(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-11
(45)【発行日】2022-03-22
(54)【発明の名称】未反応単量体を含む混合溶液から未反応単量体を分離する方法
(51)【国際特許分類】
B01D 3/14 20060101AFI20220314BHJP
C07C 255/08 20060101ALI20220314BHJP
C07C 253/34 20060101ALI20220314BHJP
C07C 7/04 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
B01D3/14 A
C07C255/08
C07C253/34
C07C7/04
(21)【出願番号】P 2020530329
(86)(22)【出願日】2018-12-24
(86)【国際出願番号】 KR2018016573
(87)【国際公開番号】W WO2019132470
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-06-02
(31)【優先権主張番号】10-2017-0181830
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】イ、チェ-イク
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ソン-チン
(72)【発明者】
【氏名】イ、チョン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミ-キョン
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-063553(JP,A)
【文献】特表2012-522047(JP,A)
【文献】特開昭55-081848(JP,A)
【文献】米国特許第04626321(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01B 1/00-1/08
B01D 1/00-8/08
C07C 7/00-7/20,253/00-253/34,
255/00-255/51
C08F 6/00-6/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)第1蒸留塔に未反応単量体、非プロトン性極性溶媒及び水を含む混合溶液を投入し、塔頂から未反応単量体及び第1水分画を含む第1分画を回収して塔底から非プロトン性極性溶媒及び第2水分画を含む第2分画を回収する段階と、
2)前記第1分画を第2蒸留塔に投入し、塔頂から水豊富分画を、塔底から未反応単量体豊富分画を回収する段階とを含み、
前記未反応単量体豊富分画の少なくとも一部と前記第1分画の少なくとも一部を熱交換させること
であり、
前記未反応単量体豊富分画の少なくとも一部と前記第1分画の少なくとも一部との間に温度差によって行われるものであり、
前記第1分画の少なくとも一部は、前記未反応単量体豊富分画の少なくとも一部に対して10℃から20℃の上昇された温度を有する、
未反応単量体の分離方法。
【請求項2】
前記熱交換の後に、前記第1分画の少なくとも一部は、凝縮されて前記第1蒸留塔の塔頂に再導入される、
請求項1に記載の未反応単量体の分離方法。
【請求項3】
前記熱交換の後に、前記未反応単量体豊富分画の少なくとも一部は、前記未反応単量体豊富分画とともに回収される、
請求項1または2に記載の未反応単量体の分離方法。
【請求項4】
前記熱交換によって発生した蒸気は、前記第2蒸留塔の熱源として用いられる、
請求項1~3のいずれか一項に記載の未反応単量体の分離方法。
【請求項5】
前記未反応単量体は、アクリロニトリルを70重量%以上含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の未反応単量体の分離方法。
【請求項6】
前記未反応単量体豊富分画は、前記未反応単量体を90重量%以上含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の未反応単量体の分離方法。
【請求項7】
前記分離方法は、前記未反応単量体の回収率が99%以上である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の未反応単量体の分離方法。
【請求項8】
前記第2蒸留塔の塔頂から回収された水豊富分画は、前記第1蒸留塔に再循環される、
請求項1~7のいずれか一項に記載の未反応単量体の分離方法。
【請求項9】
前記混合溶液は、ポリアクリロニトリル系繊維の製造工程中に発生した廃溶液である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の未反応単量体の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年12月28付韓国特許出願第10-2017-0181830号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、未反応単量体を含む混合溶液から未反応単量体を容易に分離して回収でき、エネルギー消費を低減した未反応単量体の分離方法及びこれを行うことができる分離システムに関する。
【背景技術】
【0003】
ポリアクリロニトリル(以下、PANという)系繊維は、優れた耐薬品性及び耐候性等を有しフィルター等の産業用素材に応用されており、ニトリル基の高い極性による双極子間の結合機構及び架橋機構等によって高い融点を有しているため、炭素繊維の前駆体として広く用いられている。
【0004】
PAN系繊維は、アクリロニトリルを主成分とする単量体原料を重合して得られた重合体を非プロトン性(非陽子性)極性溶媒に溶解させて重合体溶液を製造した後、これを水系凝固液が入っている凝固浴(coagulation bath)に紡糸し、必要によって水洗することで製造される。このとき、反応に参加していない未反応単量体は吹き出されて凝固浴に非プロトン性極性溶媒及び水系凝固液とともに混合され残留するようになる。
【0005】
前記未反応単量体は、原料の損失となり製造費用をあげる要因になって、これを廃棄する場合も費用が発生するため経済的効率が低下する。このため、PAN系繊維の製造工程において経済性を向上させるためには、未反応単量体を回収して再利用する技術の確立が必要である。
【0006】
このため、PAN系繊維の製造工程において、未反応単量体を回収及び再利用する方法が研究されている。
【0007】
一例として、日本公開特許2000-044606Aには、紡糸前の重合体溶液から未反応単量体を気化させて回収する方法を提示しており、日本公開特許2000-336115Aには、回収した未反応単量体を含む廃溶液を精製せず原料として直ぐ再利用する方法を提示している。しかし、紡糸前の重合体溶液から未反応単量体を気化させて回収する場合には、未反応単量体を完全に回収しにくく、回収した未反応単量体を含む廃溶液を精製せずにそのまま原料として再利用する場合には、多量の不純物が存在するようになり、このため製造されたPAN系繊維の品質が低下される問題がある。
【0008】
また、廃溶液内の水系凝固液は、未反応単量体と共沸混合物を成して単純蒸留による分離では各成分に純粋に分離できない。
【0009】
したがって、PAN系繊維の製造工程の経済性確保のためには、PAN系繊維の製造工程中に発生した廃溶液から未反応単量体を、過剰にエネルギー消費することなく純粋な成分に容易に分離回収できる方法の開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述した従来の技術の問題点を解決するために案出されたものであり、アクリロニトリルのような未反応単量体を含む混合溶液、例えば、ポリアクリロニトリル系繊維の製造工程中に発生した廃溶液から未反応単量体を容易に分離回収できる、エネルギー消費を低減した未反応単量体の分離方法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の他の目的は、前記の未反応単量体の分離方法を行うことができる分離システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するために、第1蒸留塔に未反応単量体、非プロトン性極性溶媒及び水を含む混合溶液を投入し、塔頂から未反応単量体及び第1水分画を含む第1分画を回収して塔底から非プロトン性極性溶媒及び第2水分画を含む第2分画を回収する段階(段階1)と、前記第1分画を第2蒸留塔に投入し、塔頂から水豊富分画を、塔底から未反応単量体豊富分画を回収する段階(段階2)とを含み、前記未反応単量体豊富分画の少なくとも一部と前記第1分画の少なくとも一部を熱交換させるものである未反応単量体の分離方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、アクリロニトリルを含む未反応単量体と、非プロトン性極性溶媒及び水を含む混合溶液から未反応単量体及び第1水分画を含む第1分画と非プロトン性極性溶媒及び第2水分画を含む第2分画に分離させる第1蒸留塔と、前記第1分画から水豊富分画と未反応単量体豊富分画に分離させる第2蒸留塔と、前記第1蒸留塔の塔頂と第2蒸留塔の塔底との間に備えられた熱交換器とを含み、前記熱交換器は、第1分画循環ラインによって第1蒸留塔の塔頂と連結され、未反応単量体豊富分画の回収ラインによって第2蒸留塔の塔底と連結されているものである未反応単量体の分離システムを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明による未反応単量体の分離方法は、未反応単量体を含む混合溶液、例えば、ポリアクリロニトリル系繊維の製造工程中に発生した廃溶液から混合物状態ではない純粋な状態の未反応単量体を回収できつつも、第1蒸留塔の塔頂から回収される第1分画の少なくとも一部と第2蒸留塔の塔底から回収される未反応単量体豊富分画の少なくとも一部との間に熱交換を介して、第1分画の少なくとも一部を凝縮させて容易に還流させ、このとき発生する蒸気を第2蒸留塔の熱源として用いることで凝縮器と再沸器の使用熱量を減少させることができるため、工程効率が向上され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の好ましい実施形態を例示するものであり、前述した発明とともに本発明の技術思想をより理解させる役割を担うものであるため、本発明は、かかる図面に記載された事項にのみ限定して解釈されてはならない。
【
図1】本発明の一実施形態による未反応単量体、非プロトン性極性溶媒及び水を含む混合溶液から未反応単量体を分離回収するための分離システムを概略的に示した図である。
【
図2】本発明の一比較例による未反応単量体、非プロトン性極性溶媒及び水を含む混合溶液から未反応単量体を分離回収するための分離システムを概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に対する理解を深めるために本発明をより詳しく説明する。
【0018】
本発明の説明及び特許請求の範囲において用いられた用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最善の方法によって説明するために、用語の概念を適宜定義することができるという原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0019】
本発明において用いられる用語「分画(fraction)」は、ある物質が複数のグループに分けられたことを示すもので、例えば、第1水分画及び第2水分画は一つの水が二つに分けられたことを示し、一つのグループが第1水分画、他の一つのグループが第2水分画となる。
【0020】
本発明において用いられる用語「豊富分画」は、複数の成分又は混合物でなる分画内の特定成分をその他成分対比高い比率で含んでいる分画を示すもので、例えば、第1水豊富分画は、分画を成す成分のうち水を他の成分対比高い比率で含んでいる分画を示す。
【0021】
本発明において用いられる用語「共沸混合物(azeotrope)」は、気体の組成(composition)と液体の組成が同一な混合物を示すもので、一般的に二つの成分以上の混合液を蒸留する場合、沸騰によって組成が変わり、これを介して二つの成分の分離が行われるのに反し、共沸混合物は、一定の温度において組成が変わらず共に沸騰することで気体と液体の組成が同一となり単純蒸留によっては成分分離が行われない混合物である。
【0022】
本発明は、アクリロニトリルのような未反応単量体と、これと共沸混合物を形成できる水を含む混合溶液、具体的にはポリアクリロニトリル系繊維の製造工程中に発生した廃溶液から混合物状態ではない純粋な状態の未反応単量体を回収して再利用するための、未反応単量体の分離が容易であり、且つ、エネルギー消費を低減した未反応単量体の分離方法を提供する。
【0023】
一般的に、ポリアクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリルを主成分とする単量体原料を重合して得られた重合体を非プロトン性極性溶媒に溶解させて重合体溶液を製造し、製造された重合体溶液を水系凝固液である、水が入っている凝固浴(coagulation bath)に紡糸ノズルを介して吐出させ、以後、凝固浴内に紡糸された重合体溶液が溶媒と非溶媒の拡散過程によって重合体が凝結(precipitation)し、ゲル化(gelation)することで製造される。このとき、重合に参加していない未反応単量体は紡糸過程によって吹き出され、廃溶液(紡糸後凝固浴に残っている溶液)内に残留するようになる。このような未反応単量体は、原料の損失となり製造費用をあげる要因になって、これを廃棄する場合も費用が発生するため経済的効率が低下する。
【0024】
また、前記廃溶液内には、未反応単量体を始めとして紡糸前の重合体溶液を製造する時に用いられた非プロトン性極性溶媒と水系凝固液として用いられた水が含まれており、前記非プロトン性極性溶媒は、未反応単量体と沸点差が大きいため蒸留によって容易に分離され得るが、水は未反応単量体と共沸混合物を形成するようになり、単純蒸留によっては分離が行われない。このため、未反応単量体を回収しても水と混合された形態で回収され、これをポリアクリロニトリル系繊維の製造工程時に単量体原料として再利用する場合、水が不純物として作用し重合安定性を低下させるか重合体形成がまともに行われない等、否定的な作用を起こして工程効率が低下する。
【0025】
したがって、ポリアクリロニトリル系繊維の製造工程において工程効率を低下させることなく経済性を向上させるためには、多くのエネルギーを消費せずに、未反応単量体を水と分離して純粋な状態の未反応単量体として回収し、再利用できる技術の確立が必要である。
【0026】
このため、本発明は、未反応単量体、これと共沸混合物を形成できる水及び非プロトン性の極性溶媒を含む混合溶液から純粋な状態の未反応単量体を容易に回収できる、エネルギー消費を低減した未反応単量体の分離方法を提供する。
【0027】
ここで、前記混合溶液は、ポリアクリロニトリル系繊維の製造工程中に発生した廃溶液であってよく、前記未反応単量体の分離方法は、ポリアクリロニトリル系繊維の製造工程において未反応単量体の再利用のための方法として用いられてよい。
【0028】
本発明の一実施形態による前記未反応単量体の分離方法は、第1蒸留塔に未反応単量体、非プロトン性極性溶媒及び水を含む混合溶液を投入し、塔頂から未反応単量体及び第1水分画を含む第1分画を回収して塔底から非プロトン性極性溶媒及び第2水分画を含む第2分画を回収する段階(段階1)と、前記第1分画を第2蒸留塔に投入し、塔頂から水豊富分画を、塔底から未反応単量体豊富分画を回収する段階(段階2)とを含み、前記未反応単量体豊富分画の少なくとも一部と前記第1分画の少なくとも一部を熱交換させることを特徴とする。
【0029】
本発明において、前記混合溶液は、ポリアクリロニトリル系繊維の製造工程中に発生する廃溶液(残余溶液)を示すものであってよく、具体的には、前記ポリアクリロニトリル系繊維はアクリロニトリルを主成分とする単量体原料を重合して重合体を形成し、重合体を非プロトン性極性溶媒に溶解させて紡糸溶液を製造した後、これを水系凝固液が入っている凝固浴に紡糸させて製造されるが、このとき紡糸以後の凝固浴に残っている溶液が前記の混合溶液であってよい。また、前記紡糸以後に製造されたアクリロニトリル系繊維を水洗する場合、水洗後残っている溶液まで含むものであってよい。
【0030】
このため、前記混合溶液内には、重合に参加していない未反応単量体を始めとして重合体溶液の製造時に用いられた非プロトン性極性溶媒及び水系凝固液として用いられた水が含まれていてよい。
【0031】
また、本発明において前記未反応単量体は、ポリアクリロニトリル系繊維の製造工程時に用いられた単量体原料のうち重合に参加していない単量体を示すものであってよく、前記単量体原料は、アクリロニトリルを主成分として含むが、必要によって共単量体をさらに含むものであってよい。よって、前記未反応単量体は、アクリロニトリルを含むか、アクリロニトリル及び共単量体を含むものであってよい。ここで、前記共単量体はアクリル系単量体のものであってよく、例えば、前記アクリル系単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、マレイン酸及びこれらのアルキルエステルのうち何れか一つ以上のものであってよい。具体的には、前記共単量体はメチルアクリレート、エチルアクリレート及びブチルアクリレートのうち一つ以上のものであってよい。
【0032】
また、前記未反応単量体がアクリロニトリル及び共単量体を含む場合、前記未反応単量体は、アクリロニトリルを70重量%以上、具体的には95重量%以上含むものであってよい。
【0033】
また、前記非プロトン性極性溶媒は、当業界に同一の目的で用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)又はジメチルホルムアミド(DMF)であってよい。
【0034】
前記段階1は、未反応単量体、非プロトン性極性溶媒及び水を含む混合溶液から未反応単量体及び第1水分画を含む第1分画と非プロトン性極性溶媒及び第2水分画を含む第2分画に分離するための第1蒸留段階であり、第1蒸留塔に前記混合溶液を投入して蒸留し、塔頂から未反応単量体及び第1水分画を含む第1分画を回収し、塔底から非プロトン性極性溶媒及び第2水分画を含む第2分画を回収するものであってよい。
【0035】
また、前記第1蒸留段階を介して分離した第1分画は、未反応単量体及び第1水分画を含むもので、場合によって非プロトン性極性溶媒を極少量含んでよいが、含むとしても0.5重量%未満で含むものであってよい。
【0036】
前記段階2は、前記第1分画から水豊富分画と未反応単量体豊富分画で分離するための第2蒸留段階であり、前記第1分画を第2蒸留塔に投入し、塔頂から水豊富分画を、塔底から未反応単量体豊富分画を回収するものであってよい。
【0037】
前記未反応単量体豊富分画は、未反応単量体を90重量%以上、具体的には95重量%以上、より具体的には未反応単量体を100重量%で含むものであってよい。すなわち、本発明による分離方法によって廃溶液から分離された未反応単量体分画は、大部分未反応単量体でなり、水が殆ど含まれていないものか、具体的には未反応単量体のみでなるものであってよい。
【0038】
また、前記水豊富分画は水を主成分として含み、且つ、未反応単量体を一部含んでいるものであってよく、ここで、水豊富分画を直ちに系外に排出させて回収する場合には、未反応単量体が共に排出され結果的に経済性が低下し得る。よって、本発明の一実施形態による分離方法は、前記第2蒸留塔の塔頂から回収された水豊富分画を第1蒸留塔に再循環させるものであってよく、ここで、第1蒸留段階に再導入させることにより未反応単量体の回収率を高めることができる。
【0039】
一方、廃溶液から未反応単量体の分離回収は通常蒸留塔を介して行われ、回収効率を高めるために蒸留塔の上部には凝縮器を備えて還流させ、下部には再沸器を備え蒸留に必要な熱源を提供している。しかし、前記凝縮器と再沸器には多くのエネルギーが消費されているため経済的効率が良くなく、よって、凝縮器及び再沸器の使用エネルギーを減らすことで工程効率を向上させることができる方案が必要な実情である。
【0040】
本発明の一実施形態による前記未反応単量体の分離方法は、第1蒸留塔の塔頂から回収した第1分画の少なくとも一部と第2蒸留塔の塔底から回収した未反応単量体豊富分画の少なくとも一部を熱交換させることで、工程効率を高めることができる。
【0041】
具体的に、前記分離方法は、前記未反応単量体豊富分画の少なくとも一部と第1分画の少なくとも一部を熱交換させる段階を含んでよく、このとき前記熱交換は、未反応単量体豊富分画の少なくとも一部と第1分画の少なくとも一部との間の温度差によって行われるものであってよい。
【0042】
このとき、前記温度の差は20℃以下、具体的には10℃以上20℃以下であってよい。
【0043】
また、前記熱交換後、第1分画の少なくとも一部は、凝縮されて第1蒸留塔の塔頂に再導入されるものであってよく、未反応単量体豊富分画の少なくとも一部は、未反応単量体豊富分画とともに回収されるものであってよく、前記熱交換によって発生した蒸気は、第2蒸留塔の熱源として用いるものであってよい。
【0044】
本発明において用いる用語「少なくとも一部」は、全体中の一部分以上を示すので、例えば、10等分をする場合、最小1等分以上を示すものであり、第1分画の少なくとも一部は、第1分画中の一部又は第1分画全体を示すものであってよい。
【0045】
一方、本発明の一実施形態による前記分離方法は、2回以上回転される連続工程によって行われるものであってよい。
【0046】
ここで、前記「回転(cycle)」は、同一の工程が数回繰り返されるサイクルのものを示すもので、例えば、前記分離方法の段階1及び段階2が数回順次に繰り返され得ることを示すものであってよい。
【0047】
具体的に、前記熱交換は、最初1回目回転以後の2回目回転から行われるものであってよい。すなわち、最初1回目回転時には第1蒸留塔は別途備えられた凝縮器によって第1分画の少なくとも一部を凝縮させて還流させ、第2蒸留塔は別途備えられた再沸器に熱源の提供受けるものであってよく、2回目回転時から第1分画の少なくとも一部と未反応単量体豊富分画の少なくとも一部との間に熱交換を介して前記凝縮器及び再沸器の代わりとなり得る。
【0048】
本発明の一実施形態による前記分離方法を介して分離された未反応単量体は、回収率が99%以上のものであってよい。
【0049】
ここで、前記未反応単量体の回収率は、混合溶液内に含まれている未反応単量体の含量対比回収された未反応単量体分画内の未反応単量体の含量の比率を示したもので、下記の数式1を介して計算された値であってよい。
【0050】
[数式1]
未反応単量体回収率(%)={未反応単量体豊富分画私の未反応単量体含量 (g)}/{混合溶液私の未反応単量体含量(g)}×100
一方、本発明の一実施形態による前記未反応単量体の分離方法は、後述する分離システムを用いて行うものであってよい。
【0051】
本発明は、未反応単量体、非プロトン性極性溶媒及び水を含む混合溶液から未反応単量体を分離回収できる未反応単量体の分離システムを提供する。
【0052】
本発明の一実施形態による前記分離システムは、アクリロニトリルを含む未反応単量体、非プロトン性極性溶媒及び水を含む混合溶液から未反応単量体及び第1水分画を含む第1分画と非プロトン性極性溶媒及び第2水分画を含む第2分画に分離させる第1蒸留塔と、前記第1分画から水豊富分画と未反応単量体豊富分画に分離させる第2蒸留塔と、
前記第1蒸留塔の塔頂と第2蒸留塔の塔底との間に備えられた熱交換器を含み、
前記熱交換器は、第1分画循環ラインによって第1蒸留塔の塔頂と連結され、未反応単量体豊富分画回収ラインによって第2蒸留塔の塔底と連結されていることを特徴とする。
【0053】
以下、
図1を参照して前記分離システムを具体的に説明する。
【0054】
図1は、本発明の一実施形態による未反応単量体、非プロトン性極性溶媒及び水を含む混合溶液から未反応単量体を分離回収することに利用できる未反応単量体の分離システムを概略的に示した図である。
【0055】
図1に示された通り、本発明の一実施形態による前記分離システム100は、第1蒸留塔41、第2蒸留塔42及び第1蒸留塔の塔頂と第2蒸留塔の塔底との間に備えられた熱交換器50を含み、第1蒸留塔の塔底には再沸器を、第2蒸留塔の塔頂には凝縮器を備えているものであってよい。
【0056】
前記第1蒸留塔41は、未反応単量体、非プロトン性極性溶媒及び水を含む混合溶液から未反応単量体及び第1水分画を含む第1分画と非プロトン性極性溶媒及び第2水分画を含む第2分画に分離させるもので、一側部には混合溶液を供給する供給ライン31が備えられており、他の一側部の塔頂には第1分画流れライン32及び第1分画循環ライン51が、塔底には第2分画流れライン33が備えられているものであってよく、前記第1分画循環ライン51は、第1分画流れライン32と連結されているか第1分画流れライン32とは別途に第1蒸留塔41塔頂と連結されているものであってよい。
【0057】
前記第2蒸留塔42は、第1分画から水豊富分画と未反応単量体豊富分画を分離させるもので、第2蒸留塔42の一側部は前記第1分画流れライン32によって第1蒸留塔41の塔頂と連結されており、他の一側部の塔頂には水豊富分画の循環ライン34、塔底には未反応単量体豊富分画の回収ライン35及び蒸気導入ライン52が備えられているものであってよい。
【0058】
また、第1蒸留塔41の塔頂と第2蒸留塔42の塔底の間には、熱交換器50が備えられているものであってよく、前記熱交換器50は、第1分画循環ライン51によって第1蒸留塔41の塔頂と連結され、未反応単量体豊富分画の回収ライン35によって第2蒸留塔の塔底と連結されているものであってよく、前記未反応単量体豊富分画の回収ライン35は、第2蒸留塔42塔底から導出されて熱交換器50を通過し、系外に連結されるものであってよい。
【0059】
本発明の一実施形態による前記未反応単量体の分離方法を前述した分離システムを用いて行う場合、未反応単量体、非プロトン性極性溶媒及び水を含む混合溶液、例えば、ポリアクリロニトリル系繊維の製造工程中に発生した廃溶液は、混合溶液供給ライン31を介して第1蒸留塔41に導入され未反応単量体と第1水分画を含む第1分画と非プロトン性極性溶媒及び第2水分画を含む第2分画に分離され、前記第1分画は第1分画流れライン32によって第1蒸留塔41の塔頂から第2蒸留塔42に移送され、第2分画は第2分画流れライン33によって第1蒸留塔41の塔底から系外に排出される。
【0060】
第2蒸留塔42に移送された第1分画は、未反応単量体豊富分画と水豊富分画に分離され、前記未反応単量体豊富分画は、未反応単量体豊富分画の回収ライン35によって第2蒸留塔42の塔底から系外に移送されて回収され、水豊富分画は、第1水豊富分画の循環ライン34を介して第1蒸留塔41塔頂に移送される。このとき、前記第1蒸留塔41の塔頂から第2蒸留塔42に移送される第1分画の少なくとも一部は、第1分画循環ライン51によって熱交換器50に移送され、第2蒸留塔42の塔底から移送される未反応単量体豊富分画の少なくとも一部は、未反応単量体豊富分画の回収ライン35によって熱交換器50に移送されて互いに熱交換され、第1分画の少なくとも一部は凝縮されて第1蒸留塔41に再導入され、未反応単量体豊富分画の少なくとも一部は、残りの未反応単量体豊富分画とともに系外に回収され、前記熱交換によって発生した蒸気は、蒸気導入ライン52によって第2蒸留塔42に導入され熱源として用いられる。
【0061】
以下、実施例を介して本発明をより詳しく説明する。しかし、下記実施例は本発明を例示するためのものであり、これらだけに本発明の範囲が限定されるのではない。
【0062】
下記実施例及び比較例は、商用プロセスシミュレーションプログラムASPEN PLUSを用いて本発明による分離方法をシミュレーションした。シミュレーションに必要な定数は前記プログラム上に内蔵されている値、文献上に記載された値等を用いた。
【0063】
このとき、混合溶液は、未反応単量体としてアクリロニトリル、メチルアクリレート、非プロトン性極性溶媒としてジメチルスルホキシド、及び水を含むものと設定した。
【0064】
<実施例1>
図1に示された通りの分離システム100を用いてアクリロニトリルを含む混合溶液から未反応単量体であるアクリロニトリルとメチルアクリレートの分離工程を行っており、このとき分離工程は、2回連続工程として行い、最小1回目は第1蒸留塔及び第2蒸留塔それぞれ凝縮器及び再沸器を用いることと設定しており、2回目は第1蒸留塔の凝縮器と第2蒸留塔の再沸器の役割を第1分画の少なくとも一部と未反応単量体豊富分画の少なくとも一部との間の熱交換で行われるように設定した。
【0065】
具体的に、アクリロニトリル、メチルアクリレート、ジメチルスルホキシド及び水を含む混合溶液は、第1蒸留塔41に供給されて第1分画と第2分画に分離され、前記第1分画は、第2蒸留塔42で未反応単量体(アクリロニトリル及びメチルアクリレート)豊富分画と水豊富分画に分離され、未反応単量体豊富分画は未反応単量体豊富分画の回収ライン35によって回収される。前記水豊富分画は、第1水豊富分画の循環ライン34によって第1蒸留塔41に再導入される。このように、最小1回の分離工程が行われて同一の方法で2回分離工程が行われ、且つ、第1蒸留塔41塔頂から移送される第1分画の少なくとも一部と第2蒸留塔42塔底から移送される未反応単量体豊富分画の少なくとも一部との間に熱交換で第1蒸留塔の凝縮器と第2蒸留塔の再沸器の役割を行うように設定した。このとき、前記第1分画の少なくとも一部は、未反応単量体豊富分画の少なくとも一部対比13.9℃上昇された温度を有するように設定しており、前記混合溶液は、4bar、55℃の状態で総365.62kg/hr(アクリロニトリル2.17kg/hr、メチルアクリレート0.15kg/hr、水237.17kg/hr及びジメチルスルホキシド126.13kg/hr)で第1蒸留塔41に導入されるように設定し、第1蒸留塔41及び第2蒸留塔42を下記表1に示した通りの温度及び圧力で設定しており、最終的に未反応単量体の回収率及び純度は99.9%であった。
【0066】
一方、下記表1に各蒸留塔における温度及び圧力設定値と各蒸留塔の再沸器熱量(消費量)を示した。
【0067】
【0068】
表1において、生成熱量は前記熱交換によって発生した蒸気による熱量を表示したもので、第2蒸留塔の再沸器熱量は第2蒸留塔の運転に用いられた再沸器熱量を示したものである。
【0069】
前記表1に示された通り、生成熱量が0.135Gcal/hrで第2蒸留塔の運転に用いられた再沸器熱量より0.018Gcal/hr多く、したがって熱源を追加供給することなく工程が容易に行われたことを確認した。
【0070】
<実施例2>
実施例1において、第1蒸留塔及び第2蒸留塔の運転条件を下記表2に示した通りに調節して分離工程を行ったことを除いては、実施例1と同一の方法を介して未反応単量体を回収率及び純度99.9%で回収した。このとき、前記第1分画の少なくとも一部が未反応単量体豊富分画の少なくとも一部対比17℃上昇された温度を有するように設定した。
【0071】
一方、下記表3に各蒸留塔における温度及び圧力設定値と各蒸留塔の再沸器熱量(消費量)を示した。
【0072】
【0073】
表2において、生成熱量は、前記熱交換によって発生した蒸気による熱量を表示したもので、第2蒸留塔の再沸器熱量は、第2蒸留塔の運転に用いられた再沸器熱量を示したものである。
【0074】
前記表2に示された通り、生成熱量が0.170Gcal/hrで第2蒸留塔の運転に用いられた再沸器熱量より0.057Gcal/hr多く、したがって熱源を追加供給することなく工程が容易に行われたことを確認した。
【0075】
<実施例3>
実施例1において、第1蒸留塔及び第2蒸留塔の運転条件を下記表3に示した通りに調節して分離工程を行ったことを除いては、実施例1と同一の方法を介して未反応単量体を回収率及び純度99.9%で回収した。このとき、前記第1分画の少なくとも一部が未反応単量体豊富分画の少なくとも一部対比14.4℃上昇された温度を有するように設定した。
【0076】
一方、下記表3に各蒸留塔における温度及び圧力設定値と各蒸留塔の再沸器熱量(消費量)を示した。
【0077】
【0078】
表3において、生成熱量は、前記熱交換によって発生した蒸気による熱量を表示したもので、第2蒸留塔の再沸器熱量は、第2蒸留塔の運転に用いられた再沸器熱量を示したものである。
【0079】
前記表3に示された通り、生成熱量が0.113Gcal/hrで第2蒸留塔の運転に用いられた再沸器熱量より0.019Gcal/hr多く、したがって熱源を追加供給することなく工程が容易に行われたことを確認した。
【0080】
<実施例4>
実施例3において、混合溶液を総384.97kg/hr(アクリロニトリル20.17kg/hr、メチルアクリレート1.5kg/hr、水237.17kg/hr及びジメチルスルホキシド126.13kg/hr)で第1蒸留塔41に導入されるように設定したことを除いては、実施例3と同一の方法を介して未反応単量体を回収率及び純度99.9%で回収した。このとき、前記第1分画の少なくとも一部と未反応単量体豊富分画の少なくとも一部との温度差は14.4℃であった。
【0081】
一方、下記表4に各蒸留塔における温度及び圧力設定値と各蒸留塔の再沸器熱量(消費量)を示した。
【0082】
【0083】
表4において、生成熱量は、前記熱交換によって発生した蒸気による熱量を表示したもので、第2蒸留塔の再沸器熱量は、第2蒸留塔の運転に用いられた再沸器熱量を示したものである。
【0084】
前記表4に示された通り、生成熱量が0.215Gcal/hrで、第2蒸留塔の運転に用いられた再沸器熱量が0.292 Gcal/hrであり、さらに0.077Gcal/hrの熱量が供給されたが、後述する、同一条件の混合溶液を用いた比較例2における供給熱量よりは著しく減少されたことを確認した。
【0085】
<比較例1>
図2に示された通りの分離システム10を用いてアクリロニトリルを含む混合溶液から未反応単量体であるアクリロニトリル及びメチルアクリレートを分離した。
【0086】
アクリロニトリル、メチルアクリレート、ジメチルスルホキシド及び水を含む混合溶液は、第1蒸留塔21に供給されて第1分画と第2分画に分離され、前記第1分画は、第2蒸留塔22において未反応単量体(アクリロニトリル及びメチルアクリレート)豊富分画と水豊富分画に分離され、未反応単量体豊富分画は、未反応単量体豊富分画の回収ライン15によって回収される。前記水豊富分画は、水豊富分画の循環ライン14によって第1蒸留塔21に再導入される。このとき、前記混合溶液は、実施例1と同一の条件で導入されるように設定し、第1蒸留塔21及び第2蒸留塔22を下記表5に示された通りの温度及び圧力で設定しており、最終的に未反応単量体の回収率及び純度は99.9%であった。
【0087】
一方、下記表5に各蒸留塔における温度及び圧力設定値と各蒸留塔の再沸器熱量(消費量)を示した。
【0088】
【0089】
前記表1から3及び表5に示された通り、本発明の一実施形態による実施例1、実施例2及び実施例3の分離方法では、再沸器熱量(消費量)がそれぞれ0.154Gcal/hr、0.192Gcal/hr及び0.129Gcal/hrで、比較例1の分離方法における再沸器熱量0.204Gcal/hr対比それぞれ0.05Gcal/hr(約25%に該当)、0.012Gcal/hr(約6%に該当)及び0.075Gcal/hr(約37%に該当)が減少されることを確認した。
【0090】
<比較例2>
比較例1において、混合溶液を総384.97kg/hr(アクリロニトリル20.17kg/hr、メチルアクリレート1.5kg/hr、水237.17kg/hr及びジメチルスルホキシド126.13kg/hr)で第1蒸留塔21に導入されるように設定したことを除いては、比較例1と同一の方法を介して未反応単量体を回収率及び純度99.9%で回収した。
【0091】
一方、下記表6に各蒸留塔における温度及び圧力設定値と各蒸留塔の再沸器熱量(消費量)を示した。
【0092】
【0093】
前記表4及び表6に示された通り、本発明の一実施形態による実施例4の分離方法では、再沸器熱量(消費量)が0.316Gcal/hrで、比較例2の分離方法における再沸器熱量0.414Gcal/hr対比0.098Gcal/hr(約24%に該当)が減少されることを確認した。
【符号の説明】
【0094】
10、100:分離システム
21、41:第1蒸留塔
22、42:第2蒸留塔
11、31:供給ライン
12、32:第1分画流れライン
13、33:第2分画流れライン
14、34:水豊富分画の循環ライン
15、35:未反応単量体豊富分画の回収ライン
50:熱交換器
51:第1分画循環ライン
52:蒸気導入ライン