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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】MEMS素子
(51)【国際特許分類】
   B81B 3/00 20060101AFI20220315BHJP
   H04R 19/04 20060101ALI20220315BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B81B3/00
H04R19/04
H01L29/84 B
H01L29/84 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018008145
(22)【出願日】2018-01-22
(65)【公開番号】P2019126856
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒木 新一
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0277616(US,A1)
【文献】特開2016-049583(JP,A)
【文献】特開2017-120211(JP,A)
【文献】特開平09-171033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 3/00
H04R 19/04
H01L 29/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックチャンバーを備えた基板と、該基板上に、スペーサーを挟んで固定膜と可動膜とが対向配置しているMEMS素子において、
前記可動膜と前記固定膜との間に配置され、一方の膜から他方の膜側へ突出し、先端と前記他方の膜との間に間隙を有する突起部と、
変位可能に配置された前記固定膜の第1の領域と、
該第1の領域と分離した前記固定膜の第2の領域と、
前記第1の領域と前記第2の領域との間の間隙に配置され、一端を前記第1の領域上の配線部に接続し、他端を前記第2の領域上の配線部に接続した検知素子と、を備え、
前記可動膜の振動により前記突起部が変位し、該突起部の変位により前記第1の領域が変位することで生じる前記検知素子からの出力信号の変化を検知することを特徴とするMEMS素子。
【請求項2】
請求項1記載のMEMS素子において、前記検知素子は、前記第1の領域が変位することで前記検知素子に加わる応力が変化し、前記出力信号が変化する素子であることを特徴とするMEMS素子。
【請求項3】
請求項1または2いずれか記載のMEMS素子において、前記検知素子は、電流信号あるいは電圧信号を出力する素子であることを特徴とするMEMS素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS素子に関し、特にトランスデューサ等の各種センサとして用いることができるMEMS素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスを用いて形成されるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子は、半導体基板上に可動電極、犠牲層および固定電極を形成した後、犠牲層の一部を除去することで、スペーサーを介して固定電極と可動電極との間にエアーギャップ(中空)構造が形成される。
【0003】
例えば、容量型のMEMS素子では、複数の貫通孔を備えた固定電極を含む固定電極膜と、音圧等を受けて振動する可動電極を含む可動電極膜とを対向して配置し、振動による可動電極の変位を電極間の容量変化として検出する構成となっている。この種のMEMS素子は、例えば特許文献1に記載されている。
【0004】
従来のMEMS素子の動作を図9に模式的に示す。支持基板となるシリコン基板21上に熱酸化膜からなる絶縁膜22を介して、導電性の可動電極を含む可動電極膜23と導電性の固定電極を含む固定電極膜24とがスペーサー25を介して配置されている。可動電極膜23は、音圧等を受けて振動することで、固定電極膜24の固定電極と可動電極膜23の可動電極との間で形成されているキャパシタの容量値が変化する。この容量値を図示しない電極から取り出すことで、可動電極膜23が受ける音圧等に応じた出力信号を得ることが可能となる。
【0005】
このような構造のMEMS素子において出力感度を上げるには、音圧等による可動電極の変位を大きくする必要がある。そのため可動電極膜23は、バネ性の弱い膜で形成するのが一般的である。一方バネ性の弱い膜は、強度が低下してしまうという欠点を有していることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-55087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のMEMS素子において感度を向上させるためにバネ性の弱い膜によって可動電極膜を形成すると、その強度が低下し使用することができないという問題があった。そこで本発明はこのような問題点を解消し、高感度で、機械的強度も高いMEMS素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、バックチャンバーを備えた基板と、該基板上に、スペーサーを挟んで固定膜と可動膜とが対向配置しているMEMS素子において、前記可動膜と前記固定膜との間に配置され、一方の膜から他方の膜側へ突出し、先端と前記他方の膜との間に間隙を有する突起部と、変位可能に配置された前記固定膜の第1の領域と、該第1の領域と分離した前記固定膜の第2の領域と、前記第1の領域と前記第2の領域との間の間隙に配置され、一端を前記第1の領域上の配線部に接続し、他端を前記第2の領域上の配線部に接続した検知素子と、を備え、前記可動膜の振動により前記突起部が変位し、該突起部の変位により前記第1の領域が変位することで生じる前記検知素子からの出力信号の変化を検知することを特徴とする。
【0009】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載のMEMS素子において、前記検知素子は、前記第1の領域が変位することで前記検知素子に加わる応力が変化し、前記出力信号が変化する素子であることを特徴とする。
【0010】
本願請求項3に係る発明は、請求項1または2いずれか記載のMEMS素子において、前記検知素子は、電流信号あるいは電圧信号を出力する素子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のMEMS素子は、可動膜と固定膜の第1の領域との間に突起部を備える構成とし、突起部先端と対向する膜との間隙の寸法を小さくすることで、突起部のわずかな変位でも固定膜の第1の領域に伝えることができる。そのため、可動膜の強度を増し変位が小さいバネ性の強い膜を用いた場合でも、十分な出力信号を得ることができるという利点がある。
【0012】
本発明のMEMS素子は、検出素子のピエゾ効果を利用して出力信号を得るように構成することで、従来の容量変化に基づく出力信号に比べて大きな出力信号を得ることができ、高感度のMEMS素子を構成することができる。
【0013】
また検知素子から電流信号あるいは電圧信号を出力する構成とするため、面積の大きな容量素子を形成する必要もなくなり、MEMS素子の小型化を実現できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
図2】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
図3】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
図4】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
図5】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
図6】本発明のMEMS素子の検知素子の構成を説明する図である。
図7】本発明のMEMS素子の製造工程を説明する図である。
図8】本発明のMEMS素子の動作を説明する図である。
図9】従来のMEMS素子の説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のMEMS素子は、可動膜と固定膜との間に突起部を設け、可動膜の振動により突起部が固定膜の第1の領域を変位させる。一方固定膜の第2の領域は、第1の領域とは分離した構造のため変位しない。第1の領域と第2の領域との間には検知素子を配置されており、突起部が第1の領域を変位させると、検知素子に応力が加わる。その結果、検知素子から出力される出力信号が変化し、可動膜の振動に伴う出力信号を得ることができる。以下、本発明のMEMS素子について、製造工程に従い詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
まず、本発明の第1の実施例のMEMS素子についてその製造工程に従い説明する。本実施例のMEMS素子は、可動膜上に突起部が形成されている場合について説明する。通常のMEMS素子同様、シリコン基板1表面に、シリコン基板1を熱酸化して絶縁膜2を積層形成する。この絶縁膜2上に導電性のポリシリコン膜からなる可動膜3を積層形成する(図1)。
【0017】
可動膜3上には、USG(Undoped Silicate Glass)膜からなる犠牲層4を積層する。その後、後述する突起部を形成するため、可動膜3の中央部に凹部5を形成する。この凹部5は、可動膜3の変位が大きい場所に配置するのが好ましく、図2に示す例では、後述するバックチャンバーの中央部に形成している。この凹部5内に窒化膜6を充填するように犠牲層4表面に窒化膜を形成する。その後、犠牲層4表面の窒化膜を除去して犠牲層4表面を露出させることで、凹部5内に選択的に窒化膜6を充填させることができる(図2)。なお、凹部5に充填する材料は、窒化膜に限らず、窒化膜と酸化膜との二層構造、あるいは窒化膜、酸化膜および窒化膜の三層構造とする等、後述する犠牲層4を除去する際、同時にエッチングされずに残る材料であれば、適宜変更可能である。
【0018】
また、凹部5内に充填された材料が後述する突起部となり、第1の固定膜を突上げる構造となるので、この突起部が当接する第1の固定膜を破壊しないように、表面側の先端部を角部の無い形状に加工しても良い。
【0019】
露出する窒化膜6表面と犠牲層4の表面にさらに犠牲層4aを形成する。ここで形成する犠牲層4aの厚さは、窒化膜6で構成する突起部の先端と第1の固定膜との間の寸法となるので、MEMS素子が所望の特性となるように調整する(図3)。
【0020】
犠牲層4a上に固定膜となる導電性のポリシリコン膜を形成する。このポリシリコン膜は、第1の固定膜7a(第1の領域に相当)の部分と、第2の固定膜7b(第2の領域に相当)の部分とに、第1の固定膜7aを取り囲むように形成した間隙部8によって分離する。固定膜は、一般的なMEMS素子の固定膜同様、全面に音圧等を通過させる貫通孔9が形成される。図4では第1の固定膜7aに貫通孔は記載していないが、この第1の貫通孔7aにも貫通孔を形成しても良い。
【0021】
その後、間隙部8内と貫通孔9内に絶縁膜10を充填し平坦化する。この絶縁膜10は、後述する犠牲層4、4aを除去する際、同時に除去可能な材料から選択することが好ましく、例えば酸化膜とする。その後、第1の固定膜7aと第2の固定膜7bとの間に検知素子に相当する抵抗素子を形成する。
【0022】
抵抗素子は、第1の固定膜7aの周囲に複数設けることができる。図6は、2個の抵抗素子11が直列に接続した検知素子を第1の固定膜7aの中心に対して対向する位置に配置した例を模式的に示している。図6に示すように、第1の固定膜7aと第2の固定膜7bとの間の間隙部8を横断するように各抵抗素子11を配置する。抵抗素子11の両端には、それぞれ抵抗素子11の電流値あるいは電圧値を出力信号として取り出すための配線が接続している。このような構造の抵抗素子11を形成する場合、抵抗素子11と第1の固定膜7a上の配線を高抵抗のポリシリコン膜で形成し、第2の固定膜7b上の配線は、低抵抗のポリシリコン膜で形成すれば良い。ここで、第1の固定膜7a上の配線は第1の固定膜7aを構成するポリシリコン膜が兼ねる構造となり、特別な配線は必要ない。一方、第2の固定膜7b上に形成される配線は、多層配線構造の配線12a、配線12bを形成すれば良い。その結果、配線12aと配線12bとの間に2個の抵抗素子が直列に接続した検知素子を形成することができる。なお、第1の固定膜7a上の配線を別の低抵抗の配線金属で形成しても何ら問題はない。また、抵抗素子11の配置は種々変更可能であり、図6に示す構造に限定されない。
【0023】
また第2の固定膜7b上に多層配線を形成する場合は、必要な絶縁構造を形成する必要があるので、抵抗素子11上に窒化膜13を形成し、窒化膜13上に配線12a、12bを形成する(図5)。
【0024】
その後、通常のMEMS素子の製造工程に従い、犠牲層4、4aの一部からなるスペーサー14を形成する。このスペーサー14は、表面に露出する絶縁膜10を除去した後、露出する犠牲層4a、さらに犠牲層4を除去して形成する。この犠牲層4、4aの除去により、可動膜3上に第1の固定膜7a側に突出する窒化膜6からなる突起部15が形成される。またシリコン基板1は裏面側から一部が除去され、バックチャンバー16が形成される。(図7)。図示しない可動膜3、第2の固定膜7b、配線12a、12bに接続する電極等を形成し、MEMS素子が完成する。
【0025】
次に、MEMS素子の動作について説明する。音圧等が印加され可動膜3が振動すると、その振動に伴い突起部15の先端も変位する。図8の左図に示す状態から、右図に示す状態へ可動膜3がΔAだけ上方に変位すると、突起部の先端がΔAだけ上方に変位し、第1の固定膜7aを押し上げることになる。第2の固定膜7bは、第1の固定膜7aが押し上げられることに伴いわずかに変位する場合があるが、基本的には変位しない。その結果、第1の固定膜7aと第2の固定膜7bとの間の間隙部8に配置した抵抗素子11が変形する。この変形により、抵抗素子11の抵抗値が変化する。
【0026】
この抵抗値の変化を電流信号の変化、あるいは電圧信号の変化を図示しない電極から取り出すことで、可動膜3が受ける音圧等に応じた出力信号を得ることが可能となる。
【0027】
このような構造のMEMS素子は、従来の容量型のMEMS素子と比較し、可動膜3の変位が小さい場合であっても信号を取り出すことが可能となる。そのため、可動膜3として強度の強い膜を選択することが可能となる。
【0028】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでないことを言うまでもない。例えば、突起部は、可動膜側から固定膜側に突出する代わりに、固定膜側から可動膜側に突出する構造とし、可動膜が変位することで、固定膜側から突出する突起部の先端を押し上げることで検知素子を変形する構成としても問題ない。
【0029】
また、検知素子は抵抗素子に限定されず、検知素子が変形することでピエゾ効果により出力信号が変化する素子であれば良い。
【符号の説明】
【0030】
1:シリコン基板、2:絶縁膜、3:可動膜、4:犠牲層、5:凹部、6:窒化膜、7、7a:第1の固定膜、7b:第2の固定膜、8間隙部、9:貫通孔、10:絶縁膜、11:抵抗素子、12a、12b:配線、13:窒化膜、14:スペーサー、15:突起部、16:バックチャンバー、21:シリコン基板、22:絶縁膜、23:可動電極膜、24:固定電極膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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