IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 栗田工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-TOC除去装置 図1
  • 特許-TOC除去装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】TOC除去装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/48 20060101AFI20220315BHJP
   C02F 1/70 20060101ALI20220315BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20220315BHJP
   B01F 21/00 20220101ALI20220315BHJP
   B01F 25/40 20220101ALI20220315BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B01D61/48
C02F1/70 Z
C02F1/72 Z
B01F1/00 A
B01F5/06
C02F1/44 K
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017251628
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019115892
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】床嶋 裕人
(72)【発明者】
【氏名】新井 伸説
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-001258(JP,A)
【文献】国際公開第2010/013677(WO,A1)
【文献】特開2013-208557(JP,A)
【文献】特開2011-167633(JP,A)
【文献】特開2014-133225(JP,A)
【文献】特開2017-018847(JP,A)
【文献】特開2015-083286(JP,A)
【文献】特開2011-224440(JP,A)
【文献】特開2008-132492(JP,A)
【文献】特開平10-272474(JP,A)
【文献】米国特許第06780328(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/48
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱塩室内に、TOC分解能を有する触媒を含む連続式電気脱イオン装置を有するTOC除去装置であって、
TOC含有水に水素ガス又は酸素ガスを溶解させるガス溶解手段と、
該ガス溶解手段で水素ガスを溶解させたTOC含有水と酸素ガスを溶解させたTOC含有水とを前記連続式電気脱イオン装置の前記脱塩室に交互に導入する手段と
を有し、
前記連続式電気脱イオン装置の陽極で発生した酸素ガスを前記TOC含有水に溶解させる酸素ガスとして前記ガス溶解手段に送給する酸素ガス送給手段、及び/又は、前記連続式電気脱イオン装置の陰極で発生した水素ガスを前記TOC含有水に溶解させる水素ガスとして前記ガス溶解手段に送給する水素ガス送給手段を有することを特徴とするTOC除去装置。
【請求項2】
前記ガス溶解手段が、前記連続式電気脱イオン装置の前段に設けられたガス溶解膜モジュールと、該ガス溶解膜モジュールの気相室に水素ガスを供給する水素ガス供給手段と該気相室に酸素ガスを供給する酸素ガス供給手段と、該水素ガス供給手段及び酸素ガス供給手段によるガスの供給を交互に切り換える切換手段と、該ガス溶解膜モジュールの液相室に前記TOC含有水を供給する手段とを有し、該液相室から流出するガス溶解TOC含有水が前記連続式電気脱イオン装置の脱塩室に導入されることを特徴とする請求項に記載のTOC除去装置。
【請求項3】
前記TOC分解能を有する触媒が白金族金属の微粒子よりなり、イオン交換樹脂に担持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のTOC除去装置。
【請求項4】
前記連続式電気脱イオン装置の脱塩室に、カチオン交換樹脂と、前記TOC分解能を有する金属が担持されたアニオン交換樹脂とが充填されていることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載のTOC除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TOC除去装置及びTOC除去方法に係り、詳しくは、TOC含有水中の難分解性TOCを含むTOCをより簡便にかつ連続的に分解除去するTOC除去装置及びTOC除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の洗浄や表面処理には、高濃度の薬液や洗剤と、それを濯ぐための大量の純水や超純水が用いられている。このため、電子部品の高度化に伴う超純水の水質向上だけでなく、水使用量低減を狙った排水回収による水回収率の向上が課題となっている。その中で、水中の有機物成分(TOC)を効率的により低濃度まで低減させることが、水質向上および水回収率向上の両面で重要な課題である。
【0003】
TOCを分解する方法としては、生物処理と物理化学処理とがあり、生物処理が適用困難な場合、物理化学処理のうち、例えば、逆浸透(RO)膜を用いた除去や酸化剤と併用した加熱分解や低圧UVランプを用いた低圧UV酸化装置などが用いられてきた。
【0004】
しかし、これらの方法は多大な電気エネルギー(RO膜の給水加圧ポンプの駆動電力やUV照射電力など)や熱エネルギー(加熱分解装置の蒸気など)を必要とする。
また、超純水製造装置などでよく用いられるRO膜や低圧UV酸化装置などは、分子量が小さい窒素化合物(尿素など)に代表される難分解性TOCと呼ばれるTOCに対しては、極端に分解効率が悪いといった問題もあった。
【0005】
これらの問題に対して、本発明者は、特許文献1において、触媒を用いたTOC除去方法を提案した。
この方法は、白金族の金属触媒に対し、水素水通水工程、酸素水通水工程及び有機物含有原水通水工程を繰り返し行う方法であり、次のようなメカニズムでTOCが分解される。
水素水を触媒に通水すると、触媒に水素が吸着する。触媒に水素が吸着した状態で酸素水を供給することにより、触媒上で水分子が生成し、一部の水分子が触媒上に留まる。次いで有機物含有水を供給すると、非共有電子対をもつ尿素のようなTOCと該水分子とが配位結合のような結合をして、有機物が触媒に吸着される。この吸着された有機物が白金族触媒の作用によって一部分解される。そして、次の水素水供給時に、触媒に水素が吸着すると同時に、分解生成物が触媒から離れる。
このようにして触媒に接触させた後の処理水をアニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂の少なくとも一方と接触させることで、TOCの分解によって生成した有機酸などのイオン性物質をイオン交換樹脂によって吸着除去できる。このため、特許文献1では、触媒充填カラムの後段にイオン交換樹脂カラムを設けている。
【0006】
なお、本発明で用いる連続式電気脱イオン装置は、半導体製造工場、液晶製造工場、製薬工業、食品工業、電力工業等の各種の産業又は民生用ないし研究施設等において使用される脱イオン水の製造に広く用いられている。連続式電気脱イオン装置は、図2に示す如く、電極(陽極11,陰極12)の間に複数のアニオン交換膜13及びカチオン交換膜14を交互に配列して濃縮室15と脱塩室16とを交互に形成し、脱塩室16にイオン交換樹脂、イオン交換繊維もしくはグラフト交換体等からなるアニオン交換体及びカチオン交換体を混合もしくは複層状に充填したものである。図2中、17は陽極室、18は陰極室である。
連続式電気脱イオン装置は、水解離によってHイオンとOHイオンを生成させ、脱塩室内に充填されているイオン交換体を連続して再生することによって、効率的な脱イオン処理が可能であり、従来から広く用いられてきたイオン交換樹脂装置のような薬品を用いた再生処理を必要とせず、完全な連続採水が可能で、高純度の水が得られるという優れた特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-208557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法では、水素水通水工程、酸素水通水工程及び原水通水工程を切り替える必要があり、圧力変動が起きるなどの課題があった。また、原水の処理で生成したイオン性物質をイオン交換樹脂に吸着させて除去する場合は、このイオン交換樹脂の交換や再生操作が必要となるため、連続処理性に課題があった。
【0009】
本発明は、TOC含有水中のTOCを難分解性TOCも含めてより簡便にかつ連続的に分解除去することができるTOC除去装置及びTOC除去方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、連続式電気脱イオン装置の脱塩室に、アニオン交換体及びカチオン交換体と共にTOC分解能を有する触媒を充填することにより、通水の切り換えやイオン交換樹脂の交換又は再生を行う必要もなく、TOCを、難分解性のTOCも含めて簡便にかつ連続的に分解除去できることを見出した。
即ち、連続式電気脱イオン装置の脱塩室内にアニオン交換体及びカチオン交換体と共にTOC分解能を有する触媒を充填し、連続式電気脱イオン装置に供給する給水を、水素ガス溶解TOC含有水と酸素ガス溶液TOC含有水とで交互に切り換えることにより、連続式電気脱イオン装置内のTOC分解能を有する触媒へTOCが吸着(酸素ガス溶解TOC含有水給水時)、脱着(水素ガス溶解TOC含有水給水時)を連続的に繰り返すことが可能となり、また脱着時にイオン化した尿素等のTOC分解物を脱塩室内のイオン交換体で吸着し、TOC分解物を吸着したイオン交換体を連続式電気脱イオン装置本来の作用で連続的に再生することで、連続して水処理を行うことが可能となる。
【0011】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、本発明は以下を要旨とする。
【0012】
[1] 脱塩室内に、TOC分解能を有する触媒を含む連続式電気脱イオン装置を有することを特徴とするTOC除去装置。
【0013】
[2] TOC含有水に水素ガス又は酸素ガスを溶解させるガス溶解手段と、該ガス溶解手段で水素ガスを溶解させたTOC含有水と酸素ガスを溶解させたTOC含有水とを前記連続式電気脱イオン装置の前記脱塩室に交互に導入する手段とを有することを特徴とする[1]に記載のTOC除去装置。
【0014】
[3] 前記ガス溶解手段が、前記連続式電気脱イオン装置の前段に設けられたガス溶解膜モジュールと、該ガス溶解膜モジュールの気相室に水素ガスを供給する水素ガス供給手段と該気相室に酸素ガスを供給する酸素ガス供給手段と、該水素ガス供給手段及び酸素ガス供給手段によるガスの供給を交互に切り換える切換手段と、該ガス溶解膜モジュールの液相室に前記TOC含有水を供給する手段とを有し、該液相室から流出するガス溶解TOC含有水が前記連続式電気脱イオン装置の脱塩室に導入されることを特徴とする[2]に記載のTOC除去装置。
【0015】
[4] 前記連続式電気脱イオン装置の陽極で発生した酸素ガスを前記TOC含有水に溶解させる酸素ガスとして前記ガス溶解手段に送給する酸素ガス送給手段、及び/又は、前記連続式電気脱イオン装置の陰極で発生した水素ガスを前記TOC含有水に溶解させる水素ガスとして前記ガス溶解手段に送給する水素ガス送給手段を有することを特徴とする[2]又は[3]に記載のTOC除去装置。
【0016】
[5] 前記TOC分解能を有する触媒が白金族金属の微粒子よりなり、イオン交換樹脂に担持されていることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載のTOC除去装置。
【0017】
[6] 前記連続式電気脱イオン装置の脱塩室に、カチオン交換樹脂と、前記TOC分解能を有する金属が担持されたアニオン交換樹脂とが充填されていることを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載のTOC除去装置。
【0018】
[7] TOC含有水中のTOCを分解除去する方法において、該TOC含有水に水素ガスを溶解させる水素ガス溶解工程と、該TOC含有水に酸素ガスを溶解させる酸素ガス溶解工程とを有し、[1]ないし[6]のいずれかに記載のTOC除去装置の前記脱塩室に、該水素ガス溶解工程からの水素ガス溶解TOC含有水と該酸素ガス溶解工程からの酸素ガス溶解TOC含有水とを交互に導入して該TOC含有水中のTOCを分解除去することを特徴とするTOC除去方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、TOC含有水中の難分解性のTOCも含めてTOCをより簡便にかつ連続的に分解除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のTOC除去装置の実施の形態を示す系統図である。
図2】連続式電気脱イオン装置の一般的な構成を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明のTOC除去装置及びTOC除去方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明のTOC除去装置は、脱塩室にアニオン交換体及びカチオン交換体と共にTOC分解能を有する触媒を充填してなる連続式電気脱イオン装置(以下、「本発明の連続式電気脱イオン装置」と称す場合がある。)を有することを特徴とするものである。
本発明の連続式電気脱イオン装置の部材構成自体は、図2に示す一般的な連続式電気脱イオン装置と同様であり、本発明の連続式電気脱イオン装置は、連続式電気脱イオン装置の脱塩室にTOC分解能を有する触媒を充填してなることを特徴とする。
【0023】
前述の通り、連続式電気脱イオン装置は、図2に示す如く、電極(陽極11,陰極12)の間に複数のアニオン交換膜13及びカチオン交換膜14を交互に配列して濃縮室15と脱塩室16とを交互に形成し、脱塩室16にイオン交換樹脂、イオン交換繊維もしくはグラフト交換体等からなるアニオン交換体及びカチオン交換体を混合もしくは複層状に充填したものである。
本発明の連続式電気脱イオン装置は、このような一般的な連続式電気脱イオン装置の脱塩室にアニオン交換体及びカチオン交換体と共にTOC分解能を有する触媒を充填してなるものであるが、その充填方法としては、
(1) 複数の脱塩室のうちの一部の脱塩室にTOC分解能を有する触媒を充填し、他の脱塩室にはアニオン交換体及びカチオン交換体を充填する。
(2) 複数の脱塩室のうちの一部にTOC分解能を有する触媒とアニオン交換体及びカチオン交換体とを充填し、他の脱塩室にはアニオン交換体及びカチオン交換体を充填する。
(3) すべての脱塩室にTOC分解能を有する触媒とアニオン交換体及びカチオン交換体とを充填する。
などの方法が考えられるが、TOC分解能を有する触媒に接しない被処理水のTOCは分解されないため、(3)の方法でTOC分解能を有する触媒を充填するこが好ましい。
【0024】
TOC分解能を有する触媒としては、TOC分解能を有するものであればよく、特に制限はないが、難分解性のTOC分解能にも優れることから白金族の金属触媒を用いることが好ましい。
触媒に用いる白金族金属としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金を挙げることができる。こられの白金族金属は、1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもでき、2種以上の合金として用いることもでき、あるいは、天然に産出される混合物の精製品を単体に分離することなく用いることもできる。これらの中で、白金、パラジウム、白金/パラジウム合金の単独又はこれらの2種以上の混合物は、触媒活性が強いので特に好適に用いることができる。
【0025】
白金族の金属触媒は、白金族の金属微粒子でもよく、白金族の金属ナノコロイド粒子を担体の表面に担持させた金属担持触媒でもよい。
【0026】
白金族の金属ナノコロイド粒子の平均粒子径は好ましくは1~50nmであり、より好ましくは1.2~20nmであり、さらに好ましくは1.4~5nmである。金属ナノコロイド粒子の平均粒子径が1nm未満であると、TOCの分解除去に対する触媒活性が低下するおそれがある。金属ナノコロイド粒子の平均粒子径が50nmを超えると、ナノコロイド粒子の比表面積が小さくなって、TOCの分解除去に対する触媒活性が低下するおそれがある。
【0027】
白金族の金属ナノコロイド粒子を担持させる担体に特に制限はなく、例えば、マグネシア、チタニア、アルミナ、シリカ-アルミナ、ジルコニア、活性炭、ゼオライト、ケイソウ土、イオン交換樹脂などを挙げることができる。これらの中で、アニオン交換樹脂を特に好適に用いることができる。白金族の金属ナノコロイド粒子は電気二重層を有し、負に帯電しているので、アニオン交換樹脂に安定的に担持されて剥離しにくい。アニオン交換樹脂としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体を母体とした強塩基性アニオン交換樹脂であることが好ましく、特にゲル型樹脂であることがより好ましい。また、アニオン交換樹脂の交換基は、OH形であることが好ましい。
【0028】
アニオン交換樹脂への白金族の金属ナノコロイド粒子の担持量は、0.01~0.2重量%であることが好ましく、0.04~0.1重量%であることがより好ましい。金属ナノコロイド粒子の担持量が0.01重量%未満であると、TOCの分解除去に対する触媒活性が不足するおそれがある。金属ナノコロイド粒子の担持量は0.2重量%以下でTOCの分解除去に対して十分な触媒活性が発現し、通常は0.2重量%を超える金属ナノコロイド粒子を担持させる必要はない。また、金属ナノコロイド粒子の担持量が増加すると、水中への金属の溶出のおそれも大きくなる。
【0029】
脱塩室へのTOC分解能を有する触媒の充填量は特に制限はなく、要求されるTOC分解能により適宜調整される。
【0030】
本発明の連続式電気脱イオン装置の脱塩室に充填されるアニオン交換体及びカチオン交換体としては、イオン交換樹脂、イオン交換繊維、グラフト交換体等が挙げられるが、好ましくは、アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂である。
【0031】
脱塩室内のアニオン交換体とカチオン交換体の充填割合には特に制限はないが、通常、アニオン交換体:カチオン交換体=1:1~7:3(体積比)で充填される。
【0032】
前述の通り、TOC分解能を有する触媒は、白金族の金属触媒を、アニオン交換樹脂に担持して用いることが好ましいことから、本発明の連続式電気脱イオン装置としては、脱塩室内のアニオン交換樹脂として、従来の通常のアニオン交換樹脂に代えて、前述の白金族金属担持アニオン交換樹脂を充填したものを用いることは、TOC分解能を有する触媒を十分に充填することができる上に、白金族金属担持アニオン交換樹脂を充填するのみで、TOC分解能を有する触媒の充填とアニオン交換体の充填を行えるため、好ましい態様である。
【0033】
この場合、TOC分解能を有する触媒の担時は表面のみで起こるので、アニオン交換樹脂の内部のアニオン交換能力は有したままとなる。そのため連続式電気脱イオン装置の脱塩室に充填するアニオン交換樹脂を上記の金属触媒担持アニオン交換樹脂としても、イオン交換能が損なわれることはない。
【0034】
なお、本発明の連続式電気脱イオン装置は、濃縮室にもアニオン交換体及びカチオン交換体を充填したものであってもよい。
【0035】
特許文献1に記載されるようにTOC分解能を有する触媒によるTOCの分解には、予め水素を供給し、次いで酸素を供給する必要がある。
従って、本発明のTOC除去装置では、原水であるTOC含有水に水素ガス又は酸素ガスを溶解させるガス溶解手段と、該ガス溶解手段で水素ガスを溶解させたTOC含有水と酸素ガスを溶解させたTOC含有水とを本発明の連続式電気脱イオン装置の脱塩室に交互に導入する手段とを設けることが好ましい。このガス溶解手段として、連続式電気脱イオン装置の前段にガス溶解膜モジュールを設け、ガス溶解膜モジュールの気相室に水素ガスを供給する水素ガス供給手段と酸素ガスを供給する酸素ガス供給手段と、水素ガス供給手段及び酸素ガス供給手段によるガスの供給を交互に切り換える切換手段と、ガス溶解膜モジュールの液相室にTOC含有水を供給する手段とを設け、ガス溶解膜モジュールの液相室から流出するガス溶解TOC含有水を連続式電気脱イオン装置の脱塩室に導入するようにすることが好ましい。
前述の通り、特許文献1の方法では、水素水通水工程、酸素水通水工程及び有機物含有原水通水工程を繰り返し行う必要があったのに対して、本発明では、水素ガスと酸素ガスを切り換えることで、水素水、酸素水を交互に通水することが可能であるため、水素ガス溶解TOC含有水と酸素ガス溶解TOC含有水との交互通水でTOCを分解除去できる。
【0036】
また、連続式電気脱イオン装置では、水に直流電圧を印加することから、陽極で酸素が、陰極で水素がそれぞれ発生するため、陽極で発生した酸素ガスを原水のTOC含有水に溶解させる酸素ガスとして、陰極で発生した水素ガスを原水のTOC含有水に溶解させる水素ガスとして、それぞれガス溶解膜モジュール等のガス溶解手段に送給して有効利用することが好ましい。
【0037】
図1は、このような好適態様を組み込んだ本発明のTOC除去装置の実施の形態を示す系統図である。
原水のTOC除去装置は、原水供給配管L1を経て、ガス溶解手段であるガス溶解膜モジュール1へ供給される。ガス溶解手段はTOC含有水にガスを溶解することができるものであれば制限はなく、膜、エゼクター、散気機構などが用いられる。ここでは取り扱いが簡便なガス溶解膜モジュール1を例示した。原水はガス溶解膜モジュール1にて適宜、窒素ガスと水素ガス又は酸素ガスとが溶解され、ガス溶解膜モジュール1の液相室1Bよりガス溶解水として給水配管L2を経て、連続式電気脱イオン装置2へ供給される。窒素ガスタンク3内の窒素ガスはキャリアガスとして窒素ガス流量調整弁V1を有する窒素ガス配管L3及びガス供給本管L6を経てガス溶解膜モジュール1の気相室1Aに供給される。窒素ガスは、ガス溶解膜モジュール1の膜の型式により10~1000NL/min程度を供給することが望ましいが、水量と膜本数に依存するためその限りではない。窒素ガスの供給は、水素ガスが爆発性があるため希釈の意味があるが、防爆対策が施されていればその限りではない。
【0038】
水素ガスタンク5内の水素ガスは窒素ガス流量の0.1~4.0体積%、例えば1体積%程度が、水素ガス流量調整弁V3を有する水素ガス配管L5及びガス供給本管L6を経てガス溶解膜モジュール1の気相室1Aに供給される。水素ガスの供給量は、水素ガスの爆発限界が窒素ガス流量の4体積%以上であることから、安全をみて窒素ガス流量の1体積%程度が好ましいが、既述の通り、防爆対策を施していればその限りではない。
【0039】
酸素ガスタンク4内の酸素ガスは、酸素ガス流量調整弁V2を有する酸素ガス配管L4及びガス供給本管L6を経てガス溶解膜モジュール1の気相室1Aに供給される。酸素ガスの供給量も、水素ガスと同様に窒素ガス流量の0.1~20体積%、例えば1体積%程度の供給で十分なので望ましい。L7はガス溶解膜モジュール1の気相室1Aからの排気配管である。
【0040】
このように、キャリアガスとしての窒素ガスと共に水素ガスと酸素ガスを交互に供給して、連続式電気脱イオン装置2への供給を水素ガス溶解原水→酸素ガス溶解原水→水素ガス溶解ガス→酸素ガス溶解原水………と交互に繰り返すことで、連続式電気脱イオン装置2の脱塩室内の触媒でTOCを吸脱着することができる。
また、脱着の際に約1/2のTOCがイオン化するが、生成したイオン性分解物は連続通水で吸脱着を繰り返すことで、連続式電気脱イオン装置2の脱塩室内のイオン交換体に捕捉され、連続式電気脱イオン装置2の濃縮室を経て系外へ排出される。
【0041】
ここで、TOCがTOC分解能を有する触媒に吸脱着するメカニズムは以下の通りである。
まず、金属触媒に水素ガス溶解水が供給されると触媒に水素が吸蔵され、表面には触媒金属と水素の弱い結合が生じる。その状態で酸素ガスとTOCの共存系が金属触媒に接触すると、触媒金属表面に存在する水素原子と酸素原子が結合するときに、酸素原子中の電子が水素(金属)方向に引っ張られて電子が欠乏し、そことTOCの非共有電子対が結合すると考えられる。その状態で、再び水素ガス溶解水を接触すると、酸素原子から脱離が起こり、TOCの一部はイオン化して脱離すると考えられている。そのため、水素ガス溶解水と酸素ガス溶解水は交互に金属触媒に接触させる必要があるが、上記のようにガス溶解手段へのガス供給を酸素ガスと水素ガスで切り替えることで対応することができ、通水流路を切り替える必要はなく、圧力変動などを伴うことなく簡便に対応することができる。この場合、交互にガスを切り替えるタイミングは1~600秒程度、特に10~300秒程度の間隔が好ましく、酸素ガスの供給時間は水素ガスの供給時間の0.5~2.0倍程度とすることが好ましい。
【0042】
なお、連続式電気脱イオン装置2の脱塩室には、まず最初に水素ガス溶解原水が供給される。ここで供給された水素ガス溶解原水中のTOCは、酸素が存在しないため、そのまま流出してしまうが、この初回の給水で得られる処理水については初期ブローすることが望ましい。また、水素ガス溶解原水と酸素ガス溶解原水とを交互に繰り返した場合、水素ガス溶解原水の給水のTOCは酸素が吸着した樹脂層を通ることで瞬間的に吸脱離が起こることにより問題なく処理される。
【0043】
このようにして、連続式電気脱イオン装置1で原水中のTOCが分解され、分解により生成したイオン性物質は脱塩室内のイオン交換体によるイオン交換により除去された処理水は、連続式電気脱イオン装置1の処理水排出配管L8より系外へ排出される。
【0044】
前述の通り、連続式電気脱イオン装置2では水に直流電圧を印加することから、陽極で酸素ガス、陰極で水素ガスがそれぞれ発生するため、陽極で発生した酸素ガスを原水に溶解させる酸素ガスとして、陰極で発生した水素ガスを原水に溶解させる水素ガスとしてそれぞれ有効利用するため、図1のTOC除去装置では、連続式電気脱イオン装置2の陽極で発生した酸素ガスを酸素ガス排気配管L9を経て酸素ガスタンク4に送給し、陰極で発生した水素ガスを水素ガス排気配管L10を経て水素ガスタンク5に送給するように構成されている。L11及びL12は、各々のガスを系外に排気するための配管である。
【0045】
このような本発明のTOC除去装置によれば、TOC含有水中のTOCを難分解性のTOCを含めて簡便に連続処理して高度に分解除去することができる。特に本発明は、TOC濃度1~10ppb程度の超純水中のTOC成分を更に低濃度化するシステムとして好適である。
【実施例
【0046】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0047】
以下の実施例及び比較例では、いずれも、尿素をTOC源として含むTOC濃度3ppbのTOC含有水を原水として1m/hrの流量で処理を行った。
【0048】
[実施例1]
図1に示す本発明のTOC除去装置により原水を処理した。
試験に用いた装置仕様は次の通りである。
ガス溶解膜モジュール:セルガード社製「リキセルG284」(4×28インチ)
連続式電気脱イオン装置:栗田工業(株)製「KCDI」
連続式電気脱イオン装置の脱塩室内の充填樹脂:
アニオン交換樹脂:栗田工業(株)製「ナノセイバー」
(白金ナノコロイド担体アニオン交換樹脂)10L
カチオン交換樹脂:栗田工業(株)製「KR-UC1」10L
【0049】
窒素ガス流量は10NL/minで一定とし、水素ガス流量は0.1NL/min、酸素ガス流量は0.5NL/minとし、水素ガス30秒供給、酸素ガス60秒供給で水素ガスと酸素ガスの供給を交互に切り換えた。
【0050】
その結果、連続式電気脱イオン装置の処理水のTOC濃度は1ppb以下であり、連続運転にてTOCを高度に分解除去することができた。
【0051】
[比較例1]
原水を低圧紫外線ランプ装置(日本フォトサイエンス社製「AZ-26」)を用いて処理し、さらにイオン交換樹脂カラム(栗田工業(株)製「KR-UA1」と「KR-UC1」の混合樹脂)処理したところ、処理水のTOC濃度は3ppbであり、尿素が主成分であるため全く分解されなかった。
【0052】
[比較例2]
特許文献1に記載の方法で原水の処理を行った。即ち、連続式電気脱イオン装置の代りに栗田工業(株)製「ナノセイバー」(白金ナノコロイド担体アニオン交換樹脂)を充填した触媒カラムを用い、その後段にイオン交換樹脂カラム(栗田工業(株)製「KR-UA1」と「KR-UC1」の混合樹脂)を設置した。
その結果、イオン交換樹脂カラムの処理水のTOC濃度は1ppb以下であったが、触媒カラムを水素処理から酸素処理に切りかえる際に、10kPa程度の圧力変動が起こり、連続処理が行えなかった。またイオン交換樹脂の吸着量が20日程度で破過し、樹脂交換が必要となり連続処理が行えなかった。
【符号の説明】
【0053】
1 ガス溶解膜モジュール
2 連続式電気脱イオン装置
10 イオン交換体
11 陽極
12 陰極
13 アニオン交換膜
14 カチオン交換膜
15 濃縮室
16 脱塩室
17 陽極室
18 陰極室
図1
図2