(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子及び被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220315BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20220315BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220315BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220315BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220315BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220315BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20220315BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20220315BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/1391
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/058
(21)【出願番号】P 2020136271
(22)【出願日】2020-08-12
(62)【分割の表示】P 2016523440の分割
【原出願日】2015-05-20
【審査請求日】2020-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2014112651
(32)【優先日】2014-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】太田 陽介
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-012410(JP,A)
【文献】特開2004-273055(JP,A)
【文献】特開2008-078491(JP,A)
【文献】特開2011-228222(JP,A)
【文献】特開平11-329415(JP,A)
【文献】特開2014-096343(JP,A)
【文献】特開2011-071074(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185460(WO,A1)
【文献】特開2016-009523(JP,A)
【文献】特開2016-009524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/1391
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0566
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面に、導電性高分子が被覆されているリチウムイオン電池正極活物質用の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子であって、 前記リチウム-ニッケル複合酸化物が下記一般式(1)で表され、前記導電性高分子は、分子構造中に二重結合と単結合が交互に並んだ構造を有し、アクセプター分子またはドナー分子がドーピングされており、前記導電性高分子の被覆量が、リチウム-ニッケル複合酸化物粒子100質量%に対して0.1~5.0質量%であ
り、前記導電性高分子が、PEDOT/PSS又はリグニングラフト型ポリアニリンである、被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子。
Li
xNi
(1-y-z)M
yN
zO
2 ・・・(1)
(式中、xは0.80~1.10、yは0.01~0.20、zは0.01~0.15、1-y-zは0.65を超える値であって、Mは、CoまたはMnから選ばれる少なくとも一種類の元素を示し、NはAl、InまたはSnから選ばれる少なくとも一種類の元素を示す。)
【請求項2】
5~20μmの平均粒径を有する球状粒子である請求項
1に記載の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子。
【請求項3】
正極、負極、電解液及びセパレータを備えたリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
請求項1
又は2に記載の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子、導電助剤、バインダー及び有機溶媒を混合して正極合剤スラリーを作製し、前記正極合剤スラリーを集電体上に塗布・乾燥させる正極製造工程を含む、方法。
【請求項4】
前記正極製造工程を大気雰囲気下で行う、請求項
3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル含有量の高い被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子に関し、大気雰囲気下の安定性を向上させた取り扱いしやすい被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン等の小型電子機器の急速な拡大とともに、充放電可能な電源として、リチウムイオン二次電池の需要が急激に伸びている。リチウムイオン二次電池の正極で充放電に寄与する正極活物質として、リチウム-コバルト酸化物(以下、コバルト系と明記することがある。)が広く用いられている。しかしながら、電池設計の最適化によりコバルト系正極の容量は理論容量と同等程度まで改善され、さらなる高容量化は困難になりつつある。
【0003】
そこで、従来のコバルト系よりも理論容量の高いリチウム-ニッケル酸化物を用いたリチウム-ニッケル複合酸化物粒子の開発が進められている。しかしながら、純粋なリチウム-ニッケル酸化物は、水や二酸化炭素等に対する反応性の高さから安全性、サイクル特性等に問題があり、実用電池として使用することは困難であった。そこで上記問題の改善策として、コバルト、マンガン、鉄等の遷移金属元素またはアルミニウムを添加したリチウム-ニッケル複合酸化物粒子が開発されている。
【0004】
リチウム-ニッケル複合酸化物には、ニッケル、マンガン、コバルトがそれぞれ当モル量添加されてなるいわゆる三元系と呼ばれる遷移金属組成Ni0.33Co0.33Mn0.33で表される複合酸化物粒子(以下、三元系と明記することがある。)といわゆるニッケル系と呼ばれるニッケル含有量が0.65モルを超えるリチウム-ニッケル複合酸化物粒子(以下、ニッケル系と明記することがある。)がある。容量の観点からは三元系と比べ、ニッケル含有量の多いニッケル系に大きな優位性がある。
【0005】
しかしながら、ニッケル系は、水や二酸化炭素等に対する反応性の高さからコバルト系や三元系と比べ環境により敏感であり、空気中の水分や二酸化炭素(CO2)をより吸収しやすい特徴がある。水分、二酸化炭素は、粒子表面にそれぞれ水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(Li2CO3)といった不純物として堆積され、正極製造工程や電池性能に悪影響を与えることが報告されている。
【0006】
ところで、正極の製造工程では、リチウム-ニッケル複合酸化物粒子、導電助剤、バインダーと有機溶媒等を混合した正極合剤スラリーをアルミニウム等の集電体上に塗布・乾燥する工程を経る。一般的に水酸化リチウムは、正極合剤スラリー製造工程において、バインダーと反応しスラリー粘度を急激に上昇させる、またスラリーをゲル化させる原因となることがある。これらの現象は不良や欠陥、正極製造の歩留まりの低下を引き起こし、製品の品質に差を生じさせることがある。また、充放電時、これら不純物は電解液と反応しガスを発生させることがあり、電池の安定性に問題を生じさせかねない。
【0007】
したがって、ニッケル系を正極活物質として用いる場合、上述した水酸化リチウム(LiOH)等の不純物の発生を防ぐため、その正極製造工程を脱炭酸雰囲気下におけるドライ(低湿度)環境下で行う必要がある。そのため、ニッケル系は理論容量が高くリチウムイオン二次電池の材料として有望であるにも関わらず、その製造環境を維持するために高額な設備導入コスト及びランニングコストが掛かるため、その普及の障壁となっているという問題がある。
【0008】
このような問題を解決するために、リチウム-ニッケル複合酸化物粒子表面上にコーティング剤を用いることにより被覆する方法が提案されている。このようなコーティング剤としては、無機系のコーティング剤と有機系のコーティング剤に大別され、無機系のコーティング剤としては酸化チタン、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸コバルト、ヒュームドシリカ、フッ化リチウムなどの材料が、有機系のコーティング剤としては、カルボキシメチルセルロース、フッ素含有ポリマーなどの材料が提案されている。
【0009】
例えば、特許文献1では、リチウム-ニッケル複合酸化物粒子表面にフッ化リチウム(LiF)またはフッ素含有ポリマー層を形成する方法、また、特許文献2では、リチウム-ニッケル複合酸化物粒子にフッ素含有ポリマー層を形成し、さらに不純物を中和するためのルイス酸化合物を添加する方法が提案されている。いずれの処理もフッ素系材料を含有するコーティング層によりリチウム-ニッケル複合酸化物粒子を疎水性に改質され、水分の吸着を抑制し、水酸化リチウム(LiOH)などの不純物の堆積を抑制することが可能となる。
【0010】
しかしながら、コーティングに用いられるフッ素系材料を含有するコーティング層は、電気伝導性を有していない。そのため、不純物の堆積を抑制することができても、コーティング層そのものが絶縁体となってしまうことから、正極抵抗の増加し、電池特性の低下を引き起こす。そのため、リチウム-ニッケル複合酸化物粒子そのものの品質が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2013-179063号公報
【文献】特表2011-511402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、大気雰囲気下で取り扱うことができ、且つ電池特性に悪影響がないリチウムイオン伝導体の被膜を得ることのできる、被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した従来技術における問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面に、電気伝導性とイオン伝導性を併せもつ導電性高分子を被覆することで、被覆による正極抵抗の増加による電池特性の低下を防ぐことができることを見出した。また、当該被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子は、正極合剤スラリーを混練した際にも、粒子表面からコーティング層が剥がれ落ちることがない。さらに、大気中の水分や炭酸ガスにより生じる不純物の生成を抑制でき、且つ、材料取り扱い時、輸送時、保管時、電極作製および電池製造時における大気雰囲気下での取り扱いを可能とする好適な被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子及びその製造方法であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち第一の発明は、ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面に、導電性高分子が被覆されているリチウムイオン電池正極活物質用の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子である。
【0015】
第二の発明は、前記導電性高分子の被覆量がリチウム-ニッケル複合酸化物100質量%に対して0.1~5.0質量%である第一の発明に記載の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子である。
【0016】
第三の発明は、前記導電性高分子が、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリ(p-フェニレン)、ポリフルオレンおよびそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種類からなる重合体又は共重合体である第一又は第二の発明に記載の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子である。
【0017】
第四の発明は、前記リチウム-ニッケル複合酸化物が下記一般式(1)で表される第一から第三のいずれかの発明に記載の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子である。
【0018】
LixNi(1-y-z)MyNzO2 ・・・(1)
(式中、xは0.80~1.10、yは0.01~0.20、zは0.01~0.15、1-y-zは0.65を超える値であって、Mは、CoまたはMnから選ばれる少なくとも一種類の元素を示し、NはAl、InまたはSnから選ばれる少なくとも一種類の元素を示す。)
【0019】
第五の発明は、5~20μmの平均粒径を有する球状粒子である第一から第四のいずれかの発明に記載の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子である。
【0020】
第六の発明は、前記導電性高分子を、被覆樹脂を溶解する良溶媒に溶解させて被覆用樹脂溶液とする工程と、前記被膜用樹脂溶液に、前記被覆用樹脂を溶解せず前記良溶媒よりも沸点の高い貧溶媒を添加する工程と、前記被膜用樹脂溶液に、前記リチウムニッケル複合酸化物を添加してスラリーと成す工程と、前記スラリーをから順次良溶媒および貧溶媒を除去する工程を含むことを特徴とする第一から第五のいずれかの発明に記載の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子をコアに、導電性高分子で構成されるシェルにもつ被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子を製造することにより、リチウム-ニッケル複合酸化物粒子表面に良好な電気伝導性およびリチウムイオン伝導性有し、且つ水分、炭酸ガスの透過を抑制できる膜で被覆された優れた被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子及びその製造方法である。
【0022】
この被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子は、これまで炭酸ガス濃度、水分濃度が厳しく管理された正極製造設備に変わり、コバルト系、三元系で用いられてきた製造設備も流用できる、高容量リチウムイオン電池用複合酸化物正極活物質として提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例及び比較例の1週間静置した場合における粒子質量当たりの変化率である。
【
図2】実施例及び比較例のサイクル試験による容量変化率である。
【
図3】サイクル試験前のインピーダンス試験によるCole-Coleプロットである。
【
図4】500回のサイクル試験後のインピーダンス試験によるCole-Coleプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子とその製造方法について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の詳細な説明によって限定的に解釈されるものではない。本発明において、一次粒子が凝集した二次粒子をリチウム-ニッケル複合酸化物粒子と呼ぶ場合がある。
【0025】
該粒子表面を被覆する導電性高分子は良好な電気伝導性とイオン伝導性を有することから電池特性に悪影響を及ぼすことがない。また、導電性高分子で被覆された被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子は、導電性高分子がコーティング層として働くため、環境安定性に優れ、コバルト系や三元系と同様の設備で取扱うことができる。そのため、本発明は、導電性と環境安定性を備えた優れた被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子である。
【0026】
[導電性高分子]
本発明に係るリチウム-ニッケル複合酸化物粒子に被覆する導電性高分子とは、電気伝導性を持つ高分子化合物の呼称である。この高分子化合物の特徴は、分子構造中に二重結合と単結合が交互に並んだ構造、つまりπ共役が発達した主鎖を持つことにある。通常、導電性高分子の他、ドーパントと呼ばれるアクセプター分子、またはドナー分子をドーピングすることによってキャリアが発生し、電気伝導性を発現させる。ドーパントとは、例えば、Li+、Na+、K+、Cs+等のアルカリ金属イオン、テトラエチルアンモニウム等のアルキルアンモニウムイオンやハロゲン類、ルイス酸、プロトン類、遷移金属ハライド等を例示することができる。
【0027】
導電性高分子は、ポリアセチレンに代表されるようにπ共役系が高度に成長した高分子であるが、いかなる溶媒にも溶解せず、また融点を持たない、いわゆる不溶不融の性質を持っている。したがって、加工性が悪く工業的な応用が困難であった。
【0028】
しかしながら、近年の研究により導電性高分子を有機溶媒に溶解または水溶媒に分散するなど、実質的にもしくは見かけ上で溶液として得られる導電性高分子が開発され、これにより工業化への利用が広がってきている。
【0029】
以下に例を挙げ詳細を説明する。1つ目は、導電性高分子を構成するモノマーに直接置換基を導入して、有機溶媒溶解性や水溶解性を与える方法である。具体的に説明すると、チオフェンの3位にアルキル基を導入したポリ-3-アルキル置換チオフェンから合成されたポリチオフェン誘導体は、クロロホルム、塩化メチレン等の有機溶媒に溶解し、また分解前に融点を持つ、すなわち溶融溶解することが知られている。また、3位にアルキルスルホン酸を導入したポリ-3-アルキルスルホン酸チオフェンから合成されたポリチオフェン誘導体は、水となじみやすいスルホ基によって水溶性が得られ、同時に自己ドーピングが可能となる。
【0030】
また、2つ目は、水溶性ドーパントを用いる方法がある。水となじみやすいスルホ基を分子中に有するポリマーがドーパント兼水分散剤と導入されることにより、水中への導電性高分子の微分散が可能となる。具体的に説明すると、水溶性高分子の水溶液中で、導電性高分子を構成させるモノマーを酸化重合させる。この際、水溶性高分子を持つスルホ基の一部が導電性高分子にドーピングするとともに水溶性高分子と導電性高分子を一体化させ、残りのスルホ基によって水溶性の導電性高分子となる。この導電性高分子は水中に数10nmレベルで微分散できる。この代表例がポリスチレンスルホン酸(PSS)を用い、導電性高分子モノマーに3,4―エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を用いて開発されたPEDOT/PSSがある。
【0031】
本発明に用いることができる高分子化合物は、例えば、ポリピロール系化合物、ポリアニリン系化合物、ポリチオフェン化合物、ポリ(p-フェニレン)化合物、ポリフルオレン化合物又はこれらの誘導体などを例示することができる。本発明は、導電性高分子を溶媒に溶解または分散させる工程を経るため、溶解性または分散性に富む、例えば、PEDOT/PSSやリグニンをポリアニリン末端に修飾させたリグニングラフト型ポリアニリンなどを好ましく使用することができる。
【0032】
また、導電性高分子の被覆量は、ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子100質量%に対して、0.1~5.0質量%が好ましく、より好ましくは0.2~0.5質量%である。0.1質量%未満では処理が不十分になる傾向があり、5.0質量%を超えると粒子被覆に関与しない導電性高分子により粒子の重点密度を低下させ、正極製造時に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0033】
[ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子]
ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子は、球状粒子であって、その平均粒径は、5~20μmであることが好ましい。このような範囲とすることで、リチウム-ニッケル複合酸化物粒子として良好な電池性能を有するとともに、且つ良好な電池の繰り返し寿命(サイクル特性)を両立ができるため好ましい。
【0034】
また、ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子は、下記一般式(1)で表されるものであることが好ましい。
【0035】
LixNi(1-y-z)MyNzO2・・・(1)
式中、xは0.80~1.10、yは0.01~0.20、zは0.01~0.15、1-y-zは0.65を超える値であって、Mは、CoまたはMnより選ばれた少なくとも一種の元素を示し、NはAl、InまたはSnより選ばれた少なくとも一種の元素を示す。
【0036】
なお、1-y-zの値(ニッケル含有量)は、容量の観点から、好ましくは0.70を超える値であり、さらに好ましくは0.80を超える値である。
【0037】
コバルト系(LCO)、三元系(NCM)、ニッケル系(NCA)の電極エネルギー密度(Wh/L)は、それぞれ2160Wh/L(LiCoO2)、2018.6Wh/L(LiNi0.33Co0.33Mn0.33Co0.33O2)、2376Wh/L(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)となる。そのため、当該ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子をリチウムイオン電池の正極活物質として用いることで、高容量の電池を作製することができる。
【0038】
[被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法]
被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子を製造する方法、すなわちニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子にシェルとなる導電性高分子を被覆する方法としては、様々な方法をとることができる。
【0039】
例えば、導電性高分子に対して良溶媒中に該導電性高分子を溶解または分散させ、さらに粒子を混合しスラリーを作製する。その後、導電性高分子に対して貧溶媒を段階的に添加し洗い、完全に良溶媒を除くことで粒子表面に導電性高分子を沈着される方法、いわゆる相分離法を利用して製造することができる。
【0040】
また、シェルとなる導電性高分子を導電性高分子に対して良溶媒中に溶解または分散させ、コアとなる粒子を混合しスラリーを作製する。さらに、このスラリーに導電性高分子に対して貧溶媒を加え混合する。その後、良溶媒を除々に除去して粒子表面に導電性高分子を析出させる方法、いわゆる界面沈殿法を利用して製造することもできる。
【0041】
また、導電性高分子を溶解または分散させた溶液中にコアとなる粒子を分散させ、液滴を細かく分散して熱風中に吹き付ける方法、いわゆる気中乾燥法、スプレードライ法を利用して製造することもできる。
【0042】
また、コアとなる粒子を転動するパンで流動させ、そこに導電性高分子を溶解または分散させた溶液を噴霧し、粒子表面に均一に導電性高分子を塗布・乾燥させる方法、いわゆるパンコーティング法を利用して製造することもできる。
【0043】
また、底部から送風された気体にコアとなる粒子を上下に循環させ導電性高分子を溶解または分散させた溶液を噴霧する方法、いわゆる気中懸濁被覆法を利用して製造することもできる。
【0044】
中でも、製造コストの観点から、上述した相分離法を利用して製造することが最も好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明する。但し、本発明は以下実施例によってのみ限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
SIGMA-ALDRICH製ポリアニリン(エメラルジン塩)、リグニングラフト型パウダー0.1gをエタノール284gに溶解させ溶液を作製した。この溶液にニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子として遷移金属組成Li1.03Ni0.82Co0.15Al0.03で表される複合酸化物粒子50gを入れ、さらにトルエン16gを添加し混合し、スラリーを作製した。次に、スラリーをエバポレーターに移し、減圧下、45℃に温めたウォーターバスにフラスコ部を入れ、回転させながらエタノールを除去した。続いてウォーターバスの設定温度を60℃とし、トルエンの除去を行った。最後に完全に溶媒を除去するために粉末を真空乾燥機に移し、減圧下100℃、2時間の乾燥を行い、処理粉体を作製した。
【0047】
このポリアニリン化合物が被覆されたものを実施例1に係る被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子として、以下に示した大気安定性試験、ゲル化試験、及び電池特性試験(充放電試験、サイクル試験)を行った。
【0048】
(実施例2)
SIGMA-ALDRICH製PEDOT/PSS(dry re-dispersible pellets)0.1gをエタノール284gに溶解させ溶液を作製した。この溶液にニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子として遷移金属組成Li1.03Ni0.82Co0.15Al0.03で表される複合酸化物粒子50gを入れ、さらにトルエン16gを添加し混合し、スラリーを作製した。スラリーをエバポレーターに移し、減圧下、45℃に温めたウォーターバスにフラスコ部を入れ、回転させながらエタノールを除去した。続いてウォーターバスの設定温度を60℃とし、トルエンの除去を行った。最後に完全に溶媒を除去するために粉末を真空乾燥機に移し、減圧下100℃2時間の乾燥を行い、処理粉体を作製した。
【0049】
このPEDOT/PSSが被覆されたものを実施例2に係る被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子として、以下に示した大気安定性試験、ゲル化試験、及び電池特性試験(充放電試験、サイクル試験)を行った。
【0050】
(比較例1)
処理を施さないリチウム-ニッケル複合酸化物粒子を用いたこと以外、実施例1、実施例2と同様に大気安定性、ゲル化試験、電池特性試験を行った。
【0051】
<大気安定性試験>
実施例の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子及び比較例のリチウム-ニッケル複合酸化物粒子をそれぞれ2.0gガラス瓶に詰め、温度30℃・湿度70%の恒湿恒温槽に1週間静置し初期質量からの増加質量を測定し、粒子質量当たりの変化率を算出した。比較例1に係るリチウム-ニッケル複合酸化物粒子の1週間後の粒子質量当たりの変化率を100として実施例1~2及び比較例1の1日ごとの変化率を
図1に示す。
【0052】
図1から分かるように、ポリアニリン化合物が被覆された実施例1の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子やPEDOT/PSSが被覆された実施例2の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子は、導電性高分子が被覆されていない比較例1のリチウム-ニッケル複合酸化物粒子と比べ、質量当たりの変化率が小さい。本結果から、ポリアニリン化合物やPEDOT/PSSが被覆されていることで、大気中の水分、炭酸ガスの透過を抑制できることが確認された。
【0053】
<ゲル化試験>
正極合剤スラリーの粘度の経時変化の測定を、以下の順序により正極合剤スラリーを作製し、粘度増加およびゲル化の観察を行った。
【0054】
配合比として、実施例及び比較例に係る被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子及びリチウム-ニッケル複合酸化物粒子を、粒子:導電助剤:バインダー:N-メチル-2-ピロリドン(NMP)のそれぞれの質量比が、45:2.5:2.5:50となるように秤量し、さらに1.5質量%の水を添加後、自転・公転ミキサーで撹拌して正極合剤スラリーを得た。得られたスラリーを25℃のインキュベーター内で保管し、経時変化をスパチュラでかき混ぜ粘度増加、ゲル化度合いを、実施例1~2及び比較例1についてそれぞれ確認し、完全にゲル化するまで保管を行った。
【0055】
実施例1及び実施例2に係るスラリーが完全にゲル化するまでに3日を要したのに対し、比較例1に係るスラリーが完全にゲル化するまでには1日を要した。このことから、実施例1及び実施例2に係るスラリーは、リチウム-ニッケル複合酸化物粒子にポリアニリン化合物やPEDOT/PSSが被覆されていることで、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(Li2CO3)といった不純物の生成が抑えられ、これら不純物とバインダーと反応することによるスラリーのゲル化及びスラリー粘度の上昇させることを妨げることができることが確認された。
【0056】
また、フッ素化合物によってリチウム-ニッケル複合酸化物粒子を被覆させた場合には、フッ素化合物は一般的にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解するため、フッ素系化合物が被膜しても被膜が溶解すると考えられる。そのため、実施例に係る被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子とは異なり、製造された正極を保管する際、不純物生成を抑制することが困難と考えられる。したがって、正極保管時に生成した不純物が原因となる電池駆動時のガス発生を伴う電解液との反応の抑制が難しく、高額な保管設備が必要となる。
【0057】
<電池特性評価>
以下の手順にて、評価用非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)を作製し、電池特性評価を行った。
【0058】
[二次電池の製造]
本発明の被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の電池特性評価は、コイン型電池とラミネート型電池を作製し、コイン型電池で充放電容量測定を行い、ラミネートセル型電池で充放電サイクル試験と抵抗測定を行った。
【0059】
(a)正極
得られた実施例及び比較例に係る被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子及びリチウム-ニッケル複合酸化物粒子に、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とをこれらの材料の質量比が85:10:5となるように混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に溶解させ、正極合剤スラリーを作製した。この正極合剤スラリーを、コンマコーターによりアルミ箔に塗布し、100℃で加熱し、乾燥させることにより正極を得た。得られた正極をロールプレス機に通して荷重を加え、正極密度を向上させた正極シートを作製した。この正極シートをコイン型電池評価用に直径がφ9mmとなるように打ち抜き、またラミネートセル型電池用に50mm×30mmとなるように切り出し、それぞれを評価用正極電極として用いた。
【0060】
(b)負極
負極活物質としてグラファイトと、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これらの材料の質量比が92.5:7.5となるように混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に溶解させて、負極合剤ペーストを得た。
【0061】
この負極合剤スラリーを、正極と同様に、コンマコーターにより銅箔に塗布し、120℃で加熱し、乾燥させるとことにより負極を得た。得られた負極をロールプレス機に通して荷重を加え、電極密度を向上させた負極シートを作製した。得られた負極シートをコイン型電池用にφ14mmとなるように打ち抜き、またラミネートセル型電池用に54mm×34mmとなるように切り出し、それぞれを評価用負極として用いた。
【0062】
(c)コイン電池及びラミネートセル型電池
作製した評価用電極を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。そして、この正極を用いて2032型コイン電池とラミネートセル型電池を、露点が-80℃に管理されたアルゴン雰囲気のグローブボックス内で作製した。電解液には、1MのLiPF6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の3:7(富山薬品工業株式会社製)、セパレーターとしてガラスセパレーターを用いてそれぞれの評価用電池を作製した。
【0063】
<<充放電試験>>
作製したコイン型電池について、組立から24時間程度静置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、25℃の恒温槽内で、0.2Cレートの電流密度でカットオフ電圧4.3Vになるまで充電した。1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行った。
【0064】
実施例1に係るコイン型電池の初期放電容量は、198.99mAh/g、実施例2に係るコイン型電池の初期放電容量は、191.91mAh/gであったのに対し、比較例1に係るコイン型電池の初期放電容量は、191.93mAh/gであった。
【0065】
<<サイクル試験>>
作製したラミネート型電池について、コイン型電池と同様に、組立から24時間程度静置し、開回路電圧が安定した後、25℃の恒温槽内で、0.2Cレートの電流密度でカットオフ電圧4.1Vになるまで充電した。1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電した。次にこの電池を、60℃の恒温槽内で2.0Cレートの電流密度で4.1V-CC充電、3.0V-CC放電を繰り返すサイクル試験を行い、500サイクル後の容量維持率を確認するサイクル試験を行った。サイクル試験の結果を
図2に、サイクル試験前のインピーダンス試験結果を
図3に、500回のサイクル試験後のインピーダンス試験結果を
図4に示す。
【0066】
図2及び
図3からサイクル試験前の容量維持量及びインピーダンスにおけるCole-Coleプロットでは、実施例及び比較例に係るラミネート電池はほぼ同等であるが、
図2及び
図4から500回のサイクル試験後のインピーダンス試験後の容量維持量では比較例1に係るラミネート型電池に比べ、実施例1及び実施例2に係るラミネート型電池容量維持量がより高く保たれている。
本試験結果から、実施例のラミネート電池に使用されたリチウム-ニッケル複合酸化物粒子にはポリアニリン、PEDOT/PSSが被覆されているため、長サイクルの使用においても容量維持量の低下量が少な
く、より容量維持率の高い優れた被覆リチウム-ニッケル複合酸化物粒子であることが確認された。