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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】金属有機構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 245/08 20060101AFI20220311BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20220311BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220311BHJP
   C07F 15/02 20060101ALI20220311BHJP
   C07C 51/41 20060101ALN20220311BHJP
   C07C 63/28 20060101ALN20220311BHJP
【FI】
C07C245/08
B01J20/22 A
B01J20/30
C07F15/02
C07C51/41
C07C63/28
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020507950
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2019012190
(87)【国際公開番号】W WO2019182137
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2018055077
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】弘中 幸治
(72)【発明者】
【氏名】中山 昌也
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-328051(JP,A)
【文献】特表2011-524870(JP,A)
【文献】特開2006-328050(JP,A)
【文献】特開2001-340754(JP,A)
【文献】特開2012-006854(JP,A)
【文献】PANG, Maolin et al.,Synthesis and Integration of Fe-soc-MOF Cubes into Colloidosomes via a Single-Step Emulsion-Based Ap,Journal of the American Chemical Society,2013年,Vol.135,No.28,PP.10234-10237,Supporting Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/41 - 245/06
C07F 15/02
B01J 20/22 - 20/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒の存在下、金属塩と多座配位子とを混合して、金属有機構造体を製造する工程を含み、
前記多座配位子は、下記一般式()で表される化合物を含み、
前記多座配位子中の前記一般式()で表される化合物の含有量は、前記多座配位子の全モル量に対して、50モル%以上であり、
前記溶媒は、酢酸と酢酸以外の沸点が100℃以上の有機溶剤を含み、
前記溶媒中の水の含有量は、前記溶媒の全質量に対して、0~90質量%である、金属有機構造体の製造方法。
【化1】
上記一般式中、Xは、Li、Na、K、又はCsを表す。なお、複数存在するXは、各々同一であっても、異なっていてもよい。
【請求項2】
前記水の含有量が、前記溶媒の全質量に対して0~50質量%である、請求項1に記載の金属有機構造体の製造方法。
【請求項3】
前記一般式()で表される化合物の分子量が、230以上である、請求項1又は2に記載の金属有機構造体の製造方法。
【請求項4】
前記金属塩が、鉄原子を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の金属有機構造体の製造方法。
【請求項5】
前記金属塩が、Fe(NO33・xH2O、Fe(NO32・xH2O、及びFeCl3・xH2Oからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の金属有機構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属有機構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属イオン又は金属クラスターと、多座配位子とが2~3次元の配位ネットワークを形成した金属有機構造体(MOF:Metal-Organic Frameworks)に関して、種々の検討が行われている。
【0003】
例えば特許文献1の実施例欄では、テレフタル酸二ナトリウム塩と、EuCl3・6H2O又はTbCl3・6H2Oとを溶媒である水の存在下で反応させて金属有機構造体を形成した旨が開示されている。
なお、上記特許文献1で形成される金属有機構造体は、生体分子を包接するためのものであり、金属有機構造体を形成する反応の際に、テレフタル酸二ナトリウム塩、EuCl3・6H2O又はTbCl3・6H2O、及び溶媒とともに、生体分子を存在させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2017-522904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年、ガス(例えば、窒素ガス、水素ガス、及びメタンガス等)を吸着し得る材料が望まれている。
本発明者らは、特許文献1に記載された製造方法を参照して金属有機構造体を作製してその物性について検討をしたところ、ガスに対する吸着性及び耐久性が必ずしも十分でないことを知見した。
【0006】
そこで、本発明は、ガスに対する吸着性及び耐久性に優れた金属有機構造体を製造できる金属有機構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、所定の材料を用いて所定の条件下で金属有機構造体の製造を実施すれば、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、以下の構成により上記目的を達成することができることを見出した。
【0008】
〔1〕 溶媒の存在下、金属塩と多座配位子とを混合して、金属有機構造体を製造する工程を含み、
上記多座配位子は、後述する一般式(1)で表される化合物を含み、
上記多座配位子中の上記一般式(1)で表される化合物の含有量は、上記多座配位子の全モル量に対して、50モル%以上であり、
上記溶媒は、沸点が100℃以上の有機溶剤を含み、
上記溶媒中の水の含有量は、上記溶媒の全質量に対して、0~90質量%である、金属有機構造体の製造方法。
〔2〕 上記水の含有量が、上記溶媒の全質量に対して0~50質量%である、〔1〕に記載の金属有機構造体の製造方法。
〔3〕 上記一般式(1)で表される化合物の分子量が、230以上である、〔1〕又は〔2〕に記載の金属有機構造体の製造方法。
〔4〕 上記一般式(1)で表される化合物が、後述する一般式(2)で表される化合物である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の金属有機構造体の製造方法。
〔5〕 上記金属塩が、鉄原子を含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の金属有機構造体の製造方法。
〔6〕 上記溶媒が、沸点が100℃以上の有機溶剤を2種以上含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の金属有機構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガスに対する吸着性及び耐久性に優れた金属有機構造体を製造できる金属有機構造体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下、本発明の金属有機構造体の製造方法について詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
本発明の特徴点は、金属有機構造体の製造に際して、多座配位子として後述する一般式(1)で表される化合物を用いる点、及び、使用する溶媒が、沸点が100℃以上の有機溶剤を含み、且つ、溶媒中の水の含有量が、溶媒の全質量に対して0~90質量%である点が挙げられる。
【0012】
なお、金属有機構造体とは、金属クラスター及び金属イオンからなる群から選択される金属成分と、金属成分に配位可能な配位子とによって構成される材料であり、通常、無機物である金属成分と、配位子とが、配位結合を介して自己集合的に集まり、組みあがった材料である。
【0013】
本発明の製造方法によれば、得られる金属有機構造体は、ガスに対する吸着性及び耐久性に優れる。
上記効果が得られる作用機序については明らかではないが、以下のように推測される。
特許文献1に開示される上述した製造方法のように、カルボン酸塩構造を有する多座配位子が使用される場合、主溶媒としては、多座配位子の溶解性の確保を目的として、通常、水が使用されている。
しかしながら、主溶媒が水であると、金属塩と多座配位子とを用いて形成される金属有機構造体の中間体の溶媒に対する溶解性が低く、形成される金属有機構造体は、その成長が不十分な状態で溶媒から析出してしまうと考えられる。
これに対し、本発明の製造方法によれば、上記中間体の溶媒に対する溶解性が良好であるため、この結果として、ガス吸着性及び耐久性に優れた金属有機構造体に成長すると考えられる。
【0014】
また、後述する一般式(1)で表される化合物の分子量が230以上である場合、金属塩由来の金属クラスター又は金属イオンと多座配位子との集積化がより緩やかに進行すると推測される。この結果として、ガス吸着性及び耐久性がより優れた金属有機構造体が得られる。
以下では、まず、本製造方法にて用いられる材料について詳述する。
【0015】
<金属塩>
金属塩は、溶媒中にて、金属クラスター又は金属イオンを生成し得る原料成分である。
金属塩としては特に制限されないが、金属塩化物、金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属硫酸塩、金属硫酸水素塩、金属臭化物、金属炭酸塩、金属リン酸塩、及びその誘導体(例えば、一水和物誘導体及び多水和物誘導体等)等が挙げられる。
【0016】
金属塩に含まれる金属原子としては、Fe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Mn、Re、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Zn、Cd、Hg、Si、Ge、Sn、及びPbからなる群より選択される金属原子が好ましく、Ni、Mn、Fe、Zn、Ti、Zr、Co、及びCuからなる群より選択される金属原子がより好ましく、Fe(鉄原子)、又はCo(コバルト原子)が更に好ましい。
【0017】
金属塩としては、例えば、硝酸亜鉛(Zn(NO32・xH2O)、硝酸チタン(Ti(NO34・xH2O)、硝酸コバルト(Co(NO32・xH2O)、硝酸鉄(III)(Fe(NO33・xH2O)、硝酸鉄(II)(Fe(NO32・xH2O);塩化亜鉛(ZnCl2・xH2O)、塩化チタン(TiCl4・xH2O)、塩化ジルコニウム(ZrCl4・xH2O)、塩化コバルト(CoCl2・xH2O)、塩化鉄(III)(FeCl3・xH2O)、塩化鉄(II)(FeCl2・xH2O);酢酸亜鉛(Zn(CH3COO)2・xH2O)、酢酸チタン(Ti(CH3COO)4・xH2O)、酢酸ジルコニウム(Zr(CH3COO)4・xH2O)、酢酸コバルト(Co(CHCOO)2・xH2O)、酢酸鉄(III)(Fe(CH3COO)3・xH2O)、酢酸鉄(II)(Fe(CH3COO)2・xH2O);硫酸亜鉛(ZnSO4・xH2O)、硫酸チタン(Ti(SO42・xH2O)、硫酸ジルコニウム(Zr(SO42・xH2O)、硫酸コバルト(CoSO4・xH2O)、硫酸鉄(III)(Fe2(SO43・xH2O)、硫酸鉄(II)(FeSO4・xH2O);水酸化亜鉛(Zn(OH)2・xH2O)、水酸化チタン(Ti(OH)4・xH2O)、水酸化ジルコニウム(Zr(OH)4・xH2O)、水酸化コバルト(Co(OH)2・xH2O)、水酸化鉄(III)(Fe(OH)3・xH2O)、水酸化鉄(II)(Fe(OH)2・xH2O);臭化亜鉛(ZnBr2・xH2O)、臭化チタン(TiBr4・xH2O)、臭化ジルコニウム(ZrBr4・xH2O)、臭化コバルト(CoBr2・xH2O)、臭化鉄(III)(FeBr3・xH2O)、臭化鉄(II)(FeBr2・xH2O);炭酸亜鉛(ZnCO3・xH2O)、炭酸コバルト(CoCO3・xH2O)、及び炭酸鉄(III)(Fe2(CO33・xH2O)等が挙げられる。なお、xは、0~12の数である。
金属塩としては、ガス吸着性と耐久性により優れる金属有機構造体が得られる観点から、硝酸鉄(III)(Fe(NO33・xH2O)、硝酸鉄(II)(Fe(NO32・xH2O)、塩化鉄(III)(FeCl3・xH2O)、塩化鉄(II)(FeCl2・xH2O)、硫酸鉄(III)(Fe2(SO43・xH2O)、及び硫酸鉄(II)(FeSO4・xH2O)からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。これらのなかでも、ガス吸着性と耐久性にさらに優れる金属有機構造体が得られる観点からは、硝酸鉄(III)(Fe(NO33・xH2O)、硝酸鉄(II)(Fe(NO32・xH2O)、及び塩化鉄(III)(FeCl3・xH2O)からなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。また、金属有機構造体の製造工程における流動性の観点からは、塩化鉄(III)(FeCl3・xH2O)がより好ましい。
【0018】
金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
<多座配位子>
多座配位子は、下記一般式(1)で表される化合物を含む。
【0020】
【化1】
【0021】
上記一般式(1)中、nは、2~6の整数を表す。
上記nとしては、2~4が好ましく、3~4がより好ましく、得られる金属有機構造体のガス吸着性及び耐久性がより優れる点で、4が更に好ましい。
また、Xは、Li、Na、K、又はCsを表す。
上記Xとしては、金属有機構造体がより形成し易い点で、Naが好ましい。なお、一般式(1)中に複数存在するXは、各々同一であっても、異なっていてもよい。
【0022】
上記Aは、n価の有機基を表す。
上記Aで表される有機基としては特に制限されないが、例えば、下記(Y1)~(Y10)で表される基が挙げられる。なお、下記(Y1)~(Y10)中、*は、上記一般式(1)中に明示される-COOX(X:Li、Na、K、又はCs)との結合位置を表す。
【0023】
【化2】
【0024】
【化3】
【0025】
【化4】
【0026】
上記(Y1)~(Y8)、及び(Y10)中、T1、T9、T10、T11、T12、T13、及びT15は、2価の芳香族炭化水素環又は2価の芳香族複素環を表し、T2、T6、T7、T8、及びT16は、各々独立に、3価の芳香族炭化水素環又は3価の芳香族複素環を表し、T3は、4価の芳香族炭化水素環又は4価の芳香族複素環を表し、T4は、5価の芳香族炭化水素環又は5価の芳香族複素環を表し、T5は、6価の芳香族炭化水素環又は6価の芳香族複素環を表す。
【0027】
上記芳香族炭化水素環に含まれる炭素数は、6~18が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が更に好ましい。上記芳香族炭化水素環は、単環構造であっても、縮環構造であってもよい。また、上記芳香族炭化水素環は、更に置換基を有していてもよい。
上記芳香族複素環は、少なくとも1つのN原子、O原子、S原子、又はSe原子を環構造内に有する5~7員環であることが好ましく、5~6員環がより好ましい。上記芳香族複素環は、単環であっても縮環構造であってもよい。また、上記芳香族複素環は、更に置換基を有していてもよい。
【0028】
また、上記(Y6)中、L1は、単結合、又は2価の連結基を表す。
1で表される2価の連結基としては、例えば、-N=N-、-O-、-S-、-NRa-、-CO-、アルキレン基(環状、分岐鎖状、及び直鎖状のいずれであってもよい)、アルケニレン基、アルキニレン基、又はこれらを組み合わせてなる2価の基が挙げられる。Raは、水素原子、又は置換基(例えば、アルキル基)を表す。
【0029】
また、上記(Y8)中、L2は、単結合、又は2価の連結基を表す。
2で表される2価の連結基としては、上記L1で表される2価の連結基と同様のものが挙げられる。
上記(Y8)中、n1は、1~4の整数を表す。
上記(Y8)中、*は、結合位置を表す。
【0030】
上記(Y9)中、L3は、4価の連結基を表す。
3で表される4価の連結基としては特に制限されないが、例えば、ケイ素原子、炭素原子、4価の脂環炭化水素環、4価の芳香族炭化水素環、及び4価の芳香族複素環等が挙げられる。
上記脂環炭化水素環に含まれる炭素数は、6~18が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が更に好ましい。
3で表される4価の芳香族炭化水素環及び4価の芳香族複素環等としては、T3で表される4価の芳香族炭化水素環又は4価の芳香族複素環と同様のものが挙げられる。
【0031】
上記(Y9)中、M1、M2、M3、及びM4は、各々独立に、下記一般式(A)で表される2価の連結基を表す。
【0032】
【化5】
【0033】
一般式(A)中、T14は、2価の芳香族炭化水素環又は2価の芳香族複素環を表す。
14で表される2価の芳香族炭化水素環又は2価の芳香族複素環としては、T1で表される2価の芳香族炭化水素環又は2価の芳香族複素環と同様のものが挙げられる。
4は、単結合、又は2価の連結基を表す。L4で表される2価の連結基としては、上記L1で表される2価の連結基と同様のものが挙げられる。
2は、1~3の整数を表す。
*は、結合位置を表す。
【0034】
また、上記(Y10)中、L5は、単結合、又は2価の連結基を表す。
5で表される2価の連結基としては、上記L1で表される2価の連結基と同様のものが挙げられる。
上記(Y10)中、*は、結合位置を表す。
【0035】
上記一般式(1)で表される化合物の分子量は特に制限されないが、得られる金属有機構造体のガス吸着性及び耐久性がより優れる点で、230以上が好ましく、300以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、1500以下が好ましい。
【0036】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示す。
なお、以下に示す化合物は、いずれも置換基を有していてもよい。
置換基としては、具体的には、アルキル基(炭素数1~6が好ましく、炭素数1~3がより好ましい)、アルコキシ基(炭素数1~6が好ましく、炭素数1~3がより好ましい)、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(F、Cl、Br、及びI)、及びアミノ基(NH)が挙げられる。
【0037】
【化6】
【0038】
【化7】
【0039】
【化8】
【0040】
上記一般式(1)で表される化合物は、得られる金属有機構造体のガス吸着性及び耐久性がより優れる点で、ベンゼン環を2~8個有することが好ましく、ベンゼン環を2~4個有することがより好ましく、ベンゼン環を2個有することが更に好ましい。また、得られる金属有機構造体のガス吸着性及び耐久性がより優れる点で、上記一般式(1)で表される化合物は、COOX部位を2~4個有することが好ましく、COOX部位を3~4個有することがより好ましく、COOX部位を4個有することが更に好ましい。
上記一般式(1)で表される化合物としては、得られる金属有機構造体のガス吸着性及び耐久性がより優れる点で、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【0041】
【化9】
【0042】
上記一般式(2)中のXは、上述した一般式(1)中のXと同義であり、好適態様も同じである。
【0043】
多座配位子中の上記一般式(1)で表される化合物の含有量は、多座配位子の全モル量に対して50モル%以上であり、得られる金属有機構造体のガス吸着性及び耐久性がより優れる点で、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、100モル%が挙げられる。
【0044】
一般式(1)で表される化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
また、多座配位子は、一般式(1)で表される化合物以外の他の多座配位子を含んでいてもよい。他の多座配位子としては、例えば、4,4’-エチレンジピリジン、4,4’-ビピリジル、ピラジン、1,4-ジアザビシクロ「2.2.2」オクタン、テレフタル酸、及び4,4’-ビフェニルジカルボン酸等が挙げられる。また、上述した一般式(1)で表される化合物中のXの一部、又は全てが水素原子に置き換わった化合物を多座配位子として含んでもよい。
【0046】
<溶媒>
溶媒は、沸点が100℃以上の有機溶剤を含む。なお、上記沸点の上限値は特に制限されないが、例えば300℃以下である。
上記沸点は、1気圧下での沸点を意味する。
沸点が100℃以上の有機溶剤としては特に制限されないが、DMF(N,N-Dimethylformamide、沸点153℃)、酢酸(沸点118℃)、DMSO(Dimethyl sulfoxide、沸点189℃)、エチレングリコール(沸点197℃)、NMP(N-methylpyrrolidone、沸点202℃)、NEP(N-ethylpyrrolidone、沸点218℃)、DMAc(N,N-Dimethylacetamide、沸点165°C)、スルホラン(沸点285℃)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(沸点220℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)、2-ピロリドン(沸点245℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点218℃)、及びプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート(沸点146℃)、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル(沸点120℃)等が挙げられる。
【0047】
上記沸点が100℃以上の有機溶剤は、SP(Solubility Parameter)値が、9~17(cal/cm31/2であることが好ましく、10~16(cal/cm31/2であることがより好ましく、10~15(cal/cm31/2であることが更に好ましい。SP値が9~17(cal/cm31/2の沸点が100℃以上の有機溶剤としては、例えば、酢酸(12.6)、DMF(12.0)、及びエチレングリコール(14.2)が挙げられる。
ここで、溶剤の溶解度パラメータとは、ヒルデブランドの正則溶液の理論により定義されるものであり、より具体的には、溶剤のモル蒸発熱をΔH、モル体積をV、気体定数をR、絶対温度をTとするとき、((ΔH-RT)/V)1/2により定義される量(cal/cm31/2である。
【0048】
なかでも、得られる金属有機構造体の耐久性がより優れる点で、沸点が100℃以上の有機溶剤を2種以上併用することが好ましく、酢酸と酢酸以外の沸点が100℃以上の有機溶剤とを併用することがより好ましく、酢酸とDMF、DMSO、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル、及びエチレングリコールからなる群より選ばれる1種以上とを併用することが更に好ましく、酢酸とDMF、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル、及びエチレングリコールからなる群より選ばれる1種以上とを併用することが特に好ましく、酢酸とDMFとを併用することが最も好ましい。
なお、酢酸と酢酸以外の沸点が100℃以上の有機溶剤との混合比(質量比)としては、10/90~90/10が好ましく、20/80~80/20がより好ましく、30/70~70/30が更に好ましい。
【0049】
また、溶媒は、上述した沸点が100℃以上の有機溶剤以外のその他の溶媒を含んでいてもよい。
その他の溶媒としては、水、又は沸点が100℃未満の有機溶剤が挙げられる。沸点が100℃未満の有機溶剤としては、例えば、アルコール、及びエーテル等が挙げられる。
【0050】
溶媒中の沸点が100℃以上の有機溶剤の含有量は、溶媒の全質量に対して、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましく、70質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましい。沸点が100℃以上の有機溶剤の含有量の上限値は特に制限されないが、溶媒の全質量に対して100質量%である。
また、溶媒中の水の含有量は、溶媒の全質量に対して、0~90質量%であり、0~75質量%が好ましく、0~50質量%がより好ましく、0~10質量%が更に好ましい。
なお、環境面及びコスト面の点では、溶媒として水を使用することが好ましく、水と酢酸とを併用することがより好ましい。また、得られる金属有機構造体のガスに対する吸着性がより優れる点では、溶媒中の水の含有量は、0~50質量%が好ましく、0~10質量%がより好ましい。
【0051】
<金属有機構造体の製造方法の手順>
本発明の金属有機構造体の製造方法は、溶媒の存在下、金属塩と多座配位子とを混合して、金属有機構造体を製造する工程(以下、「工程X」ともいう。)を含む。
工程Xで用いられる金属塩、多座配位子、及び、溶媒の定義は上述した通りである。
【0052】
金属塩と多座配位子との混合比(金属塩のモル数/多座配位子のモル数)は、使用される金属塩及び多座配位子の種類によって適宜最適な混合比が選択できるが、例えば、1/1~5/1が好ましく、2/1~4/1がより好ましい。
【0053】
溶媒の含有量に対する、金属塩及び多座配位子の合計含有量の質量百分率((金属塩及び多座配位子の合計含有量/溶媒の含有量)×100。以下「含有量A(質量%)」ともいう。)は特に制限されないが、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましい。また、その上限値は特に制限されないが、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
なお、経済性の観点から、上記含有量Aが30質量%より大きいことも好ましい。ただし、金属有機構造体の製造工程における流動性の観点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下が好ましい。
【0054】
金属塩と多座配位子との混合方法は特に制限されず、溶媒に金属塩及び多座配位子を添加して、得られた溶液を撹拌する方法が挙げられる。
【0055】
工程Xは加熱条件下にて実施してもよく、加熱温度は特に制限されないが、100℃以上の場合が多い。上限は特に制限されないが、通常、200℃以下の場合が多い。加熱時間は特に制限されないが、生産性の点から、1~120時間が好ましく、3~48時間がより好ましい。
上記加熱処理を実施する方法には、例えば、金属塩、多座配位子、及び溶媒を含む溶液をオートクレーブ等の耐圧容器に入れ、高温下にて加圧する方法、及び、還流塔を備えた加熱装置を用いて大気下にて加熱処理する方法が挙げられる。
また、工程Xは、1~3気圧環境下にて実施されることが好ましく、1気圧下(大気下)で実施されることがより好ましい。
【0056】
本発明の金属有機構造体の製造方法は、上述した工程X以外のその他の工程を含んでいてもよい。
上記その他の工程としては、未反応物を除去する精製処理、及び乾燥処理が挙げられる。
精製処理としては、溶媒を用いた洗浄処理が挙げられる。洗浄処理としては、溶媒と金属有機構造体とを接触させればよく、例えば、溶媒中に金属有機構造体を添加して、必要に応じて、混合液に加熱処理を施す方法が挙げられる。
【0057】
<金属有機構造体>
上述した製造方法によって、金属有機構造体が製造される。
金属有機構造体は、金属塩由来の、金属クラスター及び金属イオンからなる群から選択される金属成分と、多座配位子由来の有機成分とを含む。金属有機構造体中においては、金属成分と有機成分とが配位結合を介して結合し、規則的なサイズ・配列のナノ細孔が形成されている。
【0058】
上記金属成分とは、金属塩由来の成分であり、金属クラスター及び金属イオンからなる群から選択される。つまり、金属塩に含まれる金属原子を含む金属クラスター、及び、金属塩に含まれる金属原子のイオンが挙げられる。
金属クラスターは、1つ又は2つ以上の金属イオンを含む。また、金属クラスターは、金属イオン以外に更に、1つ又は2つ以上のアニオンを含んでいてもよい。
金属クラスターを形成しやすいことから、金属イオンとしては、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Ti4+、Zr4+、Hf4+、V5+、V4+、V3+、V2+、Mn2+、Re2+、Fe3+、Fe2+、Ru3+、Ru2+、Os2+、Co2+、Rh2+、Ir2+、Ni2+、Pd2+、Pt2+、Cu2+、Zn2+、Cd2+、Hg2+、Si2+、Ge2+、Sn2+、及びPb2+からなる群より選択される金属イオンが好ましく、Ni2+、Mn2+、Zn2+、Ti4+、Zr4+、Co2+、Fe3+、Fe2+、及びCu2+からなる群より選択される金属イオンがより好ましく、Co2+、Fe3+、及びFe2+からなる群より選択される金属イオンが更に好ましい。
【0059】
金属クラスターを構成するアニオンとしては、周期律表(長周期型周期律表)における第14族元素~第17族元素の非金属元素からなるアニオンが挙げられ、O、N、及びSの1種又は2種以上の元素からなるアニオンが好ましい。アニオンとしては、O2-、OH-、サルフェート、ナイトレート、ナイトライト、サルファイト、ビサルファイト、フォスフェート、ハイドロゲンフォスフェート、ジハイドロゲンフォスフェート、ジフォスフェート、トリフォスフェート、フォスファイト、クロライド、クロレート、ブロマイド、ブロメート、イオダイド、イオデート、カーボネート、ビカーボネート、サルファイド、ハイドロゲンサルフェート、セレナイド、セレネート、ハイドロゲンセレネート、テルライド、テルレート、ハイドロゲンテルレート、ナイトライド、フォスファイド、アルセナイド、アルセネート、ハイドロゲンアルセネート、ジハイドロゲンアルセネート、アンチモナイド、アンチモネート、ハイドロゲンアンチモネート、ジハイドロゲンアンチモネート、フルオライド、ボライド、ボレート、ハイドロゲンボレート、パークロレート、クロライト、ハイポクロライト、パーブロメート、ブロマイト、ハイポブロマイト、ペリオデート、及びハイポイオダイトからなる群より選択されるアニオンが好ましく、金属クラスターを形成しやすいことから、O2-、OH-、又はカーボネートがより好ましい。
【0060】
金属クラスターとしては、式(X)で表される金属クラスターが好ましい。
式(X) Mpq
Mは金属イオンを表し、好ましい金属イオンは上述した通りである。Yは周期律表における第14族元素~第17族元素の非金属元素からなるアニオンを示し、好ましいアニオンは上述した通りである。pは1~10の整数を示す。qは1以上の整数を示し、1~10の整数であることが好ましい。qは、金属クラスターが所定の電荷を有するように調整される。
金属クラスターとしては、例えば、FeO6、Fe3O、Zn4O、AlO6、Zn2(CO24、Cu2(CO24、CrO6、Co2(CO24、Zr64(OH)4、Fe2CoO、Ti88(OH)4、及びZn22(CO22が挙げられる。
【0061】
金属イオンとしては特に制限はなく、例えば、上述した金属クラスターに含まれる金属イオンの例示が挙げられる。
多座配位子由来の有機成分としては、例えば、上述した一般式(1)で表される化合物由来の有機成分が挙げられ、より具体的には、一般式(1)中のXを除いてなるアニオン性成分が挙げられる。
【0062】
<用途>
本発明の金属有機構造体は、ガスに対する吸着性及び耐久性に優れるため、種々の用途に適用できる。例えば、ガス吸着剤が挙げられる。
また、ガス吸着剤は、ガス分離装置、ガス貯蔵装置、及びセンサー等に適用できる。例えば、上記ガス吸着剤を含むガス分離装置であれば、ガス吸着剤をガス分離膜の材料として適用する形態が挙げられる。また、上記ガス吸着剤を含むガス貯蔵装置であれば、ガス吸着剤を吸着部に適用する形態が挙げられる。また、上記ガス吸着剤を含むセンサーであれば、例えば、カンチレバー型の振動子上にガス吸着剤を配置した態様が挙げられる。
【実施例
【0063】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0064】
[金属有機構造体の製造]
<実施例1>
(組成A)
TazbNa4(表1に示す。多座配位子に該当) 93g
Fe(NO33・9H2O(金属塩に該当) 180g
DMF(沸点153℃、沸点100℃以上の有機溶剤に該当)
1888g
酢酸(沸点118℃、沸点100℃以上の有機溶剤に該当)
1050g
【0065】
3口フラスコ中に上記組成Aに従って原料を入れ、得られた混合物を開放雰囲気下にて145℃で6時間撹拌することにより、金属有機構造体PCN-250を70g合成した。なお、PCN-250は、[Fe3(μ3-O)(H2O)2(OH)(Tazb)3/2]で表される金属有機構造体であり、Tazbは下記構造を表す。
【0066】
【化10】
【0067】
なお、TazbNa4、及びFe(NO33・9H2O中に含まれる水は95g存在する(溶媒の全質量に対して3質量%に該当する)。
水95gの内訳は、Fe(NO33・9H2O(含水率40%)から72g、TazbNa4(含水率25%)から23gである。
含水分を除いた、TazbNa4、Fe(NO33・9H2Oはそれぞれ70g、108gである。
したがって、溶媒の含有量に対する、金属塩及び多座配位子の合計含有量の質量百分率(「含有量A(質量%)」:(金属塩及び多座配位子の合計含有量/溶媒の含有量)×100で表される。)は、
金属塩:Fe(NO33・9H2O 108g
多座配位子:TazbNa4 70g
溶媒:DMF 1888g
酢酸 1050g
水(金属塩と多座配位子に含まれるもの) 95g
より、(108+70)/(1888+1050+95)×100=6質量%である。
【0068】
<実施例2~6、比較例1~4>
各種成分及び反応条件を下記表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2~6、及び比較例1~4の金属有機構造体を製造した。
【0069】
<実施例7>
(組成B)
TazbNa4(表1に示す。多座配位子に該当) 60g
Fe(NO33・9H2O(金属塩に該当) 116g
DMF(沸点153℃、沸点100℃以上の有機溶剤に該当)
132g
酢酸(沸点118℃、沸点100℃以上の有機溶剤に該当)
74g
【0070】
3口フラスコ中に上記組成Bに従って原料を入れ、得られた混合物を開放雰囲気下にて110~130℃で6時間撹拌することにより、金属有機構造体PCN-250を合成した。
【0071】
なお、TazbNa4、及びFe(NO33・9H2O中に含まれる水は62g存在する(溶媒の全質量に対して23質量%に該当する)。
水62gの内訳は、Fe(NO33・9H2O(含水率40%)から47g、TazbNa4(含水率25%)から15gである。
含水分を除いた、TazbNa4、Fe(NO33・9H2Oはそれぞれ45g、69gである。
したがって、溶媒の含有量に対する、金属塩及び多座配位子の合計含有量の質量百分率(「含有量A(質量%)」:(金属塩及び多座配位子の合計含有量/溶媒の含有量)×100で表される。)は、
金属塩:Fe(NO33・9H2O 69g
多座配位子:TazbNa4 45g
溶媒:DMF 132g
酢酸 74g
水(金属塩と多座配位子に含まれるもの) 62g
より、(69+45)/(132+74+62)×100=43質量%である。
【0072】
<実施例8>
(組成C)
TazbNa4(表1に示す。多座配位子に該当) 90g
FeCl3・6H2O(金属塩に該当) 116g
DMF(沸点153℃、沸点100℃以上の有機溶剤に該当)
159g
酢酸(沸点118℃、沸点100℃以上の有機溶剤に該当)
81g
【0073】
3口フラスコ中に上記組成Cに従って原料を入れ、得られた混合物を開放雰囲気下にて110~130℃で6時間撹拌することにより、金属有機構造体PCN-250を合成した。
【0074】
なお、TazbNa4、及びFeCl3・6H2O中に含まれる水は69g存在する(溶媒の全質量に対して22質量%に該当する)。
水69gの内訳は、FeCl3・6H2O(含水率40%)から46g、TazbNa4(含水率25%)から23gである。
含水分を除いた、TazbNa4、FeCl3・6H2Oはそれぞれ67g、70gである。
したがって、溶媒の含有量に対する、金属塩及び多座配位子の合計含有量の質量百分率(「含有量A(質量%)」:(金属塩及び多座配位子の合計含有量/溶媒の含有量)×100で表される。)は、
金属塩:FeCl3・6H2O 70g
多座配位子:TazbNa4 67g
溶媒:DMF 159g
酢酸 81g
水(金属塩と多座配位子に含まれるもの) 69g
より、(70+68)/(159+81+69)×100=44質量%である。
【0075】
<実施例9>
(組成D)
TazbNa4(表1に示す。多座配位子に該当) 60g
FeCl3・6H2O(金属塩に該当) 77g
DMF(沸点153℃、沸点100℃以上の有機溶剤に該当)
72g
酢酸(沸点118℃、沸点100℃以上の有機溶剤に該当)
36g
【0076】
3口フラスコ中に上記組成Dに従って原料を入れ、得られた混合物を開放雰囲気下にて110~130℃で6時間撹拌することにより、金属有機構造体PCN-250を合成した。
【0077】
なお、TazbNa4、及びFeCl3・6H2O中に含まれる水は46g存在する(溶媒の全質量に対して30質量%に該当する)。
水46gの内訳は、FeCl3・6H2O(含水率40%)から31g、TazbNa4(含水率25%)から15gである。
含水分を除いた、TazbNa4、FeCl3・6H2Oはそれぞれ45g、46gである。
したがって、溶媒の含有量に対する、金属塩及び多座配位子の合計含有量の質量百分率(「含有量A(質量%)」:(金属塩及び多座配位子の合計含有量/溶媒の含有量)×100で表される。)は、
金属塩:FeCl3・6H2O 46g
多座配位子:TazbNa4 45g
溶媒:DMF 72g
酢酸 36g
水(金属塩と多座配位子に含まれるもの) 46g
より、(46+45)/(72+36+46)×100=59質量%である。
【0078】
<実施例10>
(組成E)
TazbNa4(表1に示す。多座配位子に該当) 25g
FeCl2・4H2O(金属塩に該当) 24g
DMF(沸点153℃、沸点100℃以上の有機溶剤に該当)
38g
酢酸(沸点118℃、沸点100℃以上の有機溶剤に該当)
19g
【0079】
3口フラスコ中に上記組成Eに従って原料を入れ、得られた混合物を開放雰囲気下にて110~130℃で6時間撹拌することにより、金属有機構造体PCN-250を合成した。
【0080】
なお、TazbNa4、及びFeCl2・4H2O中に含まれる水は15g存在する(溶媒の全質量に対して21質量%に該当する)。
水15gの内訳は、FeCl2・4H2O(含水率36%)から9g、TazbNa4(含水率25%)から6gである。
含水分を除いた、TazbNa4、FeCl3・6H2Oはそれぞれ19g、15gである。
したがって、溶媒の含有量に対する、金属塩及び多座配位子の合計含有量の質量百分率(「含有量A(質量%)」:(金属塩及び多座配位子の合計含有量/溶媒の含有量)×100で表される。)は、
金属塩:FeCl3・6H2O 15g
多座配位子:TazbNa4 19g
溶媒:DMF 38g
酢酸 19g
水(金属塩と多座配位子に含まれるもの) 15g
より、(15+19)/(38+19+15)×100=47質量%である。
【0081】
[金属有機構造体の評価]
(ガスに対する吸着性の評価)
BELSORP-max(MicrotracBEL製)を用いて、77KにおけるN2吸着量を測定し、10kPaでの吸着量をもとに、以下に示す基準でN2吸着量を評価した。なお、STPは、Standard Temperature and ressureの略語である。
(評価基準)
「A」:300ml(STP)/g以上
「B」:200ml(STP)/g以上、300ml(STP)/g未満
「C」:100ml(STP)/g以上、200ml(STP)/g未満
「D」:100ml(STP)/g未満
【0082】
(耐久性の評価)
実施例2~10、及び比較例1~4の金属有機構造体を、各々、大気下にて150℃で5時間加熱処理した後、上述した「ガスに対する吸着性の評価」と同様の方法及び評価基準により、吸着性を評価した。
【0083】
結果を表1に示す。
なお、表中「含有量A(質量%)」とは、溶媒の含有量に対する、金属塩及び多座配位子の合計含有量の質量百分率を意図し、(金属塩及び多座配位子の合計含有量/溶媒の含有量)×100で表される。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
表1の結果から、実施例の製造方法によれば、ガスに対する吸着性及び耐久性に優れた金属有機構造体が得られた。
また、実施例1と実施例2及び実施例3との対比から、溶媒が、沸点が100℃以上の有機溶剤を2種以上含む場合、耐久性がより優れる金属有機構造体が得られることが確認された。また、実施例2と実施例3の対比から、水の含有量が、溶媒の全質量に対して50質量%以下である場合、ガスに対する吸着性がより優れることが確認された。
更に、実施例2と実施例4の対比から、一般式(1)で表される化合物の分子量が230以上である場合、ガスに対する吸着性がより優れ、且つ、耐久性がより優れる金属有機構造体が得られることが確認された。
【0088】
更に、実施例1と同様に、実施例5~9でも同様にガスに対する吸着性及び耐久性に優れた金属有機構造体が得られた。実施例1及び実施例5~9を対比すると、金属塩を変更した実施例10では、若干の吸着性の低下が確認された。
【0089】
比較例1及び比較例3の結果から、溶媒が水のみである場合、形成される金属有機構造体のガスに対する吸着性及び耐久性が劣ることが確認された。
比較例2の結果から、溶媒の沸点が100℃以上の有機溶剤を含まない場合、形成される金属有機構造体のガスに対する吸着性及び耐久性が劣ることが確認された。
比較例4の結果から、多座配位子が金属塩構造ではない場合、形成される金属有機構造体のガスに対する吸着性及び耐久性が劣ることが確認された。