(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】レーザ装置および内燃機関
(51)【国際特許分類】
H01S 3/00 20060101AFI20220315BHJP
H01S 5/02257 20210101ALI20220315BHJP
F02P 23/04 20060101ALI20220315BHJP
H01S 3/02 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
H01S3/00 A
H01S5/02257
F02P23/04 A
H01S3/02
(21)【出願番号】P 2018005674
(22)【出願日】2018-01-17
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2017051228
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】萩田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】軸谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】廣居 正樹
【審査官】小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-142193(JP,A)
【文献】特開2005-243739(JP,A)
【文献】特開昭61-117172(JP,A)
【文献】特開2013-096392(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0159032(US,A1)
【文献】特開2009-218055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/30
H01S 5/00 - 5/50
F02P 19/00 - 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から出射される光を集光する光学系と、
前記光学系が収容される筐体と、
前記筐体に設けられ、前記光学系を介した光が入射される窓部材とを有するレーザ装置において、
前記窓部材は、前記光学系を介した光が通過する光学窓と、前記光学窓を保持する光学窓保持部材と、前記光学窓と前記光学窓保持部材を接合する接合部と、を有し、
前記光学窓保持部材の出射側端面に隣接する前記接合部の
出射側表面に保護層が設けられることを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記保護層が、前記光学窓保持部材の表面、または、前記光学窓保持部材および前記筐体の表面に設けられる請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記光学窓保持部材の前記出射側端面および前記接合部の前記出射側表面が同一平面上にあり、前記保護層が前記出射側端面および前記出射側表面に設けられる請求項1または2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記保護層は、Ni、Au、Pt、Ti、Ag、Cu、Al、Pd、Rh、W、Mo、Zr、Ta、Nb、Ir、SiO
2、Si
3N
4、Al
2O
3、および炭素材料のいずれか一つ以上を含む請求項1
~3の何れか一項に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記光学窓の出射面が、前記光学窓保持部材の
前記出射側端面と同一平面上であるか、前記出射側端面よりも前記光の出射方向に突出している請求項1~
4の何れか一項に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記光学窓保持部材の
前記出射側端面が、前記筐体の端面と同一平面上である請求項1~
5の何れか一項に記載のレーザ装置。
【請求項7】
前記接合部が、ロウ材により形成されている請求項1~
6の何れか一項に記載のレーザ装置。
【請求項8】
前記レーザ装置は、燃料を燃焼させる燃焼室内にレーザ光を照射し、
前記保護層は前記接合部の前記燃焼室側の面に形成される請求項1~7の何れか一項に記載のレーザ装置。
【請求項9】
燃料を燃焼させて燃焼ガスを生成する内燃機関において、
請求項1~
8の何れか一項に記載のレーザ装置を有し、
前記レーザ装置が、前記燃料に点火することを特徴とする内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置および内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザを励起用光源として用いたレーザ装置は、点火装置、レーザ加工機、医療用機器など様々な分野への応用が期待されている。特に、このようなレーザ装置を自動車などの内燃機関における点火装置として用いる方法が検討されている。
【0003】
このような点火装置では、半導体レーザから発振されたレーザ光(励起光)をQスイッチ式のレーザ共振器に照射して、エネルギー密度の高いパルスレーザ光を発振する。発振されたパルスレーザ光は、シリンダヘッド内の集光用レンズおよび入射用の透明な燃焼室窓(光学窓)を通して、燃焼室内に導入された混合気中に集光させる。これにより、燃焼室内にプラズマが発生し、燃焼室内に噴射された燃料を着火させる。
【0004】
また、光学窓は、燃焼室に晒されているので、燃焼室内が燃焼により高温、高圧になっても耐えられるように、ハウジングに設けた光学窓保持部材にロウ材を用いて固定されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の点火装置では、ロウ材が燃焼室に露出している。そのため、内燃機関における燃焼の際、燃焼室内の温度が、数百℃、瞬間的には数千℃にも上昇するため、ロウ材の燃焼室側の表面が酸化し、劣化する可能性がある。ロウ材が劣化すると、ロウ材の表面に亀裂が生じたり、ロウ材が欠落し、光学窓がハウジングに安定して固定できなくなったりする可能性がある。
【0006】
本発明の一態様は、光学窓を安定して固定することができるレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によるレーザ装置は、光源と、前記光源から出射される光を集光する光学系と、前記光学系が収容される筐体と、前記筐体に設けられ、前記光学系を介した光が入射される窓部材とを有するレーザ装置において、前記窓部材は、前記光学系を介した光が通過する光学窓と、前記光学窓を保持する光学窓保持部材と、前記光学窓と前記光学窓保持部材を接合する接合部と、を有し、前記光学窓保持部材の出射側端面に隣接する前記接合部の出射側表面に保護層が設けられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によるレーザ装置は、光学窓を安定して固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るレーザ装置を備える内燃機関の主要部を模式的に示す図である。
【
図4】窓部材の他の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0011】
実施形態によるレーザ装置を内燃機関に適用した場合について、図面を参照して説明する。本実施形態では、内燃機関としてエンジンを用いた場合について説明する。
【0012】
<内燃機関>
図1は、実施形態に係るレーザ装置を備える内燃機関の主要部を模式的に示す図である。
図1に示すように、エンジン10は、レーザ装置11、燃料噴出機構12、排気機構13、燃焼室14、およびピストン15を有する。
【0013】
エンジン10の動作について簡単に説明する。燃料噴出機構12が、燃料と空気とを含む可燃性混合気を燃焼室14内に噴出させる(吸気)。その後、ピストン15が上昇して、可燃性混合気が圧縮される(圧縮)。レーザ装置11は、燃焼室14内の圧縮された混合気中にレーザ光を集光させ、プラズマを発生させる。発生したプラズマにより、混合気中の燃料に点火させる(着火)。点火により混合気が燃焼(爆発)することで、燃焼室14内で燃焼ガスが膨張する。これにより、ピストン15が降下する(燃焼)。その後、排気機構13が、燃焼ガスを燃焼室14外へ排気する(排気)。
【0014】
このように、エンジン10では、吸気、圧縮、着火、燃焼、および排気からなる一連の工程が繰り返される。そして、燃焼室14内の気体の体積変化に対応してピストン15が運動し、運動エネルギーを生じさせる。燃料には、例えば、天然ガスやガソリンなどが用いられる。
【0015】
なお、レーザ装置11は、エンジン10の外部に設けられている駆動装置16と電気的に接続されており、レーザ装置11におけるレーザ光の出射は、エンジン制御装置17の指示に基づいて駆動装置16により制御される。
【0016】
<レーザ装置>
レーザ装置11について説明する。レーザ装置11の構成の一例を
図2に示す。
図2に示すように、レーザ装置11は、面発光レーザ(光源)21、第1集光光学系22、光ファイバ(伝送部材)23、第2集光光学系24、レーザ共振器25、第3集光光学系26、窓部材27、および筐体(ハウジング)28を有する。なお、
図2中、レーザ光は、二点鎖線で示す。また、本明細書では、XYZ3次元直交座標系を用い、面発光レーザ21からのレーザ光の出射方向を+Z方向として説明する。
【0017】
面発光レーザ21は、励起用光源であり、複数の発光部を有している。各発光部は、垂直共振器型の面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)である。面発光レーザ21からレーザ光を出射する際には、複数の発光部が同時に発光し、面発光レーザ21からレーザ光を出射しない場合には、複数の発光部が同時に消灯する。面発光レーザ21から出射されるレーザ光の波長は、例えば、約808nmである。
【0018】
面発光レーザ21は、駆動装置16と電気的に接続されており、エンジン制御装置17の指示に基づいて、駆動装置16が面発光レーザ21を駆動して、面発光レーザ21からレーザ光が出射される。
【0019】
ところで、半導体レーザとして、端面発光レーザが知られている。しかし、端面発光レーザから出射されるレーザ光の波長は、温度に対して大きく変動しやすい。レーザ装置11は、エンジン10の周辺の高温環境下で使用されるため、端面発光レーザを励起用光源に使用する場合、端面発光レーザの温度を一定に保つための精密な温度制御機構が必要になる。そのため、レーザ装置11の大型化や高コスト化を招く。
【0020】
一方、面発光レーザ21から出射されるレーザ光の波長の変動は、端面発光レーザから出射されるレーザ光の波長の変動の約1/10である。レーザ装置11は、面発光レーザ21を励起用光源に使用しているので、精密な温度制御機構を必要としない。そのため、レーザ装置11は、小型かつ低コストにすることができる。また、面発光レーザ21は、発光領域が半導体内部にあるため、端面破壊の懸念がなく、安定して発光することができる。
【0021】
さらに、面発光レーザ21は、出射されるレーザ光の、温度による波長ずれが非常に小さい。そのため、面発光レーザ21は、波長ずれによって特性が大きく変化するQスイッチ式のレーザ共振器でレーザ光のエネルギー密度を高めるのに有利な光源である。そこで、面発光レーザ21を励起用光源に用いると、環境の温度制御を簡易なものにすることができる。
【0022】
第1集光光学系22は、面発光レーザ21から出射されたレーザ光を光ファイバ23の-Z側端面の中心部に集光する。第1集光光学系22は、少なくとも1つの集光レンズを有する。本実施形態では、第1集光光学系22は、マイクロレンズ221、および集光レンズ系222を有している。
【0023】
マイクロレンズ221は、面発光レーザ21から出射されたレーザ光の光路上に配置されている。マイクロレンズ221は、面発光レーザ21の複数の発光部に対応する複数のレンズを有する。各レンズは、対応する発光部から出射されたレーザ光を略平行光とする。すなわち、マイクロレンズ221は、面発光レーザ21から出射されたレーザ光をコリメートする。
【0024】
面発光レーザ21とマイクロレンズ221とのZ軸方向に関する距離は、マイクロレンズ221の焦点距離に応じて決定される。
【0025】
集光レンズ系222は、マイクロレンズ221を介したレーザ光を集光する。
【0026】
集光レンズ系222は、マイクロレンズ221を介したレーザ光の断面積、光ファイバ23のコア径および開口数(NA)に応じて適切なものが選択される。なお、集光レンズ系222は、複数の光学素子から構成されていてもよい。
【0027】
なお、第1集光光学系22は、少なくとも1つの集光レンズを有していればよく、複数の光学素子で構成されていてもよい。
【0028】
光ファイバ23は、第1集光光学系22によってレーザ光が集光される位置にコアの-Z側端面の中心が位置するように配置されている。本実施形態では、光ファイバ23としては、例えば、コア径が1.5mmの光ファイバが用いられる。
【0029】
光ファイバ23に入射したレーザ光は、コア内を伝播し、コアの+Z側端面から出射する。
【0030】
光ファイバ23を設けることによって、面発光レーザ21をレーザ共振器25から離れた位置に置くことができる。これにより、面発光レーザ21や第1集光光学系22の配置の自由度が増大する。また、エンジン10の周辺の高温領域から面発光レーザ21を遠ざけることができるので、エンジン10の冷却方法の幅を広げることができる。さらに、振動源であるエンジン10から面発光レーザ21を遠ざけた位置に設けることができるので、面発光レーザ21から出射されるレーザ光のぶれを防ぐことができる。
【0031】
第2集光光学系24は、光ファイバ23から出射されたレーザ光の光路上に配置され、光ファイバ23から出射された光を集光する。第2集光光学系24で集光されたレーザ光は、レーザ共振器25に入射する。本実施形態では、第2集光光学系24は、第1レンズ241、および第2レンズ242を有している。
【0032】
第1レンズ241は、コリメートレンズであり、光ファイバ23から出射されたレーザ光を略平行光とする。
【0033】
第2レンズ242は、集光レンズであり、第1レンズ241によって略平行光とされたレーザ光を集光する。
【0034】
なお、第2集光光学系24は、集光レンズを有していれば、1つの光学素子で構成されていてもよいし、3つ以上のレンズを有していてもよい。
【0035】
レーザ共振器25は、Qスイッチ式のレーザ共振器である。本実施形態では、レーザ共振器25は、レーザ媒質251、および可飽和吸収体252を有している。レーザ共振器25では、入射されたレーザ光のエネルギー密度が高められて、波長が例えば約1064nmのレーザ光が短いパルス幅で出射される。
【0036】
レーザ媒質251は、略直方体形状のNd:YAG結晶であり、Ndが1.1%ドープされている。
【0037】
可飽和吸収体252は、略直方体形状のCr:YAG結晶である。可飽和吸収体252は、レーザ光の吸収量によって透過率が変化するものであり、初期透過率は約0.50(50%)である。レーザ光の吸収量が小さい時は吸収体として機能し、レーザ光の吸収量が飽和すると透明になる。可飽和吸収体252が透明になることで、Qスイッチ発振が発生する。
【0038】
Nd:YAG結晶およびCr:YAG結晶は、いずれもセラミックスであるため、単結晶に比べて生産コストが低く、安価である。また、Nd:YAG結晶とCr:YAG結晶とは接合されて、いわゆるコンポジット結晶となっている。そのため、Nd:YAG結晶とCr:YAG結晶との境界は分離していないため、レーザ共振器25は、単一の結晶と同等の特性を得ることができる。
【0039】
また、レーザ媒質251の入射側(-Z側)の面(入射面)251a、および可飽和吸収体252の出射側(+Z側)の面(出射面)252bは、光学研磨処理が施されている。これにより、ミラーの役割を果たすことができる。
【0040】
さらに、入射面251aおよび出射面252bには、面発光レーザ21から出射される光の波長(例えば、808nm)、およびレーザ共振器25から出射されるレーザ光の波長(例えば、1064nm)に応じた誘電体層が形成されている。例えば、入射面251aには、波長が808nmのレーザ光に対して高い透過率を示し、波長が1064nmのレーザ光に対して高い反射率を示す誘電体層が形成される。出射面252bには、波長が1064nmのレーザ光に対して約50%の反射率を示す誘電体層が形成される。
【0041】
第2集光光学系24で集光されたレーザ光がレーザ共振器25に入射すると、レーザ光はレーザ共振器25内で共振し増幅される。また、レーザ媒質251に入射したレーザ光によってレーザ媒質251が励起される。なお、面発光レーザ21から出射されるレーザ光の波長(例えば、808nm)は、YAG結晶において最も吸収効率の高い波長である。また、面発光レーザ21から出射され、第1集光光学系22および光ファイバ23を通って、レーザ媒質251に入射されるレーザ光を、「励起光」ともいう。
【0042】
レーザ共振器25内でレーザ光が共振し増幅されることで、レーザ光のエネルギー密度が高くなる。可飽和吸収体252においてレーザ光の吸収量が飽和すると、可飽和吸収体252においてQスイッチ発振が発生する。これにより、エネルギー密度の高いレーザ光がレーザ共振器25から短いパルス幅でエネルギーを集中させて出射される。レーザ共振器25から出射されるレーザ光を、パルスレーザ光ともいう。パルスレーザ光の波長は、例えば、約1064nmである。
【0043】
レーザ共振器25で増幅されたレーザ光は、第3集光光学系26に入射される。
【0044】
第3集光光学系26は、レーザ共振器25から出射されるレーザ光の光路上に配置されている。第3集光光学系26は、レーザ共振器25から出射されるレーザ光を集光させ、集光点で高いエネルギー密度を得る。集光されたレーザ光は、ある一定のエネルギー密度を超えると、燃焼室14内の可燃性混合気に含まれる気体を構成する分子が電離し、陽イオンと電子とに別れ、プラズマ化(ブレークダウン)する。
【0045】
本実施形態では、第3集光光学系26は、第3レンズ261、第4レンズ262、および第5レンズ263で構成されている。
【0046】
第3レンズ261は、レーザ共振器25から出射されるレーザ光の発散角度を大きくするための光学素子であり、本実施形態では、凹レンズが用いられている。
【0047】
第4レンズ262は、第3レンズ261からの発散光をコリメートするための光学素子であり、本実施形態では、コリメートレンズが用いられている。
【0048】
第5レンズ263は、第4レンズ262からのレーザ光を集光するための光学素子であり、本実施形態では、集光レンズが用いられている。
【0049】
第5レンズ263によりレーザ光が集光され、集光点で高いエネルギー密度を得ることができる。集光されたレーザ光は、ある一定のエネルギー密度を超えることで、燃焼室14内の可燃性混合気中の気体を構成する分子が電離され、プラズマが発生する。
【0050】
第3集光光学系26は、第3集光光学系26を構成するレンズの光軸方向の位置や第3集光光学系26を構成するレンズの組み合わせによって、レーザ装置11から出射される光のZ軸方向に関する集光位置の調整を行うことができる。
【0051】
なお、第3集光光学系26は、3つのレンズで構成されているが、少なくとも1つのレンズで構成されていればよく、一つの光学素子で構成されていてもよいし、複数の光学素子で構成されていてもよい。
【0052】
窓部材27の構成について説明する。窓部材27の構成を具体的に
図3に示す。
図3に示すように、窓部材27は、光学窓(窓本体)271、光学窓保持部材272、誘電体層273、および保護層274を有する。
【0053】
光学窓271は、第3集光光学系26から出射されるレーザ光の光路上に配置されている。光学窓271は、透明または半透明の材料で構成され、レーザ光の入射面271aおよび出射面271bを有する。光学窓271は、光学窓保持部材272の内面に、接合部として、ロウ材(接合材)を用いて形成されたロウ付け部29で固定される。光学窓271は、ハウジング28の燃焼室14側の面に形成された開口に位置するように配置される。第3集光光学系26から出射されたレーザ光は、光学窓271を透過して、燃焼室14内で集光される。
【0054】
光学窓271の平面視における形状は、特に限定されるものではなく、例えば、矩形状、円形状、楕円状、長方形状、多角形状などであってもよい。
【0055】
光学窓271の材料としては、例えば、光学ガラス、耐熱ガラス、石英ガラス、サファイアガラスなどを用いることができる。特に、光学窓271は、燃焼室14内に発生する燃焼圧力からハウジング28の内部の光学部材などを保護するため、十分な耐圧強度が必要となる。そこで、光学窓271の厚みを厚くすることが考えられる。しかし、光学窓271の厚みが厚くなると、光学窓271の出射面で入射したレーザ光の一部が反射されて、光学窓271の内部で集光しやすくなる。そのため、光学窓271の内部での集光を抑制するためには、第3集光光学系26の焦点距離を長くする必要がある。
【0056】
第3集光光学系26は、その焦点距離を長くすると、レンズの開口数(NA)が小さくなるので、集光強度が低下し、着火性が低下する。そのため、光学窓271の厚さは、できる限り薄いことが好ましい。そこで、光学窓271の材料としては、高温高圧環境下での耐久性に優れたサファイアガラスを用いることが好ましい。
【0057】
光学窓保持部材272は、ハウジング28の燃焼室14側の面に形成された開口の周囲にハウジング28を覆うように取り付けられている。光学窓保持部材272は、レーザ溶接などにより形成される溶接部30により、ハウジング28に固定される。なお、光学窓保持部材272のハウジング28への固定方法は、レーザ溶接などの溶接以外に、例えば、ねじ止め、焼きばめ、接着などにより、ハウジング28に固定されてもよい。
【0058】
光学窓保持部材272は、その内面に、ロウ付け部29で光学窓271を固定して保持している。ロウ材としては、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Al、Mg、Pt、P、Ti、W、Sn、Ni、Zn、Si、B、Cd、Li、Mn、Cr、もしくはZr、またはステンレスを用いることができる。上記のうち一種単独で用いてもよいし、二種以上併用してもよい。また、上記のいずれかを主成分として別の添加剤を混ぜてもよい。
【0059】
光学窓保持部材272を形成する材料としては、例えば、鉄、ニッケル、Ni-Fe合金、Ni-Cr-Fe合金、Ni-Co-Fe合金、またはステンレスなどの耐熱性金属材料を用いることができる。Ni-Cr-Fe合金として、例えば、インコネルなどが挙げられる。Ni-Co-Fe合金として、例えば、コバールなどが挙げられる。
【0060】
光学窓保持部材272の出射側端面272bは、第2ハウジング28-2の端面28bと略同一平面上としている。これにより、溶接部30がレーザ溶接などを用いて形成される場合、溶接部30にレーザ光を集光させ易くなるので、光学窓保持部材272と第2ハウジング28-2との間に、溶接部30を安定してムラなく確実に設けることができる。よって、第2ハウジング28-2に光学窓保持部材272を安定して固定することができる。
【0061】
誘電体層273は、光学窓271の第3集光光学系26側の面、すなわち窓部材27のレーザ光の入射面271aに設けられている。誘電体層273は、反射防止(AR:Anti Reflection)膜(AR膜)として機能する。誘電体層273は、波長が1064nmのレーザ光に対しては高い透過率を有する。
【0062】
誘電体層273を形成する材料としては、例えば、Si、Na、Al、Ca、Mg、B、C、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、Ru、Pd、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Ot、Au、およびBiのいずれかを主成分とする材料、または前記主成分の窒化物、酸化物、炭化物、およびフッ化物のいずれかを少なくとも一つ含む材料を用いることができる。
【0063】
具体的には、例えば、MgF、Si3N4、またはSiO2などを用いることができる。また、誘電体層273と光学窓271との屈折率差が少ないほうが、反射防止特性を向上させることができる。
【0064】
誘電体層273の厚さは、波長が1064nmのレーザ光に対して高い透過率を有することができれば、特に限定されない。例えば、光学窓271がサファイアガラスで形成される場合、サファイアの屈折率は1.74程度であるので、誘電体層273の厚さは202nm程度、屈折率は1.32程度であることが好ましい。
【0065】
誘電体層273は、例えば、光学窓271を光学窓保持部材272とロウ付けにより固定した後、光学窓271の第3集光光学系26側の面に形成することができる。誘電体層273を光学窓271に形成する方法としては、例えば、蒸着、スパッタ、溶射、塗布、またはゾルゲル法などを用いることができる。
【0066】
また、光学窓271で生じた反射光が、面発光レーザ21と同軸上にある光学部材に戻り光として影響を与えることを低減できるため、レーザ光の強度が変動することを軽減することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、誘電体層273は、一層としているが、これに限定されず、多層でもよい。
【0068】
保護層274は、ロウ付け部29および光学窓保持部材272の燃焼室14側の面、すなわち窓部材27からレーザ光が出射する側の面に設けられている。
【0069】
保護層274の材料としては、例えば、Ni、Au、Pt、Ti、Ag、Cu、Al、Pd、Rh、W、Mo、Zr、Ta、Nb、またはIrなどの金属;SiO2、Si3N4、またはAl2O3などの金属酸化物;ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、またはカーボンナノチューブなどの炭素材料などを用いることができる。これら一種単独で用いてもよいし、二種以上併用してもよい。中でも、高い耐酸化性を有する点から、Niを用いることが好ましい。また、高い耐酸化性および耐腐食性を有する点から、Au、Pt、またはTiを用いてもよい。
【0070】
保護層274は、光学窓271を光学窓保持部材272とロウ付け部29で固定した後、ロウ付け部29および光学窓保持部材272の燃焼室14側の面に形成される。保護層274をロウ付け部29および光学窓保持部材272に形成する方法としては、例えば、電気めっき、ゾルゲル法、蒸着、スパッタ、溶射、または塗布などを用いることができる。中でも、保護層274を光学窓271に影響を与えずにロウ付け部29および光学窓保持部材272に保護層274を安定して形成する点から、電気めっきを用いることが好ましい。Niは、高い耐酸化性と耐腐食性を有し、かつ電解めっきが可能という点で、保護層の材料として適している。
【0071】
ロウ付け部29および光学窓保持部材272に保護層274を設けることで、ロウ付け部29の酸化を抑制することができる。そのため、内燃機関における燃焼時に、燃焼室14内の温度が、数百℃、瞬間的には数千℃にまで上昇しても、ロウ付け部29の表面が酸化し、劣化することを抑制することができる。これにより、ロウ付け部29の表面に亀裂が生じたり、ロウ付け部29が欠落することを防ぐことができる。よって、光学窓271を光学窓保持部材272で、長期間安定して固定することができる。
【0072】
保護層274の平均厚さは、保護層274がロウ付け部29を安定して被覆することができると共に、光学窓271から出射されたレーザ光の通過を妨げなければ、特に限定されない。保護層274がロウ付け部29を安定して被覆する点から、保護層274の平均厚さは、例えば、少なくとも数μm程度は形成されていることが好ましい。
【0073】
本実施形態では、光学窓271の出射側の出射面271bは、
図3に示すように、光学窓保持部材272の出射側の端面(出射側端面)272bと略同一平面上となるようにしている。これにより、ロウ付け部29および光学窓保持部材272に厚さのばらつきが小さい保護層274を安定して形成することができる。
【0074】
光学窓271の出射面271bと光学窓保持部材272の出射側端面272bとの位置について、例えば、光学窓271の出射面271bが光学窓保持部材272の出射側端面272bよりも入射側に位置している場合がある。この場合、ロウ付け部29および光学窓保持部材272に保護層274を例えば電解めっきなどで形成する際、ロウ付け部29の端部近傍は電流が集中し易く、異常析出の起点になり易い。そのため、ロウ付け部29の端部近傍に保護層274が突出した状態で形成される可能性がある。また、保護層274の形成時に、異常析出し易い箇所があると、保護層274の緻密性が低下する可能性がある。さらに、保護層274の突出部分にレーザ光が照射されると、レーザ光が反射されるため、レーザ光の出力低下を招く可能性がある。
【0075】
そこで、本実施形態では、光学窓271の出射側の出射面271bは、光学窓保持部材272の出射側端面272bと略同一平面上として、ロウ付け部29および光学窓保持部材272に厚さのばらつきが小さい保護層274を形成している。また、ロウ付け部29および光学窓保持部材272に保護層274を例えば電解めっきなどで形成する際、保護層274は高い緻密性を有することができる。また、光学窓271から出射したレーザ光が保護層274に照射されて反射されることを防ぐことができる。そのため、第3集光光学系26から出射されたレーザ光の出力が低下することを抑制することができる。
【0076】
図2に示すように、ハウジング28は、第2集光光学系24、レーザ共振器25、第3集光光学系26、および窓部材27を収容している。本実施形態では、ハウジング28は、第1ハウジング28-1と第2ハウジング28-2とで構成されている。第1ハウジング28-1は、第2集光光学系24、およびレーザ共振器25を収容している。第2ハウジング28-2は、第3集光光学系26、および窓部材27を収容している。
【0077】
ハウジング28には、例えば、鉄、Ni-Fe合金、Ni-Cr-Fe合金、Ni-Co-Fe系合金、またはステンレスなどの耐熱性金属が用いられる。Ni-Cr-Fe合金として、例えば、インコネルなどが挙げられる。Ni-Co-Fe合金として、例えば、コバールなどが挙げられる。
【0078】
以上のように、本実施形態に係るレーザ装置11は、ロウ付け部29および光学窓保持部材272の燃焼室14側の面に保護層274を有している。これにより、ロウ付け部29の劣化を防ぐことができるので、光学窓271を光学窓保持部材272に安定して固定することができる。よって、本実施形態に係るレーザ装置11は、光学窓271の脱落を防ぐことができ、安定して使用することができるので、信頼性の高いレーザ装置を提供することができる。なお、本実施形態では、レーザ装置の一例としてレーザ装置を用いて説明したが、これには限定されない。他のレーザ装置においても、保護層の存在により、レーザ装置の使用される環境による影響から接合部を保護することができ、信頼性の高いレーザ装置を提供することができる。
【0079】
エンジン10は、本実施形態に係るレーザ装置11を備えているので、安定して燃焼させることができる。これにより、エンジン10を安定して継続して使用することができる。
【0080】
なお、本実施形態では、保護層274は、ロウ付け部29および光学窓保持部材272の燃焼室14側の表面に設けられているが、ロウ付け部29の燃焼室14側の表面のみに設けられてもよいし、ロウ付け部29、光学窓保持部材272、およびハウジング28の燃焼室14側の表面に設けられていてもよい。
【0081】
本実施形態では、接合部として、接合材であるロウ材を用いて形成されたロウ付け部29を用いているが、これに限定されるものではない。接合部は、レーザ装置の使用される環境において光学窓271と光学窓保持部材272とを接合できる材料で形成されたものであればよい。
【0082】
本実施形態では、光学窓271の出射面271bは、
図3に示すように、光学窓保持部材272の出射側端面272bと略同一平面上となるようにしているが、これに限定されない。例えば、出射面271bは、
図4に示すように、光学窓保持部材272の出射側端面272bよりも出射方向である燃焼室14側に突出させてもよい。この場合でも、ロウ付け部29および光学窓保持部材272には、保護層274を例えば電解めっきなどで形成する際に電流が集中し易い端部がない。そのため、ロウ付け部29および光学窓保持部材272には、厚さのばらつきが小さい保護層274を安定して形成することができる。また、ロウ付け部29および光学窓保持部材272には、保護層274を例えば電解めっきなどで形成する際に、保護層274が異常析出し易い箇所はないので、保護層274は高い緻密性を有することができる。さらに、光学窓271から出射したレーザ光が保護層274に照射され、レーザ光が反射されることを防ぐことができるので、レーザ光の出力が低下することを抑制することができる。
【0083】
本実施形態では、ハウジング28は、第2集光光学系24、レーザ共振器25、第3集光光学系26、および光学窓271を収容しているが、さらに、第1集光光学系22、および光ファイバ23を収容してもよい。
【0084】
本実施形態では、第1ハウジング28-1は、第2集光光学系24、およびレーザ共振器25を、第2ハウジング28-2は、第3集光光学系26、および窓部材27を、それぞれ収容しているが、これに限定されない。例えば、第1ハウジング28-1は、第2集光光学系24だけ収容し、第2ハウジング28-2は、レーザ共振器25をさらに収容していてもよい。また、第1ハウジング28-1は、第2集光光学系24、およびレーザ共振器25の他に、第3集光光学系26をさらに収容し、第2ハウジング28-2は、窓部材27だけを収容していてもよい。
【0085】
本実施形態では、励起用光源として面発光レーザ21が用いられる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、他の光源を用いてもよい。
【0086】
本実施形態では、面発光レーザ21をレーザ共振器25から離れた位置に置く必要がない場合は、光ファイバ23が設けられなくてもよい。
【0087】
本実施形態では、誘電体層273が、光学窓271の第3集光光学系26側の面、すなわち窓部材27にレーザ光が入射する入射面に設けられているが、反射光の影響などがない場合には、特に設けなくてもよい。
【0088】
本実施形態では、本実施形態に係るレーザ装置11が内燃機関として燃焼ガスによってピストンを運動させるエンジン10の点火装置に用いられる場合について説明したが、これに限定されるものではない。レーザ装置11は、例えば、ロータリーエンジン、ガスタービンエンジン、またはジェットエンジンなど燃料を燃焼させて燃焼ガスを生成するものに用いることができる。また、レーザ装置11は、排熱を利用して動力、温熱、または冷熱を取り出し、総合的にエネルギー効率を高めるシステムであるコジェネレーションに用いてもよい。さらに、レーザ装置11は、画像形成装置(例えば、レーザ複写機、レーザプリンタなど)、画像投影装置(例えば、プロジェクタ)、レーザ加工機、レーザピーニング装置、またはテラヘルツ発生装置などに用いてもよい。
【0089】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
10 エンジン(内燃機関)
11 レーザ装置
21 面発光レーザ
22 第1集光光学系
23 光ファイバ
24 第2集光光学系
25 レーザ共振器
26 第3集光光学系
27 窓部材
271 光学窓(窓本体)
271a 入射面
271b 出射面
272 光学窓保持部材
272b 出射側の端面(出射側端面)
273 誘電体層
274 保護層
28 ハウジング
29 ロウ付け部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0091】