(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】カルボン酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/03 20060101AFI20220317BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20220317BHJP
B01J 31/02 20060101ALI20220317BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220317BHJP
【FI】
C07C67/03
C07C69/54 Z
B01J31/02 Z
B01J31/02 102Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2017150231
(22)【出願日】2017-08-02
【審査請求日】2020-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】石原 一彰
(72)【発明者】
【氏名】波多野 学
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203171(JP,A)
【文献】吉田有梨花 ら,高活性第四級アンモニウム塩触媒を用いるエステル交換反応,日本化学会春季年会講演予稿集,Vol.96 CD-ROM NO.1,日本,2016年03月10日,1PC-036
【文献】吉田有梨花 ら,メチル炭酸トリオクチルメチルアンモニウム触媒を用いるキレート性基質のエステル交換反応,日本化学会春季年会講演予稿集,Vol.96CD-ROM NO.4,日本,2016年03月10日,4H1-39
【文献】多畑勇志 ら,高活性第四級アンモニウム塩触媒を用いるエステル交換反応,日本化学会春季年会講演予稿集,Vol.97 CD-ROM NO.4,日本,2017年03月03日,4E6-35
【文献】15710の化学商品,2010年,589ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/03
C07C 69/54
B01J 31/02
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される触媒活性種又は下記式(2)で表される触媒活性種の存在下に、メタクリル酸メチルと、1級水酸基と3級水酸基の組み合わせを有するジオール化合物とでエステル交換反応を行ってカルボン酸エステルを得る、カルボン酸エステルの製造方法。
[R
1R
2R
3R
4P]
+[OR
5]
- ・・・(1)
[R
6R
7R
8R
9N]
+[OR
10]
- ・・・(2)
(ただし、式中、R
1~R
4及びR
6~R
9はそれぞれ独立にアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、R
5及びR
10はそれぞれ独立に水酸基を有してもよいアルキル基又はアリール基である。)
【請求項2】
前記式(2)で表される触媒活性種が[Me
4N]
+[OR
10]
-(ただし、Meはメチル基である。)である、請求項1に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記ジオール化合物における、1つ水酸基が結合している炭素原子から別の水酸基が結合している炭素原子までの炭素原子数が、2~10である、請求項1又は2に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記式(1)で表される触媒活性種の存在下の前記エステル交換反応によりカルボン酸モノエステルを得る、請求項1又は3に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項5】
前記式(2)で表される触媒活性種の存在下の前記エステル交換反応によりカルボン酸ジエステルを得る、請求項1~3のいずれか一項に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項6】
反応温度が0~100℃である、請求項1~5のいずれか一項に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項7】
前記ジオール化合物に対する前記触媒活性種の割合が1mol%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項8】
前記触媒活性種が、下記式(C1)で表されるホスホニウム塩又は下記式(C2)で表されるアンモニウム塩からなる触媒
から生じた触媒活性種である、請求項1~7のいずれか一項に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[R
1R
2R
3R
4P]
+[OCO
2R
11]
- ・・・(C1)
[R
6R
7R
8R
9N]
+[OCO
2R
12]
- ・・・(C2)
(ただし、式中、R
1~R
4及びR
6~R
9はそれぞれ独立にアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、R
11及びR
12はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基である。)
【請求項9】
前記式(C2)で表されるアンモニウム塩が[Me
4N]
+[OCO
2R
12]
-(ただし、Meはメチル基である。)である、請求項8に記載の
カルボン酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸エステルは医薬品、香料、化成品等の様々な分野に用いられている。カルボン酸エステルの製造方法としては、メチルエステルとアルコールによるエステル交換反応が最も簡便であり、メチルエステルとモノオール化合物のエステル交換反応によりエステル化合物を得る方法が知られている。
エステル交換反応の触媒としては、例えば、Sn化合物やHf化合物、Zn化合物、Ti化合物等の金属ルイス酸触媒が提案されている(非特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J. Org. Chem., vol.56, p5307(1991)
【文献】Science vol.290, p1140(2000)
【文献】Tetrahedron Lett., vol.39, p4223(1998)
【文献】Chem. Lett., p246(1995)
【文献】J. Am. Chem. Soc., vol.130, p2944(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ジオール化合物とメタクリル酸メチル等のメチルエステルとのエステル交換によりカルボン酸エステル(モノエステル、ジエステル)が得られれば有用である。しかし、非特許文献1~5のような従来の触媒では、ジオール化合物とメタクリル酸メチルとのエステル交換反応を進行させることは難しい。
【0005】
本発明は、ジオール化合物とメタクリル酸メチルとのエステル交換反応によりカルボン酸エステルを製造できる、カルボン酸エステルの製造方法及び触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]下記式(1)で表される触媒活性種又は下記式(2)で表される触媒活性種の存在下に、メタクリル酸メチルと、1級水酸基と3級水酸基の組み合わせを有するジオール化合物とでエステル交換反応を行ってカルボン酸エステルを得る、カルボン酸エステルの製造方法。
[R1R2R3R4P]+[OR5]- ・・・(1)
[R6R7R8R9N]+[OR10]- ・・・(2)
(ただし、式中、R1~R4及びR6~R9はそれぞれ独立にアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、R5及びR10はそれぞれ独立に水酸基を有してもよいアルキル基又はアリール基である。)
[2]前記式(2)で表される触媒活性種が[Me4N]+[OR10]-(ただし、Meはメチル基である。)である、[1]に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[3]前記ジオール化合物における、1つ水酸基が結合している炭素原子から別の水酸基が結合している炭素原子までの炭素原子数が、2~10である、[1]又は[2]のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[4]前記式(1)で表される触媒活性種の存在下の前記エステル交換反応によりカルボン酸モノエステルを得る、[1]又は[3]に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[5]前記式(2)で表される触媒活性種の存在下の前記エステル交換反応によりカルボン酸ジエステルを得る、[1]~[3]のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[6]反応温度が0~100℃である、[1]~[5]のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[7]前記ジオール化合物に対する前記触媒活性種の割合が1mol%以上である、[1]~[6]のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[8]前記触媒活性種が、下記式(C1)で表されるホスホニウム塩又は下記式(C2)で表されるアンモニウム塩からなる触媒から生じた触媒活性種である、[1]~[7]のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[R1R2R3R4P]+[OCO2R11]- ・・・(C1)
[R6R7R8R9N]+[OCO2R12]- ・・・(C2)
(ただし、式中、R1~R4及びR6~R9はそれぞれ独立にアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、R11及びR12はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基である。)
[9]前記式(C2)で表されるアンモニウム塩が[Me4N]+[OCO2R12]-(ただし、Meはメチル基である。)である、[8]に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のカルボン酸エステルの製造方法によれば、ジオール化合物とメタクリル酸メチルとのエステル交換反応によりカルボン酸エステルを製造できる。
本発明の触媒を用いれば、ジオール化合物とメタクリル酸メチルとのエステル交換反応によりカルボン酸エステルを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書における以下の用語は、以下の意味を示す。
「Me」は、メチル基を意味する。
「Ac」は、アセチル基を意味する。
「Ph」は、フェニル基を意味する。
式(1)で表される触媒活性種を「活性種(1)」と記す。他の式で表される触媒活性種についても同様である。
式(C1)で表される触媒を「触媒(C1)」と記す。他の式で表される触媒についても同様である。
【0009】
本発明のカルボン酸エステルの製造方法は、下記式(1)で表される活性種(1)又は下記式(2)で表される活性種(2)の存在下に、メタクリル酸メチル(MMA)とジオール化合物とでエステル交換反応を行ってカルボン酸エステルを得る方法である。
【0010】
[R1R2R3R4P]+[OR5]- ・・・(1)
[R6R7R8R9N]+[OR10]- ・・・(2)
ただし、前記式中、R1~R4及びR6~R9はそれぞれ独立にアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、R5及びR10はそれぞれ独立に水酸基を有してもよいアルキル基又はアリール基である。
【0011】
活性種(1)におけるR1~R4のアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。アルキル基としては、特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、及びそれらの構造異性体等の炭素数1~20の分岐を有していてもよいアルキル基が挙げられる。
【0012】
R1~R4のシクロアルキル基としては、特に限定されず、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数3~7のシクロアルキル基が挙げられる。
【0013】
R1~R4のアリール基としては、特に限定されず、フェニル基、ナフチル基及びそれらの少なくとも1つの水素原子が置換基で置換された基等が挙げられる。
置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。置換基としてのアルキル基、シクロアルキル基としては、例えば、前記したアルキル基、シクロアルキル基が挙げられる。ペルフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
【0014】
活性種(1)におけるR1~R4は、すべて同じ基であってもよく、互いに異なる基であってもよい。R1~R4は、アルキル基のみであってもよく、シクロアルキル基のみであってもよく、アリール基のみであってもよく、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基のうち2種以上が混在していてもよい。
【0015】
R5のアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。R5のアルキル基は、水酸基を有していてもよい。R5のアルキル基としては、特に限定されず、例えば、R1~R4で挙げたアルキル基、該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が水酸基に置換されている基が挙げられる。
R5のアリール基は、水酸基を有していてもよい。R5のアリール基としては、特に限定されず、例えば、R1~R4で挙げたアリール基、該アリール基の少なくとも1つの水素原子が水酸基に置換されている基が挙げられる。
R5としては、アルキル基、水酸基を有していてもよいアルキル基が好ましく、水酸基を1つ有するアルキル基がより好ましい。
【0016】
活性種(2)におけるR6~R9は、活性種(1)におけるR1~R4と同様である。R6~R9は、すべて同じ基であってもよく、互いに異なる基であってもよい。R6~R9は、アルキル基のみであってもよく、シクロアルキル基のみであってもよく、アリール基のみであってもよく、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基のうち2種以上が混在していてもよい。
【0017】
R6~R9は、活性種(2)がより分解しにくく、高い触媒活性を得やすい点から、少なくとも1つがメチル基であることが好ましく、2つ以上がメチル基であることがより好ましく、3つ以上がメチル基であることがさらに好ましく、すべてメチル基であることが特に好ましい。R6~R9がすべてメチル基であれば、活性種(2)はβ-水素を有しないためにHofmann脱離が起こらず、分解しにくくなる。そのため、より過激な反応条件を採用できることから、高い触媒活性が得られやすい。
【0018】
活性種(2)におけるR10は、活性種(1)におけるR5と同様である。
R10としては、アルキル基、水酸基を有していてもよいアルキル基が好ましく、水酸基を1つ有するアルキル基がより好ましい。
【0019】
本発明においては、下記式(C1)で表されるホスホニウム塩からなる触媒(C1)又は下記式(C2)で表されるアンモニウム塩からなる触媒(C2)を反応系に添加して活性種(1)又は活性種(2)を存在させることが好ましい。触媒(C1)及び触媒(C2)は、反応系において原料由来のアルコールとの間の反応により活性種(1)及び活性種(2)を生じる。触媒(C1)、(C2)から生じる活性種(1)、(2)のR5、R10は、原料由来のアルコールが有するアルキル基や、触媒(C1)又は(C2)のR11、R12と同じ基となる。例えば原料に用いるジオール化合物が触媒(C1)又は(C2)に対して大過剰の場合、大半の活性種(1)、(2)のR5、R10は前記ジオール化合物由来の水酸基を有するアルキル基となる。
触媒(C1)及び触媒(C2)は、活性種(1)及び活性種(2)に比べて安定で分解しにくいため、取り扱い性に優れる。なお、本発明では、活性種(1)又は活性種(2)を直接反応系に添加してもよい。
【0020】
[R1R2R3R4P]+[OCO2R11]- ・・・(C1)
[R6R7R8R9N]+[OCO2R12]- ・・・(C2)
ただし、式(C1)、(C2)中のR1~R4、R5~R9は、式(1)、(2)のR1~R4、R5~R9と同じである。R11及びR12はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基である。
【0021】
R11及びR12のアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。R11及びR12のアルキル基としては、特に限定されず、例えば、R1~R4で挙げたアルキル基が挙げられる。
R11及びR12のアリール基としては、特に限定されず、例えば、R1~R4で挙げたアリール基が挙げられる。
【0022】
触媒(C1)におけるR4とR11は同じアルキル基(R4=R11)であることが好ましい。この場合、R1R2R3PとO=C(OR4)2とを反応させることにより[R1R2R3R4P]+[OCO2R4]-が容易に得られる。この場合、R1~R3はすべて同じアルキル基であることが好ましい。また、この場合のR4は、触媒(C1)と原料由来のアルコール間の反応により活性種(1)が生じやすい点から、メチル基であることが好ましい。
触媒(C1)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
触媒(C2)は、触媒(C1)と同様の理由から、R9とR12が同じアルキル基(R9=R12)であることが好ましい。この場合、R6~R8はすべて同じアルキル基であることが好ましい。
触媒(C2)としては、生じる活性種(2)が分解しにくく高い触媒活性が得られやすい点から、[Me4N]+[OCO2R12]-が好ましく、[Me4N]+[OCO2Me]-(触媒(C2a))が特に好ましい。[Me4N]+[OCO2R12]-と原料由来のアルコール間の反応により[Me4N]+[OR10]-が生じる。
触媒(C2)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
ジオール化合物は、分子内に水酸基を2つ有するアルコールである。ジオール化合物は脂肪族アルコールであってもよく、脂環式アルコールであってもよく、脂肪族アルコールであることが好ましい。
ジオール化合物が有する水酸基は、1級水酸基、2級水酸基、3級水酸基のいずれであってもよい。ジオール化合物が有する水酸基は、1級水酸基のみであってもよく、2級水酸基のみであってもよく、3水酸基のみであってもよく、1級水酸基と2級水酸基の組み合わせであってもよく、2級水酸基と3級水酸基の組み合わせであってもよく、1級水酸基と3級水酸基の組み合わせであってもよい。エステル交換反応においては、立体障害の点から、3級水酸基よりも2級水酸基、2級水酸基よりも1級水酸基が反応しやすい。
ジオール化合物としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
MMAとのエステル交換反応によりカルボン酸モノエステルやカルボン酸ジエステルを選択的に得やすい点では、ジオール化合物は、下記の条件(i)及び条件(ii)のいずれか一方又は両方を満たしていることが好ましく、条件(i)及び条件(ii)の両方を満たしていることがより好ましい。
(i)ジオール化合物が、1級水酸基と2級水酸基の組み合わせ、2級水酸基と3級水酸基の組み合わせ、又は1級水酸基と3級水酸基の組み合わせを有する。
(ii)ジオール化合物における、1つ水酸基が結合している炭素原子から別の水酸基が結合している炭素原子までの炭素原子数(NC)が、2~10である。
【0026】
カルボン酸モノエステルやカルボン酸ジエステルを選択的に得やすい点では、ジオール化合物の水酸基の組み合わせは、1級水酸基と2級水酸基の組み合わせ、又は1級水酸基と3級水酸基の組み合わせがより好ましく、1級水酸基と3級水酸基の組み合わせが特に好ましい。
【0027】
MMAとのエステル交換反応によりカルボン酸モノエステルやカルボン酸ジエステルを選択的に得ることがより容易になる点から、NCは、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましく、2又は3が特に好ましい。
なお、NCには、2つの水酸基が結合している炭素原子が数に含まれる。例えばNCが2のジオール化合物とは、隣り合う炭素原子にそれぞれ水酸基が結合しているジオール化合物である。
【0028】
活性種(1)の存在下に、条件(i)及び条件(ii)のいずれか一方又は両方を満たすジオール化合物とMMAとでエステル交換反応を行うことで、カルボン酸モノエステルが高収率で選択的に得られる。
【0029】
ジオール化合物が1級水酸基と2級水酸基を有する場合、ジオール化合物の1級水酸基でMMAとのエステル交換反応が起こったカルボン酸モノエステルが高収率で得られる。
ジオール化合物が1級水酸基と3級水酸基を有する場合、ジオール化合物の1級水酸基でMMAとのエステル交換反応が起こったカルボン酸モノエステルが高収率で得られる。
ジオール化合物が2級水酸基と3級水酸基を有する場合、ジオール化合物の2級水酸基でMMAとのエステル交換反応が起こったカルボン酸モノエステルが高収率で得られる。
【0030】
活性種(2)の存在下に、条件(i)及び条件(ii)のいずれか一方又は両方を満たすジオール化合物とMMAとでエステル交換反応を行うことで、カルボン酸ジエステルが高収率で選択的に得られる。
【0031】
ジオール化合物が1級水酸基と2級水酸基を有する場合、ジオール化合物の1級水酸基でMMAとのエステル交換反応が起こり、CH2=C(CH3)-CO-基が1級水酸基から2級水酸基に分子内転移した後、再び1級水酸基でMMAとのエステル交換反応が起こってカルボン酸ジエステルが得られる。
ジオール化合物が1級水酸基と3級水酸基を有する場合も同様に、ジオール化合物の1級水酸基でMMAとのエステル交換反応が起こり、CH2=C(CH3)-CO-基が1級水酸基から3級水酸基に分子内転移した後、再び1級水酸基でMMAとのエステル交換反応が起こってカルボン酸ジエステルが得られる。
ジオール化合物が2級水酸基と3級水酸基を有する場合は、ジオール化合物の2級水酸基でMMAとのエステル交換反応が起こり、CH2=C(CH3)-CO-基が2級水酸基から3級水酸基に分子内転移した後、再び2級水酸基でMMAとのエステル交換反応が起こってカルボン酸ジエステルが得られる。
【0032】
本発明においては、MMAを反応溶媒として用いてもよく、MMA以外の反応溶媒を用いてもよい。
反応溶媒としては、活性種(1)、(2)の失活を抑制する点から、水を用いずに、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、特に限定されず、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、ニトリル系溶媒又はエーテル系溶媒が好ましい。反応溶媒としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレンが挙げられる。
ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタンが挙げられる。
ニトリル系溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリルが挙げられる。
エーテル系溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルが挙げられる。
【0034】
MMAとジオール化合物とのエステル交換反応は、反応系内で副生するメタノールを除去しながら行うことが好ましい。メタノールを除去する方法としては、常圧又は減圧下、蒸留にて留去する方法、反応系内にモレキュラーシーブス5A(MS5A)を入れておく方法、還流器にMS5Aを入れて還流する方法が好ましい。
【0035】
反応系中のジオール化合物に対する活性種(1)及び活性種(2)の割合は、1mol%以上が好ましく、1~20mol%がより好ましく、1~10mol%がさらに好ましい。活性種(1)及び活性種(2)の割合が前記下限値以上であれば、充分な触媒活性が得られやすい。また、活性種(1)及び活性種(2)の割合が前記上限値を超えても触媒活性は大きく変化しないため、前記上限値以下であればコスト面で有利である。
【0036】
反応温度は、0~100℃が好ましく、10~80℃がより好ましく、20~50℃がさらに好ましい。反応温度が前記範囲の下限値以上であれば、充分な触媒活性が得られやすい。反応温度が前記範囲の上限値以下であれば、MMAが気化することを抑制しやすい。
還流を行う場合は、反応温度を還流温度としてもよい。
【0037】
反応時間は、反応基質であるMMA及びジオール化合物のいずれかが消失するか反応の進行が止まるまでの時間とすればよく、例えば0.1~50時間とすることができ、0.5~24時間が好ましく、1~12時間がより好ましい。
【0038】
以上説明したように、本発明では、活性種(1)及び活性種(2)の存在下にエステル交換反応を行うことで、MMAとジオール化合物とでエステル交換したカルボン酸エステルが得られる。
また、条件(i)及び条件(ii)のいずれか一方又は両方を満たすジオール化合物を用いて、活性種(1)又は活性種(2)を使い分けることで、カルボン酸モノエステル又はカルボン酸ジエステルを選択的に得ることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[実施例1]
シュレンク反応容器に、メチルトリn-オクチルホスホニウムメチルカーボネート([Me(n-octyl)3P]+[OCO2Me]-、触媒(C1a)、55.8μL、0.12mmol)を入れ、メタクリル酸メチル(MMA、4mL)を加えて、室温で1~2分撹拌した。ついで、3-メチルブタン-1,3-ジオール(化合物(3a)、213μL、2.0mmol)、内部標準物質(4,4’-ジ-tert-ブチルビフェニル、53.3mg、0.20mmol)、1.0gの乾燥済みのパウダー状モレキュラーシーブス5A(MS5A)を加え、室温(25℃)で3時間撹拌し、下記式で表されるエステル交換反応を行った。反応中は、適宜、薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応の進行状態を確認した。反応混合液をセライトパッドに通してMS5Aを除去し、混合液からMMAを減圧留去して、濃縮後に1H NMR(内部標準法)で反応生成物の収率を測定した。濃縮液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=50:1~10:1)にかけ、カルボン酸モノエステル(化合物(4a))を単離した。反応生成物の収量及び収率を表1に示す。
なお、反応系では、触媒(C1a)と原料由来のアルコール(化合物(3a))間の反応により触媒活性種としてMe(n-octyl)3P]+[OR5]-(大部分のR5は3-ヒドロキシ-3-メチルブチル基である。)が生じる。
【0040】
【0041】
化合物(4a)の1H-NMR、13C-NMR、IR、及びHRMSの測定データを以下に示す。
1H-NMRデータ(400MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.29(s,6H)、1.90(t,J=6.9Hz,2H)、1.95(dd,J=1.4,0.9Hz,3H)、4.34(t,J=6.9Hz,2H)、5.57(quintet,J=1.4Hz,1H),6.09(t,J=1.4Hz,1H)[OH was not observed.]。
13C-NMR(100MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):18.3、29.7(2C)、41.6、61.7、70.0、125.6、136.3、167.5。
IR(neat)3434、2972、1718、1637、1455、1378、1326、1300、1168cm-1。
HRMS(FAB+) calcd for C9H17O3 [M+H]+ 173.1178、found 173.1175。
【0042】
[実施例2]
エステル交換反応の反応温度及び反応時間を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。
反応生成物の収量及び収率を表1に示す。
【0043】
[実施例3、4]
触媒(C1a)の代わりにテトラメチルアンモニウムメチルカーボネート([Me4N]+[OCO2Me]-、触媒(C2a)、17.9mg、0.12mmol)を用い、エステル交換反応の反応温度及び反応時間を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。実施例1と同様のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによりカルボン酸ジエステル(化合物(5a))を単離した。反応生成物の収量及び収率を表1に示す。
なお、反応系では、触媒(C2a)と原料由来のアルコール(化合物(3a))間の反応により触媒活性種として[Me4N]+[OR5]-(大部分のR5は3-ヒドロキシ-3-メチルブチル基である。)が生じる。
【0044】
化合物(5a)の1H-NMR、13C-NMR、IR、及びHRMSの測定データを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.55(s,6H)、1.90(t,J=1.4Hz,3H)、1.93(t,J=1.4Hz,3H)、2.22(t,J=6.9Hz,2H)、4.27(t,J=6.9Hz,2H)、5.50(quintet,J=1.4Hz,1H)、5.55(quintet,J=1.4Hz,1H)、6.02(t,J=1.4Hz,1H)、6.09(s,1H)。
13C-NMR(100MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):18.3、18.4、26.4(2C)、39.3、61.0、81.0、124.9、125.6、136.3、137.6、166.6、167.4。
IR(neat)1716、1637、1454、1331、1298、1142cm-1。
HRMS(FAB+) calcd for C13H21O4 [M+H]+ 241.1440、found 241.1447。
【0045】
[比較例1]
触媒(C1a)の代わりに、ブレンステッド酸触媒としてp-トルエンスルホン酸(TsOH、6mol%)を用い、エステル交換反応の反応温度及び反応時間を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物の収量及び収率を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
触媒(C1a)の代わりに、ルイス酸触媒としてZn(OAc)2(6mol%)を用い、エステル交換反応の反応温度及び反応時間を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物の収量及び収率を表1に示す。
【0047】
【0048】
化合物(3a)は、1級水酸基と3級水酸基を有し、NC=3のジオール化合物である。表1に示すように、化合物(3a)とMMAとを触媒(C1a)を用いて反応させた実施例1、2では、カルボン酸モノエステル(化合物(4a))が高収率で選択的に得られた。また、触媒(C1a)の代わりに触媒(C2a)を用いた実施例3、4では、カルボン酸ジエステル(化合物(5a))が高収率で選択的に得られた。
一方、触媒としてブレンステッド酸触媒であるTsOHやルイス酸触媒であるZn(OAc)2を用いた比較例1、2では、エステル交換反応はほとんど進行せず、カルボン酸エステル(化合物(4a)、化合物(5a))はほとんど得られなかった。
【0049】
[実施例5、6]
化合物(3a)の代わりに2-メチルプロパン-1,2-ジオール(化合物(3b)、2.0mmol)を用い、エステル交換反応における触媒の種類、反応温度及び反応時間を表2に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして下記式で表されるエステル交換を行った。
実施例1と同様のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、実施例5においてカルボン酸モノエステル(化合物(4b))を単離し、実施例6においてカルボン酸ジエステル(化合物(5b))を単離した。
反応生成物の収量及び収率を表2に示す。
【0050】
【0051】
化合物(4b)の1H-NMR、13C-NMR、IR、及びHRMSの測定データを以下に示す。
1H-NMR(400 MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.28(s,6H)、1.90(s,1H)、1.98(d,J=1.4Hz,3H)、4.04(s,2H)、5.61(t,J=1.4Hz,1H)、6.16(s,1H)。
13C-NMR(100MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):18.5、26.3(2C)、70.1、72.4、126.1、136.2、167.5。
IR(neat)3437、2978、1720、1637、1455、1381、1322、1299、1166cm-1。
HRMS(FAB+) calcd for C8H15O3 [M+H]+ 159.1021、found 159.1018。
【0052】
化合物(5b)の1H-NMR、13C-NMR、IR、及びHRMSの測定データを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.55(s,6H)、1.89(s,3H)、1.96(s,3H)、4.32(s,2H)、5.51(t,J=1.4Hz,1H)、5.59(t,J=1.4Hz,1H)、6.02(s,1H)、6.13(s,1H)。
13C-NMR(100MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):18.4(2C)、23.3(2C)、69.3、80.2、125.2、125.9、136.2、137.5、166.6、167.0。
IR(neat)1715、1637、1453、1377、1331、1302、1127cm-1。
HRMS(FAB+) calcd for C12H19O4 [M+H]+ 227.1283、found 227.1280。
【0053】
【0054】
化合物(3b)は、1級水酸基と3級水酸基を有し、NC=2のジオール化合物である。表2に示すように、化合物(3b)とMMAとを触媒(C1a)を用いて反応させた実施例5では、カルボン酸モノエステル(化合物(4b))が高収率で選択的に得られた。また、触媒(C1a)の代わりに触媒(C2a)を用いた実施例6では、カルボン酸ジエステル(化合物(5b))が高収率で選択的に得られた。
【0055】
[参考例17、18]
化合物(3a)の代わりにペンタン-1,3-ジオール(化合物(3c)、2.0mmol)を用い、エステル交換反応における触媒の種類、反応温度及び反応時間を表3に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして下記式で表されるエステル交換を行った。
実施例1と同様のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、参考例17においてカルボン酸モノエステル(化合物(4c)、化合物(4c’))を単離し、参考例18においてカルボン酸ジエステル(化合物(5c))を単離した。
反応生成物の収量及び収率を表3に示す。
【0056】
【0057】
化合物(4c)の1H-NMR、13C-NMR、及びHRMSの測定データを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.96(t,J=7.3Hz,3H)、1.45-1.58(m,2H)、1.62-1.76(m,2H)、1.95(s,3H)、2.03(m,1H)、3.64(m,1H)、4.24(dt,J=11.4,1.5Hz,1H)、4.44(m,1H)、5.58(t,J=1.4Hz,1H)、6.11(s,1H)。
13C-NMR(100MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):9.9、18.3、30.2、35.9、62.1、69.9、125.7、136.3、167.8。
HRMS(FAB+) calcd for C9H17O3 [M+H]+ 173.1178、found 173.1178。
【0058】
化合物(4c’)の1H-NMR及び13C-NMRの測定データを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.94(t,J=7.3Hz,3H)、1.62-1.76(m,2H)、1.83-1.96(m,2H)、1.95(s,3H)、2.49(m,1H)、3.54(m,1H)、3.64(m,1H)、5.04(m,1H)、5.59(t,J=1.4Hz,1H)、6.13(s,1H)。
13C-NMR(100MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):9.7、18.3、27.6、37.1、58.5、73.0、125.8、136.3、168.2。
【0059】
化合物(5c)の1H-NMR、13C-NMR、IR、及びHRMSの測定データを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.92(t,J=7.3Hz,3H)、1.67(m,2H)、1.93(s,3H)、1.94(s,3H)、1.98(q,J=6.9Hz,2H)、4.16(dt,J=11.4,6.9,1H)、4.24(dt,J=11.0,6.4Hz,1H)、5.02(quintet,J=6.4Hz,1H)、5.55(m,2H)、6.10(d,J=0.9Hz,2H)。
13C-NMR(100MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):9.5、18.3、18.4、27.2、32.6、61.3、72.7、125.4、125.7、136.3、136.5、167.0、167.4。
IR(neat)2790、1719、1637、1454、1322、1296、1165cm-1。
HRMS(FAB+) calcd for C13H21O4 [M+H]+ 241.1440、found 241.1440。
【0060】
【0061】
化合物(3c)は、1級水酸基と2級水酸基を有し、NC=3のジオール化合物である。表3に示すように、化合物(3c)とMMAとを触媒(C1a)を用いて反応させた参考例17では、カルボン酸モノエステル(化合物(4c)、化合物(4c’))が選択的に得られ、特に化合物(4c)が高収率で得られた。また、触媒(C1a)の代わりに触媒(C2a)を用いた参考例18では、カルボン酸ジエステル(化合物(5c))が高収率で選択的に得られた。
【0062】
[参考例19、20]
化合物(3a)の代わりにブタン-1,3-ジオール(化合物(3d)、2.0mmol)を用い、エステル交換反応における触媒の種類、反応温度及び反応時間を表4に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして下記式で表されるエステル交換を行った。
実施例1と同様のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、参考例19においてカルボン酸モノエステル(化合物(4d)、化合物(4d’))を単離し、参考例20においてカルボン酸ジエステル(化合物(5d))を単離した。
反応生成物の収量及び収率を表4に示す。
【0063】
【0064】
化合物(4d)の1H-NMR、13C-NMR、及びHRMSの測定データを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.24(d,J=6.4Hz,3H)、1.71-1.91(m,2H)、1.95(d,J=0.92Hz,3H)、2.02(brs,1H)、3.90(m,1H)、4.21(dt,J=11.0,5.5Hz,1H)、4.43(m,1H)、5.58(d,J=1.4Hz,1H)、6.11(s,1H)。
13C-NMR(100MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):18.4、23.5、38.1、62.0、64.9、125.8、136.3、167.8。
HRMS(FAB+) calcd for C8H15O3 [M+H]+ 159.1021、found 159.1024。
【0065】
化合物(4d’)の1H-NMR及び13C-NMRの測定データを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.32(d,J=6.4Hz,3H)、1.71-1.91(m,2H)、1.95(d,J=0.92Hz,3H)、2.23(m,1H)、3.59(m,1H)、3.68(m,1H)、5.18(m,1H)、5.58(d,J=1.4Hz,1H)、6.11(s,1H)。 13C-NMR(100MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):20.4、23.5、39.2、58.1、68.5、125.7、136.4、167.8。
【0066】
化合物(5d)の1H-NMR、13C-NMR、IR、及びHRMSの測定データを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.32(d,J=6.4Hz,3H)、1.89(s,6H)、1.92-2.07(m,2H)、4.15-4.28(m,2H)、5.11(m,1H)、5.54-5.57(m,2H)、6.09-6.11(m,2H)。
13C-NMR(100MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):18.4(2C)、20.1、34.9、61.1、68.3、125.4、125.7、136.2、136.6、166.9、167.3。
IR(neat)2980、1719、1637、1453、1378、1321、1297、1167cm-1。
HRMS(FAB+) calcd for C12H19O4 [M+H]+ 227.1283、found 227.1280。
【0067】
[比較例3]
化合物(3a)の代わりに化合物(3d)(2.0mmol)を用い、触媒(C1a)の代わりにTsOH(6mol%)を用い、エステル交換反応の反応温度及び反応時間を表4に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物の収量及び収率を表4に示す。
【0068】
[比較例4]
化合物(3a)の代わりに化合物(3d)(2.0mmol)を用い、触媒(C1a)の代わりにZn(OAc)2(6mol%)を用い、エステル交換反応の反応温度及び反応時間を表4に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物の収量及び収率を表4に示す。
【0069】
【0070】
化合物(3d)は、1級水酸基と2級水酸基を有し、NC=3のジオール化合物である。表4に示すように、化合物(3d)とMMAとを触媒(C1a)を用いて反応させた参考例19では、カルボン酸モノエステル(化合物(4d)、化合物(4d’))が選択的に得られ、特に化合物(4d)が高収率で得られた。また、触媒(C1a)の代わりに触媒(C2a)を用いた参考例20では、カルボン酸ジエステル(化合物(5d))が高収率で選択的に得られた。
一方、触媒としてブレンステッド酸触媒であるTsOHやルイス酸触媒であるZn(OAc)2を用いた比較例3、4では、エステル交換反応はほとんど進行せず、カルボン酸エステル(化合物(4d)、(4d’)、(5d))はほとんど得られなかった。
【0071】
[実施例11、12]
化合物(3a)の代わりに2-メチルペンタン-2,4-ジオール(化合物(3e)、2.0mmol)を用い、エステル交換反応における触媒の種類、反応温度及び反応時間を表5に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして下記式で表されるエステル交換を行った。
実施例1と同様のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、実施例11においてカルボン酸モノエステル(化合物(4e))を単離し、実施例12においてカルボン酸ジエステル(化合物(5e))を単離した。
反応生成物の収量及び収率を表5に示す。
【0072】
【0073】
化合物(4e)の1H-NMR、13C-NMR、IR、及びHRMSの測定データを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.23(s,3H)、1.24(s,3H)、1.31(d,J=6.0Hz,3H)、1.69(dd,J=14.7,3.2Hz,1H)、1.94(d,J=0.9Hz,3H)、1.95(m,1H)、2.01(s,1H)、5.23(m,1H)、5.57(t,J=1.4Hz,1H)、6.09(s,1H)。
13C-NMR(100MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):18.4、21.8、29.9(2C)、49.1、69.2、70.1、125.7、136.7、167.2。
IR(neat)3450、2932、1715、1636、1453、1378、1321、1301、1173、1127cm-1。
HRMS(FAB+) calcd for C10H19O3 [M+H]+ 187.1334、found 187.1341。
【0074】
化合物(5e)の1H-NMR、13C-NMR、IR、及びHRMSの測定データを以下に示す。
1H-NMR(400MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.27(d,J=6.0Hz,3H)、1.49(s,3H)、1.51(s,3H)、1.87(d,J=0.9Hz,3H)、1.91(d,J=0.9Hz,3H)、2.07(dd,J=15.1,3.2Hz,1H)、2.30(dd,J=15.1,8.7Hz,1H)、5.23(m,1H)、5.47(t,J=1.8Hz,1H)、5.53(t,J=1.8Hz,1H)、5.99(d,J=0.9Hz,1H)、6.06(d,J=0.9Hz,1H)。
13C-NMR(100MHz、溶媒:CDCl3)δ(ppm):18.4、18.5、21.7、26.4、27.2、45.8、68.1、81.3、124.9、125.4、136.8、137.8、166.8、166.9。
IR(neat)2980、1715、1637、1453、1377、1331、1302、1181、1127cm-1。
HRMS(FAB+) calcd for C14H23O4 [M+H]+ 255.1596、found 255.1603。
【0075】
[比較例5]
化合物(3a)の代わりに化合物(3e)(2.0mmol)を用い、触媒(C1a)の代わりにTsOH(6mol%)を用い、エステル交換反応の反応温度及び反応時間を表5に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物の収量及び収率を表5に示す。
【0076】
[比較例6]
化合物(3a)の代わりに化合物(3e)(2.0mmol)を用い、触媒(C1a)の代わりにZn(OAc)2(6mol%)を用い、エステル交換反応の反応温度及び反応時間を表5に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。反応生成物の収量及び収率を表5に示す。
【0077】
【0078】
化合物(3e)は、2級水酸基と3級水酸基を有し、NC=3のジオール化合物である。表5に示すように、化合物(3e)とMMAとを触媒(C1a)を用いて反応させた実施例11では、カルボン酸モノエステル(化合物(4e))が高収率で選択的に得られた。また、触媒(C1a)の代わりに触媒(C2a)を用いた実施例12では、カルボン酸ジエステル(化合物(5e))が高収率で選択的に得られた。
一方、触媒としてブレンステッド酸触媒であるTsOHやルイス酸触媒であるZn(OAc)2を用いた比較例5、6では、エステル交換反応は進行せず、カルボン酸エステル(化合物(4e)、化合物(5e))が得られなかった。
【0079】
[参考例1~7]
下記式で表される触媒(C1a)、(C2a)~(C2d)、(C’2a)、(C’2b)を用意した。
脱脂綿と1.0gの乾燥済みのパウダー状モレキュラーシーブス5A(MS5A)を入れたソックスレー還流器に、表6に示す触媒(0.12mmol)を入れ、トルエン(4mL)を加えて室温で1~2分撹拌した。ついで、安息香酸メチル(2.0mmol、249μL)と5-ノナノール(化合物(6a)、2.0mmol、350μL)を加え、反応器を加熱還流条件(バス温140℃)まで加熱してエステル交換反応を行った。適宜TLCで反応の進行状態を確認して還流を続け、1時間後に反応混合液を室温まで冷却した。反応混合液を濃縮して溶媒を留去し、濃縮液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=50:1~10:1)にかけ、反応生成物(化合物(7a))を単離した。反応生成物の収率を表6に示す。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
表6に示すように、安息香酸メチルと5-ノナノールのエステル交換反応において、参考例1と参考例5とを比較すると、同等の構造の触媒(C1)と触媒(C2)では、触媒(C2)の方が触媒活性が高かった。また、参考例2~5を比較すると、触媒(C2)のR6~R9においてメチル基の数が多いほど触媒活性が高く、R6~R9がすべてメチル基である参考例2の触媒(C2a)が最も触媒活性が高かった。これは触媒(C2a)がβ-水素を有しないためにHofmann脱離が起こらず、触媒(C2a)から生じる触媒活性種が分解しにくいためである。
また、触媒のカウンターアニオンを[OCO2H]-又はCl-とした参考例6、7では、参考例1~5に比べて触媒活性が低かった。