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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220315BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20220315BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20220315BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20220315BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20220315BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0567
H01G11/26
H01G11/30
H01G11/64
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020504496
(86)(22)【出願日】2018-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2018008372
(87)【国際公開番号】W WO2019171434
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100201226
【弁理士】
【氏名又は名称】水木 佐綾子
(72)【発明者】
【氏名】今野 馨
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/138452(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/136794(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13- 4/1399
H01M 4/36- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解液と、を備える二次電池であって、
前記正極及び前記負極は、X線光電子分光法による測定において、
96eV以上108eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するケイ素原子の2p電子由来のピークと、
158eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在する硫黄原子の2p電子由来のピークと、
を示し、
前記ケイ素原子及び前記硫黄原子は、それぞれ、下記式(1)で表される化合物に由来するケイ素原子及び硫黄原子である、二次電池
【化1】

[式(1)中、R ~R は、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素原子を示し、R はアルキレン基を示し、R は、下記式(3)で表される基を示し、
【化2】

式(3)中、R はアルキル基を示す。]
【請求項2】
記正極は、前記硫黄原子の2p電子由来のピークとして、167eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピーク、及び、158eV以上167eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークの少なくとも1つを示す、請求項1に記載の二次電池
【請求項3】
前記158eV以上167eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークの面積の和に対する、前記167eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークの面積の和の比が、1.0以上5.0以下である、請求項2に記載の二次電池
【請求項4】
記負極は、前記硫黄原子の2p電子由来のピークとして、165eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークと、158eV以上165eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークとの少なくとも1つを示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池
【請求項5】
前記165eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークの面積の和に対する、前記158eV以上165eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークの面積の和の比が、1.0以上10.0以下である、請求項4に記載の二次電池
【請求項6】
前記正極及び前記負極の表面には前記ケイ素原子及び前記硫黄原子を含む膜が形成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池
【請求項7】
前記電解液は、電解液全量を基準として0.001質量%以上の前記式(1)で表される化合物を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の二次電池

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型電子機器、電気自動車等の普及により、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池、キャパシタ等の高性能な電気化学デバイスが必要とされている。電気化学デバイスの性能を向上させる手段としては、例えば、電解液に所定の添加剤を添加する方法が検討されている。特許文献1には、サイクル特性及び内部抵抗特性を改善するために、特定のシロキサン化合物を含有させた非水電解液電池用電解液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-005329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような電気化学デバイスの耐久性を高め、長期間使用するためには、電気化学デバイスの特性の中でも、サイクル特性を向上させることが重要である。しかし、電気化学デバイスの開発においては、サイクル特性の向上の点で更なる改善の余地がある。
【0005】
そこで本発明は、サイクル特性が向上した電気化学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、X線光電子分光法による測定において、96eV以上106eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するケイ素原子の2p電子由来のピークと、158eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在する硫黄原子の2p電子由来のピークと、を示す電極を備える、電気化学デバイスを提供する。
【0007】
電気化学デバイスが上記の電極として正極を備える場合、正極は、硫黄原子の2p電子由来のピークとして、好ましくは、167eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピーク、及び、158eV以上167eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークの少なくとも1つを示す。
【0008】
上記の正極において、158eV以上167eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークの面積の和に対する、167eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークの面積の和の比は、好ましくは1.0以上5.0以下である。
【0009】
電気化学デバイスが上記の電極として負極を備える場合、負極は、硫黄原子の2p電子由来のピークとして、好ましくは、165eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークと、158eV以上165eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークとの少なくとも1つを示す。
【0010】
上記の負極において、165eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークの面積の和に対する、158eV以上165eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークの面積の和の比は、好ましくは1.0以上10.0以下である。
【0011】
上記の電極は電極活物質を含有し、好ましくは、電極活物質の表面にはケイ素原子及び硫黄原子を含む膜が形成されている。
【0012】
上記の電気化学デバイスは、好ましくは非水電解液二次電池又はキャパシタである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、サイクル特性が向上した電気化学デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る電気化学デバイスとしての非水電解液二次電池を示す斜視図である。
図2図1に示した二次電池の電極群を示す分解斜視図である。
図3】(a)、(c)及び(e)はそれぞれ実施例1、実施例2及び比較例1の正極におけるケイ素原子の2p電子由来のスペクトルであり、(b)、(d)及び(f)はそれぞれ実施例1、実施例2及び比較例1の正極における硫黄原子の2p電子由来のスペクトルである。
図4】(a)、(c)及び(e)はそれぞれ実施例1、実施例2及び比較例1の負極におけるケイ素原子の2p電子由来のスペクトルであり、(b)、(d)及び(f)はそれぞれ実施例1、実施例2及び比較例1の負極における硫黄原子の2p電子由来のスペクトルである。
図5】実施例1~2及び比較例1のサイクル特性の評価結果を示すグラフである。
図6】(a)、(c)及び(e)はそれぞれ実施例3、比較例2及び比較例3の正極におけるケイ素原子の2p電子由来のスペクトルであり、(b)、(d)及び(f)はそれぞれ実施例3、比較例2及び比較例3の正極における硫黄原子の2p電子由来のスペクトルである。
図7】(a)、(c)及び(e)はそれぞれ実施例3、比較例2及び比較例3の負極におけるケイ素原子の2p電子由来のスペクトルであり、(b)、(d)及び(f)はそれぞれ実施例3、比較例2及び比較例3の負極における硫黄原子の2p電子由来のスペクトルである。
図8】実施例3及び比較例2~3のサイクル特性の評価結果を示すグラフである。
図9】実施例3及び比較例2の放電レート特性の評価結果を示すグラフである。
図10】(a)及び(c)はそれぞれ実施例1及び比較例1における正極のTEM観察イメージであり、(b)及び(d)はそれぞれ(a)及び(c)の視野でのEDX測定によるSiマッピングのイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、一実施形態に係る電気化学デバイスを示す斜視図である。本実施形態において、電気化学デバイスは非水電解液二次電池である。図1に示すように、非水電解液二次電池1は、正極、負極及びセパレータから構成される電極群2と、電極群2を収容する袋状の電池外装体3とを備えている。正極及び負極には、それぞれ正極集電タブ4及び負極集電タブ5が設けられている。正極集電タブ4及び負極集電タブ5は、それぞれ正極及び負極が非水電解液二次電池1の外部と電気的に接続可能なように、電池外装体3の内部から外部へ突き出している。電池外装体3内には、電解液(図示せず)が充填されている。非水電解液二次電池1は、上述したようないわゆる「ラミネート型」以外の形状の電池(コイン型、円筒型、積層型等)であってもよい。
【0017】
電池外装体3は、例えばラミネートフィルムで形成された容器であってよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂フィルムと、アルミニウム、銅、ステンレス鋼等の金属箔と、ポリプロピレン等のシーラント層とがこの順で積層された積層フィルムであってよい。
【0018】
図2は、図1に示した非水電解液二次電池1における電極群2の一実施形態を示す分解斜視図である。図2に示すように、電極群2は、正極6と、セパレータ7と、負極8とをこの順に備えている。正極6及び負極8は、正極合剤層10側及び負極合剤層12側の面がそれぞれセパレータ7と対向するように配置されている。
【0019】
セパレータ7は、正極6及び負極8間を電子的には絶縁する一方でイオンを透過させ、かつ、正極6側における酸化性及び負極8側における還元性に対する耐性を備えるものであれば、特に制限されない。このようなセパレータ7の材料(材質)としては、樹脂、無機物等が挙げられる。
【0020】
樹脂としては、オレフィン系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリイミド、ナイロン等が挙げられる。セパレータ7は、電解液に対して安定で、保液性に優れる観点から、好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンで形成された多孔質シート又は不織布である。
【0021】
無機物としては、アルミナ、二酸化珪素等の酸化物、窒化アルミニウム、窒化珪素等の窒化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩が挙げられる。セパレータ7は、例えば、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜状基材に、繊維状又は粒子状の無機物を付着させたセパレータであってよい。
【0022】
電解液は、一実施形態において、電解質塩と、非水溶媒と、添加剤とを含有する。
【0023】
電解質塩は、例えばリチウム塩であってよい。リチウム塩は、例えば、LiPF、LiBF、LiFSI(リチウムビスフルオロスルホニルイミド)、LiTFSI(リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド)、LiClO、LiB(C、LiCHSO、LiCFSO、LiN(SOF)、LiN(SOCF、及びLiN(SOCFCFからなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。リチウム塩は、溶媒に対する溶解性、二次電池の充放電特性、出力特性、サイクル特性等に更に優れる観点から、LiPFを含むことが好ましい。
【0024】
電解質塩の濃度は、充放電特性に優れる観点から、非水溶媒全量を基準として、好ましくは0.5mol/L以上であり、より好ましくは0.7mol/L以上であり、更に好ましくは0.8mol/L以上であり、また、好ましくは1.5mol/L以下であり、より好ましくは1.3mol/L以下であり、更に好ましくは1.2mol/L以下である。
【0025】
非水溶媒は、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ-ブチルラクトン、アセトニトリル、1,2-ジメトキシエタン、ジメトキシメタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、酢酸メチル等であってよい。非水溶媒は、これらの1種単独又は2種以上の混合物であってよく、好ましくは2種以上の混合物である。
【0026】
添加剤は、例えば、窒素、硫黄、又は窒素及び硫黄を含有する複素環化合物、環状カルボン酸エステル、フッ素含有環状カーボネート、その他の分子内に不飽和結合を有する化合物等であってよい。
【0027】
正極6は、正極集電体9と、正極集電体9上に設けられた正極合剤層10とを備えている。正極集電体9には、正極集電タブ4が設けられている。
【0028】
正極集電体9は、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等で形成されている。正極集電体9は、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウム、銅等の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀等で処理が施されたものであってもよい。正極集電体9の厚さは、電極強度及びエネルギー密度の点から、例えば1~50μmである。
【0029】
正極合剤層10は、一実施形態において、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを含有する。正極合剤層10の厚さは、例えば20~200μmである。
【0030】
正極活物質は、例えばリチウム酸化物であってよい。リチウム酸化物は、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1-y、LiCo1-y、LiNi1-y、LiMn及びLiMn2-y(各式中、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す(ただし、Mは、各式中の他の元素と異なる元素である)。x=0~1.2、y=0~0.9、z=2.0~2.3である。)が挙げられる。
【0031】
正極活物質の含有量は、正極合剤層全量を基準として、80質量%以上、又は85質量%以上であってよく、99質量%以下であってよい。
【0032】
導電剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素材料であってよい。導電剤の含有量は、正極合剤層全量を基準として、例えば、0.01質量%以上、0.1質量%以上、又は1質量%以上であってよく、50質量%以下、30質量%以下、又は15質量%以下であってよい。
【0033】
結着剤は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂;SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム等のゴム;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック-1、2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素含有樹脂;ニトリル基含有モノマーをモノマー単位として有する樹脂;アルカリ金属イオン(例えばリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。
【0034】
結着剤の含有量は、正極合剤層全量を基準として、例えば、0.1質量%以上、1質量%以上、又は1.5質量%以上であってよく、30質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下であってよい。
【0035】
負極8は、負極集電体11と、負極集電体11上に設けられた負極合剤層12とを備えている。負極集電体11には、負極集電タブ5が設けられている。
【0036】
負極集電体11は、銅、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、アルミニウム-カドミウム合金等で形成されている。負極集電体11は、接着性、導電性、耐還元性向上の目的で、銅、アルミニウム等の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀等で処理が施されたものであってもよい。負極集電体11の厚さは、電極強度及びエネルギー密度の点から、例えば1~50μmである。
【0037】
負極合剤層12は、例えば、負極活物質と、結着剤と、増粘剤とを含有する。
【0038】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であれば特に制限されない。負極活物質としては、例えば、炭素材料、金属複合酸化物、錫、ゲルマニウム、ケイ素等の第四族元素の酸化物又は窒化物、リチウムの単体、リチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む材料、リチウムと合金を形成可能な金属などが挙げられる。負極活物質は、安全性の観点からは、好ましくは炭素材料及び金属複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種である。負極活物質は、これらの1種単独又は2種以上の混合物であってよい。負極活物質の形状は、例えば、粒子状であってよい。
【0039】
炭素材料としては、非晶質炭素材料、天然黒鉛、天然黒鉛に非晶質炭素材料の被膜を形成した複合炭素材料、人造黒鉛(エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の樹脂原料、又は、石油、石炭等から得られるピッチ系原料を焼成して得られるもの)などが挙げられる。金属複合酸化物は、高電流密度充放電特性の観点からは、好ましくはチタン及びリチウムのいずれか一方又は両方を含有し、より好ましくはリチウムを含有する。
【0040】
負極活物質の中でも炭素材料は、導電性が高く、低温特性及びサイクル安定性に特に優れている。炭素材料の中でも高容量化の観点からは、黒鉛が好ましい。黒鉛においては、好ましくはX線広角回折法における炭素網面層間(d002)が0.34nm未満であり、より好ましくは0.3354nm以上0.337nm以下である。このような条件を満たす炭素材料を、疑似異方性炭素と称する場合がある。
【0041】
ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む材料は、ケイ素又はスズの単体、ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物であってよい。当該化合物は、ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む合金であってよく、例えば、ケイ素及びスズの他に、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む合金である。ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物は、酸化物、窒化物、又は炭化物であってもよく、具体的には、例えば、SiO、SiO、LiSiO等のケイ素酸化物、Si、SiO等のケイ素窒化物、SiC等のケイ素炭化物、SnO、SnO、LiSnO等のスズ酸化物などであってよい。
【0042】
負極合剤層12は、電気化学デバイスのサイクル特性を更に向上させる観点から、負極活物質として、好ましくは炭素材料を含み、より好ましくは黒鉛を含み、更に好ましくは、炭素材料と、ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む材料との混合物を含み、特に好ましくは、黒鉛とケイ素酸化物との混合物を含む。当該混合物におけるケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む材料(ケイ素酸化物)の含有量は、当該混合物全量を基準として、1質量%以上、又は3質量%以上であってよく、30質量%以下であってよい。
【0043】
負極活物質の含有量は、負極合剤層全量を基準として、80質量%以上、又は85質量%以上であってよく、99質量%以下であってよい。
【0044】
結着剤及びその含有量は、上述した正極合剤層における結着剤及びその含有量と同様であってよい。
【0045】
負極合剤層12は、粘度を調節するために増粘剤を更に含有してもよい。増粘剤は、特に制限されないが、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインおよびこれらの塩等であってよい。増粘剤は、これらの1種単独又は2種以上の混合物であってよい。
【0046】
負極合剤層12が増粘剤を含む場合、その含有量は特に制限されない。増粘剤の含有量は、負極合剤層の塗布性の観点からは、負極合剤層全量を基準として、0.1質量%以上であってよく、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。増粘剤の含有量は、電池容量の低下又は負極活物質間の抵抗の上昇を抑制する観点からは、5質量%以下であってよく、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下である。
【0047】
正極6及び負極8の少なくとも一方は、X線光電子分光法(XPS)による測定において、ケイ素原子の2p電子由来のピーク(以下、「Si2pのピーク」ともいう。)と、硫黄原子の2p電子由来のピーク(以下、「S2pのピーク」ともいう。)とを示す。Si2pのピークは、96eV以上108eV未満の結合エネルギーの範囲に存在する。S2pのピークは、158eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在する。一実施形態において、正極6及び負極8の両方が、Si2pのピークとS2pのピークとを示す。
【0048】
正極6におけるSi2pのピークが存在する結合エネルギーの範囲は、96eV以上108eV未満であり、好ましくは98eV以上106eV未満であり、より好ましくは99eV以上104eV未満であり、更に好ましくは100eV以上103eV未満である。Si2pのピークは、上記の結合エネルギーの範囲に1つのみ存在してもよいし、2つ以上存在してもよく、例えば、102eV付近及び104eV付近に存在してよい。
【0049】
正極6におけるS2pのピークが存在する結合エネルギーの範囲は、158eV以上174eV未満であり、好ましくは162eV以上172eV未満であり、より好ましくは163eV以上171eV未満である。S2pのピークは、上記の結合エネルギーの範囲に1つのみ存在してもよいし、2つ以上存在してもよい。
【0050】
正極6は、S2pのピークとして、167eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークと、158eV以上167eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークとの少なくとも1つを示してよく、167eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に少なくとも1つのS2pのピーク(第1のS2pのピーク)を示し、158eV以上167eV未満の結合エネルギーの範囲に少なくとも1つのS2pのピーク(第2のS2pのピーク)を更に示してもよい。この場合、第1のS2pのピークが存在する結合エネルギーの範囲は、好ましくは167eV以上172eV未満であり、より好ましくは167eV以上170eV未満である。第2のS2pのピークが存在する結合エネルギーの範囲は、好ましくは160eV以上167eV未満であり、より好ましくは162eV以上167eV未満である。第1のS2pのピークは、例えば、169eV付近に1つ存在してよく、第2のS2pのピークは、例えば、164eV付近に1つ存在していてよい。
【0051】
負極8におけるSi2pのピークが存在する結合エネルギーの範囲は、96eV以上108eV未満であり、好ましくは98eV以上106eV未満であり、より好ましくは99eV以上104eV未満であり、更に好ましくは100eV以上103eV未満である。Si2pのピークは、上記の結合エネルギーの範囲に1つのみ存在してもよいし、2つ以上存在してもよく、例えば、101eV付近及び103eV付近に存在してよい。
【0052】
負極8におけるS2pのピークが存在する結合エネルギーの範囲は、158eV以上174eV未満であり、好ましくは158eV以上172eV未満であり、より好ましくは159eV以上171eV未満である。S2pのピークは、上記の結合エネルギーの範囲に1つのみ存在してもよいし、2つ以上存在してもよい。
【0053】
負極8は、S2pのピークとして、165eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークと、158eV以上165eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するピークとの少なくとも1つを示してよく、158eV以上165eV未満の結合エネルギーの範囲に少なくとも1つのS2pのピーク(第1のS2pのピーク)を示し、165eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に少なくとも1つのS2pのピーク(第2のS2pのピーク)を更に示してもよい。この場合、第1のS2pのピークが存在する結合エネルギーの範囲は、好ましくは158eV以上164eV未満であり、より好ましくは159eV以上164eV未満である。第2のS2pのピークが存在する結合エネルギーの範囲は、好ましくは166eV以上172eV未満であり、より好ましくは166eV以上170eV未満である。第1のS2pのピークは、例えば、160eV、162eV及び163eV付近に1つ以上存在していてよい。第2のS2pのピークは、例えば、168eV及び169eV付近に1つ以上存在していてよい。
【0054】
正極6及び負極8におけるSi2pのピーク及びS2pのピークは、例えば、X線光電子分光システム(例えば、Thermo Scientific社の「K-Alpha」)を用いて測定されるケイ素原子の2p電子由来のスペクトル及び硫黄原子の2p電子由来のスペクトルから分析できる。測定条件としては、例えば、X線源はAl Kα線、電圧は12kV、電流値は6mA、スポットサイズは200~400μmの条件である。また、測定前のサンプル評価室の真空度は、5.0×10-8~1.0×10-9mBarである。XPS測定時の帯電等によるピークシフトの補正に関しては、フッ素の1s電子由来のスペクトル(F1sのスペクトル)のLiF由来のピークを685eVに合わせて補正を実施してもよい。
【0055】
Si2pのピーク及びS2pのピークを分析するためのXPSスペクトルは、具体的には以下のようにして測定する。少なくとも一度の充放電が実施された電気化学デバイスを完全に放電させて、アルゴン雰囲気(酸素濃度1ppm未満、露点-70℃未満)下のグローブボックス中で非水電解液二次電池(電気化学デバイス)1を解体し、正極6又は負極8を取り出す。次に、非水溶媒(例えばジメチルカーボネート等)で正極6又は負極8を洗浄し、その後乾燥させる。そして、アルゴン雰囲気を保持した状態で、洗浄済みの正極又は負極をX線光電子分光システムに搬送し、上述した条件でXPSスペクトルを測定する。
【0056】
正極6及び負極8が示すSi2pのピーク及びS2pのピークは、それぞれ、正極6及び負極8が、その表面に、ケイ素原子及び硫黄原子を含んでいるために得られる。正極6及び負極8が示すSi2pのピーク及びS2pのピークは、一実施形態において、正極活物質及び負極活物質の表面に、それぞれ、ケイ素原子及び硫黄原子を含む膜が形成されているために得られる。このケイ素原子及び硫黄原子を含む膜は、例えば、同一分子中にケイ素原子を含み硫黄原子を含まない化合物と、同一分子中に硫黄原子を含みケイ素原子を含まない化合物とを含んでいてよく、又は、同一分子中にケイ素原子及び硫黄原子を含む化合物を含んでいてもよく、好ましくは、同一分子中にケイ素原子及び硫黄原子を含む化合物を含んでいる。この膜は、正極活物質及び負極活物質の少なくとも一部に形成されていればよく、好ましくは、正極活物質及び負極活物質が、正極6及び負極8の表面上に露出している部分(電解液と接している部分)の一部又は全部に形成されていればよい。
【0057】
正極活物質及び負極活物質の表面にケイ素原子及び硫黄原子を含む膜が形成されていることは、例えば、集束イオンビーム(FIB)加工等により薄片化した正極6又は負極8について透過型電子顕微鏡観察/エネルギー分散型X線分析(TEM/EDX)を行うことにより確認することができる。FIB加工には、例えば集束イオンビーム/電子ビーム加工観察装置(nanoDUE’T NB5000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いることができ、TEM/EDX分析には、球面収差補正機能付き走査型透過電子顕微鏡(例えば、JEM-ARM200F(日本電子(株)製)/JED-2300T(日本電子(株)製)等)を用いることができる。
【0058】
一実施形態において、正極6(正極活物質)及び負極8(負極活物質)の表面に形成されている膜に含まれるケイ素原子及び硫黄原子は、下記式(1)で表される化合物に由来する。
【化1】
式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素原子を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは、硫黄原子を含む有機基を示す。式(1)で表される化合物は、一実施形態において、ケイ素原子を1分子中に1つのみ含む。すなわち、一実施形態において、Rで表される有機基はケイ素原子を含まない。
【0059】
~Rで表されるアルキル基の炭素数は、1以上であってよく、3以下であってよい。R~Rは、メチル基、エチル基、又はプロピル基であってよく、直鎖状でも分岐状でもよい。R~Rの少なくとも1つは、好ましくはフッ素原子である。
【0060】
で表されるアルキレン基の炭素数は、1以上又は2以上であってよく、5以下又は4以下であってよい。Rで表されるアルキレン基は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、又はペンチレン基であってよく、直鎖状でも分岐状でもよい。
【0061】
は、電気化学デバイスのサイクル特性を更に向上させる観点から、一実施形態において、下記式(2)で表される基であってよい。
【化2】
式(2)中、Rはアルキル基であってよい。アルキル基は、上述したR~Rと同様の基であってよい。*は結合手を示す。
【0062】
は、電気化学デバイスのサイクル特性を更に向上させる観点から、他の実施形態において、下記式(3)で表される基であってもよい。
【化3】
式(3)中、Rはアルキル基であってよい。アルキル基は、上述したR~Rと同様の基であってよい。*は結合手を示す。
【0063】
は、電気化学デバイスのサイクル特性を更に向上させる観点から、他の実施形態において、下記式(4)で表される基であってもよい。
【化4】
式(4)中、Rはアルキル基であってよい。アルキル基は、上述したR~Rと同様の基であってよい。*は結合手を示す。
【0064】
非水電解液二次電池1の正極6(正極活物質)又は負極8(負極活物質)の表面にケイ素原子及び硫黄原子を含む膜が形成されていると、非水電解液二次電池1のサイクル特性が顕著に向上し、寿命の低下が抑制される。特に硫黄原子は、正極6(正極活物質)又は負極8(負極活物質)上で電気化学的に安定な構造を有すると推定され、これにより、電解液又は電解質塩の分解によって生じる非水電解液二次電池1の容量低下及び抵抗増加が抑制される。その結果、非水電解液二次電池1のサイクル特性が顕著に向上する。なお、負極8(負極活物質)の表面にケイ素原子を含む膜が形成されていることにより、非水電解液二次電池1は物理的にも電気化学的にもより安定化されると考えられる。その結果、リチウムデンドライトの発生が抑制され、リーク電流が低減されるため、非水電解液二次電池1のサイクル特性を向上させることができ、又は、高温保存した場合の体積膨張を抑制することもできる。
【0065】
XPSによる測定で得られるスペクトルから、以下の方法により、各ピークの面積を算出することができる。まず、ケイ素原子の2p電子由来のスペクトルにおいて、結合エネルギーが96eV以上108eV未満の付近の領域にシャーリー法を用いてベースラインを引く。同様に、硫黄原子の2p電子由来のスペクトルにおいて、結合エネルギーが158eV以上174eV未満の付近の領域にシャーリー法を用いてベースラインを引く。そして、これらの範囲に存在するピークを、ガウス関数を用いてピーク分離し、ベースラインとの間で囲まれた部分の面積を求める。ピークが複数ある場合は、各ピークの面積の合計を求める。
【0066】
正極6が、167eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に少なくとも1つのS2pのピークを示し、158eV以上167eV未満の結合エネルギーの範囲に少なくとも1つのS2pのピークを更に示す場合において、167eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するS2pのピークの面積の和をS1、158eV以上167eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するS2pのピークの面積の和をS2とすると、S2に対するS1の比RS(S1/S2)は、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは1.5以上であり、更に好ましくは2.0以上である。RSの上限値は特に限定されないが、例えば、5.0以下であってよい。すなわち、RSは、1.0以上5.0以下、1.5以上5.0以下、又は2.0以上5.0以下であってよい。
【0067】
RSが1.0以上であると、Liイオン等のキャリアとの相互作用による構造を有する化合物に由来するケイ素原子及び硫黄原子が正極6(正極活物質)の表面に膜として含まれることによって、イオン導電性が向上すると考えられる。RSが1.5以上であると、正極6(正極活物質)の表面に形成されている膜に含まれるケイ素原子及び硫黄原子(又はそれらの由来となる化合物)がより安定化することによって、電解液の酸化分解が抑制されサイクル特性が更に向上すると考えられる。
【0068】
負極8が、158eV以上165eV未満の結合エネルギーの範囲に少なくとも1つのS2pのピークを示し、165eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に少なくとも1つのS2pのピークを更に示す場合において、165eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するS2pのピークの面積の和をS3、158eV以上165eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するS2pのピークの面積の和をS4とすると、S3に対するS4の比RS(S4/S3)は、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは2.0以上であり、更に好ましくは3.0以上である。RSの上限値は特に限定されないが、例えば、10.0以下であってよい。すなわち、RSは、1.0以上10.0以下、2.0以上10.0以下、又は3.0以上10.0以下であってよい。
【0069】
RSが1.0以上であると、Liイオン等のキャリアとの相互作用による構造を有する化合物に由来するケイ素原子及び硫黄原子が負極8(負極活物質)の表面に膜として含まれることによって、イオン導電性が向上すると考えられる。RSが2.0以上であると、負極8(負極活物質)の表面に形成されている膜に含まれるケイ素原子及び硫黄原子(又はその由来となる化合物)が還元環境においてより安定化することによって、電解液の還元分解が抑制されサイクル特性が更に向上すると考えられる。
【0070】
続いて、非水電解液二次電池1の製造方法を説明する。非水電解液二次電池1の製造方法は、正極6を得る第1の工程と、負極8を得る第2の工程と、電極群2を電池外装体3に収容する第3の工程と、電解液を電池外装体3に注液する第4の工程と、を備える。
【0071】
第1の工程では、正極合剤層10に用いる材料を混練機、分散機等を用いて分散媒に分散させてスラリー状の正極合剤を得た後、この正極合剤をドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等により正極集電体9上に塗布し、その後分散媒を揮発させることにより正極6を得る。分散媒を揮発させた後、必要に応じて、ロールプレスによる圧縮成型工程が設けられてもよい。正極合剤層10は、上述した正極合剤の塗布から分散媒の揮発までの工程を複数回行うことにより、多層構造の正極合剤層として形成されてもよい。分散媒は、水、1-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPともいう。)等であってよい。
【0072】
第2の工程は、上述した第1の工程と同様であってよく、負極集電体11に負極合剤層12を形成する方法は、上述した第1の工程と同様の方法であってよい。
【0073】
第3の工程では、作製した正極6及び負極8の間にセパレータ7を挟み、電極群2を形成する。次いで、この電極群2を電池外装体3に収容する。
【0074】
第4の工程では、電解液を電池外装体3に注入する。電解液は、例えば、電解質塩をはじめに溶媒に溶解させてから、その他の材料を溶解させることにより調製することができる。
【0075】
正極6及び負極8が上述したSi2pのピーク及びS2pのピークを示すためには、一実施形態において、第4の工程で、電解液に上記式(1)で表された化合物を添加する。すなわち、電解液は、式(1)で表された化合物を含有していてよい。
【0076】
式(1)で表される化合物の含有量は、電気化学デバイスのサイクル特性を更に向上させる観点から、電解液全量を基準として、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上であり、更に好ましくは0.01質量%以上である。式(1)で表される化合物の含有量は、同様の観点から、電解液全量を基準として、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0077】
他の実施形態として、電気化学デバイスはキャパシタであってもよい。キャパシタは、上述した非水電解液二次電池1と同様に、正極、負極及びセパレータから構成される電極群と、電極群を収容する袋状の電池外装体とを備えていてよい。キャパシタにおける各構成要素の詳細は、非水電解液二次電池1と同様であってよい。
【実施例
【0078】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
[正極の作製]
正極活物質としてのコバルト酸リチウム(95質量%)に、導電剤としての繊維状の黒鉛(1質量%)及びアセチレンブラック(AB)(1質量%)と、結着剤(3質量%)とを順次添加し、混合した。得られた混合物に対し、分散媒としてのNMPを添加し、混練することによりスラリー状の正極合剤を調製した。この正極合剤を正極集電体としての厚さ20μmのアルミニウム箔に均等且つ均質に所定量塗布した。その後、分散媒を揮発させてから、プレスすることにより密度3.6g/cmまで圧密化して、正極を得た。
【0080】
[負極の作製]
負極活物質としての黒鉛に、結着剤と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースとを添加した。これらの質量比については、負極活物質:結着剤:増粘剤=98:1:1とした。得られた混合物に対し、分散媒としての水を添加し、混練することによりスラリー状の負極合剤を調製した。この負極合剤を負極集電体としての厚さ10μmの圧延銅箔に均等且つ均質に所定量塗布した。その後、分散媒を揮発させてから、プレスすることにより密度1.6g/cmまで圧密化して、負極を得た。
【0081】
[リチウムイオン二次電池の作製]
13.5cmの四角形に切断した正極電極を、セパレータであるポリエチレン製多孔質シート(商品名:ハイポア(登録商標)、旭化成(株)製、厚さ30μm)で挟み、さらに14.3cmの四角形に切断した負極を重ね合わせて電極群を作製した。この電極群を、アルミニウム製のラミネートフィルム(商品名:アルミラミネートフィルム、大日本印刷(株)製)で形成された容器(電池外装体)に収容した。次いで、容器の中に電解液を1mL添加し、容器を熱溶着させ、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、1mol/LのLiPFを含むエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶液に、混合溶液全量に対してビニレンカーボネート(VC)を1質量%と、下記式(5)で表される化合物Aを1質量%(電解液全量基準)添加したものを使用した。
【化5】
【0082】
(実施例2)
実施例1において、化合物Aの含有量を3質量%に変更した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0083】
(比較例1)
実施例1において、化合物Aを使用しなかった以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0084】
[初回充放電]
作製したリチウムイオン電池について、以下に示す方法で初回充放電を実施した。まず、25℃の環境下において0.1Cの電流値で定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った。充電終止条件は、電流値0.01Cとした。その後、0.1Cの電流値で終止電圧2.5Vの定電流放電を行った。この充放電サイクルを3回繰り返した(電流値の単位として用いた「C」とは、「電流値(A)/電池容量(Ah)」を意味する。)。
【0085】
[XPSによるスペクトルの測定]
初回充放電後に、正極及び負極について以下の方法でXPSによるスペクトルを測定した。まず、充放電を実施したリチウムイオン二次電池を完全に放電させて、アルゴン雰囲気下(酸素濃度1ppm未満、露点-70℃未満)のグローブボックス中で電池を解体し、正極及び負極を取り出した。次に、ジメチルカーボネートで正極及び負極を洗浄し、その後25℃で真空雰囲気に保持することにより乾燥させた。そして、不活性雰囲気であるアルゴン雰囲気下に保持した状態でX線光電子分光システム(「K-Alpha」、Thermo Scientific社)に搬送し、正極及び負極のケイ素原子及び硫黄原子の2p電子由来のスペクトル(以下、それぞれSi2pのスペクトル、S2pのスペクトルともいう。)を測定した。XPS測定時の帯電等によるピークシフトの補正に関しては、F1sスペクトルのLiF由来のピークを685eVに合わせて補正を実施した。正極における各スペクトルのデータを図3に、負極における各スペクトルのデータを図4に示す。図3及び図4において、(a)、(c)及び(e)はそれぞれ実施例1、実施例2及び比較例1のSi2pのスペクトルであり、(b)、(d)及び(f)はそれぞれ実施例1、実施例2及び比較例1のS2pのスペクトルである。
【0086】
[ピーク面積の算出]
XPSによる測定で得られたスペクトルから、以下の方法で各ピークの面積を算出した。
【0087】
<正極>
まず、Si2pのスペクトルにおいて、96eVから108eV付近の領域にシャーリー法を用いてベースラインを引いた。その間の102eV及び104eV付近のピークをガウス関数を用いてピーク分離し、ベースラインとの間で囲まれた部分の面積を求めた。同様に、S2pのスペクトルにおいて、158eVから172eV付近の領域にシャーリー法を用いてベースラインを引いた。その間の164eV及び165eV付近のピークをガウス関数を用いてピーク分離し、ベースラインとの間で囲まれた部分の面積を求め、それらの面積の和をS2とした。次に、168eV付近のピークをガウス関数を用いてピーク分離し、ベースラインとの間で囲まれた部分の面積を求め、それらの面積の和をS1とした。
【0088】
<負極>
正極と同様に、Si2pのスペクトルにおいて、96eVから108eV付近の領域にシャーリー法を用いてベースラインを引いた。その間の101eV及び103eV付近のピークをガウス関数を用いてピーク分離し、ベースラインとの間で囲まれた部分の面積を求めた。同様に、S2pのスペクトルにおいて、158eVから172eV付近の領域にシャーリー法を用いてベースラインを引いた。その間の160eV、162eV及び163eV付近のピークをガウス関数を用いてピーク分離し、ベースラインとの間で囲まれた部分の面積を求め、それらの面積の和をS4とした。次に、168eV及び169eV付近のピークをガウス関数を用いてピーク分離し、ベースラインとの間で囲まれた部分の面積を求め、それらの面積の和をS3とした。
【0089】
各実施例及び比較例の正極と負極について、ケイ素原子及び硫黄原子の各ピークを観察し、RS(S1/S2)及びRS(S4/S3)を求めた。その結果、実施例1においては、Si2pのピーク及びS2pのピークが観察され、RSは2.7、RSは3.5であった。また、実施例2においても、Si2pのピーク及びS2pのピークが観察され、RSが2.3、RSが7.4であった。比較例1においては、Si2pのピーク及びS2pのピークは観察されなかった。
【0090】
[サイクル特性の評価]
初回充放電後に、充放電を繰り返すサイクル試験によって、実施例1~2及び比較例1の各二次電池のサイクル特性を評価した。充電パターンとしては、45℃の環境下で、実施例1及び比較例1の二次電池を0.5Cの電流値で定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った。充電終止条件は、電流値0.05Cとした。放電については、1Cで定電流放電を2.5Vまで行い、放電容量を求めた。この一連の充放電を300サイクル繰返し、充放電の度に放電容量を測定した。比較例1における1サイクル目の充放電後の放電容量を1として、実施例1~2及び比較例1における各サイクルでの放電容量の相対値を求めた。サイクル数と放電容量の相対値との関係を、図5に示す。
【0091】
(実施例3)
実施例1において、負極活物質として更にケイ素酸化物を加え、負極を作製した以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。負極における負極活物質、結着剤及び増粘剤の質量比は、黒鉛:ケイ素酸化物:結着剤:増粘剤=92:5:1.5:1.5とした。
【0092】
(比較例2)
実施例3において、化合物Aを使用しなかった以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0093】
(比較例3)
実施例3において、化合物Aの代わりに4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(フルオロエチレンカーボネート;FEC)を電解液全量基準で1質量%添加したこと以外は、実施例2と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0094】
[初回充放電]
実施例1~2及び比較例1における評価方法と同様の方法により、実施例3及び比較例2~3の二次電池の初回充放電を実施した。
【0095】
[XPSによるスペクトルの測定]
実施例1~2及び比較例1における測定方法と同様の方法により、実施例3及び比較例2~3の二次電池の正極及び負極について、XPSのスペクトルを測定した。正極における各スペクトルのデータを図6に、負極における各スペクトルのデータを図7に示す。図6及び図7において、(a)、(c)及び(e)はそれぞれ実施例3、比較例2及び比較例3のSi2pのスペクトルであり、(b)、(d)及び(f)はそれぞれ実施例3、比較例2及び比較例3のS2pのスペクトルである。
【0096】
[ピーク面積の算出]
XPSによる測定で得られたスペクトルから、実施例1~2及び比較例1における方法と同様の方法により、ケイ素原子及び硫黄原子の各ピークを観察し、各ピークの面積を算出した。各実施例及び比較例の正極と負極について、RS及びRSを求めた。その結果、実施例3においては、Si2pのピーク及びS2pのピークが観察され、RSが2.2、RSが3.8であった。一方、比較例2及び比較例3においては、Si2pのピーク及びS2pのピークは観察されなかった。
【0097】
[サイクル特性の評価]
実施例1~2及び比較例1における評価方法と同様の方法により、実施例3及び比較例2~3の二次電池のサイクル特性を評価した。比較例2における1サイクル目の充放電後の放電容量を1として、実施例3及び比較例2~3における各サイクルでの放電容量の相対値を求めた。サイクル数と放電容量の相対値との関係を、図8に示す。
【0098】
[放電レート特性の評価]
サイクル特性評価後の実施例2及び比較例3の二次電池の出力特性を、以下に示す方法で評価した。まず、0.2Cの定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った。充電終止条件は、電流値0.02Cとした。その後、0.2Cの電流値で終止電圧2.5Vの定電流放電を行い、この放電時の容量を電流値0.2Cにおける放電容量とした。次に、0.2Cの定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った後(充電終止条件は、電流値0.02Cとした。)、0.5Cの電流値で終止電圧2.5Vの定電流放電を行い、この放電時の容量を電流値0.5Cにおける放電容量とした。同様の充放電から1C、2C、3Cの放電容量を評価した。そして、以下の式(6)により出力特性を算出した。実施例2及び比較例3の評価結果を図9に示す。
放電容量維持率(%)=(電流値0.2C、0.5C、1C、2C、又は3Cにおける放電容量/電流値0.2Cにおける放電容量)×100 (6)
【0099】
図5及び図8に示すように、X線光電子分光法による測定において、96eV以上108eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するケイ素原子の2p電子由来のピークと、158eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在する硫黄原子の2p電子由来のピークと、を示す正極及び負極を備える実施例1のリチウムイオン二次電池は、このようなピークを示さない正極及び負極を備える比較例1及び比較例2のリチウムイオン二次電池と比較して、サイクル特性の評価が良好であった。このメカニズムは必ずしも明らかではないが、正極(正極活物質)又は負極(負極活物質)の表面に安定な膜が形成されているために、電解液の分解物が正極又は負極上に堆積することに起因する出力特性の低下を抑制できたと考えられる。さらに、その膜によって、電極近傍での電解液の分解が抑制され、サイクル特性が向上したと考えられる。
【0100】
また、図9に示すように、黒鉛及びケイ素酸化物を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池であって、X線光電子分光法による測定において、96eV以上108eV未満の結合エネルギーの範囲に存在するケイ素原子の2p電子由来のピークと、158eV以上174eV未満の結合エネルギーの範囲に存在する硫黄原子の2p電子由来のピークと、を示す正極及び負極を備える実施例2のリチウムイオン二次電池は、このようなピークを示さない正極及び負極を備える比較例3のリチウムイオン二次電池と比較して、サイクル試験後の3Cレートでの放電レート特性が向上することが明らかになった。このレート特性向上メカニズムは必ずしも明らかではないが、サイクル特性と同様に、正極(正極活物質)又は負極(負極活物質)の表面に安定な膜が形成されているために、電極近傍での電解液の分解が抑制され、更には電解質塩(LiPF)の分解が抑制されたためと考えられる。
【0101】
[電極の表面状態の観察]
透過型電子顕微鏡観察/エネルギー分散型X線分析(TEM/EDX)を行い、正極(正極活物質)の表面にケイ素原子が含まれているかを観察した。充放電を実施したリチウムイオン二次電池を完全に放電させて、アルゴン雰囲気下(酸素濃度1ppm未満、露点-70℃未満)のグローブボックス中で電池を解体し、正極を取り出した。次に、ジメチルカーボネートで洗浄し、その後25℃で真空雰囲気に保持することにより正極を乾燥させた。そして、不活性雰囲気であるアルゴン雰囲気下に保持した状態のまま正極を集束イオンビーム(FIB)加工装置に搬送し、薄片化した。FIB加工には集束イオンビーム/電子ビーム加工観察装置(nanoDUE’T NB5000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。その後薄片化した正極をTEM/EDX装置にて観察した。TEM/EDX観察には球面収差補正機能付き走査型透過電子顕微鏡(JEM-ARM200F、日本電子(株)製/JED-2300T、日本電子(株)製)を用いた。
【0102】
得られた観察イメージ結果を図10に示す。実施例1に記載のリチウムイオン二次電池の正極のTEM観察イメージ結果を(a)、その視野でのEDX測定によるSiマッピングのイメージ結果を(b)に示す。これらの結果から、正極活物質13の表面にケイ素原子が存在することを確認し、正極活物質の表面に少なくともケイ素原子を含む膜14が形成されていることを確認した。一方、比較例1に記載のリチウムイオン二次電池の正極のTEM観察イメージ結果を(c)、その視野でのEDX測定によるSiマッピングのイメージ結果を(d)に示す。これらの結果から、比較例1の正極では、正極活物質13の表面にはケイ素原子を含む膜が形成されていないことを確認した。
【符号の説明】
【0103】
1…非水電解液二次電池(電気化学デバイス)、6…正極、7…セパレータ、8…負極。
図1
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図10