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特許7041405延伸性耐擦傷性コーティング用硬化性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】延伸性耐擦傷性コーティング用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20220316BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20220316BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20220316BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20220316BHJP
【FI】
C08F290/06
C09D4/02
C09D171/02
C08J7/046 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019539703
(86)(22)【出願日】2018-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2018032595
(87)【国際公開番号】W WO2019045096
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2017168571
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】原口 将幸
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-502985(JP,A)
【文献】特開2005-126453(JP,A)
【文献】特開2017-008128(JP,A)
【文献】特開2009-256597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/00-290/14
C08F 299/00-299/08
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)活性エネルギー線硬化性ラクトン変性多官能モノマー100質量部、
(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)0.1~10質量部、及び
(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤1~20質量部
を含む、硬化性組成物であって、
前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基が、-[OCF]-及び-[OCFCF]-を繰り返し単位として有する基であり、
前記(b)パーフルオロポリエーテルが式[2]で表される化合物である、硬化性組成物。
【化1】
(式[2]中、Aは式[A3]で表される構造又は該構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造を表し、PFPEは前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を表し(ただし、L と直接結合する側がオキシ末端であり、酸素原子と結合する側がパーフルオロアルキレン末端である。)、L はフッ素原子1~3個で置換された炭素原子数2~3のアルキレン基を表し、部分構造(A-NHC(=O)O) -は式[B3]で表される構造を表す。)
【化2】
【化3】
【請求項2】
前記(a)多官能モノマーが、ラクトン変性多官能(メタ)アクリレート化合物及びラクトン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記(a)多官能モノマーが、ε-カプロラクトン変性多官能モノマーである、請求項1又は請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
さらに(d)溶媒を含む、請求項1乃至請求項のうち何れか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のうち何れか一項に記載の硬化性組成物より得られる硬化膜。
【請求項6】
フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、該ハードコート層が請求項に記載の硬化膜からなる、ハードコートフィルム。
【請求項7】
フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、該ハードコート層が、請求項1乃至請求項のうち何れか一項に記載の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程を含む、ハードコートフィルムの作製方法
【請求項8】
前記ハードコート層が1~10μmの膜厚を有する、請求項6に記載のハードコートフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ等の各種表示素子等の表面に適用されるハードコート層の形成材料として有用な硬化性組成物に関する。詳細には、延伸性及び優れた耐擦傷性を有し、かつ透明な外観を呈するハードコート層が形成可能な硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、タブレット型コンピュータ等の携帯情報端末機器、ノート型パソコン、家電製品、自動車内外装部品などには樹脂成形品が多く用いられている。これらの樹脂成形品は、その意匠性を高めるため、通常、樹脂を成形後にその表面に印刷等による加飾を施している。近年、上記樹脂成形品の立体表面への加飾方法として、フィルムの片方の面にハードコート層を、他方の面に印刷層や粘着層をそれぞれ設けた加飾フィルムを用い、これら加飾フィルムを、粘着層を介して樹脂成形品へ貼り付ける方法が検討されている。
【0003】
上記加飾フィルムの要求特性としては、第1に成形性が必要とされる。つまり、延伸されてもハードコート層にクラック等が入らない、立体表面に追従できる延伸性が必要となる。第2に耐擦傷性が必要とされる。上記加飾フィルムのハードコート層は、樹脂成形品へ貼り付けられた状態において最表面に位置し、その表面保護の役割を担う。
【0004】
一般に、ハードコート層に耐擦傷性を付与するには、例えば、高度の架橋構造を形成する、すなわち分子運動性の低い架橋構造を形成することで表面硬度を高め、外力への抵抗性を与える手法が採られる。これらのハードコート層形成材料として、現在、ラジカルにより3次元架橋する多官能アクリレート系材料が最も用いられている。しかし、多官能アクリレート系材料は、その高い架橋密度のため、延伸性を全く有さない。
一方、ハードコート層に延伸性を付与するには、例えば1,000~10,000程度の分子量を有する、アクリレート基密度が調整された多官能アクリレート系オリゴマーや多官能ウレタンアクリレート系オリゴマーを用いる手法が採られる。これら多官能アクリレート系オリゴマーは、分子構造内に架橋部位と延伸部位を有しており、延伸部位の分子運動性により、適度な延伸性を発現することが可能である。しかし、架橋密度が低下し耐擦傷性が劣る。
このように、ハードコート層の延伸性と耐擦傷性とはトレードオフの関係にあり、両者の特性を両立させることが従来の課題となっていた。
【0005】
ところで、携帯電話機に代表される携帯情報端末機器では、人間が手で持って指で触れることにより操作を行う。このため、手で持つ度に筐体に指紋が付着し、その外観が損なわれるという問題が発生している。指紋には汗由来の水分及び皮脂由来の油分が含まれており、それらの何れも付着しにくくするために、筐体表面のハードコート層には撥水性及び撥油性を付与することが強く望まれている。
このような観点から、携帯情報端末機器の筐体表面には、指紋などに対する防汚性を有していることが望まれている。しかし、初期の防汚性はかなりのレベルに達しているとしても、人が毎日手で触れるため、使用中にその機能が低下する場合が多い。そのため、使用過程での防汚性の耐久性が課題であった。
【0006】
従来、ハードコート層表面に防汚性を付与する手法として、ハードコート層を形成する塗布液にフッ素系表面改質剤を少量添加する手法が用いられている。添加されたフッ素系化合物は、その低表面エネルギーによりハードコート層の表面に偏析され、撥水性及び撥油性が付与される。フッ素系化合物としては、撥水性、撥油性の観点から、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)鎖を有したパーフルオロポリエーテルと呼ばれる1,000~5,000程度の数平均分子量を有するオリゴマーが用いられる。しかし、パーフルオロポリエーテルは高いフッ素濃度を有しているため、通常、ハードコート層を形成する塗布液に使用される有機溶媒には溶解し難い。また、形成されたハードコート層においては凝集を起こす。
このようなパーフルオロポリエーテルに、有機溶媒に対する溶解性及びハードコート層における分散性を付与するために、パーフルオロポリエーテルに有機部位を付加する手法が用いられている。更に、耐擦傷性を付与するために、(メタ)アクリレート基に代表される活性エネルギー線硬化性部位を結合させる手法が用いられている。
これまで、耐擦傷性を有した防汚性ハードコート層として、ハードコート層表面に防汚性を付与する成分として、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)鎖の両末端に、ポリ(オキシアルキレン)基及び1つのウレタン結合を介して(メタ)アクリロイル基を有する化合物を、表面改質剤として用いた技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/163479号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、延伸性を発現するハードコート層への耐擦傷性の付与を目的に、多官能アクリレート系オリゴマー等に特許文献1の表面改質剤を添加してみても、これらオリゴマーの高い分子量及び疎水性のために相溶性が悪く、その硬化物であるハードコート層が白濁してしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ポリ(オキシアルキレン)基を介さずにウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテルが、ラクトン変性多官能モノマーを含むハードコート層を形成する塗布液に対する溶解性、及びハードコート層における分散性に優れ、また該パーフルオロポリエーテルとラクトン変性多官能モノマーを含む硬化性組成物が、延伸性及び優れた耐擦傷性を有し、かつ透明な外観を呈するハードコート層を形成可能なことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、第1観点として、
(a)活性エネルギー線硬化性ラクトン変性多官能モノマー100質量部、
(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)0.1~10質量部、及び
(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤1~20質量部
を含む、硬化性組成物に関する。
第2観点として、前記(b)パーフルオロポリエーテルが、両末端それぞれに活性エネルギー線重合性基を少なくとも2つ有する、第1観点に記載の硬化性組成物に関する。
第3観点として、前記(b)パーフルオロポリエーテルが、両末端それぞれに活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有する、第2観点に記載の硬化性組成物に関する。
第4観点として、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基が、-[OCF2]-及び-[OCF2CF2]-を繰り返し単位として有する基である、第1観点乃至第3観点のうち何れか一項に記載の硬化性組成物に関する。
第5観点として、前記(b)パーフルオロポリエーテルが式[1]で表される部分構造を有する、第4観点に記載の硬化性組成物に関する。
【化1】
(式中、nは繰り返し単位-[OCF2CF2]-の数と繰り返し単位-[OCF2]-の数との総数であって、5~30の整数を表す。)
第6観点として、前記(a)多官能モノマーが、ラクトン変性多官能(メタ)アクリレート化合物及びラクトン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、第1観点乃至第5観点のうち何れか一項に記載の硬化性組成物に関する。
第7観点として、前記(a)多官能モノマーが、ε-カプロラクトン変性多官能モノマーである、第1観点乃至第6観点のうち何れか一項に記載の硬化性組成物に関する。
第8観点として、さらに(d)溶媒を含む、第1観点乃至第7観点のうち何れか一項に記載の硬化性組成物に関する。
第9観点として、第1観点乃至第8観点のうち何れか一項に記載の硬化性組成物より得られる硬化膜に関する。
第10観点として、フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、該ハードコート層が第9観点に記載の硬化膜からなる、ハードコートフィルムに関する。
第11観点として、フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、該ハードコート層が、第1観点乃至第8観点のうち何れか一項に記載の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程を含む方法により形成されてなる、ハードコートフィルムに関する。
第12観点として、前記ハードコート層が1~10μmの膜厚を有する、第10観点又は第11観点に記載のハードコートフィルムに関する。
第13観点として、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端それぞれに、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有する、パーフルオロポリエーテル化合物(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を除く。)に関する。
第14観点として、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基が、-[OCF2]-及び-[OCF2CF2]-を繰り返し単位として有する基である、第13観点に記載のパーフルオロポリエーテル化合物に関する。
第15観点として、式[1]で表される部分構造を有する、第14観点に記載のパーフルオロポリエーテル化合物に関する。
【化2】
(式中、nは繰り返し単位-[OCF2CF2]-の数と繰り返し単位-[OCF2]-の数との総数であって、5~30の整数を表す。)
第16観点として、第13観点乃至第15観点のうち何れか一項に記載のパーフルオロポリエーテル化合物からなる、表面改質剤に関する。
第17観点として、第13観点乃至第15観点のうち何れか一項に記載のパーフルオロポリエーテル化合物の、表面改質のための使用に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、厚さ1~10μm程度の薄膜においても優れた耐擦傷性を有し外観にも優れ且つ延伸性を有する硬化膜及びハードコート層の形成に有用な硬化性組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、前記硬化性組成物より得られる硬化膜又はそれより形成されるハードコート層が表面に付与されたハードコートフィルムを提供することができ、耐擦傷性及び外観に優れ且つ延伸性を有するハードコートフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<硬化性組成物>
本発明の硬化性組成物は、詳細には、
(a)活性エネルギー線硬化性ラクトン変性多官能モノマー100質量部、
(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)0.1~10質量部、及び
(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤1~20質量部
を含む、硬化性組成物に関する。
以下、まず上記(a)~(c)の各成分について説明する。
【0013】
[(a)活性エネルギー線硬化性ラクトン変性多官能モノマー]
活性エネルギー線硬化性ラクトン変性多官能モノマーとは、紫外線等の活性エネルギー線を照射することで重合反応が進行し、硬化する、ラクトンで変性された多官能モノマーを指す。
本発明の硬化性組成物において好ましい(a)活性エネルギー線硬化性ラクトン変性多官能モノマーとしては、ラクトン変性多官能(メタ)アクリレート化合物及びラクトン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物からなる群から選択されるモノマーである。
なお、本発明において(メタ)アクリレート化合物とは、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の両方をいう。例えば(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸をいう。
【0014】
上記ラクトン変性多官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトンで変性された(すなわちラクトンを開環付加又は開環付加重合させた)ポリオール又はポリチオールの(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
該ポリオールとしては、例えば、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グリセリン、ビスフェノールA、エトキシ化トリメチロールプロパン、エトキシ化ペンタエリスリトール、エトキシ化ジペンタエリスリトール、エトキシ化グリセリン、エトキシ化ビスフェノールA、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、1,3-アダマンタンジオール、1,3-アダマンタンジメタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジオキサングリコール、ビス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられる。
また、該チオールとしては、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、ビス(4-メルカプトフェニル)スルフィド等が挙げられる。
【0015】
このようなラクトン変性多官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ラクトン変性2-ヒドロキシ-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、ラクトン変性2-ヒドロキシ-1-アクリロイルオキシ-3-メタクリロイルオキシプロパン、ラクトン変性グリセリントリ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ラクトン変性エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ラクトン変性エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ラクトン変性エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、ラクトン変性エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性1,3-アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性1,3-アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性ビス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、ラクトン変性トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ラクトン変性9,9-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシフェニル)フルオレン、ラクトン変性9,9-ビス[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ラクトン変性ビス[2-(メタ)アクリロイルチオエチル]スルフィド、ラクトン変性ビス[4-(メタ)アクリロイルチオフェニル]スルフィド等が挙げられる。
【0016】
中でも、変性するラクトンとしてはε-カプロラクトンが好ましく、例えば、上記のラクトン変性多官能(メタ)アクリレート化合物のラクトンがε-カプロラクトンである化合物が好ましい。
より好ましいラクトン変性多官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ε-カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0017】
上記ラクトン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物は、1分子内に(メタ)アクリロイル基を複数有し、ウレタン結合(-NHCOO-)、及び、例えば、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトンの開環構造を有する化合物である。
例えば上記ラクトン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレートとしては、多官能イソシアネートとラクトンで変性されたヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとの反応により得られるもの、多官能イソシアネートとヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとラクトンで変性されたポリオールとの反応により得られるものなどが挙げられるが、本発明で使用可能なラクトン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物はかかる例示のみに限定されるものではない。
【0018】
なお上記多官能イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
また上記ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
そして上記ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のジオール類;これらジオール類とコハク酸、マレイン酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類又はジカルボン酸無水物類との反応生成物であるポリエステルポリオール;ポリエーテルポリオール;ポリカーボネートジオール等が挙げられる。
【0019】
本発明では、上記(a)活性エネルギー線硬化性ラクトン変性多官能モノマーとして、上記ラクトン変性多官能(メタ)アクリレート化合物及び上記ラクトン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物からなる群から一種を単独で、或いは二種以上を組合せて使用することができる。
【0020】
[(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)]
本発明では、(b)成分として、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ポリ(オキシアルキレン)基を介さずにウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(以降、単に「(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテル」とも称する)を使用する。(b)成分は、本発明の硬化性組成物を適用するハードコート層における表面改質剤としての役割を果たす。
また、(b)成分は、(a)成分との相溶性に優れ、それにより、ハードコート層が白濁するのを抑制して、透明な外観を呈するハードコート層の形成を可能とする。
尚、上記のポリ(オキシアルキレン)基とは、オキシアルキレン基の繰り返し単位数が2以上であり且つオキシアルキレン基におけるアルキレン基は無置換のアルキレン基である基を意図する。
【0021】
上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基におけるアルキレン基の炭素原子数は特に限定されないが、好ましくは炭素原子数1~4であることが好ましい。すなわち、上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基は、炭素原子数1~4の2価のフッ化炭素基と酸素原子が交互に連結した構造を有する基を指し、オキシパーフルオロアルキレン基は炭素原子数1~4の2価のフッ化炭素基と酸素原子が連結した構造を有する基を指す。具体的には、-[OCF2]-(オキシパーフルオロメチレン基)、-[OCF2CF2]-(オキシパーフルオロエチレン基)、-[OCF2CF2CF2]-(オキシパーフルオロプロパン-1,3-ジイル基)、-[OCF2C(CF3)F]-(オキシパーフルオロプロパン-1,2-ジイル基)等の基が挙げられる。
上記オキシパーフルオロアルキレン基は、一種を単独で使用してもよく、或いは二種以上を組み合わせて使用してもよく、その場合、複数種のオキシパーフルオロアルキレン基の結合はブロック結合及びランダム結合の何れであってもよい。
【0022】
これらの中でも、耐擦傷性が良好となる硬化膜が得られる観点から、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基として、-[OCF2]-(オキシパーフルオロメチレン基)と-[OCF2CF2]-(オキシパーフルオロエチレン基)の双方を繰り返し単位として有する基を用いることが好ましい。
中でも上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基として、繰り返し単位:-[OCF2]-と-[OCF2CF2]-とが、モル比率で[繰り返し単位:-[OCF2]-]:[繰り返し単位:-[OCF2CF2]-]=2:1~1:2となる割合で含む基であることが好ましく、およそ1:1となる割合で含む基であることがより好ましい。これら繰り返し単位の結合は、ブロック結合及びランダム結合の何れであってもよい。
上記オキシパーフルオロアルキレン基の繰り返し単位数は、その繰り返し単位数の総計として5~30の範囲であることが好ましく、7~21の範囲であることがより好ましい。
また、上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基のゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)は、1,000~5,000、好ましくは1,500~2,000である。
【0023】
上記ウレタン結合を介して結合する活性エネルギー線重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、ウレタン(メタ)アクリロイル基、ビニル基等が挙げられる。
【0024】
(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテルは、(メタ)アクリロイル基等の活性エネルギー線重合性基を1つ両末端に有するものに限られず、2つ以上の活性エネルギー線重合性基を両末端に有するものであってもよく、例えば、活性エネルギー線重合性基を含む末端構造としては、以下に示すA1~A5の構造、及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造が挙げられる。
【0025】
【化3】
【0026】
このような(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテルとしては、例えば、以下の式[2]で表される化合物を挙げることができる。
【化4】
(式中、Aは前記式[A1]~式[A5]で表される構造及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造のうちの1つを表し、PFPEは前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を表し(ただし、L1と直接結合する側がオキシ末端であり、酸素原子と結合する側がパーフルオロアルキレン末端である。)、L1は、フッ素原子1~3個で置換された炭素原子数2~3のアルキレン基を表し、mはそれぞれ独立して1~5の整数を表し、L2は、m+1価のアルコールからOHを除いたm+1価の残基を表す。)
【0027】
上記フッ素原子1~3個で置換された炭素原子数2~3のアルキレン基としては、CH2CHF、CH2CF2、CHFCF2、CH2CH2CHF、CH2CH2CF2、CH2CHFCF2等が挙げられ、CH2CF2が好ましい。
【0028】
上記式[2]で表される化合物における部分構造(A-NHC(=O)O)m2-としては、以下に示す式[B1]~式[B12]で表される構造等が挙げられる。
【化5】
【化6】
(式中、Aは前記式[A1]~式[A5]で表される構造及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造のうちの1つを表す。)
上記式[B1]~式[B12]で表される構造の中で、式[B1]及び式[B2]がm=1の場合に相当し、式[B3]~式[B6]がm=2の場合に相当し、式[B7]~式[B9]がm=3の場合に相当し、式[B10]~式[B12]がm=5の場合に相当する。
これらの中でも、式[B3]で表される構造が好ましく、特に式[B3]と式[A3]の組合せが好ましい。
【0029】
好ましい、(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテルとしては、式[1]で表される部分構造を有する化合物が挙げられる。
【化7】
式[1]で表される部分構造は、式[2]で表される化合物から、A-NHC(=O)を除いた部分に相当する。
式[1]中のnは、繰り返し単位-[OCF2CF2]-の数と、繰り返し単位-[OCF2]-の数との総数を表し、5~30の範囲の整数が好ましく、7~21の範囲の整数がより好ましい。また、繰り返し単位-[OCF2CF2]-の数と、繰り返し単位-[OCF2]-の数との比率は、2:1~1:2の範囲であることが好ましく、およそ1:1の範囲とすることがより好ましい。これら繰り返し単位の結合は、ブロック結合及びランダム結合の何れであってもよい。
【0030】
本発明において(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテルは、前述の(a)活性エネルギー線硬化性ラクトン変性多官能モノマー100質量部に対して、0.1~10質量部、好ましくは0.2~5質量部の割合で使用することが望ましい。
【0031】
上記(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテルは、例えば、下式[3]
【化8】
(式中、PFPE、L1、L2及びmは、前記と同じ意味を表す。)で表される化合物の両末端に存在するヒドロキシ基に対して、重合性基を有するイソシアネート化合物、即ち、前記式[A1]~式[A5]で表される構造及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造における結合手にイソシアナト基が結合した化合物(例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等)を反応させてウレタン結合を形成することにより得ることができる。
【0032】
なお本発明の硬化性組成物には、(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有さない。)に加えて、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の一端にウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有し、且つその他端にヒドロキシ基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間並びに前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ヒドロキシ基の間にポリ(オキシアルキレン)基を有さない。)や、上記式[3]で表されるような、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両端にヒドロキシ基をするパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ヒドロキシ基の間にポリ(オキシアルキレン)基を有さない。)[活性エネルギー線重合性基を有していない化合物]が含まれていてもよい。
【0033】
本発明はまた、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端それぞれに、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有する、パーフルオロポリエーテル化合物(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を除く。)にも関する。
上記の、両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテル化合物としては、上記式[1]で表される部分構造を有する化合物が好ましい。
本発明のパーフルオロポリエーテル化合物は、上述のように、(a)成分との相溶性に優れ、それにより、ハードコート層が白濁するのを抑制して、透明な外観を呈するハードコート層の形成を可能にするという優れた効果を奏する。
本発明はまた、上記パーフルオロポリエーテル化合物からなる、表面改質剤、並びに該パーフルオロポリエーテル化合物の、表面改質のための使用にも関する。
【0034】
[(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤]
本発明の硬化性組成物において好ましい活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤(以下、単に「(c)重合開始剤」とも称する)は、例えば、電子線、紫外線、X線等の活性エネルギー線により、特に紫外線照射によりラジカルを発生する重合開始剤である。
上記(c)重合開始剤としては、例えばベンゾイン類、アルキルフェノン類、チオキサントン類、アゾ類、アジド類、ジアゾ類、o-キノンジアジド類、アシルホスフィンオキシド類、オキシムエステル類、有機過酸化物、ベンゾフェノン類、ビスクマリン類、ビスイミダゾール類、チタノセン類、チオール類、ハロゲン化炭化水素類、トリクロロメチルトリアジン類、あるいはヨードニウム塩、スルホニウム塩などのオニウム塩類等が挙げられる。これらは一種単独で或いは二種以上を混合して用いてもよい。
中でも本発明では、透明性、表面硬化性、薄膜硬化性の観点から(c)重合開始剤として、アルキルフェノン類を使用することが好ましい。アルキルフェノン類を使用することにより、耐擦傷性がより向上した硬化膜を得ることができる。
【0035】
上記アルキルフェノン類としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシル=フェニル=ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン等のα-ヒドロキシアルキルフェノン類;2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン等のα-アミノアルキルフェノン類;2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン;フェニルグリオキシル酸メチルなどが挙げられる。
【0036】
本発明において(c)重合開始剤は、前述の(a)活性エネルギー線硬化性ラクトン変性多官能モノマー100質量部に対して、1~20質量部、好ましくは2~10質量部の割合で使用することが望ましい。
【0037】
[(d)溶媒]
本発明の硬化性組成物は、更に(d)溶媒を含んでいてもよく、すなわちワニス(膜形成材料)の形態としてもよい。
上記溶媒としては、前記(a)~(c)成分を溶解し、また後述する硬化膜(ハードコート層)形成にかかる塗工時の作業性や硬化前後の乾燥性等を考慮して適宜選択すればよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、n-ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素類;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化物類;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類又はエステルエーテル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、並びにこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。
これら(d)溶媒の使用量は特に限定されないが、例えば本発明の硬化性組成物における固形分濃度が1~70質量%、好ましくは5~50質量%となる濃度で使用する。ここで固形分濃度(不揮発分濃度とも称する)とは、本発明の硬化性組成物の前記(a)~(d)成分(及び所望によりその他添加剤)の総質量(合計質量)に対する固形分(全成分から溶媒成分を除いたもの)の含有量を表す。
【0038】
[その他添加物]
また、本発明の硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて一般的に添加される添加剤、例えば、重合禁止剤、光増感剤、レベリング剤、界面活性剤、密着性付与剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、貯蔵安定剤、帯電防止剤、無機充填剤、顔料、染料等を適宜配合してよい。
【0039】
<硬化膜>
本発明の硬化性組成物は、基材上に塗布(コーティング)して塗膜を形成し、該塗膜に活性エネルギー線を照射して重合(硬化)させることにより、硬化膜を形成できる。該硬化膜も本発明の対象である。また後述するハードコートフィルムにおけるハードコート層を該硬化膜からなるものとすることができる。
この場合の前記基材としては、例えば、各種樹脂(ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、ノルボルネン系樹脂等)、金属、木材、紙、ガラス、スレート等を挙げることができる。これら基材の形状は板状、フィルム状又は3次元成形体でもよい。
【0040】
前記基材上への塗布方法は、キャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等)等を適宜選択し得、中でもロール・ツー・ロール(roll-to-roll)法に利用でき、また薄膜塗布性の観点から、凸版印刷法、特にグラビアコート法を用いることが望ましい。なお事前に孔径が0.2μm程度のフィルタなどを用いて硬化性組成物を濾過した後、塗布に供することが好ましい。なお塗布する際、必要に応じて該硬化性組成物に溶剤を添加してワニスの形態としてもよい。この場合の溶剤としては前述の[(d)溶媒]で挙げた種々の溶媒を挙げることができる。
基材上に硬化性組成物を塗布し塗膜を形成した後、必要に応じてホットプレート又はオーブン等で塗膜を予備乾燥して溶媒を除去する(溶媒除去工程)。この際の加熱乾燥の条件としては、例えば、40~120℃で、30秒~10分程度とすることが好ましい。
乾燥後、紫外線等の活性エネルギー線を照射して、塗膜を硬化させる。活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線等が挙げられ、特に紫外線が好ましい。紫外線照射に用いる光源としては、太陽光線、ケミカルランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、UV-LED等が使用できる。
さらにその後、ポストベークを行うことにより、具体的にはホットプレート、オーブンなどを用いて加熱することにより重合を完結させてもよい。
なお、形成される硬化膜の厚さは、乾燥、硬化後において、通常0.01~50μm、好ましくは0.05~20μmである。
【0041】
<ハードコートフィルム>
本発明の硬化性組成物を用いて、フィルム基材の少なくとも一方の面(表面)にハードコート層を備えるハードコートフィルムを製造することができる。該ハードコートフィルムも本発明の対象であり、該ハードコートフィルムは、例えばタッチパネルや液晶ディスプレイ等の各種表示素子等の表面を保護するために好適に用いられる。
【0042】
本発明のハードコートフィルムにおけるハードコート層は、前述の本発明の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に紫外線等の活性エネルギー線を照射し該塗膜を硬化させる工程を含む方法により形成することができる。
【0043】
前記フィルム基材としては、前述の<硬化膜>で挙げた基材のうち、光学用途に使用可能な各種の透明な樹脂製フィルムが用いられる。好ましくは例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、トリアセチルセルロース等から選択される樹脂製フィルムが挙げられる。
また前記フィルム基材上への硬化性組成物の塗布方法(塗膜形成工程)及び塗膜への活性エネルギー線照射方法(硬化工程)は、前述の<硬化膜>に挙げた方法を用いることができる。また本発明の硬化性組成物に溶媒が含まれる(ワニス形態の)場合、塗膜形成工程の後、必要に応じて該塗膜を乾燥し溶媒除去する工程を含むことができる。その場合、前述の<硬化膜>に挙げた塗膜の乾燥方法(溶媒除去工程)を用いることができる。
こうして得られたハードコート層の膜厚は、好ましくは1~20μm、より好ましくは1~10μmである。
【実施例
【0044】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
【0045】
(1)バーコート塗布
装置:(株)エスエムテー製 PM-9050MC
バー:オーエスジーシステムプロダクツ(株)製 A-Bar OSP-22、最大ウエット膜厚22μm(ワイヤーバー#9相当)
塗布速度:4m/分
(2)オーブン
装置:アドバンテック東洋(株)製 無塵乾燥器 DRC433FA
(3)UV硬化
装置:ヘレウス(株)製 CV-110QC-G
ランプ:ヘレウス(株)製 高圧水銀ランプH-bulb
(4)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
装置:東ソー(株)製 HLC-8220GPC
カラム:昭和電工(株)製 Shodex(登録商標)GPC K-804L、GPC K-805L
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI
(5)擦傷試験
装置:新東科学(株)製 往復摩耗試験機 TRIBOGEAR TYPE:30S
走査速度:3,000mm/分
走査距離:50mm
(6)全光線透過率、ヘーズ
装置:日本電色工業(株)製 ヘーズメーター NDH5000
(7)接触角
装置:協和界面科学(株)製 DropMaster DM-501
測定温度:20℃
(8)引張試験
装置:(株)島津製作所製 卓上形精密万能試験機オートグラフAGS-10kNX
つかみ具:1kN手動ねじ式平面形つかみ具
つかみ歯:高強度ラバーコートつかみ歯
引張速度:20mm/分
測定温度:20℃
【0046】
また、略記号は以下の意味を表す。
PFPE1:両末端それぞれにポリ(オキシアルキレン)基を介さずヒドロキシ基を2つ有するパーフルオロポリエーテル[ソルベイスペシャルティポリマーズ社製 Fomblin(登録商標)T4]
PFPE2:両末端にポリ(オキシアルキレン)基(繰返し単位数8~9)を介してヒドロキシ基を有するパーフルオロポリエーテル[ソルベイスペシャルティポリマーズ社製 Fluorolink 5147X]
SM2:両末端それぞれにウレタン結合を介したメタクリロイル基を2つ有するパーフルオロポリエーテル[ソルベイスペシャルティポリマーズ社製 Fomblin(登録商標)MT70、80質量%MEK溶液]
BEI:1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート[昭和電工(株)製 カレンズ(登録商標)BEI]
DOTDD:ジネオデカン酸ジオクチル錫[日東化成(株)製 ネオスタン(登録商標)U-830]
DPCL:カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート[日本化薬(株)製 KAYARAD DPCA-60]
DPHA:ジペンタエリスリトールペンタアクリレート/ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート混合物[日本化薬(株)製 KAYARAD DPHA]
PETA:ペンタエリスリトールトリアクリレート/ペンタエリスリトールテトラアクリレート混合物[新中村化学工業(株)製 NKエステル A-TMM-3LM-N]
I2959:2-ヒドロキシ-1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン[BASFジャパン(株)製 IRGACURE(登録商標)2959]
MEK:メチルエチルケトン
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0047】
[実施例1]両末端それぞれにウレタン結合を介してアクリロイル基を4つ有するパーフルオロポリエーテル(SM1)の製造
スクリュー管に、PFPE1 1.19g(0.5mmol)、BEI 0.52g(2.0mmol)、DOTDD 0.017g(PFPE1及びBEIの合計質量の0.01倍量)、及びMEK 1.67gを仕込んだ。この混合物を、スターラーチップを用いて室温(およそ23℃)で24時間撹拌して、目的化合物であるSM1の50質量%MEK溶液を得た。
得られたSM1のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量:Mwは3,000、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は1.2であった。
【0048】
[製造例1]SM2の50質量%MEK溶液の調製
スクリュー管に、SM2 2.5g及びMEK 1.5gを仕込んだ。この混合物を、スターラーチップを用いて室温(およそ23℃)で24時間撹拌して、SM2の50質量%MEK溶液を得た。
【0049】
[比較製造例1]両末端それぞれにポリ(オキシアルキレン)基及び1つのウレタン結合を介してアクリロイル基を2つ有するパーフルオロポリエーテル(SM3)の製造
スクリュー管に、PFPE2 1.05g(0.5mmol)、BEI 0.26g(1.0mmol)、DOTDD 0.013g(PFPE2及びBEIの合計質量の0.01倍量)、及びMEK 1.30gを仕込んだ。この混合物を、スターラーチップを用いて室温(およそ23℃)で24時間撹拌して、目的化合物であるSM3の50質量%MEK溶液を得た。
得られたSM3のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量:Mwは3,100、分散度:Mw/Mnは1.1であった。
【0050】
[実施例2,3、比較例1~3]
表1の記載に従って以下の各成分を混合し、表1に記載の固形分濃度の硬化性組成物を調製した。なお、ここで固形分とは溶媒以外の成分を指す。また、表中、[部]とは[質量部]を表す。
(1)多官能モノマー:表1に記載の多官能モノマー 100質量部
(2)表面改質剤:表1に記載の表面改質剤を表1に記載の量(固形分換算)
(3)重合開始剤:I2959 5質量部
(4)溶媒:PGME 158質量部
この硬化性組成物を、A4サイズの両面易接着処理PETフィルム[東レ(株)製 ルミラー(商標登録)U403、厚み100μm]上にバーコート塗布し、塗膜を得た。この塗膜を120℃のオーブンで3分間乾燥させ溶媒を除去した。得られた膜を、窒素雰囲気下、露光量300mJ/cm2のUV光を照射し露光することで、およそ5μmの膜厚を有するハードコート層(硬化膜)を有するハードコートフィルムを作製した。
【0051】
各硬化性組成物の均質性、並びに得られたハードコートフィルムの、外観、耐擦傷性、延伸性、全光線透過率、ヘーズ、及び水の接触角を評価した。組成物均質性、外観、耐擦傷性、延伸性、及び接触角の評価の手順を以下に示す。結果を表2に併せて示す。
[組成物均質性]
調製2時間後の硬化性組成物の外観を目視で確認し、以下の基準に従い評価した。
A:透明溶液
C:白濁
[外観]
ハードコートフィルムの外観を目視で確認し、以下の基準に従い評価した。
A:ハードコート層全面に亘って透明でムラがない
C:ハードコート層全面が斑状に白濁しムラが目立つ
[耐擦傷性]
ハードコート層表面を、往復摩耗試験機に取り付けたスチールウール[ボンスター販売(株)製 ボンスター(登録商標)#0000(超極細)]で250g/cm2の荷重を掛けて2,000往復擦り、傷の程度を目視で確認し以下の基準に従い評価した。なおハードコート層として実際の使用を想定した場合、少なくともBであることが求められ、Aであることが望ましい。
A:傷がつかない
B:かすかに傷がつく
C:全面に傷がつく
[延伸性]
ハードコートフィルムを長さ80mm、幅10mmの矩形に切り取り、試験片を作製した。試験片の長手方向の両端から20mmずつを掴むように万能試験機のつかみ具に取り付け、延伸率(=(つかみ具間距離の増加量)÷(つかみ具間距離)×100)が5%、10%、15%、20%となるように引張試験を行った。試験片のハードコート層にクラックが発生しなかった最大の延伸率を、延伸性として評価した。
[接触角]
水1μLをハードコート層表面に付着させ、その5秒後の接触角θを5点で測定し、その平均値を接触角値とした。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1に示すように、ハードコート層における、多官能モノマーとしてラクトン変性アクリレートを、表面改質剤として両末端それぞれにウレタン結合を介してアクリロイル基を4つ有するパーフルオロポリエーテルSM1(実施例2)、又は両末端それぞれにウレタン結合を介したメタクリロイル基を2つ有するパーフルオロポリエーテルSM2(実施例3)を、それぞれ用いた硬化性組成物は、透明な溶液を呈し、またこの硬化性組成物を用いて作製したハードコートフィルムは、耐擦傷性に優れるとともに適度な延伸性を有し、かつ透明でムラのない外観を得ることができた。
【0055】
一方、表面改質剤として両末端それぞれにポリ(オキシアルキレン)基及び1つのウレタン結合を介してアクリロイル基を2つ有するパーフルオロポリエーテルSM3を用いた比較例2は、組成物が白濁して均質性に劣り、また該組成物から得られたハードコート層は実施例に比べてヘーズが悪化し、白濁した外観となった。
また、多官能モノマーとしてラクトン変性されていないアクリレートを、表面改質剤として上記SM1を、それぞれ用いた比較例1は、延伸性を全く有さない結果となった。
【0056】
以上、実施例の結果に示すように、ラクトン変性された多官能モノマー、及び特定のパーフルオロポリエーテルを組み合わせた硬化性組成物とすることで初めて、耐擦傷性、延伸性、及び外観を全て満足するハードコートフィルムを得ることができる。