(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】リチウムを回収するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C22B 26/12 20060101AFI20220311BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20220311BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20220311BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20220311BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220311BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20220311BHJP
C22B 7/04 20060101ALI20220311BHJP
C01D 15/06 20060101ALI20220311BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20220311BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20220311BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B1/02
C22B3/08
C22B3/22
C22B3/44 101A
C22B7/00 C
C22B7/04 B
C01D15/06
B09B3/00 304A
B09B3/00 ZAB
(21)【出願番号】P 2019522573
(86)(22)【出願日】2017-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2017077048
(87)【国際公開番号】W WO2018082961
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-10-07
(32)【優先日】2016-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド・オウステルホフ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド・デュポン
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02801153(US,A)
【文献】特表2015-531826(JP,A)
【文献】特開2016-089234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-αからβバリアントにスポジュメンを変換するためにスポジュメンを焙焼するステップ;
-化学量論的に過剰な酸を用いて前記βバリアントを硫酸と反応させるステップ;
-反応生成物を水と再パルプ化して酸性スラリーを形成するステップ;
-少なくとも一つの中和剤を加えることによって、5から7のpHに前記酸性スラリーを中和するステップ;
-中和されたスラリーをろ過することによってリチウム含有溶液及び残留物を得るステップ;
を備える、冶金スラグからリチウムを回収するためのプロセスであって、
再パルプ化、及び前記酸性スラリーの中和のステップの
いずれか一つ又は
両方において
、リチウム含有冶金スラグが
中和剤として添加されることを特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記酸性スラリーを中和するステップにおいて、4未満のpH
を維持しつつ前記酸性スラリーのpHを高めるためにリチウム含有冶金スラグが第一中和剤として加えられ、その後、5から7のpHに到達するまで第二中和剤が加えられる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記第二中和剤がCaCO
3、CaO又はCa(OH)
2を含む、請求項
2に記載のプロセス。
【請求項4】
リチウム含有電池又はそれに由来した製品の精錬によって前記リチウム含有冶金スラグが生産される、請求項1から
3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記リチウム含有冶金スラグが、3%<Li
2O<20%;38%<Al
2O
3<65%;CaO<55%;及びSiO
2<45%の重量組成を有する、請求項1から
4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記リチウム含有溶液を精製するステップと、沈殿によってリチウムを分離するステップとを更に含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム含有スラグからリチウムを回収するための促進されたプロセスに関連する。
【背景技術】
【0002】
そのようなスラグは、高温冶金精錬プロセスを使用してリチウムイオン電池又はそれに由来した製品をリサイクルする際に得ることができる。シリコン、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、鉄、及びマンガンの酸化物の一つ又は複数を含む電池及びスラグ形成フラックスが、高温で一緒に溶融される。酸素ポテンシャルは、コバルト-ニッケル-銅金属相の形成とスラグをもたらすように選択される。リチウム下で、より容易に酸化される元素が、スラグに出頭(report)する。電池中の有機画分は効率的に熱分解され、残留揮発性物質はオフガス浄化システム中に捕獲される。
【0003】
そのようなスラグからのリチウムの回収が研究されてきたが、複雑かつ高価なままである。知られたプロセスによると、スラグは酸性条件下で浸出される。その後、大半のリチウムを含む浸出液が得られる。しかしスラグ中のアルミニウムが部分的に可溶性であり、リチウムアルミネートの沈殿や、リチウムを吸着する傾向にある水酸化アルミニウムフレークの形成等の問題を引き起こす。これらの現象はリチウムの回収率を低下させることがある。
【0004】
これらの技術的な障壁にもかかわらず、リチウムイオン電池の高温冶金処理によって生じたスラグはリチウムの高グレード源を表す。
【0005】
CN105907983(A)はそのようなスラグからリチウムを抽出する方法を提案している。溶液が約6のpHに中和される際にリチウムアルミネートが沈殿するのを防ぐために、希薄条件の硫酸にスラグが溶解される。更に処理される前に、水の蒸発によって浸出液が濃縮される必要がある。技術的に実現可能ではあるものの、希釈された運転条件は高価な後続の蒸発ステップを必要とするので、このプロセスは経済的でない。また、後続の中和及び精製のために必要な試薬の量が多量であり、安定化(valorized)することができない石こうの生産を引き起こす。
【0006】
WO2011141297(A1)は、コンクリート中の添加剤としてリチウムイオン電池の高温冶金処理から生まれたリチウム含有スラグを使用する。この方法は、コンクリート中のアルカリ金属の反応を減らすというリチウムの有益な特性を活用している。それはスラグのそのような有意義な利用を提供しているが、リチウムの回収には至らない。これはスラグの経済的価値を減らす。
【0007】
従って、アルミニウム及びリチウム含有スラグからリチウムを分離することは困難であるように思われる。なぜならアルミニウムもリチウムも両方とも酸処理中に浸出し、共沈する傾向にあるからである。
【0008】
別の広く利用されているリチウム源はスポジュメンである。スポジュメンは、リチウムアルミノシリケート(LiAl(SiO3)2)からなる輝石鉱物である。約80,000トンの炭酸リチウム相当が毎年この原料から生産される。スポジュメン処理フローシートは、通常、多数のユニット操作からなり、以下のステップを備える:
-αからβバリアントにスポジュメンを変換するためにスポジュメンを焙焼するステップ;
-化学量論的に過剰な酸を用いてβバリアントを硫酸と反応させるステップ;
-反応生成物を水と再パルプ化して酸性スラリーを形成するステップ;
-少なくとも一つの中和剤を加えることによって、5から7のpHに酸性スラリーを中和するステップ;
-中和されたスラリーをろ過することによってリチウム含有溶液及び残留物を得るステップ;
-典型的には水酸化物又は炭酸塩として、リチウムを精製及び沈殿させるステップ。
【0009】
スポジュメン鉱石が採掘され、濃縮され、粉砕された後、細かく分割された材料は第一高温処理ステップに提出され、その間、αスポジュメンはβスポジュメンへと変換される。相変態の後、材料は硫酸と混合され、鉱物からリチウムを遊離することを目的とする焙焼ステップに提出される。このステップはリチウムに関して過剰の酸と共に250~300℃で実行される。
【0010】
その後、焙焼された材料は水と混合され、その際、フリー硫酸とともにLi2SO4が溶解する。驚くべきことに、このステップでアルミニウムは浸出しない。これは、スポジュメンのαからβへの変換中に形成される安定なアルミノシリケートフレームワークに起因すると考えられている。次に、遊離酸を中和し、多くの不純物を沈殿させるためにCaCO3、CaO又はCa(OH)2等の従来の中和剤が加えられる。
【0011】
典型的には、溶液からアルミニウム、シリコン、及び鉄などの不純物を除去するために5から6のpHで中和ステップが行われる。アルミニウムシリケート、石こう、及び沈殿された不純物を主に含む残留物から粗製Li2SO4溶液を分離するために固液分離ステップが適用される。
【0012】
その後、カルシウム、マグネシウム、及び他の不純物を除去するために更なる精製ステップが適用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
異なるリチウム生産者によってこのプロセスの変形が適用されるが、これらのフローシートの大半は、いくつかの内在する欠点を特徴づける。特に、焙焼ステップで使用される過剰の硫酸が、精製ステップの前に中和される必要があり、これは大量の中和剤を必要とする。古典的には、カルシウム系の化合物が使用され、大量の石こうが形成されることとなり、これは望まれてはいないが不可避的な廃棄物であると考えられている。
【0014】
今回、通常のスポジュメン処理フローシートと、リチウム及びアルミニウム含有スラグを処理するためのフローシートとを、それぞれに関連した問題を解決するように結びつけられ得ることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的で、冶金スラグからリチウムを回収するためにプロセスが公表され、スポジュメンをαからβバリアントに変換するためにスポジュメンを焙焼するステップと;化学量論的に過剰な酸を用いてβバリアントを硫酸と反応させるステップと;反応生成物を水と再パルプ化して酸性スラリー(固体/液体混合物)を形成するステップと;少なくとも一つの中和剤を加えることによって、5から7のpHに酸性スラリーを中和するステップと;中和されたスラリーをろ過することによってリチウム含有溶液及び残留物を得るステップと;を備え、再パルプ化ステップ及び酸性スラリーの中和ステップのいずれか又は両方において、中和剤としてリチウム含有冶金スラグが加えられることを特徴とする。
【0016】
当業者であれば認識するであろうように、再パルプ化と中和は単一のステップに組み合わされ得る。
【0017】
ここでリチウム含有冶金スラグは従来の中和剤の少なくとも一部を置換するために使用される。この中和ステップにおいて、スラグ中の大半のリチウムが放出され、スポジュメンから遊離したリチウムを補足する。
【0018】
スラグからのリチウムの最適な放出を保証するために、リチウム含有スラグで4未満のpHまで中和することが好ましい。その後、従来の中和剤とともに進み、5から7のpHに到達することができる。この後者のpH範囲は、特にアルミニウムの沈殿による、浸出液の予備精製を提供する。適切な従来の剤はCaCO3、CaO及びCa(OH)2であり、これらは組み合され得る。ナトリウム系の剤も適切である。
【0019】
リチウム含有スラグは、リチウム含有一次電池若しくは二次電池、又は相当量のリチウムが残ったままである限り、使用済み電池、電池スクラップ、黒色マス等の、それらに由来した製品の精錬から典型的には生じる。
【0020】
適切なスラグは、重量組成で、以下を有してよい:3%<Li2O<20%;38%<Al2O3<65%;CaO<55%;及びSiO2<45%。
【0021】
アルミニウム及びリチウム含有スラグからのリチウムの回収について、スポジュメンフローシートにおけるスラグの導入は、浸出液中のアルミニウム濃度のほんの少しの上昇を生じる。中和を実行するために使用されるスラグの量は、浸出液の合計量の観点から本当に相対的に少量である。アルミニウム濃度のこの少しの上昇は対処可能であることが見出された。というのも、それはリチウムの許容できない損失を招かないからである。
【0022】
スポジュメンフローシートについて、中和剤としてのスラグの組み込みは、従来の中和中に形成される石こうの量を著しく減少させる。リチウム含有化合物による中和は、更に、溶液のリチウムを豊富にし、一般的に、より良好な経済及び回収率をもたらす。
【0023】
別の実施形態において、第一中和ステップは従来のリチウムフリー中和剤を用いて実行される。これに続いて、リチウム含有スラグを使用して第二中和ステップが実行される。任意で、そして上述した理由のために、再び従来の剤を使用して、第三中和ステップが実行されてよい。この構想の論拠は、それが初期の強酸性の条件に遭遇しないので、より少量のアルミニウムがスラグから浸出することである。pHが約4未満のままである限り、含まれたリチウムは依然として高収率で浸出する。
【0024】
別の実施形態において、反応ステップでスポジュメンにリチウム含有スラグが加えられる。この実施形態はスポジュメンよりもスラグの方がリチウムが豊富である場合に特に有用である。なぜならそれは浸出液中のリチウム濃度の有利な上昇を引き起こすからである。しかし、この場合、石こうの量は減少しない。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施例1では、典型的なスポジュメンフローシートが描写され、以下のステップを備える:
-熱処理1050℃、30分間;
-スポジュメン1kg当たり、95gが過剰である330gの硫酸に対応する、スポジュメン(3.3%リチウム)中のリチウム浸出のために必要とされる化学量論量の1.4倍を使用する、250℃における30分間の硫酸焙焼;及び
-室温で15分間の、液体/固体比が1.85の浸出(leaching)。
【0026】
【0027】
【0028】
過剰の酸はCa(OH)2の添加によって中和され、ろ過がその後に続く。ろ液の元素組成はこれによって基本的に変化しないままである。溶液は精製されてよくリチウムは沈殿され、約90%のリチウム収率という結果になる。
【0029】
実施例2では、実施例1と同じ条件が適用される。しかし、過剰の酸は、表3に示された組成に係るリチウム含有スラグの添加によって、約2のpHに対応する、約1g/LのH2SO4に中和される。
【0030】
【0031】
【0032】
スラグ中のリチウムの貢献のおかげで、従来の中和剤が使用される時と比較して、溶液中のリチウム濃度が著しく高い。しかし、浸出液は限られた量のアルミニウムを含んでいる。従って、この限られた量がリチウムの損失を引き起こさないことを示すことが重要である。
【0033】
これが実施例3の目的である。
【0034】
この実施例では、18g/LのLi(143g/LのLi2SO4に相当)及び50g/LのH2SO4を含む酸性溶液が準備される。これは、典型的なスポジュメン浸出溶液の組成に対応する。この溶液が70℃まで加熱され、その後、リチウム含有スラグの粉末化された試料を用いて2.5のpHへと中和される。リチウム(3%)、アルミニウム(19%)、カルシウム(19%)、及びSiO2(21%)がスラグの最重要な成分であり、少量のCo、Cu、Fe、Mg、Ni及びMnも含むことが分かっている。
【0035】
pH2.5への中和の後、スラリーの試料はろ過され洗浄され、ろ液及び残留物の両方がリチウム及びアルミニウムについて分析される。ろ液は6.4g/LのAlを含み、残留物は0.11%のLiを含む。これらの値から、リチウム及びアルミニウムについて約100%の浸出率が決定される。
【0036】
溶解したアルミニウムを沈殿させることによってそれを精製するために、石灰を使用してスラリーのpHが5.5に更に上げられる。このスラリーはろ過され洗浄され、ろ液及び残留物の両方がリチウム及びアルミニウムについて分析される。ろ液は1.1mg/LのAlを含み、実質的に全てのアルミニウムが沈殿したことを示す。残留物は0.58%のLiを含むと分かる。
【0037】
従ってアルミニウムはろ液から徹底的に除去されている。リチウムに関して、溶液は、元々の溶液の全リチウムに加えて、スラグで加えられたリチウムの約60%も含むと計算することができる。従って、精製されたろ液中の全体的なリチウム回収は良好である。
【0038】
実施例4は、浸出溶液中のアルミニウム量の削減が、溶液を精製する際のリチウムの損失を更に限定することを描写する。これまで、中和ステップで使用されるスラグの量が削減され、石灰などの別の中和剤によって補われている。
【0039】
実施例3と同じ酸性溶液及び粉末化されたスラグが準備された。しかし、この溶液は2.5の代わりに0.5のpHにスラグを用いて中和された。スラグの量は実施例3で必要とされた量の約半分である。
【0040】
スラグを使用してpH0.5まで中和した後、溶解したアルミニウムを沈殿させることによってそれを精製するために、石灰を使用してスラリーのpHが5.5に更に上げられる。このスラリーはろ過され洗浄され、ろ液及び残留物の両方がリチウム及びアルミニウムについて分析される。ろ液は1mg/LのAlを含み、実質的に全てのアルミニウムが沈殿したことを示す。残留物は0.3%のLiを含むと分かる。
【0041】
従ってアルミニウムはろ液から徹底的に除去されている。リチウムに関して、溶液は、元々の溶液の全リチウムに加えて、スラグで加えられたリチウムの約80%も含むと計算することができる。従って、精製されたろ液中の全体的なリチウム回収は優秀である。