IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パイオニア株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧

特許7041911呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラム
<>
  • 特許-呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラム 図1
  • 特許-呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラム 図2
  • 特許-呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラム 図3
  • 特許-呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラム 図4
  • 特許-呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラム 図5
  • 特許-呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラム 図6
  • 特許-呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラム 図7
  • 特許-呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20220317BHJP
   A61B 7/04 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B7/04 L
A61B7/04 W
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017140669
(22)【出願日】2017-07-20
(65)【公開番号】P2019017844
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】大久保 英幸
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 剛
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇治
(72)【発明者】
【氏名】梅崎 岳
(72)【発明者】
【氏名】貞森 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】大下 慎一郎
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/089073(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/038088(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0187856(US,A1)
【文献】特開2014-050614(JP,A)
【文献】特開2005-066044(JP,A)
【文献】特開2016-158806(JP,A)
【文献】特表2001-505085(JP,A)
【文献】特開2004-267240(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0060100(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08
A61B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定期間中の呼吸音の音量の増加量が第1閾値以上であるか否かを判定する判定部と、
前記増加量が前記第1閾値以上であると判定された場合に、所定信号を出力する出力部と
を備え
前記増加量は、前記所定期間の開始時刻における呼吸音の音量に対する前記所定期間の終了時刻における呼吸音の音量の増加量、又は前記所定期間中の呼吸音の音量の極小値に対する前記所定期間の終了時刻における呼吸音の音量の増加量であり、
前記第1閾値は、正常な呼吸音と異常な呼吸音とを前記増加量から区別可能となる値に設定されていることを特徴とする呼吸音処理装置。
【請求項2】
前記判定部は、一の前記所定期間中の前記経時的増加量が一の前記第1閾値以上であるか否か及び前記一の所定期間とは少なくとも部分的に異なる他の前記所定期間中の前記経時的増加量が他の前記第1閾値以上であるか否かを判定し、
前記出力部は、前記一の所定期間中の前記経時的増加量が前記一の第1閾値以上である及び/又は前記他の所定期間中の前記経時的増加量が前記他の第1閾値以上であると判定された場合に、前記所定信号を出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の呼吸音処理装置。
【請求項3】
前記判定部は、更に、前記音量が第2閾値以上であるか否かを判定し、
前記出力部は、(i)前記経時的増加量が前記第1閾値以上であり且つ前記音量が前記第2閾値以上であると判定された場合に、前記所定信号を出力し、(ii)前記経時的増加量が前記第1閾値以上であると判定された場合であっても、前記音量が前記第2閾値以上でないと判定された場合には、前記所定信号を出力しない
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の呼吸音処理装置。
【請求項4】
前記経時的増加量は、前記所定期間中の前記音量の極小値からの増加量である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の呼吸音処理装置。
【請求項5】
前記所定信号は、生体の異常を警告するための警告信号を含む
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の呼吸音処理装置。
【請求項6】
呼吸音処理装置が、呼吸音の音量の経時的増加量が第1閾値以上であるか否かを判定する判定工程と、
呼吸音処理装置が、前記経時的増加量が前記第1閾値以上であると判定された場合に、所定信号を出力する出力工程と
を備え
前記増加量は、前記所定期間の開始時刻における呼吸音の音量に対する前記所定期間の終了時刻における呼吸音の音量の増加量、又は前記所定期間中の呼吸音の音量の極小値に対する前記所定期間の終了時刻における呼吸音の音量の増加量であり、
前記第1閾値は、正常な呼吸音と異常な呼吸音とを前記増加量から区別可能となる値に設定されていることを特徴とする呼吸音処理方法。
【請求項7】
コンピュータに、請求項6に記載の呼吸音処理方法を実行させる
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取得した呼吸音に関する処理を行う呼吸音処理装置及び呼吸音処理方法、並びに、コンピュータに呼吸音処理方法を実行させるコンピュータプログラムの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
このような呼吸音処理装置の一例が特許文献1に記載されている。具体的には、特許文献1には、夫々が被験者の生体音を集音可能な複数のマイクロフォンが出力する電気信号のパターンを比較し、いずれかのマイクロフォンが出力する電気信号のパターンが別のマイクロフォンが出力する電気信号のパターンに対して所定量以上ずれた場合に、生体に異常が発生していると判断して警報を発する呼吸音処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-050614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載された呼吸音処理装置では、複数のマイクロフォンが出力する電気信号のパターンを相互に比較する必要がある。このため、複数のマイクロフォンが出力する電気信号のパターンを相互に比較する必要がない呼吸音処理装置と比較して、呼吸音処理装置の処理負荷が大きくなるという技術的問題が生ずる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題には上記のようなものが一例として挙げられる。本発明は、相対的に小さい処理負荷で呼吸音に関する処理を行うことが可能な呼吸音処理装置、呼吸音処理方法及びコンピュータプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の呼吸音処理装置の第1の態様は、所定期間中の呼吸音の音量の増加量が第1閾値以上であるか否かを判定する判定部と、前記増加量が前記第1閾値以上であると判定された場合に、所定信号を出力する出力部とを備える。
【0007】
本発明の呼吸音処理方法の第1の態様は、所定期間中の呼吸音の音量の増加量が第1閾値以上であるか否かを判定する判定工程と、前記増加量が前記第1閾値以上であると判定された場合に、所定信号を出力する出力工程とを備える。
【0008】
本発明のコンピュータプログラムの第1の態様は、コンピュータに上述した本発明の呼吸音処理方法の第1の態様を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施例の生体監視装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、呼吸音を取得する動作の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、記憶装置が記憶する音量データのデータ構造の一例を示すテーブルである。
図4図4(a)から図4(c)の夫々は、呼吸音量の表示例を示す平面図である。
図5図5は、生体の状態が異常であるか否かを判定する動作の流れを示すフローチャートである。
図6図6(a)及び図6(b)の夫々は、所定期間中の呼吸音量を示すグラフである。
図7図7は、所定期間中の呼吸音量の経時的増加量を算出するために用いられる音量データを示すテーブルである。
図8図8は、呼吸音増加量の表示例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、呼吸音処理装置、呼吸音処理方法及びコンピュータプログラムの実施形態について説明を進める。
【0011】
(呼吸音処理装置の実施形態)
<1>
呼吸音処理装置の実施形態は、所定期間中の呼吸音の音量の増加量が第1閾値以上であるか否かを判定する判定部と、前記増加量が前記第1閾値以上であると判定された場合に、所定信号を出力する出力部とを備える。
【0012】
本願発明者等の研究によれば、呼吸音に異常が生ずると、呼吸音に異常が生じていない場合と比較して、呼吸音の音量が増加することが判明している。具体的には、呼吸音に異常音(例えば、副雑音)が混入すると、呼吸音の音量は、異常音の混入に起因して、異常音が含まれていない呼吸音の音量よりも大きくなることが判明している。このため、呼吸音処理装置の実施形態によれば、呼吸音の音量の増加量に基づいて、生体に異常が発生しているか否かを実質的に判定可能である。具体的には、呼吸音処理装置の実施形態は、呼吸音の音量の増加量が第1閾値以上であると判定される場合には、生体に異常が発生していると判定し、所望の出力信号(例えば、後述する警告信号)を出力可能である。
【0013】
このように、呼吸音処理装置の実施形態は、複数の呼吸音センサ(例えば、マイクロフォン)が出力する電気信号のパターンを相互に比較することなく、生体に異常が発生しているか否かを実質的に判定可能である。従って、呼吸音処理装置の実施形態は、呼吸音に関する処理(ここでは、増加量が第1閾値以上であるか否かを判定し、出力信号を出力する処理)を相対的に小さい処理負荷で行うことができる。
【0014】
<2>
上述した呼吸音処理装置の実施形態の他の態様では、前記判定部は、一の前記所定期間中の前記増加量が一の前記第1閾値以上であるか否か及び前記一の所定期間とは少なくとも部分的に異なる他の前記所定期間中の前記増加量が他の前記第1閾値以上であるか否かを判定し、前記出力部は、前記一の所定期間中の前記増加量が前記一の第1閾値以上である及び/又は前記他の所定期間中の前記増加量が前記他の第1閾値以上であると判定された場合に、前記所定信号を出力する。
【0015】
この態様によれば、呼吸音処理装置は、少なくとも部分的に異なる複数の期間中における呼吸音の音量の増加量に基づいて、生体に異常が発生しているか否かをより高精度に判定可能である。
【0016】
<3>
上述した呼吸音処理装置の実施形態の他の態様では、前記判定部は、更に、前記音量が第2閾値以上であるか否かを判定し、前記出力部は、(i)前記増加量が前記第1閾値以上であり且つ前記音量が前記第2閾値以上であると判定された場合に、前記所定信号を出力し、(ii)前記増加量が前記第1閾値以上であると判定された場合であっても、前記音量が前記第2閾値以上でないと判定された場合には、前記所定信号を出力しない。
【0017】
上述したように呼吸音に異常が生ずると呼吸音の音量が増加することを考慮すれば、呼吸音の音量自体が相応に大きい場合には、呼吸音に異常が発生している可能性が相対的に高い。一方で、呼吸音の音量自体がそれほど大きくない場合には、呼吸音に異常が発生していない可能性がある。従って、呼吸音の音量の増加量が第1閾値以上であっても、呼吸音の音量自体がそれほど大きくない(つまり、第2閾値以上でない)場合には、呼吸音に異常が発生していない(結果、生体に異常が発生していない)可能性がある。このため、この態様によれば、呼吸音の音量の増加量に加えて呼吸音の音量自体も参照するがゆえに、呼吸音処理装置は、生体に異常が発生しているか否かをより高精度に判定可能である。
【0018】
<4>
上述した呼吸音処理装置の実施形態の他の態様では、前記増加量は、前記所定期間中の前記音量の極小値からの増加量である。
【0019】
この態様によれば、呼吸音処理装置は、極小値を基準とする増加量に基づいて、生体に異常が発生しているか否かをより高精度に判定可能である。
【0020】
<5>
上述した呼吸音処理装置の実施形態の他の態様では、前記所定信号は、生体の異常を警告するための警告信号を含む。
【0021】
この態様によれば、呼吸音処理装置は、生体に異常が発生していることを適切に警告可能である。
【0022】
(呼吸音処理方法の実施形態)
<6>
呼吸音処理方法の実施形態は、所定期間中の呼吸音の音量の増加量が第1閾値以上であるか否かを判定する判定工程と、前記増加量が前記第1閾値以上であると判定された場合に、所定信号を出力する出力工程とを備える。
【0023】
呼吸音処理方法の実施形態によれば、上述した呼吸音処理装置の実施形態が使用するライブラリを適切に生成することができる。尚、呼吸音処理装置の実施形態が採用し得る他の態様に対応して、呼吸音処理方法の実施形態も、当該他の態様を採用してもよい。
【0024】
(コンピュータプログラムの実施形態)
<7>
コンピュータプログラムの実施形態は、コンピュータに上述した呼吸音処理方法の実施形態を実行させる。
【0025】
コンピュータプログラムの実施形態によれば、上述した呼吸音処理方法の実施形態が享受する効果と同様の効果を好適に享受することができる。尚、呼吸音処理方法の実施形態が採用する他の態様に対応して、コンピュータプログラムの実施形態も、当該他の態様を採用してもよい。
【0026】
呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラムの実施形態の作用及び他の利得については、以下に示す実施例において、より詳細に説明する。
【0027】
以上説明したように、呼吸音処理装置の実施形態は、判定部と、出力部とを備える。呼吸音処理方法の実施形態は、判定工程と、出力工程とを備える。コンピュータプログラムの実施形態は、コンピュータに上述した呼吸音処理方法の実施形態を実行させる。従って、相対的に小さい処理負荷で呼吸音に関する処理を行うことができる。
【実施例
【0028】
以下、図面を参照しながら、呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラムの実施例について説明する。尚、以下では、呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラムの実施例が適用された生体監視装置1を用いて説明を進める。
【0029】
(1)生体監視装置1の構成
はじめに、図1を参照しながら、本実施例の生体監視装置1の構成について説明する。図1は、本実施例の生体監視装置1の構成を示すブロック図である。
【0030】
図1に示すように、生体監視装置1は、生体の状態を監視する。具体的には、生体監視装置1は、生体に異常が発生している(つまり、生体の状態が異常である)か否かを監視し、生体に異常が発生している場合にその旨をユーザに通知する。生体の状態を監視するために、生体監視装置1は、複数の(図1に示す例では、4つの)呼吸音センサ11と、上述した実施形態における「呼吸音処理装置」の一具体例であるCPU(Central Processing Unit)12と、記憶装置13と、ディスプレイ14と、操作機器15と、スピーカー16を備えている。
【0031】
各呼吸音センサ11は、生体の呼吸音を取得(つまり、検出)する。呼吸音センサ11の一例として、呼吸音に起因した空気の振動を直接検出するマイクロフォンや、呼吸音に起因した媒質(例えば、患者の体表)の振動が伝達されたダイヤフラムの振動を検出することで呼吸音を検出する振動センサ等があげられる。複数の呼吸音センサ11は、夫々、生体の異なる箇所に取り付けられることが好ましい。各呼吸音センサ11の検出結果である呼吸音信号は、各呼吸音センサ11からCPU12に出力される。
【0032】
CPU12は、生体監視装置1の全体の動作を制御する。本実施例では特に、CPU12は、CPU12がコンピュータプログラムを実行することでCPU12内に論理的に実現される処理ブロックとして、音量演算部121と、差分算出部122と、上述した実施形態における「判定部」の一具体例である判定部123と、上述した実施形態における「出力部」の一具体例である警告部124とを備える。尚、音量演算部121、差分算出部122、判定部123及び警告部124の夫々の動作については、後に図2等を参照しながら詳述するが、以下にその概略について簡単に説明する。音量演算部121は、呼吸音信号に基づいて、呼吸音信号が示す呼吸音の音量(以降、“呼吸音量”と称する)を算出する。差分算出部122は、音量演算部121が算出した呼吸音量に基づいて、所定期間中の呼吸音量の増加量(つまり、呼吸音量の経時的増加量であり、以下“呼吸音増加量”と称する)を算出する。判定部123は、差分算出部122が算出した呼吸音増加量が所定の閾値TH1以上であるか否かを判定する。呼吸音増加量が閾値TH1以上であると判定部123が判定した場合に、生体に異常が発生していることを通知するための警告信号をディスプレイ14に出力し、警告音をスピーカー16から出力する。
【0033】
記憶装置13は、音量演算部121が算出した呼吸音量を示す音量データを記憶する。記憶装置13が記憶している音量データは、差分算出部122が増加量を算出する際に適宜参照される。記憶装置13は、例えば、ハードディスクや、ソリッドステートドライブを含む。
【0034】
ディスプレイ14は、CPU12の制御下で所望の表示物(例えば、画像や動画等)を表示可能である。特に、CPU12(特に、警告部124)から警告信号が出力された場合には、ディスプレイ14は、生体に異常が発生していることを示す表示物を表示する。
【0035】
操作機器15は、生体監視装置1のユーザ(例えば、医師や看護師等の医療従事者)が操作可能な装置である。例えば、ユーザは、操作機器15を用いて、生体監視装置1の動作内容を設定するための操作を行う。操作機器15は、例えば、マウス、キーボード及びディスプレイ14に付随するタッチパネルの少なくとも一つを含む。
【0036】
スピーカー16は、生体に異常が発生している際に警告音を発生させる。
【0037】
(2)生体監視装置1の動作
続いて、本実施例の生体監視装置1の動作について説明する。本実施例では、生体監視装置1は、呼吸音を取得する動作と、取得した呼吸音に基づいて生体に異常が発生しているか否かを判定する動作とを並行して行う。従って、以下では、呼吸音を取得する動作と、生体に異常が発生しているか否かを判定する動作とを順に説明する。
【0038】
(2-1)呼吸音を取得する動作
はじめに、図2を参照しながら、呼吸音を取得する動作について説明する。図2は、呼吸音を取得する動作の流れを示すフローチャートである。
【0039】
図2に示すように、複数の呼吸音センサ11の夫々が呼吸音を取得する(ステップS11)。各呼吸音センサ11は、検出結果である呼吸音信号を、CPU12に出力する。尚、呼吸音信号は、呼吸音の強度(つまり、音量に相当する振幅レベル)を時間軸上の波形として示すアナログ信号である。
【0040】
その後、音量演算部121は、各呼吸音センサ11が出力する呼吸音信号に基づいて、呼吸音量を算出する(ステップS12)。このとき、音量演算部121は、呼吸音センサ11毎に別個に、呼吸音量を算出する。つまり、音量演算部121は、第1の呼吸音センサ11が出力する呼吸音信号に基づいて、第1の呼吸音センサ11が取得した呼吸音の音量を算出し、第2の呼吸音センサ11が出力する呼吸音信号に基づいて、第2の呼吸音センサ11が取得した呼吸音の音量を算出し、・・・、第4の呼吸音センサ11が出力する呼吸音信号に基づいて、第4の呼吸音センサ11が取得した呼吸音の音量を算出する。
【0041】
音量演算部121は、呼吸音信号に基づいて呼吸音量を算出する動作として、既存の動作を採用してもよい。以下、呼吸音信号に基づいて呼吸音量を算出する動作の一例について説明する。音量演算部121は、アナログ信号である呼吸音信号をデジタル信号に変換する。その結果、音量演算部121は、有限個のサンプル値(つまり、音量を示すサンプル値)を取得する。その後、音量演算部121は、所定の呼吸音量算出期間(例えば、直近10秒の期間)中のサンプル値の二乗平均平方根であるRMS値を算出する。つまり、呼吸音量算出期間中にN個のサンプル値(x、x、・・・、x)が存在する場合には、音量演算部121は、RMS値=((x +x +、・・・+x )/N)1/2という数式を用いて、RMS値を算出する。その後、音量演算部121は、dB値=20×log10(RMS値)という数式を用いて、RMS値をデシベルという単位で呼吸音量を示すdB値に変換する。本実施例では、RMS値及びdB値の少なくとも一方が、呼吸音量として用いられる。
【0042】
呼吸音信号が継続的に取得され得るがゆえに、音量演算部121は、呼吸音量を継続的に算出し続ける。例えば、音量演算部121は、呼吸音量算出期間が経過する都度(例えば、10秒が経過する都度)、呼吸音量を新たに算出する。
【0043】
その後、記憶装置13は、音量演算部121が算出した呼吸音量を示す音量データを記憶する(ステップS13)。記憶装置13は、記憶している呼吸音量がいずれの呼吸音センサ11が取得した呼吸音の音量であるかが分かるように、音量データを記憶する。従って、記憶装置13は、記憶装置13が記憶する音量データの一例を示す図3に示すように、呼吸音量と呼吸音センサ11のセンサIDとを対応付けた上で、呼吸音量を記憶する。更に、記憶装置13は、記憶している呼吸音量がいずれの日時に取得された呼吸音の音量であるかが分かるように、音量データを記憶する。従って、記憶装置13は、図3に示すように、呼吸音量と日時とを対応付けた上で、呼吸音量を記憶する。尚、図3は、呼吸音量として、RMS値及びdB値の双方を含む音量データの一例を示す。しかしながら、記憶装置13は、RMS値及びdB値のいずれか一方を含む音量データを記憶してもよい。
【0044】
音量データの記憶装置13への記憶と並行して、ディスプレイ14は、音量演算部121が算出した呼吸音量を表示してもよい。例えば、図4(a)に示すように、ディスプレイ14は、呼吸音量を時間軸上の波形として示すグラフを用いて、呼吸音量を示してもよい。或いは、複数の呼吸音センサ11が生体の異なる箇所に取り付けられているため、ディスプレイ14は、図4(b)に示すように、ある呼吸音センサ11が取得した呼吸音の音量を示すグラフを、当該呼吸音が取得された生体の位置に関連付けて表示してもよい。或いは、ディスプレイ14は、図4(c)に示すように、ある呼吸音センサ11が取得した呼吸音の音量の大小を色の濃さで示す表示物を、当該呼吸音が取得された生体の位置に関連付けて表示してもよい。
【0045】
以上説明したステップS11からステップS13までの処理が、呼吸音を取得する動作を終了する旨の指示が操作機器15を用いてユーザから要求されるまで繰り返される(ステップS14)。
【0046】
(2-2)生体に異常が発生しているか否かを判定する動作
続いて、図5を参照しながら、生体に異常が発生しているか否かを判定する動作について説明する。図5は、生体に異常が発生しているか否かを判定する動作の流れを示すフローチャートである。
【0047】
図5に示すように、まず、差分算出部122は、呼吸音増加量(つまり、所定期間中の呼吸音量の増加量)を算出する(ステップS21)。呼吸音増加量を算出する際にも、呼吸音量を算出する場合と同様に、差分算出部122は、呼吸音センサ11毎に別個に、呼吸音増加量を算出する。つまり、差分算出部122は、第1の呼吸音センサ11が検出した呼吸音量の所定期間中の増加量を算出し、第2の呼吸音センサ11が検出した呼吸音量の所定期間中の増加量を算出し、・・・、第4の呼吸音センサ11が検出した呼吸音量の所定期間中の増加量を算出する。
【0048】
所定期間は、現在時刻(つまり、ステップS21の処理が行われている時刻)を終了時刻とする期間である。例えば、所定期間は、現在時刻から過去数分ないしは数十分(例えば、30分)の期間であってもよい。例えば、所定期間は、現在時刻から過去数時間の期間であってもよい。この所定期間は、デフォルトで予め設定されていてもよい。所定期間は、操作機器15を介したユーザの指示によって設定されてもよい。
【0049】
所定期間中の呼吸音量の増加量は、図6(a)に示すように、所定期間中の呼吸音量の極小値(つまり、最小値)に対する、現在時刻(つまり、所定期間の終了時刻)の呼吸音量の増加量である。但し、所定期間中の呼吸音量の増加量は、図6(b)に示すように、所定期間の開始時刻における呼吸音量に対する、現在時刻の呼吸音量の増加量であってもよい。或いは、所定期間中の呼吸音量の増加量は、所定期間中の任意の時刻における呼吸音量に対する、現在時刻の呼吸音量の増加量であってもよい。
【0050】
差分算出部122は、記憶装置122が記憶している音量データ(特に、音量データのうち所定期間中の呼吸音量を示す一部のデータ部分)に基づいて、呼吸音増加量を算出する。例えば、図7は、音量データのうち、現在時刻が10時22分00秒であり且つ所定期間が現在時刻から過去1時間の期間(つまり、9時22分00秒から10時22分00秒までの期間)である場合に差分算出部122が参照するデータ部分を示す。差分算出部122は、このデータ部分から、呼吸音センサ11毎に、所定期間中の呼吸音量の極小値を特定する。その後、差分算出部122は、呼吸音センサ11毎に、特定した極小値に対する現在時刻の呼吸音量の増加量を算出する。その結果、呼吸センサ11毎に、呼吸音増加量が算出される。
【0051】
差分算出部122が算出した呼吸音増加量は、差分算出部122から判定部123に出力される。その後、判定部123は、差分算出部122が算出した呼吸音増加量に関する第1異常条件が成立しているか否かを判定する(ステップS23)。本実施例では、第1異常条件として、差分算出部122が算出した呼吸音増加量が所定の閾値TH1以上であるという条件が用いられる。
【0052】
生体監視装置1が複数の呼吸音センサ11を備えているがゆえに、判定部123には、呼吸音センサ11と同じ数の呼吸音増加量が出力される。この場合、第1異常条件は、複数の呼吸音増加量のうちいずれか一つの呼吸音増加量が閾値TH1以上である(一方で、複数の経時的増加量のうち残りの呼吸音増加量が閾値TH1以上であるか否かは問わない)という条件であってもよい。或いは、第1異常条件は、複数の経時的増加量のうち二つ以上の呼吸音増加量が閾値TH1以上である(一方で、複数の呼吸音増加量のうち残りの呼吸音増加量が閾値TH1以上であるか否かは問わない)という条件であってもよい。或いは、異常条件は、複数の呼吸音増加量の全てが閾値TH1以上であるという条件であってもよい。
【0053】
尚、ステップS22において用いられる第1異常条件は、デフォルトで予め設定されているが、操作機器15を介したユーザの指示によって設定(つまり、変更)されてもよい。
【0054】
閾値TH1は、正常な呼吸音と異常な呼吸音とを呼吸音増加量の大小から区別することができるように適切な値に設定される。具体的には、本願発明者等の研究によれば、呼吸音に異常が生ずると、呼吸音に異常が生じていない場合と比較して、呼吸音量が大きくなることが判明している。具体的には、異常音(例えば、副雑音)が混入している呼吸音の音量は、異常音の混入に起因して、異常音が含まれていない呼吸音の音量よりも大きくなることが判明している。このため、閾値TH1は、このような異常音が含まれている呼吸音と異常音が含まれていない呼吸音との違いを識別可能な適切な値に設定される。尚、閾値TH1は、デフォルトで予め設定されているが、操作機器15を介したユーザの指示によって設定(或いは、調整)されてもよい。
【0055】
ステップS22の判定の結果、第1異常条件が成立している(つまり、呼吸音増加量が所定の閾値TH1以上である)と判定された場合には(ステップS22:Yes)、呼吸音に異常が発生している(つまり、異常音が含まれている)と推定される。なぜならば、上述したように、呼吸音に異常が生ずると、呼吸音量が大きくなるからである。このため、呼吸音に異常を引き起こすような何らかの異常が生体に発生していると推定される。この場合には、警告部124は、生体に異常が発生していることを通知するための警告信号をディスプレイ14に出力する(ステップS23)。その結果、ディスプレイ14には、生体に異常が発生していることを示す表示物(例えば、画像等)が表示される。また、スピーカー16からは警告音が出力される。
【0056】
他方で、ステップS22の判定の結果、第1異常条件が成立していない(つまり、経時的増加量が所定の閾値TH1以上でない)と判定された場合には(ステップS22:No)、呼吸音に異常が発生していない(つまり、異常音が含まれていない)と推定される。この場合には、警告部124は、警告信号をディスプレイ14に出力しない。また、警告音をスピーカー16に出力しない。
【0057】
以上説明したステップS21からステップS23までの処理が、生体に異常が発生しているか否かを判定する動作を終了する旨の指示が操作機器15を用いてユーザから要求されるまで繰り返される(ステップS24)。
【0058】
(3)技術的効果
以上説明したように、本実施例の生体監視装置1は、呼吸音増加量が閾値TH1以上であるか否かを判定することで、生体に異常が発生しているか否かを判定することができる。このため、生体監視装置1は、複数の呼吸音センサ11が取得した呼吸音を相互に比較することなく、生体に異常が発生しているか否かを判定することができる。従って、生体監視装置1は、生体に異常が発生しているか否かを判定する動作を相対的に小さい処理負荷で行うことができる。
【0059】
加えて、本実施形態の生体監視装置1は、呼吸音に基づいて生体に異常が発生しているか否かを判定することができる。このため、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO)等のように呼吸音の異常(或いは、生体の異常)が発生してから遅れて異常値となるように変化するパラメータに基づいて生体に異常が発生しているか否かを判定する比較例の生体監視装置1と比較して、生体に異常が発生しているか否かをより早期に判定することができる。
【0060】
(4)変形例
(4-1)第1変形例
上述した説明では、第1異常条件として、単一の所定期間中の呼吸音増加量が閾値TH1以上になるという条件が用いられている。しかしながら、第1異常条件として、複数の異なる所定期間中の呼吸音増加量が閾値TH1以上になるという条件が用いられてもよい。例えば、第1の所定期間(例えば、現在時刻から過去30分の期間)中の呼吸音増加量が第1の閾値TH1-1以上になり且つ第1の所定期間とは異なる第2の所定期間(例えば、現在時刻から過去1時間の期間)中の呼吸音増加量が第2の閾値TH1-2以上になるという条件が、第1異常条件として用いられてもよい。或いは、例えば、第1の所定期間中の呼吸音増加量が第1の閾値TH1-1以上になるか、又は、第2の所定期間中の呼吸音増加量が第2の閾値TH1-2以上になるという条件が、第1異常条件として用いられてもよい。尚、第1の閾値TH1-1は、第2の閾値TH1-2と同じであってもよいし、異なっていてもよい。3つ以上の所定期間中の呼吸音増加量に関する第1異常条件についても同様である。つまり、第1の所定期間(例えば、現在時刻から過去30分の期間)中の呼吸音増加量が第1の閾値TH1-1以上になる、及び/又は、第1の所定期間とは異なる第2の所定期間(例えば、現在時刻から過去1時間の期間)中の呼吸音増加量が第2の閾値TH1-2以上になる、・・・、第1の所定期間から第K-1の所定期間とは異なる第K(但し、Kは2以上の整数)の所定期間(例えば、現在時刻から過去2時間の期間)中の呼吸音増加量が第Kの閾値TH1-K以上になるという条件が、第1異常条件として用いられてもよい。この場合、第1の閾値TH1-1から第Kの閾値TH1-Kの全てが同じであってもよいし、第1の閾値TH1-1から第Kの閾値TH1-Kの少なくとも一つが、第1の閾値TH1-1から第Kの閾値TH1-Kの少なくとも他の一つと異なっていてもよい。
【0061】
このような第1変形によれば、生体監視装置1は、呼吸音量がどのように変化しているか(つまり、増加しているか)をより高精度に認識することができる。このため、生体監視装置1は、生体に異常が発生しているか否かをより一層高精度に判定することができる。
【0062】
尚、複数の異なる所定期間中の呼吸音増加量が閾値TH1以上になるという条件が第1異常条件として用いられる場合には、差分算出部122は、複数の異なる所定期間の夫々における呼吸音増加量を算出する。
【0063】
(4-2)第2変形例
判定部123は、上述した図5のステップS22において、上述した呼吸音増加量に関する第1異常条件が成立するか否かに加えて、呼吸音量に関する第2異常条件が成立しているか否かを判定してもよい。上述したように呼吸音に異常が生ずると呼吸音量が大きくなることから、呼吸音量が所定の閾値TH2以上になるという条件が、第2以上条件の一例としてあげられる。尚、閾値TH2は、閾値TH1と同様に、正常な呼吸音と異常な呼吸音とを呼吸音量の大小から区別することができるように適切な値に設定される。第1及び第2異常条件が用いられる場合には、警告部124は、第1異常条件及び第2異常条件の双方が成立していると判定された場合に、警告信号を出力する。他方で、警告部124は、第1異常条件及び第2異常条件の少なくとも一方が成立していないと判定された場合には、警告信号を出力しない。例えば、警告部124は、第1異常条件が成立していると判定された場合であっても、第2異常条件が成立していないと判定された場合には、警告信号を出力しない。
【0064】
上述したように呼吸音に異常が生ずると呼吸音量が増加することを考慮すれば、呼吸音量自体が相応に大きい場合には、呼吸音に異常が発生している可能性が相対的に高い。一方で、呼吸音量自体がそれほど大きくない場合には、呼吸音に異常が発生していない可能性がある。このため、第2変形例によれば、生体に異常が発生しているか否かを判定する際に呼吸音増加量に加えて呼吸音量自体も参照するがゆえに、生体監視装置1は、生体に異常が発生しているか否かをより高精度に判定可能である。言い換えれば、生体に実際に異常が発生していないにも関わらず呼吸音増加量に基づけば生体に異常が発生していると誤判定されてしまう事態の発生が抑制される。
【0065】
(4-3)その他の変形例
ディスプレイ14は、差分算出部122が算出した呼吸音増加量を表示してもよい。例えば、図8に示すように、ディスプレイ14は、ある呼吸音センサ11が取得した呼吸音の音量の増加量の大小を色の濃さで示す表示物を、当該呼吸音が取得された生体の位置に関連付けて表示してもよい。
【0066】
上述した説明では、生体監視装置1は、複数の呼吸音センサ11を備えている。しかしながら、生体監視装置1は、単一の呼吸音センサ11を備えていてもよい。
【0067】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う呼吸音処理装置、呼吸音処理方法、及び、コンピュータプログラムもまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
1 生体監視装置
11 呼吸音センサ
12 CPU
121 音量演算部
122 差分算出部
123 判定部
124 警告部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8