(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】卵麹の製造方法及び卵麹
(51)【国際特許分類】
C12P 1/02 20060101AFI20220311BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20220311BHJP
A23L 15/00 20160101ALI20220311BHJP
A23B 5/00 20060101ALI20220311BHJP
A23B 5/02 20060101ALN20220311BHJP
【FI】
C12P1/02 Z
C12N1/14 B
C12N1/14 C
A23L15/00 Z
A23B5/00 Z
A23B5/02
(21)【出願番号】P 2018022858
(22)【出願日】2018-02-13
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514178532
【氏名又は名称】株式会社 樋口松之助商店
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】宮本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】稲見 翔子
(72)【発明者】
【氏名】仲沢 萌美
(72)【発明者】
【氏名】山下 秀行
(72)【発明者】
【氏名】中川 拓郎
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-007238(JP,B1)
【文献】今井忠平ら,加工卵・液卵,鶏病研究会報,1993年,28(4),177-189
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分含量が20質量%以上40質量%以下となるように粉末卵が水を含んだ状態の基質に
、前記基質1gあたり0.1~5×10
6
CFUの麹菌
の胞子を接種する工程と、
前記基質で前記麹菌を培養する工程と、を含む
卵麹の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の卵麹の製造方法であって、
前記粉末卵は、卵黄を含む
卵麹の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の卵麹の製造方法であって、
前記粉末卵の卵タンパク質が、加熱変性したものである
卵麹の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の卵麹の製造方法であって、
前記卵麹のpHが、5.0以上9.0以下である
卵麹の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の卵麹の製造方法であって、
前記卵麹のプロテアーゼ活性(pH=6)が500U/g以上であり、
α-アミラーゼ活性が1000U/g
未満である
卵麹の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の卵麹の製造方法であって、
前記麹菌を接種する工程の前に、さらに前記基質を蒸煮殺菌する工程を含む
卵麹の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の卵麹の製造方法であって、
前記麹菌を接種する工程の前に、前記粉末卵に散水して吸水させる工程を含む
卵麹の製造方法。
【請求項8】
プロテアーゼ活性(pH=6)が500U/g以上であり、
α-アミラーゼ活性が1000U/g
未満である
卵麹。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵麹の製造方法及び卵麹に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微生物を利用して製造された発酵食品が注目されている。発酵食品では、微生物の作用により旨味や風味が増すとともに、栄養価が高まる。このため、発酵食品は深い味わいを有するのみならず、美容や健康にもよいとされる。
【0003】
味噌、醤油、日本酒、焼酎等の日本の伝統的な発酵食品には、麹が用いられている。
麹は、種麹と呼ばれる麹菌の分生子を、水分を加えて蒸した大豆、麦、米などの穀物(基質)に接種して培養したものである。麹は、菌が穀物上で増殖する時に基質や培養環境に応じた種々の酵素活性を示す(非特許文献1参照)。この麹を米や大豆等の原料と混合することで、麹中に産生されたプロテアーゼやアミラーゼ等の酵素が原料に作用し、味噌、醤油、日本酒、焼酎等の発酵食品が製造される。例えば、特許文献1には、ビタミンB2類の生産性及び中性プロテアーゼ活性が高い麹菌を種麹として用いた麹、及びそれを用いて製造した味噌が記載されており、麹菌の多様性がうかがえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「種麹・麹とは」、[online]、株式会社 樋口松之助商店、[平成29年10月1日検索]、インターネット〈URL:http://www.higuchi-m.co.jp/koji/index.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、卵は、その優れた栄養価に加え、特有のまろやかな風味や旨味を有しているため、多様な料理や加工食品に利用されている。このように、卵はタンパク質や脂質をはじめとする優れた成分を有しているが、そのまま摂取されることが多いため、酵素分解による呈味の増強などが期待される。しかしながら、麹菌を用いて卵を原料とした加工食品を製造しようとした場合、既存の麹は穀物を基質として製麹されることが多いため、卵を原料とした加工食品の製造に適しているとは言えなかった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、卵を原料とした加工食品の製造に適した卵麹の製造方法及び卵麹を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、基質の物性や製麹条件を詳細に検討して製麹方法について鋭意研究を重ねた結果、粉末卵に所定量の水を混合した基質を用いて麹菌を培養することで、卵を原料とした加工食品の製造に適した卵麹を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)水分含量が20質量%以上40質量%以下となるように粉末卵が水を含んだ状態の基質に麹菌を接種する工程と、
前記基質で前記麹菌を培養する工程と、を含む
卵麹の製造方法。
(2)(1)に記載の卵麹の製造方法であって、
前記粉末卵は、卵黄を含む
卵麹の製造方法。
(3)(1)又は(2)に記載の卵麹の製造方法であって、
前記粉末卵の卵タンパク質が、加熱変性したものである
卵麹の製造方法。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の卵麹の製造方法であって、
前記卵麹のpHが、5.0以上9.0以下である
卵麹の製造方法。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の卵麹の製造方法であって、
前記卵麹のプロテアーゼ活性(pH=6)が500U/g以上であり、
α-アミラーゼ活性が1000U/g以下である
卵麹の製造方法。
(6)(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の卵麹の製造方法であって、
前記麹菌を接種する工程の前に、さらに前記基質を蒸煮殺菌する工程を含む
卵麹の製造方法。
(7)(1)乃至(6)のいずれか1項に記載の卵麹の製造方法であって、
前記麹菌を接種する工程の前に、前記粉末卵に散水して吸水させる工程を含む
卵麹の製造方法。
(8)プロテアーゼ活性(pH=6)が500U/g以上であり、
α-アミラーゼ活性が1000U/g以下である
卵麹、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、卵を原料とした加工食品の製造に適した卵麹の製造方法及び卵麹を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0012】
<卵麹>
本発明の卵麹とは、粉末卵が水を含んだ状態の基質に麹菌を接種、培養したものをいう。本発明の卵麹は、後述するように、卵タンパク質の分解に適した酵素活性パターンを有し、例えばpH6におけるプロテアーゼ活性が500U/g以上であり、α-アミラーゼ活性が1000U/g以下である。このため、当該卵麹は卵タンパク質を効率よく分解でき、卵を原料とする加工食品の製造に適している。
【0013】
<卵麹の製造方法>
本発明の卵麹の製造方法は、基質に麹菌を接種する工程と、基質で麹菌を培養する工程と、を含む。また、麹菌接種工程の前に、基質を調製する工程と、基質を蒸煮殺菌する工程と、を含んでいてもよい。
【0014】
<基質調製工程/基質>
まず、粉末卵に散水して吸水させることで、基質を調製する。
本発明の基質とは、麹菌を接種して増殖させるための培地をいい、粉末卵と、所定量の水分を含む。
本発明の吸水とは、粉末卵に所定量の水を散水し混合することで、基質を湿った粉末状にすることをいう。湿った粉末状とは、好ましくは粉末卵と水分とが均一に混合されている状態であるが、麹菌が培養できる程度に不均一でもよく、例えば一部に粉末卵が凝集した小さな塊を含んでいてもよい。
なお、粉末卵自体が所定量の水を保持している場合は、当該水の量に応じて、散水して吸水させてもよいし、しなくてもよい。
本発明の基質は、粉末卵が麹菌の主な栄養源となればよく、粉末卵の含有量を超えない範囲で炭水化物源及びタンパク質源を含んでいてもよい。具体的には基質中の粉末卵のタンパク質源100部に対し、粉末卵以外の基質中の炭水化物源及びタンパク質源の合計が100部以下であるとよく、さらに50部以下であるとよく、さらに10部以下であるとよく、さらに1部以下であるとよい。特に、本発明の基質は、実質的に粉末卵と水のみからなるものであるとよりよい。これにより、卵タンパク質の分解に特化した卵麹を製造することができる。なお、「実質的に粉末卵と水のみを含む」とは、粉末卵と水のみを含むこと、あるいは粉末卵と水に加えて、炭水化物源やタンパク質源とならない下記の添加剤等を含むことをいう。
一般に、炭水化物源及びタンパク質源として卵のみを用いて麹の培養に適した基質を調製することは、基質の物性や雑菌の増殖しやすさの観点から難しい。本発明では、粉末卵を用いることで、麹の培養に適した基質を容易に調製することができる。
なお、本発明の効果を失わない範囲で、基質にpH調整剤、安定化剤等の添加剤が含まれていてもよい。例えば、pH調整剤を用いることにより、基質を弱酸性や弱塩基性に調整して静菌効果を高めることができる。
【0015】
<粉末卵>
本発明の粉末卵とは、卵を原料とする粉状物をいう。粉末卵の平均粒子径は特に限定されないが、例えば1~1000μm程度であればよい。
粉末卵は、液卵に比べ、水分含量が非常に低いため、散水したときに水分を吸収し保持することができる。さらに、粉末卵は液卵に比べ、比表面積が大きく、散水したときの吸水性をより高めることができる。このため、水分含量を調整しやすくなり、麹菌の培養に適した環境が得られやすくなる。
【0016】
<粉末卵に用いられる卵>
本発明の粉末卵に用いられる卵としては、典型的には鶏卵を用いることができ、例えば、殻付卵を割卵し卵殻を取り除いて得られた液全卵、液卵黄及び液卵白、並びに後述する加熱変性した卵を用いることができる。また、本発明の卵として、上記卵に対して攪拌処理、ストレーナー等によるろ過処理、湯浴や蒸気等による加熱殺菌処理、冷凍処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、脱糖処理、加塩処理等を施したものを用いてもよい。さらに、上記の卵を2種以上組み合せて用いてもよい。
卵は、タンパク質を多く含む一方で、炭水化物はごくわずかしか含まれない。したがって、本発明の基質は、炭水加物源をほぼ含まず、タンパク質源として卵に含まれるタンパク質を豊富に含むものとなる。
なお、以下の説明において、卵に含まれるタンパク質を「卵タンパク質」と称する。
【0017】
<粉末卵における粉末化処理>
本発明における粉末化処理とは、上記卵を乾燥処理して粉状物を製する処理をいう。
乾燥処理としては、例えば、噴霧乾燥、マイクロ波乾燥、凍結乾燥、熱風乾燥、パンドライ等が挙げられる。
また、乾燥処理の前後に、凍結粉砕装置、スコロイダー、シャーポンプ、コミットロール等の粉砕処理装置を用いて卵を粉砕処理してもよい。さらに、より小さい粒径の粉末卵を得る点から、粉砕処理物に加水し、水に分散させた状態で噴霧乾燥してもよい。
得られた粉末卵は、常温、冷蔵又は冷凍で保管された後、基質として用いられてもよい。
【0018】
<卵黄を含む粉末卵>
本発明において粉末卵は、卵黄を含むことが好ましい。卵黄を含む粉末卵とは、例えば、液全卵を粉末化処理したもの、鶏卵を割卵して分離した液卵黄と液卵白とを液全卵と同程度の割合で混合し、粉末化処理したもの、液卵白と分離して得られた液卵黄を粉末化処理したもの、並びに加熱凝固させた液全卵又は卵黄を粉末化処理したものが挙げられる。卵黄を含む粉末卵を用いることで、粉末卵の吸水性が高まり、麹菌の培養に適した環境がより得られやすくなる。
また、液卵黄と液卵白とを液全卵と同程度の割合で混合し粉末化処理する場合は、例えば、生換算で液卵黄1部に対し液卵白が1~3部程度の質量比率となるように混合するとよい。特に、上記質量比率は、生換算で液卵黄1部に対し液卵白1部以上2部未満であるとよく、さらに1部程度であるとよい。これにより、粉末卵の吸水性が高まり、麹菌の培養に適した環境がより得られやすくなる。
【0019】
<卵タンパク質が加熱変性した粉末卵>
本発明の粉末卵は、卵タンパク質が加熱変性したものでもよい。このような粉末卵として、具体的には、加熱凝固卵を粉末化処理したもの、液卵を粉末化処理した粉状物をさらに加熱処理したもの等が挙げられ、一般的な噴霧乾燥等で粉末化処理した粉末卵とは異なる。
加熱凝固卵とは、液全卵、液卵黄又は液卵白を加熱処理することにより卵タンパク質を凝固させたものをいう。当該加熱凝固卵は、例えば、割卵して得られた液全卵あるいは、液卵黄及び液卵白を別々に耐熱性パウチ等に詰めて、80~100℃で20~60分間加熱処理することで得られる。あるいは、殻付卵を85℃~100℃で5~20分間加熱し、凝固させてもよい。加熱処理方法としては、ボイル加熱やマイクロ波加熱、蒸気加熱等を適宜用いることができる。当該加熱凝固卵に対して粉末化処理を行うことで、本発明の粉末卵を得ることができる。
また、液卵を粉末化処理した粉状物とは、液全卵、液卵黄又は液卵白を粉末化処理したものをいう。このような液卵の粉状物に対して、蒸気、オーブン、マイクロ波等により、80~120℃で2秒~5分間さらに加熱処理することで、卵タンパク質を加熱変性させることができる。
【0020】
<基質の水分含量>
本発明の基質の水分含量は、20%以上40%以下であり、さらに25%以上35%以下であるとよい。
水分含量が20%以上であることで、水分を十分に含み麹菌の培養に適した環境が得られるとともに、粉末卵を基質全体に分散させることができる。水分含量が40%以内であることで、粉末卵から水分が過剰に分離するのを防ぐことができ、雑菌の増殖を抑えることができる。
【0021】
<蒸煮殺菌工程>
上記基質は、麹菌を接種する前に、蒸煮殺菌されてもよい。本発明の蒸煮殺菌工程とは、雑菌の増殖を抑えるために、基質を蒸気で加熱する工程をいう。蒸煮殺菌工程により基質に水分が保持され、上記範囲の水分が基質内部まで均一に移行しやすく、麹菌を培養しやすい環境が得られやすい。また、製麹中の細菌汚染の原因となる初発細菌数を大幅に低減することができ、培養後の麹中の細菌数も抑制することができる。
本工程では、常圧条件下で基質を蒸煮処理することができる。ここでいう「常圧」とは、約1気圧をいう。これにより、卵麹を用いて製造された加工食品の旨味をより高めることができる。あるいはこれに限定されず、基質を高圧条件下でオートクレーブ加熱等して殺菌してもよい。
本工程の蒸煮殺菌は、例えば70℃以上100℃未満の蒸気で、数十分間行うことができる。なお、蒸煮殺菌中は、基質の均一性を高めるために、基質を攪拌するとよい。
蒸煮殺菌工程が行われた場合は、麹菌を接種する前に、麹菌の生育が妨げられない程度まで基質を十分冷却する。
【0022】
<麹菌接種工程>
上記基質には、麹菌が接種される。麹菌の接種方法は限定されず、常法により基質全体に万遍なく接種される。
種麹の接種量は、基質1gあたり0.1~5×106CFUであるとよく、特に、基質1gあたり1~5×106CFUであるとよい。
一般に、湿った粉末の基質を用いる場合には、穀物粒と比較して表面積が大きいことから、雑菌汚染を受け易い。また、卵を基質とする場合、特に栄養源が豊富であるため、製麹中は急激な雑菌汚染が進む。このため、種麹の接種量を、基質1gあたり0.1~5×106CFU、さらに米麹や麦麹の場合より約3~10倍多い、基質1gあたり1~5×106CFUとすることにより、初期の細菌汚染を抑制することが可能であると同時に、麹菌の増殖も旺盛となり、麹の品質も安定する。
【0023】
<麹菌>
本発明の麹菌とは、卵麹を製造するための接種菌をいい、典型的にはアスペルギルス属に分類される菌をいう。具体的には、本発明の麹菌として、例えば、アスペルギルス・オリーゼ(Aspergillus
oryzae)やアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus
sojae)等に代表される黄麹菌、アスペルギルス・リューチュウエンシス(Aspergillus
luchuensis)等に代表される黒麹菌及びその変異種などが挙げられる。このうち、アスペルギルス・オリーゼは、例えば味噌の製造に用いられ、アスペルギルス・リューチュウエンシスは、例えば焼酎の製造に用いられる。
【0024】
<麹菌培養工程>
上記基質で上記麹菌を培養することで、卵麹が得られる。
本発明の麹菌を培養する条件は、特に制限されず、常法に従うことができる。
培養温度は、麹菌が培養しやすいことから、15℃以上45℃以下であるとよく、さらに22℃以上38℃以下であるとよい。
培養期間は、効率的に培養しやすいことから、20~72時間であるとよく、さらに30~50時間であるとよい。上記範囲の培養時間により、麹菌は卵タンパク質の分解に適した酵素活性を有する酵素を十分に産生できる。培養方法としては、例えば、静置培養、撹拌培養、通気培養が挙げられる。
【0025】
<卵麹の酵素活性>
本発明の方法により製造される卵麹では、卵を原料とした加工食品の製造に適した卵麹が得られやすいことから、pH6におけるプロテアーゼ活性が500U/g以上、α-アミラーゼ活性が1000U/g以下であるとよい。さらに、卵のタンパク質を効率よく分解し呈味性の高い卵加工品が得られやすいことから、pH6におけるプロテアーゼ活性は1,000U/g以上であるとよく、3,000U/g以上であるとよい。また、本発明の卵麹のα-アミラーゼ活性は、通常の米麹(1,000U/g~2,000U/g程度)よりも低い値であるとよい。
つまり、本発明の方法により製造される卵麹では、卵タンパク質を分解するプロテアーゼの活性が高く、デンプンなどの炭水化物源を分解するα-アミラーゼの活性が低い。このため、タンパク質を豊富に含み炭水化物をほとんど含まない卵を原料とする加工食品の製造に適したものとなる。また、当該加工食品の製造に際しα-アミラーゼの影響を低減させることができ、炭水化物の分解を抑制したい場合にも、α―アミラーゼを除去したり不活化したりする工程を省くことができる。
ここで、卵のpHがおおよそ7.8であり、特に卵黄のpHがおおよそ6.2~6.6である。本発明の卵麹は、卵のpHに近いpH6において、高いプロテアーゼ活性を示すため、卵タンパク質をより効率よく分解することができる。
【0026】
<卵麹のpH>
本発明の卵麹のpHは、5.0以上9.0以下であるとよく、5.0以上7.0以下であるとよい。pHが5.0以上9.0以下であることにより、麹菌により産生された酵素の至適pHに近いため、加工食品の製造においてもpHの調整が不要となり、pH調整用の添加物を不要とすることができる。
本発明の卵麹のpHの測定方法は、卵麹10gにイオン交換水90mLを加えて、溶液が均一になるよう攪拌した後に、卵麹のpHを測定する。
【0027】
<本発明の作用効果>
以上のように、本発明の卵麹の製造方法では、粉末卵を含む基質に麹菌を接種する。粉末卵は、液卵に比べ、乾燥しており水分含量が少ないとともに、比表面積が大きい。このため、粉末卵では吸水性及び保水性が良好となり、水分含量を20質量%以上40質量%以下に調整することができる。これにより、以下のような利点が挙げられる。
まず、粉末卵を基質全体に分散させ、基質を湿った粉末状に調製することができる。すなわち、粉末卵が水分を保持して適度に分散し、麹菌を基質全体に万遍なく接種することができる。
また、適切な水分含量に調整することで雑菌が繁殖するのを抑えることができる。具体的には、製造後の卵麹の一般生菌数を1×105CFU/g以下とすることができ、一般的な米麹と同等とすることが可能である。この程度まで雑菌の増殖が抑制されることで、本発明の卵麹を加工食品の製造に用いた際に、食品への汚染リスクが低減される。
なお、一般生菌数とは、食品衛生検査指針(2007年)に基づき、卵麹から採取した試料液を30℃で48時間培養したときの菌数をいう。具体的には、まず卵麹を1g採取し、100mLの界面活性剤(第一工業製薬(株)製、ノイゲン(r)EA-160)を添加した0.8%食塩水中で懸濁する。この懸濁液1mlを用いて混釈法により寒天プレートを作成し、約30℃で48時間培養後、出現したコロニー数をカウントすることで、一般生菌数が求められる。
さらに、粉末卵以外の炭水化物源などを加える必要がなくなる。炭水化物源であるコムギやイネ等は、適度に吸水して基質の性状を整えることができるため、製麹においては基質によく加えられる。一方で、本発明においては、粉末卵を用いて基質の物性を工夫することで、卵以外の原料を使用しなくても均一で旺盛な麹菌の増殖が可能となる。したがって、本発明の卵麹は、卵タンパク質を分解するのに適したプロテアーゼの活性を高められるとともに、デンプンを分解するアミラーゼの活性を抑え、卵を原料とする加工食品の製造に適したものとなる。
【0028】
以下、本発明の実施例等に基づき、さらに説明する。
【実施例】
【0029】
[卵麹の製造]
(サンプル1)
実施例として、サンプル1の卵麹を製した。
サンプル1では、加熱変性していない粉末卵として、液卵白を噴霧乾燥し製した常温品の乾燥卵白(製品名:乾燥卵白SN、キユーピー株式会社製)を用い、当該粉末卵に水分含量が35%になるように滅菌蒸留水を散水し、吸水させ、基質を調製した。この基質100gに味噌用麹菌A. oryzae株(株式会社樋口松之助商店製、以下「味噌用麹菌」と称する)の胞子を10mg添加して基質1g当たり1×106CFUとなるように接種し、30~35℃で45時間培養し、卵麹を得た。
表1に、サンプル1で用いた粉末卵の製品名と麹菌株を示す。
培養後のサンプル1は、基質が全体に軟らかい餅状となったり、べたついていたこともあり、主に基質の表面に麹菌が増殖していた。
【0030】
【0031】
(サンプル2,3)
表1に示すように、サンプル2,3では、加熱変性していない粉末卵として、液卵白を噴霧乾燥し製した常温品の乾燥卵白(製品名:乾燥卵白ELS No.2、キユーピー株式会社製)を用い、サンプル1と同様の水分含量となるように基質を製した。これに、サンプル2では焼酎用麹菌Aspergillus
luchuensis株(株式会社樋口松之助商店製、以下「焼酎用麹菌」と称する)を、サンプル3では味噌用麹菌をそれぞれサンプル1と同様の接種量で接種し、サンプル1と同様の条件で製麹した。サンプル2,3の卵麹では、サンプル1と同様に、主に基質の表面に麹菌が増殖していた。
【0032】
(サンプル4~11)
サンプル4~11では、表1に示すように、所定の粉末卵(加熱変性していない粉末卵としてサンプル4~7、加熱変性している粉末卵としてサンプル8~11)を用い、サンプル1と同様の水分含量となるように基質を製し、当該基質に味噌用麹菌又は焼酎用麹菌をそれぞれサンプル1と同様の接種量で接種した。そして、30~35℃で40時間培養し、卵麹を得た。サンプル4~7の卵麹では、サンプル1と同様に、主に基質の表面に麹菌が増殖していた。サンプル8~11の卵麹では、基質の均一性が高かったこともあり、比較的基質全体に均一に麹菌が増殖していた。
具体的に、粉末卵として以下のものを用いた。サンプル4,5では液卵黄を噴霧乾燥し製した常温品の乾燥卵黄(製品名:乾燥卵黄 No.1、キユーピー株式会社製)を用いた。サンプル6,7では、液全卵を噴霧乾燥し製した常温品の乾燥全卵(製品名:乾燥全卵 No.1、キユーピー株式会社製)を用いた。サンプル8,9では、加熱凝固卵を粉砕後に噴霧乾燥した冷凍品の乾燥加熱凝固卵(製品名:凍結クックドエッグパウダー、キユーピー株式会社製)を用いた。サンプル10,11は、加熱凝固卵黄を粉砕後に噴霧乾燥した冷凍品の乾燥加熱凝固卵黄(製品名:クックドヨークパウダー、キユーピー株式会社製)を用いた。
麹菌に関して、サンプル5,7,9,11では上記味噌用麹菌を用い、サンプル4,6,8,10では上記焼酎用麹菌を用いた。
【0033】
(サンプル12~14)
サンプル12として、培養期間を24時間とした以外はサンプル9と同様に卵麹を製した。
サンプル13として、培養温度を22~26℃とした以外はサンプル9と同様に卵麹を製した。
サンプル14として、サンプル9と同様の粉末卵に、pH調整剤として木灰汁を添加し、当該木灰汁を含む水分含量が35%となるように滅菌蒸留水を散水した。これに味噌用麹菌をサンプル1と同様の接種量で接種させ、サンプル9と同様に卵麹を製した。
これらの卵麹も、基質の均一性が高く、比較的基質全体に均一に麹菌が増殖していた。
【0034】
(比較例1,2)
比較例1では、粉末卵の代わりに液全卵(水分含量76%)を用いて、吸水させずに、液全卵をそのまま基質(水分含量76%)として用いた以外は、サンプル7と同様に卵麹を製した。
比較例2では、粉末卵の代わりに殻つきの鶏卵を茹でた加熱凝固卵(ゆで卵、水分含量76%)を粉砕したものを用いて、吸水させずに、そのまま基質(水分含量76%)として用いた以外は、サンプル9と同様に卵麹を製した。
比較例1,2では、基質の表面に麹菌が増殖している様子が確認されなかった。
【0035】
[散水後の基質の観察]
(サンプル1~14)
サンプル1~11の製麹過程において、粉末卵に散水した後の基質の様子を観察した。
常温品の乾燥卵白を用いたサンプル1~3では、柔らかい団子状の塊が観察され、吸水性があることが確認された。一方で、基質が柔らかく、若干べたついた状態となり、吸水性がやや不十分であることが確認された。
常温品の乾燥卵黄を用いたサンプル4,5では、やや柔らかい大きな団子状の塊が観察された。サンプル4,5でも、基質がややべたつく状態であるものの、サンプル1~3と比較して吸水性を十分に有することが確認された。
常温品の乾燥全卵を用いたサンプル6,7では、基質がねっとりとした状態となり、水分がよく吸収されており、吸水性が良好であることが確認された。
冷凍品の乾燥加熱凝固卵を用いたサンプル8,9,12~14では、小さい団子状の塊が多く観察された。サンプル8,9では、団子状の塊が小さく、水分が均一に吸収されており、吸水性が非常に良好であることが確認された。
冷凍品の乾燥卵黄を用いたサンプル10,11では、やや小さい団子状の塊が多く観察された。サンプル10,11では、小さい団子状の塊が、サンプル8,9,12で観察された塊よりも大きいものの、水分が比較的均一に吸収されており、吸水性が非常に良好であることが確認された。
【0036】
(比較例1,2)
基質として、粉末卵を用いずに、液全卵を用いた比較例1や、粉砕した加熱凝固卵を用いた比較例2では、水分含量が多すぎて、麹菌を培養できる環境ではなかった。
このことから、基質に粉末卵を用いることで適度な量の水を含ませることができ、麹菌の培養が可能な基質を製することができると確認された。
【0037】
[pHの測定]
サンプル1~14の卵麹10gにイオン交換水90mLを加えて、溶液が均一になるよう攪拌した後に、pHを測定した。サンプル1~11の結果を、表1に示す。
サンプル4,5,6,10,11は、いずれもpHが5.0以上7.0以下であった。また、サンプル1,2,3,7,8,9は、いずれもpHが7.0より大きく9.0以下であった。
また、サンプル12はpH8.5であり、サンプル13はpH6.0であり、サンプル14はpH8.5であった。
これらの結果から、サンプル1~14の卵麹のpHは、いずれも5.0~9.0の範囲内であった。
【0038】
[酵素活性の測定]
サンプル1~14について、下記の方法で各サンプルの酵素液を調製し、プロテアーゼ活性及びα-アミラーゼ活性を測定した。
【0039】
(各サンプルの酵素液の調製)
各サンプルの酵素液の調製は、「第四回改正国税庁所定分析法注解(2006)」の「固体こうじ」の211-4-2「酵素液の調製」の方法を参考に行なった。
具体的には、各サンプル10gに、各サンプル中の麹の種類にかかわらず下記の塩化ナトリウム溶液100mLを加え、室温で3時間ときどき振りまぜながら浸出した後ろ過し、そのろ液を各サンプルの酵素液とした。
【0040】
(塩化ナトリウム溶液の調製)
上記の各サンプルの酵素液の調製に用いる塩化ナトリウム溶液は、各サンプル中の麹の種類にかかわらず、塩化ナトリウム5gを水に溶かし、これに0.2M酢酸緩衝液50mLを加えて水で1Lにしたものを用いた。なお、後述のα―アミラーゼ活性測定時に使用する試薬に用いる塩化ナトリウム溶液の調製においても、各サンプル中の麹の種類にかかわらず、本方法と同様の方法で調整した。
【0041】
(プロテアーゼ活性の測定)
pH6におけるプロテアーゼ活性の測定は、「第四回改正国税庁所定分析法注解(2006)」に準じて行なった。
具体的には、各サンプルの酵素液の調製を上記方法で行い、マッキルベイン緩衝液とカゼイン溶液の調製を下記の方法で行い、pH6に調製した以外は、「第四回改正国税庁所定分析法注解(2006)」の「固体こうじ」の211-8「酸性プロテアーゼ」と同様の方法で行なった。
なお、本発明において、「プロテアーゼ活性(pH=6)」は「pH6におけるプロテアーゼ活性」を意味する。
【0042】
(マッキルベイン緩衝液の調製)
0.2Mリン酸二ナトリウム溶液と0.1Mクエン酸溶液を混合し、pH6のマッキルベイン緩衝液を調製した。
【0043】
(カゼイン溶液の調製)
カゼイン2gをとり、0.05N水酸化ナトリウム溶液20mLを加え、更に0.05N水酸化ナトリウム溶液20mLを加え、完全に白濁状に溶解するまで湯浴内で加熱しながらかき混ぜた。その後冷却し、これに0.2Nリン酸溶液でpH6に調製し、更に水を加えて全容を100mLとした。
【0044】
サンプル1~11のpH6におけるプロテアーゼ活性の測定結果を表1に示す。
【0045】
(α-アミラーゼ活性の測定)
α―アミラーゼ活性の測定は、各サンプルの酵素液の調製と試薬で用いる塩化ナトリウム溶液の調製を上記方法で行った以外は、「第四回改正国税庁所定分析法注解(2006)」の「固体こうじ」の211-5「α-アミラーゼ」と同様の方法で行なった。
サンプル1~11のα-アミラーゼ活性の測定結果を表1に示す。
【0046】
(酵素活性についての結果)
表1に示すように、サンプル1~11では、プロテアーゼ活性(pH=6)に比べて、α-アミラーゼ活性が低いことが確認された。
具体的には、pH6におけるプロテアーゼ活性について、サンプル5,9,11では3,000U/g以上であった。サンプル1,4,7,8では1,000U/g以上3,000U/g未満、サンプル3,6,10では500U/g以上1,000U/g未満であった。また、表1に示してはいないが、サンプル12~14のプロテアーゼ活性は、いずれも3000U/g以上であった。
また、α-アミラーゼ活性について、サンプル1,2,3,5,7,9,10,11では300U/g以下、サンプル6,8では300U/gより大きく500U/g以下であった。サンプル4では514U/gであり、1000U/g以下であった。また、表1に示してはいないが、サンプル12~14のα-アミラーゼ活性は、いずれも500U/g以下であった。
【0047】
[加工食品の製造及び卵麹の加工食品への適性評価]
サンプル1~14について、10%の食塩を加えた殺菌卵黄90g(食塩9g含む)を準備し、予め喫食した。続いて、当該加塩卵黄90gに各サンプル10gを添加して混合し、60℃で3日間静置した後、各サンプル入りの卵を原料とした加工食品を製した。続いて各サンプル入り加工食品を喫食し、予め喫食した加塩卵黄と比較しつつ、下記の評価基準に従って各サンプルの卵を原料とした加工食品への適性を評価した。
【0048】
(卵を原料とした加工食品への適性の評価基準)
A:サンプル添加前に比べ、卵を原料とした加工食品のコクが大変増加し、卵を原料とした加工食品の製造に非常に適している。
B:サンプル添加前に比べ、卵を原料とした加工食品のコクが増加し、卵を原料とした加工食品の製造に適している。
C:サンプル添加前に比べ、卵を原料とした加工食品のコクが僅かに増加し、卵を原料とした加工食品の製造に適している。
【0049】
(適性評価の結果)
表1に示すように、乾燥卵黄に味噌用麹菌を接種したサンプル5を添加した加工食品、並びに凍結クックドエッグパウダーに味噌用麹菌を接種したサンプル9及びサンプル11を添加した加工食品は、加塩卵黄のコクが増し、非常に濃厚な味わいであった。これらは、卵を原料とした加工食品の製造に非常に適しているものと評価された。なお、表1には示していないが、サンプル12~14を添加した加工食品についても、これらと同等の非常に良好な味わいであった。
また、乾燥卵黄に焼酎用麹菌を接種したサンプル4を添加した加工食品は、味噌用麹菌を用いたサンプル5を添加した加工食品には若干劣るものの、コクが増加し、良好な味わいであった。
乾燥全卵を用いたサンプル6,7を添加した加工食品、並びに凍結クックドエッグパウダーに焼酎用麹菌を接種したサンプル8及びサンプル10を添加した加工食品も、サンプル4を添加した加工食品と同等の良好な味わいであった。
一方、乾燥卵白を用いたサンプル1~3を添加した加工食品は、基質の吸水性がやや不十分だったためか、他のサンプルを添加した加工食品には若干劣るものの、加塩卵黄のコクを増加できることが確認された。
【0050】
[総括]
本発明の卵麹では、以上の各評価の結果より、粉末卵を用いることで、卵成分と水とを適度に分散させることができ、雑菌の繁殖がしやすい卵を基質に含んでいながらも高温焼成処理などを行わずに製麹できることが確認された。具体的には、基質として、粉末卵を用いたサンプル1~14では、水分含量の多い液全卵や加熱凝固卵を用いた比較例1,2と異なり、基質の表面に麹菌が増殖でき、麹菌の培養が可能な環境が得られた。
さらに、本発明の卵麹では、プロテアーゼ活性が高く、α-アミラーゼ活性が低いという特有の酵素活性パターンを有していることが確認された。これにより、当該卵麹の酵素活性パターンが、卵の成分組成に特にマッチしたものになることが確認された。一方、本実施例で用いた味噌用麹菌や、汎用されている焼酎用麹菌を用いて、米や麦を基質とした米麹、麦麹を製造すると、卵麹とは異なる酵素活性パターンを有する。これらの酵素活性パターンの相違を考慮すると、やはり本発明の卵麹の酵素活性パターンは、例えば粉末卵以外のタンパク質源及び炭水化物源を含まない特有の基質によるものと考えられる。
また、本発明の卵麹は、卵の成分組成に適した酵素活性パターンを有していることから、卵を原料とした加工食品の製造に適していることが確認された。
具体的には、プロテアーゼ活性の特に高いサンプル5,9,11を加塩卵黄に添加した加工食品は、非常に濃厚で深い味わいであった。これは、卵麹に含まれるプロテアーゼ等により、卵タンパク質由来の呈味成分が生成されたものと考えられる。同様に、プロテアーゼ活性が500U/g以上3000U/g未満であるサンプル4,6,7,8,10についても、加工食品に用いたときに、濃厚で深い味わいが楽しめるものとなった。なお、乾燥卵白を用いたサンプル1~3は、基質の吸水性がやや不十分で、他のサンプルよりも麹菌の培養がやや不十分だったためか、他のサンプルよりも加工食品の若干コク味が弱く感じられたが、十分な味わいであった。
また、サンプル4,5,6,10,11,13は、pHが5.0以上7.0以下であった。これにより、卵麹自体のpHが麹菌により産生された酵素の至適pHに近くなり、加工食品としたときにもpHの調整が不要になる。したがって、当該加工食品を所望の味わいとしやすくなり、特に好ましい。他のサンプルについても、pH調整剤として木灰汁を添加したサンプル14を含み、いずれもpHが5.0以上9.0以下の範囲に収まっていた。このため、これらのサンプルを用いた加工食品の製造時においても、pHの調製が不要又は容易になると考えられる。
さらに、培養時間をサンプル12のように24時間と短くしても、また培養温度をサンプル13のように22~26℃としても、所望の酵素活性パターンを有し、卵を原料とした加工食品の製造に適した良好な卵麹を製することができた。
以上のように、本実施例により、卵を原料とする加工食品の製造に適した卵麹を製することができると確認された。