(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】アライメントマーク位置検出装置、蒸着装置および電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/04 20060101AFI20220314BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220314BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
C23C14/04 A
H05B33/14 A
H05B33/10
(21)【出願番号】P 2020108590
(22)【出願日】2020-06-24
(62)【分割の表示】P 2018157519の分割
【原出願日】2018-08-24
【審査請求日】2020-06-24
(31)【優先権主張番号】10-2017-0108234
(32)【優先日】2017-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 和憲
(72)【発明者】
【氏名】長沼 義人
(72)【発明者】
【氏名】内田 亘
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-287935(JP,A)
【文献】特開2006-176809(JP,A)
【文献】特開2003-338455(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0233861(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/04
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アライメントマークが設けられた基板を支持する基板支持手段と、
前記アライメントマークを撮影するカメラと、
前記カメラで前記アライメントマークを撮影して得られるマーク撮影画像において、アライメントマークの位置を検出する検出手段と、を備えるアライメントマーク位置検出装置において、
前記マーク撮影画像のフォーカス値が所定の範囲内にある場合は、前記マーク撮影画像を、アライメントマークを撮影した実画像から作成された第1のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出する第1検出動作
を前記検出手段が行い、
前記フォーカス値が前記所定の範囲内にない場合は、前記マーク撮影画像を、アライメントマークの設計データに基づいて作成された第2のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出する第2検出動作
を前記検出手段が行う
ことを特徴とするアライメントマーク位置検出装置。
【請求項2】
前記フォーカス値は、前記マーク撮影画像の輝度値データからエッジ勾配方式によって算出される
ことを特徴とする請求項
1に記載のアライメントマーク位置検出装置。
【請求項3】
前記基板支持手段によって支持された前記基板の位置に応じて、前記第2のモデル画像におけるアライメントマークのサイズが異なる
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のアライメントマーク位置検出装置。
【請求項4】
前記基板支持手段が前記基板を第1位置において支持している時に撮像された前記マーク撮影画像に対して、前記検出手段は前記第1検出動作を行い、
前記基板支持手段が前記基板を前記第1位置とは異なる第2位置において支持している時に撮像された前記マーク撮影画像に対して、前記検出手段は前記第2検出動作を行う
ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載のアライメントマーク位置検出装置
。
【請求項5】
第1のアライメントマークが設けられた基板を支持する基板支持手段と、
第2のアライメントマークが設けられたマスクを支持するマスク支持手段と、
前記第1のアライメントマーク及び前記第2のアライメントマークを撮影するカメラと、
前記カメラで前記第1のアライメントマーク及び前記第2のアライメントマークを撮影して得られるマーク撮影画像において、アライメントマークの位置を検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出されたアライメントマークの位置に基づいて前記基板と前記マスクとの相対位置の調整を行う調整手段と、
前記調整手段によって相対位置の調整が行われた前記基板に前記マスクを介して蒸発材料を蒸着する蒸発源と、を備える蒸着装置において、
前記検出手段は、
前記マーク撮影画像のフォーカス値が所定の範囲内にある場合は、前記マーク撮影画像を、アライメントマークを撮影した実画像から作成された第1のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出する第1検出動作
を行い、
前記フォーカス値が前記所定の範囲内にない場合は、前記マーク撮影画像を、アライメントマークの設計データに基づいて作成された第2のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出する第2検出動作
を行う
ことを特徴とする蒸着装置。
【請求項6】
前記フォーカス値は、前記マーク撮影画像の輝度値データからエッジ勾配方式によって算出される
ことを特徴とする請求項
5に記載の蒸着装置。
【請求項7】
前記基板支持手段によって支持された前記基板の位置に応じて、前記第2のモデル画像におけるアライメントマークのサイズが異なる
ことを特徴とする請求項
5または6に記載の蒸着装置。
【請求項8】
前記マスク支持手段に対して前記基板支持手段を昇降させる昇降手段をさらに備える
ことを特徴とする請求項
5~
7のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項9】
前記カメラは、前記マスクに対して前記基板が第1の高さにある時、及び前記マスクに対して前記基板が前記第1の高さとは異なる第2の高さにある時に、前記第1のアライメントマーク及び前記第2のアライメントマークを撮影する
ことを特徴とする請求項
5~
8のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項10】
前記基板が第1の高さにある時に撮像された前記マーク撮影画像に対して、前記検出手段は前記第1検出動作を行い、
前記基板が第2の高さにある時に撮像された前記マーク撮影画像に対して、前記検出手段は前記第2検出動作を行う
ことを特徴とする請求項
5~
9のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項11】
前記第1の高さは、前記第2の高さよりも低い
ことを特徴とする請求項
9または
10に記載の蒸着装置。
【請求項12】
前記第1の高さのときは前記基板の全面が前記マスクと接触し、
前記第2の高さのときは前記基板の中央部は前記マスクと接触するが前記基板の周辺部
は前記マスクと離間する
ことを特徴とする請求項
9~
11のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項13】
アライメントマークが設けられた基板を支持する基板支持手段と、
マスクを支持するマスク支持手段と、
前記マスク支持手段に対して前記基板支持手段を昇降させる昇降手段と、
前記アライメントマークを撮影するカメラと、
前記カメラで前記アライメントマークを撮影して得られるマーク撮影画像において、アライメントマークの位置を検出する検出手段と、を備えるアライメントマーク位置検出装置において、
前記検出手段は、前記マスクに対して前記基板が第1の高さにあるときは、前記マーク撮影画像を、アライメントマークを撮影した実画像から作成された第1のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出し、
前記検出手段は、前記マスクに対して前記基板が前記第1の高さと異なる第2の高さにあるときは、前記マーク撮影画像を、アライメントマークの設計データに基づいて作成された第2のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出し、
前記第2の高さは、前記第1の高さよりも低い
ことを特徴とする
アライメントマーク位置検出装置。
【請求項14】
アライメントマークが設けられた基板を支持する基板支持手段と、
マスクを支持するマスク支持手段と、
前記マスク支持手段に対して前記基板支持手段を昇降させる昇降手段と、
前記アライメントマークを撮影するカメラと、
前記カメラで前記アライメントマークを撮影して得られるマーク撮影画像において、アライメントマークの位置を検出する検出手段と、を備えるアライメントマーク位置検出装置において、
前記検出手段は、前記マスクに対して前記基板が第1の高さにあるときは、前記マーク撮影画像を、アライメントマークを撮影した実画像から作成された第1のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出し、
前記検出手段は、前記マスクに対して前記基板が前記第1の高さと異なる第2の高さにあるときは、前記マーク撮影画像を、アライメントマークの設計データに基づいて作成された第2のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出し、
前記第2の高さは、前記第1の高さよりも高い
ことを特徴とする
アライメントマーク位置検出装置。
【請求項15】
第1のアライメントマークが設けられた基板を支持する基板支持手段と、
第2のアライメントマークが設けられたマスクを支持するマスク支持手段と、
前記マスク支持手段に対して前記基板支持手段を昇降させる昇降手段と、
前記第1のアライメントマーク及び前記第2のアライメントマークを撮影するカメラと、
前記カメラで前記第1のアライメントマーク及び前記第2のアライメントマークを撮影して得られるマーク撮影画像において、アライメントマークの位置を検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出されたアライメントマークの位置に基づいて前記基板と前記マスクとの相対位置の調整を行う調整手段と、
前記調整手段によって相対位置の調整が行われた前記基板に前記マスクを介して蒸発材料を蒸着する蒸発源と、を備える蒸着装置において、
前記検出手段は、前記マスクに対して前記基板が第1の高さにあるときは、前記マーク
撮影画像を、アライメントマークを撮影した実画像から作成された第1のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出し、
前記検出手段は、前記マスクに対して前記基板が前記第1の高さと異なる第2の高さにあるときは、前記マーク撮影画像を、アライメントマークの設計データに基づいて作成された第2のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出
し、
前記第2の高さは、前記第1の高さよりも低い
ことを特徴とする蒸着装置。
【請求項16】
前記第1の高さのときは前記基板の中央部は前記マスクと接触するが前記基板の周辺部は前記マスクと離間し、前記第2の高さのときは前記基板の全面が前記マスクと接触することを特徴とする請求項
15に記載の蒸着装置。
【請求項17】
第1のアライメントマークが設けられた基板を支持する基板支持手段と、
第2のアライメントマークが設けられたマスクを支持するマスク支持手段と、
前記マスク支持手段に対して前記基板支持手段を昇降させる昇降手段と、
前記第1のアライメントマーク及び前記第2のアライメントマークを撮影するカメラと、
前記カメラで前記第1のアライメントマーク及び前記第2のアライメントマークを撮影して得られるマーク撮影画像において、アライメントマークの位置を検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出されたアライメントマークの位置に基づいて前記基板と前記マスクとの相対位置の調整を行う調整手段と、
前記調整手段によって相対位置の調整が行われた前記基板に前記マスクを介して蒸発材料を蒸着する蒸発源と、を備える蒸着装置において、
前記検出手段は、前記マスクに対して前記基板が第1の高さにあるときは、前記マーク撮影画像を、アライメントマークを撮影した実画像から作成された第1のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出し、
前記検出手段は、前記マスクに対して前記基板が前記第1の高さと異なる第2の高さにあるときは、前記マーク撮影画像を、アライメントマークの設計データに基づいて作成された第2のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出し、
前記第2の高さは、前記第1の高さよりも高い
ことを特徴とする
蒸着装置。
【請求項18】
前記第1の高さのときは前記基板の全面が前記マスクと接触し、前記第2の高さのときは前記基板の中央部は前記マスクと接触するが前記基板の周辺部は前記マスクと離間することを特徴とする請求項
17に記載の蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアライメントマーク位置検出装置、蒸着装置および電子デバイスの製造方法に関するもので、具体的に、有機電界発光ディスプレイ装置の真空蒸着工程において、マスクと基板の位置整列を高精度に行うための方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、フラットパネルディスプレイとして有機電界発光ディスプレイが脚光を浴びている。有機電界発光ディスプレイは、自発光ディスプレイとして、応答速度、視野角、薄型化などの特性が液晶パネルディスプレイより優れており、モニター、テレビ、スマートフォンに代表される各種携帯端末などで既存の液晶パネルディスプレイを急速に代替している。また、自動車用ディスプレイ等でも、その応用分野が広がっている。
【0003】
有機電界発光ディスプレイは、2つの向かい合う電極(カソード電極、アノード電極)の間に発光を起こす有機物層が形成された基本構造を有する。有機電界発光ディスプレイの有機物層及び電極金属層は、真空チャンバー内で所望する画素パターンが形成されたマスクを介して基板に蒸着物質を蒸着させることで製造されるが、基板上の所望する位置に所望するパターンで蒸着物質を蒸着させるためには、基板への蒸着が行われる前にマスクと基板の位置を精密に整列させなければならない。
【0004】
このため、特許文献1に記載の技術では、マスクと基板上にマーク(これをアライメントマークと称す)を形成し、これらマークを真空蒸着装置に設置されたカメラで撮影してマークの中心が互いに一致するようにマスクと基板を相対的に移動させる。このようにしてマスクと基板が互いに位置整列された状態で蒸発源から噴射された蒸着物質をマスクを介して基板に蒸着させることで有機電界発光ディスプレイ装置を製造する。
【0005】
また特許文献2には、アライメントマークの撮像条件の異なる複数のモデル画像に基づいて、1つあるいは複数のテンプレートを生成することの開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-004358号公報
【文献】国際公開第2005/008753号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、基板の大型化やパターンの微細化によって基板とマスクの位置整列の精度をさらに改善させるための持続的な要請がある。
【0008】
本発明は、基板とマスクの位置整列の精度をさらに改善させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によるアライメントマーク位置検出装置は、
アライメントマークが設けられた基板を支持する基板支持手段と、
前記アライメントマークを撮影するカメラと、
前記カメラで前記アライメントマークを撮影して得られるマーク撮影画像において、ア
ライメントマークの位置を検出する検出手段と、
を備え、
前記マーク撮影画像のフォーカス値が所定の範囲内にある場合は、前記マーク撮影画像を、アライメントマークを撮影した実画像から作成された第1のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出する第1検出動作を前記検出手段が行い、
前記フォーカス値が前記所定の範囲内にない場合は、前記マーク撮影画像を、アライメントマークの設計データに基づいて作成された第2のモデル画像と比較することにより、前記マーク撮影画像におけるアライメントマークの位置を検出する第2検出動作を前記検出手段が行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、アライメント用のカメラで撮影したアライメントマーク画像のフォーカス度合いに応じて、アライメントマーク検出及び位置の測定に使用する基準モデル画像が異なるように選択することにより、高精度でマスクと基板の位置整列が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、電子デバイスの製造装置の構成の一部を模式的に示す上視図である。
【
図2】
図2は、成膜装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、基板保持ユニット110の斜視図である。
【
図4】
図4は、第1アライメントを示す図面である。
【
図5】
図5は、計測位置における第2アライメントを示す図面である。
【
図6】
図6は、蒸着位置における第2アライメントを示す図面である。
【
図7】
図7は、マーク撮影画像と基準モデル画像とのパターンマッチング方式を概念的に示す図面である。
【
図8】
図8は、パターンマッチングに使用される基準モデル画像の例を示す図面である。
【
図9】
図9は、本発明のアライメント装置のブロックダイアグラムである。
【
図10】
図10は、本発明のアライメント方法についてのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の実施例を詳しく説明する。本発明には多様な変更ができ、多様な実施例を有することができる。特定の実施例を図面に基づき例示して説明するが、本発明はこの特定の実施例に限定されるのではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるすべての変更、均等物乃至代替物を含むものと理解されるべきである。
【0013】
本発明は、基板上に薄膜を形成する成膜装置及びその制御方法に関し、特に、基板の高精度な搬送および位置調整のための技術に関する。本発明は、平行平板の基板の表面に真空蒸着により所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好ましく適用できる。基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属などの任意の材料を選択でき、また、蒸着材料としても、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択できる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機EL表示装置、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。なかでも、有機EL表示装置の製造装置は、基板の大型化あるいは表示パネルの高精細化により基板の搬送精度及び基板とマスクのアライメント精度のさらなる向上が要求されているため、本発明の好ましい適用例の一つである。
【0014】
<製造装置及び製造プロセス>
図1は、電子デバイスの製造装置の構成の一部を模式的に示す上視図である。
図1の製造装置は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば約1800mm×約1500mm、厚
み約0.5mmのサイズの基板Sに有機ELの成膜を行った後、該基板Sをダイシングして複数の小サイズのパネルが作製される。
【0015】
電子デバイスの製造装置は、一般に、
図1に示すように、複数の成膜室20、30と、搬送室10とを有する。搬送室10内には、基板Sを保持し搬送する搬送ロボット40が設けられている。搬送ロボット40は、例えば、多関節アームに、基板Sを保持するロボットハンドが取り付けられた構造をもつロボットであり、各成膜室への基板Sの搬入/搬出を行う。
【0016】
各成膜室20、30にはそれぞれ成膜装置(蒸着装置ともよぶ)が設けられている。搬送ロボット40との基板Sの受け渡し、基板Sとマスクの相対位置の調整(アライメント)、マスク上への基板Sの固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置によって自動で行われる。各成膜室20、30の成膜装置は、蒸着源の違いやマスクの違いなど細かい点で相違する部分はあるものの、基本的な構成(特に基板の搬送やアライメントに関わる構成)はほぼ共通している。以下、各成膜室20、30の成膜装置の共通構成について説明する。
【0017】
<成膜装置>
図2は、成膜装置の構成を模式的に示す断面図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用いる。成膜時に基板Sは水平面(XY平面)と平行となるよう固定されるものとし、このときの基板Sの短手方向(短辺に平行な方向)をX方向、長手方向(長辺に平行な方向)をY方向とする。またZ軸まわりの回転角をθで表す。
【0018】
成膜装置は、真空チャンバー100を有する。真空チャンバー100の内部は、真空雰囲気か、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持されている。真空チャンバー100の内部には、概略、基板保持ユニット110と、マスク120と、マスク台121と、冷却板130と、蒸着源140が設けられる。基板保持ユニット110は、搬送ロボット40から受け取った基板Sを保持・搬送する手段であり、基板ホルダとも呼ばれる。マスク120は、基板S上に形成する薄膜パターンに対応する開口パターンをもつメタルマスクであり、枠状のマスク台121の上に固定されている。
【0019】
成膜時にはマスク120の上に基板Sが載置される。したがって、マスク120は基板Sを載置する載置体としての役割も担う。冷却板130は、成膜時に基板S(のマスク120とは反対側の面)に密着し、基板Sの温度上昇を抑えることで有機材料の変質や劣化を抑制する部材である。冷却板130がマグネット板を兼ねていてもよい。マグネット板とは、磁力によってマスク120を引き付けることで、成膜時の基板Sとマスク120の密着性を高める部材である。蒸着源140は、蒸着材料、ヒータ、シャッタ、蒸発源の駆動機構、蒸発レートモニタなどから構成される(いずれも不図示)。
【0020】
真空チャンバー100の上(外側)には、基板Zアクチュエータ150、クランプZアクチュエータ151、冷却板Zアクチュエータ152、Xアクチュエータ(不図示)、Yアクチュエータ(不図示)、θアクチュエータ(不図示)が設けられている。これらのアクチュエータは、例えば、モータとボールねじ、モータとリニアガイドなどで構成される。基板Zアクチュエータ150は、基板保持ユニット110の全体を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。クランプZアクチュエータ151は、基板保持ユニット110の挟持機構を開閉させるための駆動手段である。
【0021】
冷却板Zアクチュエータ152は、冷却板130を昇降させるための駆動手段である。Xアクチュエータ、Yアクチュエータ、θアクチュエータ(以下、まとめて「XYθアク
チュエータ」と呼ぶ)は基板Sのアライメントのための駆動手段である。XYθアクチュエータは、基板保持ユニット110及び冷却板130の全体を、X方向移動、Y方向移動、θ回転させる。なお、本実施形態では、マスク120を固定した状態で基板SのX,Y,θを調整する構成としたが、マスク120の位置を調整し、又は、基板Sとマスク120の両者の位置を調整することで、基板Sとマスク120のアライメントを行ってもよい。
【0022】
真空チャンバー100の上(外側)には、基板S及びマスク120のアライメントのために、基板S及びマスク120それぞれの位置を測定するカメラ160、161が設けられている。カメラ160、161は、真空チャンバー100に設けられた窓を通して、基板Sとマスク120を撮影する。その画像から基板S上のアライメントマーク及びマスク120上のアライメントマークを認識することで、各々のXY位置やXY面内での相対ズレを計測することができる。短時間で高精度なアライメントを実現するために、大まかに位置合わせを行う第1アライメント(「ラフアライメント」とも称す)と、高精度に位置合わせを行う第2アライメント(「ファインアライメント」とも称す)の2段階のアライメントを実施することが好ましい。その場合、低解像だが広視野の第1アライメント用のカメラ160と狭視野だが高解像の第2アライメント用のカメラ161の2種類のカメラを用いるとよい。本実施形態では、基板S及びマスク120それぞれについて、対向する一対の辺の2箇所に付されたアライメントマークを2台の第1アライメント用のカメラ160で測定し、基板S及びマスク120の4隅に付されたアライメントマークを4台の第2アライメント用のカメラ161で測定する。
【0023】
成膜装置は、制御部170を有する。制御部170は、基板Zアクチュエータ150、クランプZアクチュエータ151、冷却板Zアクチュエータ152、XYθアクチュエータ、及びカメラ160、161の制御の他、基板Sの搬送及びアライメント、蒸着源の制御、成膜の制御などの機能を有する。制御部170は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/Oなどを有するコンピュータにより構成可能である。この場合、制御部170の機能は、メモリ又はストレージに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを用いてもよいし、組込型のコンピュータ又はPLC(programmable logic controller)を用いてもよい。あるいは、制御部170の機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。なお、成膜装置ごとに制御部170が設けられていてもよいし、1つの制御部170が複数の成膜装置を制御してもよい。
【0024】
<基板保持ユニット>
図3を参照して基板保持ユニット110の構成を説明する。
図3は基板保持ユニット110の斜視図である。
【0025】
基板保持ユニット110は、挟持機構によって基板Sの周縁を挟持することにより、基板Sを保持・搬送する手段である。具体的には、基板保持ユニット110は、基板Sの4辺それぞれを下から支持する複数の支持具203が設けられた支持枠体204と、各支持具203との間で基板Sを挟み込む複数の押圧具205が設けられたクランプ部材206とを有する。一対の支持具203と押圧具205とで1つの挟持機構が構成される。
図3の例では、基板Sの短辺に沿って3つの支持具203が配置され、長辺に沿って6つの挟持機構(支持具203と押圧具205のペア)が配置されており、長辺2辺を挟持する構成となっている。ただし挟持機構の構成は
図3の例に限られず、処理対象となる基板Sのサイズや形状あるいは成膜条件などに合わせて、挟持機構の数や配置を適宜変更してもよい。なお、支持具203は「受け爪」又は「フィンガ」とも呼ばれ、押圧具205は「クランプ」とも呼ばれる。
【0026】
搬送ロボット40から基板保持ユニット110への基板Sの受け渡しは例えば次のように行われる。まず、クランプZアクチュエータ151によりクランプ部材206を上昇させ、押圧具205を支持具203から離間させることで、挟持機構を解放状態にする。搬送ロボット40によって支持具203と押圧具205の間に基板Sを導入した後、クランプZアクチュエータ151によってクランプ部材206を下降させ、押圧具205を所定の押圧力で支持具203に押し当てる。これにより、押圧具205と支持具203の間で基板Sが挟持される。この状態で基板Zアクチュエータ150により基板保持ユニット110を駆動することで、基板Sを昇降(Z方向移動)させることができる。なお、クランプZアクチュエータ151は基板保持ユニット110と共に上昇/下降するため、基板保持ユニット110が昇降しても挟持機構の状態は変化しない。
【0027】
<アライメント>
図3の符号202は、基板Sの4隅に付された第2アライメント用のアライメントマークを示し、符号201は、基板Sの短辺中央に付された第1アライメント用のアライメントマークを示している。
【0028】
アライメントは大別して2段階の工程で行われる。つまり、基板Sおよびマスク120上にそれぞれ設けられたアライメントマークを前述した光学手段(カメラ160、161)を利用して検出した後、検出されたマーク間の相対位置を計測する計測工程と、計測工程の結果に基づいて基板S又はマスク120を移動させて、基板Sとマスク120の相対位置の調整を行う位置合わせ工程を順次進め、アライメントを行う。
【0029】
図4は、第1アライメントを示す図である。
図4(a)は、搬送ロボット40から基板保持ユニット110に基板Sが受け渡された直後の状態を示す。基板Sは自重によりその中央が下方に撓んでいる。次に、
図4(b)に示すように、クランプ部材206を下降させて、押圧具205と支持具203からなる挟持機構により基板Sの左右の辺部が挟持される。次に、
図4(c)に示すように、基板Sがマスク120から離隔された状態で、前述した計測工程および位置合わせ工程による第1アライメントが行われる。第1アライメントは、XY面内(マスク120の表面に平行な方向)における、基板Sとマスク120との相対位置を大まかに調整する第1の位置調整処理であり、「ラフアライメント」とも称される。第1アライメントでは、カメラ160によって基板Sに設けられた基板アライメントマーク201とマスク120に設けられたマスクアライメントマーク(不図示)を認識し、各々のXY位置やXY面内での相対ズレを計測し、位置合わせを行う。第1アライメントに用いるカメラ160は、大まかな位置合わせができるように、低解像だが広視野なカメラである。位置合わせの際には、基板S(基板保持ユニット110)の位置を調整してもよいし、マスク120の位置を調整してもよいし、基板Sとマスク120の両者の位置を調整してもよい。
【0030】
第1アライメント処理が完了したら、
図5(a)、(b)に示すように基板保持ユニット110を下降させて、基板Sの中央部がマスク120に接触する位置(以下、「計測位置」と称す)まで下降させる。次に、
図5(c)に示すように、当該計測位置において挟持機構により基板Sの周辺部が挟持された状態で、第2アライメントのための計測工程を行う。第2アライメントのための計測工程を行う位置(計測位置)は、例えば、支持具203の支持面(上面)がマスク120の載置面よりも少し高い位置(例えば、2mm~3mm高い位置)である。
【0031】
第2アライメントは、高精度な位置合わせを行うアライメント処理であり、「ファインアライメント」とも称される。まず、
図5(c)に示すように、前述した計測位置でカメラ161によって基板Sに設けられた基板アライメントマーク202とマスク120に設けられたマスクアライメントマーク(不図示)を認識し、各々のXY位置やXY面内での
相対ズレを計測する。カメラ161は、高精度な位置合わせができるように、狭視野だが高解像なカメラである。
【0032】
計測されたズレが閾値を超える場合には、以下の過程を経て、位置合わせ処理が行われる。計測されたズレが閾値を超える場合には、
図5(d)に示すように、基板Zアクチュエータ150を駆動して、基板Sを上昇させて再びマスク120から離す。
図5(e)では、カメラ161によって計測されたズレに基づいてXYθアクチュエータを駆動して、位置合わせを行う。位置合わせの際には、基板S(基板保持ユニット110)の位置を調整してもよいし、マスク120の位置を調整してもよいし、基板Sとマスク120の両者の位置を調整してもよい。
【0033】
その後、
図5(f)に示すように再び基板Sを前述した計測位置まで下降させて、基板Sをマスク120上に載置する。そして、カメラ161によって基板Sおよびマスク120のアライメントマークの撮影を行い、ズレを計測する。計測されたズレが閾値を超える場合には、上述した位置合わせ処理が繰り返される。
【0034】
ズレがしきい値以内になった場合には、
図6(a)、
図6(b)に示すように、基板Sを挟持したまま基板保持ユニット110を下降させ、基板保持ユニット110の支持面とマスク120の高さを一致させる。これにより、基板Sの全体がマスク120上に載置される。この時の位置を「蒸着位置」と称す。
図6(c)に示すように、基板Sの全体がマスク120上に完全に載置された蒸着位置で、カメラ161によって基板Sおよびマスク120のアライメントマークをもう一度撮影して、位置ずれが閾値以内に収束されているかを最終的に計測して検証する。この蒸着位置での最終計測工程は、前述した計測位置(
図5(c))での計測およびその計測結果に基づいた位置合わせ工程が行われた以降、
図6(a)~
図6(b)の過程を経て、基板Sが蒸着位置にマスク120上に完全に載置される過程で、生じうる位置ずれを最終的に検証する工程である。
【0035】
以上の工程により、マスク120上への基板Sの載置処理が完了すると、その後、
図6(d)に示すように冷却板Zアクチュエータ152を駆動し、冷却板130を下降させて基板Sに密着させる。これにより、成膜装置による成膜処理(蒸着処理)が行われる準備が完了する。
【0036】
以下、アライアント、特に第2アライアント(ファインアライメント)における、マーク検出・位置計測工程の詳細について説明する。
【0037】
前述のとおり、第2アライアント(ファインアライメント)におけるマーク検出・位置計測工程は2箇所の位置で行われる。つまり、基板Sの中央部がマスク120に接触する“計測位置(第1計測位置)”(
図5(c)参照)と、基板Sの全体がマスク120上に完全に載置された“蒸着位置(第2計測位置)”(
図6(c)参照)で、それぞれマークの検出及び位置計測が同一の光学手段(第2アライメント用カメラ161)によって行われる。前述のとおり、計測位置(第1計測位置)は蒸着位置(第2計測位置)より略2~3mm程度高い位置に設定されている。本発明では、このように異なる高さの計測位置及び蒸着位置で第2アライメントマーク202の検出及び位置計測を行う際に、当該位置(基板の高さ)で第2アライメント用カメラ161で撮影して得られた第2アライメントマーク202の画像のフォーカス度合いに応じて、第2アライメントマーク202の検出及び位置計測にそれぞれ互いに異なる画像処理方式(実画像処理方式及び人工画像処理方式)を適用する。
【0038】
計測位置及び蒸着位置における第2アライメントマーク202の検出及び位置計測は第2アライメントマーク202に対応するように予め作成された基準モデル画像に基づいて
パターンマッチング方式によって行われる。すなわち、第2アライメント用カメラ161で撮影して得られた基板S(及び/又はマスク120)上のアライメントマーク周辺の画像(以下“マーク撮影画像”と称す)内に、あらかじめ作成されたアライメントマークの基準モデル画像とマッチングする領域が存在するか、存在するなら、その位置がどこなのかを見出す方式で行われる。
【0039】
具体的に、
図7に示すように、マーク撮影画像300内で基準モデル画像310と同一のサイズを持つ領域の画像データ(例えば、画素別の輝度データ)と基準モデル画像のデータ(例えば、画素別の輝度データ)を互いに比較して、これらの画像間の相関関係値(correlation value、例えば、基準モデル画像310及びマーク撮影画像300内の当該領域の全体画素の輝度データが一致する度合いを表すパラメータの値)を算出する。算出された相関関係値が所定の閾値を越えて十分な相関関係を持っている場合には、マーク撮影画像300内に基準モデル画像310に対応するアライメントマークが存在すると判定する。算出された相関関係値が所定の閾値に及ばない場合(つまり、マーク撮影画像300内の当該領域の画像と基準モデル画像310が十分に一致しないと判定される場合)には、マーク撮影画像300内の領域をXY平面上で1画素ずつ移動させながらマーク撮影画像300内の他の領域について同一の過程を繰り返してマーク撮影画像内に基準モデル画像310が存在するかどうかを検出する。マーク撮影画像300内に基準モデル画像310との相関関係値が閾値を超える領域が複数存在する場合は、相関関係値が最も大きい領域の位置を基準モデル画像310に対応するアライメントマークの位置と特定することができる。
【0040】
この際、使用されるアライメントマークの基準モデル画像310は、
図8に示すように、アライメントマークの設計データ(サイズ及び形状等)に基づいてソフトウェアによって人為的に合成することによって作成したり(人工画像モデル;artificial model)、基板Sやマスク120のアライメントマークの実画像をカメラで撮影して、各画素別の輝度データを抽出してこれを記憶手段に記憶しておくことにより、作成したりすることができる(実画像モデル;real model)。
【0041】
一方、通常第2アライメント用カメラ161の位置は固定されていて、そのフォーカスは蒸着位置に合わせているため、第2アライメント用カメラ161で撮影された画像(マーク撮影画像)上のアライメントマークは基板の位置(高さ)に応じて(基板が蒸着位置にあるか、それとも計測位置にあるかに応じて)異なる形状(例えば、サイズ)を持つようになり、フォーカスの度合いが異なる。したがって、本発明においては、基板の位置に応じてマーク撮影画像の形状(例えば、サイズ)及びフォーカスの度合いが異なっても、それぞれの位置における第2アライメント工程でのマーク検出およびマーク位置計測の精度を高めるため、計測位置と蒸着位置の両方で基準モデル画像を作成しておき、フォーカス度合いに応じて実画像モデルを適用するか、それとも、人工画像モデルを適用するかを分ける。
【0042】
例えば、計測位置用の人工画像モデルは、
図8(a)に示したように、第2アライメントマーク202の設計データから基板が計測位置にあるときのマークのサイズ及び形状をソフトウェアによって合成したモノクローム画像(例えば,円内は黒で、円外は白である円の画像)で計測位置用の人工画像モデルを作成することができ、計測位置用の実画像モデルは、
図8(b)に示したように、基板が計測位置に位置する時、カメラ161で撮影したアライメントマークの実際の画像から作成することができる。また、蒸着位置でも同様に、蒸着位置用の人工画像モデル(
図8(c))および蒸着位置用の実画像モデル(
図8(d))を作成することができる。
図8に示すように、計測位置用の基準モデル画像(
図8(a)、
図8(b))は、計測位置が蒸着位置よりカメラに近いため、蒸着位置用の基準モデル画像(
図8(c),
図8(d))よりそのサイズが大きい。ただし、
図8に示
した基準も出る画像の大きさやその差は模式的なものである。
【0043】
計測位置でのアライメントマークの形状/サイズを基準に人工画像モデルを作成した後、当該人工画像モデルを計測位置と蒸着位置との両方でのアライメント工程に全て適用して、アライメントマークの検出及び位置計測を行う方式が考えられるが、この場合、計測位置では、当該人工画像モデルと基板上のアライメントマークの実画像がほとんどサイズの差がなく、比較的高い精度で位置計測が可能だが、蒸着位置では、計測位置で作成された当該人工画像モデルと実際の基板が位置した蒸着位置における基板上のアライメントマークのサイズが合わないため、正確な相関関係を引き出すことが困難であり、したがって位置計測の精度が低下した。また、人工画像モデルは実際の基板乃至マスク上に形成されるアライメントマークとは形状が完全に一致することはないため、基本的に人工画像モデルを使用するアライメントは精度を上げるのに限界がある。
【0044】
また、蒸着位置にフォーカスが合うように設けられたアライメント用のカメラで撮影して得られたアライメントマークの実画像に基づいて作成された実画像モデルを蒸着位置及び計測位置の両方での第2アライメント工程に適用することも考えられるが、フォーカスが合う蒸着位置では高精度で位置の計測が可能だが、フォーカスが合わない計測位置でのアライメント工程の精度が大きく落ちてしまう。
【0045】
そこで、本発明においては、蒸着位置または計測位置のいずれかを基準で一つの共通した基準モデル画像を作成するのではなく、蒸着位置及び計測位置のそれぞれに対し、該当位置における基準モデル画像を作成しておいて、基板の高さ(計測位置及び蒸着位置)に合わせて最適の基準モデル画像(及びこれに基づく画像処理方式)を自動的に転換して選択できるようにすることで、互いに異なる計測高さでのアライメント用マークの検出及び位置計測の精度を向上させるようにしている。
【0046】
すなわち、本発明では、第2アライメント工程で第2アライメント用カメラ161で撮影した画像(マーク撮影画像)のフォーカス値に応じて基準モデル画像としての実画像モデルを使用した画像処理方式を適用するか、それとも人工画像モデルを使用した画像処理方式を適用するかを決める。
【0047】
ここで、マーク撮影画像のフォーカス値は基板Sが蒸着位置にあるか、それとも計測位置にあるかを判別するための尺度として機能する。すなわち、第2アライメント用カメラ161は実際蒸着が行われる基板の位置である蒸着位置にフォーカスのピークが合うように設置されることが一般的であるので、基板が蒸着位置にある場合、フォーカスがよく合うようになり(つまり、フォーカス値がフォーカス閾値内になり)、基板が計測位置にある場合には、フォーカスが合わなくなる(つまり、フォーカス値がフォーカス閾値を超えることになる)。ここでフォーカス値は通常的にエッジ勾配(edge gradient)を算出することによって得られるが、本発明はこれに限らず、他の方式でフォーカス値を算出してもよい。
【0048】
従って、本発明では、第2アライメント用カメラ161によって撮影された第2アライメントマークの画像(マーク撮影画像)のフォーカス度合いに基づいて、(i)該当マーク撮影画像のフォーカスが合う場合(例えば、算出されたフォーカス値がフォーカス閾値内である場合)には、基板の位置(高さ)に合わせて予め作成された実画像モデル(
図8(b)、或いは、
図8(d))を使用して、アライメントマークの検出及び位置計測のための画像処理を実行し、(ii)該当マーク撮影画像のフォーカスが合わない場合(例えば、算出されたフォーカス値がフォーカス閾値を超える場合)には、基板の位置(高さ)に合わせて予め作成された人工画像モデル(
図8(a)、或いは、
図8(c))を使用して、アライメントマークの検出及び位置計測を行う。
【0049】
前述のとおり、第2アライメント用カメラ161は蒸着位置にフォーカスが合うように設置されることが一般的であるので、第2アライメント工程で計測位置にある基板Sのアライメントマーク202を撮影した場合、フォーカスが合わず、フォーカス値がフォーカス閾値を超えることになり、従って、この場合には計測位置用の人工画像モデル(
図8(a))を使用して、アライメントマーク202の検出及び位置計測を行う。すなわち、計測位置にある基板の第2アライメントマークを撮影して得られた実画像モデルは、そのフォーカスが合わないので、これを基準にフォーカスが合っていないマーク撮影画像と対比したマッチングする場合、アライメントの精度が大きく落ちる。従って、第2アライメント用のカメラ161のフォーカスが合わない計測位置においては、その輪郭が明確な人工画像モデルを基準モデル画像として使ったほうが相対的にアライメントの精度の低下が抑制できる。
【0050】
これに比べて、基板Sが蒸着位置にある場合、第2アライメント用カメラ161で撮影した基板S上のアライメントマーク202はフォーカスが合い、フォーカス値がフォーカス閾値内にあることになるので、蒸着位置用の実画像モデル(
図8(d))を使用して、アライメントマーク202の検出及び位置計測を行う。
【0051】
以上の説明においては、第2アライメント用カメラ161が蒸着位置にフォーカスが合うように設置されることを前提に説明したが、第2アライメント用カメラ161は計測位置にフォーカスが合うように設置されることもあり得、この場合、フォーカスが合う(例えば、フォーカス値がフォーカス閾値内になる)計測位置では実画像モデル(
図8(b))を使用した画像処理方式によって、第2アライメントマーク202の検出及び位置計測を行い、フォーカスが合わない(例えばフォーカス値がフォーカス閾値を越えることになる)蒸着位置では人工画像モデル(
図8(c))を使用した画像処理方式によって、第2アライメントマーク202の検出および計測を行うことができる。
【0052】
このような構成を通じて、マーク撮影画像のフォーカスが合うかに応じて(つまり、基板が計測位置にあるのか、それとも蒸着位置にあるかどうかに応じて)、アライメントマークの検出及び位置計測に実画像モデルを使用した画像処理を適用するか、人工画像モデルを使用した画像処理を使用するかを定めることにより、基板が計測位置にあれ、それとも蒸着位置にあれ、正確な検出および計測が可能になる。
【0053】
本発明の第2アライメント工程におけるアライメントマークの検出及び位置計測のための画像処理のため、本発明のアライメント装置は、
図9に示すように、第2アライメント用カメラ(またはカメラに含まれたイメージセンサー)450から被処理画像であるマーク撮影画像を受信して格納するマーク撮影画像記憶部410、マーク撮影画像のフォーカス値を算出するフォーカス値算出部420、あらかじめ作成された基準モデル画像を格納する基準モデル画像記憶部440、マーク撮影画像と基準モデル画像との間のパターンマッチング処理を実行する画像処理部400及びこれらを制御するアライメント制御部430を含む。本発明のアライメント制御部430は基板の位置(例えば、フォーカス値算出部420によって算出されたフォーカス値)に応じてパターンマッチング処理に使用される基準モデル画像を選定して画像処理部400に命令を送信し、画像処理部440は、アライメント制御部430の命令に応じて基準モデル画像記憶部440に記憶された基準モデル画像の一つを読み取ってマーク撮影画像とのマッチング処理を実行する。本発明のアライメント装置は本発明の蒸着装置の制御部170内で具現されてもよい。
【0054】
本発明のアライメント装置によって実行されるアライメント方法を
図10のフローチャートを参照して説明する。
【0055】
まず、第2アライメント用カメラで基板(及び/又はマスク)のアライメントマーク周辺の画像を撮影してその画素別の輝度値をマーク撮影画像記憶部410に格納する(S1)。格納されたマーク撮影画像の輝度値データからエッジ勾配方式によってフォーカス値を算出する(S2)。
【0056】
アライメント制御部430はマーク撮影画像のフォーカスが合うかを判定して(例えば、フォーカス値を所定のフォーカス閾値と比較して(S3))、マーク撮影画像のフォーカスが合わないなら(例えば、フォーカス値がフォーカス閾値より大きいなら)、基準モデル画像記憶部440に格納された基準モデル画像のうち計測位置用の人工モデル画像を使用するように画像処理部400に命令を送信する(S4)。一方、マーク撮影画像のフォーカスが合えば(例えば、フォーカス値がフォーカス閾値以下なら)、アライメント制御部430は基準モデル画像記憶部440に格納された基準モデル画像のうち蒸着位置用の実画像モデルを使用するように画像処理部400に命令を送信する(S5)。
【0057】
画像処理部400は、アライメント制御部430からの命令に基づいて、マーク撮影画像と基準モデル画像との間のマッチング処理を実行して、アライメントマークを検出して、その位置を算出する(S6)。
【0058】
アライメント制御部430は画像処理部400からのマッチング処理結果から算出されたアライメントマークの位置データに基づいて、基板Sのマスク120に対する移動量を計算して、計算された移動量に基づいて、基板Zアクチュエータ150を作動させて基板Sとマスク120との整列を行う(S7)。
【0059】
以上の説明においては、第2アライメント用カメラ161のフォーカスが蒸着位置に合うという前提の下に説明したが、第2アライメント用カメラ161のフォーカスが計測位置に合わせた場合には、ステップS4では蒸着位置用の人工画像モデルを使用するようにアライメント制御部430が画像処理部400に命令を伝達し(S4’)、ステップS5では計測位置用の実画像モデルを使用するように命令を伝達する(S5’)。
【0060】
以上の説明においては、基板の位置、つまり、マーク撮影画像のフォーカス度合いをマーク撮影画像のフォーカス値を算出してフォーカス値を閾値と比較することで決めることと説明したが、本発明はこれに限らず、基板の高さ、つまり、マーク撮影画像のフォーカス度合いを他の方法(例えば、レーザセンサーなど)を通じても判定することもできる。
【0061】
以上のアライメントにより、基板Sがマスク120に対し、良好な精度で位置決定された状態で密着した状態になる。
【0062】
<電子デバイスの製造方法の実施例>
次に、本実施例に係る成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0063】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図11(a)は有機EL表示装置500の全体図、
図11(b)は1画素の断面構造を表している。
【0064】
図11(a)に示すように、有機EL表示装置500の表示領域510には、発光素子を複数備える画素520がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域510において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置500の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子520R、第2発光素子520G、第3発光素子520Bの組合せにより画素
520が構成されている。画素520は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0065】
図11(b)は、
図11(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素520は、基板530上に、第1電極(陽極)540と、正孔輸送層550と、発光層560R、560G、560Bのいずれかと、電子輸送層570と、第2電極(陰極)580と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層550、発光層560R、560G、560B、電子輸送層570が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層560Rは赤色を発する有機EL層、発光層560Gは緑色を発する有機EL層、発光層560Bは青色を発する有機EL層である。発光層560R、560G、560Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極540は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層550と電子輸送層570と第2電極580は、複数の発光素子520R、520G、520Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極540と第2電極580とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極540間に絶縁層590が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層600が設けられている。
【0066】
有機EL層を発光素子単位に形成するためには、マスクを介して成膜する方法が用いられる。近年、表示装置の高精細化が進んでおり、有機EL層の形成には開口の幅が数十μmのマスクが用いられる。このようなマスクを用いた成膜の場合、マスクが成膜中に蒸発源から受熱して熱変形するとマスクと基板との位置がずれてしまい、基板上に形成される薄膜のパターンが所望の位置からずれて形成されてしまう。そこで、これら有機EL層の成膜には本発明にかかる成膜装置(真空蒸着装置)が好適に用いられる。
【0067】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0068】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および第1電極540が形成された基板530を準備する。
【0069】
第1電極540が形成された基板530の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極540が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層590を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0070】
絶縁層590がパターニングされた基板530を第1の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて基板を保持し、正孔輸送層550を、表示領域の第1電極540の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層550は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層550は表示領域510よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0071】
次に、正孔輸送層550までが形成された基板530を第2の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板530の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層560Rを成膜する。本例によれば、マスクと基板とを良好に重ね合わせることができ、高精度な成膜を行うことができる。
【0072】
発光層560Rの成膜と同様に、第3の成膜装置により緑色を発する発光層560Gを
成膜し、さらに第4の成膜装置により青色を発する発光層560Bを成膜する。発光層560R、560G、560Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域510の全体に電子輸送層570を成膜する。電子輸送層570は、3色の発光層560R、560G、560Bに共通の層として形成される。
【0073】
電子輸送層570までが形成された基板をスパッタリング装置に移動し、第2電極580を成膜し、その後プラズマCVD装置に移動して保護層600を成膜して、有機EL表示装置500が完成する。
【0074】
絶縁層590がパターニングされた基板530を成膜装置に搬入してから保護層600の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。このようにして得られた有機EL表示装置は、発光素子ごとに発光層が精度よく形成される。従って、上記製造方法を用いれば、発光層の位置ずれに起因する有機EL表示装置の不良の発生を抑制することができる。
【0075】
以上、本発明を実施するための形態を具体的に説明したが、本発明の趣旨は、これらの記載に限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されるべきである。また、これらの記載に基づいた、多様な変更、改変なども、本発明の趣旨に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0076】
S:基板
110:基板保持ユニット
120:マスク
121:マスク台
150:基板Zアクチュエータ
160,161:カメラ
210:基板アライメントマーク
400:画像処理部
410:マーク撮影画像記憶部
420:フォーカス値算出部
430:アライメント制御部
440:基準モデル画像記憶部