IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社栗本鐵工所の特許一覧 ▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

特許7041875金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合方法及びその接合構造
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合方法及びその接合構造
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/06 20060101AFI20220317BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
B29C65/06
B23K20/12 360
B23K20/12 310
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018033184
(22)【出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2019147293
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高 業飛
(72)【発明者】
【氏名】閤師 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】廖 金孫
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189173(JP,A)
【文献】特開2014-166729(JP,A)
【文献】特表2009-537325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と樹脂部材の少なくとも一部を互いに重ね合わせ、該樹脂部材の側からツールを該金属部材に向かって圧入しながら金属部材は溶融させず且つ樹脂部材の少なくとも一部を溶融させて又は溶融させず、該ツールのショルダ部の中心から突出するプローブのみ上記金属部材に挿入させ、該金属部材から突条を、上記樹脂部材側に立ち上がるように食い込ませて摩擦撹拌接合する
ことを特徴とする金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合方法において、
上記ツールで撹拌することで、上記金属部材から上記樹脂部材側へ接合部に沿って連続して又は離散的に延びる突条を形成し、
上記突条は、少なくとも一部が、上記接合部の幅方向に所定の間隔を空けて上記金属部材から上記樹脂部材側へ上記接合部に沿って連続して又は離散的に延び、前記連続して又は離散的に延びる方向と垂直な方向において、該突条の基端側の間隔の幅が、先端側の間隔の幅よりも広い
ことを特徴とする金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合方法において、
記ショルダ部を0rpm以上100rpm以下の第1回転数で回転させながら、上記プローブを400rpm以上の第2回転数で回転させた状態で上記樹脂部材の側から圧入しながら摩擦撹拌接合する
ことを特徴とする金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合方法。
【請求項4】
金属部材と樹脂部材の少なくとも一部が互いに重ね合わせられて該樹脂部材の側に線状の接合部が形成された金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合構造において、
上記金属部材から上記樹脂部材側へ上記接合部に沿って連続して又は離散的に延びる突条が食い込むように入り込んでおり、
上記突条は、少なくとも一部が、上記接合部の幅方向に所定の間隔を空けて上記金属部材から上記樹脂部材側へ上記接合部に沿って連続して又は離散的に延び、前記連続して又は離散的に延びる方向と垂直な方向において、該突条の基端側の間隔の幅が、先端側の間隔の幅よりも広い
ことを特徴とする金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合構造。
【請求項5】
請求項に記載の金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合構造において、
少なくとも上記突条及び上記金属部材の上面で囲まれた部分に、上記金属部材が上記樹脂部材に混ざり込んでいる領域が配置されている
ことを特徴とする金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材と樹脂部材とを接合する方法及びその接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電気製品や自動車等の様々な製品において、金属部材と樹脂部材とを併用することが一般的に行われており、金属部材と樹脂部材とを接合する需要も増加している。金属部材と樹脂部材とを接合する場合、従来は接着剤を用いる方法、ボルト留め、かしめなどによる機械的結合方法等が利用されているが、接合部の信頼性等に問題があった。
【0003】
一方で、入熱量を低く抑えることができる摩擦撹拌接合(FSW)を利用した異種材料の摩擦撹拌接合方法が提案されている。本来、摩擦撹拌接合は金属部材同士を接合する方法であるが、提案されている摩擦撹拌接合方法では、入熱量を低く抑えることができる摩擦撹拌接合の特性を利用して、金属部材と樹脂部材を接合している。
【0004】
例えば、特許文献1には、摩擦撹拌接合の熱によって樹脂部材中の極性基、例えばカルボキシル基の原子の一部を解離させて、金属部材と樹脂部材とを接続する方法が開示されている。この摩擦撹拌接合方法においては、樹脂部材と金属部材表面の酸化物中の酸素とを結合させ、金属部材と樹脂部材とが接合される。この方法では、回転ツールは、金属部材表面に当接している。
【0005】
また、特許文献2には、金属部材の被接合面に熱可塑性樹脂の塗膜を形成し、この塗膜部に樹脂部材を重ね、摩擦撹拌接合により接合する方法が開示されている。この摩擦撹拌接合方法においては、回転ツールによって生じる摩擦熱により、塗膜と樹脂部材とが相溶することで、金属部材と樹脂部材が接合される。
【0006】
また、特許文献3のように、摩擦撹拌接合において、金属用加工ツールの先端部に刃部を設け、この金属用加工ツールを回転させながら刃部を金属部材の接合面に押し当てることにより、金属部材の接合面に複数の凹溝を形成させて溶融樹脂を前記凹溝部に流動させてから固化させることで、金属部材と樹脂部材を接合するものが知られている。この方法では、金属部材に対して樹脂部材を溶着させた態様で接合させている。
【0007】
さらに、繊維強化複合材料同士、又は、繊維強化複合材料と金属部材とのレーザビーム溶接法による突合わせ継手として、特許文献4のような開先形状が嵌合可能なファスナー状のモザイク継手が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-170975号公報
【文献】特開2009-279858号公報
【文献】特開2014-166729号公報
【文献】特開2011-056583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のような摩擦撹拌接合方法では、樹脂部材中の極性基を利用するため、樹脂部材の種類が極性材料に限定され、非極性材料を接合することはできない。
【0010】
また、特許文献2のような摩擦撹拌接合方法では、前処理として塗膜を形成する必要があり、また金属部材の塗膜と樹脂部材との相溶性を考慮する必要があるため、樹脂部材の種類が限定される。
【0011】
また、特許文献3のような摩擦撹拌接合方法では、凹溝に樹脂が嵌まり込む、いわゆるアンカー効果が期待できるが、接合強度が弱いという問題がある。
【0012】
さらに、特許文献4のような摩擦撹拌接合方法では、樹脂と金属の組合せに制限のあること、モザイク継手作製による生産工程の増加及びコストアップ、高額な設備投資等の問題がある。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂部材の種類に関わることなく、また、金属部材に前処理を施すことなく、摩擦撹拌接合によって金属部材と樹脂部材とを接合することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、この発明では、樹脂部材の側からツールを金属部材に向かって圧入しながら摩擦撹拌接合するようにした。
【0015】
具体的には、第1の発明では、金属部材と樹脂部材の少なくとも一部を互いに重ね合わせ、該樹脂部材の側からツールを該金属部材に向かって圧入しながら金属部材は溶融させず且つ樹脂部材の少なくとも一部を溶融させて又は溶融させずに摩擦撹拌接合する構成とする。
【0016】
すなわち、金属部材側からツールを圧入し、ツール先端が樹脂部材側に到達するようにすると、接合界面の状態が悪くなる。また、プローブなしでショルダ部のみのツールで金属部材側に押し当てると、表面摩擦からの伝熱のみとなり、一部の樹脂部材としか接合できず、しかも、金属部材の接合面に化学反応層を設けるなどの予備処理が必要となる。しかし上記の構成によると、樹脂部材側からツールを圧入して金属部材は溶融させず且つ樹脂部材の少なくとも一部を溶融させて又は溶融させずに金属部材と摩擦撹拌接合させることにより、母材の変形が最小限に保たれた外観がよく強度の高い接合構造が得られる。
【0017】
第2の発明では、第1の発明において、
上記ツールで撹拌することで上記金属部材から突条を上記樹脂部材側に立ち上がるように食い込ませる構成とする。
【0018】
上記の構成によると、金属部材の接合面にインターロック効果を生じさせる突条を形成させながら摩擦撹拌接合することにより、接合強度が向上する。なお、「突条」は金属部材と樹脂部材の接合部に沿って連続して形成されている必要はないが、単なる突起ではなく、ある程度線状に延びる部分があるのが望ましい。
【0019】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
ショルダ部を第1回転数で回転させながら、該ショルダ部の中心から突出するプローブを第1回転数と異なる第2回転数で回転させた状態で上記樹脂部材の側から圧入しながら摩擦撹拌接合する構成とする。
【0020】
上記の構成によると、第1回転数で回転するショルダ部と、これと異なる第2回転数で回転するプローブとで樹脂部材を塑性流動させながら金属部材側へ押し付けることで、金属部材から突条を突出させて接合強度を高めることができる。
【0021】
第4の発明では、第1から第3のいずれか1つの発明において、
第2回転数は、第1回転数よりも高速とする。
【0022】
上記の構成によると、プローブを高速で回転数させて樹脂を少なくとも一部溶融させ又は全く溶融させず、金属は溶融させないことで、金属部材から樹脂部材側へ突出する突条が生じやすくなる。
【0023】
第5の発明では、第4の発明において、
第2回転数は200rpm以上である。
【0024】
上記の構成によると、第2回転数を適切に設定することで、金属部材から樹脂部材側へ突条が突出する。一方、第2回転数を200rpmよりも小さくすると、接合しづらくなる。
【0025】
第6の発明では、第4の発明において、
第1回転数は0rpm以上100rpm以下で、第2回転数は200rpm以上である。
【0026】
上記の構成によると、第2回転数を適切に設定することで、金属部材から樹脂部材側へ突条が突出する。一方、第2回転数を200rpmよりも小さくすると、接合しづらくなり、第1回転数を大きくしすぎると、樹脂部材の表面の状態が悪くなる。第1回転数は0rpmでもよい。
【0027】
第7の発明では、
金属部材と樹脂部材の少なくとも一部が互いに重ね合わせられて該樹脂部材の側に線状の接合部が形成された金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合構造を前提とし、
上記金属部材から上記樹脂部材側へ上記接合部に沿って連続して又は離散的に延びる突条が食い込むように入り込んでいる。
【0028】
上記の構成によると、金属部材の接合面にインターロック効果を生じさせる突条を形成させながら摩擦撹拌接合することにより、接合強度が向上する。そして、樹脂部材側からツールを圧入して金属部材は溶融させず且つ樹脂部材の少なくとも一部を溶融させて又は溶融させずに金属部材と摩擦撹拌接合させることにより、母材の変形が最小限に保たれた外観がよく強度の高い接合構造が得られる。ここで、「離散的」とは、必ずしも接合面全体で突条が連続して形成されているのではなく、スポット的に接合が行われ、突条が形成されている場合も含む意味である。
【0029】
第8の発明では、第7の発明において、
上記突条は、少なくとも一部が、上記接合部の幅方向に所定の間隔を空けて上記金属部材から上記樹脂部材側へ上記接合部に沿って連続して又は離散的に延びている。
【0030】
上記の構成によると、突条が接合部の幅方向に互いに所定の間隔を空けて形成されているので、接合強度が増す。
【0031】
第9の発明では、第8の発明において、
少なくとも上記突条で囲まれた部分に、上記金属部材と上記樹脂部材とが混在する領域が配置されている。
【0032】
上記の構成によると、適度な強度で摩擦撹拌接合される。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、樹脂部材の側からツールを金属部材に向かって圧入しながら金属部材は溶融させず且つ樹脂部材の少なくとも一部を溶融させて又は溶融させずに金属部材から突条を樹脂部材側に立ち上がるように発生させて摩擦撹拌接合するようにしたので、樹脂部材の種類に関わることなく、また、金属部材に前処理を施すことなく、摩擦撹拌接合によって金属部材と樹脂部材とを接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】マグネシウム合金とPA6との接合部を示す断面図である。
図2A】金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合方法を示す斜視図である。
図2B】金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合方法を示す断面図である。
図2C】金属部材と樹脂部材の摩擦撹拌接合構造を示す断面図である。
図3】プローブを拡大して示す正面図である。
図4A】実施例1Aに係るマグネシウム合金とPA6との接合パラメータ及び接合後の樹脂表面状況を示す図である。
図4B】実施例1Bに係るマグネシウム合金とPEとの接合パラメータ及び接合後の樹脂表面状況を示す図である。
図4C】実施例1Cに係るマグネシウム合金とCFRPとの接合パラメータ及び接合後の樹脂表面状況を示す図である。
図5A】実施例1Aに係るマグネシウム合金とPA6との接合部の断面写真図である。
図5B】実施例1Bに係るマグネシウム合金とPEとの接合部の断面写真図である。
図5C】実施例1Cに係るマグネシウム合金とCFRPとの接合部の断面写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0036】
-摩擦撹拌接合構造-
図1に本発明の実施形態に係る金属部材1と樹脂部材2の摩擦撹拌接合方法によって接合した摩擦撹拌接合構造を示す。この接合構造は、金属部材1と樹脂部材2の少なくとも一部が互いに重ね合わせられて樹脂部材2の側に線状の接合部3が形成された金属部材1と樹脂部材2の摩擦撹拌接合構造である。そして、金属部材1から樹脂部材2側へ接合部3の接合方向(図2Aの矢印方向)に沿って連続して又は離散的に延びる突条4が食い込むように入り込んでいる。図1に示すように、突条4の最大幅L1と先端の最小幅L2の関係は、0<L2<L1であり、突条4の先端が互いに向かい合うように形成されている。突条4の高さHは、樹脂部材2の板厚tに比べて小さい(0<H<t)。接合部3の全体において、金属部材1は溶融させず樹脂部材2の少なくとも一部を溶融させている。条件によって樹脂部材2は全く溶融しない場合もある。突条4は、接合部3の接合方向(図2Aの矢印方向)に沿って完全に連続している必要はなく、離散的に発生することがある。
【0037】
-摩擦撹拌装置-
次いで、この摩擦撹拌接合構造を作るための摩擦撹拌装置について簡単に説明する。詳しくは図示しないが、図2A及び図2Bに示すように、この摩擦撹拌装置は、ショルダ部11とプローブ12とが独立して回転するツール10を備えている。両者の回転数は図示しない電動モータ等により自在に変更可能となっている。図3に例示するように、プローブ12におけるショルダ部11から突出する先端12aは、球面状に機械加工され、その先端12aに連続する部分は、左ネジ12bが設けられている。その基端側にショルダ挿通部12cが設けられ、基端部12dが図示しない摩擦撹拌装置の回転軸に連結されるようになっている。ショルダ部11は、ショルダ挿通部12cに挿通される円筒形状で、プローブ12とは異なる回転軸に連結される。ショルダ部11及びプローブ12は、例えばSKD61などの合金工具鋼で構成されている。ショルダ部11は、低速の第1回転数R1(例えば50rpm以上100rpm以下)で回転させられ、プローブ12は、高速の第2回転数R2(例えば200rpm以上)で回転させられる。
【0038】
-摩擦撹拌接合方法-
次に、本実施形態に係る金属部材1と樹脂部材2の摩擦撹拌接合方法の作動について説明する。
【0039】
図2A図2Cは、本発明の金属部材1と樹脂部材2の摩擦撹拌接合方法の概略を示す。
【0040】
まず、ショルダ部11を第1回転数R1で回転させながら、このショルダ部11の中心から突出するプローブ12を第1回転数R1と異なる第2回転数R2で回転させた状態で樹脂部材2の側から圧入しながら接合する。特に第2回転数R2は、第1回転数R1よりも高速とする(R2>R1)。このとき、金属部材1は溶融させず樹脂部材2の少なくとも一部を溶融させて摩擦撹拌接合する。条件によって樹脂部材2は全く溶融しなくてもよい。
【0041】
この摩擦撹拌方法では、ショルダ部11を低速の第1回転数R1(例えば100rpm以下)で回転させ、プローブ12を高速の第2回転数R2(例えば200rpm以上)で回転させながら樹脂部材2に差し込んで摩擦撹拌し、プローブ12の先端と金属部材1と接触させ、プローブ12の先端と金属部材1の摩擦熱及びプローブ12からの押下力により、金属部材1に対して樹脂部材2に向かって塑性流動を起こさせることで、図1及び図2Cに示すように、金属部材1から突条4を樹脂部材2側に立ち上がるように発生させる。そして、この突条4が樹脂部材2に食い込んで、樹脂部材2と金属部材1の接合部3を形成する。
【0042】
このように、樹脂部材2側からツール10を圧入してショルダ部11を低速の第1回転数R1で回転させ、プローブ12を高速の第2回点数R2で回転させながら、摩擦撹拌接合させることにより、母材の変形が最小限に保たれた外観がよく強度の高い接合構造が得られる。
【0043】
また、金属部材1の接合面にインターロック効果を生じさせる突条4を形成させながら摩擦撹拌接合することにより、接合強度が向上する。
【0044】
また、回転数の大きいプローブ12を金属部材1側へ押し付けることで、金属部材1から突条4を突出させて接合強度を高めることができる。
【0045】
また、第1回転数R1は100rpm以下で、第2回転数R2は200rpm以上としたので、樹脂部材の表面の状況を悪化させることなく、金属部材1から樹脂部材2側へ突条4を突出させることができる。
【0046】
そして、突条4は、少なくとも一部が、接合部3の幅方向に所定の間隔を空けて金属部材1から樹脂部材2側へ接合部3に沿って連続して又は離散的に延びている。このように、突条4が接合部3の幅方向に互いに所定の間隔を空けて形成されるので、接合強度が増す。そして、少なくとも突条4で囲まれた部分に、金属部材1と樹脂部材2とが混在する領域が配置されている。このようなときに適度な強度で摩擦撹拌接合される。
【0047】
-実施例1-
上記摩擦撹拌接合方法を実際に実施した実施例を以下に示す。いずれの実施例においても、金属部材1に前処理を施さない。図4Aに金属部材1をマグネシウム合金(AM系合金)とし、樹脂部材2を6ナイロン(PA6)とした実施例1Aに係る接合速度V及び第2回転数R2と接合後の樹脂表面状況との関係を示す。
【0048】
図4Bに金属部材1をマグネシウム合金(AM系合金)、樹脂部材2をポリエチレン(PE)とした実施例1Bに係る接合速度V及び第2回転数R2と接合後の樹脂表面状況との関係を示す。
【0049】
図4Cに、金属部材1をマグネシウム合金(AM系合金)、樹脂部材2をCFRPとした実施例1Cに係る接合速度V及び第2回転数R2と接合後の樹脂表面状況との関係を示す。
【0050】
例えば、金属部材1の板厚を2mm、樹脂部材2の板厚を2mm、重ね幅を30mmとし、ショルダ部11の直径を15mm、プローブ12の直径を6mmとし、ショルダ部11の第1回転数R1を50rpm(一定)とし、プローブ12の挿入深さを2.7mmとした。
【0051】
実施例1Aが最も広いパラメータ領域で、良好な接合が得られた。図1及び図5Aに示すように、良好な接合が行われた範囲では、突条4がきれいに樹脂部材2側へ立ち上がるように形成されていることがわかる。
【0052】
実施例1Bは、実施例1Aに比べると、接合後に機械加工を施すと割れてしまうパラメータ領域が多かった。図5Bに示すように、良好なパラメータ領域では、実施例1Aに比べると突条4がそれほどきれいに形成されていないが、マグネシウム合金の突条4によるPE板とマグネシウム合金との相互ロック界面構造が得られた。
【0053】
実施例1Cは、実施例1A,1Bに比べて接合速度Vが小さいパラメータ領域で良好な接合が得られた。図5Cに示すように、比較的第2回転数R2が小さいパラメータ領域で大きめの突条4が立ち上がり、マグネシウム合金の突条4によるCFRP板とマグネシウム合金との相互ロック界面構造が得られた。なお、図5A図5Cでは、突条4が一部繋がっていないように見えるが、少なくとも基端側は、連続して突条4が形成されている。
【0054】
このように、第1回転数R1を一定とした場合、樹脂部材2の材質に合わせて適切な第2回転数R2を選ぶ必要があることがわかった。また、いずれの実施例においても、樹脂材料は溶融しない場合もあれば溶融する場合もあるが、摩擦撹拌のみが行われた。そして、金属部材1の接合面にインターロック効果を生じさせる突条4を生成させながら摩擦撹拌接合を行うことが極めて有効であることがわかった。
【0055】
したがって、本実施形態に係る金属部材1と樹脂部材2の摩擦撹拌接合方法によると、樹脂部材2の種類に関わることなく、また、金属部材1に前処理を施すことなく、摩擦撹拌接合によって金属部材1と樹脂部材2とを接合することができる。
【0056】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0057】
すなわち、上記実施形態では、金属部材1と樹脂部材2の一部の例を挙げたが、これに限定されない。それぞれの材質に合わせて適切な第1回転数R1、第2回転数R2、ショルダ部11及びプローブ12の直径、材質を選択すればよい。
【0058】
また上記実施形態では、接合部3が一方向に長い線状の接合としているが、点接合に応用することもできる。この場合、突条4は、円形に連続していたり、離散的に円形に配置されていたりしてもよい。
【0059】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0060】
1 金属部材
2 樹脂部材
3 接合部
4 突条
10 ツール
11 ショルダ部
12 プローブ
12a 先端
12b 左ネジ
12c ショルダ挿通部
12d 基端部
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C