(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】球面内径測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 5/12 20060101AFI20220314BHJP
【FI】
G01B5/12
(21)【出願番号】P 2018037193
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】池村 幸夫
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-233504(JP,A)
【文献】特開昭59-180302(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0184389(US,A1)
【文献】米国特許第5848479(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00-5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面が球面の被測定物の内面を手持ちで測定可能な球面内径測定装置において、
測定者が一方の手で把持可能な把持部と、把持部から延びる測定球部とを有し、
前記測定球部は、互いに背面対向し、それぞれの外面に被測定物の内面と接触する球状の測定子が設けられた1対の測定子部と、
前記1対の測定子部に直交配置され互いに背面対向し、それぞれの外面に被測定物の内面に対向する球面ガイドを有する1対の球面ガイド部と、
前記1対の測定子部間に配置された測長手段と、を備え、
前記球面ガイド部は、前記球面内径測定装置に固定された固定側球面ガイド部と、前記球面内径測定装置の軸に直角な方向に移動可能な可動側球面ガイド部と、から構成されており、
前記把持部を操作して前記可動側球面ガイド部を可動させるのと同期して前記測定子部をこの球面内径測定装置の軸に直角な方向に動かす同期移動機構を設けたことを特徴とする球面内径測定装置。
【請求項2】
前記球面ガイド部の下部に第1のレールが取り付けられたベースを備え、前記1対の測定子部の各々の下部にスライダを設け、各前記スライダを前記第1のレールに係合させていることを特徴とする請求項1に記載の球面内径測定装置。
【請求項3】
前記同期移動機構は回転可能なローラと前記ローラに当接する傾斜部とを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の球面内径測定装置。
【請求項4】
1対の前記球面ガイドの外面端部間の距離は、前記把持部を操作して解放位置にした状態である可動最大距離において、被測定対象物の内径よりも小さくされたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の球面内径測定装置。
【請求項5】
前記可動側球面ガイド部にスライダを、前記測定球部に前記第1のレールに直交する第2のレールを設け、前記同期移動機構を用いて前記可動側球面ガイド部を前記第2のレールに沿って移動させると、前記1対の測定子部が前記第1のレールに沿って移動することを特徴とする請求項2に記載の球面内径測定装置。
【請求項6】
把持部と、被測定物の内面と接触する球状の測定子がそれぞれ設けられた1対の測定子部と、この把持部から延びる球形を模擬した測定球部とを備える球面内径測定装置の前記測定球部を被測定物の内部に挿入して、被測定物の球面内径を測定する方法において、
前記測定球部を被測定物の内部に挿入するときは、前記測定球部が備える1対の球面ガイド部のうちの可動側球面ガイド部を前記把持部の操作により前記球面内径測定装置の軸心側へ移動させるとともに、前記可動側球面ガイド部の移動方向に直交する方向であって前記軸心側に前記1対の測定子部を移動させ、
挿入後の計測時には前記把持部を操作して前記可動側球面ガイド部を解放し、前記1対の球面ガイド部の少なくともいずれかが被測定物の内面に当接せずに1対の前記測定子の双方が被測定物の内面に当接することを特徴とする球面内径測定方法。
【請求項7】
1対の前記球面ガイド部の少なくともいずれかが被測定物の内面に当接せずに1対の前記測定子の双方が被測定物の内面に当接する状態で、前記球面内径測定装置を前記測定子の当接部近傍で移動させ、前記1対の測定子部間に配置した測長手段の出力が最大になる位置での値を測定値とすることを特徴とする請求項6に記載の球面内径測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面が球面の物品の内径を測定する球面内径測定装置および測定方法に係り、特に測定対象が、球面内面の一部を有し手持ちで測定するのに好適な球面内径測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械やフォークリフト及びトラックの後輪サスペンション等に使用される球面滑り軸受は、球面状に構成されたロッド部材の外側を環状に覆っている。この球面軸受の加工では、加工行程終了後または加工行程中に仕上がり状態を測定及び検査するために、所定内径以下の球面軸受の加工では手持ちで使用できる球面内径測定装置が求められている。
【0003】
このような手持ちの球面内径測定装置の代表として、内径マイクロメータが簡易でかつ汎用性があるので多く使用される。しかしながらマイクロメータの場合には接触部が点ではなく面になりがちであること、左右の伸展部の接触点を高精度で同一直線上に保持しなければならず何らかの対策が必要なこと、測定者ごとに測定値のばらつきが生じやすく測定者の心理的負担になること、測定のばらつきを回避するために測定回数を増やすと作業工数が増加すること等の不具合がある。
【0004】
一方、加工終了後に内径を検査するために、3次元測定器を使用することもある。3次元測定器では球状に形成されたルビー等の接触子を加工物の内周面に当接させて、3点以上の測定値から正確な加工値を得ている。3次元測定器は正確な上に真円度等も測定できるが、測定に熟練を必要とすること、加工現場でのその場測定ができないこと、測定に多大な時間を要すること等の解決すべき課題があり、加工中への応用が困難である。したがってこれら3次元測定器や内径マイクロメータに代わるものが必要になっている。
【0005】
これらの不具合を解消するものとして、非特許文献1には、英国バウアー社(Bowers Group)製のボアゲージ(2点式球面、3点式球面)のカタログが開示されている。このカタログには詳細構成は不明であるが、ピストル形状をしたボアゲージが記載されており、筒先部の周方向2または3か所に半径方向に進退可能な測定子が設けられている。測定子は、握り部の近傍に設けたレバーを開閉することによりその半径方向進退を制御される。なお測定子の筒先の軸方向に沿う外形形状は滑らかな山形である。測定者がレバーを開閉すると山形部が球面の内面に当接して停止するので、手持ちした内径測定装置で球面の内径が測定される。
【0006】
従来の内径測定装置の詳細構成が、特許文献1および2に開示されている。特許文献1に記載の内側測定器では、小型化及び測定範囲の拡大と高精度の内側測定を目的として、内側測定器が本体ケースと固定子と測定子を有している。そして、本体ケース内に中間部を支点として揺動可能に設けられ、一端に測定子に当接する接触部を、他端に歯車部を有するセクタ歯車と、このセクタ歯車の接触部が測定子に常時接する方向へセクタ歯車を付勢する付勢手段と、セクタ歯車に噛み合い本体ケース内に回転可能に支持されたピニオンと、ピニオンの回転量を検出するロータリセンサを備えている。
【0007】
また特許文献2には、衝突時に測定ヘッドの破損を回避するために、内径測定器がホルダに保持された状態でケーシング内に収納されている。さらに、ホルダが引っ張りばねによりケーシングの先端部に取付けられた台座に押し付けられている。測定ヘッドが前方からの衝突を受けると、ホルダが引っ張りばねの付勢力に抗して台座から退避する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-7500号
【文献】特開2000-337806号
【非特許文献】
【0009】
【文献】ノガ・ジャパン株式会社カタログ(http://www.noga.co.jp/products/pdf/projector/doc_projector01_04.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記非特許文献1に記載の球面ボアゲージでは、周方向の2点または3点を内周面が球面に形成されたワークに当接させることで内径をほぼ瞬時に測定できる。しかしながらこのカタログに記載のものでは、レバーを引いてボアゲージをワークに挿入した後、適当位置でレバーを離すとその点での内径が示されるものであり、その測定位置がワークの球面の中心点を含む面であることが確実には保証されない。一般的には、レバーを解放した後、ボアゲージを上下させて何回か内径を測定するものと思われるが、その際であっても、必ずしも内側球面の中心を含む面上に測定点があるかは不明であり、また測定子の部分が軸方向に滑らかな曲線であるからボアゲージの動きはその曲線に規制され、軸方向動と傾斜動を組み合わせて中心を含む面を探すことが困難と思われる。
【0011】
一方特許文献1、2には従来の内径測定装置またはボアゲージが記載されている。これらの内径測定装置では、いずれもワークに内径測定装置の先端部を挿入した後に測定子をワークに当接させている。挿入時に、内径測定装置の先端部にある測定子とワークの間の隙間が多いと、挿入後の実際の測定の際に、ワークの球面または円柱面の中心を含む断面を最小径または最大径として探すことに多大な時間を要する。一方、逆に内径測定装置を挿入する時にガイド等を使用してワークと測定子の隙間を典型的には数十μmまで小さくすると、測定子をワーク内部に挿入するのに、相当の時間を要する。
【0012】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、短時間でかつ容易正確に内径球面加工面の計測を可能にする、手持ち型の内径測定器を実現することにある。本発明の他の目的は、加工現場でその場測定が可能でありしかも測定者に余分な負担を与えず、短時間でかつ容易正確に内径球面加工面の計測を可能にする、手持ち型の内径測定器を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明の特徴は、内面が球面の被測定物の内面を手持ちで測定可能な球面内径測定装置において、測定者が一方の手で把持可能な把持部と、把持部から延びる測定球部とを有し、前記測定球部は、互いに背面対向し、それぞれの外面に被測定物の内面と接触する球状の測定子が設けられた1対の測定子部と、この1対の測定子部に実質的に直交配置され互いに背面対向し、それぞれの外面に被測定物の内面に対向する球面ガイドを有する1対の球面ガイド部と、1対の測定子部間に配置された測長手段とを備え、前記球面ガイド部は、この球面内径測定装置に固定された固定側球面ガイド部とこの球面内径測定装置の軸に直角な方向に移動可能な可動側球面ガイド部とから構成されており、前記把持部を操作して前記可動側球面ガイド部を可動させるのと同期して前記測定子部をこの球面内径測定装置の軸に直角な方向に動かす同期移動機構を設けたことにある。
【0014】
この特徴において、前記球面ガイド部の下部に1本の第1のレールが取り付けられたベースを備え、前記1対の測定子部の各々の下部にスライダを設け、前記各スライダを前記1本の第1のレールに係合させるのが好ましく、前記同期移動機構は回転可能なローラとこのローラに当接する傾斜部とを備えてもよい。
【0015】
上記特徴において、1対の前記球面ガイドの外面端部間の距離は、前記把持部を操作して解放位置にした状態である可動最大距離において、被測定対象物の内径よりも微小隙間だけ小さくして測定子部のガイドとして用いるのが望ましく、前記可動側球面ガイド部にスライダを、前記測定球部に前記1本の第1のレールに実質的に直交する第2のレールを設け、前記同期移動機構を用いて前記可動側球面ガイド部を前記第2のレールに沿って移動させると、前記1対の測定子部が前記第1のレールに沿って移動するのが良い。さらに、1対の前記測定子を結ぶ直線の方向と前記第1のレールの延びる方向が実質的に同一方向であることが望ましい。
【0016】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、把持部と、被測定物の内面と接触する球状の測定子がそれぞれ設けられた1対の測定子部と、この把持部から延びる球形を模擬した測定球部とを備える球面内径測定装置(球面内径ハンドゲージ)の前記測定球部を被測定物の内部に挿入して、被測定物の球面内径を測定する方法において、前記測定球部を被測定物の内部に挿入するときは、前記測定球部が備える1対の球面ガイド部のうちの可動側球面ガイド部を前記把持部の操作により球面内径測定装置の軸心側へ移動させるとともに、同期移動機構を用いて前記可動側球面ガイド部の移動方向に実質的に直交する方向であって前記軸心側に1対の測定子部を移動させ、挿入後の計測時には前記把持部を操作して前記可動側球面ガイド部を解放し、1対の前記球面ガイド部の少なくともいずれかが被測定物の内面に当接せずに1対の前記測定子の双方が被測定物の内面に当接することにある。
【0017】
そしてこの特徴において、1対の前記球面ガイド部の少なくともいずれかが被測定物の内面に当接せずに1対の前記測定子の双方が被測定物の内面に当接する状態で、前記球面内径測定装置(球面内径ハンドゲージ)を前記測定子の当接部近傍で移動させ、1対の前記測定子部間に配置した測長手段の出力が最大になる位置での値を測定値とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、球面内径ハンドゲージを1対の測定子部とこの1対の測定子部に直交配置した球面ガイド部で構成し、被測定物内へハンドゲージを挿入する時は1対の測定子部と少なくとも一方の球面ガイド部を実質的に同時に半径方向内側に移動可能にし、測定時には1対の球面ガイド部の少なくとも一方を半径方向外側に移動させてハンドゲージの測定子部を測定面からわずかに離れた距離だけ内側に位置させているので挿入用のガイドを容易に構成でき、短時間でかつ容易正確に内径球面加工面の計測が可能になる。また、ハンドゲージは測定子部の内径にほぼ同じ外径を有する測定球部と握り部で構成したので、ハンドゲージが小型化されており、加工現場でその場測定が可能であり、しかも測定者に余分な負担を与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る球面内径ハンドゲージの一実施例の斜視図である。
【
図2】
図1に示した球面内径ハンドゲージの正面図および被測定物の一実施例の断面図である。
【
図3】本発明に係る球面内径ハンドゲージが備える球面ガイド部の測定状態と引き込み状態を説明する図である。
【
図4】
図1に示した球面内径ハンドゲージの測定子部の斜視図及び測定状態と引き込み状態を説明する図である。
【
図5】球面ガイド部の移動により測定子部が移動させられるのを説明する図である。
【
図6】本発明に係る球面内径ハンドゲージを用いた測定の実態を説明する図である。
【
図7】本発明に係る球面内径ハンドゲージの測定原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る球面内径ハンドゲージ(球面内径測定装置)の一実施例を、図面を用いて説明する。
図1は、球面内径ハンドゲージ10の上方視斜視図であり、
図2(a)はその正面図、同図(b)は測定対象であるワーク500の一例の縦断面図である。本実施例では、ワーク500として球面軸受を想定している。
【0021】
球面内径ハンドゲージ10は大別して、使用者がハンドゲージ10を把持するための把持部20と、把持部20から軸方向に延びて形成される測定球部100とから構成される。把持部20は、ほぼ円筒状のカバー22と、このカバー22の下部から下方に延び、カバー22に形成された軸方向に走る溝24にその上端部が嵌合する握り26とを有する。握り26は使用者の人差指から小指の内の少なくとも1本が当接するのに適した形状に形成されており、詳細を後述するカバー22内側への引き込みおよびカバー22から外側への伸展が可能である。なお、以下の記載では本球面内径ハンドゲージ10の中心または内部に向かう運動を引き込みと称し、球面内径ハンドゲージ10の中心から離れる方向の運動を伸展と称する。
【0022】
握り26の下部に、握り26の延びる方向と直角方向に図示しないボルト等でローラ支持部材320、321が固定されるとともに、ローラ支持部材320とローラ支持部材321は互いに軸方向に重なる部分と重ならない部分を形成している。このローラ支持部材320、321の重ならない部分には、1対のローラ322、323が取り付けられており、ローラ322はローラ支持部材320に対して下側から、ローラ323はローラ支持部材321に対して上側からそれぞれ図示しないボルト等の締結具で回転可能に固定されている。
【0023】
握り26の反対側、すなわちカバー22の周方向に握り26と略180°異なる位置であってカバー22の内側に一端が固定されたベース用支柱132が下方に延びている。ベース用支柱132の下端部はL字状に形成されており、測定球部100を構成するフレーム108の上面に、図示しないボルト等で固定されている。
【0024】
カバー22と測定球部100の間には、矩形枠状に構成された中間フレーム130が配置されている。当接部フレームは
図2(a)に示すように、上端がカバー22に固定され下端が中間フレーム130に固定された中間フレーム用支柱134により、吊り下げ支持されている。中間フレーム130は、測定子部200の移動を補助する。すなわち、測定子部200が備える測定子ベース220(この
図1では図示しないが背面対向する測定子ベース221も同様)の移動を補助するために、測定子支柱上部226が形成されている。測定子支柱上部226は、測定子ベース220の上面に下端部を接続した測定子支柱224の上方に形成されている。測定子支柱上部226は、中間フレーム130を介して中間フレーム130内側への引き込みおよび中間フレーム130外側への進展が可能になっている。
【0025】
測定球部100は、全体として球または楕円球に外形形状を近づけている。そのため測定球部100を構成する各部材の角部には必要に応じて面取りやR加工が施されているが、添付図面では図面の明瞭さのために面取りやR加工は必要時のみ記載しており、その他のものは記載を省略している。
【0026】
測定球部100は、背面対向する1対の球面ガイド部300、301と、この球面ガイド部300、301とは実質的に90°角度を変えて配置した背面対向する1対の測定子部200、201とを有している。背面対向した球面ガイド部300、301の一方の球面ガイド部300の上端部は上記把持部20の握り26に接続しており、握り26の引き込み及び伸展動とともに、把持部20の軸線方向に向かう引き込み動と軸線方向から離れる伸展動を行う。球面ガイド部300は、可動側球面ガイド部を構成する。また、球面ガイド部300は、断面L字状の球面ガイドベース310を有する。
【0027】
断面L字状に形成された球面ガイドベース310の一方の辺を形成する外表面には、円板状の球面ガイド302に形成された球面ガイド取付け穴304を用いて、球面ガイド302がボルト止めされている。球面ガイド302を球面ガイドベース310に取り付けた後に外表面となる面は、球面を模擬した面となっており、取付けボルトはこの球面よりも内側に引っ込んでいる。また、この面には硬質クロムメッキが施されており、計測対象物内で球面内径ハンドゲージ10が円滑に動くことができるようにするとともに計測対象物から損傷を受けないようにしている。
【0028】
図1と
図2を参照して、左側の球面ガイド部301は、門型に形成されたフレーム108を有しており、その下端部が球面内径ハンドゲージ10の最下端部に設けたベース102に固定されていて、固定側球面ガイド部を構成する。門型のフレーム108の一方の脚部は球面ガイドベース310の内側に重なるように配置されており、他方の脚部は外部に露出する面を形成する。この外部に露出する面には、球面ガイド部300の場合と同様に、円板状の球面ガイド302がボルト止めされている。
【0029】
ベース102は、円板状のレール溝形成部106とこのレール溝形成部106の下側に連続する切頭円錐部104を有する。レール溝形成部106の上面中心部であって、球面ガイド部300が移動する方向に直角な方向、すなわち測定子部200、201が移動する方向に端面から端面まで直線的に延びる溝が形成されている。溝には、レール110が固定して取り付けられている。
【0030】
測定子部200は断面C字状に形成された測定子ベース220を有しており、その縦辺
にある測定子板210は球面ガイド302と同様の構成であるが、板の中心部に測定子214が取り付けられている点で、球面ガイド302と異なる。すなわち測定子板210は、この測定子板210に形成した測定子板取付け穴212を用いてボルト止めされた後の外面形状が球面を模擬した形状となっているものの、中央部には直径約1~2mmの球状の測定子214がほぼその半球分を露出させて埋め込まれているので、その部分だけ模擬球面より突出している。測定子214には、例えば精級の玉軸受の鋼球に軸を付加した市販品を用いることができ、その真球度はサブミクロン以下である。
【0031】
上述したように本実施例では、ワーク500として球面軸受を想定しており、その大きさは例えば幅10~50mm程度、内径φdが50~150mm程度である。この球面軸受500の内面502に、測定子部200を当接させてワーク500の球の中心Oを含む面上でφdを正確に計測することが第1の目的である。この中心Oを含む面から逸れるとその分だけ誤差になる。誤差については
図7で詳述する。
【0032】
ところで球面軸受の内径を計測する場合、
図2(a)からも明らかなように、測定器具を測定長さ程度の長さのままワークに挿入しようとすると、入口504で測定器具がつかえて測定できない。例えばワーク500の内径φdを100mm、幅を30mmとすると、入口504の径φd
inは約95.4mmとなり、測定器具の長さを約5mm以上縮める必要がある。しかしながら測定器具を一旦縮めると、測定器具をワーク500の内部に挿入した後に測定器具をワーク500内で内径φd程度まで伸ばし、球面の中心Oを含む面を高精度に探す作業が必要となるが、ガイドとなるものがない場合にはこの操作は容易ではない。
【0033】
そこで、本発明においては、一旦縮めた測定器具を挿入後伸ばす際に、球面の中心Oを含む面を探す伸展するガイドを用いることとした。その詳細を、
図3を用いて説明する。
図3は、球面内径ハンドゲージ10の測定球部100を主として示す正面図であり、
図3(a)は測定球部100を引き込んでワーク500に挿入した状態を示す図、同図(b)は測定球部を伸展させて球面の中心Oを含む面を探る状態を示す図である。
【0034】
測定球部100をワーク内部に挿入する際は、1対の測定子部200、201と可動側球面ガイド部300を内部へ引き込む。
図3(a)において左側に位置する固定側球面ガイド部301のフレーム108に固定された球面ガイド302は、フレーム108自体が測定球部100内で固定されていて動かないので、測定球部100内での相対位置は変化しない。
【0035】
一方、
図3(a)で右側に位置する可動側球面ガイド部300の断面L字状の球面ガイドベース310の水平片部の下方には、図示しないスライダが取り付けられているフレーム108が設けられている。フレーム108の上面にはレール312が取り付けられている(
図5参照)ので、球面ガイドベース310に取り付けられた球面ガイド302は、把持部20の握り26を押し込むことにより、測定球部100内で相対的に位置を内側(引き込み側)に変える。
【0036】
その結果、測定球部100の外径が減少し、測定球部100をワーク500の内部へ挿入することが可能になる。挿入を続け、ワーク500内部の測定位置近傍に達したと判断したら、測定球部100内で相対位置を変化させない固定側球面ガイド部301の球面ガイド302をワークに当接させる。このとき、可動側球面ガイド部300の球面ガイド302とワーク内面502の間には、φd-φdin程度の隙間が形成される。
【0037】
この状態で握り26を解放すると、左側の固定側球面ガイド部301は動かずに、右側に位置する可動側球面ガイド部300のみが図示しない戻りばねにより
図3(a)で右側に移動する。ここで左右の球面ガイド302、302間の距離は、握り26の解放状態でワーク内径φdの公称値より数10ないし数100μmだけ小さくなるように固定側球面ガイド部300の移動量が制限されている。
【0038】
すなわち、測定対象であるワーク500内に測定球部100を挿入して、測定球部100が所定測定箇所にほぼ位置決めされたときには、左右の球面ガイド302、302が同時にワーク内面502に接触することはない。逆に言えば、握り26を解放状態にして左右の球面ガイド302、302が同時に接触しないところを探せば、球面ガイド302とワーク内面502間に数10μmの隙間程度の誤差を許容して、ワーク内面502の中心Oを含む面上の点として測定点が探し出される。このように球面ガイド302は、測定点の探索のガイドとして作用する。
【0039】
図3(b)は上記手順により、ワーク内面502の測定点近傍に測定球部100を挿入した状態を示す図であり、握り26は解放状態、すなわち最大伸展位置にあり、左右の球面ガイド302、302はワーク内面502との間に片側約20μmの隙間を持って位置決めされている。即ち、握り26は解放状態における左右の球面ガイド302、302の外面端部間の距離(可動最大距離)が、ワークの内径よりも小さくなっている。
【0040】
次に、球面ガイド部300とともに移動する測定子部200、201について、その詳細を
図4及び
図5を用いて説明する。
図4は、図面を明瞭にするため球面ガイド部300、301を省いて測定子部200、201だけを取り上げた図である。この
図4は
図2の背面視図で、
図2とは左右が逆になっている。
図4(a)は測定子部200、201の斜視図であり、
図4(b)は引き込み状態を示す図であって上段がその部分断面上面図、下段がその背面図、
図4(c)が伸展状態を示す図であって上段がその部分断面上面図、下段がその背面図である。
【0041】
図4(a)において、左右の測定子部200、201は、それぞれ測定子ベース220、221の下面で測定子スライダ222、223に接続されている。スライダ222、223は、ベース102のほぼ中央部に取り付けたレール110に直動可能に係合している。左側の測定子ベース221は背面視で矩形枠状をしており、枠の左側を構成する測定子板取付け部233の外面には、中央部に球状の測定子214を備えた測定子板210が取り付けられている。枠の右側を構成する検出器保持支柱232は、上下方向中間部であってレール110の上方に、レール110の走行方向と実質的に平行に穴が形成されており、この穴で検出器402を固定保持する。枠の上辺を構成するベース連結部234は検出器保持支柱232と測定子支柱225を連結する。右側の測定子ベース220はC字状に形成されており、縦辺を構成する測定子板取付け部242の外面には、測定子板取付け部233に取り付けたものと同一の、中央部に球状の測定子214を備えた外形が球面状に構成された測定子板210が取り付けられている。ここで、左右の測定子214、214はレール110を基準としてその高さとそのレール直角方向位置が同じに心出しされており、この高さと直角方向位置は2個のスライダ222、223が移動しても実質的に変化しない。C字状の下辺はスライダ222との接続部を構成するとともに、レール110の走行方向に延びる測定面用梁406を固定載置する。測定面用梁406の測定子板取付け部242とは反対端に、直立する測定面404を含む当接壁408が上方に延びている。
【0042】
この測定子部200、201を構成するときは、測定子部201の検出器保持支柱232に形成した穴に検出器402を取り付ける。その際、検出器402の先端部に設けた当接部230を、測定子部201の測定子板取付け部233側に配置する。一方、測定子部200に測定面用梁406を載置して取り付ける。ここで、測定面用梁406は検出器402を超えてレール110の走行方向に延びているので、検出器402を保持する検出器保持支柱232には、測定面用梁406が延びる位置に対応した位置に切り欠きまたは溝が形成されている。これにより、測定面用梁406と検出器402のレール110の走行方向における相対位置が変化しても、測定面用梁406と検出器402が干渉する恐れはない。上記のように測定面404に検出器402の当接部230を対向させることにより、測定子214、214間の距離計測が可能になる。
【0043】
なお、測定子214間の距離は把持部20の握り26を解放したときに、測定対象であるワーク500のワーク内面502の公称径よりも大きく、例えば1mm大きく設定する。これは、ワーク内面502径が公称径より大きく加工されていても確実に計測を可能とするためである。一方測定球部100をワーク500に挿入するために測定子部200、201を引き込むときは、球面ガイド部300と同様にワーク入口504の径φd
inより小さくする必要がある。それとともに、固定側球面ガイド部301が測定球部100内で移動しないので、測定球部100自体の中心が球面ガイド部301側に偏心する(
図3(a)参照)。これらを考慮して、測定子部200、201はワーク入口径φd
inよりやや多めに引き込まれる。
【0044】
以上のように構成した測定球部100をワーク500に挿入するときは、球面ガイド部300、301の球面ガイド302を直径とする円の大きさまで測定子部200、201を引き込むので、測定球部100の挿入の際に測定子214が損傷する恐れがない。また測定時には、球面ガイド部300、301とともに粗位置決めされた位置で測定子214が解放されているので、測定子214だけへの急激な外力の付与が回避される。なお、測定のためには、当接部230を測定面404に当接させて事前にマスタで検出器402を校正しておき、測定時に当接部230の変位量から測定子214、214間の距離を演算して求める。検出器402には、磁気式や光学式測長器、差動トランス式測長器、ペンシル型ゲージ等を用いることができる。
【0045】
図5は、把持部20の握り26を押し込み、解放したときに球面ガイド部300に測定子部200、201が同期して移動する原理を説明する図である。
図1、
図2、
図5を参照して、把持部20の握り26に2本のローラ支持部材320、321が上下方向(
図5では紙面に垂直方向)に重なって取り付けられており、上側のローラ支持部材320の左側端部であって下面には、ローラ322がローラ留め具326により回転動可能に取り付けられている。一方下側のローラ支持部材321の右側端部であって上面にはローラ323がローラ留め具327により回転動可能に取り付けられている。
【0046】
左側の測定子部200の上部に設けた測定子支柱上部226では、その幅方向の一端部側にレール110に直角な方向にその厚みを変える傾斜部228が形成されており、この傾斜部228にローラ322が当接している。同様に、右側の測定子部201の上部に設けた測定子支柱上部226の幅方向一端部側にレール110に直角な方向にその厚みを変える傾斜部228が形成されており、ローラ留め具327がその傾斜部228に当接している。把持部20の握り26を矢印のように押し込むと把持部20とともに可動球面ガイド部300がレール312をガイドとして、レール110に直交する方向に押し込まれる。その際ローラ留め具326、327が当接する両傾斜部228では、ローラ留め具326、327の当接部に垂直方向の力が発生し、その内側方向への分力により測定子部200、201が矢印で示す内側に押しやられる。ここで、測定子部200、201はレール110とスライダ222、223により自由に直線動できるようになっている(
図4参照)ので、測定子部200、201は球面ガイド部300とともに測定球部100の内部に引き込まれる。
【0047】
握り26を解放すると、測定子支柱上部226、226(
図1、3参照)に設けた図示しないバネにより測定子部200、201が解放状態になるように伸展する。それとともに球面ガイド部300も、把持部20のカバー22内に設けた図示しないバネで伸展する。つまり、測定子部200、201、球面ガイド部300には常時戻り力がバネで付与されている。なお上述したように、球面ガイド部300は解放時、すなわち全伸展時にワーク内面502との間に数10μmの隙間があるように設定される必要があるので、球面ガイド部300の伸展方向には図示しないストッパが形成されている。同様に、測定子部200、201の測定子214が異常に突出して損傷するのを防止するため、測定子部200、201にも全伸展状態を一定位置に保持するストッパを設けることが望ましい。
【0048】
次に、ワーク500内に測定球部100を挿入した後で実際に測定する場合における、具体的方法を
図6に、球面ガイド302の初期位置の設定、つまりストッパ位置の設定を
図7に示す。ワーク500に測定球部100を挿入し、ほぼワーク内面502の中心Oを含む面近傍に測定子214を位置させる。上述したように、ワーク内面502の中心を含む面近傍まで測定球部100が挿入されると、球面ガイド302の両方が同時にワーク内面502に当接することはなくなる。そこで測定者は初めに本球面内径ハンドゲージ10の抵抗が少なくなる点まで測定球部100をワーク500内に挿入し、その後当接部230の出力が最大となるように球面内径ハンドゲージ10を左右前後に振る。ここで測定子214は先端部が高精度の真球形状に形成されているので、球面内径ハンドゲージ10を左右前後に振った場合に当接点が測定子214の球面上で変化して、当接点の移動による誤差の影響を極力低減している。また、最初の抵抗が少なくなった時点での真値との測定誤差は、球面ガイド302とワーク内面の隙間の範囲内であるから、数10μmにすぎない。したがって、その後の球面内径ハンドゲージ10の前後左右に振る動作もわずかな範囲を探ればよいことになる。
【0049】
なお、測定子214とワーク内面502の接点が含まれる測定面は、球面軸受であるワーク500の中心Oを通る面であればよく、ワーク500の軸心に垂直な面である必要はない。したがって、
図6(a)、(b)に示すようにワーク500の軸心に対して傾斜した面であってもよい。これにより測定者は球面内径ハンドゲージ10を挿入した姿勢のままで球面内径ハンドゲージ10の傾きを気にせず測定を実行できるので、作業効率が向上する。また測定者に起因する測定誤差が低減する。
【0050】
図7(a)~(d)は、測定球部100をワーク500に挿入したときの測定面の状態を示す模式図であり、測定球部100は簡略化して上下両側を切り落とした球状で示している。
図7(a)は球面の中心Oを含む測定面の中央に測定球部100が位置した理想状態、同図(b)は測定面の一方向、例としてX方向に測定球部100が偏心して位置した状態を示す図である。この
図7(b)では、測定球部110が最大偏心した方向をX方向としているので、測定球部100はY方向には変位または偏心していない。
図7(b)では球面ガイド302の一方がワーク内面502に接触しており、その時の理想状態からの変位量はXLμmである。
【0051】
次に測定球部100の挿入方向であるZ方向について理想状態を
図7(c)に、理想状態から変位した状態を
図7(b)に示す。
図7(b)では、ワーク500に測定球部100を理想状態よりZLμmだけ深く挿入している。
【0052】
ワーク内面502の中心Oを含む測定面上でワーク内面502から等隙間で測定子214が位置する理想状態から測定球部100が最大ずれるのは、
図7(b)と
図7(d)の状態を組み合わせた状態である。そこで、上記2個の理想状態からの変位量XL、ZLを用いると、直径φdの測定における直線距離での変位量TLは、
図7(f)に示すように、TL=SQRT(XL
2+ZL
2)となる。
次に
図7(e)を参照して、測定子214の半径をCR、ワーク内面502の真値をTRとすると、上記直線距離での変位量TLとを用いて、φdの計測誤差量2Dは、2D=2×(TR-CR-SQRT((TR-CR)
2-TL
2))と表される。
本球面内径ハンドゲージ10では、ワーク500の内径φd、入口径φd
inおよび計測誤差量2D、検出器400の誤差量等を考慮して、球面内径ハンドゲージ10の球面ガイド302の最大伸展位置を、繰り返し再現可能性を達成できる範囲であってワーク内面502よりわずかに小径位置に設定している。
【0053】
以上説明したように、本実施例によれば球面状内面を有するワークの内径を測定可能な球面内径ハンドゲージにおいて、背面対向する1対の球面ガイド部の一方を固定し、他方を可動にし、この1対の球面ガイド部に直交する方向に1対の測定子部を設け、可動側球面ガイド部に同期して1対の測定子部を動かす同期移動機構を備えている。これにより、ワークへの挿入時には可動側球面ガイド部と1対の測定子部が同時に引き込められ、ワークに干渉することなく挿入され、測定時には1対の球面ガイド部が粗位置決め用ガイドとして働く。そして、ハンドゲージをその粗位置決め位置近傍で擦るように小範囲を振り回すだけで、高精度な測定を短時間で実施できる。このとき、測長手段である検出器402の出力が最大となる(距離が最大となる)位置の測定値を測定値として採用することが望ましい。また、測定者に起因する要因が排除されるので、誰が測定してもほぼ同程度の精度の測定が可能になり、測定者の負担が軽減する。さらに測定面はおのずからワーク内面の中心Oを含む面に収束するので、測定面をワークの軸心に合わせる必要がなく、挿入方向そのままで測定でき測定工数が大幅に低減される。それとともに加工現場での測定が可能になる。
【0054】
なお上記実施例では、球面軸受を例に取り説明したが、本球面内径ハンドゲージの測定対象は球面軸受に限るものではなく、内周面が球面を構成するものであればいかなるものでも良い。ただしハンドゲージであるから、測定対象球面の内径は300mm程度までに限られる。
【符号の説明】
【0055】
10…球面内径ハンドゲージ(内径測定装置)、20…把持部、22…カバー、24…溝、26…握り、100…測定球部、102…ベース、104…切頭円錐部、106…レール溝形成部(平板部)、108…フレーム、110…(第1の)レール、120…レール(球面ガイド用)、130…中間フレーム、132…ベース用支柱、134…中間フレーム用支柱、200、201…測定子部、210…測定子板、212…測定子板取付け穴、214…測定子、220、221…測定子ベース、222、223…(測定子)スライダ、224、225…測定子支柱、226…測定子支柱上部、228…傾斜部、230…当接部、232…検出器保持支柱、233…測定子板取付け部、234…ベース連結部、237…載置部、238…測定子板取付け部、242…測定子板取付け部、300、301…球面ガイド部、302…球面ガイド、304…球面ガイド取付け穴、310…球面ガイドベース、312…(第2の)レール、314…球面ガイド支柱部、320、321…ローラ支持部材、322、323…ローラ、326、327…ローラ留め具、400…測定部、402…検出器、404…測定面、406…測定面用梁、408…当接壁、500…ワーク、502…ワーク内面、504…入口