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特許7038530デバイス状態検知装置、電源システムおよび自動車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】デバイス状態検知装置、電源システムおよび自動車
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20220311BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220311BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220311BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20220311BHJP
   B60R 16/04 20060101ALI20220311BHJP
   G01R 31/3842 20190101ALI20220311BHJP
【FI】
G01R31/367
H02J7/00 Q
H02J7/00 X
H02J7/00 P
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/42 P
B60R16/04 W
G01R31/3842
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017233171
(22)【出願日】2017-12-05
(65)【公開番号】P2019100897
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 謙一
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-138128(JP,A)
【文献】特開2017-067788(JP,A)
【文献】国際公開第2009/118904(WO,A1)
【文献】特開2002-131404(JP,A)
【文献】特開2016-166857(JP,A)
【文献】国際公開第2011/155017(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/396、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
B60R 16/00-17/02、
H01M 10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された蓄電デバイスの状態を検知するデバイス状態検知装置において、
前記蓄電デバイスに流れる電流を測定する電流測定手段と、
前記蓄電デバイスの充電状態(SOC)を演算するSOC演算手段と、
前記蓄電デバイスの等価回路を模擬したモデルであって少なくとも前記電流測定手段で測定された電流および前記SOC演算手段で演算されたSOCを外生変数とし前記蓄電デバイスの端子電圧推定値Veを算出するためのデバイスモデルを実行するモデル実行手段と、
を備え、
前記モデル実行手段は、前記蓄電デバイスの増減見込み電流値Icまたは増減見込み電力値Wが前記デバイスモデルの外生変数として与えられたときの前記蓄電デバイスの端子電圧推定値Ve’を演算するものであって、
前記外生変数としての前記電流測定手段で測定された電流を該測定された電流の値Iに代えて該測定された電流の値Iに前記増減見込み電流値Icまたは前記増減見込み電力値Wから算出された増減見込み電流値Icを加えた値(I+Ic)としたときの前記端子電圧推定値Ve’を演算することを特徴とするデバイス状態検知装置。
【請求項2】
車両に搭載された蓄電デバイスの状態を検知するデバイス状態検知装置において、
前記蓄電デバイスに流れる電流を測定する電流測定手段と、
前記蓄電デバイスの充電状態(SOC)を演算するSOC演算手段と、
前記蓄電デバイスの等価回路を模擬したモデルであって少なくとも前記電流測定手段で測定された電流および前記SOC演算手段で演算されたSOCを外生変数とし前記蓄電デバイスの端子電圧推定値Veを算出するためのデバイスモデルを実行するモデル実行手段と、
前記車両に搭載された電装品の使用可否を判定する判定手段と、
を備え、
前記モデル実行手段は、前記蓄電デバイスの増減見込み電流値Icまたは増減見込み電力値Wが前記デバイスモデルの外生変数として与えられたときの前記蓄電デバイスの端子電圧推定値Ve’を演算し、
前記判定手段は、前記電装品の定格電流値を前記増減見込み電流値Icとしたときまたは前記電装品の定格電力値から算出された電流値を前記増減見込み電流値Icとしたときの前記モデル実行手段で演算された前記端子電圧推定値Ve’と、予め設定された閾値とを比較することで前記電装品の使用可否を判定することを特徴とするデバイス状態検知装置。
【請求項3】
前記デバイスモデルは、内生変数として、前記蓄電デバイスの開回路電圧Vocv、前記蓄電デバイスの直流内部抵抗による降下電圧Vdおよび前記蓄電デバイスの分極による降下電圧Vpを含み、前記端子電圧推定値VeをVe={Vocv-(Vd+Vp)}として算出するための前記蓄電デバイスの放電時の等価回路を模擬したモデルであることを特徴とする請求項1又は2に記載のデバイス状態検知装置。
【請求項4】
前記等価回路は、線形直流抵抗成分と、電流依存性を有する非線形直流抵抗成分と、電流依存性を有する抵抗成分および静電容量成分の並列接続体と、前記蓄電デバイスの開回路電圧Vocvとを含み、これらが直列接続されて構成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載のデバイス状態検知装置。
【請求項5】
前記降下電圧Vd、Vpは、前記電流測定手段で測定された電流をパラメータとして有する変数であることを特徴とする請求項3に記載のデバイス状態検知装置。
【請求項6】
前記蓄電デバイスの劣化度(SOH)を演算するSOH演算手段をさらに備え、
前記SOC演算手段は、前記SOH演算手段で演算されたSOHで前記SOCを補正することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のデバイス状態検知装置。
【請求項7】
車両に搭載された蓄電デバイスの状態を検知するデバイス状態検知装置において、
前記蓄電デバイスに流れる電流を測定する電流測定手段と、
前記蓄電デバイスの充電状態(SOC)を演算するSOC演算手段と、
前記蓄電デバイスの等価回路を模擬したモデルであって少なくとも前記電流測定手段で測定された電流および前記SOC演算手段で演算されたSOCを外生変数とし前記蓄電デバイスの端子電圧推定値Veを算出するためのデバイスモデルを実行するモデル実行手段と、
前記蓄電デバイスの電圧を測定する電圧測定手段と、
前記電圧測定手段で測定された電圧の値Vと前記モデル実行手段で演算された端子電圧推定値Veとの電圧差Dvを演算する電圧差演算手段と、
を備え、
前記デバイスモデルは、内生変数として、前記蓄電デバイスの開回路電圧Vocv、前記蓄電デバイスの直流内部抵抗による降下電圧Vdおよび前記蓄電デバイスの分極による降下電圧Vpを含み、前記端子電圧推定値VeをVe={Vocv-(Vd+Vp)}として算出するための前記蓄電デバイスの放電時の等価回路を模擬したモデルであり、
前記デバイスモデルは外生変数または内生変数として前記電圧差演算手段で演算された電圧差Dvをさらに有し、前記降下電圧Vd、Vpのうち少なくとも前記降下電圧Vdは前記電圧差Dvに依存するパラメータを含み、
前記モデル実行手段は、前記蓄電デバイスの増減見込み電流値Icまたは増減見込み電力値Wが前記デバイスモデルの外生変数として与えられたときの前記蓄電デバイスの端子電圧推定値Ve’を演算するものであって、
前記電圧測定手段で測定された電圧の値Vと前記端子電圧推定値Veとが等しくなるように前記電圧差Dvに依存するパラメータを補正することを特徴とするデバイス状態検知装置。
【請求項8】
前記蓄電デバイスの温度を測定する温度測定手段をさらに備え、
前記電流測定手段で測定された前記蓄電デバイスに流れる電流および前記電圧測定手段で測定された前記蓄電デバイスの電圧は、前記温度測定手段で測定された温度に基づいて予め定められた基準温度での電流値および電圧値に温度補正されることを特徴とする請求項7に記載のデバイス状態検知装置。
【請求項9】
前記判定手段は、前記車両がアイドリングストップ・スタート可能か否かを判定することを特徴とする請求項2に記載のデバイス状態検知装置。
【請求項10】
蓄電デバイスと、
請求項1ないし請求項のいずれか一項に記載のデバイス状態検知装置と、
を備えた電源システム。
【請求項11】
請求項1に記載の電源システムを備えた自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデバイス状態検知装置、電源システムおよび自動車に係り、特に、車両に搭載された蓄電デバイスの状態を検知するデバイス状態検知装置、該デバイス状態検知装置と蓄電デバイスとを備えた電源システムおよび該電源システムを備えた自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の移動体(車両)では、例えば普通ガソリン車に見られるように、制動時を除く走行中にオルタネータから供給された電力を鉛電池等の蓄電デバイスに充電し、蓄電デバイスをほぼ満充電状態に保っていた。近年、排ガス削減に対処するとともに燃費向上を図るため、アイドリングストップ・システム(ISS)機能を有する車両(ISS車)が普及している。
【0003】
ISS車では、車両停止時にエンジンを停止し、その間のエアコン、カーステレオなどの放電負荷への電力供給はすべて蓄電デバイスで賄い、さらに、アイドリングストップ後のエンジン再始動(アイドリングストップ・スタート)時には蓄電デバイスに蓄電された電力でスタータ(セルモータ)を駆動させてエンジンを始動する。
【0004】
このため、ISS車では、普通ガソリン車や普通ディーゼル車に比べて蓄電デバイスの放電深度(DOD)が大きくなり充電状態(SOC)が低下する傾向にある。この点は、近時徐々に増加しつつあるμHEV(ISS機能を有し、制動時にオルタネータから供給される回生電力を受け入れかつ放電負荷に放電可能な蓄電デバイスを備えたガソリン車またはディーゼル車)でも同じである。
【0005】
蓄電デバイスの端子電圧は蓄電デバイスのSOCに依存するため、エンジン停止中にSOCが低下すると、エンジンを再始動するための充分な電圧が得られなくなる。従来、蓄電デバイスをエンジン再始動が可能な状態を保つために、蓄電デバイスのSOCや端子電圧を監視し、蓄電デバイスにエンジン始動に必要な電力がある場合にはアイドリングストップを許可する一方、エンジン始動に必要な電力がない場合にはアイドリングストップを禁止するとともに必要に応じてオルタネータを作動させ蓄電デバイスを充電している。このような判断は、一般に車両側(ECU)で行われるが、電源システム(デバイス状態検知装置)はその判断の基礎となる蓄電デバイスの状態を検知する。
【0006】
車載用蓄電デバイスのデバイス状態を検知するデバイス状態検知装置に関連して、例えば特許文献1、2には、鉛電池のSOCと開回路電圧(OCV)との関係が一次式で表されることを利用してSOCを算出する技術が開示されている。また、例えば特許文献3には、鉛電池の内部抵抗を計測することによりSOCを推定する技術が開示されている。さらに、例えば特許文献4~6には、充放電休止時のOCVからSOCを算出しエンジン始動時の電圧と電流から内部抵抗や劣化度(SOH)を算出する技術が開示されている。
【0007】
また、本発明に関連して、例えば特許文献7には、蓄電デバイスの等価回路モデルのパラメータを推定するパラメータ推定装置が開示されており、例えば特許文献8には、蓄電デバイスの等価回路モデルのパラメータ精度を高めたデバイス状態検知装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平4-264371号公報
【文献】特開2009-241633号公報
【文献】特許第3687628号公報
【文献】特許第5162971号公報
【文献】特許第3188100号公報
【文献】特許第5163739号公報
【文献】特開2015-206758号公報
【文献】特開2017-3349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、一般に蓄電デバイスでは、放電電流の大きさによって放電可能な電気量が異なることが知られている。例えば、時間率が12[V]/30[Ah](5HR)の鉛電池であれば、満充電の状態から電圧が放電終止電圧となるまでに6[A]の電流を5時間かけて取り出すことができるが、放電電流がより大きな10[A]となると、比例計算値の3時間よりも短い時間しか取り出すことができず、逆に放電電流がより小さな3[A]であれば、比例計算値の10時間よりも長い時間取り出すことができる。このため、蓄電デバイスの端子電圧は放電電流の大きさによって刻々変化する。
【0010】
このような蓄電デバイスの特性はSOC、SOHや温度にも依存するため、仮に現在の蓄電デバイスの端子電圧および電装品の増加見込み電流値が分かっていても、電装品を使用したときの蓄電デバイスの端子電圧を単純な比例計算のみで正確に推測することは難しく、蓄電デバイスの端子電圧が予想よりも低下すると、電装品等の使用に支障が生じる可能性があった。
【0011】
本発明は上記事案に鑑み、蓄電デバイスの端子電圧を精度よく推定できるデバイス状態検知装置、電源システムおよび自動車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、車両に搭載された蓄電デバイスの状態を検知するデバイス状態検知装置であって、前記デバイスに流れる電流を測定する電流測定手段と、前記デバイスの充電状態(SOC)を演算するSOC演算手段と、前記デバイスの等価回路を模擬したモデルであって少なくとも前記電流測定手段で測定された電流および前記SOC演算手段で演算されたSOCを外生変数とし前記デバイスの端子電圧推定値Veを算出するためのデバイスモデルを実行するモデル実行手段と、を備え、前記モデル実行手段は、前記デバイスの増減見込み電流値Icまたは増減見込み電力値Wが前記デバイスモデルの外生変数として与えられたときの前記デバイスの端子電圧推定値Ve’を演算することを特徴とする。
【0013】
第1の態様において、デバイスモデルは、内生変数として、デバイスの開回路電圧Vocv、デバイスの直流内部抵抗による降下電圧Vdおよびデバイスの分極による降下電圧Vpを含み、端子電圧推定値VeをVe={Vocv-(Vd+Vp)}として算出するためのデバイスの放電時の等価回路を模擬したモデルであってもよい。このような等価回路は、線形直流抵抗成分と、電流依存性を有する非線形直流抵抗成分と、電流依存性を有する抵抗成分および静電容量成分の並列接続体と、デバイスの開回路電圧Vocvとを含み、これらが直列接続されて構成されていてもよい。また、降下電圧Vd、Vpは、電流測定手段で測定された電流をパラメータとして有する変数であってもよい。さらに、モデル実行手段は、外生変数としての電流測定手段で測定された電流を該測定された電流の値Iに代えて該測定された電流の値Iに増減見込み電流値Icまたは増減見込み電力値Wから算出された増減見込み電流値Icを加えた値(I+Ic)としたときの端子電圧推定値Ve’を演算するようにしてもよい。
【0014】
また、第1の態様において、高精度の端子電圧推定値Ve’を演算するために、デバイスの電圧を測定する電圧測定手段と、電圧測定手段で測定された電圧の値Vとモデル実行手段で演算された端子電圧推定値Veとの電圧差Dvを演算する電圧差演算手段と、をさらに備え、デバイスモデルは外生変数または内生変数として電圧差演算手段で演算された電圧差Dvをさらに有し、降下電圧Vd、Vpのうち少なくとも降下電圧Vdは電圧差Dvに依存するパラメータを含み、モデル実行手段は、電圧測定手段で測定された電圧の値Vと端子電圧推定値Veとが等しくなるように電圧差Dvに依存するパラメータを補正するようにしてもよい。また、デバイスの温度を測定する温度測定手段をさらに備え、電流測定手段で測定されたデバイスに流れる電流および電圧測定手段で測定されたデバイスの電圧は、温度測定手段で測定された温度に基づいて予め定められた基準温度での電流値および電圧値に温度補正されるようにしてもよい。
【0015】
さらに、第1の態様において、デバイスの劣化度(SOH)を演算するSOH演算手段を備え、SOC演算手段は、SOH演算手段で演算されたSOHでSOCを補正するようにしてもよい。または、デバイスの劣化度(SOH)を演算するSOH演算手段と、デバイスの温度を測定する温度測定手段と、をさらに備え、デバイスモデルは外生変数としてSOH演算手段で演算されたSOHと温度測定手段で測定されたデバイスの温度とをさらに有し、開回路電圧Vocvおよび降下電圧Vd、Vpうち少なくとも開回路電圧Vocvおよび降下電圧VdはSOC、温度、SOHに依存する変数とするようにしてもよい。
【0016】
さらにまた、車両に搭載された電装品の使用可否を判定する判定手段を備え、判定手段は、電装品の定格電流値を増減見込み電流値Icとしたときまたは電装品の定格電力値から算出された電流値を増減見込み電流値Icとしたときのモデル実行手段で演算された端子電圧推定値Ve’と、予め設定された閾値とを比較することで電装品の使用可否を判定するようにしてもよい。このとき、判定手段は、車両がアイドリングストップ・スタート可能か否かを判定するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、モデル実行手段により、蓄電デバイスの増減見込み電流値Icまたは増減見込み電力値Wがデバイスモデルの外生変数として与えられたときの蓄電デバイスの端子電圧推定値V’eが演算されるので、蓄電デバイスの増減見込み電流値Icまたは増減見込み電力値Wが判明している際の蓄電デバイスの端子電圧推定値V’eを精度よく演算することができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明が適用可能な第1実施形態の電源システムのブロック回路図である。
図2】第1実施形態の電源システムを構成する鉛電池の放電時の等価回路図である。
図3】第1実施形態の電源システムを構成する鉛電池の放電時の等価回路を模擬した電池モデルの説明図である。
図4】分極部を構成するキャパシタに流れる電流と容量との関係を模式的に示す説明図である。
図5】第1実施形態の電源システムを構成する制御部の機能ブロック図である。
図6】第1実施形態の電源システムを構成する制御部のMPUのCPUが実行する電装品使用可否判定処理ルーチンのフローチャートである。
図7】本発明が適用可能な第2実施形態の電源システムを構成する鉛電池の放電時の等価回路を模擬した電池モデルの説明図である。
図8】第2実施形態の電源システムを構成する制御部の機能ブロック図である。
図9】第2実施形態の電源システムを構成する制御部のMPUのCPUが実行する電装品使用可否判定処理ルーチンのフローチャートである。
図10】本発明が適用可能な第3実施形態の電源システムを構成する制御部の機能ブロック図である。
図11】第3実施形態の電源システムを構成する制御部のMPUのCPUが実行する電装品使用可否判定処理ルーチンのフローチャートである。
図12】第2実施形態の電源システムを構成する鉛電池の放電時の等価回路を模擬した電池モデルの変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.第1実施形態
以下、図面を参照して、本発明をISS車に搭載可能な14V系電源システムに適用した第1の実施の形態について説明する。
【0020】
1-1.構成
図1に示すように、本実施形態の電源システム10は、鉛電池1と電池状態検知装置8とを有して構成されている。なお、電源システム10は、電池状態検知装置8が鉛電池1の電池蓋上に配され鉛電池1と一体化しており、例えば、ISS車のエンジンルームに搭載されるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
1-1-1.鉛電池1
鉛電池1は、内部を仕切る隔壁によって6個のセル室が画定されたモノブロック電槽を有している。モノブロック電槽の側面には鉛電池1の温度を検出するサーミスタ等の温度センサ6が固着している。
【0022】
鉛電池1の各セル室には複数の正極板と負極板とをセパレータを介して積層した極板群(電極群)が1組ずつ収容されており、水系電解液である希硫酸が注液されている。鉛電池1の正極活物質には二酸化鉛、負極活物質には海綿状鉛を用いることができる。
【0023】
各セル室はモノブロック電槽の開口を一体に覆う蓋で密閉化されており、各セル室に収容された極板群は導電性の接続部材で直列に接続されている。モノブロック電槽上には、出力端子となる正極外部端子および負極外部端子が立設されている。本実施形態の鉛電池1の公称電圧は12[V](各セルの公称電圧:2[V])である。
【0024】
なお、鉛電池1はISS車に車載された状態で、正極外部端子はISS車のイグニッションスイッチ(IGN)の中央端子に接続され、負極外部端子はISS車のGND(シャーシと同電位)に接続される。
【0025】
1-1-2.電池状態検知装置8
電池状態検知装置8は、鉛電池1に流れる電流を検出する電流検出回路2、鉛電池1の端子電圧(総電圧)を検出する電圧検出回路3、鉛電池1の温度を検出する温度検出回路4および制御部7を有している。なお、電池状態検知装置8の作動電力は鉛電池1から供給される。
【0026】
(1)電流検出回路2
電流検出回路2はホール素子やシャント抵抗等の電流センサ5に接続されており、差動増幅回路を有して構成されている。電流検出回路2の出力側は制御部7の図示を省略した入力ポートを介して制御部7内に設けられた不図示のA/Dコンバータの入力側に接続されている。
【0027】
(2)電圧検出回路3
電圧検出回路3は差動増幅回路を有して構成されている。電圧検出回路3の入力側は鉛電池1の正極外部端子および負極外部端子にそれぞれ接続されており、出力側は電流検出回路2と同様に、制御部7の図示を省略した入力ポートを介して制御部7内に設けられた不図示のA/Dコンバータの入力側に接続されている。
【0028】
(3)温度検出回路4
温度検出回路4は上述した温度センサ6に接続されており、差動増幅回路を有して構成されている。温度検出回路4の出力側も電流検出回路2と同様に、制御部7の図示を省略した入力ポートを介して制御部7内に設けられた不図示のA/Dコンバータの入力側に接続されている。
【0029】
(4)制御部7
制御部7は、上述した入力ポートおよびA/Dコンバータ(3個)、マイクロプロセッシングユニット(以下、MPUという。)、EEPROMやフラッシュメモリ等の不揮発性メモリ、ISS車の制御部(以下、ECUという。)と通信するための通信ICを有して構成されている。
【0030】
MPUは、後述するように鉛電池1の電池状態を検知するとともに鉛電池1の放電時の端子電圧推定値を演算するCPU、基本制御プログラムおよびプログラムデータを記憶したROM、CPUのワークエリアとして働くとともに種々のデータを一時的に記憶するRAMおよびこれらを接続する内部バスで構成されている。
【0031】
内部バスは外部バスに接続されている。外部バスには、上述したA/Dコンバータの出力側、不揮発性メモリおよび通信ICが接続されている。通信ICはI/O(不図示)を介して通信線9に接続されている。通信線9はECUによるCAN(Controller Area Network)管理下にある。CANはISO11898、ISO11519等で標準化されており、2本の線で構成され、一方が断線した場合でも他方でECU、制御部7間の通信が可能である。
【0032】
1-2.特色
本実施形態の電源システム10(電池状態検知装置8)の特色について一言すれば、電池モデルを用いて鉛電池1の増加見込み電流値または増減見込み電力値が与えられたときの鉛電池1の端子電圧推定値を演算する点にあるが、詳しくは次のとおりである。
【0033】
1-2-1.等価回路
(1)等価回路の構造
図2は、図1に示した鉛電池1の放電時の等価回路の一例を示したものである。一般に蓄電デバイスの等価回路は、純電圧要素と、その他の内部インピーダンス要素とで構成される。なお、厳密にはインダクタ要素も存在するが、無視可能な程度となる。等価回路11は、線形直流抵抗成分と、電流依存性を有する非線形直流抵抗成分と、電流依存性を有する抵抗成分および静電容量成分の並列接続体と、鉛電池1の開回路電圧とを含み、これらが直列接続されて構成されている。
【0034】
具体的には、等価回路11では、純電圧要素として鉛電池1の開回路電圧Vocvを示し、内部インピーダンス要素として直流内部抵抗部12と分極部13とを示している。直流内部抵抗部12は、線形直流抵抗成分を表す抵抗Rd1と非線形直流抵抗成分を表す抵抗Rd2とで構成される。線形直流抵抗成分としては電極の抵抗、非線形直流抵抗成分としては液抵抗を挙げることができる。一方、分極部13は抵抗RpとキャパシタCpとの並列回路で構成されている。抵抗Rpは鉛電池1の分極抵抗成分を模擬し、キャパシタCpは分極容量成分を模擬している。
【0035】
(2)等価回路の端子電圧
時刻tにおける鉛電池1の開回路電圧をVocv(t)、時刻tにおいて等価回路11に(放電)電流I(t)が流れているときの鉛電池1の直流内部抵抗による降下電圧をVd(t)、鉛電池1の分極による降下電圧をVp(t)とすると、時刻tにおける鉛電池1の端子電圧V(t)は式(1)で表すことができる。
【数1】
【0036】
直流内部抵抗による降下電圧Vd(t)は、式(2)に示すように、時刻tにおける抵抗Rd1による降下電圧Vd1(t)と、時刻tにおける抵抗Rd2による降下電圧Vd2(t)との和として表すことができる。
【数2】
【0037】
時刻tは0以上の整数であり時刻0からの経過時刻を表す。時刻0には任意の時刻を設定可能であるが、本実施形態では後述するように鉛電池1の充放電休止時に鉛電池1の基準SOC(SOC(0))を演算するため、この基準SOCを測定したときの時刻を時刻0としている。
【0038】
図2に示す分極部12は抵抗RpとキャパシタCpとで構成された1段の並列回路であるが、背景技術欄で挙げた特許文献8のように複数段の並列回路としてもよい。なお、本実施形態では、次に述べる電池モデルを簡潔に説明し本発明が把握しやすいように、等価回路11にできるだけ単純な構造を示している。
【0039】
1-2-2.電池モデル
(1)電池モデルの構造
(1-1)内生変数Ve(t)
図3は、図2に示した等価回路11を模擬した電池モデルの一例を示したものである。一般にモデルでは、モデル内で決定されず外部から値を付与するための外生変数と、モデル内で値が決定される内生変数とを有し、外生変数間、外生変数および内生変数間、内生変数間は因果関係を示す矢印で結ばれている。図3では、内生変数をノードで示し、外生変数を角を丸めた箱で示している。
【0040】
図3に示す電池モデル15は、図2に示した鉛電池1の開回路電圧Vocv(t)に対応(模擬)して内生変数Vocv(t)、鉛電池1の直流内部抵抗による降下電圧Vd(t)に対応して内生変数Vd(t)、鉛電池1の分極による降下電圧Vp(t)に対応して内生変数Vp(t)、鉛電池1の端子電圧V(t)に対応して内生変数Ve(t)を有している。なお、内生変数Ve(t)は時刻tにおける鉛電池1の端電圧推定値を表す。従って、電池モデル15において、内生変数Ve(t)は、上述した式(1)と同様に式(3)により算出することができる。
【数3】
【0041】
(1-2)内生変数Vocv(t)
内生変数Vocv(t)[時刻tにおける鉛電池1の開回路電圧]は、外生変数SOC(t)[時刻tにおける鉛電池1の充電状態]に基づいて、背景技術欄で挙げた特許文献1、2に開示されているように充電状態(SOC)と開回路電圧との関係が予め定められたテーブルや数式を参照することで算出することができる。
【0042】
外生変数SOC(t)は例えば式(4)により算出することができる。式(4)において、sは鉛電池1の満充電容量、∫I(t-1)dtは時刻0から時刻(t-1)までの間に鉛電池1に流れた電流の積算値、SOC(0)は後述するように鉛電池1の充放電休止時に測定された基準SOCを表す。
【数4】
【0043】
(1-3)内生変数Vd(t)
内生変数Vd(t)[時刻tにおいて電流I(t)が流れているときの鉛電池1の直流内部抵抗による降下電圧]は、上述したように(式(2)参照)、時刻tにおける抵抗Rd1による降下電圧Vd1(t)と時刻tにおける抵抗Rd2による降下電圧Vd2(t)との和である。
【0044】
時刻tにおける抵抗Rd1による降下電圧Vd1(t)は、式(5)により算出することができる。なお、図3および式(5)において、内生変数Rは抵抗Rd1の抵抗値、外生変数I(t)は時刻tにおいて鉛電池1に流れる電流である。図3に示すように、外生変数I(t)[時刻tにおいて鉛電池1に流れる電流]は外生変数T(t)で基準温度値(例えば、室温値)に補正された後の値である。外生変数T(t)は時刻tにおける鉛電池1の温度を表す。内生変数Rは、外生変数SOC(t)、外生変数SOHおよび外生変数T(t)と抵抗値との関係が予め定められたテーブルや数式を参照することで得ることができる。
【数5】
【0045】
抵抗Rd2は、外生変数I(t)[時刻tにおいて鉛電池1に流れる電流]の値を変数としたバトラーボルマー式から求められる値を用いて計算される。簡単に説明すると、式(6)~式(9)に示すように、係数V、係数Iおよび係数αを用いて抵抗Rd2の抵抗値R(I)が算出される。これらの係数は、外生変数SOC(t)[時刻tにおける鉛電池1の充電状態]、外生変数SOHおよび外生変数T(t)とこれらの係数ごとに設けられたテーブルや数式を参照して設定される。図3では、このように設定された係数V、I、αおよび後述する定数yを、それぞれ内生変数V、I、α、yとして表している。なお、係数Vは抵抗Rd2の抵抗値R(I)と電流I(t)との次元を揃えるために用いられ、係数Iは電流I(t)を規格化するために用いられ、係数αはバトラーボルマー式を特定するために用いられる。
【数6】
【0046】
式(6)に示すFは、その引数(I(t)/I)をxとすると、式(7)の解、つまりバトラーボルマー式の解として表される。ここで、バトラーボルマー式は、定数yおよび係数αが与えられたときに、式(8)を満たすxを求めることで解くことができる。なお、定数yは上述した係数と同様に、外生変数SOC(t)[時刻tにおける鉛電池1の充電状態]、外生変数SOHおよび外生変数T(t)と定数yとの関係を表すテーブルや数式を参照して設定される。
【0047】
xはニュートン法で求めることができる。すなわち、式(9)においてf(x)の値が0となる(実際には十分に小さい値、例えばf(x)≦10-6となる)xの値をニュートン法で求める。なお、式(8)および式(9)のxは、式(7)のxとは異なり、式(7)のxを式(8)および式(9)ではyとし、式(7)のFを式(8)および式(9)ではxとしている。
【0048】
時刻tにおける抵抗Rd2による降下電圧Vd2(t)は、式(10)により算出することができる。従って、内生変数Vd(t)[時刻tにおいて電流I(t)が流れているときの鉛電池1の直流内部抵抗による降下電圧]は、上述した式(2)に、式(5)で算出した抵抗Rd1による降下電圧Vd1(t)と式(10)で算出した抵抗Rd2による降下電圧Vd2(t)とを代入することで得られる式(11)により求められる。
【数7】
【0049】
(1-4)内生変数Vp(t)
図2に示すように、等価回路11に流れる電流I(t)に応じて、分極部13を構成する抵抗Rpの抵抗値およびキャパシタCpの容量値の少なくとも一方を設定することができる。
【0050】
図2に示すように、抵抗Rpに流れる電流を電流I(t)、キャパシタCpに流れる電流を電流I(t)としたときに(I(t)=I(t)+I(t))、抵抗Rpの抵抗値は例えば電流I(t)の値に応じて設定してもよい。この場合、抵抗Rpの抵抗値は電流I(t)の値を引数とする関数で表される。また、抵抗Rpの抵抗値は電流I(t)および電流I(t)の合計値、つまり電流I(t)の値に応じて設定してもよい。この場合、抵抗Rpの抵抗値は電流I(t)の値を引数とする関数で表される。
【0051】
一方、キャパシタCpの容量値は電流I(t)の値に応じて設定してもよい。この場合、キャパシタCpの容量値は電流I(t)の値を引数とする関数で表される。また、キャパシタCpの容量値は電流I(t)の値に応じて設定してもよい。この場合、キャパシタCpの容量値は電流I(t)の値を引数とする関数で表される。
【0052】
抵抗Rpの抵抗値のみを上述のように電流に応じて設定してもよいし、キャパシタCpの容量値のみを上述のように設定してもよい。抵抗Rpの抵抗値のみを電流に応じて設定する場合、キャパシタCpの容量値は予め定められた値とすることができる。キャパシタCpの容量値のみを電流に応じて設定する場合、抵抗Rpの抵抗値は予め定められた値とすることができる。また、抵抗Rpの抵抗値およびキャパシタCpの容量値の両方の値を上述のように電流に応じて設定してもよい。または、抵抗Rpの抵抗値とキャパシタCpの容量値との積が予め定められた時定数τとなるように両者を設定するようにしてもよい。
【0053】
例えば、抵抗Rpの抵抗値を設定する場合には、電流I(t)の値を変数としたバトラーボルマー式から求められる値を用いて抵抗値を設定することができる。具体的には、式(12)に示すように、上述した係数V、I、αを用いて抵抗Rpの抵抗値を設定することができる。
【数8】
【0054】
式(12)の右辺は上述の式(6)の右辺と同じである。よって、先に説明したように式中のF(I(t)/I)をバトラーボルマー式を解くことによって求めることで、抵抗Rpの抵抗値を算出することができる。
【0055】
キャパシタCpの容量値を設定する場合には、例えば、電流I(t)の値を変数とした、スプライン関数、区分直線関数、電流I(t)の値に対して直線であるが正の関数、およびガウス関数などの関数を用いて容量値を設定することができる。図4は、例としてガウス関数で表されるキャパシタCpの容量値の挙動を示す。この例では、電流I(t)の値Iが0付近で容量値が最大となり、そこから、電流I(t)の値Iが減少または増加するにつれて容量値の値が小さくなる。
【0056】
内生変数Vp(t)[時刻tにおいて電流I(t)が流れているときの鉛電池1の分極による降下電圧Vp(t)]は、例えば、式(13)により算出することができる。なお、式(13)においてRpは抵抗Rpの抵抗値、CpはキャパシタCpの容量値を示す。
【数9】
【0057】
(1-5)電池モデルの要点
以上、電池モデル15の構造について説明したが、本実施形態において重要な点は、内生変数Vd(t)[時刻tにおいて電流I(t)が流れているときの鉛電池1の直流内部抵抗による降下電圧]および内生変数Vp(t)[時刻tにおいて電流I(t)が流れているときの鉛電池1の分極による降下電圧]が、パラメータとして外生変数I(t)[時刻tにおいて鉛電池1に流れる電流]を含むことである。以下、この点について説明する。
【0058】
(2)端子電圧推定値Ve’(t)
図2に示す等価回路11には時刻tにおいて電流I(t)が流れている。このときの鉛電池1の端子電圧推定値Ve(t)は式(3)により求めることができる。もっとも、図3に示す内生変数Ve(t)[時刻tにおいて電流I(t)が流れているときの鉛電池1の端子電圧推定値]は電池モデル15の一部を構成するが、本実施形態では電流I(t)が流れているときの内生変数Ve(t)自体は算出しない。本実施形態では、図3に示すように、外生変数として鉛電池1の増加見込み電流値Icが与えられたときに、外生変数I(t)[時刻tにおいて鉛電池1に流れる電流]を、電流I(t)の値に代えてI’(t)={I(t)+Ic}の値としたときの式(3)に示す内生変数Ve(t)の値、すなわち、時刻tにおいて電流I’(t)が流れているものとしたときの鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)の値を算出する。
【0059】
そのためには、式(11)および式(13)にパラメータとして含まれる外生変数I(t)の値をI’(t)={I(t)+Ic}として内生変数Vd’(t)[時刻tにおいて鉛電池1に電流I’(t)が流れているものとしたときの直流内部抵抗による降下電圧]および内生変数Vp’(t)[時刻tにおいて鉛電池1に電流I’(t)が流れているものとしたときの分極による降下電圧]を算出する。つまり、外生変数としての鉛電池1の増加見込み電流値Icに応じて電池モデル15の外生変数I(t)の値を動かして内生変数Ve’(t)の値を算出する。内生変数Ve’(t)は式(14)により算出することができる。
【数10】
【0060】
1-2-3.機能ブロック図
上記のような鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)の算出は、電池モデル15がリアルタイムで実行されて始めて電源システム10(電池状態検知装置8)の実用に供される。図5はそのための制御部7の機能ブロック図を示したものである。なお、図5は、時刻t以降の機能ブロック図を示し、時刻tより前の機能ブロック部分は捨象している。
【0061】
デバイス情報記憶部21には、時刻tより前に演算済の鉛電池1のSOC(t)およびSOHの値が格納されている。デバイス情報記憶部21は、鉛電池1のSOC(t)およびSOHの値を、モデル実行部30を構成するパラメータ設定部31およびVocv(t)演算部32に出力する。式(4)に示したSOC(0)は図示を省略した基準SOC演算部で演算され、時刻0から時刻(t-1)までの間に流れた電流の積算およびSOC(t)の演算は図示を省略したSOC演算部で行われる。また、鉛電池1のSOHはエンジン始動時に図示を省略したSOH演算部で演算される。これらの演算部の機能については後に改めて説明する(1-3-1参照)。
【0062】
電流演算部23は、ECUから通信線9を介して電力要求コマンド(Pw_Dmd)を受信すると、使用対象電装品(ECUは既知、CPUは未知)の定格電流値を上述した増加見込み電流値Icとみなして、電流I(t)の値と定格電流値Icとを加算した電流I’(t)の値を演算しモデル実行部30(パラメータ設定部31)に出力する。
【0063】
ECUのROMには各使用対象電装品の定格電流値が予め記憶されており、ECUのRAMに展開されている。ECUは鉛電池1の放電時に必要に応じて通信線9を介して電力要求コマンドを制御部7に発出する。電力要求コマンドには属性情報として使用対象電装品の定格電流値が含まれている。例えば、使用対象電装品の定格電流値が3.0[A]のときは、Pw_Dmd(3.0)を電力要求コマンドとして送信する。
【0064】
モデル実行部30は上述した電池モデル15を実行し時刻(t)において電流I’(t)が流れているものとしたときの鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)の値を判定部24に出力する。モデル実行部30は、パラメータ設定部31、Vocv(t)演算部32、Vd(t)演算部33、Vp(t)演算部34および端子電圧演算部35で構成されている。
【0065】
パラメータ設定部31は、デバイス情報記憶部21から受け取ったSOC(t)、SOH、並びに、鉛電池1の温度T(t)の値から上述した抵抗Rd1の抵抗値R、係数V、I、α、定数yを設定し、これらの設定値および電流演算部23で演算された電流I’(t)の値をVd(t)演算部33に出力するとともに、抵抗Rd1の抵抗値Rを除いた設定値および電流演算部23で演算された電流I’(t)の値をVp(t)演算部34に出力する。
【0066】
Vocv(t)演算部32は、パラメータ設定部31から受け取ったSOC(t)、SOH、並びに、鉛電池1の温度T(t)の値から時刻tにおける鉛電池1の開回路電圧Vocv(t)の値を演算し、端子電圧演算部35に出力する。Vd(t)演算部33は、パラメータ設定部31から受け取った設定値および電流I’(t)の値に基づき時刻tにおいて鉛電池1に電流I’(t)が流れているものとしたときの直流内部抵抗による降下電圧Vd’(t)の値を演算して端子電圧演算部35に出力し、Vp(t)演算部34は、パラメータ設定部31から受け取った設定値および電流I’(t)の値に基づき時刻tにおいて鉛電池1に電流I’(t)が流れているものとしたときの分極による降下電圧Vp’(t)の値を演算して端子電圧演算部35に出力する。
【0067】
端子電圧演算部35は、Vocv(t)演算部32から受け取った開回路電圧Vocv(t)の値、Vd(t)演算部33から受け取った直流内部抵抗による降下電圧Vd’(t)の値およびVp(t)演算部34から受け取った分極による降下電圧Vp’(t)の値から式(14)により鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)を演算し、判定部24に出力する。
【0068】
判定部24は、鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)と使用対象電装品が作動可能な最低電圧として予め定められた最低電圧値Vmin(例えば、8.0[V])とを比較し、端子電圧推定値Ve’(t)が最低電圧値Vminより大きいときは使用対象電装品が使用可能と判定し、端子電圧推定値Ve’(t)が最低電圧値Vmin以下のときは使用対象電装品が使用不可と判定する。
【0069】
なお、デバイス情報記憶部21、電流演算部23、パラメータ設定部31、各演算部32~35および判定部24、並びに、図3で捨象した基準SOC演算部、SOC演算部およびSOH演算部は、図1に示した制御部7のMPU(ROM、CPU、RAM)で実現される。
【0070】
1-3.動作
次に、本実施形態の電源システム10の動作について、電池状検知装置8の制御部7のMPUのCPU(以下、単にCPUという。)を主体として説明する。
【0071】
1-3-1.一般的動作
(1)基準SOC
走行後のISS車駐車開始時には、ECUはCPUにスリープ指令(省エネモードとする指令)を発出する。スリープ指令を受けたCPUは、鉛電池1の電池状態(温度、電圧、電流等)の検出を停止するとともに、所定時間ごとにECUに出力していた鉛電池1の状態情報(後述)の出力を停止して、スリープ指令を受けたときから一定時間(例えば、鉛電池1の負極の分極状態が解消したとみなされる6時間)が経過したか否かを判断する計時処理のみ行う。この状態で鉛電池1は充放電休止状態となる。
【0072】
CPUは、スリープ指令を受けたときから一定時間が経過したと判断すると、作動モードに移行(アウェーク)し鉛電池1の開回路電圧およびそのときの温度を検出する。次に、検出した鉛電池1の開回路電圧を基準温度における開回路電圧に温度補正し、プログラムデータとして予めMPUのROM(以下、単にROMという。)に格納されMPUのRAM(以下、単にRAMという。)に展開された開回路電圧とSOCとの関係を表すテーブルまたは数式を参照して鉛電池1の基準SOCの値、すなわち、式(4)の右辺第2項に示すSOC(0)の値を演算しその値をRAMに保存する(上述した基準SOC演算部の機能)。そして、CPUは、基準温度における開回路電圧および基準SOCをECUに報知して省エネモードとなる。
【0073】
このような処理は上述した一定時間ごとに繰り返される。なお、上述した一定時間が経過しない場合には、鉛電池1の分極状態が解消されず基準SOCが不正確となるため、そのような状態での開回路電圧の検出やCPUによる基準SOCの演算は行われず、直近に取得していた基準SOCを基準SOCとして取り扱う。
【0074】
(2)状態情報
鉛電池1の充放電時に、CPUは、所定時間(電圧および電流については2[ms]、温度については10[ms])ごとに、鉛電池1の電池状態を検出する。すなわち、電流検出回路2に接続されたA/Dコンバータおよび電圧検出回路3に接続されたA/Dコンバータは、鉛電池1に流れる充放電電流および鉛電池1の端子電圧をそれぞれ2[ms]ごとにサンプリングしてRAMに出力し、温度検出回路4に接続されたA/Dコンバータは10[ms]ごとにサンプリングしてRAMに出力する。従って、本実施形態では、鉛電池1に流れる充放電電流および鉛電池1の端子電圧をそれぞれ2[ms]ごとにサンプリングしているため、1時刻の間隔は2[ms]となる。
【0075】
CPUは、電流値を1時刻(2[ms])ごとに積算することで式(4)に示すSOC(t)の値を演算しRAM(図5に示すデバイス情報記憶部21)に格納する(上述したSOC演算部の機能)。また、CPUは、RAMに直近に格納された温度の値を時刻tにおける温度T(t)の値とみなし、この温度T(t)の値に応じて、RAMに格納された鉛電池1に流れる電流および鉛電池1の端子電圧の値をそれぞれ基準温度における電流値および端子電圧値に温度補正する。
【0076】
続いて、CPUは、鉛電池1の状態情報として、直近に演算した温度補正後の端子電圧値およびSOC(t)の値を所定時間(例えば、2[ms])ごとに通信ICおよび通信線9を介してECUに報知する。
【0077】
(3)SOH
CPUは、ISS車のエンジン始動時(アイドリングストップ後のエンジン再始動時を含む。)にSOHの値を演算(更新)しRAMに格納する。例えば、背景技術欄で挙げた特許文献6(請求項5、7参照)に開示されているように、鉛電池1の残容量から算出した開回路電圧をOCV、エンジン始動時の鉛電池1の最低電圧をVst、ISS車の抵抗をrとしたときに、R={r(OCV-Vst)/Vst}の式により求められる鉛電池1の内部抵抗Rと、鉛電池1のSOHとの関係を予め定めたテーブルやマップを参照してSOHを演算しRAM(図5に示すデバイス情報記憶部21)に格納する(上述したSOH演算部の機能)。なお、ISS車の抵抗rは、エンジン始動時に鉛電池1に流れる最大電流をIstとしたときに、r=(Vst/Ist)の式により求めることができる。
【0078】
1-3-2.特色的動作
次に、図6を参照して、使用対象電装品の使用可否を判定するための電装品使用可否判定処理ルーチンについて説明する。
【0079】
電装品使用可否判定処理ルーチンでは、まず、ステップ(以下、「S」と略称する。)102において、鉛電池1が放電状態にあるか否かを判断する。このような判断は、時刻tより前にRAMに格納された温度補正後の電圧値(例えば、V(t-1))を参照して判断することができる。これに代えてまたはこれとともに、時刻tより前にRAMに格納された温度補正後の電流値を参照して判断するようにしてもよい。
【0080】
否定判断のときは別処理を行って(S104)電装品使用可否判定処理ルーチンを終了する。この別処理には、例えば、上記1-3-1.(1)で説明した基準SOCの演算等が含まれる。一方、肯定判断のときは、電力供給コマンド(Pw_Dmd)を受信したか否かを判断する(S106)。S106での判断が否定のときはS102に戻り、肯定のときはS110に進む。
【0081】
S110では、SOC(t)、SOH、温度T(t)の値からルックアップテーブルを参照して抵抗Rd1の抵抗値R、係数V、I、α、定数y(以下、これらを総称してパラメータという。)を設定する。続いて、電力供給コマンド(Pw_Dmd)の属性情報を参照することで増加見込み電流値Ic(使用対象電装品の定格電流値)を取得し、(温度補正後の)電流I(t)の値に増加見込み電流値Icを加えた電流I’(t)の値を演算する(S118)。
【0082】
次に、CPUは、時刻tにおける鉛電池1の開回路電圧Vocv(t)、時刻tにおいて鉛電池1に電流I’(t)が流れているものとしたときの直流内部抵抗による降下電圧Vd’(t)および分極による降下電圧Vp’(t)を演算し(S120)、式(14)により時刻tにおいて電流I’(t)が流れているものしたときの鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)を演算する(S122)。
【0083】
続いて、端子電圧推定値Ve’(t)が予め定められた最低電圧値Vminより大きいか否かを判断し(S124)、肯定判断のときは使用対象電装品が使用可能であると判定して(S126)S130に進み、否定判断のときは使用対象電装品が使用不可であると判定して(S128)S130に進む。S130では、S126またはS128での判定結果を通信ICおよび通信線9を介してECUに報知して(電力要求コマンドに対する答えを返して)S102に戻る。この報知を受けたECUは必要に応じてオルタネータを作動させる。
【0084】
なお、本実施形態において、図2に鉛電池1の放電時の等価回路、図3にその電池モデルの例を示した理由は、図5に示す電力要求コマンド(Pw_Dmd)は鉛電池1の放電時にECUから制御部7に出力されるからである。付言すると、鉛電池1の充電時にはECUの指示でオルタネータが作動しており、電装品にはオルタネータからの電力が供給される。
【0085】
2.第2実施形態
次に、本発明をISS車に搭載可能な14V系電源システムに適用した第2の実施の形態について説明する。本実施形態は、時刻tにおける鉛電池1の端子電圧V(t)の値と、時刻tにおける鉛電池1の端子電圧推定値Ve(t)との電圧差が0となるように抵抗Rd1の抵抗値Rを補正するものである。なお、本実施形態以降の実施形態において、上述した第1実施形態と同一の構成部およびステップには同一の符号を付してその説明を省略し、以下、異なる箇所のみ説明する。
【0086】
2-1.電池モデル
図7に示すように、本実施形態の電池モデル16では、第1実施形態の電池モデル15(図3参照)に対し、内生変数Ve(t)[時刻tにおいて電流(I)が流れているときの鉛電池1の端子電圧推定値]から外生変数Dv(t)に向けて因果関係を示す矢印が付されている。本実施形態の電池モデル16では内生変数Ve(t)の値を算出する。外生変数Dv(t)は、外生変数V(t)[基準温度値に温度補正後の時刻tにおける鉛電池1の端子電圧]の値と内生変数Ve(t)との電圧差を表す。
【0087】
このため、図7では、外生変数V(t)から外生変数Dv(t)に向けて矢印が付されている。また、外生変数V(t)は基準温度における値に温度補正されるため、外生変数T(t)[時刻tにける鉛電池1の温度]から外生変数V(t)[時刻tにおける鉛電池1の端子電圧]に向けて矢印が付されている。さらに、外生変数Dv(t)の値に応じて抵抗Rd1の抵抗値Rの値を補正するため、外生変数Dv(t)から内生変数Rに向けて矢印が付されている。
【0088】
2-2.機能ブロック図
図8は、図7に示した電池モデル16を実行するための制御部7の機能ブロック図である。図8では、第1実施形態の機能ブロック図(図5参照)に対し、基準温度値に温度補正後の時刻tにおける鉛電池1の端子電圧V(t)および電圧差演算部25が付加されている。
【0089】
端子電圧演算部35は、第1実施形態とは異なり時刻tにおいて電流(I)が流れているときの鉛電池1の端子電圧推定値Ve(t)値を式(3)により演算し、その値を電圧差演算部25に出力する。電圧差演算部25は、鉛電池1の端子電圧V(t)の値と端子電圧推定値Ve(t)との電圧差Dv(t)を演算し、電圧差Dv(t)の値をパラメータ設定部31に出力する。
【0090】
パラメータ設定部31は、電圧差Dv(t)と抵抗Rd1の抵抗値Rの補正値との関係が予め定められたテーブルまたは数式を参照して抵抗値Rの値を補正し(補正後の抵抗値をRとする。)、Vd(t)演算部33に出力する。Vd(t)演算部33は、式(5)に示す抵抗値Rに代えて抵抗値Rを用いて時刻tにおいて鉛電池1に電流I’(t)が流れているものとしたときの抵抗Rd1による降下電圧Vd1の値を求め、直流内部抵抗による降下電圧Vd’(t)の値を演算する。
【0091】
2-3.電装品使用可否判定処理ルーチン
図9は、図8に対応してCPUにより実行される電装品使用可否判定処理ルーチンのフローチャートを示したものである。本実施形態の電装品使用可否判定処理ルーチンは第1実施形態の電装品使用可否判定処理ルーチンに対し、S110とS122との間の処理が異なっている。
【0092】
すなわち、第1実施形態の電装品使用可否判断処理ルーチンと同様にS110でパラメータを設定した後、S112で鉛電池1の開回路電圧Vocv(t)、時刻tにおいて鉛電池1に電流I(t)が流れているときの直流内部抵抗よる降下電圧Vd(t)、分極による降下電圧Vp(t)の値および端子電圧推定値Ve(t)を演算し、S114において電圧差Dv(t)の値を演算する。次いで、S116で電圧差Dv(t)と抵抗Rd1の抵抗値Rの補正値との関係が予め定められたルックアップテーブルを参照して抵抗値Rを抵抗値Rに補正する。
【0093】
続いて、S118において電流値I’(t)を演算し、S121で時刻tにおいて鉛電池1に電流I’(t)が流れているものとしたときの直流内部抵抗による降下電圧Vd’(t)および分極による降下電圧Vp’(t)を演算してS122に進む。なお、第1実施形態の電装品使用可否判定処理ルーチンのS120では開回路電圧Vocv(t)の値も演算しているが、本実施形態でS121において開回路電圧Vocv(t)の値を演算しない理由はS112において開回路電圧Vocv(t)の値を演算済だからである。
【0094】
3.第3実施形態
次に、本発明をISS車に搭載可能な14V系電源システムに適用した第3の実施の形態について説明する。本実施形態は、機能ブロック図の判定部24での判定内容の変形例を示すものである。
【0095】
3-1.電池モデル
本実施形態における電池モデルは第1実施形態に示した電池モデル15と同じである(図3参照)。
【0096】
3-2.機能ブロック図
図10は、図3に示した電池モデル15を実行するための制御部7の別の機能ブロック図である。第1実施形態の機能ブロック図(図5参照)に対し、電装品情報記憶部26が付加されている。なお、電装品情報記憶部26は制御部7のMPU(RAM)および不揮発性メモリに対応する(図1参照)。
【0097】
ECUのROMには各使用対象電装品を特定するためのデフォルト値、各使用対象電装品の定格電流値および鉛電池1の放電時の各使用対象電装品の電力供給優先順位(以下、これらを総称して電装品情報という。)が予め記憶されており、電装品情報はECUのRAMに展開されている。電源システム10がISS車に搭載された当初、ECUは制御部7(CPU)の要求に応じて通信線9を介して制御部7に電装品情報を送信する。制御部7は受信した電装品情報を電装品情報記憶部26(不揮発性メモリ)に記憶する。
【0098】
また、ECUは各使用対象電装品の使用開始、使用停止のたびにその情報(Acc_Info)を制御部7に報知する。このため、電装品情報記憶部26(RAM)には上述した電装品情報に加え各使用対象電装品の使用状態に関する情報(以下、使用状態情報という。)が記憶(展開)されている。
【0099】
電力供給コマンド(Pw_Dmd)の属性情報には、上述した第1実施形態とは異なり使用対象電装品を特定するためのデフォルト値が用いられる。例えば、パワーウインドにデフォルト値7が割り当てられている場合に、電力供給コマンドはPw_Dmd(7)となる。また、例えば、スタータ(セルモータ)およびエンジンポンプにそれぞれデフォルト値3、4が割り当てられており、両者について同時に電力供給コマンドを発出する際は、Pw_Dmd(3,4)となる。
【0100】
電流演算部23は、電力要求コマンド(Pw_Dmd)を受信すると、電力要求コマンドの属性情報に基づき電装品情報記憶部26に記憶された当該使用対象電装品の定格電流値を参照し(使用対象電装品が複数の場合は当該使用対象電装品の定格電流値の合計を演算して)、定格電流値を増加見込み電流値Icとみなして上述したI’(t)={I(t)+Ic}の値を演算する。また、電流演算部23は判定部24の要求に従って電装品情報記憶部26に記憶された他の使用対象電装品のうち使用中の電装品の定格電流値を参照し、当該定格電流値を減少見込み電流値ImとみなしてI’(t)={I(t)+Ic-Im}の値等も演算する。
【0101】
判定部24は、電装品情報記憶部26(RAM)に記憶された電装品情報を参照して電力要求コマンドに対する判定を行うが、その際、使用状態情報も参照して判定を行う。以下、これら電流演算部23および判定部24の機能について図11を参照して詳細を説明する。
【0102】
3-3.電装品使用可否判定処理ルーチン
図11は、図10に対応してCPUにより実行される電装品使用可否判定処理ルーチンのフローチャートを示したものである。
【0103】
CPUは、S106で肯定判断のときは、RAMに展開されているSOC(t)およびSOH、並びに、温度T(t)の値を読み出して既に説明したようにパラメータを設定する(S110)。次に、電力要求コマンドの属性情報に基づきRAMを参照して使用対象電装品の定格電流値を読み出して(S115)、電流I’(t)の値を演算する(S118)。
【0104】
次いで、開回路電圧Vocv(t)、鉛電池1に電流I’(t)が流れているものとしたときの直流内部抵抗による降下電圧Vd’(t)、分極による降下電圧Vp’(t)の値を演算する(S120)。
【0105】
次にS120で演算した値から電流I’(t)が流れているもとしたときの鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)を演算し(S122)、次のS124において演算した端子電圧推定値Ve’(t)の値が予め定められた最低電圧値Vminより大きいか否かを判断する(S124)。この判断が肯定のときはS146に進み、否定のときはRAMに展開された電装品情報および使用状態情報を参照して、電力要求コマンドの属性情報で特定された使用対象電装品より優先度(優先順位)の低い電装品を使用中か否かを判断する(S132)。
【0106】
S132において否定判断のときは、電力要求コマンドの属性情報で特定された使用対象電装品は使用不可であると判定して(S134)S148に進み、S132において肯定判断のときは、使用中の電装品のうち最も優先度の低い電装品の消費電流値ImをRAMから読み出して(S136)、当該最も優先度の低い電装品の使用を停止し電力要求コマンドの属性情報で特定された使用対象電装品を使用したものとしたときの電流I’(t)[I’(t)={I(t)+Ic-Im}]の値を演算する(S138)。
【0107】
続いて、鉛電池1にS138で演算した電流I’(t)が流れているものとしたときの直流内部抵抗による降下電圧Vd’(t)、分極による降下電圧Vp’(t)を演算し(S140)、次いで鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)を演算する(S142)。次に、鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)が最低電圧値Vmimより大きいか否かを判定する(S144)。
【0108】
S144において、肯定判断のときは電力要求コマンドの属性情報で特定された使用対象電装品は使用可能であるが、より優先度の低い電装品の使用を停止する必要があると判定して(S146)S148に進み、否定判断のときは次に優先度の低い電装品について上記と同様の判定をするためS132に戻る。なお、後者の判断の場合には、最も優先度の低い電装品の使用を停止するとの想定の上で次に優先度の低い電装品について同様の判定をする。続いてS134、S146での判定結果をECUに報知して(S148)S102に戻る。この報知を受けたECUは、車両状況に応じて使用中の一部電装品の継続使用の停止やオルタネータの作動を決定する。
【0109】
4.作用効果等
次に、上記実施形態の電源システム10(電池状態検知装置8)の作用効果等について説明する。
【0110】
4-1.作用効果
上記実施形態の電源システム10(電池状態検知装置8)の制御部7は、鉛電池1に電流I(t)が流れているときの鉛電池1の端子電圧推定値Ve(t)を、[(鉛電池1の開回路電圧Vocv(t))-{(直流内部抵抗による降下電圧Vd(t))+(分極による降下電圧Vp(t))}]の式により算出するための電池モデルを実行する。直流内部抵抗による降下電圧Vd(t)および分極による降下電圧Vp(t)はともに電流I(t)をパラメータとして含み電流依存性を有している。制御部7は、降下電圧Vd(t)、降下電圧Vp(t)中にパラメータとして含まれる電流I(t)を、電流I(t)に代えて電流I(t)に増減見込み電流値Ic(Im)を加えた電流I’(t)として、電流I’(t)が鉛電池1に流れたものとしたときの降下電圧Vd’(t)、降下電圧Vp’(t)を演算する。そして、鉛電池1に電流I’(t)が流れているものとしたときの鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)を、Ve’(t)={Vocv(t)-(Vd’(t)+Vp’(t)}の式により演算する。このため、上記実施形態の電源システム10(電池状態検知装置8)によれば、増減見込み電流値Icが与えられたときに、降下電圧Vd(t)、降下電圧Vp(t)中にパラメータとして含まれる電流I(t)の値を変更して鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)を演算するので、鉛電池1の増減見込み電流値Icが判明している際の鉛電池1の端子電圧推定値V’eを精度よく演算することができる。
【0111】
また、上記実施形態の電源システム10(電池状態検知装置8)の制御部7は、使用対象電装品の定格電流値を増減見込み電流値Icとみなして鉛電池1の端子電圧推定値V’e(t)を演算し(図6のS122参照)、演算した端子電圧推定値V’e(t)と使用対象電装品が作動可能な最低電圧値Vmimとを比較して(S124)使用対象電装品の使用可否の判定をする(S126、S128)。上記実施形態の電源システム10(電池状態検知装置8)によれば、上記のとおり鉛電池1の端子電圧推定値V’eを精度よく演算することができるため、使用対象電装品の使用可否を正確に判定することできる。従って、例えば、ISS車やμHEVのアイドリングストップの前後またはストップ中に、エンジン再始動が可能か否かを正確に判定することができる。
【0112】
さらに、上記第2実施形態の電源システム10(電池状態検知装置8)の制御部7は、実測した鉛電池1の端子電圧を基準温度で温度補正した端子電圧V(t)の値と電流I(t)が流れているときの鉛電池1の端子電圧推定値Ve(t)との電圧差Dv(t)を演算し、この電圧差Dv(t)の値が0となるように(鉛電池1の端子電圧V(t)の値と端子電圧推定値Ve(t)とが等しくなるように)抵抗Rd1の抵抗値Rを補正した後に、電流I’(t)が流れているものとしたときの鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)を演算する。このため、第2実施形態の電源システム10(電池状態検知装置8)によれば、鉛電池1の増減見込み電流値Icが判明している際の鉛電池1の端子電圧推定値V’eを高精度で演算することができる。
【0113】
また、上記第3実施形態の電源システム10(電池状態検知装置8)の制御部7では、RAM(電装品情報記憶部26)に電装品情報および使用状態情報が展開されており、ECUから属性情報として使用対象電装品のデフォルト値を含む電力要求コマンド(Pw_Dmd)を受信した際に、優先度の低い使用中の電装品の使用を停止することを条件に使用対象電装品が使用可能か否かを判定し、その結果をECUに報知する。このため、第3実施形態の電源システム10(電池状態検知装置8)によれば、ECUは制御部7の判定結果に従って優先度の低い使用中の電装品の使用を停止するか、オルタネータを作動させるか等の決定を適正に行うことができる。さらに、電力要求コマンドの属性情報に複数のデフォルト値を含めることができるため、例えばエンジン始動時のように複数の電装品を同時に作動させる必要がある場合に、使用対象電装品ごとに逐一使用可能か否かを制御部7に問い合わせる(電力要求コマンドを発出する)必要もなくなる。
【0114】
4-2.変形例
なお、上記実施形態では、蓄電デバイスに鉛電池1を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、鉛電池1に代えて、ニッケル水素電池、ニッケル亜鉛電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ等を用いるようにしてもよい。
【0115】
また、上記実施形態では、外生変数として鉛電池1の増減見込み電流値Ic(Im)が与えられたときの鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)の値を演算する例を示したが、本発明はこれに限るものではない。外生変数として鉛電池1の鉛電池1の増減見込み電力値Wが与えられたときの鉛電池1の端子電圧推定値Ve’(t)の値を演算するようにしてもよい。
【0116】
このような態様では、外生変数の増減見込み電力値Wから鉛電池1の増減見込み電流値Icを算出すればよく、例えば図3の電池モデル15では、外生変数の増減見込み電力値Wから外生変数の増減見込み電流値Icに向けて因果関係を示す矢印が付加される。外生変数の増減見込み電力値Wから鉛電池1の増減見込み電流値Icを得るには、例えば、増減見込み電力値Wを鉛電池1の公称電圧値(12[V])で割ることにより得られる電流値を増減見込み電流値Icとしたり、増減見込み電力値Wを実測した電圧値V(t)で割ることにより得られる電流値を増減見込み電流値Icとしたりしてもよい。このような演算は例えば図5に示す電流演算部23で行われ、CPUにより例えば図6のS118で実行される。
【0117】
また、上記第3実施形態では、電装品情報として、各使用対象電装品を特定するためのデフォルト値、各使用対象電装品の定格電流値および鉛電池1の放電時の各使用対象電装品の電力供給優先順位を例示したが、各使用対象電装品の定格電流値に代えて各使用対象電装品の定格電力値を用いるようにしてもよい。このような態様では、各使用対象電装品の定格電力値を例えば鉛電池1の公称電圧値(12[V])で割ることにより得られる電流値を各使用対象電装品の定格電流値として不揮発性メモリに格納すればよい。
【0118】
さらに、上記実施形態では、SOC(t)、SOH、温度T(t)の値からルックアップテーブルを参照してパラメータを設定する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、SOC(t)の値からパラメータを設定したり、SOC(t)をSOHや温度で補正して補正後のSOC(t)からパラメータを設定したりするようにしてもよい。
【0119】
また、上記実施形態では、鉛電池1の放電時の等価回路やその電池モデルを例示したが、本発明はこれに限るものではなく、鉛電池1の充電時や休止時を含む等価回路に対応した電池モデルを用いるようにしてもよい。その場合には、上述した式(1)を、V(t)={Vocv(t)+Vd(t)+Vp(t)}とし、鉛電池1の状態に応じて符号を変えればよい。
【0120】
さらに、上記実施形態では、発明の把握を容易にするために、直流内部抵抗による降下電圧Vd(t)や分極による降下電圧Vp(t)を演算するためのパラメータや内生変数の数をできるだけ少なくした例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、パラメータや内生変数は、鉛電池1の端子電圧推定値Ve(t)が鉛電池1の端子電圧V(t)をある程度広い(電池状態)範囲で精度よく模擬できるものであればよい。また、電流I(t)とSOCとを含めば、例えば電池モデルの精度を高めるために他の外生変数を含むようにしてもよい。
【0121】
また、上記第2実施形態では、Dv(t)を外生変数とした例を示したが、図12に示す電池モデル17のように内生変数とするようにしてもよい。さらに、第2実施形態では、発明の把握を容易にするために、直流内部抵抗を構成する抵抗Rd1、Rd2のうち抵抗Rd1の抵抗値Rを補正(抵抗Rd1による降下電圧Vd(t)を補正)する例を示したが、これに代えてまたはこれとともに、抵抗Rd2の抵抗値を決定するパラメータを補正(抵抗Rd2による降下電圧Vd(t)を補正)したり、抵抗Vp(t)の抵抗値やキャパシタCp(t)の容量値を決定するパラメータを補正(分極による電圧降下Vp(t)を補正)したりするようにしてもよい。
【0122】
さらにまた、上記第3実施形態では、最低電圧値Vmin(閾値)を使用対象電装品に対し一律に設定した例を示したが、本発明はこれに制約されることなく、使用対象電装品ごとに設定するようにしてもよい。例えば、電装品のうちエンジン始動に直接関連する電装品については他の電装品とは別に設定するようにしてもよく、複数の使用対象電装品が同時に使用される場合にはそれらの電装品のうち作動可能な最低電圧が最も大きいものを最低電圧値Vminとするようにしてもよい。
【0123】
さらに、上記実施形態では、電源システム10(電池状態検知装置8)を構成する各回路のサンプリングレート等の具体的数値を例示したが、本発明はこれに制限されるものではない。そして、上記実施形態では14V系電源システム10を例示したが、本発明はこれに制約されることなく、例えば、42V系電源システム等の14V系電源システム以外の電源システム(電池状態検知装置)にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は蓄電デバイスの端子電圧を精度よく推測できるデバイス状態検知装置、電源システムおよび自動車を提供するものであるため、デバイス状態検知装置、電源システムや自動車の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0125】
1 鉛電池(蓄電デバイス)
2 電流検出回路(電流測定手段の一部)
3 電圧検出回路(電圧測定手段の一部)
4 温度検出回路(温度測定手段の一部)
5 電流センサ(電流測定手段の一部)
6 温度センサ(温度測定手段の一部)
7 制御部(電流測定手段の一部、電圧測定手段の一部、温度測定手段の一部、SOC演算手段、SOH演算手段、モデル実行手段、判定手段、電圧差演算手段)
8 電池状態検知装置(デバイス状態検知装置)
10 電源システム
15~17 電池モデル(デバイスモデル)
24 判定部
25 電圧差演算部
30 モデル実行部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12