(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】銅粉およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/08 20060101AFI20220314BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220314BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20220314BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20220314BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20220314BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20220314BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
B22F9/08 A
B22F1/00 L
B22F7/04 D
H01B1/00 F
H01B1/22 A
H01B5/00 F
H01B13/00 501Z
H01B13/00 503C
(21)【出願番号】P 2017242314
(22)【出願日】2017-12-19
【審査請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2016255186
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 健一
(72)【発明者】
【氏名】江原 厚志
(72)【発明者】
【氏名】道明 良幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄大
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-059253(JP,A)
【文献】特開2008-095169(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157762(WO,A1)
【文献】特開2012-140661(JP,A)
【文献】特開平08-003486(JP,A)
【文献】特開平11-264001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/08
B22F 1/00
B22F 7/04
H01B 1/00
H01B 1/22
H01B 5/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅の融点より250~700℃高い温度に加熱した銅溶湯を落下させながら、非酸化性雰囲気中において純水またはアルカリ水からなる高圧水を
水圧60~180MPaで吹き付けて急冷凝固させることにより、銅と酸素と不可避不純物のみからなる銅粉を製造することを特徴とする、銅粉の製造方法。
【請求項2】
前記加熱が非酸化性雰囲気中において行われることを特徴とする、請求項1に記載の銅粉の製造方法。
【請求項3】
銅と酸素と不可避不純物のみからなり、平均粒径が1~10μm、(200)面における結晶子径Dx
(200)が40nm以上であり、酸素含有量が0.7質量%以下であることを特徴とする、銅粉。
【請求項4】
前記銅粉の円形度係数が0.80~0.94であることを特徴とする、請求項
3に記載の銅粉。
【請求項5】
前記銅粉のBET比表面積に対する酸素含有量の比が2.0質量%・g/m
2以下であることを特徴とする、請求項
3または
4に記載の銅粉。
【請求項6】
前記銅粉の(111)面における結晶子径Dx
(111)が130nm以上であることを特徴とする、請求項
3乃至
5のいずれかに記載の銅粉。
【請求項7】
前記銅粉の熱機械的分析における収縮率1.0%のときの温度が580℃以上であることを特徴とする、請求項
3乃至
6のいずれかに記載の銅粉。
【請求項8】
請求項
3乃至
7のいずれかに記載の銅粉が有機成分中に分散していることを特徴とする、導電性ペースト。
【請求項9】
前記導電性ペーストが焼成型導電性ペーストであることを特徴とする、請求項
8に記載の導電性ペースト。
【請求項10】
請求項
9の焼成型導電性ペーストを基板上に塗布した後に焼成して導電膜を製造することを特徴とする、導電膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅粉およびその製造方法に関し、特に、焼成型導電性ペーストの材料として使用するのに適した銅粉およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導体回路や電極の接点部材を形成する焼成型導電性ペーストの材料として、銅粉などの金属粉末が使用されている。
【0003】
焼成型導電性ペーストの材料として銅粉を使用して、セラミック基板や誘電体層上に導体回路や電極の接点部材を形成すると、銅粉の焼結温度とセラミックの収縮や誘電体の焼結が起こる温度との差が大き過ぎるため、導電性ペーストを焼成して銅層を形成する際に、導電性ペーストとセラミック基板や誘電体層との間の収縮速度に差が生じて、銅層がセラミック基板や(誘電体の焼結により形成された)セラミック層から剥離したり、銅層にクラックが生じるなどの問題がある。そのため、焼成型導電性ペーストの材料として銅粉を使用して、セラミック基板や誘電体層上に導体回路や電極の接点部材を形成する場合には、導電性ペーストを焼成して銅層を形成する際に導電性ペーストとセラミック基板や誘電体層との間の収縮速度の差を小さくするのが望ましい。このように導電性ペーストとセラミック基板や誘電体層との間の収縮速度の差を小さくするためには、加熱したときの収縮開始温度が高い銅粉を導電性ペーストの材料として使用するのが望ましい。
【0004】
導電性ペーストの材料として使用する金属粉末の製造方法として、水ジェット圧力を60MPaより高く且つ180MPa以下にし、水ジェット流量を80~190L/分、水ジェット頂角を10~30°にして、水アトマイズ法により銅粉などの金属粉末を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、溶融状態の銅にアンモニアを含むガスを吹き当てて、BET径が3μm以下、真球状で且つ結晶子サイズが0.1~10μmである金属銅微粒子を製造する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-141817号公報(段落番号0009)
【文献】特開2004-124257号公報(段落番号0014-0017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法によって製造された銅粉を焼成型導電性ペーストの材料として使用する場合、薄い銅層を形成するために、銅粉の粒子径を小さくすると、酸素含有量が高くなり易くなるため、加熱したときの収縮開始温度が低下し易く、導電性ペーストとセラミック基板や誘電体層との間の収縮速度の差が大きくなり易くなる。また、特許文献2の方法では、上方に設けたノズルから、溶融状態の銅表面にアンモニアを含むガスを吹き付けて、生成した微粒子をフィルターで捕集することによって、真球状の金属銅微粒子を製造しているため、一般的なアトマイズ法に比べて、金属銅微粒子の製造速度が遅くなり、収率も低くなり、また、他の形状に比べて金属銅微粒子同士の接点が少なくなって導電性が低下し易くなり、また、アンモニアを含むガスを吹き当てる必要があるため、製造コストが高くなる。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、粒子径が小さくても酸素含有量が低く且つ加熱したときの収縮開始温度が高い安価な銅粉およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、銅の融点より250~700℃高い温度に加熱した銅溶湯を落下させながら、非酸化性雰囲気中において高圧水を吹き付けて急冷凝固させることにより、粒子径が小さくても酸素含有量が低く且つ加熱したときの収縮開始温度が高い安価な銅粉を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明による銅粉の製造方法は、銅の融点より250~700℃高い温度に加熱した銅溶湯を落下させながら、非酸化性雰囲気中において高圧水を吹き付けて急冷凝固させることを特徴とする。
【0010】
この銅粉の製造方法において、銅溶湯の加熱が非酸化性雰囲気中において行われるのが好ましい。また、高圧水が純水またはアルカリ水であるのが好ましく、高圧水が水圧60~180MPaで吹き付けられるのが好ましい。
【0011】
また、本発明による銅粉は、平均粒径が1~10μm、(200)面における結晶子径Dx(200)が40nm以上であり、酸素含有量が0.7質量%以下であることを特徴とする。
【0012】
この銅粉の円形度係数が0.80~0.94であるのが好ましく、銅粉のBET比表面積に対する酸素含有量の比が2.0質量%・g/m2以下であるのが好ましい。また、銅粉の(111)面における結晶子径Dx(111)が130nm以上であるのが好ましく、銅粉の熱機械的分析における収縮率1.0%のときの温度が580℃以上であるのが好ましい。
【0013】
また、本発明による導電性ペーストは、上記の銅粉が有機成分中に分散していることを特徴とする。この導電性ペーストは、焼成型導電性ペーストであるのが好ましい。
【0014】
さらに、本発明による導電膜の製造方法は、上記の焼成型導電性ペーストを基板上に塗布した後に焼成して導電膜を製造することを特徴とする。
【0015】
なお、本明細書中において、「平均粒径」とは、(ヘロス法によって)レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50径)をいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粒子径が小さくても酸素含有量が低く且つ加熱したときの収縮開始温度が高い安価な銅粉を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例および比較例の銅粉の熱機械的分析(TMA)における温度に対する膨張率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による銅粉の製造方法の実施の形態では、銅の融点より250~700℃(好ましくは350~700℃、さらに好ましくは450~700℃)高い温度に加熱した銅溶湯を落下させながら、(窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、水素雰囲気、一酸化炭素雰囲気などの)非酸化性雰囲気中において高圧水を吹き付けて急冷凝固させる。高圧水を吹き付ける、所謂水アトマイズ法により銅粉を製造すると、粒子径が小さい銅粉を得ることができる。なお、所謂ガスアトマイズ法では、水アトマイズ法と比べて、粉砕力が劣るため、粒子径が小さい銅粉を(十分な収率で)得ることが困難である。また、銅は酸化し易いため、酸素が存在する雰囲気中でアトマイズすると、水アトマイズ法により製造した銅粉中の酸素含有量が高くなり易く、導電性が低下し易く、加熱したときの収縮開始温度が低くなり易いという問題があるが、(窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、水素雰囲気、一酸化炭素雰囲気などの)非酸化性雰囲気中において高圧水を吹き付けて銅粉を製造することによって、酸素含有量を低下させることができる。さらに、銅の融点より250~700℃高い温度に加熱した銅溶湯を使用することにより、銅粉の結晶子径を大きくすることができ、加熱したときの収縮開始温度を高くすることができる。
【0019】
この銅粉の製造方法において、銅溶湯の加熱は、(窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、水素雰囲気、一酸化炭素雰囲気などの)非酸化性雰囲気中において行われるのが好ましい。(窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、水素雰囲気、一酸化炭素雰囲気などの)非酸化性雰囲気中において銅を溶解して水アトマイズ法により銅粉を製造することによって、酸素含有量を低下させることができる。また、銅粉中の酸素含有量を低下させるために、溶湯にカーボンブラックや木炭などの還元剤を添加してもよい。
【0020】
また、高圧水は、銅の腐食を防止するために、純水またはアルカリ水であるのが好ましく、pH8~12のアルカリ水であるのがさらに好ましい。また、高圧水を吹き付ける水圧は、(粒径の小さい銅粉を製造するために)高くする方がよく、好ましくは60~180MPa、さらに好ましくは80~180MPa、最も好ましくは90~180MPaである。
【0021】
このように高圧水を吹き付けて急冷凝固させて得られたスラリーを固液分離し、得られた固形物を乾燥して銅粉を得ることができる。なお、必要に応じて、固液分離により得られた固形物を乾燥する前に水洗してもよいし、乾燥した後に解砕したり、分級して、粒度を調整してもよい。
【0022】
このような銅粉の製造方法の実施の形態により、本発明による銅粉の実施の形態を短い製造時間で且つ安い製造コストで製造することができる。
【0023】
本発明による銅粉の実施の形態は、平均粒径が1~10μm、(200)面における結晶子径Dx(200)が40nm以上であり、酸素含有量が0.7質量%以下である。このように、平均粒径が小さく、結晶子径が大きく且つ酸素含有量が少ない銅粉は、加熱したときの収縮開始温度が高くなる。なお、銅粉は、不可避不純物として、酸素の他に、微量の鉄、ニッケル、ナトリウム、カリウム、カルシウム、炭素、窒素、リン、ケイ素、塩素などを含んでもよい。
【0024】
銅粉の平均粒径は、1~10μmであり、1.2~7μmであるのが好ましく、1.5~5.5μmであるのが最も好ましく、導電性ペーストの材料として使用する場合に、薄い銅層を形成することができるように、平均粒径が小さいのが好ましい。この銅粉の形状は、(水アトマイズ法により製造すると丸くなるが)真球ほど丸くはなく、円形度係数が、0.80~0.94であるのが好ましく、0.88~0.93であるのがさらに好ましい。このような円形度係数であれば、真球と比べて銅粉粒子同士の接点が増加して、導電性が良好になる。なお、所謂ガスアトマイズ法では、水アトマイズ法と比べて、溶湯のアトマイズによる冷却凝固が緩徐に起こるため、真球に近い、非常に円形度の高い銅粉が得られ、所望の円形度(円形度係数が好ましくは0.80~0.94)の銅粉を製造することが困難である。
【0025】
銅粉のBET比表面積は、0.1~3m2/gであるのが好ましく、0.2~2.5m2/gであるのがさらに好ましい。銅粉中の酸素含有量は、0.7質量%以下であり、0.4質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%以下であるのがさらに好ましい。このように銅粉中の酸素含有量を低くすることにより、加熱したときの収縮開始温度を高くすることができ、導電性を向上させることができる。銅粉のBET比表面積に対する酸素含有量の比は、2.0質量%・g/m2以下であるのが好ましく、0.2~0.8質量%・g/m2であるのがさらに好ましい。銅粉のタップ密度は、2~7g/cm3であるのが好ましく、3~6g/cm3であるのがさらに好ましい。銅粉中の炭素含有量は、0.5質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%以下であるのがさらに好ましい。銅粉中の炭素含有量が低いと、焼成型導電性ペーストの材料として使用した場合に、導電性ペーストの焼成時にガスの発生を抑制して、導電膜と基材との密着性の低下を抑制するとともに、導電膜にクラックが生じるのを抑制することができる。
【0026】
銅粉の(200)面における結晶子径Dx(200)は、40nm以上であり、42~90nmであるのが好ましく、45~85nmであるのがさらに好ましい。銅粉の(111)面における結晶子径Dx(111)は、130nm以上であるのが好ましく、133~250nmであるのがさらに好ましい。銅粉の(220)面における結晶子径Dx(220)は、40nm以上であるのが好ましく、40~70nmであるのがさらに好ましい。このように結晶子径Dxを大きくすることにより、加熱したときの収縮開始温度を高くすることができる。
【0027】
銅粉の熱機械的分析における収縮率1.0%のときの温度は、580℃以上であるのが好ましく、610~700℃であるのがさらに好ましい。収縮率0.5%のときの温度は、500℃以上であるのが好ましく、600~700℃であるのがさらに好ましい。収縮率1.5%のときの温度は、590℃以上であるのが好ましく、620~700℃であるのがさらに好ましい。収縮率6.0%のときの温度は、680℃以上であるのが好ましく、700~850℃であるのがさらに好ましい。
【0028】
本発明による銅粉の実施の形態は、(銅粉を有機成分中に分散させた)導電性ペーストの材料などに使用することができる。特に、本発明による銅粉の実施の形態は、収縮開始温度が高いことから、焼成温度が高い(好ましくは600~1000℃程度の高温で焼成する)焼成型導電性ペーストの材料として使用するのが好ましい。なお、本発明による銅粉の実施の形態は、(円形度係数が好ましくは0.80~0.94であり)真球ほど丸い形状ではないので、焼成型導電性ペーストの材料として使用した場合に、真球と比べて銅粉粒子同士の接点が多くなり、導電性に優れた導電膜を形成することができる。また、導電性ペーストの材料として、本発明による銅粉の実施の形態を形状や粒径が異なる他の金属粉末と混合して使用してもよい。
【0029】
本発明による銅粉の実施の形態を(焼成型導電性ペーストなどの)導電性ペーストの材料として使用する場合、導電性ペーストの構成要素として、銅粉と、(飽和脂肪族炭化水素類、不飽和脂肪族炭化水素類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類、エステル類、アルコール類などの)有機溶剤が含まれる。また、必要に応じて、(エチルセルロースやアクリル樹脂などの)バインダ樹脂を有機溶剤に溶解したビヒクル、ガラスフリット、無機酸化物、分散剤などを含んでもよい。
【0030】
導電性ペースト中の銅粉の含有量は、導電性ペーストの導電性および製造コストの観点から、5~98質量%であるのが好ましく、70~95質量%であるのがさらに好ましい。また、導電性ペースト中の銅粉は、(銀粉、銀と錫の合金粉末、錫粉などの)1種以上の他の金属粉末と混合して使用してもよい。この金属粉末は、本発明による銅粉の実施の形態と形状や粒径が異なる金属粉末でもよい。この金属粉末の平均粒径は、薄い導電膜を形成するために、0.5~20μmであるのが好ましい。また、この金属粉末の導電性ペースト中の含有量は、1~94質量%であるのが好ましく、4~29質量%であるのがさらに好ましい。なお、導電性ペースト中の銅粉と金属粉末の含有量の合計は、60~99質量%であるのが好ましい。また、導電性ペースト中のバインダ樹脂の含有量は、導電性ペースト中の銅粉の分散性や導電性ペーストの導電性の観点から、0.1~10質量%であるのが好ましく、0.1~6質量%であるのがさらに好ましい。このバインダ樹脂を有機溶剤に溶解したビヒクルは、2種以上を混合して使用してもよい。また、導電性ペースト中のガラスフリットの含有量は、導電性ペーストの焼結性の観点から、0.1~20質量%であるのが好ましく、0.1~10質量%であるのがさらに好ましい。このガラスフリットは、2種以上を混合して使用してもよい。また、導電性ペースト中の有機溶剤の含有量(導電性ペースト中にビヒクルが含まれる場合は、ビヒクルの有機溶剤を含む含有量)は、導電性ペースト中の銅粉の分散性や導電性ペーストの適切な粘度を考慮して、0.8~20質量%であるのが好ましく、0.8~15質量%であるのがさらに好ましい。この有機溶剤は、2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
このような導電性ペーストは、例えば、各構成要素を計量して所定の容器に入れ、らいかい機、万能攪拌機、ニーダーなどを用いて予備混練した後、3本ロールで本混練することによって作製することができる。また、必要に応じて、その後、有機溶剤を添加して、粘度調整を行ってもよい。また、ガラスフリットや無機酸化物とビヒクルのみを本混練して粒度を下げた後、最後に銅粉を追加して本混練してもよい。
【0032】
この導電性ペーストをディッピングや(メタルマスク印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などの)印刷などにより(セラミック基板や誘電体層などの)基板上に所定パターン形状に塗布した後に焼成して導電膜を形成することができる。導電性ペーストをディッピングにより塗布する場合には、導電性ペースト中に基板をディッピングして塗膜を形成し、レジストを利用したフォトリソグラフィなどにより塗膜の不要な部分を除去することによって、基板上に所定パターン形状の塗膜を形成することができる。
【0033】
基板上に塗布した導電性ペーストの焼成は、大気雰囲気下で行ってもよいし、(窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、水素雰囲気、一酸化炭素雰囲気などの)非酸化性雰囲気下で行ってもよい。なお、導電性ペーストの焼成温度は、600~1000℃程度であるのが好ましく、700~900℃程度であるのがさらに好ましい。また、導電性ペーストの焼成の前に、真空乾燥などにより予備乾燥を行うことにより、導電性ペースト中の有機溶剤などの揮発成分を除去してもよい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明による銅粉およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
[実施例1]
【0035】
無酸素銅ボールを窒素雰囲気中において1600℃に加熱して溶解した溶湯を窒素雰囲気中においてタンディッシュ下部から落下させながら、水圧101MPa、水量161L/分で高圧水(pH10.3のアルカリ水)を吹き付けて急冷凝固させ、得られたスラリーを固液分離し、固形物を水洗し、乾燥し、解砕し、風力分級して、銅粉を得た。
【0036】
このようにして得られた銅粉について、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量および粒度分布を求めた。
【0037】
BET比表面積は、BET比表面積測定器(ユアサアイオニクス株式会社製の4ソーブUS)を使用して、測定器内に105℃で20分間窒素ガスを流して脱気した後、窒素とヘリウムの混合ガス(N2:30体積%、He:70体積%)を流しながら、BET1点法により測定した。その結果、BET比表面積は0.30m2/gであった。
【0038】
タップ密度(TAP)は、特開2007-263860号公報に記載された方法と同様に、内径6mm×高さ11.9mmの有底円筒形のダイにその容積の80%まで銅粉を充填して銅粉層を形成し、この銅粉層の上面に0.160N/m2の圧力を均一に加えてこれ以上銅粉が密に充填されなくなるまで圧縮した後、銅粉層の高さを測定し、この銅粉層の高さの測定値と、充填された銅粉の重量とから、銅粉の密度を求めて、この密度を銅粉のタップ密度とした。その結果、タップ密度は4.8g/cm3であった。
【0039】
酸素含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(株式会社堀場製作所製のEMGA-920)により測定した。その結果、酸素含有量は0.12質量%であった。また、銅粉のBET比表面積に対する酸素含有量の比(O/BET)を算出したところ、0.39質量%・g/m2であった。
【0040】
炭素含有量は、炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製のEMIA-220V)により測定した。その結果、炭素含有量は0.004質量%であった。
【0041】
粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS(気流式の乾燥モジュール)))により分散圧5barで測定した。その結果、累積10%粒子径(D10)は1.3μm、累積50%粒子径(D50)は3.7μm、累積90%粒子径(D90)は8.2μmであった。
【0042】
また、得られた銅粉について、X線回折装置(株式会社リガク製のRINT-2100型)により、X線源としてCo管球を使用して48~92°/2θの範囲を測定して、X線回折(XRD)測定を行った。このX線回折測定により得られたX線回折パターンから、Scherrerの式(Dhkl=Kλ/βcosθ)によって結晶子径(Dx)を求めた。この式中、Dhklは結晶子径の大きさ(hklに垂直な方向の結晶子の大きさ)(オングストローム)、λは測定X線の波長(オングストローム)(Coターゲット使用時178.892オングストローム)、βは結晶子の大きさによる回折線の広がり(rad)(半価幅を用いて表す)、θは回折角のブラッグ角(rad)(入射角と反射角が等しいときの角度であり、ピークトップの角度を使用する)、KはScherrer定数(Dやβの定義などにより異なるが、K=0.9とする)である。なお、計算には(111)面と(200)面と(220)面の各々の面のピークデータを使用した。その結果、結晶子径(Dx)は、(111)面で200.7nm、(200)面で68.5nm、(220)面で59.0nmであった。
【0043】
また、得られた銅粉の(倍率5000倍の)電子顕微鏡写真の視野内で選択した任意の100個の銅粉粒子のそれぞれの円形度係数を求めて、その平均値を求めたところ、円形度係数の平均値は0.90であった。なお、円形度係数とは、粒子の形状が円形からどれだけ離れているかを表すパラメータであり、円形度係数=(4πS)/(L2)(但し、Sは粒子の面積、Lは粒子の周囲長)で定義され、粒子の形状が円形のときに円形度係数が1になり、円形から離れるにしたがって1より小さくなっていく。
【0044】
また、得られた銅粉の熱機械的分析(TMA)として、銅粉を直径5mm、高さ3mmのアルミナパンに詰めて、熱機械的分析(TMA)装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製のTMA/SS6200)の試料ホルダ(シリンダ)にセットし、測定プローブにより荷重0.147Nで1分間押し固めて作製した測定試料について、200mL/分の流量で窒素ガスを流入しながら、測定荷重980mNで荷重を付与して、常温から昇温速度10℃/分で900℃まで昇温し、測定試料の収縮率(常温のときの測定試料の長さに対する収縮率)を測定した。その結果、収縮率0.5%(膨張率-0.5%)のときの温度は606℃、収縮率1.0%(膨張率-1.0%)のときの温度は622℃、収縮率1.5%(膨張率-1.5%)のときの温度は634℃、収縮率6.0%(膨張率-6.0%)のときの温度は735℃であった。
【0045】
[実施例2]
水圧を106MPa、水量を165L/分とした以外は、実施例1と同様の方法により、得られた銅粉について、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量、粒度分布、結晶子径(Dx)および円形度係数の平均値を求めるとともに、銅粉の熱機械的分析(TMA)を行った。
【0046】
その結果、BET比表面積は0.28m2/g、タップ密度4.9g/cm3であった。また、酸素含有量は0.12質量%、銅粉のBET比表面積に対する酸素含有量の比(O/BET)は0.43質量%・g/m2であり、炭素含有量は0.004質量%であった。また、累積10%粒子径(D10)は1.4μm、累積50%粒子径(D50)は3.8μm、累積90%粒子径(D90)は7.9μmであった。また、結晶子径(Dx)は、(111)面で136.9nm、(200)面で47.2nm、(220)面で44.8nmであり、円形度係数の平均値は0.92であった。また、熱機械的分析(TMA)において、収縮率0.5%(膨張率-0.5%)のときの温度は640℃、収縮率1.0%(膨張率-1.0%)のときの温度は659℃、収縮率1.5%(膨張率-1.5%)のときの温度は677℃、収縮率6.0%(膨張率-6.0%)のときの温度は788℃であった。
【0047】
[実施例3]
水圧を105MPa、水量を163L/分とした以外は、実施例1と同様の方法により、得られた銅粉について、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量、粒度分布、結晶子径(Dx)および円形度係数の平均値を求めるとともに、銅粉の熱機械的分析(TMA)を行った。
【0048】
その結果、BET比表面積は0.31m2/g、タップ密度4.8g/cm3であった。また、酸素含有量は0.12質量%、銅粉のBET比表面積に対する酸素含有量の比(O/BET)は0.38質量%・g/m2であり、炭素含有量は0.007質量%であった。また、累積10%粒子径(D10)は1.4μm、累積50%粒子径(D50)は3.7μm、累積90%粒子径(D90)は6.8μmであった。結晶子径(Dx)は、(111)面で140.1nm、(200)面で50.2nm、(220)面で46.2nmであり、円形度係数の平均値は0.92であった。また、熱機械的分析(TMA)において、収縮率0.5%(膨張率-0.5%)のときの温度は627℃、収縮率1.0%(膨張率-1.0%)のときの温度は642℃、収縮率1.5%(膨張率-1.5%)のときの温度は663℃、収縮率6.0%(膨張率-6.0%)のときの温度は753℃であった。
【0049】
[実施例4]
無酸素銅ボールを1500℃に加熱して溶解した溶湯を使用し、水圧を111MPa、水量を165L/分とした以外は、実施例1と同様の方法により、得られた銅粉について、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量、粒度分布、結晶子径(Dx)および円形度係数の平均値を求めるとともに、銅粉の熱機械的分析(TMA)を行った。
【0050】
その結果、BET比表面積は0.32m2/g、タップ密度4.8g/cm3であった。また、酸素含有量は0.13質量%、銅粉のBET比表面積に対する酸素含有量の比(O/BET)は0.41質量%・g/m2であり、炭素含有量は0.005質量%であった。また、累積10%粒子径(D10)は1.3μm、累積50%粒子径(D50)は3.5μm、累積90%粒子径(D90)は7.0μmであった。結晶子径(Dx)は、(111)面で129.0nm、(200)面で59.3nm、(220)面で61.9nmであり、円形度係数の平均値は0.92であった。また、熱機械的分析(TMA)において、収縮率0.5%(膨張率-0.5%)のときの温度は597℃、収縮率1.0%(膨張率-1.0%)のときの温度は608℃、収縮率1.5%(膨張率-1.5%)のときの温度は617℃、収縮率6.0%(膨張率-6.0%)のときの温度は687℃であった。
【0051】
[実施例5]
無酸素銅ボールを大気雰囲気中において1617℃に加熱して溶解した溶湯を使用し、水圧を104MPa、水量を166L/分とした以外は、実施例1と同様の方法により、得られた銅粉について、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量、粒度分布、結晶子径(Dx)および円形度係数の平均値を求めるとともに、銅粉の熱機械的分析(TMA)を行った。
【0052】
その結果、BET比表面積は0.33m2/g、タップ密度4.9g/cm3であった。また、酸素含有量は0.15質量%、銅粉のBET比表面積に対する酸素含有量の比(O/BET)は0.46質量%・g/m2であり、炭素含有量は0.007質量%であった。また、累積10%粒子径(D10)は1.3μm、累積50%粒子径(D50)は3.7μm、累積90%粒子径(D90)は8.0μmであった。結晶子径(Dx)は、(111)面で160.3nm、(200)面で65.8nm、(220)面で66.7nmであり、円形度係数の平均値は0.90であった。また、熱機械的分析(TMA)において、収縮率0.5%(膨張率-0.5%)のときの温度は632℃、収縮率1.0%(膨張率-1.0%)のときの温度は652℃、収縮率1.5%(膨張率-1.5%)のときの温度は673℃、収縮率6.0%(膨張率-6.0%)のときの温度は811℃であった。
【0053】
[比較例1]
無酸素銅ボールを1200℃に加熱して溶解した溶湯を使用し、水圧を100MPa、水量を160L/分とした以外は、実施例1と同様の方法により、得られた銅粉について、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量、粒度分布、結晶子径(Dx)および円形度係数の平均値を求めるとともに、銅粉の熱機械的分析(TMA)を行った。
【0054】
その結果、BET比表面積は0.34m2/g、タップ密度4.6g/cm3であった。また、酸素含有量は0.14質量%、銅粉のBET比表面積に対する酸素含有量の比(O/BET)は0.41質量%・g/m2であり、炭素含有量は0.007質量%であった。また、累積10%粒子径(D10)は1.3μm、累積50%粒子径(D50)は3.5μm、累積90%粒子径(D90)は6.3μmであった。結晶子径(Dx)は、(111)面で108.3nm、(200)面で39.9nm、(220)面で37.0nmであり、円形度係数の平均値は0.89であった。また、熱機械的分析(TMA)において、収縮率0.5%(膨張率-0.5%)のときの温度は425℃、収縮率1.0%(膨張率-1.0%)のときの温度は461℃、収縮率1.5%(膨張率-1.5%)のときの温度は507℃であった。
【0055】
[比較例2]
無酸素銅ボールを窒素雰囲気中において1600℃に加熱して溶解した溶湯を大気雰囲気中においてタンディッシュ下部から落下させながら、水圧117MPa、水量166L/分で高圧水(pH10.2のアルカリ水)を吹き付けて急冷凝固させ、得られたスラリーを固液分離し、固形物を水洗し、乾燥し、解砕し、風力分級して、銅粉を得た。
【0056】
このようにして得られた銅粉について、実施例1と同様の方法により、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量、粒度分布、結晶子径(Dx)および円形度係数の平均値を求めるとともに、銅粉の熱機械的分析(TMA)を行った。
【0057】
その結果、BET比表面積は0.37m2/g、タップ密度4.5g/cm3であった。また、酸素含有量は0.76質量%、銅粉のBET比表面積に対する酸素含有量の比(O/BET)は2.04質量%・g/m2であり、炭素含有量は0.006質量%であった。また、累積10%粒子径(D10)は1.7μm、累積50%粒子径(D50)は3.3μm、累積90%粒子径(D90)は6.9μmであった。結晶子径(Dx)は、(111)面で130.8nm、(200)面で52.5nm、(220)面で55.9nmであり、円形度係数の平均値は0.93であった。また、熱機械的分析(TMA)において、収縮率0.5%(膨張率-0.5%)のときの温度は351℃、収縮率1.0%(膨張率-1.0%)のときの温度は522℃、収縮率1.5%(膨張率-1.5%)のときの温度は556℃、収縮率6.0%(膨張率-6.0%)のときの温度は671℃であった。
【0058】
これらの実施例および比較例の銅粉の製造条件および特性を表1~表3に示し、銅粉のTMAにおける温度に対する膨張率の関係を
図1および
図2に示し、銅粉の(倍率5000倍の)電子顕微鏡写真を
図3~
図9に示す。
【0059】
【0060】
【0061】