(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】低摩擦樹脂複合体
(51)【国際特許分類】
C08L 79/04 20060101AFI20220314BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220314BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20220314BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20220314BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20220314BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20220314BHJP
C08G 73/06 20060101ALI20220314BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
C08L79/04 Z
C08K3/04
C08K3/30
C08L27/18
C08K7/06
C08L79/08 Z
C08G73/06
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2020545652
(86)(22)【出願日】2019-08-14
(86)【国際出願番号】 KR2019010385
(87)【国際公開番号】W WO2020036443
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2020-09-01
(31)【優先権主張番号】10-2018-0096135
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0099149
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】キホ・アン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンスン・パク
(72)【発明者】
【氏名】サン・ウ・キム
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101891947(CN,A)
【文献】国際公開第2017/095174(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0115543(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第101712795(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08G 73/00- 73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタロニトリル系樹脂を含むバインダー
100重量部、および
前記バインダーに分散された3種以上のフィラー
1~100重量部
を含
み、
前記フィラーは、黒鉛を含み、
前記フィラーは、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、および粉砕炭素繊維からなる群より選択された2種以上の添加物をさらに含む、低摩擦樹脂複合体。
【請求項2】
前記フィラーは、0.01~100μmの最大直径を有するパウダー状の添加物である、請求項
1に記載の低摩擦樹脂複合体。
【請求項3】
前記フタロニトリル系樹脂を含むバインダー100重量部に対して;
黒鉛15~30重量部;
ポリテトラフルオロエチレン、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、および粉砕炭素繊維からなる群より選択された2種の添加物10~40重量部
を含む、請求項
1または2に記載の低摩擦樹脂複合体。
【請求項4】
前記フタロニトリル系樹脂を含むバインダーは、フタロニトリル化合物を含有した組成物がアミン系化合物、ヒドロキシ系化合物、およびイミド系化合物からなる群より選択された1種以上の硬化剤によって硬化されたものである、請求項1から
3のいずれか一項に記載の低摩擦樹脂複合体。
【請求項5】
前記フタロニトリル化合物は、下記化学式P1で表される化合物である、請求項
4に記載の低摩擦樹脂複合体:
【化1】
上記化学式P1で、R
P11~R
P16はそれぞれ独立して、水素、C
1~5のアルキル基、C
1~5のアルコキシ基、C
6~30のアリール基、下記化学式P2グループ、または下記化学式P3グループであって、R
P11~R
P16のうちの二つ以上は下記化学式P2グループまたは下記化学式P3グループであり、
【化2】
上記化学式P2で、
L
P2は、直接結合、C
1~5のアルキレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-S(=O)-、または-S(=O)
2-であり、
R
P21~R
P25はそれぞれ独立して、水素、C
1~5のアルキル基、C
1~5のアルコキシ基、C
6~30のアリール基、またはシアノ基であって、前記R
P21~R
P25のうちの二つ以上はシアノ基であり、
【化3】
上記化学式P3で、
L
P3は、直接結合、C
1~5のアルキレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-S(=O)-、-S(=O)
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、または-C(=O)NH-であり、
R
P31~R
P35はそれぞれ独立して、水素、C
1~5のアルキル基、C
1~5のアルコキシ基、C
6~30のアリール基、または前記化学式P2グループであって、前記R
P31~R
P35のうちの一つ以上は前記化学式P2グループである。
【請求項6】
前記硬化剤は、下記化学式9で表されるイミド系化合物である、請求項
4または
5に記載の低摩擦樹脂複合体:
【化4】
上記化学式9で、
Mは、脂肪族、脂環式または芳香族化合物由来の4価の基であり、
X
1およびX
2はそれぞれ独立して、アルキレン基、アルキリデン基、または芳香族化合物由来の2価の基であり、
nは、1以上の数である。
【請求項7】
前記化学式9で、Mはアルカン、アルケン、またはアルキン由来の4価の基であるか、または下記化学式10~15のうちのいずれか一つで表される化合物由来の4価の基である、請求項
6に記載の低摩擦樹脂複合体:
【化5】
上記化学式10で、R
101~R
106はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、またはアリール基である;
【化6】
上記化学式11で、R
111~R
118はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、またはアリール基である;
【化7】
上記化学式12で、
R
120~R
129はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、またはアリール基であり、
Xは、単結合、アルキレン基、アルキリデン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-S(=O)-、-S(=O)
2-、-C(=O)-O-L
1-O-C(=O)-、-L
2-C(=O)-O-L
3-、-L
4-O-C(=O)-L
5-、または-L
6-Ar
1-L
7-Ar
2-L
8-であり、ここで、L
1~L
8はそれぞれ独立して、単結合、-O-、アルキレン基、またはアルキリデン基であり、Ar
1およびAr
2はそれぞれ独立してアリーレン基である;
【化8】
上記化学式13で、
R
131~R
134はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基であり、R
131~R
134のうちの2つは互いに連結されてアルキレン基を形成することができ、
Aは、アルキレン基またはアルケニレン基であり、Aのアルキレン基またはアルケニレン基はヘテロ原子として一つ以上の酸素原子を含むことができる;
【化9】
上記化学式14で、
R
141~R
144はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基であり、
Aは、アルキレン基である;
【化10】
上記化学式15で、
R
150~R
159はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基である。
【請求項8】
前記化学式9で、nは2~200範囲内の数である、請求項
6または
7に記載の低摩擦樹脂複合体。
【請求項9】
ASTM D3702規格に基づいて、PV Valueが2.3MPa・m/sである条件下で被摩擦材炭素鋼を基準にして1.3cm
2の接触面積を有するスラストワッシャー(thrust washer)試片に対して測定した無潤滑(自己潤滑)条件での摩擦係数が0.175以下である、請求項1から
8のいずれか一項に記載の低摩擦樹脂複合体。
【請求項10】
ASTM D3702規格に基づいて、PV Valueが4.6MPa・m/sである条件下で被摩擦材炭素鋼を基準にして1.3cm
2の接触面積を有するスラストワッシャー(thrust washer)試片に対して測定した潤滑(潤滑剤:自動車用潤滑油)条件での摩擦係数が0.060以下である、請求項1から
9のいずれか一項に記載の低摩擦樹脂複合体。
【請求項11】
請求項1から
10のいずれか一項の低摩擦樹脂複合体を使用して製造された相対摩擦部品用素材。
【請求項12】
前記相対摩擦部品用素材は、ベアリング、ブッシング、スラストワッシャー、オイルシール、ピストンリング、スライディング(sliding)、またはローラである、請求項
11に記載の相対摩擦部品用素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は2018年8月17日付韓国特許出願第10-2018-0096135号および2019年8月13日付韓国特許出願第10-2019-0099149号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、低摩擦特性を有し、耐熱性に優れた樹脂複合体およびこれを使用した相対摩擦部品用素材に関するものである。
【背景技術】
【0003】
最近、自動車産業ではエネルギー効率を高めるために軽量化と共に、パワートレイン、ドライブトレインなどのエネルギー伝達部での摩擦を低減させるための多くの努力が行われている。これは、自動車で使用される燃料中の15%のみが車輪に伝達され、この中の10%は駆動部摩擦によって損失されるためである。
【0004】
これにより、駆動部摩擦を低減させるために、金属製品以外にプラスチック材料が使用されている。このようなプラスチック材料から製造された摩擦部品は自己潤滑性があるため摩擦による損失を減少させるのに大きく役立つ。しかし、高い回転と圧力が発生される環境では摩擦による発熱によってプラスチック材料から製造された摩擦部品が変形されるかまたは融着される問題が発生する。
【0005】
これによって、ベアリング、ブッシング、スラストワッシャー、またはオイルシールなどの相対摩擦部部品として耐熱性が高く低摩擦特性を示すPEEK(polyether ether ketone)、PAI(polyamide imide)、PI(polyimide)などの高耐熱スーパーエンジニアリングプラスチックが主に使用される。しかし、PEEKは相対的に耐熱性が低くて超高圧および超高速環境に供される部品として依然として不適切であり、PAIおよびPIは低い加工性および生産性、また高い価格によって部品としての適用が制限的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い耐熱性および優れた加工性を有し、向上した低摩擦特性を示す低摩擦樹脂複合体を提供するためのものである。
【0007】
そして、本発明は、前記低摩擦樹脂複合体を使用して製造された相対摩擦部品用素材を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、フタロニトリル系樹脂を含むバインダーおよび前記バインダーに3種以上のフィラーを含む低摩擦樹脂複合体が提供される。
【0009】
そして、本発明によれば、前記低摩擦樹脂複合体を使用して製造された相対摩擦部品用素材が提供される。
【0010】
以下、発明の実施形態による低摩擦樹脂複合体およびこれを使用して製造された相対摩擦部品用素材について詳しく説明する。
【0011】
それに先立ち、本明細書で明示的な言及がない限り、専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。
【0012】
本明細書で使用される単数形態は文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。
【0013】
本明細書で使用される「含む」の意味は特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分および/または群の存在や付加を除外するものではない。
【0014】
I.低摩擦樹脂複合体
発明の一実施形態によれば、
フタロニトリル系樹脂を含むバインダーおよび前記バインダーに分散された3種以上のフィラーを含む低摩擦樹脂複合体が提供される。
【0015】
本発明者らの継続的な研究の結果、フタロニトリル系樹脂を含むバインダーおよび前記バインダーに分散された3種以上のフィラーを含む樹脂複合体は優れた耐熱性および加工性を有しながらも向上した低摩擦特性を示すことができることが確認された。
【0016】
前記低摩擦樹脂複合体は、超高圧および超高速環境でも優れた耐久度と低摩擦特性を有する相対摩擦部品用素材の提供を可能にする。
【0017】
(1)バインダー
前記低摩擦樹脂複合体にはバインダーとしてフタロニトリル系樹脂が含まれる。
【0018】
具体的に、前記フタロニトリル系樹脂を含むバインダーは、フタロニトリル化合物を含有した組成物がアミン系化合物、ヒドロキシ系化合物およびイミド系化合物からなる群より選択された1種以上の硬化剤によって硬化されたものであってもよい。
【0019】
前記フタロニトリル化合物は、前記硬化剤との反応を通じてフタロニトリル樹脂を形成することができるフタロニトリル構造を2個以上、あるいは2~20個、あるいは2~16個、あるいは2~12個、あるいは2~8個、あるいは2~4個含む化合物であってもよい。
【0020】
好ましくは、前記フタロニトリル化合物は、下記化学式1の平均組成式で表される化合物、および下記化学式5の平均組成式で表される化合物からなる群より選択された1種以上の化合物であってもよい。
【0021】
[化学式1]
[R11R12
2SiO1/2]a[R11R12SiO2/2]b[R12
2SiO2/2]c[R11SiO3/2]d[R12SiO3/2]e[SiO4/2]f
【0022】
上記化学式1で、
R11はそれぞれ独立して、下記化学式2の置換基であり、
R12はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、またはアリール基であり、
a、bおよびcは、正の数であり、
d、eおよびfは、0または正の数であり、
a+b+c+d+e+fは、1である;
【0023】
【0024】
上記化学式2で、
Xは前記化学式1でケイ素原子に連結される基であって、単結合、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、-C(=O)-X1-または-X1-C(=O)-であり、前記X1は酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、アルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基であり、
R21~R25はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、または下記化学式3の置換基であって、前記R21~R25のうちの少なくとも一つは下記化学式3の置換基である;
【0025】
【0026】
上記化学式3で、
Yは、単結合、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、-C(=O)-X1-または-X1-C(=O)-であり、前記X1は酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、アルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基であり、
R31~R35はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、またはシアノ基であって、前記R31~R35のうちの二つ以上はシアノ基である。
【0027】
本明細書でフタロニトリル化合物が特定の平均組成式で表されるということは、前記フタロニトリル化合物が前記組成式で表される単一の化合物であってもよいことを意味する。
【0028】
また、本明細書で前記フタロニトリル化合物が特定の平均組成式で表されるということは、前記フタロニトリル化合物が2つ以上の互いに異なる化合物の混合物であってもよく、前記混合物が示す組成の平均を取れば前記組成式で表されることを意味する。
【0029】
前記化学式1の平均組成式で表される化合物は高分子またはオリゴマー形態の化合物であって、例えば、その重量平均分子量(Mw)が1000~50000g/mol、あるいは2500~35000g/mol、あるいは4000~20000g/mol、あるいは6000~9000g/molの範囲内にあってもよい。
【0030】
前記化学式1の平均組成式で表される化合物は前記範囲の重量平均分子量を有することによって、低い加工温度および/または広いプロセスウィンドウを有する重合性組成物の提供を可能にする。
【0031】
本明細書で用語「重量平均分子量」は、GPC(gel permeation chromatograph)を使用して測定した標準ポリスチレンに対する換算数値であり、本明細書で用語「分子量」は特に異なって規定しない限り重量平均分子量を意味する。
【0032】
例えば、分子量は長さ300mmのPLgel MIXED-Bカラム(Polymer Laboratories)が装着されたAgilent PL-GPC 220機器を用いて測定する。測定温度は160℃であり、1,2,4-トリクロロベンゼンを溶媒として使用し、流速は1mL/minの速度で測定する。サンプルは10mg/10mLの濃度で調製した後、200μLの量で供給する。ポリスチレン標準を用いて形成された検定曲線を参考にしてMwおよびMnの値を誘導する。ポリスチレン標準の分子量(g/mol)は2,000/10,000/30,000/70,000/200,000/700,000/2,000,000/4,000,000/10,000,000の9種を使用する。
【0033】
好ましくは、前記化学式1の平均組成式で表される化合物は、下記化学式4で表される化合物であってもよい:
【0034】
【0035】
上記化学式4で、
R11およびR12はそれぞれ、前記化学式1で定義されたとおりであり、
nおよびmはそれぞれ、1~100の範囲内から選択され、2≦n+m≦100を充足する数である。
【0036】
好ましくは、前記化学式4で、n+mは2~100、あるいは2~80、あるいは2~50である。前記n+mの範囲を充足する化合物は、加工性に優れた重合性組成物の提供を可能にする。
【0037】
[化学式5]
R51
aR52
bSiO(4-a-b)/2
【0038】
上記化学式5で、
R51は、下記化学式6の置換基であり、
R52はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、またはアリール基であり、
aは、0.01~0.4の範囲内の数であり、
bは、0.5~4の範囲内の数である;
【0039】
【0040】
上記化学式6で、
X’は、前記化学式5でケイ素原子に連結される基であって、単結合、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、-C(=O)-X1-または-X1-C(=O)-であり、前記X1は酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、アルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基であり、
R61~R65はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、または下記化学式7の置換基であって、前記R61~R65のうちの少なくとも一つは下記化学式7の置換基である;
【0041】
【0042】
上記化学式7で、
Y’は、単結合、酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、-C(=O)-X1-または-X1-C(=O)-であり、前記X1は酸素原子、硫黄原子、-S(=O)2-、アルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基であり、
R71~R75はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、またはシアノ基であって、前記R71~R75のうちの二つ以上はシアノ基である。
【0043】
前記化学式7の平均組成式で表される化合物は高分子またはオリゴマー形態の化合物であって、例えば、その重量平均分子量(Mw)が700~7000g/mol、あるいは700~6500g/mol、あるいは700~5800g/mol、あるいは700~5000g/molの範囲内にあってもよい。
【0044】
前記化学式7の平均組成式で表される化合物は前記範囲の重量平均分子量を有することによって、低い加工温度および/または広いプロセスウィンドウを有する重合性組成物の提供を可能にする。
【0045】
好ましくは、前記化学式7の平均組成式で表される化合物は、下記化学式8で表される化合物であってもよい:
【0046】
【0047】
上記化学式8で、
R51およびR52はそれぞれ、前記化学式5で定義されたとおりであり、
nは、3~100の範囲内の数である。
【0048】
前記化学式8で、nは、5以上、あるいは7以上;そして95以下、あるいは90以下、あるいは85以下、あるいは80以下、あるいは75以下、70以下、あるいは65以下、あるいは60以下であってもよい。
【0049】
好ましくは、前記フタロニトリル化合物は、下記化学式P1で表される化合物であってもよい。
【0050】
【0051】
上記化学式P1で、RP11~RP16はそれぞれ独立して、水素、C1~5のアルキル基、C1~5のアルコキシ基、C6~30のアリール基、下記化学式P2グループ、または下記化学式P3グループであって、RP11~RP16のうちの二つ以上は下記化学式P2グループまたは下記化学式P3グループであり、
【0052】
【0053】
上記化学式P2で、
LP2は、直接結合、C1~5のアルキレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-S(=O)-、または-S(=O)2-であり、
RP21~RP25はそれぞれ独立して、水素、C1~5のアルキル基、C1~5のアルコキシ基、C6~30のアリール基、またはシアノ基であって、前記RP21~RP25のうちの二つ以上はシアノ基であり、
【0054】
【0055】
上記化学式P3で、
LP3は、直接結合、C1~5のアルキレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-S(=O)-、-S(=O)2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、または-C(=O)NH-であり、
RP31~RP35はそれぞれ独立して、水素、C1~5のアルキル基、C1~5のアルコキシ基、C6~30のアリール基、または前記化学式P2グループであって、前記RP31~RP35のうちの一つ以上は前記化学式P2グループである。
【0056】
本明細書で「アルキル基」は、直鎖または分枝鎖であってもよい。好ましくは、前記アルキル基は1~5の炭素数あるいは1~3の炭素数を有する。具体的に、前記アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、1-メチル-ブチル、1-エチル-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、およびtert-ペンチルなどであってもよい。
【0057】
本明細書で「アリール基」は、単環式アリール基または多環式アリール基であってもよい。好ましくは、前記アリール基は、6~30の炭素数を有する。具体的に、前記アリール基は、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ピレニル基、フェリレニル基、クリセニル基、およびフルオレニル基などであってもよい。
【0058】
本明細書で「直接結合」は、該当の基に原子が存在せず、その両側の基が互いに直接連結されていることを意味する。
【0059】
発明の実施形態によれば、前記フタロニトリル化合物は、下記化学式P1’で表される化合物であってもよい。
【0060】
【0061】
上記化学式P1’で、
LP2およびLP3はそれぞれ独立して、直接結合、C1~5のアルキレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-S(=O)-、-S(=O)2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、または-C(=O)NH-である。
【0062】
非制限的な例として、前記化学式P1’でLP2がそれぞれ-O-であり、LP3が直接結合またはメチレン基である化合物が前記フタロニトリル化合物として使用できる。
【0063】
前述のフタロニトリル化合物以外に、前記フタロニトリル化合物の例としては、米国特許第4,408,035号、米国特許第5,003,039号、米国特許第5,003,078号、米国特許第5,004,801号、米国特許第5,132,396号、米国特許第5,139,054号、米国特許第5,208,318号、米国特許第5,237,045号、米国特許第5,292,854号、または米国特許第5,350,828号などに公知されている化合物を例示することができ、前記文献によるもの以外にも業界で公知されている多様な化合物が前記例示に含まれ得る。
【0064】
一方、前記フタロニトリル化合物の硬化剤は、前記フタロニトリル化合物と反応してフタロニトリル樹脂を形成することができるものであればその種類は特に制限されない。
【0065】
例えば、前記硬化剤として、アミン系化合物、ヒドロキシ系化合物およびイミド系化合物からなる群より選択された1種以上の化合物を使用することができる。前記アミン系化合物、ヒドロキシ系化合物およびイミド系化合物はそれぞれ、分子内に少なくとも一つ以上のアミノ基、ヒドロキシ基およびイミド基を含む化合物を意味する。
【0066】
好ましくは、前記硬化剤は、下記化学式9で表されるイミド系化合物であってもよい:
【0067】
【0068】
上記化学式9で、
Mは、脂肪族、脂環式または芳香族化合物由来の4価の基であり、
X1およびX2はそれぞれ独立して、アルキレン基、アルキリデン基、または芳香族化合物由来の2価の基であり、
nは、1以上の数である。
【0069】
前記化学式9で表されるイミド系化合物は分子内にイミド構造を含むことによって、優れた耐熱性を示して前記重合性組成物内に過量含まれるか、あるいは重合性組成物が高い温度で加工または硬化される場合にも物性に悪影響を及ぼすことがあるボイド(void)などの欠陥を誘発しないようにする。
【0070】
前記化学式9で、Mは、脂肪族、脂環式または芳香族化合物由来の4価の基であってもよい。前記脂肪族、脂環式または芳香族化合物で分子内の4個の水素原子が離脱して形成された基がそれぞれ前記化学式9のカルボニル基の炭素原子と連結される構造を有することができる。
【0071】
具体的に、前記脂肪族化合物としては、直鎖型または分枝鎖型であるアルカン、アルケン、またはアルキンを例示することができる。前記脂肪族化合物としては、炭素数2~20、炭素数2~16、炭素数2~12、炭素数2~8、または炭素数2~4のアルカン、アルケン、またはアルキンが使用できる。前記アルカン、アルケン、またはアルキンは、任意に一つ以上の置換基によって置換されていてもよい。
【0072】
前記脂環式化合物としては、炭素数3~20、炭素数3~16、炭素数3~12、炭素数3~8、または炭素数3~4の非芳香族環構造を含む炭化水素化合物を例示することができる。このような脂環式炭化水素化合物は、環構成原子として、酸素または窒素などのヘテロ原子を少なくとも一つ含んでもよく、必要な場合に任意に一つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0073】
前記芳香族化合物としては、ベンゼン、またはベンゼンを含む化合物、またはこれらの誘導体を例示することができる。前記ベンゼンを含む化合物としては、2つ以上のベンゼン環が一つまたは2個の炭素原子を共有しながら縮合されているか、直接連結された構造または適切なリンカー(linker)によって連結されている構造の化合物を意味する。
【0074】
前記2個のベンゼン環を連結することに適用されるリンカーとしては、アルキレン基、アルキリデン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-S(=O)-、-S(=O)2-、-C(=O)-O-L1-O-C(=O)-、-L2-C(=O)-O-L3-、-L4-O-C(=O)-L5-、または-L6-Ar1-L7-Ar2-L8-などを例示することができる。
【0075】
前記でL1~L8はそれぞれ独立して、単結合、-O-、アルキレン基、またはアルキリデン基であり、Ar1およびAr2はそれぞれ独立して、アリーレン基であってもよい。
【0076】
前記芳香族化合物は、例えば、6個~30個、6個~28個、6個~27個、6個~25個、6個~20個または6個~12個の炭素原子を含むことができ、必要な場合に一つ以上の置換基によって置換されていてもよい。前記芳香族化合物の炭素原子の数は、その化合物が前述のリンカーを含む場合に、そのリンカーに存在する炭素原子も含んだ数である。
【0077】
具体的に、前記化学式9で、Mは、アルカン、アルケン、またはアルキン由来の4価の基であるか、または下記化学式10~15のうちのいずれか一つで表される化合物由来の4価の基であってもよい:
【0078】
【0079】
上記化学式10で、R101~R106はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、またはアリール基である;
【0080】
【0081】
上記化学式11で、R111~R118はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、またはアリール基である;
【0082】
【0083】
上記化学式12で、
R120~R129はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、またはアリール基であり、
Xは、単結合、アルキレン基、アルキリデン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-S(=O)-、-S(=O)2-、-C(=O)-O-L1-O-C(=O)-、-L2-C(=O)-O-L3-、-L4-O-C(=O)-L5-、または-L6-Ar1-L7-Ar2-L8-であり、ここで、L1~L8はそれぞれ独立して、単結合、-O-、アルキレン基、またはアルキリデン基であり、Ar1およびAr2はそれぞれ独立してアリーレン基である。
【0084】
この時、本明細書で単結合はその部分に原子が存在しない場合を意味する。したがって、前記化学式12でXが単結合である場合、Xで表される部分に原子が存在しない場合を意味し、この場合、Xの両側のベンゼン環は直接連結されてビフェニル構造を形成することができる。
【0085】
前記化学式12で、前記X中で-C(=O)-O-L1-O-C(=O)-、-L2-C(=O)-O-L3-、または-L4-O-C(=O)-L5-でL1~L5はそれぞれ独立して、炭素数1~12、炭素数1~8、または炭素数1~4のアルキレン基またはアルキリデン基であってもよく、前記アルキレン基またはアルキリデン基は置換または非置換されていてもよい。
【0086】
また、化学式12のX中で-L6-Ar1-L7-Ar2-L8-で、前記でL6およびL8は-O-であってもよく、L7は炭素数1~12、炭素数1~8、または炭素数1~4のアルキレン基またはアルキリデン基であってもよく、前記アルキレン基またはアルキリデン基は置換または非置換されていてもよい。前記でAr1およびAr2はフェニレン基であってもよく、このような場合にL7を基準にして前記L6およびL8はそれぞれ前記フェニレンのオルト、メタまたはパラ位に連結されていてもよい。
【0087】
【0088】
上記化学式13で、
R131~R134はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基であり、R131~R134のうちの2つは互いに連結されてアルキレン基を形成することができ、
Aは、アルキレン基またはアルケニレン基であり、Aのアルキレン基またはアルケニレン基はヘテロ原子として一つ以上の酸素原子を含むことができる;
【0089】
【0090】
上記化学式14で、R141~R144はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基であり、Aはアルキレン基である;
【0091】
【0092】
上記化学式15で、R150~R159はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基である。
【0093】
前記化学式10~15で表される化合物由来の4価の基は、前記化学式10~15の置換基が直接離脱して形成されるか、あるいは前記置換基の例の中のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルキレン基またはアルケニレン基に属する水素原子が離脱して形成され得る。
【0094】
例えば、前記4価の基が化学式10の化合物に由来する場合、化学式10のR101~R106のうちの1つ以上、2つ以上、3つ以上または4つが基を形成するか、あるいは前記R101~R106に存在するアルキル基、アルコキシ基、またはアリール基の水素原子が離脱して基を形成することができる。前記で基を形成するということは、前述のようにその部位が化学式9のカルボニル基の炭素原子に連結されることを意味することができる。
【0095】
また、前記4価の基が化学式12の化合物に由来する場合、化学式12のR120~R129はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であり、1つ以上、2つ以上、3つ以上または4つは化学式9に連結される基を形成することができる。前記で基を形成しないそれぞれは水素、アルキル基またはアルコキシ基であるか、水素またはアルキル基であってもよい。一つの例示で、化学式12ではR127~R129のうちのいずれか2つとR122~R124のうちのいずれか2つが前記基を形成することができ、他の置換基はそれぞれ独立して水素、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であるか、水素、アルキル基またはアルコキシ基であるか、あるいは水素またはアルキル基であってもよい。
【0096】
非制限的な例として、前記化学式10で表される化合物は、ベンゼンまたは1,2,4,5-テトラアルキルベンゼンであってもよい。
【0097】
非制限的な例として、前記化学式12で表される化合物は、ビフェニルであるか、または下記化学式A~Fのうちのいずれか一つの化学式で表される化合物であってもよい:
【0098】
【0099】
前記化学式13で表される化合物は、シクロヘキサンなどの炭素数4~8のシクロアルカン、一つ以上のアルキル基で置換されていてもよいシクロヘキセンなどの炭素数4~8のシクロアルケン、または下記化学式G~Iのうちのいずれか一つの化学式で表される化合物であってもよい:
【0100】
【0101】
前記化学式14で表される化合物は、下記化学式Jで示されるか、または下記化学式Jで表される化合物の水素のうちの少なくとも一つがアルキル基で置換されている化合物であってもよい:
【0102】
【0103】
前記化学式9で、X1およびX2はそれぞれ独立して、芳香族化合物由来の2価の基であってもよい。例えば、X1およびX2はそれぞれ独立して、炭素数6~40の芳香族化合物由来の2価の基であってもよい。前記芳香族化合物由来の2価の基については先に説明した内容で代える。
【0104】
具体的に、前記化学式9で、X1およびX2はそれぞれ独立して、下記化学式16~18のうちのいずれか一つで表される化合物由来の2価の基であってもよい:
【0105】
【0106】
上記化学式16で、R161~R166はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヒドロキシ基、またはカルボキシル基である;
【0107】
【0108】
上記化学式17で、
R170~R179はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヒドロキシ基、またはカルボキシル基であり、
X’は、単結合、アルキレン基、アルキリデン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-NRa-、-S(=O)-、-S(=O)2-、-L9-Ar3-L10-または-L11-Ar4-L12-Ar5-L13-であり、ここでRaは水素、アルキル基、アルコキシ基、またはアリール基であり、L9~L13はそれぞれ独立して、単結合、-O-、アルキレン基、またはアルキリデン基であり、Ar3~Ar5はそれぞれ独立してアリーレン基である;
【0109】
【0110】
上記化学式18で、R180~R189はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヒドロキシ基、またはカルボキシル基である。
【0111】
前記化学式16~18で表される化合物由来の2価の基は、前記化学式16~18の置換基が直接離脱して形成されるか、あるいは前記置換基の例のうちのアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルキレン基またはアルケニレン基に属する水素原子が離脱して形成され得る。
【0112】
例えば、前記2価の基が前記化学式16で表される化合物に由来し、その例としてフェニレンの場合、化学式9のX1でNに連結される部位を基準にしたアミン基の置換位置はオルト(ortho)、メタ(meta)またはパラ(para)位であってもよく、化学式9のX2でNに連結される部位を基準にしたアミン基の置換位置は同様にオルト(ortho)、メタ(meta)またはパラ(para)位であってもよい。
【0113】
また、前記2価の基が前記化学式17で表される化合物に由来する場合、化学式17のR177~R179のうちのいずれか一つと化学式17のR172~R174のうちのいずれか一つが化学式9の窒素原子に連結される基を形成することができる。前記基を形成する置換基を除いた他の置換基はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であるか、水素、アルキル基またはアルコキシ基であるか、あるいは水素またはアルキル基であってもよい。
【0114】
非制限的な例として、前記化学式16で表される化合物は、少なくとも一つのヒドロキシ基またはカルボキシル基で置換されていてもよいベンゼンである。
【0115】
前記化学式17で表される化合物は、少なくとも一つのヒドロキシ基またはカルボキシル基で置換されていてもよいビフェニル、前記化学式A~Fのうちのいずれか一つで表され少なくとも一つのヒドロキシ基またはカルボキシル基で置換されていてもよい化合物、または下記化学式KまたはMで表され少なくとも一つのヒドロキシ基またはカルボキシル基で置換されていてもよい化合物である。
【0116】
【0117】
前記化学式18で表される化合物は、下記化学式Nで表されるか、または下記化学式Nで表される化合物の水素のうちの少なくとも一つがヒドロキシ基またはカルボキシル基で置換されている化合物である:
【0118】
【0119】
本明細書で、アルキル基は、特に異なって規定しない限り、炭素数1~20、炭素数1~16、炭素数1~12、炭素数1~8、または炭素数1~4のアルキル基であってもよい。前記アルキル基は直鎖型、分枝鎖型、または環状であってもよく、必要な場合に一つ以上の置換基によって置換されていてもよい。
【0120】
本明細書で、アルコキシ基は、特に異なって規定しない限り、炭素数1~20、炭素数1~16、炭素数1~12、炭素数1~8、または炭素数1~4のアルコキシ基であってもよい。前記アルコキシ基は直鎖型、分枝鎖型、または環状であってもよく、必要な場合に一つ以上の置換基によって置換されていてもよい。
【0121】
本明細書で、アリール基は、特に異なって規定しない限り、前述の芳香族化合物に由来した1価残基を意味することができる。
【0122】
本明細書で、アルキレン基またはアルキリデン基は、特に異なって規定しない限り、炭素数1~20、炭素数1~16、炭素数1~12、炭素数1~8、または炭素数1~4のアルキレン基またはアルキリデン基を意味することができる。前記アルキレン基またはアルキリデン基は直鎖型、分枝鎖型、または環状であってもよい。また、前記アルキレン基またはアルキリデン基は、任意的に一つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0123】
本明細書で、脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルキレン基、またはアルキリデン基などに任意的に置換されていてもよい置換基としては、塩素またはフッ素などのハロゲン、グリシジル基、エポキシアルキル基、グリシドキシアルキル基または脂環式エポキシ基などのエポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソシアネート基、チオール基、アルキル基、アルコキシ基、またはアリール基などを例示することができる。
【0124】
前記化学式9で、nは、イミド繰り返し単位の個数を意味し、2~200、2~150、2~100、2~90、2~80、2~70、2~60、2~50、2~40、2~30、または20、または2~10範囲内の数であってもよい。
【0125】
前記化学式9でnが2以上である場合、即ち、前記化学式9の化合物がポリイミド系化合物である場合に耐熱性と強度面でさらに有利になり得る。したがって、ポリイミド系化合物を使用して硬化されたフタロニトリル樹脂含み相対摩擦部品用素材の場合、より高い耐熱性を有して高速高圧条件でフタロニトリル樹脂の変形および融着が防止でき、より高い強度によって低い摩耗と高い耐久性を示すことができる。
【0126】
非制限的な例として、前記硬化剤は、下記化学式C1または下記化学式C2で表される化合物であってもよい。
【0127】
【0128】
上記化学式C1およびC2で、
XおよびX’はそれぞれ独立して、直接結合、C1~5のアルキレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-S(=O)-、-S(=O)2-、-C(=O)-O-L1-O-C(=O)-、-L2-C(=O)-O-L3-、-L4-O-C(=O)-L5-、または-L6-Ar1-L7-Ar2-L8-であり;ここで、前記L1~L8はそれぞれ独立して直接結合、-O-、またはC1~5のアルキレン基であり;前記Ar1およびAr2はそれぞれ独立してC6~30のアリーレン基であり、
R90~R99はそれぞれ独立して、水素、C1~5のアルキル基、C1~5のアルコキシ基、C6~30のアリール基、ヒドロキシ基、またはカルボキシル基である。
【0129】
前記化学式9で表される化合物は、公知の有機化合物の合成法によって合成することができ、その具体的な方式は特に制限されない。例えば、化学式9で表される化合物は、ジアンヒドリド(dianhydride)化合物とジアミン化合物の脱水縮合反応などによって形成することができる。
【0130】
前記化学式9で表される化合物は、高い沸点を有して、高温で揮発乃至分解されず、これにより重合性組成物の硬化性が安定的に維持されながら、高温の加工乃至硬化過程で物性に悪影響を及ぼすことがあるボイド(void)を形成しない。これにより、前記化合物は、分解温度が300℃以上、350℃以上、400℃以上または500℃以上であり得る。前記分解温度は、前記化学式9で表される化合物の分解率が10%以下、あるいは5%以下、あるいは1%以下の範囲に維持される温度を意味することができる。前記分解温度の上限は特に制限されないが、例えば約1000℃以下であり得る。
【0131】
前記化学式9で表される化合物は、コアのMやリンカーであるX1またはX2の選択によって反応性乃至重合性組成物自体のプロセスウィンドウ(process window)、即ち、前記重合性組成物またはそれから形成されるプレポリマーの溶融温度と硬化温度の差を容易に調節することができて、用途によって多様な物性の硬化剤として作用できる。
【0132】
(2)フィラー
前記低摩擦樹脂複合体には、添加物として前記バインダー上に分散されたフィラーが含まれる。
【0133】
前記フィラーは、前記バインダー上に分散されて超高圧および超高速環境で対向面に対する浸食を低減させて耐磨耗特性の発現を可能にする。
【0134】
好ましくは、前記低摩擦樹脂複合体には3種以上のフィラーを適用することによって適切な耐磨耗特性と低い摩擦係数の確保が可能である。
【0135】
前述の特性の発現のために、前記フィラーとしては、黒鉛(graphite)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)、二硫化タングステン(tungsten disulfide、WS2)、二硫化モリブデン(molybdenum disulfide、MoS2)、および粉砕炭素繊維(milled carbon fiber、mCF)からなる群より選択された3種以上の添加物が適用されることが好ましい。
【0136】
より好ましくは、前記フィラーとして黒鉛を含み;ポリテトラフルオロエチレン、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、および粉砕炭素繊維からなる群より選択された2種以上の添加物をさらに含むことが前述の特性の発現に有利である。
【0137】
前記黒鉛は、前記例示されたフィラーのうち密度と原価が相対的に低いながらも優れた低摩擦特性と適切な耐磨耗特性の発現を可能にして好ましく適用できる。
【0138】
非制限的な例として、前記低摩擦樹脂複合体には、フィラーとして、
黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、および二硫化タングステン;あるいは
黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、および二硫化モリブデン;あるいは
黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、および粉砕炭素繊維;あるいは
黒鉛、二硫化タングステン、および二硫化モリブデン;あるいは
黒鉛、二硫化タングステン、および粉砕炭素繊維;あるいは
黒鉛、二硫化モリブデン、および粉砕炭素繊維;あるいは
黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化タングステン、および二硫化モリブデン;あるいは
黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化タングステン、および粉砕炭素繊維;あるいは
黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン、および粉砕炭素繊維;あるいは
黒鉛、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、および粉砕炭素繊維;あるいは
黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、および粉砕炭素繊維が含まれ得る。
【0139】
必要によって、前記低摩擦樹脂複合体は、前記例示されたフィラー以外に、ガラス繊維、酸化チタン、三硫化アンチモン、三酸化アンチモン、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、フッ化カルシウム、シリカ、アルミナ、酸化鉄、酸化クロム、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、カーボンナノチューブ、およびグラフェンからなる群より選択された1種以上の粒子をさらに含むことができる。
【0140】
前記フィラーは、前述の素材からなる0.01~100μmの最長直径を有するパウダー状の添加物であるのが好ましい。ここで、前記パウダーを成す微細粒子が球形である場合、前記最長直径は前記微細粒子の直径を意味する。前記パウダーを成す微細粒子が球形でない場合、前記最長直径は前記微細粒子の中心切断面で最も長い直径を意味する。
【0141】
前記微細粒子の粒径は、ASTM E 799-03(Standard Practice for Determining Data Criteria and Processing for Liquid Drop Size Analysis)に基づいた粒度分析器(代表的にHORIBA社などを通じて入手可能)を用いて測定できる。
【0142】
前記パウダーを成す微細粒子の大きさが過度に小さい場合、前記低摩擦樹脂複合体の製造時にフィラーが容易に凝集して均一な物性の発現が難しいことがある。そして、前記微細粒子の大きさが過度に小さい場合、潤滑することができる粒子の内部レイヤー(layer)数が減って潤滑剤としての役割を果たさないことがある。
【0143】
前記パウダーを成す微細粒子の大きさが過度に大きい場合にも、前記低摩擦樹脂複合体の製造時にフィラーの均一な分散が難しくて目標にする低摩擦特性の発現が難しいこともある。
【0144】
前記フィラーは、前記フタロニトリル系樹脂を含むバインダー100重量部に対して1~100重量部で含まれてもよい。
【0145】
具体的に、100重量部の前記バインダーに対して、前記フィラーは1重量部以上、あるいは5重量部以上、あるいは10重量部以上、あるいは20重量部以上、あるいは30重量部以上、あるいは40重量部以上;そして100重量部以下、あるいは90重量部以下、あるいは80重量部以下、あるいは70重量部以下、あるいは60重量部以下、あるいは50重量部以下に含まれてもよい。
【0146】
好ましくは、100重量部の前記バインダーに対して、前記フィラーは、1~100重量部、あるいは5~100重量部、あるいは5~90重量部、あるいは10~90重量部、あるいは10~80重量部、あるいは15~80重量部、あるいは20~80重量部、あるいは20~70重量部、あるいは30~70重量部、あるいは30~60重量部、あるいは40~60重量部で含まれてもよい。
【0147】
前記フィラーの含量が過度に少ない場合、前記低摩擦樹脂複合体は十分に低い摩擦係数と適切な耐摩耗性を有することができない。そして、前記フィラーの含量が過度に高い場合、前記低摩擦樹脂複合体に十分な強度を付与することができず、それによって高速および高圧条件下でまたは衝撃によって破壊されることがある。
【0148】
一例として、前記低摩擦樹脂複合体は、前記フタロニトリル系樹脂を含むバインダー100重量部に対して;黒鉛15~30重量部;ポリテトラフルオロエチレン、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、および粉砕炭素繊維からなる群より選択された2種の添加物10~40重量部を含むことができる。
【0149】
他の一例として、前記低摩擦樹脂複合体は、前記フタロニトリル系樹脂を含むバインダー100重量部に対して;黒鉛20~25重量部;ポリテトラフルオロエチレン、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、および粉砕炭素繊維からなる群より選択された2種の添加物15~35重量部を含むことができる。
【0150】
(3)低摩擦樹脂複合体の物性
前記低摩擦樹脂複合体が低摩擦特性を示しているか確認するために、ASTM D3702(Standard Test Method for Wear Rate and Coefficient of Friction of Materials in Self-Lubricated Rubbing Contact Using a Thrust Washer Testing Machine)に基づいて摩擦係数を測定してみることができる。
【0151】
特に、後述の実施例で確認できるように、前記低摩擦樹脂複合体は被摩擦材に対して高い圧力および高い回転速度条件下でも低い摩擦係数を示して、自動車の相対摩擦部品用素材として適用が可能であることを確認することができる。
【0152】
ASTM D3702規格は、自己潤滑材料として使用するに適切なのか確認するためにスラストワッシャー(thrust washer)試片に対する摩擦係数および摩耗率を測定するためのものである。
【0153】
本発明では、
図1のような摩擦係数測定器を用いてASTM D3702規格による摩擦係数および摩耗率を測定した。
【0154】
具体的に、ASTM D3702規格によって摩擦係数および摩耗率を求める方法は、下記の通りである:
1)前記低摩擦樹脂複合体をASTM D3702に規定された大きさおよび厚さを有する試片(test specimen)に製作する。
2)摩擦係数測定器の上部試片ホルダー(rotary specimen holder)に試片を設置する。
3)摩擦係数測定器の下部試片ホルダー(stationary specimen holder)に被摩擦材を設置する(
図1の場合、被摩擦材としてsteel washerが設置されている)。
4)摩擦係数測定器に特定圧力(P)および回転速度(V)を設定して、所望のPV Value(圧力と速度をかけた値)条件下での摩擦係数(f)を下記式1によって求めることができる。
[式1]
f=T/rW
上記式1で、
Tは試片にかかったトルク(Torque)(N・m)であり、rは試片の半径(mm)であり、Wは垂直な力(kg)を意味する。
【0155】
また、摩耗率は、実験前/後の質量変化を測定して密度で割った後、これによって摩耗された体積を求め、求められた体積変化をリングの面積で割って得られた減少した厚さに基づいて求められた秒当たり減少した厚さ(10-10m/s)で求めることができる。
【0156】
前記低摩擦樹脂複合体は、ASTM D3702規格に基づいてPV Valueが2.3MPa・m/sである条件下で被摩擦材炭素鋼を基準にして1.3cm2の接触面積を有するスラストワッシャー(thrust washer)試片に対して摩擦係数測定時、熱変形が発生しないことになる。即ち、一実施形態による低摩擦樹脂複合体は、PV Valueが2.3MPa・m/sである無潤滑環境での速度および圧力を耐えることができる。
【0157】
具体的に、前記低摩擦樹脂複合体は、ASTM D3702規格に基づいて、PV Valueが2.3MPa・m/sである条件下で被摩擦材炭素鋼を基準にして1.3cm2の接触面積を有するスラストワッシャー(thrust washer)試片に対して測定した無潤滑(自己潤滑)条件での摩擦係数が0.175以下であってもよい。
【0158】
具体的に、前記無潤滑(自己潤滑)条件での摩擦係数は、0.175以下、あるいは0.170以下、あるいは0.165以下であってもよい。好ましくは、前記摩擦係数は、0.050~0.175、あるいは0.055~0.175、あるいは0.055~0.170、あるいは0.060~0.170、あるいは0.060~0.165、あるいは0.065~0.165、あるいは0.070~0.165、あるいは0.075~0.165、あるいは0.080~0.165、あるいは0.085~0.165であってもよい。
【0159】
前記低摩擦樹脂複合体は、通常の潤滑剤を適用した潤滑条件でさらに低い摩擦係数を有することができる。ここで、前記潤滑剤の種類や適用方法は特に制限されない。
【0160】
具体的に、前記低摩擦樹脂複合体は、ASTM D3702規格に基づいて、PV Valueが4.6MPa・m/sである条件下で被摩擦材炭素鋼を基準にして1.3cm2の接触面積を有するスラストワッシャー(thrust washer)試片に対して測定した潤滑(潤滑剤:自動車用潤滑油)条件での摩擦係数が0.060以下であってもよい。
【0161】
具体的に、前記潤滑条件での摩擦係数は0.060以下、あるいは0.057以下、あるいは0.055以下であってもよい。好ましくは、前記摩擦係数は0.035~0.060、あるいは0.040~0.060、あるいは0.040~0.057、あるいは0.045~0.057、あるいは0.045~0.055であってもよい。
【0162】
前記摩擦係数の測定時、PV Valueが2.3MPa・m/sである条件は1.63MPaの圧力(P)および1.41m/sの回転速度(V)によって実現可能であり、PV Valueが4.6MPa・m/sである条件は1.63MPaの圧力(P)および2.82m/sの回転速度(V)によって実現可能である。
【0163】
一方、前記低摩擦樹脂複合体は、加工温度が150~350℃の範囲内であってもよい。
【0164】
加工温度というのは、前記低摩擦樹脂複合体が加工可能な状態で存在する温度を意味する。前記加工温度は、例えば、溶融温度(Tm)またはガラス転移温度(Tg)であり得る。
【0165】
前記低摩擦樹脂複合体のプロセスウィンドウ、即ち、前記加工温度(Tp)と前記フタロニトリル化合物と前記硬化剤の硬化温度(Tc)の差(Tc-Tp)の絶対値は、30℃以上、50℃以上または100℃以上であってもよい。前記硬化温度(Tc)が前記加工温度(Tp)に比べて高くてもよい。このような範囲は、重合性組成物を使用して、例えば後述の相対摩擦部品用素材を製造する過程で適切な加工性を確保することに有利になり得る。前記でプロセスウィンドウの上限は特に制限されるのではないが、例えば、前記加工温度(Tp)と硬化温度(Tc)の差(Tc-Tp)の絶対値が400℃以下、または300℃以下であってもよい。
【0166】
一方、前記低摩擦樹脂複合体は、プレポリマー(prepolymer)状態で提供できる。
【0167】
プレポリマー状態というのは、前記バインダーを構成するフタロニトリル化合物と硬化剤の反応がある程度の起こった状態(例えば、いわゆるAまたはBステージ段階の重合が起こった状態)であるが、完全に重合された状態には至らず、適切な流動性を示して加工が可能な状態を意味することができる。
【0168】
非制限的な例として、前記プレポリマー状態は、150~250℃の範囲内の温度で測定された溶融粘度が10Pa・s~100,000Pa・s、10Pa・s~10,000Pa・s、または10Pa・s~5,000Pa・sの範囲内にある状態を意味することができる。
【0169】
例えば、前記プレポリマーの加工温度が150~350℃の範囲内であってもよい。この時、加工温度というのは、前記プレポリマーが加工可能な状態で存在する温度を意味する。
【0170】
II.相対摩擦部品用素材
発明の他の一実施形態によれば、前記低摩擦樹脂複合体を使用して製造された相対摩擦部品用素材が提供される。
【0171】
前述のように、前記低摩擦樹脂複合体は、超高圧および超高速環境でも耐久度と低摩擦特性を有する相対摩擦部品用素材の提供を可能にする。
【0172】
前記相対摩擦部品用素材の例としては、ベアリング、ブッシング、スラストワッシャー、オイルシール、ピストンリング、スライディング(sliding)、ローラなどが挙げられる。前記相対摩擦部品用素材は、自動車、航空機、その他の産業材などに適用できる。
【0173】
前記相対摩擦部品用素材は、前記低摩擦樹脂複合体のプレポリマーを加熱して目的とする形状に成形した後、これを硬化させて製造することができる。前記相対摩擦部品用素材の製造のための加工および硬化方法などは公知の方式によって行うことができる。
【発明の効果】
【0174】
本発明による低摩擦樹脂複合体は、優れた耐熱性と低い摩擦係数を有し、優れた耐久度と低摩擦特性を有する相対摩擦部品用素材の提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【
図1】ASTM D3702規格による摩擦係数を測定するための摩擦係数測定器の分解斜視図を示したものである。
【
図2】製造例1による化合物に対する
1H-NMRデータを示したものである。
【
図3】製造例2による化合物に対する
1H-NMRデータを示したものである。
【
図4】製造例3による化合物に対する
1H-NMRデータを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0176】
以下、本発明の理解のために好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は発明を例示するためのものに過ぎず、本発明をこれらのみで限定するのではない。
【実施例】
【0177】
1
H-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)分析
下記で製造した化合物に対するNMR分析は、Agilent社の500MHz NMR装備を使用して製造社のマニュアルのとおりに行った。NMR測定のためのサンプルは化合物をDMSO(ジメチルスルホキシド、dimethyl sulfoxide)-d6に溶解させて製造した。
【0178】
製造例1.フタロニトリル化合物(PN1)の合成
下記化学式A1の化合物(PN1)は、次の方法で合成された。
【0179】
下記化学式A2の化合物32.7gおよび120gのDMF(ジメチルホルムアミド、Dimethyl Formamide)を3ネックRBF(3 neck round bottom flask)に投入し、常温で攪拌して溶解させた。次いで、下記化学式A3の化合物51.9gを追加し、DMF50gを追加した後に攪拌して溶解させた。次いで、炭酸カリウム62.2gおよびDMF50gを共に投入し、攪拌しながら温度を85℃まで昇温させた。前記状態で約5時間程度反応させた後に常温まで冷却させた。冷却された反応溶液を0.2N濃度の塩酸水溶液に入れて中和沈殿させ、フィルタリング後に水で洗浄した。その後、フィルタリングされた反応物を100℃の真空オーブンで1日乾燥し、水と残留溶媒を除去した後に下記化学式A1の化合物(PN1)を約80重量%の収率で得た。得られた化学式A1の化合物(PN1)に対する
1H-NMR分析結果を
図2に示した。
【0180】
【0181】
製造例2.硬化剤化合物(CA1)の合成
下記化学式A14の化合物(CA1)は、ジアミンとジアンヒドリドの脱水縮合によって合成した。4,4’-オキシジアニリン(4,4’-oxydianiline)24gおよびNMP(N-メチル-ピロリドン、N-methyl-pyrrolidone)40gを3ネックRBF(3 neck round bottom flask)に投入し、常温で攪拌して溶解させた。ウォーターバス(water bath)で上記を冷却させ、下記化学式A15の化合物8.7gを徐々に3回に分けて40gのNMPと共に投入した。投入された化合物が全て溶解されれば、共沸(azeotrope)のために反応物にトルエン16gを投入した。Dean-Stark装置とリフラックスコンデンサーを設置し、Dean-Stark装置にトルエンを投入して満たした。脱水縮合触媒としてピリジン4.2mLを投入し、温度を170℃まで昇温させて、3時間攪拌した。イミド環が形成されながら発生される水をDean Stark装置で除去しながら2時間追加攪拌して、残留トルエンとピリジンを除去した。反応生成物を常温まで冷却し、メタノールに沈殿させて回収した。回収された沈殿物をメタノールで抽出して残留反応物を除去し、真空オーブンで乾燥して化学式A14の化合物(CA1)を約85重量%の収率で得た。得られた化学式A14の化合物(CA1)に対する
1H-NMR分析結果を
図3に示した。
【0182】
【0183】
製造例3.硬化剤化合物(CA2)の合成
下記化学式A18の化合物(CA2)は、ジアミンとジアンヒドリドの脱水縮合によって合成した。下記化学式A16の化合物(m-フェニレンジアミン、m-phenylene diamine)8.1gとNMP(N-メチルピロリドン、N-methylpyrrolidone)50gをRBF(3 neck Round Bottom flask)に投入し、常温で攪拌して溶解させた。ウォーターバス(water bath)で上記を冷却し、下記化学式A17の化合物26gを徐々に3回に分けて60gのNMPと共に投入した。投入された化合物が全て溶解されれば、共沸(azeotrope)反応のために反応物にトルエン23gを投入した。Dean Stark装置とリフラックスコンデンサーを設置し、Dean Stark装置にトルエンを投入して満たした。脱水縮合触媒としてピリジン5.2mLを投入し、温度を170℃まで昇温させて、3時間攪拌した。イミド環が形成されながら発生される水をDean Stark装置で除去しながら、2時間追加攪拌して、残留トルエンとピリジンを除去した。反応生成物を常温まで冷却し、メタノールに沈殿させて回収した。回収された沈殿物をメタノールでソックスレー(soxhlet)抽出して残留反応物を除去し、真空オーブンで乾燥して化学式A18の化合物(CA2)を約93重量%の収率で得た。得られた化学式A18の化合物(CA2)に対する
1H-NMR分析結果を
図4に示した。
【0184】
【0185】
上記化学式A18で、nは約3である。
【0186】
実施例1
製造例1の化合物(PN1)100重量部と前記化合物(PN1)の1モルに対して約0.18モルの製造例3の化合物(CA1)を混合してバインダーを準備した。
【0187】
前記バインダー100重量部に対して、21.4重量部の黒鉛(製造社:Samchun chemicals、粒径100μm以下のパウダー)、14.2重量部の二硫化タングステン(WS2、製造社:Zerofriction、粒径800nm)、および7.14重量部のポリテトラフルオロエチレン(PTFE、製造社:DuPont、粒径4μm)を添加した後によく混合して樹脂複合体を製造した。
【0188】
実施例2
製造例1の化合物(PN1)100重量部と前記化合物(PN1)の1モルに対して約0.18モルの製造例3の化合物(CA1)を混合してバインダーを準備した。
【0189】
前記バインダー100重量部に対して、21.4重量部の黒鉛(製造社:Samchun chemicals、粒径100μm以下のパウダー)、7.1重量部の二硫化モリブデン(MoS2、製造社:Sigma-Aldrich、粒径2μm)、および14.2重量部の粉砕炭素繊維(mCF、製造社:Zoltek、長さ100μm)を添加した後によく混合して樹脂複合体を製造した。
【0190】
実施例3
製造例1の化合物(PN1)100重量部と前記化合物(PN1)の1モルに対して約0.18モルの製造例3の化合物(CA1)を混合してバインダーを準備した。
【0191】
前記バインダー100重量部に対して、23.1重量部の黒鉛(製造社:Samchun chemicals、粒径100μm以下のパウダー)、15.4重量部の二硫化タングステン(WS2、製造社:Zerofriction、粒径800nm)、および15.4重量部のポリテトラフルオロエチレン(PTFE、製造社:DuPont、粒径4μm)を添加した後によく混合して樹脂複合体を製造した。
【0192】
比較例1
製造例1の化合物(PN1)100重量部と前記化合物(PN1)の1モルに対して約0.18モルの製造例3の化合物(CA1)を混合してバインダーを準備した。
【0193】
前記バインダー100重量部に対して、17.6重量部の黒鉛(製造社:Samchun chemicals、粒径100μm以下のパウダー)を添加した後によく混合して樹脂複合体を製造した。
【0194】
比較例2
製造例1の化合物(PN1)100重量部と前記化合物(PN1)の1モルに対して約0.18モルの製造例3の化合物(CA1)を混合してバインダーを準備した。
【0195】
前記バインダー100重量部に対して、20.0重量部の黒鉛(製造社:Samchun chemicals、粒径100μm以下のパウダー)および13.3重量部のポリテトラフルオロエチレン(PTFE、製造社:DuPont、粒径4μm)を添加した後によく混合して樹脂複合体を製造した。
【0196】
比較例3
製造例1の化合物(PN1)100重量部と前記化合物(PN1)の1モルに対して約0.18モルの製造例3の化合物(CA1)を混合してバインダーを準備した。
【0197】
前記バインダー100重量部に対して、20.0重量部の黒鉛(製造社:Samchun chemicals、粒径100μm以下のパウダー)および13.3重量部の二硫化タングステン(WS2、製造社:Zerofriction、粒径800nm)を添加した後によく混合して樹脂複合体を製造した。
【0198】
比較例4
製造例1の化合物(PN1)100重量部と前記化合物(PN1)の1モルに対して約0.18モルの製造例3の化合物(CA1)を混合してバインダーを準備した。
【0199】
前記バインダー100重量部に対して、18.8重量部の黒鉛(製造社:Samchun chemicals、粒径100μm以下のパウダー)および6.3重量部の二硫化モリブデン(MoS2、製造社:Sigma-Aldrich、粒径2μm)を添加した後によく混合して樹脂複合体を製造した。
【0200】
比較例5
製造例1の化合物(PN1)100重量部と前記化合物(PN1)の1モルに対して約0.18モルの製造例3の化合物(CA1)を混合してバインダーを準備した。
【0201】
前記バインダー100重量部に対して、20.0重量部の黒鉛(製造社:Samchun chemicals、粒径100μm以下のパウダー)および13.3重量部の粉砕炭素繊維(mCF、製造社:Zoltek、長さ100μm)を添加した後によく混合して樹脂複合体を製造した。
【0202】
比較例6
DuPont社の低摩擦Grade製品であるVespel SP-21を商業的に入手して使用した。前記Vespel SP-21は、ポリイミド樹脂に黒鉛15重量%(PI樹脂100重量部基準黒鉛17.6重量部)を含有していると知られている。
【0203】
比較例7
Victrex社の低摩擦Grade製品であるPEEK 450FC30を商業的に入手して使用した。前記PEEK 450FC30は、ポリエーテルエーテルケトン(PolyEtherEtherKetone)樹脂100重量部に対して30重量部のフィラー(炭素繊維、黒鉛およびPTFEの混合物)を含有していると知られている。
【0204】
参考例1
製造例1の化合物(PN1)100重量部と前記化合物(PN1)の1モルに対して約0.18モルの製造例3の化合物(CA1)を混合してバインダーを準備した。
【0205】
前記バインダー100重量部に対して、21.4重量部の二硫化モリブデン(MoS2、製造社:Sigma-Aldrich、粒径2μm)、14.2重量部の二硫化タングステン(WS2、製造社:Zerofriction、粒径800nm)、および7.14重量部のポリテトラフルオロエチレン(PTFE、製造社:DuPont、粒径4μm)を添加した後によく混合して樹脂複合体を製造した。
【0206】
参考例2
製造例1の化合物(PN1)100重量部と前記化合物(PN1)の1モルに対して約0.18モルの製造例3の化合物(CA1)を混合してバインダーを準備した。
【0207】
前記バインダー100重量部に対して、21.4重量部の粉砕炭素繊維(mCF、製造社:Zoltek、長さ100μm)、14.2重量部の二硫化タングステン(WS2、製造社:Zerofriction、粒径800nm)、および7.14重量部のポリテトラフルオロエチレン(PTFE、製造社:DuPont、粒径4μm)を添加した後によく混合して樹脂複合体を製造した。
【0208】
試験例
前記実施例および比較例で製造したそれぞれの樹脂複合体を240℃で溶融させて5分間攪拌してプレポリマーを製造した。
【0209】
前記プレポリマーをモールドに入れて溶融させた後、200℃で2時間、250℃で2時間、300℃で2時間、および350℃で2時間の条件で硬化してASTM D3702規格によるスラストワッシャー(thrust washer)試片を製造した。前記比較例5および6の製品は切削加工してASTM D3702規格によるスラストワッシャー試片に製造した。
【0210】
相対材炭素鋼としてはS45Cを準備した。S45Cは、JIS G4053規格によって0.45%の炭素が含有された鋼(steel)材料である機械構造用炭素鋼材である。
【0211】
摩擦係数測定器(TE92、Phoenix社製造)を用いてASTM D3702規格によって前記試片に対する摩擦係数および摩耗率を測定した。その結果を下記表1および表2に示した。
【0212】
-PV Value1:2.3MPa・m/s(圧力(P):1.63MPa(16bar、220N)、回転速度(V):1.41m/s(1000rpm))
-PV Value2:4.6MPa・m/s(圧力(P):1.63MPa(16bar、220N)、回転速度(V):2.82m/s(1000rpm))
-時間(Time):1200s
-無潤滑条件(Unlubricated conditions)
-潤滑条件(Lubricated conditions)(自動車用潤滑油、販売社:HYUNDAI MOBIS、製品名:ATF SP-III)
【0213】
【0214】
【0215】
上記表1を参照すれば、実施例1~3による試片は比較例1~5の試片に比べて低い摩擦係数または低い摩耗率を示したことが確認される。
【0216】
特に、実施例1、3および比較例3を通じて確認されるように、フィラーとして黒鉛および二硫化タングステンを適用した場合にはポリテトラフルオロエチレンを共に適用する時に摩擦特性が顕著に改善された。
【0217】
そして、実施例2および比較例4を通じて確認されるように、フィラーとして黒鉛および二硫化モリブデンを適用した場合には粉砕炭素繊維と共に適用する時に摩擦特性が顕著に改善された。