率で、細胞集合体を作製することができる。
本発明は、3次元培養された細胞集合体を用いることで、化合物の性質を効果的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明の一実施例で用いた足場(積層体)の走査型電子顕微鏡(100倍)の写真である。
【
図2】
図2は本発明の他の一実施例で用いた足場(積層体)の走査型電子顕微鏡(100倍)の写真である。
【
図3】
図3は実施例1において足場の端部を光学顕微鏡で観察した画像(4倍)であり、(a)は細胞播種後の結果であり、(b)は3時間培養後に液体培地を添加した際の結果である。
【
図4】
図4は実施例1において足場中の生細胞を蛍光観察した画像であり、(a)は細胞播種後の足場の全体像であり、(b)は同中心部の拡大像であり、(c)は3時間培養後に液体培地を添加した際の足場(細胞集合体)の全体像であり、(d)は同中心部の拡大像であり、(e)は72時間培養した後の足場(細胞集合体)の全体像であり、(f)は同中心部の拡大像である。
【
図5】
図5は実施例2において足場中の生細胞を蛍光観察した画像であり、(a)は細胞播種後の足場の全体像であり、(b)は同中心部の拡大像であり、(c)は3時間培養後に液体培地を添加した際の足場(細胞集合体)の全体像であり、(d)は同中心部の拡大像であり、(e)は72時間培養した後の足場(細胞集合体)全体像であり、(f)は同中心部の拡大像である。
【
図6】
図6は実施例3において足場の端部を光学顕微鏡で観察した画像(4倍であり、(a)は細胞播種後の結果であり、(b)は3時間培養後に液体培地を添加した際の結果である。
【
図7】
図7は実施例3において足場中の生細胞を蛍光観察した画像であり、(a)は細胞播種後の足場の全体像であり、(b)は同中心部の拡大像であり、(c)は3時間培養後に液体培地を添加した際の足場(細胞集合体)の全体像であり、(d)は同中心部の拡大像であり、(e)は72時間培養した後の足場(細胞集合体)の全体像であり、(f)は同中心部の拡大像である。
【
図8】
図8は実施例4において足場中の生細胞を蛍光観察した画像であり、(a)は細胞播種後の足場の全体像であり、(b)は同中心部の拡大像であり、(c)は3時間培養後に液体培地を添加した際の足場(細胞集合体)の全体像であり、(d)は同中心部の拡大像であり、(e)は72時間培養した後の足場(細胞集合体)の全体像であり、(f)は同中心部の拡大像である。
【
図9】
図9は比較例1において足場の端部を光学顕微鏡で観察した画像(4倍)であり、(a)は細胞播種後の結果であり、(b)は3時間培養後に液体培地を添加した際の結果である。
【
図10】
図10は比較例2において足場の端部を光学顕微鏡で観察した画像(4倍)であり、(a)は細胞播種後の結果であり、(b)は3時間培養後に液体培地を添加した際の結果である。
【
図11】
図11は実施例1において72時間培養した後の足場における生細胞の分布を観察した画像であり、(a)はゼラチン不織布側の表面を観察した結果であり、(b)はゼラチン不織布表面から厚さ方向に100μm離れた箇所の結果であり、(c)はゼラチン不織布表面から厚さ方向に200μm離れた箇所の結果であり、(d)はゼラチンフィルム表面から厚さ方向に200μm離れた箇所の結果であり、(e)はゼラチンフィルム表面から厚さ方向に100μm離れた箇所の結果であり、(f)はゼラチンフィルム側の表面を観察した結果である。
【
図12】
図12は実施例2において72時間培養した後の足場における生細胞の分布を観察した画像であり、(a)はゼラチン不織布側の表面を観察した結果であり、(b)はゼラチン不織布表面から厚さ方向に100μm離れた箇所の結果であり、(c)はゼラチン不織布表面から厚さ方向に200μm離れた箇所の結果であり、(d)はゼラチンフィルム表面から厚さ方向に200μm離れた箇所の結果であり、(e)はゼラチンフィルム表面から厚さ方向に100μm離れた箇所の結果であり、(f)はゼラチンフィルム側の表面を観察した結果である。
【
図13】
図13は、実施例5において、培養4日目における細胞集合体のカルシウムイオンのイメージング観察結果であり、(a)は細胞集合体の明視野画像であり、(b)は所定の時刻の細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した画像であり、(c)は(b)の時点から0.7秒後の細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した画像であり、(d)は、測定点Aと測定点Bの蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフである。
【
図14】
図14は、実施例5において、培養4日目における細胞集合体のイソプロテレノールに対する応答性を示す結果である。
【
図15】
図15は、実施例6において、培養4日目における細胞集合体のカルシウムイオンのイメージング観察結果であり、(a)は細胞集合体の明視野画像であり、(b)は所定の時刻の細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した画像であり、(c)は(b)の時点から0.7秒後の細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した画像であり、(d)は、測定点Aと測定点Bの蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフである。
【
図16】
図16は、実施例6において、培養4日目において、E-4031による応答性を示す結果であり、(a)はE-4031を添加した後120分経過した後の細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した像であり、(b)は、(a)の時点から0.4秒後の細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した像であり、(c)は測定点Aと測定点Bの蛍光強度を時間に対してプロットした図である。
【
図17】
図17は、実施例7における心筋細胞集合体の蛍光染色結果である。(a)は培養3日目の細胞核及びアクチンフィラメント染色像であり、(b)は培養3日目のα―アクチニン免疫染色像であり、(c)は(b)の部分拡大像である。(d)は培養7日目の細胞核及びアクチンフィラメント染色像であり、(e)は培養7日目のα―アクチニン免疫染色像であり、(f)は(e)の部分拡大像である。
【
図18】
図18は、実施例7において、各化合物に対する応答性を示すグラフである。(a)はイソプロテレノールを投与する前後のカルシウムイオンのシグナル波形であり、(b)は各濃度のイソプロテレノールにおける拍動数である。(c)はE-4031を投与する前後のカルシウムイオンのシグナル波形であり、(d)は各濃度のE-4031における拍動数である。(e)はベラパミルを投与する前後のカルシウムイオンのシグナル波形であり、(f)は各濃度のベラパミルにおける拍動数である。
【
図19】
図19は、実施例7において、各化合物に対する応答性を示すグラフである。(a)はイソプロテレノールを投与する前後の収縮力を示し、(b)はイソプロテレノールを投与する前後の収縮弛緩速度を示す。(c)はE-4031を投与する前後の収縮力を示し、(d)はE-4031を投与する前後の収縮弛緩速度を示す。(e)はベラパミルを投与する前後の収縮力を示し、(f)はベラパミルを投与する前後の収縮弛緩速度を示す。
【
図20】
図20は、実施例8において、各化合物に対する応答性(カルシムイオンのシグナル波形)を示すグラフである。(a)はアジスロマイシン、(b)はクロロキン、(c)はヒドロキシクロロキン、(d)はアジスロマイシン(3μM)とクロロキンの併用、(e)はアジスロマイシン(3μM)とヒドロキシクロロキンの併用の場合の結果を示す。
【
図21】
図21は、実施例8において、各化合物に対する応答性(収縮力)を示すグラフである。(a)はアジスロマイシン、(b)はクロロキン、(c)はヒドロキシクロロキン、(d)はアジスロマイシン(3μM)とクロロキン、(e)はアジスロマイシン(3μM)とヒドロキシクロロキンの結果である。
【
図22】
図22は、実施例9において、化合物に対する応答性を示すグラフである。
【
図23】
図23は本発明の一実施例で使用する足場の製造装置の模式的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の発明者らは、上述した問題を解決するため、検討を重ねた。その結果、ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布、及び前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層されたゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成された足場を用い、細胞を前記ゼラチン不織布の表面及び内部の少なくとも一方、好ましくは両方に存在させることで、足場からの細胞の脱落を抑制された播種効率の高い細胞集合体が得られることを見出した。
特に、ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布、及び前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層されたゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成された足場と、培養容器の内面(内底面及び内側面)が親水化処理されていない(非親水性)培養容器を用い、内面が乾燥状態の培養容器中に膨潤後の足場をゼラチンフィルム側が培養容器の内底面に接するように配置し、足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下することで、驚くことに、足場に細胞懸濁液が留まり、足場の周囲への細胞流出が抑制され、すなわち足場からの細胞の脱落が抑制され、播種効率が高まることを見出した。これは、ゼラチン不織布及びゼラチンフィルムの積層体で構成された足場の親水性(濡れ性)が、培養容器の内面の親水性(濡れ性)を上回るため、足場から培養容器側へ細胞懸濁液が流れず、それゆえ、細胞が足場から脱落しないと推測される。また、足場内部及び/又は表面に細胞を留まらせた状態で、所定時間前培養し、細胞接着を促した後、追加の液体培地を添加して、足場を液体培地中に浸漬しても、細胞が足場に留まったまま、足場から脱落しない。
一方、細胞との接着性を高めるために培養容器の内底面等の内面が親水化処理された(親水性)培養容器の場合、足場に細胞懸濁液を滴下すると、足場から周囲へ細胞懸濁液が流出し、足場から細胞が脱落する。
通常、増殖性の細胞では、足場内で高密度化を達成するには、1週間以上の細胞増殖期間を設ける必要があり、また非増殖性の細胞では、播種効率が悪いと、足場内での細胞の高密度化が困難であるが、上述した播種方法であれば、播種効率が高く、高密度播種ができるため、培養初期からも高密度の培養が可能となる。
それゆえ、培養初期から高密度で3次元培養した細胞集合体が得られ、該細胞集合体を用いることで化合物の性質を効果的に評価し得る。
【0012】
本発明において、「膨潤」とは、水、緩衝液又は液体培地からなる群から選ばれる一つ以上の液体で飽和状態まで膨潤することを意味する。
【0013】
前記ゼラチン不織布及びゼラチンフィルムは、いずれも、ゼラチンを主成分とする。本発明において、主成分とは、ゼラチンを90質量%以上含むことを意味する。10質量%以下の他の成分は、必要に応じて、他の生体適合性ポリマー、架橋剤、薬剤、可塑剤、他の添加剤等であってもよい。実質的に100質量%のゼラチンであってもよい。本発明の足場は、安全性が高く、生体吸収性に優れるゼラチンを主成分とすることから、該足場は、生体に移植して再生治療用、細胞研究及び創薬研究に必要となる三次元細胞組織体等として好適に用いることができる。
【0014】
前記ゼラチンの原材料となるコラーゲンが由来する動物の種類や部位は特に限定されない。コラーゲンは、例えば脊髄動物由来でもよく、魚由来でもよい。また、真皮、靭帯、腱、骨、軟骨等の様々な器官や組織由来のコラーゲンを適宜用いることができる。また、コラーゲンからゼラチンを調製する方法も特に限定されず、例えば酸処理、アルカリ処理、及び酵素処理等が挙げられる。前記ゼラチンの分子量も特に限定されず、様々な分子量のものを適宜選択して用いることができる。また、ゼラチンは、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
前記ゼラチンは、特に限定されないが、適度な柔軟性及び硬さを有し、足場のハンドリング性を高める観点から、ゼリー強度が100g以上400g以下であることが好ましく、より好ましくは150g以上360g以下である。本発明において、ゼリー強度は、JIS K 6503に準じて測定する。前記ゼラチンは、市販品であってもよい。
【0016】
前記他の生体適合性ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、天然高分子や合成高分子を用いることができる。天然高分子としては、例えばタンパク質や多糖類が挙げられる。タンパク質としては、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、フィブリン等が挙げられる。多糖類としては、例えばキトサン、アルギン酸カルシウム、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、 デンプン、ジェランガム、アガロース、グァーガム、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、ローカストビーンガム、タマリンドガム、ダイユータンガム等の天然高分子を用いてもよく、カルボキシメチルセルロース等の天然高分子の誘導体を用いてもよい。合成高分子としては、例えば、ポリエチレングリコールポロエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、シクロオレフィンポリマー、アモルファスフッ素樹脂等の非吸収性の合成高分子や、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン等の生体吸収性高分子等が挙げられる。上述した他の生体適合ポリマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0017】
前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維は、膨潤後の平均繊維径が2μm以上400μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上100μm以下であり、特に好ましくは15μm以上45μm以下である。ゼラチン繊維の平均繊維径が上記範囲内であると、足場のゼラチン不織布の表面上に細胞を播種した際、細胞が足場に侵入しやすい上、足場の内部に均一に分布しやすい。本発明において、「膨潤後の平均繊維径」は、膨潤後の足場におけるゼラチン不織布から任意に選択した50本の繊維の直径の平均値を意味する。
【0018】
前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維は、繊維交点が部分的に溶着していることが好ましい。この部分的溶着は、特に限定されないが、例えば、後述するように、足場の製造時に圧力流体によって吹き飛ばされた完全に固化していない状態のゼラチン繊維を堆積することで発現させることができる。この部分的溶着により、ゼラチン不織布はブリッジ構造となり、所望の形に成形しやすく、かつ成形安定性も高いものとなる。また、繊維交点が部分的に溶着していることにより、ゼラチン不織布は水に濡れてもへたらない。また、ゼラチン不織布において、繊維交点は一部が溶着してもよく、繊維交点の全部が溶着してもよい。
【0019】
前記ゼラチン不織布は、特に限定されないが、例えば、ハンドリング性及び細胞の侵入性を高める観点から、厚みが0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることがさらに好ましく、0.4mm以上であることが特に好ましい。また、前記ゼラチン不織布は、特に限定されないが、例えば、3次元培養における細胞の生存率を高める観点から、厚みが2mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましく、0.7mm以下であることが特に好ましい。
【0020】
前記ゼラチン不織布は、特に限定されないが、例えば、細胞の脱落を抑制する観点から、目付が10g/m2以上であることが好ましく、25g/m2以上であることがより好ましく、50g/m2以上であることがより好ましい。また、前記ゼラチン不織布は、特に限定されないが、例えば、細胞の侵入性及び3次元培養における細胞の生存率を高める観点から、目付が600g/m2以下であることが好ましく、500g/m2以下であることがより好ましく、400g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0021】
前記ゼラチン不織布は、特に限定されないが、例えば、細胞の侵入性及び3次元培養における細胞の生存率を高める観点から、細孔径が20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがさらに好ましい。また、前記ゼラチン不織布は、特に限定されないが、例えば、細胞の脱落を抑制する観点から、細孔径が250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、180μm以下であることがさらに好ましい。本発明において、ゼラチン不織布の細孔径は、Wrotnowskiの仮定に基づいて、下記計算式(1)にて算出することができる。
【0022】
【0023】
前記ゼラチンフィルムは、前記ゼラチン不織布の一方の表面に配置されており、前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維と部分的に溶着していることが好ましい。この部分的溶着は、特に限定されないが、例えば、後述するように、足場の製造時に圧力流体によって吹き飛ばされた完全に固化していない状態のゼラチン繊維をゼラチンフィルム上に堆積することで発現させることができる。この部分的溶着により、ゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化されており、細胞が足場を貫通して細胞から脱落することが抑制される。また、ゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化されていることにより、細胞集合体を培養容器から剥離しやすく、また細胞への障害が少ないことで、移植先における定着性も良好になる。
【0024】
前記ゼラチンフィルムは、一例として、簡便性及びハンドリング性の観点から、厚みが0.5μm以上であることが好ましく、0.6μm以上であることがより好ましく、0.7μm以上であることがさらに好ましく、0.8μm以上であることが特に好ましい。また、前記ゼラチンフィルムは、一例として、ゼラチン不織布との一体性及び細胞の3次元培養の効率を高める観点から、厚みが10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることがさらに好ましく、4μm以下であることがさらにより好ましく、2μm以下であることが特に好ましい。
【0025】
前記ゼラチンフィルムは、無孔フィルムであることが好ましいが、細胞が貫通しないぐらいの大きさ、例えば細孔径が10μm以下又は5μm以下程度の微小孔を有してもよい。
【0026】
前記ゼラチン不織布の厚みTnと前記ゼラチンフィルムの厚みTfの比Tf/Tnが7.5×10-3以下であることが好ましい。これにより、膨潤後における積層体の反りが抑制され、細胞懸濁液が足場により留まりやすい。さらに、積層体が膨潤した場合でも、ゼラチン不織布にゼラチンフィルムが追従しやすく、ゼラチンフィルムの剥離や破壊が生じにくい。前記Tf/Tnは、7.0×10-3以下であることがより好ましく、6.0×10-3以下であることがさらに好ましい。また、前記Tf/Tnは、ゼラチンフィルムの剥離や破壊を抑制しやすい観点から、1.0×10-3以上であることが好ましく、1.5×10-3以上であることがより好ましい。
【0027】
前記積層体は、特に限定されないが、例えば、細胞培養時に強度を保ち、3次元培養における細胞の生存率を高める観点から、水で飽和状態まで膨潤した後における1.0kPaの圧縮応力時の圧縮変形率(以下において、単に「圧縮変形率」とも記す。)が40%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましく、30%以下がさらに好ましい。前記飽和状態とは、水が最大限に含まれた状態であり、水の含有量が一定限度にとどまりそれ以上増えない状態を意味する。本明細書において、圧縮変形率は、水で飽和状態まで膨潤した後の積層体において、無荷重の時の厚さを(H1)とし、1.0kPaの圧縮応力時の厚さを(H2)とした場合、下記式で算出したものである。圧縮試験は、後述のとおりに行う。
圧縮変形率(%)=100-{(H2/H1)×100}
【0028】
前記ゼラチン不織布及び前記ゼラチンフィルムは、細胞培養時の形態を維持しやすく、効果的に細胞の3次元培養を行う観点から、架橋されていることが好ましい。架橋は、具体的には、後述のとおりに行うことができる。
【0029】
本発明の1以上の実施形態において、前記ゼラチン不織布とゼラチンフィルムの積層体は、細胞接着因子、細胞誘導因子、細胞増殖因子、細胞に栄養やエネルギ-を与える物質、細胞の機能を抑制又は亢進する物質等でコーティングされてもよい。細胞接着因子としては、特に限定されないが、例えば、フィブロネクチン等が挙げられる。細胞接着因子で積層体をコーティングすることで、細胞が足場により留まりやすくなる。細胞に栄養やエネルギ-を与える物質としては、特に限定されないが、例えば、ATP、ピルビン酸、グルタミン等が挙げられる。また、本発明の1以上の実施形態において、前記ゼラチン不織布とゼラチンフィルムの積層体を細胞誘導因子、細胞増殖因子等の生理活性物質を含む溶液に浸して、これらの成分を含ませてもよい。細胞培養過程において、積層体から、これらの生理活性物質が徐々に放出されることで、細胞培養を促進することができる。
【0030】
前記足場は、特に限定されないが、夾雑物の発生を抑制し、製品汚染を防ぐとともに、バインダー成分や熱圧着手段を用いることなく、ゼラチン不織布とゼラチンフィルムを一体化する観点から、ゼラチンを含む紡糸液をノズル吐出口から空気中に押し出し、前記ノズル吐出口の後方に位置し、前記ノズル吐出口とは非接触状態の流体噴射口から前方に向けて圧力流体を噴射し、前記押し出された紡糸液を前記圧力流体に随伴させて繊維形成させ、ゼラチンを主成分とするゼラチンフィルム上に前記繊維形成した繊維を集積させてゼラチン不織布とすることで、前記ゼラチンフィルムと前記ゼラチン不織布の積層体を得ることで作製することが好ましい。
【0031】
前記ゼラチンフィルムは、特に限定されず、公知のフィルムの製造方法で作製することができる。例えば、ゼラチン溶液を基材表面に塗布した後、乾燥することで作製することができる。前記基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)、ガラス板、ポリスチレンシート、フッ素樹脂シート等を用いることができる。PETフィルム、ガラス板、ポリスチレンシート、フッ素樹脂シート等は撥水処理されてもよい。
【0032】
前記ゼラチン溶液は、ゼラチン単独、或いは、必要に応じてゼラチンと上述した他の成分として用いることができる他の生体適合ポリマーを溶媒に溶解することで得ることができる。溶媒としては、例えば、水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、グリセリン等のアルコール類、あるいはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。中でも、取扱い性の観点から、蒸留水、純水、超純水、イオン交換水等の水を用いることが好ましい。ゼラチンが水溶性であることで、水溶液の状態でフィルム化に用いることができ、生体に対する安全性が高くなる。
【0033】
ゼラチンの濃度は、特に限定されないが、例えば、成膜性及び流延性の観点から、ゼラチン溶液を100質量%とした時、0.1質量%以上35質量%以下であることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。溶解温度(溶媒の温度)は10℃以上90℃以下が好ましく、20℃以上80℃以下であることがより好ましく、30℃以上70℃以下であることがさらに好ましい。必要に応じて、ゼラチンを溶媒に溶解した後、フィルトレーションして異物やごみ等を除去してもよい。また、必要に応じて、その後、減圧又は真空脱泡して溶解空気を除去してもよい。効率よく気体(気泡)を除去する観点から、減圧脱泡時の真空度は5kPa以上30kPa以下であることが好ましい。
【0034】
前記乾燥は特に限定されず、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥(真空乾燥)、強制排気乾燥、強制循環対流等により行うことができる。具体的に、乾燥温度は、例えば、-40℃以上90℃以下であってもよく、0℃以上60℃以下であってもよく、10℃以上40℃以下であってもよい。また、乾燥時間は、例えば、1時間以上200時間以下の範囲であってもよく、好ましくは3時間以上100時間以下の範囲であり、より好ましくは5時間以上48時間以下の範囲である。
【0035】
前記のメルトブロー法は、ゼラチンを含む紡糸液をノズル吐出口から押し出し、ノズル吐出口の後方に位置し、前記ノズル吐出口とは非接触状態の流体噴射口から前方に向けて圧力流体を噴射し、前記押し出された紡糸液を前記圧力流体に随伴させて乾式でダイレクトに繊維化し、得られたゼラチン繊維をゼラチンフィルム上に集積させて不織布にすることから、コンタミ(夾雑物)の発生は防止され、衛生的に製造できる。紡糸後に繊維を集積(堆積)させる時に繊維同士が、水分を含んだ状態で積層されるため、繊維同士が溶着したり互いに絡んで一体化されるとともに、該不織布を構成するゼラチン繊維がゼラチンフィルムと溶着してゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化する。繊維を堆積させる際の捕集距離を変えることで、容易に不織布密度を変えることができる。
【0036】
図23は本発明の一実施例で使用する足場の製造装置の模式的説明図である。足場の製造装置20において、加温槽1に入れたゼラチンを含む紡糸液2をノズル吐出口3から空気中に押し出す。加温槽1にはコンプレッサー4により、所定の圧力をかけておく。12は保温容器である。
また、ノズル吐出口3の後方に位置し、ノズル吐出口3とは非接触状態の流体噴射口5から前方に向けて圧力流体7を噴射させる。流体噴射口5にはコンプレッサー6から圧力流体(例えば圧空)が供給される。流体噴射口5とノズル吐出口3との距離は5~30mmが好ましい。
押し出された紡糸液は圧力流体7に随伴されてゼラチン繊維8となり、巻き取りロール11上に配置されたゼラチンフィルム10上でゼラチン不織布9となって堆積される。この時、堆積された繊維は水分を含んでいたり、完全には固化していないので、繊維交点の少なくとも一部において接している繊維が互いに溶着するとともに、不織布を構成するゼラチン繊維がゼラチンフィルムと溶着してゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化する。なお、巻き取りロールに変えてネット等の他の捕集手段を用いてもよい。
【0037】
まず、ゼラチン単独、或いは、必要に応じてゼラチンと上述した他の成分として用いることができる他の生体適合ポリマーを溶媒、好ましくは水に溶解して紡糸液を調製する。溶解温度(水等の溶媒の温度)は20℃以上90℃以下が好ましく、40℃以上90℃以下であることがより好ましい。必要に応じて、ゼラチンを水等の溶媒に溶解した後、フィルトレーションして異物やごみ等を除去してもよい。また、必要に応じて、その後、減圧又は真空脱泡して溶解空気を除去してもよい。効率よく気体(気泡)を除去する観点から、減圧脱泡時の真空度は5kPa以上30kPa以下であることが好ましい。ゼラチンが水溶性であることで、紡糸液として水溶液の状態で紡糸でき、生体に対する安全性が高くなる。水としては、例えば、純水、蒸留水、超純水等を適宜用いることができる。なお、他の成分として、他の生体適合性水溶性高分子を用いる場合、ゼラチンと同時に水に溶解することで、紡糸液を調製することができる。
【0038】
前記紡糸液の温度は20℃以上90℃以下であることが好ましく、40℃以上90℃以下であることがより好ましい。前記の範囲であればゼラチンは安定したゾル状態を維持できる。また、前記ゼラチン水溶液のゼラチン濃度は、ゼラチン水溶液を100質量%とした時、30質量%以上55質量%以下であることが好ましい。さらに好ましい濃度は35質量%以上50質量%以下である。前記の濃度であれば安定したゾル状態を維持できる。前記ゼラチン水溶液(紡糸液)の粘度は500mPa・s以上3000mPa・s以下が好ましい。ゼラチン水溶液の粘度が前記の範囲であれば安定した紡糸ができる。
【0039】
前記紡糸液を紡糸機のノズルから吐出し、前記ノズル周囲から圧力流体を供給し、前記吐出したゼラチン水溶液を前記圧力流体に随伴させて繊維形成させ、得られたゼラチン繊維をゼラチンフィルム上で集積させてゼラチン不織布とする。ノズルの吐出圧は、特に限定されないが、例えば0.1MPa以上1MPa以下であってもよい。
【0040】
前記圧力流体の温度は、20℃以上120℃以下であることが好ましく、80℃以上120℃以下であることがより好ましい。圧力流体の流速及び周囲雰囲気の温度にもよるが、前記の温度範囲であれば安定した紡糸ができる。圧力流体は空気を使用することが好ましく、圧力は0.1MPa以上1MPa以下であることが好ましい。前記の範囲であれば、ノズル吐出口から空気中に押し出された紡糸液を吹き飛ばして繊維化できる。
【0041】
ノズル径(内径)等適宜を調整することで、所望の平均繊維径を有する前記ゼラチン不織布を得ることができる。
【0042】
前記ゼラチン不織布及びゼラチンフィルムの積層体は、架橋することが好ましい。これにより形態安定性及び耐水性を高めることができる。架橋は、架橋剤等の化合物を用いた化学架橋であってもよいが、生体安全性の観点から、生体安全性を有する架橋剤を用いる架橋、架橋剤を用いない架橋であることが好ましい。架橋剤を用いない架橋としては、例えば、熱架橋、電子線架橋、γ線等の放射線架橋、紫外線架橋等が挙げられる。電子線照射、γ線等の放射線照射の場合は、滅菌と架橋を同時にすることもできる。簡便に所望の架橋効果を得やすい観点から、熱架橋であることが好ましく、熱脱水架橋であることがより好ましい。熱脱水架橋は、例えば、100℃以上160℃以下で、24時間以上96時間以下で行ってもよい。また、熱脱水架橋は、例えば、1kPa以下の真空下で行ってもよい。前記積層体は、架橋する前に乾燥してもよい。乾燥は、室温における風乾でもよく、真空凍結乾燥でもよい。
【0043】
ゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化された積層体を必要に応じて所定の形状や大きさにカットして足場として用いることができる。ゼラチンは生体適合性、生分解性を有することから、ゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化された積層体は、医療用又は細胞培養の足場用に好適である。足場は、使用時に、エチレンオキサイドガス滅菌、水蒸気(オートクレーブ)、電子線照射、γ線等の放射線照射等で滅菌したり、エタノール処理等で殺菌することができる。電子線照射、γ線等の放射線照射の場合は、滅菌とともに架橋を同時にすることもできる。
【0044】
上記ゼラチンフィルムや積層体の製造工程は、例えば、クリーンベンチ、クリーンルーム内で無菌的に行うことが好ましい。作業中における雑菌の繁殖によって、ゼラチンフィルムや積層体が汚染することを防止することができる。使用する製造器具は、例えば、オートクレーブ、電子線照射、γ線等の放射線照射等で滅菌処理されたものを使用することが好ましい。また、上記ゼラチン溶液も、例えば、従来公知のフィルターろ過滅菌を行ってから前記フィルム製造工程に供することが好ましい。
【0045】
本発明において、一例として、架橋させた後の積層体を所定の形に打ち抜く等して成形し、足場とする。或いは、水、緩衝液又は所定の液体培地で膨潤した後に、目的の足場とする。
【0046】
本発明の1以上の実施形態において、細胞集合体は、足場及び細胞を含み、細胞がゼラチン不織布の表面及び内部の少なくとも一方に存在すればよいが、細胞はゼラチン不織布の表面及び内部の両方に存在することが好ましい。このように細胞が立体的に配置された3次元培養細胞集団の場合、組織としての利用が可能となる。本発明の1以上の実施形態において、細胞集合体は、必要に応じて、シート状やブロック状等の各種形状にすることができる。また、細胞集合体は、2層以上の構造であり、各々の層が足場及び細胞を含み、細胞がゼラチン不織布の表面及び内部の少なくとも一方、好ましくは両方に存在するものであってもよい。
【0047】
本発明の1以上の実施形態において、細胞は、動物細胞であればよく、その由来は特に限定されない。動物としては、ヒトでもよく、ヒト以外の動物でもよい。ヒト以外の動物としては、例えば、サル、チンパンジー等の霊長類、マウス、ラット、ハムスター等の齧歯類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の有蹄類等が挙げられる。また、本発明において、細胞は、個々の細胞、細胞株、初代培養等培養で得られる細胞等を含む。前記細胞としては、特に限定されないが、例えば、体細胞、幹細胞、前駆細胞、生殖細胞、免疫細胞等が挙げられる。
【0048】
体細胞は、生体を構成する体細胞や体細胞から派生した癌細胞を含む。生体を構成する体細胞としては、特に限定されず、例えば、線維芽細胞、筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、膀胱細胞、肺細胞、骨細胞、神経細胞、肝細胞、軟骨細胞、上皮細胞、中皮細胞等が挙げられる。癌細胞としては、特に限定されず、例えば、乳癌細胞、腎癌細胞、前立腺癌細胞、肺癌細胞、肝癌細胞、子宮頸癌細胞、食道上皮癌、膵癌、大腸癌、膀胱癌等が挙げられる。
【0049】
幹細胞は、様々な特殊化した細胞型へ分化する可能性がある細胞である。幹細胞としては、特に限定されず、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性癌腫細胞(EC)、胚性生殖幹細胞(EG)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、成体幹細胞、胚盤胞由来幹細胞、生殖隆起由来幹細胞、奇形腫由来幹細胞、オンコスタチン非依存性幹細胞(OISC)、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、羊水由来間葉系幹細胞、皮膚由来間葉系幹細胞、骨膜由来間葉系幹細胞等が挙げられる。
【0050】
前駆細胞は、前記幹細胞から発生し生体を構成する最終分化細胞へ分化することができる細胞である。
【0051】
生殖細胞としては、例えば、精子、精細胞、卵子、卵細胞等が挙げられる。
【0052】
免疫細胞としては、特に限定されないが、例えば、マクロファージ、リンパ球、樹状細胞等が挙げられる。
【0053】
上述した細胞は、1種を単独で用いてもよく、目的等に応じて2種以上を併用してもよい。例えば、前記細胞は、幹細胞、がん細胞、幹細胞由来の心筋細胞、神経細胞、肝細胞、線維芽細胞、内皮細胞及び上皮細胞、並びに生体由来の心筋細胞、神経細胞、肝細胞、線維芽細胞、内皮細胞及び上皮細胞からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0054】
本発明の1以上の実施形態において、特に限定されないが、前記細胞集合体は、内面が乾燥状態の培養容器中に膨潤後の足場をゼラチンフィルム側が培養容器の内底面に接するように配置し、足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下することで、細胞を播種した後に培養することで作製することができる。これにより、足場からの細胞の脱落が抑制され、播種効率が高くなり、好適には培養初期から高密度で細胞を培養することができる。足場の配置は、具体的には、ピンセットで足場の端部を把持して行うことができる。
【0055】
本発明は、1以上の実施形態において、細胞を足場に播種する細胞播種方法であって、ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布、及び前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層されたゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成された足場と、培養容器の内面が親水化処理されていない培養容器を準備し、内面が乾燥状態の培養容器中に膨潤後の足場をゼラチンフィルム側が培養容器の内底面に接するように配置し、足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下することを特徴とする細胞播種方法を提供することができる。該細胞播種方法によれば、足場からの細胞の脱落が抑制され、播種効率が高まる。本発明は、1以上の実施形態において、また、前記の細胞播種方法において、足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下して所定時間静置した後、液体培地を添加して細胞培養を行う細胞培養方法を提供することができる。該細胞培養法によれば、培養初期から高密度で細胞を培養することができる。
【0056】
本発明の1以上の実施形態において、培養容器は、細胞培養用足場や液体培地と接する内面が親水化処理されていないものであればよく、特に限定されず、例えば、ディッシュ、プレート、及びフラスコ等を適宜用いることができる。具体的には、細胞接着性(付着性)を向上する処理を行っていない未処理(細胞非接着性)の培養皿を用いることができ、浮遊培養用の培養皿を好適に用いることができる。例えば、「IWAKI浮遊培養用マイクロプレート(表面処理なし)6well」、「Corningノントリートメントプレート6ウェル」等の市販品を用いることができる。
【0057】
細胞懸濁液は、細胞を液体培地中に懸濁したものを用いることができる。足場の単位表面積当たりの細胞懸濁液の液量(滴下量)は、足場の厚みや目付、細胞懸濁液の濃度などにより適宜決めることができ、特に限定されないが、0.1μL/mm2以上0.6μL/mm2以下であることが好ましく、より好ましくは0.2μL/mm2以上0.5μL/mm2以下であり、さらに好ましくは0.3μL/mm2以上0.4μL/mm2以下である。上述した範囲内であると、足場内に均一に細胞懸濁液が行き届きやすく、かつ、足場内に細胞懸濁液を保持しやすくなる。
【0058】
足場の単位表面積当たりの細胞の播種量は、特に限定されず、細胞種類、足場の厚み及び目付等に基づいて適宜決めることができるが、例えば、高密度に播種する観点から、200細胞/mm2以上20000細胞/mm2以下であることが好ましく、2000細胞/mm2以上15000細胞/mm2以下であることがより好ましく、4000細胞/mm2以上12000細胞/mm2以下であることがさらに好ましい。
【0059】
前記液体培地としては、特に限定されず、細胞の種類に応じて、細胞の生存増殖に必要な成分を含むものを適宜用いることができる。前記培地は、血清、抗生物質及び成長因子等を含んでもよい。血清は、例えば、ウシ血清、ウシ胎児血清、ウマ血清、ヒト血清等を適宜用いることができる。抗生物質は、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、アンフォテリシン、アンピシリン、ミノマイシン、カナマイシン等を適宜用いることができる。成長因子は、細胞増殖因子、分化誘導因子、細胞接着因子等を適宜用いることができる。
【0060】
本発明の1以上の実施形態において、足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下した後、所定時間例えば3~4時間静置して細胞をゼラチン不織布(足場)に接着させるための前培養を行った後に、液体培地を添加して細胞培養を行うことができる。
【0061】
培養は、例えば、27℃以上40℃以下で行ってもよく、31℃以上37℃以下であってもよい。二酸化炭素は、2%以上10%以下の範囲であってもよい。
【0062】
培養時間は、細胞種類、細胞数等に応じて適宜決めればよいが、例えば、2~21日継続して培養してもよく、3~14日継続して行ってもよく、4~10日継続して行ってもよい。培地は、2~4日毎に交換してもよい。
【0063】
一例として、細胞播種3~4時間後に細胞が足場に接着したのを確認してから、培養容器中に液体培地を加え、所定条件(例えば温度37℃、5%CO2)のインキュベーター中で静置培養してもよい。液体培地は、2~4日毎に交換してもよい。或いは、細胞播種後に、培養容器中に液体培地を加え、37℃、5%CO2のインキュベーター中に置いたマグネティックスターラー上で液体培地を撹拌して循環させながら、撹拌培養してもよい。3~4日毎に、液体培地を半分量除き、等量の新たな液体培地を加えることで、培地交換を行ってもよい。或いは、細胞播種後に、培養容器中に液体培地を加え、37℃、5%CO2のインキュベーター中で振とうさせながら培養してもよい。3~4日毎に、液体培地を半分量除き、等量の新たな液体培地を加えることで、培地交換を行ってもよい。本発明の足場は、水に濡れると透明になるため、培養液中で倒立顕微鏡により足場の内部まで観察することができる。
【0064】
上記のように足場に細胞を播種することで播種効率が向上するとともに、高密度の播種を行うことができ、播種後に細胞培養を行うことで高密度培養が可能となる。
【0065】
本発明は、1以上の実施形態において、細胞集合体の作製キットであって、上述したゼラチンを主成分とするゼラチン不織布、及び前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層されたゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成された足場、及び内面が親水化処理されていない培養容器を含み、細胞集合体の作製時に、内面が乾燥状態の培養容器中に膨潤後の足場をゼラチンフィルム側が培養容器の内底面に接するように配置し、足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下する細胞集合体の作製キットを提供する。上述のような細胞集合体の作製キットは、細胞播種キットや細胞培養キットとして用いることもできる。
【0066】
本発明の1以上の実施形態において、前記心筋細胞が、幹細胞、又はダイレクトリプログラミングされた体細胞から分化された心筋細胞の場合、足場は心筋細胞の成熟を促進することができ、成熟した心筋細胞および心筋細胞の細胞集合体を得ることができる。本発明の1以上の好ましい実施形態において、心筋細胞が足場(ゼラチン不織布)を構成するゼラチン繊維上に存在する場合、繊維の直径方向よりも、繊維の長さ方向に細胞が伸展できる領域が広く存在するため、ゼラチン繊維に付着した細胞は、繊維の長さ方向に配向し、かつゼラチン不織布は柔軟で変形回復性に優れるため、ゼラチン繊維が心筋細胞とともに収縮・弛緩することで、心筋細胞に力学的な刺激が付与され、心筋細胞の成熟を促進することができる。
【0067】
幹細胞、又はダイレクトリプログラミングされた体細胞から分化された心筋細胞の場合、生体の心筋細胞と比べると未成熟で、機能が不十分なことがある。心筋細胞が未成熟な場合、化合物の副作用の検出において、催不整脈予測に関わるイオンチャネルや、心収縮障害に関わるサルコメア構造の発達や、薬剤添加時に収縮力が増強する作用(陽性変力作用)が示されないことがある。
【0068】
心筋細胞の成熟を促進する方法としては、心筋細胞の伸張刺激や、電気刺激の付与といった外部刺激を与えることが知られているが、特殊な培養皿を用いる必要がある。本発明の1以上の好ましい実施形態においては、心筋細胞が、幹細胞、又はダイレクトリプログラミングされた体細胞から分化された心筋細胞の場合でも、特殊な培養皿を用いることなく、成熟した心筋細胞の細胞集合体を得ることができる。
【0069】
成熟化した心筋細胞の特徴としては、例えば、心筋細胞の構造、収縮性、電気生理、カルシウムハンドリング、及び代謝等の特徴が挙げられる。成熟化した心筋細胞の構造特徴として、サイズが大きくなる、細胞形状が縦長となる、サルコメア構造が配向する、及びサルコメア長が1.8μm~2.2μmであること等が挙げられる。成熟化した心筋細胞の収縮性特徴として、収縮力の増加、α-MHC/β-MHCの向上、Titin N2AのTitin N2Bへの変化、β-受容体刺激による収縮力の増加、及びProtein kinase A依存の収縮力増加等が挙げられる。成熟化した心筋細胞の電気生理的特徴として、興奮速度の増加、静止膜電位の低下、及び活動電位持続時間の延長等が挙げられる。成熟化した心筋細胞のカルシウムハンドリング特徴として、筋小胞体のカルシウム貯蔵量の増加、アドレナリン刺激によるカルシウムサイクルの増加、及びT管の発達等が挙げられる。成熟化した心筋細胞の代謝特徴として、脂肪酸の利用、及びミトコンドリア数の増加等が挙げられる。前記成熟化した心筋細胞の特徴は、イメージング測定、収縮力測定、収縮速度、薬理評価、遺伝子解析等で確認することができる。
【0070】
成熟した心筋細胞に発現する遺伝子としては、電気生理に関わるものとして、例えば、SCN5A,KCNJ2,GJA1,及びCN4等が挙げられ、カルシウムハンドリングに関わるものとして、例えば、ATP2A2,CACNA1C,RYR2,SLC8A1,PLN,BIN1,及びJPH2が挙げられ,収縮に関連するものとして、例えば、MYH7,MYH6,MYL2,TNNI3,PLN,SERCA2A等が挙げられ、代謝に関連するものとして、例えば、CPT1B,PGC1A,及びTFAM等が挙げられる。
【0071】
本発明の1以上の実施形態において、細胞集合体は、細胞移植治療、化合物の安全性評価、化合物の毒性評価、医療機器、疾患モデル、疾患モデルを用いた創薬研究等への好適に利用することができる。
【0072】
本発明の1以上の実施形態において、例えば、細胞集合体は化合物の性質を評価する化合物の評価方法に用いることができる。具体的には、細胞集合体に化合物を接触させた後、化合物と接触することで細胞集合体の生理学的特性が変更するか否かを判断することで化合物の性質を評価することができる。化合物の性質は、特に限定されないが、例えば、代謝、薬理作用及び毒性作用等であってもよい。より具体的には、上述したように足場に細胞を播種し所定時間培養して細胞集合体を得た後、細胞培養に用いた液体培地に目的の化合物を添加し、化合物添加後に細胞集合体の生理学的特性が変更するか否かを観察評価してもよい。
【0073】
前記細胞が心筋細胞の場合、細胞集合体は目的化合物の電気生理学的特性、心収縮等に対する影響、例えば、催不整脈リスク評価、心収縮障害、心毒性評価に用いることができる。本発明の1以上の好ましい実施形態において、心筋細胞が足場の表面及び内部に存在し、かつ足場(具体的には、ゼラチン繊維及びゼラチンフィルムのゼラチン不織布側の表面)に接着している細胞集合体、すなわち心筋細胞が立体的に配置された3次元培養の細胞集合体は、心筋細胞の収縮時に細胞集合体が全体として心筋細胞の動きに追従しやすく、心拍、活動電位、収縮挙動等の心筋細胞の機能性を効果的に評価することができる。具体的には、細胞集合体の活動電位は、細胞内のカルシウムイオンのイメージング、細胞の膜電位のイメージング、微小電極アレイ等により評価することができ、収縮挙動は、足場及び足場を構成する繊維の動きを観察することで評価でき、明視野、カルシウムイオンイメージング、膜電位イメージング等を自由に使用できる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0075】
測定・評価方法は下記のとおりである。
<平均繊維径>
膨潤後の足場をマイクロスコープ(横河電機社、CQ1)で観察し、任意に選択した50本の繊維を用いて、膨潤後の平均繊維径を測定した。
<厚み>
積層体(足場)の断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製FlexSEM1000、100倍及び500倍)で観察し、得られた走査型電子顕微鏡写真から任意に選択した10か所のゼラチンフィルム層厚み、ゼラチン不織布の厚み、及び積層体の厚みを計測し、平均値を算出した。
膨潤後の積層体(足場)の厚みをミツトヨ社製のデジタルノギスで計測した。
<目付(単位面積あたりの質量)>
ゼラチン不織布の目付はJIS L 1913に準じて測定した。
<見掛密度>
ゼラチン不織布の密度は不織布の厚み及び目付に基づいて算出した。
<細孔径>
ゼラチン不織布の細孔径は、Wrotnowskiの仮定に基づいて、下記計算式1にて算出した。
【数2】
【0076】
(実施例1)
<積層体(足場)の作製>
ゼラチンとして新田ゼラチン社製(ゼリー強度262g、原料:アルカリ処理牛骨)を使用し、ゼラチン:水=95:5の質量比(ゼラチン濃度5質量%)とし、温度60℃で溶解した。このゼラチン水溶液を、ポリテトラフルオロエチレンフィルム(膜厚50μm)上に、TP技研株式会社製バーコーターNo.20で塗布し、室温で一晩風乾させることによりゼラチンフィルムを得た。
次いで、ゼラチンとして新田ゼラチン社製(ゼリー強度262g、原料:アルカリ処理牛骨)を使用し、ゼラチン:水=3:5の質量比(ゼラチン濃度37.5質量%)とし、温度60℃で溶解した。60℃における粘度は960~970mPa・sであった。このゼラチン水溶液を紡糸液とし、
図23に示す製造装置を使用して、巻き取りロール上に配置されたゼラチンフィルム上にゼラチン繊維を集積して不織布にすることで積層体を製造した。紡糸液の温度は60℃、ノズル直径(内径)250μm、吐出圧0.2MPa、ノズル高さ5mm、エアー圧力0.375MPa、エアー温度100℃、流体噴射口とノズル吐出口との距離は5mm、捕集距離50cmとした。積層体は室温で一晩風乾し、次いで加熱脱水架橋させた。架橋条件は温度140℃、48時間とした。
得られた積層体を直径6mmの円柱に打ち抜き、足場を作製した。
<細胞集合体の作製>
(1)上記で得られた積層体(足場)をエチレンオキサイドガス滅菌後に、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS(-)(1x)、ナカライテスク社)中に10分間静置して膨潤させた。膨潤後の積層体の直径は8mmであった。
(2)膨潤後の積層体から過剰の液体をピペットで除去した後、端部をピンセットで把持してゼラチンフィルムがウェルの内底面に接するようにIWAKI浮遊培養用マイクロプレート(表面処理なし)6Wellの一つのウェル中に設置した。
(3)ヒト胎児腎細胞HEK293細胞を液体培地中(Dulbecco's Modified Eagle's Medium、シグマ社(10%胎児牛血清、1%ペニシリンストレプトマイシン添加))に2×10
7cells/mLになるように懸濁して得られた細胞懸濁液を積層体のゼラチン不織布の表面上に20μL滴下した。温度37℃、5%CO
2のインキュベーター中で3時間静置培養して細胞を積層体に接着させた。足場単位面積当たりの細胞の播種量は6250細胞/mm
2である。
(4)上記の液体培地3mLを加え、温度37℃、5%CO
2のインキュベーター中で72時間静置培養した。
【0077】
(実施例2)
<積層体(足場)の作製>
ノズル直径(内径)150μm、ノズル吐出圧0.275MPa、ノズル高さ5mm、エアー圧力0.375MPa、エアー温度100℃、流体噴射口とノズル吐出口との距離は5mm、捕集距離50cmとした以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
得られた積層体を直径6mmの円柱に打ち抜き、足場として用いた。
<細胞集合体の作製>
上記で得られた積層体(足場)を用いた以外は、実施例1と同様にして細胞集合体を作製した。膨潤後の積層体の直径は8mmであった。
【0078】
(実施例3)
<積層体(足場)の作製>
実施例1と同様にして得られた積層体を直径6mmの円柱に打ち抜き、足場として用いた。膨潤後の積層体の直径は8mmであった。
該足場をフィブロネクチン溶液(1mg/ml、シグマ社)をダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS(-)(1x)、ナカライテスク社)に対し1/100(体積比)になるよう添加したフィブロネクチン含有リン酸緩衝液中に、2時間浸漬した後、フィブロネクチン溶液を吸引除去した。
<細胞集合体の作製>
フィブロネクチンで処理した足場と、iPS細胞由来心筋細胞(iCell(登録商標)cardiomyocytes2、富士フイルム和光純薬社製)を液体培地中(iCell(登録商標)心筋細胞解凍培地、富士フイルム和光純薬社)に1×107cells/mLになるように懸濁して得られた細胞懸濁液を用い、4時間培養後に液体培地(iCell(登録商標)心筋細胞維持培地、富士フイルム和光純薬社)を添加した以外は、実施例1と同様にして細胞集合体を作製した。足場単位面積当たりの細胞の播種量は3125細胞/mm2である。
【0079】
(実施例4)
<積層体(足場)の作製>
実施例2と同様にして得られた積層体を直径6mmの円柱に打ち抜き、足場として用いた。膨潤後の積層体の直径は8mmであった。
該足場をフィブロネクチン溶液(1mg/mL、シグマ社)をダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS(-)(1x)、ナカライテスク社)に対し1/100(体積比)になるよう添加したフィブロネクチン含有リン酸緩衝液中に、2時間浸漬した後、フィブロネクチン含有液体培地を吸引除去した。
<細胞集合体の作製>
フィブロネクチンで処理した足場と、iPS細胞由来心筋細胞(iCell(登録商標) cardiomyocytes2、富士フイルム和光純薬社製)を液体培地中(iCell(登録商標)心筋細胞解凍培地、富士フイルム和光純薬社製)に1×107cells/mLになるように懸濁して得られた細胞懸濁液を用い、4時間培養後に液体培地(iCell(登録商標)心筋細胞維持培地、富士フイルム和光純薬社製)を添加した以外は、実施例2と同様にして細胞集合体を作製した。足場単位面積当たりの細胞の播種量は3125細胞/mm2である。
【0080】
(比較例1)
培養容器として、IWAKI組織培養用マイクロプレート(付着性細胞用)6Wellを用いた以外は、実施例1と同様にして細胞播種及び細胞培養を行った。
【0081】
(比較例2)
培養容器として、IWAKI組織培養用マイクロプレート(付着性細胞用)6Wellを用いた以外は、実施例3と同様にして細胞播種及び細胞培養を行った。
【0082】
実施例で用いた足場の各種測定・評価結果を下記表1に示した。
図1及び2に実施例1及び2で用いた足場の断面写真をそれぞれ示した。
図1及び2から分かるように、前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維は、繊維交点が少なくとも部分的に溶着しており、かつ前記ゼラチンフィルムは、前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維と部分的に溶着していた。
【0083】
【0084】
実施例1~2及び比較例1において、細胞を播種した直後(以下、「播種後」とも記す。)、その後3時間培養し、液体培地を添加した後(以下、「3時間培養後」とも記す。)、72時間培養後の足場を下記のように観察した。その結果を
図3~5、
図9、及び表2に示した。実施例3~4及び比較例2において、細胞を播種した直後(以下、「播種後」とも記す。)、その後4時間培養し、液体培地を添加した後(以下、「4時間培養後」とも記す。)、72時間培養後の足場を下記のように観察した。その結果を
図6~8、
図10、及び表3に示した。
【0085】
(1)細胞の脱落有無
播種後及び3時間培養後(実施例1~2)又は4時間培養後(実施例3~4)の足場の端部を、光学顕微鏡(Zeiss社製、Axio Vert.A1)にて4倍で観察した。
(2)生細胞の蛍光観察
核染色蛍光試薬であるビスベンズイミドH33342フルオロクロム三塩酸塩のDMSO溶液(1mg/mL、ナカライテスク社)を液体培地に対して、1/100体積濃度(v/v)で添加し、37℃、5%CO2の条件下で30分間培養した後、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS(-)(1x)、ナカライテスク社)で洗浄し、再度液体培地を添加した。
その後、横河電機社製共焦点イメージング装置(CQ1)を用い、生細胞を蛍光観察した。足場材の表裏それぞれを観察するため、足場材の端部をピンセットで把持して、反転して観察した。観察像は、厚さ方向に対して10μm間隔で行い、50枚を最大値投影法(MIP)により、重ね合わせた。足場の全体像は、4倍の観察像を連結した。拡大像は20倍の観察像である。画像において、白く見える部分が細胞核である。
(3)生細胞数及び生細胞割合の算出
播種1日後の足場をダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS(-)(1x)、ナカライテスク社)で洗浄した後、該足場を15mL遠心チューブに移し、2.5g/L トリプシン/1mmol/L EDTA溶液(ナカライテスク社)を1mL滴下した。37℃、5%CO2下で25分間培養し、該足場が溶解していることを目視で確認した後、0.5%トリパンブルー染色液(ナカライテスク社)で死細胞を染色し、全自動セルカウンター(TC20TM、バイオ・ラッドラボラトリーズ社)で生細胞数及び生細胞割合を算出した。
(4)足場内の細胞分布
72時間培養した足場を核染色蛍光試薬であるビスベンズイミドH33342フルオロクロム三塩酸塩のDMSO溶液(1mg/mL、ナカライテスク社)を液体培地に対して、1/100体積濃度(v/v)で添加し、37℃、5%CO2の条件下で30分間培養した後、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS(-)(1x)、ナカライテスク社)で洗浄し、再度液体培地を添加した。
その後、横河電機社製共焦点イメージング装置(CQ1)を用い、生細胞を蛍光観察した。足場材の表裏それぞれを観察するため、足場材の端部をピンセットで把持して、反転して観察した。観察は、厚さ方向に対して10μm間隔で行い、ゼラチン不織布側及びゼラチンフィルム側から、それぞれ、厚さが0μm(表面)、100μm、200μmの箇所を観察することで、細胞の深さ方向への分布を調べた。
【0086】
図3は実施例1において、足場端部を光学顕微鏡で観察した(4倍)結果であり、(a)は細胞播種後の結果であり、(b)は3時間培養後に液体培地を添加した際の結果である。
図4は足場中の生細胞(HEK293細胞)を蛍光観察した足場の全体像であり、(a)は細胞播種後の足場の全体像であり、(b)は同中心部の拡大像であり、(c)は3時間培養後に液体培地を添加した際の足場(細胞集合体)の全体像であり、(d)は同中心部の拡大像であり、(e)は72時間培養した後の足場(細胞集合体)の全体像であり、(f)は同中心部の拡大像である。
図4の(a)、(c)及び(e)において、スケールバーは1000μmを示し、
図4の(b)、(d)及び(f)において、スケールバーは100μmを示す。
図5は実施例2において足場中の生細胞(HEK293細胞)を蛍光観察した足場の全体像であり、(a)は細胞播種後の足場の全体像であり、(b)は同中心部の拡大像であり、(c)は3時間培養後に液体培地を添加した際の足場(細胞集合体)の全体像であり、(d)は同中心部の拡大像であり、(e)は72時間培養した後の足場(細胞集合体)全体像であり、(f)は同中心部の拡大像である。
図5の(a)、(c)及び(e)において、スケールバーは1000μmを示し、
図5の(b)、(d)及び(f)において、スケールバーは100μmを示す。
図6は実施例3において足場の端部を光学顕微鏡で観察した(4倍)結果であり、(a)は細胞播種後の結果であり、(b)は3時間培養後に液体培地を添加した際の結果である。
図7は実施例3において足場中の生細胞(心筋細胞)を蛍光観察した結果であり、(a)は細胞播種後の足場の全体像であり、(b)は同中心部の拡大像であり、(c)は3時間培養後に液体培地を添加した際の足場(細胞集合体)の全体像であり、(d)は同中心部の拡大像であり、(e)は72時間培養した後の足場(細胞集合体)の全体像であり、(f)は同中心部の拡大像である。
図7の(a)、(c)及び(e)において、スケールバーは1000μmを示し、
図7の(b)、(d)及び(f)において、スケールバーは100μmを示す。
図8は実施例4において足場中の生細胞(心筋細胞)を蛍光観察した結果であり、(a)は細胞播種後の足場の全体像であり、(b)は同中心部の拡大像であり、(c)は3時間培養後に液体培地を添加した際の足場(細胞集合体)の全体像であり、(d)は同中心部の拡大像であり、(e)は72時間培養した後の足場(細胞集合体)の全体像であり、(f)は同中心部の拡大像である。
図8の(a)、(c)及び(e)において、スケールバーは1000μmを示し、
図8の(b)、(d)及び(f)において、スケールバーは100μmを示す。
【0087】
図3~8から分かるように、実施例1~4においては、細胞播種後、3時間(実施例1~2)又は4時間(実施例3~4)培養後に液体培地を添加した段階、及び72時間培養のいずれの段階においても、足場からの細胞脱落がほぼなく、播種効率が高く、培養初期から高密度で培養することが可能であった。
【0088】
図9は比較例1において足場端部の細胞の脱落の有無を光学顕微鏡で観察した(4倍)結果であり、(a)は細胞播種後の結果であり、(b)は3時間培養後に液体培地を添加した際の結果である。
図9から明らかなように、比較例1では、細胞播種直後から足場から多くの細胞が脱落しており、播種効率が低かった。
【0089】
【0090】
表2のデータから分かるように、比較例1では播種効率が62.5%であるのに対し、実施例1~2では播種効率が97.8%以上であり、播種効率が格段に向上していた。
【0091】
図10は比較例2において足場端部の細胞の脱落の有無を光学顕微鏡で観察した(4倍)結果であり、(a)は細胞播種後の結果であり、(b)は4時間培養後に液体培地を添加した際の結果である。
図10から明らかなように、比較例2では、細胞播種後から足場から多くの細胞が脱落しており、播種効率が低かった。
【0092】
【0093】
表3のデータから分かるように、比較例2では播種効率が10.5%であるのに対し、実施例3では播種効率が31.7%、実施例4では47.8%であり、播種効率が格段に向上していた。iPS由来心筋細胞は、細胞の定着率が低く、細胞接着性培養皿上で培養した場合においても、定着率が40~50%程度であり、該ゼラチン不織布及びゼラチンフィルムで構成された足場での播種効率は優れたものである。
【0094】
図11は実施例1において72時間培養した後の足場における生細胞の分布を観察した結果であり、(a)はゼラチン不織布側の表面を観察した結果であり、(b)はゼラチン不織布表面から厚さ方向に100μm離れた箇所の結果であり、(c)はゼラチン不織布表面から厚さ方向に200μm離れた箇所の結果であり、(d)はゼラチンフィルム表面から厚さ方向に200μm離れた箇所の結果であり、(e)はゼラチンフィルム表面から厚さ方向に100μm離れた箇所の結果であり、(f)はゼラチンフィルム側の表面を観察した結果である。
図11において、スケールバーは500μmを示す。
【0095】
図12は実施例2において72時間培養した後の足場における生細胞の分布を観察した写真であり、(a)はゼラチン不織布側の表面を観察した結果であり、(b)はゼラチン不織布表面から厚さ方向に100μm離れた箇所の結果であり、(c)はゼラチン不織布表面から厚さ方向に200μm離れた箇所の結果であり、(d)はゼラチンフィルム表面から厚さ方向に200μm離れた箇所の結果であり、(e)はゼラチンフィルム表面から厚さ方向に100μm離れた箇所の結果であり、(f)はゼラチンフィルム側の表面を観察した結果である。
図12において、スケールバーは500μmを示す。
【0096】
図11及び12から分かるように、実施例において、細胞は足場内部にも侵入しており3次元培養可能であった。ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維の平均繊維径が大きい(ゼラチン不織布の細孔径が大きい)実施例1の場合、ゼラチン不織布側には細胞が少なく、厚み方向に沿ってゼラチンフィルム側に行くほど細胞が多くなっていた。これに対し、ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維の平均繊維径が小さい(ゼラチン不織布の細孔径が小さい)実施例2の場合、ゼラチン不織布側には細胞がゼラチンフィルム側の細胞より多かった。
【0097】
(実施例5)
<iPS細胞由来心筋細胞を用いた化合物の評価1>
(1)心筋細胞の同期拍動の評価
実施例4と同様にして細胞播種を行い、4時間後に液体培地と添加して細胞培養を行った。培養4日目に、カルシウム指示薬(EarlyTox Cardiotoxicity Kit,Molecular Device社)を培地に対して5/100(体積比)添加し、心筋細胞内のカルシウムイオンを蛍光染色した。
横河電機社製共焦点イメージング装置(CQ1)を用い、20FPSで動画撮影した。得られた動画から、横河電機社製画像解析装置CellPathfinderを用い、呈色領域を認識させ、時間に対する蛍光強度をプロットすることで、心筋細胞におけるカルシウムイオンのシグナル波形を得た。
【0098】
図13は、培養4日目にカルシウム指示薬を添加した後の細胞集合体の細胞内のカルシウムイオンのイメージング評価結果であり、(a)は明視野画像であり、(b)はカルシウム指示薬を添加してから120分後に細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した画像であり、(c)は、(b)の時点から0.7秒後に細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した画像であり、(d)は、測定点Aと測定点Bの蛍光強度を時間に対してプロットした図である。なお、測定点Aと測定点B間の距離は3145μmである。
【0099】
図13の(b)~(d)から分かるように、ゼラチン不織布及びゼラチンフィルムで構成された足場上で培養した心筋細胞は、3mm以上離れた広範囲の領域においても、同タイミングで細胞内カルシウムイオン濃度が変化しており、同期して拍動していることが明らかである。
【0100】
(2)イソプロテレノールに対する応答性の評価
上記と同様、カルシウム指示薬を培地に対して5/100(質量比)添加し、2時間培養後、心筋細胞内のカルシウムイオンを蛍光染色観察した。観察後、心筋の拍動を早める化合物として、徐脈、房室ブロック、気管支喘息の治療に用いられるベータ刺激薬であるイソプロテレノールを100nMになるように液体培地に添加し、5分後に、心筋細胞内のカルシウムイオンを蛍光染色観察した。
【0101】
図14は、実施例5において、培養4日目において、イソプロテレノールに対する応答性を示す結果である。イソプロテレノール100nM添加により、細胞内のカルシウムイオン濃度変化が早くなり、拍動数が添加前では60bpmであるのに対し、添加後では76bpmであり、拍動数が変化していた。
【0102】
以上から分かるように、細胞集合体に目的化合物を接触させる前と、細胞集合体に目的化合物と接触した後の心筋細胞の拍動数及び/又は時間に伴う蛍光強度のピーク形状を比較することで、該化合物が心筋細胞に与える効果を判断することが可能である。
【0103】
(実施例6)
<iPS細胞由来心筋細胞を用いた化合物の評価2>
(1)心筋細胞の同期拍動の評価
細胞数を2×107cells/mLになるように懸濁して得られた細胞懸濁液を用いた以外は、実施例4と同様にして細胞播種を行い、4時間後に液体培地と添加して細胞培養を行った。培養4日目以降に、カルシウム指示薬(EarlyTox Cardiotoxicity Kit,Molecular Device社)を培地に対して5/100(体積比)添加し、心筋細胞内のカルシウムイオンを蛍光染色した。足場単位面積当たりの細胞の播種量は6250細胞/mm2である。
横河電機社製共焦点イメージング装置(CQ1)を用い、20FPSで動画撮影した。得られた動画から、横河電機社製画像解析装置CellPathfinderを用い、呈色領域を認識させ、時間に対する蛍光強度をプロットすることで、心筋細胞におけるカルシウムイオンのシグナル波形を得た。
【0104】
図15は、培養4日目におけるカルシウム指示薬を添加した後の細胞集合体の細胞内のカルシウムイオンのイメージング評価結果であり、(a)は明視野画像であり、(b)はカルシウム指示薬を添加してから120分後に細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した画像であり、(c)は、(b)の時点から0.7秒後に細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した画像であり、(d)は、測定点Aと測定点Bの蛍光強度を時間に対してプロットした図である。なお、測定点Aと測定点B間の距離は2465μmである。
【0105】
図15の(b)~(d)から分かるように、細胞集合体、すなわちゼラチン不織布及びゼラチンフィルムで構成された足場上で培養した心筋細胞は、2mm以上離れた広範囲の領域においても、同タイミングで細胞内カルシウムイオン濃度が変化しており、同期して拍動していることが明らかである。
【0106】
(2)不整脈を誘発する化合物に対する応答性の評価
上記と同様、カルシウム指示薬を培地に対して5/100(体積比)添加し、2時間培養後、心筋細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した。その後、不整脈を誘発する化合物として、遅延整流性カリウム電流(Ikr)の阻害剤であるE-4031(富士フイルム和光純薬社)を900nMになるように液体培地に添加し、添加から120分後に蛍光観察した。
【0107】
図16は、培養4日目において、E-4031による応答性を示す結果であり、(a)はE-4031を添加してから120分後の細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した画像であり、(b)は(a)の時点から0.4秒後に細胞内のカルシウムイオンを蛍光観察した画像であり、(c)は測定点Aと測定点Bの蛍光強度を時間に対してプロットした図である。
【0108】
図16(a)~(c)から分かるように、細胞集合体、すなわちゼラチン不織布及びゼラチンフィルムで構成された足場上で培養した心筋細胞にE-4031を添加すると、部位により、別々のタイミングで細胞内のカルシウムイオン濃度が変化し、同期拍動が抑制されていた。
図16(c)より、測定点Bでは、測定点Aとは拍動挙動が大きく変化し、不整脈が確認された。
【0109】
(実施例7)
<iPS細胞由来心筋細胞を用いた化合物の評価3>
(1)心筋細胞集合体の作製
足場単位面積当たりの播種量が6000細胞/mm2になるように細胞を播種した以外は、実施例6と同様にして細胞播種及び培養を行った。
(2)心筋細胞集合体の構造観察
培養3日目及び7日目に心筋細胞を含む足場(心筋細胞集合体)を回収し、16%パラホルムアルデヒドで固定後、蛍光染色を行った。細胞核をビスベンズイミドH33342フルオロクロム三塩酸塩のDMSO溶液(1mg/mL、ナカライテスク社)を用いて染色し、アクチンフィラメントをAlexa FluorTM 568 phalloidin(Invitrogen社)を用いて染色し、α―アクチニンを1次抗体としてAnti-α-Actinin (Sarcomeric) antibody(Sigma社)を用いて免疫染色し、構造観察を行った。
(3)心筋細胞集合体のカルシウムイメージングによる化合物の応答性評価
培養6日目に、細胞が多く存在する面を培養皿(IWAKI浮遊培養用マイクロプレート(表面処理なし)6Well)底面に面するように心筋細胞集合体を設置後、1日静置した。培養7日目に、カルシウム指示薬(EarlyTox Cardiotoxicity Kit,Molecular Device社)を培地に対して25/100(体積比)添加し、心筋細胞内のカルシウムイオンを蛍光染色した。
下記表4に示す化合物をそれぞれ目的の濃度まで累積投与し、カルシウムイオンの濃度変化から、化合物応答性を観察した。各濃度で化合物投与10分後に、横河電機社製共焦点イメージング装置(CQ1)を用い、20fpsで蛍光タイムラプス像を撮影した。得られた画像から、横河電機社製画像解析装置CellPathfinderを用い、10倍の視野全体の蛍光強度を、時間に対してプロットすることで、心筋細胞におけるカルシウムイオンのシグナル波形を得た。ベラパミルは、IKr阻害作用を有するCaチャネル拮抗剤である。
(4)心筋細胞集合体の収縮力の評価
上記のカルシウムイオン指示薬により、下記表4の化合物の応答性を観察した各標本において、横河電機社製共焦点イメージング装置(CQ1)を用い、20fpsで、明視野像を撮影した。得られた画像をImageJのプラグインツール MUSCLEMOTION(Sala et al, Circu. Res., 2018)を用いて、心筋細胞集合体の収縮力と収縮弛緩速度を評価した。
【0110】
【0111】
図17は、実施例7における心筋細胞集合体の蛍光染色結果である。(a)は培養3日目の細胞核及びアクチンフィラメント染色像であり、(b)は培養3日目のα―アクチニン免疫染色像であり、(c)は(b)の部分拡大像である。(d)は培養7日目の細胞核及びアクチンフィラメント染色像であり、(e)は培養7日目のα―アクチニン免疫染色像であり、(f)は(e)の部分拡大像である。
図17において、スケールバーは50μmを示す。
【0112】
図17(a)のphalloidin染色の結果から分かるように、心筋細胞集合体では、培養3日目の短期間の培養日時で、足場を構成するゼラチン繊維を覆うようにアクチンフィラメントが存在し、広範囲に連結していた。
図17(b)及び(c)のα―アクチニン免疫染色結果から分かるように、ゼラチン繊維の長さ方向に沿って、心筋細胞を構成するサルコメア構造(縞模様)が発現しており、配向していた。また、培養7日目には、同サルコメア構造がより太く発達し、ゼラチン繊維の長さ方向への配向がさらに明瞭になった。心筋細胞のサルコメア構造は、成熟した心筋細胞では1方向に配向することが知られており、心筋細胞集合体は、iPS細胞由来心筋細胞を早期に配向させ、構造的に成熟した心筋細胞を得ることができる。また同サルコメア構造内のサルコメア長は約2μmであり、成熟化した心筋のサルコメア長と同程度であることから、心筋細胞が成熟していることが分かる。
【0113】
図18は、実施例7において、各化合物に対する応答性を示すグラフである。(a)はイソプロテレノールを投与する前及び1000nMを投与した後のカルシウムイオンのシグナル波形であり、(b)は各濃度のイソプロテレノールにおける拍動数である。(c)はE-4031を投与する前及び1000nMを投与した後のカルシウムイオンのシグナル波形であり、(d)は各濃度のE-4031における拍動数である。(e)はベラパミルを投与する前及び1000nMを投与した後のカルシウムイオンのシグナル波形であり、(f)は各濃度のベラパミルにおける拍動数である。
【0114】
図18から分かるように、心筋細胞集合体は、異なる作用を有する化合物に対して異なる応答性を示した。イソプロテレノールを投与した場合、投与する前に比べて、カルシウムイオンのシグナル波形がシャープになり(a)、心拍数も早くなった(b)。E-4031を投与した場合は、投与する前に比べて、カルシウムイオンのシグナル波形が伸びており(c)、心拍数が低下し、100nM以上で不整脈が生じた(d)。ベラパミルを投与した場合は、投与する前に比べて、カルシウムイオンのシグナル波形が小さくなり(e)、また心拍数が増加した(f)。
【0115】
図19は、実施例7において、各化合物に対する応答性を示すグラフである。(a)はイソプロテレノールを投与する前及び1000nMを投与した後の収縮力を示し、(b)はイソプロテレノールを投与する前及び1000nMを投与した後の収縮弛緩速度を示す。(c)はE-4031を投与する前及び1000nMを投与した後の収縮力を示し、(d)はE-4031を投与する前及び1000nMを投与した後の収縮弛緩速度を示す。(e)はベラパミルを投与する前及び1000nMを投与した後の収縮力を示し、(f)はベラパミルを投与する前及び1000nMを投与した後の収縮弛緩速度を示す。
【0116】
図19から分かるように、心筋細胞集合体は、異なる作用を有する化合物に対して異なる収縮力変化及び収縮弛緩速度の変化を示し、化合物に対する応答性を容易に評価することができた。イソプロテレノールを投与した場合、投与する前に比べて、収縮力が増加し(a)、収縮弛緩速度も増加した(b)。E-4031を投与した場合、投与する前に比べて、収縮力が低下し(c)、収縮弛緩速度も低下した(d)。ベラパミルを投与した場合、投与する前に比べて、収縮力が低下し(e)、収縮弛緩速度も低下した(f)。β受容体刺激薬であるイソプロテレノールの添加により、収縮力が増加する(陽性変力作用が認められる)ことから、該心筋細胞集合体内の心筋細胞が成熟化していることが分かる。
【0117】
(実施例8)
<iPS細胞由来心筋細胞を用いた化合物の評価4>
(1)心筋細胞集合体の作製
足場の面積当たりの播種量が8000細胞/mm2になるように細胞を播種した以外は、実施例7と同様にして細胞播種、培養を行った。
(2)心筋細胞集合体のカルシウムイメージングによる化合物の応答性評価
カルシウム指示薬の添加前日に、細胞が多く存在する面を培養皿底面に面するように心筋細胞集合体を設置し、培養6-10日目にカルシウム指示薬を添加した以外は、実施例7と同様に心筋細胞内のカルシウムイオンを蛍光染色した。
下記表5に示す化合物(COVID-19の治療薬として使用されている。)を目的の濃度まで累積投与し、実施例7と同様に心筋細胞におけるカルシウムイオンのシグナル波形を得た。
(3)心筋細胞集合体の収縮力の評価
上記のカルシウムイオン指示薬により、下記表5の化合物の応答性を観察した各標本において、実施例7と同様に心筋集合体の収縮力を評価した。
【0118】
【0119】
図20は、実施例8において、各化合物に対する応答性(カルシムイオンのシグナル波形)を示すグラフである。(a)はアジスロマイシン、(b)はクロロキン、(c)はヒドロキシクロロキン、(d)はアジスロマイシン(3μM)とクロロキンの併用、(e)はアジスロマイシン(3μM)とヒドロキシクロロキンの併用の場合の結果を示す。
【0120】
実施例8において、上記表5の記載の化合物を用いた場合、不整脈のカルシウムイオンシグナル波形が示された標本の確率を下記表6に示した。
【0121】
【0122】
図20及び表6から、クロロキンとヒドロキシクロロキンは、不整脈のリスクが高く、一方でアジスロマイシンと、クロロキン又はヒドロキシクロロキンを併用すると不整脈のリスクが低減することが分かる。
【0123】
図21は、実施例8において、各化合物を用いた場合の応答性(収縮力)を示すグラフである。(a)はアジスロマイシン、(b)はクロロキン、(c)はヒドロキシクロロキン、(d)はアジスロマイシン(3μM)とクロロキンの併用、(e)はアジスロマイシン(3μM)とヒドロキシクロロキン併用の結果を示す。
【0124】
実施例8において、上記表5の記載の化合物の各濃度における、化合物投与前から収縮力が半減した標本の確率を下記表7に示した。
【0125】
【0126】
図21及び表7から、アジスロマイシンと、クロロキン又はヒドロキシクロロキンを併用すると、クロロキン、ヒドロキシクロロキン単独よりも低濃度で収縮力が低下し、心収縮障害が生じるリスクが高くなることが分かる。
【0127】
(実施例9)
<iPS細胞由来心筋細胞を用いた化合物の評価5>
(1)心筋細胞集合体の作製
iPS細胞由来心筋細胞としてNcardia社製のPluricyte(登録商標)を用い、足場の単位面積あたりの播種量が6000細胞/mm2になるように細胞を播種した以外は、実施例3と同様にして細胞播種及び培養を行った。
(2)心筋細胞集合体の膜電位インジケーターによる化合物の応答性評価
培養7日目に、細胞が多く存在する面を培養皿(IWAKI浮遊培養用マイクロプレート(表面処理なし)6Well)底面に面するように心筋細胞集合体を設置後、1日静置した。培養8日目に、膜電位インジケーター(FluoVolt、Invitrogen社)を培地に加え、37℃で30分間インキュベートし、心筋細胞内の膜電位を蛍光染色により測定した。
E-4031を、0,1,10,100,1000nMとなるよう培養液に累積投与し、膜電位の変化から、応答性を観察した。各濃度で化合物投与10分後に、横河電機社製共焦点イメージング装置(CQ1)を用い、20fpsで蛍光タイムラプス像を撮影した。得られた画像から、横河電機社製画像解析装置CellPathfinderを用い、x10の視野全体の蛍光強度を、時間に対してプロットすることで、心筋細胞における膜電位のシグナル波形を得た。
【0128】
図22に、実施例9における膜電位インジケーターによって観察した化合物応答性の結果を示した。
図22から明らかなとおり、膜電位インジケーターによる膜電位の変化においても、E-4031の添加により、不整脈の波形が生じており、不整脈を評価可能であった。
【0129】
以上から分かるように、細胞集合体に目的化合物を接触させる前と、細胞集合体に目的化合物と接触した後の心筋細胞におけるカルシウムイオンのシグナル波形、収縮力、膜電位のシグナル波形等を比較することで、該化合物が心筋細胞に与える影響、例えば心毒性を有するか否かを判断することが可能であることが分かる。
【0130】
上記から分かるように、本発明の1以上の実施形態において、細胞集合体は、化合物の代謝、薬理作用、毒性作用の等の各種性質の評価方法に用いることができる。
【0131】
本発明は、特に限定されないが、好ましくは以下の態様を含む。
[1] 細胞及び足場を含む細胞集合体であって、
前記足場は、ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布、及び前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層されたゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成されており、
前記細胞は、前記ゼラチン不織布の表面及び内部の少なくとも一方に存在することを特徴とする細胞集合体。
[2] 前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維は、膨潤後の平均繊維径が2μm以上400μm以下であり、繊維交点が少なくとも部分的に溶着しており、かつ前記ゼラチンフィルムは、前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維と部分的に溶着している、[1]に記載の細胞集合体。
[3] 前記ゼラチン不織布は、厚みが0.1mm以上2.0mm以下であり、目付が10g/m2以上600g/m2以下である、[1]又は[2]に記載の細胞集合体。
[4] 前記ゼラチンフィルムは、厚みが0.80μm以上3.20μm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の細胞集合体。
[5] 前記ゼラチン不織布の厚みTnと前記ゼラチンフィルムの厚みTfとの比Tf/Tnが7.5×10-3以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の細胞集合体。
[6] 前記ゼラチン不織布及びゼラチンフィルムは、熱脱水架橋されている、[1]~[5]のいずれかに記載の細胞集合体。
[7] 前記細胞は、前記ゼラチン不織布の表面及び内部の両方に存在する、[1]~[6]のいずれかに記載の細胞集合体。
[8] 前記細胞は、幹細胞、がん細胞、幹細胞由来の心筋細胞、神経細胞、肝細胞、線維芽細胞、内皮細胞及び上皮細胞、並びに生体由来の心筋細胞、神経細胞、肝細胞、線維芽細胞、内皮細胞及び上皮細胞からなる群から選ばれる1種以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の細胞集合体。
[9] 前記細胞は、成熟した心筋細胞を含み、前記成熟した心筋細胞は、幹細胞から分化した心筋細胞又は体細胞から分化した心筋細胞が成熟したものである、[1]~[8]のいずれかに記載の細胞集合体。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の細胞集合体の製造方法であって、
ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布、及び前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層されたゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成された足場と、内面が親水化処理されていない培養容器を準備する工程、
内面が乾燥状態の培養容器中に膨潤後の足場をゼラチンフィルム側が培養容器の内底面に接するように配置する工程、及び
足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下して培養する工程を含むことを特徴とする細胞集合体の製造方法。
[11] 足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下して所定時間静置した後、液体培地を添加して細胞培養を行う、[10]に記載の細胞集合体の製造方法。
[12] 前記細胞懸濁液は、幹細胞から分化した心筋細胞又は体細胞から分化した心筋細胞を含み、所定時間細胞培養することで心筋細胞を成熟させる、[10]又は[11]に記載の細胞集合体の製造方法。
[13] [1]~[9]のいずれかに記載の細胞集合体の作製キットであって、
ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布、及び前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層されたゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成された足場、及び内面が親水化処理されていない培養容器を含み、
細胞集合体の作製時に、内面が乾燥状態の培養容器中に膨潤後の足場をゼラチンフィルム側が培養容器の内底面に接するように配置し、足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下する細胞集合体の作製キット。
[14] 前記細胞懸濁液は、幹細胞から分化した心筋細胞又は体細胞から分化した心筋細胞を含み、成熟した心筋細胞の作製に用いる、[13]に記載の細胞集合体の作製キット。
[15] 化合物の性質を評価する化合物の評価方法であって、
[1]~[9]の何れかに記載の細胞集合体に化合物を接触させる工程と、
化合物と接触することで細胞集合体の生理学的特性が変更するか否かを判断する工程を含む、化合物の評価方法。
[16] 前記化合物の性質は、代謝、薬理作用及び毒性作用からなる群から選ばれる一つ以上である、[15]に記載の化合物の評価方法。
[17] 前記細胞集合体は、心筋細胞を含み、
前記判断工程は、細胞内のカルシウムイオンのイメージング、細胞内の膜電位のイメージング及び細胞集合体の収縮力評価からなる群から選ばれる一つ以上にて行う、[15]又は[16]に記載の化合物の評価方法。
【符号の説明】
【0132】
1 加温槽
2 紡糸液
3 ノズル吐出口
4、6 コンプレッサー
5 流体噴射口
7 圧力流体
8 ゼラチン繊維
9 ゼラチン不織布
10 ゼラチンフィルム
11 巻き取りロール
12 保温容器
20 製造装置